特許第6357569号(P6357569)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6357569
(24)【登録日】2018年6月22日
(45)【発行日】2018年7月11日
(54)【発明の名称】印刷用ブランケット
(51)【国際特許分類】
   B41N 10/06 20060101AFI20180702BHJP
   B41N 10/04 20060101ALI20180702BHJP
【FI】
   B41N10/06
   B41N10/04
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-123319(P2017-123319)
(22)【出願日】2017年6月23日
【審査請求日】2017年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000142436
【氏名又は名称】株式会社金陽社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 正典
【審査官】 中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−527985(JP,A)
【文献】 特表2017−502857(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0059470(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 10/06
B41N 10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の上に設けられた圧縮ゴム層と、前記圧縮ゴム層の上に設けられた補強布と、前記補強布の上に設けられた表面ゴム層とを備える印刷用ブランケットであって、
咥え尻側端部及び咥え側端部を有し、
前記咥え側端部には、前記表面ゴム層の表面から前記咥え側端部の厚さ方向に切欠溝が設けられており、前記切欠溝は、前記表面ゴム層の上面から下面までの領域に設けられており、
前記切欠溝に第1の帯板を設け、前記咥え側端部の前記表面ゴム層と反対側の面に第2の帯板を設けた
印刷用ブランケット。
【請求項2】
前記第1の帯板と前記第2の帯板とが一体である請求項1に記載の印刷用ブランケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷機に使用する印刷用ブランケットに関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷に使用されるブランケットは、一般に、2〜4枚の基布を接着剤で固着した基材と、その上面に設けられたスポンジゴム層(圧縮ゴム層)と、更にその上に設けられた表面ゴム層とを備える。
【0003】
このようなブランケットは、ブランケット胴に装着して使用される。ブランケットを装着する方式として、テンションバーを使用する方式がある。この方式においては、両端部、即ち、咥え側端部及び咥え尻側端部を断面コ字形の金属のバー(差し込みバー)で覆ったブランケットを用いる。ブランケット胴は、穴と、この穴内に内蔵され、切込部を有する二つのテンションバーとを備えている。このブランケットをブランケット胴に装着するには、ブランケットの咥え側端部の差し込みバーを、ブランケット胴の表面に設けられた穴の開口部(ギャップ)を通して穴に挿入し、一方のテンションバーの切込部に差し込む。次いで、ブランケットをブランケット胴の周りに引っ張りながら巻きつける。次いで、咥え尻側端部の差し込みバーをギャップを通して穴に挿入し、更に他方のテンションバーの切込部に差し込む。そして、両方のテンションバーをそれぞれ回転させて締め付けることによって、ブランケットがブランケット胴に固定される。
【0004】
しかし、この方式では、差し込みバーが厚いためブランケット胴のギャップを大きくする必要がある。そのため、それに応じてブランケット上で印刷に使用できない部分が大きくなる。また、ギャップが大きい場合、ブランケットのギャップに対応する部分に版胴や圧胴が当接するときに大きな衝撃又は振動などが生じる。そのため、印刷速度を上げることが困難になり、印刷効率が低下する。
【0005】
