(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
示差走査熱量計(DSC)により測定した融点(Tm1)が50℃以上240℃未満であり、平均粒径0.2mm〜2.5mmである、炭素数2〜18のα−オレフィンから選ばれる1種または2種以上のα−オレフィンが(共)重合された(共)重合体粒子(A)に対して、
エチレン性不飽和基と極性官能基を同一分子内に有する単量体(B)と、
有機過酸化物(C)と、
有機溶媒(D)と、
の3者を該(共)重合体粒子(A)が固体の状態で含浸させ、該融点(Tm1)以下の温度でグラフト反応させることにより、粗変性ポリオレフィン粒子(E)を得る工程(1)と、
ジアルキルケトンのみからなる溶媒中、0℃〜〔該融点(Tm1)−50〕℃の温度範囲にて、工程(1)で得られた該粗変性ポリオレフィン粒子(E)を撹拌して、以下の関係式〔1〕および〔2〕を満たす変性ポリオレフィン粒子(F)を得る工程(2)を含む、
変性ポリオレフィン粒子(F)の製造方法。
(x−X)×100/x≦2・・・〔1〕
log10〔η〕≧0.1−0.15X・・・〔2〕
(式〔1〕および〔2〕において、Xは、粗変性ポリオレフィン粒子(E)1gを熱キシレン約50ml中で溶解させたあと冷却し、アセトンを加えることで析出させた変性ポリオレフィン中に含まれる単量体(B)に由来する極性基部の含有量(重量%)を、xは、上記工程(2)を経て得られる変性ポリオレフィン粒子(F)に含まれる単量体(B)に由来する極性基部の含有量(重量%)である。また、〔η〕は、135℃デカリン中で測定した、変性ポリオレフィン粒子(F)の極限粘度(dl/g)である)。
前記有機過酸化物(C)が、分子量が150以下の脂肪族アルコキシラジカル部位を構成部位として含む有機過酸化物である、請求項1に記載の変性ポリオレフィン粒子(F)の製造方法。
前記有機過酸化物(C)が、分子量が150以下の脂肪族アルコキシラジカル部位および分子量が250以下の芳香環含有化合物ラジカル部位を構成部位として含む有機過酸化物である、請求項1に記載の変性ポリオレフィン粒子(F)の製造方法。
前記有機溶媒(D)の大気圧における沸点が、〔前記融点(Tm1)−10〕℃以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の変性ポリオレフィン粒子(F)の製造方法。
示差走査熱量計(DSC)により測定した融点(Tm1)が50℃以上240℃未満であり、平均粒径0.2mm〜2.5mmである、炭素数2〜18のα−オレフィンから選ばれる1種または2種以上のα−オレフィンが(共)重合された(共)重合体粒子(A)に対して、
エチレン性不飽和基と極性官能基を同一分子内に有する単量体(B)と、
有機過酸化物(C)と、
有機溶媒(D)と、
の3者を該(共)重合体粒子(A)が固体の状態で含浸させ、該融点(Tm1)以下の温度でグラフト反応させることにより、粗変性ポリオレフィン粒子(E)を得る工程(1)と、
ジアルキルケトンのみからなる溶媒中、0℃〜〔該融点(Tm1)−50〕℃の温度範囲にて、工程(1)で得られた該粗変性ポリオレフィン粒子(E)を撹拌して、以下の関係式〔1〕および〔2〕を満たす変性ポリオレフィン粒子(F)を得る工程(2)を含む、
変性ポリオレフィン粒子(F)の精製方法。
(x−X)×100/x≦2・・・〔1〕
log10〔η〕≧0.1−0.15X・・・〔2〕
(式〔1〕および〔2〕において、Xは、粗変性ポリオレフィン粒子(E)1gを熱キシレン約50ml中で溶解させたあと冷却し、アセトンを加えることで析出させた変性ポリオレフィン中に含まれる単量体(B)に由来する極性基部の含有量(重量%)を、xは、上記工程(2)を経て得られる変性ポリオレフィン粒子(F)に含まれる単量体(B)に由来する極性基部の含有量(重量%)である。また、〔η〕は、135℃デカリン中で測定した、変性ポリオレフィン粒子(F)の極限粘度(dl/g)である)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の変性ポリオレフィン粒子(F)の製造方法および精製方法は、特定の固相法で得られた粗変性ポリオレフィン粒子(E)を得る工程(1)と、特定の条件下で、該変性ポリオレフィン粒子(E)を精製して、変性ポリオレフィン粒子(F)を得る工程(2)を含む。以下に本発明を詳細に説明する。 なお、本明細書において、単独重合体および共重合体を包括する概念として、単に「重合体」または「(共)重合体」という語が用いられることがある。
【0016】
〔粗変性ポリオレフィン粒子(E)を得る工程(1)〕
粗変性ポリオレフィン粒子(E)を得る工程(1)は、(共)重合体粒子(A)に対して、エチレン性不飽和基と極性官能基を同一分子内に有する単量体(B)と、有機過酸化物(C)と、有機溶媒(D)と、の3者を該(共)重合体粒子(A)が固体の状態で含浸させ、該融点(Tm1)以下の温度でグラフト反応させる工程を含む。
【0017】
<(共)重合体粒子(A)>
(共)重合体粒子(A)は、炭素数2〜18のα−オレフィンから選ばれる1種または2種以上のα−オレフィンが(共)重合されてなる。なお、本明細書においては、以後、(共)重合体粒子(A)のことを、単に「ポリオレフィン粒子(A)」ということがある。
【0018】
具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、2−メチルブテン−1、3−メチルブテン−1、ヘキセン−1、3−メチルペンテン−1、4−メチルペンテン−1、3,3−ジメチルブテン−1、ヘプテン−1、メチルヘキセン−1、ジメチルペンテン−1、トリメチルブテン−1、エチルペンテン−1、オクテン−1、メチルペンテン−1、ジメチルヘキセン−1、トリメチルペンテン−1、エチルヘキセン−1、メチルエチルペンテン−1、ジエチルブテン−1、プロピルペンテン−1、デセン−1、メチルノネン−1、ジメチルオクテン−1、トリメチルヘプテン−1、エチルオクテン−1、メチルエチルヘプテン−1、ジエチルヘキセン−1、ドデセン−1およびヘキサドデセン−1等のα−オレフィンの単独重合体、あるいは、2種以上の共重合体を挙げることができる。これらの中でも、耐熱性、機械特性のバランスから、プロピレンを主成分とする重合体が好ましく、その中でも、プロピレンの単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・ブテン−1ランダム共重合体が特に好ましい。
