(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357479
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】材料の識別方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/083 20180101AFI20180702BHJP
【FI】
G01N23/083
【請求項の数】10
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-541235(P2015-541235)
(86)(22)【出願日】2013年11月11日
(65)【公表番号】特表2016-501360(P2016-501360A)
(43)【公表日】2016年1月18日
(86)【国際出願番号】GB2013052955
(87)【国際公開番号】WO2014076461
(87)【国際公開日】20140522
【審査請求日】2016年10月19日
(31)【優先権主張番号】1220418.6
(32)【優先日】2012年11月13日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】513066122
【氏名又は名称】クロメック リミテッド
【氏名又は名称原語表記】KROMEK LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100179589
【弁理士】
【氏名又は名称】酒匂 健吾
(72)【発明者】
【氏名】イアン ラドレイ
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン ジョン キャントウェル
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー キース パウエル
【審査官】
越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−008441(JP,A)
【文献】
特表2009−515190(JP,A)
【文献】
特表2011−521208(JP,A)
【文献】
特開2009−122108(JP,A)
【文献】
特開2009−042134(JP,A)
【文献】
特開2009−053090(JP,A)
【文献】
特開2009−122043(JP,A)
【文献】
米国特許第4571491(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2001/0004395(US,A1)
【文献】
米国特許第5930326(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の組成を識別および検出するための、物体の放射線検査方法であって、
試験対象の物体にX線またはγ線などの高エネルギー放射線を照射するとともに、該物体から放出される放射線を適切な検出システムで収集し、この際、該放出される放射線の強度データを試験対象の物体の全体積について収集する工程と、
全体の検出面積にわたり積分した放射線の吸収から導かれる計算を実行することにより、前記放射線の強度データを数値的に処理して、前記
試験対象の物体の全体積内の電子の合計数
Neと相関する第1のデータ項目を取得する工程であり、
該計算が、
一連の透過率測定を実行し、次式の関係
【数1】
ここで、Iは、媒体から生じる、入射強度I0のビームにおける出力強度である、
に従って、放射線の透過率Tを求める工程と、
次式の関係
【数2】
ここで、βは、比例定数としてセットされたものである、
に従って、全体の検出面積Aにわたり積分を行い、それによって、
試験対象の物体の全体積内の電子の合計数
Neと相関する積を求める工程とを備える、工程と、
別の方法を適用して、前記
試験対象の物体の全体積の別の特性と相関する第2のデータ項目を取得する工程と、
前記第1および前記第2のデータ項目を用いて、前記
試験対象の物体の全体積の材料内容物の指標を導出する工程とを備える方法。
【請求項2】
前記放射線の強度データを数値的に処理して、全体の検出面積にわたり積分した放射線の吸収から導かれる計算を実行することにより前記
試験対象の物体の全体積内の電子の合計数と相関する第1のデータ項目を取得する工程を備え、
該計算が、
一連の透過率測定を実行し、次式の関係
【数3】
ここで、Iは、厚さt、線減衰係数μの媒体から生じる任意のエネルギーにおける、入射強度I0のビームにおける出力強度である、
に従って、放射線の透過率Tを求める工程と、
次式の関係
【数4】
ここで、βは、電子密度ρeに対する比例定数としてセットされたものである、
に従って、全体の検出面積Aにわたり積分を行う工程と、
