特許第6357489号(P6357489)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝キヤリア株式会社の特許一覧

特許6357489電力変換装置、設備機器、及び設備機器システム
<>
  • 特許6357489-電力変換装置、設備機器、及び設備機器システム 図000002
  • 特許6357489-電力変換装置、設備機器、及び設備機器システム 図000003
  • 特許6357489-電力変換装置、設備機器、及び設備機器システム 図000004
  • 特許6357489-電力変換装置、設備機器、及び設備機器システム 図000005
  • 特許6357489-電力変換装置、設備機器、及び設備機器システム 図000006
  • 特許6357489-電力変換装置、設備機器、及び設備機器システム 図000007
  • 特許6357489-電力変換装置、設備機器、及び設備機器システム 図000008
  • 特許6357489-電力変換装置、設備機器、及び設備機器システム 図000009
  • 特許6357489-電力変換装置、設備機器、及び設備機器システム 図000010
  • 特許6357489-電力変換装置、設備機器、及び設備機器システム 図000011
  • 特許6357489-電力変換装置、設備機器、及び設備機器システム 図000012
  • 特許6357489-電力変換装置、設備機器、及び設備機器システム 図000013
  • 特許6357489-電力変換装置、設備機器、及び設備機器システム 図000014
  • 特許6357489-電力変換装置、設備機器、及び設備機器システム 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357489
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】電力変換装置、設備機器、及び設備機器システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20180702BHJP
【FI】
   H02M7/48 E
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-558825(P2015-558825)
(86)(22)【出願日】2015年1月16日
(86)【国際出願番号】JP2015051088
(87)【国際公開番号】WO2015111517
(87)【国際公開日】20150730
【審査請求日】2016年4月1日
(31)【優先権主張番号】特願2014-11722(P2014-11722)
(32)【優先日】2014年1月24日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 壮寛
(72)【発明者】
【氏名】松本 勇司
(72)【発明者】
【氏名】温品 治信
(72)【発明者】
【氏名】久保田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】石田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】小川 慧
【審査官】 遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−166359(JP,A)
【文献】 特開2009−095217(JP,A)
【文献】 特開2011−250594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/00−7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流電源の電圧を昇圧および直流変換して出力するとともに、この出力電圧の値に応じて当該入力側の高調波電流の値が変化するPWMコンバータと、
前記PWMコンバータの出力電圧を交流電圧に変換するインバータと、
前記高調波電流の制限値を入力するための入力部と、
前記入力部に入力される制限値に応じて前記PWMコンバータの出力電圧を制御するコントローラと、
を備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記入力部で入力される前記制限値を記憶する記憶部、
を含む、
ことを特徴とする請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記制限値のデータ通信による入力を受ける通信部と、
前記通信部で受けた前記制限値を記憶する記憶部と、
を含む、
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の電力変換装置。
【請求項4】
請求項3記載の電力変換装置を複数備えた設備機器であって、
前記各電力変換装置を総合的に制御する総合コントローラを備え、
前記総合コントローラは、前記各設備機器が接続される受電設備に設定されている“高調波電流の規制値”に基づく前記設備機器用の制限値の範囲内で前記電力変換装置用の制限値を定め、これら電力変換装置用の制限値を前記各電力変換装置の前記各コントローラに通知する
ことを特徴とする設備機器。
【請求項5】
前記総合コントローラは、前記各電力変換装置における前記各PWMコンバータのスイッチング動作台数を制御することを特徴とする請求項4記載の設備機器。
【請求項6】
請求項4記載の設備機器を複数備えた設備機器システムであって、
前記各設備機器を制御するセンターコントローラを備え、
前記センターコントローラは、前記各設備機器が接続される受電設備に設定されている“高調波電流の規制値”に基づく前記設備機器システム用の制限値の範囲内で前記各設備機器用の制限値を定め、これら設備機器用の制限値を前記各設備機器の前記各総合コントローラに通知する
ことを特徴とする設備機器システム。
【請求項7】
前記設備機器は、前記インバータにより駆動される圧縮機を備えた熱源機であることを特徴とする請求項4または請求項5記載の設備機器または請求項6記載の設備機器システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電源の電圧を直流に変換しその直流電圧を所定周波数の交流電圧に変換する電力変換装置、この電力変換装置を備えた設備機器、及び上記電力変換装置を備えた設備機器システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力消費の大きい設備機器(equipment)は、受電設備(キュービクル)に接続される。この受電設備には、商用交流電源側への高調波電流の流出量を規制するための規制値が設定される。この規制値の大きさは、受電設備の電力容量に比例する。なお、高調波電流は、インバータを搭載した設備機器いわゆるインバータ搭載機器で発生し、商用交流電源に直接接続される交流モータ(誘導電動機)では発生しない。
【0003】
受電設備には、空気調和機、照明器具、エレベータ等の様々な設備機器が接続される。これら接続機器のうち、インバータ搭載機器の比率が高い場合には、高調波電流の発生量が上記規制値を超える可能性がある。
【0004】
高調波電流の発生量が上記規制値を超えないようにするためには、受電設備を電力容量の大きいものに変更するか、あるいはインバータ搭載機器と受電設備との間の電源ラインに高調波抑制装置を配置する必要がある。インバータ搭載機器に直流変換器として昇圧型のPWMコンバータを組み込み、そのPWMコンバータのスイッチングによって高調波電流を低減させる方法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-120878号公報
【特許文献2】特開2004-263887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電力容量の大きい受電設備は高額であり、高調波抑制装置も高額である。また、PWMコンバータのスイッチング素子は電力損失が大きいため、PWMコンバータのスイッチングによる高調波電流の低減は設備機器の効率低下を招くという問題がある。
