特許第6357662号(P6357662)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357662
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】プロジェクタのレンズ装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/02 20060101AFI20180709BHJP
   G02B 7/04 20060101ALI20180709BHJP
   G03B 21/00 20060101ALI20180709BHJP
   G03B 21/14 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   G02B7/02 F
   G02B7/04 D
   G03B21/00 D
   G03B21/14 D
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-38053(P2014-38053)
(22)【出願日】2014年2月28日
(65)【公開番号】特開2015-161865(P2015-161865A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2017年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】391044915
【氏名又は名称】株式会社コシナ
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 茂
(72)【発明者】
【氏名】小澤 雄太
(72)【発明者】
【氏名】北島 知明
【審査官】 小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−264570(JP,A)
【文献】 米国特許第04525745(US,A)
【文献】 特開2012−198420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02
G02B 7/04
G03B 21/00
G03B 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ鏡筒の内部に配したレンズ部と、前記レンズ鏡筒の外周上に配し、かつ周方向へ回動可能に設けるとともに、前記レンズ部に対してズーミング調整を行うズームリングを構成する調整操作リングと、前記調整操作リングの回動変位を前記レンズ鏡筒の内部に伝達する伝達部材と、この伝達部材の回動変位を運動変換して前記レンズ部に伝達し、前記レンズ部を光軸方向へ変位させる運動変換機構とを具備してなるプロジェクタのレンズ装置において、所定の熱膨張率を有する素材により形成し、かつ素材,長手方向寸法,断面形状,の少なくとも一つ以上を、調整後における周囲温度による調整ポジションの変動を相殺するディメンションに選定した円弧形状の補正部材を形成するとともに、前記調整操作リングに前記補正部材を収容する収容空間を形成し、この収容空間に前記補正部材を配することにより、当該補正部材を前記レンズ鏡筒の外周における周方向に沿って配し、この補正部材の一端部を前記伝達部材の外端部に連結し、かつ当該補正部材の他端部を前記調整操作リングに固定してなることを特徴とするプロジェクタのレンズ装置。
【請求項2】
前記補正部材の一端部に形成した切欠凹部に、前記伝達部材の外端部を収容し、この切欠凹部の開口を閉塞板で閉塞することにより、前記伝達部材の外端部を保持する連結構造を備えることを特徴とする請求項1記載のプロジェクタのレンズ装置。
【請求項3】
前記運動変換機構は、前記レンズ鏡筒の内周に配し、かつ螺旋方向に沿った運動変換用のカム溝を周面部に形成してなるカム筒と、前記レンズ鏡筒に形成した光軸方向のガイド溝と、前記カム溝と前記ガイド溝の双方に係合する従動部材を備え、この従動部材により前記レンズ部を支持し、かつ前記カム筒に前記伝達部材の内端部を結合してなることを特徴とする請求項1又は2記載のプロジェクタのレンズ装置。
【請求項4】
