(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357455
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】発泡限界加硫度特定用の加硫金型およびこれを備える試験装置
(51)【国際特許分類】
B29C 43/36 20060101AFI20180702BHJP
B29C 33/02 20060101ALI20180702BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20180702BHJP
B29C 43/32 20060101ALI20180702BHJP
G01N 33/44 20060101ALI20180702BHJP
B29K 21/00 20060101ALN20180702BHJP
B29K 105/24 20060101ALN20180702BHJP
【FI】
B29C43/36
B29C33/02
B29C35/02
B29C43/32
G01N33/44
B29K21:00
B29K105:24
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-197328(P2015-197328)
(22)【出願日】2015年10月5日
(65)【公開番号】特開2017-71057(P2017-71057A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2017年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】392001955
【氏名又は名称】株式会社上島製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099830
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 征生
(72)【発明者】
【氏名】戸崎 近雄
(72)【発明者】
【氏名】石井 浩
【審査官】
一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−085791(JP,A)
【文献】
特開昭62−011163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00−35/18
B29C 39/00−39/44
B29C 43/00−43/58
G01N 19/00
G01N 25/00−25/72
G01N 33/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下対をなす、上部金型と下部金型とを備え、少なくとも、前記下部金型には、未加硫の試料ゴムを充填して、加熱し加圧加硫して、長手方向に加硫度が連続的に変化する、発泡限界観察用のゴム試験体を作製するキャビティが設けられている加硫金型であって、
前記キャビティには、長手方向の一端側から他端側に向けて深さが変化する、前記ゴム試験体を作製するための第1キャビティに加えて、該第1キャビティの他端に連接延在する態様で、加硫中の試料ゴムの昇温曲線を計測する場として温度センサが配置される第2キャビティが増設されていて、
前記第2キャビティの所定の壁部には、外部から、前記温度センサを第2キャビティ内の所定の測温部位に挿抜自在に配置するための温度センサ挿入口が設けられていることを特徴とする発泡限界加硫度特定用の加硫金型。
【請求項2】
上下対をなす、上部金型と下部金型とを備え、少なくとも、前記下部金型には、未加硫の試料ゴムを充填して、加熱し加圧加硫して、長手方向に加硫度が連続的に変化する、発泡限界観察用のゴム試験体を作製するキャビティが設けられ、
該キャビティには、長手方向の一端側から他端側に向けて深さが変化する、前記ゴム試験体を作製するための第1キャビティに加えて、該第1キャビティに連接延在する態様で、加硫中の試料ゴムの昇温曲線を計測する場として温度センサが配置される第2キャビティが増設されていて、かつ、
前記第2キャビティの所定の壁部には、外部から、前記温度センサを第2キャビティ内の所定の測温部位に挿抜自在に配置するための温度センサ挿入口が設けられている加硫金型であって、
前記第1キャビティは、長手方向の一端側から他端側に向けて漸次深さが増加する態様に設定されている一方、前記第2キャビティは、前記第1キャビティの他端に連接されて、前記第1キャビティの最深部よりも浅く、最浅部よりも深い、均一な所定の深さに設定されていることを特徴とする発泡限界加硫度特定用の加硫金型。
【請求項3】
前記第2キャビティ内の前記所定の測温部位は、当該第2キャビティの深さ方向中心部又はその近傍に設定されていて、前記温度センサ挿入口を介して前記温度センサが前記第2キャビティに配置される際には、当該測温部位に前記温度センサの熱接点が位置決めされる構成となっていることを特徴とする請求項1又は2記載の発泡限界加硫度特定用の加硫金型。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の発泡限界加硫度特定用の加硫金型を備え、該加硫金型の前記第1キャビティから、長手方向に加硫度に対応付けられる発泡の程度が連続的に変化する、前記発泡限界観察用のゴム試験体を得るとともに、前記第2キャビティから、加硫中の前記試料ゴムの昇温曲線データを取得するための試験装置であって、
前記上部金型を下降させて前記下部金型と圧着させて、前記第1キャビティと前記第2キャビティとに流動充填された未加硫の試料ゴムを加熱して加圧加硫する加圧機構と、
前記温度センサ挿入口を介して、前記第2キャビティ内の所定の測温部位に挿抜自在に配置されて、加硫中の試料ゴムの昇温曲線を計測する前記温度センサとを備えてなることを特徴とする発泡限界加硫度特定用の試験装置。
【請求項5】
前記試料ゴムを所定時間加圧加硫したのち、前記加圧機構の圧力を大気圧に開放することによって、加圧によってバネに蓄えられた反力によって前記上部金型が僅かに押し上げられる除圧状態を保持する除圧保持機構をさらに備え、
該除圧保持機構による除圧状態保持の終了後に、前記ゴム試験体が加硫金型から取り出される構成となっていることを特徴とする請求項4記載の発泡限界加硫度特定用の試験装置。
【請求項6】
前記下部金型は、所定の駆動機構により、前記温度センサに対して水平方向に移動可能に構成されていて、
前記下部金型が、前記温度センサに向けて前進移動すると、前記温度センサ挿入口を介して前記温度センサが前記第2キャビティに配置され、前記下部金型が、前記温度センサに対して後進移動すると、前記温度センサ挿入口を介して前記温度センサが前記第2キャビティから抜脱される構成となっていることを特徴とする請求項5記載の発泡限界加硫度特定用の試験装置。
【請求項7】
前記温度センサは、前記下部金型に対して水平方向に移動可能に構成されていて、
前記温度センサが、前記加硫金型に向けて前進移動すると、前記温度センサ挿入口を介して前記温度センサが前記第2キャビティに配置され、前記温度センサが、前記加硫金型に対して後進移動すると、前記温度センサ挿入口を介して前記温度センサが前記第2キャビティから抜脱される構成となっていることを特徴とする請求項5記載の発泡限界加硫度特定用の試験装置。
【請求項8】
