(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357360
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】電気培養装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20180702BHJP
C12M 1/42 20060101ALI20180702BHJP
C12N 13/00 20060101ALN20180702BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20180702BHJP
【FI】
C12M1/00 D
C12M1/42
!C12N13/00
!C12N1/20 A
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-124938(P2014-124938)
(22)【出願日】2014年6月18日
(65)【公開番号】特開2016-2046(P2016-2046A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2017年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】根岸 敦規
【審査官】
太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−085600(JP,A)
【文献】
特開2005−279482(JP,A)
【文献】
特開平10−280181(JP,A)
【文献】
特開昭49−101587(JP,A)
【文献】
米国特許第03919052(US,A)
【文献】
特開2013−052383(JP,A)
【文献】
特開平10−191965(JP,A)
【文献】
特開平04−299980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を培養液で培養するための培養槽、
該培養槽に備えられた培養液に電圧を印加するための作用極、
前記培養槽とイオン交換膜によって仕切られた連通部を介して接続された対極槽、
該対極槽に備えられた対極、及び
前記作用極と前記対極との間に電圧を印加する電圧印加手段を含む電気培養装置であって、
前記作用極、対極及びイオン交換膜が、それぞれ、縦に配設されると共に、前記作用極、イオン交換膜及び対極が略水平方向に並べて配置されており、
前記作用極が、前記電圧印加手段に接続する軸部及び、該軸部と電気的に接続し、複数の貫通孔が形成された平板部を有する電極であり、且つ前記作用極が、前記軸部を中心に回転する回転手段を備えることを特徴とする電気培養装置。
【請求項2】
前記作用極の平板部が、メッシュ状の平板である請求項1に記載の電気培養装置。
【請求項3】
前記対極が、前記電圧印加手段と接続する軸部と、該軸部と電気的に接続し、複数の貫通孔が形成された平板部とを有する電極であり、且つ
前記対極が、前記軸部を中心に回転する回転手段を備える請求項1又は2に記載の電気培養装置。
【請求項4】
前記対極の平板部が、メッシュ状の平板である請求項3に記載の電気培養装置。
【請求項5】
前記回転手段により前記作用極を回転させたとき、
前記作用極の最も対極に近い部分と前記対極の最も作用極に近い部分との距離(d)の最大値(dmax)が、距離(d)の最小値(dmin)の1.5倍以上になるように、前記作用極及び前記対極が設置されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気培養装置。
【請求項6】
微生物の培養中に、培養された微生物を含む培養液を排出する排出手段、及び
排出された前記培養液の量に応じて、新たに培養液を供給する供給手段を更に備える請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の電気培養装置、すなわち、培養液の酸化還元電位を制御しながら化学的独立栄養細菌等の微生物を培養するために適した電気培養装置に関し、特に効率的な培養が可能な電気培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄酸化細菌等の化学的独立栄養細菌は、無機物の電子供与体と電子受容体の間での電子の受け渡し、すなわち酸化還元反応に伴うエネルギーを利用して二酸化炭素を固定することにより増殖している。化学的独立栄養細菌は、電子供与体を電気化学的に供給する電気培養により増殖させることができる。
【0003】
