特許第6357863号(P6357863)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357863
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】正極、蓄電装置および正極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1391 20100101AFI20180709BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20180709BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20180709BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20180709BHJP
【FI】
   H01M4/1391
   H01M4/62 Z
   H01M4/505
   H01M4/525
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-101015(P2014-101015)
(22)【出願日】2014年5月15日
(65)【公開番号】特開2015-219999(P2015-219999A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】河野 聡
(72)【発明者】
【氏名】篠田 英明
【審査官】 松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−063594(JP,A)
【文献】 特開平11−191417(JP,A)
【文献】 特開2012−250186(JP,A)
【文献】 特開2010−212046(JP,A)
【文献】 特開2002−358967(JP,A)
【文献】 特表2006−526878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13−62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質および吸熱材を含む正極合材を集電体上に配置して正極活物質層を形成する正極活物質層形成工程を含み、
前記正極活物質として、層状岩塩構造をなしニッケル元素(Ni)を含むものを用い、
前記吸熱材として、水酸化アルミニウムおよび/または水酸化マグネシウムからなるものを用い、
前記正極活物質の粒径D50は3μm以上7μm以下であり、かつ、前記吸熱材の粒径D50は3μm以上7μm以下であり、
前記吸熱材の配合量は、層状岩塩構造をなしニッケル元素(Ni)を含む前記正極活物質を100質量部としたときに3〜7質量部となる量であり、
前記正極活物質層形成工程は、前記正極活物質と前記吸熱材とを予め混合する予混合工程と、前記予混合工程で得られた混合物に結着剤、導電助剤及び溶剤を加えてスラリー状の正極合材とする混合工程と、を有する、正極の製造方法。
【請求項2】
前記吸熱材は水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムからなる請求項に記載の正極の製造方法。
【請求項3】
前記正極活物質は、LiNiCoMn(但し、0.2≦a≦1.2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、Laから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1)である請求項1又は請求項に記載の正極の製造方法。
【請求項4】
前記正極合材における前記吸熱材の配合量は、前記正極合材の固形分全体を100質量部としたときに1質量部以上10質量部以下である請求項〜請求項の何れか一項に記載の正極の製造方法。
【請求項5】
前記吸熱材の粒径D50は6μm以上7μm以下である、請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の正極の製造方法。
【請求項6】
0<b≦0.8である、請求項3に記載の正極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等の蓄電装置、当該蓄電装置に使用できる正極、および当該正極を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電装置用の正極活物質として、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.5Co0.2Mn0.3等の、ニッケル元素(Ni)を含有し層状岩塩構造をなすもの(以下、必要に応じてNi系正極活物質と略する)が知られている。Ni系正極活物質によると蓄電装置を高容量化できることが知られているが、その一方で、Ni系正極活物質は充電時に高温下におかれると発熱反応を示す。つまり、Ni系正極活物質を用いた蓄電装置は、充電状態での熱安定性に優れるとは言い難い。特に、上記したNi系正極活物質は層状岩塩構造をなすために、構造の上でも熱的に安定とは言い難い。したがって、Ni系正極活物質を有する正極において、熱安定性を向上させる技術が望まれている。