前記温度センサは、テーパ状の先端部に熱接点を有する棒状の熱電対温度センサからなるとともに、前記第2キャビティから抜脱された状態の当該温度センサを冷却する冷却機構を備えていることを特徴とする請求項5、6または7記載の発泡限界加硫度特定用の試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、発泡限界加硫度特定用の加硫金型およびこれを備える試験装置に係り、とくには、開発段階で、新素材ゴムの加硫条件を検討する際や新素材ゴム製品のシミュレーションを行う際などに用いて好適な発泡限界加硫度特定用の加硫金型およびこれを備える試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムは熱の不良導体であるので、肉厚のゴム片を両面から加熱すると、厚さ中心部は表層部に比べて昇温が遅れる。ゴム製品の生産工程において、必要な充填材や配合薬品を混合済みの未加硫ゴムに熱と圧力を加える加圧加硫工程では、もしも、昇温の遅い厚さ中心部が十分に加硫されていない“生焼け”の状態で加圧加硫処理が終了し、除圧された加硫装置から加硫済みのゴム製品を取り出すと、その“生焼け”部分に微小な気泡(ブローン)が発生する。
この種の気泡の存在は、そのゴム製品の使用時に、種々の不具合を生じさせる原因となる。とくに、気泡が残存する“生焼け”部分を含む自動車タイヤが出荷されると、高速走行時の自動車タイヤのバースト破壊を誘発するおそれがあるので、対策が必要である。
【0003】
一方、“生焼け”防止のために、加圧加硫の処理時間をいたずらに長くすることは、熱エネルギの浪費や生産速度の低下などの原因となるだけでなく、余分な加熱処理自体がゴムの材質を劣化させて、種々の材料特性を損なう原因となるので、加圧加硫時間を必要最小限度に抑えることも必要である。
そこで、伝熱遅れに基づく加硫不足が生じがちな厚さ中心部においても、品質に影響を与える気泡は一切存在しない加硫ゴムを得るために最小限必要な加硫度、すなわち、発泡限界加硫度(以下、これをブローポイントともいう)を測定し特定しておくことは、新素材ゴム製品の製造工程における加硫条件を検討する際や開発した新素材ゴム製品のシミュレーションを行う際などに大変有用である。
【0004】
新素材ゴム製品の開発にあたって、加硫条件の検討などのために実施される、ブローポイントを特定するための試験は、概ね、次の手順に従って行われる。
まず、加硫金型に設けられた、緩やかな勾配をもつ楔形のキャビティ内に試料ゴムを充填して、加硫過程で、試料ゴムの所定の厚さ中心部(厚さ既知)に温度センサをあてがって、試料ゴムの内部昇温を計測するとともに、加硫金型によって、長手方向に厚さが漸次緩やかに変化する態様に成型された加硫済みのゴム試験体を得る。
次に、裁断機を用いて、加硫済みのゴム試験体の厚さ中心面を露出させ、露出した厚さ中心面の発泡状態を断面観察する。このとき、ゴム試験体の厚さが増加するにつれて、大きな気泡が観察され、反対に、ゴム試験体の厚さが減少するにつれて、気泡は微小化し、やがて、“生焼け”は消滅して気泡を確認できなくなる、ことが判っている。したがって、確認できる微小気泡の発生限界点、すなわち、発泡限界部位を特定し、こののち、基準位置から発泡限界部位までの長さと、基準位置の厚さとゴム試験体の勾配とに基づいて、発泡限界部位でのゴム試験体の厚さを算出する。
【0005】
一方、加硫中に計測された試料ゴムの昇温曲線(以下、計測昇温曲線ともいう)から、試料ゴムの熱拡散定数χを求め、求めた熱拡散定数χの値を用いて、上記断面観察により得られた発泡限界部位と同等厚さの試料ゴムの昇温曲線(以下、算出昇温曲線ともいう)を算出する。そして、試料ゴムの算出昇温曲線と予め求めた試料ゴムの活性化エネルギとに基づいて、発泡限界部位の熱履歴に等価な基準温度保持時間、すなわち、等価加硫時間を求め、求められた等価加硫時間を、後述するように、加硫試験機から別途取得された試料ゴムの実用的な加硫度曲線に当てはめて、ブローポイントを特定する。
【0006】
ブローポイント特定試験の実施の過程では、加硫反応速度の温度依存性に関するアレニウスの式、熱伝導理論、および、“弾性率飽和度の加硫度への代替性”などの教えるところに従って、以下の演算処理も実施され、その実用技術上の妥当性は、ゴム業界において、従来から認められている。
【0007】
すなわち、上記熱拡散定数χは、計測昇温曲線と熱伝導理論に基づいて、次のようにして算出される。
緩勾配をもつ楔形の試料ゴムは平板とみなせるので、両面の熱源(加熱加硫金型)から均一に加熱される試料ゴムの厚さ中心点での昇温曲線は、熱伝導理論から導き出される式(1)に従う。
ここで、T
1は平板の初期温度、T
2は平板の両面に熱接触させる熱源の温度、α(t)は平板の昇温不飽和度、hは厚さ中心点までの伝熱距離であって平板厚さの1/2、tは平板の両面を熱源に熱接触させた瞬間からの経過時間、χは熱拡散定数(mm
2/sec)であって、平板の材質に固有の値である。
【0008】
式(1)を対数表記すると、式(2)となる。
lnα(t)=ln(4/π)−(π
2χ/4h
2)t (2)
式(2)から明らかなように、lnα(t)と経過時間tとの関係は負勾配をもつ直線関係となる。それゆえ、熱拡散定数χは、式(3)で表される。
χ=負勾配×4h
2/π
2 (3)
ブローポイント特定試験の実施の過程で、熱拡散定数χは、温度センサから得られた計測昇温曲線データと、温度計測点における試料ゴムの厚さ2hとを式(1)に適用することにより、式(2)、式(3)から求められる。
【0009】
次に、発泡限界部位と同等厚さの試料ゴムの算出昇温曲線は、式(3)から求めた熱拡散定数χと、上記断面観察から特定された発泡限界部位の厚さとを、式(2)に代入して、lnα(t)を求め、求めたlnα(t)をα(t)に変換してから、α(t)を与える式(1)に基づいて算出することができる。
【0010】
等価加硫時間は、次のようにして求められる。
加硫反応速度の温度依存性は、式(2)で示されるアレニウスの式に従う。
k=A・exp[−Ea/RT] (4)
ここで、kは反応速度定数、Aは反応の頻度係数、Rは気体定数、Eaは見かけの活性化エネルギである。
式(4)から得られる2温度間の反応速度比を用いて、時間とともに変化する温度T(t)と基準温度(熱源の温度)T
0とにおける加硫反応の速度比を時間積分すると、温度履歴T(t)に等価な基準温度保持時間(等価加硫時間)t
eq(T
0)を式(5)によって求めることができる。なお、t
1は加熱開始時刻、t
2は加熱終了時刻である。
ブローポイント特定試験の実施の過程で、発泡限界部位の熱履歴に等価な基準温度保持時間(等価加硫時間)を算出する際には、試料ゴムの算出昇温曲線と予め求めた試料ゴムの活性化エネルギとを、式(5)に適用することによって、当該等価加硫時間が求められる。
【0011】
次に、実用的な加硫度について説明する。
加硫度は、学術的には、ゴム高分子の分子鎖間に形成される架橋点間網目鎖数密度で定義される加硫進行度を表す尺度であるが、実用的には、工業尺度としての弾性率飽和度で代替できることが知られている。この種の弾性率飽和度は、加硫試験機から容易に得られる加硫度曲線を解析することで、求められる。
【0012】
図11は、非特許文献1に記載の振動式の加硫試験機から得られる実用的な加硫度曲線を示すグラフであり、横軸は加硫時間を示し、縦軸は、ゴム試験体を捩り振動させるためのトルク振幅を示している。注目すべき点は、実用的な加硫度曲線は、網目鎖数密度との間で、ほぼ直線的な関係が成立する、ということである。これが、ゴム業界において、加硫進行度に較べて測定が著しく容易な工業尺度(弾性率飽和度)で代替して加硫度を表すことが、広く行われている理由である。
図11において、記号M
Eは、最小トルクM
Lから最大トルクM
Hにいたる加硫度増加分の総量である。曲線上の任意の点の値をM(t)とすると、M(t)−M
LのM
Eに対する比を百分率で表すことによって、加硫度を式(6)で表すことができる。
加硫度=((M(t)−M
L)/M
E)*100% (6)
【0013】
このような技術背景の下、ブローポイントの特定試験に際しては、別途、上記加硫試験機を用いて、ブローポイント特定試験の非検物と同一素材同一配合の試料ゴムの、同一基準温度下での、実用的な加硫度曲線を取得しておく。そして、式(5)から等価加硫時間が求められると、求められた等価加硫時間を、
