特許第6357859号(P6357859)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357859
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】永久磁石埋め込み式回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/27 20060101AFI20180709BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   H02K1/27 501C
   H02K1/27 501A
   H02K1/27 501M
   H02K1/27 501K
   H02K1/22 A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-98716(P2014-98716)
(22)【出願日】2014年5月12日
(65)【公開番号】特開2015-216786(P2015-216786A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2017年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111763
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100163832
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 直哉
(72)【発明者】
【氏名】島田 大志
(72)【発明者】
【氏名】持田 敏治
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 義之
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 英男
(72)【発明者】
【氏名】西村 博文
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−046421(JP,A)
【文献】 特開2011−004480(JP,A)
【文献】 特開2014−054061(JP,A)
【文献】 特開2010−233413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
H02K 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子の内部に、前記回転子の周方向に沿って、1極当たり2個の永久磁石を複数極埋め込んでなる永久磁石埋め込み式回転電機において、
前記回転子には、1極を構成するために、前記回転子の周方向に並んだ2個のスロットが形成され、この2個のスロットに2個の永久磁石が埋め込まれており、
前記1極を構成する2個のスロットの各々は、回転方向外側において前記回転子の外周と連通しており、当該2個のスロット間に挟まれた前記回転子の薄肉部分に臨む領域に非磁性材からなる磁石支持部材を各々収容し、かつ、前記薄肉部分から前記回転子の周方向に離れた位置に前記回転子の径方向に突出して前記永久磁石の端面に係合する突起を有し、前記磁石支持部材および前記突起により前記永久磁石を挟んで当該スロット内に位置固定してなり、前記回転子の回転中心軸を中心とする前記1極を構成する2個のスロットの内接円よりも前記回転子の外周方向に前記薄肉部分を有することを特徴とする永久磁石埋め込み式回転電機。
【請求項2】
前記回転子は、隣接する極間に前記回転子の回転中心軸から離れる方向に突出したq軸突起を有することを特徴とする請求項1に記載の永久磁石埋め込み式電動機。
【請求項3】
前記磁石支持部材が絶縁紙であることを特徴とする請求項1または2に記載の永久磁石埋め込み式回転電機。
【請求項4】
前記磁石支持部材が樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の永久磁石埋め込み式回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機や発電機等、回転子を有する回転電機に係り、特に回転子に永久磁石が埋め込まれた永久磁石埋め込み式回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石埋め込み式回転電機では、回転子の内部に、回転子の周方向に沿って、複数極分の永久磁石が埋め込まれている。この永久磁石埋め込み式回転電機では、永久磁石から発生され、固定子巻線と鎖交する磁束量に応じたマグネットトルクと、回転子コアの磁気抵抗を減らす方向に回転子コアを回転させるリラクタンストルクとが回転子に発生する。従って、永久磁石埋め込み式回転電機は、小型高出力高効率回転電機として広く用いられている。
