(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1の実施の形態]
(構成)
図1乃至
図12は、第1の実施の形態を示す。
(インクジェットヘッドの構造)
以下、第1の実施形態のインクジェットヘッド5の構造について説明する。
図1は、インクジェットヘッド5の分解斜視図、
図2は、インクジェットヘッド5の圧力室プレート2の端部の平面図、
図3は、
図2のF3−F3線断面図を示す。
【0010】
本実施形態のインクジェットヘッド5は、
図1に示すように、ノズルプレート1と、圧力室プレート2と、インクサプライプレート3A,3Bと、リザーバプレート4A,4Bとを積層した構造となっている。本実施形態では、これらの積層体は、それぞれ上面から見た平面形状が矩形状(長方形状)に形成されている。
【0011】
図3に示すように、圧力室プレート2は、表面がシリコン(Si)熱酸化膜からなる振動板21で覆われているシリコン基板22からなる。圧力室プレート2の内部には、それぞれ複数の圧力室23と、狭窄路24と、インク供給室25とを有する。複数の圧力室23は、
図1に示すように上面から見た平面形状が矩形状(長方形状)に形成されている。
本実施形態では、長方形状の圧力室プレート2の短手方向に2列の圧力室23が並設されている。各列の圧力室23は、長手方向に複数の圧力室23が並設されている。
【0012】
通常、圧力室プレート2の厚さは50〜500μmで、シリコン熱酸化膜の厚さは0.2〜10μmである。振動板21としてはシリコン熱酸化膜の代わりに酸化ジルコニウム膜、酸化イリジウム膜、酸化ルテニウム膜等を用いてもよい。例えば、酸化ジルコニウム膜の場合はシリコン基板22上にジルコニウム膜をスパッタリング法で形成した後、熱酸化させることにより形成することができる。
【0013】
圧力室プレート2の振動板21で覆われている面とは反対側の面には、圧力室23が開口している。この開口面には、ノズルプレート1が接着されている。ノズルプレート1には、ノズル11が圧力室23と対向するように形成されている。ノズルプレート1の材料としてはポリイミドが一例としてあげられ、ノズルプレート1のノズル11はレーザー加工によって形成することができる。
【0014】
振動板21には、各圧力室23と対応する位置に圧電素子7がそれぞれ配置されている。圧電素子7は、下部電極71と、圧電体72と、上部電極73とを積層した構造となっている。
【0015】
圧力室プレート2の圧電素子7側には、インクサプライプレート3A,3Bと、リザーバプレート4A,4Bとが例えばエポキシ接着剤を介して積層されている。インクサプライプレート3A,3Bには、インク供給室25に通ずるインク供給路31が形成されている。リザーバプレート4Aには、インク供給路31と繋がるリザーバ41が形成されている。さらに、リザーバプレート4Bには、リザーバ41にインクを供給するためのインクインレット42を構成している。
【0016】
インクサプライプレート3A,3B、リザーバプレート4A,4Bの材料としては、セラミックス材料として例えば、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸バリウム等があげられる。また、金属材料として例えば、ステンレス、アルミ、チタン等があげられる。樹脂材料として例えば、ABS、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネイト、ポリエーテルサルフォン等があげられる。
【0017】
図2および
図3に示すように、下部電極71は個別配線74aとなって圧力室プレート2の端部へ延びている。また、上部電極73はシリコン酸化膜の絶縁膜75の開口75aを介して共通配線74bに接続され、共通配線74bも圧力室プレート2の端部へ延びている。そして、個別配線74aと共通配線74bとで構成されている配線74は、圧力室プレート2の端部で図示しない駆動回路部との接続端子と接続されている。
【0018】
図4は、
図2の1つの圧力室23付近を拡大した図であり、
図5は、
図4のF5−F5線断面図である。
図4、