図11に示すような、実用的な加硫度曲線に当てはめて、ブローポイントを特定する。なお、ブローポイントは、加硫度という物理尺度上の特定点であるので、式(6)から求められる。
【0014】
このようなブローポイントの特定試験では、温度センサを、加硫金型のキャビティに充填された試料ゴム(試料充填空間)の厚さ中心点にできるだけ正確にあてがうことが、適正位置での昇温速度・昇温曲線を忠実に計測し、ひいては、試料ゴムのブローポイントの特定精度および試験結果の再現性を高める上で、重要である。
【0015】
ブローポイント特定用の試験装置を、温度センサの投入方式の違いで分類すると、従来、温度センサを試料ゴムで挟み込んで一括してキャビティに投入する、いわゆる、センサ挟み込み方式を採用する装置と、まず、キャビティに試料ゴムを充填し、このあとから、温度センサをキャビティ内の試料ゴムに差し込んで投入する、いわゆる、センサ差し込み方式を採用する装置とが存在する。センサ挟み込み方式を採用する装置としては、特許文献1に記載の発泡限界加硫度試験装置が知られている。また、センサ差し込み方式を採用する装置としては、特許文献2に記載の加硫度分布算出試験装置が知られている。
【0016】
まず、特許文献1に記載の試験装置から説明する。
特許文献1に記載の試験装置は、
図12に示すように、圧着面に平面視長方形で楔形の凹部51aを有する上部金型51と、圧着面に(凹部51aと対称形の)凹部52aを有する下部金型52とを備え、図示せぬ型締め機構で、上部金型51と下部金型52とを圧着すると、相対向する凹部51a、52aが上下で合わせられて、平面視長方形で、長手方向に漸次深さが変化する楔形のキャビティ53を形成する加硫金型54と、金属細管55に収容した熱電対線によって、管壁に、その長手方向に沿って互いに離隔する複数の熱接点ch1〜ch4を形成し、形成した各熱接点ch1〜ch4をキャビティ53の深さ中心面上に配置することにより、加硫過程の試料ゴム56の厚さ中心温度を(試料ゴム56の厚さの異なる複数箇所で)経時的に計測する細棒状の温度センサ57とを備えている。
【0017】
上記構成において、温度センサ57をキャビティ53に投入する際には、上記したように、センサ挟み込み方式が採用される。
具体的にいえば、まず、人手により、温度センサ57を未加硫の試料ゴム56で挟みこみ、この状態を図示せぬ装填用の枠体に組み付けて室温状態で保持する。そして、組み付けられた未加硫の試料ゴム56と温度センサ57と枠体とを、均一な加硫温度に調節された加硫金型54へ一括して下部金型52の凹部52aに載置する(同図(a))。こののち、上部金型51と下部金型52とを型締めして未加硫の試料ゴム56を加圧すると、試料ゴム56は、未加硫ゴムの流動性によって、キャビティ53内の隙間を完全に埋め、加圧加硫反応が開始する。余剰の試料ゴム56はキャビティ53から溢出してバリ溝へ流れ込む。キャビティ53を充填した試料ゴム56は、キャビティ53の形状付与機能により、長手方向に対して、厚さ勾配をもっている。この装置では、温度センサ57の各熱接点ch1〜ch4は、上記枠体がキャビティ53内に装填されると、キャビティ53を充填する試料ゴム56の厚さ中心線上に配置されるように、枠体に把持される構成となっている(同図(b))。それゆえ、この構成によれば、加圧加硫の間、温度センサ57は、試料ゴム56の内部であって、熱接点ch1〜ch4と接する複数箇所の部位(すなわち、厚さの異なる複数の厚さ中心部)の昇温曲線を計測することができる。加圧加硫の終了後、長手方向に厚さが漸次緩やかに変化する楔形のゴム試験体58が、加硫金型54から取り出される(同図(c))。
【0018】
次に、
図13を参照して、特許文献2に記載の試験装置について説明する。
図13は、特許文献2に記載の試験装置の概略構成を示し、キャビティと温度センサとの配置関係を概略示す平面図である。
この試験装置も、上記特許文献1記載の試験装置と同様に、上部金型と下部金型とが型締めされると、平面視長方形で、長手方向に漸次深さが変化する楔形のキャビティを形成する加硫金型を備えている。このような形状のキャビティの中に、未加硫の試料ゴムを充填して加硫すると、厚さ勾配をもつ、発泡限界観察用のゴム試験体が形成される点でも、特許文献1記載の試験装置と同様である。
しかしながら、温度センサの投入方式の違いから、特許文献2記載の試験装置は、次述の点で、特許文献1記載の試験装置とは、構成が異なっている。
特許文献2に記載の試験装置は、
図13に示すように、それぞれの先端部に熱接点を有する4本の細棒状の温度センサ59〜62を、キャビティ63に投入して、未加硫の試料ゴム64に差し込む、いわゆる、センサ差し込み方式対応の構成となっている。このため、
図13に示すように、下部金型65の側壁のうち、長辺側の一方の側壁には、4つの貫通孔66〜69が、同一平面内で互いに離隔する態様で、穿設されている。4本の温度センサ59〜62は、貫通孔66〜69と1対1で対向する態様で配置され、図示せぬエアシリンダの作動に従って、ガイドロッドの案内の下、貫通孔66〜69を経て、キャビティ63に挿抜自在に差し込まれる構成となっている。下部金型65の側壁のうち、長辺側の他方の側壁には、余剰の試料ゴムを型外へ流出させるためのベントホール70〜73が、貫通孔66〜69に対向して設けられている。
【0019】
次に、
図13を参照して、特許文献2に記載の試験装置の加硫開始時の動作、とくに、温度センサを加硫金型のキャビティに投入する動作について説明する。
まず、上部金型と下部金型65とを型締めすると、未加硫の試料ゴム64がキャビティ63内を流動し充填して加硫が開始され、余剰の試料ゴム64は、ベントホール70〜73を経て、型外へ流出する。試料ゴム64の流動がほぼ収まった段階で、エアシリンダが作動して、4本の温度センサ59〜62を、退避位置から前進作動させる。エアシリンダの作動により、温度センサ59〜62は、それぞれの先端部の熱接点をキャビティ63の深さ中心面に相当する、試料ゴム64の厚さ中心面上の、所望の位置まで水平に差し込まれる。4本の温度センサ59〜62は、所望の位置まで差し込まれた状態で、加硫中の試料ゴム64の(厚さの異なる複数箇所で)厚さ中心温度を経時的に計測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特許第5154185号公報
【特許文献2】特公平07−018870号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】日本規格協会発行 JIS K 6300−2(2001)第2部:振動式加硫試験機による加硫特性の求め方
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、上記従来の関連装置には、次のような問題点が指摘されている。
まず、温度センサが、損傷しやすいという、問題がある。具体的にいえば、センサ挟み込み方式を採用する特許文献1記載の試験装置の場合、温度センサ57が、未加硫の試料ゴム56と一括してキャビティ53に投入されるため、加硫金型の型締めに伴って、未加硫の試料ゴム56が粘弾性流として隙間に向けて強い勢いで流れ込み、その際、細棒状の温度センサ57は、粘弾性流体力にさらされるので、撓み、変形し、ひいては、折れ曲がって断線する、という不都合がある。
また、加硫終了後、加硫済みのゴム試験体58から温度センサ57を人手により引き抜く際にも、人的ミスに起因して、温度センサ57を傷めるおそれもある。
次に、センサ差し込み方式を採用する特許文献2記載の試験装置の場合でも、加圧充填された試料ゴム64に細棒状の温度センサ59〜62を差し込む際、各温度センサ59〜62の外径は1〜2mm程度なので、粘弾性の試料ゴム64から大きな差し込み抵抗を受けて、先端部が変形して曲がる、という不具合がある。
