【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、検出される目的物質を含む検体を、毛細管現象によって輸液可能な複数の帯状展開媒体と、表疎水性シートと裏疎水性シートとの間に、少なくとも1枚の中間疎水性シートを挟み込んだ疎水性積層シート材とを備え、前記複数の帯状展開媒体には、それぞれの長さ方向の一端から他端に向かって、前記検体を滴下する検体滴下ゾーンと、前記目的物質を標識する標識試薬を含有した標識試薬ゾーンと、前記検体に含まれる目的物質を捕捉する捕捉物質を含有した検出ゾーンとが順番に配置されたシート状免疫学的検査具であって、前記中間疎水性シートには、その表裏面を貫通して、前記複数の帯状展開媒体を収納する複数の媒体収納孔が並列状態で形成され、前記表疎水性シートには、前記複数の帯状展開媒体の検体滴下ゾーンに前記検体を滴下するための複数の滴下用窓と、前記複数の帯状展開媒体の検出ゾーンを露出する複数の判定用窓とがそれぞれ離間して形成され、前記中間疎水性シートと前記裏疎水性シートとは、それぞれの対向領域の全域において接合され、前記複数の帯状展開媒体は、それぞれの長さ方向の一端から他端の向きを揃えて、対応する前記媒体収納孔に収納した状態で、前記裏疎水性シートの中間疎水性シート接合側の面に接合され、前記表疎水性シートと前記中間疎水性シートとは、前記複数の媒体収納孔を囲むように、それぞれの対向領域の外周部が接合されたシート状免疫学的検査具である。
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、検体を、各滴下用窓から各帯状展開媒体の一端部の検体滴下ゾーンに滴下し、これらの検体中の目的物質の検査を行う。各帯状展開媒体は毛細管現象によって輸液可能な構造を有している。そのため、検体滴下ゾーンに滴下された検体は帯状展開媒体の他端側に向かって輸液される。その途中、標識試薬ゾーンにおいて、検体中の目的物質と標識物質とが結合して複合体を形成し、検出ゾーンにおいて、検体中の複合体が捕捉物質により捕捉されるか否かを、判定用窓を通した標識物質の発色の有無により観察する。すなわち、この発色を視認できた場合、検体中に目的物質が存在する陽性と判定され、そうでない場合には陰性と判定される。
【0013】
また、表疎水性シートと中間疎水性シートとは、複数の媒体収納孔を囲むように、それぞれの対向領域の外周部の全体が接合されている。そのため、滴下された検体を各帯状展開媒体が吸収して膨潤しても、その膨潤時の力(帯状展開媒体が膨らむことで、両疎水性シートに作用する内圧)を原因として、表疎水性シートと中間疎水性シートとのあいだに隙間は現出しにくい。これにより、各帯状展開媒体をそれぞれの他端に向かって展開(移動)する各検体(目的物質)の移動速度は安定し、その結果、各検出ゾーンにおいて、全ての検体の検出結果を略同時に視認することができる。
仮に、表疎水性シートと中間疎水性シートとのあいだに隙間が現出すれば、一部の帯状展開媒体において、帯状展開媒体と、この展開媒体の外面に検体を介して接触する、媒体収納孔の形成壁を含む疎水性積層シート材の内壁面との間に、空気層が形成されてしまう。この空気層は、帯状展開媒体内での検体の移動を乱す外乱要因の1つとなるため、各帯状展開媒体に滴下された媒体の移動速度に差が生じる。その結果、各検出ゾーンで、全ての検体の検出結果を略同時に取得することは困難となる。
【0014】
また、シート状免疫学的検査具は、それぞれの媒体収納孔の裏疎水性シート接合側の開口(下側の開口)が、裏疎水性シートの中間疎水性シート接合側の面(表面、上面)に液密的に接合して封止されている。これは、中間疎水性シートと裏疎水性シートとが、それぞれの対向領域の全域で接合されているためである。
検査時、シート状免疫学的検査具は、裏疎水性シートを下方に向けて水平配置される。したがって、検体滴下ゾーンに検体を滴下し、その後、検体が帯状展開媒体の内部を展開しても、検体が各媒体収納孔の裏疎水性シート接合側の開口から疎水性積層シート材の内部空間に漏出しない。その結果、各帯状展開媒体に含まれた検体がこの内部空間で混ざり合わず、廉価で薄肉な検査具でありながら、複数の検体に含まれる目的物質を同時かつ正確に検査することができる。
【0015】
