(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カチオン性化合物は、アルキル−アンモニウム、アルキル−ポリアンモニウム、直鎖状ポリアミン、直鎖状ポリエチレンイミン、分枝状ポリエチレンイミン、ポリ−L−リジン、トリメチル−ポリ−グルコサミン、多価金属イオン、N,N’−ジヘキサデシル−1,2−エタンジアミン、テトラエチルヘキサデカン−1,16−ジアミン、ヘキサデカン−1,16−ビス(トリメチルアンモニウムブロミド)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、ジメチルジヘキサデシルアンモニウムクロリド、N−[1−(2,3−ジオレオイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムメチルスルフェート(DOTAP)、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、1,2−ジステアロイル−3−(トリメチルアンモニオ)プロパンクロリド(DSTAP)、ジミリストイルトリメチルアンモニウムプロパン(DMTAP)、またはジオクタデシルジメチルアンモニウムブロミド(DODAB)である、請求項1に記載の薬学的組成物。
前記カチオン性化合物は、アルキル−アンモニウム、アルキル−ポリアンモニウム、直鎖状ポリアミン、直鎖状ポリエチレンイミン、分枝状ポリエチレンイミン、ポリ−L−リジン、トリメチル−ポリ−グルコサミン、多価金属イオン、N,N’−ジヘキサデシル−1,2−エタンジアミン、テトラエチルヘキサデカン−1,16−ジアミン、ヘキサデカン−1,16−ビス(トリメチルアンモニウムブロミド)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、ジメチルジヘキサデシルアンモニウムクロリド、N−[1−(2,3−ジオレオイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムメチルスルフェート(DOTAP)、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、1,2−ジステアロイル−3−(トリメチルアンモニオ)プロパンクロリド(DSTAP)、ジミリストイルトリメチルアンモニウムプロパン(DMTAP)、またはジオクタデシルジメチルアンモニウムブロミド(DODAB)である、請求項11に記載の薬学的組成物。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(発明の詳細な説明)
本明細書全体を通じて、用語「約(about)」および/もしくは「約、およそ(approximately)」は、数値および/もしくは範囲に関して使用され得る。用語「約」は、記載される値の近くのそれらの値を意味すると理解される。例えば、「約40[単位]」は、40の±25%以内(例えば、30から50まで)、±20%以内、±15%以内、±10%以内、±9%以内、±8%以内、±7%以内、±6%以内、±5%以内、±4%以内、±3%以内、±2%以内、±1%以内、±1%未満、またはその中もしくはそれ以下の任意の他の値もしくは値の範囲を意味し得る。さらに、語句「約[ある値]未満」もしくは「約[ある値]より大きい」とは、本明細書で提供される用語「約」の定義に鑑みて理解されるべきである。用語「約」および「約、およそ」は、交換可能に使用される。
【0030】
本明細書全体を通じて、数値範囲は、特定の量に関して提供される。これらの範囲がその中の全ての部分範囲を含むことは理解されるべきである。従って、「50〜80」の範囲は、その中の全ての考えられる範囲(例えば、51〜79、52〜78、53〜77、54〜76、55〜75、60〜70など)を含む。さらに、所定の範囲内の全ての値は、それによって包含される範囲の端点であり得る。(例えば、範囲50〜80は、端点を伴う範囲(例えば、55〜80、50〜75など)を含む)。
【0031】
本明細書全体を通じて、単語「a(1つの、ある)」もしくは「an(1つの、ある)」は、別段明確に示されなければ、「1以上」を意味することが理解される。さらに、単語「a(1つの、ある)」もしくは「an(1つの、ある)」および語句「1以上」は、交換可能に使用され得る。
【0032】
用語「処置する」とは、以下を包含する:(1)状況、障害もしくは状態を罹っている可能性があるかもしくはその素因があり得るが、上記状況、障害もしくは状態の臨床症状もしくは不顕性の症状(subclinical symptom)をまだ経験していないかまたは示していない被験体において発生しつつある上記状況、障害もしくは状態の臨床症状の出現を予防または遅らせること;(2)上記状況、障害もしくは状態を阻害すること(例えば、上記疾患の発生、維持処置の場合にはその再発、その臨床症状もしくは不顕性の症状のうちの少なくとも1つを停止、低減もしくは遅らせること);ならびに/あるいは(3)上記状態を軽減すること(例えば、上記状況、障害もしくは状態、またはその臨床症状もしくは不顕性の症状のうちの少なくとも1つの後退を引き起こすこと)。処置される予定の被験体に対する利益は、統計的に有意であるか、または上記被験体にもしくは医師に少なくとも知覚できるかのいずれかである。
【0033】
「予防」は、本明細書で使用される場合、感染もしくは疾患の完全な防止、またはその感染もしくは疾患の症状の発生の防止;感染もしくは疾患またはその症状の始まりを遅らせること;あるいは後に発生した感染もしくは疾患またはその症状の重症度の低減を意味し得る。
【0034】
「有効量」は、所望の治療応答を生じるために十分な、本発明において使用されるプロスタサイクリン組成物の量を意味する。
【0035】
「リポソーム分散物」とは、複数のリポソームを含む溶液もしくは懸濁物をいう。
【0036】
「エアロゾル」とは、本明細書で使用される場合、液体もしくは乾燥粒子のガス状懸濁物である。本明細書で提供されるエアロゾルは、一実施形態において、本明細書で記載される薬学的組成物を含む。
【0037】
用語「疎水性添加剤」および「疎水性充填剤」とは、本明細書で交換可能に使用される。
【0038】
一局面において、本発明は、プロスタサイクリンもしくはそのアナログ、カチオン性化合物、および界面活性剤を含む薬学的組成物に関する。
図1は、この局面の実施形態を示し、ここで上記組成物は、粒子、例えば、コロイド粒子もしくはナノ粒子の形態にある。特に、
図1は、プロスタサイクリンもしくはプロスタサイクリンアナログ、カチオン性化合物および界面活性剤を含む粒子を示す。上記カチオン性化合物は、一実施形態において、上記プロスタサイクリンが粒子形態で隔離されることを可能にする。理論によって拘束されることは望まないが、上記カチオン性化合物が静電相互作用を介してバルク溶液との交換を低減すると考えられる。上記カチオン性化合物は、一実施形態において、疎水性であり、上記プロスタサイクリンもしくはプロスタサイクリンアナログと静電的に相互作用する。上記界面活性剤は、一実施形態において、生物学的組織との相互作用(ここでは、上記プロスタサイクリンもしくはプロスタサイクリンアナログの交換が、生物学的材料との相互作用による衝突交換および侵食によって促進される)を低減するために上記粒子の表面被覆を提供する。上記界面活性剤としてのPEG化脂質の使用は、本明細書で提供される組成物において、一実施形態では、マクロファージによる取り込みを最小限にする。
【0039】
一実施形態において、上記薬学的組成物中のプロスタサイクリンもしくはプロスタサイクリンアナログは、トレプロスチニルである。よって、一実施形態において、上記薬学的組成物は、トレプロスチニル、カチオン性化合物、および界面活性剤を含む。別の実施形態において、上記薬学的組成物は、トレプロスチニル、カチオン性化合物、界面活性剤および疎水性添加剤を含む。さらなる実施形態において、上記薬学的組成物は、粒子形態、例えば、ミセル粒子もしくは固体ナノ粒子の形態にある。さらなる実施形態において、上記カチオン性化合物は、カチオン性脂質もしくは無機カチオン(例えば、金属カチオン)である(
図1,中央)。なおさらなる実施形態において、上記カチオン性化合物は、マルチカチオン性である。
【0040】
本明細書で提供される薬学的組成物は、一実施形態において、トレプロスチニル、エポプロステノール、イロプロスト、もしくはそれらのアナログ、例えば、トレプロスチニル、エポプロステノールもしくはイロプロストのアナログから選択されるプロスタサイクリンを含む。上記組成物は、一実施形態において、複数の粒子、例えば、ナノ粒子を含む。上記複数の粒子は、固体粒子、ナノ粒子、固体脂質ナノ粒子、ミセル、リポソームもしくはプロリポソーム(proliposome)、またはこれらの混合物を含み得る(
図1)。一実施形態において、上記薬学的組成物は、ミセル複合化プロスタサイクリン、プロリポソーム複合化プロスタサイクリン、もしくはリポソーム複合化プロスタサイクリン、またはミセル、リポソームもしくはプロリポソーム中に被包されたプロスタサイクリンを含む分散物である。「リポソーム複合化プロスタサイクリン(liposomal complexed prostacyclin)」とは、上記プロスタサイクリン(もしくはプロスタサイクリンの組み合わせ)がリポソーム中に被包される実施形態を含み、プロスタサイクリン組成物の任意の形態を含む。ここでは、上記プロスタサイクリンのうちの少なくとも約1重量%が、リポソームとの複合体の一部として、あるいは上記プロスタサイクリンが水相に、可溶性形態で、または沈殿した形態もしくは複合体化した形態で、または疎水性二重層の相に、またはリポソーム二重層の界面頭部基領域に存在し得るリポソームとして、のいずれかで上記リポソームと会合している。
【0041】
一実施形態において、本明細書で提供される薬学的組成物は、カチオン性化合物と複合体化したプロスタサイクリンを含み、ここで上記プロスタサイクリンは、粒子形態で、例えば、固体ナノ粒子、コロイド粒子、ミセルもしくはリポソームとして存在する。一実施形態において、上記プロスタサイクリンのうちの少なくとも約1重量%は、上記カチオン性化合物、例えば、カチオン性脂質と、例えば、複合体もしくはナノ粒子の一部として、会合している。
【0042】
一実施形態において、上記組成物は、それを必要とする患者に、噴霧によって、例えば、肺高血圧症もしくは門脈肺高血圧症の処置のために投与され、上記組成物の噴霧の前に、上記組成物中のプロスタサイクリンもしくはプロスタサイクリンアナログのうちの少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%もしくは少なくとも約95%は、上記カチオン性化合物と粒子形態で会合している。会合は、一実施形態において、フィルターを介した分離(ここでカチオン性化合物およびカチオン性化合物と会合した薬物が保持され(すなわち、濃縮水(retentate)中にある)、遊離薬物が濾液中にある)によって測定される。
【0043】
一実施形態において、上記プロスタサイクリンは、上記カチオン性化合物と会合し、粒子、例えば、コロイド粒子もしくはナノ粒子を形成する。別の実施形態において、上記プロスタサイクリンは、ミセルもしくはリポソームとして、上記カチオン性化合物と会合する(
図1、一番下)。リポソームの場合、上記プロスタサイクリンは、水相中にあり得るか、または疎水性二重層の相もしくは上記リポソーム二重層の界面頭部基領域にあり得る。
【0044】
別の実施形態において、本明細書で提供される組成物は、プロスタサイクリンもしくはプロスタサイクリンアナログ、カチオン性化合物および界面活性剤を含む、ミセル分散物もしくはナノ粒子組成物である。さらなる実施形態において、上記ミセル分散物もしくはナノ粒子組成物は、疎水性添加剤、例えば、スクアランを含む。例えば、一実施形態において、上記組成物は、トレプロスチニル、カチオン性脂質、PEG化脂質およびスクアランを含む。一実施形態において、上記組成物は、プロスタサイクリンおよび上記カチオン性化合物、例えば上記カチオン性脂質を、ミセルもしくはナノ粒子中に含む。上記ミセル分散物もしくはナノ粒子組成物は、一実施形態において、上記カチオン性化合物と会合した、例えば、静電的に会合した少なくとも約1重量%のプロスタサイクリンを有する。
【0045】
一実施形態において、噴霧後の上記組成物、すなわち、エアロゾル化した薬学的組成物の微細粒子画分(FPF)は、NGIもしくはACIによって測定される場合、約50%、もしくは約55%、もしくは約60%、もしくは約65%、もしくは約70%、もしくは約75%である。さらなる実施形態において、上記エアロゾルのFPFは、ACIによって測定される場合、約64%以上、ACIによって測定される場合、約70%以上、NGIによって測定される場合、約51%以上、もしくはNGIによって測定される場合、約60%以上である。
【0046】
本明細書で提供される組成物、システム、および方法は、一実施形態において、プロスタサイクリンもしくはそのアナログ、カチオン性化合物および界面活性剤を含む。一実施形態において、上記組成物は、粒子形態、例えば、ミセル粒子もしくは固体脂質ナノ粒子の形態にある。一実施形態において、上記カチオン性化合物は、脂質である。一実施形態において、上記組成物は、脂質に被包されたもしくは脂質と会合したプロスタサイクリンもしくはそのアナログ、例えば、固体脂質ナノ粒子を含む。本発明の薬学的組成物において使用される脂質は、合成であっても、半合成であっても天然に存在する脂質であってもよく、これらとしては、リン脂質、トコフェロール、トコフェロール誘導体、ステロール、ステロール誘導体、および脂肪酸が挙げられる。
【0047】
本明細書で提供される薬学的組成物中のカチオン性化合物は、モノカチオン性もしくはマルチカチオン性であり得る。一実施形態において、上記カチオン性化合物は、正味のカチオン性であり、すなわち、上記化合物は、正味の正電荷とともに、正電荷および負電荷の両方を有する。上記カチオン性化合物の例としては、カチオン性脂質、アルキル−アンモニウム、アルキル−ポリアンモニウム、直鎖状ポリアミン、直鎖状ポリエチレンイミン、分枝状ポリエチレンイミン、ポリ−L−リジン、トリメチル−ポリ−グルコサミン、無機イオン、金属イオン、多価無機イオン、もしくは多価金属イオンが挙げられるが、これらに限定されない。さらなる実施形態において、上記カチオン性化合物は、ジオクタデシルジメチルアンモニウムブロミド(diC18dMA)、ジメチルジヘキサデシルアンモニウムクロリド、N−[1−(2,3−ジオレオイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムメチルスルフェート(DOTAP)、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、1,2−ジステアロイル−3−(トリメチルアンモニオ)プロパンクロリド(DSTAP)、ジミリストイルトリメチルアンモニウムプロパン(DMTAP)、もしくはジオクタデシルジメチルアンモニウムブロミド(DODAB)であり得る。上記カチオン性化合物はまた、N,N’−ジヘキサデシル−1,2−エタンジアミン、テトラエチルヘキサデカン−1,16−ジアミン、もしくはヘキサデカン−1,16−ビス(トリメチルアンモニウムブロミド)であり得る。一実施形態において、上記カチオン性化合物は、金属カチオン(例えば、アルミニウム、マグネシウム、ベリリウム、ストロンチウム、バリウム、もしくはカルシウム)である。他の多価金属もまた、使用され得る。一実施形態において、上記カチオン性化合物は、ジオクタデシルジメチルアンモニウムブロミド(dc18dMA)である。
【0048】
一実施形態において、少なくとも1種の上記カチオン性化合物は、カチオン性脂質(すなわち、正に荷電した脂質)である。使用される上記カチオン性脂質は、脂肪酸のアンモニウム塩、リン脂質およびグリセリド、ならびにステロール誘導体を含み得る。上記脂肪酸としては、飽和もしくは不飽和いずれかである炭素鎖長が12〜26炭素原子の脂肪酸が挙げられる。いくつかの具体例としては、以下が挙げられる:ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ラウリルアミンおよびステアリルアミン、ジラウロイルエチルホスホコリン(DLEP)、ジミリストイルエチルホスホコリン(DMEP)、ジパルミトイルエチルホスホコリン(DPEP)およびジステアロイルエチルホスホコリン(DSEP)、N−(2,3−ジ−(9−(Z)−オクタデセニルオキシ)−プロパ−1−イル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、および1,2−ビス(オレオイルオキシ)−3−(トリメチルアンモニオ)プロパン(DOTAP)。