図5に示すように、振動板21には、圧力室23と対向しない領域に振動板21の圧縮応力を解放して小さくするための応力解放部26が形成されている。本実施形態では、圧力室23と対向しない領域とは、狭窄路24および配線74に対応する部分を除いて、圧力室23を囲む圧力室23の外側の領域である。応力解放部26は、この圧力室23を囲む領域に圧力室23の両側部に沿って細溝形状の一対の貫通穴(除去部)26aが形成されている。各圧電素子7毎にこれらの一対の貫通穴26aが、各圧電素子7に対してそれぞれ同一形状に形成されている。ここで、各圧電素子7に対応する各貫通穴26aの形状を同一形状としやすいように、各圧電素子7に対する配線74の引出位置および引出方向を一致させている。
【0019】
(圧力室プレート2および圧電素子7の形成)
以下、圧力室プレート2および圧電素子7の製造工程について説明する。
図6〜
図10の(A)は、それぞれ
図4のA−A線位置での断面図である。同様に、
図6〜
図10の(B)は、それぞれ
図4のB−B線位置での断面図、
図6〜
図10の(C)は、それぞれ
図4のC−C線位置での断面図である。
【0020】
最初に、
図6(A)に示すように、シリコン熱酸化膜(振動板21)を備えるシリコン基板22の振動板21に、貫通穴26aをドライエッチングで形成する。これにより、後の工程で形成される狭窄路24および配線74の形成位置に対応する部分を除いて、貫通穴26aの底面からシリコン基板22の表面を露出させる。なお、
図6(B)、(C)には、振動板21に、貫通穴26aは形成されていない。
【0021】
シリコン熱酸化膜は、内部応力として面内方向に圧縮応力を有する。本実施形態では、振動板21に貫通穴26aの応力解放部26を形成することにより振動板21の内部応力の一部が解放されるので、振動板21に応力解放部26を形成しない場合と比較して振動板21の内部応力が小さくなる。
【0022】
次に、
図7(A)〜(C)に示すように、シリコン基板22の振動板21側に下部電極71となる下部導電膜71aと、圧電体72となる圧電層72aと、上部電極73となる上部導電膜73aとをスパッタ法により順次形成する。圧電層72aの他の製法として、例えば、CVD、ゾルゲル法、AD法(エアロデポジション法)、水熱合成法などを用いることも可能である。このとき、
図7(A)に示すように振動板21の貫通穴26aの部分にもシリコン基板22の表面上に下部導電膜71aと、圧電層72aと、上部導電膜73aとが同様に形成される。
【0023】
下部導電膜71aおよび上部導電膜73aの材料としてはPtが一例としてあげられる他、Ir、Ni、Cu、Al、Ti、W、Mo、Au等がある。また、圧電層72aの材料としてはPZTが一例としてあげられる他、PTO(チタン酸鉛、PMNT、PZNT、ZnO、AlN等がある。通常、下部導電膜71aおよび上部導電膜73aの厚さは0.01〜1μm、圧電層72aの厚さは0.1〜10μmである。
【0024】
次に、
図8(A)〜(C)に示すように、上部導電膜73aと、圧電層72aと、下部導電膜71aとをドライエッチングして、応力解放部26に囲まれる領域に圧電素子7を形成する。この圧電素子7の形成では、下部導電膜71aをパターニングして下部電極71を形成する際に
図8(B),(C)に示すように個別配線74aも形成する。下部導電膜71aをドライエッチングして下部電極71を形成する際に、応力解放部26の底面の下部導電膜71aをエッチングすると、シリコン基板22もエッチングしてしまう可能性があるので、下部導電膜71aのエッチングは、
図8(A)に示すように、応力解放部26の底面に下部導電膜71aが残るようなパターンで行う。
【0025】
次に、
図9(A)〜(C)に示すように、シリコン基板22の振動板21側全体を覆うようにシリコン酸化膜の絶縁膜75を、TEOSを用いたCVD法により成膜する。続いて、
図9(A)、(C)に示すように、絶縁膜75をドライエッチングして、上部電極73の一部を露出させる開口75a(
図9(A))およびインク供給室25の開口部となる第1開口部25a(
図9(C))を形成する。絶縁膜75の材料としてシリコン酸化膜の代わりに例えば、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、DLC(ダイアモンドライクカーボン)を用いることができる。絶縁膜75の厚さは、0.1〜2μmである。
【0026】
次に、
図10(A)〜(C)に示すように、シリコン基板22の振動板21側全体を覆うように導電膜を成膜し、成膜した導電膜をウエットエッチングして、開口75aを介して上部電極73に接続される共通配線74b(
図10(A))を形成する。ここで導電膜の材料としては、Auが一例としてあげられる他、例えば、Ir、Ni、Cu、Al、Ti、W、Mo等がある。共通配線74bの厚さは、0.01〜1μmである。