これらから、次式の関係
【数5】
に従って、
試験対象の物体の全体積内の電子の合計数Neを求める工程とを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2のデータ項目を、前記試験対象の物体の全体積の全ての原子の特性と相関するよう選択する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2のデータ項目を、電子の合計数の測定値と共処理し得るものとして選択して、体積の測定を必要とすることなく、前記材料内容物について推断する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2のデータ項目を、前記物体内の電子の合計数と相関する前記第1のデータ項目とともに数値的に処理し得るものとして選択し、それぞれの体積の前記データ項目への寄与を打ち消し得るようにする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
両データ項目を、調査する体積で積分した合計数として導出し、前記試験対象の物体の全体積の体積を把握する必要がなくなるようにする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第2のデータ項目が前記物体内の核子の合計数と相関する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1のデータ項目および前記第2のデータ項目を数値的に共処理して比を生成し、この比を用いて前記試験対象の物体の全体積の材料内容物について推断する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記放射線が高エネルギー電離放射線からなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記放射線が広帯域X線源またはγ線源から発生する、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線またはγ線などの高エネルギー放射線を用いて材料を識別する方法に関し、特に、1つ以上の全原子技術とともにX線全原子技術を用いる。
【0002】
本発明は、とりわけ、内部内容物および/または含有材料の組成についての情報を得ることが望ましい場合に、X線またはγ線などの高エネルギー放射線を利用して物体をスキャンする装置および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来のデュアル・エネルギー技術は、液体の密度を識別に用いる。密度を計算するためには、調査するサンプルのサイズの情報が必要である。鞄中の多数のボトルなど、複雑な3次元構造体についてこれを計算するのは非常に困難となり得る。
【発明の概要】
【0004】
本発明によれば、第1の態様において、物体の組成を識別および検出するための、物体の放射線検査方法は、
試験対象の物体にX線またはγ線などの高エネルギー放射線を照射するとともに、該物体から放出される放射線を適切な検出システムで収集し、この際、該放出される放射線の強度データを試験対象の物体の全体積について収集する工程と、
放射線強度データを数値的に処理して、サンプル内の電子の合計数と相関する第1のデータ項目を取得する工程と、
別の方法を適用して、サンプルの別の特性と相関する第2のデータ項目を取得する工程と、
第1および第2のデータ項目を用いて、サンプルの材料内容物の指標を導出する工程とを備える。
【0005】
本発明は、放射線測定とともに他の直交技術を用いることによってサンプルを測定する必要をなくすことができる。放射線技術を用いることによって、サンプル内の電子の合計数と相関する第1のデータ項目を導出する。何らかの別の形で同サンプルの特性と相関する、特に好ましくは同サンプルの全ての原子の特性と何らかの別の形で相関する、第2の直交データ項目を、直交技術を用いて生成する。その後、第1および第2のデータ項目を用いて、例えば数値的に共処理して、体積の測定を必要とすることなく、サンプルの材料内容物の指標を導出し得る。
【0006】
本発明の要点は、電子の合計数の測定と共処理することができる、サンプルの何らかの別の特性のさらなる測定結果とともに、放射線測定を用いて、物体内の電子の合計数と相関するデータ項目を取得して、体積の測定を必要とすることなく材料内容物について推断することにある。この条件を満たす、サンプルの任意の第2の特性を想定し得る。
【0007】
