(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
駆動源と駆動輪との間に備えられ、プライマリプーリとセカンダリプーリとの間に巻き掛けられたベルトを備えるバリエータと、前記プライマリプーリ、前記セカンダリプーリに供給される油圧を変更して前記ベルトの挟持力を制御する油圧制御部と、を有する車両の制御方法であって、
運転者からの制動力要求に基づいて、制動力による前記ベルトのスリップを防止するための所定値まで、前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリによるベルト挟持力を増大させる際に、
前記制動力要求が行われる前に、前記ベルト挟持力を、前記制動力要求が行なわれる前において前記ベルトのスリップを防止するために必要なベルト挟持力より大きく、かつ前記所定値未満の範囲の値まで所定の上昇率で徐々に増大させる車両の制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、本実施形態の変速機4を搭載した車両の構成を示す説明図である。
【0013】
車両は駆動源としてエンジン1及びモータジェネレータ2を備える。エンジン1又はモータジェネレータ2の出力回転は、前後進切替機構3、変速機4、終減速機構5を介して駆動輪6へと伝達される。
【0014】
エンジン1には、エンジン制御アクチュエータ10が備えられる。エンジン制御アクチュエータ10は、後述するエンジンコントロールユニット84の指令に基づいてエンジン1を所望のトルクで動作させ、出力軸11を回転させる。エンジン1とモータジェネレータ2との間には、これらの間の回転を断続する第1クラッチ12が備えられる。
【0015】
モータジェネレータ2は、インバータ21から出力される電力により駆動される。モータジェネレータ2の回生電力は、インバータ21に入力される。インバータ21は、後述するモータコントロールユニット83の指令に基づいてモータジェネレータ2を所望のトルクで動作させる。モータジェネレータ2は、例えば三相交流により駆動される同期型回転電機により構成される。インバータ21は、バッテリ22に接続される。
【0016】
前後進切替機構3は、エンジン1及びモータジェネレータ2からなる駆動源と変速機4との間に備えられる。前後進切替機構3は、出力軸23から入力される回転を、正転方向(前進走行)又は逆転方向(後退走行)に切り替え、変速機4へと入力する。前後進切替機構3は、ダブルピニオン式の遊星歯車機構30と、前進クラッチ31と、後退ブレーキ32とを備え、前進クラッチ31が締結されたときに正転方向に、後退ブレーキ32が締結されたときに逆転方向に切り替えられる。
【0017】
遊星歯車機構30は、駆動源の回転が入力されるサンギヤと、リングギヤと、サンギヤ及び前記リングギヤと噛み合うピニオンギヤを支持するキャリアとにより構成される。前進クラッチ31は、締結状態によりサンギヤとキャリアとを一体回転可能に構成され、後退ブレーキ32は、締結状態によりリングギヤの回転を停止可能に構成される。
【0018】
前後進切替機構3において、後退ブレーキ32は、前進クラッチ31の外周側に配置される。後退ブレーキ32は、締結時に互いに接触するフェーシング材の一方がケーシング等の非回転部材であるため、双方が回転部材である前進クラッチ31と比較して、潤滑油がフェーシング表面にスムーズに供給、排出されにくい。すなわち、後退ブレーキ32は前進クラッチ31に比べて、潤滑油による冷却が十分に行なわれにくく、発熱により耐久性が低下する恐れがある。このため、後退ブレーキ32は、フェーシング材の耐久性の低下を防止するために、前進クラッチ31の外周側に配置して、フェージング材の表面積を前進クラッチよりも増加させて構成することで発熱量の増加を抑制している。このような理由により、後退ブレーキ32が前進クラッチ31の外周側に配される構成としたため、外周側に配されるリングギヤを固定要素とすべく後退ブレーキ32によりリングギヤの回転を停止可能とし、リングギヤの回転を停止した状態にて、逆転方向の回転を得るべく、ダブルピニオン式の遊星歯車機構30とした。その結果、前進走行時の減速比よりも後退走行時の減速比のほうが大きく設定されている。
【0019】
前後進切替機構3の前進クラッチ31及び後退ブレーキ32の一方は、エンジン1及びモータジェネレータ2と変速機4と間の回転を断続する第2クラッチとして構成される。
【0020】
変速機(以下、バリエータと呼ぶ)4は、プライマリプーリ42とセカンダリプーリ43とにベルト44が掛け渡されて構成され、プライマリプーリ42とセカンダリプーリ43との溝幅をそれぞれ変更することでベルト44の巻掛け径を変更して変速を行うベルト式無段変速機構(バリエータ)である。
【0021】
プライマリプーリ42は、固定プーリ42aと可動プーリ42bとを備える。プライマリ油圧室45に供給されるプライマリ油圧により可動プーリ42bが可動することにより、プライマリプーリ42の溝幅が変更される。
【0022】
セカンダリプーリ43は、固定プーリ43aと可動プーリ43bとを備える。セカンダリ油圧室46に供給されるセカンダリ油圧により可動プーリ43bが可動することにより、セカンダリプーリ43の溝幅が変更される。
【0023】
ベルト44は、プライマリプーリ42の固定プーリ42aと可動プーリ42bとにより形成されるV字形状をなすシーブ面と、セカンダリプーリ43の固定プーリ43aと可動プーリ43bとにより形成されるV字形状をなすシーブ面に掛け渡される。
【0024】
