特許第6357631号(P6357631)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357631
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】椎体疾患用装具
(51)【国際特許分類】
   A61F 5/01 20060101AFI20180709BHJP
   A61F 5/02 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   A61F5/01 E
   A61F5/02 D
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-160387(P2014-160387)
(22)【出願日】2014年8月6日
(65)【公開番号】特開2016-36437(P2016-36437A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2017年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151380
【氏名又は名称】アルケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕之
【審査官】 山口 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−215246(JP,A)
【文献】 特開平10−286274(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0303956(US,A1)
【文献】 特開平08−206146(JP,A)
【文献】 特開2010−261118(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3164463(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 5/01
A61F 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者の背中を固定する背当て部と、
装着者の腰部を固定する腰当て部と、
装着者の胸部を固定する胸当て部と、
体幹への圧迫圧を調整可能な体幹圧迫ベルト部材と、を備え
前記体幹圧迫ベルト部材は、第一ベルト部材を含み、
前記第一ベルト部材は、一端が前記背当て部に連結され、装着者の肩部周辺あるいは胸部周辺を通り、第一ベルト経由部で折り返され、他端が係着体に取り付けられる椎体疾患用装具。
【請求項2】
前記第一ベルト部材は、前記背当て部から前記腰当て部の下腹部側にかけて配置される請求項1記載の椎体疾患用装具。
【請求項3】
前記体幹圧迫ベルト部材は、装着時に背当て部側から下腹部側に回り込む第二ベルト部材を含む請求項1又は2記載の椎体疾患用装具。
【請求項4】
前記体幹圧迫ベルト部材が通される第二ベルト経由部を有し、
前記第二ベルト部材は、前記第二ベルト経由部に通される請求項記載の椎体疾患用装具。
【請求項5】
前記体幹圧迫ベルト部材は、第一補助バンドを含み、
前記第一補助バンドは、前記背当て部に固定され、前記第一ベルト部材と共に前記第一ベルト経由部により束ねられる請求項1〜4の何れか1項記載の椎体疾患用装具。
【請求項6】
前記体幹圧迫ベルト部材は、第二補助バンドを含み、
前記第二補助バンドは、前記背当て部に固定され、前記第二ベルト部材と共に前記第二ベルト経由部により束ねられる請求項4又は5記載の椎体疾患用装具。
【請求項7】
前記第一ベルト部材は、装着時に外腹斜筋に沿って配置される請求項1〜6の何れか1項記載の椎体疾患用装具。
【請求項8】
前記腰当て部の下腹部側と前記胸当て部とにかけて設けられた、装着時に身体の前方に配置される腹部固定用部材を備える請求項1〜の何れか1項記載の椎体疾患用装具。
【請求項9】
前記背当て部に設けられた背中固定用部材を備える請求項1〜の何れか1項記載の椎体疾患用装具。
【請求項10】
前記背中固定用部材は、硬化性樹脂を基材に保持させ、背中の形状に合わせて成形可能なものである請求項記載の椎体疾患用装具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体に装着されて使用される椎体疾患用装具に関する。
【背景技術】
【0002】
所謂猫背や腰曲がりといった脊椎が弯曲する姿勢を続けると、脊椎を構成する椎体が変形、あるいは損傷してしまう。このように椎体が変形、あるいは損傷する疾患(以下、「椎体疾患」という)としては、椎体圧迫骨折及び側弯症などの脊椎変形症や、腰部脊柱管狭窄症並びに椎間板ヘルニア等が知られている。これらの椎体疾患のうち、特に椎体が後弯する疾患においては椎体が丸まり、上半身の姿勢が前屈みとなることから、体重が身体の前方にかかることになる。その結果、腹部が圧迫されて腹部内の圧力が高まり、これにより胃が胸部側に向けて押圧されてしまう。それ故、椎体が後弯する疾患を患うと、合併症として胃液が胃から食道へと逆流してしまう、所謂逆流性食道炎を併発するとの事象が広く知られている。この椎体疾患の合併症としては、心肺機能の低下等も認識されている。
また、青少年期の激しい運動の結果、椎体を損傷し、腰椎の椎体と椎弓が離れてしまった腰椎分離症や分離すべり症等が、椎体疾患として知られている。
【0003】
このような椎体疾患、及びこれにより発症する合併症の予防及び/又は治療としては、上半身の姿勢を矯正し、椎体変形あるいは損傷の予防及び/又は治療を行うことが通常であり、これを実現するため、上半身用の姿勢矯正用装具が案出されている。この種の姿勢矯正用装具として、特許文献1には、布地による背当て部と、該背当て部の下方の両側縁部にそれぞれ一端が結合されて他端の自由端部が装着者の腹部側に伸張可能な一対の腰バンドと、を備えるものが開示されている。一方、特許文献2には、本体でなる背面支持部と、この背面支持部の下端から水平方向に延びてアンダーバストの位置に回り込む本体ベルトと、前記背面支持部の上端から延出して身体前面に回り込み、下方に向かって延びる弾性伸縮性を備えた一対の補助ベルトと、を備えるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−218779号公報