【0049】
一実施形態において、上記組成物中の少なくとも1種の上記界面活性剤は、中性、非イオン性、カチオン性、もしくはアニオン性である。上記界面活性剤は、一実施形態において、両親媒性であり、PEG化脂質もしくはブロックコポリマーである。さらなる実施形態において、少なくとも1種の上記界面活性剤は、少なくとも1種のアニオン性界面活性剤を含む。
【0050】
上記界面活性剤は、一実施形態において、PEG化脂質である。さらなる実施形態において、上記PEG化脂質は、PEG400、PEG500、PEG1000、PEG2000、PEG3000、PEG4000、もしくはPEG5000を含む。さらなる実施形態において、上記PEG化脂質の脂質成分は、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジパルミトイルホスホエタノールアミン(DPPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ジミリストイルグリセロール グリセロール(DMG)、ジホスファチジルグリセロール(DPG)、ジステアロイルグリセロール(DSG)もしくはコレステロールに共有結合したPEGを含む:。その分子量(MW)に依存して、PEGはまた、当該分野でポリエチレンオキシド(PEO)もしくはポリオキシエチレン(POE)ともいわれる。上記PEG化脂質は、分枝状もしくは非分枝状のPEG分子を含み得、特定のPEG MWによって限定されない。
【0051】
例えば、上記PEG化脂質(PEG−脂質)は、一実施形態において、分子量 300g/mol、400g/mol、500g/mol、1000g/mol、1500g/mol、2000g/mol、2500g/mol、3000g/mol、3500g/mol、4000g/mol、4500g/mol、5000g/molもしくは10,000g/molを有するPEG分子を含む。一実施形態において、上記PEGは、MW 1000g/molもしくは2000g/molを有する。
【0052】
上記PEG化脂質(もしくは「PEG−脂質」)の脂質成分は、正味の電荷(例えば、カチオン性もしくはアニオン性)を有し得るか、または正味の中性であり得る。本発明のPEG化脂質成分において使用される脂質は、合成であっても、半合成であっても、天然に存在する脂質であってもよく、これらとしては、リン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、セラミド、トコフェロール、ステロイド、脂肪酸、もしくは糖タンパク質(例えば、アルブミン)が挙げられる。一実施形態において、上記脂質は、コレステロールである。別の実施形態において、上記脂質は、リン脂質である。リン脂質としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、およびホスファチジン酸(PA)。一実施形態において、上記リン脂質は、卵リン脂質、ダイズリン脂質もしくは水素化された卵およびダイズのリン脂質である。一実施形態において、上記PEG化脂質は、リン脂質を含む。さらなる実施形態において、上記リン脂質は、12〜26個の炭素原子の鎖を含むグリセロールの2位および3位に脂肪酸のエステル結合、ならびにコリン、グリセロール、イノシトール、セリン、エタノールアミン、およびその対応するホスファチジン酸を含むグリセロールの1位に異なる頭部基を含む。これらの脂肪酸の鎖は、飽和もしくは不飽和であり得、上記リン脂質は、種々の鎖長および種々の不飽和の程度の脂肪酸から構成され得る。特に、一実施形態では、本明細書で提供されるプロスタサイクリン組成物のPEG化脂質は、ジステアロイルホスホエタノールアミン(DSPE)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジパルミトイルホスホエタノールアミン(DPPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ジミリストイルグリセロール(DMG)、ジホスファチジルグリセロール(DPG)もしくはジステアロイルグリセロール(DSG)を含む。
【0053】
本明細書で開示されるPEG化脂質を含む組成物において使用するための脂質の他の例としては、以下が挙げられる:ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、および混合リン脂質(例えば、パルミトイルステアロイルホスファチジルコリン(PSPC)およびパルミトイルステアロイルホスファチジルグリセロール(PSPG)、トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、セラミド、スフィンゴシン、スフィンゴミエリンおよび単一のアシル化リン脂質(例えば、モノ−オレイル−ホスファチジルエタノールアミン(MOPE)))。別の実施形態において、上記PEG化脂質の脂質部分は、脂肪酸のアンモニウム塩、リン脂質、グリセリド、リン脂質およびグリセリド、ステロール(例えば、コレステロール)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルセリン(PS)、またはこれらの組み合わせを含む。上記脂肪酸は、一実施形態において、飽和もしくは不飽和のいずれかである12〜26個の炭素原子の炭素鎖長の脂肪酸を含む。いくつかの具体例としては、以下が挙げられる:ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ラウリルアミンおよびステアリルアミン、ジラウロイルエチルホスホコリン(DLEP)、ジミリストイルエチルホスホコリン(DMEP)、ジパルミトイルエチルホスホコリン(DPEP)およびジステアロイルエチルホスホコリン(DSEP)、N−(2,3−ジ−(9(Z)−オクタデセニルオキシ)−プロパ−l−イル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)および1,2−ビス(オレオイルオキシ)−3−(トリメチルアンモニオ)プロパン(DOTAP)。本明細書で提供される組成物において使用するためのステロールの例としては、コレステロールおよびエルゴステロールが挙げられる。本明細書で提供される組成物中で使用するためのPG、PA、PI、PCおよびPSの例としては、DMPG、DPPG、DSPG、DMPA、DPPA、DSPA、DMPI、DPPI、DSPI、DMPS、DPPSおよびDSPS、DSPC、DPPG、DMPC、DOPC、卵PCおよびダイズPCが挙げられる。
【0054】
一実施形態において、上記PEG化脂質は、コレステロール−PEG2000、DSPE−PEG1000もしくはDSG−PEG2000である。
【0055】
本発明の組成物において使用するための界面活性剤の他の例としては、ポリオキシエチレングリコール−脂質、ポリオキシプロピレングリコール−脂質、グルコシド−脂質、グリセロール−脂質、もしくはポリソルベート−脂質が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、上記界面活性剤は、アニオン性脂質(負に荷電した脂質)である。使用され得る上記負に荷電した脂質としては、ホスファチジル−グリセロール(PG)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルイノシトール(PI)およびホスファチジルセリン(PS)が挙げられる。例としては、DMPG、DPPG、DSPG、DMPA、DSPA、DPPS、DSPS、DPPA、DMPI、DPPI、DSPIおよびDMPSが挙げられる。
【0056】
本発明の別の実施形態において、本明細書で提供される薬学的組成物は、疎水性添加剤をさらに含む。一実施形態において、上記疎水性添加剤は、炭化水素、テルペン、もしくは疎水性脂質であり得る。さらなる実施形態において、上記疎水性添加剤は、酢酸コレステリル、ステアリン酸エチル、パルミテート、ミリステート、パルミチン酸パルミチル、酢酸トコフェリル、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、例えば、パルミテート、ミリステート、ドデカノエート、デカノエート、オクタノエート、もしくはスクアランであり得るが、これらに限定されない。
【0057】
一実施形態において、本発明の薬学的組成物は、疎水性添加剤としてスクアランを含む。一実施形態において、スクアランのモル範囲は、上記組成物のうちの約0.1mol%〜約28mol%である。別の実施形態において、上記スクアラン濃度は、25mol%である。
【0058】
本発明のなお別の実施形態において、上記疎水性添加剤を含む薬学的組成物はまた、本明細書で記載される界面活性剤を含み得る。この実施形態において、上記薬学的組成物は、ポリオキシエチレングリコール−リン脂質を含み得る。本発明のこの実施形態に使用される適切なポリオキシエチレングリコール−リン脂質は、ポリオキシエチレングリコール−コレステロールである。別の実施形態において、上記疎水性添加剤を含む薬学的組成物はまた、ポリオキシエチレングリコール−脂質を含み得る。上記ポリオキシエチレングリコール−脂質は、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン−ポリオキシエチレングリコールもしくはジステアロイルグリセロール−ポリオキシエチレングリコールであり得るが、これらに限定されない。
【0059】
本発明の一実施形態によれば、上記疎水性添加剤は、30〜50mol%、例えば、35〜45mol%で上記組成物中に存在し得る。なおさらなる実施形態において、上記疎水性添加剤は、40mol%で上記組成物中に存在する。
【0060】
一実施形態において、上記疎水性添加剤(例えば、少なくとも部分的に疎水性である添加剤)は、上記プロスタサイクリン化合物および上記カチオン性化合物を含む組成物中に存在する場合、炭化水素、テルペン化合物もしくは疎水性脂質(例えば、トコフェロール、酢酸トコフェロール、ステロール、ステロールエステル、アルキルエステル、ビタミンAアセテート、トリグリセリド、リン脂質)である。
【0061】
上記テルペン化合物(疎水性添加剤)は、一実施形態において、炭化水素(例えば、イソプレンもしくはスクアレン)である。別の実施形態において、上記テルペン化合物は、ヘミテルペン(C
5H
8)、モノテルペン(C
10H
16)、セスキテルペン(C
15H
24)、ジテルペン(C
20H
32)(例えば、カフェストール、カーウェオール、センブレン、タキサジエン)、セステルテルペン(C
25H
40)、トリテルペン(C
30H
48)、セスクアテルペン(C
35H
56)、テトラテルペン(C
40H
64)、ポリテルペン(例えば、トランス二重結合を有するポリイソプレン)もしくはノルイソプレノイド(例えば、3−オキソ−α−イオノール、7,8−ジヒドロイオノン誘導体)である。上記テルペン化合物は、別の実施形態において、以下の表1に提供される化合物のうちの1つから選択される。
【表1】
【0062】
一実施形態において、本明細書で記載されるプロスタサイクリン組成物は、粒子形態にある。よって、一実施形態において、本明細書で提供される薬学的組成物は、上記プロスタサイクリンもしくはそのアナログおよび上記カチオン性化合物を含む複数の粒子を含む。さらなる実施形態において、上記界面活性剤は、上記組成物中の複数の粒子のうちの少なくとも1つと会合する。
【0063】
上記薬学的組成物中の複数の粒子は、一実施形態において、固体コロイド粒子、ポリマー−脂質ハイブリッドナノ粒子(Vieira and Carmona−Ribeiro (2008). Journal of Nanobiotechnology 6:1−13(その全体において参考として援用される))、ナノ構造脂質キャリア、ポリマーミクロスフェア(Liu et al. (2000). J Pharm Pharmacol, 53:1−12(その全体において参考として援用される))、ナノ粒子、ミセル、リポソーム、固体脂質ナノ粒子(Wong et al. (2004). J Pharm Sci, 93:1993−2004(その全体において参考として援用される))、またはこれらの組み合わせを含む。
【0064】
上記で提供されるように、一実施形態において、本明細書で提供される薬学的組成物は、少なくとも1種のカチオン性化合物およびプロスタサイクリンもしくはそのアナログを含む複数の固体粒子を含む。一実施形態において、上記カチオン性化合物は、本発明の粒子のコアを形成し、少なくとも1種の上記界面活性剤は、上記カチオン性化合物を安定化する(
図1)。さらなる実施形態において、少なくとも1種の上記界面活性剤は、PEG化脂質である。
【0065】
一実施形態において、本明細書で提供される薬学的組成物は、界面活性剤によって安定化された固体脂質コアを含む複数の固体脂質ナノ粒子(SLN)を含む。一実施形態において、上記コア脂質は、カチオン性脂質、例えば、上記で記載されるカチオン性脂質のうちの1つである。さらなる実施形態において、上記プロスタサイクリンもしくはそのアナログは、上記粒子のコアで、上記粒子の外層で、もしくはこれらの組み合わせで会合する。
【0066】
一実施形態において、本明細書で提供される薬学的組成物は、カチオンポリマー、プロスタサイクリンもしくはそのアナログおよび界面活性剤ポリマー(例えば、PEG化脂質)を含む複数の固体ポリマーナノ粒子を含む。さらなる実施形態において、上記複数の粒子は、少なくとも1種の上記カチオンポリマーと少なくとも1種の上記界面活性剤ポリマーとの間の静電相互作用によって形成される(例えば、Vieira and Carmona−Ribeiro (2008). Journal of Nanobiotechnology 6:1−13(その全体において参考として援用される)を参照のこと)。一実施形態において、上記プロスタサイクリンもしくはそのアナログは、静電相互作用もしくは疎水性相互作用、またはこれらの組み合わせによって、上記粒子と会合する。
【0067】
上記プロスタサイクリンもしくはそのアナログ、カチオン性化合物および界面活性剤は、一実施形態において、複数の粒子へと自己集合する。例えば、特定の脂質(例えば、ジオクタデシルジメチルアンモニウムブロミド(DODAB)およびジヘキサデシルリン酸ナトリウム(sodium dihxadecylphosphate)(DHP))は、上記脂質を分散させるための手順に依存して、水性溶液中で自己集合する。
【0068】
一実施形態において、上記組成物のうちの少なくとも約1%もしくは少なくとも10%、もしくはは少なくとも25%、もしくは少なくとも50%もしくは少なくとも75%もしくは少なくとも90%は、単一の粒子もしくは複数の粒子のいずれかとして、粒子形態にある。投与前に、上記組成物中の複数の粒子の平均直径は、一実施形態において、光散乱によって測定される場合、約500nm以下である。別の実施形態において、上記組成物中の粒子の平均直径は、光散乱によって測定される場合、約400nm以下、もしくは約300nm以下、もしくは約200nm以下、もしくは約100nm以下、もしくは約50nm以下である。別の実施形態において、上記組成物中の粒子(複数可)の平均直径は、光散乱によって測定される場合、約100nm〜約500nm、もしくは約150nm〜約500nm、もしくは約200nm〜約500nm、もしくは約250nm〜約500nm、もしくは約300nm〜約500nm、もしくは約350nm〜約500nmである。一実施形態において、上記粒子もしくは複数の粒子は、1つの固体粒子もしくは複数の固体粒子(例えば、固体脂質ナノ粒子)である。一実施形態において、上記組成物中の複数の粒子(複数可)の平均直径は、光散乱によって測定される場合、約10〜約100nm、約50nm〜約100nm、約100nm〜約200nm、約200nm〜約300nm、約210nm〜約290nm、約220nm〜約280nm、約230nm〜約280nm、約240nm〜約280nm、約250nm〜約280nmもしくは約260nm〜約280nmである。さらなる実施形態において、上記粒子もしくは複数の粒子は、固体脂質ナノ粒子もしくは複数の固体脂質ナノ粒子、またはミセルもしくは複数のミセルである。
