(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357343
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】電力貯蔵装置
(51)【国際特許分類】
H02J 7/34 20060101AFI20180702BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20180702BHJP
B60M 3/06 20060101ALI20180702BHJP
H02M 3/155 20060101ALI20180702BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
H02J7/34 D
H02J7/00 B
B60M3/06 B
H02M3/155 K
H02J7/10 B
H02J7/00 302A
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-91245(P2014-91245)
(22)【出願日】2014年4月25日
(65)【公開番号】特開2015-211528(P2015-211528A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2017年3月16日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者:一般社団法人 電気学会 刊行物名:電気学会研究会資料 ITS、交通・電気鉄道合同研究会 資料No.ITS13−028〜051、TER−13−054〜077「電鉄用電力貯蔵装置の制御方法の改善」(No.ITS−13−50、TER−13−76) 発行年月日:平成25年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】岡松 茂俊
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智道
(72)【発明者】
【氏名】手島 正人
(72)【発明者】
【氏名】東條 眞輝
(72)【発明者】
【氏名】加藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】林屋 均
【審査官】
小池 堂夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−168390(JP,A)
【文献】
特開2006−062489(JP,A)
【文献】
特開2009−232526(JP,A)
【文献】
特開2011−162057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/34
B60M 3/06
H02J 7/00
H02J 7/10
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部インピーダンスのある交流電源から整流器を介して直流電源を構成し、直流電源に接続された負荷からの回生電力を貯蔵するとともに、負荷へ電力を放出する電力貯蔵装置であって、
充電及び放電の開始電圧と直流電圧の差に応じて、前記電力の貯蔵または放出を調整する電力制御回路と、前記整流器の入力電圧に応じて前記充電及び放電の開始電圧を補正する補正回路とを備え、前記電力貯蔵装置の放電運転時に前記放電の開始電圧を一定に保持することを特徴とする電力貯蔵装置。7
【請求項2】
交流電源から変圧器と整流器を介して直流電源を構成し、直流電源に接続された負荷からの回生電力を貯蔵するとともに、負荷へ電力を放出する電力貯蔵装置であって、
充電及び放電の開始電圧と直流電圧の差に応じて、前記電力の貯蔵または放出を調整する電力制御回路と、前記整流器の入力電圧に応じて前記充電及び放電の開始電圧を補正する補正回路とを備え、前記電力貯蔵装置の放電運転時に前記放電の開始電圧を一定に保持することを特徴とする電力貯蔵装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電力貯蔵装置であって、
前記電力貯蔵装置の放電運転時に前記放電の開始電圧を一定に保持するために、前記補正回路における前記放電の開始電圧の補正値をほぼ一定に保持しておくことを特徴とする電力貯蔵装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の電力貯蔵装置であって、
