(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.研磨パッドの構成
本発明の研磨パッドは、湿式成膜により形成されたポリウレタン発泡シートを研磨層として有する。
【0020】
ポリウレタン発泡シートは、耐溶剤性の高い外殻からなる中空微小球が添加されたポリウレタン樹脂を主成分として形成されており、かつ、前記ポリウレタン樹脂の100%樹脂モジュラスが5〜25MPaの範囲にある。
【0021】
樹脂モジュラスは、樹脂の硬さを表す指標であり、無発泡の樹脂シートを100%(元の長さの2倍の長さまで)伸ばしたときにかかる荷重を単位面積で除した値である(以下、100%樹脂モジュラスと呼称することがある)。ポリウレタン樹脂の100%樹脂モジュラスが5MPaに満たないと、研磨パッドの研磨面(湿式成膜時に緻密な微多孔が形成された表皮層(スキン層)が研削処理やドレス処理により除去された研磨層の表面)が被研磨物の表面形状に追従し過ぎてしまい、研磨加工により求められる被研磨物のトポグラフィーが悪化し、被研磨物に要求される平坦化特性が得られない。ポリウレタン樹脂の100%樹脂モジュラスが25MPaを越すと、トポグラフィーは良好となるものの、研磨パッドにおける研磨面のドレス性が悪化して研磨レート(単位時間当たりの研磨量)が低下するとともにディフェクトが増加する。なお、本発明品の樹脂モジュラスの測定は、ポリウレタン発泡シートをN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)で溶解し、低濃度のポリウレタン樹脂DMF溶液を得たのち、中空微小球をフィルターでろ過しキャスト法によりDMFを気化させ無発泡の樹脂シートを形成することで測定することができる。
【0022】
湿式成膜された研磨パッドを使用することにより、良好な低欠陥率(ディフェクト抑制性能)を達成することができる。また、研磨パッドの主成分として用いるポリウレタン樹脂の良溶媒として当該分野において汎用される極性の溶剤(例えば、DMF、DMAc、THF、DMSO、NMP、アセトン等)は、外殻がアクリロニトリル−塩化ビニリデン共重合体、アクリロニトリル−メチルメタクリレート共重合体、ウレタン樹脂等の熱可塑性樹脂からなる中空微小球を溶解し易く、中空微小球による空隙の形成が阻害されてしまう。一方、耐溶剤性の高い外殻からなる中空微小球を使用した場合、中空微小球による空隙を消失させることなく研磨層の中に均一に分散させることができる。なお、耐溶剤性の高さの指標としてはDMFに溶解するか否かにより判定することができ、DMFに不溶である場合に耐溶剤性が高い中空微粒子とする。具体的な判定方法として例えば、ウレタンシートをその100倍の重量部のDMFに入れ、室温にて1晩静置後30分間撹拌しても、中空微小球が完全溶解しないことで判定することができる。
【0023】
耐溶剤性の高い外殻からなる中空微小球の比重を0.8〜1.1g/cm
3とすることで、ポリウレタン樹脂溶液の比重に近づけることができ、ポリウレタン樹脂溶液中に中空微小球を均一に分散し、ひいては研磨パッドのシート表面からシート厚さ方向、および、研磨表面方向に中空微小球をほぼ一様に分布させることができる。中空微小球の比重は、中空微小球の殻厚みを当該中空微小球の直径に対し10〜70%として殻の厚みを増すことや、当該中空微小球の殻の樹脂材料として高密度な樹脂を使用することで調整することができる。
【0024】
耐溶剤性の高い外殻からなる中空微小球の添加量は、ポリウレタン樹脂の全質量に対し、1〜50質量%とする。中空微小球の添加量が1質量%に満たないと、研磨パッドにおける研磨面のドレス性が悪化して研磨レートが低下する。中空微小球の添加量が50質量%を超すと、当該シートの湿式成膜性が悪化し、ポリウレタン発泡シートを製造できない。
【0025】
ポリウレタン発泡シートの断面において、ポリウレタンの発泡及び中空微小球の気泡の平均空隙径が10〜30μmの範囲であると、研磨スラリーの保持を良好に行うことができ研磨レートを向上することができる。