【0069】
別の実施形態において、上記複数の粒子は、複数のミセルもしくはリポソームである。リポソームは、捕捉された水性の体積を含む完全に閉じた脂質二重層膜である。リポソームは、単層小胞(単一の膜二重層を有する)もしくは多層小胞(複数の膜二重層によって特徴付けられ、各々が、水性の層によって次の層からは分離されているタマネギ様の構造)、またはこれらの組み合わせであり得る。上記二重層は、疎水性「尾部」領域および親水性「頭部」領域を有する2つの脂質モノレイヤーから構成される。上記膜二重層の構造は、上記脂質モノレイヤーの上記疎水性(非極性)「尾部」が、上記二重層の中心に向かって配向する一方で、上記親水性「頭部」が水相に向かって配向するような構造である。
【0070】
リポソームは、種々の方法(例えば、Cullis et al. (1987)を参照のこと)によって生成され得る。一実施形態において、米国特許出願公開第2008/0089927号に記載される方法のうちの1つ以上は、上記プロスタサイクリン被包脂質組成物(リポソーム分散物)を生成するために本明細書で使用されている。米国特許出願公開第2008/0089927号の開示は、全ての目的のためにその全体において参考として援用される。例えば、一実施形態において、少なくとも1種の脂質およびプロスタサイクリンは、コアセルベート(すなわち、別個の脂質相)と混合されて、リポソーム組成物を形成する。上記コアセルベートは、上記脂質と混合する前に、上記脂質と混合する間に、もしくは上記脂質と混合した後に、形成され得る。さらに、上記コアセルベートは、活性薬剤のコアセルベートであり得る。
【0071】
一実施形態において、上記リポソーム分散物は、1種以上の脂質を、脂質溶液を形成する有機溶媒中に溶解させることによって形成され、上記プロスタサイクリンコアセルベートは、上記プロスタサイクリンの水性溶液と上記脂質溶液との混合から形成する。さらなる実施形態において、上記有機溶媒は、エタノールである。なおさらなる実施形態において、上記1種以上の脂質は、リン脂質およびステロールを含む。
【0072】
一実施形態において、リポソームは、超音波処理法、押し出し法、ホモジナイゼーション法、膨潤法、エレクトロフォーメーション法、逆エマルジョン法もしくは逆蒸発(reverse evaporation)法によって生成される。Banghamの手順(J. Mol. Biol. (1965)(その全体において本明細書に参考として援用される))は、通常の多層小胞(MLV)を生成する。Lenk et al.(米国特許第4,522,803号、同第5,030,453号および同第5,169,637)号、Fountain et al.(米国特許第4,588,578号(その全体において本明細書に参考として援用される))およびCullis et al.(米国特許第4,975,282(その全体において本明細書に参考として援用される))は、それらの水性区画の各々において実質的に等しい層間溶質分布を有する多層リポソームを生成するための方法を開示する。Paphadjopoulos et al.,米国特許第4,235,871号(その全体において本明細書に参考として援用される)は、逆相蒸発によるオリゴラメラリポソームの調製を開示する。上記方法の各々は、本発明での使用に適用可能である。この段落で開示される特許の各々は、全ての目的のために本明細書に参考として援用される。
【0073】
単層小胞は、多くの技術、例えば、米国特許第5,008,050号および米国特許第5,059,421号(各々は、全ての目的のために本明細書に参考として援用される)の押し出し技術によってMLVから生成され得る。超音波処理およびホモジナイゼーションは、より小さな単層リポソームをより大きなリポソームから生成するために同じように使用され得る(例えば、Paphadjopoulos et al. (1968); Deamer and Uster (1983);およびChapman et al. (1968)(これらの各々は、それらの全体において本明細書に参考として援用される)を参照のこと)。
【0074】
Bangham et al. (J. Mol. Biol. 13, 1965, pp. 238−252)のリポソーム調製は、有機溶媒中にリン脂質を懸濁し、次いで、それを乾燥するまでエバポレートして、その反応容器にリン脂質薄膜を残すことを包含する。次に、適切な量の水相を添加し、60混合(60 mixture)により「膨潤」させ、多層小胞(MLV)からなる得られたリポソームを機械的手段によって分散させる。この調製は、Papahadjopoulos et al. (Biochim. Biophys. Acta. 135, 1967, pp. 624−638(その全体において本明細書に参考として援用される))によって記載される小さな超音波処理単層小胞、および大きな単層小胞を進化させるための基本を提供する。
【0075】
大きな単層小胞(LUV)を生成するための技術、例えば、逆相蒸発、注入手技、および洗浄剤希釈は、本明細書で提供される薬学的組成物で使用するためのリポソームを生成するために使用され得る。リポソームを生成するためのこれらのおよび他の方法の総説は、テキスト、Liposomes, Marc Ostro, ed., Marcel Dekker, Inc., New York, 1983, Chapter 1(これは、本明細書に参考として援用される)に見出され得る。Szoka, Jr. et al., (Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9, 1980, p. 467(その全体において本明細書に参考として援用される)(それはまた、全ての目的のためにその全体において本明細書に参考として援用される)もまた参照のこと。
【0076】
リポソームを作製するための他の技術は、逆相蒸発小胞(REV)を形成するものを包含する。米国特許第4,235,871号。使用され得るリポソームの別のクラスは、実質的に等しいラメラ溶質分布を有するとして特徴付けられる。このクラスのリポソームは、米国特許第4,522,803号(その全体において本明細書に参考として援用される)に定義されるように安定なプルリラメラ小胞(plurilamellar vesicle)(SPLV)が優位を占め、米国特許第4,588,578号(その全体において本明細書に参考として援用される)に記載されるとおりの単相小胞(monophasic vesicle)および上記に記載されるとおりの凍結・融解多層小胞(frozen and thawed multilamellar vesicle)(FATMLV)を含む。
【0077】
種々のステロールおよびそれらの水溶性誘導体(例えば、コレステロールヘミスクシネート)は、リポソームを形成するために使用されてきた;例えば、米国特許第4,721,612号(その全体において本明細書に参考として援用される)を参照のこと。Mayhew et al., PCT公開番号WO 1985/00968(その全体において本明細書に参考として援用される)は、α−トコフェロールおよび特定その誘導体を含むリポソーム中に薬物を被包することによって、該薬物の毒性を低減するための方法を記載する。また、種々のトコフェロールおよびそれらの水溶性誘導体は、リポソームを形成するために使用されてきた(PCT公開番号87/02219(全ての目的のために本明細書に参考として援用される)を参照のこと)。
【0078】
いくつかの実施形態において、本明細書で記載される薬学的組成物は、モル比(molecular ratio)1:9、2:8、3:7、4:6、5:5、6:4、7:3、8:2、もしくは9:1で個々の成分を含む界面活性剤を有し得る。例えば、コレステロール−PEG、DSG−PEG、DSPE−PEGは、一実施形態において、それぞれ、モル比約1:1、約1:9、および約1:9で存在する。他の実施形態において、界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレングリコール−脂質もしくはポリオキシエチレングリコール−リン脂質)は、モル比約1:1もしくは約1:9で存在する。
【0079】
本明細書で提供される薬学的組成物は、プロスタサイクリンもしくはそのアナログ、カチオン性化合物および界面活性剤を含む。本明細書で提供される薬学的組成物中の上記カチオン性化合物および界面活性剤 対 プロスタサイクリン(もしくはプロスタサイクリンアナログ)の重量比は、一実施形態において、10:1以下、9:1以下、8:1以下、7:1以下、5:1以下、3:1以下、2.5:1以下、2:1以下、1.5:1以下、1:1以下、0.5:1以下、もしくは0.1:1以下である。
【0080】
本明細書で提供される薬学的組成物中の上記カチオン性化合物 対 プロスタサイクリン(もしくはプロスタサイクリンアナログ)の重量比は、一実施形態において、10:1以下、9:1以下、8:1以下、7:1以下、5:1以下、3:1以下、2.5:1以下、2:1以下、1.5:1以下、1:1以下、0.5:1以下、もしくは0.1:1以下である。
【0081】
一実施形態において、上記カチオン性化合物は、カチオン性脂質であり、本明細書で提供される薬学的組成物中の上記カチオン性脂質 対 プロスタサイクリン(もしくはプロスタサイクリンアナログ)の重量比は、10:1以下、9:1以下、8:1以下、7:1以下、5:1以下、3:1以下、2.5:1以下、2:1以下、1.5:1以下、1:1以下、0.5:1以下、もしくは0.1:1以下である。
【0082】
別の実施形態において、上記カチオン性化合物は、diC18dMAであり、上記プロスタサイクリンは、トレプロスチニルである。さらなる実施形態において、本明細書で提供される薬学的組成物中の上記カチオン性脂質 対 トレプロスチニルの重量比は、10:1以下、9:1以下、8:1以下、7:1以下、5:1以下、3:1以下、2.5:1以下、2:1以下、1.5:1以下、1:1以下、0.5:1以下、もしくは0.1:1以下である。
【0083】
一実施形態において、本明細書で提供される組成物は、1種以上の薬学的賦形剤、もしくは他の添加剤をさらに含む。このような賦形剤もしくは添加剤は、1種以上の安定化ポリオール、例えば、より高次のポリサッカリド/ポリマー(制御放出を促進するため)、ステアリン酸マグネシウム、ロイシンおよび/もしくはトリロイシン(滑沢剤として)、ならびにリン脂質および/もしくは界面活性剤を含み得る。発泡剤(blowing agent)、例えば、揮発性塩(例えば、炭酸アンモニウム、ギ酸など)はまた、本発明の噴霧乾燥粉末中で密度の低減した粒子を生成するために供給材料中に含まれ得る。
【0084】
噴霧補助物質はまた、本発明の組成物もしくはシステムとともに使用され得る。このような噴霧補助物質は、噴霧乾燥プロセスの間に本発明の組成物の粘性を低減し、かつ/またはその流体力学的特性を改善し得る。噴霧補助物質としては、マルトデキストリン、ラクトース、ゼラチン、タルク、トリエチルシトレート、およびこれらの混合物が挙げられ得る。このような噴霧補助物質は、約1wt%〜約15wt%(例えば、約2wt%、約3wt%、約4wt%、約5wt%、約6wt%、約7wt%、約8wt%、約9wt%、約10wt%、約11wt%、約12wt%、約13wt%、約14wt%、もしくはその中の任意の他の値もしくは値の範囲)の範囲に及ぶ量で上記組成物中に存在し得る。特定の実施形態において、上記噴霧補助物質は、マルトデキストリンであり、上記組成物中のマルトデキストリンの量は、約1wt%、約2wt%、約3wt%、約4wt%、約5wt%、約6wt%、約7wt%、約8wt%、約9wt%、約10wt%、約11wt%、約12wt%、約13wt%、約14wt%、約15wt%である。他の実施形態において、上記噴霧補助物質は、ラクトースであり、上記組成物中のラクトースの量は、約1wt%、約2wt%、約3wt%、約4wt%、約5wt%、約6wt%、約7wt%、約8wt%、約9wt%、約10wt%、約11wt%、約12wt%、約13wt%、約14wt%、約15wt%である。さらに他の実施形態において、上記噴霧補助物質は、ゼラチンであり、上記組成物中のゼラチンの量は、約1wt%、約2wt%、約3wt%、約4wt%、約5wt%、約6wt%、約7wt%、約8wt%、約9wt%、約10wt%、約11wt%、約12wt%、約13wt%、約14wt%、約15wt%である。
【0085】
本発明の別の局面において、肺高血圧症(PH)を処置するための方法が提供される。世界保健機関(WHO)は、PHを5つの群に分けた。I群 PHは、肺動脈性肺高血圧症(PAH)、特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)、家族性肺動脈性肺高血圧症(FPAH)、および他の疾患と関連する肺動脈性肺高血圧症(APAH)を含む。例えば、膠原血管病(collagen vascular disease)(例えば、強皮症)、全身循環および肺循環の間の先天性短絡、門脈高血圧症ならびに/またはHIV感染症と関連する肺動脈性肺高血圧症は、I群 PHに含まれる。II群 PHは、左心疾患、例えば、動脈疾患もしくは心室疾患、または弁疾患(例えば、僧帽弁狭窄)と関連する肺高血圧症を含む。WHOIII群 肺高血圧症は、肺疾患、例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺疾患(ILD)、および/もしくは低酸素血症と関連する肺高血圧症として特徴付けられる。IV群 肺高血圧症は、慢性血栓性および/もしくは塞栓性疾患に起因する肺高血圧症である。IV群 PHはまた、慢性血栓塞栓性肺高血圧症といわれる。IV群 PH患者は、血塊に起因する血管の遮断もしくは狭窄を経験する。V群 PHは、「多方面にわたる」カテゴリーであり、血液障害(例えば、真性多血症、本態性血小板血症)、全身性障害(例えば、サルコイドーシス、脈管炎)および/もしくは代謝障害(例えば、甲状腺疾患、糖原病)によって引き起こされるPHを含む。
【0086】
例えば、本明細書で提供される方法は、I群(すなわち、肺動脈性肺高血圧症もしくはPAH)、II群、III群、IV群もしくはV群のPH患者を処置するために使用され得る。PHを処置するための方法のうちの1実施形態において、肺動脈性肺高血圧症(PAH)を処置するための方法。別の実施形態において、慢性血栓塞栓性肺高血圧症患者を処置するための方法が提供される。一実施形態において、上記方法は、投与を必要とする患者に有効量の、本明細書で記載されるプロスタサイクリン組成物のうちの1つを投与する工程を包含する。さらなる実施形態において、投与は、肺(吸入)経路、皮下経路もしくは静脈内経路を介して上記患者に行われる。本発明の組成物は、単独で投与されてもよいし、他の免疫学的組成物、抗原性組成物、ワクチン組成物、もしくは治療組成物と共投与もしくは逐次的に投与されてもよい。
【0087】
一実施形態において、処置の必要性のある患者は、クラスI PAH患者、クラスII PAH患者、クラスIII PAH患者もしくはクラスIV PAH患者である。クラスI PAH患者は、身体活動の制限を有しない。なぜなら日常の身体活動は、過度の呼吸困難もしくは疲労、胸痛、または失神寸前を引き起こさないからである。処置は、クラスI PAH患者には必要ない。クラスII PAH患者は、身体活動に僅かな制限がある。これらの患者は、安静時には快適であるが、日常の身体活動は、過度の呼吸困難もしくは疲労、胸痛または失神寸前を引き起こす。クラスIII PAH患者は、身体活動に顕著な制限がある。安静時には快適であるものの、クラスIII PAH患者は、日常未満の身体活動の結果として、過度の呼吸困難もしくは疲労、胸痛または失神寸前を経験する。クラスIV PAH患者は、症状なしにはいかなる身体活動も実行することはできない。クラスIV PAH患者は、安静時にも呼吸困難および/もしくは疲労を経験することがあり、不快感は、いかなる身体活動によっても増大する。右心不全の徴候は、しばしば、クラスIV PAH患者に発現することが多い。
【0088】
本発明の別の局面において、門脈肺高血圧症(PPH)を処置するための方法が提供される。一実施形態において、上記方法は、投与を必要とする患者に、本明細書で記載されるプロスタサイクリン組成物のうちの1つの有効量を投与する工程を包含する。さらなる実施形態において、投与は、肺(吸入)経路、皮下経路もしくは静脈内経路を介して上記患者に行われる。
