(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0025】
1. 第1実施形態
1.1. 電子顕微鏡観察用染色剤
まず、第1実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤について説明する。
【0026】
本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤は、ルテチウムを含む塩を含有する。ルテチウムを含む塩として、例えば、酢酸ルテチウム(Triacetic acid lutetium salt)が挙げられる。すなわち、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤は、例えば、三酢酸ルテチウムを含有する。なお、ここでは、三酢酸ルテチウムを含有するとは、三酢酸ルテチウムの水和物を含有している場合も含むものとする。三酢酸ルテチウムの水和物としては、例えば、酢酸ルテチウム四水和物(Lutetium acetate tetrahydrate, Lu(CH
3COO)
3・4H
2O)が挙げ
られる。
【0027】
本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤は、例えば、三酢酸ルテチウム水溶液である。本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤において、三酢酸ルテチウムの濃度は特に限定されず、例えば1質量%以上10質量%以下である。本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤において、三酢酸ルテチウムの濃度は、例えば飽和濃度である。
【0028】
本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤は、三酢酸ルテチウムに加えて、さらに、三酢酸ルテチウム以外の物質を含有していてもよい。
【0029】
ここで、電子顕微鏡観察用染色剤とは、電子顕微鏡観察の対象となる試料を染色するための染色剤(電子染色剤)をいう。なお、本実施形態において、染色とは、いわゆる電子染色をいい、試料の特定の部位や、試料の周囲(グリッドの支持膜と試料との間、試料の凹凸の凹部等)に電子の散乱を促す物質(重金属等)を吸着または結合させることをいう。電子顕微鏡観察用染色剤を用いて試料を染色することにより、電子顕微鏡像にコントラストをつけることができる。
【0030】
また、染色された試料の観察に用いられる電子顕微鏡としては、例えば、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)、走査透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope、STEM)などが挙げられる。
【0031】
本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤は、例えば、タンパク質などの生体高分子を含んで構成される生体試料、炭素、酸素、窒素、水素などの軽元素を含んで構成される試料、ウイルス、リポソーム等の微粒子などを染色することができる。
【0032】
本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤では、三酢酸ルテチウムを含有している。そのため、酢酸ウラニルと同等の高い染色効果を有することができる(後述する「1.3.
実施例」参照)。さらに、三酢酸ルテチウムは、合成等の必要がなく、例えば、水に溶解させることで電子染色剤として用いることができる。したがって、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤では、簡便に電子染色を行うことができる。
【0033】
1.2. 電子顕微鏡観察用試料の作製方法
次に、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の作製方法について説明する。本実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の作製方法は、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の染色方法を含む。
【0034】