【0027】
次に、
図11(C)に示すように、シリコン基板22の振動板21側からインク供給室25に対応する振動板21の部分をドライエッチングにより除去し、振動板21にインク供給室25の一部となる第2開口部25bを形成する。
【0028】
次に、
図12(A)に示すように、シリコン基板22の振動板21と反対側から、振動板21をエッチストップとしてシリコン基板22をドライエッチングして、圧電素子7に対応する位置に圧力室23を形成する。同時に、
図12(B)に示すように、同様に振動板21をエッチストップとして、シリコン基板22をドライエッチングして、狭窄路24も形成する。また、同時に
図12(C)に示すように、シリコン基板22に振動板21の第2開口部25bに連通する第3開口部25cをドライエッチングにより形成し、インク供給室25を完全に形成する。
【0029】
圧力室23が形成されると、絶縁膜75、圧電素子7、振動板21の面方向の内部応力により、アクチュエータ8(圧電素子7および振動板21)が圧力室23に向って凸に変形する。このとき、応力解放部26を形成している本実施形態では、応力解放部26により振動板21の圧縮応力の一部が解放され、振動板21の圧縮応力が小さくなっている。
そのため、応力解放部26を形成していない場合と比較して、アクチュエータ8の初期変形が小さい。
【0030】
(インクジェットヘッドの動作)
以下、インクジェットヘッド5の動作について説明する。インクジェットヘッド5の動作時には、図示しない駆動回路部から下部電極71および上部電極73へ電力を供給する。このとき、圧電体72の内部に電界を発生さて圧電素子7を歪ませると、圧電素子7と振動板21との相互作用によりアクチュエータ8(圧電素子7および振動板21)が変形する。この際、振動板21の圧縮応力は応力解放部26により解放されて小さくなっているので、アクチュエータ8は座屈変形を起こさないか、もしくは座屈変形したとしてもその度合いは小さい。したがって、アクチュエータ8の座屈変形に起因する複数のアクチュエータ8間の変位特性のばらつきが抑えられる。
【0031】
アクチュエータ8が変形すると、圧力室23内のインクが加圧され、ノズル11からインクが吐出する。このとき、本実施形態では複数のアクチュエータ8間の変位特性のばらつきが抑えられているので、アクチュエータ8間のインク吐出特性のばらつきが小さい。
吐出によりインクを消費すると、その消費量に応じて、インクが、リザーバ41、インク供給路31、インク供給室25、狭窄路24を順次介して圧力室23へと供給される。
【0032】
(作用・効果)
上記構成の本実施の形態のインクジェットヘッド5では、振動板21における圧力室23と対向しない領域に振動板21の圧縮応力を解放して小さくするための応力解放部26が形成されている。そのため、インクジェットヘッド5の製造時に、振動板21の圧縮応力を応力解放部26によって解放しているので、アクチュエータ8を駆動したときのアクチュエータ8の座屈変形を抑制もしくは減少させることができる。したがって、1つのインクジェットヘッド5に組み込まれている複数のアクチュエータ8間の変位特性を均一化し、インク吐出特性を均一化することができ、かつアクチュエータ8の破損を防止できるインクジェットヘッドを提供することができる。
【0033】
また、インクジェットヘッド5の製造時には、シリコン基板22の一方の端面に振動板21を形成したのち、シリコン基板22の内部に形成される予定の圧力室23と対向しない領域に貫通穴26aを形成して振動板21の一部を除去した応力解放部26を形成する。振動板21の応力解放部26の形成後に振動板21に下部電極71と圧電体72と上部電極73とを順に積層して圧電素子7を成膜する。その後、シリコン基板22の一方の端面と反対の他方の端面側からシリコン基板22をエッチングによってシリコン基板22の内部に圧力室23を作成する。このとき、振動板21の圧縮応力を応力解放部26により解放し、アクチュエータ8を駆動したときのアクチュエータ8の座屈変形を抑制もしくは減少させることにより、アクチュエータ8間の変位特性を均一化し、インク吐出特性を均一化することができる。また、アクチュエータ8の座屈変形を抑制もしくは減少させることによりアクチュエータ8の破損を防止することができるインクジェットヘッドの製造方法を提供することができる。
【0034】
[第2の実施の形態]
(構成)
図13乃至
図23は、第2の実施の形態を示す。本実施の形態は、第1の実施の形態(