【特許文献2】特開2010−104707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に開示された姿勢矯正用装具は、一対の腰バンド同士を連結することにより前記背当て部を緊張させ、身体の両肩を背部側に引張力を付与して、装着者の背筋を伸ばすことができるとされている。すなわち、特許文献1に開示された姿勢矯正用装具は、装着者の背中及び腰部を固定することで、上半身の姿勢の矯正を図っている。
【0006】
一方、特許文献2に開示された姿勢矯正用装具は、前記補助ベルトにより前記背面支持部を背中上部に押し付けて、弱った筋肉を補助して、前屈みの姿勢を防止するものとされている。また、前記補助ベルトが身体前面に回り込んでいることから、これにより装着者の両肩が前記背面支持部の方へと引っ張られる。その結果、身体の前面上部が引き起こされ、僧帽筋の負担を減らして、前屈みの姿勢を防止するものとされている。すなわち、特許文献2に開示された姿勢矯正用装具は、装着者の背中及び胸部を固定することで、上半身の姿勢の矯正を図っている。
【0007】
このように、特許文献1及び特許文献2に開示された装具では、装着者の背中及び胸部、又は背中及び腰部の二点を支持するものであり、腰椎から胸椎にいたる椎体を十分に支持することが困難と考えられる。
【0008】
そこで、本発明は、装着者の体幹を十分に支持し、適正な姿勢を保持させることで椎体の変形あるいは損傷を予防及び/又は治療することができる椎体疾患用装具を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、装着者の背中を固定する背当て部と、装着者の腰部を固定する腰当て部と、装着者の胸部を固定する胸当て部と、を備える椎体疾患用装具を提供する。
また、この椎体疾患用装具において、体幹への圧迫圧を調整可能な体幹圧迫ベルト部材を備えてもよい。
また、この椎体疾患用装具において、前記体幹圧迫ベルト部材は、前記背当て部から前記腰当て部の下腹部側にかけて配置される第一ベルト部材を含んでいてもよい。
更に、この椎体疾患用装具において、前記体幹圧迫ベルト部材が通される第一ベルト経由部を有し、前記第一ベルト部材は前記第一ベルト経由部に通されるようにしてもよい。
また、この椎体疾患用装具において、前記第一ベルト部材は、装着時に装着者の肩部周辺あるいは胸部周辺を通り前記第一ベルト経由部を介して折り返されていてもよい。
更に、この椎体疾患用装具において、前記体幹圧迫ベルト部材は、装着時に背当て部側から下腹部側に回り込む第二ベルト部材を含んでいてもよい。
また、この椎体疾患用装具において、前記体幹圧迫ベルト部材が通される第二ベルト経由部を有し、前記第二ベルト部材は前記第二ベルト経由部に通されるようにしてもよい。
更に、この椎体疾患用装具において、前記体幹圧迫ベルト部材は、前記背当て部に固定される第三ベルト部材を含んでいてもよい。
また、この椎体疾患用装具において、前記第三ベルト部材は、前記第一ベルト部材と共に前記第一ベルト経由部に通されるようにしてもよい。
更に、この椎体疾患用装具において、前記第三ベルト部材は、前記第二ベルト部材と共に前記第二ベルト経由部に通されるようにしてもよい。
また、この椎体疾患用装具において、前記第一ベルト部材は、装着時に外腹斜筋に沿って配置されるようにしてもよい。
更に、この椎体疾患用装具において、前記腰当て部の下腹部側と前記胸当て部とにかけて設けられた、装着時に身体の前方に配置される腹部固定用部材を備えていてもよい。
また、この椎体疾患用装具において、前記背当て部に設けられた背中固定用部材を備えていてもよい。
更に、この椎体疾患用装具において、前記背中固定用部材は、硬化性樹脂を基材に保持させ、背中の形状に合わせて成形可能なものであってもよい。
【0010】
本発明において、「背中」とは、両肩甲骨下縁から腰に至るまでの背面を指し、「腰部」とは、肋骨下縁から腸骨に至るまでの体軸(身長方向)に沿った体部であり、所謂側腹(脇腹)、上腹部及び下腹部を含むものを指し、「胸部」とは、鎖骨近傍から肋骨下縁に至るまでの体軸に沿った体部であり、肋骨周囲を指す。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、椎体の変形あるいは損傷を予防及び/又は治療することができる椎体疾患用装具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第一実施形態に係る椎体疾患用装具を示す模式図であり、背面側からみた図である。
図2図1に係る椎体疾患用装具を示す模式図であり、正面側からみた図である。
図3図1に示す椎体疾患用装具を装着した状態を示す正面図である。
図4図1に示す椎体疾患用装具を装着した状態を側面から観察した斜視面図である。
図5図1に示す椎体疾患用装具を装着した状態を示す背面図である。
図6】本発明の第二実施形態に係る椎体疾患用装具を示す模式図であり、背面側からみた図である。
図7図6に係る椎体疾患用装具を示す模式図であり、正面側からみた図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0014】
〈第一実施形態〉
図1及び図2は、本発明の第一実施形態に係る椎体疾患用装具1を示す図であり、図1は当該椎体疾患用装具1を装着者の後方側から観察した背面図である一方、図2は当該椎体疾患用装具1における装着者との対向面を示す正面図である。更に、図3乃至図5は、図1に示す椎体疾患用装具1の装着状態を示す。図3は、装着者の正面図、図4は装着者の側面斜視図、図5は装着者の背面図である。尚、以下の説明において、説明の便宜上、椎体疾患用装具を単に、「装具」ともいう。
【0015】