【0003】
図11は、従来の永久磁石埋め込み式回転電機の回転子1の構成を示す断面図である。図11に示す例において、回転子1は、回転子鋼板を積層してなる回転子コア2を有する。この回転子コア2には、その周方向に沿って2個のスロット3および3’の組が4組形成されている。そして、各スロット3および3’の中に永久磁石4および4’が各々挿入されている。この2個のスロット3および3’と2個の永久磁石4および4’の組が、回転子コア2の1極を構成している。1極分の永久磁石4および4’は、回転子コア2の外周面に対して同じ極性の磁極を向けている。
【0004】
1極を構成する2個のスロット3および3’の間には、回転子コア2の薄肉部分であるセンタブリッジ8がある。また、各スロット3(3’)と回転子コア2の外周との間には、回転子コア2の薄肉部分であるサイドブリッジ9(9’)がある。
【0005】
各スロット3(3’)の内壁面のうち回転子1の内周側(回転中心に近い側)の内壁面には、回転子1の径方向に突出して永久磁石4(4’)の端面に係合する2個の突起7(7’)が2個形成されている。これらの突起7(7’)は、永久磁石4(4’)を回転子1の周方向両側から挟み、スロット3(3’)内に位置決め固定している。そして、各スロット3(3’)内において、センタブリッジ8に臨む領域には、永久磁石4(4’)の詰まっていない内側空洞部3a(3a’)があり、サイドブリッジ9(9’)に臨む領域には永久磁石4(4’)の詰まっていない外側空洞部3b(3b’)がある。
【0006】
この永久磁石埋め込み式回転電機の回転子1には、次式に示すトルクTが発生する。
T=P×ψa×Iq+P×(Ld−Lq)×Id×Iq ……(1)
上記式(1)において、Pは回転子1の極対数、ψaは固定子巻線と鎖交する磁束数、IdおよびIqは固定子巻線に流れる電流のd軸成分およびq軸成分、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンスである。ここで、d軸とは回転子1の磁極の中心を通る軸、すなわち、図11の例では回転子1の回転中心軸12から2個のスロット3および3’間のセンタブリッジ8を通過する軸である。また、q軸は、d軸から電気角90度ずれた磁極間方向の軸である。そして、上記式(1)において右辺第1項がマグネットトルクであり、右辺第2項がリラクタンストルクである。
【0007】
上記式(1)に示すように、リラクタンストルクは、d軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqとの差分を増加させることにより増加させることができる。図11に示す構成では、q軸方向の磁束が回転子コア2の鋼板からなる磁気抵抗の低い磁路を通過するため、q軸インダクタンスLqは小さい。一方、d軸方向の磁束の磁路は、永久磁石4および4’があるため、その磁気抵抗が高い。このため、d軸インダクタンスは大きくなる。従って、図11に示す永久磁石埋め込み式回転電機の回転子1によれば、リラクタンストルクを大きくすることができる。
【0008】
また、図11に示す永久磁石埋め込み式回転電機において、回転子1が高速回転すると、回転子コア2に遠心力が発生する。そして、特に、スロット3(3’)と回転子コア2の外周との間のサイドブリッジ9(9’)に遠心力に起因するせん断応力が掛かる。また、大トルク化を考えた場合、シャフト12を回転子コア2へ圧入もしくは焼き嵌めする際の締め代を大きくする必要があるため、シャフト12挿入後の回転子コア2に掛かる残留応力が大きくなる。図11に示す永久磁石埋め込み式回転電機では、1極内の2個のスロット3および3’間のセンタブリッジ8により、サイドブリッジ9および9’に掛かるせん断応力や残留応力を緩和している。なお、この永久磁石埋め込み式回転電機は例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−81754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上述した従来の永久磁石埋め込み式回転電機において、永久磁石固定用の突起7(7’)は応力集中が生じやすい。このため、回転子1を高速回転させ、または大トルクを発生させようとすると、突起7(7’)に過大な応力が集中し、最悪の場合、突起7(7’)が破損する。この場合、突起の数が多いほど破損する可能性のある箇所が増えるため、回転電機の故障リスクが増加する。
【0011】