【0007】
本実施形態の目的は、高額の受電設備や高調波抑制装置を要することなく、しかも設備機器の効率低下を招くことなく、高調波電流をその高調波次数にかかわらず確実に低減できる電力変換装置と設備機器及び設備機器システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の電力変換装置は、三相交流電源の電圧を昇圧および直流変換して出力するとともに、この出力電圧の値に応じて当該入力側の高調波電流の値が変化するPWMコンバータと、このPWMコンバータの出力電圧を交流電圧に変換するインバータと、前記高調波電流の制限値を入力するための入力部と、この入力部に入力される高調波電流の制限値に応じて前記PWMコンバータの出力電圧を制御するコントローラと、を備える。
【0009】
請求項5の設備機器は、請求項4記載の電力変換装置を複数備えたものであって、前記各電力変換装置を総合的に制御する総合コントローラを備える。この総合コントローラは、前記各設備機器が接続される受電設備に設定されている“高調波電流の規制値”に基づく前記設備機器用の制限値の範囲内で前記電力変換装置用の制限値を定め、これら電力変換装置用の制限値を前記各電力変換装置の前記各コントローラに通知する。
【0010】
請求項7の設備機器システムは、請求項5記載の設備機器を複数備えた設備機器システムであって、前記各設備機器を制御するセンターコントローラを備える。このセンターコントローラは、前記各設備機器が接続される受電設備に設定されている“高調波電流の規制値”に基づく前記設備機器システム用の制限値の範囲内で前記各設備機器用の制限値を定め、これら設備機器用の制限値を前記各設備機器の前記各総合コントローラに通知する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1および第2実施形態の構成を示すブロック図。
図2】各実施形態のコンバータ用のPWM信号生成を示す図。
図3】各実施形態における高調波電流の制限値をインバータ比率および高調波次数をパラメータとして示す図。
図4】各実施形態におけるコンバータの出力電圧と5次高調波電流との関係を示す図。
図5】各実施形態において発生する高調波電流の値をコンバータの出力電圧および高調波次数をパラメータとして示す図。
図6】各実施形態におけるコンバータの出力電圧と効率との関係を示す図。
図7】第1実施形態の制限値設定部に記憶されている制御用データを示す図。
図8】各実施形態の制御を示すフローチャート。
図9】第2実施形態における高調波電流の算出値に応じたコンバータの出力電圧の変化を示す図。
図10】第3実施形態の構成を示すブロック図。
図11】第3実施形態の制御条件を示す図。
図12】第4実施形態における負荷と効率との関係を示す図。
図13】第4実施形態における負荷と高調波電流との関係を示す図。
図14】第5実施形態の要部の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1]第1実施形態
本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。この第1実施形態の電力変換装置は、特定の設備機器である例えば空調機などのヒートポンプ式熱源機に組み込まれ、そのヒートポンプ式熱源機内の圧縮機を駆動する。
【0013】
図1に示すように、商用の三相交流電源1の相ラインR,S,Tに受電設備(キュービクル)10が接続され、その受電設備10に本実施形態の電力変換装置100が接続される。電力変換装置100は、特定の設備機器である例えば空調用のヒートポンプ式熱源機に組み込まれ、そのヒートポンプ式熱源機内の圧縮機の駆動モータに対する駆動電力を出力するもので、受電設備10に接続されるコンバータ(PWMコンバータともいう)2、このコンバータ2の出力端に接続された平滑コンデンサ4、この平滑コンデンサ4に接続されたインバータ5を含む。このインバータ5の出力端に、上記圧縮機モータである例えばブラシレスDCモータ6の相巻線Lu.Lv.Lwが接続される。
【0014】
コンバータ2は、リアクタ21,22,23、これらリアクタ21,22,23を介して三相交流電源1に接続されるダイオード31a〜36aのブリッジ回路、これらダイオード31a〜36aに並列接続されたスイッチング素子たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)31〜36を有し、受電設備10から供給される三相交流電圧をIGBT31〜36のオン,オフスイッチングにより昇圧および直流変換する。例えば、コンバータ2は、200Vの交流電圧を300V程度の直流電圧に変換する。このコンバータ2の出力電圧Vcが平滑コンデンサ4に印加される。
【0015】
なお、コンバータ2は、IGBT31〜36のオン,オフスイッチングの停止により、受電設備10から供給される三相交流電圧をダイオード31a〜36aにより全波整流する。
【0016】
ダイオード31a〜36aのブリッジ回路は、ダイオード31a,32aの直列回路、ダイオード33a,34aの直列回路、ダイオード35a,36aの直列回路により構成される。ダイオード31a,32aの相互接続点が受電設備10を介して三相交流電源1のR相に接続され、ダイオード33a,34aの相互接続点が受電設備10を介して三相交流電源1のS相に接続され、ダイオード35a,36aの相互接続点が受電設備10を介して三相交流電源1のT相に接続される。ダイオード31a〜36aは、IGBT31〜36の回生用ダイオードである。
【0017】
インバータ5は、IGBT51,52を直列接続しそのIGBT51,52の相互接続点がブラシレスDCモータ6の相巻線Luに接続されるU相用直列回路、IGBT53,54を直列接続しそのIGBT53,54の相互接続点がブラシレスDCモータ6の相巻線Lvに接続されるV相用直列回路、IGBT55,56を直列接続しそのIGBT55,56の相互接続点がブラシレスDCモータ6の相巻線Lwに接続されるW相用直列回路を含み、平滑コンデンサ4の電圧を各IGBTのスイッチングにより所定周波数の三相交流電圧に変換し各IGBTの相互接続点から出力する。なお、IGBT51〜56には、逆並列に、回生用ダイオード(フリー・ホイール・ダイオード)51a〜56aが接続されている。回生用ダイオード51a〜56aには、損失低減のためにファースト・リカバリー・ダイオードを用いることが望ましい。
【0018】
ブラシレスDCモータ6は、星形結線された3つの相巻線Lu,Lv,Lwを有する固定子、および永久磁石を有する回転子により構成される。相巻線Lu,Lv,Lwに電流が流れることにより生じる磁界と永久磁石が作る磁界との相互作用により、回転子が回転する。
【0019】
受電設備10とコンバータ2との間の通電路に、入力電流検知用の電流センサ(電流検知手段)71,72,73が配設される。インバータ5の出力端とブラシレスDCモータ6との間の通電路に、出力電流(相巻線電流)検知用の電流センサ81,82,83が配設される。これら電流センサ71〜83の検知結果がコントローラ90に供給される。コントローラ90は、電流センサ81,82,83の検知電流値に基づいてインバータ5をセンサレス・ベクトル制御することにより、ブラシレスDCモータ6を駆動する。また、平滑コンデンサ4の両端に、電圧検出部60が接続される。電圧検出部60は、コンバータ2の出力電圧(インバータ5への入力電圧)Vcを検出する。この検出結果がコントローラ90に供給される。
【0020】
コントローラ90は、主要な機能として、第1制御部91、第2制御部92、第3制御部93、制限値設定部(メモリ)94、入力部95、および通信部96を含む。
【0021】
第1制御部91は、図2に示すように、所定周波数のキャリア信号(三角波信号)Eoを正弦波信号Er,Es,Etでパルス幅変調(PWM;キャリア信号Eoと正弦波信号Er,Es,Etとを電圧比較)することによりPWM信号Dr,Ds,Dtを生成し、生成したPWM信号Dr,Ds,Dtによりコンバータ2のIGBT31〜36をオン,オフ駆動する。正弦波信号Er,Es,Etは、出力電圧Vcの目標値および電流センサ71,72,73の検知結果などに基づいて生成され、三相交流電源1のR相電圧,S相電圧,T相電圧(電流)の周期に同期する。