終減速機構5は、バリエータ4の変速機出力軸41からの出力回転を駆動輪6に伝達する。終減速機構5は、複数の歯車列52及びディファレンシャルギア56を備える。ディファレンシャルギア56には車軸51が連結され、駆動輪6を回転する。
【0025】
駆動輪6には、ブレーキ61が備えられる。ブレーキ61は、後述するブレーキコントロールユニット82からの指令に基づいて、ブレーキアクチュエータ62により制動力が制御される。ブレーキアクチュエータ62は、ブレーキペダル63の踏力を検出するブレーキセンサ64の検出量に基づいて、ブレーキ61の制動力を制御する。ブレーキアクチュエータ62は液圧式であってもよく、ブレーキセンサ64がブレーキペダル63の踏力に基づいてブレーキ液圧に変換し、このブレーキ液圧に基づいて、ブレーキアクチュエータ62がブレーキ61の制動力を制御してもよい。
【0026】
バリエータ4のプライマリプーリ42及びセカンダリプーリ43には、変速油圧コントロールユニット7からの油圧が供給される。
【0027】
変速油圧コントロールユニット7は、オイルポンプ70から出力される作動油(潤滑油にも用いられる)により発生する油圧をライン圧PLに制御するレギュレータ弁71と、レギュレータ弁71を動作させるライン圧ソレノイド72とを備える。ライン圧PLは、ライン圧油路73により第1調圧弁74及び第2調圧弁77に供給される。第1調圧弁74は、プライマリ油圧ソレノイド75により動作されて、プライマリ圧油路76にプライマリ油圧を供給する。第2調圧弁77は、セカンダリ油圧ソレノイド78に動作されて、セカンダリ圧油路79にセカンダリ油圧を供給する。ライン圧ソレノイド72、プライマリ油圧ソレノイド75及びセカンダリ油圧ソレノイド78は、CVTコントロールユニット81からの指令に応じて動作し、各油圧を制御する。変速油圧コントロールユニット7はまた、前後進切替機構3、バリエータ4等に潤滑油を供給する。
【0028】
CVTコントロールユニット81と、ブレーキコントロールユニット82と、モータコントロールユニット83と、エンジンコントロールユニット84と、は、後述するハイブリッドコントロールモジュール80と共に、互いに通信可能なCAN90を介して接続される。
【0029】
CVTコントロールユニット81は、プライマリ回転センサ88、セカンダリ回転センサ89等からの信号が入力され、入力された信号に基づいて変速油圧コントロールユニット7に指令を送る。変速油圧コントロールユニット7の油圧は、バリエータ4及び前後進切替機構3にも供給される。CVTコントロールユニット81は、前後進切替機構3の前進クラッチ31及び後退ブレーキ32の締結状態も制御する。
【0030】
ハイブリッドコントロールモジュール80は、車両全体の消費エネルギーを管理し、エンジン1及びモータジェネレータ2の駆動を制御してエネルギー効率が高くなるように制御する。
【0031】
ハイブリッドコントロールモジュール80には、アクセル開度センサ85、車速センサ86、インヒビタスイッチセンサ87等からの信号及びCAN通信線を介して各コントロールユニットからの情報が入力される。ハイブリッドコントロールモジュール80は、これらの信号及び情報から、目標駆動トルクと目標制動トルクとを算出する。目標制動トルクから、モータジェネレータ2で発生可能な最大限の回生トルク分である回生制動トルク分を差し引いた残りを液圧制動トルクとし、回生制動トルクと液圧制動トルクの総和により目標制動トルクを得る。ハイブリッドコントロールモジュール80は、減速時にモータジェネレータ2で回生を行い電力を回収する。
【0032】
ブレーキコントロールユニット82は、ハイブリッドコントロールモジュール80からの制御指令に基づいて、ブレーキアクチュエータ62に駆動指令を出力する。ブレーキコントロールユニット82は、ブレーキアクチュエータ62で発生しているブレーキ液圧の情報を取得してハイブリッドコントロールモジュール80に送る。
【0033】
モータコントロールユニット83は、ハイブリッドコントロールモジュール80からの制御指令に基づいて、インバータ21に対し目標力行指令(正トルク指令)又は目標回生指令(負トルク指令)を出力する。モータコントロールユニット83は、モータジェネレータ2に印加する実電流値等を検出することで、実モータ駆動トルク情報を取得し、ハイブリッドコントロールモジュール80に送る。
【0034】
エンジンコントロールユニット84は、ハイブリッドコントロールモジュール80からの制御指令に基づき、エンジン制御アクチュエータ10に対し駆動指令を出力する。エンジンコントロールユニット84は、エンジン1の回転速度や燃料噴射量等により得られる実エンジン駆動トルク情報をハイブリッドコントロールモジュール80に送る。
【0035】
ハイブリッドコントロールモジュール80は、次のようなモードに対応した制御を実行する。
【0036】
車両は、電気自動車モード(以下、「EVモード」という。)と、ハイブリッド車モード(以下、「HEVモード」という。)と、を有する。
【0037】
「EVモード」は、第1クラッチ12を解放状態とし、駆動源をモータジェネレータ2のみとするモードである。「EVモード」は、例えば、要求駆動力が低く、バッテリSOC(State of Charge)が十分に確保されている場合に選択される。
【0038】
「HEVモード」は、第1クラッチ12を締結状態とし、駆動源をエンジン1とモータジェネレータ2とするモードである。「HEVモード」は、例えば、要求駆動力が大きいとき、又は、モータジェネレータ2を駆動させるためのバッテリSOCが不足している場合に選択される。
【0039】