また、従来の永久磁石埋め込み式回転電機では、リラクタンストルクを増加させるために、固定子巻線の電流を増加させ、永久磁石4(4’)の磁束を弱めるd軸方向の磁束を発生させる。その際に、永久磁石4(4’)のN極から発した磁束がセンタブリッジ8を経由して同永久磁石のS極に至る磁束漏れが増加し、永久磁石4(4’)の減磁耐量を低下させる問題が発生する。
【0012】
この減磁耐量の低下を防止するための方法として、永久磁石4(4’)の磁軸方向の厚みを増加させる方法が考えられる。しかし、この方法を採った場合、必要な磁石量が増加するため、材料費が増加し、永久磁石埋め込み式回転電機のコストが高くなる問題が発生する。
【0013】
この発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高速回転かつ大トルク化が可能であって、故障リスクが低く、かつ、減磁耐量が高く、少ない磁石量で構成可能な永久磁石埋め込み式回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、回転子の内部に、前記回転子の周方向に沿って、1極当たり2個の永久磁石を複数極埋め込んでなる永久磁石埋め込み式回転電機において、前記回転子には、1極を構成するために、前記回転子の周方向に並んだ2個のスロットが形成され、この2個のスロットに2個の永久磁石が埋め込まれており、前記1極を構成する2個のスロットの各々は、当該2個のスロット間に挟まれた前記回転子の薄肉部分に臨む領域に非磁性材からなる磁石支持部材を各々収容し、かつ、前記薄肉部分から前記回転子の周方向に離れた位置に前記回転子の径方向に突出して前記永久磁石の端面に係合する突起を有し、前記磁石支持部材および前記突起により前記永久磁石を挟んで当該スロット内に位置固定してなることを特徴とする永久磁石埋め込み式回転電機を提供する。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、1極を構成するための2個のスロットの各々は、当該2個のスロット間に挟まれた回転子の薄肉部分に臨む領域に非磁性材からなる磁石支持部材を各々収容している。このため、2個の永久磁石間の非磁性領域の幅を増加させ、減磁耐量を増加させることができる。また、各スロットには、突起を1個しか設けていないので、高速回転する永久磁石埋め込み式回転電機や大トルクを発生する永久磁石埋め込み式回転電機を構成する場合に故障リスクを減少させることができる。従って、この発明によれば、高速回転かつ大トルク化が可能であって、故障リスクが低く、かつ、減磁耐量が高く、少ない磁石量で構成可能な永久磁石埋め込み式回転電機を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明の第1実施形態である回転子の1極分の構成を示す断面図である。
図2】同実施形態の比較例である永久磁石埋め込み式回転電機の無負荷時における磁束の流れを示す断面図である。
図3】同永久磁石埋め込み式回転電機の負荷時における磁束の流れを示す断面図である。
図4】同実施形態における永久磁石とセンタブリッジの間の距離と減磁率の関係を示したグラフである。
図5】この発明の第2実施形態である回転子の1極分の構成を示す断面図である。
図6】この発明の第3実施形態である回転子の1極分の構成を示す断面図である。
図7】この発明の第4実施形態である回転子の1極分の構成を示す断面図である。
図8】この発明の第5実施形態である回転子の1極分の構成を示す断面図である。
図9】この発明の第6実施形態である回転子の1極分の構成を示す断面図である。
図10】この発明の第7実施形態である回転子の1極分の構成を示す断面図である。
図11】従来の永久磁石埋め込み式回転電機の回転子の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつこの発明の実施形態について説明する。
【0018】
<第1実施形態>
図1は、この発明の第1実施形態である永久磁石埋め込み式回転電機の回転子1Aの1極分の構成を示す断面図である。図1では回転子1Aが中央に有する回転軸や固定子の図示は省略している。
【0019】
回転子1Aは、高透磁率の鋼板を回転軸方向に積層した回転子コア2Aを有する。なお、このような構造の他、磁性鉄粉を必要な形状に成形して回転子コア2Aを構成してもよい。回転子コア2Aには、1極を構成するために、回転子コア2Aの周方向に並んだ2個のスロット3および3’が形成されている。これらの2個のスロット3および3’は、回転子コア2Aの薄肉部分であるセンタブリッジ8を間に挟んでいる。また、2個のスロット3および3’におけるセンタブリッジ8と反対側の各端部と回転子コア2Aの外周との間は、回転子コア2Aの薄肉部分であるサイドブリッジ9および9’となっている。回転子コア2Aにおいて、永久磁石4および4’よりも内周側の領域と外周側の外周縁部15は、センタブリッジ8とこのサイドブリッジ9および9’を介して繋がっている。
