(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357443
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】カウルルーバ
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20180702BHJP
【FI】
B62D25/08 H
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-99862(P2015-99862)
(22)【出願日】2015年5月15日
(65)【公開番号】特開2016-215714(P2016-215714A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2017年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000157083
【氏名又は名称】トヨタ自動車東日本株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】岡部 太一
【審査官】
白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−125995(JP,A)
【文献】
特開2004−058722(JP,A)
【文献】
特開2015−077902(JP,A)
【文献】
特開2013−203363(JP,A)
【文献】
特開2013−014153(JP,A)
【文献】
特開2008−074202(JP,A)
【文献】
特開2007−326385(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0017987(US,A1)
【文献】
国際公開第2015/033778(WO,A1)
【文献】
特開2012−061991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00−23/00
B62D 25/00−25/08
B62D 25/14−29/04
B60H 1/28
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントウインドウの前方下部に設置されるカウルルーバであって、
外気を取り込む開口部と、前記開口部の下方に配置される遮水板構造体とを備え、
前記遮水板構造体は、
車幅方向に延びる折り目が形成されるように屈曲し、その谷側の面が車両前側に向けられた第1の遮水板と、
前記第1の遮水板の前方において、車幅方向に延びる折り目が形成されるように屈曲し、その谷側の面が前記第1の遮水板の谷側の面と相対向して配置された第2の遮水板とを備え、
前記第1の遮水板の谷側の面に対向して前記第2の遮水板の上端が配置され、
前記第2の遮水板の谷側の面に対向して前記第1の遮水板の下端が配置され、
前記第1の遮水板と前記第2の遮水板との間に流路が形成されていることを特徴とするカウルルーバ。
【請求項2】
前記第1の遮水板は、断面L字状に屈曲し、前記第2の遮水板は、断面くの字状に屈曲していることを特徴とする請求項1に記載されたカウルルーバ。
【請求項3】
前記遮水板構造体は、排水口を有するカウルの上方に配置され、
前記第2の遮水板の上端と前記第1の遮水板の谷側の面との距離をaとし、
前記第1の遮水板の下端と前記第2の遮水板の谷側の面との距離をbとし、
前記第1の遮水板の下端と前記カウルとの距離をcとすると、
a>b且つb<cであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載されたカウルルーバ。
【請求項4】
前記開口部を通って前記流路に入る水は、少なくとも前記第1の遮水板の谷側の面に当たるように前記第1の遮水板と前記第2の遮水板との距離が設定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載されたカウルルーバ。
【請求項5】
前記第1の遮水板と前記第2の遮水板は、車幅方向に長く形成され、前記流路における空気の流量は、該車幅方向の長さにより設定されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載されたカウルルーバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントウインドウの前方下部に設置されるカウルルーバに関し、特に高圧水を受けた際でも車室内への水の浸入を防止することのできる遮水板構造体を有するカウルルーバに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のカウルルーバは、フロントウインドウの前方下部に設置され、換気用ダクトと車体継ぎ目の目隠しとして機能している。
図4に従来のカウルルーバの断面図を示す。
図4において、車両ボディ60にエンジンを覆うカウル61の後端部が連結されている。カウル61の後端部上方には、外気を車内側(エアコンディショナー)に取り込む外気取込口70が設けられている。
【0003】
カウルルーバ50は、前記カウル61の前側上部に組み付けられる。また、カウルルーバ50は、排水パネル51を有し、この排水パネル51には、カウルルーバ50上の水を排水するとともに、外気を取り入れるための複数の開口52が設けられている。さらに、排水パネル51の下側後方には、下側前方に傾斜した遮蔽板53が設けられている。
【0004】
このように構成されたカウルルーバ50においては、開口52から取り入れられた空気がカウル61上を流れ、外気取込口70から車内側に取り込まれる。
