(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357707
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】空力揚力装置
(51)【国際特許分類】
B64C 29/00 20060101AFI20180709BHJP
A63H 27/133 20060101ALI20180709BHJP
B64C 39/02 20060101ALN20180709BHJP
【FI】
B64C29/00 Z
B64C29/00 A
A63H27/133 A
A63H27/133 B
!B64C39/02
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-522139(P2016-522139)
(86)(22)【出願日】2014年6月30日
(65)【公表番号】特表2016-527124(P2016-527124A)
(43)【公表日】2016年9月8日
(86)【国際出願番号】AU2014050102
(87)【国際公開番号】WO2015000028
(87)【国際公開日】20150108
【審査請求日】2017年6月29日
(31)【優先権主張番号】2013902429
(32)【優先日】2013年7月1日
(33)【優先権主張国】AU
(31)【優先権主張番号】2013902430
(32)【優先日】2013年7月1日
(33)【優先権主張国】AU
(31)【優先権主張番号】2013902431
(32)【優先日】2013年7月1日
(33)【優先権主張国】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】515343513
【氏名又は名称】エンテコー ピーティーワイ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ENTECHO PTY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(72)【発明者】
【氏名】シュランク, キム クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】シーバー, ケン
(72)【発明者】
【氏名】ラム, ロドニー
【審査官】
長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2006/0214052(US,A1)
【文献】
実開平05−024500(JP,U)
【文献】
米国特許第03410507(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0016877(US,A1)
【文献】
特表2013−527364(JP,A)
【文献】
特開2009−298248(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3150942(JP,U)
【文献】
国際公開第2012/026022(WO,A1)
【文献】
特開2006−247056(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3177449(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0155860(US,A1)
【文献】
米国特許第02927746(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0068882(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 29/00
A63H 27/133
B64C 39/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャーシと、
前記シャーシによって支持された、ラジアルドラムファン型又は遠心ファン型のロータであって、回転軸線、及び前記回転軸線の周りに環状に配置された複数のロータブレードを有するロータと、
前記ロータを回転させるためのトルク伝達手段であって、前記ロータの前記回転軸線の周りの弧に沿って間隔をあけて配置された、牽引力を発生させるための複数の原動機を含み、各原動機が、前記ロータを回転させるための牽引力を提供するために、対応するトルク伝達装置に接続されており、各原動機および各対応するトルク伝達装置が、前記ロータの前記回転軸線の周りに対を成して配置されている、トルク伝達手段と、