前記装具1は、装着状態において装着者の両肩甲骨下縁から腰にかけて覆う背当て部2と、この背当て部2における腰部側の両側縁に連結され、略水平方向に延びる一対の腰当て部3と、前記背当て部2の肩甲骨側の両側縁に連結され、前記一対の腰当て部3と略平行に設けられる一対の胸当て部4と、を備える。すなわち、装着者の背中を固定する背当て部と、該背当て部に繋がり、装着時に背当て部側から下腹部側に回り込んで腰部を固定する腰当て部と、前記背当て部に繋がり、装着時に背当て部側から胸部側に回り込んで胸部を固定する胸当て部と、を備える椎体疾患用装具である。
【0016】
前記背当て部2は、人体の両肩甲骨下縁から腰までを覆い得るだけの長さを有する。また、この背当て部2は、天然繊維や化学繊維よりなる織布、編布、不織布、パイル生地、あるいはプラスチックフォームなどを単独又は任意に選択組合せて形成される。具体的な素材としては、例えば綿、ウール、レーヨン、アクリル、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ナイロン、ポリプロピレン、塩化ビニリデン等の繊維を適宜組み合わせてなる、横編み布の天竺、経編み布のジャージ生地、パワーネットのような弾性糸混紡編物、ダブルラッセル生地の立体編物等がある。さらに、これらの生地とゴム発泡体(クロロプレン、天然ゴム、ブチルゴム、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム等)、ウレタン発泡体(圧縮ウレタン)等のフォーム材料を積層した複合材料を用いることができる。
【0017】
更に図2に示すように、前記背当て部2において、装着者の背中と対向する正面の略中央には、装着者の背中を保護する緩衝体21が内蔵されている。この緩衝体21は例えば連続気泡発泡体や不織布などの繊維状材料で形成したものであり、装着状態において装着者の脊椎及びその近傍を覆い得るだけの幅を有する。この緩衝体21により、凹凸のある椎体部位に対する背当て部のフィット性を高め、本発明にかかる装具を長時間着用した場合でも、装着者の違和感や物理刺激を軽減することが可能となっている。
【0018】
また、前記背当て部2には、装着者の背中を支持するための背中固定用部材2a(図示外)が内蔵されている。この背中固定用部材2aは、編布等の繊維材料を複数層積層させた基材に硬化性樹脂を保持させたものである。硬化性樹脂としては、水硬化性樹脂や光硬化性樹等を用いることができる。水硬化性樹脂としては、例えば、特開2000−189449号公報に開示されるような、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーと触媒、その他の添加物からなるポリウレタンプレポリマー組成物が好適に用いられる。光硬化性樹脂としては、例えば、国際公開番号WO2006/090605に記載されるようなウレタン(メタ)アクリレート樹脂が好適に用いられる。また、前記基材としては、編布、織布、不織布等の繊維材料が好ましいが、発砲ビーズなどの粒状体、フォーム材などを用いてもよい。
【0019】
このような背中固定用部材2aによれば、前記基材に保持された硬化性樹脂に対して硬化剤を添加することにより背中固定用部材2a全体が硬化するようになっている。これにより、前記背当て部2は個体差がある装着者の背中の形状に適した形状へと成形されるようになっている。尚、前記背中固定用部材2aの素材は硬化性樹脂を保持するものであるが、この背中固定用部材2aの素材はこれに限られず、例えばポリプロピレン製の樹脂を採用してもよい。また、背中固定用部材2aとして、金属製板部材を採用してもよい。
【0020】
図1及び図2に示すように、前記背当て部2には、装着者の両肩に掛け回される肩当て部5が含まれる。この肩当て部5は、装着者の胸椎上部から頸椎その近傍を覆い得るように形成された肩当て部本体51と、この肩当て部本体51に連結されると共に装着者の両肩に掛けられる一対の肩ベルト部材52と、を備える。
【0021】
前記肩当て部本体51は、脱着手段53を介して前記背当て部2の上方外縁に設けられる。前記脱着手段53としては、例えば、汎用の線ファスナーを用いることができる。ただし、この脱着手段53は、前記背当て部2に対して肩当て部本体51が着脱自在となれば、これに限定されることなく、面ファスナー等を採用してもよい。
【0022】
一方、各肩ベルト部材52は帯状に形成され、一端が肩当て部本体51の自由端側に連結される一方、他端は該肩ベルト部材52を前記腰当て部3に係合させるための係着体55に挿入される。このように形成された各肩ベルト部材52は第一ベルト経由部としての第一リング部材22に通され、この第一リング部材22を介して折り返され、屈曲している。前記第一リング部材22は、例えば肩ベルト部材52が挿通される長孔を有して輪状に形成されている。このような第一リング部材22は、例えば、装着時において装着者の肩甲骨近傍に対応して前記背当て部2の背面に配置される。すなわち、各肩ベルト部材52は装着時において、装着者の肩甲骨近傍にて折り返されるようになっている。また、各肩ベルト部材52は前記第一リング部材22に挿入されることでループ状をなし、このループ内に装着者の肩を通すことが可能となっている。尚、第一実施形態に係る装具1において、前記第一リング部材22は後述する補助バンド24が通されているだけでどの部材にも固定されていないが、前記背当て部2の背面に直接固定されていてもよい。
【0023】
また、各肩ベルト部材52は、長さ調整機構により、長さを調整できるようにしておくと、装着者の体格に合わせた装具のサイズ展開幅を減らすことができるため、製造コストの観点から好ましいだけでなく、装具が装着者によりフィットし易くなり、好ましい。このような機能を実現する長さ調整機構としては、バックル機構を配置した構成や、前記肩ベルト部材52を複数に分割し、分割した肩ベルト部材52同士を係着可能とする構成等が挙げられる。中でも、肩ベルト部材52を短い部材と長い部材に2分割可能な構成にする構成が簡便である。この場合、肩ベルト部材52の分割した一方を、肩当て部本体51の自由端側に連結される短い肩ベルト部材とし、他方は、面ファスナー等の着脱手段で短い肩ベルト部材と連結可能な長い肩ベルト部材として、短い肩ベルト部材と長い肩ベルト部材の係着位置を調整することで、肩ベルト部材全体の長さを調整することが可能となる。
