(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ロータと該ロータの径方向外側に配置されるステータとを有する電動モータが円筒状のケーシング内に収容され、該電動モータによって駆動され冷媒を圧縮する電動圧縮機であって、
前記ケーシングの内周面に周方向に離間して複数箇所に、径方向内側に突出形成される突出部を備え、
前記各突出部の周方向中央部に、軸方向に延びる溝を配設し、
前記各突出部の突出端面と前記ステータの外周面との当接部を焼嵌めにより固定し、
前記溝は、前記各突出部の前記軸方向の一端側が開放されると共に他端側が閉塞され、前記当接部がU字状に形成されていることを特徴とする、電動圧縮機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の電動圧縮機では、ステータのコイルへの通電により生じる回転磁界により、ステータが振動し、該振動がステータを固定するケーシングに焼嵌め箇所を介して伝達されることによる騒音の発生が問題となる。
このため、上記のようにステータとケーシングとを周方向に断続して焼嵌め部の面積を減少し、ステータからケーシングへの振動伝達低減を図っている。
しかしながら、ステータの保持力を確保するため、各焼嵌め箇所における焼嵌め代を大きく設定すると、焼嵌め当接部に生じる応力が大きくなり焼嵌めに係る部品、特にケーシングの耐久性が低下する。
【0005】
本発明は、このような実情に着目してなされたものであり、ステータを焼嵌めにより保持する焼嵌めに係る部品(ケーシング)の耐久性と、ステータの保持力とを確保できる電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る電動圧縮機は、
ロータと該ロータの径方向外側に配置されるステータとを有する電動モータが円筒状のケーシング内に収容され、該電動モータによって駆動され冷媒を圧縮する電動圧縮機であって、
前記ケーシングの内周面に周方向に離間して複数箇所に、径方向内側に突出形成される突出部を備え、前記各突出部の周方向中央部に、軸方向に延びる溝を配設し、各突出部の突出端面と前記ステータの外周面との当接部を焼嵌めにより固定し
、前記溝は、前記各突出部の前記軸方向の一端側が開放されると共に他端側が閉塞され、前記当接部がU字状に形成されている、構成とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る電動圧縮機によれば、ステータのケーシングへの複数個所の焼嵌め部において、ケーシングの突出部は、周方向両側の端縁部とステータ外周面との接触面圧が増大する。このため、焼嵌め代を増大することなく、ステータの保持力を増大でき、ケーシングなど焼嵌めに係る部品の耐久性とステータの保持力を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る電動圧縮機の断面図であり、
図2は
図1に示すA−A矢視方向から見た正面図である。
本実施形態による電動圧縮機1は、例えば車両用空調装置の冷媒回路に設けられ、当該車両用空調装置の冷媒を吸入し、圧縮して吐出するものであり、電動モータ10と、電動モータ10によって駆動される圧縮機構20と、電動モータ10を駆動するためのインバータ30と、これら電動モータ10、圧縮機構20及びインバータ30を内部に収容するケーシング40と、を有する。
【0010】
本実施形態において、電動圧縮機1は、いわゆるインバータ一体型の圧縮機であり、
図1に示すように、電動モータ10及びインバータ30をその内側に収容する第1ケーシング41と、圧縮機構20をその内側に収容する第2ケーシング42と、インバータカバー43と、圧縮機構カバー44とを有する。そして、これら各ケーシング及びカバー(41,42,43,44)が、ボルトなどの締結手段(図示省略)によって一体的に締結されて電動圧縮機1のケーシング40を構成している。
【0011】