たとえ、温度センサ59〜62が、断線に至らなくとも、変形すれば、熱接点は、試料ゴムの厚さ中心部からずれた位置(すなわち、一方の熱源に偏った位置)で昇温を計測することになるので、正確な昇温曲線データを得ることができない、ということになり、このような事態は、試験装置の信頼性を損なうことになるので、深刻である。
【0023】
次に、特許文献2記載の試験装置の場合には、加硫開始後、キャビティ63内の試料ゴム64の流動がほぼ収まってから、4本の温度センサ59〜62を、試料ゴム64の厚さ中心面上の、所望の位置まで差し込むため、4本の温度センサ59〜62の全容量にほぼ相当する、試料ゴム64が、新たな余剰分となって、ベントホール70〜73を経て、型外へ流出する。このことは、余剰分の試料ゴム64が、単に、型外へ流出するということで済む問題ではなく、キャビティ63を満たす試料ゴム64の熱分布が、温度センサ59〜62の差し込みによって、強制的に撹乱されることを意味し、撹乱された熱分布状態を出発点として、温度センサ59〜62が、温度を経時的に計測しても、正確な昇温曲線データは得られない、ということになるので、この事態も、試験装置の信頼性を損なう一因となる。
【0024】
さらに、
図12および
図13に示す上記従来の関連装置にあっては、試料ゴム(ゴム試験体)の発泡限界観察領域と温度センサの投入配置領域とが互いに干渉する、という問題もある。以下、この問題について説明する。まず、加硫済みのゴム試験体の各部位の中で、発泡限界を観察したい部位は、伝熱遅れに基づく加硫不足が生じがちな厚さ中心部(厚さ中心またはその近傍)からなる断面領域、すなわち、上記したように、厚さ中心面である。ここで、左右からの熱源の影響(左右方向の熱分布の偏り)をできるだけ排除するなら、厚さ中心面上の幅中心の部位(この部位を厚さ中心点ともいう)が、発泡限界を観察する上で、最適の部位といえる。次に、熱拡散定数χは、式(1)の昇温曲線から算出されるが、式(1)の昇温曲線は、上記したように、温度センサによる厚さ中心面上の昇温計測を前提とするものである。この場合も、厚さ中心面上の幅中心の部位(厚さ中心点)で計温することが、左右からの熱源の影響をなくし、正確な昇温速度・昇温曲線を得る上で、好ましいことは明らかである。
このような事情の下にあって、従来の関連技術では、両方の要求を満たすために、試料ゴム(ゴム試験体)の発泡限界観察領域内に、温度センサを投入することが行われている。この結果、加硫済みゴム試験体から温度センサを抜脱したのちに、ゴム試験体を、厚さ中心面に沿って水平カットする際、温度センサの痕跡が邪魔となって、厚さ中心面をきれいに露出させることができず、このため、正確な発泡限界観察が妨げられる場合がある、という問題もある。
【0025】
さらに、上記従来の関連装置では、複数の熱接点が設けられているため、作業効率の悪さや装置構成の複雑さが指摘されている。一方、複数の熱接点から得られた昇温曲線に基づいて算出された試料ゴムの熱拡散定数χの変動係数(平均値に対する標準偏差の比率)は、2.3%程度であることが知られている(特許文献1)。これは、複数の熱接点による同時複数点計測を行わなくても、単一の熱接点による1点計測だけでも、同時複数点計測と同程度に精度のよい昇温曲線データを得ることができる、ことを意味している。
【0026】
この発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、温度センサを変形や損傷からまもることができる発泡限界加硫度特定用の加硫金型およびこれを備える試験装置を提供することを第1の目的としている。
また、この発明は、試料ゴム(ゴム試験体)の発泡限界観察領域と温度センサの投入配置領域との干渉を確実に回避できる発泡限界加硫度特定用の加硫金型およびこれを備える試験装置を提供することを第2の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記課題を解決するために、この発明の第1の構成は、上下対をなす、上部金型と下部金型とを備え、少なくとも、前記下部金型には、未加硫の試料ゴムを充填して、加熱し加圧加硫して、長手方向に加硫度が連続的に変化する、発泡限界観察用のゴム試験体を作製するキャビティが設けられている加硫金型に係り、前記キャビティには、長手方向の一端側から他端側に向けて深さが変化する、前記ゴム試験体を作製するための第1キャビティに加えて、該第1キャビティ
の他端に連接延在する態様で、加硫中の試料ゴムの昇温曲線を計測する場として温度センサが配置される第2キャビティが増設されていて、前記第2キャビティの所定の壁部には、外部から、前記温度センサを第2キャビティ内の所定の測温部位に挿抜自在に配置するための温度センサ挿入口が設けられていることを特徴としている。
【0028】
また、この発明の第2の構成は、
上下対をなす、上部金型と下部金型とを備え、少なくとも、前記下部金型には、未加硫の試料ゴムを充填して、加熱し加圧加硫して、長手方向に加硫度が連続的に変化する、発泡限界観察用のゴム試験体を作製するキャビティが設けられ、該キャビティには、長手方向の一端側から他端側に向けて深さが変化する、前記ゴム試験体を作製するための第1キャビティに加えて、該第1キャビティに連接延在する態様で、加硫中の試料ゴムの昇温曲線を計測する場として温度センサが配置される第2キャビティが増設されていて、かつ、前記第2キャビティの所定の壁部には、外部から、前記温度センサを第2キャビティ内の所定の測温部位に挿抜自在に配置するための温度センサ挿入口が設けられている加硫金型であって、前記第1キャビティは、長手方向の一端側から他端側に向けて漸次深さが増加する態様に設定されている一方、前記第2キャビティは、前記第1キャビティの他端に連接されて、前記第1キャビティの最深部よりも浅く、最浅部よりも深い、均一な所定の深さに設定されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0029】
この発明の構成によれば、少なくとも、下部金型に、試験体形成空間部として機能する第1キャビティとは別に、測温専用空間部として機能する第2キャビティを独立に設けたので、温度センサを変形や損傷からまもることができ、ひいては、温度センサの長寿命化を図ることができる。これは、試料ゴム投入の際は、第2キャビティ充填分の試料ゴムも含めて、第1キャビティに投入すればよく、型締めされると、試料ゴムの第2キャビティ充填分は、第2キャビティへ流入し、その際の試料ゴムの強い粘弾性流体力は、(試料ゴムの流入方向に一致する)温度センサの軸心方向にしか作用しないため、温度センサ全体としては、粘弾性流体力の作用をそれほど強くは受けないためである。加えて、第2キャビティに対する温度センサの挿抜を自動化すれば、作業者の不注意、未熟練さに起因する温度センサの人的損傷も防止できる上、作業性の向上を図ることもできる。
【0030】
また、上記したように、試験体形成空間部とは別に、測温専用空間部を独立に設けたので、試料ゴム(ゴム試験体)の発泡限界観察領域と温度センサの投入配置領域との干渉を確実に回避できる。
このため、試料ゴムの熱分布が、温度センサの投入により乱されることがないので、誤差の少ない昇温速度・昇温曲線を得ることができる。加えて、加硫済みのゴム試験体を、厚さ中心面に沿って温度センサの痕跡がない、きれいな裁断面を得ることができるので、発泡限界観察を正確に行うことができる。また、測温専用空間部内に適正測温部位を設定する際は、発泡限界観察領域の干渉を受けずに、温度センサ本位で決めることができるので、一段と正確な昇温速度・昇温曲線を得ることができる。
【0031】