本実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の染色方法は、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤に試料を接触させる工程を含む。また、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の染色方法は、さらに、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤に接触した試料を、鉛化合物を含有する染色液に接触させる工程を含む(二重染色)。
【0035】
以下、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の染色方法について、より詳細に説明する。
【0036】
1.2.1. ネガティブ染色法
まず、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤を、ネガティブ染色法に適用した例について説明する。ここで、ネガティブ染色法とは、試料の周囲を染色剤で固めてコントラストをつける手法をいう。
【0037】
例えば、カーボン支持膜等を備えたグリッド上に、ウイルス等の試料を載せ、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤を加える。これにより、染色剤の一部が、グリッドの支持膜と試料との間、試料の凹凸の凹部等に残留し、透過電子顕微鏡像にコントラストがつく。以上の工程により、試料をネガティブ染色することができる。
【0038】
1.2.2. ポジティブ染色法
次に、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤を、ポジティブ染色法に適用した例について説明する。
【0039】
例えば、まず、生体試料をエポキシ樹脂に包埋する。包埋の方法としては、例えば、まず、灌流固定または浸漬固定した生体試料を切り出す。そして、切り出された生体試料を、カコジル酸緩衝1〜4%パラホルムアルデヒドと1〜4%グルタールアルデヒドとの混合液に浸漬し、前固定する。なお、前固定は、カコジル酸緩衝1〜4%パラホルムアルデヒドだけで行ってもよいし、1〜4%グルタールアルデヒドだけで行ってもよい。次に、前固定された生体試料を、カコジル酸緩衝液で洗浄し、1〜2%四酸化オスミウムで後固定する。そして、後固定された生体試料を上昇エタノール系列で脱水した後、エポキシ樹脂に包埋する。このようにして、生体試料をエポキシ樹脂に包埋することができる。なお、生体試料を包埋するための材料はエポキシ樹脂に限定されず、例えば、メタクリル酸樹脂、ポリエステル樹脂、パラフィン等を用いてもよい。
【0040】
次に、エポキシ樹脂に包埋された生体試料を薄片化する。薄片化は、例えば、ミクロトーム(ウルトラミクロトーム)を用いて行われる。
【0041】
次に、薄片化された生体試料を染色する。染色は、本実施形態に係る染色剤を薄片化された生体試料に接触させることにより行われる。例えば、染色は、本実施形態に係る染色剤に、薄片化された生体試料を浸漬させることにより行われる。ここで、電子顕微鏡観察用染色剤の温度は、例えば、5℃以上50℃以下である。また、浸漬時間は、例えば、1分以上10時間以下である。その後、染色された生体試料を純水等で洗浄する。以上の工程により、試料をポジティブ染色することができる。
【0042】
1.2.3. 二重染色
次に、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤で試料を染色した後に、鉛化合物を含有する染色液に接触させる二重染色について説明する。本実施形態では、例えば、試料を、三酢酸ルテチウム水溶液と鉛化合物を含有する染色液とによって二重染色する。
【0043】
鉛化合物としては、例えば、クエン酸鉛が挙げられる。このクエン酸鉛を含有する染色液(クエン酸鉛染色液)としては、例えば、レイノルド(Reynolds)法で処方されたものが挙げられる。クエン酸鉛染色液の温度は、例えば、5℃以上50℃以下である。
【0044】
二重染色は、例えば、上述した手順(「1.2.2. ポジティブ染色」参照)でポジティブ染色された試料を、鉛化合物を含有する染色液に浸漬させることで行われる。浸漬時間は、例えば、1分以上10時間以下程度である。クエン酸鉛染色液に浸漬された試料は、純水等によって洗浄されてもよい。また、鉛化合物として、例えば、硝酸鉛を用いてもよい。