前記電力貯蔵装置の放電運転時に前記放電の開始電圧を一定に保持するために、前記補正回路は直流電圧の変動期間よりも長期に設定された期間内における前記整流器の入力電圧の最大値から前記放電の開始電圧の補正値を求めることを特徴とする電力貯蔵装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の電力貯蔵装置であって、
前記電力貯蔵装置の放電運転時に前記放電の開始電圧を一定に保持するために、前記補正回路は直流電圧の変動期間よりも長期に設定された期間内における前記整流器の入力電圧の平均値から前記放電の開始電圧の補正値を求めることを特徴とする電力貯蔵装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電力貯蔵装置であって、
前記電力貯蔵装置の充電運転時に前記充電の開始電圧を一定に保持することを特徴とする電力貯蔵装置。
【請求項7】
交流電源から変圧器と整流器を介して直流電源を構成し、直流電源に接続された負荷からの回生電力を貯蔵するとともに、負荷へ電力を放出する電力貯蔵装置であって、
充電及び放電の開始電圧設定器と、該充電及び放電の開始電圧設定器の出力と直流電圧の差を求める減算器とを備え、前記電力の貯蔵または放出を調整する電力制御回路と、
前記変圧器の整流器側電圧に応じて前記充電及び放電の開始電圧を補正する補正値を求める補正部と、補正値を前記充電及び放電の開始電圧設定器の出力に加算する加算部を備えた補正回路とを備え、
前記補正部は、前記電力貯蔵装置の放電運転時に、前記加算部の与える前記放電の開始電圧を一定に保持することを特徴とする電力貯蔵装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電力貯蔵装置であって、
前記補正部は、前記電力貯蔵装置の放電運転時に、その出力である前記放電の開始電圧の補正値を一定に保持することを特徴とする電力貯蔵装置。
【請求項9】
請求項7に記載の電力貯蔵装置であって、
前記補正回路は直流電圧の変動期間よりも長期に設定された期間内における前記整流器の入力電圧の最大値から前記放電の開始電圧の補正値を求めることを特徴とする電力貯蔵装置。
【請求項10】
請求項7に記載の電力貯蔵装置であって、
前記補正回路は直流電圧の変動期間よりも長期に設定された期間内における前記整流器の入力電圧の平均値から前記放電の開始電圧の補正値を求めることを特徴とする電力貯蔵装置。
【請求項11】
請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の電力貯蔵装置であって、
前記補正部は、前記変圧器の整流器側電圧に応じて前記充電の開始電圧を補正する補正値を求める補正部と、補正値を前記充電の開始電圧設定器の出力に加算する加算部と、前記電力貯蔵装置の充電運転時に前記加算部の前記充電の開始電圧を一定に保持する保持部とを備えることを特徴とする電力貯蔵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電源から変圧器と整流器を介して作成される直流電源に接続され、直流電源に接続された負荷からの回生電力を貯蔵するとともに、負荷へ電力を放出する電力貯蔵装置に係り、特に、変圧器の二次電圧を用いて当該電力貯蔵装置の充電または放電条件を補正制御する電力貯蔵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電池を主体に構成される電力貯蔵装置は、電力を取り扱う各種分野への適用が検討され、実施されている。例えば自動車への蓄電池の応用が世界的に広まっている。また、電気車の分野においても蓄電池を応用して省エネを達成しようという動きが既に始まっている。あるいは電力系統の系統安定化設備として使用されている。
【0003】
本発明は、これらの適用分野のうち、交流電源から変圧器と整流器を介して作成される直流電源に接続され、この直流電源に接続された負荷からの回生電力を貯蔵(以後、充電という)するとともに、負荷へ電力を放出(以後、放電という)する電力貯蔵装置を対象としている。なおここで、整流器の交流側についてみると、この交流電源は内部インピーダンスのある交流電源であるということができる。従って、以下に示す直流電源は、内部インピーダンスのある交流電源から整流器を介して構成された直流電源ということができる。