【0020】
本実施形態において、2個のスロット3および3’は、センタブリッジ8寄りの各端部が回転子コア2Aの回転中心軸(図示略)に近く、サイドブリッジ9および9’寄りの各端部が回転子コア2Aの外周寄りに位置しており、回転中心軸を下にして見た場合に全体としてV字形状をなしている。そして、このV字形状をなす1極分の2個のスロット3および3’内に、2個の永久磁石4および4’が各々埋め込まれている。これらの永久磁石4および4’は回転子コア2Aの外周面に対して同じ極性の磁極を向けている。
【0021】
各スロット3(3’)において、センタブリッジ8に臨む領域3a(3a’)には、磁石支持部材10(10’)が各々収容されている。そして、磁石支持部材10および10’は、永久磁石4および4’の相互に向かい合った内側端部6および6’に各々当接している。この磁石支持材10(10’)は、磁束漏れを防ぐために、絶縁紙や樹脂等の非磁性材により構成されている。
【0022】
一方、各スロット3(3’)における回転子コア2Aの内周側(回転中心軸に近い側)の内壁において、センタブリッジ8から離れた位置には、回転子コア2Aの径方向に突出した突起7(7’)が形成されている。この突起7(7’)は、永久磁石4(4’)における回転子コア2Aの極間寄りの外側端部5(5’)に係合している。
【0023】
そして、各スロット3(3’)内において、永久磁石4(4’)は、磁石支持部材10(10’)および突起7(7’)により回転子コア2Aの周方向両側から挟まれて位置固定されている。
【0024】
各スロット3(3’)において、サイドブリッジ9(9’)から突起7(7’)までの領域は、永久磁石4(4’)の詰まっていない外側空洞部3b(3b’)となっている。
【0025】
本実施形態において、永久磁石4(4’)は、回転子コア2Aの極間寄りの外側端部5(5’)が突起7(7’)によって支持される一方、回転子コア2Aの極中心寄りの内側端部6(6’)は磁石支持材10(10’)によって支持される。このように本実施形態では、永久磁石4(4’)を支持するための突起が1スロット当たり1箇所しかない。そのため、1スロット当たり2箇所の突起がある従来例(図11)と比較すると、本実施形態における回転子コア2Aは、高速回転時に応力集中の生じやすい突起の数が減っているため、故障リスクが減少する効果がある。なお、1スロット当たり2箇所に突起を設けたとしても、この場合は、高速回転時の応力が突起と磁石支持材10(10’)に分散されるため、突起の破損リスクが減少し、回転電機の故障リスクも減少する。
【0026】
また、本実施形態では、各スロット3(3’)内において永久磁石4(4’)とセンタブリッジ8との間に非磁性材からなる磁石支持部材10(10’)を介挿したので、2個の永久磁石4および4’間の非磁性領域の幅を増加させ、永久磁石4および4’の減磁耐量を増加させることができる。
【0027】
以下、この効果について比較例を参照しつつ説明する。図2および図3は、比較例として、図1において磁石支持部材10(10’)を設けない構成の回転子1A’を用いた永久磁石埋め込み式回転電機の磁束の流れを示すものである。ここで、図2は無負荷時における磁束の流れを示し、図3は固定子巻線用スロット14内の固定子巻線に電流を流した場合の磁束の流れを示している。図2に示すように、無負荷時には永久磁石4(4’)の磁束のみが発生し、この場合、センタブリッジ8を介した磁束漏れはわずかであり、ほとんど発生していない。しかし、永久磁石埋め込み式回転電機に負荷を与え、固定子巻線用スロット14にある固定子巻線に電流を流すと、図3に示すように、この固定子巻線からの反磁束により磁束線が図2とは異なり、センタブリッジ8に磁束漏れが発生する。
【0028】
センタブリッジ8での磁束漏れは、永久磁石4(4’)がセンタブリッジ8に近いほど発生しやすく、それに伴い、永久磁石4(4’)の減磁を生じやすい。そのため、永久磁石4(4’)の減磁耐量が減少し、大トルク化を図ることが難しくなる。そこで、減磁耐量を増加させるために、永久磁石4(4’)の磁軸方向の厚みを増やして磁束を増加させる、もしくは、磁束漏れが生じ難いようにセンタブリッジ8の幅を細くする施策が必要となる。しかし、永久磁石4(4’)の厚みを増すと、必要な磁石量が増加して材料費が増え、永久磁石埋め込み式回転電機の製造費が高くなる問題が生じる。一方、センタブリッジ8の幅を細くすると、センタブリッジ8の強度が弱くなり、永久磁石埋め込み式回転電機が高速回転に対応できなくなるという問題が生じる。
【0029】
そこで、本実施形態では、図1に示すように、スロット3(3’)内において永久磁石4(4’)とセンタブリッジ8との間に非磁性材からなる磁石支持部材10(10’)を介挿し、2個の永久磁石4および4’間の非磁性領域の幅を増加させているのである。