【0022】
第2制御部92は、所定周波数のキャリア信号(三角波信号)Eioを正弦波信号Eu,Ev,Ewでパルス幅変調(PWM;キャリア信号Eioと正弦波信号Eu,Ev,Ewとを電圧比較)することによりPWM信号Du,Dv,Dwを生成し、生成したPWM信号Du,Dv,Dwによりインバータ5のIGBT51〜56をオン,オフ駆動する。正弦波信号Eu,Ev,Ewは、電流センサ81,82,83の検知結果に基づいて生成され、ブラシレスDCモータ6の相巻線Lu,Lv,Lwに誘起する電圧の周期に同期する。
【0023】
第3制御部93は、コンバータ2の入力側(電力変換装置100の入力側)に生じる高調波電流Inが予め定められた電力変換装置用の制限値Insに収まるように、制限値設定部94に記憶されている制御用データに応じて、かつ上記第1制御部91を介して、コンバータ2の出力電圧Vcを制御する。上記制限値Insは、受電設備10に対し設定される“高調波電流Inの規制値Ino”の範囲内で、受電設備10に接続される各設備機器の個々に設定される。上記制御用データは、コンバータ2の入力側に生じる高調波電流Inが制限値Ins内に収まり得るコンバータ2の出力電圧Vcのうち最小値(目標値)Vcminをインバータ5の負荷に対応付けて定めたもので、入力部95の手操作や通信部96からのデータ入力によって制限値設定部94に記憶される。入力部95は、キーボードや切替スイッチなど、データを入力できるものであればどのような機器でもよい。通信部96は、外部のシステム制御器101から送信される制御用データを受信し、それを制限値設定部94に入力する。
【0024】
なお、第3制御部93は、具体的には、インバータ5の実際の負荷の大きさに対応する最小値Vcminを制限値設定部94から読出し、コンバータ2の出力電圧Vcが上記読出した最小値Vcminとなるように、第1制御部91における正弦波信号Er,Es,Etの電圧レベルを調整(PWM信号Dr,Ds,Dtのオン,オフデューティを調整)する。つまり、最小値Vcminが、コンバータ2の出力電圧Vcの目標値となる。
【0025】
ここで、インバータ5の実際の負荷の大きさは、ブラシレスDCモータ6の消費電力である。ブラシレスDCモータ6の消費電力は、電圧検出部60の検出結果および電流センサ81,82,83の検知結果を用いて算出してもよいし、入力側の電流センサ71,72,73の検知結果を用いて算出してもよい。
【0026】
コンバータ2の基本的な動作について説明する。
三相交流電源1のR相電圧が正レベルとなる位相では、三相交流電源1からリアクタ21および正側ダイオード31aを通って平滑コンデンサ4に電流が流れ、平滑コンデンサ4を経た電流が、先ず負側ダイオード34aおよびリアクタ22を通って三相交流電源1のS相に戻り、次にR相電圧の位相が進むにつれ、負側ダイオード36aおよびリアクタ23を通って三相交流電源1のT相に戻る経路が形成される。そして、この動作に加え、コントローラ90で生成されるPWM信号Drに応じてIGBT32がオン,オフを繰り返す。IGBT32のオン時、ダイオード31a,32aの相互接続点がコンバータ2の負側出力端と導通し、三相交流電源1に対してリアクタ21、IGBT32、負側ダイオード34a、リアクタ22を介した短絡路が形成される。この短絡路の形成により、リアクタ21,22にエネルギ(電荷)が蓄えられる。リアクタ21,22に蓄えられたエネルギは、IGBT32のオフ時に平滑コンデンサ4に供給される。このエネルギ供給により、昇圧がなされる。
【0027】
三相交流電源1のS相電圧が正レベルとなる位相では、三相交流電源1からリアクタ22および正側ダイオード33aを通って平滑コンデンサ4に電流が流れ、平滑コンデンサ4を経た電流が、先ず負側ダイオード36aおよびリアクタ23を通って三相交流電源1のT相に戻り、次にS相電圧の位相が進むにつれ、負側ダイオード32aおよびリアクタ21を通って三相交流電源1のR相に戻る経路が形成される。そして、この動作に加え、コントローラ90で生成されるPWM信号Dsに応じてIGBT34がオン,オフを繰り返す。IGBT34のオン時、ダイオード33a,34aの相互接続点がコンバータ2の負側出力端と導通し、三相交流電源1に対してリアクタ22、IGBT34、負側ダイオード36a、リアクタ23を介した短絡路が形成される。この短絡路の形成により、リアクタ22,23にエネルギ(電荷)が蓄えられる。リアクタ22,23に蓄えられたエネルギは、IGBT34のオフ時に平滑コンデンサ4に供給される。このエネルギ供給により、昇圧がなされる。
【0028】
三相交流電源1のT相電圧が正レベルとなる位相では、三相交流電源1からリアクタ23および正側ダイオード35aを通って平滑コンデンサ4に電流が流れ、平滑コンデンサ4を経た電流が、先ず負側ダイオード32aおよびリアクタ21を通って三相交流電源1のR相に戻り、次にT相電圧の位相が進むにつれ、負側ダイオード34aおよびリアクタ22を通って三相交流電源1のS相に戻る経路が形成される。そして、この動作に加え、コントローラ90で生成されるPWM信号Dtに応じてIGBT36がオン,オフを繰り返す。IGBT36のオン時、ダイオード35a,36aの相互接続点がコンバータ2の負側出力端と導通し、三相交流電源1に対してリアクタ23、IGBT36、負側ダイオード32a、リアクタ21を介した短絡路が形成される。この短絡路の形成により、リアクタ23,21にエネルギ(電荷)が蓄えられる。リアクタ23,21に蓄えられたエネルギは、IGBT36のオフ時に平滑コンデンサ4に供給される。このエネルギ供給により、昇圧がなされる。
【0029】
R相入力電圧,S相入力電圧,T相入力電圧のそれぞれが負レベルとなる位相では、正側ダイオード31a,33a,35aと並列接続のIGBT31,33,35がオン,オフを繰り返す。これらIGBT31,33,35のオン,オフに伴う動作については、正負が反対となるだけで、基本的には正レベル期間と同じ動作パターンとなる。よって、その詳細な説明は省略する。
【0030】
次に、インバータ5の動作に伴ってコンバータ2の入力側に生じる高調波電流In、およびその高調波電流Inを制限するための制限値Insについて説明する。
【0031】
受電設備10から三相交流電源1側への高調波電流Inの流出量を規制するための規制値Inoが、受電設備10に接続された各インバータ搭載機器の総定格消費電力に応じて、定められる。この規制値Inoから、受電設備10に接続された各インバータ搭載機器から発生する高調波電流Inをそれぞれ制限するための制限値Insが決定される。制限値Insは、1つのインバータ搭載機器で発生してもよい高調波電流Inの上限の値であり、規制値Inoからの計算により決定される。
【0032】
制限値Insの例をインバータ比率(50%,75%,100%)および高調波次数(5次・7次・11次・13次)をパラメータとして図3に示している。一般に規制の対象となるのは次数が40次までの高調波電流Inであるが、次数が13次を超える高調波電流Inについては発生値自体が低くなるため図3には示していない。インバータ比率とは、受電設備10に接続される1つまたは複数のインバータ搭載機器の総定格消費電力が受電設備10の電力容量(受電容量ともいう)に占める割合(%)のことである。
【0033】
インバータ比率50%の場合、受電設備10の電力容量に占めるインバータ搭載機器の総定格消費電力の割合が50%で、受電設備10の電力容量に占める非インバータ搭載機器の総定格消費電力の割合が最大50%である。インバータ比率75%の場合、受電設備10の電力容量に占めるインバータ搭載機器の総定格消費電力の割合が75%で、受電設備10の電力容量に占める非インバータ搭載機器の総定格消費電力の割合が最大25%である。インバータ比率100%の場合、受電設備10に接続されている設備機器の全てがインバータ搭載機器で、受電設備10の電力容量に占めるインバータ搭載機器の総定格消費電力の割合が100%である。
【0034】