【0004】
具体的には例えば電気車に対する電力供給設備を対象としている。特に直流電化区間を走行する直流電気車を対象としている。電気車の直流電化区間に対しては、変電所の整流器において交流電力を直流電力に変換し電力供給するのが一般的である。この場合に、直流電化区間における電気車からの回生電力を有効活用するには、同一直流電化区間を走行する他の電気車による電力消費を行うか、回生インバータを設置して交流電源に戻す方法があった。
【0005】
この場合に、いずれの方法においても電気車の力行電力の供給に関しては交流電源側の変電所から供給するのがほとんどであった。このため、直流電化区間における直流電力を貯蔵および放出可能な蓄電池を用いた電力貯蔵装置は、これを変電所に備え直流電化区間に電力供給するのがよい。変電所という地上設備に電力貯蔵装置を設置することで、電気車の床下機器として設備する場合のような寸法重量の制約が少ないという利点もある。
【0006】
変電所に設置した蓄電池に電力を充電または放電制御するための監視パラメータとしては直流電化区間における直流電圧を使用することが多い。その理由は、変電所と電気車は一般には離れた位置にあり、かつ電気車は移動していることから、電気車の運転条件を変電所に取り込んで監視することが困難であることがあるためである。
【0007】
この点、直流電化区間における直流電圧は、変電所内の整流器設置地点から容易に取り込むことができ、かつ電気車の回生運転を直流電圧の上昇で、電気車の力行運転を直流電圧の下降で検出することができるので充放電の制御が比較的容易に行える。
【0008】
直流電化区間における直流電圧を監視パラメータとする具体的な蓄電池の制御手法としては、一般的には電気車が回生運転も力行運転もしていない無負荷直流電圧を基準とし、直流電圧が無負荷直流電圧以上の第1の設定値(充電設定値)を超えたら充電し、直流電圧が無負荷電圧以下の第2の設定値(放電設定値)を下回ったら放電するようにすればよい。
【0009】
このような充放電制御を蓄電池に対して行う装置としてチョッパ制御装置が実用化されている。従来における一般的なチョッパ制御装置の例を
図4に示す。チョッパ制御装置は直流電源と蓄電池間の電力の移動を行うための装置である。
【0010】
図4において1は送電系統の交流電源、2は一次側が交流電源1に接続される変圧器、3は送電系統1に接続される他の負荷、4は変圧器2の二次側に接続される整流器、5は整流器出力の直流電圧で駆動される電気車、7は電力貯蔵装置である。上記構成において、変圧器2、整流器4及び電力貯蔵装置7が変電所構内に設置されていることが望ましく、整流器4の直流側回路Lが直流電化区間に相当している。
【0011】
電力貯蔵装置7は、電力主回路7Aと電力制御回路7Bで構成されている。このうち電力主回路7Aは、平滑リアクトル71、平滑コンデンサ72、チョッパ用トランジスタ73および74、昇圧リアクトル75、蓄電池76から構成されている。
図4の構成の場合に、電力貯蔵装置7がチョッパ制御装置に相当している。
【0012】
この電力主回路構成によれば、整流器4の直流側回路の両端間に平滑リアクトル71と平滑コンデンサ72が直列に接続されることで、平滑コンデンサ72の両端には平滑された直流電圧が印加されている。また平滑コンデンサ72の両端にはチョッパ用トランジスタ73および74の直列回路が接続され、かつチョッパ用トランジスタ73、74の接続点間と整流器4の直流側回路の負端子間に蓄電池76が接続されている。係る電力主回路7Aの構成において、蓄電池76を充電するにはトランジスタ73および74の接続点の平均電圧が蓄電池電圧より高くなるように制御し、放電させるには平均電圧が蓄電池電圧より低くなるように制御すればよい。
【0013】
電力制御回路7Bは、トランジスタ73および74の接続点の平均電圧を制御することにより、蓄電池の充電及び放電状態を制御する。この制御の実行にはすでに多くの手法が知られており、チョッパ回路による電力制御方法の詳細説明は省略するが、その一例は特許文献1にも紹介されている。
図4はその典型的な一例を示しており、以下簡便に説明を行う。
【0014】