【0003】
特許文献1には、電池の熱的安全性を確保するために、電極表面にコート層を設ける技術が提案されている。特許文献1によると、吸熱性無機物粒子およびバインダでコート層を構成することで、コート層にセパレータとしての機能と吸熱性とを付与し得るとされている。つまり、吸熱性無機物粒子およびバインダで構成されたコート層は、熱収縮し難いため、電池の温度が上昇した場合にも正極と負極との直接接触を阻害できると考えられる。また、吸熱性無機物粒子自身が熱吸収または熱消費することで、電池の急激な発熱を抑制でき、コート層(つまりセパレータ)の熱収縮を抑制でき、ひいては正極と負極との直接接触を阻害できると考えられる。
【0004】
しかし、特許文献1に開示されている技術では、コート層をセパレータとして用いているため、コート層を形成するのが容易でないという問題がある。つまり、この場合のコート層は、電解液および電荷担体の通過を許容し得る多孔質膜である必要がある。しかし、薄い多孔質膜を電極表面に形成すること自体が容易ではなく、特殊な技術を必要とする。このため、特許文献1に紹介されている技術は実用的とは言い難く、Ni系正極活物質を有する正極において熱安定性を向上させ得る技術の更なる向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−38734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、Ni系正極活物質を有する正極において、熱安定性を向上させ得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者等は、鋭意研究の結果、吸熱材をNi系正極活物質と混合した状態で用いることで、熱安定性の向上した正極を容易に製造できることを見出した。また、この正極をセパレータと併用することで、熱安定性に優れた蓄電装置を容易に製造し得ることを見出した。
【0008】
つまり、上記課題を解決する本発明の正極は、層状岩塩構造をなしニッケル元素(Ni)を含む正極活物質と、
水酸化アルミニウムおよび/または水酸化マグネシウムからなる吸熱材と、を混合状態で正極活物質層に含むものである。
【0009】
また、上記課題を解決する本発明の蓄電装置は、上記した本発明の正極と、負極と、電解質とを有するものである。
【0010】
さらに、上記課題を解決する本発明の正極の製造方法は、正極活物質および吸熱材を含む正極合材を集電体上に配置して正極活物質層を形成する正極活物質層形成工程を含み、
前記正極活物質として、層状岩塩構造をなしニッケル元素(Ni)を含むものを用い、
前記吸熱材として、水酸化アルミニウムおよび/または水酸化マグネシウムからなるものを用い、
前記正極活物質層形成工程において、前記正極活物質と前記吸熱材とを予め混合した混合物を前記正極合材に配合するものである。
【0011】
本発明の正極および蓄電装置は、以下の(1)〜(3)、(6)の何れかを備えるのが好ましく、(1)〜(3)、(6)の複数を備えるのがより好ましい。また、本発明の正極の製造方法は、以下の(1)、(2)、(4)〜(6)の何れかを備えるのが好ましく、(1)、(2)、(4)〜(6)の複数を備えるのがより好ましい。
【0012】
(1)前記吸熱材は水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムからなる。
(2)前記正極活物質は、LiNiCoMn(但し、0.2≦a≦1.2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、Laから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1)である。
(3)前記正極活物質層における前記吸熱材の含有量は、前記正極活物質層全体を100質量%としたときに1質量%以上10質量%以下である。
(4)前記正極合材における前記吸熱材の含有量は、前記正極合材の固形分全体を100質量部としたときに1質量部以上10質量部以下である。
(5)前記正極合材における前記吸熱材の含有量は、前記正極活物質を100質量部としたときに1質量部以上10質量部以下である。
(6)前記正極活物質の粒径D50は3μm以上7μm以下であり、かつ、前記吸熱材の粒径D50は3μm以上7μm以下である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の正極は、Ni系正極活物質と吸熱材とを含むものであり、吸熱材の存在により蓄電装置の急激な温度上昇を抑制できる。また、Ni系正極活物質と吸熱材とが混合された状態で存在することで、吸熱材の効果が充分に発揮され易い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】従来の正極における熱の伝達を模式的に説明する説明図である。