前記ロータのための、周方向に延びる駆動リムであって、周方向に延びる内側駆動面及び周方向に延びる外側駆動面を有し、前記内側駆動面及び前記外側駆動面の各々が、前記ロータを駆動して揚力を発生させるのに十分な接線力及び合成トルクとして牽引力を伝達するために、前記対を成すトルク伝達装置の各々の相補的なトルク伝達装置と係合可能である、駆動リムとを含み、
前記周方向に延びる駆動リムが、前記対を成すトルク伝達装置の間に配置され、前記対を成すトルク伝達装置によって回転可能である、空力揚力装置。
【請求項2】
前記対を成すトルク伝達装置の第1のトルク伝達装置が、前記駆動リムの前記周方向に延びる内面と係合可能であり、前記対を成すトルク伝達装置の第2のトルク伝達装置が、前記駆動リムの前記周方向に延びる外面と係合可能である、請求項1に記載の空力揚力装置。
【請求項3】
前記駆動リムの前記内面及び前記外面並びに前記対を成すトルク伝達装置には、相補的な溝付きの幾何学的形状が各々設けられ、前記内面及び前記外面は、前記トルク伝達装置の相補的な溝とかみ合う周方向に延びる複数の溝を有し、前記溝は、前記回転軸線の方向にかかる垂直荷重に耐えるものである、請求項2に記載の空力揚力装置。
【請求項4】
前記トルク伝達装置が、前記ロータの位置を拘束するように、前記駆動リムに当接する位置に荷重手段によって付勢されている、請求項3に記載の空力揚力装置。
【請求項5】
前記荷重手段が、所望のトルクを前記ロータに伝達するのに必要とされる摩擦力を発生させるのに十分なばね力を有するばねである、請求項4に記載の空力揚力装置。
【請求項6】
前記トルク伝達装置及び前記原動機が、可撓性又は剛性の拘束具によって前記シャーシに固定されている、請求項1に記載の空力揚力装置。
【請求項7】
前記拘束具が制動手段を含む、請求項6に記載の空力揚力装置。
【請求項8】
前記トルク伝達手段の各原動機及び各トルク伝達装置が、前記シャーシにピボット運動可能に取り付けられている、請求項1に記載の空力揚力装置。
【請求項9】
前記シャーシがトロイダル形状である、請求項1に記載の空力揚力装置。
【請求項10】
前記シャーシが浮揚性である、請求項1に記載の空力揚力装置。
【請求項11】
トロイダル形状の前記シャーシに、前記ファンの前記ロータから出た空気流及びベクトル推力を案内する案内面が設けられている、請求項9に記載の空力揚力装置。
【請求項12】
請求項1に記載の空力揚力装置を組み込んだ飛行機であって、前記飛行機の飛行姿勢、推力及び方向制御を与える、前記ロータの上部分の周りの領域に取り付けられた可撓性スカートを有するシュラウドを含む、飛行機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行機用の空力揚力装置に関し、特に推力制御又は推力誘導シュラウドを有するものに関する。本発明はまた、推力発生用にドラムロータ型ファンを用いる空力揚力装置及びかかる装置を組み込んだ飛行機に特に有用である。
【背景技術】
【0002】
有人及び無人の動力付き飛行機には、空中浮揚しながら静止位置でホバリングすることが可能なものがある。そのような航空機は、空気のクッションによって地面の近くで動作する飛行機から自由飛行及び垂直離着陸が可能な飛行機までの範囲にわたることができる。地面の近くで動作する飛行機は、輸送及びレクリエーション用途のために設計することができ、他方、自由飛行する飛行機は、商用航空機と比べて一般に低い高度で動作することができ、空港−都心間シャトル、旅行用途、住居−職場間通勤、捜索及び救助並びに監視作業を含む用途のためのものと考えることができる。
【0003】
地面効果を受けない飛行機では、揚力は、ファン、プロペラ、翼、又はその他のシステムによる空気質量の加速によって発生させることができる。空気質量が静止状態から下方向の所与の速度に変化すると、上方向の反作用が生成される。一般に、方向付けられる空気が多いほど、所与の揚力を生成するのに必要な動力は少なくなる。空気の体積を増大させることは、ヘリコプタで用いられる大直径の高速ブレードで明らかなように、一般に飛行機のサイズの増大を伴うので、このことが技術的課題を規定する。
【0004】
上記の課題に対処するために、出願人は、ヘリコプタよりも小型の形態の飛行機を提供する、相当するヘリコプタのブレードよりも均等に荷重がかかるファンブレードを使用した飛行機用の空力揚力装置を開発した。この装置は、底面積が比較的小さい飛行機内でドラムファン型ロータを使用し、典型的には、該ドラムファン型ロータは、重量と装置を浮揚させるのに必要な動力とを最小化するために軽量構造とされる。ファンは、ドラムロータ又はラジアルドラムファン、すなわち、有利にはブレード
の半径方向ピッチの25%未満の半径方向深さを有する環状領域を占めるブレードを有するファンとして説明することができる。ロータブレードをファンの回転軸線から距離を置いて配置することにより、ペイロードのための、又はより大きなサイズの飛行機の場合にはパイロット及び/又は乗客のための中央領域をロータ内に都合良く設けることができる。