次に、このように構成された車両において、次に、ベルトのスリップ防止について説明する。
【0040】
走行中、運転者によるブレーキペダル63が踏み込まれ、車両が減速する場合は、ベルト44の滑りを防止するために、CVTコントロールユニット81は、プライマリ油圧及びセカンダリ油圧を増大させて、ベルト挟持力を増大させる。
【0041】
図2Aおよび
図2Bは、本実施形態の、前後進切替機構3が後退走行時における、バリエータ4の入力トルク及びベルト挟持力の増大に必要な補正量を示す説明図である。
【0042】
車両が走行状態から減速となった場合、モータジェネレータ2の回生を行うために、ハイブリッドコントロールモジュール80は、第1クラッチ12及び第2クラッチを締結状態とする。
【0043】
図2Aに示すように、走行中は、エンジン1からバリエータ4へと正側のトルクが入力される。一方、車両が減速となる場合は、駆動輪6からバリエータ4へと負側のトルクが入力される。
【0044】
本実施形態の前後進切替機構3は、前進クラッチ31を締結した場合の前進走行時の減速比が、後退ブレーキ32を締結した後退走行時の減速比よりも大きく構成される。このため、後退走行時(Rレンジ時)には、入力トルクが負となった場合は、駆動輪6側から駆動源側に入力されるトルクは、前後進切替機構3において増速されることになる(
図2Aの傾きの差)。さらに、後退走行ではバリエータ4の変速比は固定である。本実施形態における減速比とは、前後進切替機構3における出力回転速度を入力回転速度で除算した値である。すなわち、
図1におけるバリエータ4の入力回転速度を出力軸23の回転速度で除算した値である。
【0045】
このため、後退走行時において減速が行なわれる場合は、バリエータ4に負側のトルクが入力される。入力トルクが負となる場合に、バリエータ4のベルト44をスリップさせないように、プライマリ油圧及びセカンダリ油圧を
図2Aに示す補正量Dだけ増大させる必要がある。
【0046】
減速時にプライマリ油圧及びセカンダリ油圧を補正量Dだけ増大させた場合、油圧経路のバラツキやプライマリ油圧室45とセカンダリ油圧室46との構造の差により、プライマリ油圧室45とセカンダリ油圧室46との油圧が一様に増大せず、両者の油圧に差が生じる場合がある。
【0047】
バリエータ4において、一般的に、プライマリ油圧室45の受圧面積がセカンダリ油圧室46の受圧面積よりも大きく設定されている。これは、高速道路走行時など、High側の変速比における走行時の燃費向上のため、High側で大きな挟持力が必要となるプライマリプーリ42の必要油圧を低減させるべく、セカンダリ油圧室46の受圧面積に対してプライマリ油圧室45の受圧面積を大きく構成している。
【0048】
このような構成において、油圧を増大させる場合は、両プーリに対して同様に供給油圧を増大させた場合には、受圧面積の違いから、セカンダリプーリ挟持力の増大割合に対してプライマリプーリ挟持力の増大割合が大きくなる。すなわち、プライマリ油圧とセカンダリ油圧とを上昇させた場合に、プライマリプーリでは指示油圧に到達するまでの時間がセカンダリプーリよりも早くなる。このため、油圧の上昇制御中はプライマリ油圧とセカンダリ油圧との上昇傾向に差が生じ、両プーリ間の推力比バランスが崩れる。この結果、両プーリ間のベルトの挟持力の差から、変速比の変動が発生する可能性がある。特に、油圧の変化量が大きい場合には、差がより顕著となる。
【0049】
プライマリ油圧室45とセカンダリ油圧室46との油圧に差が生じた場合は、変速比が変化し運転者に意図しない加減速感を与える場合がある。特に、ブレーキペダル63が大きく踏み込まれた場合は、減速度が大きく、ベルト挟持力を補正量Dまで素早く増大させる必要がある。このような場合は、油圧の変化量が大きくなることにより油圧の差が大きくなるので、変速比の変動幅も大きくなり、運転者へ与える違和感がより顕著となっていた。
【0050】
本実施形態では、上記のような従来の問題に対して、車両の減速時に油圧の変化量が大きくなることを抑制して、変速比の変化を生じさせないように、次のように構成した。
【0051】
図2Aは、後退走行レンジにおいてバリエータ4への入力トルクが負となったとき、補正量を増大する制御を示す。
【0052】
図2Aにおいて、入力トルクが負であり、後退走行レンジでブレーキペダルが踏み込まれる直前の状態における入力トルクが点aで示される。当該入力トルクに対してベルト44の滑りを防止するベルト挟持力を達成するために必要なプライマリプーリの推力が点bで示される。
【0053】
この後、ブレーキペダルが踏み込まれた場合は、バリエータ4に入力される負トルクは点cとなり、当該入力トルクに対してベルト44の滑りを防止するベルト挟持力を達成するために必要な推力が点dで示される。この点cは、ブレーキペダルの踏み込み量が最大である場合に対応する。
【0054】
このように、ブレーキペダルが踏み込まれることによる入力トルクの変動に対して、ベルト44の滑りを防止するベルト挟持力を達成するために必要な推力である点bと点dとの差分に対応する補正量Dだけ増大させる必要がある。
【0055】
しかしながら、ブレーキペダルが踏み込まれたときに補正量Dだけベルト挟持力を増大させると、前述のように油圧の変化量が大きくなることにより油圧の差が大きくなるので、変速比の変動幅も大きくなり、運転者へ与える違和感がより顕著となっていた。
【0056】