図2】本発明の正極における熱の伝達を模式的に説明する説明図である。
図3】実施例1、実施例2および比較例の正極における正極活物質層の発熱挙動を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限aおよび上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。以下、必要に応じて、正極と負極とを総称して電極と呼ぶ。また、特に説明のない場合「正極活物質」とはNi系正極活物質を指す。
【0016】
本発明の正極は、通常の正極と同様に正極活物質層を有する。この正極活物質層は、正極活物質と吸熱材とを混合状態で含む。本発明の正極は、正極活物質として上述したNi系正極活物質を用いているために蓄電装置の高容量化を図ることができ、かつ、吸熱材を併用することで熱安定性にも優れる。
【0017】
より詳しくは、本発明の正極では正極活物質としてNi系正極活物質を用い、かつ、吸熱材として水酸化アルミニウムおよび/または水酸化マグネシウムを用いている。上述したように、充電状態のNi系正極活物質は所定の温度域で発熱反応を示すため、Ni系正極活物質を有する正極、および、当該正極を有する蓄電装置は、充電状態で高温に曝すと発熱する可能性がある。具体的には、Ni系正極活物質の一種として知られているLiNi0.5Co0.2Mn0.3は、充電状態において、300℃付近に急峻なピークを有する発熱反応を示す。
【0018】
一方、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムは、何れも、吸熱材として知られている無機材料である。例えば水酸化アルミニウムは200℃未満の温度では安定した状態にあるが、200℃〜350℃付近の温度域で吸熱を伴う脱水反応が生じて、アルミナ(Al)と水とを生じる。水酸化マグネシウムも同様の反応機構により吸熱するが、水酸化マグネシウムの脱水反応すなわち吸熱反応が生じる温度域は、300℃〜400℃付近である。このように、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムの吸熱温度域は上述したNi系正極活物質の発熱温度域に近く、これらの吸熱材をNi系正極活物質と併用することで、Ni系正極活物質に起因する発熱を有効に抑制し得る。なお、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムは吸熱温度域の異なる吸熱材であるため、これらを併用すれば、より広い温度域で正極活物質の発熱を抑制できる利点がある。以下、Ni系正極活物質としてLiNi0.5Co0.2Mn0.3を用いる場合を例に挙げて、2種の吸熱材を併用する利点を説明する。なお、必要に応じて、LiNi0.5Co0.2Mn0.3をNCM523と略する。
【0019】
Ni系正極活物質としてNCM523(発熱温度域300℃付近)を用い、吸熱材として水酸化アルミニウム(吸熱温度域200〜350℃付近)を用いる場合、水酸化アルミニウムの吸熱反応が比較的低い温度域で生じるため、正極の温度はNCM523の発熱温度域にまで上昇し難い。したがって、この場合にはNCM523の発熱自体を抑制することが可能である。また、仮にNCM523が発熱して正極の温度が300℃を超える場合にも、吸熱材としてさらに水酸化マグネシウムを併用することで、NCM523および正極の更なる温度上昇を抑制できる。上述したように、水酸化マグネシウムの吸熱温度域はNCM523の発熱温度域を越える(300℃〜400℃付近)ためである。
【0020】
また、吸熱材で正極活物質層をコートするのではなく、吸熱材と正極活物質とを混合状態で用いることで、正極(より具体的には正極活物質層)における熱の伝達を多数の伝達経路において遮断或いは阻害できる。このため、本発明の正極においては、正極活物質の発熱に起因する温度上昇が効率良く抑制される。
【0021】
つまり、図1に示すように、吸熱材20を含むコート層2を正極活物質層1上に設けた従来の正極において、吸熱材20とNi系正極活物質10との平均距離は比較的遠い。このため、Ni系正極活物質10から吸熱材20に至るまでに、隣接したNi系正極活物質11同士からなる熱の伝達経路が多く存在する。また、コート層2は正極活物質層1の上層にのみ設けられているので、正極活物質層1における熱伝達は正極活物質層−コート層間では遮断または阻害されるが、正極活物質層内では遮断されない。したがって、吸熱材20に伝達した熱は吸熱されるものの、発熱したNi系正極活物質11と発熱前のNi系正極活物質11との間での連鎖的な熱伝達は阻害されずに進行する。つまり図1に示す従来の正極では、依然として、温度上昇を抑制し難い。
【0022】