図1乃至
図12参照)のインクジェットヘッド5の構造を次の通り変更した変形例である。
【0035】
以下、本実施の形態のインクジェットヘッド105の構造について説明する。
図13は、インクジェットヘッド105の分解斜視図である。本実施形態のインクジェットヘッド105は、
図13に示すように、圧力室プレート102と、リザーバプレート104A,104Bとを積層した構造となっている。本実施形態では、これらの積層体は、それぞれ上面から見た平面形状が矩形状(長方形状)に形成されている。
【0036】
図14は、インクジェットヘッド105の圧力室プレート102の端部の平面図である。圧力室プレート102の内部には、複数の圧力室123を有する。本実施形態の圧力室123は、
図14および
図15に示すように円筒形となっている。
【0037】
図15は、
図14の1つの圧力室123の近辺の拡大図、
図16(A)は、
図15のD−D線位置での断面図、
図16(B)は、
図15のE−E線位置での断面図である。
図16(A)、(B)に示すように、圧力室プレート102は、表面がシリコン熱酸化膜からなる振動板121で覆われているシリコン基板122からなる。
【0038】
通常、圧力室プレート102の厚さは、50〜500μmで、シリコン熱酸化膜(振動板121)の厚さは0.2〜10μmである。振動板121としてはシリコン熱酸化膜の代わりに酸化ジルコニウム膜、酸化イリジウム膜、酸化ルテニウム膜等を用いてもよい。
例えば、酸化ジルコニウム膜の場合はシリコン基板122上にジルコニウム膜をスパッタリング法で形成した後、熱酸化させることにより形成することができる。
【0039】
圧力室プレート102の圧力室123が開口している開口面側には、リザーバプレート104A,104Bが例えばエポキシ接着剤を介して積層されている。そして、リザーバプレート104Aにより圧力室123と繋がるリザーバ141が形成され、リザーバプレート104Bによりリザーバ141にインクを供給するためのインクインレット142を構成している。リザーバプレート104A,104Bの材料としては、セラミックス材料としてアルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸バリウム等が、金属材料としてステンレス、アルミ、チタン、樹脂材料としてABS、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネイト、ポリエーテルサルフォン等があげられる。
【0040】
圧力室プレート102の圧力室123が開口している開口面側の反対側に設けられている振動板121には圧力室123に対応する位置に圧電素子107が配置されている。圧電素子107は、下部電極171と、圧電体172と、上部電極173とを積層した構造となっている。振動板121および圧電素子107にはそれぞれ軸心部に貫通孔が設けられており、両貫通孔が、圧力室123につながるノズル127を構成している。
【0041】
図14、
図15、
図16に示すように、下部電極171は、個別配線174aとなって圧力室プレート102の端部へ延びている。また、上部電極173は、シリコン酸化膜の絶縁膜175の開口175aを介して共通配線174bに接続され、共通配線174bも圧力室プレート102の端部へ延びている。そして、個別配線174aと共通配線174bとで構成されている配線174は、圧力室プレート102の端部で図示しない駆動回路部との接続端子と接続されている。
【0042】
図15および
図16(B)に示すように、振動板121には、圧力室123を囲むように各圧電素子107毎に細溝形状の一対のほぼ半円形状の応力解放部126が形成されている。応力解放部126は、配線174に対応する部分を除いて各圧電素子107に対して同一形状に形成されている。ここで、各圧電素子107に対応する各応力解放部126の形状を同一形状としやすいように、各圧電素子107に対する配線174の引出位置および引出方向を一致させている。
【0043】
(圧力室プレート102および圧電素子107の形成)
以下、圧力室プレート102および圧電素子107の製造工程について説明する。
図17〜
図23の(A)は、それぞれ
図15のD−D線位置での断面図である。同様に、
図17〜
図23の(B)は、それぞれ
図15のE−E線位置での断面図である。
【0044】
最初に、