図3に示す制限値Insは、インバータ比率が大きいほど小さく、かつ高調波次数が高いほど小さい。実際には、各高調波次数の制限値Insには相関関係があり、いずれかの高調波次数における制限値Insが決まれば、他の高調波次数における制限値Insは計算により求めることができる。
【0035】
ここで、コンバータ2のIGBT31〜36をスイッチングした場合に発生する5次高調波電流Inのシミュレーション結果を図4に示す。コンバータ2のIGBT31〜36をスイッチングした場合に発生する5次高調波電流Inは、コンバータ2の所定値(例えば290V)以上の昇圧領域において、コンバータ2の出力電圧Vcが高いほど小さくなる。なお、シミュレーションおよび実機での実験結果によれば、7次高調波電流Inも同様の傾向を示す。
【0036】
5次や7次より高い次数の高調波電流Inは、コンバータ2の出力電圧Vcの上昇に対して、一律に減少することなく、若干の増減を繰り返す。このような高い次数の高調波電流Inについては、もともと規制値Inoそのものが小さいので、コンバータ2の昇圧領域においては考慮する必要がない。
コンバータ2への入力電圧が例えば200Vでインバータ5の定格負荷が例えば6.7kWの場合に発生する5次・7次・11次・13次の高調波電流Inの値を、コンバータ2の出力電圧Vcをパラメータとしてシミュレーションして求めた結果を図5に示す。図5中の“昇圧なし”は、コンバータ2のIGBT31〜36をオン,オフスイッチングせず、コンバータ2をダイオード31a〜36aのみにより全波整流させた場合(非スイッチング動作)を示している。
【0037】
また、コンバータ2の出力電圧Vcと電力変換装置100の効率(電力変換効率)との関係を図6に示す。出力電圧Vcが高いほど、効率が低下する。これは、コンバータ2におけるIGBT31〜36のスイッチングオン時間が増加してIGBT31〜36のオン抵抗による電力損失が増える等の影響による。
【0038】
以上のことから、高調波電流Inを制限値Ins内に抑えながら効率をできるだけ低下させないようにするには、高調波電流Inが制限値Ins内に収まる範囲でコンバータ2の出力電圧Vcをできるだけ低い値に制御することが好適であることが分かる。この制御の実現のため、コンバータ2の入力側に生じる高調波電流Inが制限値Insに収まり得るコンバータ2の出力電圧Vcのうち、できるだけ低い値である最小値Vcminが、インバータ5の負荷をパラメータとする制御用データとして、コントローラ90の制限値設定部94に記憶されている。なお、従来のPWMコンバータのスイッチングによる高調波電流の低減は、予め定められた大きな電圧をPWMコンバータから一律に出力するための一定のPWM信号によってPWMコンバータをスイッチングするだけである。
【0039】
コントローラ90の第3制御部93は、インバータ5の実際の負荷の大きさに対応する最小値Vcminを制限値設定部94から読出し、コンバータ2の出力電圧Vcが上記読出した最小値Vcminとなるように、コンバータ2のIGBT31〜36をオン,オフ制御(PWMスイッチング制御)する。
【0040】
制限値設定部94内の制御用データは、例えば図7に示すように、インバータ5の負荷に応じて異なる複数の最小値Vcminをインバータ比率(50%,75%,100%)および5次高調波電流Inの制限値(4A,3A,2A)Insに対応付けたものである。
【0041】
例えばコンバータ2への入力電圧が200V、インバータ5の定格負荷が6.7kW、インバータ比率が50%の場合、各インバータ搭載機器の1台当りの制限値Insは5次高調波電流Inに対して4Aとなる。この場合、第3制御部93は、インバータ5の実際の負荷がそのインバータ5の定格負荷の25%であれば最小値Vcminとして“Vca1”を読出し、インバータ5の実際の負荷がそのインバータ5の定格負荷の50%であれば最小値Vcminとして“Vcb1”を読出し、インバータ5の実際の負荷がそのインバータ5の定格負荷の75%であれば最小値Vcminとして“Vcc1”を読出し、インバータ5の実際の負荷がそのインバータ5の定格負荷の100%であれば最小値Vcminとして“Vcd1”を読出す。なお、最小値Vca1〜Vcd1の関係は、Vca1<Vcb1<Vcc1<Vcd1である。そして、第3制御部93は、コンバータ2の出力電圧Vcが上記読出した最小値Vcmin(Vca1〜のいずれか)となるように、コンバータ2のIGBT31〜36をオン,オフ制御(PWMスイッチング制御)する。これにより、電力変換装置100の効率をできるだけ低下させずに、電力変換装置100から生じる5次高調波電流Inを制限値Insである4A内に収めることができる。
【0042】
例えばコンバータ2への入力電圧が200V、インバータ5の定格負荷が6.7kW、インバータ比率が75%の場合、各インバータ搭載機器の1台当りの制限値Insは5次高調波電流に対して3Aとなる。この場合、第3制御部93は、インバータ5の実際の負荷がそのインバータ5の定格負荷の25%であれば最小値Vcminとして“Vca2”を読出し、インバータ5の実際の負荷がそのインバータ5の定格負荷の50%であれば最小値Vcminとして“Vcb2”を読出し、インバータ5の実際の負荷がそのインバータ5の定格負荷の75%であれば最小値Vcminとして“Vcc2”を読出し、インバータ5の実際の負荷が定格負荷の100%であれば最小値Vcminとして“Vcd2”を読出す。なお、最小値Vca2〜Vcd2の関係は、Vca2<Vcb2<Vcc2<Vcd2である。そして、第3制御部93は、コンバータ2の出力電圧Vcが上記読出した最小値Vcmin(Vca2〜Vcd2のいずれか)となるように、コンバータ2のIGBT31〜36をオン,オフ制御(PWMスイッチング制御)する。これにより、電力変換装置100の効率をできるだけ低下させずに、電力変換装置100から生じる5次高調波電流Inを制限値Insである3A内に抑えることができる。
【0043】
例えばコンバータ2への入力電圧が200V、インバータ5の定格負荷が6.7kW、インバータ比率が100%の場合、各インバータ搭載機器の1台当りの制限値Insは5次高調波電流に対して2.0Aとなる。この場合、第3制御部93は、インバータ5の実際の負荷がそのインバータ5の定格負荷の25%であれば最小値Vcminとして“Vca3”を読出し、インバータ5の実際の負荷がそのインバータ5の定格負荷の50%であれば最小値Vcminとして“Vcb3”を読出し、インバータ5の実際の負荷がそのインバータ5の定格負荷の75%であれば最小値Vcminとして“Vcc3”を読出し、インバータ5の実際の負荷がそのインバータ5の定格負荷の100%であれば最小値Vcminとして“Vcd3”を読出す。なお、最小値Vca2〜Vcd2の関係は、Vca3<Vcb3<Vcc3<Vcd3である。そして、第3制御部93は、コンバータ2の出力電圧Vcが上記読出した最小値Vcmin(Vca3〜Vcd3のいずれか)となるように、コンバータ2のIGBT31〜36をオン,オフ制御(PWMスイッチング制御)する。これにより、電力変換装置100の効率をできるだけ低下させずに、電力変換装置100から生じる5次高調波電流Inを制限値Insである2A内に抑えることができる。
【0044】
なお、図4に示した通り、出力電圧Vcが高いほど、高調波電流Inを低減できる。したがって、インバータ比率が高いほど(制限値Insが低いほど)、出力電圧Vcの最小値Vcminを高くしなければならない。この点を考慮し、Vca1<Vca2<Vca3、Vcb1<Vcb2<Vcb3、Vcc1<Vcc2<Vcc3、Vcd1<Vcd2<Vcd3の関係となっている。
【0045】
これら最小値Vcminは、電力変換装置100を搭載したインバータ搭載機器であるヒートポンプ式熱源機の製造時などに実施される試験によって定められる。これら最小値Vcminの基になる制限値Insは、受電設備10の電力容量、インバータ比率、インバータ5の定格負荷に応じて決定される。したがって、ヒートポンプ式熱源機の設置先が予め決まっている場合には、その設置場所の状況に合わせた制御用データがヒートポンプ式熱源機の製造時に決定される。この制御用データを、ヒートポンプ式熱源機の製造時に制限値設定部94に記憶させてもよいし、ヒートポンプ式熱源機の設置時にその設置現場において作業員が作成して入力部95から制限値設定部94に逐次に入力し記憶させてもよい。