これに対して本発明の正極によると、図2に示すように、Ni系正極活物質10と吸熱材20とは混合された状態で存在し、両者の平均距離は近い。さらに、Ni系正極活物質10と吸熱材20とは混合された状態で存在するため、発熱したNi系正極活物質11と発熱前のNi系正極活物質10との間に吸熱材20が介在する可能性が高い。したがって、Ni系正極活物質11、10間での連鎖的な熱伝達は吸熱材20によって遮断または阻害され易く、正極活物質層全体の温度上昇は効率良く抑制される。
【0023】
<蓄電装置>
本発明の蓄電装置は、正極、負極および電解質を必須とし、必要に応じてセパレータを含む。例えば、蓄電装置における電解質が固体電解質である場合やポリマー電解質である場合等、本発明の蓄電装置自体がセパレータを必要としない場合もある。また、正極活物層および/または負極活物質層上にセパレータとして機能するコート層を設ける場合等、正極の一部がセパレータを構成し、別途セパレータを設ける必要のない場合もある。何れの場合にも、本発明の正極および蓄電装置における正極活物質層は吸熱材を含み、当該吸熱材はNi系正極活物質と混合された状態で正極活物質層中に存在する。なお必要に応じて、本発明の蓄電装置は、セパレータ等の正極活物質層以外の構成要素に吸熱材を含んでも良い。
【0024】
〔正極〕
正極は正極活物質層を含み、正極活物質層は、通常の蓄電装置における正極と同様に、集電体上に設けられる。正極活物質層は、全体が集電体上に露出していても良いし、一部が集電体上に露出し他の一部が集電体の内部に入り込んでいても良い。正極活物質層は、Ni系正極活物質および吸熱材を主成分とし、バインダや導電助剤等の添加剤を含み得る。ここでいう主成分とは、正極活物質層全体を100質量%としたときに50質量%以上を占める成分を指す。
【0025】
Ni系正極活物質は、層状岩塩構造をなしNi元素を含む。例えばNi系正極活物質としては、LiNiCoMn(0.2≦a≦1.2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、Laから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1)を挙げることができる。Ni系正極活物質として用いられる何れの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすれば良く、基本組成に含まれるNi以外の金属元素を他の金属元素で置換したものを使用することも可能であるし、Niの一部を他の金属元素で置換したものも使用可能である。具体的には、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.5Mn0.5、LiNi0.8Co0.2等を挙げることができる。その他、Li1.2Mn0.4Fe0.2Ni0.2、Li1.2Mn0.4Ni0.4、Li1.2Mn0.6Ni0.2、Li1.23Mn0.33Ti0.13Fe0.15Ni0.15等を挙げることもできる。
【0026】
吸熱材としては、水酸化アルミニウムおよび/または水酸化マグネシウムが用いられる。これら2種の吸熱材の何れを選択するか、および、両方を選択する場合にどのような配合割合にするか、はNi系正極活物質の種類(特に、使用されるNi系正極活物質の発熱温度域)に応じて適宜設定すれば良い。
【0027】
また、上述したように、本発明の正極および蓄電装置ならびに正極の製造方法においては、これらの吸熱材とNi系正極活物質とが均質に分散するよう混合することによって、吸熱材による吸熱効果を充分に発揮させることができ、Ni系正極活物質の発熱を抑制することができる。つまり、本発明の正極および蓄電装置ならびに正極の製造方法においては、吸熱材およびNi系正極活物質として、互いに均質に分散し易いものを選択するのが好ましい。具体的には、吸熱材およびNi系正極活物質の粒径(二次凝集体の粒径)を同程度にすることで、吸熱材とNi系正極活物質とが微細かつ均質に分散し易くなる。一般的なNi系正極活物質の二次凝集体の粒径(D50)は3〜7μmである。このため、吸熱材の粒径D50もまた3〜7μmであるのが好ましい。Ni系正極活物質の粒径および吸熱材の粒径は、上記の範囲外であっても良いが、この場合には、Ni系正極活物質の粒径D50を100%としたときの吸熱材の粒径D50が、40%以上250%以下の範囲内にあるのが好ましい。
【0028】
Ni系正極活物質の発熱抑制を考慮すると、吸熱材の量は多ければ多い程良いと考えられるが、吸熱材の量が過大であると、Ni系正極活物質の量が低下して正極の容量を充分に確保できない可能性がある。正極の容量を充分に確保しかつ発熱を充分に抑制することを考慮すると、吸熱材は、正極合材の固形分全体を100質量部としたときに1質量部以上10質量部以下であるのが良く、3質量部以上7質量部以下であるのがより好ましい。さらに、正極合材における吸熱材の配合量は、Ni系正極活物質の配合量を100質量部としたときに1質量部以上10質量部以下であるのが好ましく、3質量部以上7質量部以下であるのがより好ましい。