【0089】
上記で提供されるように、本発明の組成物は、吸入を介して、すなわち、吸入デバイスで、送達を必要とする患者に送達され得る。「吸入デバイス」は、薬学的組成物を患者の肺に送達するために使用されるデバイスである。吸入デバイスとしては、ネブライザーおよび吸入器、例えば、定量式吸入器もしくは乾燥粉末吸入器が挙げられる。乾燥粉末もしくは液体は、吸入デバイスによって患者の肺に送達され得る。「ネブライザー」は、吸入デバイスの1タイプであり、気道へと吸入され得るサイズのエアロゾルへと液体を変換するデバイスである。空気圧式(pneumonic)ネブライザー、超音波式ネブライザー、電子式ネブライザー、例えば、受動電子メッシュ式ネブライザー、能動電子メッシュ式ネブライザーおよび振動メッシュ式ネブライザーは、特定のネブライザーが必要とされる特性でかつ必要とされる産出速度でエアロゾルを発する場合、本発明での使用に適用可能である。
【0090】
バルク液体を小液滴へと空気圧で変換するプロセスは、霧化(atomization)といわれる。空気圧式ネブライザーの操作は、液体の霧化のための駆動力として加圧ガス供給を必要とする。超音波式ネブライザーは、液体を呼吸に適する液滴に変換するために液体リザーバーにおける圧電素子によって導入される電気を使用する。種々のタイプのネブライザーが、Respiratory Care, Vol. 45, No. 6, pp. 609−622 (2000)(その開示は、その全体において全ての目的のために参考として援用される)に記載されている。
【0091】
肺高血圧症の処置のためにトレプロスチニルおよびそのアナログを投与するための方法は、米国特許第5,153,222号;同第6,521,212号;同第7,544,713号および米国特許出願公開第2010/0076083号(各々の開示は、それらの全体において全ての目的のために参考として援用される)に記載されている。
【0092】
一実施形態において、肺高血圧症(PH)、肺動脈性肺高血圧症(PAH)もしくは門脈肺高血圧症(PPH)を処置するための吸入、皮下投与もしくは静脈内投与による有効量の本発明のプロスタサイクリン組成物の投与は、トレプロスチニルの有効量が皮下、静脈内、もしくは吸入によって投与される場合の有効量のトレプロスチニルの投与と比較して、副作用の数の低下、もしくは1以上の副作用(本明細書内で「有害事象」ともいわれる)の重症度の低下を生じる。例えば、一実施形態において、PH、PAHもしくはPPHの患者は、トレプロスチニルの該患者への吸入投与によって誘発される咳もしくは咳応答の重症度および/もしくは頻度と比較して、本発明のプロスタサイクリン化合物もしくは組成物を吸入によって(例えば、噴霧化、乾燥粉末吸入器によって、もしくは定量式吸入器によって)投与される場合に、咳の重症度および/もしくは頻度の低下または咳応答の低下を経験する。
【0093】
別の実施形態において、本発明のプロスタサイクリン化合物もしくは組成物の有効量の静脈内投与、皮下投与もしくは吸入投与は、トレプロスチニルの皮下投与、静脈内投与もしくは吸入投与と比較して、以下の有害事象のうちの1以上の重篤度の低下、または以下の有害事象のうちの1以上の発生の低下を生じる:頭痛、咽喉刺激/咽頭痛、悪心、紅潮および/もしくは失神。
【0094】
別の実施形態において、PH、PAHもしくはPPHの処置のための有効量の本発明のプロスタサイクリン組成物の静脈内投与、皮下投与もしくは吸入投与は、トレプロスチニルの皮下投与、静脈内投与もしくは吸入投与と比較して、全身有害事象の重症度の低下、または全身有害事象の発生の低下を生じる。
【0095】
理論によって拘束されることは望まないが、患者が示した本発明のプロスタサイクリン組成物の改善された有害事象プロフィールは、トレプロスチニルと比較して、患者のコンプライアンスの改善を生じると考えられる。
【0096】
一実施形態において、本発明のプロスタサイクリン組成物は、PH、PAH(例えば、Tyvaso(登録商標)、Remodulin(登録商標))もしくはPPHの現在承認された治療と比較して、実質的に等価もしくはより良好な治療応答をなお達成する一方、より少ない頻度で投与される。上記患者の治療応答は、一実施形態において、肺血管抵抗指数(PVRI)の処置前の値からの低下、平均肺動脈圧の処置前の値からの低下、低酸素血症スコアの処置前の値からの増加、酸素化指数の処置前の値からの低下、処置前と比較して右心機能の改善、または処置前と比較して運動能の改善(例えば、6分間歩行テストによって比較した場合)である。上記治療応答は、一実施形態において、処置前の値と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%もしくは少なくとも50%の改善である。別の実施形態において、上記治療応答は、処置前のレベルと比較して、約10%〜約70%、約10%〜約60%、約10%〜約50%、約10%〜約40%、約10%〜約30%、約10%〜約20%、約20%〜約70%、約20%〜約60%もしくは約10%〜約50%の改善である。
【0097】
理論によって拘束されることを望まないが、本発明の化合物および組成物の投薬頻度が低いことは、異なるPH、PAHもしくはPPHの処置(例えば、トレプロスチニル−Tyvaso(登録商標)、Remodulin(登録商標))を施している患者のコンプライアンスと比較して、患者コンプライアンスの改善を可能にする。
【0098】
別の実施形態において、上記プロスタサイクリン組成物は、ネブライザーによって、PH、PAHもしくはPPHの処置の必要性のある患者に投与される。投与は、一実施形態において、毎日1回、毎日2回、毎日3回もしくは2日に1回行う。
【0099】
一実施形態において、本発明の組成物もしくは化合物は、乾燥粉末吸入器(DPI)によって、PH、PAHもしくはPPHの処置の必要性のある患者に投与される。上記患者は、一実施形態において、本発明のプロスタサイクリン組成物を毎日1回、毎日2回、もしくは毎日3回投与される。一実施形態において、投与は、食物とともに行われる。一実施形態において、各投与は、DPIから1〜5用量(数息(puffs))、例えば、1用量(1息)、2用量(2息)、3用量(3息)、4用量(4息)もしくは5用量(5息)を含む。上記DPIは、一実施形態において、小型であって、上記患者が携行可能である。
【0100】
別の実施形態において、本明細書で記載されるPH、PAHもしくはPAHの処置法によって肺経路によって、投与を必要とする患者に投与される上記プロスタサイクリン組成物は、遊離プロスタサイクリン(例えば、遊離トレプロスチニル)が肺経路によって(例えば、by 噴霧化、乾燥粉末吸入器、もしくは定量式吸入器によって)PH、PAHもしくはPPHの処置の必要性のある患者に投与される場合、遊離プロスタサイクリンの肺排出半減期(t
1/2)と比較して、上記プロスタサイクリン化合物のより大きなt
1/2を提供する。
【0101】
別の実施形態において、本明細書で記載されるPH、PAHもしくはPPHの処置法によって、投与を必要とする患者に投与される上記プロスタサイクリン化合物は、遊離プロスタサイクリン(例えば、遊離トレプロスチニル)が該患者に投与される場合に、トレプロスチニルの全身排出半減期(t
1/2)と比較して、該プロスタサイクリン化合物のより大きな全身排出半減期(t
1/2)を提供する。さらなる実施形態において、上記プロスタサイクリン組成物およびトレプロスチニルの投与は、皮下投与もしくは静脈内投与のいずれかを包含する。
【0102】
別の実施形態において、PH、PAHもしくはPPHの処置の必要性のある患者に投与される上記プロスタサイクリン化合物は、上記遊離プロスタサイクリン(例えば、遊離トレプロスチニル)が患者に投与される場合に、トレプロスチニルの肺もしくは血漿のC
maxそれぞれと比較して、該プロスタサイクリン化合物のより大きな平均肺C
maxおよび/もしくはより小さな血漿C
maxを該患者に提供する。さらなる実施形態において、上記プロスタサイクリン組成物および上記遊離プロスタサイクリンの投与は、静脈内投与を包含する。
【0103】
別の実施形態において、PH、PAHもしくはPPHの処置の必要性のある患者に投与される上記プロスタサイクリン組成物は、上記遊離プロスタサイクリン(例えば、遊離トレプロスチニル)が該患者に投与される場合に、該プロスタサイクリン化合物の平均肺もしくは血漿の曲線下面積(AUC
0−t)と比較して、より大きな、該プロスタサイクリン化合物の平均肺もしくは血漿の曲線下面積(AUC
0−t)を提供する。さらに別の実施形態において、投与を必要とする患者に投与される上記プロスタサイクリン組成物は、上記遊離プロスタサイクリン(例えば、遊離トレプロスチニル)が該患者に投与される場合に、該プロスタサイクリン化合物のピーク濃度までの肺もしくは血漿の時間(t
max)と比較して、より大きな、該プロスタサイクリン化合物のピーク濃度までの肺もしくは血漿の時間(t
max)を提供する。
【0104】
上記で提供されるように、本発明のプロスタサイクリン化合物および組成物は、送達を必要とする患者に、肺経路、静脈内経路もしくは皮下経路によって送達され得る。肺経路に関しては、本発明のプロスタサイクリン化合物および組成物は、このような投与に適合された任意の投与量分注デバイス(dosage dispensing device)で使用され得る。上記デバイスは、一実施形態において、最適な計量正確性およびその構成要素(例えば、容器、バルブおよびアクチュエーター)と製剤との適合性を確実にするように構築され、機械式ポンプシステム(例えば、定量式ネブライザー、乾燥粉末吸入器、ソフトミスト吸入器、もしくはネブライザーのシステム)に基づき得る。例えば、肺送達デバイスとしては、ジェット式ネブライザー、電子式ネブライザー、ソフトミスト吸入器、およびカプセルベースの乾燥粉末吸入器が挙げられる。
【0105】
上記プロスタサイクリンもしくはそのアナログは、一実施形態において、肺に持続的に(sustainly)送達され、上記プロスタサイクリンもしくはそのアナログは、最大約8時間まで、もしくは最大約12時間まで、もしくは最大約16時間まで、もしくは最大約20時間まで、もしくは最大約24時間まで、もしくは最大約36時間までもしくは最大約48時間までの期間にわたって、投与後に放出される。別の実施形態において、上記プロスタサイクリンもしくはそのアナログは、肺に持続的に送達され、上記プロスタサイクリンもしくはそのアナログは、約20時間〜約48時間、もしくは約24時間〜約36時間もしくは約30時間〜約48時間の範囲に及ぶ期間にわたって、投与後に放出される。
【0106】
一実施形態において、上記薬学的組成物は、1日1回の投薬レジメンもしくは1日2回の投薬レジメンで、投与を必要とする患者に投与される。さらなる実施形態において、上記組成物は、噴霧化によって投与される。なおさらなる実施形態において、上記プロスタサイクリンは、トレプロスチニルである。
【0107】
本発明によれば、吸入による以外にも、投与は、経口的に、非経口的に、皮下に、静脈内に、もしくは注入によって行われ得る。上記組成物はまた、鼻経路による投与のために製剤化され得る。鼻投与に適した組成物は、そのキャリアが固体である場合、例えば、鼻から吸う様式で、例えば、鼻の近くまでに保持される粉末の容器から鼻経路を通って急速に吸入することによって投与される、約3〜約500ミクロンの範囲の粒度を有する粗い粉末を含む。上記キャリアが例えば、鼻スプレー、点鼻薬として、もしくはネブライザーによるエアロゾル投与による投与のための液体である適切な組成物は、活性成分の水性もしくは油性の溶液を含む。
【0108】
本発明の別の局面において、PH、PAHもしくはPPH以外の疾患、障害もしくは状態を処置するための方法が提供される。上記方法は、本明細書で提供されるプロスタサイクリン組成物のうちの1つ、例えば、プロスタサイクリン(例えば、トレプロスチニル)もしくはそのアナログ、カチオン性化合物、界面活性剤(例えば、PEG化脂質)および疎水性添加剤(例えば、スクアラン)を含むナノ粒子組成物の治療上有効な量を、投与を必要とする患者に投与する工程を包含する。上記疾患、障害、および状態としては、慢性血栓塞栓性肺高血圧症、うっ血性心不全、末梢血管疾患、喘息、重症の間欠性跛行、免疫抑制、増殖性疾患、がん(例えば、肺がん、肝臓がん、脳のがん、膵臓がん、腎臓がん、前立腺がん、乳がん、結腸がん、および頭頚部がん、虚血性の病変、神経障害性足部潰瘍、および肺線維症、腎機能、ならびに間質性肺疾患が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、上記薬学的製剤は、トレプロスチニルに加えて、1種以上のさらなる活性成分を含む。
【0109】
米国特許第5,153,222号(その全体において本明細書に参考として援用される)は、肺高血圧症の処置のためのトレプロスチニルの使用を記載している。トレプロスチニルは、静脈内経路および皮下経路が承認されており、後者は、連続静脈内カテーテルと関連する潜在的な敗血症的事象を回避する。米国特許第6,521,212号および同第6,756,033号(各々は、それらの全体において本明細書に参考として援用される)は、肺高血圧症、末梢血管疾患ならびに他の疾患および状態の処置のための吸入によるトレプロスチニルの投与を記載している。米国特許第6,803,386号(その全体において本明細書に参考として援用される)は、肺がん、肝臓がん、脳のがん、膵臓がん、腎臓がん、前立腺がん、乳がん、結腸がんおよび頭頸部がんなどのがんを処置するためのトレプロスチニルの投与を開示している。米国特許出願公開第2005/0165111号(その全体において本明細書に参考として援用される)は、虚血性病変のトレプロスチニル処置を開示している。米国特許第7,199,157号(その全体において本明細書に参考として援用される)は、トレプロスチニル処置が腎機能を改善することを開示している。米国特許第7,879,909号(その全体において本明細書に参考として援用される)は、神経障害性足部潰瘍のトレプロスチニル処置を開示している。米国特許出願公開第2008/0280986号(その全体において本明細書に参考として援用される)は、肺線維症、トレプロスチニルでの間質性肺疾患および喘息のトレプロスチニルでの処置を開示している。米国特許第6,054,486号(その全体において本明細書に参考として援用される)は、トレプロスチニルでの末梢血管疾患の処置を開示している。米国特許出願公開第2009/0036465号(その全体において本明細書に参考として援用される)は、トレプロスチニルを含む併用療法を開示している。米国特許出願公開第2008/0200449号は、定量式吸入器を使用するトレプロスチニルの送達を開示している。米国特許第7,417,070号、同第7,384,978号および同第7,544,713号、ならびに米国特許出願公開第2007/0078095号、同第2005/0282901号、および同第2008/0249167号(各々は、それらの全体において本明細書に参考として援用される)は、トレプロスチニルおよび他のプロスタサイクリンアナログの経口製剤、ならびに種々の状態の処置のためのそれらの使用を記載している。米国特許出願公開第2012/0004307号(本明細書に参考として援用される)は、レイノー現象、全身性硬化症および指の虚血性病変の処置のために経口投与されるトレプロスチニルの使用を開示している。
【0110】
さらに、以下の参考文献は、本発明の実施形態を実施するための全ての目的で参考として援用される: J. Org. Chem. 2004, 69, 1890−1902, Drug of the Future, 2001, 26(4), 364−374, 米国特許第5,153,222号、同第6,054,486号、同第6,521,212号、同第6,756,033号、同第6,803,386号、および同第7,199,157号、米国特許出願公開第2005/0165111号、同第2005/0282903号、同第2008/0200449号、同第2008/0280986号、同第2009/0036465号および同第2012/0010159号。
【0111】