【0045】
本実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の染色方法では、上述したように、簡便に電子染色を行うことができ、かつ高い染色効果を有する本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤を用いて染色するため、試料を、簡便かつ良好に染色することができる。
【0046】
また、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の染色方法では、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤に接触した試料を、鉛化合物を含有する染色液に接触させる工程をさらに含むため、より染色効果を高めることができる(後述する「1.3.5. 実施例5」、「1.3.6. 実施例6」参照)。
【0047】
1.3. 実施例
以下、実施例を挙げて本実施形態をさらに詳細に説明するが、本発明はこれによって制限されるものではない。
【0048】
1.3.1. 実施例1
(1)試料作製
試料は、液体培地で培養したT4ファージを用いた。まず、カーボン膜を張った銅製グリットにT4ファージを滴下し濾紙で余剰の液を吸い取る。次に、三酢酸ルテチウム水溶液をグリットに滴下しすぐに濾紙で余剰の液を吸い取ることでネガティブ染色し、電子顕微鏡観察用試料を作製した。
【0049】
なお、上記の三酢酸ルテチウム水溶液は、酢酸ルテチウム四水和物(和光純薬工業株式会社製)を、蒸留水で溶解することによって作製した。また、三酢酸ルテチウム水溶液の濃度は、2質量%とした。
【0050】
比較例として、上記手順と同様の手順により、T4ファージを酢酸ウラニル水溶液(2質量%水溶液)でネガティブ染色して電子顕微鏡観察用試料を作製した。
【0051】
(2)観察結果
このようにして作製された電子顕微鏡観察用試料を、透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM−1400)で観察した。
図1は、三酢酸ルテチウム水溶液で染色されたT4ファージの透過電子顕微鏡像である。
図2は、酢酸ウラニル水溶液で染色されたT4ファージの透過電子顕微鏡像である。
【0052】
図1に示すように、三酢酸ルテチウム水溶液で染色されたT4ファージの透過電子顕微鏡像では、T4ファージの周囲に染色剤が存在し、T4ファージの輪郭が明瞭になった。また、
図1に示す三酢酸ルテチウム水溶液で染色されたT4ファージの透過電子顕微鏡像では、
図2に示す酢酸ウラニル水溶液で染色されたT4ファージの透過電子顕微鏡像と同程度の高いコントラストの像が得られた。このことから、三酢酸ルテチウム水溶液は、酢酸ウラニル水溶液と同等の高い電子染色効果が得られることがわかった。
【0053】
1.3.2. 実施例2
(1)試料作製
試料は、繊維状のタンパク質であるβアミロイドを用いた。まず、カーボン膜を張った銅製グリットにβアミロイドを滴下し濾紙で余剰の液を吸い取る。次に、三酢酸ルテチウム水溶液をグリットに滴下しすぐに濾紙で余剰の液を吸い取ることでネガティブ染色し、電子顕微鏡観察用試料を作製した。
【0054】
なお、上記の三酢酸ルテチウム水溶液は、酢酸ルテチウム四水和物(和光純薬工業株式会社製)を、蒸留水で溶解することによって作製した。また、三酢酸ルテチウム水溶液の濃度は、2質量%とした。
【0055】
比較例として、上記手順と同様の手順により、βアミロイドを酢酸ウラニル水溶液(2質量%水溶液)でネガティブ染色して電子顕微鏡観察用試料を作製した。
【0056】
(2)観察結果
このようにして作製された電子顕微鏡観察用試料を、透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM−1400)で観察した。
図3は、三酢酸ルテチウム水溶液で染色されたβアミロイドの透過電子顕微鏡像である。
図4は、酢酸ウラニル水溶液で染色されたβアミロイドの透過電子顕微鏡像である。
【0057】
図3に示すように、三酢酸ルテチウム水溶液で染色されたβアミロイドの透過電子顕微鏡像では、βアミロイドの周囲に染色剤が存在し、βアミロイドの輪郭が明瞭になった。
【0058】
また、
図3に示す三酢酸ルテチウム水溶液で染色されたβアミロイドの透過電子顕微鏡像では、