【0026】
ポリウレタン発泡シートのショアA硬度が35〜70度、密度が0.30〜0.70g/cm
3の範囲であると、研磨パッドの剛性を保つことができ、研磨パッドの耐摩耗性を向上させることができる。
【0027】
ポリウレタン発泡シートのショアA硬度が35〜70度、密度が0.30〜0.70g/cm
3、ポリウレタンの発泡及び中空微小球の気泡の平均空隙径が10〜30μmの範囲であると、研磨パッドの剛性を保つことができ、研磨パッドの耐摩耗性を向上させることができる。
【0028】
ポリウレタン発泡シートの引裂き強度が0.50〜1.60N/mmの範囲にあると研磨パッドの耐摩耗性に優れ、製品寿命を延ばすことができる。
【0029】
研磨パッドは、ポリウレタン樹脂で形成された軟質プラスチック発泡シートとしてのポリウレタン発泡シートを有している。研磨パッドは、湿式成膜の当初に形成された緻密な表皮層(スキン層)が除去されている。ポリウレタン発泡シートにはスラリーを保持し得る空隙として、ポリウレタン樹脂中に概ね均一に分散した多数の中空微小球の気泡と多数のポリウレタンの発泡が配されている。各ポリウレタンの発泡は、中空微小球と同等以下の平均直径(空隙径)を有し、当該発泡の平均直径より小径の連通孔で互いに立体網目状に連通している。各中空微小球はそれらの気泡の直径(空隙径)を10〜80μmとする中空微小球が用いられ、当該中空微小球を取り囲む立体網目状のポリウレタン樹脂中の発泡及び連通孔とは連通することのない独立気泡を有して存在する。従って、ポリウレタン発泡シートは、シート厚さ方向、および、研磨面方向にほぼ一様(均等)に形成されたポリウレタンの発泡と中空微小球の気泡とを有している。尚、研磨パッドの研磨面の近傍に位置するポリウレタンの発泡と中空微小球の気泡は、研磨面で開口する開口部を形成している。なお、本明細書において気泡は、中空微小球の外殻により囲まれた空間であり、壁によって全て囲まれている(他の気泡や発泡とは連結していない)ため、独立気泡として存在する。
【0030】
また、研磨パッドは、ポリウレタン発泡シートの研磨面に対する反対面側(下面側)に、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する)製フィルム等の可撓性フィルム、不織布及び織布から選択される1種の支持部材を有している。支持部材の下面側には、他面側(最下面側)に剥離紙を有して研磨定盤に研磨パッドを装着するための両面テープが貼り合わされている。
【0031】
2.研磨パッドの製造方法
本発明の研磨パッドは、湿式成膜法、例えば、ポリウレタン樹脂、DMF、発泡調整剤、及び中空微小球を混合分散させたポリウレタン樹脂溶液を調製する工程と、ポリウレタン樹脂溶液を基材に塗布する工程と、ポリウレタン樹脂溶液が塗布された基材を凝固液に浸漬するポリウレタン樹脂の凝固再生工程とを含む方法により、製造することができる。
【0032】
(1)ポリウレタン樹脂溶液を調製する工程
i.ウレタン樹脂溶液の調製工程で使用される発泡調整剤は、ポリウレタン樹脂溶液に均一に混合又は分散できるものであって、水に対する溶解度がDMFより小さい溶媒またはウレタン樹脂の溶解度がDMFより小さい溶媒(DMFよりも極性の小さい溶媒)を含む。
【0033】
水に対する溶解度がDMFより小さい、またはウレタン樹脂の溶解度がDMFより小さい溶媒は、具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル等のエステル系溶媒や、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、イソプロピルアルコール等のアルコール類、トルエン等の芳香族系溶媒を挙げることができる。
【0034】