そこで、本実施形態では、運転者によりブレーキペダルが踏み込まれる(制動力要求が行なわれる)よりも前に、ベルト挟持力を増大したことによる変速比の変動幅が運転者に違和感とならない第2の補正量(D−Dk)を設定し、ブレーキペダルの踏み込み量が最大で踏み込まれたときに必要な補正量Dと第2の補正量(D−Dk)との差分である第1の補正量Dkを負側のトルクとした入力トルク(点e)を算出し、この入力トルクに対応する推力(点f)となるまで、ベルト挟持力を点bから点fまで、すなわち第1の補正量Dk分だけ増大させる。
【0057】
このように、制動力要求が行なわれることが予測される場合には、制動力要求が行なわれる前に、予め第1の補正量Dkにて増大させておくことにより、その後、ブレーキペダルが踏み込まれたときに必要な補正量Dとするためには、第2の補正量(D−Dk)だけの増大で済むため、ブレーキペダルが踏み込まれたときの増大量を小さくすることができる。これに対応するベルト挟持力の増大量は点fから点dとの差分となるため、油圧の変化量を小さくすることができ、これに伴う変速比の変動を抑制して、運転者に違和感を与えることを防止できる。補正量Dはブレーキペダルの踏み込み量が最大である場合に相当する補正量であって、例えば、最大よりも小さいブレーキ踏み込み量である場合は、ブレーキペダルの踏み込みにより補正量D分増大させる必要はなく(ベルト挟持力を点dまで増大させる必要はなく)、ブレーキペダルの踏み込み量に応じた補正量、例えば補正量Dより小さい値(例えば、点fと点dとの間)とする。
【0058】
図2Bは、後退走行レンジにおいてアクセルペダルが解放されたとき、補正量を増大する制御を示す。
【0059】
前述の
図2Aでは、バリエータ4への入力トルクが負となったときに第1の補正量Dkへと制御する例を説明した。一方で、このような制御では、例えば入力トルクが負となる前にブレーキペダルが踏み込まれた場合など、ブレーキON時に第1の補正量Dkとなるまで増大させることができない場合がある。そこで、
図2Bに示す例では、アクセルペダルが解放されたと同時に(入力トルクが負となる前に)第1の補正量Dkへと制御する例を示す。
【0060】
図2Bにおいて、後退走行レンジでアクセルペダルが解放される直前の状態における入力トルクは正トルクである。ここで、アクセルペダルが解放された場合、入力トルクが点gに対応する位置まで低下すると、点gにおける入力トルク(第1の補正量Dk)に対応する推力である点hとなるように、バリエータ4を制御する。その後、入力トルクが負となると、ベルト挟持力を増大したことによる変速比の変動幅が運転者に違和感とならない第2の補正量(D−Dk)を設定し、ブレーキペダルの踏み込み量が最大で踏み込まれたときに必要な補正量Dと第2の補正量(D−Dk)との差分である第1の補正量Dkを負側のトルクとした入力トルク(点k)を算出し、入力トルク(点k)に対応する推力(点l)となるまで、ベルト挟持力を点hから点lまで増大させる。
【0061】
この後、ブレーキペダルが踏み込まれた場合は、バリエータ4に入力される負トルクは点iとなり、当該入力トルクに対してベルト44の滑りを防止するためのベルト挟持力を達成するために必要な推力が点jで示され、ベルト挟持力を点iから点jまで増大させる。この点iは、ブレーキペダルの踏み込み量が最大である場合に対応する。
【0062】
このように、入力トルクが正トルクである場合には、制動力要求が行なわれる前、特にアクセルペダルが解放されたときに、予め第1の補正量Dkにて増大させてベルト挟持力を点hとしておくことにより、その後、入力トルクが正トルクである状態においてブレーキペダルが踏み込まれたとき、必要な補正量Dとするための補正量(点jまでの差分)が小さくなる。すなわち、入力トルクが正トルクである場合に予め第1の補正量Dkにて増大させていない場合、ブレーキペダルが踏み込まれると、点jと原点0との差分だけベルト挟持力を増大させる必要がある。一方、予め第1の補正量Dkにて増大させておくことで、ブレーキペダルが踏み込まれると、点jと点hとの差分だけベルト挟持力を増大させており、増大する補正量が小さくなる。従って、油圧の変化量を小さくすることができ、これに伴う変速比の変動を抑制して、運転者に違和感を与えることを防止できる。
【0063】
すなわち、
図2Bに示す例では、入力トルクが負となる前にブレーキペダルが踏み込まれた場合にも、第1の補正量Dkに対応する推力(点h)が設定されているため、ブレーキペダルの踏み込み量に応じた推力(ブレーキペダルの踏み込み量が最大である場合には点j)までの増大量が低減されるので、油圧の変化量を小さくすることができ、これに伴う変速比の変動を抑制して、運転者に違和感を与えることを防止できるのである。
【0064】
図3及び
図4は、本実施形態の、CVTコントロールユニット81が実行する制動時の制御のフローチャートである。
【0065】
図3は、走行中、アクセルペダルが解放されてからブレーキペダルが踏み込まれるまでの処理を、
図4は、ブレーキペダルが踏み込まれた場合の処理を、それぞれ示す。
【0066】
CVTコントロールユニット81は、
図3及び
図4に示す処理を、他の処理と並行して所定周期(例えば10ms毎)に実行する。
【0067】
まず、
図3に示す処理を説明する。CVTコントロールユニット81は、ステップS10において、インヒビタスイッチセンサ87からの信号を取得し、現在のレンジがRレンジ(後退レンジ)であるか否かを判定する。Rレンジであると判定した場合はステップS11に移行する。
【0068】
本実施形態では、前述のように、特にトルクが大きくなるRレンジの場合に、ベルト挟持力を増大する制御を実行する。Rレンジでないと判定した場合は、ベルトの挟持力の増大は行わないので、ステップS20に移行する。
【0069】
