特許第6357902号(P6357902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6357902エンジンの排気再循環方法及び排気再循環装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357902
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】エンジンの排気再循環方法及び排気再循環装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 26/08 20160101AFI20180709BHJP
   F02M 26/10 20160101ALI20180709BHJP
   F02M 26/24 20160101ALI20180709BHJP
   F02M 26/52 20160101ALI20180709BHJP
   F02B 37/04 20060101ALI20180709BHJP
   F02B 37/00 20060101ALI20180709BHJP
   F02B 37/24 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   F02M26/08 301
   F02M26/08 321
   F02M26/08 331
   F02M26/08 341
   F02M26/08 351
   F02M26/10 311
   F02M26/24
   F02M26/52
   F02B37/04 B
   F02B37/00 302F
   F02B37/24
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-124402(P2014-124402)
(22)【出願日】2014年6月17日
(65)【公開番号】特開2016-3614(P2016-3614A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2017年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】菊地 武
【審査官】 齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】 中国実用新案第201513259(CN,U)
【文献】 国際公開第2007/040071(WO,A1)
【文献】 特開平10−103161(JP,A)
【文献】 特開平01−232155(JP,A)
【文献】 特開2009−068477(JP,A)
【文献】 実開昭61−032560(JP,U)
【文献】 特開2000−220480(JP,A)
【文献】 特表2009−523961(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0178407(US,A1)
【文献】 特開2012−140928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 26/08
F02B 37/00
F02B 37/04
F02B 37/24
F02M 26/10
F02M 26/24
F02M 26/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの吸排気系に接続されたコンプレッサとタービンからなる低圧段ターボチャージャと、前記低圧段ターボチャージャのコンプレッサで圧縮された吸気を更に圧縮してエンジンの吸気系に供給する高圧段機械式過給機と、エンジンの吸排気マニホルドの出入口を接続し排気を吸気側に環流させる高圧排気再循環手段と、前記低圧段ターボチャージャのタービン出口側の排気をコンプレッサ吸気側に環流させる低圧排気再循環手段と、前記低圧段ターボチャージャのタービンの入口側の排気をコンプレッサの出口側に環流させる中圧排気再循環手段とを備えたエンジンの排気再循環方法であって、
前記エンジンは、前記高圧段機械式過給機の入口側の吸気通路から出口側の吸気通路に吸気をバイパスさせる吸気切り替え通路と、前記吸気切り替え通路に設けられ開度調節可能な吸気切り替えバルブとを備え、
前記高圧排気再循環手段は、吸気側に戻される排気を冷却する高圧排気再循環クーラと、前記高圧排気再循環クーラの入口温度を測定する第1温度センサと、前記高圧排気再循環クーラの出口温度を測定する第2温度センサとを備え、
前記エンジンの運転状態を制御する制御手段が、エンジン回転数と燃料の指示噴射量とに基づいて高圧排気再循環、中圧排気再循環及び低圧排気再循環の各排気再循環モードを切り替える排気再循環切り替えマップを備え、