さらに、各肩ベルト部材52には、肩保護部54を設けることができる。この肩保護部54は肉厚で軟質な部材からなり、装着状態において装着者の肩部の前面を覆い得るように配置され、装着者の褥瘡の防止や、装着感を向上させる効果がある。尚、この肩保護部54の構成は必ずしも設ける必要はないが、前記効果を考慮すれば、設けるほうがよい。
【0024】
一方図1に示すように、前記係着体55は装具1全体で二つ設けられる。各係着体55は全体略半円状に形成され、二重構造をなして袋状に形成されている。前述の如く、前記肩ベルト部材52の一端は前記係着体55の内部に収容されるところ、この係着体55に対して着脱自在に取り付けられる。これを可能とする手段としては例えば面ファスナーを採用することができる。また、この係着体55の裏面はフック状に起毛された部材であり、前記腰当て部3に係合するようになっている。この前記肩ベルト部材52を前記係着体55の内部に収容するために取り付ける面ファスナー等の構成を、前記肩ベルト部材52に固定するのではなく、前記肩ベルト部材52と着脱自在な係着手段にする構成等によっても、上述したような前記肩ベルト部材52の長さ調整が可能になる。このような構成において、前記肩ベルト部材52をフレンチパイル等の起毛素材で構成し、着脱可能な係着手段の一方のループ部分が肩ベルト部材52に係着するようにすると、部品点数が削減でき、製造コスト等の面から好ましい。
【0025】
このように形成された各係着体55には、第一実施形態に係る装具1の固定力を補うための腰ベルト部材56も挿入されるようになっている。前述の如く、前記係着体55は装具1全体で二つ設けられていることから、この腰ベルト部材56も装具1全体で二つ設けられる。また、各腰ベルト部材56は帯状に形成され、その一端は面ファスナー等を介して前記係着体55に着脱自在に取り付けられ、他端は前記腰当て部3の固定端の側縁に固定されている。また、各腰ベルト部材56は第二リング経由部としての第二リング部材23に通され、各腰ベルト部材56は第二リング部材23を介して折り返され、屈曲している。この第二リング部材23は前記第一リング部材22と同様の構造をなしている。
【0026】
尚、ここでは係着体55を介して肩ベルト部材52及び腰ベルト部材56が一体となるように構成されているが、係着体55を介さず、肩ベルト部材52及び腰ベルト部材56を一体化できるよう構成してもよい。このように構成する手段としては、例えば肩ベルト部材52及び腰ベルト部材56の自由端に面ファスナーを設ける等がある。また、前記腰ベルト部材56も肩ベルト部材52と同様に、長さ調整機構を備えていてもよい。更に、第一実施形態に係る装具1において、前記第二リング部材23は後述する補助バンド24が通されているだけでどの部材にも固定されていないが、前記背当て部2の背面に直接固定されていてもよい。
【0027】
一方、図1に示すように、前記背当て部2の背面には、装具1の固定力を補う補助バンド24が固定されている。この補助バンド24は、前記背当て部2の肩甲骨側に設けられる上方補助バンド24aと、前記背当て部2の腰部側に設けられる下方補助バンド24bと、を備える。前記上方補助バンド24aは帯状に形成され、前記肩ベルト部材52と共に前記第一リング部材22に通されている。すなわち、前記上方補助バンド24aと肩ベルト部材52は前記第一リング部材22により束ねられている。この第一リング部材22により、上方補助バンド24aは肩甲骨の下辺縁周辺にて折り返されている。そして、この上方補助バンド24aの一端は背当て部2の略中央部であって、装着者の胸椎周辺に対応する肩甲骨側の端部に固定されている。前記上方補助バンド24aの他端は装着者の体軸に沿って一端に対して変位した位置に、且つ、背当て部2の略中央部であって装着者の胸椎周辺に対応して固定されている。その結果、前記上方補助バンド24aは前記背当て部2に対して略V字状に設けられ、装着者の広背筋と対向する位置に設けられる。このように形成された上方補助バンド24aは装具全体で一対設けられ、一対の上方補助バンド24aは装着者の体軸を軸線として左右対称となるように前記背当て部2に設けられている。
【0028】
一方、前記下方補助バンド24bは帯状に形成され、前記腰ベルト部材56と共に前記第二リング部材23に通されている。すなわち、前記下方補助バンド24bと腰ベルト部材56は第二リング部材23により束ねられている。この第二リング部材23により前記下方補助バンド24bは折り返されて屈曲し、該下方補助バンド24bの一端は前記上方補助バンド24aの他端と隣接するようにして背当て部2の略中央部であって装着者の胸椎周辺に対応して固定されている。該下方補助バンド24bの他端は、背当て部2に係る腰部側の端部の外側縁に固定されている。これにより下方補助バンド24bは背当て部2の腰部と対向する位置に設けられている。このように形成された下方補助バンド24bは装具全体で一対設けられ、一対の下方補助バンド24bは装着者の体軸を軸線として左右対称となるように前記背当て部2に設けられている。
【0029】
以上のように、前記第一リング部材22に対して共に挿通される前記肩ベルト部材52と上方補助バンド24a、前記第二リング部材23に対して共に挿通される前記腰ベルト部材56と下方補助バンド24bは、互いに協働して装着者の体幹に対する圧迫圧の調整に寄与し、体幹圧迫ベルト部材6を構成している。この体幹圧迫ベルト部材6を構成する肩ベルト部材52、腰ベルト部材56及び補助バンド24の素材は伸縮性であっても、非伸縮性であってもよいが、装着者の体幹への圧迫力を調整し、これをもって姿勢の固定を行う観点から、装着時に適度な力で操作でき、また体幹圧迫ベルト部材6が伸びすぎて圧迫圧の調整に困難をきたさずに体幹圧迫ベルト部材6を操作できるよう、非伸縮性素材を用いるのがよい。また、非伸縮性の素材であるほうが、体幹圧迫ベルト部材6のダレ等の機能の劣化が遅く、耐久性が高まるため好ましい。また、このように構成される体幹圧迫ベルト部材6において、前記補助バンド24は装具1全体の固定力を補う部材であることから必ずしも必須の構成ではないが、装具の固定力向上の観点からすれば、この補助バンド24を設けるほうがよい。更に、前記肩ベルト部材52、腰ベルト部材56及び補助バンド24の素材は、部材間で異なるものとしてもよく、例えば肩ベルト部材52及び腰ベルト部材56の素材は非伸縮性のもの、補助バンド24の素材は伸縮性のものを用いてもよい。但し、各部材24、52、56の素材を同一とした方が製造コストを抑えることができる。