前記レンズ鏡筒には、前記調整操作リングの位置を固定又は固定解除可能な調整位置固定機構を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプロジェクタのレンズ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロジェクションマッピング等に用いるプロジェクタに搭載して好適なプロジェクタのレンズ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、図7に示すように、建築物の壁面Wdに、レンズ装置(1r)…を搭載した複数台のプロジェクタ(Pr)…からそれぞれ映像Da,Db…を投影し、各映像Da,Db…を継ぎ合わせることにより一つの映像Dを表現するプロジェクションマッピングは知られている。このようなプロジェクションマッピングでは、投影対象物となる壁面Wdにおける正確な位置に投影を行うことは勿論のこと、各映像Da,Db…の継ぎ合わせ部分に、継ぎ目が現れないようにすることが重要になるため、プロジェクタ(Pr)…の設置時には、正確なズーミング調整やフォーカシング調整を行っている。
【0003】
しかし、正確な調整を行い、かつその調整位置を固定したとしても、この種のプロジェクタ(Pr)…は環境変動に比較的影響を受けやすい場所に設置される場合も少なくないため、周囲温度(外気温度)の変動により調整ポジションがずれてしまう問題がある。この結果、図8(a)に示すように、四つの映像Da,Db,Dc,Ddが本来の正確な位置に調整された状態にあったとしても、周囲温度が大きく変動し、ズーミングポジションが正規のポジションからずれた場合、図8(b)又は(c)のような継ぎ目が発生してしまう。このようなズーミングポジションのずれは、一台のプロジェクタにより通常投影する場合にはほとんど問題にならないが、正確性が要求されるプロジェクションマッピングの場合には無視できない問題となる。
【0004】
従来、このような問題に対処したプロジェクタやレンズも知られており、特許文献1には、温度変化に対するフォーカス位置の変動をより確実に抑えるプロジェクタが開示されるとともに、特許文献2には、温度変化に起因するピントズレを自動的に補正する電動ズームレンズが開示されている。
【0005】
同文献1に開示されるプロジェクタは、光源と、光学像を投写するレンズ鏡筒とを備え、レンズ鏡筒は、温度変化に対応してレンズの焦点距離を補正する温度補正機構を備えるとともに、レンズ鏡筒は、筐体内に配置され、レンズ鏡筒のうち、レンズとこれを保持する鏡筒部分との温度差を小さくできるようにしたものである。また、同文献2で開示される電動ズームレンズは、レンズ保持枠にサーミスタを取り付け、サーミスタからの出力コードは、フランジに形成された孔を介してビスに嵌め込まれた樹脂製チューブの中を通され、直進力ム溝を介して固定筒の外部に出て、プロジェクタ本体内に設けられた制御部に接続されるとともに、制御部は、サーミスタから温度情報が入力されると、LUTから読み出したフォーカス筒の位置情報とメモリから読み出した現在のフォーカス筒の位置情報との差を求め、現在の位置情報をから得られる位置情報に一致させるようにドライバを介してモータを駆動するものであり、これにより、フォーカス駆動リングが回転し、フォーカス用レンズが光軸方向に移動し、温度変化に起因するピントズレが補正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−264570号公報
【特許文献2】特開2012−013982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述したプロジェクタに搭載した従来のレンズ(レンズ装置)は、次のような問題点があった。
【0008】
第一に、特許文献1における機械系による温度補正方式は、カム筒を含む複数の筒自体をそれぞれ線膨張係数の異なる素材により形成し、レンズ自体を光軸方向に変位させる機構を有している。したがって、給電が不要になるなどのメリットはある反面、各筒は、いわば多層に重なるため、周囲温度の各筒に対する作用には時間差を生じ、各筒の伸縮に相対的な誤差を生じやすい。また、筒全体の素材変更により対応するため、膨張係数を大きくした素材では、放射方向に伸縮することにより、レンズ自体の操作性にも影響する虞れがあるなど、素材選定が容易でない。結局、正確な補正を行う観点からは十分に機能するとは言えないとともに、十分な補正量の確保も容易でないことから、筺体に収容するなどの追加的手段が必須となる。