【0030】
図4は、永久磁石4および4’とセンタブリッジ8の間の距離と減磁率の関係を示したグラフである。このグラフは、本願発明者らが有限要素法を用いた磁界解析により得たものである。図4において、縦軸の減磁率とは減磁した割合を示した値であり、減磁率と減磁耐量は反比例の関係にある。すなわち、減磁率が減少すると減磁耐量は増加し、減磁率が増加すると減磁耐量は減少する。
【0031】
本実施形態では、図1に示すように、永久磁石4および4’の各々とセンタブリッジ8との間に非磁性材からなる磁石支持材10および10’を各々挿入し、永久磁石4および4’とセンタブリッジ8の間の距離を長くしている。従って、本実施形態によれば、減磁率を減少させて減磁耐量を増加させることができる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態によれば、1極を構成するための2個のスロット3および3’の各々において、センタブリッジ8に臨む領域に非磁性材からなる磁石支持部材10(10’)を各々収容しているため、2個の永久磁石4および4’間の非磁性領域の幅を増加させ、減磁耐量を増加させることができる。また、各スロット3および3’には、突起7(7’)を1個しか設けていないので、高速回転する永久磁石埋め込み式回転電機や大トルクを発生する永久磁石埋め込み式回転電機を構成する場合に故障リスクを減少させることができる。従って、本実施形態によれば、高速回転かつ大トルク化が可能であって、故障リスクが低く、かつ、減磁耐量が高く、少ない磁石量で構成可能な永久磁石埋め込み式回転電機を実現することができる。
【0033】
<第2実施形態>
図5は、この発明の第2実施形態である永久磁石埋め込み式回転電機の回転子1Bの1極分の構成を示す断面図である。回転子1Bは、回転子コア2Bを有する。上記第1実施形態と同様、回転子コア2Bには、1極分として、2つのスロット3および3’が形成されている。
【0034】
第1実施形態の回転子コア2Aと本実施形態の回転子コア2Bの違いは、スロット3および3’の配置の違いにある。すなわち、本実施形態において2個のスロット3および3’は、センタブリッジ8寄りの各端部が回転子コア2Bの外周寄りに位置し、センタブリッジ8と反対側の各端部が回転子コア2Bの回転中心軸寄りに位置しており、回転中心軸を下側にして見た場合に全体として逆V字形状をなしている。
【0035】
本実施形態においても上記第1実施形態と同様な効果が得られる。また、本実施形態によれば、回転子コア2Bにおいてスロット3および3’を逆V字形状に配置したので、さらに別の効果が得られる。この効果について説明すると、次の通りである。
【0036】
まず、図示しないシャフトの回転子1Bへの締り嵌め工程において、回転子鋼材には周方向に残留応力が残留する。この残留応力は、回転子1Bの高速回転中にも残ったままである。本願発明者らが有限要素法により計算したところ、この残留応力は、回転子鋼材に穴や窪みなどのある部分と同じ半径を持つ円周上には殆ど発生しないことが確認された(すなわち、穴も窪みもなく、リング状につながっている部分でないと応力は残存しない)。
【0037】
従って、第1実施形態における回転子コア2Aでは、スロット3および3’においてセンタブリッジ8に臨む内側空洞部3aおよび3a’が回転子コア2Aの回転中心軸に最も近い。このため、内側空洞部3aおよび3a’が接する円の円周内に残留応力が集中する。これに対し、本実施形態における回転子コア2Bでは、スロット3および3’においてセンタブリッジ8と反対側の各端部に内接する円の円周内に残留応力が集中する。
【0038】
一方、回転子1Bの高速回転時には、遠心力による引っ張り応力(遠心応力)がセンタブリッジ8に発生する。第1実施形態における回転子コア2Aでは、センタブリッジ8の位置は、残留応力が集中する内接円内に近いのに対し、本実施形態における回転子コア2Bでは、センタブリッジ8の位置は、残留応力が集中する内接円内よりも回転子コア2Bの半径方向外側に遠ざかる。
【0039】
このように本実施形態によれば、回転子1Bの高速回転時に遠心力による引っ張り応力が集中するセンタブリッジ8は、締り嵌め加工による残留応力が集中する内接円内から遠ざかっているため、回転子1Bの高速回転時におけるセンタブリッジ8の強度を高めることができる。従って、本実施形態による回転子1Bは、上記第1実施形態の回転子1Aに比べて、高速回転、大トルク化により有利な構成であるといえる。
【0040】
<第3実施形態>