【0030】
次に、前記腰当て部3について説明する。第一実施形態に係る装具1において、前記腰当て部3は、前記背当て部2の腰部側の両側縁に一対固定され、該背当て部2に対して略水平方向に延びるようにして形成される。各腰当て部3a,3bは帯状に形成され、装着時には前記背当て部2から装着者の側腹部及び下腹部までを覆い得るように形成される。これら腰当て部3a,3bは、伸縮性素材を使用して伸長率を調整したものを用いることができる。具体的な材料としては、ポリウレタン等の弾性糸を入れた伸縮性織りベルト、ポリウレタン、スチレン・イソプレン・スチレン等の不織布、ポリウレタン、合成ゴム(スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリルゴム、シリコンゴム等)、天然ゴム等のゴム弾性体等も使用することができる。なお、腰当て部3a,3bに非伸縮性の生地を用いる場合には、綿、アクリル、ポリエステル、ポリアミドなどを使用することができる。また、これら腰当て部3a,3bにより装着者の腰部をより確実に支持するとの観点からすると、これら腰当て部3a,3bに関しても背中固定用部材2aと同様の構成を配してもよい。
【0031】
また図2に示すように、装着者の背中と対向する腰当て部3bの正面には、第一係着部31が設けられる。この第一係着部31は、腰当て部3bの自由端側の端部に形成され、該腰当て部3bの正面に固定されている。尚、第一実施形態に係る装具1では、前記第一係着部31が腰当て部3bに設けられているが、前記腰当て部3aに設けられてもよい。一方で図1に示すように、前記腰当て部3a及び腰当て部3bの背面には、第二係着部32が形成されている。
【0032】
これら第一係着部31及び第二係着部32は、例えば、汎用の面ファスナーやいわゆるメカニカルファスナーやインターロック等を取り付けて構成できる。あるいは、それ自体面ファスナー等の性質を有する布地により腰当て部3a又は腰当て部3bの正面や背面を構成し、係着部としてもよい。例えば、外面布地をポリアミド、ポリエステル、塩化ビニリデン等の素材でパイル状とすることで面ファスナーとして利用できる。ここでは、係着部として面ファスナーを採用し、第一係着部31としては、フック状に起毛された部材を配し、第二係着部32としては、面ファスナーのループ状に起毛された部材を配する場合を例に説明する。ただし、係着部31,32は、面ファスナーに限定されない。フック状に起毛された部材である前記係着体55は、前記腰当て部3a及び腰当て部3bの第二係着部32に係合するようになっている。
【0033】
次に、前記胸当て部4について説明する。この胸当て部4は、前記腰当て部3aに対して略平行に配置される第一胸当て部4aと、前記腰当て部3bに対して略平行に配置される第二胸当て部4bと、を備える。第一胸当て部4aは、装着時において前記背当て部2から装着者の胸部を覆い得る帯状に形成される。また、これら胸当て部4a,4bは腰当て部3a,3bと同様、伸縮性素材を使用して伸長率を調整したものを用いることができる。
【0034】
更に図1に示すように、第一胸当て部4aの背面には、第一係着部41及び第二係着部42が設けられる。これら第一係着部41及び第二係着部42は、前記第一係着部31及び第二係着部32と同様の構成を採用することができ、第一実施形態ではこれら第一係着部41及び第二係着部42に面ファスナーを適用した例を説明する。すなわち、前記第一係着部41は、前記第一胸当て部4aの自由端側の端部に配置され、前記腰当て部3aに形成された第一係着部31と同様にフック状に起毛された部材である。これに対し、前記第二係着部42は前記第一係着部41に隣接して設けられ、前記腰当て部3に形成された第二係着部32と同様にループ状に起毛された部材である。その一方で、前記第二胸当て部4bの背面には前記第一胸当て部4aが挿通される固着リング43が固定されている。この固着リング43は、例えば前記第一胸当て部4aが挿通される長孔を有して輪状に形成されている。
【0035】
第一実施形態に係る装具1を装着するためには、各肩ベルト部材52が形成するループに左右の腕を入れ、両肩ベルト部材52を左右の肩に掛ける。これにより、前記背当て部2を背中で負う状態とする。次に、腰当て部3a及び腰当て部3bの両端を持ち、腰部を締め付けるように力を加えながらこれら腰当て部3a及び腰当て部3bが下腹部に回り込むように牽引する。そして最後に、装着者の下腹部の前面にて第一係着部31を第二係着部32に係合させる。これにより、装着者の腰部が締め付けられる。
【0036】
更に、前記肩ベルト部材52及び腰ベルト部材56が収納された状態の両係着体55を持ち、肩ベルト部材52及び腰ベルト部材56を引っ張り、最後に各係着体55を各腰当て部3の第二係着部32を係合させる。ここで、前述の如く、各第一リング部材22は装着時において装着者の肩甲骨近傍に対応して配置される。このため、各係着体55を腰当て部3の下腹部側に係合させることで、各肩ベルト部材52は装着者の背面上方から前面下方に向けて傾斜しながら装着者の胴体に掛け回される。各肩ベルト部材52の傾斜方向は装着者の外腹斜筋の筋繊維の方向と略合致するようになっている。これにより、装着者の側腹部が締め付けられる。また、前記肩ベルト部材52は前記肩当て部5の一部を構成していることから、両係着体55の操作により装着者の両肩部も締め付けられる。
更には、前記腰ベルト部材56が前記背当て部2から下腹部側にかけて回り込み、装着者の腰部及び側腹部が締め付けられる。