ステップS20では、後述するステップS16の処理により増大させられたベルト挟持力を、補正前の状態に戻す処理を行う。具体的には、増大させられたベルト挟持力から補正量分を減少させる。このとき、所定の勾配でベルト挟持力を減少させる。CVTコントロールユニット81は、変速油圧コントロールユニット7に、ベルト挟持力の減少を指示する。変速油圧コントロールユニット7は、指示に従って、プライマリ油圧及びセカンダリ油圧を制御する。このステップS20の処理後、本フローチャートによる処理を一旦終了して、他の処理に戻る。
【0070】
ステップS11において、CVTコントロールユニット81は、前後進切替機構3がロックアップ状態であるか、すなわち、後退ブレーキ32が締結状態であるか否かを判定する。前後進切替機構3がロックアップ状態であると判定した場合はステップS12に移行する。
【0071】
前後進切替機構3がロックアップ状態でない場合は、駆動輪6側からのトルクがバリエータ4に入力されるが、バリエータ4の上流側にある前後進切替機構3が解放状態又はスリップ状態であるため、バリエータ4に加わるねじれトルクは小さくなる。従って、前後進切替機構3がロックアップ状態でない場合は、ベルト挟持力の増大は必要ないため、ステップS20に移行する。
【0072】
ステップS12において、CVTコントロールユニット81は、アクセル開度が所定値A以下であるか否かを判定する。
【0073】
走行中に運転者がアクセルペダルを解放した場合は、車両の制動が予定されていると推定できる。CVTコントロールユニット81は、アクセル開度センサ85からの信号を取得して、アクセル開度が所定値A以下である場合に、アクセルペダルが解放されたことを判定する。所定位置Aは、アクセルペダルが解放されたと判断できる十分に小さなアクセル開度に相当する値に設定され、例えばゼロに設定される。
【0074】
アクセル開度が所定値A以下であると判定した場合は、ステップS13に移行する。アクセル開度が所定値Aよりも大きい場合は、車両は制動されないと判断され、ベルト挟持力の増大は必要ないので、ステップS20に移行する。
【0075】
ステップS13において、CVTコントロールユニット81は、駆動源からバリエータ4に入力される入力トルクの推定値(推定トルク)が、所定値B以下であるかを判定する。アクセルペダルが解放されてから、駆動源の出力トルクが低下するまでには応答に遅れがある。この応答の遅れを考慮して、推定トルクが所定値B以下となるまでは、ベルト挟持力の増大を行わない。
【0076】
推定トルクは、エンジンコントロールユニット84によるエンジン1への駆動指令及びモータコントロールユニット83による目標力行指令及び目標回生指令に基づいて推定される。所定値Bは、推定トルクの変動を考慮して次のように設定する。すなわち、
図6において、アクセル開度がゼロ(タイミングt02)になった以降に目標トルクが負となっても、減速走行中の推定トルクがゼロ付近となり、推定トルクがゼロを上回ったり下回ったりを繰り返したり、ゼロ付近の正の値を上下するすハンチングとなる場合がある。また、演算のバラツキにより推定トルクが正の値となる場合がある。このように、ハンチングや演算のバラツキが生じた場合における正の値よりも大きな値に所定値Bを設定しておくことにより、本制御が実行されない運転状態が発生することを防ぐことができる。
【0077】
推定トルクが所定値B以下であると判定した場合は、ステップS14に移行する。推定トルクが所定値Bよりも大きい場合は、推定トルクが十分に低下するまでベルト挟持力の増大を行わないので、ステップS20に移行する。
【0078】
ステップS14において、CVTコントロールユニット81は、駆動源の目標トルクが、所定値C以下であるかを判定する。
【0079】
ステップS13の判定において推定トルクが所定値B以下であっても、再度アクセルペダルが踏み込まれる等により目標トルクが大きくなった場合は、バリエータ4への入力トルクが増大する。このことを考慮して、目標トルクが所定値Cよりも大きい場合は、ベルト挟持力の増大を行わない。
【0080】
目標トルクは、エンジンコントロールユニット84によるエンジン1への駆動指令及びモータコントロールユニット83による目標力行指令及び目標回生指令に基づいて推定される。所定値Cは、駆動源の目標トルクが十分に小さいことが判定できる値に設定され、例えば所定値Bよりも小さな値に設定する。所定値Cはゼロとすることが望ましい。
【0081】
目標トルクが所定値C以下であると判定した場合は、ステップS15に移行する。目標トルクが所定値Cよりも大きい場合は、ベルト挟持力の増大を行わないので、ステップS20に移行する。
【0082】
ステップS15において、CVTコントロールユニット81は、ブレーキペダル63が踏み込まれていない、すなわち、ブレーキOFFであるか否かを判定する。CVTコントロールユニット81は、ブレーキセンサ64からの信号を取得して、ブレーキON又はOFFを判定する。
【0083】
ブレーキがONとなった場合は、以降に説明するベルト挟持力の増大の処理を行わず、ベルト挟持力を所定のブレーキON時の挟持力に設定するための
図4の処理が実行される。ブレーキOFFである場合は、ステップS16に移行する。
【0084】
ステップS16において、CVTコントロールユニット81は、ベルト挟持力を、所定の上昇率で第1の補正量Dkへと上昇を開始する。
【0085】
ステップS16における第1の補正量Dkは、ブレーキON時におけるベルト挟持力に必要な補正量Dに、係数k(0<k<1)を乗じることにより算出される。
【0086】