一実施形態において、うっ血性心不全、末梢血管疾患、喘息、重症の間欠性跛行、免疫抑制、増殖性疾患、例えば、がん(例えば、肺がん、肝臓がん、脳のがん、膵臓がん、腎臓がん、前立腺がん、乳がん、結腸がんおよび頭頸部がん)、虚血性病変、神経障害性足部潰瘍、ならびに肺線維症、腎機能および/もしくは間質性肺疾患のために、処置を必要とする患者を処置するための方法が提供される。一実施形態において、上記方法は、本明細書で提供されるプロスタサイクリン組成物のうちの1つ、例えば、プロスタサイクリン(例えば、トレプロスチニル)もしくはそのアナログ、カチオン性化合物、界面活性剤(例えば、PEG化脂質)および疎水性添加剤(例えば、スクアラン)を含むナノ粒子組成物の有効量を、上記患者に投与する工程を包含する。投与は、一実施形態において、吸入(例えば、ネブライザーもしくは定量式吸入器で)、皮下もしくは静脈内によるものである。いくつかの実施形態において、上記薬学的製剤は、トレプロスチニル一水和物に加えて、1種以上の活性成分を含み得る。
【0112】
一実施形態において、間質性肺疾患(例えば、肺線維症)もしくは喘息、または間質性肺疾患もしくは喘息と関連する状態を、このような処置の必要性のある患者において処置および/もしくは予防するための方法が提供される。さらなる実施形態において、上記方法は、本明細書で提供されるプロスタサイクリン組成物のうちの1つ、例えば、プロスタサイクリン(例えば、トレプロスチニル)もしくはそのアナログ、カチオン性化合物、界面活性剤(例えば、PEG化脂質)および疎水性添加剤(例えば、スクアラン)を含むナノ粒子組成物の有効量を、上記患者に投与する工程を包含する。上記組成物もしくは化合物は、一実施形態において、噴霧剤、例えば、クロロ−フルオロカーボン(CFC)もしくはフルオロカーボンの使用によって、MDIを介して送達される。上記患者は、一実施形態において、本発明のプロスタサイクリン化合物もしくは組成物を、毎日1回、毎日2回もしくは毎日3回投与される。一実施形態において、上記投与は、食物とともに行われる。一実施形態において、各投与は、MDIから1〜5用量(数息)、例えば、1用量(1息)、2用量(2息)、3用量(3息)、4用量(4息)もしくは5用量(5息)を含む。上記MDIは、一実施形態において、小型であって、患者が携行可能である。別の実施形態において、投与は、皮下もしくは静脈内である。別の実施形態において、間質性肺疾患(例えば、肺線維症)もしくは喘息、または間質性肺疾患もしくは喘息と関連する状態の処置のための、本発明のプロスタサイクリン化合物もしくは組成物の有効量の静脈内投与、皮下投与もしくは吸入投与は、トレプロスチニルの皮下投与、静脈内投与もしくは吸入投与と比較して、全身有害事象の重症度の低減、または全身有害事象の発生の低下を生じる。
【0113】
一実施形態において、虚血性疾患もしくは状態(例えば、強皮症(全身性硬化症が挙げられる)、またはレイノー現象)を、そのような処置の必要性のある患者において処置するための方法が提供される。さらなる実施形態において、上記方法は、本明細書で提供されるプロスタサイクリン組成物のうちの1つ、例えば、プロスタサイクリン(例えば、トレプロスチニル)もしくはそのアナログ、カチオン性化合物、界面活性剤(例えば、PEG化脂質)および疎水性添加剤(例えば、スクアラン)を含むナノ粒子組成物の有効量を、上記患者に投与する工程を包含する。投与は、一実施形態において、吸入(例えば、ネブライザーもしくは定量式吸入器で)、皮下もしくは静脈内によるものである。別の実施形態において、虚血性疾患もしくは状態(例えば、強皮症(全身性硬化症が挙げられる)、またはレイノー現象)の処置のための本発明のプロスタサイクリン化合物もしくは組成物の有効量の静脈内投与、皮下投与もしくは吸入投与は、トレプロスチニルの皮下投与、静脈内投与もしくは吸入投与と比較して、全身有害事象の重症度の低減、または全身有害事象の発生の低下を生じる。
【0114】
本明細書で提供されるプロスタサイクリン組成物、例えば、プロスタサイクリン(例えば、トレプロスチニル)もしくはそのアナログ、カチオン性化合物、界面活性剤(例えば、PEG化脂質)および疎水性添加剤(例えば、スクアラン)を含むナノ粒子組成物は、一実施形態において、指の虚血性病変(例えば、指の潰瘍もしくは壊死性病変)に対して患者を処置するために、または指の虚血性病変と関連する症状および/もしくは機能障害(複数可)の数を改善もしくは低減するために、使用される。用語「指の虚血性病変」とは、被験体(例えば、ヒト)の指、すなわち、足指もしくは手指にある病変をいう。一実施形態において、指の虚血性病変は、虚血性疾患もしくは状態(例えば、強皮症(全身性硬化症が挙げられる)、またはレイノー現象)によって引き起こされ得るか、またはこれらと関連し得る。改善および/もしくは低減され得る症状は、例えば、指の虚血性潰瘍および/もしくは強皮症と関連する疼痛であり得る。いくつかの実施形態において、本明細書で提供されるプロスタサイクリン化合物もしくは組成物を投与する工程は、処置の必要性のある患者に投与すると、指の虚血性病変と関連する1以上の機能障害の改善もしくは低減を提供する。例えば、一実施形態において、本明細書で提供されるプロスタサイクリン組成物は、手の機能障害を改善もしくは低減する、すなわち、処置される患者の手の機能において改善を提供する。投与は、一実施形態において、吸入(例えば、ネブライザーもしくは定量式吸入器で)、皮下もしくは静脈内によるものである。別の実施形態において、指の虚血性病変の処置のための本発明のプロスタサイクリン化合物もしくは組成物の有効量の静脈内投与、皮下投与もしくは吸入投与は、トレプロスチニルの皮下投与、静脈内投与もしくは吸入投与と比較して、全身有害事象の重症度の低減、または全身有害事象の発生の低下を生じる。
【0115】
一実施形態において、腎機能を改善するか、または腎機能不全もしくは腎不全と関連する症状を処置するための方法を、それを必要とする患者に提供される。さらなる実施形態において、上記方法は、投与を必要とする被験体に、本明細書で提供されるプロスタサイクリン組成物のうちの1つ、例えば、プロスタサイクリン(例えば、トレプロスチニル)もしくはそのアナログ、カチオン性化合物、界面活性剤(例えば、PEG化脂質)および疎水性添加剤(例えば、スクアラン)を含むナノ粒子組成物の有効量を投与する工程を包含する。腎機能の低下と関連した具体的症状としては、例えば、異常に少ない排尿、クレアチニンおよび尿素窒素の血中レベルの増加、尿中へのタンパク質漏出ならびに/または疼痛が挙げられる。投与は、一実施形態において、吸入(例えば、ネブライザーもしくは定量式吸入器で)、皮下もしくは静脈内によるものである。別の実施形態において、腎機能の改善または腎機能不全もしくは腎不全と関連する症状の改善のための本発明のプロスタサイクリン化合物もしくは組成物の有効量の静脈内投与、皮下投与もしくは吸入投与は、トレプロスチニルの皮下投与、静脈内投与もしくは吸入投与と比較して、全身有害事象の重症度の低減、または全身有害事象の発生の低下を生じる。
【0116】
一実施形態において、うっ血性心不全を含む心血管疾患を処置するための方法が提供される。上記方法は、一実施形態において、投与を必要とする患者に、本明細書で提供されるプロスタサイクリン組成物、例えば、プロスタサイクリン(例えば、トレプロスチニル)もしくはそのアナログ、カチオン性化合物、界面活性剤(例えば、PEG化脂質)および疎水性添加剤(例えば、スクアラン)を含むナノ粒子組成物を投与する工程を包含する。投与は、一実施形態において、吸入(例えば、ネブライザーもしくは定量式吸入器)、皮下もしくは静脈内によるものである。
【0117】
一実施形態において、末梢血管疾患(末梢動脈閉塞疾患および間欠性跛行が挙げられる)を処置するための方法が提供される。一実施形態において、上記方法は、投与を必要とする患者に、本明細書で記載されるプロスタサイクリン組成物、例えば、プロスタサイクリン(例えば、トレプロスチニル)もしくはそのアナログ、カチオン性化合物、界面活性剤(例えば、PEG化脂質)および疎水性添加剤(例えば、スクアラン)を含むナノ粒子組成物を投与する工程を包含する。本明細書で提供されるプロスタサイクリン化合物および組成物に加えて、他の薬理学的に活性な物質が、本発明の製剤中に存在し得、これらは、末梢血管疾患を処置するために有用であることが公知である。例えば、本発明の化合物は、トレンタール(赤血球変形能を増大させることが公知の物質)と組み合わせて存在し得る。投与は、一実施形態において、吸入(例えば、ネブライザーもしくは定量式吸入器で)、皮下もしくは静脈内によるものである。
【0118】
一実施形態において、神経障害性糖尿病性足部潰瘍を処置および/もしくは予防するための方法が提供される。一実施形態において、上記方法は、投与を必要とする患者に、本明細書で記載されるプロスタサイクリン組成物、例えば、プロスタサイクリン(例えば、トレプロスチニル)もしくはそのアナログ、カチオン性化合物、界面活性剤(例えば、PEG化脂質)および疎水性添加剤(例えば、スクアラン)を含むナノ粒子組成物を投与する工程を包含する。投与は、一実施形態において、吸入(例えば、ネブライザーもしくは定量式吸入器で)、皮下もしくは静脈内によるものである。本明細書で提供されるプロスタサイクリン化合物および組成物に加えて、他の薬理学的に活性な物質が、本発明の製剤中に存在し得、これらは、糖尿病性神経障害を有する患者における足部潰瘍を処置および/もしくは予防するために有用であることが公知である。例えば、本発明の組成物は、疼痛を処置するための鎮痛剤、包帯交換、血管拡張薬の薬物療法、および局所もしくは経口の抗生物質と組み合わせて存在し得る。
【0119】
一実施形態において、本明細書で記載される処置法に関する本発明のプロスタサイクリン組成物の有効量の肺投与、静脈内投与もしくは皮下投与は、トレプロスチニルの有効量が、皮下、静脈内によって、もしくは吸入によって投与される場合の、トレプロスチニルの有効量の投与と比較して、副作用の数の低下、または1以上の副作用(本明細書で「有害事象」ともいわれる)の重症度の低減を生じる。例えば、一実施形態において、本明細書で提供されるプロスタサイクリン組成物のうちの1つでの処置の必要性のある患者は、本発明のプロスタサイクリン組成物を(例えば、噴霧化、乾燥粉末吸入器、もしくは定量式吸入器によって)吸入することによって投与される場合に、上記患者へのトレプロスチニルの吸入投与によって誘発される咳もしくは咳応答の重症度および/もしくは頻度と比較して、咳の重症度および/もしくは頻度の低下、または咳応答の低下を経験する。
【0120】
別の実施形態において、本明細書で記載される処置法によって肺経路によって、投与を必要とする患者に投与されるプロスタサイクリン組成物は、非製剤化プロスタサイクリンが肺経路によって(例えば、噴霧化、乾燥粉末吸入器、もしくは定量式吸入器によって)プロスタサイクリン処置の必要性のある患者に投与される場合の、プロスタサイクリンの肺排出半減期(t
1/2)と比較して、上記組成物中に存在するプロスタサイクリンのより大きな肺排出半減期(t
1/2)を提供する。
【0121】
別の実施形態において、本明細書で記載される処置法によって、投与を必要とする患者に投与されるプロスタサイクリン組成物は、非製剤化プロスタサイクリンが上記患者に投与される場合の、該プロスタサイクリンの全身排出半減期(t
1/2)と比較して、該組成物中に存在するプロスタサイクリンのより大きな全身半減期(t
1/2)を提供する。さらなる実施形態において、上記プロスタサイクリン化合物およびトレプロスチニルの投与は、皮下投与もしくは静脈内投与のいずれかを含む。
【0122】
別の実施形態において、処置の必要性のある患者に投与される上記プロスタサイクリン組成物は、非製剤化プロスタサイクリン(すなわち、遊離プロスタサイクリン)が上記患者に投与される場合の、該プロスタサイクリンの肺C
maxもしくは血漿C
maxと比較して、該組成物中に存在するプロスタサイクリンのより大きな平均肺最大濃度(C
max)、または該組成物中に存在するプロスタサイクリンのより低い血漿C
maxを提供する。さらなる実施形態において、上記プロスタサイクリンの投与は、静脈内投与を含む。
【0123】
別の実施形態において、処置の必要性のある患者に投与される上記プロスタサイクリン組成物は、非製剤化プロスタサイクリンが上記患者に投与される場合の、該プロスタサイクリンの平均肺曲線下面積(AUC
0−t)と比較して、上記組成物中に存在するプロスタサイクリンのより大きな平均肺曲線下面積(AUC
0−t)を提供する。さらに別の実施形態において、投与を必要とする患者に投与される上記プロスタサイクリン組成物は、非製剤化プロスタサイクリン(すなわち、遊離プロスタサイクリン)が上記患者に投与される場合の、該プロスタサイクリンのピーク濃度までの肺もしくは血漿の時間(t
max)と比較して、上記プロスタサイクリンのより大きなピーク濃度までの肺もしくは血漿の時間(t
max)を提供する。
【0124】
一実施形態において、本明細書で提供される組成物、例えば、本明細書で提供されるプロスタサイクリン組成物、例えば、プロスタサイクリン(例えば、トレプロスチニル)もしくはそのアナログ、カチオン性化合物、界面活性剤および疎水性添加剤(例えば、スクアラン)を含むナノ粒子組成物は、1種以上のさらなる活性薬剤と併用して投与される。いくつかの実施形態において、このような1種以上のさらなる活性薬剤はまた、定量式吸入器を使用して、本明細書で提供されるプロスタサイクリン化合物もしくは組成物と一緒に投与され得る。一実施形態において、このような1種以上のさらなる活性薬剤は、別個に、すなわち、本明細書で提供されるプロスタサイクリン組成物より前に、もしくはその後に、投与され得る。本明細書で記載されるプロスタサイクリン組成物と併用して投与され得る特定のさらなる活性薬剤は、プロスタサイクリンが投与される処置もしくは予防のための特定の疾患もしくは状態に依存し得る。いくらかの場合、上記さらなる活性薬剤は、心血管系薬剤、例えば、cox−2インヒビター、rhoキナーゼインヒビター、カルシウムチャネルブロッカー、ホスホジエステラーゼインヒビター、エンドセリンアンタゴニスト(endothelial antagonist)、もしくは抗血小板薬であり得る。
【0125】
上記で提供されるように、本発明のプロスタサイクリン化合物および組成物は、肺経路、静脈内経路もしくは皮下経路によって、送達を必要とする患者に送達され得る。肺経路に関しては、本発明のプロスタサイクリン化合物および組成物は、このような投与に適合された任意の投与量分注デバイスで使用され得る。上記デバイスは、一実施形態において、最適な計測正確性およびその構成要素(例えば、容器、バルブおよびアクチュエーター)と製剤との適合性を確実にするように構築され、機械式ポンプシステム(例えば、定量式ネブライザー、乾燥粉末吸入器、ソフトミスト吸入器、もしくはネブライザーのもの)に基づき得る。例えば、肺送達デバイスとしては、本明細書で詳細に記載される、ジェット式ネブライザー、電子式ネブライザー、ソフトミスト吸入器、およびカプセルベースの乾燥粉末吸入器が挙げられる。
【0126】
噴霧化すると、その噴霧化組成物(「エアロゾル化組成物」ともいわれる)は、エアロゾル化粒子の形態にある。上記エアロゾル化組成物は、上記エアロゾルの粒度によって、例えば、上記エアロゾル化組成物と関連する「空気力学的重量中位径」もしくは「微細粒子画分」を測定することによって、特徴付けられる。「空気力学的重量中位径」もしくは「MMAD」は、水性のエアロゾル液滴の空気力学的分離に関して正規化され、インパクター測定、例えば、Anderson Cascade Impactor(ACI)もしくはNext Generation Impactor(NGI)によって決定される。ガス流量は、一実施形態において、ACIについては28リットル/分であり、NGIについては15リットル/分である。
【0127】
「幾何標準偏差」もしくは「GSD」は、空気力学的粒度分布の拡がりの尺度である。低GSDは、狭い液滴サイズ分布(均質にサイズのそろった液滴)を特徴付け、これは、呼吸器系にエアロゾルを標的化するのに有利である。本明細書で提供される噴霧化組成物の平均液滴サイズは、一実施形態において、5μm未満もしくは約1μm〜約5μmであり、1.0〜2.2、もしくは約1.0〜約2.2、もしくは1.5〜2.2、もしくは約1.5〜約2.2の範囲のGSDを有する。
【0128】