図4に示す酢酸ウラニル水溶液で染色されたβアミロイドの透過電子顕微鏡像と同程度の高いコントラストの像が得られた。このことから、三酢酸ルテチウム水溶液は、酢酸ウラニル水溶液と同等の高い電子染色効果が得られることがわかった。このように、三酢酸ルテチウム水溶液は、繊維状の物質に対しても高い染色効果を有することがわかった。
【0059】
1.3.3. 実施例3
(1)試料作製
試料は、呼吸色素タンパク質であるヘモシアニンを用いた。まず、カーボン膜を張った銅製グリットにヘモシアニンを滴下し濾紙で余剰の液を吸い取る。次に、三酢酸ルテチウム水溶液をグリットに滴下しすぐに濾紙で余剰の液を吸い取ることでネガティブ染色し、電子顕微鏡観察用試料を作製した。
【0060】
なお、上記の三酢酸ルテチウム水溶液は、酢酸ルテチウム四水和物(和光純薬工業株式会社製)を、蒸留水で溶解することによって作製した。また、三酢酸ルテチウム水溶液の濃度は、2質量%とした。
【0061】
比較例として、上記手順と同様の手順により、ヘモシアニンを酢酸ウラニル水溶液(2質量%水溶液)でネガティブ染色して電子顕微鏡観察用試料を作製した。
【0062】
(2)観察結果
このようにして作製された電子顕微鏡観察用試料を、透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM−1400)で観察した。
図5は、三酢酸ルテチウム水溶液で染色されたヘモシアニンの透過電子顕微鏡像である。
図6は、酢酸ウラニル水溶液で染色されたヘモシアニンの透過電子顕微鏡像である。
【0063】
図5に示すように、三酢酸ルテチウム水溶液で染色されたヘモシアニンの透過電子顕微鏡像では、ヘモシアニンの周囲に染色剤が存在し、ヘモシアニンの輪郭が明瞭になった。
【0064】
また、
図5に示す三酢酸ルテチウム水溶液で染色されたヘモシアニンの透過電子顕微鏡像では、
図6に示す酢酸ウラニル水溶液で染色されたヘモシアニンの透過電子顕微鏡像と同程度の高いコントラストの像が得られた。このことから、三酢酸ルテチウム水溶液は、酢酸ウラニル水溶液と同等の高い電子染色効果が得られることがわかった。このように、三酢酸ルテチウム水溶液は、円筒状の物質に対しても高い染色効果を有することがわかった。
【0065】
1.3.4. 実施例4
(1)試料作製
本実施例では、三酢酸ルテチウムで染色された生体試料の電子顕微鏡観察用試料を作製
した。生体試料としては、ホウレンソウの葉を用いた。具体的には、まず、灌流固定したホウレンソウの葉を切り出し、カコジル酸緩衝2%パラホルムアルデヒドと2%グルタールアルデヒドとの混合液に浸漬し、前固定した。次に、前固定されたホウレンソウの葉を、カコジル酸緩衝液で洗浄し、2%四酸化オスミウムで後固定した。そして、上昇エタノール系列で脱水し、エポキシ樹脂に包埋した。
【0066】
次に、エポキシ樹脂に包埋されたホウレンソウの葉を薄片化した。薄片化は、ウルトラミクロトームを用いて行った。次に、薄片化されたホウレンソウの葉を、三酢酸ルテチウム水溶液に室温で20分間浸漬した。なお、三酢酸ルテチウム水溶液は、酢酸ルテチウム四水和物(和光純薬工業株式会社製)を、蒸留水で溶解することによって作製した。また、三酢酸ルテチウム水溶液の濃度は、2質量%とした。その後、染色された生体試料を純水で洗浄した。このようにして、三酢酸ルテチウムで染色されたホウレンソウの葉の電子顕微鏡観察用試料を作製した。
【0067】
比較例として、上記手順と同様の手順により、ホウレンソウの葉を酢酸ウラニル水溶液(2質量%水溶液)で染色して電子顕微鏡観察用試料を作製した。また、上記手順と同様の手順により、染色を行わなかったホウレンソウの葉の電子顕微鏡観察用試料を作製した。
【0068】
(2)観察結果
このようにして作製された電子顕微鏡観察用試料を、透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM−1400)で観察した。
図7は、三酢酸ルテチウム水溶液で染色されたホウレンソウの葉の透過電子顕微鏡像である。
図8は、酢酸ウラニル水溶液で染色されたホウレンソウの葉の透過電子顕微鏡像である。
図9は、無染色のホウレンソウの葉の透過電子顕微鏡像である。なお、
図7、
図8、および
図9に示すスケールバーは、2μmに相当する。
【0069】
図7に示すように、三酢酸ルテチウム水溶液で染色されたホウレンソウの葉の透過電子顕微鏡像では、