所定の上昇率及び係数kは、車両の運転状態に基づいて、運転者に違和感を与えない範囲で適宜設定される。すなわち、前述のようにブレーキON時に補正量Dとなるまで補正を行った場合に油圧の差が生じて変速比に変化が発生することを防ぐように、変速比の変化が生じない範囲で、上昇率及び係数kを決定する。後述する
図4の処理において、ブレーキONとなったときに第1の補正量Dkから補正量Dへと上昇させるときにも同様に、油圧の差が生じて変速比に変化が発生することを防ぐように、係数kを決定する。
【0087】
次に、ステップS17において、CVTコントロールユニット81は、セカンダリ油圧室46に供給されるセカンダリ油圧が、セカンダリ油圧室46に予め設定されている上限値となったか否かを判定する。セカンダリ油圧が上限値となったと判定した場合は、ステップS18に移行する。セカンダリ油圧が上限値に満たない場合は、本フローチャートによる処理を一旦終了し、他の処理に戻る。
【0088】
セカンダリ油圧は、セカンダリ油圧室46の強度限界等により上限値が設定されている。ベルト挟持力を増大するためにセカンダリ油圧を増大させた結果、セカンダリ油圧が上限値となった場合には、それ以上に油圧を上昇させることができない。
【0089】
このような場合は、セカンダリ油圧とプライマリ油圧との不均衡による変速比の変化を抑制するために、セカンダリ油圧の増大を禁止して、プライマリ油圧を、セカンダリ油圧の上限値に対応させて変化(低下)させる。
【0090】
図5は、本実施形態のセカンダリ油圧とプライマリ油圧との変化を示す説明図である。
【0091】
図5において、ベルト挟持力を増大するために、CVTコントロールユニット81は、第1の補正量Dkに対応させて、変速油圧コントロールユニット7からプライマリ油圧及びセカンダリ油圧を供給させる。
【0092】
ここで、タイミングt51において、セカンダリ油圧が、セカンダリ油圧室46に設定されている上限値に到達したとする。この場合は、ベルト挟持力を増大させるためのセカンダリ油圧をこれ以上上昇させることができない。上限値は、運転状態(車速、アクセル開度等)により変化する。
【0093】
この場合は、セカンダリ油圧は上限値を超えないように実線に示すように補正される。さらに、CVTコントロールユニット81は、プライマリ油圧を、セカンダリ油圧の上限値に対応させて、油圧に差が生じないように制御する。
【0094】
CVTコントロールユニット81がこのような制御を行うことにより、セカンダリ油圧室46に設定されている上限値を超えることなく、ベルト挟持力を増大させることができる。
【0095】
このとき、第1の補正量Dkに満たないことにより入力トルクに対してベルトの挟持力が不足する場合は、第2クラッチ(後退ブレーキ32)をスリップさせることにより、トルクを吸収させてもよい。
【0096】
ステップS18の処理の後、本フローチャートによる処理を一旦終了して、他の処理に戻る。
【0097】
次に、
図4に示す処理を説明する。CVTコントロールユニット81は、ステップS50において、インヒビタスイッチからの信号を取得し、現在のレンジがRレンジ(後退レンジ)であるか否かを判定する。Rレンジであると判定した場合はステップS51に移行する。Rレンジでないと判定した場合は、本フローチャートによる処理を一旦終了して、他の処理に戻る。
【0098】
ステップS51において、CVTコントロールユニット81は、ブレーキペダル63が踏み込まれ、ブレーキがONになったか否かを判定する。
【0099】
ブレーキがONとなった場合は、ベルト挟持力をブレーキON時の補正量D(
図2参照)に設定するため、ステップS52に移行する。ブレーキがONではない場合は、本フローチャートによる処理を一旦終了して、他の処理に戻る。
【0100】
ステップS52では、CVTコントロールユニット81は、ブレーキON時の補正量Dへとベルト挟持力を設定する。このとき、
図3のステップS16で設定された第1の補正量Dkによる挟持力と、ブレーキON時の補正量Dによるベルト挟持力とを比較し、いずれか大きい方の挟持力となるように設定する。
【0101】
CVTコントロールユニット81は、変速油圧コントロールユニット7に、設定されたベルト挟持力を指示する。変速油圧コントロールユニット7は、指示に従って、プライマリ油圧及びセカンダリ油圧を制御する。
【0102】
このように、本実施形態では、CVTコントロールユニット81が、
図3のステップS16において、ブレーキONにより制動力要求が行われる以前にベルト挟持力を所定値未満の範囲(第1の補正量Dk)で増大させ、
図4のステップS52において、制動力要求があった場合に、制動力要求に基づいてベルトのスリップを防止するためにベルト挟持力を所定値(補正量D)まで増大させる。
【0103】
ステップS52の処理の後、本フローチャートによる処理を一旦終了して、他の処理に戻る。
【0104】
以上のような処理によって、運転者による制動力要求(ブレーキON)が予定される場合は、制動力要求に先だってベルト挟持力を増大させるので、ブレーキONとなってからベルト挟持力を増大させる場合と比較して、プライマリ油圧及びセカンダリ油圧の変化量を小さく制御することができる。このような制御により、プライマリ油圧室45とセカンダリ油圧室46との油圧に差が生じることを防ぐことができるので、ブレーキON時の変速比の変化を防止でき、運転者に違和感を与えることを防止できる。
【0105】
図6は、本実施形態のCVTコントロールユニット81が実行する制御のタイムチャートである。
【0106】