これらの溶媒は、凝固液(水)との置換速度が遅く、ポリウレタン樹脂溶液中の上層(表面層の側)〜下層(基材の側)の概ね全域でポリウレタン樹脂の凝固(溶媒が凝固液(水)に置換されて凝固する)がゆっくりと略均等に進行する結果、ポリウレタン樹脂中に多数の空隙が均等に発泡するように生成され、多数のポリウレタンの発泡を研磨パッドの表層面からシート厚さ方向にほぼ一様に分布させることができる。各ポリウレタンの発泡は上記のシート厚さ方向に縦長状の発泡をなすことなく、中空微小球の気泡と同等以下の平均直径を有する略球状の発泡をなす。各ポリウレタンの発泡は溶媒と水の置換経路からなる立体網目状の連通孔により互いに連通される。
【0035】
ポリウレタン樹脂溶液中のウレタン樹脂の濃度は、例えば、10〜50質量%、好ましくは20〜40質量%である。この濃度範囲であれば、シート密度が適切な範囲に調整され、所望の発泡構造を形成することができる。
【0036】
ii.ポリウレタン樹脂の良溶媒であるDMFは、水に対して任意の割合で混合することができるため、凝固液(水)との置換速度が速く、ポリウレタン樹脂溶液の下層(基材の側)の側のDMFが上層(表面層)の側へ速やかに移動し、下層の側に比較的大きな発泡(シート厚さ方向に縦長をなす発泡)を形成し易い。そこで、本発明では、縦長発泡が形成されず、平均直径が30μm(中空微小球より小径)を超えない程度に、発泡調整剤を混合する。ポリウレタン樹脂溶液中のDMFに対する、調製工程で使用される発泡調整剤の混合割合は、0〜67質量%とする。
【0037】
iii.ポリウレタン樹脂に、混合分散させる熱硬化性中空微小球は、内部に中空部分(気泡)を有する微小球体であって耐溶剤性の高い外殻からなる。耐溶剤性の高い外殻としてはDMFに不溶であれば良いが、研磨熱により軟化や変形が生じない熱硬化性樹脂の外殻からなることが好ましい。熱硬化性樹脂の外殻としてはポリメタクリル酸メチルやフェノール樹脂を架橋化させたものが使用される。
【0038】
中空微小球の比重を、前述した如く、0.8〜1.1g/cm
3とすることで、ポリウレタン樹脂溶液の比重に近づけることができ、ポリウレタン樹脂溶液中に中空微小球を均一に分散させることができる。
【0039】
iv.ポリウレタン樹脂溶液は、必要に応じて、更に添加剤を含んでいても良い。添加剤としては、特に制限されないが、ポリウレタン樹脂の凝固再生工程で、ポリウレタン樹脂の凝固速度を調整して所望の発泡形状を形成する点から、カーボンブラック等の顔料、疎水性活性剤、親水性活性剤が好ましい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。添加剤の配合量は、特に制限されず、ウレタン樹脂含有溶液100質量部に対して、例えば、30質量部以下、好ましくは20質量部以下(例えば、1〜15質量部)である。しかし、ディフェクト発生の要因となり得るカーボンブラック等の添加剤は使用しないことが好ましい。
【0040】
(2)ポリウレタン樹脂溶液の塗布工程
ポリウレタン樹脂溶液の塗布工程で用いる基材は、可撓性を有する材料であれば良く、例えば、プラスチックフィルム(例えば、ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム等)、不織布等が挙げられる。基材にポリウレタン樹脂含有溶液を塗布する方法としては、特に制限されず、例えば、慣用のコーター(ナイフコーター、リバースコータ、ロールコータ等)を用いて塗布する方法が挙げられる。塗布厚みは、所定の発泡構造を形成する点から、例えば、0.5〜2.5mm、好ましくは1.0〜2.0mm、更に好ましくは1.2〜1.8mmである。
【0041】
(3)ポリウレタン樹脂の凝固再生工程
ポリウレタン樹脂の凝固再生工程で、ポリウレタン樹脂溶液が塗布された基材を浸漬する凝固液は、ポリウレタン樹脂に対する貧溶媒(水等)を主成分とする。凝固液としては、例えば、水、水と極性の溶剤(例えば、DMF、DMAc、THF、DMSO、NMP、アセトン等)との混合溶液等が挙げられる。尚、混合溶液中の極性溶剤の濃度は、0.5〜30質量%が好ましい。
【0042】