図9に示す無染色のホウレンソウの葉の透過電子顕微鏡像では明瞭に観察することができなかった、クロマチンが黒く染まって明瞭になった。また、
図7に示す三酢酸ルテチウム水溶液で染色されたホウレンソウの葉の透過電子顕微鏡像では、
図8に示す酢酸ウラニル水溶液で染色されたホウレンソウの葉の透過電子顕微鏡像と同程度の高いコントラストの像が得られた。このことから、三酢酸ルテチウム水溶液は、酢酸ウラニル水溶液と同等の高い電子染色効果が得られることがわかった。このように、三酢酸ルテチウム水溶液は、生体試料に対しても高い染色効果を有することがわかった。
【0070】
1.3.5. 実施例5
(1)試料作製
本実施例では、三酢酸ルテチウムとクエン酸鉛染色液とで二重染色された生体試料の電子顕微鏡観察用試料を作製した。生体試料としては、ホウレンソウの葉を用いた。具体的には、上記の実施例4と同様の手順でホウレンソウの葉を三酢酸ルテチウム水溶液(2質量%水溶液)で染色し、この三酢酸ルテチウム水溶液で染色されたホウレンソウの葉をレイノルドのクエン酸鉛染色液に室温で5分間浸漬し、その後、純水で洗浄した。
【0071】
比較例として、上記手順と同様の手順により、ホウレンソウの葉を酢酸ウラニル水溶液(2質量%水溶液)とレイノルドのクエン酸鉛染色液とで二重染色して電子顕微鏡観察用試料を作製した。
【0072】
(2)観察結果
このようにして作製された電子顕微鏡観察用試料を、透過電子顕微鏡(日本電子株式会
社製JEM−1400)で観察した。
図10は、三酢酸ルテチウム水溶液とクエン酸鉛染色液とで二重染色されたホウレンソウの葉の透過電子顕微鏡像である。
図11は、酢酸ウラニル水溶液とクエン酸鉛染色液とで二重染色されたホウレンソウの葉の透過電子顕微鏡像である。なお、
図10および
図11に示すスケールバーは、2μmに相当する。
【0073】
図10に示すように、三酢酸ルテチウム水溶液とクエン酸鉛染色液とで二重染色されたホウレンソウの葉の透過電子顕微鏡像では、
図11に示す酢酸ウラニル水溶液とクエン酸鉛染色液とで二重染色されたホウレンソウの葉の透過電子顕微鏡像と同程度の高いコントラストの像が得られた。このことから、三酢酸ルテチウム水溶液とクエン酸鉛染色液とによる二重染色では、酢酸ウラニル水溶液とクエン酸鉛染色液とによる二重染色と同等の高い電子染色効果が得られることがわかった。
【0074】
1.3.6. 実施例6
(1)試料作製
上記の実施例4と同様の手順で、ホウレンソウの葉を三酢酸ルテチウム水溶液(2質量%水溶液)で染色して試料を作製した。また、上記の実施例5と同様の手順で、ホウレンソウの葉を三酢酸ルテチウム水溶液(2質量%水溶液)とレイノルドのクエン酸鉛染色液とで二重染色して試料を作製した。
【0075】
比較例として、上記の実施例4と同様の手順でホウレンソウの葉を酢酸ウラニル水溶液(2質量%水溶液)で染色して電子顕微鏡観察用試料を作製した。また、上記の実施例5と同様の手順でホウレンソウの葉を酢酸ウラニル水溶液(2質量%水溶液)とレイノルドのクエン酸鉛染色液とで二重染色して電子顕微鏡観察用試料を作製した。また、比較例として、ホウレンソウの葉を染色せずに電子顕微鏡観察用試料を作製した。
【0076】
(2)コントラストの定量的な比較
このようにして作製された電子顕微鏡観察用試料を、透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM−1400)で観察し、得られた透過電子顕微鏡像のコントラストを定量的に比較した。
【0077】
コントラストの比較は、倍率、照射条件を一定にして各染色剤で染色された試料を撮影し、撮影した画像のコントラストを、真空部分(試料や支持膜がない箇所)で撮影した画像のコントラストを基準として規格化することで行った。規格化は、下記式(1)を用いて行った。
【0078】
コントラスト(%)=(I
vac−I)/I
vac×100
【0079】
ただし、I
vacは真空部分の電子線透過量であり、真空部分を撮影した画像全体の強度の平均値から算出した。Iは試料部分の電子線透過量であり、染色された試料を撮影した画像全体の強度の平均値から算出した。
【0080】
(3)結果
図12は、各染色剤で染色されたホウレンソウの葉の透過電子顕微鏡像のコントラストを示すグラフである。
図12に示す各染色剤におけるコントラストの値は、異なる視野で撮影された5枚の画像の平均値である。
【0081】