そこで、ブランケットの印刷に使用できる部分を多くし、かつ上記衝撃又は振動を少なくして印刷速度を向上させるために、ギャップを狭くするナローギャップ方式が採用されている(特開平7−285214号公報等)。この方式においては、狭くしたギャップにブランケットの端部を挿入できるよう、例えば、断面コ字形の厚い差し込みバーの代わりにブランケットの両端部の基材側の面にそれぞれ薄い帯板を接着剤で固着している。この方式によれば、ブランケットの咥え側端部を前述した方式と同様な構造のブランケット胴のギャップ内に、帯板が穴内面に対向するように挿入する。次いで、ブランケットをブランケット胴の周りに引っ張りながら巻きつける。このとき、ブランケットは、帯板近傍のブランケット部分で折り曲げられて、ブランケット胴の壁部に懸架される。次に、帯板が取り付けられた咥え尻側端部をギャップを通して穴に挿入し、更にテンションバーの切込部に帯板と共に差し込む。そして、テンションバーを回転させて咥え尻側端部を咥え側端部とテンションバーの間に移動させて締め付けることによって、ブランケットがブランケット胴に固定する。このようなブランケットにおいて、その端部に固着される帯板が比較的薄いので、ブランケット胴に設けるギャップを狭くすることができる。その結果、ブランケットの印刷に使用できる領域を拡大でき、その上、衝撃及び振動の低減と印刷速度の向上を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−285214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、ナローギャップ方式で使用される帯板は、ブランケットの基材側の面だけを固定するものであるので、ブランケット胴に巻き付けて使用する際に、咥え側端部に引張応力が加わる。引張応力は、ブランケットの接合力の弱い部材間、例えば基材の基布間に作用し、それら基布間でブランケットが剥離する。その結果、ブランケット胴の周方向にブランケットがズレて、印刷のダブリが発生する。また、剥離しない場合でも、ブランケットの各部材が周方向にズレることによって、ダブリが発生する。
【0008】
本発明は、ナローギャップ方式で使用することができる、ブランケットの各層の剥離及びズレの発生を抑制又は防止し得る印刷用ブランケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に従う印刷用ブランケットは、基材と、基材の上に設けられた圧縮ゴム層と、圧縮ゴム層の上に設けられた補強布と、補強布の上に設けられた表面ゴム層とを備える。当該ブランケットは、咥え尻側端部及び咥え側端部を有する。咥え側端部には、表面ゴム層の表面から、咥え側端部の厚さ方向に切欠溝が設けられている。切欠溝に第1の帯板が設けられ、咥え側端部の表面ゴム層と反対側の面に第2の帯板が設けられている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ナローギャップ方式で使用において、ブランケットの各層の剥離及びズレの発生を抑制又は防止でき、印刷のダブりが少ない印刷用ブランケットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の印刷用ブランケットの一例を示す模式図である。
図2】実施形態の印刷用ブランケットの一例を示す模式図である。
図3】実施形態の印刷用ブランケットの一例を示す模式図である。
図4】実施形態の印刷用ブランケットの一例を示す模式図である。
図5】実施形態のブランケットの装着方法を示す断面図である。
図6】例において使用した測定治具を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。図面は模式的なものであり、正確な縮尺ではない。
【0013】
図1(a)は、実施形態の印刷用ブランケットの咥え側端部を示す模式図である。印刷用ブランケット1は、基材2、圧縮ゴム層3、補強布4及び表面ゴム層5を備える。
【0014】