【0005】
このようなドラムロータ型ファンの使用は、他の利点も提供する。そのような利点の1つは、ブレードが垂直に配置され、空気流が半径方向なので、効果的にブレードの全長が空力装置として(上述のヘリコプタブレードの先端部と比べて)完全に利用されることである。さらに、ドラムロータの設計は、各ブレードが上部及び下部支持リングによって両端で支持されることを可能にする(これもまた、ヘリコプタブレードの片持ち式設計とは対照的である)。また、製造費用の節約をもたらす単純な一定断面のブレード輪郭を用いることができる(ブレードの長さに沿った適正な迎え角を与えるように複雑な長手方向のねじりを利用するヘリコプタブレードとは対照的である)。
【0006】
ロータは、原動機、典型的には以下の考察から明らかになるようにロータ本体の外周の周りに配置された複数の原動機からトルクを伝達するための伝達手段を通じて回転するように、駆動されなければならない。空力揚力装置のロータを駆動するためのトルク伝達は、多くの課題を生じさせる。
【0007】
第1に、トルク伝達手段は、揚力を発生させるために必要とされるような要求される高レベルの動力をロータ内で発生させるために必要な、非常に高レベルの牽引力を伝達することが可能でなければならない。
【0008】
第2に、トルク伝達手段は、ロータ構造への損傷を避けるために、いかなる瞬間的な強い力も制動することが可能であるべきである。
【0009】
第3に、トルク伝達手段内で必要な牽引力を伝達するために必要とされる半径方向又は法線方向の荷重は、ロータ構造への損傷を避けるため、及び飛行機支持構造又はシャーシの重量を軽くするために、最小限に保たれるべきである。
【0010】
第4に、トルク伝達手段は、ロータが発生させるいかなる荷重も拘束することができなければならない。特に、駆動手段は、操縦中にロータがロール又はピッチするときにロータの軸方向で上向き及び下向きの両方向に発生するジャイロ荷重を拘束することができなければならない。
【0011】
出願人は、トルク伝達手段に関して多数の設計手法を試みた。
図1に示すように、トルク伝達手段は、ロータ112の外周11の外方に延びるように配置された、120度間隔で配置された複数の原動機(内燃(IC)エンジン110及び関連付けられた駆動システムの形態)と、支持する三角形フレーム177とを含む。外周は、ロータ112の下部分を形成する駆動リム113の円周114によって形成される。エンジン110は各々、ロータ176との摩擦接触を与える平らな背面122を有する歯形ベルト175を駆動し、ベルト175の歯付き面は、エンジン110の各々に接続されたモータプーリ186によって駆動され、ロータ112のロータ駆動リム118にトルクを伝達する。ロータ112の垂直方向及び半径方向の拘束は、ロータ駆動リム118の半径方向外面及び軸方向下面の両方に作用する付加的なローラ187によって与えられる。
【0012】
このローラ構成は、ジャイロ力を補償するために複雑である。さらに、非常に高い瞬間的且つ局所的な荷重は、ベルト及びロータ並びにローラに直接伝達される。従って、早期故障のリスクがあり、いずれにしても、望ましくない重量及び複雑さが装置に付加される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的はとりわけ、ロータを駆動させる改善されたトルク伝達手段を含む空力揚力装置を提供すると同時に、揚力装置の重量及び複雑さ、並びに以前の出願における原動機によって発生する高い瞬間的な点荷重によって引き起こされる故障のリスクを軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
これらの目的に鑑みて、本発明は、1つの態様において、シャーシと
、シャーシによって支持され
たロータであって、回転軸線の周りに環
状に配置された複数のロータブレードを有するロータと、ロータを回転させるためのトルク伝達手段であって、ロータの少なくとも1つの相補的であ
り周方向に延びる駆動面との協働によりロータに牽引力を与え、ロータを駆動
して揚力を発生させるのに十分な接線力及び合成トルクとして牽引力を伝達
するトルク伝達手段と、を含む空力揚力装置を提供する。
【0015】
特に好ましいロータ型式は、ラジアルドラ
ムファン
型又は遠心ファン