図6に示すタイムチャートは、上段からアクセル開度[deg]、バリエータ4への入力トルク[Nm]、ブレーキペダル63の操作状態及び車両の減速に対応するベルト挟持力の増大分[Nm]がそれぞれ横軸を時間として示されている。目標トルクは実線で、推定トルクは一点鎖線でそれぞれ示される。
【0107】
図6において、アクセルペダルが踏み込まれ、車両が走行している状態からブレーキペダルが踏み込まれ、ベルト挟持力が増大されるまでの状態が示される。インヒビタスイッチはRレンジであるとする。
【0108】
ここで、運転者が減速を意図してアクセルペダルを解放したとき、
図3のステップS12−S14の判定が行われる。
図6の例では、タイミングt01でアクセル開度が所定値A以下となり、タイミングt02で目標トルクが所定値C以下となり、タイミングt03で推定トルクが所定値B以下となったことが判定される。
【0109】
これらの条件が満たされたタイミングt03で、
図3のステップS16の処理が実行される。CVTコントロールユニット81は、所定の上昇率で、第1の補正量Dkへと、ベルト挟持力の補正を開始する。
【0110】
その後、ブレーキペダルが踏み込まれた場合は、
図4のステップS50及びS51の条件が成立し、ステップS52の処理が実行される。この処理により、ベルト挟持力が第1の補正量DkからブレーキON時の補正量Dへと上昇させられる。
【0111】
このような制御により、ブレーキON時にベルト挟持力を補正量Dへと増大させる場合と比較して、増大量が第2の補正量(D−Dk)だけになるので、増大量を小さくすることができる。さらに、第1の補正量Dkまで増大させる際は、所定の上昇率で上昇させるため、第1の補正量Dkまで増大させる時間変化を小さくすることができる。
【0112】
図7は、本実施形態のCVTコントロールユニット81が実行する制御の別の例のタイムチャートである。
【0113】
図7に示すタイムチャートは、
図6と同様に、上段からアクセル開度[deg]、バリエータ4への入力トルク[Nm]、ブレーキペダル63の操作状態及び車両の減速に対応するベルト挟持力の増大分[Nm]がそれぞれ横軸を時間として示されている。目標トルクは実線で、推定トルクは一点鎖線でそれぞれ示される。
【0114】
図7において、
図6と同様にタイミングt01−t03まで制御が行われる。
【0115】
ここで、タイミングt14において、
図3のステップS10からS14のいずれかの判定が否定された場合を説明する。
図7に示す例では、前後進切替機構3の第2クラッチ(後退ブレーキ32)が解放され、ステップS11の判定が否定されたとする。第2クラッチが解放された場合は、駆動輪6側から入力されるトルクが前後進切替機構3において吸収されるため、ベルト挟持力の増大は必要ない。
【0116】
この場合は、
図3のステップS20の処理が実行される。具体的には、CVTコントロールユニット81は、所定の下降率で、第1の補正量Dkを解除する。すなわちベルト挟持力の補正量を0へと制御する。
【0117】
以降は、ブレーキONとなっても(タイミングt15)、ベルトの挟持力の増大は必要ないため、第1の補正量Dkの解除が継続され、補正が解除される。
【0118】
以上説明したように、本実施形態では、駆動源(エンジン1及びモータジェネレータ2)と駆動輪6との間に備えられ、プライマリプーリ42とセカンダリプーリ43との間に巻き掛けられたベルト44を備えるバリエータ4を備える。
【0119】
プライマリプーリ42、セカンダリプーリ43に供給される油圧を変更してベルト44の挟持力を制御する油圧制御部(CVTコントロールユニット81)と、を有する車両に適用される。
【0120】
CVTコントロールユニット81は、運転者からの制動力要求(ブレーキON)に基づいて、制動力によるベルト44のスリップを防止するための所定値(補正量D)まで、プライマリプーリ42及びセカンダリプーリ43によるベルト挟持力を増大させる。
【0121】
CVTコントロールユニット81は、制動力要求が行われることが予定される場合に、制動力要求が行われる前、例えばアクセルペダルが解放されてから、ブレーキペダル63が踏み込まれるまでの間に、ベルト挟持力を所定値未満の範囲(第1の補正値Dk(0<k<1))まで増大させる。
【0122】
このように構成することによって、運転者による制動力要求(ブレーキON)が予定される場合は、制動力要求に先だってベルト挟持力を所定値未満の範囲まで増大させるので、ブレーキONとなってからベルト挟持力を増大させる場合と比較して、プライマリ油圧及びセカンダリ油圧の変化量(第2の補正量(D−Dk)分)を小さくすることができる。このような制御により、プライマリ油圧室45とセカンダリ油圧室46との油圧に差が生じることを防ぐことができるので、ブレーキON時の変速比の変化を防止でき、運転者に違和感を与えることを防止できる。
【0123】
さらに、本実施形態では、CVTコントロールユニット81は、変速機に入力されるトルクが負となるときに、ベルト挟持力を所定値未満の範囲で増大させる。例えば、アクセルペダルが踏み込まれている状態から、アクセルペダルが解放されて、その後、ブレーキペダル63が踏み込まれた場合は、アクセルペダルが解放されたことに伴い、アクセルが完全開放状態となった時点よりも後にバリエータ4に入力されるトルクが正から負へと切り換わる。
【0124】
バリエータ4への入力トルクとベルト44の必要挟持力との関係において、入力トルクは、車両の重量等により正よりも負の方が変化が急である。このために、入力トルクが正であるうちに、例えば、アクセルペダルが解放されると同時に挟持力の増大を開始すると、入力トルクが正から負に切り換わると同時に、必要挟持力の増大割合が急激に大きくなるので、必要挟持力の増大に伴って変速比の変動が発生する可能性が高い。そこで本実施形態では、入力トルクが負へと切り換わるタイミングでベルト挟持力の増大を開始する。例えば、所定値Bを十分に大きな値(例えば