基材2は、基布2a、2b及び2cを備える。基布2aと基布2bとは、ゴム層2dで互いに接着されており、基布2bと基布2cともゴム層2eで互いに接着されている。この基布及びゴム層として、印刷用ブランケットに使用される既知の基布及びゴム材料を用いることができる。例えば、基布は織布、不織布等を使用することができる。織布、不織布は、例えば、綿、毛、麻、絹、レーヨン、キュプラ、アセテート、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、アクリル、アクリレート、ポリイミド、炭素繊維、アラミド繊維又はガラス繊維等の繊維からつくることができる。基布の織り方は、特に限定されないが平織、綾織又は朱子織等が挙げられる。ゴム層は、特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、フッ素ゴム、ポリウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴムなどである。この例では基材2は、基布を3枚備えるが、基布は、2枚であってもよいし、3枚以上用いられてもよい。
【0015】
基材2の厚さは、例えば、0.8〜1.2mmなどであることが好ましい。上記複数の基布は、全て互いに同じ素材の基布であってもよい。しかしながら、表面ゴム層5側の基布が、それ以外の基布よりも強度が高いことが好ましい。その場合、剥離又はズレを更に防止することが可能である。
【0016】
圧縮ゴム層3は、基材2の上に設けられている。圧縮ゴム層3として、印刷用ブランケットに使用される既知の圧縮ゴム層を用いることができる。圧縮ゴム層3は、特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、フッ素ゴム、ポリウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴムなどからなるスポンジゴムなどである。圧縮ゴム層3の厚さは、例えば、0.1mm以上2.0mm以下であることが好ましい。
【0017】
補強布4は、圧縮ゴム層の上に設けられている。補強布4は、例えば、上記の基布と同じものを用いてもよい。このような補強布4が設けられていることによって、例えば、ブランケット1をブランケット胴に巻き付けて使用する際に、弾性層(例えば、ゴム層や圧縮ゴム層)が補強され、印刷方向へのせん断力に対しズレを抑制する効果が向上する。
【0018】
表面ゴム層5は、補強布4の上に設けられている。表面ゴム層5の材料は、印刷用ブランケットに使用される既知の材料を用いることができる。例えば、表面ゴム層5は、材料として、特に限定されないが、例えばニトリルゴム、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレン、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン、シリコーンゴムまたはフッ素ゴムなどを含む。表面ゴム層5の厚さは、例えば、0.4〜0.5mmであることが好ましい。例えば、表面ゴム層5は、補強布4に、ゴム層6によって接着されていてもよい。
【0019】
ブランケット1は、用途に応じて所望の幅を有する。幅は、例えば、400〜1100mmなどである。
【0020】
ブランケット1は、図1(a)に示された咥え側端部と図示しない咥え尻側端部とを有する。ブランケット1の咥え側端部には、表面ゴム層5表面から、咥え側端部の厚さ方向に切欠溝5aが設けられている。詳しくは後述するが、切欠溝5aには、第1の帯板7aが設けられ、咥え尻側端部の表面ゴム層5と反対側の面(例えば基材2の裏面)に第2の帯板8が設けられている。
【0021】
このような咥え側端部の総厚さtw1は、1.9〜4.0mmの範囲である。総厚さとは、ブランケット1の咥え側端部の末端の厚さである。即ち、総厚さは、ブランケット1の、第1の帯板7a及び第2の帯板8を備えない部分の基材2と、圧縮ゴム層3と、補強布4と表面ゴム層5を含む厚さの値から、切欠溝5aの深さの値を引き、第1の帯板7a及び第2の帯板8の厚さの値を足した値である。総厚さtw1がこのような範囲であることによって、ブランケット1の咥え側端部をナローギャップ方式のブランケット胴のギャップに挿入し、装着することができる。tw1が1.9mm未満であると、ブランケット1が十分な強度を有さないおそれがある。tw1が4.0mmを超えると、ブランケット胴に装着する際にギャップに挿入するのが困難になるおそれがある。総厚さtw1は、2.2〜2.8mmであれば、ブランケットが十分な強度を有し、かつギャップに挿入しやすいためより好ましい。