図6は、この発明の第3実施形態である永久磁石埋め込み式回転電機の回転子1Cの1極分の構成を示す断面図である。上記第1実施形態と同様、回転子1Cの回転子コア2Cには、1極分として、2つのスロット3および3’が形成されている。そして、本実施形態における回転子コア2Cでは、1極分のスロット3および3’が一文字形状に配置されている。他の点は上記第1実施形態と同様である。本実施形態においても上記第1実施形態と同様な効果が得られる。
【0041】
<第4実施形態>
図7は、この発明の第4実施形態である永久磁石埋め込み式回転電機の回転子1Dの1極分の構成を示す断面図である。この回転子1Dの回転子コア2Dには、1極分として、2つのスロット3および3’が形成されている。上記第1実施形態と同様、2つのスロット3および3’は、回転軸中心を下側にして見た場合に全体としてV字形状をなしている。上記第1実施形態と異なり、本実施形態における回転子1Dは、スロット3および3’における外側空洞部3bおよび3b’を回転子1D外側に各々連通させる切り欠き部11および11’を有している。他の構成は、上記第1実施形態と同様である。本実施形態においても上記第1実施形態と同様な効果が得られる。
【0042】
本実施形態における回転子コア2Dは、スロット3および3’が回転子コア2D外周に連通した構成となっている。以下、この構成を採用した理由を説明する。
【0043】
回転子1Dの特に高速回転時には、回転子コア2Dの各部分に強大な遠心力が発生する。その際、第1実施形態、第2実施形態および第3実施形態のように、回転子コア2A〜2Cがセンタブリッジ8とサイドブリッジ9および9’を持つ場合には、このセンタブリッジ8とサイドブリッジ9および9’に大きな応力が発生する。この場合、回転子1A〜1Cの回転により発生する遠心力により、センタブリッジ8に引っ張り応力が働くのに対し、サイドブリッジ9および9’にはせん断応力が発生する。このため、高速回転による回転子1A〜1Cの破損を防止するためには、センタブリッジ8よりはむしろサイドブリッジ9および9’の強度を十分に高くする必要がある。しかし、このようなセンタブリッジ8とサイドブリッジ9および9’の強度設計を行うことは一般的に難しい。
【0044】
そこで、本実施形態では、回転子コア2Dの構成として、スロット3および3’が回転子1D外周に連通した構成、すなわち、第1実施形態におけるサイドブリッジ9および9’のない構成を採用した。本実施形態によれば、回転子コア2Dが最外周にサイドブリッジ9および9’を有していないため、回転子コア2Dの最外周には組み立て残留応力が残存しない。回転子1Dの回転時の遠心力により発生する応力はセンタブリッジ8に集中するが、このセンタブリッジ8に働く応力は引っ張り応力であるため、センタブリッジ8の幅の調整等によりセンタブリッジ8が破損に至らないように対処することが容易である。しかも、外側空洞部3bおよび3b’が回転子コア2Dの最外周に連通した回転子1Dの構成は、以下に述べる大きな利点をもたらす。
【0045】
本実施形態における回転子コア2Dは、サイドブリッジ9および9’のある第1実施形態、第2実施形態および第3実施形態の回転子コア2A〜2Cに比して磁束の漏れ経路が少ない。このため、永久磁石4および4’の磁束が固定子巻線に鎖交しやすく、これがトルクの増加に貢献する。
【0046】
さらに本実施形態の回転子コア2Dは冷却面でも利点がある。すなわち、本実施形態の回転子コア2Dは、回転軸方向の風通しがよく、冷却、とりわけ磁石冷却に有利である。従って、本実施形態による回転子コア2Dを採用することにより、モータ容量に関する規制を緩和することができる。
【0047】
<第5実施形態>
図8は、この発明の第5実施形態である永久磁石埋め込み式回転電機の回転子1Eの1極分の構成を示す断面図である。回転子1Eの回転子コア2Eには、1極分として、2つのスロット3および3’が形成されている。上記第2実施形態と同様、1極分のスロット3および3’は逆V字状に配置されている。そして、上記第2実施形態と異なり、本実施形態における回転子コア2Eは、スロット3および3’の外側空洞部3bおよび3b’を回転子コア2Eの外周に各々連通させる切り欠き部11および11’を有している。他の構成は上記第2実施形態と同様である。
【0048】
本実施形態によれば、上記第2実施形態と同様な効果が得られる。また、本実施形態によれば、上記第4実施形態と同様、回転子コア2Eにサイドブリッジを設けない構成としたため、上記第4実施形態と同様な効果が得られる。また、本実施形態では、サイドブリッジがなく、かつ、スロット3および3’が逆V字状に配列されているため、永久磁石4および4’は、スロット3および3’の外側の外周縁部15により全長に亙って均一な応力で支えられることになる。このため、永久磁石4および4’の内部に応力が発生しにくく、永久磁石4および4’を破損から保護することができる。