電力制御回路7Bは、上記制御の達成のために、電力主回路7Aに設置された電圧検出器77から整流器4の両端の直流電圧を検知入力しており、また電力主回路7Aに設置された電流検出器78から蓄電池電流を検知入力している。そして最終的にゲート駆動回路79によりトランジスタ73および74のゲートを駆動する。また放電及び充電を開始する基準電圧が、充電開始電圧設定器80C、放電開始電圧設定器80Dにより設定されている。
【0015】
電力制御回路7B内では、充電開始電圧設定器80Cと放電開始電圧設定器80Dにより設定された放電及び充電を開始するための基準電圧が、減算器82C,82Dにおいて電圧検出器77で検知した整流器4の両端直流電圧と比較されその差分が求められる。またこの差分は電圧制御器84C、84Dにおいて比例積分制御される。この比例積分制御の結果として、蓄電電流の電流目標値が導出される。切替器86は運転モード判定器81の出力により、2つの電圧制御器84C、84Dの出力を切り替える。
【0016】
なお運転モード判定器81には、充電開始電圧設定器80Cと放電開始電圧設定器80Dにより設定された放電及び充電を開始する基準電圧と、電圧検出器77で検知した整流器4の直流電圧とが与えられており、要するに検出した直流電圧が、充電開始電圧設定器80Cが与える無負荷直流電圧以上の充電開始電圧設定値を超えたら電圧制御器84Cの出力を選択すべく切替信号S1を与え、検出した直流電圧が、放電開始電圧設定器80Dが与える無負荷直流電圧以下の放電開始電圧設定値を下回ったら電圧制御器84Dの出力を選択すべく切替信号S1を与える。なお直流電圧が充電開始電圧設定値と放電開始電圧設定値との間の範囲内にあるときには、電圧制御器84C、84Dのいずれの出力も選択しない。
【0017】
切替器86が与える蓄電電流の電流目標値は、電力主回路7Aに設置された電流検出器78からの蓄電池電流と減算器85において比較、減算され、電流制御器87において比例積分制御される。電流制御器87の信号はスイッチ83を介してゲート駆動回路79に与えられる。なお、スイッチ83には運転モード判定器81の出力である運転指令S2が与えられて、ゲート駆動回路79におけるゲート駆動期間が制御されている。
【0018】
典型的な一例を示す
図4回路によれば、直流電圧が上昇し、電圧検出器77の出力電圧が充電開始電圧設定器80Cの出力より高くなると、運転モード判定器81の出力である運転指令S2とスイッチ83によりチョッパ制御装置が起動するとともに、電圧検出器77の出力電圧と充電開始電圧設定器80Cの出力の偏差に応じて電圧制御器84Cが充電電流指令を立ち上げる。この充電電流指令は運転モード判定器81の出力である切替信号S1が切替器86に与えられることによって選択され、次段の減算器85に送られ蓄電池電流と比較される。そして電流検出器78によって検出された蓄電池電流が充電電流指令に一致するように電流制御器87がチョッパの出力電圧制御を行う。尚、ゲート駆動回路79はトランジスタ73および74の点弧タイミングを決定している。
【0019】
他方、電圧検出器77の出力電圧が放電開始電圧設定器80Dの出力より低くなると、チョッパ制御装置が起動するとともに電圧制御器82Dが偏差電圧に応じて放電電流指令を立ち上げる。以降の動作は充電時と同様であるので、ここでの詳細説明は省略する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2013−59144号公報
【特許文献2】特開平11−91415号公報
【特許文献3】特許第5044340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
図4における交流電源1の交流電圧は、送電系統1に接続された他の負荷3の影響や発電所の変動等により常時変動している。このため例えば充電開始電圧設定値を固定にしていた場合には交流電源電圧の上昇により、回生電気車が存在しない場合でも交流電源1から電力を蓄電池76に充電してしまうケースが考えられる。その場合、回生電力が発生しても蓄電池76の充電余裕がないために回生電力を充分に貯蔵できなくなることがある。このため、交流電源電圧を検出し、充電および放電開始電圧を補正する方式が、従来より実施されていた。これを
図5に示す。
【0022】