【0022】
例えば、基材2、圧縮ゴム層3、補強布4及び表面ゴム層5の厚さ、切欠溝5aの深さ及び/又は後述する2つの帯板の厚さなどの要因を適正に組み合わせ、選択することによって、ブランケット1の咥え側端部の総厚さtw1を上記の値にすることができる。
【0023】
以下に切欠溝5a、第1の帯板7a、第2の帯板8について詳細に説明する。
【0024】
切欠溝の一例を図1(b)に示す。図1(b)は、第1の帯板7a及び第2の帯板8を除くブランケット1の斜視図である。切欠溝5aは、ブランケット1の咥え側端部の幅(図1(b)に示す矢印)全体に亘って、表面ゴム層5の表面から、咥え側端部の厚さ方向に設けられた溝である。
【0025】
切欠溝5aの深さt図1(a)参照のこと)は、表面ゴム層5の上面から、表面ゴム層の下面まで何れかの厚さに相当する深さである。即ち、深さtは、図1(a)及び(b)に示すように、表面ゴム層の上面から下面までの領域に設けられ、表面ゴム層5の厚さと同じであってもよい。
【0026】
或いは、表面ゴム層5の厚さより小さくてもよい。そのような例を図2に示す。この例では、切欠溝5bは、表面ゴム層5の上面から、下面より上の領域に設けられており、切欠溝5bの深さtは、表面ゴム層5の厚さよりも小さい。
【0027】
更なる別の実施形態においては、切欠溝5aの深さは、表面ゴム層5の上面からゴム層6の下面までの深さであってもよい。即ち、切欠溝5aの深さは、表面ゴム層5の上面から、補強布4の上面より上の領域の範囲であってもよい。
【0028】
ブランケット1の咥え側端部をブランケット胴に取り付けて使用する際、第1の帯板7aが配置された切欠溝5aに引張応力が加わる。前述したように第1の帯板が配置される切欠溝の深さを咥え側端部の表面ゴム層の表面からゴム層の下面までの範囲内に規定し、切欠溝の深さを最大にしても切欠溝の底に補強布が存在する構成にすることによって、第1の帯板が配置された切欠溝に引張応力が加わっても、切欠溝を起点として咥え側端部の構成部材間で剥離もしくは破断を生じるのを回避することができる。例えば、破断強度が20kgf/cm〜70kgf/cmとなり、使用時に破断しづらくなる。
【0029】
特に、図2に示されるように、切欠溝5bの深さを表面ゴム層5の厚さよりも小さくする、つまり切欠溝5bの底に表面ゴム層5の一部を残存させることによって、ブランケットの咥え側端部の各部材間の剥離、破断をより効果的に回避できる。
【0030】
切欠溝5aには、第1の帯板7a(図1(a)参照のこと)が設けられている。第1の帯板7aは、切欠溝5aを埋めるように、咥え尻側端部の幅方向全体に亘って設けられており、第1の帯板7aの幅wは、切欠溝5aの幅と同じ長さであることが好ましい。したがって、例えば、切欠溝5aの幅は、第1の帯板7aの幅wに従って決定されてもよい。第1の帯板7aの幅wは、例えば、12〜30mmである。20〜30mmであれば、更に剥離及び/又はズレが生じにくくなるため、より好ましい。
【0031】
第1の帯板7aの材料として、例えば、炭素系、マンガンクロム系などのスチールを用いることができる。材料として、例えば、ばね性を有するスチール、即ち、ばね鋼などを用いると、第1の帯板7aがブランケット胴内でより安定し、ブランケット1をブランケット胴により強固に固定できるため好ましい。
【0032】
例えば、第1の帯板7aの厚さは、0.2〜1.2mmであることが好ましい。例えば、第1の帯板7aの厚さが切欠溝5aの深さtと同じであり、その上面が表面ゴム層5の上面と面一となっていることが好ましい。しかしながら、第1の帯板7aの上面が表面ゴム層5の上面よりも高くてもよい。そのような例を図3に示す。この例では、切欠溝5cに設けられた第1の帯板7cの上面を、表面ゴム層5の上面よりも高くしている。このような場合、第1の帯板7cの上面と表面ゴム層5との差Δは、例えば、0〜0.8mmであることが好ましい。
【0033】
咥え側端部の表面ゴム層5と反対側の面に第2の帯板8が設けられている(図1(a)参照のこと)。第2の帯板8は、咥え側端部の幅方向全体に亘って設けられている。第2の帯板8の幅w図1(a)参照のこと)は、例えば、12〜30mmであることが好ましい。20〜30mmであれば、ブランケット1がより強固にブランケット胴に固定されるため、より好ましい。第2の帯板8の幅wは、第1の帯板7aの幅wと同じであってもよいし、幅wより大きくしてもよい。