ポリウレタン樹脂の凝固再生工程により、基材上で凝固したポリウレタン発泡シートが得られる。本発明の研磨パッドの製造方法は、更に、基材上で凝固して得られたポリウレタン発泡シートを、必要により基材から剥離した後、洗浄及び乾燥する工程を含んでいても良い。
【0043】
(4)ポリウレタン樹脂の洗浄及び乾燥工程
洗浄及び乾燥により、ポリウレタン樹脂中に残留するDMF、発泡調整剤及び凝固液(水)が除去される。洗浄に用いられる洗浄液は、通常、水が使用される。乾燥は、通常、80〜150℃で5〜60分程度行なう。
【0044】
本発明の研磨パッドの製造方法は、更に、表面又は表面及び裏面に研削処理を施したり、必要により切削による溝加工やエンボス加工等の表面処理を施しても良い。
【0045】
研削処理(バフ処理)の方法は、特に制限されず、例えば、サンドペーパーによる方法が挙げられる。研削処理(バフ処理)する面は、研磨面(表面層側の面)と非研磨面(定盤貼付け側の面)の前者のみでも両者でも良い。研削処理量(バフ処理量)は、所望の表面形状に応じて、例えば、0.05〜0.3mm、好ましくは0.1〜0.2mmである。これにより、研磨パッドの表面層に、ポリウレタンの発泡の開口、中空微小球の気泡の開口が形成されるとともに、シートの厚みが均一化される。
【0046】
溝加工やエンボス加工において、加工温度及び加工圧力は特に制限されるものではないが、加工温度は、例えば、100〜200℃、好ましくは120〜180℃であり、加工圧力は、例えば、3〜6MPa、好ましくは4〜5MPaである。加工時間も特に制限されないが、例えば、30〜300秒、好ましくは60〜180秒である。
【0047】
溝加工やエンボス加工により形成された凹部は、ランダムに形成しても良いが、規則的(例えば、格子状、同心円状、放射状、ハニカム状)に形成しても良い。凹部の幅は、例えば、0.3〜3.0mm、好ましくは0.5〜1.5mm、更に好ましくは0.8〜1.2mmである。隣り合う凹部の平均中心間距離は、例えば、1〜100mm、好ましくは2〜20mmである。これにより、研磨パッドの表面層側へのスラリーの供給と排出を促すことができる。
【0048】
3.研磨パッドの作用等
(1)研磨パッドのスラリーを保持する空隙として、多数のポリウレタンの発泡と、多数の中空微小球の気泡とが、ポリウレタン樹脂中に概ね均等に分散する。各発泡は連通孔を介して互いに連通し、各気泡は独立気泡として存在する。
【0049】
上述のポリウレタンの発泡と中空微小球の気泡は、ドレス処理によって研磨パッドの研磨面に開口する。研磨加工時に供給されるスラリーは、これらの開口で保持されつつ、研磨面内で均等に分散し、被研磨物の表面に作用して研磨加工に寄与する。また、ポリウレタンの発泡の開口で保持されたスラリーは、連通孔を通って、ポリウレタン樹脂中の発泡にも浸透する。従って、研磨開始時にスラリーのなじみが連通孔を有さない場合よりも早く、研磨の立ち上がり時間を短縮できる。
【0050】
(2)上述(1)において、研磨パッドの表面層におけるポリウレタンの発泡と中空微小球の気泡の各開口に保持されたスラリー中の砥粒は、研磨面において被研磨物に押圧されるとき、研磨パッドの内部の中空微小球によりバックアップされてその押圧力を高められ、研磨レートを高くする。
【0051】
このとき、中空微小球の周辺の多数のポリウレタンの発泡が該中空微小球のためのクッションとなり、中空微小球が砥粒に及ぼす過剰な押圧力は吸収され、砥粒が被研磨物に与えるスクラッチを抑制し、被研磨物の表面の平坦性を向上できる。
【0052】
(3)上述(1)、(2)において、多数のポリウレタンの発泡と多数の中空微小球の気泡は、研磨パッドの研磨層内に均等に分散し、研磨面からシート厚さ方向、および、研磨面方向にほぼ一様に混在して分布する。これにより、上述(1)のポリウレタンの発泡や中空微小球の気泡のドレス処理による各開口の生成、上述(2)の中空微小球やポリウレタンの発泡の砥粒に及ぼすバックアップ作用が、研磨により研磨パッドの摩耗が進行しても持続的に発揮される。従って、研磨レート、スクラッチ発生量、平坦性の経時変化を抑制できる。
【0053】