【0009】
第二に、特許文献2における電気系による自動制御方式は、実際の位置を検出し、それに基づいてフィードバック制御を行うため、正確性を確保しやすい反面、給電のための制御回路を搭載する必要があるとともに、制御回路を駆動する電源の確保も必要となる。結局、イニシャルコスト及びランニングコストの双方を含むコストアップを招くとともに、省エネルギ性を確保する観点からも望ましい方式とは言えない。
【0010】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決したプロジェクタのレンズ装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るプロジェクタPのレンズ装置1は、上述した課題を解決するため、レンズ鏡筒2の内部に配したレンズ部Lp…と、レンズ鏡筒2の外周2f上に配し、かつ周方向Ffへ回動可能に設けるとともに、レンズ部Lp…に対してズーミング調整を行うズームリング2zを構成する調整操作リング3と、調整操作リング3の回動変位をレンズ鏡筒2の内部に伝達する伝達部材4と、この伝達部材4の回動変位を運動変換してレンズ部Lp…に伝達し、レンズ部Lp…を光軸方向Fsへ変位させる運動変換機構5とを具備してなるレンズ装置において、所定の熱膨張率を有する素材により形成し、かつ素材,長手方向寸法,断面形状,の少なくとも一つ以上を、調整後における周囲温度Toによる調整ポジションの変動を相殺するディメンションに選定した円弧形状の補正部材6を形成するとともに、調整操作リング3に補正部材6を収容する収容空間3sを形成し、この収容空間3sに補正部材6を配することにより、当該補正部材6をレンズ鏡筒2の外周2fにおける周方向Ffに沿って配し、この補正部材6の一端部6sを伝達部材4の外端部4sに連結し、かつ当該補正部材6の他端部6tを調整操作リング3に固定してなることを特徴とする。
【0012】
この場合、発明の好適な態様により、補正部材6の一端部6sに形成した切欠凹部6jに、伝達部材4の外端部4sを収容し、この切欠凹部6jの開口を閉塞板11で閉塞することにより、伝達部材4の外端部4sを保持する連結構造Mjを設けることができる。一方、運動変換機構5は、レンズ鏡筒2の内周2iに配し、かつ螺旋方向に沿った運動変換用のカム溝7s…を周面部7mに形成してなるカム筒7と、レンズ鏡筒2に形成した光軸方向Fsのガイド溝2s…と、カム溝7s…とガイド溝2s…の双方に係合する従動部材8…を備え、この従動部材8…によりレンズ部Lp…を支持し、かつカム筒7に伝達部材4の内端部4iを結合して構成できる。さらに、レンズ鏡筒2には、調整操作リング3の位置を固定又は固定解除可能な調整位置固定機構12を設けることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
このような構成を有する本発明に係るプロジェクタのレンズ装置1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0014】
(1) 所定の熱膨張率を有する素材により形成した補正部材6をレンズ鏡筒2の外周2fにおける周方向Ffに沿って配し、この補正部材6の一端部6sを伝達部材4の外端部4sに連結し、かつ当該補正部材6の他端部6tを調整操作リング3に固定してなるため、補正部材6は、周囲温度Toに直接反応して伸縮し、この伸縮はレンズ鏡筒2やカム筒7等のレンズ装置1の主要光学構造に影響しない。したがって、時間的な遅れを伴うことなく調整ポジションに対する補正を正確かつ速やかに行うことができ、もって、周囲温度Toに基づく調整ポジションのずれを確実に回避できる。
【0015】
(2) 基本的な追加部品として補正部材6を追加すれば足り、これにより、実質的な温度補正機構を構築できる。したがって、極めて容易かつ低コストに実施できるとともに、基本的には、電気系による自動制御方式を採用しないため、給電が不要となり、プロジェクションマッピング等の投影に用いて最適となる。