電気培養は、培養液中に電極を設置し、化学的独立栄養細菌の増殖に必要なエネルギー源である電子供与体を適切な濃度で電気化学的に供給し続けることができるため、栄養塩と空気の供給のみの通常培養に比べて、効率的な培養が可能となるとされており、更なる技術開発が進められている。例えば、特許文献1では、電気培養による化学的独立栄養細菌の増殖プロセスを予測する方法として、菌濃度、菌濃度変化、電子供与体濃度、その消費速度、電流値等から所定の演算式を用いて予測する方法が開示されている。特許文献1の方法により、化学的独立栄養細菌の大量生産系の特性を把握でき、連続式培養の至適環境条件が把握できるとされている。
【0004】
また、特許文献2では、培養液に電圧の印加を間欠的に行い、電圧を印加していない状態で培養液の静止電位を計測する電気培養方法が開示されている。特許文献2の方法により、従来の電極に電圧を印加し続ける方法では測定できなかった静止電位(電極間に電流が流れていないときの電極間の電位)を計測することができ、この静止電位に基づいて、培養液中の酸化還元種濃度を推定し、微生物の生育状況を正確に把握し、電圧の印加の制御にフィードバックできるうえ、一系統の電圧印加の制御回路があれば、複数の培養器について電圧制御が可能となるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−113565号公報
【特許文献2】特開2005−198509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法においては、最適な培養条件を導き出すために、電圧、電流値、及び電極間距離の調節による電位制御や、栄養塩の添加量等の要因を細かく設定し、さらにフィードバック制御により最適化するまで何回も繰り返し設定する必要がある。また、特許文献2の方法においては、装置が大掛かりになるうえ、培養条件の最適化についても特許文献1と同様にフィードバック制御の繰り返しが必要であり、複雑な制御機構が必要になる。
【0007】
すなわち、従来の電気培養装置では微生物のエネルギー源となる栄養塩(電子供与体等)の酸化還元電位を正確に設定するため、その電極の位置(電極間の距離)、電圧、及び電流を正確に制御する必要があり、制御系が複雑になるという問題がある。
【0008】
さらに、例えば、2価鉄イオン(Fe
2+)を栄養塩として生育する鉄酸化細菌を電気培養する場合、(i)鉄酸化細菌がFe
2+から電子の供与を受け、微生物内の酸化還元反応に利用するとともに、3価鉄イオン(Fe
3+)へ酸化し、(ii)Fe
3+が電極において電子を受容しFe
2+に還元されて、再度細菌の栄養塩となるというサイクルにより鉄酸化細菌が増殖するが、培養液の撹拌の程度や電極間の電位等の問題で、Fe
3+が電極から電子を受容する前に培養液中の酸素と結合することで酸化鉄となり、電極表面に析出し付着したり、培養槽内に沈殿したりして、急激に鉄酸化細菌の増殖が減速してしまう場合がある。この場合、培養の再開のために、電極を塩酸による洗浄、析出の程度によっては電極の交換、及び培養槽の沈殿物の除去等の非常に煩雑なメンテナンスが必要となるため、時間的、コスト的に大きな問題であった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、培養液中に電極を配置し、電圧を印加することで微生物を培養する電気培養に用いる電気培養装置であって、酸化還元電位の複雑な制御系の必要がなく、且つ、電極に金属酸化物の付着等が生じ難く、繁雑なメンテナンスが不要で、効率的な培養が可能な培養装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは電気培養において、栄養塩や微生物と作用極とを効率よく接触させるため、作用極として平板電極を用い電極面積を大きくすることを検討したが、培養装置の培養液の流れを阻害したり、結果的に酸化鉄等の酸化物の付着が増加したりする問題が生じることが分かった。そこで、作用極の形態を種々検討することにより、本発明に至った。
【0011】
すなわち、上記目的は、微生物を培養液で培養するための培養槽、該培養槽に備えられた培養液に電圧を印加するための作用極、前記培養槽とイオン交換膜によって仕切られた連通部を介して接続された対極槽、対極槽に備えられた対極、及び前記作用極と前記対極との間に電圧を印加する電圧印加手段を含む電気培養装置であって、
前記作用極、対極及びイオン交換膜が、それぞれ、縦に配設されると共に、前記作用極、イオン交換膜及び対極が略水平方向に並べて配置されており、前記作用極が、前記電圧印加手段に接続する軸部及び、該軸部と電気的に接続し、複数の貫通孔が形成された平板部を有する電極であり、且つ前記作用極が、前記軸部を中心に回転する回転手段を備えることを特徴とする電気培養装置によって達成される。
【0012】