ここでいうシート状免疫学的検査具とは、抗原抗体反応を利用したイムノクロマト法によって、臨床検体を免疫学的に簡易検査するための器具(キット)である。免疫学的検査は、抗原検出系のものでも、抗体検出系のものでもよい。
検体としては、例えば、全血、血漿、血清などの血液や尿、唾液、関節液、骨髄液などの体液、さらには喀痰、咽頭や鼻腔の拭い液、肺洗浄液などを採用することができる。
検体中の目的物質(捕捉物質)としては、例えば抗原、抗体、ホルモン、ホルモンレセプター、レクチン、レクチン結合性糖質、薬物もしくはその代謝物、薬物レセプター、核酸およびこれらの断片などを採用することができる。具体的には、細菌、原生生物や真菌などの細胞、ウイルス、タンパク質、多糖類などが挙げられる。さらに具体的には、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、マイコプラズマニューモニエ、ロタウイルス、カルシウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルス、ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、肝炎ウイルスなどの各種ウイルスの他、大腸菌、スタフィロコッカスアウレウス、ストレプトコッカスニューモニエ、ストレプトコッカスピヨゲネス、マイコプラズマニューモニエ、マラリア原虫などの細胞、消化器系疾患、中枢神経系疾患、出血熱等の様々な疾患の病原体、病原体の代謝産物が挙げられる。
【0016】
表疎水性シート、中間疎水性シートおよび裏疎水性シートとしては、疎水性を有する各種のセルロース基材、例えば紙などを採用することができる。その他、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネートなどの各種のプラスチックでもよい。これらの疎水性シートは、同一素材の大判シートに折り目を入れて分割された1枚ものでも、異なる素材から構成された別体ものでもよい。
表疎水性シート、中間疎水性シートおよび裏疎水性シートの形状は任意である。例えば、矩形状を採用することができる。3つの部分シートは、両端の疎水性シートに比べ、中間の疎水性シートの方が短くした方が、疎水性積層シート材がコンパクトとなり、取り扱いが容易になる。表疎水性シート、中間疎水性シートおよび裏疎水性シートの厚さはそれぞれ任意であるものの、0.5〜3mmが取り扱い易い。
【0017】
これらの疎水性シートの接合方法としては、例えば、両面テープによる貼着、接着剤による接着、ホットメルトによる融着などを採用することができる。
また、ここでいう「表疎水性シートと中間疎水性シートとの対向領域」とは、表疎水性シートと中間疎水性シートとを重ね合わせた際、表疎水性シートの中間疎水性シート側の面と、中間疎水性シートの表疎水性シート側の面とが接触している部分(範囲)をいう。
ここでいう「中間疎水性シートと裏疎水性シートとの対向領域」とは、中間疎水性シートと裏疎水性シートとを重ね合わせた際、中間疎水性シートの裏疎水性シート側の面と、裏疎水性シートの中間疎水性シート側の面とが接触している部分(範囲)をいう。
【0018】
さらに、中間疎水性シートと裏疎水性シートとが接合される「中間疎水性シートと裏疎水性シートとの対向領域の全域」とは、両疎水性シートの中央部および外周部を含んだ対向領域の80%以上、好ましくは90%以上をいう。
このように、中間疎水性シートと裏疎水性シートとが、それぞれの対向領域の全域で接合されることで、それぞれの媒体収納孔の裏疎水性シート接合側の開口(下側の開口)が、裏疎水性シートの中間疎水性シート接合側の面(表面、上面)により封止される。ここで、「媒体収納孔の裏疎水性シート接合側の開口が封止される」とは、中間疎水性シートに穿孔して得られた媒体収納孔の2つの開口のうち、裏疎水性シートによって塞がれる側の開口を、裏疎水性シートとのあいだに隙間が現出しない液密な状態で接合(固着)することをいう。
また、ここでいう表疎水性シートと中間疎水性シートとが接合される「表疎水性シートと中間疎水性シートとの対向領域の外周部」とは、各媒体収納孔の全てを囲む領域でも、各媒体収納孔に共通する一部分を除いた残りを囲む領域でもよい。
【0019】