一実施形態において、上記噴霧化組成物の空気力学的重量中位径(MMAD)は、Anderson Cascade Impactor(ACI)もしくはNext Generation Impactor(NGI)によって測定される場合、約1μm〜約5μm、もしくは約1μm〜約4μm、もしくは約1μm〜約3μmもしくは約1μm〜約2μmである。別の実施形態において、上記噴霧化組成物のMMADは、カスケードインパクションによって、例えば、ACIもしくはNGIによって測定される場合、約5μm以下、約4μm以下、約3μm以下、約2μm以下、もしくは約1μm以下である。
【0129】
一実施形態において、上記薬学的組成物のエアロゾルのMMADは、カスケードインパクションによって測定される場合、約4.9μm未満、約4.5μm未満、約4.3μm未満、約4.2μm未満、約4.1μm未満、約4.0μm未満もしくは約3.5μm未満である。
【0130】
一実施形態において、上記薬学的組成物のエアロゾルのMMADは、カスケードインパクションによって(例えば、ACIもしくはNGIによって)測定される場合、約1.0μm〜約5.0μm、約2.0μm〜約4.5μm、約2.5μm〜約4.0μm、約3.0μm〜約4.0μmもしくは約3.5μm〜約4.5μmである。
【0131】
「微細粒子画分」もしくは「FPF」とは、本明細書で使用される場合、カスケードインパクションによって測定される場合、直径5μm未満の粒度を有するエアロゾルの画分をいう。FPFは、通常、パーセンテージとして表される。
【0132】
一実施形態において、上記エアロゾル化組成物のFPFは、ACIもしくはNGIによって測定される場合、約50%以上、ACIもしくはNGIによって測定される場合、約60%以上、またはACIもしくはNGIによって測定される場合、約70%以上である。別の実施形態において、上記エアロゾル化組成物のFPFは、NGIもしくはACIによって測定される場合、約50%〜約80%、もしくは約50%〜約70%もしくは約50%〜約60%である。
【0133】
一実施形態において、乾燥粉末吸入器(DPI)は、本発明の組成物のための吸入送達デバイスとして使用される。一実施形態において、上記DPIは、NGIもしくはACIによって測定される場合、直径が約1μm〜約10μm、もしくは約1μm〜約9μm、もしくは約1μm〜約8μm、もしくは約1μm〜約7μm、もしくは約1μm〜約6μm、もしくは約1μm〜約5μm、もしくは約1μm〜約4μm、もしくは約1μm〜約3μm、もしくは約1μm〜約2μmのMMADを有する粒子を生成する。別の実施形態において、上記DPIは、NGIもしくはACIによって測定される場合、約1μm〜約10μm、もしくは約2μm〜約10μm、もしくは約3μm〜約10μm、もしくは約4μm〜約10μm、もしくは約5μm〜約10μm、もしくは約6μm〜約10μm、もしくは約7μm〜約10μm、もしくは約8μm〜約10μm、もしくは約9μm〜約10μmのMMADを有する粒子を生成する。
【0134】
一実施形態において、上記DPIによって生成される粒子のMMADは、NGIもしくはACIによって測定される場合、約1μm以下、約9μm以下、約8μm以下、約7μm以下、6μm以下、5μm以下、約4μm以下、約3μm以下、約2μm以下、もしくは約1μm以下である。
【0135】
一実施形態において、上記DPIによって生成される粒子のMMADは、NGIもしくはACIによって測定される場合、約9.9μm未満、約9.5μm未満、約9.3μm未満、約9.2μm未満、約9.1μm未満、約9.0μm未満、約8.5μm未満、約8.3μm未満、約8.2μm未満、約8.1μm未満、約8.0μm未満、約7.5μm未満、約7.3μm未満、約7.2μm未満、約7.1μm未満、約7.0μm未満、約6.5μm未満、約6.3μm未満、約6.2μm未満、約6.1μm未満、約6.0μm未満、約5.5μm未満、約5.3μm未満、約5.2μm未満、約5.1μm未満、約5.0μm未満、約4.5μm未満、約4.3μm未満、約4.2μm未満、約4.1μm未満、約4.0μm未満もしくは約3.5μm未満である。
【0136】
一実施形態において、上記DPIによって生成される粒子のMMADは、約1.0μm〜約10.0μm、約2.0μm〜約9.5μm、約2.5μm〜約9.0μm、約3.0μm〜約9.0μm、約3.5μm〜約8.5μmもしくは約4.0μm〜約8.0μmである。
【0137】
一実施形態において、上記DPIによって生成されるプロスタサイクリン粒状組成物のFPFは、ACIもしくはNGIによって測定される場合、約40%以上、ACIもしくはNGIによって測定される場合、約50%以上、ACIもしくはNGIによって測定される場合、約60%以上、またはACIもしくはNGIによって測定される場合、約70%以上である。別の実施形態において、上記エアロゾル化組成物のFPFは、NGIもしくはACIによって測定される場合、約40%〜約70%、もしくは約50%〜約70%もしくは約40%〜約60%である。
【0138】
本発明の別の局面は、肺高血圧症、例えば、肺動脈性肺高血圧症、もしくは門脈肺高血圧症を処置するか、またはこれらに対する予防を提供するためのシステムに関する。一実施形態において、上記システムは、プロスタサイクリンもしくはそのアナログ、カチオン性化合物および界面活性剤を含む薬学的組成物;ならびに吸入デバイスを含む。一実施形態において、上記吸入デバイスは、ネブライザーである。さらなる実施形態において、上記プロスタサイクリン組成物は、疎水性添加剤(例えば、スクアラン)を含み、上記組成物は、複数のナノ粒子を含む。
【0139】
ネブライザータイプの吸入送達デバイスは、溶液(通常は、水性)、または懸濁物として、本発明の組成物を含み得る。例えば、上記プロスタサイクリン組成物は、食塩水中に懸濁され得、上記吸入送達デバイスにロードされ得る。吸入のために上記組成物の噴霧化したスプレーを生成することにおいて、上記ネブライザー送達デバイスは、超音波式で、加圧空気によって、他のガスによって、電子的にもしくは機械的に(例えば、振動メッシュもしくはアパーチャープレート)駆動され得る。振動メッシュ式ネブライザーは、微細な粒子、低速エアロゾルを生成し、従来のジェット式ネブライザーもしくは超音波式ネブライザーより速い速度で、治療溶液および懸濁物を噴霧化する。よって、処置の継続期間は、ジェット式もしくは超音波式のネブライザーと比較して、振動メッシュ式ネブライザーで短縮され得る。本明細書で記載される方法での使用に適用可能な振動メッシュ式ネブライザーとしては、Philips Respironics I−Neb(登録商標)、Omron MicroAir、the Nektar Aeroneb(登録商標)、およびPari eFlow(登録商標)が挙げられる。上記ネブライザーは、一実施形態において、単回使用(例えば、使い捨て)もしくは複数回使用ネブライザーである。一実施形態において、本明細書で提供されるシステムは、電子メッシュ式ネブライザー、空気圧式(ジェット式)ネブライザー、超音波式ネブライザー、呼吸増強式(breath−enhanced)ネブライザーおよび呼吸作動式(breath−actuated)ネブライザーから選択されるネブライザーを含む。一実施形態において、上記ネブライザーは、携行式である。
【0140】
上記吸入送達デバイスは、ネブライザー、乾燥粉末吸入器、もしくは定量式吸入器(MDI)、または当業者に公知の任意の他の適切な吸入送達デバイスであり得る。上記デバイスは、上記プロスタサイクリン組成物の単一用量を含み得、これを送達するために使用され得るか、または上記デバイスは、本発明の組成物の複数用量を含み、これを送達するために使用され得る。
【0141】
ネブライザー−タイプの吸入送達デバイスは、溶液(通常は、水性)として、もしくは懸濁物として、本発明の組成物を含み得る。例えば、上記プロスタサイクリン化合物もしくは組成物は、食塩水中に懸濁され得、上記吸入送達デバイスにロードされ得る。吸入のための上記組成物の噴霧化されたスプレーを生成することにおいて、上記ネブライザー送達デバイスは、超音波式で、加圧空気によって、他のガスによって、電子式でもしくは機械式で(例えば、振動メッシュ式もしくはアパーチャープレート)駆動され得る。振動メッシュ式ネブライザーは、微細な粒子、低速エアロゾルを生成し、従来のジェット式もしくは超音波式のネブライザーより速い速度で、治療溶液および懸濁物を霧状にする。よって、処置の継続期間は、ジェット式もしくは超音波式のネブライザーと比較して、振動メッシュ式ネブライザーで短縮され得る。本明細書で記載される方法での使用に適用可能な振動メッシュ式ネブライザーとしては、Philips Respironics I−Neb(登録商標)、Omron MicroAir、Nektar Aeroneb(登録商標)、およびPari eFlow(登録商標)が挙げられる。
【0142】
上記ネブライザーは、持ち運びができかつ携帯式のデザインであり得、自己充足式の電気ユニットが装備され得る。上記ネブライザーデバイスは、規定された開口サイズの2つの一致した出口チャネル(ここを通って、液体製剤が加速され得る)を有するノズルを含み得る。これは、2つの流れの衝突を生じ、上記製剤の霧状化を生じる。上記ネブライザーは、機械式アクチュエーターを使用して液体製剤を規定された開口サイズ(複数可)の複数穴ノズルに通して、吸入のために製剤のエアロゾルを生成することができる。単回用量ネブライザーのデザインでは、製剤の単回用量を含むブリスターパックが使用され得る。
【0143】
本発明において、上記ネブライザーを使用して、例えば肺の膜内での粒子の配置に最適となる大きさの粒子を確実につくることができる。
【0144】
別の実施形態において、本明細書で記載されるネブライザーは、約0.35g/分より速い、約0.40g/分より速い、約0.50g/分より速い速度で、もしくは約0.60g/分〜約0.70g/分の速度で上記プロスタサイクリン薬学的組成物のエアロゾルを生成する。さらなる実施形態において、上記エアロゾルの微細粒子画分(FPF)は、カスケードインパクションによって測定される場合、約50%以上、カスケードインパクションによって測定される場合、約60%以上、カスケードインパクションによって測定される場合、約70%以上である。
【0145】
空気圧式ネブライザーの操作の原理は、一般に、当業者に公知であり、例えば、Respiratory Care, Vol. 45, No. 6, pp. 609−622 (2000)(全ての目的のために本明細書に参考として援用される)に記載される。簡潔には、加圧ガス供給が、空気圧式ネブライザーにおいて液体の霧化のための駆動力として使用される。加圧ガスが送達されると、それは、陰圧の領域を引き起こす。次いで、エアロゾル化される溶液は、そのガス流の中に送達され、液体薄膜へとせん断される。この薄膜は不安定であり、表面張力が原因で液滴へと壊れる。より小さな粒子(すなわち、本明細書で記載されるMMADおよびFPF特性を有する粒子)は、次いで、エアロゾル流の中にバッフルを配置することによって形成され得る。1つの空気圧式ネブライザーの実施形態において、ガスおよび溶液は、出口ポート(ノズル)を離れてバッフルと相互作用する前に、混合される。別の実施形態において、液体およびガスが出口ポート(ノズル)を離れるまで、混合は起こらない。一実施形態において、上記ガスは、空気、O
2および/もしくはCO
2である。
【0146】
一実施形態において、液滴サイズおよび産出速度は、空気圧式ネブライザーにおいて、調整され得る。しかし、噴霧化される組成物、および該組成物の特性(例えば、%会合プロスタサイクリン)が上記ネブライザーの改変に起因して変更されるかどうかには、考慮が払われるべきである。例えば、一実施形態において、上記ガス速度および/もしくは薬学的組成物の速度は、本発明の産出速度および液滴サイズを達成するように改変される。さらにもしくは代わりに、上記ガスおよび/もしくは溶液の流量は、本発明の液滴サイズおよび産出速度を達成するように調整され得る。例えば、ガス速度の増大は、一実施形態において、液滴サイズを低下させた。一実施形態において、薬学的組成物の流れ 対 ガスの流れの比は、本発明の液滴サイズおよび産出速度を達成するように調整される。一実施形態において、液体 対 ガスの流れの比の増大は、粒度を増大させる。
【0147】
噴霧化時間は、一実施形態において、上記流れを増大させてネブライザーを動かすことによって短縮される。例えば、Clay et al. (1983). Lancet 2, pp. 592−594およびHess et al. (1996). Chest 110, pp. 498−505(これらの各々は、全ての目的のために本明細書に参考として援用される)を参照のこと。
【0148】
一実施形態において、リザーバーバッグもしくはチャンバが、噴霧化プロセスの間にエアロゾルを捕捉するために使用され、上記エアロゾルは、その後吸入によって被験体に提供される。別の実施形態において、本明細書で提供されるネブライザーは、バルブ付きのオープンベント型デザインを含む。この実施形態において、患者がネブライザーを通じて吸入する場合、ネブライザーの産出は増大する。呼気相の間に、一方向バルブは、ネブライザーチャンバから離れる流れに患者を向ける。
【0149】
一実施形態において、本明細書で提供されるネブライザーは、連続式ネブライザーである。言い換えると、用量を投与する一方で薬学的組成物をネブライザーに再充填することを必要としない。
【0150】
一実施形態において、振動メッシュ式ネブライザーは、本発明のプロスタサイクリン組成物を、それを必要とする患者に送達するために使用される。一実施形態において、上記ネブライザーの膜は、約50kHz〜約500kHz、約100kHz〜約450kHz、約150kHz〜約400kHz、もしくは約200kHz〜約350kHzの超音波周波数で振動する。
【0151】
一実施形態において、本明細書で提供されるネブライザーは、空気圧縮機を使用しないので、空気流を発生させない。一実施形態において、エアロゾルは、デバイスの混合チャンバに入るエアロゾルヘッドによって生成される。上記患者が吸入する場合、空気は、上記混合チャンバの背面にある一方向吸入バルブを介して上記混合チャンバに入り、そのエアロゾルを、マウスピースを通して該患者へと運ぶ。呼息する際には、上記患者の息は、上記デバイスのマウスピース上の一方向呼息バルブを通って流れる。一実施形態において、上記ネブライザーは、上記混合チャンバの中にエアロゾルを生成し続け、それは、次いで、次の呼吸のときに被験体によって吸い込まれ、そしてネブライザーの薬剤リザーバーが空になるまで、このサイクルが継続する。
【0152】
本明細書で提供される組成物は、一実施形態において、吸入(例えば、噴霧化)によって、PH、PAHもしくはPPHの処置のために使用される。上記組成物は、一実施形態において、ネブライザーによって投与される。これは、送達を必要とする患者の肺へと送達するための上記組成物のエアロゾルミストを提供する。
【0153】
一実施形態において、上記ネブライザーは、約0.1〜1.0mL/分の速度で上記薬学的組成物のエアロゾルを生成する。一実施形態において、上記噴霧化組成物の空気力学的重量中位径(MMAD)は、Anderson Cascade Impactor(ACI)もしくはNext Generation Impactor(NGI)によって測定される場合、約1μm〜約5μm、もしくは約1μm〜約4μm、もしくは約1μm〜約3μmもしくは約1μm〜約2μmである。別の実施形態において、上記噴霧化組成物のMMADは、カスケードインパクションによって測定される場合、約5μm以下、約4μm以下、約3μm以下、約2μm以下、もしくは約1μm以下である。
【0154】
一実施形態において、本明細書で提供されるシステムは、プロスタサイクリン組成物、例えば、トレプロスチニル組成物、例えば、トレプロスチニル固体ナノ粒子製剤を含む。
【0155】
本発明の別の局面は、粒状組成物(これは、プロスタサイクリンもしくはそのアナログ、カチオン性化合物および界面活性剤を含む)を含むプロスタサイクリンエアロゾルに関する。一実施形態において、上記粒状組成物は、固体脂質ナノ粒状組成物である。一実施形態において、上記エアロゾルは、約0.1〜約1.0mL/分の速度で生成される。
【0156】
一実施形態において、上記プロスタサイクリン組成物をエアロゾル化する前に、該組成物中に存在するプロスタサイクリンのうちの約60%〜約100%は、粒子形態にある。さらなる実施形態において、上記プロスタサイクリンは、トレプロスチニル、エポプロステノール、もしくはイロプロストである。別の実施形態において、噴霧化する前に、約65%〜約99%、約75%〜約99%、約85%〜約99%、約95%〜約99%、もしくは約97%〜約99%が、粒子形態にある。