図17(B)に示すように、シリコン熱酸化膜(振動板121)を備えるシリコン基板122の振動板121に、貫通穴126aをドライエッチングで形成する。これにより、後の工程で形成される配線174の形成位置に対応する部分を除いて、貫通穴126aの底面からシリコン基板122の表面を露出せせる。なお、
図17(A)には振動板121に、貫通穴126aは形成されていない。
【0045】
シリコン熱酸化膜は内部応力として面内方向に圧縮応力を有する。本実施形態では、振動板121に貫通穴126aの応力解放部126を形成することにより振動板121の内部応力の一部が解放されるので、振動板121に応力解放部126を形成しない場合と比較して振動板121の内部応力が小さくなる。
【0046】
次に、
図18(A),(B)に示すように、シリコン基板122の振動板121側に下部電極171となる下部導電膜171aと、圧電体172となる圧電層172aと、上部電極173となる上部導電膜173aとをスパッタ法により順次形成する。圧電層172aの他の製法として、CVD、ゾルゲル法、AD法(エアロデポジション法)、水熱合成法などを用いることも可能である。このとき、
図18(B)に示すように振動板121の貫通穴126aの部分にもシリコン基板122の表面上に下部導電膜171aと、圧電層172aと、上部導電膜173aとが同様に形成される。
【0047】
下部導電膜171aおよび上部導電膜173aの材料としてはPtが一例としてあげられる他、Ir、Ni、Cu、Al、Ti、W、Mo、Au等がある。また、圧電層172aの材料としてはPZTが一例としてあげられる他、PTO(チタン酸鉛、PMNT、PZNT、ZnO、AlN等がある。通常、下部導電膜171aおよび上部導電膜173aの厚さは0.01〜1μm、圧電層172aの厚さは0.1〜10μmである。
【0048】
次に、
図19(A),(B)に示すように、上部導電膜173aと、圧電層172aと、下部導電膜171aとをドライエッチングして、応力解放部126に囲まれる領域に貫通孔107aを有するドーナツ状の圧電素子107を形成する。この圧電素子107の形成では、下部導電膜171aをパターニングして下部電極171を形成する際に個別配線174aも形成する。下部導電膜171aをドライエッチングして下部電極171を形成する際に、応力解放部126の底面の下部導電膜171aをエッチングすると、シリコン基板122もエッチングしてしまう可能性があるので、下部導電膜171aのエッチングは応力解放部126の底面に下部導電膜171aが残るようなパターンで行う。
【0049】
次に、
図20(A),(B)に示すように、シリコン基板122の振動板121側全体を覆うようにシリコン酸化膜の絶縁膜175を、TEOSを用いたCVD法により成膜する。続いて、
図20(A)に示すように、絶縁膜175をドライエッチングして、上部電極173の一部を露出させる開口175aを形成する。絶縁膜175の材料としてシリコン酸化膜の代わりに窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、DLC(ダイアモンドライクカーボン)を用いることができる。絶縁膜175の厚さは0.1〜2μmである。
【0050】
次に、
図21(A)に示すように、シリコン基板122の振動板121側全体を覆うように導電膜を成膜し、成膜した導電膜をウエットエッチングして、開口175aを介して上部電極173に接続される共通配線174bを形成する。ここで導電膜の材料としては、Auが一例としてあげられる他、Ir、Ni、Cu、Al、Ti、W、Mo等がある。共通配線174bの厚さは0.01〜1μmである。
【0051】
次に、
図22(A),(B)に示すように振動板121に、圧電素子107の貫通孔107aにつながる貫通孔121aをドライエッチングにより形成し、ノズル127を形成する。
【0052】
次に、
図23(A),(B)に示すように、シリコン基板122の振動板121と反対側から、振動板121をエッチストップとしてシリコン基板122をドライエッチングして、圧電素子107に対応する位置に圧力室123を形成する。圧力室123が形成されると、絶縁膜175、圧電素子107、振動板121の面方向の内部応力により、アクチュエータ108(圧電素子107および振動板121)が圧力室123に向って凸に変形する。このとき、応力解放部126を形成している本実施形態では、応力解放部126により振動板121の圧縮応力の一部が解放され、振動板121の圧縮応力が小さくなっている。そのため、応力解放部126を形成していない場合と比較して、アクチュエータ108の初期変形が小さい。