表疎水性シートには、各帯状展開媒体の検体滴下ゾーンとの対峙位置に複数の滴下用窓が形成されるとともに、各帯状展開媒体の検出ゾーンとの対峙位置に複数の判定用窓がそれぞれ形成されている。
各滴下用窓は、ピペットによる検体の滴下に支障がない形状およびサイズでなければならない。
また、各判定用窓は、検体検査の判定に支障がない形状およびサイズでなければならない。
中間疎水性シートの使用枚数は、1枚でも2枚以上でもよい。ただし、2枚以上の積層体の場合には、この積層体の表裏面を貫通して各媒体収納孔を形成する必要がある。これに伴い、各媒体収納孔に挿入される帯状展開媒体も、厚肉なものを採用することができる。
中間疎水性シートには、各帯状展開媒体を収納する複数の媒体収納孔が並列状態で形成されている。
ここでいう「複数の媒体収納孔が並列状態」とは、平面視して各媒体収納孔が長さ方向を平行にして並んでいる状態をいう。
各媒体収納孔の形状およびサイズは、対応する帯状展開媒体の形状およびサイズに応じて適宜変更される。媒体収納孔の深さは、帯状展開媒体の厚さと同一かそれより深い。
「中間疎水性シートの表裏面」とは、中間疎水性シートの表疎水性シートとの接合側の面(表面、上面)と、これとは反対側の裏疎水性シートとの接合側の面(裏面、下面)をいう。
【0020】
帯状展開媒体の素材としては、例えば、ニトロセルロース、プラスチック、濾紙など採用することができる。このうち、液体に対して湿潤性があり、添着された液体を実質的に吸収しないニトロセルロースが好ましい。この帯状展開媒体を担体として、検出ゾーンに抗体や抗原を固相化する。
帯状展開媒体の構成としては、例えば、検体滴下ゾーンに配置されるサンプルパッドと、標識試薬ゾーンに配置され、標識試薬が固定されたコンジュゲートパッドと、検出ゾーンに配置され、捕捉物質が固定されたニトロセルロース膜と、検出ゾーンより帯状展開媒体の他端側に配置される吸水紙とからなるものを採用することができる。この場合、検体滴下ゾーンでサンプルパッドに滴下された検体は、帯状展開媒体の他端に向かって展開され、標識試薬ゾーンのコンジュゲートパッドを通過中に目的物質が標識試薬と結合し、目的物質−標識試薬の複合体が形成される。その後、この複合体を含む検体は検出ゾーンに到達し、ここでニトロセルロース膜に固定された捕捉物質に複合体が捕捉されて、目的物質−標識試薬−捕捉物質の免疫複合体が形成される。また、捕捉後の使用済みの検体は濾紙などの吸水紙に吸水される。これにより、検体の帯状展開媒体内の逆流が防止される。
【0021】
帯状展開媒体の使用数は任意である。例えば、8連または12連のマルチチャンネルピペット(8連または12連マイクロチューブ用)に対応可能なように、裏疎水性シートの中間疎水性シート接合側の面(検査時の内面、上面)に、8個または12個の帯状展開媒体を、数mmまたは数cmピッチで各長さ方向を揃えた並列状態で配置してもよい。
検体滴下ゾーンは、帯状展開媒体の一端部に配置されて、例えばピペットにより検体が滴下される領域である。
標識試薬ゾーンは、帯状展開媒体の検体滴下ゾーンより他端側に配置され、標識試薬が固相化される領域である。
標識試薬としては、例えば、有色のラテックスや金属コロイド(金コロイド、銀コロイド、青銅コロイド、鉄コロイドなど)などの標識物質と、抗原または抗体とが結合した複合体を採用することができる。その他、蛍光物質や化学発光物質を標識物質としたものや、各種の酵素標識試薬を採用することができる。
【0022】
検出ゾーンは、帯状展開媒体の標識試薬ゾーンより他端側に配置されて、標識試薬ゾーンで得られた標識試薬と結合した目的物質を捕捉する捕捉物質が固相化される領域である。
捕捉物質は、検体中の目的物質に応じて適宜変更される。目的物質が抗体の場合には、その抗原が捕捉物質となる。また、その反対の場合もある。
検出ゾーンにおいて捕捉された免疫複合体の構造(捕捉物質−目的物質−標識試薬)としては、(1)固相抗体−検体中抗原−標識抗体、(2)固相抗原−検体中抗体−標識抗体、(3)固相抗原−検体中抗体−標識抗原が挙げられる。このようにサンドイッチ構造が形成された部分は、標識試薬中の金コロイドや着色ラテックスなどの標識物質により着色され、目視またはカメラ撮像機器を利用して目的物質の検出の有無などが判定される。