【0029】
また、本発明の正極を製造する場合、Ni系正極活物質と吸熱材とを均質に分散させるため、正極合材を調製する際に、先ず、Ni系正極活物質と吸熱材とを混合する必要がある。つまり本発明の正極の製造方法では、正極活物質層を形成する工程(正極活物質層形成工程)において、Ni系正極活物質と吸熱材とを予め混合して得られた混合物(以下、必要に応じて活物質混合物と呼ぶ)を用いて正極合材を調製する。Ni系正極活物質と吸熱材とをなるべく均質に分散させるためである。
【0030】
なお、本発明の正極はNi系正極活物質以外の正極活物質(以下、必要に応じて非Ni系正極活物質と呼ぶ)を含んでも良い。この場合、非Ni系正極活物質としては、一般的な正極活物質を選択することができる。例えば、LiMn、LiMnO等のスピネル、LiMPO、LiMVOまたはLiMSiO(式中のMはCo、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質として、LiFePOFなどのLiMPOF(MはNi以外の遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBOなどのLiMBO(MはNi以外の遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。これらの非Ni系正極活物質においても、Ni系正極活物質と同様に、正極活物質として用いられる何れの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすれば良く、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能である。その他、非Ni系正極活物質として、硫黄単体(S)、硫黄と炭素を複合化した化合物、TiSなどの金属硫化物、V、MnOなどの酸化物、ポリアニリンおよびアントラキノンならびにこれら芳香族を化学構造に含む化合物、共役二酢酸系有機物などの共役系材料、その他公知の材料を用いることもできる。さらに、ニトロキシド、ニトロニルニトロキシド、ガルビノキシル、フェノキシルなどの安定なラジカルを有する化合物を正極活物質として採用しても良い。
【0031】
これらの非Ni系正極活物質は、Ni系正極活物質と同様に、吸熱材と均質に混合しても良い。或いは、Ni系正極活物質と吸熱材とを予め混合して得られた活物質混合物に、さらに非Ni系正極活物質を加えても良い。つまり、Ni系正極活物質に起因する温度上昇を抑制するためには、Ni系正極活物質と吸熱材とが均質に混合されれば良く、非Ni系正極活物質の混合状態は特に問わない。
【0032】
バインダは、正極活物質を集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂を例示することができる。また、バインダとして、親水基を有するポリマーを採用しても良い。親水基を有するポリマーの親水基としては、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、アミノ基、水酸基、リン酸基などリン酸系の基などが例示される。
【0033】
正極活物質層中のバインダの配合割合は、質量比で、正極活物質:バインダ=1:0.005〜1:0.3であるのが好ましい。バインダが少なすぎると正極の成形性が低下し、また、バインダが多すぎると正極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0034】
導電助剤は、正極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、正極の導電性が不足する場合に任意に加えれば良く、正極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、および各種金属粒子などが例示される。これらの導電助剤を単独でまたは2種以上組み合わせて正極活物質層に添加することができる。正極活物質層中の導電助剤の配合割合は、質量比で、正極活物質:導電助剤=1:0.01〜1:0.5であるのが好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると正極活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0035】
正極は、正極活物質を含む正極合材を集電体の表面に配置し、乾燥後、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成することができる。これは後述する負極に関しても同様である。正極合材は、正極活物質、吸熱材、バインダ、溶剤、その他の添加剤、および、必要に応じて導電助剤を含み、ペースト状をなす。正極合材の固形分量は、溶剤以外の構成成分の量とほぼ一致する。さらに、乾燥を経て得られた正極活物質層は溶剤をほぼ含まない。したがって、正極活物質層に含まれる各種構成成分の割合は、正極合材の固形分に含まれる各種構成成分の割合とほぼ一致する。