上記の構成の電気培養装置においては、作用極として軸部と平板部とを有し、平板部に複数の貫通孔が形成された電極を用い、その電極を回転させることで、培養槽における培養液の流れの阻害を防止すると共に、培養液の撹拌を促進することができる。これにより、栄養塩と作用極による電気化学反応が促進され、且つ、上述のような金属酸化物の付着を防止することができる。また、作用極の平板部が回転することで、作用極と対極の距離(電極間の距離)が周期的に変化することになるため、培養液中の栄養塩の酸化還元電位に係らず、電極間の距離が周期的に好適な範囲に調節されることになる。したがって、複雑な酸化還元電位の制御を行わなくても電気培養を効率よく実施することができる。
【0013】
本発明の電気培養装置の好ましい態様は以下の通りである。
【0014】
(1)前記作用極の平板部が、メッシュ状の平板である。培養槽における水の流れの阻害をより防止することができる。また、電極の表面積を増加することができ、より効率的に電気化学反応を促進することができる。
【0015】
(2)前記対極が、前記電圧印加手段と接続する軸部と、該軸部と電気的に接続し、複数の貫通孔が形成された平板部とを有する電極であり、且つ前記対極が、前記軸部を中心に回転する回転手段を備える。対極も複数の貫通孔が形成された平板部を有する電極とし、それを回転させることにより、対極槽における液体の流れの阻害も防止し、対極における電気化学反応も促進させることができ、より効率的に電気培養を実施することができる。また、作用極と対極の距離の変化率を高めることができ、多様な培養液中の栄養塩の酸化還元電位に対応できる。
【0016】
(3)前記対極の平板部が、メッシュ状の平板である。対極槽における水の流れの阻害をより防止することができる。また、電極の表面積を増加することができ、より効率的に電気化学反応を促進することができる。
【0017】
(4)前記回転手段により前記作用極を回転させたとき、前記作用極の最も対極に近い部分と前記対極の最も作用極に近い部分との距離(d)の最大値(d
max)が、距離(d)の最小値(d
min)の1.5倍以上になるように、前記作用極及び前記対極が設置されている。作用極と対極の距離(電極間の距離)の周期的な変化がより大きくなり、より多様な培養液中の栄養塩の酸化還元電位に対応できる。
【0018】
(5)微生物の培養中に、培養された微生物を含む培養液を排出する排出手段、及び排出された前記培養液の量に応じて、新たに培養液を供給する供給手段を更に備える。一定の微生物濃度で連続培養することができ、より効率的な微生物生産を実施することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電気培養装置によれば、作用極の複数の貫通孔が形成された平板部が回転することで、培養槽における培養液の流れの阻害を防止すると共に、培養液の撹拌を促進することができるので、栄養塩と作用極による電気化学反応が促進され、且つ、金属酸化物の付着を防止することができる。また、作用極と対極の距離(電極間の距離)が周期的に変化することになるため、培養液中の栄養塩の酸化還元電位に係らず、電極間の距離が周期的に好適な範囲に調節されることになり、複雑な酸化還元電位の制御を行わなくても電気培養を効率よく実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の電気培養装置の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明の電気培養装置の作用極の一例を示す概略図である。
【
図3】本発明の電気培養装置の好適態様の一例を示す概略図である。
【
図4】本発明の電気培養装置の作用極と対極との距離を説明するための概略図である。
【
図5】本発明の電気培養装置による微生物の培養例の増殖曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の電気培養装置の一例を示す概略図である。
図1の電気培養装置は、微生物を、栄養塩等を含む培養液で培養するための培養槽10、培養槽10に備えられた培養液に電圧を印加するための作用極11、培養槽10とイオン交換膜21によって仕切られた連通部20を介して接続された対極槽30、対極槽30に備えられた対極31、及び作用極11と対極31との間に電圧を印加する電圧印加手段として電位制御装置40を有する。作用極11は電位制御装置40に接続する軸部12、及び軸部12と電気的に接続し、複数の貫通孔(
図1においては、メッシュ状)が形成された平板部13を有する電極である。そして、作用極11は、軸部12に回転手段としてモータ14が接続されており、軸部12を中心に回転するように設置されている。
図1において、矢印により回転方向が示されているが、回転方向は特に制限されず、例えば、
図1の矢印とは逆方向に回転しても良く、周期的に反転するよう設定されていても良い。また、
図1においては作用極11は縦方向に設置されているが、横方向に設置されていても良い。
【0022】