エンジン回転数、燃料の指示噴射量及び前記排気再循環切り替えマップからエンジンの運転状態を判定すると共に、排気再循環モードを選定し、その選定した排気再循環モードで排気再循環を行うと共に、その排気再循環率を制御し、前記高圧排気再循環手段で排気再循環を行うとき、前記第2温度センサで測定される出口温度と前記第1温度センサで測定される入口温度からガスの逆流を検知し、ガスが排気側から吸気側に戻るように前記吸気切り替えバルブの開度を調節することを特徴とするエンジンの排気再循環方法。
【請求項2】
エンジンの吸排気系に接続されたコンプレッサとタービンからなる低圧段ターボチャージャと、前記低圧段ターボチャージャのコンプレッサで圧縮された吸気を更に圧縮してエンジンの吸気系に供給する高圧段機械式過給機と、エンジンの吸排気マニホルドの出入口を接続し排気を吸気側に環流させる高圧排気再循環手段と、前記低圧段ターボチャージャのタービン出口側の排気をコンプレッサ吸気側に環流させる低圧排気再循環手段と、前記低圧段ターボチャージャのタービンの入口側の排気をコンプレッサの出口側に環流させる中圧排気再循環手段とを備えたエンジンの排気再循環方法であって、
前記低圧段ターボチャージャはタービンのベーン開度が調節可能な可変翼ターボからなり、
前記高圧排気再循環手段は、吸気側に戻される排気を冷却する高圧排気再循環クーラと、前記高圧排気再循環クーラの入口温度を測定する第1温度センサと、前記高圧排気再循環クーラの出口温度を測定する第2温度センサとを備え、
前記エンジンの運転状態を制御する制御手段が、エンジン回転数と燃料の指示噴射量とに基づいて高圧排気再循環、中圧排気再循環及び低圧排気再循環の各排気再循環モードを切り替える排気再循環切り替えマップを備え、
エンジン回転数、燃料の指示噴射量及び前記排気再循環切り替えマップからエンジンの運転状態を判定すると共に、排気再循環モードを選定し、その選定した排気再循環モードで排気再循環を行うと共に、その排気再循環率を制御し、前記高圧排気再循環手段で排気再循環を行うとき、前記第2温度センサで測定される出口温度と前記第1温度センサで測定される入口温度からガスの逆流を検知し、ガスが排気側から吸気側に戻るように前記タービンのベーン開度を調節することを特徴とするエンジンの排気再循環方法。
【請求項3】
エンジンの吸排気系に接続されたコンプレッサとタービンからなる低圧段ターボチャージャと、前記低圧段ターボチャージャのコンプレッサで圧縮された吸気を更に圧縮してエンジンの吸気系に供給する高圧段機械式過給機と、エンジンの吸排気マニホルドの出入口を接続し排気を吸気側に環流させる高圧排気再循環手段と、前記低圧段ターボチャージャのタービン出口側の排気をコンプレッサ吸気側に環流させる低圧排気再循環手段と、前記低圧段ターボチャージャのタービンの入口側の排気をコンプレッサの出口側に環流させる中圧排気再循環手段と、エンジン回転数と燃料の指示噴射量とに基づいて高圧排気再循環、中圧排気再循環及び低圧排気再循環の各排気再循環モードを切り替える排気再循環切り替えマップを有し、エンジン回転数、燃料の指示噴射量及び前記排気再循環切り替えマップからエンジンの運転状態を判定すると共に、排気再循環モードを選定し、その選定した排気再循環モードで排気再循環を行うと共に、その排気再循環率を制御する制御手段と、前記高圧段機械式過給機の入口側の吸気通路から出口側の吸気通路に吸気をバイパスさせる吸気切り替え通路と、前記吸気切り替え通路に設けられ開度調節可能な吸気切り替えバルブとを備え、
前記高圧排気再循環手段は、吸気側に戻される排気を冷却する高圧排気再循環クーラと、前記高圧排気再循環クーラの入口温度を測定する第1温度センサと、前記高圧排気再循環クーラの出口温度を測定する第2温度センサとを備え、
前記制御手段は、前記高圧排気再循環手段で排気再循環を行うとき、前記第2温度センサで測定される出口温度と前記第1温度センサで測定される入口温度からガスの逆流を検知し、ガスが排気側から吸気側に戻るように前記吸気切り替えバルブの開度を調節することを特徴とするエンジンの排気再循環装置。
【請求項4】
エンジンの吸排気系に接続されたコンプレッサとタービンからなる低圧段ターボチャージャと、前記低圧段ターボチャージャのコンプレッサで圧縮された吸気を更に圧縮してエンジンの吸気系に供給する高圧段機械式過給機と、エンジンの吸排気マニホルドの出入口を接続し排気を吸気側に環流させる高圧排気再循環手段と、前記低圧段ターボチャージャのタービン出口側の排気をコンプレッサ吸気側に環流させる低圧排気再循環手段と、前記低圧段ターボチャージャのタービンの入口側の排気をコンプレッサの出口側に環流させる中圧排気再循環手段と、エンジン回転数と燃料の指示噴射量とに基づいて高圧排気再循環、中圧排気再循環及び低圧排気再循環の各排気再循環モードを切り替える排気再循環切り替えマップを有し、エンジン回転数、燃料の指示噴射量及び前記排気再循環切り替えマップからエンジンの運転状態を判定すると共に、排気再循環モードを選定し、その選定した排気再循環モードで排気再循環を行うと共に、その排気再循環率を制御する制御手段とを備え