【0046】
なお、受電設備10に設定される“高調波電流Inの規制値Ino”は、高調波次数によって異なる。各高調波次数における規制値Inoには相関関係があり、いずれかの高調波次数における規制値Inoが決まれば、他の高調波次数における規制値Inoは計算により求めることができる。このため、特定の高調波次数における制限値Insを設定すれば、規制値Inoの算定と同じ計算式により他の高調波次数における制限値Insは一義的に定まる。
【0047】
以上の説明においては、分かり易いように5次高調波電流Inを制限値Ins内に収めることについて述べたが、実際には、図7の制御用データに含まれる最小値Vcminは、5次以上の規制がかかるすべての高調波次数における高調波電流Inがそれぞれの制限値Insの範囲内に収まる値に定められる。
【0048】
実際の制御を図8のフローチャートに従って説明する。
コントローラ90は、電力変換装置100が搭載されているヒートポンプ式熱源機の冷凍負荷の大きさを検出し(ステップS1)、その検出結果に対応する周波数Fの交流電圧をインバータ5から出力させる(ステップS2)。このインバータ5の出力により、ブラシレスDCモータ6が可変速駆動される。ヒートポンプ式熱源機の冷凍負荷は、空調負荷、冷却負荷、加温負荷などである。
【0049】
電力変換装置100に対し、上述のように、高調波電流Inを制限値Ins内に収めるための制御用データが制限値設定部94に記憶されている。コントローラ90は、電圧検出部60で検出される出力電圧Vcの値や電流センサ81,82,83で検知されるインバータ5の出力電流値などからインバータ5の負荷の大きさを検出する(ステップS3)。そして、コントローラ90は、上記検出した負荷の大きさに対応する最小値Vcminを制限値設定部94から読出し、コンバータ2の出力電圧Vcが上記読出した最小値Vcminとなるようにコンバータ2のIGBT31〜36をPWMスイッチング制御する。これにより、電力変換装置100の効率をできるだけ低下させることなく、電力変換装置100から生じる高調波電流Inをその高調波次数にかかわらず制限値Ins内に確実に抑えることができる。よって、受電設備10を大容量の高額なものへと変更する必要がなく、受電設備10と電力変換装置100との間に高額の高調波抑制装置を設置する必要もない。
【0050】
しかも、高調波電流Inが制限値Ins内に収まる範囲でコンバータ2の出力電圧Vcができるだけ低い値となるので、コンバータ2による電力損失を最小限に抑えることができ、ひいては電力変換装置100の効率が向上する。
【0051】
なお、コントローラ90の第1制御部91は、電圧検出部60で検出される出力電圧Vcが最小値Vcminとなるように、PWM信号生成用の正弦波信号Er,Es,Etの電圧レベルをフィードバック制御する。このフードバック制御は、具体的には、出力電圧Vcが最小値Vcmin−α(αは余裕値で小さい値である)以上の場合には、PWM信号生成用の正弦波信号Er,Es,Etの電圧レベルを上昇させることで出力電圧Vcを低下させ、出力電圧Vcが最小値Vcmin−α未満の場合には、PWM信号生成用の正弦波信号Er,Es,Etの電圧レベルを低下させることで出力電圧Vcを上昇させる。これにより、出力電圧Vcは、最小値Vcmin近くの値に概ね保たれる。なお、正弦波信号Er,Es,Etの電圧レベルの調整には、電流センサ71,72,73の検知電流値を用いたベクトル制御が用いられる。
【0052】
[2]第2実施形態
本発明の第2実施形態について説明する。
第1実施形態では、高調波電流Inが制限値Insに収まり得る出力電圧Vcの最小値Vcminをインバータ5の負荷(25%,50%,75%,100%)をパラメータとして制限値設定部94に記憶する構成であるため、インバータ5の負荷の大きさに対応した多数の最小値Vcminを制限値設定部94に記憶する必要がある。
【0053】
また、通常、インバータ5の負荷の大きさはステップ状に変化しない。このため、インバータ5の負荷の大きさに逐次に対応するためには、さらに多数の最小値Vcminを用意するか、あるいは飛び飛びに定めた各最小値Vcminの相互間に存する最小値Vcminを直線補完等の計算によって求める必要がある。さらに、第1実施形態では、高調波電流Inが制限値Insに収まり得る出力電圧Vcの最小値Vcminを試験によって確認しながら定めているが、インバータ5の負荷以外の外部環境(温湿度等)が高調波電流値に影響を及ぼすことを考慮しながらあらゆる条件で試験を行うことは困難である。このため、制限値Insに対してある程度の余裕を持たせた状態で最小値Vcminを定めなければならない。この余裕分は、実際の運転状況によっては、電力変換装置100の効率を無駄に低下させてしまう可能性がある。
【0054】
これらの点を考慮し、第2実施形態では、電力変換装置100から発生する高調波電流Inそのものを検出し、その検出値Inをコンバータ2の出力電圧Vcの制御にフィードバックする。これにより、電力変換装置100から発生する高調波電流Inを確実に制限値Ins内に収めながら、電力変換装置100の効率を高めることができる。
【0055】
コントローラ90の制限値設定部94は、特定の次数の高調波電流Inに対する電力変換装置用の制限値Insそのものを制御用データとして予め記憶している。最小値Vcminのデータは、制限値設定部94に記憶しない。さらに、コントローラ90は、図1に破線で示す高調波算出部97を含む。高調波算出部97は、抑制する必要のある次数の高調波電流Inを、入力電流検知用の電流センサ71,72,73の検知結果をフーリエ変換することにより算出する。
【0056】
コントローラ90の第3制御部93は、高調波算出部97の算出値Inと制限値設定部94内の制限値Insとを比較し、算出値Inが制限値Ins内に収まる範囲でコンバータ2の出力電圧Vcが最も低くなるようにそのコンバータ2の出力電圧Vcを制御する。
【0057】
具体的には、第3制御部93は、図9に示すように、高調波算出部97の算出値Inと、制限値Insおよびその制限値Insに対して定めた設定値“Ins−ΔI1”“Ins−ΔI2”とを、比較する。設定値“Ins−ΔI1”は、制限値Insより所定値ΔI1だけ低い値である。設定値“Ins−ΔI2”は、制限値Insより所定値ΔI2(>ΔI1)だけ低い値である。
【0058】
高調波算出部97の算出値Inが上昇して設定値“Ins−ΔI2”に達した場合(図中A点)、コントローラ90は、コンバータ2の出力電圧Vcを一定値だけ上昇させる。この上昇にもかかわらず、高調波算出部97の算出値Inがさらに上昇して制限値Insに達した場合(図中B点)、コントローラ90は、コンバータ2の出力電圧Vcをさらに一定値だけ上昇させる。ここで、出力電圧Vcの上昇は、コンバータ2に対するPWM信号のオン,オフデューティを上げることで実行される。逆に出力電圧Vcの低下は、コンバータ2に対するPWM信号のオン,オフデューティを下げることで実行される。
【0059】
出力電圧Vcの上昇によって算出値Inが設定値“Ins−ΔI1”まで低下した場合(図中C点)、コントローラ90は、コンバータ2の出力電圧Vcを一定値だけ下降させる。この出力電圧Vcの下降により算出値Inが再び上昇して制限値Insに達した場合(図中D点)、コントローラ90は、コンバータ2の出力電圧Vcをさらに一定値だけ上昇させる。
【0060】
要約すると、コントローラ90は、算出値Inが低い値から設定値“Ins−ΔI2”に達した場合に、出力電圧Vcを上昇させる。設定値“Ins−ΔI2”以上の状態において、コントローラ90は、算出値Inが制限値Insに達した場合に出力電圧Vcを上昇させ、算出値Inが“Ins−ΔI1”まで低下した場合に出力電圧Vcを下降させる。
【0061】