培養槽10には、通気装置15が設置されており、好気性微生物の場合は、例えば、コンプレッサー等から空気を矢印方向に送り込み、培養液中に空気を供給する。これにより、培養液に微生物の増殖に必要な酸素や二酸化炭素を供給することができる。通気装置15に酸素ボンベや二酸化炭素ボンベ等を接続しても良い。なお、培養槽10には必要に応じて、pH電極、溶存酸素計、酸化還元電位計、撹拌機等の通常の培養装置に設置される装置を設置しても良い(図示していない)。
【0023】
電気培養では、例えば、2価鉄イオン(Fe
2+)を栄養塩として生育する鉄酸化細菌の場合は、(i)鉄酸化細菌がFe
2+から電子の供与を受け、微生物内の酸化還元反応に利用するとともに、3価鉄イオン(Fe
3+)へ酸化し、(ii)そのFe
3+が作用極において電子を受容してFe
2+に還元され、再度細菌の栄養塩となるというサイクルにより鉄酸化細菌が増殖する。この際、イオン交換膜は、鉄イオンが対極層側に流れ込み、対極と接することを防止している。また、作用極に電圧を印加する電位制御装置40はどのようなものを用いても良い。例えばガルバノ・ポテンショメーターを用いることができる。印加電圧は特に制限はなく、培養液の酸化還元電位に応じて調節することができる。
【0024】
電気培養において、栄養塩や微生物と作用極とを効率よく接触させるため、作用極の電極面積が大きくなるように平板電極を用いた場合、培養槽における培養液の流れを阻害したり、結果的に金属酸化物の付着が増加したりする場合がある。本発明においては、上記のような平板部13に複数の貫通孔が形成された電極を用い、その電極が回転することにより培養槽10の培養液の流れを形成し、栄養塩や微生物と作用極11との接触を促進することができるとともに、金属酸化物等の付着を防止することができる。
【0025】
図2に、
図1の電気培養装置で用いられた作用極11を拡大した概略図を示す。作用極11の平板部13は矩形状のメッシュ状である。軸部12と平板部13とは、溶接、はんだ付け、ボルト止め等の方法で電気的に接続されている。軸部12及び平板部13の材質は、通常、電気培養に用いられる電極と同様な安定性の高い材質を用いれば良い。例えば、白金鋼材、白金めっきチタン材等が挙げられる。軸部12の直径(φ)、平板部13の長さ(L)、幅(W)及び厚さ(T)は、培養液中で回転させたときに、変形しないような強度があれば、特に制限はなく、培養槽の大きさに合わせて設計することができる。また、平板部の形状は矩形状でなくても良く、例えば、平面図で円形、楕円形、多角形等でも良い。
【0026】
平板部13は、
図2においては、メッシュ状であるが、複数の貫通孔が形成されていれば良く、例えばパンチングメタル状でも良い。培養槽における培養液の流れを阻害し難く、且つ電極の表面積を増加することができ、より効率的に電気化学反応を促進することができるので、
図2のようなメッシュ状の平板部13が好ましい。メッシュの大きさには特に制限はない。
【0027】
図1においては、対極31は、一般的な棒状電極であるが、
図3に示したように、作用極11と同様な電極であることが好ましい。
図3においては、対極31’は、電位制御装置40に接続する軸部32、及び軸部32と電気的に接続し、複数の貫通孔(
図1においては、メッシュ状)が形成された平板部33を有する電極である。そして、対極31’は軸部32に回転手段としてモータ34が接続されており、軸部12を中心に回転するように設置されている。対極31’の詳細については、上述の作用極11の説明と同様である。作用極11と同様に、複数の貫通孔が形成された平板部33を有する対極31’を用い、これを回転させることにより、対極槽30における液体の流れの阻害も防止し、対極31’における電気化学反応も促進させることができ、より効率的に電気培養を実施することができる。
【0028】
対極31’の平板部33についても、対極槽30における液体の流れの阻害をより防止することができ、電極の表面積を増加することにより、更に効率的に電気化学反応を促進することができるので、作用極11の場合と同様に、メッシュ状の平板であることが好ましい。
【0029】
さらに作用極11の平板部13が回転することによる、もう一つの有利な点として、作用極と対極との距離(電極間の距離)が周期的に変化することが挙げられる。
図4に電極間の距離を説明するための概略図を示す。
図4(a1)は、
図1における作用極11が、回転した場合に、作用極11の最も対極31に近い部分と、対極31の最も作用極11に近い部分との距離(d)が最小値(d
min)となる配置を示し、
図4(a2)は、距離(d)が最大値(d
max)となる配置を示す。このように、電極間の距離が周期的に変化することになるため、培養液中の栄養塩の酸化還元電位に係らず、電極間の距離が周期的に好適な範囲に至ることになる。したがって、複雑な酸化還元電位の制御を行わなくても電気培養を効率よく実施することができる。
【0030】
また、
図4(b1)は、
図2における作用極11が、回転した場合に、作用極11の最も対極31’に近い部分と、対極31’の最も作用極11に近い部分との距離(d)が最小値(d
