特許第6357869号(P6357869)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357869
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20180709BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20180709BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20180709BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20180709BHJP
   H01L 21/316 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   H01L29/78 652K
   H01L29/78 652T
   H01L29/78 653C
   H01L29/78 658G
   H01L29/78 658F
   H01L21/302 105A
   H01L21/316 S
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-104538(P2014-104538)
(22)【出願日】2014年5月20日
(65)【公開番号】特開2015-220407(P2015-220407A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2016年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 雄
(72)【発明者】
【氏名】畑山 智亮
(72)【発明者】
【氏名】増田 健良
【審査官】 恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−110238(JP,A)
【文献】 特開平07−326755(JP,A)
【文献】 特開2014−056882(JP,A)
【文献】 特開2013−232533(JP,A)
【文献】 特開2013−175593(JP,A)
【文献】 特開2008−311406(JP,A)
【文献】 特開2013−105966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 21/3065
H01L 21/316
H01L 21/336
H01L 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面を有する炭化珪素基板を準備する工程を備え、
前記炭化珪素基板は、第1導電型を有する第1不純物領域と、前記第1不純物領域上に設けられ前記第1導電型と異なる第2導電型を有する第2不純物領域と、前記第2不純物領域上に設けられ前記第1導電型を有し前記主面の少なくとも一部を構成する第3不純物領域とを含み、さらに、
前記炭化珪素基板の前記主面に、前記第3不純物領域および前記第2不純物領域を貫通して前記第1不純物領域に至る側面と、前記第1不純物領域に位置する底部とを有するトレンチを形成する工程とを備え、
前記側面は、前記主面と連接する第1側面部と、前記第1側面部と前記底部とを繋ぐ第2側面部とを有し、
前記第1側面部と前記第2側面部との接点は、前記第3不純物領域に位置し、
前記第1側面部と前記第2側面部との接点を通り、かつ前記主面と平行な直線と、前記第1側面部とが形成する角度は、前記第1不純物領域と前記第2不純物領域との境界面と、前記第2側面部とが形成する角度よりも小さく、さらに、
前記トレンチの前記第1側面部において前記第3不純物領域に接し、前記トレンチの前記第2側面部において前記第3不純物領域と前記第2不純物領域とに接し、かつ前記トレンチの前記底部において前記第1不純物領域に接するゲート酸化膜を形成する工程と、
前記ゲート酸化膜上に設けられたゲート電極と形成する工程とを備え、
前記主面と前記第1側面部との接点上の前記ゲート酸化膜の部分の厚みは、前記第2不純物領域上の前記ゲート酸化膜の部分の厚みよりも大きく、
前記トレンチを形成する工程は、塩素を含む第1ガスを用いて前記炭化珪素基板をエッチングする工程を含み、
前記炭化珪素基板をエッチングする工程は、前記第1ガスと、酸素、フッ素および水素の少なくともいずれかを含む第2ガスとを用いて前記炭化珪素基板をエッチングする第1工程と、
前記第1工程における前記第2ガスの流量よりも前記第2ガスの流量を減少させた後、前記第1ガスと、前記第2ガスとを用いて前記炭化珪素基板をエッチングする第2工程とを含む、炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記ゲート酸化膜を形成する工程は、1300℃以下で前記炭化珪素基板を酸化する工程を含む、請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第1ガスは、塩素およびインターハロゲン化合物からなる群から選択される少なくともいずれかを含む、請求項1または請求項2に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記第2工程において、前記第2ガスの導入を停止した後、前記第1ガスを用いて前記炭化珪素基板がエッチングされる、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記第2ガスは、酸素、フッ素、水素、六フッ化硫黄、四フッ化炭素、塩化水素、一酸化塩素、二酸化塩素、一酸化二塩素および七酸化二塩素からなる群から選択される少なくともいずれかを含む、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記トレンチを形成する工程は、700℃以上1000℃以下で前記炭化珪素基板をエッチングする工程を含む、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記ゲート酸化膜を形成する工程後において、前記第1不純物領域と前記第2不純物領域との境界面と、前記第2側面部とが形成する角度は、50°以上65°以下である、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記ゲート酸化膜を形成する工程後において、前記第1側面部と前記第2側面部との接点を通り、かつ前記主面と平行な直線と、前記第1側面部とが形成する角度は、20°以上50°未満である、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記ゲート酸化膜を形成する工程後において、前記トレンチの前記底部上の前記ゲート酸化膜の部分の厚みは、前記第2不純物領域上の前記ゲート酸化膜の部分の厚みよりも大きい、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素半導体装置およびその製造方法に関し、特定的には、ゲート酸化膜を有する炭化珪素半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の高耐圧化、低損失化、高温環境下での使用などを可能とするため、半導体装置を構成する材料として炭化珪素の採用が進められつつある。炭化珪素は、従来から半導体装置を構成する材料として広く使用されている珪素に比べてバンドギャップが大きいワイドバンドギャップ半導体である。そのため半導体装置を構成する材料として炭化珪素を採用することにより、半導体装置の高耐圧化、オン抵抗の低減などを達成することができる。また、炭化珪素を材料として採用した半導体装置は、珪素を材料として採用した半導体装置に比べて、高温環境下で使用された場合の特性の低下が小さいという利点も有している。
【0003】
特開2010−258294号公報には、トレンチ構造を有するMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)の製造方法が開示されている。上記MOSFETの製造方法によれば、トレンチを形成した後に、熱処理を実施することによりトレンチの開口部を形成する角部を丸めている。これにより、丸まった角部上に形成されたゲート絶縁膜においてゲートリークの発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−258294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記MOSFETの製造方法によれば、上記熱処理によりシリコン原子のマイグレーションが発生してトレンチの側面が荒れるため、MOS界面のキャリア移動度の低下を招き、チャネル抵抗が高くなる。またステップバンチングが発生した基板の主面上に形成されたゲート絶縁膜が局所的に薄くなることにより、ゲートリークを誘発する場合がある。結果として、MOSFETの信頼性が低下し、かつチャネル抵抗が高くなる場合がある。