【0016】
(3) 調整操作リング3には、レンズ部Lp…に対してズーミング調整を行うズームリング3zを適用したため、特に、プロジェクションマッピングの投影において発生する映像間の継ぎ目を排除できる。この結果、プロジェクションマッピングの投影における最も重要な課題を有効に解消できる。
【0017】
(4) 補正部材6を形成するに際し、素材,長手方向寸法,断面形状,の少なくとも一つ以上を、調整後における周囲温度Toによる調整ポジションの変動を相殺するディメンションに選定したため、周囲温度Toに基づく調整ポジションの変動を相殺できる。換言すれば、補正部材6のディメンションを選定するのみで、周囲温度Toによる調整ポジションの変動を容易に補正可能となる。
【0018】
(5) 調整操作リング3に、補正部材6を収容する収容空間3sを形成し、この収容空間3sに補正部材6を配したため、調整操作リング3に対して形状的な一体感を醸し出すことができる。この結果、不自然な突出形状や無用なサイズアップを回避できる。
【0019】
(6) 好適な態様により、補正部材6の一端部6sに形成した切欠凹部6jに、伝達部材4の外端部4sを収容し、この切欠凹部6jの開口を閉塞板11で閉塞することにより、伝達部材4の外端部4sを保持する連結構造Mjを設ければ、補正部材6の一端部6sと伝達部材4の外端部4s間において、ある程度の相対変位を吸収できるため、無用な応力発生を回避し、変位伝達時における動作の円滑性及び安定性に寄与できる。
【0020】
(7) 好適な態様により、運動変換機構5を構成するに際し、レンズ鏡筒2の内周2iに配し、かつ螺旋方向に沿った運動変換用のカム溝7s…を周面部7mに形成してなるカム筒7と、レンズ鏡筒2に形成した光軸方向Fsのガイド溝2s…と、カム溝7s…とガイド溝2s…の双方に係合する従動部材8…を備え、この従動部材8…によりレンズ部Lp…を支持し、かつカム筒7に伝達部材4の内端部4iを結合して構成すれば、一般的なカメラ構造を変更することなくそのまま利用できるなど、汎用性に優れる。
【0021】
(8) 好適な態様により、レンズ鏡筒2に、調整操作リング3の位置を固定又は固定解除可能な調整位置固定機構12を設ければ、この調整位置固定機構12の固定機能と補正部材6の補正機能の相乗作用により、調整ポジションのずれをより確実かつ効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の好適実施形態に係るプロジェクタのレンズ装置の部分抽出拡大図を含む断面正面図、
図2】同レンズ装置の要部における部分抽出拡大図を含む断面側面図、
図3】同レンズ装置の要部における外観平面図、
図4】同レンズ装置の要部における補正部材の連結構造を明示する一部を断面にした平面図、
図5】同レンズ装置の作用説明図、
図6】同レンズ装置の原理説明図、
図7】背景技術の説明図、
図8】背景技術の課題説明図、
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0024】
まず、本発明の理解を容易にするため、本実施形態に係るレンズ装置1の全体的な基本構成について、図1図5を参照して説明する。
【0025】
レンズ装置1は、固定筒として機能するレンズ鏡筒2を備え、このレンズ鏡筒2の内部には、図2に仮想線で示す複数のレンズ部(レンズ群)Lp…を収容する。例示のレンズ部Lp…は一部を省略したズーミング調整用のレンズ部であり、このズーミング調整用のレンズ部Lp…の前方(図2中、左方向)には不図示のフォーカシング調整用のレンズ部を配する。
【0026】
レンズ鏡筒2の内周2iには周方向Ffに回動可能な可動筒として機能するカム筒7を配する。この場合、図2に示すように、カム筒7の外周面には複数の従動部材21…を突出させ、レンズ鏡筒2に形成した周方向Ffに沿った複数のガイド溝22…に係合させる。これにより、カム筒7の回動方向及び回動範囲が規制される。また、カム筒7の周面部7mには螺旋方向に沿った複数の運動変換用のカム溝7s…を形成するとともに、レンズ鏡筒2には光軸方向Fsに沿った複数のガイド溝2s…を形成する。例示の場合、周方向Ffに等間隔で配した三つのガイド溝2s…を有する。