型である。トルク伝達手段は、種々の装置を通じて牽引力をロータに与えることができる。電気モータ、内燃エンジン又は電磁駆動装置(従来の電気モータ以外の)などの原動機が、牽引力を発生させるためのトルク伝達手段内に最も都合良く含まれる。有利には、トルク伝達手段は、空力揚力装置のシャーシに取り付けられた少なくとも1つの原動機を含む。しかしながら、従来の原動機を省いた構造を用いることができる。牽引力は、タービンによって発生される空気流(特にターボジェット及び高温排気とは全く対照的な低温空気流)によって発生させることができる。
【0016】
用いられる場合、各原動機は、牽引力を発生させて伝達し、この力がロータ駆動面に伝達されたときにロータを回転させる。これは種々の方法で達成され、摩擦によることが好都合であるが、それ以外にも、例えばらせん状ベルトを用いるような場合もある。例えば、原動機の出力シャフトは、ロータ駆動面と例えば係合又はかみ合いを通じて協働するトルク伝達装置に接続することができる。プーリ及び歯車(はすば歯車を含む)を含む多様なトルク伝達装置をこの目的で使用することができる。このようなトルク伝達装置は、トルク伝達装置はロータの軸線方向にかかる垂直荷重に耐えなければならないという要件を満たす
、周方向に延びるV(vee)構成又はポリV(poly vee)構成のようなリブ及び溝で形成されるのが有利である。
【0017】
この形態のトルク伝達手段は、中間的な自由運動ベルト駆動構成要素(関連付けられたプーリ及びアイドラを伴う)を必要とせず、構造が簡単になり、重量が軽減され、そうした自由ベルトに制御が困難な様式で作用するトルク及び高い局所的瞬間的荷重の問題が回避される。
【0018】
上記で暗示されたように、ロータの駆動面に作用する力を発生させて釣り合いをとることもまた重要である。この目的で、複数の原動機が、ロータの回転軸線の周りに間隔をあけて配置されることが有利である。トルク伝達装置は、ロータの回転軸線の周りに、グループで、特に対を成して配置することができる。このような場合、各々が空力揚力装置の支持体又はシャーシに取り付けられた1つ以上の原動機の出力シャフトは、それぞれのトルク伝達装置、例えばプーリ又は歯車に接続され、これらは望ましくは各々
、周方向駆動面の対応する長さ(「点」とも記載する)に当接してトルクをロータに伝達する。各トルク伝達装置
が周方向に延びる駆動面に当接する箇所で、その駆動面上に荷重点が形成されることが認識されるであろう。有利には、一対の伝達装置内の各トルク部材は、等しい反対向きの摩擦又は法線力を荷重点で駆動面にかけるように配置されて、牽引面に対して垂線方向の力によってロータが屈曲する傾向を軽減する。
【0019】
周方向に延びる駆動面は、ロータの外周の内方にあるものとすることができる
、ロータの
ための、周方向に延びるリム上に形成することができ、このリムは、揚力装置の回転軸線に向かって内方に面した内面と、回転軸線から半径方向外方に面した外面とを有する。駆動リムは、ロータの下部分を形成することになる
。周方向に延びる駆動面は、駆動リムと呼ばれることもあるロータリムの内面及び外面の各々の上に形成されることが特に有利である。各駆動面は、少なくとも1つの原動機と協働する。異なる原動機が有利には駆動リムの対向する側ではあるが同じ点を通じて各駆動面と協働して、その結果、上述の等しい反対向きの摩擦及び法線力を与えて屈曲の傾向を軽減するようになっていることが、より有利である。トルク伝達装置が対を成して配置される好ましい配置を上記で説明した。この場合、対の各トルク伝達装置は、駆動リムに対して同じ点において、駆動リム上のそれぞれの駆動面と協働する。このような配置において、回転可能な駆動リムは、ロータに対する半径方向の荷重を釣り合わせるようにトルク伝達装置の対の間に配置されて、高い瞬間的な点荷重を回避して屈曲を避けるようにされることが認識されるであろう。
【0020】
周方向に延びる
各々の駆動面には、上述のようなトルク伝達装置上に設けられる幾何学的形状に対して相補的な幾何学的形状が設けられることが有利である。このような場合、V又はポリVのような溝付きの幾何学的形状を
、周方向に延びる
各々の駆動面上に、例えば溝付きベルトを各駆動面に固定して各駆動面
が周方向に延びる
複数の溝を含むようにすることにより、都合良く設けることができる。これは、溝付きベルトの優れた牽引力を、都合良く摩擦を通じて利用することを可能にすると同時に、自由運動ベルトを用いた場合に生じ得る半径方向の荷重又はベルト張力を回避する。さらに溝付きの幾何学的形状の使用は、本明細書で説明するような上述のロータが受ける必然的な横方向のジャイロ荷重の拘束を支援する。
【0021】
トルク伝達装置、特にプーリ又は歯車は、金属構造製であるのに対し、ロータの駆動面は、ポリマー、特にゴム弾性構造製であることが有利であり、これは、摩擦力の効果を高め、駆動リム(これは典型的には軽量構造である)に対する高い局所的な半径方向の摩擦荷重の分散を支援し、それにより駆動リムに対する高い局所応力及びそれに続いて生じる損傷が回避される。