図5において補正機能を構成する補正回路を7Cとして示している。ここで96は交流電圧検出器、92は交流電圧に応じて充放電開始電圧の補正量を演算する交流電圧補正器であり、加算器93C、93Dにおいて交流電圧補正器92の出力が充電開始電圧設定器80C、放電開始電圧設定器80Dの出力にそれぞれ加算され、補正された充放電開始電圧となる。電力制御回路7B内における制御は先に示したとおりであり、補正された充放電開始電圧を基準として充電、放電が制御される。なおここで、交流電圧検出器96は変圧器2の二次電圧(整流器5の入力電圧)を検出したものである。
【0023】
図6は、交流電圧に応じて充放電開始電圧の補正量を演算する交流電圧補正器92の一例回路を示している。この回路では、要するに入力電圧の変動をそのまま出力するのではなく緩変動信号として出力する機能を有する。例えば積分機能を有する一時遅れ回路として構成されている。
【0024】
具体的には、ディジタル的な処理を行うものとして説明すると、実効値演算器921では一定周期で実効値換算して得た値として交流電圧を得る。減算器922では前回処理時の出力との差を求める。入力の交流電圧が長時間一定であれば、差分は得られず、後段のゲイン回路923を介して、加算器924において前回値記憶回路925の値と加算しても、最終の交流電圧補正器92の出力は変動しない。これに対し、入力の交流電圧が例えば増加している時には、減算器922に差分が発生し、後段のゲイン回路923を介して、加算器924において前回値記憶回路925の値と加算する結果、最終の交流電圧補正器92の出力は増加することになる。但し、この場合の増加幅は、ゲイン回路923におけるゲインの大きさにより変動し、緩変動信号を与えている。
【0025】
ところで、
図5では交流電圧検出器96は変圧器2の二次側電圧(整流器側電圧)を検知しているが、本来この補正量は変圧器2の二次電圧でなく一次側の交流電源電圧を検出すべきである。その理由は、二次側電圧は変圧器2のインピーダンスの影響で出力電流が大きくなると低下することにある。この結果、放電開始後も力行電流が増大すれば二次電圧の低下により放電開始電圧も下方に補正されてしまい、直流電圧検出器77の出力電圧と充電開始電圧設定器80の出力の偏差が小さくなって放電電流指令も小さくなり、放電電力量が低下するためである。
【0026】
しかしながら交流電源1に接続された変圧器2は一般にタップ付のものが設置されており、送電系統1の事情で変動する電圧の影響が少なくなるようにタップ切替操作が行われる場合がある。このとき、一次側電圧を検出して充電または放電開始電圧の補正をやっているとタップの切替による無負荷電圧の変化がわからないため、代わりに二次電圧を検出する方式があるが、二次電圧の採用には上述の問題があった。
【0027】
このように、タップ切替操作の影響を受けないようにするには補正電圧として二次電圧を用いるのがよいが、二次電圧を用いると出力電流が大きくなる時に二次電圧の低下幅が大きくなるという別の課題を生じることになる。
【0028】
以上のことから本発明の課題は、タップ切替操作に関係なく、適正な充電または放電開始電圧の補正を可能とする電力貯蔵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
上記課題を解決するために本発明においては、内部インピーダンスのある交流電源から整流器を介して直流電源を構成し、直流側負荷における電力の貯蔵または放出を調整する電力貯蔵装置であって、充電及び放電の開始電圧と直流電圧の差に応じて、前記電力の貯蔵または放出を調整する電力制御回路と、前記整流器の入力電圧に応じて前記充電及び放電の開始電圧を補正する補正回路とを備え、前記電力貯蔵装置の放電運転時に前記放電開始電圧を一定に保持する。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、交流電源に接続される変圧器の二次電圧を補正用として検出する場合の放電特性を簡単に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施例1における電力貯蔵装置の構成例を示す図。
【
図2】本発明の実施例1における電圧補正機能の構成を示す図。
【
図4】従来例における電力貯蔵装置の構成例を示す図。
【
図5】電圧補正機能を備えた従来例における電力貯蔵装置の構成例を示す図。
【
図7】