【0036】
正極合材を集電体の表面に配置する方法としては、塗布、積層、載置、スプレー等の一般的な方法を用いることができる。例えばロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を選択し得る。
【0037】
溶剤は、主として、正極合材の粘度調整のために配合される。一般的には、固形分を予め混合し、次いで溶剤を加えることで、正極合材を集電体に塗布等するのに適した粘度にする。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メタノール、メチルイソブチルケトン(MIBK)などが使用可能である。
【0038】
〔集電体〕
集電体は、蓄電装置の放電または充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体である。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、またはその合金が例示される。例えば、ステンレス鋼などを選択することもできる。
【0039】
集電体は、箔状、シート状、フィルム状、線状、棒状、メッシュ状などの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。さらに、集電体の表面に集電体コート層を形成しても良い。集電体コート層の材料は、導電性に優れるものを選択するのが良い。負極に関しても同様である。
【0040】
〔負極〕
負極は、集電体と集電体上に設けられている負極活物質層とを含む。負極活物質層は、負極活物質を含むとともに、正極活物質層と同様にバインダや導電助剤等の添加剤を含み得る。
【0041】
負極活物質としては、電荷担体を吸蔵および放出し得る一般的なものを使用可能である。例えば、蓄電装置がリチウムイオン二次電池である場合には、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵および放出し得る材料を選択すれば良い。より詳しくは、リチウム等の電荷担体と合金化可能な元素(単体)、当該元素を含む合金、または当該元素を含む化合物であれば良い。具体的には、負極活物質として、Liや、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫などの14族元素、アルミニウム、インジウムなどの13族元素、亜鉛、カドミウムなどの12族元素、アンチモン、ビスマスなどの15族元素、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、銀、金などの11族元素をそれぞれ単体で採用すれば良い。ケイ素等を負極活物質に採用すると、ケイ素1原子が複数のリチウムと反応するため、高容量の活物質となる。しかしその一方で、リチウムの吸蔵および放出に伴って負極活物質の体積の膨張および収縮が顕著となる等の問題が生じるおそれがある。したがって、当該恐れの軽減のために、ケイ素などの単体に遷移金属等の他の元素を組み合わせた合金または化合物を負極活物質として採用するのも好適である。合金または化合物の具体例としては、Ag−Sn合金、Cu−Sn合金、Co−Sn合金等の錫系材料、各種黒鉛などの炭素系材料、ケイ素単体と二酸化ケイ素に不均化するSiO(0.3≦x≦1.6)などのケイ素系材料、ケイ素単体若しくはケイ素系材料と炭素系材料を組み合わせた複合体が挙げられる。また、負極活物質して、Nb、TiO、LiTi12、WO、MoO、Fe等の酸化物、または、Li3−xN(M=Co、Ni、Cu)で表される窒化物を採用しても良い。負極活物質として、これらのものの一種以上を使用することができる。
【0042】
なお、正極活物質および負極活物質がともに電荷担体を含まない場合、またはこれらに含まれる電荷担体の量が必要とされる量よりも少ない場合には、正極および/または負極に電荷担体を予め添加しておくのが良い。例えば、本発明の蓄電装置がリチウムイオン二次電池である場合、リチウムを含まない正極活物質材料を用いる場合には、正極および/または負極に、公知の方法により、予め電荷担体としてのリチウムイオンを添加しておく必要がある。リチウムは、イオンの状態で添加しても良いし、金属等の非イオンの状態で添加しても良い。例えば、リチウム箔を正極および/または負極に貼り付けるなどして一体化しても良い。
【0043】
〔電解質〕
電解質は、蓄電装置の種類に応じたものを用いれば良く、特に限定されない。例えば、本発明の蓄電装置が非水電解質二次電池であれば、電解質として、有機溶媒に支持塩(支持電解質とも言う)を溶解させたものを用いれば良い。例えば蓄電装置がリチウムイオン二次電池の場合には、有機溶媒として、非プロトン性有機溶媒、例えばプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等から選ばれる少なくとも一種を好ましく選択できる。また、この場合の支持塩としては、有機溶媒に可溶なリチウム金属塩を用いるのが良く、例えば、LiPF、LiBF、LIASF、LiI、LiClO、LiCFSOからなる群から選ばれる少なくとも一種を用いるのが好適である。支持塩は、有機溶媒に0.5mol/l〜1.7mol/l程度の濃度で溶解させるのが好ましい。