それゆえ、この発明の構成によれば、温度センサが、適正測温部位で計測することができる上、きれいな裁断面上で発泡限界観察を行うことができるので、試料ゴムの昇温速度・昇温曲線を忠実に計測でき、結果として、試験結果の信頼性・再現性を高めることができ、ひいては、試料ゴムのブローポイントの特定精度を一段と高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】この発明の一実施形態であるブローポイント特定用の試験装置であって、下部金型が前進し、温度センサが挿着された状態の同試験装置の構成を概略示す図である。
【
図2】同ブローポイント特定用の試験装置であって、下部金型が後進し、温度センサが抜脱された状態の同試験装置の構成を概略示す図である。
【
図3】下部金型の構成を概略示す図で、同図(a)は平面図、同図(b)は正面図である。
【
図4】下部金型の構成を示す側面図で、同図(a)は、温度センサが下部金型に挿着された状態の内部構成を破線で示す図、同図(b)は、温度センサが下部金型から抜脱された状態の内部構成を破線で示す図である。
【
図5】同実施形態の動作の説明に供される説明図である。
【
図6】ゴム試験体の長手方向に直交する内部断面に生じた気泡の分布状態を示す模式図である。
【
図7】第2キャビティ(測温専用空間部)にて、温度センサから取得された試料ゴムの昇温曲線を示すグラフである。
【
図8】同昇温曲線をデータ加工して得られる昇温不飽和度α(t)の対数の時間依存性を示すグラフである。
【
図9】
図8に示す昇温不飽和度α(t)の対数の時間依存性を一般化したグラフである。
【
図10】振動式加硫度試験機を用いて得られた加硫度曲線に基づいてブローポイントを特定するための解析図である。
【
図11】加硫度曲線の解析方法の説明に供される説明図である。
【
図12】従来の関連装置の説明に供される説明図である。
【
図13】従来の別の関連装置の説明に供される説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
上部金型と下部金型とが型締めされると、試験体形成空間部となる第1キャビティを、長手方向の一端側から他端側に向けて漸次深さが増加する態様で形成し、同じく、測温専用空間部となる第2キャビティを、第1キャビティの他端に連接させて、第1キャビティの最深部よりも浅く、最浅部よりも深い、均一な所定の深さに設定する形態とすることで、この発明を実施した。
また、第2キャビティ内の測温部位を、第2キャビティの深さ方向中心部又はその近傍に設定し、温度センサ挿入口を経由して、温度センサを第2キャビティに投入配置する際には、温度センサの先端部(熱接点)が当該測温部位に正確に位置決めされる形態とすることで、この発明を実施した。
また、温度センサを、記温度センサ挿入口を経由して、第2キャビティ内の測温部位に挿抜自在に投入配置できるように、所定の駆動機構により、下部金型を、温度センサに対して、水平方向に移動可能な形態とすることで、この発明を実施した。
【0034】
以下、図面を参照して、この発明の一実施形態について説明する。
図1は、この発明の一実施形態であるブローポイント特定用の試験装置であって、下部金型が前進し、温度センサが挿着された状態の同試験装置の構成を概略示す図、また、
図2は、同ブローポイント特定用の試験装置であって、下部金型が後進し、温度センサが抜脱された状態の同試験装置の構成を概略示す図である。
図3は、下部金型の構成を概略示す図で、同図(a)は平面図、(同図b)は正面図、また、
図4は、下部金型の構成を示す側面図で、同図(a)は、温度センサが下部金型に挿着された状態の内部構成を破線で示す図、同図(b)は、温度センサが下部金型から抜脱された状態の内部構成を破線で示す図である。
【0035】
まず、この実施形態の装置主要部の全体構成から説明する。
この実施形態の試験装置は、発泡限界観察用の加硫済みのゴム試験体を得るとともに、加熱、加圧加硫中の試料ゴムの昇温曲線データを取得するための装置に係り、装置主要部は、加硫金型と、加圧機構と、装置本体に不動状態に固定される温度センサと、除圧保持機構と、これらを支え固定し収容するフレーム構造体とを備えて概略構成されている。
【0036】
次に、
図1−
図4を参照して、この実施形態の装置各部について説明する。
上記加硫金型は、上下対をなす、上部金型1と下部金型2とから主要部が構成されている。上記上部金型1は、下部金型2と相対向する圧着面が、平面状に形成されている。下部金型2には、上部金型1と相対向する圧着面に、平面視長方形で、長手方向の一端側(図中右)から他端側(図中左)に向けて漸次深さが増加する楔形の第1キャビティ3と、該第1キャビティ3の他端に隔壁なしで連接延在する深さ均一の第2キャビティ4とが設けられている。上記上部金型1は、後述する加圧機構の作動の下で、昇降可能に構成されている。また、上記下部金型2は、自身が動くことで、装置本体に不動状態に固定されている温度センサ5を挿抜できるように、後述する下部金型駆動機構によって、温度センサ5に向けて、あるいは、温度センサ5から離れる方向に、水平移動自在に駆動制御される構成となっている。
【0037】
ここで、上記第1キャビティ3は、上記加圧機構の作動の下で、上部金型1と下部金型2とが型締めされると、投入充填された未加硫の試料ゴムに楔形の形状を与える試験体形成空間部となり、該空間部内では、流動充填された試料ゴムが加熱され加圧加硫されて、長手方向に加硫度が連続的に変化する、発泡限界観察用のゴム試験体が形成される。
次に、
図4に詳細に示すように、上記第2キャビティ4は、第1キャビティ3の長手方向に、第1キャビティ3と空間的には段差を有して延在連結されているものの、型締め後は、第1キャビティ3(試験体形成空間部)とは別個独立の測温専用空間部となって、該空間部内で加硫される試料ゴムが、温度センサ5による昇温曲線計測の対象となる。第2キャビティ4の深さは、同図に示すように、第1キャビティ3の最深部よりも浅く、最浅部よりも深く設定されている。これは、発泡限界部位は、第1キャビティ3の最深部と最浅部の中間にあるので、第2キャビティ4の深さも、上記中間に相当する深さに設定することが、試験結果の信頼性を高める上で好ましいためである。この実施形態では、第1キャビティ3の最浅部が5mmに、最深部が22mmに、第2キャビティ4の深さが14mmに、段差が8mmに、第1キャビティ3と第2キャビティ4とを合わせた全長が160mmに、それぞれ設定されている。なお、これらの寸法は、一例を示したに過ぎず、装置規模、測定規模などに応じて、適宜変更し得る。
【0038】
ここで、
図3および
図4に示すように、第2キャビティ4の壁部のうち、下部金型2の一端面に相当する壁部(図中左方)には、外部から、温度センサ5の先端部を、第2キャビティ4内の、その深さ中心面上で幅中心の所望の奥行き(あらかじめ決められた適正測温部位、簡単にいえば、適正測温点)に挿抜自在に配置できる機能を備えた温度センサ挿入口6が設けられている。この機能実現のために、この温度センサ挿入口6は、その全部あるいは一部が、テーパ状に形成されていて、外部側の開口が広口で、第2キャビティ4側の開口が狭口となっている。
【0039】
上記加圧機構は、
図1および
図2に示すように、両軸式エアシリンダ7と昇降ベース8とを備えて構成され、上部金型1を下降させて下部金型2と圧着させて、第1キャビティ3と第2キャビティ4とに流動充填された未加硫の試料ゴムを加熱して加圧加硫する。両軸式エアシリンダ7の加圧動作は、加圧加硫時間設定用の図示せぬ第1のタイマによって制御される構成となっている。
この実施形態では、上記温度センサ5は、装置本体に固定されていて、温度センサ側は不動状態であるが、図示せぬ下部金型駆動機構による駆動制御の下、上記下部金型2が水平方向に前進/後進移動することにより、