図4の従来例における電力貯蔵装置の動作波形を示す図。
【
図8】
図1の本発明における電力貯蔵装置の動作波形を示す図。
【
図9】本発明の実施例2における電力貯蔵装置の構成例を示す図。
【
図10】本発明の実施例2における電圧補正機能の構成を示す図。
【
図11】本発明の実施例2における電圧補正機能の他の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0033】
図1は、本発明の実施例1に係る電力貯蔵装置の一例を示している。
図1の構成が
図5の構成と異なるのは、運転モード判定器81の出力である運転モードS3を交流電圧補正器92に入力し、運転モードS3により交流電圧補正器92が放電運転であることを認識したときには補正量をホールドさせるようにしたことである。
【0034】
まず運転モード判定器81の出力について
図3により説明する。この図では横軸に時間を取り、上段のように直流電圧が変動したものとする。
図3上段の直流電圧は、時刻t0以前は放電開始電圧(
図5の93D出力)以下であったものが増加して、時刻t0で放電開始電圧以上、時刻t1で充電開始電圧(
図5の93C出力)以上に増加した。その後、減少に転じて時刻t3で充電開始電圧以下、時刻t3で放電開始電圧以下に変化したものとする。
【0035】
この場合に、時刻t0以前、時刻t3以降の状態では直流電圧が放電開始電圧以下となることにより、切替信号S1は放電側の電圧制御器84Dの出力を選択する切替信号S1(放)を与える。時刻t1から時刻t2の間の状態では直流電圧が充電開始電圧以上となることにより、切替信号S1は充電側の電圧制御器84Cの出力を選択する切替信号S1(充)を与える。
【0036】
また運転指令S2としては、切替信号を与えている全区間において運転指令S2をスイッチ83に出力して、ゲート駆動回路79におけるゲート制御を実行せしめる。なお
図1の実施例で使用する運転モードS3としては、放電側の切替信号S1(放)が与えられることになる。
【0037】
具体的な交流電圧補正器92の構成が
図2に例示されている。
図2の構成が
図6の交流電圧補正器92の構成と相違しているのは、減算器922の後段に切替器926を備えた点である。切替器926では、通常は減算器922の出力をゲイン回路923に与えているが、運転モード判定器81の出力である運転モードS3により、これが放電運転によるものである時には、ゼロ信号をゲイン回路923に与えるように構成されている。
【0038】
この構成によれば、交流電圧補正器92の入力である交流電圧(変圧器二次電圧)が変動(例えば増加)している時には、減算器922に差分が発生し、後段のゲイン回路923を介して、加算器924において前回値記憶回路925の値と加算する結果、最終の交流電圧補正器92の出力は変動(例えば増加)することになる。
【0039】
但し、この時の交流電圧変動の原因が運転モード判定器81の出力である運転モードS3により、これが放電運転によるものであることが判明した時には、切替器926においてゼロ値設定器927が与えるゼロ信号をゲイン回路923に与えるように切り替える。この結果、後段の減算器82Dに与えられる電圧基準値はホールドされ、一定値を維持することになる。
【0040】
図7は、
図6の従来の補正方式を採用したときの制御状態を示し、
図8は
図2の本発明の補正方式を採用したときの制御状態を示している。次に
図7と
図8を対比して説明する。
【0041】
図7と
図8には、その上段から順に電気車の力行電流、変圧器2の二次電圧実効値、直流電圧と放電開始電圧、および放電電流指令の時間変化波形を示している。これらの事例では上段の電気車の力行電流が時刻t1以前は0%であったものが、時刻t1から時刻t3の間で100%まで増加したものとする。またこの期間での電気車の力行電流の増加を反映して変圧器2の二次電圧実効値が低下し、さらに直流電圧も低下したものとする。ここまでの各量の変更期間及び変動の大きさは
図7と
図8で同じものとしている。
【0042】
また
図7と
図8の上から3段目の直流電圧について着目すると、時刻t1以降直流電圧が減少している。他方減算器93Dから得られる補正後の放電開始電圧についてみると、これも交流電圧の低下を反映した交流電圧補正器92の出力の影響を受けて(緩変動信号ではあるが)低下している。このように、直流電圧も補正後の放電開始電圧も低下しているが、時刻t2において直流電圧が放電開始電圧を下回ったものとする。なお、