【0027】
そして、各カム溝7s…と対応するガイド溝2s…の双方間に係合する複数の従動部材8…を配し、この従動部材8…により対応する各レンズ部Lp…を支持する。これにより、カム筒7を周方向Ffに回動変位させれば、従動部材8…、更にはレンズ部Lp…が光軸方向Fsに変位する運動変換機構5が構成される。このような構成を有する運動変換機構5は、いわば一般的なカメラ構造である。したがって、本実施形態に係るレンズ装置1は、このような一般的なカメラ構造を変更することなくそのまま利用できるため、汎用性にも優れる利点がある。
【0028】
一方、レンズ鏡筒2の外周2f上には周方向Ffに回動可能となるズームリング3zを配設する。このズームリング3zは、前述したレンズ部Lp…に対してズーミング調整を行うものであり、調整操作リング3の一つとして位置付けられる。この場合、図3に示すように、レンズ鏡筒2の外周面には複数の従動部材24…を突出させ、この従動部材24…をズームリング3zに形成した周方向Ffに沿った複数のガイド溝25…に係合させる。これにより、ズームリング3zの回動方向及び回動範囲が規制される。なお、例示のズームリング3zは、回動操作を電動で行う電動式であり、図5に示すように、ズームリング3zに一体に備える被動ギア部27に、駆動モータ28に取付けた駆動ギア29を噛合させたズームリング駆動機構30を備える。なお、被動ギア部27は、ズームリング3zの周方向全周に沿って形成した歯部を有する。
【0029】
また、ズームリング3zには調整位置固定機構12を付設する。この調整位置固定機構12は、図2及び図3に示すように、ズームリング3zの後端側(プロジェクタ本体側)に一体に設け、かつ周方向Ffに沿った固定用スリット33sを有する位置固定部33と、頭部に操作ツマミ34eを一体に有する固定ネジ34とを備え、この固定ネジ34のネジ部34nを、固定用スリット33sを通してレンズ鏡筒2の外周2fに設けたネジ孔部に螺合して構成する。これにより、固定ネジ34を、締付ける方向に回し操作すれば、位置固定部33をレンズ鏡筒2に対して固定できる。即ち、ズームリング3zの調整ポジションが固定される。他方、固定ネジ34を、緩める方向に回し操作すれば、位置固定部33とレンズ鏡筒2間の固定が解除され、ズームリング3zの回動操作が許容される。これによりズーミング調整を行うことができる。
【0030】
なお、ズームリング3zの前方であって、このズームリング3zに対して所定距離だけ離間したレンズ鏡筒2の外周2f上には周方向Ffに回動可能なフォーカスリング103fを備える。このフォーカスリング103fは、上述した運動変換機構5と同様の機能を有する運動変換機構を介して、図示を省略したフォーカシング調整用のレンズ部に対してフォーカシング調整を行うことができる。したがって、このフォーカスリング103fも調整操作リング3の一つとして位置付けられるとともに、上述した調整位置固定機構12と同様の構成及び機能を有する調整位置固定機構を備えている。
【0031】
次に、本実施形態に係るレンズ装置1の要部構成について、図1図6を参照して具体的に説明する。
【0032】
本実施形態に係るレンズ装置1は、主要部品として補正部材6を用いる。この補正部材6は、所定の熱膨張率を有する素材により全体を一体成形する。補正部材6は、後述するように、ズームリング3zの一部として位置付けられるため、ズームリング3zの回動変位をレンズ部Lp…側に伝達する機能も含む。したがって、剛性の高い合成樹脂素材が望ましく、実施形態では一例として、POM(ポリオキシメチレン樹脂)素材を用いている。なお、素材としては、所定の熱膨張率を有すれば足り、特定の素材に限定するものではない。
【0033】
また、補正部材6の形状は全体を弓形に形成する。具体的には、長手方向の形状を、図1に示すように、レンズ鏡筒2の外周2fにおける周方向Ffに沿った円弧形状に形成する。例示の場合、角度範囲が110〔゜〕程度となる半円形状である。さらに、断面形状を、図2に示すように、横長の長方形状に形成し、上面の長手方向には、断面が湾曲形状となる規制用凹部6uを形成する。