【0157】
別の実施形態において、上記プロスタサイクリン組成物をエアロゾル化する前に、該組成物中に存在するプロスタサイクリンのうちの約85%〜約99%、もしくは約90%〜約99%もしくは約95%〜約99%もしくは約96%〜約99%は、粒子形態にある。さらなる実施形態において、上記プロスタサイクリンは、トレプロスチニル、エポプロステノール、もしくはイロプロストである。別の実施形態において、噴霧化する前に、上記組成物中に存在するプロスタサイクリンのうちの約98%は、粒子形態にある。
【0158】
一実施形態において、上記エアロゾル化組成物のFPFは、カスケードインパクションによって測定される場合、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97.5%以上、もしくは99%以上である。さらなる実施形態において、上記組成物は、トレプロスチニルを含む。さらなる実施形態において、上記組成物は、カチオン性脂質を含む。なおさらなる実施形態において、上記組成物は、ミセル状組成物である。
【0159】
一実施形態において、本明細書で記載される吸入デバイスは、約0.1〜1.0mL/分の速度で上記プロスタサイクリン薬学的組成物のエアロゾルを生成する(すなわち、総産出速度を達成する)。上記プロスタサイクリン組成物のエアロゾルは、一実施形態において、約0.25g/分より速い、約0.35g/分より速い、約0.45g/分より速い、約0.55g/分より速い、約0.60g/分より速い、約0.65g/分より速いもしくは約0.70g/分より速い速度で生成される。別の実施形態において、本明細書で記載される吸入デバイスは、約0.53g/分〜約0.80g/分で、約0.53g/分〜約0.70g/分、約0.55g/分〜約0.70g/分、約0.53g/分〜約0.65g/分、もしくは約0.60g/分〜約0.70g/分で、上記プロスタサイクリン薬学的組成物のエアロゾルを生成する(すなわち、総産出速度を達成する)。一実施形態において、上記システムの吸入デバイスは、ネブライザーもしくは乾燥粉末吸入器である。
【0160】
噴霧化すると、一実施形態において、上記薬学的組成物中の粒子は、薬物を漏出する。一実施形態において、噴霧化後の粒子会合プロスタサイクリンの量は、約25%〜約90%、もしくは約40%〜約80%もしくは約50%〜約70%である。これらのパーセンテージはまた、本明細書で「噴霧化後の%会合プロスタサイクリン」ともいわれる。本明細書で提供される場合、一実施形態では、本明細書で提供される組成物は、複数の粒子を含み、該粒子は、プロスタサイクリン、例えば、トレプロスチニルを含む。一実施形態において、噴霧化後の%会合プロスタサイクリンは、約30%〜約80%である。
【0161】
一実施形態において、噴霧化後の%会合プロスタサイクリンは、コールドトラップ中で濃縮することによって空気からエアロゾルを再生することによって測定され、その液体は、その後、遊離プロスタサイクリンおよび被覆プロスタサイクリン(会合プロスタサイクリン)についてアッセイされる。
【0162】
一実施形態において、上記薬学的組成物のエアロゾルのMMADは、カスケードインパクションによって測定される場合、約4.9μm未満、約4.5μm未満、約4.3μm未満、約4.2μm未満、約4.1μm未満、約4.0μm未満もしくは約3.5μm未満である。
【0163】
一実施形態において、上記薬学的組成物のエアロゾルのMMADは、カスケードインパクションによって測定される場合、約1.0μm〜約5.0μm、約2.0μm〜約4.5μm、約2.5μm〜約4.0μm、約3.0μm〜約4.0μmもしくは約3.5μm〜約4.5μmである。
【実施例】
【0164】
本発明は、以下の実施例を参照することによってさらに例示される。しかし、これらの実施例は、上記で記載される実施形態のように、例示であって本発明の範囲を限定するとは決して解釈されるべきではないことに注意すべきである。
【0165】
これらの実験で使用されるトレプロスチニル組成物は、遊離酸もしくは塩のいずれかの形態でトレプロスチニルを含み得る(
図1)。トレプロスチニルは、例えば、米国特許第6,765,117号および同第8,497,393号に開示される方法によって合成され得る。プロスタグランジン誘導体の合成は、米国特許第4,668,814号に記載されている。米国特許第6,765,117号;同第8,497,393号;および同第4,668,814号の開示は、全ての目的のために、それらの全体において参考として援用される。
【0166】
以下のアッセイを、以下で提供される実施例において使用した。
【0167】
(濾過アッセイ)
遊離トレプロスチニル(すなわち、会合していない)のパーセンテージを測定するために、濃度1mM、100μM、および10μMのトレプロスチニルナノ粒子製剤の500μLを使用した。サンプルを、30000Da分子量カットオフ(MWCO)を有するVivaconスピンフィルタにロードし、25分間5000×gで遠心分離した。その濾液を集め、そのトレプロスチニル含有量をHPLCによって測定した。濾液中のトレプロスチニル含有量は、「遊離トレプロスチニル」、すなわち、非ナノ粒子会合トレプロスチニルに等しく、濾過前の全トレプロスチニル含有量のパーセンテージとして表される。
【0168】
(粒度アッセイ)
上記トレプロスチニル組成物の粒度を測定するために、950μLの脱イオンH
2O(0.02μmフィルタを通して濾過した)中に希釈したサンプル50μLを、使い捨てプラスチックキュベットの中にアリコートに分け、Mobius粒子分析器(Wyatt, CA)で分析した。データを集め、10回の収集(23℃で3秒/収集)について平均した。
【0169】
(HPLCアッセイ)
トレプロスチニル濃度を、Corona検出器およびPDA検出器付きのWaters Alliance 2695システムを使用して、HPLC分析によって測定した。UV吸光度を270nmで測定した。カラムACE 3 C8 4.6×50(Mac−Mod Analytical)を使用した。
【0170】
移動相Aは、25% アセトニトリル、25% メタノール、50% 水、0.1% ギ酸、および0.01% トリエチルアミンを含んだ。移動相Bは、50% アセトニトリル、50% メタノール、0.1% ギ酸、および0.01% トリエチルアミンを含んだ。移動相勾配を、相Bを40から95%へと5分間かけて増加させて使用した。
【0171】
(実施例1−トレプロスチニル組成物の合成)
本発明のトレプロスチニル組成物を、以下のように調製した。所望のモル比のトレプロスチニル、カチオン性脂質、疎水性充填剤、およびPEG化脂質の混合物を、エタノール中に溶解した。表2は、上記方法によって作製したトレプロスチニル組成物の代表的な番号を示す。さらに、各組成物の平均粒度(nm)を、最後の列に示す。
【0172】
エタノール溶液中の成分の全濃度は、通常、40mMもしくは80mMであった。上記溶液の特定の体積(通常は、1mL)を、全流量100mL/分で、十字混合路(mixing cross)中で2つの流れを合わせることによって、インラインで9容の水性緩衝液と混合した。緩衝液(水性投入) 対 脂質の流量比は、約20:1であった。混合プロセスの模式図については、
図3を参照のこと。
【表2-1】
【表2-2】
【0173】
Gilson 402シリンジポンプを使用して、上記エタノール溶液を送達した。蠕動ポンプを使用して、水性緩衝溶液を送達した。混合した後、上記トレプロスチニルナノ粒子は、自発的に形成した。最終混合物中に残っているエタノール溶媒を、次いで、窒素ガスの流れを吹き込むことによって、もしくは窒素ガスを注入することによって除去した。
【0174】
表3に示されるように、種々のタイプのカチオン性脂質を含む組成物を作製した。カチオン性脂質の種々のタイプのうち、トリオクチル−アミン(triC8−アミン)は、最小のトレプロスチニル保持(最高の遊離%)を有する製剤を生成した。臭化物塩としてのジドデシルジメチルアンモニウム(diC12dMA)を含む組成物は、高いトレプロスチニル保持を示した(表3)。
【表3】
【0175】
(実施例2−トレプロスチニル組成物の粒度特徴付け)
全ての粒度測定を、準弾性光散乱(QELS)モードでWyatt Technology Mobius
TM Zeta Potential/Particle Sizing Instrumentを使用して行った。組成物アリコートを、予め濾過した(0.02μm孔フィルタ)超高純度脱イオンH
2O中で10倍希釈した。光散乱データを集め、Dynamics(登録商標) v. 7.2.4機器ソフトウェアを使用して、粒度およびサイズ分布に変換した。報告される平均粒度直径は、粒子拡散定数(particle diffusion constant)(懸濁物中の粒子の生の散乱強度によって決定される)を数学的に適合させて、粒度平均および平均直径あたりの粒度分布を得るキュムラントモデル(cumulants model)に基づいた。試験サンプルは、T426、T420、T427、およびT428を含んだ(表4)。
【表4】
【0176】
これらの実験結果から、トレプロスチニル組成物の粒度(平均粒子直径)は、スクアラン(疎水性充填剤)が増加するに伴って増加するということがわかった。
図4に示されるように、スクアラン含有量は、粒度に関して他の成分に反比例する。
図4Aにおいて、上記トレプロスチニルおよびカチオン性脂質の比を固定し、SDG−PEGは、全てのサンプル(T426、T420、T427およびT428)に関して20%で存在した。
図4B(T429、T420、T430、およびT431)は、固定したトレプロスチニル/カチオン性脂質/PEG比を有するトレプロスチニル組成物のナノ粒子直径を示す。スクアランの効果は、適合線の傾きによって決定されるようにTR/CL/PEG比が固定されている(例えば、PEG %は、他の脂質成分に伴って低下する)、
図4Bのサンプルにおいてわずかにより明白であることが認められた。これらのデータは、ある程度まで、PEGパーセンテージも、トレプロスチニル組成物の粒度において役割を果たすことを示唆する。
【0177】
図5は、トレプロスチニル、dC16(カチオン性脂質)およびDSG−PEG2000もしくはDSPE−PEG2Kのいずれかを含む組成物の粒度におけるPEG化−脂質濃度の役割を示す。
図5に示されるように、PEG化脂質濃度は、粒度に逆相関する。すなわち、粒子のサイズは、両方の組成物に関してPEG化脂質のmol%が増加するにつれて減少する。DSPE−PEG2Kを含む組成物の粒度は、20% PEG(mol%)あたりでプラトーに達する。
【0178】
(実施例3:組成物成分の関数としてのトレプロスチニルナノ粒子会合)
トレプロスチニル会合の程度に対する種々の組成物成分の効果を測定した。この研究で使用される組成物は、T590、T591およびT592であった(
図6A)。これらの成分は、以下の表5に提供される。トレプロスチニル遊離%を、組成物を全トレプロスチニル濃度10μMへと希釈した後に、記載されるように測定した。会合したトレプロスチニルを、100%−TRP遊離%として計算した。トレプロスチニル会合は、カチオン性脂質含有量が増加するにつれて増加することがわかった(
図6A)。
【表5】
【表6】
【0179】
図6Bはまた、遊離トレプロスチニル(%)の測定された量(これは、カチオン性脂質含有量の関数として、会合トレプロスチニルに対して逆である)を示す。表6は、試験した各組成物のカチオン性脂質/トレプロスチニルモル比を示す。これらの組成物におけるPEG化脂質:トレプロスチニルのモル比は、一定比0.5で維持された。
図6Aと一致して、会合トレプロスチニルの量は、カチオン性脂質含有量の増加と相関する(
図6B)。
図6Bはまた、試験した各組成物についての粒子の全電荷を示す。粒子電荷を、粒子における荷電した成分(TRPおよびPEG化脂質については(−)の、ならびにカチオン性脂質については(+)の対応する記号で示される)の濃度の合計として計算した。PEG化脂質およびカチオン性脂質の両方が、粒子と100%会合していると想定し、その一方で、ナノ粒子中のTRP含有量をTRP合計(1−TRP遊離%/100%)として計算した。
図6Bのデータは、より正に荷電した粒子がトレプロスチニルをより大きな程度まで保持することを示す。具体的には、ほぼ100%保持(1〜2% 遊離TRP)が、上記粒子の電荷が正味の正になると達成される。
【0180】
図6Cは、カチオン性脂質の関数として遊離トレプロスチニルの量および上記組成物中の粒子の全電荷を示す。この実験で試験した組成物を表7に示し、各々、カチオン性脂質としてdiC14dMAを含んだ。
図6Bと一致して、会合トレプロスチニルの量は、カチオン性脂質含有量の増加と相関する。つまり、遊離トレプロスチニルの量は、カチオン性脂質濃度が増加するにつれて減少する。さらに、会合トレプロスチニルの量は、正の粒子電荷の増加と正に相関する。
【表7】
【0181】
(透析アッセイ)
表8は、透析研究において使用した組成物を示す。この研究の結果は、どの組成物がインビボで持続した放出プロフィールを提供し得るかの指標として使用され得る。
【表8】
【0182】
各サンプルの5mLを、1Lの1×PBSに対して透析した。50μLのサンプルを集め、種々の時点でHPLCによって試験した(
図7)。250μLのサンプルを24時間で集めた。サンプルを集めるごとに、等体積の1×PBSを透析バッグに添加した。吸光度データを、計算した希釈率に対して正規化した。使用した透析膜は、50kDa MWカットオフを有した。
【0183】
研究の結果を、
図7に示す。遊離トレプロスチニルは、最も早く透析された。なぜならその動力学は、透析膜の孔を通る自由拡散によってのみ制限されたからである。組成物T416(カチオン性脂質を含まない)は、ほぼ同程度に早く放出され、このことから、正味の正電荷がトレプロスチニルの効率的な保持に必要とされるという本発明者らが以前に観察したことを確認した。対照的に、T426、T427、T428、T429、T430およびT431は各々、ゆっくりと透析された。このことは、これらの組成物がインビボで徐放性組成物として有用であり得ることを示していた。上位3つの組成物は、T428>T431>427であり、トレプロスチニル含有量は、それぞれ、3.3%、6.9%、および10%であった。このことは、TRP/カチオン性脂質比が一定(2:1)では、より低いTRP mol%を有する組成物が、トレプロスチニルをより良好に保持し、透析の間にこれをよりゆっくりと放出することを示唆する。
【0184】
(実施例4−トレプロスチニル組成物に応答したCHO−K1細胞における環状アデノシン一リン酸(cAMP)レベルの測定)
GloSensor
TM cAMPアッセイ(Promega)に基づいた細胞ベースのチャイニーズ・ハムスター卵巣−K1(CHO−K1)アッセイを使用して、cAMPレベルに対するトレプロスチニルアルキルエステル化合物の効果を特徴付けた。
【0185】
cAMPは、Gα−sおよびGα−iプロテインを通じて作用するG−タンパク質共役レセプター(GPCR)のシグナル伝達に関与するセカンドメッセンジャーである。トレプロスチニルレセプターはGPCRであるので、上記アッセイは、それぞれのプロスタサイクリン組成物がそのレセプターを結合し、GPCR細胞シグナル伝達カスケードを活性化するかどうかの指標を提供する。
【0186】
GloSensor
TMアッセイは、ホタルルシフェラーゼの遺伝子改変された形態(この中に、cAMP結合タンパク質部分が挿入されている)を利用する。cAMPが結合すると、コンホメーション変化が誘導され、光産出の増加がもたらされる。
【0187】
EP2プロスタノイドレセプターを、GloSensor
TMプラスミド(Promega)とともにCHO−K1細胞へと、以下のように共トランスフェクトした。CHO−K1細胞を、その単層が50〜90%コンフルエントになったときに回収した。まず、細胞を5mL PBSで洗浄した。2mLの予め温めておいた(37℃)0.05% トリプシン−EDTA(Life Technologies, Cat #: 25300054)を添加し、フラスコの側部を軽くたたくことによって、細胞を剥がした。次に、10% ウシ胎仔血清(FBS; Hyclone, Cat #: SH30071.03)を含む10mLの抗生物質非含有増殖培地(Life Tech, Cat #: 31765092)を添加し、細胞を、250×gにおいて5分間、室温で遠心分離した。培地を吸引し、細胞ペレットを、10mLの増殖培地中で再懸濁した。血球計算板を使用して細胞数を決定した。培養用に処理した96ウェル平底プレート(Costar, Cat #: 3917)の各ウェルに、1×10