この結果、第1実施形態と同様に、電力変換装置100の高効率な運転が可能となる。制限値設定部94に多数のデータを記憶する必要がなく、最小値Vcminを求めるための直線補完等の計算も不要となる。この第2実施形態においては、制限値Insが決まれば、あとは電流センサ71,72,73を用いて高調波電流Inを算出し、この算出値Inに従ってコンバータ2の出力電圧Vcをフィードバック制御するだけである。また、コンバータ2に対するスイッチング用のPWM信号を生成する際に用いる電流センサ71,72,73を高調波電流Inの算出に兼用しているため、電力変換装置100の回路構成が簡素化できる。
【0062】
また、この第2実施形態においては、高調波算出部97の算出値Inに応じてコンバータ2の出力電圧Vcをフィードバック制御する構成であるから、受電設備10を大容量の高額なものへ変更する必要がなく、受電設備10と電力変換装置100との間に高額の高調波抑制装置を設置する必要もなく、高調波電流Inをその次数にかかわらず確実に低減できる。しかも、出力電圧Vcを不必要に上昇させることがないため、電力変換装置100の高効率な運転が可能となる。
【0063】
また、受電設備10から共に電力が供給される複数のヒートポンプ式熱源機を備えた大規模設備においては、これら複数のヒートポンプ式熱源機を上位のシステム制御器101によって統括的に制御してもよい。この場合、各ヒートポンプ式熱源機のコントローラ90は、高調波算出部97の算出値Inをシステム制御器101に送る。システム制御器101は、各ヒートポンプ式熱源機のコントローラ90から送られる算出値Inを受け、これら算出値Inの合計値と受電設備10における“高調波電流Inの規制値Ino”とを比較し、この比較結果に応じて各ヒートポンプ式熱源機に対する制限値Insを設定する。そして、システム制御器101は、設定した制限値Insを各ヒートポンプ式熱源機のコントローラ90にそれぞれ送る。各ヒートポンプ式熱源機のコントローラ90は、システム制御器101から送られる制限値Insを通信部96で受け、受けた制限値Insを制限値設定部94に記憶する。これにより、受電設備10から共に電力が供給される複数のヒートポンプ式熱源機を備えた大規模設備においても、各ヒートポンプ式熱源機の電力変換装置100から発生する高調波電流Inをそれぞれ制限値Ins内に収めながら、各電力変換装置100の高効率な運転が可能となる。
【0064】
ここで、システム制御器101は、コンバータ2がスイッチング動作中(運転中)の電力変換装置100から発生する高調波電流の算出値Inだけでなく、コンバータ2のスイッチング動作が停止中の電力変換装置100から発生する高調波電流の算出値Inも集めて合計する必要がある。このため、少なくともインバータ5が動作中の電力変換装置100のコントローラ90は、コンバータ2が停止(全波整流)している場合でも、高調波算出部97の算出値Inをシステム制御器101へと送る。
他の構成および動作は第1実施形態と同じである。よって、その説明は省略する。
【0065】
[3]第3実施形態
第3実施形態では、1つの冷凍負荷(空調負荷,冷却負荷,加温負荷等)に接続される1つの設備機器であるヒートポンプ式熱源機が、複数台たとえば4台の圧縮機を備える。このヒートポンプ式熱源機は、図10に示すように、上記4台の圧縮機をそれぞれ駆動する4台のブラシレスDCモータ6、これらブラシレスDCモータ6への駆動電力を出力する4台の電力変換装置100、これら電力変換装置100の各コントローラ90を総合的に制御する1つの総合コントローラ150を含む。各電力変換装置100の構成は、第1実施形態と同じである。
【0066】
上記4台の圧縮機は、空気や媒体(水等)を冷却または加熱するための1つの冷凍サイクルの構成要素として、互いに並列接続される。この1つの冷凍サイクルは、1つの利用側熱交換器、あるいは互いに並列接続された複数の利用側熱交換器を含む。
【0067】
各電力変換装置100の総定格消費電力は、第1実施形態の1つの電力変換装置100の定格消費電力の4倍に相当する。よって、インバータ比率50%の場合に各電力変換装置100から発生する5次高調波電流Inの合計値In´に対する制御器用(熱源機用)の制限値Ins´は、図3に示した電力変換装置用の制限値Ins=4.0Aの4倍の16A(=4.0A×4)となる。
【0068】
1つの冷凍負荷を4台の圧縮機(ブラシレスDCモータ6)で駆動するので、各電力変換装置100におけるインバータ5の出力周波数Fは互いに同じ値に設定される。つまり、各ブラシレスDCモータ6は、互いに同じ回転数で駆動される。
【0069】
コンバータ2のスイッチング動作中は、スイッチングに伴う電力損失が生じるため、コンバータ2がスイッチング動作なしで全波整流のみ行う場合よりも、電力変換装置100の効率が低下する(図12参照)。したがって、各電力変換装置100から発生する高調波電流Inの合計値In´を上記制限値Ins´内に収めながら各電力変換装置100の高効率を得るためには、各コンバータ2のスイッチング動作台数をできるだけ少なくすればよい。
【0070】
総合コントローラ150内のメモリ151には、上記設備機器用の制限値Ins´(=16A)が、ヒートポンプ式熱源機の製造時または設置時に入力されて記憶される。上記したように、例えば、インバータ比率50%の場合に各電力変換装置100から発生する5次高調波電流Inの合計値に対する設備機器用の制限値Ins´は16Aである。なお、前述した通り、5次高調波電流Inの合計値に対する設備機器用の制限値Ins´が定まれば、他の次数の高調波電流Inの合計値に対する設備機器用の制限値Ins´は計算により求まる。
【0071】
さらに、総合コントローラ150内のメモリ151には、図11に示す制御条件が記憶される。この制御条件は、1台のコンバータ2がスイッチング動作なしで全波整流のみ行う非昇圧モード時にそのコンバータ2から流出する高調波電流Inの値(非昇圧モード値という)Inyと、そのコンバータ2をスイッチング動作(昇圧動作)させてそのコンバータ2の出力電圧Vcを最大レベルに至らせた場合にそのコンバータ2から流出する高調波電流Inの値(昇圧モード最小値という)Inxとを、1台のインバータ5の負荷に対応付けたものである。
【0072】
すなわち、1台のインバータ5の負荷がそのインバータ5の定格負荷の25%である場合、非昇圧モード値InyはIny1であり、昇圧モード最小値InxはInx1である(Iny1>Inx1)。1台のインバータ5の負荷がそのインバータ5の定格負荷の50%である場合、非昇圧モード値InyはIny2であり、昇圧モード最小値InxはInx2である(Iny2>Inx2)。1台のインバータ5の負荷がそのインバータ5の定格負荷の75%である場合、非昇圧モード値InyはIny3であり、昇圧モード最小値InxはInx3である(Iny3>Inx3)。1台のインバータ5の負荷がそのインバータ5の定格負荷の100%である場合、非昇圧モード値InyはIny4であり、昇圧モード最小値InxはInx4である(Iny4>Inx4)。
【0073】
総合コントローラ150は、各インバータ5の負荷を各コントローラ90を介してそれぞれ検出し、検出した各負荷に対応する非昇圧モード値Inyおよび昇圧モード最小値Inxに基づき、4台の電力変換装置100から発生する高調波電流Inの合計値を設備機器用の制限値Ins´内に収めることが可能な各コンバータ2のスイッチング動作台数を決定する。
【0074】
以下、5次高調波電流Inを抑制するための計算例について説明するが、実際には、総合コントローラ150は、抑制が必要な全ての次数の高調波電流Inに対して同様の計算を行う。この計算に基づき、総合コントローラ150は、抑制が必要な全ての次数の高調波電流値Inの合計値がそれぞれ設備機器用の制限値Ins´内に収まるように、各コンバータ2のスイッチング動作台数を決定する。
【0075】
例えば、25%負荷時の非昇圧モード値Iny1が6.0Aで最小値Inx1が0.3Aの場合、総合コントローラ150は、2台のコンバータ2のスイッチング動作を停止して残り2台のコンバータ2をスイッチング動作させる。これにより、各電力変換装置100から発生する高調波電流Inの合計値は、“6.0A+6.0A+0.3A+0.3A=12.6A”となり、設備機器用の制限値Ins´(=16A)内に収まる。しかも、この場合、2台のコンバータ2はスイッチング動作しないので、その2台のコンバータ2が存する2台の電力変換装置100の効率が向上する。