【0037】
次に、前記第一胸当て部4aと第二胸当て部4bを持ち、装着者の胸部を締め付けるように力を加えながら第一胸当て部4aが装着者の胸部を回り込むようして牽引する。その後、第一胸当て部4aを第二胸当て部4bに設けられた固着リング43に挿通させ、更にこの固着リング43を介して第一胸当て部4aを折り返す。続いて該第一胸当て部4aの第一係着部41をかかる第一胸当て部4aに形成された第二係着部42に係合させる。これにより装着者の胸部が締め付けられる。ここで第一実施形態に係る装具1では、前記胸当て部4の装着操作完了後、この胸当て部4が装着者の肋骨下縁近傍(アンダーバスト)を締め付けるようになっている。そして、この胸当て部4の固定により、装具1の装着操作が完了する。
【0038】
尚、第一実施形態に係る装具1において、以上の装着操作に関する説明では、腰当て部3、引き続いて係着体55に収容された肩ベルト部材52及び腰ベルト部材56、胸当て部4の順に操作する説明をしたが、腰当て部3と引き続く係着体55に収容された肩ベルト部材52及び腰ベルト部材56に先んじて胸当て部4を操作するようにしてもよい。また、第一実施形態に係る装具1において、前記胸当て部4を装着する際には、第一胸当て部4aを第二胸当て部4bに設けられた固着リング43に挿通させ、その後に第一胸当て部4aにおける第一係着部41と第二係着部42とを係合させる構成を採用している。しかし、胸当て部4の装着方法はこれに限らず、例えば、前記腰当て部3のように、第一係着部41を第一胸当て部4aに設ける一方、第二係着部42を第二胸当て部4bに設けるようにしてもよい。かかる場合には、第一胸当て部4aと第二胸当て部4bが略同一の形状とすることが可能になり、装具1の製造コストを抑えることに繋がる。
【0039】
以上のように構成された装具1によれば、前記背当て部2により装着者の背中が、前記腰当て部3によりその腰部が、前記胸当て部4によりその胸部が締め付けられ、装着者の背中、腰部及び胸部を含む体幹が一体的に固定される。これにより各部位の圧を高めて装着者の上半身の全体的動きを規制することが可能となる。それ故、脊椎に作用する負担を軽減して椎体が変形あるいは損傷するのを可及的に防止できる。その結果、椎体疾患に起因した合併症の予防及び/又は治療を行うことができ得る。
【0040】
また、第一実施形態に係る装具1によれば、椎体が変形するのを可及的に防止することができることから、椎体の変形により発症する椎体圧迫骨折及び側弯症,後湾症,前弯症などの脊椎変形症及び腰部脊柱管狭窄症並びに椎間板ヘルニア等の予防及び/又は治療に適用することが可能である。ここで、脊椎変形症の術後において、患者に対して装具を着用して術後回復を図ることが通常であり、第一実施形態に係る装具1は各種脊椎変形症手術後の患者にも適用することができる。更に、高頻度転倒者が適用することにより、歩行時のふらつき等も抑制することができるため、運動器不安定症の予防及び/又は治療に適用することも可能である。
【0041】
更に、第一実施形態に係る装具1によれば、装着者の背中、腰部及び胸部を含む体幹を一体的に固定することができるため、装着者の前傾姿勢を抑制しやすく構成されている。このため、第一実施形態に係る装具1は、装着者の前傾姿勢により発症する椎体圧迫骨折の予防及び/又は治療により適している。ここで、装着者の背中、腰部及び胸部を含む体幹を一体的に固定するとの観点からすれば、前記腰当て部3が前記背当て部2に繋がり、装着時に背当て部2側から下腹部側に回り込んで腰部を固定するものであり、前記胸当て部4が前記背当て部2に繋がり、装着時に背当て部2側から胸部側に回り込んで胸部を固定するものであるほうがよい。このように背中固定用部材2aを内蔵した背当て部2に、腰当て部3及び胸当て部4が繋がっていることによって、腰当て部3及び胸当て部4ともに装着時に装着者の前方に回り込んでそれぞれ腰部及び胸部を固定した場合に、硬質な背中固定用部材2aによる姿勢制御をすることができ、装着者の前傾姿勢をより強固に抑制できる。
【0042】
更に、前記装具1によれば、装着状態において、肩ベルト部材52は、肩当て部本体51の自由端を始点として、胸部の上方を通り、背当て部2に設けられた第一リング部材23で折り返され、再び体正面の各腰当て部3の第二係着部32に係合される。このため、肩ベルト部材52を引っ張ると、背中および胸部に該肩ベルト部材52を介して力が作用する、すなわち、広背筋を収縮させて背筋を伸ばすよう力が作用する。この作用によって姿勢をより正しく矯正することができ、更には装着者が前傾姿勢をとることを抑制することが可能となる。また、各肩ベルト部材52は前記肩当て部本体51の自由端を始点として、第一リング部材23で折り返され、装着者の外腹斜筋に沿って配置される。ここで、外腹斜筋とは、体幹を前屈させたり、側屈させる際に身体の動きを補助するために機能する筋肉であり、更には体幹を旋回させる際にも身体の動きを補助するものである。すなわち、外腹斜筋は身体の上半身の姿勢を変化させる際に必須の筋肉である。このため、係着体55の装着操作より外腹斜筋が身体外部から押圧されることで、装着者の上半身の動きを確実に抑制することが可能となる。更に、前記肩ベルト部材52が非伸縮性素材からなる場合には、該肩ベルト部材52の牽引程度に応じて装着者の側腹部の締め付け力を調整することができる。それ故、肩ベルト部材52を強く引っ張れば引っ張る分だけ体幹に作用する圧力を高めることができる。すなわち、前記肩ベルト部材52が本発明の第一ベルト部材に相当するものである。
【0043】
また、第一実施形態に係る装具1によれば、装着状態において、各腰ベルト部材56が装着者の腰部を側腹側から圧迫することになる。これにより、やはり装着者の上半身の動きを確実に抑制することが可能となる。更に、前記肩ベルト部材52と同様、腰ベルト部材56が非伸縮性素材からなる場合には、該腰ベルト部材56の牽引程度に応じて装着者の側腹部の締め付け力を調整することができる。すなわち、前記腰ベルト部材56が本発明の第二ベルト部材に相当するものである。