【0006】
本発明の一態様に係る目的は、高い信頼性を有しかつチャネル抵抗を低く維持可能な炭化珪素半導体装置およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る炭化珪素半導体装置は、炭化珪素基板と、ゲート酸化膜と、ゲート電極とを有している。炭化珪素基板は、主面を有する。炭化珪素基板は、第1導電型を有する第1不純物領域と、第1不純物領域上に設けられ第1導電型と異なる第2導電型を有する第2不純物領域と、第2不純物領域上に設けられ第1導電型を有し主面の少なくとも一部を構成する第3不純物領域とを含む。主面には、第3不純物領域および第2不純物領域を貫通して第1不純物領域に至る側面と、第1不純物領域に位置する底部とを有するトレンチが設けられている。側面は、主面と連接する第1側面部と、第1側面部と底部とを繋ぐ第2側面部とを有する。第1側面部と第2側面部との接点は、第3不純物領域に位置する。第1側面部と第2側面部との接点を通り、かつ主面と平行な直線と、第1側面部とが形成する角度は、第1不純物領域と第2不純物領域との境界面と、第2側面部とが形成する角度よりも小さい。ゲート酸化膜は、トレンチの第1側面部おいて第3不純物領域に接し、トレンチの第2側面部において第3不純物領域と第2不純物領域とに接し、かつトレンチの底部において第1不純物領域に接する。ゲート電極は、ゲート酸化膜上に設けられている。主面と第1側面部との接点上のゲート酸化膜の部分の厚みは、第2不純物領域上のゲート酸化膜の部分の厚みよりも大きい。
【0008】
本発明の一態様に係る炭化珪素半導体装置の製造方法は以下の工程を備えている。主面を有する炭化珪素基板が準備される。炭化珪素基板は、第1導電型を有する第1不純物領域と、第1不純物領域上に設けられ第1導電型と異なる第2導電型を有する第2不純物領域と、第2不純物領域上に設けられ第1導電型を有し主面の少なくとも一部を構成する第3不純物領域とを含む。炭化珪素基板の主面に、第3不純物領域および第2不純物領域を貫通して第1不純物領域に至る側面と、第1不純物領域に位置する底部とを有するトレンチが形成される。側面は、主面と連接する第1側面部と、第1側面部と底部とを繋ぐ第2側面部とを有する。第1側面部と第2側面部との接点は、第3不純物領域に位置する。第1側面部と第2側面部との接点を通り、かつ主面と平行な直線と、第1側面部とが形成する角度は、第1不純物領域と第2不純物領域との境界面と、第2側面部とが形成する角度よりも小さい。トレンチの第1側面部において第3不純物領域に接し、トレンチの第2側面部において第3不純物領域と第2不純物領域とに接し、かつトレンチの底部において第1不純物領域に接するゲート酸化膜が形成される。ゲート酸化膜上に設けられたゲート電極が形成される。主面と第1側面部との接点上のゲート酸化膜の部分の厚みは、第2不純物領域上のゲート酸化膜の部分の厚みよりも大きい。トレンチを形成する工程は、塩素を含む第1ガスを用いて炭化珪素基板がエッチングされる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、高い信頼性を有しかつチャネル抵抗を低く維持可能な炭化珪素半導体装置およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施の形態における炭化珪素半導体装置の構成を概略的に示す部分断面図である。
図2図1の炭化珪素半導体装置が有する炭化珪素基板の主面の構成を概略的に示す部分斜視図である。
図3図1の炭化珪素半導体装置が有する炭化珪素基板に設けられたトレンチおよびゲート酸化膜の構成を概略的に示す部分断面図である。
図4】ゲート酸化膜の成長速度とトレンチの側面の角度との関係を示す図である。
図5】本発明の一実施の形態における炭化珪素半導体装置の製造方法を概略的に示すフロー図である。
図6】本発明の一実施の形態における炭化珪素半導体装置の製造方法の第1工程を概略的に示す部分断面図である。
図7】本発明の一実施の形態における炭化珪素半導体装置の製造方法の第2工程を概略的に示す部分断面図である。
図8】本発明の一実施の形態における炭化珪素半導体装置の製造方法の第3工程を概略的に示す部分断面図である。
図9】本発明の一実施の形態における炭化珪素半導体装置の製造方法の第4工程を概略的に示す部分断面図である。
図10】本発明の一実施の形態における炭化珪素半導体装置の製造方法の第5工程を概略的に示す部分断面図である。
図11】本発明の一実施の形態における炭化珪素半導体装置の製造方法の第6工程を概略的に示す部分断面図である。
図12】本発明の一実施の形態における炭化珪素半導体装置の製造方法の第7工程を概略的に示す部分断面図である。
図13】本発明の一実施の形態における炭化珪素半導体装置の製造方法の第8工程を概略的に示す部分断面図である。
図14】本発明の一実施の形態における炭化珪素半導体装置の製造方法の第9工程を概略的に示す部分断面図である。
図15図1の炭化珪素半導体装置が有するトレンチの側面の微細構造を概略的に示す部分断面図である。
図16】ポリタイプ4Hの六方晶における(000−1)面の結晶構造を示す図である。
図17図16の線XVII−XVIIに沿う(11−20)面の結晶構造を示す図である。
図18図15の複合面の表面近傍における結晶構造を(11−20)面内において示す図である。
図19図15の複合面を(01−10)面から見た図である。
図20】巨視的に見たチャネル面および(000−1)面の間の角度と、チャネル移動度との関係の一例を、熱エッチングが行われた場合と行われなかった場合との各々について示すグラフ図である。
図21】チャネル方向および<0−11−2>方向の間の角度と、チャネル移動度との関係の一例を示すグラフ図である。
図22図15の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0012】
(1)本発明の一態様に係る炭化珪素半導体装置は、炭化珪素基板10と、ゲート酸化膜15と、ゲート電極27とを有している。炭化珪素基板10は、主面10aを有する。炭化珪素基板10は、第1導電型を有する第1不純物領域12と、第1不純物領域12上に設けられ第1導電型と異なる第2導電型を有する第2不純物領域13と、第2不純物領域13上に設けられ第1導電型を有し主面10aの少なくとも一部を構成する第3不純物領域14とを含む。主面10aには、第3不純物領域14および第2不純物領域13を貫通して第1不純物領域12に至る側面SWと、第1不純物領域12に位置する底部BTとを有するトレンチTRが設けられている。側面SWは、主面10aと連接する第1側面部SW1と、第1側面部SW1と底部BTとを繋ぐ第2側面部SW2とを有する。第1側面部SW1と第2側面部SW2との接点C2は、第3不純物領域14に位置する。第1側面部SW1と第2側面部SW2との接点C2を通り、かつ主面10aと平行な直線と、第1側面部SW1とが形成する角度θ1は、第1不純物領域12と第2不純物領域13との境界面13aと、第2側面部SW2とが形成する角度θ2よりも小さい。ゲート酸化膜15は、トレンチTRの第1側面部SW1おいて第3不純物領域14に接し、トレンチTRの第2側面部SW2において第3不純物領域14と第2不純物領域13とに接し、かつトレンチTRの底部BTにおいて第1不純物領域12に接する。ゲート電極27は、ゲート酸化膜15上に設けられている。主面10aと第1側面部SW1との接点C1上のゲート酸化膜15の部分の厚みは、第2不純物領域13上のゲート酸化膜15の部分の厚みよりも大きい。
【0013】
上記(1)に記載の炭化珪素半導体装置1によれば、主面10aと第1側面部SW1との接点C1上のゲート酸化膜15の部分の厚みは、第2不純物領域13上のゲート酸化膜15の部分の厚みよりも大きい。そのため、第2不純物領域13のチャネル部分の抵抗を低く維持しつつ、主面10aと側面SWとの接点C1上のゲート酸化膜15の部分におけるリーク電流を抑制することができる。結果として、高い信頼性を有しかつチャネル抵抗を低く維持可能な炭化珪素半導体装置を得ることができる。
【0014】
(2)上記(1)に係る炭化珪素半導体装置において好ましくは、第1不純物領域12と第2不純物領域13との境界面13aと、第2側面部SW2とが形成する角度θ2は、50°以上65°以下である。これにより、第2不純物領域13におけるチャネル抵抗を効果的に低減することができる。