【0019】
粒子(A)の融点(Tm1)は、50℃以上240℃未満であり、好ましくは70〜170℃である。該融点が上記範囲にあることは、工程(2)における重合体粒子の形状保持の点から、好ましい。該融点は、該粒子を、示差走査熱量計(DSC)において10℃/分の昇温速度で測定した融点である。
粒子(A)の平均粒径は、0.2mm以上2.5mm以下であり、好ましくは、0.3mm以上1.5mm以下である。
【0020】
ここで、本発明において、平均粒径は、レーザー光回折散乱法(平均粒径1mm未満の場合)、または篩を用いた分級法(平均粒径1mm以上の場合)による平均粒径を意味する。本発明に係る粒子(A)は、上記のような平均粒径を有することで、溶媒浸透性が向上し、混合溶媒を用いることなく、ジアルキルケトン類の単独組成の溶媒で、比較的低温の条件で、未反応のグラフトモノマーや副反応生成物を、さらに効率よく除去することが可能になる。
【0021】
<エチレン性不飽和基と極性官能基を同一分子内に有する単量体(B)>
粗変性ポリオレフィン粒子(E)には、粒子(A)にエチレン性不飽和基と極性官能基を同一分子内に有する単量体がグラフトされた状態で含まれている。具体的には、粒子(E)は、上記粒子(A)を構成するポリオレフィン鎖に対して、エチレン性不飽和基と極性官能基を同一分子内に有する単量体由来の繰り返し単位が導入された構造を有する。
【0022】
単量体(B)としては、不飽和カルボン酸、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、ナジック酸、エンドシス−ビシクロ[2,2,1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸、
不飽和カルボン酸無水物、たとえば、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、
酸ハライド、たとえば、塩化マレニル、
アミド、イミド、エステル等、例えば、アクリルアミド、マレニルイミド、グリシジルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル等が好適に挙げられる。
【0023】
これらの中では、不飽和ジカルボン酸またはその酸無水物が好ましく、特にマレイン酸、ナジック酸またはこれらの酸無水物が好適である。
これらのエチレン性不飽和基と極性官能基を同一分子内に有する単量体は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、無水マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸を使用することが好ましい。
【0024】
なお、本明細書においては、以後、エチレン性不飽和基と極性官能基を同一分子内に有する単量体を、単に、「グラフトモノマー」ということがある。
単量体(B)の使用量は、ポリオレフィン粒子(A)100重量部に対して、通常は0.01〜50重量部、好ましくは1〜20重量部の量である。
【0025】
<有機過酸化物(C)>
本発明に係る(共)重合体粒子(A)が好適にグラフトされ、粗変性ポリオレフィン粒子(E)が得られる限り、どのような有機過酸化物をラジカル開始剤として用いても良い。本発明に係る粗変性ポリオレフィン粒子(E)は、有機過酸化物(C)および有機溶媒(D)の存在下で、(共)重合体粒子(A)に単量体(B)をグラフト反応させることにより得られる。
【0026】
ラジカル開始剤として、熱分解によって分子量150以下のアルコキシラジカルを発生させる有機過酸化物、より具体的には、分子量が150以下の脂肪族アルコキシラジカル部位を構成部位として含む有機過酸化物が好ましく、分子量が110以下の脂肪族アルコキシラジカル部位を構成部位として含む有機過酸化物がより好ましく用いられる。また、分子量が150以下の脂肪族アルコキシラジカル部位および分子量が250以下の芳香環含有化合物ラジカル部位を構成部位として含む有機過酸化物も好ましく用いられる。有機過酸化物の熱分解により発生したラジカルは、(共)重合体(A)の水素を引き抜くことにより、(共)重合体(A)の分子鎖上に新たにラジカルを発生し、グラフト反応の起点となる。なお、本発明において「ラジカル部位」とは分子の部分構造を示す用語であり、反応中間体や実在する分子種を示す用語「ラジカル」とは区別して用いられる。
【0027】
このような有機過酸化物の例としては、
ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネートなど、n−プロピルオキシラジカル部位(分子量59)を構成部位として含む有機過酸化物;
ジイソプロピルパーオキシジカーボネートなど、イソプロピルオキシラジカル部位(分子量59)を構成部位として含む有機過酸化物;
ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネートなど、sec−ブチルオキシラジカル部位(分子量73)を構成部位として含む有機過酸化物;
t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ジ(4,4−ジ−(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ-3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシイソノナノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ジ−(t−ブチルパーオキシ)バレエート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、エチル−3,3−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブチレート、1,3−ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなど、t−ブチルオキシラジカル部位(分子量73)を構成部位として含む有機過酸化物;