図12に示すグラフから、三酢酸ルテチウム水溶液で染色された試料の透過電子顕微鏡像は、酢酸ウラニルで染色された試料の透過電子顕微鏡像と、同程度の高いコントラストが得られることがわかった。また、三酢酸ルテチウム水溶液とレイノルドのクエン酸鉛染色液とで二重染色された試料の透過電子顕微鏡像は、酢酸ウラニル水溶液(2質量%水溶
液)とレイノルドのクエン酸鉛染色液とで二重染色された試料の透過電子顕微鏡像と、同程度の高いコントラストが得られることがわかった。また、三酢酸ルテチウム水溶液とレイノルドのクエン酸鉛染色液とで二重染色された試料の透過電子顕微鏡像は、三酢酸ルテチウム水溶液で染色された試料の透過電子顕微鏡像よりも高いコントラストが得られた。
【0082】
2. 第2実施形態
2.1. 電子顕微鏡観察用染色剤
次に、第2実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤について説明する。なお、上述した第1実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0083】
本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤は、三酢酸ルテチウムと、メタノールを含む溶媒と、を含有する。
【0084】
また、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤の溶媒は、例えば、メタノールである。なお、該溶媒は、メタノールと、水と、を含んでいてもよい。このとき、該溶媒のメタノールの濃度は特に限定されない(後述する「2.3. 実施例」参照)。
【0085】
本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤において、三酢酸ルテチウムの濃度は特に限定されず、例えば1質量%以上10質量%以下である。本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤において、三酢酸ルテチウムの濃度は、例えば飽和濃度である。
【0086】
本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤は、三酢酸ルテチウムに加えて、さらに、三酢酸ルテチウム以外の物質を含有していてもよい。
【0087】
本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤では、三酢酸ルテチウムと、メタノールを含む溶媒と、を含有している。そのため、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤は、酢酸ウラニルと同等の高い染色効果を有することができる(後述する「2.3. 実施例」参照)。さらに、三酢酸ルテチウムは、合成等の必要がなく、例えば、メタノールに溶解させることで電子染色剤として用いることができる。したがって、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤では、簡便に電子染色を行うことができる。さらに、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤は、分散性が高く、試料粒子間に染色剤を分散させることができるため、試料が凝集している場合でも、染色剤を凝集させないことができる(後述する「2.3. 実施例」参照)。
【0088】
2.2. 電子顕微鏡観察用試料の作製方法
本実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の作製方法は、上述した第1実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の作製方法と、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤(三酢酸ルテチウムとメタノールを含む溶媒とを含有する染色剤)を用いる点を除いて同様であり、その説明を省略する。
【0089】
本実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の染色方法では、上述したように、簡便に電子染色を行うことができ、かつ高い染色効果を有する本実施形態に係る電子顕微鏡観察用染色剤を用いて染色するため、試料を、簡便かつ良好に染色することができる。さらに、本実施形態に係る電子顕微鏡観察用試料の染色方法では、試料が凝集している場合でも、染色剤を凝集させないことができる。