【0015】
(3)上記(1)または(2)に係る炭化珪素半導体装置において好ましくは、第1側面部SW1と第2側面部SW2との接点C2を通り、かつ主面10aと平行な直線と、第1側面部SW1とが形成する角度θ1は、20°以上50°未満である。当該角度θ1を20°以上とすることにより、トレンチTRの幅が広がることにより、セル密度が低減することを抑制することができる。当該角度θ1を50°未満とすることにより、主面10aと第1側面部SW1との接点C1上におけるゲート酸化膜15の厚みを効果的に大きくすることができる。
【0016】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに係る炭化珪素半導体装置において好ましくは、トレンチTRの底部BT上のゲート酸化膜15の部分の厚みは、第2不純物領域13上のゲート酸化膜15の部分の厚みよりも大きい。これにより、トレンチTRの底部BT上のゲート酸化膜15において、リーク電流が発生することを抑制することができる。
【0017】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに係る炭化珪素半導体装置において好ましくは、トレンチTRの第2側面部SW2は、面方位{0−33−8}を有する第1の面S1を含む。これにより、側面SWにおけるチャネル抵抗を低減可能である。よって炭化珪素半導体装置のオン抵抗を低減することができる。
【0018】
(6)上記(5)に係る炭化珪素半導体装置において好ましくは、トレンチTRの第2側面部SW2は、第1の面S1を微視的に含み、第2側面部SW2はさらに、面方位{0−11−1}を有する第2の面S2を微視的に含む。これにより、側面SWにおけるチャネル抵抗をより低減可能である。よって炭化珪素半導体装置のオン抵抗を低減することができる。
【0019】
(7)上記(6)に係る炭化珪素半導体装置において好ましくは、トレンチTRの第2側面部SW2の第1の面S1および第2の面S2は、面方位{0−11−2}を有する複合面を含む。これにより、側面SWにおけるチャネル抵抗をより低減可能である。よって炭化珪素半導体装置のオン抵抗を低減することができる。
【0020】
(8)上記(7)に係る炭化珪素半導体装置において好ましくは、トレンチTRの第2側面部SW2は、{000−1}面に対して、巨視的に62°±10°のオフ角を有する。これにより、側面SWにおけるチャネル抵抗をより低減可能である。よって炭化珪素半導体装置のオン抵抗を低減することができる。
【0021】
(9)本発明の一態様に係る炭化珪素半導体装置の製造方法は以下の工程を備えている。主面10aを有する炭化珪素基板10が準備される。炭化珪素基板10は、第1導電型を有する第1不純物領域12と、第1不純物領域12上に設けられ第1導電型と異なる第2導電型を有する第2不純物領域13と、第2不純物領域13上に設けられ第1導電型を有し主面10aの少なくとも一部を構成する第3不純物領域14とを含む。炭化珪素基板10の主面10aに、第3不純物領域14および第2不純物領域13を貫通して第1不純物領域12に至る側面SWと、第1不純物領域に位置する底部BTとを有するトレンチTRが形成される。側面SWは、主面10aと連接する第1側面部SW1と、第1側面部SW1と底部BTとを繋ぐ第2側面部SW2とを有する。第1側面部SW1と第2側面部SW2との接点C1は、第3不純物領域14に位置する。第1側面部SW1と第2側面部SW2との接点C1を通り、かつ主面10aと平行な直線と、第1側面部SW1とが形成する角度θ1は、第1不純物領域12と第2不純物領域13との境界面13aと、第2側面部SW2とが形成する角度θ2よりも小さい。トレンチTRの第1側面部SW1において第3不純物領域14に接し、トレンチTRの第2側面部SW2において第3不純物領域14と第2不純物領域13とに接し、かつトレンチTRの底部BTにおいて第1不純物領域12に接するゲート酸化膜15が形成される。ゲート酸化膜15上に設けられたゲート電極27が形成される。主面10aと第1側面部SW1との接点C1上のゲート酸化膜15の部分の厚みは、第2不純物領域13上のゲート酸化膜15の部分の厚みよりも大きい。トレンチを形成する工程は、塩素を含む第1ガスを用いて炭化珪素基板10がエッチングされる。
【0022】
上記(9)に記載の炭化珪素半導体装置1の製造方法によれば、主面10aと第1側面部SW1との接点C1上のゲート酸化膜15の部分の厚みは、第2不純物領域13上のゲート酸化膜15の部分の厚みよりも大きい。そのため、第2不純物領域13のチャネル部分の抵抗を低く維持しつつ、主面10aと側面SWとの接点C1上のゲート酸化膜15の部分におけるリーク電流を抑制することができる。結果として、高い信頼性を有しかつチャネル抵抗を低く維持可能な炭化珪素半導体装置を得ることができる。
【0023】
(10)上記(9)に係る炭化珪素半導体装置の製造方法において好ましくは、ゲート酸化膜15を形成する工程は、1300℃以下で炭化珪素基板10を酸化する工程を含む。これにより、炭化珪素の酸化速度の面方位依存性を大きくすることができる。そのため、主面10aと第1側面部SW1との接点C1上のゲート酸化膜15の部分の厚みを、トレンチTRの側面SW(特に第2不純物領域13)上のゲート酸化膜15の部分の厚みよりも、顕著に大きくすることができる。結果として、より高い信頼性を有しかつチャネル抵抗を低く維持可能な炭化珪素半導体装置を得ることができる。
【0024】
(11)上記(9)または(10)に係る炭化珪素半導体装置の製造方法において好ましくは、第1ガスは、塩素およびインターハロゲン化合物からなる群から選択される少なくともいずれかを含む。これにより、炭化珪素を効果的にエッチングすることができる。
【0025】
(12)上記(9)〜(11)のいずれかに係る炭化珪素半導体装置の製造方法において好ましくは、炭化珪素基板10をエッチングする工程は、第1ガスと、酸素、フッ素および水素の少なくともいずれかを含む第2ガスとを用いて炭化珪素基板をエッチングする第1工程と、第1工程における第2ガスの流量よりも第2ガスの流量を減少させた後、第1ガスと、第2ガスとを用いて炭化珪素基板10をエッチングする第2工程とを含む。これにより、トレンチTRの形状を精度良く制御することができる。
【0026】
(13)上記(12)に係る炭化珪素半導体装置の製造方法において好ましくは、第2工程において、第2ガスの導入を停止した後、第1ガスを用いて炭化珪素基板10がエッチングされる。これにより、トレンチTRの形状をより精度良く制御することができる。
【0027】
(14)上記(12)または(13)に係る炭化珪素半導体装置の製造方法において好ましくは、第2ガスは、酸素、フッ素、水素、六フッ化硫黄、四フッ化炭素、塩化水素、一酸化塩素、二酸化塩素、一酸化二塩素および七酸化二塩素からなる群から選択される少なくともいずれかを含む。これにより、炭化珪素をより効果的にエッチングすることができる。
【0028】
(15)上記(9)〜(14)のいずれかに係る炭化珪素半導体装置の製造方法において好ましくは、トレンチTRを形成する工程は、700℃以上1000℃以下で炭化珪素基板10をエッチングする工程を含む。炭化珪素基板10を700℃以上でエッチングすることにより、炭化珪素を効果的にエッチングすることができる。炭化珪素基板10を1000℃以下でエッチングすることにより、炭化珪素のエッチングレートが高くなり過ぎることを抑制することができるので、トレンチTRの形状を精度良く制御することができる。
【0029】
(16)上記(9)〜(15)のいずれかに係る炭化珪素半導体装置の製造方法において好ましくは、ゲート酸化膜15を形成する工程後において、第1不純物領域12と第2不純物領域13との境界面13aと、第2側面部SW2とが形成する角度θ2は、50°以上65°以下である。これにより、第2不純物領域13におけるチャネル抵抗を効果的に低減することができる。
【0030】
(17)上記(9)〜(16)のいずれかに係る炭化珪素半導体装置の製造方法において好ましくは、ゲート酸化膜15を形成する工程後において、第1側面部SW1と第2側面部SW2との接点C2を通り、かつ主面10aと平行な直線と、第1側面部SW1とが形成する角度θ1は、20°以上50°未満である。当該角度θ1を20°以上とすることにより、トレンチTRの幅が広がることにより、セル密度が低減することを抑制することができる。当該角度θ1を50°未満とすることにより、主面10aと第1側面部SW1との接点C1上におけるゲート酸化膜15の厚みを効果的に大きくすることができる。