4 細胞/100μL 抗生物質非含有増殖培地を播種した。上記細胞を、37℃および5% CO
2で一晩、ウォータージャケット付きインキュベーター中でインキュベートした。
【0188】
最大20ウェルまでの小規模トランスフェクションのために、pGLoSensor−22F cAMPプラスミド(Promega, Cat #: E2301)(2μg):(EP2)(10ng)(Origene, Cat #: SC126558):pGEM−3Zf(+)(10ng)(Promega, Cat #: P2271)比を、終濃度12.6ng/μL(全プラスミド)へとOpti−MEM I血清低減培地(Life Technologies, Cat #: 1985062)中に希釈した。次に、6μLのFuGENE HDトランスフェクション試薬(Promega, Cat #: E2311)を、160μLの希釈したプラスミドに添加し、穏やかにピペッティングすることによって注意深く混合した。その複合体を、室温で0〜10分間インキュベートし、次いで、96ウェルホワイトアッセイプレート(Costar, Cat #: 3917)のウェル1つあたり8μLのその複合体を添加し、細胞単層を壊すことなく穏やかに混合した。上記プレートを、20〜24時間、37℃および5% CO
2で、ウォータージャケット付きインキュベーター中でインキュベートした。インキュベーション後、細胞を処理し、分析した。
【0189】
より大規模なトランスフェクションのために、前述の工程をそれに応じてスケールアップさせ、細胞を最後のインキュベーション後に凍結した。凍結したトランスフェクション済みCHO−K1細胞を調製するために、培地を培養フラスコから吸引し、細胞を5mL PBSですすいだ。上記のように、2mLの予め温めておいた(37℃)0.05% トリプシン−EDTA(Life Technologies, Cat #: 25300054)を添加し、フラスコの側部を軽くたたくことによって細胞を剥がした。次に、10% FBS(Hyclone, Cat #: SH30071.03)を含む10mLの抗生物質非含有増殖培地(Life Technologies, Cat #: 31765092)を添加し、細胞を250×gで5分間、室温において遠心分離した。血球計算板を使用して細胞数を決定した。培地を吸引し、細胞ペレットを凍結用培地(Millipore, cat #: S−002−5F)中に2.5×10
6 細胞/バイアルで再懸濁した。長期間貯蔵のための液体窒素に移す前に、トランスフェクトした細胞を−80℃で一晩インキュベートした。次いで、凍結したストックをアッセイに使用する1日前に解凍し、細胞を、100μLの抗生物質非含有完全培地(F12(Life Technologies, Cat # : 31765092)+10%FBS(Hyclone, Cat #: SH30071.03))中に2.5×10
4 細胞/ウェルで播種した。37℃および5% CO
2で、ウォータージャケット付きインキュベーター中で一晩インキュベートした後、その細胞はcAMP応答アッセイに使える状態にあった。
【0190】
cAMP測定のための準備において、上記細胞を、処理前にGloSensor cAMP試薬で平衡化した。平衡化のために、培地を個々のウェルから注意深く除去した。次に、96ウェルプレートの1ウェルあたり100μLの平衡化培地(6%v/vのGlosensor Reagentストック溶液(Promega, Cat #: E291)、10% FBS(Hyclone, Cat #: SH30071.03)および88% CO
2非依存性培地(Life Technologies, Cat #: 18045088))を添加し、各ウェルの側面に添加した。次いで、上記プレートを2時間室温でインキュベートした。第1のプレリード測定(pre−read measurement)を、マイクロプレートリーダー(MicroLumat Plus)を使用して行った。プレートを、室温でさらに10分間インキュベートし、続いて、第2のプレリード測定を行った。
【0191】
遊離トレプロスチニルおよびトレプロスチニル組成物の作業溶液を、細胞にいったん添加して終濃度が1×になるように、10×濃度で調製した。処理後に、各プレートを、マイクロプレートリーダー(MicroLumat Plus)を使用して、アッセイの継続時間にわたって5分ごとに読み取った。コントロールと比較したcAMPの倍数変化を決定するために、トランスフェクション効率を、上記第2のプレリード測定値をその対応するプレリード測定値の平均で除算することによって決定した。次に、サンプルの正規化した相対光単位(RLU)を、プレート読み取り測定値をトランスフェクション効率で除算することによって決定した。次いで、コントロールと比較したcAMPの倍数変化を、サンプルの正規化したRLUをコントロールの正規化したRLUで除算することによって決定した。
【0192】
(遊離トレプロスチニルを使用するcAMPアッセイの検証)
上記cAMPアッセイを、遊離トレプロスチニルを使用して検証した。トレプロスチニル(10μM、1μM、0.1μM、0.01μM、0.001μM、0.0001μM、0.00001μM、および0.000001μM)を、平衡化したCHO−K1細胞に添加し、次いで、上記細胞を、30分間インキュベートした。次いで、室温で発光を測定した。
【0193】
(トレプロスチニル組成物)
EP2レセプターおよびGloSensor
TMプラスミドで共トランスフェクトしたCHO−K1細胞を、遊離トレプロスチニル(10μM)、ならびにトレプロスチニル組成物T527およびT550(表9)で、示された濃度でチャレンジした。次いで、cAMPレベルを、
図8A〜Cに示されるように、8時間の時間経過にわたって5分ごとに測定した。
【表9】
【0194】
トレプロスチニル組成物(2μM)に応答したcAMPレベルは、遊離トレプロスチニルに等しく、そのレベルは、少なくとも6時間持続した。上記持続したcAMPレベルは、遊離トレプロスチニルに対する応答では示されなかった。
【0195】
(噴霧化トレプロスチニル組成物)
上記の細胞ベースの(CHO−K1) cAMPアッセイをまた使用して、cAMPレベルに対する種々のトレプロスチニル組成物を噴霧化する効果を特徴付けた。
【0196】
Nebulizer Aeroneb Pro(Aerogen)を使用して、トレプロスチニル組成物を噴霧化した。所望の体積の製剤(通常は、3mL)を、ネブライザーのメッシュヘッドにロードした。そのヘッドを、ガラス製インピンジャーに直接接続して気密シールした。サンプル全体が噴霧化されるまで工場出荷時の設定を使用して噴霧化を実行した。完全に噴霧化した後に、上記ヘッドを外した;インピンジャーにキャップをし、5分間600×gで遠心分離して、インピンジャー内部のエアロゾルを沈降させた。その手順は、噴霧化したサンプルを集めるにあたって、ほぼ100%収率をもたらした。
【0197】
この実験で試験される組成物は、以下の表10に示され、結果は、
図9A〜Bに示される。cAMPレベルを、240分の時間経過にわたって5分ごとに測定した。
【表10】
【0198】
2μM用量を使用するこれらの実験の結果は、
図8に示される。トレプロスチニル組成物T420およびT441(2μM)に対するcAMP応答は、遊離トレプロスチニルによって誘導される応答以上であった(
図9A, 9B)。T420およびT441組成物に応答したcAMPレベルは、遊離トレプロスチニルより有意に長く持続した。
【0199】
(実施例5−細胞増殖に対するトレプロスチニル組成物の効果の決定)
細胞増殖に対するトレプロスチニル化合物のいずれかの効果を決定するために、CHO−K1細胞およびラット肺胞細胞(NR8383細胞)を使用する細胞ベースのアッセイを行った。
【0200】
(CHO−K1細胞)
CHO−K1細胞を、その細胞単層が50〜90%コンフルエントになったときに回収した(継代4〜11を使用する)。培地をフラスコから吸引し、細胞を2mLのF12培地ですすいだ。次に、1mLの予め温めておいた(37℃)0.25% トリプシン−EDTA(Life Technologies, Cat#: 25300054)を添加し、フラスコの側部を軽くたたくことによって、フラスコから細胞を剥がした。次いで、完全増殖培地(F12(Life Technologies, Cat #: 31765092)+10%FBS(Hyclone, Cat #: SH30071.03)+1×Pen−Strep(Life Technologies, cat # 15140−122))を、体積10mLで添加した。細胞を、250×gで5分間、室温で遠心分離し、その培地を吸引した。細胞ペレットを、10mL 完全増殖培地中で再懸濁した。血球計算板を使用して、細胞数を決定した。次いで、細胞を、100μLの完全増殖培地中、96ウェルプレートの1ウェルあたり2000細胞、播種した。上記プレートを、37℃および5% CO
2で、ウォータージャケット付きインキュベーター中で一晩インキュベートした。
【0201】
翌日、80μLの新鮮な完全培地を各ウェルに添加し、CHO−K1細胞を、トレプロスチニル化合物および組成物処理でチャレンジした。作業溶液は、10×濃度で調製し、2倍連続希釈後に、1ウェルあたり20μLアリコートを添加して、最終1×濃度に達するようにした。37℃および5% CO
2で、ウォータージャケット付きインキュベーター中で48時間インキュベートした後、細胞増殖に対するその阻害効果を決定した。プレートを、1ウェルあたり20μLのPresto Blue試薬(Life Technologies, cat #: A13262)を使用して分析した。上記試薬を混合し、プレートを、37℃および5% CO
2で1時間、ウォータージャケット付きインキュベーター中でインキュベートした。プレートを、発光λ:590nmおよび励起λ:560nmで、CytoFluor Series 4000(PerSeptive BioSystems)もしくはSynergy Neoマイクロプレートリーダー(BioTek)のいずれかを使用して読み取った。以下の式を使用して、%阻害を決定した:%阻害=100%−(処理したサンプル/コントロール×100%)。
【0202】
(NR8383細胞)
ラット肺胞NR8383細胞を、その単層が50〜90%コンフルエントになったときに回収した(継代5〜11を使用する)。NR8383細胞は、接着性および非接着性両方の細胞を含むので、培地を、50mL Falconチューブに移した。フラスコに残っている細胞を得るために、2mLの何も添加していない(plain)培地を添加し、その残っている細胞を75cm
2フラスコから細胞スクレイパーで掻きだし、上記50mLチューブに添加した。細胞を、200×gで5分間、室温において遠心分離し、その培地を吸引した。細胞ペレットを、10mL 完全増殖培地(F12(Life Technologies, Cat #: 31765092)+15% FBS−熱不活化(Hyclone, Cat #: SH30071.03)+1×Pen−Strep(Life Technologies, cat #: 15410 − 122))中に再懸濁した。血球計算板を使用して、細胞数を決定した。次いで、細胞を、100μLの完全増殖培地中で、96ウェルプレートの1ウェルあたり4000細胞、播種した。上記プレートを、37℃および5% CO
2で一晩、ウォータージャケット付きインキュベーター中でインキュベートした。
【0203】
翌日、80μLの新鮮な完全培地を各ウェルに添加し、NR8383細胞を、トレプロスチニル化合物処理でチャレンジした。37℃および5% CO
2で、ウォータージャケット付きインキュベーター中で72時間のインキュベーションの後、細胞増殖に対するその阻害効果を決定した。測定および計算は、CHO−K1細胞について上記で記載されるとおりに行った。
【0204】
4種のトレプロスチニル組成物T441、T420、T550、およびT527を、細胞増殖阻害アッセイにおいて試験した(
図10 − CHO−K1、
図11 − NR8383)。
図10は、CHO−K1細胞増殖に対するT527(
図10A)、T550(
図10B)、T441(
図10C)およびT420(
図10D)の阻害効果を示す。特に、T550のみが、試験された最高濃度(25μM)でCHO−K1細胞に対して重要な阻害効果(40%)を示した。
図10Aを参照のこと。他の組成物は、全ての濃度で有意な効果を示さなかった。
【表11】
【0205】
図11は、NR8383細胞増殖に対する試験されたトレプロスチニル組成物T527(
図11A)、T550(
図11B)、T441(
図11C)およびT420(
図11D)の効果をまとめる。全ての試験されたトレプロスチニル組成物は、中程度から最高までの濃度で細胞増殖のある程度の阻害を示した。具体的には、4種の組成物のうち、T527およびT550の両方は、25μM濃度でNR8383肺胞細胞増殖に対して、同様に、30%および60%の有意な阻害効果を示した(
図11Aおよび11B)。
【0206】
(実施例6-インビボでのトレプロスチニル組成物)
インビボでのトレプロスチニル組成物の効果を、ラットモデルを使用することによって決定した。若い雄性ラットSprague Dawley(Charles River)を研究に使用した。ラットに、ケタミン/キシラジンで麻酔をかけ、加温パッド上に置き、外科的分離および気管のカテーテル法の後に、研究全体を通じて機械的に換気した。
【0207】
カテーテルを、収縮期(sys)および拡張期(dias)血圧の測定のために、大腿動脈中に配置した。開胸術を行い、カテーテルを右心室に挿入し、肺動脈の収縮期および拡張期血圧の測定のために、肺動脈に配置した。酸素飽和度(SaO
2)を、足に配置したパルスオキシメーターで測定した。
【0208】
室内空気(FIO2=0.21)で換気したラットを用いて、心血管測定をこれらの正常酸素条件下で行った。低酸素症を誘発するために、FIO2を、SaO2が50〜60%の間の値に下がるまで30分間の期間をかけて低下させ、パラメーターの各々に関してベースライン低酸素症値を決定した。4匹のラットの群は、各々、PBS、遊離トレプロスチニル(1.7μg/kgおよび10μg/kg)、T527(10μg/Kg)もしくはT550(10μg/kg)のいずれかを受けた。目標の用量は、
図12〜14に示されるように、トレプロスチニル誘導体組成物の分子量における差異に起因して、体重によって僅かに変動した。実際に達成した肺用量は、
図12に提供されるより約1/5低かった(例えば、10μg/kgの投与は、肺において約2μg/kgを生じた)。平均PAP(mPAP)の正規化したバリエーションは、
図12において、(T=0)での低酸素ベースライン値からのパーセンテージとして示される。低酸素ベースラインPAP値は100%であり、圧力の変化は、低酸素ベースラインと比較して測定した。平均SAP(mSAP)の正規化したバリエーションは、
図13A−Bにおいて低酸素ベースライン値からのパーセンテージとして示される。心拍数は、
図14A〜Bにおいて、低酸素ベースライン値のパーセンテージとして経時的に示される。
【0209】
種々の処置を、ラットの肺への噴霧化薬物の吸入によって与えた。ラットの肺動脈圧(PAP)、全身動脈圧(SAP)、および心拍数を、180分間にわたって連続して測定した。PAPシグナルを、1秒あたり200の点で集めた。
【0210】
記載される発明は、その具体的実施形態を参照しながら記載されてきたが、種々の変更が行われ得、本発明の真の趣旨および範囲から逸脱することなく、均等物で代用され得ることは、当業者によって理解されるはずである。さらに、特定の状況、材料、組成物、プロセス、プロセスの工程(複数可)を、本記載される発明の目的となる趣旨および範囲へと適合させるために、多くの改変が行われ得る。全てのこのような改変は、本明細書に添付される特許請求の範囲の範囲内に入ることが意図される。
【0211】
本明細書中で参照される特許、特許出願、特許出願公開、雑誌論文、およびプロトコルは、それらの全体において、全ての目的のために参考として援用される。