また、雨が降っている場合には、排水パネル51の開口52から水がカウル61上に流れ落ち、カウル61底部の排水口(図示せず)から排水される。また、車両走行中に雨に降られる場合には、相対的に斜め後方に向けて雨が開口52に降り込むため、これを遮水板53で受けることにより、水の勢いを抑え、跳ね返り等による外気取込口70への水の侵入を防ぐようになっている。
尚、特許文献1には、カウルルーバの排水パネルにおいて、複数の開口部に断面L字状の遮水体(図示せず)を設け、斜め前方からの水を受け止める構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−61991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、
図4に示した従来の構成のカウルルーバ50にあっては、例えば車両が高圧洗車機による高圧水の噴射を受ける際、排水パネル51の開口52に対して様々な方向から高圧水が侵入することになる。このため、カウル61上に高圧水が直接的に当たり、その跳ね返りが外気取込口70に入り込むことを防止するには、改善の余地があった。
このような問題は、特許文献1に開示されたような開口部に断面L字状の遮水体を設けた場合であっても同様であった。
【0007】
本発明は、前記した点に着目してなされたものであり、遮水板構造体を有するカウルルーバにおいて、特に高圧水を受けた際に車室内への水の侵入を防止することのできるカウルルーバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するために、本発明に係るカウルルーバは、フロントウインドウの前方下部に設置されるカウルルーバであって、外気を取り込む開口部と、前記開口部の下方に配置される遮水板構造体とを備え、前記遮水板構造体は、車幅方向に延びる折り目が形成されるように屈曲し、その谷側の面が車両前側に向けられた第1の遮水板と、前記第1の遮水板の前方において、車幅方向に延びる折り目が形成されるように屈曲し、その谷側の面が前記第1の遮水板の谷側の面と相対向して配置された第2の遮水板とを備え、前記第1の遮水板の谷側の面に対向して前記第2の遮水板の上端が配置され、前記第2の遮水板の谷側の面に対向して前記第1の遮水板の下端が配置され、前記第1の遮水板と前記第2の遮水板との間に流路が形成されていることに特徴を有する。
尚、前記第1の遮水板は、断面L字状に屈曲し、前記第2の遮水板は、断面くの字状に屈曲していることが望ましい。
また、前記遮水板構造体は、排水口を有するカウルの上方に配置され、前記第2の遮水板の上端と前記第1の遮水板の谷側の面との距離をaとし、前記第1の遮水板の下端と前記第2の遮水板の谷側の面との距離をbとし、前記第1の遮水板の下端と前記カウルとの距離をcとすると、a>b且つb<cであることが望ましい。
また、前記開口部を通って前記流路に入る水は、少なくとも前記第1の遮水板の谷側の面に当たるように前記第1の遮水板と前記第2の遮水板との距離が設定されていることが望ましい。
また、前記第1の遮水板と前記第2
の遮水板は、車幅方向に長く形成され、前記流路における空気の流量は、該車幅方向の長さにより設定されていることが望ましい。
【0009】
このような構成によれば、前記遮水板構造体において、第1の遮水板と第2の遮水板とによりラビリンス構造の流路を構成することができる。このため、必要充分な空気を車室内に取り込むことができ、また、高圧洗車時などに高圧水が如何なる方向から入ってきても、カウルに直撃することがなく、前記ラビリンス構造の流路によって水の速度(エネルギー)を大幅に減衰することができる。したがって、水の跳ね返りによる外気取込口への水の侵入を従来よりも格段に抑えることができ、空調装置における吹き出し口からの水の噴き出しを防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、遮水板構造体を有するカウルルーバにおいて、特に高圧水を受けた際に車室内への水の侵入を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明に係るカウルルーバを前側から見た斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1のカウルルーバに組み付けられる遮水板構造体の斜視図(一部破断)である。
【
図3】
図3は、
図1のカウルルーバが車両に取り付けられた状態での断面図である。
【
図4】
図4は、従来のカウルルーバが車両に取り付けられた状態での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のカウルルーバに係る実施の形態につき、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るカウルルーバを前側から見た斜視図であり、
図2は、
図1のカウルルーバに組み付けられる遮水板構造体を一部破断して示す斜視図である。
【0013】
図1に示すカウルルーバ1は、フロントウインドウの前方下部に設置される部材である。このカウルルーバ1には、車両の空調装置に対応する位置に、例えばメッシュ状の開口部2が形成されている。開口部2の下方には、
図1において分離して示す遮水板構造体10が設けられている。前記開口部2の車幅方向の長さ寸法と前記遮水板構造体10の車幅方向の長さ寸法とは略等しく形成され、その長さ寸法は空気を取り込む効率を考慮して(所定の流量を取込可能なように)設定されている。
【0014】
図3は、カウルルーバ1が車体側に取り付けられた状態での断面図である。