(4)研磨パッドを形成するポリウレタン樹脂の100%樹脂モジュラスを5〜25MPaの範囲に設定したことにより、被研磨物表面の平坦性を向上し、研磨面のドレス性悪化を抑えて研磨レートも向上できる。
【0054】
(5)中空微小球の外殻として熱硬化性樹脂を使用することにより、研磨熱によりポリウレタン樹脂が軟化して、研磨面におけるポリウレタンの発泡の開口が閉塞しても、熱硬化性中空微小球は軟化せずにその気泡の開口が確保され、スラリーが安定的に保持され、研磨面に供給することができるため研磨レートを維持できる。
【0055】
(6)研磨パッドが、ショアA硬度を35〜70度、密度を0.30〜0.70g/cm
3、ポリウレタンの発泡及び中空微小球の気泡の平均空隙径を10〜30μmの範囲とすることにより、研磨パッドの剛性を保って被研磨物の表面の平坦性を確保し、研磨面の耐摩耗性も向上できる。
【0056】
(7)研磨パッドが、引裂き強度を0.50〜1.60N/mmの範囲とすることにより、研磨面の耐摩耗性を向上し、製品寿命を向上することができる。
【0057】
4.具体的実施結果
4-1. 表1に示す各実施例及び比較例の研磨パッドを製造した。
[実施例1]
100%樹脂モジュラス24のポリエステル系ポリウレタン樹脂の濃度を30%とするDMF溶液(100部)及び酢酸エチル(30部)、イソプロピルアルコール(5部)を含む溶液に、外殻が架橋化ポリメタクリル酸メチル樹脂である中空微小球(平均粒径20μm、殻厚み5μm)を10部添加し(ポリウレタン樹脂全質量に対し33%)、混合することにより樹脂含有溶液を得た。
【0058】
得られた樹脂含有溶液を、ポリエステルフィルム(厚さ:250μm)上にキャストした。その後、樹脂含有溶液をキャストしたポリエステルフィルムを凝固浴(凝固液は水)に浸漬し、該樹脂含有溶液を凝固させた後、洗浄・乾燥させて、ポリウレタン発泡シートを得た。
図1は実施例1のポリウレタン発泡シートの断面図(SEM1000倍)である。
【0059】
得られたポリウレタン発泡シートの表面に形成されたスキン層側に研削処理を施した(研削量:150μm)。その後、該シートの一部に格子状の金型でエンボス加工を施し、該シートの裏面に両面粘着テープを貼り合わせ研磨パッドを得た。尚、特に断りのない限り、「部」とは、質量部を意味する。
【0060】
[実施例2]
100%樹脂モジュラス6のポリエステル系ポリウレタン樹脂の濃度を30%とするDMF溶液(100部)及び酢酸エチル(30部)、イソプロピルアルコール(5部)を含む溶液を使用する以外を実施例1と同様にして、研磨パッドを得た。
【0061】
[実施例3〜5及び比較例1〜3、6]
ポリウレタン樹脂の100%樹脂モジュラスを表1の通りとし、中空微小球の材質及び量を表1の通りとした以外を実施例2と同様にして、研磨パッドを製造した。
【0062】
実施例3はポリウレタン樹脂の100%樹脂モジュラスを6、外殻が架橋化ポリメタクリル酸メチル樹脂からなる中空微小球をポリウレタン樹脂全質量に対し3質量%添加したものである。
【0063】
実施例4はポリウレタン樹脂の100%樹脂モジュラスを6、外殻がフェノール樹脂からなる中空微小球をポリウレタン樹脂全質量に対し33質量%添加したものである。
【0064】
実施例5はポリウレタン樹脂の100%樹脂モジュラスを6、外殻が架橋化ポリメタクリル酸メチル樹脂からなる中空微小球をポリウレタン樹脂全質量に対し1質量%添加したものである。
【0065】
比較例1はポリウレタン樹脂の100%樹脂モジュラスを6、外殻が架橋化ポリメタクリル酸メチル樹脂からなる中空微小球をポリウレタン樹脂全質量に対し45質量%添加したものである。
【0066】
比較例2はポリウレタン樹脂の100%樹脂モジュラスを3.5、外殻が架橋化ポリメタクリル酸メチル樹脂からなる中空微小球をポリウレタン樹脂全質量に対し33質量%添加したものである。
【0067】
比較例3はポリウレタン樹脂の100%樹脂モジュラスを47、外殻が架橋化ポリメタクリル酸メチル樹脂からなる中空微小球をポリウレタン樹脂全質量に対し33質量%添加したものである。