図7と
図8の上から3段目の各量の時刻t2までの状態も
図7と
図8で同じものとしている。
【0043】
図7と
図8では、3段目より下の各量について、かつ時刻t2以降に違いが表れている。
図7の従来の補正回路による補正では、時刻t2以降も放電開始電圧が低下し続けている。この結果、電圧制御器84Dに与えられる直流電圧と放電開始電圧の差は発生するものの、その大きさは比較的に小さいものである。
【0044】
これに対し、
図8の本発明の補正回路による補正では、時刻t2以降は放電開始電圧が直前の値に保持されている。この結果、電圧制御器84Dに与えられる直流電圧と放電開始電圧の差の大きさは比較的に大きいものとなっている。従来の放電電流指令が例えば10%程度変動したものであるとすると、本発明では例えば20%程度の大きな変動となって表れていることが理解できる。
【0045】
図7の波形は、従来における以下の問題点を明確に表している。まず、電力主回路7Aにおいて、電気車の力行電流は電力貯蔵装置の放電電流よりも大きいので電力貯蔵装置が放電を開始しても更に増加し、変圧器二次電圧は放電運転開始後も低下を続ける。このため、従来例では放電開始電圧も力行電流が最大になるところまで補正され続けることになる。その結果、
図5における電圧検出器77の出力電圧と充電開始電圧設定器80Dの出力の偏差は大きくなりにくく、比例積分で出力される放電電流指令がその影響を受けるので放電電力量が小さくなり(図の例では10%程度)、省エネ効果が悪くなっている。
【0046】
これに対して本発明では、
図8の直流電圧と放電開始電圧の波形を見るとわかるように放電運転開始と同時に補正量をホールドするので変圧器の二次電圧が低下を続けても放電開始電圧は放電運転開始時の値を保ち、電圧検出器77の出力電圧と充電開始電圧設定器80Dの出力の偏差は従来例に比べて大きくなるので、比例積分された出力は絶対値も、立上り速度も大きくなり(図の例では20%程度)、省エネ効果を改善することができる。
【0047】
尚、電気車が回生運転したときの電力貯蔵装置の充電運転について考えると、もし放電運転と同様に補正量をホールドしたとすると充電中に交流電源電圧の上昇により無負荷電圧が充電開始電圧を超過することが考えられる。こうなると、電気車からでなく、交流電源から蓄電池に充電することとなり、省エネルギー設備の意味が薄くなってしまう。このため、本発明は電力貯蔵装置の放電運転時に適用することで大きな効果を発揮することができる。
【0048】
なお
図7と
図8を対比して明らかなように、本発明では要するに放電運転時における放電電流が変圧器二次電圧の低下に影響されて十分な大きさを与えられないことから、これを制限しないようにしたものである。実施例では具体的な事例として、放電開始電圧をホールドすることにより放電開始電圧の補正を取りやめたものということができる。あるいは放電開始電圧と直流電圧の差が大きくなるように修正したものということができる。これらの変形は、放電運転時における放電電流が変圧器二次電圧の低下に影響されることの解消に向けて、種々の形で行いうることである。従って、電流制御器87の出力を大きくする方向での各種手段を採用することが可能である。
【0049】
また本発明は直流電気車が走行する直流電化区間を対象として説明したがこれは、適用対象の一例であって、要するに交流電源から変圧器と整流器を介して直流電源を構成し、直流側負荷における電力の貯蔵または放出を電力貯蔵装置において調整するものであれば広く適用が可能である。
【0050】
以上により、本発明によれば、交流電源に接続される変圧器の二次電圧を補正用として検出する場合の放電特性を簡単に改善することができる。尚、これまで説明した本発明の実施形態において、チョッパ回路で説明した電力変換回路は、双方向に電力を変換できる構成でさえあれば適用可能である。
【0051】
以上説明したように、本発明によれば交流電源に接続される変圧器の二次電圧を補正用として検出する場合の放電特性を簡単に改善することができる。
【実施例2】
【0052】