【0031】
(18)上記(9)〜(17)のいずれかに係る炭化珪素半導体装置の製造方法において好ましくは、ゲート酸化膜15を形成する工程後において、トレンチTRの底部BT上のゲート酸化膜15の部分の厚みは、第2不純物領域13上のゲート酸化膜15の部分の厚みよりも大きい。これにより、トレンチTRの底部BT上のゲート酸化膜15において、リーク電流が発生することを抑制することができる。
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。また、本明細書中の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。また結晶学上の指数が負であることは、通常、”−”(バー)を数字の上に付すことによって表現されるが、本明細書中では数字の前に負の符号を付している。
【0032】
まず、本発明の一実施の形態に係る炭化珪素半導体装置としてのMOSFETの構成について説明する。
【0033】
図1を参照して、本実施の形態のMOSFET1は、炭化珪素基板10と、ゲート酸化膜15と、ゲート電極27と、層間絶縁膜21と、ソース電極16と、ソース配線層19と、ドレイン電極20とを主に有する。炭化珪素基板10は、第1の主面10aと、第1の主面10aと反対側の第2の主面10bとを有する。炭化珪素基板10は、第2の主面10bを構成する炭化珪素単結晶基板11と、炭化珪素単結晶基板11上に設けられ、第1の主面10aを構成する炭化珪素エピタキシャル層2とを主に有する。炭化珪素単結晶は、たとえば六方晶炭化珪素単結晶からなり、好ましくはポリタイプ4Hを有する。炭化珪素単結晶基板11は、たとえば窒素などの不純物を有しており、n型(第1導電型)を有する。炭化珪素基板10の第1の主面10aは、たとえば{000−1}面または{000−1}面から8°以下程度オフした面であり、好ましくは(000−1)面または(000−1)面から8°以下程度オフした面である。
【0034】
炭化珪素基板10は、ドリフト領域12(第1不純物領域)と、ベース領域13(第2不純物領域)と、ソース領域14(第3不純物領域)と、コンタクト領域18とを主に有する。ドリフト領域12は、炭化珪素単結晶基板11上に設けられている。ドリフト領域12は、たとえば窒素などの不純物を含んでおり、n型を有する。ドリフト領域12の不純物濃度は、炭化珪素単結晶基板11の不純物濃度よりも低いことが好ましい。ドリフト領域12が含む窒素などの不純物の濃度は、たとえば1×1015cm-3以上5×1016cm-3以下である。
【0035】
ベース領域13は、たとえばアルミニウムなどの不純物を含んでおり、p型(第1の導電型と異なる第2の導電型)を有する。ベース領域13はドリフト領域12上に設けられている。ベース領域13が含むアルミニウムなどの不純物の濃度は、ドリフト領域12が含む窒素などの不純物の濃度よりも高い。
【0036】
ソース領域14は、たとえば窒素またはリンなどの不純物を含んでおり、n型を有する。ソース領域14は、ベース領域13によってドリフト領域12から隔てられるようにベース領域13上に設けられている。ソース領域14が含むリンなどの不純物の濃度は、たとえば5×1018cm-3以上3×1020cm-3以下である。コンタクト領域18は、たとえばアルミニウムなどの不純物を含んでおり、p型を有する。コンタクト領域18は、ソース領域14を貫通してベース領域13につながっている。コンタクト領域18の不純物濃度は、ベース領域13の不純物濃度よりも高い。ソース領域14およびコンタクト領域の各々は、炭化珪素基板10の第1の主面10aの一部を構成している。
【0037】
炭化珪素基板10の第1の主面10aには、ソース領域14と、ベース領域13とを貫通してドリフト領域12に至る側面SWと、ドリフト領域12に位置する底部BTとを有するトレンチTRが設けられている。側面SWはベース領域13上において、MOSFET1のチャネル面を含む。側面SWは炭化珪素基板10の第1の主面10aに対して傾斜している。断面視(第1の主面10aに対して平行な方向から見た視野)において、トレンチTRの幅は開口に向かってテーパ状に拡がっている。好ましくは、側面SWは、特にベース領域13上の部分において、所定の結晶面(特殊面とも称する)を有する。特殊面の詳細については後述する。
【0038】
図2および図3を参照して、トレンチTRの形状の詳細について説明する。図2は、炭化珪素基板10のみを示している。図3は、炭化珪素基板10およびゲート酸化膜15を示しており、ゲート電極27および層間絶縁膜21の各々は省略されている。
【0039】
トレンチTRの側面SWは、第1の主面10aと連接し、ソース領域14により形成される第1側面部SW1と、第1側面部SW1と底部BTとを繋ぐ第2側面部SW2とを有する。トレンチTRの底部BTは、炭化珪素基板10の第1の主面10aとほぼ平行な面である。第2側面部SW2は、ソース領域14と、ベース領域13と、ドリフト領域12とにより形成される。平面視(第1の主面10aに対して垂直な方向から見た視野)において、トレンチTRの底部BTは、ハニカム状に延在している。平面視において、コンタクト領域18は、ソース領域14およびベース領域13の各々に囲まれるように設けられている。平面視において、ベース領域13、ソース領域14およびコンタクト領域18の外縁の形状は、たとえば六角形である。
【0040】
図3を参照して、第1側面部SW1と第2側面部SW2との接点C2は、ソース領域14に位置する。言い換えれば、第1側面部SW1と、第2側面部SW2との接点C2は、ベース領域13と第1の主面10aとの間に位置する。第1側面部SW1と第2側面部SW2との接点C2を通り、かつ炭化珪素基板10の第1の主面10aと平行な直線と、第1側面部SW1とが形成する第1角度θ1は、ドリフト領域12とベース領域13との境界面13aと、第2側面部SW2とが形成する第2角度θ2よりも小さい。好ましくは、ドリフト領域12とベース領域13との境界面13aと、第2側面部SW2とが形成する第2角度θ2は、50°以上65°以下である。好ましくは、第1側面部SW1と第2側面部SW2との接点C2を通り、かつ炭化珪素基板10の第1の主面10aと平行な直線と、第1側面部SW1とが形成する第1角度θ1は、20°以上50°未満である。
【0041】
ゲート酸化膜15は、トレンチの側面SWにおいて、ドリフト領域12と、ベース領域13と、ソース領域14とに接し、かつトレンチTRの底部BTにおいてドリフト領域と12接する。ゲート酸化膜15は、トレンチTRの側面SWから炭化珪素基板10の第1の主面10aに乗り上げていてもよい。言い換えれば、ゲート酸化膜15は、第1の主面10aの一部と接し、かつ第1の主面10a上においてソース電極16と接していてもよい。ゲート酸化膜15は、たとえば二酸化珪素を含む。
【0042】
炭化珪素基板10の第1の主面10aとトレンチTRの側面SWとの接点C1上のゲート酸化膜15の部分の厚みt1は、ベース領域13上のゲート酸化膜15の部分の厚みt3よりも大きい。炭化珪素基板10の第1の主面10aとトレンチTRの側面SWとの接点C1上のゲート酸化膜15の部分の厚みt1とは、第1の主面10aに対して垂直な方向におけるゲート酸化膜15の厚みである。またベース領域13上のゲート酸化膜15の部分の厚みt3とは、ベース領域13により形成される第2側面部SW2の部分に対して垂直な方向におけるゲート酸化膜15の部分の厚みである。好ましくは、トレンチTRの底部BT上のゲート酸化膜15の部分の厚みt4は、ベース領域13上のゲート酸化膜15の部分の厚みt3よりも大きい。トレンチTRの底部BT上のゲート酸化膜15の部分の厚みt4とは、トレンチTRの底部BTに対して垂直な方向におけるゲート酸化膜15の部分の厚みt4である。好ましくは、ソース領域14上のゲート酸化膜15の部分の厚みt2は、第1の主面10aと第1側面部SW1との接点C1上のゲート酸化膜15の部分の厚みよりも小さく、かつベース領域13上のゲート酸化膜15の部分の厚みt3よりも大きい。ソース領域14上のゲート酸化膜15の部分の厚みとは、第1側面部SW1に対して垂直な方向におけるゲート酸化膜15の部分の厚みt2のことである。第1の主面10aと平行な方向に沿った接点C1と接点C2との間の距離は0.01μm以上0.1μm以下である。第1の主面10aとトレンチTRの側面SWとの接点C1上のゲート酸化膜15の部分の厚みt1は、たとえば70nm以上100nm以下である。ベース領域13上のゲート酸化膜15の部分の厚みt3は、たとえば40nm以上60nm以下である。