図6におけるタイミングt01よりも以前の推定トルクよりも大きな値)に設定しておき、アクセルペダルが解放されたことにより入力トルクが負へと切り換わるタイミングでベルト挟持力の増大を開始する。このように構成することにより、変速比の変動を防止できて、運転者に違和感を与えることを防止できる。
【0125】
さらに、本実施形態では、CVTコントロールユニット81は、バリエータ4への入力トルクが負から正へと切り換わるタイミングでベルト挟持力の増大を開始する形態に代えて、アクセルペダルが解放されたときに、制動力要求が予定されると判断して、ベルト挟持力の増大を開始させる形態であってもよい。例えば、所定値Cを十分に大きな値(例えば
図6におけるタイミングt01よりも以前の目標トルクよりも大きな値)に設定しておき、アクセルペダルが解放されたタイミングでベルト挟持力の増大を開始する。このように構成するこれにより、できるだけ早いタイミングで挟持力の増大を開始することができるため、アクセルペダルが解放されてから制動力要求が行われるまでの時間が短い場合であっても、ベルト挟持力を増大させておくことができるので、制動力要求が行われたときに必要となる挟持力の増大量を小さくすることができ、変速比の変化を防止でき、運転者に違和感を与えることを防止できる。
【0126】
さらに、本実施形態では、CVTコントロールユニット81は、アクセルペダルが解放されたときに、ベルト挟持力が規定の上限値以上である場合は、ベルト挟持力の増大を禁止する。
【0127】
ベルト挟持力を増大させる際に、セカンダリ油圧が上限値、例えばセカンダリ油圧室46の強度限界に近づいた場合は、セカンダリプーリ43の挟持力をこれ以上増大できない、又は、増大代が僅かとなる。このような場合に両プーリへの挟持力の増大を行うと、セカンダリプーリ43の挟持力の増大量に対して、プライマリプーリ42の挟持力の増大量が大きくなってしまい、意図しない変速が発生する。これを防ぐために、ベルト挟持力が規定の上限値以上である場合は、ベルト挟持力の増大を禁止することにより、変速比の変化を防止でき、運転者に違和感を与えることを防止できる。
【0128】
さらに、本実施形態では、CVTコントロールユニット81は、制動力要求が行われる前に、第1の補正量Dkでベルト挟持力を増大させておき、制動力要求が行われた場合に、第2の補正量(D−DK)でベルト挟持力を増大させる。第1の補正量Dkと第2の補正量(D−Dk)の和が所定値(補正量D)であって、第2の補正量(D−Dk)は、第2の補正量(D−Dk)によりベルト挟持力を増大させた場合にも、プライマリプーリ42とセカンダリプーリ43との油圧に差が発生しない範囲で設定される。
【0129】
このような制御により、プライマリ油圧室45とセカンダリ油圧室46との油圧の変化量を低減させることができて、油圧に差が生じることを防ぐことができるので、ブレーキON時の変速比の変化を防止でき、運転者に違和感を与えることを防止できる。
【0130】
さらに、本実施形態は、前後進切替機構3は、前進走行時の減速比が後退走行時の減速比よりも大きく構成される。このような構成である場合は、後退走行時に入力される負トルクが前後進切替機構の減速比により減速される。そこで、後退走行中は、減速比の差分に相当する分のベルト挟持力を増大させることができる。
【0131】
さらに、本実施形態では、前後進切替機構3は、駆動源の動力が入力されるサンギヤと、リングギヤと、サンギヤ及びリングギヤと噛み合うピニオンギヤを支持するキャリアと、締結状態によりサンギヤとキャリアとを一体回転可能に構成される前進クラッチ31と、締結状態によりリングギヤの回転を停止可能な後退ブレーキ32とを備える。CVTコントロールユニット81は、後退ブレーキ32が締結状態である場合に、制動力要求が行われることが予定される場合は、制動力要求が行われる以前に、ベルト挟持力を所定値未満の範囲で増大させる。
【0132】
このように構成された前後進切替機構3を備える場合は、後退走行時における制動力要求時、駆動輪6側からのトルクが、減速比により増速されて駆動源側に伝達されることとなる。すなわち、前後進切替機構3の上流側に配されるエンジン1及びモータジェネレータ2のイナーシャが過大となる。そこで、後退走行時は、制動力要求が行われたときのベルト44の滑りを防止するためにベルト挟持力を増大させる必要がある。そこで、このような前後進切替機構3を備える構成において、後退走行時に、ベルト挟持力を増大させる制御を行うことで、変速比の変動を防止できて、運転者に違和感を与えることを防止できる。
【0133】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0134】
上記実施形態では、エンジン1及びモータジェネレータ2を駆動源としたが、エンジン1のみの車両であってもよいし、モータジェネレータ2のみの電動車両であってもよい。
【0135】
上記実施形態では、前後進切替機構3を、バリエータ4の上流側、すなわち、バリエータ4と駆動源との間に配置したが、前後進切替機構3がバリエータ4の下流側、すなわち、バリエータ4と終減速機構5との間に配置される構成であってもよい。
【0136】
本願は、2015年3月23日に日本国特許庁に出願された特願2015−059509に基づく優先権を主張する。これらの出願のすべての内容は参照により本明細書に組み込まれる。