図4に示すように、温度センサ挿入口6を介して、第2キャビティ4内の適正測温部位に相対的に挿抜自在に配置されて、加硫中の試料ゴムの昇温曲線を計測する。この実施形態では、単一の温度センサ5のみから昇温曲線は計測される。これは、上記したように、複数の熱接点による同時計測によらなくても、単一の熱接点による1点計測のみでも、同時複数点計測の場合と同程度に測定信頼性のある昇温曲線データが得られることが、従来から確認されているためである。
【0040】
この温度センサ5は、棒状の熱電対温度センサからなり、この実施形態では、図示せぬセンサホルダ側の外径8mm程度の金属細管と、温度センサ挿入口6側の外径6mm程度の樹脂細管とに熱電対線が収容保護されてなるもので、上記樹脂細管は、温度センサ挿入口6の全部または一部と断面同形で同寸のテーパ状の先端部9を有し、該先端部9の突端には、1mm程度の小穴が開けられていて、その小穴から熱電対の熱接点が露出して、試料ゴムと熱接触できる構成となっている。
このように、温度センサ5の先端部9と温度センサ挿入口6とは、全体的にまたは部分的に、断面同形で同寸のテーパ状に形成されることで、温度センサ5の先端部9は、温度センサ挿入口6に緊密に嵌合されて、第2キャビティ4内に充填された試料ゴムの外部への流出を防止する密閉用の栓として機能するようにしている(
図4(a))。一方、温度センサ挿入口6は、下部金型2の前進移動時、第2キャビティ4内に進入する温度センサ5の先端部9を適正測温部位にて係合停止させるテーパ型の位置決めストッパとして機能するようにしている(同図(a))。なお、上記テーパ型の位置決めストッパに代えて、別途、専用の位置決め手段またはストッパを設けるようにしてもよい。
【0041】
なお、温度センサ5は、第2キャビティ4から抜脱された状態(同図(b))では、図示せぬ自動冷却機構の作動によって、たとえば、室温にまで迅速に冷却される構成となっている。上記自動冷却機構は、ブロー機器などからなり、装置本体と一体となってあるいは別体として設けられている。なお、必要に応じて、自動冷却機構に代えて、手動の冷却機構を用いてもよい。
また、上記除圧保持機構は、
図1および
図2に示すように、両軸式エアシリンダ7と昇降ベース8とドーナツ形の板バネ10を備えて構成され、試料ゴムを所定時間加圧加硫したのち、加圧機構の圧力を大気圧に開放すると、加圧によって板バネ10に蓄えられた反力によって、上部金型1を僅かに押し上げて除圧状態を保持する構成となっている。両軸式エアシリンダ7の除圧保持動作は、除圧保持時間設定用の第2のタイマによって制御される。また、上記フレーム構造体は、上部ベース板11と下部ベース板12と支柱13とから構成されて、装置主要部を支え、載置し、固定し、収容する。
【0042】
次に、
図1−
図4を参照して、装置各部について、さらに詳細に説明する。
上部均熱板14は、下部側の上部金型1を、熱接触状態で支持することで、均熱状態に保つ構成となっている。同様に、下部均熱板15は、上部側の下部金型2を、熱接触状態で支持することで、下部金型2を均熱状態に保つ構成となっている。
具体的には、上部均熱板14は、内部に埋設された電熱ヒータによって一様に加熱され、さらに、温度センサと温度調節器とによって一定温度に調節されることで、上部均熱板14の下面に当接配置された上部金型1を、加硫中の試料ゴムに対して、均熱状態の熱源としてふるまわせる。同様に、下部均熱板15も、内部に埋設された電熱ヒータによって一様に加熱され、温度センサと温度調節器とによって一定温度に調節されることで、下部均熱板15の上面に当接配置された下部金型2を、加硫中の試料ゴムに対して、均熱状態の熱源としてふるまわせる。ここで、上部均熱板14、下部均熱板15、上部金型1、下部金型2の素材としては、高熱伝導材質が好ましいことはもちろんである。
【0043】
両軸式エアシリンダ7は、上下に貫通した軸を有し、軸の昇降に応じて、軸の下端に接続された昇降ベース8を上下に昇降させる。昇降ベース8は、両軸式エアシリンダ7の軸の昇降に応じて下部に配置された上部均熱板14を介して上部金型1を上下に移動させて、上部金型1と下部金型2とを開閉し、圧着し、脱着する。
次に、上記除圧保持機構は、両軸式エアシリンダ7の上軸に、ドーナツ形の板バネ10が嵌め込まれていて、型締め時、上部金型1と下部金型2との圧着位置にて、軸の上端に固定された当て板16によって板バネ10が圧縮して、両軸式エアシリンダ7の軸に上向きの反力を発生させる構成となっている。この実施形態では、この上向きの反力は、両軸式エアシリンダ7の内圧を開放したときに、両軸式エアシリンダ7の軸とともに昇降する物体の総重量を押し上げて、上部金型1と下部金型2との間に数mm程度の隙間を形成させる程度の強さに設定され、この上向きの反力によって、上部金型1が僅かに押し上げられて除圧状態が保持される構成となっている。
【0044】
上部断熱スペーサ17は硬質断熱材からなり、上部均熱板14からの熱漏れを抑制する。下部断熱スペーサ18も硬質断熱材からなり、下部均熱板15からの熱漏れを抑制する。上部均熱ガード19は上部金型1の周囲を井桁状に取り囲む軽合金角棒製の部材からなり、上部金型1の側面からの放熱を防止する。下部均熱ガード20も下部金型2の周囲を井桁状に取り囲む軽合金角棒製の部材からなり、下部金型2の側面からの放熱を防止する。
【0045】
また、下部金型駆動機構は、装置本体に固定されている温度センサ5に対して下部金型2を走行自在に駆動させるための図示せぬガードレールと、下部金型2の前進移動・後進移動を制御する図示せぬ制御部とを備えている。
この実施形態では、下部金型2は、下部金型駆動機構による駆動制御の下で、
図4(a)に示すように、温度センサ5に向けて前進移動すると、温度センサ5は、温度センサ挿入口6を通って、第2キャビティ4に自動挿入される。そして、温度センサ5が、第2キャビティ4内の適正測温部位に到達すると、温度センサ挿入口6の位置決めストッパ機能が働いて、下部金型2のさらなる前進は不可となるので、下部金型2は、その時点で、前進移動を停止する構成となっている。この結果、温度センサ5は、第2キャビティ4内の適正測温部位にとどまる、つまり、第2キャビティ4内に自動装着され、適正位置に自動配置される、ことになる。一方、下部金型2は、下部金型駆動機構の制御の下で、
図4(b)に示すように、温度センサ5に対して後進移動すると、温度センサ5が、温度センサ挿入口6を介して、第2キャビティ4から自動的に抜脱される構成となっている。
【0046】
下部金型2の(上部金型1と相対向する)圧着面には、
図3に示すように、加圧加硫の開始時に、第1、第2キャビティ3、4から外部に溢出される余剰の試料ゴムを溜め置くためのコ字状のバリ溝21が、第1、第2キャビティ3、4を三方(同図(a))または四方から囲む態様で設けられている。さらに、下部金型2の周端部には、型締めの際に、上部金型1と下部金型2とを正確に組み合わせるための位置合わせ手段として、上部金型1の周端部に設けられた図示せぬ位置合わせ用ピン孔に嵌合される位置合わせ用ピン22、22が設けられている。
【0047】
次に、
図1−
図5を参照して、上記構成の試験装置の動作について説明する。
まず、熱源の温度を、たとえば、170℃に設定し維持する。ここで、熱源の温度とは、上部均熱板14および下部均熱板15によって、それぞれ加熱された上部金型1および下部金型2の各温度のことである。
熱源の温度が定常状態に達すると、作業者は、たとえば、カーボンブラック50PHRを含むSBR系配合ゴムからなる、未加硫の試料ゴム23を、下部金型2の第1キャビティ3に投入する(
図5(a))。試料ゴムの投入量は、第1キャビティ3の容積と第2キャビティ4の容積との総和より若干多めに設定される。しかし、作業者は、第2キャビティ4には、試料ゴム23を投入しない。したがって、この時点では、第2キャビティ4は、試料ゴム未投入で温度センサ未装着の空虚な凹空間である。