【0090】
2.3. 実施例
以下、実施例を挙げて本実施形態をさらに詳細に説明するが、本発明はこれによって制限されるものではない。
【0091】
2.3.1. 実施例1
試料は、液体培地で培養したT4ファージおよび大腸菌を用いた。まず、カーボンおよびフォルムバール支持膜を張った銅製グリットに試料を滴下し濾紙で余剰の液を吸い取る。次に、三酢酸ルテチウムの100%メタノール溶液をグリットに滴下しすぐに濾紙で余剰の液を吸い取ることでネガティブ染色し、電子顕微鏡観察用試料を作製した。
【0092】
なお、上記の三酢酸ルテチウムの100%メタノール溶液は、酢酸ルテチウム四水和物(和光純薬工業株式会社製)を、メタノール−d4,100%(和光純薬工業株式会社製)に溶かすことによって作製した。三酢酸ルテチウムの100%メタノール溶液の濃度は、1質量%とした。
【0093】
比較例として、上記手順と同様の手順により、上記試料を三酢酸ルテチウム水溶液でネガティブ染色した。三酢酸ルテチウム水溶液は、三酢酸ルテチウム四水和物(和光純薬工業株式会社製)を、蒸留水で溶解させることによって作製した。三酢酸ルテチウム水溶液の濃度は、1質量%とした。
【0094】
(2)観察結果
このようにして作製された電子顕微鏡観察用試料を、透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM−1400)で観察した。
図13および
図14は、三酢酸ルテチウムの100%メタノール溶液で染色されたT4ファージの透過電子顕微鏡像である。
図15および
図16は、三酢酸ルテチウム水溶液で染色されたT4ファージの透過電子顕微鏡像である。なお、
図13、
図14、
図15、および
図16に示すスケールバーは、200nmに相当する。
【0095】
図15に示すように、三酢酸ルテチウム水溶液を用いてネガティブ染色を行うと、染色剤が試料周囲に存在し、試料の輪郭がはっきりと見て取れた。しかしながら、
図16に示すように、試料が凝集している場合、染色剤も凝集し、試料の微細な構造を確認することができなかった。
【0096】
これに対して、
図13および
図14に示すように、三酢酸ルテチウムの100%メタノール溶液を用いてネガティブ染色を行うと、試料が凝集している場合でも、染色剤が凝集することなく、1つ1つのT4ファージやその他の構造物を明瞭に見て取れた。これは、三酢酸ルテチウムをメタノールに溶解することで、三酢酸ルテチウムを水に溶解した場合と比べて、分散性が増し、試料粒子間により染色剤が分散するためであると考えられる。
【0097】
2.3.2. 実施例2
試料は、液体培地で培養したT4ファージおよび大腸菌を用いた。まず、カーボンおよびフォルムバール支持膜を張った銅製グリットに試料を滴下し濾紙で余剰の液を吸い取る。次に、三酢酸ルテチウムの50%メタノール溶液をグリットに滴下しすぐに濾紙で余剰の液を吸い取ることで染色し、電子顕微鏡観察用試料を作製した。
【0098】
なお、上記の三酢酸ルテチウムの50%メタノール溶液は、酢酸ルテチウム四水和物(和光純薬工業株式会社製)を、50%メタノール溶液(v/v%)に溶かすことによって作製した。三酢酸ルテチウムの50%メタノール溶液の濃度は、1質量%とした。
【0099】
(2)観察結果
このようにして作製された電子顕微鏡観察用試料を、透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM−1400)で観察した。
図17および
図18は、三酢酸ルテチウムの50%メタノール溶液で染色されたT4ファージの透過電子顕微鏡像である。なお、
図17に示
すスケールバーは、500nmに相当し、
図18に示すスケールバーは、200nmに相当する。
【0100】
図17および
図18に示すように、三酢酸ルテチウムの50%メタノール溶液を用いてネガティブ染色を行うと、上記の「2.3.1. 実施例1」の三酢酸ルテチウムの100%メタノール溶液を用いて染色した場合と同様に、試料が凝集している場合でも、染色剤が凝集することなく、1つ1つのT4ファージやその他の構造物を明瞭に見て取れた。
【0101】
2.3.3. 実施例3
試料は、液体培地で培養したT4ファージおよび大腸菌を用いた。まず、カーボンおよびフォルムバール支持膜を張った銅製グリットに試料を滴下し濾紙で余剰の液を吸い取る。次に、三酢酸ルテチウムの25%メタノール溶液をグリットに滴下しすぐに濾紙で余剰の液を吸い取ることで染色し、電子顕微鏡観察用試料を作製した。