【0022】
牽引力は、多重の溝を形成するリブに、高い接線牽引力を与えると同時に摩擦を発生させるのに必要とされる必然的な半径方向又は法線方向の荷重を最小化するように選択された角度を付けることによって最適化することができる。最適な角度は、他のパラメータの中でもとりわけ、トルク伝達装置及びロータ駆動リムを形成する材料の摩擦係数の関数である。溝を形成するリブはまた、空中揚力装置がロール及びピッチ操縦を実行するときにロータによって発生する高い横方向のジャイロ力を維持するために、横方向又は軸方向に十分な強度を有することが望ましい。
【0023】
疑義を避けるために言えば、溝付き(例えばV又はポリV)の自由運動ベルト駆動構成要素を用いることは、これらの半径方向荷重及びベルト張力は、自動用途では典型的には問題にならないとは言え、仮に上述の空力揚力装置において用いた場合には顕著な問題を生じさせかねないので、望ましくない。溝は、必ずしも完全なV形である必要はないことが認識されるであろう。目標とするのは、許容できる製造費用でロータに牽引力を伝達するように最適化された溝形状である。
【0024】
上記のトルク伝達手段の構成は、ロータの位置を、以下の方向の一方又は両方で拘束することを可能にすることができる。
i.空力揚力装置の中心に関して半径方向、
ii.空力揚力装置の軸線の上向き及び下向き方向の軸方向。この方向での拘束は、主として、揚力装置(又はそれを含む飛行機)がロール若しくはピッチ操縦又はそれらの組合せを実行しているときにロータの回転によって発生するジャイロ力によって生成される。
【0025】
プーリ又は歯車などのトルク伝達装置は、荷重手段、例えば機械ばね若しくは空気ばね又は他の役圧装置などの付勢手段によって、駆動リムに当接する位置に付勢されることができることが有利である。これは、トルク伝達を支援するのみならず、ロータの位置も拘束する。荷重手段は、ロードセル又はロードワッシャを含む荷重変換器などの適切な力測定装置を用いて監視することができ、調整可能な力、例えばばね力を、原動機で駆動される一対のプーリの各プーリなどのそれぞれのトルク伝達装置の間にかけることができる。調整可能な力は、特に揚力を発生させるために、所望のトルクをロータに伝達するために必要とされる摩擦力を発生させるのに十分であるように設定されることが望ましい。
【0026】
さらに、トルク伝達装置及び原動機は、剛性又は可撓性の拘束具でシャーシに固定されるべきであり、該拘束具は、原動機の移動を拘束し、ロータの動作中に発生するいかなる振動も制動する、ばねなどの制動手段を含むことができる。
【0027】
空力揚力装置は、上述のようなトルク伝達手段及び他の構成要素のための支持体又はシャーシを組み込む。好ましいシャーシは、トロイダル形
状であり、これは、潜在的に良好な比強度特性を有し、浮揚を目的とした体積を有すように設計する(中空にする、又は浮
揚性材料で充填する)ことができる。空力揚力装置は、水上での使用のために配備することができ、望ましくは、水面に着水し、水面から離水することができる。これを可能にするために、ロータは、自由に回転することができるように、離着水の間、水面から離れている必要がある。浮
揚性のシャーシ構造は、ロータ本体を水位の上方に保持するように、理想的にはトロイダル
形状に形作ることができる。
【0028】
このようなシャーシには、ファンのロータから出た空気流を案内する、それゆえ上記空力揚力装置を組み込んだ飛行機の推力を案内する表面を設けることができる。
【0029】
本発明の別の態様は、シャーシと、シャーシによって支持さ
れ回転軸線を有するロータと、回転軸線の周り
に環
状に配置された複数のロータブレードを有するロータと、ロータを回転させるためのトルク伝達手段とを含む空力揚力装置であって、トルク伝達手段が動作すると揚力が発生するようになっており、ロータ及びトルク伝達手段を支持するためのシャーシがトロイダル形状である、空力揚力装置を提供する。
【0030】
上述のような空力揚力装置を組み込んだ飛行機が、本発明の別の態様を形成する。
【0031】
そのような飛行機の揚力推力を発生させるために、ロータからの空気流は、ロータを囲むシュラウドによって、ロータが与えた半径方向外向きの流れ方向から、概ね下向きの方向へ方向を変えられ、それにより上向きの推力が生成される。シュラウドは、ロータの上部分の周りの領域に取り付けられた可撓性スカートを含むことができ、これが空気流を偏向させて、その内容がここで引用により本明細書に組み入れられる本出願人の米国特許第7556218号、第8181902号及び第8646721号に記載の原理に従って、飛行機の飛行姿勢、推力及び方向制御をもたらす。このようなシュラウドは、複数のシュラウド部分で定められることが有利な流体出口領域を有し、該シュラウド部分は、その内容がここで引用により本明細書に組み入れられる米国特許第8646721号に詳細に記載された配置のペタル(花弁)の形態であることが有利である。