【0048】
こののち、下部金型駆動機構による駆動制御の下で、下部金型2が、装置固定型の温度センサ5に向けて前進移動を開始する。下部金型2の前進移動が進むにつれて、温度センサ5が、温度センサ挿入口6を経由して、空虚な第2キャビティ4に自動的に挿入される。そして、温度センサ5が、第2キャビティ4内の適正測温部位に到達すると、温度センサ挿入口6の位置決めストッパ機能が働いて、下部金型2のさらなる前進は不可となるので、下部金型2は、その時点で、前進を停止する(
図1、
図4(a))。この結果、温度センサ5の先端部9の熱接点は、第2キャビティ4内の適正測温部位に正確に保持される、つまり、第2キャビティ4内に自動装着され、あらかじめ決められた適正位置に自動配置される、ことになる(
図5(a))。なお、温度センサ5は、初期温度として、室温に設定されている。
【0049】
次に、加圧加硫時間設定用の第1のタイマが始動すると、加圧機構(両軸式エアシリンダ7、昇降ベース8)が、上部金型1を下降させ、位置合わせ用ピン22、22と位置合わせ用ピン孔とを嵌合させて、下部金型2と上部金型1とを圧着して型締めする。上部金型1と下部金型2とが型締めされると、下部金型2の第1キャビティ3は、上部金型1の平面と合体して、平面視長方形で、長手方向の一端側(図中右)から他端側(図中左)に向けて漸次深さが増加する楔形の試験体形成空間部3になるとともに、下部金型2の第2キャビティ4は、上部金型1の平面と合体して、試験体形成空間部の他端に隔壁なしで連接延在する深さ均一の測温専用空間部4になる(
図5(b))。このとき、下部金型2の第1キャビティ3に投入された未加硫の試料ゴム23は、型締めの進行につれて、未加硫ゴムの流動性によって、試験体形成空間部を完全に満たし、余剰の試料ゴム23は、温度センサ5の熱接点がすでに適正配置されている測温専用空間部に流れ込んで、測温専用空間部をも完全に充填し、それでも余剰の試料ゴム23は、第1、第2キャビティ3、4の外側を囲むコ字状のバリ溝21に排出する(
図3)。
【0050】
型締めの瞬間に始まる上部金型1と下部金型2との内壁からの熱伝導によって、試験体形成空間部3および測温専用空間部4内の未加硫の試料ゴム23は、それぞれの厚みに応じて、室温から急速に昇温する。試験体形成空間部3内では、充填された試料ゴム23が加熱され加圧加硫されて、長手方向に加硫度が連続的に変化する、発泡限界観察用のゴム試験体24が形成されてゆく。測温専用空間部4内では、熱接点が適正測温部位に保持された温度センサ5によって、該空間部内を充填する熱接点まわりの試料ゴム23の温度が、室温から追跡されて、その昇温曲線が計測される。
【0051】
この実施形態では、予め、たとえば、240秒に設定された加圧加硫時間が満了すると、第1のタイマからの終了信号によって両軸式エアシリンダ7の内圧が大気圧まで開放される。この結果、板バネ10の反力によって、上部金型1がわずかに引き上げられて、上部金型1と下部金型2との圧着界面に隙間が生じ、ここで、加圧加硫が終了する。同時に除圧保持時間設定用の第2のタイマが動作を開始する。
板バネ10の反力によって、上部金型1と下部金型2との圧着面に隙間ができると、それまで高圧に保持されていた試料ゴムの内圧は瞬時にして大気圧まで低下し、高温高圧によってゴム試験体24内に閉じ込められている種々の低沸点成分(たとえば、水分など)が一挙に気化しようとする。この際、気泡発生を押さえ込むのに十分な弾性率レベルまで加硫が進行していない“生焼け”部分には、“生焼け”状態の程度に応じて、ゴムの連続固相内に微細な気泡が発生する。これが除圧発泡のメカニズムである。
【0052】
除圧発泡によって発生した気泡は瞬時には膨張せず、ゴム特有の粘弾性によって気泡の膨張には若干の時間遅れがあり、このため、気泡が断面観察で見分けやすい大きさにまで拡大するには、ある程度の膨張待ちの時間を必要とする。ここで、一般的に知られていることであるが、除圧発泡の膨張速度は気泡のガス圧に依存し、ガス圧は高温ほど高く、一方、気泡の膨張に対する抵抗力であるゴムの破壊強度は、高温ほど低下する。そこで、この実施形態では、加圧加硫時の温度と同じ温度で、30秒程度の短い時間、ゴム試験体24を無圧保持することで、除圧発泡処理を行っている。この理由は、加圧加硫時の温度を維持したまま、ゴム試験体24を無圧保持するならば、気泡が、迅速かつ安定的に、識別容易な大きさにまで成長でき、この結果、ゴム試験体24の厚さ中心点での発泡限界の断面観察を正確かつ容易に行うことができるためである。
【0053】
予め設定された除圧保持時間が満了すると、第2のタイマからの終了信号によって、両軸式エアシリンダ7および下部金型駆動機構の動作が切り替えられて、上部金型1は、昇降ベース8を介して、上昇し(
図1)、下部金型2は、温度センサ5に対して後進移動する(
図2、
図4(b))。これに伴って、温度センサ5は、温度センサ挿入口6を介して、第2キャビティ4から自動的に抜脱される(
図2、
図4(b))。
こののち、長手方向に沿って発泡の状態が連続的に変化する楔形のゴム試験体24を第1キャビティ3から取り出すことが可能となり、第2キャビティ4からは、測温済みの試料ゴム片25を取り出すことが可能となる。ゴム試験体24と試料ゴム片25とは一体の状態で取り出されたのち、切断されて分離される(
図5(c))。
第2キャビティ4から抜脱された温度センサ5は、次回の昇温計測に備えて、自動冷却機構によって、室温(初期温度)にまで迅速に冷却されて待機状態となる。
【0054】
図6は、から取り出された、加硫済みのゴム試験体24の長手方向に直交する内部断面A、B、Cに生じた気泡の分布状態を示す模式図である。
ゴム試験体24は、同図に示すように、平面視長方形で、長手方向の一端側(図中左方)から他端側(図中右方)に向けて肉厚が漸次減少する態様の楔形に成型されているので、図中左方の内部断面ほど、肉厚の厚い部位の切口となり、図中右方の内部断面ほど、肉厚の薄い部位の切口となる。
図6において、内部断面Aは、楔形のゴム試験体24のうち、肉厚の厚い部位の切口にあらわれる気泡の分布状態を示し、内部断面Bは、肉厚が中くらいの部位の切口にあらわれる気泡の分布状態を示し、内部断面Cは、肉厚の薄い部位の切口にあらわれる気泡の分布状態を示している。
除圧発泡のメカニズムによれば、気泡は、ゴム試験体24における昇温が遅れた部位、すなわち、生焼け”部分に発生するので、上部金型1や下部金型2の内壁から遠い部位に発生しやすく、内壁に近い部位では発生しにくい。ここで、内壁には、試験体形成空間部3を画成する上部金型1の圧着面や第1キャビティ3の底面のみならず、側壁面(すなわち、第1キャビティ3の側壁面)も含まれる。
【0055】
この結果、ゴム試験体24の長手方向に直交する内部断面にあらわれる気泡は、同図に示すように、ゴム試験体24の厚さ中心線の両脇を除いた領域を中心として、楕円状に分布する傾向にある。この楕円の上下方向の幅は、内部断面Cに示されるように、発泡限界部位に近づくにしたがって狭くなり、発泡限界部位では、ゴム試験体24の厚さ中心線上に集中する。したがって、発生した気泡を単一の断面で効率よく評価するには、ゴム試験体24の厚さ中心面を裁断面とするのが、最も好ましい。
【0056】
発泡限界部位の特定と厚さの算出
そこで、この実施形態では、裁断機を用いて、加硫済みのゴム試験体24を厚さ方向に2分割して、ゴム試験体24の厚さ中心面を露出させ、露出した厚さ中心面をカメラで撮影する。そして、厚さ中心面の撮影画像について行う断面観察から確認できる微小気泡の発生限界点、すなわち、発泡限界部位を特定し、基準位置から発泡限界部位までの長さを測定する。
こののち、測定された基準位置から発泡限界部位までの長さと、基準位置の厚さとゴム試験体の勾配とに基づいて、発泡限界部位でのゴム試験体の厚さを算出する。なお、必要に応じて、断面画像に代えて、光学式の自動発泡識別装置を用いてもよく、あるいは、目視による直接断面観察を行ってもよい。