【0044】
〔セパレータ〕
蓄電装置には必要に応じてセパレータが用いられる。セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、電解液および電荷担体の通過を許容するものである。セパレータとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種または複数種用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としても良い。
【0045】
上述した正極および負極に、必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータおよび負極を重ねた積層型、または、正極、セパレータおよび負極を捲いた捲回型の何れの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えることで蓄電装置を得ることが可能である。
【0046】
本発明の蓄電装置は、二次電池やキャパシタ等、種々の蓄電装置として適用可能である。また、本発明の蓄電装置は、電極に含まれる活物質の種類に適した電圧範囲で充放電を行えば良い。
【0047】
本発明の蓄電装置の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0048】
本発明の蓄電装置の用途は特に限定されず、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電力で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器、車両等が挙げられる。
【0049】
以下に、実施例および比較例を基に、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例および比較例によって限定されるものではない。以下において、特に断らない限り、「部」とは質量部を意味し、「%」とは質量%を意味する。
【0050】
(実施例1)
実施例1の正極、蓄電装置ならびに正極の製造方法を以下に説明する。なお、以下の各実施例および比較例の蓄電装置は、非水電解質二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池である。
【0051】
〔正極〕
Ni系正極活物質としてNCM523(LiNi0.5Co0.2Mn0.3)を用い、吸熱材として水酸化アルミニウムを用いて、リチウムイオン二次電池用の正極を作製した。
【0052】
先ず、Ni系正極活物質と吸熱材とを混合して活物質混合物を得た。具体的には、粒径(D50)約6μmのNCM523と、粒径(D50)約6μmの水酸化アルミニウムとを質量比90:5で混合した。混合後、得られた活物質混合物に、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)、導電助剤としてのABを加えてさらに混合した。このときの質量比は、Ni系正極活物質:吸熱材:バインダ:導電助剤=90:5:2.5:2.5であった。得られた混合物に、さらに溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を添加し、さらに混合して、ペースト状の正極合材を得た。ドクターブレードを用いて、このペースト状の正極合材を集電体に塗布した。集電体としては厚さ20μmのアルミニウム箔を用いた。集電体および集電体に塗布した正極合材を、80℃で20分間乾燥することで、NMPを揮発させ除去した。乾燥後の集電体および正極合材を、ロ−ルプレス機を用いて圧縮した。この工程により、アルミニウム箔と正極活物質層とを強固に密着接合させた。真空乾燥機を用い、当該接合物を120℃で6時間加熱し、所定の形状に切り取って、正極を得た。なお、正極合材の吸熱材含有量は、正極合材(固形分)を100質量%としたときに5質量%であった。同様に、正極活物質層の吸熱材含有量は、正極活物質層全体を100質量%としたときに5質量%であった。
【0053】
〔負極〕
負極活物質としては黒鉛を用いた。黒鉛と、バインダとしてのSBRおよびCMCとを混合し、溶媒を加えてスラリー状をなす負極合材を得た。溶媒としては水を用いた。黒鉛とバインダとの質量比は、黒鉛:CMC:SBR=98:1:1であった。
【0054】
次いで、上記のスラリー状の負極合材を、ドクターブレードを用いて集電体の片面に積層した。なお集電体としては厚さ20μmの銅箔を用いた。その後、負極合材を集電体ごとプレスして、200℃で2時間焼成したものを所定の形状に切り取った。以上の工程により、負極用集電体の表面に負極活物質層が設けられてなる負極を得た。