【0102】
なお、上記の三酢酸ルテチウムの25%メタノール溶液は、酢酸ルテチウム四水和物(和光純薬工業株式会社製)を、25%メタノール溶液(v/v%)に溶かすことによって作製した。三酢酸ルテチウムの25%メタノール溶液の濃度は、1質量%とした。
【0103】
(2)観察結果
このようにして作製された電子顕微鏡観察用試料を、透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM−1400)で観察した。
図19および
図20は、三酢酸ルテチウムの25%メタノール溶液で染色されたT4ファージの透過電子顕微鏡像である。なお、
図19および
図20に示すスケールバーは、200nmに相当する。
【0104】
図19および
図20に示すように、三酢酸ルテチウムの25%メタノール溶液を用いてネガティブ染色を行うと、上記の「2.3.1. 実施例1」の三酢酸ルテチウムの100%メタノール溶液を用いて染色した場合と同様に、試料が凝集している場合でも、染色剤が凝集することなく、1つ1つのT4ファージやその他の構造物を明瞭に見て取れた。
【0105】
2.3.4. 実施例4
試料は、液体培地で培養したT4ファージおよび大腸菌を用いた。まず、カーボンおよびフォルムバール支持膜を張った銅製グリットに試料を滴下し濾紙で余剰の液を吸い取る。次に、三酢酸ルテチウムの10%メタノール溶液をグリットに滴下しすぐに濾紙で余剰の液を吸い取ることで染色し、電子顕微鏡観察用試料を作製した。
【0106】
なお、上記の三酢酸ルテチウムの10%メタノール溶液は、酢酸ルテチウム四水和物(和光純薬工業株式会社製)を、10%メタノール溶液(v/v%)に溶かすことによって作製した。三酢酸ルテチウムの10%メタノール溶液の濃度は、1質量%とした。
【0107】
(2)観察結果
このようにして作製された電子顕微鏡観察用試料を、透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM−1400)で観察した。
図21および
図22は、三酢酸ルテチウムの10%メタノール溶液で染色されたT4ファージの透過電子顕微鏡像である。なお、
図21および
図22に示すスケールバーは、200nmに相当する。
【0108】
図21および
図22に示すように、三酢酸ルテチウムの10%メタノール溶液を用いてネガティブ染色を行うと、上記の「2.3.1. 実施例1」の三酢酸ルテチウムの100%メタノール溶液を用いて染色した場合と同様に、試料が凝集している場合でも、染色剤が凝集することなく、1つ1つのT4ファージやその他の構造物を明瞭に見て取れた。
【0109】
2.3.5. 実施例5
試料は、液体培地で培養したT4ファージおよび大腸菌を用いた。まず、カーボンおよびフォルムバール支持膜を張った銅製グリットに試料を滴下し濾紙で余剰の液を吸い取る。次に、三酢酸ルテチウムの1%メタノール溶液をグリットに滴下しすぐに濾紙で余剰の液を吸い取ることで染色し、電子顕微鏡観察用試料を作製した。
【0110】
なお、上記の三酢酸ルテチウムの1%メタノール溶液は、酢酸ルテチウム四水和物(和光純薬工業株式会社製)を、1%メタノール溶液(v/v%)に溶かすことによって作製した。三酢酸ルテチウムの1%メタノール溶液の濃度は、1質量%とした。
【0111】
(2)観察結果
このようにして作製された電子顕微鏡観察用試料を、透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製JEM−1400)で観察した。
図23および
図24は、三酢酸ルテチウムの1%メタノール溶液で染色されたT4ファージの透過電子顕微鏡像である。なお、
図23に示すスケールバーは、200nmに相当し、
図24に示すスケールバーは、100nmに相当する。
【0112】
図23および
図24に示すように、三酢酸ルテチウムの1%メタノール溶液を用いてネガティブ染色を行うと、上記の「2.3.1. 実施例1」の三酢酸ルテチウムの100%メタノール溶液を用いて染色した場合と同様に、試料が凝集している場合でも、染色剤が凝集することなく、1つ1つのT4ファージやその他の構造物を明瞭に見て取れた。
【0113】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。