【0043】
図4を参照して、ゲート酸化膜15が形成される面(つまり、トレンチTRの側面SW)と、炭化珪素基板10の第1の主面10aとが形成する角度θと、ゲート酸化膜15が形成される面が熱酸化される速度(つまり、ゲート酸化膜の成長速度)について説明する。なお、図4において、角度0°の場合、ゲート酸化膜が形成される面は、(000−1)面である。
【0044】
図4に示すように、トレンチTRの側面SWの角度θが50°以上65°以下の場合において当該側面SW上に形成されるゲート酸化膜15の成長速度は、トレンチTRの側面SWの角度θが20°以上50°未満の場合において当該側面SW上に形成されるゲート酸化膜15の成長速度よりも小さくなる。第1の主面10aまたはトレンチTRの底部BTは、トレンチTRの角度θが0°の場合に対応する。そのため、第1の主面10aまたはトレンチTRの底部BT上に形成されるゲート酸化膜15の成長速度は、トレンチTRの側面SWの角度θが20°以上50°未満の場合において当該側面SW上に形成されるゲート酸化膜15の成長速度よりも大きくなる。結果として、トレンチTRの側面SWの角度θが20°以上50°未満の場合において当該側面SW上に形成されるゲート酸化膜15の厚みは、トレンチTRの側面SWの角度θが50°以上65°以下の場合において当該側面SW上に形成されるゲート酸化膜15の厚みよりも大きくなり、かつ第1の主面10aまたはトレンチTRの底部BT上に形成されるゲート酸化膜15の厚みよりも小さくなる。
【0045】
再び図1を参照して、ゲート電極27は、トレンチTRの内部において、ゲート酸化膜15上に設けられている。ゲート電極27は、ゲート酸化膜15を介して、ソース領域14、ベース領域13およびドリフト領域12の各々と接している。ゲート電極27は、たとえば不純物を含むポリシリコンなど導電性材料からなる。
【0046】
ソース電極16は、たとえば炭化珪素基板10の第1の主面10aにおいて、ソース領域14と、コンタクト領域18とに接している。ソース電極16は、たとえばTiAlSiを含む。ソース配線層19はソース電極16に接している。ソース配線層19は、たとえばアルミニウムを含む。層間絶縁膜21は、トレンチTRの内部においてゲート電極27と接している。層間絶縁膜21はゲート電極27とソース配線層19との間を絶縁している。ドレイン電極20は、第2の主面10bにおいて炭化珪素単結晶基板11とオーミック接合している。ドレイン電極20は、たとえばNiSiを含む材料からなる。
【0047】
次に、本発明の一実施の形態に係る炭化珪素半導体装置としてのMOSFET1の製造方法について説明する。
【0048】
まず、炭化珪素基板準備工程(S10:図5)が実施される。図6を参照して、上面および下面を有する炭化珪素単結晶基板11が準備される。上面は、{000−1}面から8°以内のオフ角を有することが好ましく、4°以内のオフ角を有することがより好ましい。この場合に{000−1}面は(000−1)面であることがより好ましい。炭化珪素単結晶基板11は、たとえばポリタイプ4Hを有する六方晶炭化珪素単結晶からなる。
【0049】
次に、炭化珪素単結晶基板11の上面上にエピタキシャル成長によってドリフト領域12が形成される。エピタキシャル成長はCVD(Chemical Vapor Deposition)法により行われ得る。原料ガスとしては、たとえば、シラン(SiH4)とプロパン(C38)との混合ガスを用い得る。エピタキシャル成長において、不純物として、たとえば窒素(N)やリン(P)を導入することが好ましい。
【0050】
次に、ドリフト領域12上にベース領域13およびソース領域14が形成される。図7を参照して、たとえば、ドリフト領域12の表面全体に対して、たとえばアルミニウムなどの不純物がイオン注入されることにより、ドリフト領域12に接するベース領域13が形成される。次に、たとえばベース領域13の表面全体に対して、たとえば窒素またはリンなどの不純物がイオン注入されることにより、ベース領域13に接するソース領域14が形成される。ソース領域14は、炭化珪素基板10の第1の主面10aを構成する。なおイオン注入に代わり、不純物の添加をともなうにエピタキシャル成長が用いられることにより、ベース領域13およびソース領域14が形成されてもよい。
【0051】
次に、コンタクト領域18が形成される。図8を参照して、たとえば、ソース領域14の表面の一部に対して、アルミニウムなどのp型不純物がイオン注入されることにより、ソース領域14を貫通して、ベース領域13に接するコンタクト領域18が形成される。
【0052】
次に、炭化珪素基板10にイオン注入された不純物を活性化するための活性化アニールが行われる。活性化アニールの温度は、好ましくは1500℃以上1900℃以下であり、たとえば1700℃程度である。活性化アニールの時間は、たとえば30分程度である。活性化アニールの雰囲気は、好ましくは不活性ガス雰囲気であり、たとえばAr雰囲気である。以上により、n型を有するドリフト領域12と、ドリフト領域12上に設けられp型を有するベース領域13と、ベース領域13上に設けられn型を有するソース領域14と、ソース領域14を貫通してベース領域13に接し、かつp型を有するコンタクト領域を含む炭化珪素基板10が準備される。
【0053】
次に、トレンチ形成工程(S20:図5)が実施される。たとえば、炭化珪素基板10の第1の主面10a上に、開口部を有するエッチングマスク40が形成される。開口部はトレンチTR(図1)の位置に対応して形成される。図9を参照して、エッチングマスク40は、第1の主面10aにおいてコンタクト領域18と、ソース領域14とに接して形成される。エッチングマスク40は、たとえば炭化珪素基板10の第1の主面10aを熱酸化することによりシリコン酸化膜を形成した後、当該シリコン酸化膜をパターニングすることにより形成され得る。
【0054】
次に、エッチングマスク40が設けられた炭化珪素基板10の第1の主面10aに対して、物理的作用を有するエッチングが行われる。これによりエッチングマスク40の開口部において、ソース領域14と、ベース領域13と、ドリフト領域12の一部とがエッチングにより除去されることにより、第1の主面10aに凹部TQが形成される(図10参照)。凹部TQは第1の主面10aに対してほぼ垂直な側壁面を有する。物理的作用を有するエッチングとしては、反応性イオンエッチング(RIE)が好ましく、誘導結合プラズマ(ICP)RIEがより好ましい。RIEの反応ガスとしては、SF6またはSF6とO2との混合ガスを用いることができる。
【0055】
次に、エッチングマスク40が設けられかつ凹部TQが形成された炭化珪素基板10の第1の主面10aに対して、熱エッチングが行われる。たとえば、少なくとも塩素を含む第1ガスを用いて炭化珪素基板10の第1の主面10aがエッチングされる。塩素を含む第1ガスは、たとえば塩素およびインターハロゲン化合物などである。インターハロゲン化合物は、たとえばClFx、BrFxおよびIFx(ここでXは、1、3などの奇数)などである。第1ガスは、塩素に加えて、キャリアガスを含んでいてもよい。キャリアガスとしては、たとえば窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどを用いることができる。たとえば、まず、第1ガスと、酸素、フッ素および水素の少なくともいずれかを含む第2ガスとを用いて炭化珪素基板10の第1の主面10aがエッチングされる(第1エッチング工程)。酸素、フッ素および水素の少なくともいずれかを含む第2ガスとは、たとえば酸素、フッ素、水素、SF(六フッ化硫黄)、CF(四フッ化炭素)およびHCl(塩化水素)、ClO-(一酸化塩素)、ClO2(二酸化塩素)、Cl2O(一酸化二塩素)、Cl2O7(七酸化二塩素)などである。具体的には、塩素ガスと酸素ガスとの混合ガスを用いて炭化珪素基板10の第1の主面10aが、たとえば800℃で熱エッチングされる。酸素の体積濃度は、たとえば10%以上20%以下程度である。混合ガスにおいて、塩素ガスの濃度が高いと炭化珪素がエッチングされやすくなる。具体的には、炭化珪素は塩素と反応することで四塩化珪素と炭素とになる。つまり、珪素は四塩化珪素になりガスとして除去されることにより、トレンチTRの側面SWおよび底部BTにおいて炭素が残存する。炭素は、酸素と反応することで二酸化炭素になりガスとして除去される。以上のように、珪素および炭素が、炭化珪素基板10の第1の主面10aから除去されることにより、第1の主面10aにトレンチTRが形成される。
【0056】