【0034】
この補正部材6は、周囲温度Toに基づいて伸縮し、ズームリング3zの位置を補正する機能を有している。このため、補正部材6を形成するに際しては、素材,長手方向寸法,断面形状,の少なくとも一つ以上を、調整後における周囲温度Toによる調整ポジションの変動を相殺するディメンションに選定する。具体的には、予め、素材及び断面形状を選定し、長手方向寸法を実験等により求めて選定できる。このように、補正部材6のディメンションを選定するのみで、周囲温度Toによる調整ポジションの変動を容易に補正可能となる。
【0035】
一方、図3に示すように、ズームリング3zには、この補正部材6を収容するための収容空間3sを形成する。この場合、収容空間3sは、補正部材6を配した際に、当該補正部材6がズームリング3zから突出したり凹みを生じさせることなく、ズームリング3zの全体形状に調和するように考慮する。したがって、このような収容空間3sを形成すれば、ズームリング3zに対して形状的な一体感を醸し出すことができるため、不自然な突出形状や無用なサイズアップを回避できる利点がある。
【0036】
例示のズームリング3zは、図2に示すように、レンズ鏡筒2の外周面上に配したベースリング41と、このベースリング41の外周面に固定したカバーリング42と、このカバーリング42の前端に固定した被動ギア部27とを一体に備えるため、収容空間3sは、ベースリング41の外周面とカバーリング42間に形成するとともに、カバーリング42の一部を切欠いて形成した。具体的には、ベースリング41の外周面に形成した段差部とカバーリング42により周方向Ffに沿った凹溝部43を形成し、この凹溝部43に補正部材6を装填した。これにより、補正部材6は凹溝部43内を周方向Ffに沿ってスライド自在にガイドされる。また、装填した補正部材6の外周面であって、光軸方向Fsにおける前側一部を、一部を切欠いたカバーリング42により覆うとともに、複数(例示は四つ)の板バネ状の規制プレート44…の一端をカバーリング42の外周面に固定ネジ等を用いて固定し、他端側を光軸方向後方に突出させることにより、カバーリング42から後方に露出した補正部材6の外周面(上面)と後端面一部を押さえる(規制する)ようにした。このため、規制プレート44…の形状は、図2に示すように、補正部材6の上面に形成した規制用凹部6uに沿った形状に形成するとともに、図1及び図3に示すように、補正部材6の長手方向に沿って所定間隔置きに取付けた。
【0037】
他方、ズームリング3z上に配した補正部材6の一端部6sには、伝達部材4の外端部4sを連結するとともに、補正部材6の他端部6tはズームリング3zに対して固定する。具体的には、図1に示すように、補正部材6の他端部6tに形成した段部に固定部材45の一側をネジ等により固定するとともに、この固定部材45の他側をネジ等によりベースリング41上に固定する。これにより、補正部材6の他端部6tはズームリング3zに固定される。一方、補正部材6の一端部6sは連結構造Mjを介して伝達部材4の外端部4sに連結する。
【0038】
この連結構造Mjは、次のように構成する。まず、補正部材6の一端部6sには、図4に示すように、径方向に沿って矩形状に切欠いた切欠凹部6jを形成する。この際、切欠凹部6jにおける対向する二つの側壁面6jp.6jq間は、伝達部材4における外端部4sの外径幅にほぼ一致させる。また、側壁面6jpと6jq間に位置する底壁面6jdは、円弧状に盛上形成する。これにより、切欠凹部6j内に伝達部材4の外端部4sを収容すれば、当該外端部4sは底壁面6jdに対して線接触する。そして、切欠凹部6j内に伝達部材4の外端部4sを収容するとともに、板バネ状の閉塞板11を補正部材6の一端部6sの端面に固定ネジ47…により固定する。これにより、切欠凹部6jの開口は閉塞板11により閉塞され、切欠凹部6j内に伝達部材4の外端部4sが保持される。なお、閉塞板11は伝達部材4の外端部4sに圧接するように考慮する。
【0039】