第2の実施例では、電圧変動が交流側と直流側では相違する態様を示すことに着目して電圧補正制御に反映させたものである。まず直流側における電圧変動は電気車の力行、回生運転に基づいて生じており、この場合の電圧変動期間はおよそ1分以内である。これに対し、交流側における電圧変動は交流電源1に接続されている他の負荷3(これは1つではなく、送電系統に接続されている全ての負荷の集合)の変動に基づいて生じており、この場合の電圧変動期間は10分以上の長い周期のものであることが多い。
【0053】
このことから、充放電開始電圧補正に使用する交流電圧(変圧器二次電圧)として、1分に比べて十分長い所定時間内の最大値を使用すれば短期的な変動の影響を受けないものとすることができる。
【0054】
図9は、本発明の実施例2に係る電力貯蔵装置の一例を示している。
図9の構成が
図1の構成と異なるのは、交流電圧補正器92が与える補正量を放電側と充電側で相違する手法により求めたことである。
図9の交流電圧補正器92の具体的な回路構成の一例が
図10に示されている。
【0055】
図10の交流電圧補正器92は、充電開始電圧補正値算出部92Cと放電開始電圧補正値算出部92Dで構成されている。このうち充電開始電圧補正値算出部92Cは、基本的に
図6の従来の交流電圧補正器92と同じ構成を採用しており、要するに入力である交流電圧の変動の際に緩変動する増加または減少の信号を与えている。なお926Cは補正量演算部である。
【0056】
実施例2では放電開始電圧補正値算出部92Dの考え方に特徴がある。ここでは、実効値演算器921において一定周期で実効値換算して得た値(交流電圧)を、サンプル用パルス発生器927が与える所定周期の信号をサンプラー928に与えて、定周期でのサンプリングを行う。メモリ929ではサンプル値を少なくとも1分以上の長期間(例えば10分とする)にわたって順次記憶し、最大値選択回路920Mではこの記憶期間(10分)内のサンプリング値の中から最大値を求めて、これに基づいて放電開始電圧補正値を決定する。
【0057】
この方式によれば、最終的に交流電圧補正器92の放電開始電圧補正値算出部92Dが与える放電開始電圧補正値は1分以上の長期間(10分)の中の最大値で定まり、かつこの期間(10分)内はこの大きさの最大値を出力し続けることになる。
【0058】
このことを
図7、
図8の説明に対比すれば明らかなように、実施例2の場合に与える補正後の設定開始電圧は、長期間(10分)にわたり、その中の最大値により定められた値である。別な言い方をすると、この期間での補正後の設定開始電圧はほぼ一定を維持しているので、
図8のように設定開始電圧をホールドしたことに等価である。
【0059】
補正後の設定開始電圧はほぼ一定であるに対し、検出された直流電圧は低下し続けるので差電圧が大きく表れ、直流電流指令値が大きくなるので大きな放電効果が得られることがわかる。
【0060】
図11の実施例は、最大値選択回路920Mが平均値選択回路920Aとされている点で相違するが、この場合にもこの期間での補正後の設定開始電圧はほぼ一定を維持しているので、
図8のように設定開始電圧をホールドしたことに等価である。
【0061】
図12は、実施例2の場合の電力貯蔵装置の動作波形を示す図である。この図に明らかなように、放電電流指令を大きな値にすることができる。この動作波形図が
図8の波形と相違している点は、時刻t1、t2間の放電開始電圧にある。
図8の場合は、低下状態にあるが、
図12では最大値または平均値で定まるほぼ一定値を保持している点で相違している。なお、ホールド期間が
図8よりも長いことにより、放電電流指令は、
図8よりもさらに大きくとることが可能である。
【0062】
以上の本発明は、放電側について対策するのがよいとしたが、これは充電側に対策することも可能である。蓄電池の容量をフルに活用して調整幅を大きくできることになる。
【符号の説明】
【0063】
1:送電系統の交流電源
2:変圧器
3:他の負荷
4:整流器
5:電気車
7:電力貯蔵装置
71:平滑リアクトル
72:平滑コンデンサ
73、74:チョッパ用トランジスタ
75:昇圧リアクトル
76:蓄電池
77:電圧検出器
78:電流検出器
79:ゲート駆動回路
80C充電開始電圧設定器
80D:放電開始電圧設定器
81:運転モード判定器
92:交流電圧補正器
83:スイッチ
84C:電圧制御器
84D:電圧制御器
86:電流指令切替器
87:電流制御器
S1:切替信号
S2:運転指令
S3:運転モード