前記第1ケーシング41は、環状の周壁部41aと仕切壁部41bとから構成される。この仕切壁部41bは、第1ケーシング41内を、電動モータ10を収容する空間とインバータ30を収容する空間とに仕切る隔壁をなす。周壁部41aの一端側(
図1中、左側)の開口を介してインバータ30が第1ケーシング41内に収容され、当該開口はインバータカバー43によって閉塞される。また、周壁部41aの他端側(
図1中、右側)の開口を介して電動モータ10が第1ケーシング41内に収容され、当該開口は第2ケーシング42(後述の底壁部42b)によって閉塞される。仕切壁部41bには、その径方向中央部に電動モータ10の後述する回転軸2aの一端部を支持するための筒状の支持部41b1が、周壁部41aの他端側に向って突設されている。
【0012】
また、
図2に示すように、第1ケーシング41の他端側の端部には、第2ケーシング42との締結用の締結部41c(ボス)が周壁部41aの周方向に離間して複数個所(6箇所)に形成されている。
【0013】
また、第1ケーシング41の周壁部にて、周方向に離間し、締結部41cが形成される周方向の角度位置とずらした3箇所に、突出形成される突出部41fを備えている。各突出部41fは、詳しくは、その内周面から径方向内側に向かって、例えば、締結部41cよりも径方向内方に突出して形成されると共に、第1ケーシング41の軸方向に延設されている。
【0014】
より具体的には、
図2に示すように、突出部41fの突出端面(内周面)41f1は電動モータ10のステータ3(詳しくはバックヨーク3a)の外周面の形状と合わせて円弧状に形成され、各突出端面41f1に沿う内径円と締結部41cの内側面との間には隙間がある。
【0015】
図3は、
図2のB−B矢視断面図、
図4は、
図3からステータを除いた状態(第1ケーシング)の断面図、
図5は、ステータと第1ケーシングの分解斜視図、
図6は、ステータを第1ケーシングに収納した状態の斜視図である。
上記
図3〜
図5に示すように、各突出部41fには、周方向中央部に、軸方向の一端側(インバータ30側)から他端部側(圧縮機構20側)に延びる溝41f2を配設する。該溝41f2は、軸方向の一端側が開放され、他端側は閉塞され、突出部41fの軸方向全長の半分程度の長さを有して形成される。これにより、突出部41fの突出端面41f1はU字状となる。
【0016】
突出端面41f1は、溝41f2の軸方向の一端側(インバータ30側)が開放される軸方向の一端部がステータ3の外周面と非当接で露出し、軸方向の他端部(圧縮機構20側)はステータ3の外周面と当接する(
図4に、焼嵌めされるU字状の当接領域をハッチングで示す)。突出端面41f1に沿う内径円の直径が、焼嵌め代を考慮して、焼嵌めされるステータ3外周面の外径より小さくなるように形成されている。
このように、突出部41fの突出端面41f1とステータ3外周面との当接部の焼嵌めを介して、ステータ3がケーシング40(第1ケーシング41)に固定される。
【0017】
前記第2ケーシング42は、第1ケーシング41の端部において周方向に離間して複数個所に形成される締結部41cを介して第1ケーシング41に締結される。第2ケーシング42は、例えば、第1ケーシング41との締結側とは反対側が開口した、一端開口の筒状に形成されており、当該開口を介して圧縮機構20が第2ケーシング42内に収容されるようになっている。第2ケーシング42の開口は、圧縮機構カバー44によって閉塞される。
【0018】
また、第2ケーシング42は、円筒部42aとその一端側の底壁部42bとから構成され、これら円筒部42aと底壁部42bとによって区画される空間内に圧縮機構20が収容される。底壁部42bは、第1ケーシング41内と第2ケーシング42内とを仕切る隔壁をなす。また底壁部42bには、その径方向中央部に電動モータ10の回転軸2aの他端部を挿通させる貫通孔が開設されると共に、この回転軸2aの他端側を支持するベアリング45を嵌合させる嵌合部が形成される。
【0019】