次に、第2ガスの流量を低減させる。具体的には、酸素ガスの流量を低減させることで塩素ガスの濃度を高める。第2ガスの流量を減少させた後、第1ガスと、第2ガスとを用いて炭化珪素基板10の第1の主面10aがエッチングされる(第2エッチング工程)。好ましくは、第2エッチング工程において、第2ガスの導入が停止されてもよい。第2ガスの導入が停止された後、第1ガスを用いて炭化珪素基板10の第1の主面10aがエッチングされる。具体的には、塩素ガスと酸素ガスとを用いて炭化珪素基板10の第1の主面10aがエッチングされた(第1エッチング工程)後、酸素ガスの導入が停止される。酸素ガスの導入が停止された後、塩素ガスを用いて炭化珪素基板10の第1の主面10aがエッチングされる(第2エッチング工程)。熱エッチング工程の後、エッチングマスク40が除去される。
【0057】
第1エッチング工程および第2エッチング工程の各々において、たとえば700℃以上1000℃以下で炭化珪素基板10の第1の主面10aが熱エッチングされ、好ましくは800℃以上900℃以下で炭化珪素基板10の第1の主面10aが熱エッチングされる。第2エッチング工程における炭化珪素基板10の温度は、第1エッチング工程における炭化珪素基板10の温度よりも低くてもよい。炭化珪素基板10の温度を低減させることにより、炭化珪素のエッチングレートが低くなるので、炭化珪素基板10の第1の主面10aに形成されるトレンチTRの形状を精度良く制御することができる。
【0058】
以上により、炭化珪素基板10の第1の主面10aにおいて、ソース領域14と、ベース領域13とを貫通してドリフト領域12に至る側面SWと、ドリフト領域12に位置する底部BTとを有するトレンチTRが形成される。図11を参照して、トレンチTRの側面SWは、第1の主面10aと連接し、ソース領域14に形成される第1側面部SW1と、第1側面部SW1と連接し、ソース領域14、ベース領域13およびドリフト領域12により形成される第2側面部SW2とを有している。好ましくは、トレンチTRの形成時、側面SW上、特にベース領域13上において、特殊面が自己形成される。特殊面の詳細については後述する。
【0059】
次に、ゲート酸化膜形成工程(S30:図5)が実施される。図12を参照して、炭化珪素基板10の第1の主面10aと、トレンチTRの側面SWと、トレンチTRの底部BTとを覆うゲート酸化膜15が形成される。より詳細には、トレンチTRの側面SWにおいて、ドリフト領域12と、ベース領域13と、ソース領域14とに接し、かつトレンチTRの底部BTにおいてドリフト領域12と接するゲート酸化膜15が形成される。ゲート酸化膜15は、たとえば熱酸化により形成される。
【0060】
好ましくは、1300℃以下で炭化珪素基板10を酸化することにより、ゲート酸化膜15がトレンチTRの側面SWおよび底部BTの各々に接して形成される。より好ましくは、1250℃以下で炭化珪素基板10を酸化することによりゲート酸化膜15が形成され、さらに好ましくは1100℃以下で炭化珪素基板10を酸化することによりゲート酸化膜15が形成される。1300℃以下の温度において、トレンチTRが形成された炭化珪素基板10を熱酸化することによりゲート酸化膜15を形成することにより、炭化珪素の酸化速度の面方位依存性を大きくすることができる。図4に示すように、炭化珪素の酸化速度は、炭化珪素の面方位により異なる。具体的には、炭化珪素基板10の第1の主面10a上に形成されるゲート酸化膜15の成長速度は、トレンチTRの側面SW(特にチャネル領域)上におけるゲート酸化膜15の成長速度よりも大きい。炭化珪素の酸化速度の面内依存性は、1300℃以下で顕著に大きくなり、1300℃を超えると小さくなる。つまり、ゲート酸化膜15を、1300℃以下の温度においてトレンチTRが形成された炭化珪素基板10を熱酸化することにより形成することにより、炭化珪素基板10の第1の主面10a上のゲート酸化膜15の部分の厚みを、トレンチTRの側面SW(特にチャネル領域)上のゲート酸化膜15の部分の厚みよりも、顕著に大きくすることができる。なお、1300℃以下でトレンチTRの側面SWおよび底部BTの各々に接するゲート酸化膜15を形成した後、1300℃よりも高い温度(たとえば1350℃程度)でゲート酸化膜15を加熱することにより、ゲート酸化膜15の膜質を向上させてもよい。
【0061】
図3を参照して、ゲート酸化膜形成後において、炭化珪素基板10の第1の主面10aとトレンチTRの側面SWとの接点C1上のゲート酸化膜15の部分の厚みt1は、ベース領域13上のゲート酸化膜15の部分の厚みt3よりも大きい。炭化珪素基板10の第1の主面10aとトレンチTRの側面SWとの接点C1上のゲート酸化膜15の部分の厚みt1とは、第1の主面10aに対して垂直な方向におけるゲート酸化膜15の厚みである。またベース領域13上のゲート酸化膜15の部分の厚みt3とは、ベース領域13により形成される第2側面部SW2の部分に対して垂直な方向におけるゲート酸化膜15の部分の厚みである。好ましくは、トレンチTRの底部BT上のゲート酸化膜15の部分の厚みt4は、ベース領域13上のゲート酸化膜15の部分の厚みt3よりも大きい。トレンチTRの底部BT上のゲート酸化膜15の部分の厚みt4とは、トレンチTRの底部BTに対して垂直な方向におけるゲート酸化膜15の部分の厚みt4である。好ましくは、ソース領域14上のゲート酸化膜15の部分の厚みt2は、第1の主面10aと第1側面部SW1との接点C1上のゲート酸化膜15の部分の厚みよりも小さく、かつベース領域13上のゲート酸化膜15の部分の厚みt3よりも大きい。ソース領域14上のゲート酸化膜15の部分の厚みとは、第1側面部SW1に対して垂直な方向におけるゲート酸化膜15の部分の厚みt2のことである。
【0062】
ゲート酸化膜形成後に、雰囲気ガスとして一酸化窒素(NO)ガスを用いるNOアニールが行われてもよい。温度プロファイルは、たとえば、温度1100℃以上1300℃以下、保持時間1時間程度の条件を有する。これにより、ゲート酸化膜15とベース領域13との界面領域に窒素原子が導入される。その結果、界面領域における界面準位の形成が抑制されることで、チャネル移動度を向上させることができる。なお、このような窒素原子の導入が可能であれば、NOガス以外のガスが雰囲気ガスとして用いられてもよい。NOアニールの後にさらに、雰囲気ガスとしてアルゴン(Ar)を用いるArアニールが行われてもよい。Arアニールの加熱温度は、上記NOアニールの加熱温度よりも高く、ゲート酸化膜15の融点よりも低いことが好ましい。この加熱温度が保持される時間は、たとえば1時間程度である。これにより、ゲート酸化膜15とベース領域13との界面領域における界面準位の形成がさらに抑制される。なお、雰囲気ガスとして、Arガスに代えて窒素ガスなどの他の不活性ガスが用いられてもよい。
【0063】
好ましくは、ゲート酸化膜15を形成する工程後において、第1側面部SW1と第2側面部SW2との接点C2は、ソース領域14に位置する。言い換えれば、第1側面部SW1と、第2側面部SW2との接点C2は、ベース領域13と第1の主面10aとの間に位置する。第1側面部SW1と第2側面部SW2との接点C2を通り、かつ炭化珪素基板10の第1の主面10aと平行な直線と、第1側面部SW1とが形成する第1角度θ1は、ドリフト領域12とベース領域13との境界面13aと、第2側面部SW2とが形成する第2角度θ2よりも小さい。好ましくは、ドリフト領域12とベース領域13との境界面13aと、第2側面部SW2とが形成する第2角度θ2は、50°以上65°以下である。好ましくは、第1側面部SW1と第2側面部SW2との接点C2を通り、かつ炭化珪素基板10の第1の主面10aと平行な直線と、第1側面部SW1とが形成する第1角度θ1は、20°以上50°未満である。
【0064】
次に、ゲート電極形成工程(S40:図5)が実施される。図13を参照して、ゲート酸化膜15上にゲート電極27が形成される。たとえば、ゲート電極27は、ゲート酸化膜15上に、導体または不純物がドープされたポリシリコンを成膜することにより形成される。次に、ゲート電極27の露出面を覆うように、ゲート電極27およびゲート酸化膜15上に層間絶縁膜21が形成される。層間絶縁膜21は、トレンチTRの内部を埋めるように形成される。次に、層間絶縁膜21およびゲート酸化膜15に開口部が形成されるようにエッチングが行われる。当該開口部によって、炭化珪素基板10の第1の主面10a上において、ソース領域14と、コンタクト領域18とがゲート酸化膜15および層間絶縁膜21から露出される。
【0065】