【0076】
さらに、この場合、設備機器用の制限値Ins´(=16A)と、各電力変換装置100から発生する高調波電流Inの合計値12.6Aとの間に、3.4Aの余裕分が生じる。一方、高調波電流Inを低減するためにはコンバータ2の出力電圧Vcを高めればよいが、第1実施形態の図6に示した通り、出力電圧Vcが高くなるほど電力変換装置100の効率が低下する。そこで、スイッチング動作するコンバータ2の出力電圧Vcを上記3.4Aの余裕分だけ下げるようにすれば、さらなる効率向上を図ることができる。
【0077】
これを実現するべく、総合コントローラ150は、スイッチング動作する2台のコンバータ2から流出することが可能な高調波電流Inの値“=16A−(6.0A+6.0A)=4A”をそのスイッチング動作する2台のコンバータ2に対する許容値ΔInとして選定する。
【0078】
総合コントローラ150は、上記選定した許容値ΔIn(=4A)を、スイッチング動作する2台のコンバータ2で按分する。そして、総合コントローラ150は、按分した許容値ΔIn(=2A)を、スイッチング動作する2台のコンバータ2が含まれる各電力変換装置100のコントローラ90に対し、それぞれ電力変換装置用の制限値Inszとして割当てて通知する。同時に、総合コントローラ150は、スイッチング動作を止めてもよい2台のコンバータ2のスイッチング動作を停止する。
【0079】
スイッチング動作する2台のコンバータ2をそれぞれ制御する各コントローラ90は、上記通知された制限値Insz(=2A)に対応する出力電圧Vcの最小値Vcminを得るためのPWM信号を図7の制御用データから生成し、生成したPWM信号によりコンバータ2をPWMスイッチングする。この際のコンバータ2の動作は第1実施形態と同じである。これにより、スイッチング動作する2台のコンバータ2から流出する高調波電流Inをそれぞれ電力変換装置用の制限値Insz(=2A)内に収めることができる。これにより、スイッチング動作する2台のコンバータ2の出力電圧Vcを低減することができ、さらなる効率向上が図れる。
【0080】
なお、スイッチング動作する2台のコンバータ2から流出する高調波電流Inをそれぞれ電力変換装置用の制限値Insz(=2A)内に収めるための各コントローラ90の制御は、第2実施形態で説明した構成及び制御を用いてもよい。
【0081】
以上のように、第3実施形態においては、複数の電力変換装置100を含むヒートポンプ式熱源機において、各電力変換装置100から発生する高調波電流Inの合計値を設備機器用の制限値Ins´(=16A)内に収めながら、各電力変換装置100の高効率な運転が可能となる。
【0082】
この第3実施形態の処理のアルゴリズムの一例は、次の通りである。
各電力変換装置100から発生する高調波電流Inの合計値に対する制限値Ins´(=16A)をスイッチング動作なしの1つのコンバータ2から流出する高調波電流Inの値6.0Aで除算し、その除算結果2.66Aの整数“2”をスイッチング動作なしの1つのコンバータ2から流出する高調波電流の値6.0Aに乗算し、その乗算結果12Aを制限値Ins´(=16A)から減算する。この減算結果4.0Aが、スイッチング動作する残りのコンバータ2から流出することが可能な高調波電流Inの許容値ΔTnである。そして、全てのコンバータ2の台数“4台”から上記除算結果2.66Aの整数“2”を減算し、その減算結果“2”(スイッチング動作するコンバータ2の台数Nに相当する)を最小値Inxに乗算し、この乗算結果“N×Inx”と許容値ΔTn(=4.0A)とを比較し、“N×Inx”≦ΔTnの条件が満足されれば、許容値ΔTn(=4.0A)をスイッチング動作するコンバータ2の台数Nで除算し、この除算結果をコンバータ1台当たりの制限値Inszとして割当てる。
【0083】
一方、スイッチング動作するコンバータ2の台数Nが“2”で、乗算結果“N×Inx”と許容値ΔTn(=4.0A)との関係が“N×Inx”>ΔTnの場合、スイッチング動作するコンバータ2の台数Nを1台増加させる。こうして、“(N+1)×Inx”≦ΔTnの条件を満たす状態となるまでコンバータ2のスイッチング動作台数Nを増加させ、この条件が満足されたときのスイッチング動作台数Nで許容値ΔTn(=4.0A)を除算し、この除算結果をスイッチング動作させるべきコンバータ1台当たりの制限値Inszとしてコントローラ90に通知する。この制限値Inszの通知を受けたコントローラ90は、その制限値Inszを制限値設定部94に記憶し、第1実施形態または第2実施形態に基づき自らのPWMスイッチングを制御してそれぞれの制限値Insz内でできるだけ出力電圧Vcが低くなる運転を実行する。
【0084】
したがって、受電設備10を大容量の高額なものへ変更する必要なく、受電設備10と各電力変換装置100との間に高額の高調波抑制装置を設置する必要もなく、各電力変換装置100から発生する高調波電流Inをその次数にかかわらず確実に低減しながら、各電力変換装置100の高効率な運転が実行できる。
【0085】
[4]第4実施形態
第3実施形態では複数の電力変換装置100におけるインバータ5の出力周波数Fが互いに同じ値に設定されるヒートポンプ式熱源機の制御について説明したが、第4実施形態では複数の電力変換装置100におけるインバータ5の出力周波数Fが互いに異なる値に設定されるヒートポンプ式熱源機の制御について説明する。この制御以外の構成は、第3実施形態の図10と同じである。
【0086】
図12は、1つのインバータ5の負荷とそのインバータ5を含む電力変換装置100の効率との関係を示す。図12中の破線はコンバータ2をスイッチング動作なしで全波整流のみ行わせる非昇圧モード時の効率を示し、図12中の実線はコンバータ2をスイッチング動作させる昇圧モード時の効率を示す。
【0087】
コンバータ2をスイッチング動作させる昇圧モード時は、コンバータ2をスイッチング動作なしで全波整流のみ行わせる非昇圧モード時よりも、電力変換装置100の効率が低下する。さらに、コンバータ2をスイッチング動作させる昇圧モード時の電力変換装置100の効率の低下度は、インバータ5の負荷が小さい(消費電力が小さい)場合に大きく、インバータ5の負荷が大きい場合には小さい傾向にある。
【0088】
一方、コンバータ2をスイッチング動作なしで全波整流のみ行わせる非昇圧モード時に電力変換装置100から発生する高調波電流値Inと同電力変換装置100におけるインバータ5の負荷との関係を図13に示す。すなわち、インバータ5の負荷が大きいほど(インバータ5の消費電力が大きくてコンバータ2への入力電流が大きい)、高調波電流Inが大きくなる。この関係は、いずれの高調波次数においても同じ傾向にある。
【0089】
以上のことから、各インバータ5が互いに独立して動作する場合には、負荷の大きい側のインバータ5に対応するコンバータ2をスイッチング動作させた方が、負荷の小さい側のインバータ5に対応するコンバータ2をスイッチング動作させるよりも、全体としての効率が上がることになる。
【0090】
各電力変換装置100から発生する高調波電流Inの合計値In´に対する設備機器用の制限値Ins´は、受電設備10における“高調波電流Inの規制値Ino”および受電設備10におけるインバータ比率に応じて決まる。総合コントローラ150は、第3実施形態と同じく、スイッチング動作させないことが可能なコンバータ2の台数を算出する。この算出に際し、スイッチング動作させないことが可能なコンバータ2として、負荷の小さいインバータ5に対応するコンバータ2を負荷の小さい順に選定する。
【0091】
例えば、総合コントローラ150は、4台のインバータ5を25%負荷,50%負荷,75%負荷,100%負荷でそれぞれ運転して、いずれか2台のコンバータ2をスイッチング動作させないことが可能である場合、25%負荷および50%負荷に対応する2台のコンバータ2をスイッチング動作させない。そして、総合コントローラ150は、スイッチング動作させる2台のコンバータ2のうち、最も負荷の大きい100%負荷に対応するコンバータ2を高調波電流Inの発生値が最大限に小さくなるようにスイッチング動作させるとともに、そのスイッチング動作によって生じる“高調波電流Inの発生値の余裕分”を75%負荷に対応するコンバータ2側の電力変換装置用の制限値Inszとして割当てて各コントローラ90に通知する(制限値設定部94に記憶する)。制限値Inszは、下式により算出する。