【0044】
更に、第一実施形態に係る装具1によれば、前記肩ベルト部材52と上方補助バンド24aが共に第一リング部材22に通され、前記腰ベルト部材56と下方補助バンド24bが共に第二リング部材23に通されている。このため、肩ベルト部材52及び腰ベルト部材56が収納された状態の両係着体55を持ち、肩ベルト部材52及び腰ベルト部材56を引っ張ると、これに連動して上方補助バンド24a及び下方補助バンド24bが引っ張られる。その結果、これら上方補助バンド24a及び下方補助バンド24bが緊張状態となり、前記背当て部2の固定力が向上させるようになっている。このため、装着者の上半身の姿勢をより確実に矯正することが可能となる。すなわち、前記補助バンド24が本発明の第三ベルト部材に相当するものである。
【0045】
また、前記装具1によれば、前記係着体55に肩ベルト部材52の一端が挿入されるようになっているため、前記係着体55の装着操作に連動して装着者の両肩の締め付けが行われる。その結果、装着者が前傾姿勢をとらざるを得ないほどに装着者の体幹の筋力が低下、あるいは椎体が重度に受傷していても、この装着者の肩部の動きが肩当て部5によって抑制される結果、体幹を固定する効果が強化される。つまり、装着者の姿勢をより確実に矯正することができるようになっている。その一方で、仮に装着者が前傾姿勢をとった場合、前記肩保持部54に体重がかかり、肩当て部5が緊張する。そうすると、前記第一リング部材23を介して前記背当て部2に引張力が作用し、該背当て部2に負荷がかかってしまうおそれがある。
【0046】
しかし、この装具1によれば、前記背当て部2、腰当て部3及び胸当て部4により装着者の背中、腰部及び胸部を含む体幹が一体的に固定されるため、仮に装着者が前傾姿勢をとったとしても、前記背当て部2に作用した引張力は、背当て部2、腰当て部3及び胸当て部4のうち、特に胸当て部4に伝わり、前記背当て部2にのみ過度に力が作用するのを防止することが可能となっている。
【0047】
また、第一実施形態に係る装具1では、前記肩当て部5が背当て部2に対して着脱自在となっている。椎体疾患の手術直後にあっては患者の上半身の姿勢を正しく保つ必要があるため、肩当て部5を備えた態様の装具1を使用し、患者の上半身の姿勢を変化させる可能性をできるだけ排除する必要がある。これに対して、手術後にある程度時間が経過し体幹を過度に圧迫する必要が無い場合は、肩当て部5の構成を備えた態様の装具1を使用し、患者の姿勢を過度に矯正する必要がない。従って、椎体疾患の手術後ある程度時間が経過した状態で装具1を用いる場合には前記肩当て部5を背当て部2から外して使用する方がよい。これにより、装着者の窮屈感をできるだけ抑えることができる。すなわち、第一実施形態に係る装具1において、肩当て部5を背当て部2に対して着脱自在とすることにより、椎体疾患の手術直後で高度に椎体の矯正が必要な時期から、治癒が進み、体幹の固定よりも装着者の動き易さに配慮が必要な時期を通して装着可能な装具を提供することが可能となる。
この点は、椎体疾患の手術を受けた患者だけでなく、当該手術を受けなくとも良い患者に関しても当てはまり、椎体疾患の予防及び/又は治療の各進行段階に応じた装具として第一実施形態に係る装具1を用いることが可能である。
【0048】
尚、第一実施形態に係る装具1では、前記背当て部2の一部をなす肩当て部5が設けられているが、この肩当て部5は、装着者の背中、腰部及び胸部を支持し、上半身の姿勢を矯正する上では必ずしも必要なものではない。但し、前記肩ベルト部材52は肩当て部5の一部を構成し、且つ、体幹圧迫ベルト部材6の一部を構成している。このため、肩当て部5の構成を設けない場合には、装着者の上半身の姿勢変化をより確実に抑制できるとの観点から、前記肩ベルト部材52に相当する構成を残存させるほうが好ましい。
【0049】
一方で、前述の如く前記補助バンド24は前記肩ベルト部材52及び腰ベルト部材56と連動して引っ張られるため、前記肩ベルト部材52及び腰ベルト部材56の引っ張り力が補助バンド24を介して前記背当て部2に伝達され、背当て部2に過度に引っ張り力が作用してしまうおそれがある。この点は前記第一リング部材22又は前記第二リング部材23が前記背当て部2の背面に直接固定されている場合も同様である。しかし、第一実施形態に係る装具1では、前記補助バンド24の両端が背当て部2の一ヶ所にまとめて固定されているわけではなく、二か所に固定されている。このため、前記肩ベルト部材52及び腰ベルト部材56の引っ張り力は、前記補助バンド24によって分散されるようになっている。その結果、背当て部2に対して過度に引っ張り力が作用するのを抑制することができる。尚、前記補助バンド24は、前記肩ベルト部材52及び腰ベルト部材56と連動して装着者の体幹への圧迫圧を調整することが可能な構成であれば、補助バンド24の配置構成は上記で説明したものに限られず、例えば各補助バンド24の両端が背当て部2の一ヶ所にまとめて固定される構成であってもよい。ただし、背当て部2に作用する引っ張り力の軽減との観点からすれば、やはり補助バンド24の両端が背当て部2のうち別個の位置に固定されている方がよい。
【0050】
また、前記装具1によれば、係着体55が肩ベルト部材52と腰ベルト部材56とを両方収容可能な構成になっているため、これらのベルトによる体幹の圧迫の際に肩ベルト部材52と腰ベルト部材56を独立に操作する必要が無く、一度の引っ張り操作で圧迫操作を行うことができる。これにより、装具操作の簡便性が増すという利点のみならず、使用者自身、あるいは医師、技師装具士又は看護師等による圧迫操作も確実かつ簡便に行うことができるという利点がある。
【0051】
〈第二実施形態〉
図6及び図7は、本発明の第二実施形態に係る椎体疾患用装具101を示す図であり、図6は当該椎体疾患用装具101を装着者の後方側から観察した背面図である一方、図7は当該椎体疾患用装具101における装着者との対向面を示す正面図である。この装具101において、図1乃至図5に示される装具1と共通する構成については同一の符号を付した。以下、斯かる装具101のうち、図1乃至図5に示された装具1との相違点を中心に説明し、共通する構成の説明は割愛する。