【0034】
第2の帯板8の厚さは、0.2〜1.2mmであることが好ましいが、厚い方が、ブランケットがより強固にブランケット胴に固定されるためより好ましい。第2の帯板の厚さは、第1の帯板の厚さよりも厚くてもよい。
【0035】
第2の帯板8の材料として、例えば、炭素系、マンガンクロム系などのスチールを用いることができる。第2の帯板8の材料は、例えば、第1の帯板7aの材料と同じであってもよい。
【0036】
第1の帯板7a及び第2の帯板8はそれぞれ、例えば、接着剤(図示せず)によって所望の位置に取り付けられている。接着剤として、熱接着性フィルム又はエポキシ樹脂若しくはウレタンゴム等の接着剤を用いることができる。
【0037】
ブランケット1の咥え側端部(図示せず)は、ナローギャップ方式のブランケット胴のギャップを通して穴に挿入でき、固定することができる既知の構成であればよい。例えば、咥え尻側端部の表面ゴム層と反対側の面に第2の帯板と同様の帯板が設けられていてもよい。
【0038】
更なる実施形態において、印刷用ブランケットの第1の帯板と第2の帯板とは、一体であってもよい。このブランケットの例を図4に示す。図4は、印刷用ブランケットの咥え側端部を示す模式図である。
【0039】
この例の印刷用ブランケット10は、基材12と、基材12の上に設けられた圧縮ゴム層13と、圧縮ゴム層13の上に設けられた補強布14と、補強布14の上に設けられた表面ゴム層15とを備える。例えば、基材12、圧縮ゴム層13、補強布14及び表面ゴム層15として、それぞれ上記の何れかのものと同じものを用いることができる。
【0040】
印刷用ブランケット10は、図4に示す咥え側端部及び図示しない咥え尻側端部を有し、咥え側端部の表面ゴム層15の厚さ方向に切欠溝15aが設けられている。切欠溝15aは、例えば、上述の何れかの切欠溝と同じ構成を有していてよい。
【0041】
ブランケット10の咥え側端部には、上記第1の帯板と上記第2の帯板とが咥え端部の端でつながって一体となった形状、即ち、断面コ字形の帯板17が設けられている。帯板17の表面ゴム層側板(以下、「表側板」と称する)17aは、切欠溝15aの形状に対応して設けられている。
【0042】
ブランケット10の咥え尻側端部の総厚さtw2は、図1に示すブランケット1と同じく1.9〜4.0mmの範囲であるであることが好ましく、2.2〜2.8mmであることがより好ましい。総厚さtw2は、ブランケット10の咥え側端部の末端の厚さである。即ち、総厚さは、ブランケット10の、帯板17を備えない部分の基材12と、圧縮ゴム層13と、補強布14と表面ゴム層15を含む厚さの値から、切欠溝15aの深さの値を引き、帯板17の表側板17a及び裏側板17bの厚さの値を足した長さである。
【0043】
例えば、基材12、圧縮ゴム層13、補強布14及び表面ゴム層15の厚さ、切欠溝15aの深さ、表側板17aの厚さ及び/又は帯板17の裏側板17bの厚さなどの要因を適正に組み合わせ、選択することによって、ブランケット1の咥え尻側端部の総厚さtw2を上記の値にすることができる。
【0044】
例えば、表側板17aの厚さは、上記第1の帯板と同様であってもよい。また、裏側板17bの厚さは、上記第2の帯板と同様であってもよい。裏側板17bの厚さは、表側板17aの厚さよりも厚くてもよい。表側板17aの上面は、表面ゴム層5の上面よりも高くてもよい。
【0045】
以上に説明した実施形態のブランケットをブランケット胴に装着する手順の一例を図5を用いて説明する。図5は、図1の印刷用ブランケット1を装着する際の、ブランケット胴の概略断面図を示す。ブランケット胴90は、内部に穴91を備え、そこにテンションバー92が内蔵されている。テンションバー92には、固定用切込部93が形成されている。ブランケット胴90の表面には、穴91の開口部であるギャップ94が設けられている。
【0046】
このブランケット胴90に印刷用ブランケット1を装着するには、