次に、ソース電極形成工程(S50:図5)が実施される。図14を参照して、ソース領域14と、コンタクト領域18とに接するソース電極16が形成される。ソース電極16は、たとえばTiAlSiを含む材料からなる。次に、ソース電極16が形成された炭化珪素基板10が、たとえば1000℃程度に加熱されることにより、ソース電極16が炭化珪素基板10のソース領域14とオーミック接合する。次に、ソース電極16に接してソース配線層19が形成される。ソース配線層19は、たとえばアルミニウムを含む材料からなる。次に、炭化珪素単結晶基板11の第2の主面10bに、たとえばNiSiを含む材料からなるドレイン電極20が形成される。以上により、図1に示すMOSFET1の製造が完成する。
【0066】
(特殊面)
上述した「特殊面」について詳しく説明する。上述したように、側面SW(図3参照)は、特にベース領域13上において特殊面を有することが好ましい。以下、側面SWが特殊面を有する場合について説明する。
【0067】
図15に示すように、特殊面を有する側面SWは、面S1(第1の面)を含む。面S1は面方位{0−33−8}を有し、好ましくは面方位(0−33−8)を有する。好ましくは、側面SWは面S1を微視的に含む。好ましくは、側面SWはさらに面S2(第2の面)を微視的に含む。面S2は面方位{0−11−1}を有し、好ましくは面方位(0−11−1)を有する。ここで「微視的」とは、原子間隔の2倍程度の寸法を少なくとも考慮する程度に詳細に、ということを意味する。このように微視的な構造の観察方法としては、たとえばTEM(Transmission Electron Microscope)を用いることができる。
【0068】
好ましくは、側面SWは複合面SRを有する。複合面SRは、面S1およびS2が周期的に繰り返されることによって構成されている。このような周期的構造は、たとえば、TEMまたはAFM(Atomic Force Microscopy)により観察し得る。複合面SRは面方位{0−11−2}を有し、好ましくは面方位(0−11−2)を有する。この場合、複合面SRは{000−1}面に対して巨視的に62°のオフ角を有する。ここで「巨視的」とは、原子間隔程度の寸法を有する微細構造を無視することを意味する。このように巨視的なオフ角の測定としては、たとえば、一般的なX線回折を用いた方法を用い得る。好ましくは、チャネル面上においてキャリアが流れる方向であるチャネル方向CDは、上述した周期的繰り返しが行われる方向に沿っている。
【0069】
次に、複合面SRの詳細な構造について説明する。
一般に、ポリタイプ4Hの炭化珪素単結晶を(000−1)面から見ると、図16に示すように、Si原子(またはC原子)は、A層の原子(図中の実線)と、この下に位置するB層の原子(図中の破線)と、この下に位置するC層の原子(図中の一点鎖線)と、この下に位置するB層の原子(図示せず)とが繰り返し設けられている。つまり4つの層ABCBを1周期としてABCBABCBABCB・・・のような周期的な積層構造が設けられている。
【0070】
図17に示すように、(11−20)面(図16の線XVII−XVIIの断面)において、上述した1周期を構成する4つの層ABCBの各層の原子は、(0−11−2)面に完全に沿うようには配列されていない。図17においてはB層の原子の位置を通るように(0−11−2)面が示されており、この場合、A層およびC層の各々の原子は(0−11−2)面からずれていることがわかる。このため、炭化珪素単結晶の表面の巨視的な面方位、すなわち原子レベルの構造を無視した場合の面方位が(0−11−2)に限定されたとしても、この表面は、微視的には様々な構造をとり得る。
【0071】
図18に示すように、複合面SRは、面方位(0−33−8)を有する面S1と、面S1につながりかつ面S1の面方位と異なる面方位を有する面S2とが交互に設けられることによって構成されている。面S1および面S2の各々の長さは、Si原子(またはC原子)の原子間隔の2倍である。なお面S1および面S2が平均化された面は、(0−11−2)面(図17)に対応する。
【0072】
図19に示すように、複合面SRを(01−10)面から見て単結晶構造は、部分的に見て立方晶と等価な構造(面S1の部分)を周期的に含んでいる。具体的には複合面SRは、上述した立方晶と等価な構造における面方位(001)を有する面S1と、面S1につながりかつ面S1の面方位と異なる面方位を有する面S2とが交互に設けられることによって構成されている。このように、立方晶と等価な構造における面方位(001)を有する面(図19においては面S1)と、この面につながりかつこの面方位と異なる面方位を有する面(図19においては面S2)とによって表面を構成することは4H以外のポリタイプにおいても可能である。ポリタイプは、たとえば6Hまたは15Rであってもよい。
【0073】
次に図20を参照して、側面SWの結晶面と、チャネル面の移動度MBとの関係について説明する。図20のグラフにおいて、横軸は、チャネル面を有する側面SWの巨視的な面方位と(000−1)面とのなす角度D1を示し、縦軸は移動度MBを示す。プロット群CMは側面SWが熱エッチングによる特殊面として仕上げられた場合に対応し、プロット群MCはそのような熱エッチングがなされない場合に対応する。
【0074】
プロット群MCにおける移動度MBは、チャネル面の表面の巨視的な面方位が(0−33−8)のときに最大となった。この理由は、熱エッチングが行われない場合、すなわち、チャネル表面の微視的な構造が特に制御されない場合においては、巨視的な面方位が(0−33−8)とされることによって、微視的な面方位(0−33−8)、つまり原子レベルまで考慮した場合の面方位(0−33−8)が形成される割合が確率的に高くなったためと考えられる。
【0075】
一方、プロット群CMにおける移動度MBは、チャネル面の表面の巨視的な面方位が(0−11−2)のとき(矢印EX)に最大となった。この理由は、図18および図19に示すように、面方位(0−33−8)を有する多数の面S1が面S2を介して規則正しく稠密に配置されることで、チャネル面の表面において微視的な面方位(0−33−8)が占める割合が高くなったためと考えられる。
【0076】
なお移動度MBは複合面SR上において方位依存性を有する。図21に示すグラフにおいて、横軸はチャネル方向と<0−11−2>方向との間の角度D2を示し、縦軸はチャネル面の移動度MB(任意単位)を示す。破線はグラフを見やすくするために補助的に付してある。このグラフから、チャネル移動度MBを大きくするには、チャネル方向CD(図15)が有する角度D2は、0°以上60°以下であることが好ましく、ほぼ0°であることがより好ましいことがわかった。
【0077】
図22に示すように、側面SWは複合面SR(図22においては直線で単純化されて示されている。)に加えてさらに面S3(第3の面)を含んでもよい。この場合、側面SWの{000−1}面に対するオフ角は、理想的な複合面SRのオフ角である62°からずれる。このずれは小さいことが好ましく、±10°の範囲内であることが好ましい。このような角度範囲に含まれる表面としては、たとえば、巨視的な面方位が{0−33−8}面となる表面がある。より好ましくは、側面SWの(000−1)面に対するオフ角は、理想的な複合面SRのオフ角である62°からずれる。このずれは小さいことが好ましく、±10°の範囲内であることが好ましい。このような角度範囲に含まれる表面としては、たとえば、巨視的な面方位が(0−33−8)面となる表面がある。
【0078】
より具体的には側面SWは、面S3および複合面SRが周期的に繰り返されることによって構成された複合面SQを含んでもよい。このような周期的構造は、たとえば、TEMまたはAFMにより観察し得る。
【0079】
以上のように、ベース領域13により形成されるトレンチTRの側面SW(言い換えれば、第2側面部SW2)は、面方位{0−33−8}を有する第1の面S1を含んでもよい。好ましくは、第2側面部SW2は、第1の面S1を微視的に含み、第2側面部SW2はさらに、面方位{0−11−1}を有する第2の面S2を微視的に含む。好ましくは、第2側面部SW2の第1の面S1および第2の面S2は、面方位{0−11−2}を有する複合面を含む。好ましくは、第2側面部SW2は、{000−1}面に対して、巨視的に62°±10°のオフ角を有する。
【0080】
次に、本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置およびその製造方法の作用効果について説明する。
【0081】