【0052】
この装具101と前記装具1とでは、互いに前記体幹圧迫ベルト部材の配置構成が異なる。また、この装具101は、該装具101の固定力を増大させるための腹部固定部材7を有する。そして、この腹部固定部材7を収容するための構成が前記腰当て部103及び胸当て部104に設けられている。
【0053】
第二実施形態に係る装具101において、各下方補助バンド124bの一端は前記背当て部2の略中央であって装着者の胸椎周辺に対応して固定されている。各下方補助バンド124bの他端は装着者の体軸に沿って一端に対して変位した位置に、且つ、背当て部2の略中央部であって装着者の腰椎周辺に対応して固定されている。そして、各下方補助バンド124bは第二リング部材23を介して略V字状に屈曲している。また、第二実施形態に係る装具101は、第一ベルト部材としての体幹側面ベルト部材152を一対有し、各体幹側面ベルト部材152の一端は胸当て部104に固定され、第一リング部材22により肩甲骨の下辺縁周辺にて折り返され、他端は装具1と同様に前記係止部55内に挿入されるようになっている。
【0054】
次に、前記腹部固定部材7について説明する。この腹部固定部材7は、前記第一胸当て部104aと腰当て部103aとの間に装着者の体軸に沿って設けることができる。この腹部固定部材7は平板状に形成され、装着時において装着者の胸部前面から腹部前面を覆うように配置される。また、この腹部固定部材7には装着者の胸部から腹部までを支持する板状部材(図示外)が内蔵されている。この板状部材は、前記背中固定用部材2aと同様の素材からなる。
【0055】
第二実施形態に係る装具101において、腰当て部103aには図7に示すように、前記腹部固定部材7が収容される第一保持部131が形成されている。この第一保持部131は、前記腰当て部103aの正面に固定され、第一胸当て部104aに向けて開放された袋状に形成される。前記腹部固定部材7の一端はこの第一保持部131に前記第一胸当て部104a側から挿入されるようになっている。一方図6に示すように、前記第一胸当て部104aには第二保持部141が形成されている。この第二保持部141は帯状に形成され、両側縁が前記第一胸当て部104aの背面に固定されている。これにより前記第二保持部141と前記第一胸当て部104aの背面の間に隙間が形成され、この隙間に対して前記腹部固定部材7の他端が挿入されるようになっている。その結果、前記腹部固定部材7は腰当て部103a及び第一胸当て部104aに保持される。
【0056】
このように構成された装具101によれば、体幹圧迫ベルト部材の配置構成は異なるものの、前記装具1と略同様の効果を奏し、椎体疾患用装具に適している。更に前記腹部固定部材7を有する第二実施形態に係る装具101特有の効果を以下に示す。
【0057】
ここで人体において、心臓や肺等を保護する胸郭(胸部の骨格)から人体の腰部を構成する骨盤までの間には、骨格としては脊柱しか存在していない。すなわち、胸郭から骨盤までの間において、人体の体重は主として脊柱が負荷することとなる。このため、胸部から腰部まで間に設けられる椎体が変形を来す椎体疾患を患ってしまう可能性は高いと言える。
【0058】
しかし、第二実施形態に係る装具101によれば、前記腹部固定部材7が前記腰当て部103aと第一胸当て部104aと間に、且つ、装着者の体軸に沿って配置することが可能である。このため、仮に前記背当て部2、腰当て部3及び胸当て部4の固定力に抗して装着者が前傾姿勢をとったとしても、前記腹部固定部材7に装着者の体重が負荷されることとなる。その結果、胸郭から骨盤までの間に配される脊柱が体重を過度に負荷するのを防止でき、もって椎体の変形を可及的に防止することができる。
【0059】
このように、前記腹部固定部材7は装着者が前傾姿勢をとった際、体重を負荷するように機能することから、第二実施形態に係る装具101では前記装具1が備える肩当て部5を設けなくともよい。また、第二実施形態に係る装具101では、前記腹部固定部材7が前記腰当て部103a及び第一胸当て部104aに対して容易に取り外すことが可能となっている。このため、治癒が進み、体幹の固定よりも装着者の動き易さに配慮が必要な時期にあっては前記腹部固定部材7を取り外すことで、装着者の窮屈感を可及的に抑えることができる。すなわち、第二実施形態に係る装具101も装具1と同様、椎体疾患の予防及び/又は治療の各進行段階に応じた装具として用いることが可能である。
【0060】
また、第二実施形態に係る装具101では、装具1のように肩当て部5に装着者の両肩を通す操作が必要なく、前記腰当て部103及び胸当て部104の操作のみで装具の装着操作が完了する。すなわち、第二実施形態に係る装具101によれば、装具の固定力向上を達成しつつも、装着操作の簡素化を達成することができる。
【0061】
尚、第二実施形態に係る装具101では、前記第一保持部131が袋状に形成される一方、前記第二保持部141が帯状に形成されているが、これら保持部131,141の構成はこれらに限られない。ただし、前述の如く、前記腹部固定部材7は板状部材が内蔵されてある程度の重さを有するものであるから、装着時において各腹部固定部材7が自重により落下しない構成としたほうがよい。
【0062】
また、第二実施形態に係る装具101では、前記腹部固定部材7は前記腰当て部103aと第一胸当て部104aと間に配置されているが、この腹部固定部材7を腰当て部103bと第二胸当て部104bとの間に配置し、装具101全体で二つの腹部固定部材7を備える構成を採用してもよい。このような構成とすれば、腹部固定部材7が一つであるものに比べて装着時における装具101の支持力を増大させることができる。
【符号の説明】
【0063】
1,101 椎体疾患用装具(装具)
2 背当て部
2a 背中固定用部材
3 腰当て部
4 胸当て部
6 体幹圧迫ベルト部材
7 腹部固定部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7