まず、ブランケット1の咥え尻側端部3をギャップ94を通して穴91に挿入し、テンションバー92の固定用切込部93に差し込む(図5(a))。次に、テンションバー92を破線の矢印の方向(反時計回り方向)に回転しておく(図5(b))。これによって、プランケット胴にブランケットを巻き付ける際に咥え尻側端部3がテンションバーから抜けることが防止される。次いで、ブランケット胴90を同方向に回転させながら印刷用ブランケット1をブランケット胴90の周りに表面ゴム層5側が外側に位置するように巻つけた後、ブランケット1の咥え側端部2をブランケット胴90のギャップ94を通して穴91に挿入する(図5(c))。このとき、咥え側端部2の第1の帯板7a側が咥え尻側3の表面ゴム層5と対向する向きで挿入する。次いで、テンションバー92を更に同方向に回転させて締め付けることによって、ブランケット1をブランケット胴90に固定する(図5(d))。このとき、咥え側端部2において、第2の帯板8近傍のブランケット1部分が折り曲げられ、ギャップ94の下に位置するブランケット胴90の壁部95と咥え尻側近傍の穴91内に位置する表面ゴム層に懸架される。
【0047】
このように装着された印刷用ブランケットにおいては、使用時、ブランケット胴90を例えば時計回り方向に回転すると、その反作用として図5(c)に示すように反時計回り方向(白抜き矢印の方向)に引張応力が生じる。引張応力は、表面ゴム層5側から基材2に向かう各部材に加わる。実施形態では、咥え尻側端部の表面ゴム層の切欠溝に第1の帯板又は断面コ字形の帯板の表側板を設けることによって、表面ゴム層側が応力方向に伸びること及び/又はズレることなどが防止される。そのため、各部材間で起こる層間剥離又は各層の応力方向へのズレなどが従来よりも生じ難くできる。また、第1の帯板と第2の帯板と一体となっている場合、第1の帯板、即ち、表側板が応力方向にズレることが防止されるため、より剥離及び/又はズレが防止された印刷用ブランケットが提供される。
【0048】
また、第1の帯板を、咥え側端部の表面ゴム層5の表面から、咥え側端部の厚さ方向に設けた切欠溝に配置することによって、第1の帯板を表面ゴム層に配置することに伴う、咥え側端部の総厚さの増大を抑制もしくは回避できる。その結果、ギャップが狭いナローギャップ方式のブランケット胴に対応し得るブランケットを提供できる。
【0049】
以上に説明した印刷用ブランケットは、ギャップが狭いナローギャップ方式のブランケット胴に装着可能であり、かつ使用時にブランケットの各層の剥離及びズレの発生を抑制又は防止できる。したがって、実施形態のブランケットは、印刷に使用できる領域を拡大でき、その上、ギャップに起因する衝撃及び振動などが発生し難く、かつダブりの発生を抑制または防止し得る印刷を可能にする。
【0050】
[例]
例1
実施形態のブランケットの変形率を調査した例を以下に示す。
【0051】
・ブランケット片の作成
4枚の基布を含む基材、圧縮ゴム層、補強布、表面ゴム層(厚さ0.5mm)を備える幅4cm、長さ25cmのブランケット片を作成した。
【0052】
・切欠溝の形成と帯板の貼り付け
上記ブランケット片を用いて以下の実施例1、実施例2、比較例1の3種の印刷用ブランケットを作製した。
【0053】
(実施例1)
当該ブランケット片の咥え側端部の表面ゴム層に、厚さ0.2mm、幅4cmの切欠溝を形成した。この切欠溝に、厚さ0.2mm、幅(ブランケット片の長手方向の長さ)2cm、長さ(ブランケット片の長手方向と直交する方向の長さ)4cmのばね鋼製の第1の帯板をウレタンゴム(接着剤)を用いて貼り付けた。更に、咥え側端部の基材側の面に、幅2cm、長さ4cm、厚さ0.5mmのばね鋼製の第2の帯板をウレタンゴムを用いて貼り付けた。このブランケットの咥え側端部の総厚さは、2.6mmであった。
【0054】
(実施例2)
ブランケット片の咥え側端部の表面ゴム層に、厚さ0.4mm、幅2cmの切欠溝を形成した。このブランケット片の咥え側端部に、長さ4cm、幅4cm、厚さ0.5mmの帯板を折り曲げて取り付けた。帯板は、ばね鋼製であり、ウレタンゴムを用いて取り付けた。折り曲げた帯板の表面側と裏面側の幅は、それぞれ2cmとし、帯板の表面側が切欠溝に沿うように取り付けた。このブランケットの咥え側端部の総厚さは、2.7mmであった。
【0055】
(比較例1)
ブランケット片の咥え側端部の基材側の面に、幅2cm、長さ4cm、厚さ0.5mmのばね鋼製の帯板をウレタンゴム用いて貼り付けた。このブランケットの咥え側端部の総厚さは、2.7mmであった。
【0056】
・引張応力の付与及び変形率の測定