【0055】
〔その他〕
電解質用の有機溶媒としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC):メチルエチルカーボネート(MEC):ジメチルカーボネート(DMC)=3:3:4(体積比)の混合溶液を用いた。支持塩としてはLiPFを用いた。支持塩を有機溶媒に1モル/Lとなるように溶解させて液状の電解質(電解液)を得た。
【0056】
上記の正極、負極および電解液を用いて、ラミネート型リチウムイオン二次電池を製作した。詳しくは、正極および負極の間に、セパレータとしてポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層構造の樹脂膜からなる矩形状シート(厚さ25μm)を挟装して極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに上記電解液を注入した。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群および電解液が密閉されたラミネート型リチウムイオン二次電池を得た。なお、正極および負極は外部と電気的に接続可能なタブを備え、このタブの一部はラミネート型リチウムイオン二次電池の外側に延出している。以上の工程で、実施例1のリチウムイオン二次電池を得た。
【0057】
(実施例2)
実施例2の蓄電装置はリチウムイオン二次電池である。実施例2の正極、蓄電装置およびその製造方法は、吸熱材として水酸化マグネシウム(Mg(OH))を用いたこと以外は実施例1と同じである。なお、実施例2の正極においても、正極活物質層の各成分の含有量は、質量比で、Ni系正極活物質:吸熱材:バインダ:導電助剤=90:5:2.5:2.5であった。同様に正極合材(固形分)の各成分の含有量もまた、質量比で、Ni系正極活物質:吸熱材:バインダ:導電助剤=90:5:2.5:2.5であった。
【0058】
(比較例)
比較例の蓄電装置はリチウムイオン二次電池であり、比較例の正極、蓄電装置およびその製造方法は、吸熱材を用いなかったこと以外は実施例1および実施例2と同じである。比較例の正極において、正極活物質層の各成分の含有量は、質量比で、Ni系正極活物質:バインダ:導電助剤=90:5:5であった。同様に正極合材(固形分)における各成分の含有量もまた、質量比で、Ni系正極活物質:バインダ:導電助剤=90:5:5であった。
【0059】
<発熱挙動評価試験>
実施例1、実施例2および比較例の蓄電装置を各々、セル電圧3.929VまでCCCV充電した。充電後の各蓄電装置をグローブボックス内で解体し、正極を取り出した。取り出した各正極を自然乾燥させ、その後正極活物質層をそぎ落とした。そぎ落とした正極活物質層(すなわち正極合材の固形分)を5mg量りとり、当該固形分に2.6μlの電解液を加えた。電解液は実施例および比較例で用いたものと同じものである。この固形分および電解液をスラリー状に混合したものを試料として用い、当該試料の発熱挙動をDSC(Differential Scanning Calorimetry:示差走査熱量測定)により評価した。具体的には、容器に入れた試料を5℃/分のレートで室温〜450℃まで加熱した。このとき、所定間隔で試料の質量を容器ごと測定し、温度変化に伴う試料の質量変化を観察した。発熱挙動評価試験の結果を図3に示す。
【0060】
図3に示すように、吸熱材としての水酸化アルミニウムを含む実施例1の正極、および吸熱材としての水酸化マグネシウムを含む実施例2の正極は、吸熱材を含まない比較例の正極に比べて温度上昇し難かった。つまり、吸熱材を正極活物質層に含む本発明の正極は、熱安定性に優れていた。また、吸熱材として水酸化アルミニウムを用いた実施例1の正極においては、吸熱材を用いなかった比較例の正極および吸熱材として水酸化マグネシウムを用いた実施例2の正極に比べて、発熱温度ピークが低温側にスライドしていた。この結果から、吸熱材としての水酸化アルミニウムはNi系正極活物質としてのNCM523の発熱自体を抑制し得ることが示唆される。また、吸熱材として水酸化マグネシウムを用いた実施例2の正極においては、吸熱材を用いなかった比較例の正極および吸熱材として水酸化アルミニウムを用いた実施例1の正極に比べて、発熱温度ピークが高温側にスライドしていた。この結果から、吸熱材としての水酸化マグネシウムはNi系正極活物質としてのNCM523の発熱自体を抑制することはないが、発熱したNCM523の更なる温度上昇を抑制し得ることが示唆される。なお、実施例および比較例ではNi系正極活物質としてNCM523を用いたが、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の他のNi系正極活物質を用いる場合にも、同様に、吸熱材の存在によって正極の熱安定性を向上させ得る。
図1
図2
図3