【0057】
熱拡散定数χの算出
図7は、第2キャビティ(厚さ既知の測温専用空間部)4にて、温度センサ5によって計測された試料ゴム23の昇温曲線を示すグラフである。
図7の計測昇温曲線から得られる温度の経時変化データを式(1)に適用することによって、温度軸を第2キャビティ(測温専用空間部)4内の厚さ中心点における試料ゴム23の昇温不飽和度α(t)に変換し、その自然対数(lnα(t)の時間依存性を図示すれば、
図8に示すように、熱伝導理論から導かれる式(2)に対応する概略線形のグラフが得られる。
そこで、
図8のデータを、最小2乗法で直線近似して勾配係数を求め、熱源から熱接点までの伝熱距離(h)と勾配係数を式(3)に代入すると、今回の試験対象である、カーボンブラック50PHRを含むSBR系配合ゴムからなる、試料ゴム23の熱拡散定数χの値として、0.132mm
2/secが算出される。なお、この実施形態では、温度センサ5の熱接点は、第2キャビティ(測温専用空間部)4に充填された試料ゴムの厚さ中心点に配置されるので、熱源から熱接点までの伝熱距離hは、第2キャビティ4の深さ(14mm)の半分、すなわち、7mmである。
この実施形態において、試料ゴム23の熱拡散定数χの値、0.132mm
2/secは、上記したように、単一の熱接点で計測された昇温曲線に基づいて算出されたものであるが、この算出値は、従来の同時複数点計測法を適用した場合の各熱接点で計測された昇温曲線に基づいて算出される熱拡散定数χの変動の程度を示す変動係数2.3%の範囲内に収まるので、この種の測定値としては、良好な再現性を示しているといえる。
なお、
図8では、時間依存性の横軸が時間tであるため、厚さhごとに勾配係数は異なるが、横軸をt/h
2とすれば、
図9に示すように、厚さhの如何にかかわらず、昇温不飽和度α(t)の対数の時間依存性・勾配係数を一般化することができる。それゆえ、t/h
2軸を横軸とする
図9を用いて、データ整理するようにすれば、小片のサンプルを用いた測定でも、通常のタイヤのシミュレーションだけでなく、航空機タイヤを含む大型タイヤの製造工程における加硫条件の検討にも有用である。
【0058】
等価加硫時間の算出
このようにしてそれぞれ算出された、試料ゴム23の熱拡散定数χと、ゴム試験体24の発泡限界部位(微小気泡の発生限界点)の厚さ“2h”とを式(2)に代入して、試料ゴム23の昇温不飽和度α(t)の対数表記lnα(t)を求め、求めたlnα(t)をα(t)に変換してから、α(t)を与える式(1)に基づいて、試料ゴム23の発泡限界部位での昇温曲線(算出昇温曲線)を算出する。
次に、式(1)から得られた試料ゴム23の算出昇温曲線と予め求めた試料ゴムの活性化エネルギとに基づいて、式(5)の定積分を実行して、等価加硫時間(発泡限界部位の熱履歴に等価な基準温度保持時間)を算出する。この実施形態では、上記したように、試料ゴム23の加硫条件を、基準温度(熱源の温度)170℃、加硫時間240秒に設定したので、試料ゴム23の発泡限界部位での算出昇温曲線について、式(5)の定積分を、[t
1=0,t
2=240sec]の範囲で実行して、170℃換算の等価加硫時間を算出した。こうして算出された等価加硫時間は、たとえば、144秒であった。
なお、昇温曲線T(t)の実際の値は、等時間間隔ディジタル数列の形でコンピュータに記憶されているので、式(5)の定積分は、コンピュータの自動演算処理によって容易に実行できる。
【0059】
ブローポイント(発泡限界加硫度)の特定
この実施形態では、算出された等価加硫時間を、同一試料ゴムについて、同一基準温度で測定された加硫度曲線に当てはめることで、ブローポイントを特定する。
図10は、振動式加硫度試験機(機種名称:FDR)を用いて、別途測定しておいた基準温度170℃での試料ゴム23の加硫度曲線を示す解析図である。
同図において、加硫度曲線上に付した○印は、等価加硫時間144秒の対応点を示し、この対応点の縦軸値と、JIS K 6300−2の方法で求めた、
図11に示すM
L、M
H、M
Eの値を式(6)に代入すれば、ブローポイント(BP)が特定される。このようにして、この実施形態では、試料ゴム23のブローポイント(BP)として、22%の値が得られた。
【0060】
このように、この実施形態の構成によれば、下部金型に、第1キャビティ(試験体形成空間部)とは別に、第2キャビティ(測温専用空間部)を独立に設けたので、温度センサを変形や損傷からまもることができる。これは、試料ゴム投入の際は、第2キャビティ充填分の試料ゴムも含めて、第1キャビティに投入すればよく、型締めされると、試料ゴムの第2キャビティ充填分は、第2キャビティへ流入し、その際の試料ゴムの強い粘弾性流体力は、(試料ゴムの流入方向に一致する)温度センサの軸心方向にしか作用しないため、温度センサ全体としては、粘弾性流体力の作用をそれほど強くは受けないためである。加えて、第2キャビティに対する温度センサの挿抜が自動化されているので、作業者の不注意、未熟練さに起因する温度センサの人的損傷も防止できる。
【0061】
また、上記したように、試験体形成空間部とは別に、測温専用空間部を独立に設けたので、試料ゴム(ゴム試験体)の発泡限界観察領域と温度センサの投入配置領域との干渉を確実に回避できる。このため、加硫済みのゴム試験体を、厚さ中心面に沿って温度センサの痕跡がない、きれいな裁断面を得ることができるので、発泡限界観察を正確に行うことができる。また、測温専用空間部内に適正測温部位を設定する際は、発泡限界観察領域の干渉を受けずに、温度センサ本位で決めることができるので、一段と正確な昇温速度・昇温曲線を得ることができる。
それゆえ、この種の試験結果の信頼性・再現性を高めることができ、ひいては、試料ゴムのブローポイントの特定精度を一段と高めることができる。
【0062】
以上、この発明の実施形態を図面により詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られたものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更などがあってもこの発明に含まれる。たとえば、上述の実施形態では、下部金型側に、第1キャビティの全部と第2キャビティの全部を設けるようにしたが、これに限らず、上部金型側にも、第1キャビティの上側部分と第2キャビティの上側部分とを設けるようにしてもよい。また、上述の実施形態では、下部金型自身を、固定型の温度センサに対して、前後進移動自在とすることで、温度センサを第2キャビティ内に挿抜できるようにしたが、これに限らず、温度センサを、不動の下部金型に対して、前後進移動自在とすることで、温度センサを第2キャビティ内に自動挿抜できるようにしてもよい。なお、必要に応じて、自動挿抜に代えて、手動挿抜としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
この発明の発泡限界加硫度特定用の試験装置は、通常のタイヤのシミュレーションだけでなく、航空機タイヤを含む大型タイヤや、ベルトや、防振ゴムなどの製造開発段階における加硫条件の検討にも適用できる。
【符号の説明】
【0064】
1 上部金型(加硫金型)
2 下部金型(加硫金型)
3 第1キャビティ(キャビティ、試験体形成空間部)
4 第2キャビティ(キャビティ、測温専用空間部)
5 温度センサ
6 温度センサ挿入口
9 温度センサ5の先端部
7 両軸式エアシリンダ(加圧機構、除圧保持機構)
8 昇降ベース(加圧機構、除圧保持機構)
10 板バネ(バネ、除圧保持機構)
14 上部均熱板(加硫金型の一部)
15 下部均熱板(加硫金型の一部)
23 未加硫の試料ゴム
24 ゴム試験体