図3において、車両ボディ30にエンジン(図示せず)を覆うカウル31の後端部が連結されている。カウル31の後端部上方には、外気を車内側(空調装置)に取り込む外気取込口40が設けられている。カウルルーバ1は、前記カウル31の前端部とフロントガラス35の下端側とに支持されている。
【0015】
図示するようにカウルルーバ1の遮水板構造体10は、車幅方向に延びる折り目が形成されるように屈曲した断面L字状の第1の遮水板11と、前記第1の遮水板11に対向配置され、同様に車幅方向に延びる折り目が形成されるよう屈曲した断面くの字状の第2の遮水板12とを有している。前記第1の遮水板11は、板状の立設部11a及び底部11bにより断面L字状に形成され、その谷側の面が車両前側に向けられている。
【0016】
一方、第2の遮水板12は、前記第1の遮水板11の前方において、その断面くの字状の立設部12aとその下部を支持する略平坦な板状の支持板12bとにより形成され、立設部12aの谷側の面が、前記第1の遮水板11の谷側の面と相対向して配置されている。
より具体的には、前記第1の遮水板11の谷側の面に対向して前記第2の遮水板12(立設部12a)の上端が配置され、前記第2の遮水板12(立設部12a)の谷側の面に対向して前記第1の遮水板11の下端が配置されている。
これにより、前記第1の遮水板11と第2の遮水板12との間には、カウル上に続くラビリンス構造の流路15が形成され、第2の遮水板12における支持板12b上には車幅方向に流れる流路16が形成されている。尚、流路16に流れ込む水は、車幅方向端部に設けられた排水口(図示せず)に流れる。
【0017】
また、前記ラビリンス構造の流路15において、第1の遮水板11の谷側の面と第2の遮水板12の上端部との間の距離をaとし、第1の遮水板11の下端部と第2の遮水板12の谷側の面との距離をbとし、第1の遮水板11の下端面とカウル31との距離をcとすると、a>b且つb<cとなるように構成されている。また、開口部2を通って流路15に入る水は、少なくとも前記第1の遮水板11の谷側の面に当たるように前記第1の遮水板11と前記第2の遮水板12(立設部12a)との距離が設定されている。
【0018】
このように構成されたカウルルーバ1において、開口部2から水が入り込むと、流路16側に入る水は第2の遮水板12或いは支持板12bに当たって速度(エネルギー)を減衰させ、車幅方向端部側に設けられた排水口(図示せず)に流れる。
一方、開口部2から流路15に入った水は、最初に第1の遮水板11に当たり、その速度(エネルギー)が大きく減衰される。
次いで、第1の遮水板11から跳ね返った水が第2の遮水板12に当たってカウル31上に落ち、さらに速度(エネルギー)を弱めた状態でカウル31底部に流れていくことになる。
【0019】
また、このような遮水板構造体10によれば、開口部2に如何なる方向から水が入り込んでも、必ず第1の遮蔽板11と第2の遮蔽板12のいずれかに当たるようになっている。例えば、開口部に対し直上位置から、或いは後方側から高圧水が入り込んだ場合、水は第1の遮水板11の底部11bに当たり、エネルギーの多くを失った状態で流路15を流れる。
このためカウル31に対し開口部2から入った水が速度(エネルギー)を維持した状態で当たることがなく、跳ね返りの発生が抑えられるため、外気取込口40への水の侵入を防ぐことができる。
【0020】
以上のように本発明に係る実施の形態によれば、開口部2下方の遮水板構造体10において、第1の遮水板11と第2の遮水板12とによりラビリンス構造の流路15を構成した。このため、必要充分な空気を車室内に取り込むことができ、また、高圧洗車時などに高圧水が開口2に対し如何なる方向から入ってきても、カウル31に直撃することがなく、前記ラビリンス構造の流路15によって水の速度(エネルギー)を大幅に減衰することができる。したがって、水の跳ね返りによる外気取込口40への水の侵入を従来よりも格段に抑えることができ、空調装置における吹き出し口からの水の噴き出しを防止することができる。
【0021】
尚、前記実施の形態において、第1の遮水板11と第2の遮水板12(立設部12a)の車両前後方向の傾斜角度は特に限定しないが、例えば車種等によって最適な傾斜角度に設計すればよい。
また、前記実施の形態において、前記第1の遮水板11は、断面L字状に屈曲し、前記第2の遮水板12(立設部12a)は、断面くの字状に屈曲しているものとしたが、本発明にあっては、それに限定されるものではなく、屈曲の度合いは様々な態様をとることができる。
【実施例】
【0022】
本発明に係るカウルルーバについて、実施例に基づきさらに説明する。本実施例では、前記実施の形態に示したカウルルーバを形成し、実験を行うことにより、本発明の効果について検証した。
【0023】
[実験1]
実験1では、前記実施の形態に示したカウルルーバを作製し、実験車両に取り付けた。そして、カウルルーバに対し所定圧力の高圧水を所定方向から所定時間吹き付けた後に、外気取込口に侵入した水量を測定した(実施例1)。
また、比較例として、
図4に示した従来の構造のカウルルーバを用い、実施例1と同様の条件下で外気取込口に侵入した水量を測定した(比較例1)。
【0024】
実験1の結果、実施例1において外気取込口に侵入した水量は、比較例1において外気取込口に侵入した水量の約5分の1となった。
以上の実験1の結果から、本発明のカウルルーバを用いることにより、高圧水を受けた場合であっても車室内への水の浸入を防止することができることを確認した。
【符号の説明】
【0025】
1 カウルルーバ
2 開口部
10 遮水板構造体
11 第1の遮水板
11a 立設部
11b 底部
12 第2の遮水板
12a 立設部
12b 支持板
15 流路
16 流路
31 カウル
70 外気取込口