上記実施例1の印刷用ブランケットに、引張応力を付与した。図6(a)は、ブランケットに引張応力を付与するための測定治具200の模式図を示す。測定治具200の固定部201は、ブランケット胴のギャップの咥え側壁部を再現した間隙202を有する。間隙202に実施例1の印刷用ブランケット100の咥え側端部101を挿入した。図6(a)の囲いBを拡大した模式図を図6(b)に示す。図6(b)に示すように、ブランケット100は、咥え側端部101の表面ゴム層102側が下側を向くように挿入されている。引張応力付与前に、ブランケット100の咥え側端部101の側面に、ブランケット100の厚さ方向と平行な基準線110a、110b、110cを記入した。次に、ブランケット100の咥え側をチャック104ではさみ、矢印の方向へ、引張応力を付与した。この方向は、ブランケットがブランケット胴に装着されて使用される際に引張応力がかかる方向と同じ方向である。引張応力は、10mm/minの速度で5000Nまで付与した。
【0057】
引張応力付与後、ブランケットの変形率を測定した。図6(c)は、図6(b)引張応力付与後の様子を示す模式図である。引張応力付与によって、ブランケットの表面ゴム層側が引張応力方向にズレた。それによって基準線110a、110b、110cの下端が左側にズレた。変形率は、帯板の幅a及び基準線110a、110b、110cの下端のズレた長さbを用いて、次の式1を用いて算出した。
【0058】
変形率=b/a*100・・・・・・・・式1
また、層間剥離の有無を目視によって観察した。実施例2及び比較例1の印刷用ブランケットに対しても同様の実験を行った。
【0059】
結果を表1に示す。
【表1】
【0060】
実施例1及び2のブランケットの変形率は、比較例1の変形率の約半分であった。また、比較例1では剥離が発生したのに対し、実施例1及び2のブランケットでは剥離が生じなかった。したがって、実施形態によれば、ズレ及び剥離の発生が防止されたブランケットを提供できることが明らかとなった。
【0061】
例2
実施形態のブランケットのせん断剥離の有無を調査した例を以下に示す。
【0062】
・ブランケット片の作製
例1のブランケット片と同じ構成の幅50mm、長さ150mmのブランケット片を作製した。このブランケット片を用いて、実施例1と同様の方式で帯板を貼り付けた実施例3のブランケット、実施例2と同様の方式で帯板を貼り付けた実施例4のブランケット、比較例1と同様の方式で帯板を貼り付けた比較例2のブランケットを作製した。
【0063】
各ブランケットに、例1と同じ測定治具を用いて引張応力を付与した。引張応力は、矢印の方向に300mm/minの速度で応力を2.5kNから3.5kNまで上げ、次に3.5kNから2.5kNまで下げることを1サイクルとし、500サイクルそれぞれ付与した。引張応力を付与した後、目視でブランケットの咥え部におけるせん断剥離の有無を観察した。結果を表2に示す。
【表2】
【0064】
比較例2のブランケットにおいては、350サイクル時点でせん断剥離が発生した。一方、実施例3、4のブランケットにおいては、500サイクル後にもせん断剥離は発生しなかった。したがって、実施形態によれば、剥離の発生が防止されたブランケットを提供できることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0065】
1、10…印刷用ブランケット
2、12…基材
3、13…圧縮ゴム層
4、14…補強布
5、15…表面ゴム層
5a、5b、5c、15a…切欠溝
7a、7b、7c…第1の帯板
8…第2の帯板
17…帯板
【要約】
【課題】 本発明は、ナローギャップ方式で使用することができる、ブランケットの各層の剥離及びズレの発生を抑制又は防止し得る印刷用ブランケットを提供することを目的とする。
【解決手段】 実施形態に従う印刷用ブランケットは、基材と、その上に設けられた圧縮ゴム層と、その上に設けられた補強布と、その上に設けられた表面ゴム層とを備え、咥え尻側端部及び咥え側端部を有する。咥え側端部には、表面ゴム層の表面から咥え側端部の厚さ方向に切欠溝が設けられている。切欠溝に第1の帯板が設けられ、咥え側端部の表面ゴム層と反対側の面に第2の帯板が設けられている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6