Insz=Ins´−In1−In2−Inx
Ins´は、上記のように、各電力変換装置100から発生する高調波電流Inの合計値In´に対する設備機器用の制限値である。Iny1は、25%負荷のインバータ5に対応するコンバータ2の非昇圧モード時の高調波電流Inの値(非昇圧モード値)である。Iny2は、50%負荷のインバータ5に対応するコンバータ2の非昇圧モード時の高調波電流Inの値(非昇圧モード値)である。Inx4は、100%負荷のインバータ5に対応するコンバータ2をスイッチング動作(昇圧動作)させてその出力電圧Vcを最大レベルに至らせた場合にそのコンバータ2から流出する高調波電流Inの最小値(昇圧モード最小値)である。これらIny1,Iny2,Inx4は、図11に示したものと同じである。
【0092】
総合コントローラ150は、4台の電力変換装置100のコントローラ90からそれぞれの負荷データを受信し、これら負荷データと上記設備機器用の制限値Ins´に基づいて、コンバータ2のスイッチング動作および非スイッチング動作を指示するとともに、スイッチング動作させるコンバータ2に対する電力変換装置用の制限値Inzを割当てて各コントローラ90に通知する。各コントローラ90は、総合コントローラ150から通知された制限値Inzに従って各コンバータ2をPWMスイッチング制御する。具体的な個々のコンバータ2の動作および制御は、第1実施形態または第2実施形態と同じである。
【0093】
以上の制御により、受電設備10を大容量の高額なものへ変更する必要なく、受電設備10とヒートポンプ式熱源機(各電力変換装置100)との間に高額の高調波抑制装置を設置する必要もなく、ヒートポンプ式熱源機(各電力変換装置100)から発生する高調波電流Inをその次数にかかわらず確実に低減しながら、各電力変換装置100の高効率な運転が実行できる。
【0094】
[5]第5実施形態
図14に示すように、多数のヒートポンプ式熱源機200a,200b…200nおよびセンターコントローラ201を含む設備機器システム200が受電設備10に接続される。ヒートポンプ式熱源機200a,200b…200nは、水配管202a,202bを介して、1つまたは複数の冷凍負荷(空調負荷,冷却負荷,加温負荷等)の例えば貯湯タンクに接続される。この貯湯タンク内の水が上記水配管202bによりヒートポンプ式熱源機200a,200b…200nに導かれて加熱され、これらヒートポンプ式熱源機200a,200b…200nで加熱された水が上記水配管202aによって上記貯湯タンクに供給される。
【0095】
ヒートポンプ式熱源機200aは、第3実施形態で示した4つの電力変換装置100および1つの総合コントローラ150を含む。このヒートポンプ式熱源機200aにおける各電力変換装置100の出力周波数Fは、第3実施形態と同じく、互いに同じ値に設定される。他のヒートポンプ式熱源機200b…200nも、ヒートポンプ式熱源機200aと同じ構成である。
【0096】
センターコントローラ201は、ヒートポンプ式熱源機200a,200b…200nの総合コントローラ150をそれぞれ制御する。また、センターコントローラ201は、ヒートポンプ式熱源機200a,200b…200nから発生する高調波電流Inの合計値Inmに対する設備機器システム用の制限値Inmsを内部メモリに予め記憶している。制限値Inmsは、受電設備10に設定されている“高調波電流Inの規制値Ino”および受電設備10におけるインバータ比率に応じて決まる。
【0097】
センターコントローラ201は、ヒートポンプ式熱源機200a,200b…200nの個々に対する設備機器用の制限値Ins´を設備機器システム用の制限値Inms内で分配的に定め、その各制限値Ins´をヒートポンプ式熱源機200a,200b…200nのコントローラ90にそれぞれ通知する。このセンターコントローラ201の具体的な制御について説明する。
【0098】
まず、センターコントローラ201は、第4実施形態の総合コントローラ150と類似し、スイッチング動作させないことが可能なコンバータ2が含まれるヒートポンプ式熱源機の台数を選定する。この選定に際し、スイッチング動作させないことが可能なコンバータ2が含まれるヒートポンプ式熱源機として、負荷の小さいインバータ5が含まれるヒートポンプ式熱源機を負荷の小さい順に割当てる。この割当てを受けたヒートポンプ式熱源機の総合コントローラ150は、当該ヒートポンプ式熱源機内の全てのコンバータ2のスイッチング動作を停止する。
【0099】
続いて、センターコントローラ201は、負荷の大きいインバータ5が含まれるヒートポンプ式熱源機の総合コントローラ150に対し、そのヒートポンプ式熱源機から発生する高調波電流Inが最も小さくなる運転を指示する。この指示を受けた総合コントローラ150は、当該ヒートポンプ式熱源機内の全てのコンバータ2の出力電圧Vcが許容範囲内で最も高いレベルとなる制御を各コントローラ90に指示する。そして、センターコントローラ201は、スイッチング動作させるコンバータ2が含まれる1つまたは複数のヒートポンプ式熱源機のうち、最も負荷の小さいインバータ5が含まれるヒートポンプ式熱源機に対し、高調波電流値Inの残りの余裕分を制限値Ins´として通知する。この通知を受けたヒートポンプ式熱源機の総合コントローラ150は、第3実施形態と同じようにその内部の各電力変換装置100に対して電力変換装置用の制限値Insを割当てる。この割当てを受けた電力変換装置100のコントローラ90は、受けた制限値Insを制限値設定部94に記憶し、当該電力変換装置100から発生する高調波電流Inがその制限値Insに収まるようにコンバータ2をPWMスイッチング制御する。
【0100】
[6]変形例
なお、上述の各実施形態においては、高調波電流Inの制限値Insを受電設備10に設定されている“高調波電流Inの規制値Ino”の範囲で割当てる場合を例に説明したが、受電設備10とは無関係の規制値が各電力変換装置100の個々に設定され場合には、その規制値をそのまま制限値Insとして定めてもよい。
【0101】
上記各実施形態では、インバータ5の負荷がブラシレスDCモータ6である場合を例に説明したが、ブラシレスDCモータ6に限らず、種々の負荷への適用が可能である。また、設備機器がヒートポンプ式熱源機である場合を例に説明したが、ヒートポンプ式熱源機に限らず、コンバータおよびインバータを搭載した設備機器いわゆるインバータ搭載機器であれば、種々のインバータ搭載機器への適用が可能である。
【0102】
上記実施形態および変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、書き換え、変更を行うことができる。これら実施形態や変形は、発明の範囲は要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の電力変換装置は、ヒートポンプ式熱源機等への利用が可能である。
【符号の説明】
【0104】
1…三相交流電源、2…コンバータ、4…平滑コンデンサ、5…インバータ、6…ブラシレスDCモータ(負荷)、10…受電設備、21,22,23…リアクタ、31a〜36a…ダイオード、31〜36…IGBT(スイッチング素子)、51〜56…IGBT(スイッチング素子)、60…電圧検出部、71,72,73…電流センサ、81,82,83…電流センサ、90…コントローラ、91…第1制御部、92…第2制御部、93…第3制御部、94…制限値設定部、95…入力部、96…通信部、97…高調波算出部、100…電力変換装置、101…システム制御器、150…総合コントローラ、200…設備機器システム、200a,200b…200n……ヒートポンプ式熱源機、201…センターコントローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14