t−アミルパーオキシネオデカノエート、t−アミルパーオキシピバレート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1−ジ(t−アミルパーオキシ)シクロヘキサン、t−アミルパーオキシイソノナノエート、t−アミルパーオキシノルマルオクトエート、t−アミルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−アミルパーオキシアセテート、t−アミルパーオキシベンゾエート、ジ−t−アミルパーオキサイド、t−アミルハイドロパーオキサイドなど、t−アミルオキシラジカル部位(分子量87)を構成部位として含む有機過酸化物;
t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ヘキシルパーオキサイドなど、t−ヘキシルオキシラジカル部位(分子量101)を構成部位として含む有機過酸化物
が挙げられる。これらのうちでも、t−ブチルオキシラジカル部位を構成部位として含む有機過酸化物、イソプロピルオキシラジカル部位を構成部位として含む有機過酸化物が好ましく、t−ブチルオキシラジカル部位を構成部位として含む有機過酸化物が特に好ましい。
【0028】
このように、本発明においては、「分子量が150以下の脂肪族アルコキシラジカル部位を構成部位として含む有機過酸化物」のうち、上記に例示したような、脂肪族アルコキシラジカル部位として芳香環を含まないアルコキシラジカル部位を有する有機過酸化物を特に好適に用いることができる。ただ、このことは、本発明において、「分子量が150以下の脂肪族アルコキシラジカル部位を構成部位として含む有機過酸化物」のうち、脂肪族アルコキシラジカル部位として芳香環を含むアルコキシラジカル部位を有する有機過酸化物を使用することを排除するものではない。そのような有機過酸化物の例として、ジクミルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエートなど、クミルオキシラジカル部位(分子量135)を構成部位として含む有機過酸化物を挙げることができる。
【0029】
このような有機過酸化物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
ここで、該有機過酸化物は、(共)重合体粒子(A)との相溶性の観点から、分子式中に、後述する分子量が250以下の芳香環含有化合物ラジカル部位を除く、分子量が150より大きいラジカル部位、例えば下記構造式(1)や構造式(2)で示されるようなラジカル部位を含まないような有機過酸化物がより好ましい〔なお式(1)におけるR
1は、分子量107以上の炭化水素基を示し、式(2)におけるR
2は、分子量91以上の炭化水素基を示す〕。式(1)および式(2)で表されるラジカル部位としては、各々下記構造式(1')および(2')で表されるラジカル部位を例示することができる。
【0034】
本発明において特に好ましい有機過酸化物は、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートである。このなかでもt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートが特に好ましい。
【0035】
熱分解で発生するラジカルがアルコキシラジカルであり、かつ、該アルコキシラジカルの分子量が150以下であるような有機過酸化物、特に、分子量が150以下、好ましくは110以下の脂肪族アルコキシラジカル部位を構成部位として含む有機過酸化物は、変性前の(共)重合体粒子(A)との相溶性が良好で、かつ、発生するラジカルが低分子量であるために、(共)重合体粒子(A)に含浸させた状態で固相にて反応させる際に、固相内部での拡散が容易であるため、グラフト量を向上させるのみならず、粒子全体に亘っての均一なグラフトを行うために有利であると考えられる。
【0036】
上述したとおり、本発明においては、ラジカル開始剤として、分子量が150以下の脂肪族アルコキシラジカル部位を構成部位として含む有機過酸化物が好ましく用いられる。
本発明の粗変性ポリオレフィン粒子(E)のもう一つの好ましい態様として、分子量が150以下、好ましくは分子量が110以下の脂肪族アルコキシラジカル部位および分子量が250以下の芳香環含有化合物ラジカル部位を構成部位として含む有機過酸化物をラジカル開始剤として用い、該ラジカル開始剤の存在下で上記(共)重合体粒子(A)をグラフト反応させて得られたものが挙げられる。
【0037】
このような有機過酸化物の例としては、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,3−ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−アミルパーオキシベンゾエート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、が挙げられる。このような有機過酸化物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。この中でも、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−アミルパーオキシベンゾエート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエートがより好ましく、t−ブチルパーオキシベンゾエートが特に好ましい。
【0038】
分子量が150以下の脂肪族アルコキシラジカル部位および分子量が250以下の芳香環含有化合物ラジカル部位を構成部位として含む有機過酸化物は、変性前の(共)重合体粒子(A)との相溶性が良好で、かつ、発生するラジカルが低分子量であるために、(共)重合体粒子(A)に含浸させた状態で固相にて反応させる際に、固相内部での拡散が容易であるため、グラフト量を向上させるのみならず、粒子全体に亘っての均一なグラフトを行うために有利であると考えられる。