また、図示を省略するが、ケーシング40には、前記冷媒の吸入ポート及び吐出ポートが形成されており、例えば、吸入ポートから吸入される冷媒は第1ケーシング41内を通流した後、第2ケーシング42内に吸入される。これにより、電動モータ10は吸入冷媒により冷却される。
【0020】
前記圧縮機構20は、電動モータ10によって駆動され冷媒を圧縮するものであり、第2ケーシング42内に収容されて、ロータ2の回転軸2aの他端側に配置される。
本実施形態において、圧縮機構20は、スクロール式圧縮機であり、固定スクロール21と、可動スクロール22とを含んで構成される。可動スクロール22が固定スクロール21に対して旋回駆動することにより、冷媒が圧縮される。圧縮機構20にて圧縮された冷媒は、吐出ポートより吐出される。
【0021】
前記電動モータ10は、
図1に示すように、複数の磁極(図示省略)を有するロータ2と、ロータ2の径方向外側に配置される円環状のステータ3と、ステータ3の端部に配置され電気的絶縁性を有するボビン4と、ボビン4及びステータ3に巻回されるコイル5とを含んで構成され、例えば、三相交流モータが適用される。例えば車両のバッテリ(図示省略)からの直流電流は、インバータ30により交流電流に変換されて電動モータ10へ給電されている。
【0022】
本実施形態では、ロータ2には、N極の永久磁石が4個、S極の永久磁石が4個埋設されており、8個の磁極を等間隔に有している。
また、本実施形態において、ステータ3は、
図2に示すように、12個のティース3bと12個のスロット3cを交互に等間隔に有している。
【0023】
ここで、本実施形態に係る8極(磁極)12スロットタイプの電動モータ10において、ステータ3に電磁力が負荷されているときの、ステータ3の変形形状について解析した結果を、
図7を参照して説明する。なお、
図7は、ステータ3のある瞬間における変形形状を示し、その変形をより明確にするために、変形寸法を拡大(誇張)して示している。
【0024】
図7に2点鎖線で示すように、ステータ3は、電磁力が負荷されていないとき、円形の外形をなしている。ステータ3は、電磁力が負荷されると、概略正方形の外形形状をなして変形していることが分かる。また、図示を省略するが、別の瞬間においても、ステータ3は概略正方形の外径形状をなして変形するが、概略正方形の4つの角部Cの位置が電流の位相等に応じてロータ2の回転軸線O周りに同時に移動する。ステータ3は、その材質及び電磁力の大きさ等に応じた振幅rで振動する。
【0025】
次に、本実施形態に係る電動圧縮機1の振動伝達の抑制作用について簡単に説明する。
インバータ30から交流電流が電動モータ10へ給電されると、ステータ3に電磁力が作用する。このとき、ステータ3は、
図7に示すように、概略正方形の外形形状をなして変形して、ステータ3の外周の各ポイントにおいて振幅rで径方向にそれぞれ振動する。この振動は、突出部41fを介して第1ケーシング41に伝達され、その後、周壁部41aの薄肉部を振動させて振動エネルギーを減少させつつ、第1ケーシング41と車両との各固定部に伝達される。しかし、ステータ3の振動によって生じた振動エネルギーは、この振動伝達過程において、十分に低減されているため、各固定部を介して車両へ伝達されるときには、その振動エネルギーは十分に低減されている。
【0026】
3点焼嵌めである本実施形態の電動圧縮機1においては、ある瞬間において、単に、4つの角部Cのうちの1つが3箇所の突出部41f1のうちの1つに重なるだけである。そして、残りの3つの角部Cは、空隙部46(
図1参照)の領域に位置し、第1ケーシング41を振動させることなくフリーな状態となっている。このため、ステータ3で発生する振動のケーシング40への伝達量を抑制することができる。その結果、8極12スロットタイプで3点焼嵌めの電動圧縮機1は、振動伝達を低減させることができる上、ケーシング40の振動による放射音の発生も抑制することができる。
【0027】