【0032】
本発明の流体力学的装置及び飛行機は、以下の、添付の図面を参照して作成されたその好ましい実施形態の説明からより完全に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】従来技術の空力揚力装置及び飛行機の略図である。
【
図2】本発明の1つの実施形態による空力揚力装置を含む飛行機の等角図である。
【
図3】
図2に示す飛行機のロータ及び支持体又はシャーシの上部斜視図である。
【
図4】空力揚力装置のトルク伝達手段を示す詳細部分等角断面図である。
【
図5】
図4に断面を示すトルク伝達手段の側断面図である。
【
図6】
図4及び
図5に示された矢印Aで指示されるトルク伝達手段及びロータ駆動リムの一部の部分詳細側断面図である。
【
図7】
図4から
図6までのロータ本体の駆動リムの詳細側断面図である。
【
図8】原動機及び
図4から
図7までに示すようなトルク伝達装置が取り付けられた支持体又はシャーシの上部等角図である。
【
図9】
図4から
図6までに示すトルク伝達手段の取付けを示す、
図8の詳細上部等角図である。
【
図13】さらなる本発明の実施形態による水上での使用のための空力揚力装置のシャーシ及びロータの部分を示す略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図2は、本出願人によって開発された多様な用途での使用が意図された飛行機100を示す。飛行機100は、およそ2.4メートル幅であり、オペレータ(図示せず)のためのコックピット操作領域111を提供すると同時に他の図面で示すようなロータ120を有するラジアルドラムファンによる流体流、すなわち空気流のために利用可能な領域を最大化する、中央積荷運搬スペース110を含む。ロータ120への空気流は、飛行機の中央領域を通って(すなわち、中央積荷運搬スペース110を通って)流れ、ドラムロータファン120によって半径方向に放出される。半径方向の空気流は、可撓性シュラウド130によって方向を変えられて、下向きの推力を発生させる。
【0035】
ロータ120の動作及びシュラウド130による空気流の偏向により推力を方向付けることは、米国特許第7559218号、第8181902号及び第8646721号に詳細に記載されており、これらの内容は引用により本明細書に組み入れられている。
【0036】
図2の飛行機100のシュラウド130は、平坦な環状リング(図示せず)の形状の概ね下方に面した流体出口領域を形成する。従って、流体出口領域132を通ってシュラウド130を出た空気流は、飛行機100の中心又は長手方向軸線210に概ね平行な方向になる。
【0037】
シュラウド130の流体出口領域132は、複数のペタル500の形態のシュラウド部分又はフラップを含み、これは一連の内側ペタル501及び一連の外側ペタル502を含み、これら全てのペタルは、ある程度の可撓性を有する材料製である。ペタル501、502は、各々の上部領域でシュラウドの剛性部分133に曲げ自在にヒンジで取り付けられている。これらのペタル501、502は、制御システムの一部を形成するアクチュエータ(図示していないが、本明細書で相互参照される特許に記載されている)によって制御され、飛行機100に作用する合成推力の位置及び/又は方向を変更するようになっている。
【0038】
ペタルシュラウド又はスカート130のさらに詳細な説明は、引用により本明細書に組み入れられている本出願人の米国特許第8646721号に記載されている。本発明による飛行機100の揚力を発生させるために用いられる空力揚力装置の好ましい実施形態のさらなる説明を以下に続ける。
【0039】
図3、
図4及び
図7を参照すると、飛行機100を動作させる空気流を発生させるためのラジアルドラムファンのロータ120が示されている。軽量複合構造の本質的に円形のロータ120は、ロータ120の回転軸線Rの周り
に環
状に配置された複数のロータブレード123が設けられた上部分を有する。ロータブレード123は、均等に離間され、垂直に配置され、上部キャッピングリング124と下部駆動リング125とで挟まれている。
【0040】
駆動リング125は
、周方向に延びる
内側及び外側の面126a及び126bを有す
る周方向駆動リム126の形態の、半径方向内方に位置する下部分を有する。ロータ120には、回転及び揚力を発生させるために十分な牽引力が与えられなければならず、このことは、原動機とロータ120との間にトルク伝達システムを必要とする。