【0039】
また、本発明においては、分子量が150以下の脂肪族アルコキシラジカル部位と、分子量が250以下の芳香環含有化合物ラジカル部位とを別々の構成部位として含む有機過酸化物のほか、例えばクミルオキシラジカル部位(分子量135)のように、分子量が150以下、好ましくは分子量が110以下の脂肪族アルコキシラジカル部位であると同時に、分子量が250以下の芳香環含有化合物ラジカル部位でもあるラジカル部位を有する有機過酸化物を、ラジカル開始剤として用いてもよい。本発明に係る粗変性ポリオレフィン粒子では、このような有機過酸化物をラジカル開始剤として用いた場合もまた、好ましい態様となり得る。このような有機過酸化物の例として、ジクミルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエートなどを挙げることができる。このような有機過酸化物を用いた場合でも、分子量が150以下の脂肪族アルコキシラジカル部位および分子量が250以下の芳香環含有化合物ラジカル部位を構成部位として含む有機過酸化物と同様の効果を得ることができる。
【0040】
有機過酸化物の使用量は、グラフト反応に用いられる(共)重合体粒子100重量部に対して、通常は、0.01〜30重量部、好ましくは1〜20重量部、更に好ましくは2〜15重量部の量である。
【0041】
<有機溶媒(D)>
グラフト反応に用いられる有機溶媒としては、ポリオレフィン粒子(A)の非晶性オレフィン重合体部に対して膨潤性を示す溶媒、すなわち膨潤溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒として膨潤溶媒を使用することにより、上記単量体(B)、並びに、有機過酸化物(C)がポリオレフィン粒子(A)の内部にまで良好に侵入するので、ポリオレフィン粒子(A)の内部まで均一に変性を行うことが可能となる。
【0042】
このような膨潤溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素系溶媒、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン等の脂環族炭化水素系溶媒、クロルベンゼン、ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロルエチレン等の塩素化炭化水素系溶媒を挙げることができる。これらのうち、トルエンおよび塩化ベンゼンが好ましい。
以上のような膨潤溶媒は、1種単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を組み合わせたものであっても良い。
【0043】
ここで、グラフト反応に用いられる有機溶媒として、上記の膨潤溶媒に、貧溶媒を適当量混合したものを使うことも可能である。貧溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エーテル、ジメチルフタレート等のエステル系溶媒、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジ−n−アミルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキシアニソール等のエーテル系溶媒を挙げることができる。この貧溶媒の量は、膨潤溶媒100重量部に対して例えば0.1〜100重量部とすることができる。
【0044】
上記の膨潤溶媒と貧溶媒を混合した有機溶媒は、上述のように使用されるポリオレフィン粒子(A)と接触した場合に、該ポリオレフィン粒子(A)、特に重合体粒子の非晶性オレフィン重合体部を膨潤させて変性剤およびラジカル開始剤が該粒子内に侵入しやすくする役割を果たしている。
【0045】
上記のような膨潤溶媒を用いる場合、膨潤溶媒は、ポリオレフィン粒子(A)100重量部に対して通常は、5〜50重量部、好ましくは12〜40重量部の量で使用される。
さらに、本発明において、上記有機溶媒は、大気圧における沸点が、ポリオレフィン粒子(A)を構成するポリオレフィン樹脂の示差走査熱分析において10℃/分の昇温速度で測定した融点をTm1としたときに、((Tm1)−10)℃以下であることが好ましい。このような沸点の有機溶媒は、グラフト反応の温度において、分子の運動性が良好なため、膨潤効果が更に良好である。
【0046】
<工程(1)>
工程(1)において、ポリオレフィン粒子(A)と、単量体(B)と、有機過酸化物(C)との接触方法および接触順序については、特に制限はなく、種々の方法を採用することができる。
【0047】
上記のような成分の接触順序あるいは接触方法の例としては、以下のものが挙げられる。なお、ポリオレフィン粒子は(共)重合体粒子(A)を、単量体は単量体(B)を、有機過酸化物は、有機過酸化物(C)を、有機溶媒は有機溶媒(D)をそれぞれ指す。
【0048】
(p1)ポリオレフィン粒子と単量体と有機過酸化物と有機溶媒とを混合して混合物とし、その後、この混合物を反応させる方法;
(p2)ポリオレフィン粒子と単量体と有機溶媒とを予め昇温状態で混合して原料混合物とし、この原料混合物を一旦冷却した後に、有機過酸化物をさらに混合し、これらを反応させる方法;
(p3)ポリオレフィン粒子と単量体と有機溶媒とを混合して原料混合物とし、ついでこの原料混合物を加熱するなどすることにより、この原料混合物を反応が実質的に進行しうる状態に導いた後、有機過酸化物をさらに配合し、これらを反応させる方法;
(p4)ポリオレフィン粒子と有機過酸化物と有機溶媒とを混合して原料混合物とし、ついでこの原料混合物を加熱するなどすることにより、この原料混合物を反応が実質的に進行しうる状態に導いた後、単量体をさらに配合し、これらを反応させる方法;
(p5)ポリオレフィン粒子を、加熱するなどすることにより反応が実質的に進行しうる状態に導いた後、このポリオレフィン粒子に対して、下記(s5a)〜(s5d)のうちのいずれかの工程を行う方法:
(s5a)単量体、有機過酸化物、および有機溶媒を同時に混合して、これらを反応させる工程、
(s5b)単量体、有機過酸化物、および有機溶媒の各成分を任意の量に分割したうえで、各成分を、分割した量ごとに同時に混合して、これらを反応させる工程、
(s5c)単量体、有機過酸化物、および有機溶媒のうち、任意の1成分、または2成分を先行して、該成分の所定量を一度に、あるいは分割して混合したあとに、残りの2成分、または1成分を、該成分の所定量を一度に、あるいは分割して混合した後に、これらを反応させる工程、
(s5d)単量体、有機過酸化物、および有機溶媒を1成分ずつ、任意の順序で混合した後に、これらを反応させる工程;
(p6)ポリオレフィン粒子を、加熱するなどすることにより反応が実質的に進行しうる状態に導いた後、このポリオレフィン粒子に対して、下記(s6a)または(s6b)の工程を行う方法:
(s6a)単量体の有機溶媒溶液、および、有機過酸化物の有機溶媒溶液を同時に、低速で連続的に供給し、反応させる工程、
(s6b)単量体の有機溶媒溶液、および、有機過酸化物の有機溶媒溶液の任意の何れかを先行して、低速で連続的に供給した後、他方の有機溶媒溶液を低速で連続的に供給して反応させる工程、
(p7)ポリオレフィン粒子と有機過酸化物と有機溶媒を混合して混合物とし、この混合物を加熱しながら気体状態の単量体に接触させて、反応させる方法。
【0049】
グラフト反応は、有機過酸化物(C)を開始剤として、該(共)重合体粒子(A)の融点(Tm1)以下の温度で行う。このグラフト反応は、有機溶媒(D)の存在下で行う。
また、グラフト反応は、ポリオレフィン粒子が固体状態の粒子形状を実質的に維持する範囲の温度で行われる。すなわち、本発明においては、ポリオレフィン粒子が溶融して粒子同士が互いに融着しない温度以下の温度で変性反応を行う。一般にこのような状態で変性を行うことができる温度は、ポリオレフィンの種類によって異なるが、一般的には、ポリオレフィン粒子を構成するポリオレフィン樹脂の示差走査熱分析において10℃/分の昇温速度で測定した融点をTmとしたときに、(Tm−10)℃〜(Tm−40)℃の温度範囲が好適に挙げられ、これは、あらかじめ実験的に知ることができる。
【0050】
ポリオレフィン粒子を構成するポリオレフィン樹脂の変性温度の上限例を示せば、ポリ−4−メチルペンテン−1を主成分とするポリオレフィン粒子(示差走査熱分析において10℃/分の昇温速度で測定した融点=220〜230℃)の変性温度の上限は200℃前後であり、ポリプロピレンを主成分とするポリオレフィン粒子(示差走査熱分析において10℃/分の昇温速度で測定した融点=約160℃)の上限は150℃前後であり、高密度ポリエチレンを主成分とするポリオレフィン粒子(示差走査熱分析において10℃/分の昇温速度で測定した融点=125〜135℃)の上限は115℃前後であり、低密度ポリエチレン(示差走査熱分析において10℃/分の昇温速度で測定した融点=100〜120℃)を主成分とするポリオレフィン粒子の変性温度の上限は90℃前後である。
【0051】
グラフト反応の温度は、上記の条件を満たす限りにおいては、できるだけ高い温度であることが、単量体、有機過酸化物およびその熱分解で発生するラジカルのポリオレフィン粒子内への拡散、均一含浸のために好ましい。この点からは、グラフト反応の温度を、反応溶媒として用いる有機溶媒(D)の沸点以上の温度とすることが好ましい。
【0052】
具体的には、ポリオレフィン粒子を構成するポリオレフィン樹脂の示差走査熱分析において10℃/分の昇温速度で測定した融点をTmとしたときに、大気圧における沸点が(Tm−10)℃よりも低い有機溶媒の、該沸点以上の温度とすることが好ましい。
【0053】
上記のようなグラフト反応は、ポリオレフィン粒子の混合および加熱が可能な装置であれば特に制限なく使用することができる。例えば縦型および横型のいずれの反応器であっても使用することができる。具体的には、流動床、移動床、ループリアクター、攪拌翼付横置反応器、攪拌翼付縦置反応器、回転ドラム、等を挙げることができる。
【0054】
ただし、反応途上における有機溶媒の揮散を防止するために、反応は密閉状態で行うことが好ましい。この点、グラフト化反応をオートクレーブ内で行うことが好ましい。
上記のようなグラフト反応のための反応時間は、反応温度や用いる有機過酸化物の分解反応の半減期等の条件を考慮して適宜設定することができる。通常は、反応温度における有機過酸化物の分解半減期の3〜10倍、好ましくは4〜6倍である。具体的には、通常は、1/60〜20時間、好ましくは0.5〜15時間である。
【0055】
<粗変性ポリオレフィン粒子(E)>
工程(1)にて得られた粗変性ポリオレフィン粒子(E)は、通常、未反応のグラフトモノマーや反応副生成物を含んでおり、極性物質との接着性能を低下させるなどの問題を引き起こすおそれがある。そこで、本発明では、これらの未反応のグラフトモノマーや反応副生成物を効率良く除去するため、次の工程(2)が好適に用いられる。
【0056】
本発明の製造方法および精製方法では、このような反応副生成物や分解物を工程に除去できる。
なお、粗変性ポリオレフィン粒子(E)の形状などは、変性ポリオレフィン粒子(F)と同等である。
【0057】
〔変性ポリオレフィン粒子(F)を得る工程(2)〕
本発明の変性ポリオレフィン粒子(F)を得る工程(2)は、ジアルキルケトンのみからなる溶媒中、0℃〜〔融点(Tm1)−50〕℃の温度範囲にて、工程(1)で得られた該粗変性ポリオレフィン粒子(E)を撹拌して、粒子(F)を得る工程を含む。
【0058】
本発明の工程(2)が、固相法で得られた変性ポリオレフィン粒子に特に好ましく適用される理由は、必ずしも明らかではないが、本発明者らは、固相法で得られた変性ポリオレフィン粒子の場合、副生成物としては、未反応のグラフトモノマー由来の単独重合体が生成しやすく、このような単独重合体を抽出除去するために、適度な極性を有するジアルキルケトンのみからなる溶媒を用いることが有効であるためと推測している。
【0059】