本実施の形態に係るMOSFET1によれば、主面10aと第1側面部SW1との接点C1上のゲート酸化膜15の部分の厚みは、ベース領域13上のゲート酸化膜15の部分の厚みよりも大きい。そのため、ベース領域13のチャネル部分の抵抗を低く維持しつつ、主面10aと側面SWとの接点C1上のゲート酸化膜15の部分におけるリーク電流を抑制することができる。結果として、高い信頼性を有しかつチャネル抵抗を低く維持可能なMOSFET1を得ることができる。
【0082】
また本実施の形態に係るMOSFET1によれば、ドリフト領域12とベース領域13との境界面13aと、第2側面部SW2とが形成する角度θ2は、50°以上65°以下である。これにより、ベース領域13におけるチャネル抵抗を効果的に低減することができる。
【0083】
さらに本実施の形態に係るMOSFET1によれば、第1側面部SW1と第2側面部SW2との接点C2を通り、かつ主面10aと平行な直線と、第1側面部SW1とが形成する角度θ1は、20°以上50°未満である。当該角度θ1を20°以上とすることにより、トレンチTRの幅が広がることにより、セル密度が低減することを抑制することができる。当該角度θ1を50°未満とすることにより、主面10aと第1側面部SW1との接点C1上におけるゲート酸化膜15の厚みを効果的に大きくすることができる。
【0084】
さらに本実施の形態に係るMOSFET1によれば、トレンチTRの底部BT上のゲート酸化膜15の部分の厚みは、ベース領域13上のゲート酸化膜15の部分の厚みよりも大きい。これにより、トレンチTRの底部BT上のゲート酸化膜15において、リーク電流が発生することを抑制することができる。
【0085】
さらに本実施の形態に係るMOSFET1によれば、トレンチTRの第2側面部SW2は、面方位{0−33−8}を有する第1の面S1を含む。これにより、側面SWにおけるチャネル抵抗を低減可能である。よってMOSFET1のオン抵抗を低減することができる。
【0086】
さらに本実施の形態に係るMOSFET1によれば、トレンチTRの第2側面部SW2は、第1の面S1を微視的に含み、第2側面部SW2はさらに、面方位{0−11−1}を有する第2の面S2を微視的に含む。これにより、側面SWにおけるチャネル抵抗をより低減可能である。よってMOSFET1のオン抵抗を低減することができる。
【0087】
さらに本実施の形態に係るMOSFET1によれば、トレンチTRの第2側面部SW2の第1の面S1および第2の面S2は、面方位{0−11−2}を有する複合面を含む。これにより、側面SWにおけるチャネル抵抗をより低減可能である。よってMOSFET1のオン抵抗を低減することができる。
【0088】
さらに本実施の形態に係るMOSFET1によれば、トレンチTRの第2側面部SW2は、{000−1}面に対して、巨視的に62°±10°のオフ角を有する。これにより、側面SWにおけるチャネル抵抗をより低減可能である。よってMOSFET1のオン抵抗を低減することができる。
【0089】
本実施の形態に係るMOSFET1の製造方法によれば、主面10aと第1側面部SW1との接点C1上のゲート酸化膜15の部分の厚みは、ベース領域13上のゲート酸化膜15の部分の厚みよりも大きい。そのため、ベース領域13のチャネル部分の抵抗を低く維持しつつ、主面10aと側面SWとの接点C1上のゲート酸化膜15の部分におけるリーク電流を抑制することができる。結果として、高い信頼性を有しかつチャネル抵抗を低く維持可能なMOSFET1を得ることができる。
【0090】
また本実施の形態に係るMOSFET1の製造方法によれば、ゲート酸化膜15を形成する工程は、1300℃以下で炭化珪素基板10を酸化する工程を含む。これにより、炭化珪素の酸化速度の面方位依存性を大きくすることができる。そのため、主面10aと第1側面部SW1との接点C1上のゲート酸化膜15の部分の厚みを、トレンチTRの側面SW(特にベース領域13)上のゲート酸化膜15の部分の厚みよりも、顕著に大きくすることができる。結果として、より高い信頼性を有しかつチャネル抵抗を低く維持可能なMOSFET1を得ることができる。
【0091】
さらに本実施の形態に係るMOSFET1の製造方法によれば、第1ガスは、塩素およびインターハロゲン化合物からなる群から選択される少なくともいずれかを含む。これにより、炭化珪素を効果的にエッチングすることができる。
【0092】
さらに本実施の形態に係るMOSFET1の製造方法によれば、炭化珪素基板10をエッチングする工程は、第1ガスと、酸素、フッ素および水素の少なくともいずれかを含む第2ガスとを用いて炭化珪素基板をエッチングする第1工程と、第1工程における第2ガスの流量よりも第2ガスの流量を減少させた後、第1ガスと、第2ガスとを用いて炭化珪素基板10をエッチングする第2工程とを含む。これにより、トレンチTRの形状を精度良く制御することができる。
【0093】
さらに本実施の形態に係るMOSFET1の製造方法によれば、第2工程において、第2ガスの導入を停止した後、第1ガスを用いて炭化珪素基板10がエッチングされる。これにより、トレンチTRの形状をより精度良く制御することができる。
【0094】
さらに本実施の形態に係るMOSFET1の製造方法によれば、第2ガスは、酸素、フッ素、水素、六フッ化硫黄、四フッ化炭素、塩化水素、一酸化塩素、二酸化塩素、一酸化二塩素および七酸化二塩素からなる群から選択される少なくともいずれかを含む。これにより、炭化珪素をより効果的にエッチングすることができる。
【0095】
さらに本実施の形態に係るMOSFET1の製造方法によれば、トレンチTRを形成する工程は、700℃以上1000℃以下で炭化珪素基板10をエッチングする工程を含む。炭化珪素基板10を700℃以上でエッチングすることにより、炭化珪素を効果的にエッチングすることができる。炭化珪素基板10を1000℃以下でエッチングすることにより、炭化珪素のエッチングレートが高くなり過ぎることを抑制することができるので、トレンチTRの形状を精度良く制御することができる。
【0096】
さらに本実施の形態に係るMOSFET1の製造方法によれば、ゲート酸化膜15を形成する工程後において、ドリフト領域12とベース領域13との境界面13aと、第2側面部SW2とが形成する角度θ2は、50°以上65°以下である。これにより、ベース領域13におけるチャネル抵抗を効果的に低減することができる。
【0097】
さらに本実施の形態に係るMOSFET1の製造方法によれば、ゲート酸化膜15を形成する工程後において、第1側面部SW1と第2側面部SW2との接点C2を通り、かつ主面10aと平行な直線と、第1側面部SW1とが形成する角度θ1は、20°以上50°未満である。当該角度θ1を20°以上とすることにより、トレンチTRの幅が広がることにより、セル密度が低減することを抑制することができる。当該角度θ1を50°未満とすることにより、主面10aと第1側面部SW1との接点C1上におけるゲート酸化膜15の厚みを効果的に大きくすることができる。
【0098】
さらに本実施の形態に係るMOSFET1の製造方法によれば、ゲート酸化膜15を形成する工程後において、トレンチTRの底部BT上のゲート酸化膜15の部分の厚みは、第2不純物領域13上のゲート酸化膜15の部分の厚みよりも大きい。これにより、トレンチTRの底部BT上のゲート酸化膜15において、リーク電流が発生することを抑制することができる。
【0099】
なお上記実施の形態において、第1導電型はn型であり、かつ第2導電型はp型であるとして説明したが、第1導電型をp型とし、かつ第2導電型をn型としてもよい。炭化珪素半導体装置としてMOSFETを例に挙げて説明したが、炭化珪素半導体装置は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などであってもよい。
【0100】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0101】
1 炭化珪素半導体装置(MOSFET)
2 炭化珪素エピタキシャル層
10 炭化珪素基板
10a 第1の主面
10b 第2の主面
11 単結晶基板
12 ドリフト領域(第1不純物領域)
13 ベース領域(第2不純物領域)
13a 境界面
14 ソース領域(第3不純物領域)
15 ゲート酸化膜
16 ソース電極
18 コンタクト領域
19 ソース配線層
20 ドレイン電極
21 層間絶縁膜
27 ゲート電極
40 エッチングマスク
BT 底部
C1,C2 接点
CD チャネル方向
D1,D2 角度
EX 矢印
MC プロット群
S1 第1の面
S2 第2の面
SQ,SR 複合面
SW 側面
SW1 第1側面部
SW2 第2側面部
TQ 凹部
TR トレンチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22