一方、上記のように振動伝達低減のため、焼嵌め箇所を最小限の3箇所に設定した場合、焼嵌め箇所を4箇所以上とした場合と比較して、1箇所当たりのステータ3の保持力を大きくする必要がある。焼嵌め代(ステータ3が第1ケーシング41に非収納状態での焼嵌め部におけるステータ3の外径−突出端面41f1の内径)を大きくすると、低温時に焼嵌め代が増大し、焼嵌めにかかる部品、特にケーシング40(第1ケーシング41)に生じる応力が過大となって耐久性が低下することが懸念される。
【0028】
かかる状況を回避するため、本実施形態では、既述したように、各突出部41fの周方向中央部に、軸方向の一端側から他端部側に延びる溝41f2を配設している。
このように、突出部41fに溝41f2を設けたことにより、焼嵌め後、
図8に実線矢印で示すように、突出部41fの溝41f2が形成されて薄肉となる周方向中央部に外径方向に作用する力を生じつつ、溝41f2の両側部分は周方向両外側に引張り力を生じる。この結果、
図8に点線矢印で示すように、突出部41fの周方向両側の端縁部が溝41f2部を中心として内側に折れ曲がる方向のモーメント力を生じる。これにより、突出端面41f1の周方向両側の端縁部とステータ3外周面との接触面圧が増大する。
【0029】
図9は、溝41f2を形成した突出端面41f1の面圧分布を示したもので、ステータ3の保持に有効に作用する所定以上の面圧を有した有効面圧領域を図で濃く示してある。溝を有しない場合、一点鎖線の外側が突出端面の有効面圧領域となり、溝41f2を設けることにより、有効面圧領域が拡大し、特に、突出端面41f1の溝41f2が開放された側の両側端縁部において、有効面圧領域を大きく拡大できることが確認された。
なお、突出端面41f1の軸方向の他端部(圧縮機構20側)では、端縁部は外側からの引張力を受けず内側へ変形する力が作用するため、所定以上の面圧領域が確保される。
【0030】
以上のように、各突出部41fの周方向中央部に、軸方向の一端側から他端部側に延びる溝41f2を配設した構成により、焼嵌め代を増大することなく、突出端面41f1とステータ3外周面との焼嵌め部における面圧を増大することができ、焼嵌めにかかる部品、特に第1ケーシング41の耐久性を良好に維持しつつステータ3の保持力を良好に確保することができる。
【0031】
なお、溝41f2の長さを適切に設定することにより、適度に面圧を増大することが可能であるが、例えば、突出部の軸方向両端を貫いて溝を形成した場合は、溝の両側に2つの突出部が分離されてしまい、上記作用(溝を中心として内側に折れ曲がる方向のモーメント力の発生)は得られない。
また、溝を両端部とも閉塞して形成した場合は、一端のみ開放した溝41f2と同様の作用をある程度以上得ることは可能であろうが、溝を鋳抜きで形成することが難しく、別途、切削加工が必要となる。
【0032】
したがって、本実施形態のように、一端部は開放し他端部は閉塞した溝41f2を形成して、焼嵌め部の当接領域をU字状とすることが、機能的に優れ、製造上も有利である。
また、本実施形態は、8極(磁極)12スロットタイプの電動モータ10において、ステータ3からケーシング40への振動伝達低減のため、焼嵌め箇所を3箇所に減らしたものに適用したため、振動伝達低減効果も良好に維持できる。この他、6極(磁極)9スロットタイプの電動モータにおいて、焼嵌め箇所を4箇所に減らしたものにも適用できる。
【0033】
ただし、本願発明は、電動モータの磁極の数,スロットの数によらず、焼嵌め代の増大を抑制しつつ焼嵌め部の面圧を増大させて、ケーシングなど焼嵌めに係る部品の耐久性を良好に維持しつつステータ保持力を確保することができるという効果が得られる。
【0034】
また、電動圧縮機1の圧縮機構20としては、スクロール式圧縮機を用いた場合で説明したが、これに限らず、斜板式圧縮機等の適宜形式の電動圧縮機を用いることができる。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形及び変更が可能である。