ジアルキルケトンのみからなる溶媒は、粒子(F)に含まれる未反応のグラフトモノマーや副反応生成物を除去する溶媒として用いられる。ジアルキルケトンの例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、シクロヘキサノンなどを挙げることができる。これらのジアルキルケトンは、単独で、または、2種以上を混合して用いることができる。この中でも、未反応のグラフトモノマーや副反応生成物の除去効率の点から、アセトンが好ましい。
【0060】
ジアルキルケトンのみからなる溶媒は、本発明の効果を奏する限り、安定剤や酸化防止剤などの添加剤が含まれていてもよく、また、不可避的不純物が含まれていてもよい。
ジアルキルケトンのみからなる溶媒の使用量に特に限定されないが、通常は、粗変性ポリオレフィン粒子(E)100重量部に対して、50〜1000重量部、好ましくは100〜500重量部、さらに好ましくは200〜400重量部である。
【0061】
撹拌は、通常、0℃から〔粒子(A)の融点(Tm1)−50℃〕の温度範囲、好ましくは、20℃から〔粒子(A)融点(Tm1)−55℃〕の温度範囲、より好ましくは、50℃から〔粒子(A)融点(Tm1)−55℃〕の温度範囲で行う。該範囲にすることで、粒子の凝集を防止し、かつ、グラフトモノマー由来の単独重合体などの副生成物を効率よく抽出除去した変性ポリオレフィン粒子が得られる。
【0062】
加熱は、粗変性ポリオレフィン粒子(E)が固体状態の粒子形状を実質的に維持する範囲の温度で行われることが、加熱処理後に変性ポリオレフィン粒子(F)を分離回収する際の作業性の観点から好ましい。
【0063】
また、該温度範囲において、好ましくは加熱処理条件下で、用いる装置としては、粒子(E)とジアルキルケトンのみからなる溶媒の混合および加熱が可能であれば特に制限なく使用することができる。例えば縦型および横型のいずれの反応器であっても使用することができる。具体的には、流動床、移動床、ループリアクター、攪拌翼付横置反応器、攪拌翼付縦置反応器、回転ドラム、等を挙げることができる。
【0064】
ここで、加熱温度が、ジアルキルケトンのみからなる溶媒の大気圧における沸点よりも高く設定する場合は、ジアルキルケトン溶媒の揮散を防止するために、密閉状態で行うことが好ましい。この点、加熱処理はオートクレーブ内で行うことが好ましい。
【0065】
<変性ポリオレフィン粒子(F)>
本発明の製造方法および精製方法で得られた変性ポリオレフィン粒子(F)は、以下の関係式〔1〕を満たす。
(x−X)×100/x≦2・・・〔1〕
式〔1〕において、Xは、粗変性ポリオレフィン粒子(E)1gを熱キシレン約50ml中で溶解させたあと冷却し、アセトンを加えることで析出させた変性ポリオレフィン中に含まれる単量体(B)に由来する極性基部の含有量(重量%)を、xは、該工程(2)を経て得られる変性ポリオレフィン粒子(F)に含まれる単量体(B)に由来する極性基部の含有量(重量%)である。なお、用いるキシレンは、粗変性ポリオレフィン粒子(E)を溶解できるものであれば、安定剤などの添加剤が含まれていてもよい。また、用いるキシレンは、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンが任意に混合した混合物であってよく、エチルベンゼンを含んでいてもよい。同様に、アセトンも粒子を析出させることが出来れば、安定剤などの添加剤や不純物が含まれていてもよい。また、冷却は、通常10〜60℃の範囲である。単量体(B)に由来する極性基部の含有量は、種々公知の方法により定量でき、たとえば、FT−IR、NMR、MSなどを用いて定量することができる。なお、詳細な測定条件の例として、実施例を参照できる。
【0066】
該関係式〔1〕が2を超えると、変性ポリオレフィン粒子(F)の臭気の原因、成形時の金型腐食、成形時の悪臭の原因になり易い。この値は、好ましくは1以下である。
ここで、含有量[x]とは、具体的には、含有量[X]と、未反応の単量体に由来する極性基部の含有量との合計の含有量である。
【0067】
即ち、上記の関係式は、変性ポリオレフィン粒子(F)中に含まれる未反応の単量体に由来する極性基部の割合を示している。従って、この値が小さいほど、未反応の単量体あるいは単量体の単独重合体などの含有量が少ないことを意味する。したがって、下限値としては、0が最も好ましい。
【0068】
上記含有量[X]は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、通常0.5重量%以上、好ましくは1.0重量%以上、より好ましくは1.4重量%以上である。含有量(X)の量に上限はないが、20重量%を超えると一般的には、未変性のポリオレフィンとの相溶性が悪化する傾向にあるので、20重量%を超えないことが好ましい。
【0069】
また、変性ポリオレフィン粒子(F)は、以下の関係式〔2〕も同時に満たす。
log
10〔η〕≧0.1−0.15X・・・〔2〕
式〔2〕において、Xは、粗変性ポリオレフィン粒子(E)1gを熱キシレン約50ml中で溶解させたあと冷却し、アセトンを加えることで析出させた変性ポリオレフィン中に含まれる単量体(B)に由来する極性基部の含有量(重量%)である。なお、溶媒および測定条件の詳細については、上記関係式〔1〕を参照でき、詳細な測定条件の例としては、実施例を参照できる。また、〔η〕は、135℃デカリン中で測定した、変性ポリオレフィン粒子(F)の極限粘度(dl/g)である。
該関係式〔2〕は、好ましくは、
log
10〔η〕≧0.15−0.15X・・・〔2A〕
より好ましくは、極性物質との親和性と機械強度のバランスを一層向上させる理由から、
log
10〔η〕≧0.2−0.15X・・・〔2B〕
である。
【0070】
単量体(B)に由来する極性基部の含有量(X)と、135℃デカリン中で測定した変性ポリオレフィン粒子(F)の極限粘度〔η〕との関係が、上式を満たすことにより、ポリオレフィン樹脂の特長である機械特性を維持しつつも、欠点である極性物質との親和性を改良することができる。また、上記式を満たすことで、グラフト量が増えたときにもある程度以上の分子量を有する変性ポリオレフィン粒子(F)を得ることができる。これは、溶融法や、ポリオレフィンを溶媒に溶解し、この溶液に変性剤を配合してポリオレフィンの変性を行う方法(溶剤法)では、グラフト量が増えると分子量が小さくなる傾向にあることを考慮すると、本発明に係る固相法における特徴の一つと言える。