【0053】
(インクジェットヘッドの動作)
以下、インクジェットヘッド105の動作について説明する。インクジェットヘッド105の動作時には、図示しない駆動回路部から下部電極171および上部電極173へ電力を供給する。このとき、圧電体172の内部に電界を発生さて圧電素子107を歪ませると、圧電素子107と振動板121との相互作用によりアクチュエータ108(圧電素子107および振動板121)が変形する。この際、振動板121の圧縮応力は応力解放部126により解放されて小さくなっているので、アクチュエータ108は座屈変形を起こさないか、もしくは座屈変形したとしてもその度合いは小さい。したがって、座屈変形に起因するアクチュエータ108間の変位特性のばらつきが抑えられる。
【0054】
アクチュエータ108が変形すると、圧力室123内のインクが加圧され、ノズル127からインクが吐出する。このとき、本実施形態では複数のアクチュエータ108間の変位特性のばらつきが抑えられているので、アクチュエータ108間のインク吐出特性のばらつきが小さい。吐出によりインクを消費すると、その消費量に応じて、インクがリザーバ141から圧力室123へと供給される。
【0055】
(作用・効果)
本実施の形態では、振動板121には、圧力室123を囲むように各圧電素子107毎に細溝形状の一対のほぼ半円形状の応力解放部126が形成されている。これにより、振動板121の内部応力の一部が解放されるので、振動板121に応力解放部126を形成しない場合と比較して振動板121の内部応力が小さくなる。したがって、振動板121の圧縮応力を解放し、アクチュエータ108を駆動したときのアクチュエータ108の座屈変形を抑制もしくは減少させることができる。これにより、複数のアクチュエータ108間の変位特性を均一化し、インク吐出特性を均一化することができ、かつアクチュエータ108の破損を防止できるインクジェットヘッド105を提供することができる。
【0056】
また、インクジェットヘッド105の製造時には、シリコン基板122の一方の端面に振動板121を形成したのち、シリコン基板122の内部に形成される予定の圧力室123と対向しない領域に貫通穴126aを形成して振動板121の一部を除去した応力解放部126を形成する。振動板121の応力解放部126の形成後に振動板121に下部電極171と圧電体172と上部電極173とを順に積層して圧電素子107を成膜する。
その後、シリコン基板122の一方の端面と反対の他方の端面側からシリコン基板122をエッチングによってシリコン基板122の内部に圧力室123を作成する。このとき、振動板121の圧縮応力を応力解放部126により解放し、アクチュエータ108を駆動したときのアクチュエータ108の座屈変形を抑制もしくは減少させることにより、アクチュエータ108間の変位特性を均一化し、インク吐出特性を均一化することができる。
また、アクチュエータ108の座屈変形を抑制もしくは減少させることによりアクチュエータ108の破損を防止することができるインクジェットヘッドの製造方法を提供することができる。
【0057】
[変形例]
(構成)
図24(A)は、第1の実施の形態(
図1乃至
図12参照)の第1の変形例である。第1の実施形態では、応力解放部126の形成時には、振動板21に貫通穴26aを形成し、応力解放部(除去部)26の底面からシリコン基板22の表面が露出する構成を示した。本変形例は、これに替えて、振動板21をハーフエッチングすることで、
図24(A)に示すように振動板21に非貫通の凹部226aを形成して振動板21の一部を除去した応力解放部226(除去部)を形成したものである。この場合は、応力解放部226の底面からシリコン基板22の表面が露出しないようにすることができる。
【0058】
また、上記第1の変形例のような応力解放部26の底面にシリコン酸化膜が残っている構成であれば、下部導電膜71aのドライエッチングにおいてシリコン酸化膜がシリコン基板122の保護膜となる。そのため、第1の実施形態のように応力解放部26の底面に下部導電膜71aが残っている場合に、下部導電膜71aをドライエッチングする際に応力解放部26の底面の下部導電膜71aを除去し、応力解放部26の底面に下部導電膜71aが残らないようにしてもよい。
【0059】
図24(B)は、第1の実施の形態の第2の変形例である。第1の実施の形態のインクジェットヘッド5では、振動板21の配線74に対応する部分には応力解放部26を形成しない(応力解放部26には配線74を形成しない)構成としている。