min)となる配置を示し、
図4(b2)は、距離(d)が最大値(d
max)となる配置を示す。対極31’が回転することで、棒状電極の対極31の場合(
図1、
図4(a1)、(a2))と比較して、距離(d)の最大値(d
max)と最小値(d
min)の差が大きくなり、変化率を高めることができ、より多様な培養液中の栄養塩の酸化還元電位に対応できる。
【0031】
作用極11及び対極31(又は31’)は、距離(d)の最大値(d
max)が、距離(d)の最小値(d
min)の1.5倍以上になるように、設置されていることが好ましい。これにより、作用極と対極の距離(電極間の距離)の周期的な変化がより大きくなり、より多様な培養液中の栄養塩の酸化還元電位に対応することができる。距離(d)の最大値(d
max)は、距離(d)の最小値(d
min)の1.5〜10.0倍がより好ましく、2.0〜5.0倍が更に好ましい。
【0032】
本発明の電気培養装置は、電極への金属酸化物の付着等が防止され、複雑な酸化還元電位の調節が不要なので、培養槽や電極のメンテナンスなしに長期間培養可能であり、特に連続培養システムに好適である。すなわち、本発明の電気培養装置は、微生物の培養中に、培養された微生物を含む培養液を排出する排出手段、及び排出された前記培養液の量に応じて、新たに培養液を供給する供給手段を更に備えることが好ましい。これにより、長期間の培養時間が必要な鉄酸化細菌等の化学的独立栄養細菌等の微生物を、一定の微生物濃度で連続培養することができるので、より効率的な微生物生産を実施することができる。
【0033】
図1又は
図2においては、培養槽10に、微生物を含む培養液を矢印方向に排出するための排出管17、及び新たに培養液を矢印方向に供給するための供給管16が設置されている。排出管17及び供給管16は、それぞれ培養液排出ポンプ及び培養液供給ポンプに接続されている(図示していない)。排出した微生物を含む培養液は、フィルター分離や遠心分離等により培養液を分離し、微生物を回収する。新たに供給する培養液は、培養後の微生物から分離された培養液、及び/又は新鮮な培養液を用いることができる。培養液に用いる栄養塩の使用量を最小限とするため、例えば、培養後の微生物から分離された培養液の栄養塩濃度(例えば、鉄酸化細菌の場合は、2価鉄イオン濃度等)を測定し、不足分を新鮮な培養液を混合したり、栄養塩を添加したりして、新たに供給する培養液とすることができる。このように、本発明の電気培養装置を用いて連続培養を行うことで、有用な微生物を効率よく生産することができる。特に、バイオ水銀浄化システムへ用いることができる鉄酸化細菌を、従来法に比べて効率的に培養できるので、浄化工法が効率的に実施できる。
【実施例】
【0034】
次に本発明を実施例にて具体的に説明する。
【0035】
1.本発明の電気培養装置と従来の電気培養装置の比較
表1及び表2に示した組成の培養液(二価鉄無機塩培地)を、
図3に示した本発明の電気培養装置、及び従来の棒状の作用極を備える電気培養装置に投入し、滅菌した後、鉄酸化細菌(アシディチオバチルス フェロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)MON−1株)を初期微生物数10
6個/mlになるように添加し、電気培養を行った。結果を
図5に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
図5に示したように、本発明の電気培養装置を用いた場合、11日目まで対数的に微生物が増殖したのに対し、従来の電気培養装置では、11日目めで、作用極に錆の沈着が生じ、微生物の増殖が進行しなくなった。したがって、本発明の電気培養装置は、従来の電気培養装置より効率的に電気培養を行うことができることが示された。
【0039】
上記本発明の電気培養装置を用いた培養においては、培養15日目以降、微生物を含む培養液を一部排出し、無菌的に微生物の回収をした後、その培養液を培養槽に戻す(減少分は新鮮な9K基本培地を補う)とともに、培養液の2価鉄濃度を測定し、培養液の2価鉄濃度が2%未満になった場合、2価鉄濃度が3%になるようにFeSO
4・7H
2Oを添加するという連続培養を行い、長期間連続的に微生物を生産することができる。
【0040】
なお、本発明は上記の実施の形態及び実施例の構成に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の電気培養装置により、繁雑な電極のメンテナンスや複雑な酸化還元電位の制御の必要なしに、有用な微生物の大量生産を効率よく実施することができる。
【符号の説明】
【0042】
10 培養槽
11 作用極
12、32 軸部
13、33 平板部
14、34 モータ
15 通気装置
16 供給管
17 排出管
20 連通部
21 イオン交換膜
30 対極槽
31,31’ 対極
40 電位制御装置