【0041】
特に
図4から
図6まで、並びに
図8及び
図9を参照して本明細書で示されるトルク伝達システムは、電気モータ130の形態の複数の原動機を含む。6つの電気モータ130が設けられており、モータ130は、さらに後述するトロイダル形状の支持シャーシ200の延長部204内に形成されたベイ202の中に、対を成して取り付けられている。より詳細には、各モータ130は、モータ130及びシャーシ200にピボット運動可能に接続された平面アームを有するピボット運動するクレードル140に取り付けられる。ベイ202及びクレードル140は、回転軸線Rの周り
の弧に沿ってほぼ120度間隔で配置される
。弧に沿った間隔は、ロータ駆動リム126の真円度の僅かな変動を補償するように選択することができる。
【0042】
各モータ130の出力シャフトは、各クレードル140の最上部に形成された開口部141を通って突き出し、円形駆動プーリ139であるトルク伝達装置を駆動するために接続される。接続部は、プーリ139にかかる半径方向及び軸方向の荷重を支持するための軸受を含み、これは、それらの荷重を支えなければならない。プーリ139は、金属構造製である。
【0043】
各モータ対の半径方向内側のモータ130aは内側のプーリ139aを駆動し、半径方向外側のモータ130bは外側のプーリ139bを駆動して、駆動リム126を駆動するための牽引力及びトルクを与える。代替法において、単一のモータで両方のプーリ139a及び139bを、そうした目的を達成することを可能にする適切な伝達構成要素により駆動することができることが理解されるであろう。
【0044】
対を成す金属製プーリ139a及び139bは、駆動リム126との摩擦接触により、駆動リム126及びロータ120にトルクを与える。この目的で、
図6及び
図7に特に詳細に示すように、駆動リム126は、プーリ139a及び139bとかみ合う、それぞ
れ周方向に延びる
内側及び外側の駆動面126a及び126bを有する。これらの駆動面126a及び126bは、ゴム弾性構造であり、金属製プーリ139によって発生される摩擦力を高め、駆動リム126に対する高い局所半径方向摩擦荷重の分散を支援し、それにより駆動リム126に対する高い局所応力及びそれに続いて生じる損傷を回避する。
【0045】
さらにまた同じ目的で、平坦な表面幾何学形状では必要な摩擦力を発生させるには十分ではなく、特に有利には、両方の駆動面126a及び126b
に周方向に延びる溝170が設けられ、この溝170がプーリ139a及び139b上に形成された対応するリブ172とかみ合って、顕著な摩擦力を誘導し、トルク伝達を可能にする。このような溝170は、ここではポリV構成であり、これは市販のポリVタイプのベルトの背面(又は溝無し面)を、ここではテンショナ190と共に、内側及び外側の駆動面126a及び126bの両方の全円周の周りに接着剤で貼り付けることによって製作することができる。代替的に、溝付きの又はポリV構成を、駆動面126a及び126b内に形成するか又は別様に取り付けることができる。
【0046】
溝170及び介在するリブ171は、高い接線牽引力を与えると同時に摩擦及び必要なトルクを発生させるのに必要とされる必然的な半径方向又は法線方向の荷重を最小化するように選択された、角度を有する。リブ171はまた、飛行機100がロール及びピッチ操縦を実行するときにロータ120によって発生する高い横方向のジャイロ力を維持するために、横方向又は軸方向に十分な強度を有する。
【0047】
ポリV及び他のベルトは典型的には張力部材190(高張力繊維の形態)を含むが、これらは、自動運転用途では必要とされるとは言え、この用途では省略することができる。
【0048】
金属製プーリ139a及び139bが弾性駆動面126a及び126bと摩擦接触すると熱が発生することが認識されるであろう。しかしながら、ロータ120が回転するにつれ、駆動面126a及び126bは、(プーリ139と接触していないときに)十分な熱を失い、駆動面126a及び126bの容認できない温度上昇が避けられる。
【0049】
支持ブラケット又はクレードル140は各々、個別の又は共有のピボット143を通じてピボット運動可能に取り付けられたアームを含み、それぞれ内方及び外方のクレードル140a及び140bで形成される対を成して配置される。内方クレードル140aは、シャーシ200内のボス144に取り付けられた制動拘束具142によって拘束することができる。クレードル140、140a、140bは、各プーリ139aと対応するプーリ139bとの間に力をかけるために、空気ばね又は機械ばね(ここでは
図9及び