また、検出ゾーンには、検体中に目的物質が存在しない陰性の検査結果を確認するため、標識試薬を捕捉する別の捕捉物質を固相化してもよい。
【0023】
請求項2に記載の発明は、前記表疎水性シートと前記裏疎水性シートと前記中間疎水性シートとのうち少なくとも前記複数の帯状展開媒体と接する面はフッ素樹脂皮膜によりコーティングされた請求項1に記載のシート状免疫学的検査具である。
フッ素樹脂皮膜により表疎水性シートと裏疎水性シートと中間疎水性シートとのうち少なくとも複数の帯状展開媒体と接する面がコーティングされることにより、表面は界面活性剤が含まれた検体に対し撥水面となる。これにより滴下するサンプル中に一定濃度以上の界面活性剤が含まれる場合であっても、他のレーンにサンプル液が流れ込むことがなく、目的物質を同時かつ従来に比べてより正確に検査することができる。
【0024】
フッ素樹脂皮膜によるコーティング方法は、任意であり、液状のフッ素樹脂にシートを浸す方法、スプレーにて液状フッ素樹脂を疎水性積層シート材に噴霧する方法、フッ素樹脂を含んだスポンジにて疎水性積層シート材にフッ素樹脂を塗布する方法など、従来のコーティング方法を採用することができる。また、表疎水性シート、中間疎水性シートおよび裏疎水性シートにあらかじめフッ素樹脂をコーティングし、その後、これらの疎水性シートを接合する方法や、これらの疎水性シートの接合して疎水性積層シート材を作製した後に複数の媒体収納孔の複数の帯状展開媒体と接する面にのみフッ素樹脂をコーティングする方法が採用可能である。
【発明の効果】
【0025】
請求項1に記載の発明によれば、検体検査時、複数の検体を各滴下用窓から各帯状展開媒体の一端部の検体滴下ゾーンに滴下する。これにより、検体滴下ゾーンの検体は帯状展開媒体の他端側に向かって輸液される。その途中、標識試薬ゾーンにおいて検体中の目的物質と標識物質とが結合して複合体を形成し、検出ゾーンにおいて、検体中の複合体が捕捉物質により捕捉されるか否かを、判定用窓を通した標識物質の発色の有無で観察する。
【0026】
表疎水性シートと中間疎水性シートとは、複数の媒体収納孔を囲むように、それぞれの対向領域の外周部の全体が接合されている。そのため、滴下された検体を各帯状展開媒体が吸収して膨潤しても、その膨潤時の力(内圧)によって、表疎水性シートと中間疎水性シートとの間に隙間は現出しにくい。これにより、各帯状展開媒体をそれぞれの他端に向かって展開する各検体(目的物質)の移動速度は安定し、その結果、各検出ゾーンにおいて、全ての検体の検出結果を略同時に視認することができる。
仮に、表疎水性シートと中間疎水性シートとのあいだに隙間が現出すれば、一部の帯状展開媒体において、帯状展開媒体と、この展開媒体の外面に検体を介して接触する疎水性積層シート材(媒体収納孔の形成壁を含む)の内壁面との間に、検体の移動を乱す空気層が形成され、各帯状展開媒体を展開している各媒体の移動速度に差が生じ、各検出ゾーンでは、全ての検体の検出結果を略同時に取得することは困難となる。
【0027】
また、それぞれの媒体収納孔の裏疎水性シート接合側の開口(下側の開口)は、裏疎水性シートの中間疎水性シート接合側の面に液密的に接合することで、封止されている。これは、中間疎水性シートと裏疎水性シートとが、それぞれの対向領域の全域で接合されているためである。
検体検査時、シート状免疫学的検査具は、裏疎水性シートを下方に向けて水平配置される。したがって、検体滴下ゾーンに検体を滴下し、その後、検体が帯状展開媒体の内部を展開しても、検体が各媒体収納孔の裏疎水性シート接合側の開口から疎水性積層シート材の内部空間に漏出しない。その結果、各帯状展開媒体に含まれた検体がこの内部空間で混ざり合わず、廉価で薄肉な検査具でありながら、複数の検体に含まれる目的物質を同時かつ正確に検査することができる。
【0028】
請求項2に記載の発明によれば表疎水性シートと裏疎水性シートと中間疎水性シートとのうち少なくとも複数の帯状展開媒体と接する面がフッ素樹脂皮膜によりコーティングされることにより、表面は界面活性剤が含まれた検体に対し撥水面となる。これにより滴下するサンプル中に一定濃度以上の界面活性剤が含まれる場合であっても、他のレーンにサンプル液が流れ込むことがなく、目的物質を同時かつ従来に比べてより正確に検査することができる。