例えばサンプルの第2の特性を、物体内の電子の合計数と相関する第1のデータ項目とともに数値的に処理し得るものとし、これによりそれぞれの体積のデータ項目への寄与を打ち消し得るようにすると好都合である。両データ項目を、調査する体積で積分した合計数として導出し、サンプルの体積を把握する必要がなくなるようにすると好都合である。例えば、サンプルの第2の特性はサンプルの全ての原子の特性と何らかの形で相関すると好都合である。ある特定の場合、サンプルの第2の特性は物体内の核子の合計数と相関すると好都合である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
好都合な実施形態では、第1のデータ項目および第2のデータ項目を数値的に共処理して比を生成し、この比を用いてサンプルの材料内容物について推断する。
【0010】
放射線は、電離放射線などの高エネルギー放射線、例えばX線および/またはγ線などの高エネルギー電磁放射線からなることが好ましく、そのスペクトルの放射線の検出に対応するよう検出システムを構成する。放射線は、例えば、広範なエネルギーにわたる広帯域スペクトル放射を生じることが可能な広帯域X線源またはγ線源などの広帯域線源から発生するものである。
【0011】
本発明の方法によれば、放射線技術を用いて、サンプル内の電子の合計数と相関する第1のデータ項目を導出する。これは、特に、透過強度情報を収集し、物体による減衰の測定結果を導出して、サンプル内の電子の合計数の測定値を導出することにより行い得る。
【0012】
X線が媒体を通過する際、X線が減衰し得る様式として主に以下の2つの様式がある。
・低エネルギーでは、光子エネルギーを原子の軌道に乗る電子に伝達する光電効果の影響が大きくなる。
・より高いエネルギーでは、光子が原子の周囲の電子を散乱させるコンプトン散乱が起こる。
【0013】
いずれのプロセスも、同じ割合ではないが、X線の経路内の電子数に依存する。例えば、低エネルギーでは、原子番号が約10を超える材料の場合、電子殻効果が働く。そのため、ビーム中の電子数への吸収の依存は、エネルギーにも依存する。
【0014】
本発明は、この現象を利用して(このX線陰影技術を用いて)サンプル内の電子の合計数の測定値を取得し、その後この情報を直交技術とともに用いて材料識別情報を収集する方法に関する。
【0015】
X線陰影技術の一実施形態では、物体全体に広帯域X線ビームを照射し、アレイ検出器で強度情報を収集する。
【0016】
体積全体の情報を集める別の実施形態は、ベルト上にサンプルを載せた状態で、物品全体をスキャンする単一の移動式検出器、すなわち多数のピクセルのリニアアレイ、を用いる大型の単一検出器から、サンプル全体を同時に捉える二次元アレイ検出器まで様々である。
【0017】
何らかの実施形態によって照合された、サンプル全体にわたるX線情報を用いて、全ての検出器にわたる吸収を積分することにより電子計測数を計算し得る。
【0018】
第1の近似値として、任意のエネルギーにおけるある材料の線減衰係数(μ)は、
【数1】
である。
βを電子密度ρ
eに対する比例定数とすると、
【数2】
である。
入射強度I
0を有する厚さtの媒体から生じる任意のエネルギーのビームの出力強度Iのランベルト・ベールの式では、透過率Tは
【数3】
で表される。
両辺の対数をとって先の式を線減衰係数に代入すると、
【数4】
となる。
面積AにわたるX線を収集すると、その面積にわたって積分することができる。
【数5】
ただし、
【数6】
であり、
【数7】
である。
ここで、Vは調査するサンプルの体積であり、N
eはサンプル内の電子数である。したがって、
【数8】
となる。
そのため、βを取得するようシステムを較正した場合、サンプル内の電子数を一連の透過率測定によって計算することができる。
【0019】
その後、本発明の方法は、直交法を用いてサンプルの別の特性と相関する第2のデータ項目を取得し、これを測定した電子数とともに用いてサンプルの材料内容物の指標を導出する。例えば、サンプルの第2の特性がサンプルの全ての原子の特性と何らかの形で相関すると好都合である。この第2の方法の最も単純な事例は、単一測定であり得、または同様に、物体の全体的な特性の測定値をもたらす、多数のサブ測定値の積分であり得る。これらのサブ測定値は、個々のX線経路の測定値に対応して用いられる場合、物体内の不均一性の確認に有用となり得る。
【0020】
ある特定の場合、サンプルの第2の直交特性の一例は、物体サンプル内の核子の合計数である。直交法の一例は、サンプルの重量を測定することである。これにより、サンプル内の核子(陽子および中性子)の合計数を効果的に得ることができる。電子の数は原子中の陽子の数と一致するため、核子数と電子数の差は、中性子の数の指標をもたらす。
図1の安定同位体の標準グラフに示されるように、陽子と中性子の比により元素を判別する方法がもたらされる。
【0021】
サブ測定直交法の一例は、質量サブ測定システムを用いて物体にわたる質量プロファイルをマッピングすることである。