したがって、補正部材6の一端部6sと伝達部材4の外端部4sを、このような連結構造Mjにより連結すれば、補正部材6の一端部6sと伝達部材4の外端部4s間において、ある程度の相対変位を吸収できるため、無用な応力発生を回避し、変位伝達時における動作の円滑性及び安定性に寄与できる利点がある。他方、伝達部材4の内端部4i側は、図1及び図2に示すように、ベースリング41に形成した挿通孔49及びレンズ鏡筒2に形成した周方向Ffのガイドスリット50を通して、カム筒7の外周面に固定する。この場合、挿通孔49は、伝達部材4の周方向における相対変位を許容できるように、伝達部材4の外径よりも大きな径に形成し、図5に示すように、伝達部材4がZc範囲において変位が許容され、伝達部材4がベースリング41に接触しないように考慮する。
【0040】
次に、本実施形態に係るレンズ装置1における要部構成の機能について、図5及び図6を参照して説明する。
【0041】
本実施形態に係るレンズ装置1は、図7に示すようなプロジェクションマッピングに用いるプロジェクタPに搭載して最適である。今、四台のプロジェクタP…を所定の投影位置に設置した場合を想定する。
【0042】
これにより、プロジェクタPの角度や向きを調整するとともに、同時に、ズーミング調整及びフォーカシング調整を行う。ズーミング調整では、プロジェクタPに備える図示を省略したズーミング用調整キーを操作することにより、ズームイン(拡大)又はズームアウト(縮小)に係わるズーミング調整を行うことができる。ズームイン調整時には、例えば、ズームイン調整キーを押し続けることにより、駆動モータ28が正方向に回転制御される。駆動モータ28の回転は駆動ギア29を介して被動ギア部27に伝達され、ズームリング3zは正方向に回動変位するとともに、この回動変位は、補正部材6を介して伝達部材4に伝達される。また、伝達部材4の回動変位(旋回変位)は、カム筒7に伝達され、カム筒7を周方向Ffに回動変位させる。そして、カム筒7の回動変位は、運動変換機構5により直進方向に変換され、各レンズ部Lp…をズームイン方向に変位させる。他方、ズームアウト調整時には、例えば、ズームアウト調整キーを押し続けることにより、駆動モータ28が反対方向に回転制御される。これにより、駆動モータ28の回転は、駆動ギア29,被動ギア部27,ズームリング3z,補正部材6,伝達部材4の経路で伝達され、伝達部材4の回動変位(旋回変位)は、カム筒7を周方向Ffにおける上記ズームイン調整時に対して反対方向へ回動変位させる。そして、カム筒7の回動変位は、運動変換機構5により直進方向に変換され、各レンズ部Lp…をズームアウト方向に変位させる。
【0043】
この場合、図7に示すように、建築物の壁面Wdに各プロジェクタP…から映像Da,Db…を投影し、各プロジェクタP…単位でそれぞれ正確なズーミング調整を行うことにより、図8(a)に示すように、各映像Da,Db…間に継ぎ目が生じないように調整する。そして、ズーミング調整が終了したなら、調整位置固定機構12の操作ツマミ34eを締付ける方向に回し操作し、ズームリング3zを調整ポジションに固定する。このような調整位置固定機構12を設けることにより、この調整位置固定機構12の固定機能と補正部材6の補正機能の相乗作用により、調整ポジションのずれをより確実かつ効果的に防止できる利点がある。以上により、ズーミング調整が完了する。さらに、詳細は省略したがフォーカシング調整も同様に行うことができる。
【0044】
他方、このような調整を行った後、プロジェクタP…の使用時に、周囲温度Toが調整時に対して高くなった場合を想定する。周囲温度Toが高くなった場合、この高くなった周囲温度Toは、外部に露出した補正部材6に対して直接的に作用する。これにより、補正部材6は周囲温度Toに感応して速やかに伸長(膨張)する。この場合、図5に示すように、補正部材6の他端部6tは、図5中、位置Xcで固定されているため、補正部材6が伸長することにより、補正部材6の一端部6sは、周方向Ffにおける反時計方向に回動変位(旋回変位)、即ち、図5中、位置Xhに対して矢印Fa方向へ変位する。この際、ズームリング3zの位置は調整位置固定機構12により固定されているため、補正部材6の一端部6sの回動変位は、この一端部6sに連結した伝達部材4を回動変位(旋回変位)させる。
【0045】