【0060】
これに対し、本変形例では、
図24(B)に示すように振動板21の貫通穴26aの周壁面にテーパ形状部26bを設けている。このテーパ形状部26bは、振動板21の板面と直交する方向に対して貫通穴26aの外側の開口端部26a1側が貫通穴26aの内側の開口端部26a2側よりも幅広に拡開する形状である。そして、このように貫通穴26aの周壁面にテーパ形状部26bを設け、この貫通穴26aのテーパ形状部26bの部分に配線74を設けた。これにより、貫通穴26aの周壁面にテーパ形状部26bを設けていない場合に比べて配線74の段差による断線のリスクを低減することができる。
【0061】
なお、
図24(A)に示すように振動板21に非貫通の凹部226aを形成した場合は、この凹部226aの周壁面にテーパ形状部26bを設け、この凹部226aのテーパ形状部26bの部分に配線74を設けてもよい。
【0062】
図24(C)は、第1の実施の形態の第3の変形例である。第1の実施形態では、応力解放部26は、空間となっている構成である。本変形例は、応力解放部26を形成した後に、内部応力が引張応力となる充填部26cを形成できる充填剤を応力解放部26に充填したものである。この場合、充填部26cの引張応力により振動板21の端面21pが引っ張られる。そのため、応力解放部26が空間となっている場合と比較して、振動板21の内部圧縮応力がより大きく解放され、振動板21の内部応力がより小さくなる。また、充填剤により応力解放部26を埋めているので、振動板21の配線74に対応する部分に応力解放部26を形成した場合でも、配線74に段差が形成されにくいので、断線リスクがほとんどない。
【0063】
さらに、上記第1の実施形態では、応力解放部26を細溝形状とする構成であるが、圧電素子7と対向する振動板21の内部応力を解放できれば、応力解放部26の数、位置、形状等は自由に設定できる。例えば、第2の実施形態(
図13乃至
図23参照)では配線174および圧力室123に対応する部分以外の振動板121をすべて除去することも可能である。
【0064】
これらの実施形態によれば、振動板の圧縮応力を応力解放部により解放し、アクチュエータを駆動したときのアクチュエータの座屈変形を抑制もしくは減少させることにより、アクチュエータ間の変位特性を均一化し、インク吐出特性を均一化することができる。また、アクチュエータの座屈変形を抑制もしくは減少させることにより、アクチュエータの破損を防止することができるインクジェットヘッドとその製造方法を提供することができる。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]基板上の振動板と、圧電体と導電膜との積層体からなる圧電素子と、前記振動板上に前記圧電素子が積層されてなるアクチュエータと、前記圧電素子に対応する圧力室と、前記導電膜から前記基板上に延設され、前記アクチュエータを駆動する駆動回路部との接続端子に接続される配線と、前記振動板上における前記圧力室と対向しない領域に形成され、前記振動板の圧縮応力を解放して小さくするための応力解放部と、を有するインクジェットヘッド。
[2]前記応力解放部は、前記振動板に貫通穴、または非貫通の凹部のいずれかを形成して前記振動板の一部を除去した除去部を有する[1]に記載のインクジェットヘッド。
[3]前記振動板および前記圧電素子を貫通するノズルを有する[1]または[2]に記載のインクジェットヘッド。
[4]前記除去部は、配線が形成されていない[2]に記載のインクジェットヘッド。
[5]前記除去部は、前記振動板の断面が前記振動板の板面と直交する方向に対して関貫通穴の外側の開口端部側が前記貫通穴の内側の開口端部側よりも幅広に拡開するテーパ形状、または非貫通の前記凹部の開口端部側が前記凹部の底部側よりも幅広に拡開するテーパ形状となっている[2]に記載のインクジェットヘッド。
[6]シリコン基板の一方の端面に振動板を形成したのち、前記シリコン基板の内部に形成される予定の圧力室と対向しない領域に貫通穴、または非貫通の凹部のいずれかを形成して前記振動板の一部を除去した応力解放部を形成することと、前記振動板の前記応力解放部の形成後に前記振動板に下部電極と圧電膜と上部電極とを順に積層して圧電素子を成膜することと、前記シリコン基板の前記一方の端面と反対の他方の端面側から前記シリコン基板をエッチングによって前記シリコン基板の内部に前記圧力室を作成することと、を有するインクジェットヘッドの製造方法。