【0068】
比較例6はポリウレタン樹脂の100%樹脂モジュラスを6、中空部のない架橋化ポリメタクリル酸メチル樹脂微小球(球状粒子)をポリウレタン樹脂全質量に対し33質量%添加したものである。
【0069】
[比較例4]
比較例4は中空微小球を不使用とした以外を実施例2と同様にして、研磨パッドを製造した。
【0070】
[比較例5]
比較例5は乾式成型された中空微粒子含有の市販研磨パッドであるIC1000(ニッタ・ハース社製商品名)を用いた。
【0071】
4-2. 各実施例及び比較例の研磨パッドの物性を評価し、表1に示す結果を得た。
各実施例及び比較例の研磨パッドを構成するポリウレタン発泡シートについて、ショアA硬度、研磨層密度、ポリウレタンの発泡及び中空微小球の気泡の平均空隙径、引裂き強度を測定した。
【0072】
(ショアA硬度)
ショアA硬度は、研磨パッドからポリウレタン発泡シート試料片(10cm×10cm)を切り出し、複数枚の該試料片を厚さが4.5mm以上となるように重ね、A型硬度計(日本工業規格、JIS K7311)にて測定した。
【0073】
(研磨層密度)
研磨層密度は、研磨パッドからポリウレタン発泡シート試料片(10cm×10cm)を切り出し、該試料片の質量を自動天秤で測定後、下記式:
密度(g/cm
3)=質量(g)/(10(cm)×10(cm)×試料片の厚さ(cm))
により算出して求めた。
【0074】
(ポリウレタンの発泡及び中空微小球の気泡の平均空隙径)
ポリウレタンの発泡及び中空微小球の気泡の平均空隙径は、ポリウレタン発泡シート試料片の断面を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-5000LV)で約5mm四方の範囲を50倍に拡大し、9箇所について観察した。この画像を画像処理ソフト(Image Analyzer V20LAB Ver.1.3、ニコン製)により二値化処理してシート内に存在する空隙(ポリウレタンの発泡及び中空微小球の気泡)の総個数を確認し、各空隙の空隙面積から円相当径及びその平均値を平均空隙径として算出した。空隙径の測定においては、該空隙径のカットオフ値(下限)を11μmとし、ノイズ成分を除外した。また、成膜時に偶発的に生じてしまったボイド状の空隙も測定対象より除外した。尚、ここで示す空隙とはポリウレタンの発泡と中空微小球の気泡の両者をいう。
【0075】
(引裂き強度)
ポリウレタン発泡シート試料片(100mm×25mm)の長手方向端部より70mm切込みを入れ、該試料片における切込みの終端部より切込みに沿って25mmの位置の2箇所を治具で挟んで固定し、それらの2箇所を切込みに沿う反対方向(2箇所の一方を他方に対して180度回転させた方向)に万能材料試験機テンシロン(株式会社A&D テンシロン型万能試験機RTC-1210)で引張り、試料が切れるまで測定し,測定値がピークとなった強力(最大荷重)Nを求めた。引き裂き強度(N/mm)=強力(最大荷重)N/厚さ(mm)より引裂き強度を求めた。
【0076】
4-3. 各実施例及び比較例の研磨パッドについて、以下の研磨条件で研磨加工を行ない、研磨レート、研磨均一性及びディフェクトの有無を測定し、表2の結果を得た。尚、研磨パッドを使用するときには、研磨パッドを研磨層の研磨面が被研磨物と向き合うように研磨機の研磨定盤に取付ける。そして、研磨パッドの研磨面にスラリーを供給しつつ、研磨定盤を回転させて、被研磨物の加工表面を研磨する。
【0077】
被研磨物としては、12インチのシリコンウェハ上にテトラエトキシシランをCVDで絶縁膜が1μmの厚さになるように形成した基板(均一性(CV%)が13%)を用いた。25枚の基板を準じ研磨し、1枚目、10枚目、25枚目の研磨レートと研磨均一性からレートの安定性を評価した。
研磨機:EBARA F−REX300
研磨ヘッド:GII
スラリー:Planar社 Slurry(コロイダイルシリカ、pH:9.7)
被研磨物:300mmφSIO2(TEOS)