この場合、補正部材6の伸長に基づく変位量(伸縮特性Qa)は、図6に示すように、周囲温度Toの変動によるズーミングの調整ポジションの変動特性Qeを相殺する特性となるように設定されている。したがって、周囲温度Toによりズーミングの調整ポジションが変動する場合であっても補正部材6の回動変位により相殺し、ズーミングの調整ポジションは補正後のズーミング特性Qzのように正規のポジションに維持される。なお、周囲温度Toが調整時に対して低くなった場合も、高くなった場合に対して挙動が逆方向、即ち、補正部材6の一端部6sが位置Xhに対して矢印Fb方向へ変位する点を除いて基本的には高くなった場合と同様に機能する。
【0046】
これにより、図7に示すプロジェクションマッピングを行う際に、周囲温度Toが大きく変動する使用環境にあっても、図8(a)のように、四つの映像Da,Db,Dc,Ddは本来の正確な位置に調整された状態を維持し、図8(b)及び(c)のように、ズーミングの調整ポジションのずれにより継ぎ目が生じる問題は防止される。
【0047】
このように、本実施形態に係るプロジェクタのレンズ装置1によれば、所定の熱膨張率を有する素材により形成した補正部材6をレンズ鏡筒2の外周2fにおける周方向Ffに沿って配し、この補正部材6の一端部6sを伝達部材4の外端部4sに連結し、かつ当該補正部材6の他端部6tをズームリング3zに固定してなるため、補正部材6は、周囲温度Toに直接反応して伸縮し、この伸縮はレンズ鏡筒2やカム筒7等のレンズ装置1の主要光学構造に影響しない。したがって、時間的な遅れを伴うことなく調整ポジションに対する補正を正確かつ速やかに行うことができ、もって、周囲温度Toに基づく調整ポジションのずれを確実に回避できる。また、基本的な追加部品として補正部材6を追加すれば足り、これにより、実質的な温度補正機構を構築できる。したがって、極めて容易かつ低コストに実施できるとともに、基本的には、電気系による自動制御方式を採用しないため、給電が不要となり、プロジェクションマッピング等の投影に用いて最適となる。加えて、調整操作リング3として、レンズ部Lp…に対してズーミング調整を行うズームリング3zを適用したため、特に、プロジェクションマッピングの投影において発生する映像間の継ぎ目を排除できるため、プロジェクションマッピングの投影における最も重要な課題を有効に解消できる。
【0048】
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0049】
例えば、補正部材6は、膨張することにより伝達部材4を反時計方向へ回動変位させる位置に設けたが、膨張することにより伝達部材4を時計方向へ回動変位させる位置、即ち、伝達部材4に対して周方向Ffにおける180〔゜〕反対側の位置に配してもよい。また、補正部材6を形成する所定の熱膨張率を有する素材としてPOM素材を例示したが、所定の剛性を有する他の各種合成樹脂素材を利用できるとともに、金属素材等の他の素材の利用を排除するものではない。その他、連結構造Mj及び調整位置固定機構12は、例示の構造に限定するものではなく、同様の機能を有する各種構造を利用できる。さらに、ズームリング3zの調整操作として、駆動モータ28を利用した電動式を例示したが、手動により調整操作する手動方式であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係るレンズ装置は、プロジェクションマッピング等で投影を行うプロジェクタをはじめ、使用環境に光学特性が左右されない、比較的高い精度が要求される各種プロジェクタに利用できる。
【符号の説明】
【0051】
1:レンズ装置,2:レンズ鏡筒,2f:レンズ鏡筒の外周,2i:レンズ鏡筒の内周,2s…:ガイド溝,3:調整操作リング,3z:ズームリング,3s:収容空間,4:伝達部材,4s:伝達部材の外端部,4i:伝達部材の内端部,5:運動変換機構,6:補正部材,6s:補正部材の一端部,6t:補正部材の他端部,6j:切欠凹部,7:カム筒,7s…:カム溝,7m:周面部,8…:従動部材,11:閉塞板,12:調整位置固定機構,P:プロジェクタ,Ff:周方向,Fs:光軸方向,Lp…,レンズ部,Mj:連結構造,To:周囲温度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8