図10に示すような機械ばね146)などの荷重手段によって互いに付勢され又は荷重をかけられる。この力は、ここではばね力であり、調整可能であることが有利であり、必要なトルクを駆動リム126及びロータ120に伝達するのに必要とされる摩擦力を発生させるのに十分になるように設定される。従って、プーリ対の各プーリ139a及び139bもまた、駆動リム126にかかる半径方向の荷重が釣り合うように互いに半径方向に対向するように配置され、軽量複合構造の駆動リム126の屈曲が防止される。
【0050】
機械ばね146は、ばね力を測定する荷重変換器148で監視される。コックピット及び揚力面(この図には図示せず)は、
図4及び
図9から
図12までのボス152(ボス207と等しい)に取り付けられる。
【0051】
プーリ139a及び139b並びに電気モータ130は、モータ130及びロータ120の動作によって発生するいかなる振動も制御するばね又は制動手段を含む剛性モータ拘束具142(
図5及び
図9に示すような)によって、取付けボス144のところで飛行機100のシャーシ200に固定される。
【0052】
上述の配置は、半径方向及び軸方向におけるロータ120の拘束を可能にする。静止シャーシ200と回転ロータ120との間の気体漏れ(ドラムロータによって駆動されて揚力を発生させる空気)を最小化するために、ロータ120の半径方向の動きは最小限にしなければならない。これを達成する一方で、直径が2〜3mm変動することがある(この例ではおよそ600mm)のロータ120の製造時のばらつきに備えなければならない。駆動リム126の表面うねりもまた同様の量で変動することがある。ロータ120及び飛行機100の回転軸線Rの上向き及び下向き方向の軸方向の拘束は、飛行機100がロール若しくはピッチ操縦又はそれらの組合せを実行したときに発生するジャイロ力を補償する。
【0053】
飛行機100のコックピット、付随する荷重及び上述のトルク伝達システムを、取付けを通じて接続し、支持するためのトロイダルシャーシ200のさらなる説明を、以下、
図8から
図13までを参照しながら続ける。シャーシ200は、
図1に示すような三角形の重いフレーム177として形成された構造部材190の複雑なシャーシとは、構造及び重量の点で非常に異なる。
【0054】
シャーシ200は、炭素繊維、ガラス繊維又はアラミド繊維、並びに例えば紙、アラミド繊維又はアルミニウムのハニカム構造を使用することができる、複合構造のトロイダル本体を有し、中央に、ロータ本体120及び他の構成要素を配置するための開口部201を有する。シャーシ200は、この複合材料の一次構造又は外板を有し、外板は、ロータ120から空気流を案内して飛行機100のための揚力及び推力を発生させる湾曲面220を含む。
【0055】
シャーシ200は、位置201で接合される2つの別々に成形された部分200a及び200bから構築されており、飛行機100の揚力面によって発生する揚力荷重と、ロータ120及び上述のようなトルク伝達システムによって発生する引力と、電気モータ130、クレードル140及び関連付けられた駆動プーリ139によって発生する荷重と、パイロット、電池及び燃料の質量を含むコックピット及び他のペイロードの質量からの荷重とを含む、複数の荷重に対する支持及び拘束を与えることができる。さらに、シャーシは、コックピットに取り付けられたステータブレード並びにヨーベーン及びスカートペタル501、502のような制御面によって発生する荷重の支持及び拘束を与える。ステータ、ヨーベーン及びペタルの説明は、相互参照される米国特許第7556218号、第8181902号及び第8646721号の1つ以上にて提供される。
【0056】
シャーシ200は、クレードル140のためのピボットロケータ205及びモータ拘束具206のための架台を含むベイ202を有する内方延長部204を伴って形成される。コックピット及び揚力面は、ボス207の上に取り付けられる。案内面220の上限と接続する垂直面210は、ロータ120の外縁と嵌合して空気漏れを防ぎ、下部可動部分(図示せず)を収容する。シャーシ200はまた、複数のサスペンション取付位置208を有する。
【0057】
さらに、飛行機100は、水上での使用のために配備することができ、水面300に着水し、水面300から離水することができる。これは、離着水する間、ロータ120が空気中で自由に回転することができるように、ロータ120が水面300から持ち上げられていることを必要とする。トロイダルシャーシ200は、
図13に示すように飛行機100のロータ120を水面300の上方に持ち上げるのに十分な浮
揚性を有するように形作られる。
【0058】
本発明の流体力学的装置のその他の修正及び変形は、本開示を読んだ当業者には明らかであろう。そのような修正及び変形は、本発明の範囲内にあるとみなされる。