パッド径:740mmφ
パッドブレイク:9N×30分、ダイヤモンドドレッサー54rpm、定盤回転数80rpm、
研磨圧:175hPa
超純水:200ml/min
研磨:定盤回転数70rpm、ヘッド回転数71rpm、スラリー流量200ml/min、研磨時間60秒
【0078】
(研磨レート)
研磨レートは、1分間あたりの研磨量を厚さ(Å)で表したものである。研磨加工前後の基板の絶縁膜について各々17箇所の厚み測定結果から平均値を求めた。尚、厚み測定は、光学式膜厚膜質測定器(KLAテンコール社製、ASET−F5x)のDBSモードにて測定した。
【0079】
(ディフェクトの有無)
ディフェクトの評価では、25枚の基板を繰り返し3回順次研磨し、研磨加工後の21〜25枚目の基板5枚について、パターンなしウェハ表面検査装置(KLAテンコール社製、Surfscan SP2)の高感度測定モードにて測定し、基板表面におけるディフェクトの有無を評価した。
【0080】
(トポグラフィー評価)
段差、表面粗さ、微細形状測定装置(KLAテンコール社製、P−16+)を用いて、メタル配線と酸化膜配線の段差を評価した。
【0081】
(摩耗評価)
研磨パッドの中心を0地点としてX軸直線、Y軸直線を設定し、パッド中心から±150mm〜±230mmの範囲において、研磨する前の研磨パッドの厚み及びウェハを600枚研磨後の研磨パッドの厚みを10mm間隔で測定した。各地点における600枚研磨後の研磨パッドの摩耗量より各地点における研磨前後の厚み差を求め、全測定地点における該厚み差の平均値を平均摩耗量とした。
【0082】
実施例及び比較例の研磨パッドの平均摩耗量を以下の基準に従って評価した。
◎…平均摩耗量が0.4mm以下 ○…平均摩耗量が0.4mm超過〜0.6mm以下
△…平均摩耗量が0.6mm超過〜0.7mm以下 ×…平均摩耗量が0.7mm超過
【0083】
実施例1〜4の研磨パッドは、研磨レートが高く、ディフェクト抑制性能が良く、トポグラフィーに優れ、耐摩耗性にも優れることを認めた。
【0084】
実施例5の研磨パッドは、実施例1〜4に比べ、中空微小球の添加量が1質量%と過少の結果、スラリーの保持性及びドレス性が悪化し、研磨レートが低下した。
【0085】
比較例1の研磨パッドは、中空微小球の添加量が45質量%と過多の結果、成膜性が悪化し、ポリウレタン発泡シートを製造できなかった。
【0086】
比較例2の研磨パッドは、ポリウレタン樹脂100%モジュラスが3.5MPaと過小の結果、耐摩耗性が悪化し、トポグラフィーも劣った。
【0087】
比較例3の研磨パッドは、ポリウレタン樹脂100%モジュラスが47MPaと過大の結果、ドレス性が悪化し、ディフェクト抑制性能も悪化した。
【0088】
比較例4の研磨パッドは、中空微小球が添加されない結果、ドレス性が悪化し、研磨レートも低下した。
【0089】
比較例5の研磨パッドは、乾式成型の結果、ディフェクト抑制性能が非常に悪化した。
【0090】
比較例6の研磨パッドは、中空微小球を添加せず、非中空の微小球が添加されたものである結果、研磨レートが低下した。
【0093】
しかるに、実施例1〜5、比較例1〜6によれば、ポリウレタン樹脂100%モジュラスの好適値は5〜25MPa、中空微小球の添加量は1〜50質量%、ポリウレタン発泡シートのショアA硬度の好適値は35〜70度、ポリウレタン発泡シートの密度の好適値は0.30〜0.70g/cm
3、ポリウレタン発泡シートの平均空隙径の好適値は10〜30μm、ポリウレタン発泡シートの引裂き強度の好適値は0.50〜1.60である。
【0094】
そして、研磨レート、ディフェクト抑制性能、トポグラフィー、及び耐摩耗性の全てが一様に良好であった実施例1〜4によれば、ポリウレタン樹脂100%樹脂モジュラスのより好適値は6〜24MPa、中空微小球の添加量のより好適値は3〜35質量%、ポリウレタン発泡シートの密度のより好適値は0.35〜0.60g/cm
3、ポリウレタン発泡シートの引裂き強度のより好適値は0.55〜1.50N/mmである。