【0049】
<第6実施形態>
図9は、この発明の第6実施形態である永久磁石埋め込み式回転電機の回転子1Fの1極分の構成を示す断面図である。上記第3実施形態と同様、回転子1Fの回転子コア2Fには、1極分として、2つのスロット3および3’が一文字状に配置されている。また、上記第4実施形態と同様、本実施形態における回転子コア2Fは、スロット3および3’の外側空洞部3bおよび3b’を回転子コア2Fの外周に各々連通させる切り欠き部11および11’を有している。他の構成は上記第3実施形態と同様である。本実施形態によれば、上記第3実施形態および上記第4実施形態と同様な効果が得られる。
【0050】
<第7実施形態>
図10は、この発明の第7実施形態である永久磁石埋め込み式回転電機の回転子1Gの1極分の構成を示す断面図である。本実施形態は、上記第5実施形態の変形例である。
【0051】
回転子1Gの回転子コア2Gにおいて、1極分のスロット3および3’は、上記第5実施形態と同様、逆V字状に配列されている。1極分の外周縁部15は、略円弧状の断面形状を有しており、回転子コア2Gの回転方向中央において、センタブリッジ8を介して回転子コア2Gの芯部と繋がっている。この外周縁部15の外周面は、回転中心軸Qから回転子コア2Gの最外周部までの距離よりも小さい曲率半径を有している。これは、外周縁部15をこのような形状とすることで、トルクの高調波成分が削減され、その削減された分だけ回転子1Gに発生するトルクの基本波成分が増加するからである。なお、このように外周縁部15の全部ではなく、外周縁部15の一部の曲率半径を回転中心軸Qから回転子最外周部までの距離より小さくしてもよい。
【0052】
上記第5実施形態と同様、スロット3(3’)においてセンタブリッジ8に臨む内側空洞部3a(3a’)には非磁性材からなる磁石支持部材10(10’)が挿入されている。一方、各スロット3(3’)の内壁のうち外周縁部15の端部近傍には、回転子1Gの回転軸Qのある方向に突出した突起17(17’)が形成されている。この突起17(17’)は、永久磁石4(4’)における回転子1Gの極間寄りの外側端部5(5’)に係合している。本実施形態において、永久磁石4(4’)は、磁石支持部材10(10’)および突起17(17’)により、回転子1Gの周方向両側から挟まれてスロット3(3’)内に位置決め固定されている。本実地形態では、突起17(17’)の位置が上記第5実施形態と異なるが、この点を除けば、永久磁石4(4’)をスロット3(3’)内に固定するための構成は基本的に上記第1〜6実施形態と同様である。従って、本実施形態によれば上記第1〜第6実施形態と同様な効果が得られる。
【0053】
スロット3(3’)の外側空洞部3b(3b’)は、図10に破線3wで示すように、回転中心軸Q側に凹んでいる。そして、上記第2実施形態においても説明したように、本実施形態では、スロット3および3’が逆V字状に配列されているため、図10に示すように、回転中心軸Qを中心とし、スロット3(3’)の外側空洞部3b(3b’)と接する内接円21の円周上の領域に残留応力が集中する。
【0054】
一方、スロット3および3’が逆V字状に配列されているため、センタブリッジ8の内周側端部8bは、回転中心軸Qから見て内接円21よりも離れたところにある。このため、本実施形態においても、上記第2実施形態と同様な効果が得られる。
【0055】
本実施形態の1つの特徴としq軸突起19がある。このq軸突起19は、回転子1Gの極間の中央の位置において2個の外周縁部15間の隙間を通過して遠心方向(回転中心軸Qから離れる方向)に突き出している。
【0056】
本実施形態では、このq軸突起19を設けたことにより、q軸方向の磁束の磁路の磁気抵抗を低くし、リラクタンストルクを増加させることができる。従って、本実施形態によれば、上記第1〜第6実施形態に比べ、より大きなトルクの得られる永久磁石埋め込み式回転電機を実現することができる。
【符号の説明】
【0057】
1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G……回転子、2A,2B,2C,2D,2E,2F,2G……回転子コア、3,3’……スロット、3a,3a’……内側空洞部、3b,3b’……外側空洞部、4,4’……永久磁石、5,5’……永久磁石外周側端部、6,6’……永久磁石内周側端部、7,7’,17,17’……突起、8……センタブリッジ、9,9’……サイドブリッジ、10,10’……磁石支持部材、11,11’……切り欠き部、12……シャフト、13……固定子、14……固定子巻線用スロット、15……外周縁部、19……q軸突起。
図1
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