【0071】
変性ポリオレフィン中に含まれる単量体(B)に由来する極性基部の含有量(X)は、上記関係式〔1〕および〔2〕を満たし、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、通常0.5重量%以上、好ましくは1.0重量%以上、より好ましくは1.4重量%以上、さらに好ましくは2.0重量%以上、最も好ましくは2.4重量%以上である。ここでいう含有量について、下限値以上であるかそうでないかの判断は、小数点以下第2位を四捨五入することにより行うことができる。なお、本発明においては該含有量をグラフト量またはM値と表記する場合がある。含有量(X)の量に上限はないが、20重量%を超えると一般的には、未変性のポリオレフィンとの相溶性が悪化する傾向にあるので、20重量%を超えないことが好ましい。
【0072】
単量体が2種以上用いられる場合、これらの含有量の合計が0.5重量%以上であることが好ましく、これらの含有量の合計として上記好ましい範囲内にあることがさらに好ましい。
【0073】
また、135℃のデカリン中で測定した極限粘度は、上記関係式〔2〕を満たし、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、通常0.1dl/g以上、好ましくは0.25dl/g以上、さらに好ましくは0.4dl/g以上である。上限は特に限定されないが、通常10dl/gである。
【0074】
変性ポリオレフィン粒子(F)は、さらに、該粒子(F)の100重量%あたりの単量体(B)によるグラフト量が、0.5重量%以上であることが好ましく、1.0重量%以上であることがより好ましい。
【0075】
変性ポリオレフィン粒子(F)は、粒子形状であり、その平均粒径は、通常0.2mm以上2.5mm以下であり、好ましくは0.3mm以上1.5mm以下、より好ましくは0.3mm以上0.7mm以下である。変性ポリオレフィン粒子(F)の平均粒径は、通常、粗変性ポリオレフィン粒子(E)と同等である。
【0076】
本発明の変性ポリオレフィン粒子(F)は、その特有の性質を変動させない限りは上記ポリオレフィン樹脂以外に公知の材料を任意に含有して、種々の公知の用途の材料に適用することができる。その場合の公知材料の配合量は、該変性ポリオレフィン粒子(F)100重量%に対して、通常20重量%以下、好ましくは10重量%以下である。
【実施例】
【0077】
次に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
以下の実施例において、各種の分析方法は以下の手順により行った。
【0078】
(1)極限粘度(〔η〕)
試料をデカリンに溶かし希薄溶液を作る。自動粘度測定装置でウベローデ改良型粘度計を用いて、135℃の比粘度を測定し、変性ポリオレフィン粒子(F)の極限粘度を算出した。
【0079】
(2)粗変性ポリオレフィン粒子中に含まれる単量体に由来する極性基部の含有量
単量体として不飽和カルボン酸を用いた。工程(1)を経て得られた粗変性ポリオレフィン粒子を、210℃で熱プレスして300μmのフィルムを作成し、赤外吸収スペクトルを測定し、1790cm
-1付近あるいは1860cm
-1付近の吸収より、不飽和カルボン酸グラフト量を定量した。この値を、予め求めておいた
1H−NMRによる測定値と赤外吸収スペクトルによる値との相関による検量線により、
1H−NMRによる測定値に換算した。
【0080】
(3)変性ポリオレフィン粒子中に含まれる単量体に由来する極性基部の含有量([x])
上記分析方法(2)と同様に、工程(2)を経て得られた変性ポリオレフィン粒子を、210℃で熱プレスして300μmのフィルムを作成し、赤外吸収スペクトルを測定し、1790cm
-1付近あるいは1860cm
-1付近の吸収より、不飽和カルボン酸グラフト量を定量した。この値を、予め求めておいた
1H−NMRによる測定値と赤外吸収スペクトルによる値との相関による検量線により、
1H−NMRによる測定値に換算した。
【0081】
(4)変性ポリオレフィン粒子中に含まれる単量体に由来する極性基部の含有量([X])
単量体として不飽和カルボン酸を用いて得られた粗変性ポリオレフィン粒子1gを採取し、キシレン(和光純薬工業株式会社製、特級、o−、m−、p−の混合物、エチルベンゼン含有)約50mLを加え、還流冷却器を備えたフラスコ中で加熱溶解させた。ついで溶液を室温まで冷却し、アセトン(株式会社ゴードー製、純度99.0%以上)を加えて変性ポリオレフィン粒子を析出させたのち、濾過し、得られた析出物を乾燥処理した(以下、本明細書では「再沈殿法」と称する)。このようにして、未グラフト不飽和カルボン酸を除去した得られた変性ポリオレフィン粒子を250℃で熱プレスしてフィルムを作成し、赤外吸収スペクトルを測定し、1790cm
-1付近あるいは1860cm
-1付近の吸収より、不飽和カルボン酸グラフト量を定量した。この値を、予め求めておいた
1H−NMRによる測定値と赤外吸収スペクトルによる値との相関による検量線により、
1H−NMRによる測定値に換算した。
【0082】
(5)平均粒径
各ポリオレフィン粒子試料及び各変性ポリオレフィン粒子試料の平均粒径は、1000μm未満の場合は、レーザー光回折散乱法により、エタノールを分散媒体として測定した。1000μm以上のものについては、目開き径100μm、180μm、355μm、850μm、1180μm、1400μm、1700μm、2800μmの8種の篩を用い、帯電防止剤として極少量のカーボンブラックを混合したポリオレフィン粒子を分級した。その結果を基に常法により求めたメディアン径を平均粒径とした。
【0083】
(6)融点(Tm)
各種ポリオレフィン粒子の融点(Tm)は、示差走査熱分析において10℃/分の昇温速度で測定することにより測定した。具体的には、測定は、粒子形状の試料をアルミパンに詰め、10℃/分で200℃まで昇温し、昇温時のΔHが1J/g以上の融解ピーク頂点の位置の温度を融点とした。
【0084】
(7)メルトフローレート(MFR)
各種ポリオレフィンのメルトフローレート(MFR)は、ASTM D1238に従い、230℃、2.16kg荷重の条件下で測定を実施した。
【0085】
(8)過酸化物の略称
下記に示す各実施例において用いられる過酸化物の略称は、以下の化合物または製品を指す。
PBI:t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(日油株式会社・パーブチルI)
PBZ:t−ブチルパーオキシベンゾエート(日油株式会社・パーブチルZ)
【0086】
[実施例1]
MFR=0.6(g/10分)、平均粒径380μm、融点(Tm1)160℃のプロピレン単独重合体粒子100重量部を1リットルのオートクレーブに仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しつつ、125℃のオイルバスで加熱する。この状態で、オートクレーブ内に、無水マレイン酸19重量部をトルエン(沸点:110℃)26重量部に溶解させた溶液と、有機過酸化物としてt−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(日油株式会社・パーブチルI)15重量部をトルエン4.4重量部に溶解させた溶液とを同時に並行して滴下した。滴下に要する時間は、無水マレイン酸のトルエン溶液は5時間、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネートのトルエン溶液は3時間20分とした。無水マレイン酸のトルエン溶液を滴下終了後、さらに1時間、加熱・攪拌を継続し、反応終了とした。反応中は、オートクレーブは密閉状態とした。反応終了後、冷却してオートクレーブの内容物を抜き出した。これにアセトンを加えて合計の体積を1リットルとし、室温で10分間攪拌した後、濾過を行った。同様の操作を合計で4回繰り返し、60℃で5時間、真空乾燥を行い、粗変性ポリオレフィン粒子(E)を得た。この粗変性ポリオレフィン粒子(E)中に含まれる無水マレイン酸に由来する極性基部の含有量は、6.4wt%であった。
【0087】
この粗変性ポリオレフィン粒子100重量部に対して、アセトン280重量部を加え、再度、オートクレーブを密閉状態とし、撹拌しつつ、100℃のオイルバスで1時間加熱し、加熱終了後、冷却、濾過を行い、未反応の無水マレイン酸を除去した。同様の操作を合計で3回、繰り返し、60℃で5時間、真空乾燥を行った。未反応の無水マレイン酸を除去したのちの、変性ポリオレフィン粒子(F)に含まれる無水マレイン酸に由来する極性基部の含有量(〔x〕)は、5.9wt%であった。
【0088】
また、別途、上記粗変性ポリオレフィン(E)から、未反応の不飽和カルボン酸を完全に除去する別の方法として、再沈殿法の操作をおこなった。再沈殿法により得られた変性ポリオレフィン粒子に含まれる無水マレイン酸に由来する極性基部の含有量(〔X〕)は、5.9wt%であった。
【0089】
このようにして得られた変性ポリプロピレン粒子(F)について、関係式〔1〕の左辺(x−X)×100/xは、0であった。変性ポリオレフィン粒子(F)の極限粘度(〔η〕)は、0.42dl/gであり、関係式[2]の左辺log
10〔η〕は、−0.38であり、右辺0.1−0.15Xは、−0.79であった。また、変性ポリプロピレン粒子(F)は、プロピレン単独重合体粒子の粒径と同等であった。
【0090】
[実施例2]
MFR=3.1(g/10分)、平均粒径1300μmのプロピレン単独重合体粒子(融点160℃)100重量部、無水マレイン酸5重量部をトルエン17重量部に溶解させた溶液、過酸化物としてt−ブチルパーオキシベンゾエート(日油株式会社・パーブチルZ)3.3重量部を、容量20mlの耐圧容器に仕込み、内部を窒素置換した後に、密栓し、130℃に加熱したオイルバスにより、5時間、加熱して反応させた。反応終了後、冷却して耐圧容器の内容物を抜き出し、実施例1と同様に、アセトンを加えて室温で10分、撹拌したのちに濾過を行った。同様の操作を4回繰り返し、60℃で5時間、真空乾燥を行い、粗変性ポリオレフィン粒子(E)を得た。この粗変性ポリオレフィン粒子(E)中に含まれる無水マレイン酸に由来する極性基部の含有量は、2.2wt%であった。
【0091】
この粗変性ポリオレフィン粒子100重量部とアセトン280重量部を、容量20mlの耐圧容器に仕込み、内部を窒素置換したあと密栓し、撹拌しつつ、100℃のオイルバスで3時間加熱し、加熱終了後、冷却、濾過を行ったのち、60℃で5時間、真空乾燥を行った。このようにして未反応の無水マレイン酸を除去したのちの、変性ポリオレフィン粒子(F)に含まれる無水マレイン酸に由来する極性基部の含有量は(〔x〕)、1.8wt%であった。
【0092】
また、別途、上記粗変性ポリオレフィン(E)から、未反応の不飽和カルボン酸を完全に除去する別の方法として、再沈殿法の操作をおこなった。再沈殿法により得られた変性ポリオレフィン粒子に含まれる無水マレイン酸に由来する極性基部の含有量(〔X〕)は、1.8wt%であった。
【0093】
このようにして得られた変性ポリプロピレン粒子(F)について、関係式〔1〕の左辺(x−X)×100/xは、0であった。変性ポリオレフィン粒子(F)の極限粘度(〔η〕)は、0.92dl/gであり、関係式[2]の左辺log
10〔η〕は、−0.04であり、右辺0.1−0.15Xは、−0.17であった。また、変性ポリプロピレン粒子(F)は、プロピレン単独重合体粒子の粒径と同等であった。
【0094】
以上の実施例から、変性ポリオレフィン粒子(F)に含まれる無水マレイン酸の含有量は、工程(1)にて得られる粗変性ポリオレフィン粒子(E)中に含まれる無水マレイン酸の含有量に比べて減少しており、かつ、再沈殿法により得られた変性ポリオレフィン粒子に含まれる無水マレイン酸に由来する極性基部の含有量とも良く一致している。このことから、未反応の単量体(無水マレイン酸)は、本発明の製造方法および精製方法により、効果的に除去されていることがわかる。