前記低圧段ターボチャージャはタービンのベーン開度が調節可能な可変翼ターボからなり、
前記高圧排気再循環手段は、吸気側に戻される排気を冷却する高圧排気再循環クーラと、前記高圧排気再循環クーラの入口温度を測定する第1温度センサと、前記高圧排気再循環クーラの出口温度を測定する第2温度センサとを備え、
前記制御手段は、前記高圧排気再循環手段で排気再循環を行うとき、前記第2温度センサで測定される出口温度と前記第1温度センサで測定される入口温度からガスの逆流を検知し、ガスが排気側から吸気側に戻るように前記タービンのベーン開度を調節することを特徴とするエンジンの排気再循環装置。
【請求項5】
前記制御手段は、エンジン始動時の冷却水温から排気再循環開始可能な暖機状態かどうかを判定し、暖機状態であるとき、排気再循環切り替え制御を行う請求項3又は4に記載のエンジンの排気再循環装置。
【請求項6】
前記制御手段は、エンジン回転数と燃料の指示噴射量とに基づいて排気再循環制御を禁止する排気再循環禁止マップをさらに備え、
エンジン回転数、燃料の指示噴射量及び前記排気再循環禁止マップからエンジンの運転状態を判定し、エンジンの運転が始動モードであるとき排気再循環制御を禁止する請求項3から5のいずれか一項に記載のエンジンの排気再循環装置。
【請求項7】
前記エンジンの吸気通路には、前記中圧排気再循環手段からの排気再循環ガスを冷却する中間クーラが設けられた請求項3から6のいずれか一項に記載のエンジンの排気再循環装置。
【請求項8】
前記エンジンの排気通路には、前記エンジンから前記中圧排気再循環手段に向かう排気を浄化する副排気浄化フィルタが設けられた請求項3から7のいずれか一項に記載のエンジンの排気再循環装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低圧段ターボチャージャと高圧段機械式過給機とを備えたエンジンの排気再循環方法及び排気再循環装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スーパーチャージャ等の高圧段機械式過給機と、低圧段ターボチャージャとを切り換えて使う多段過給システムが存在する。多段過給システムは、排気性能と燃費性能の両立を狙ったものである。多段過給システムは、高過給により多くの空気を燃焼室へ送り込む事ができ、良好な燃焼と燃費改善を実現できる。多段過給システムは、NOxを低減するために排気再循環(以下EGR)が必須となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−220822号公報
【特許文献2】特開2011−007051号公報
【特許文献3】特表2009−523961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、多段過給システムでは、エンジンの排気を取り出す位置と還流させる位置の圧力関係によっては所望のEGR率を得られないばかりか、過給された空気がEGR通路を介して排気側へ逆流するような現象が引き起こされる可能性があった。この現象が発生した場合、NOxが低減できない上、エンジンの運転状態が不安定となり、サージ領域に入る場合にはターボチャージャが破損する虞があった。
【0005】
例えば、図6(a)に示すように、排気マニホルド9から吸気マニホルド8へ排気を環流させる高圧EGRにおいては、高回転の高負荷領域で排気圧力よりも過給圧が高くなり、EGRバルブ22を開けても排気が吸気マニホルド8に入らず、NOxを下げられないという問題があった。
【0006】
また、図6(b)に示すように、低圧段ターボチャージャ5のタービン15出口側の排気をコンプレッサ6吸気側に環流させる低圧EGRにおいては、EGRバルブ27がエンジン1から離れているため、EGRバルブ27を開けても排気がエンジン1に到達するには時間がかかり、タイムラグが発生する。タイムラグは、特に中回転、中負荷以上の領域で問題となる。またさらに、低圧EGRにおいては、排気中に含まれる水分(結露水)によってコンプレッサ6のブレード(図示せず)がエロージョンを引き起こす可能性も考えられた。また、低圧EGRでは、EGRバルブ27を開けても高回転、高負荷域ではEGR率が上がりにくい。
【0007】
また、図6(c)に示すように、本出願人は、上述の高圧EGR及び低圧EGRの問題を回避する手段として、低圧段ターボチャージャ5のタービン15の入口側の排気をコンプレッサ6の出口側に環流させる中圧EGRを未公開で開発中である。中圧EGRは、排気中のカーボンが高圧段機械式過給機7のロータ及び軸受内のベアリング潤滑部分に入り込み、摩耗を促進させ、高圧段機械式過給機7の耐久性を低下させる問題があった。
【0008】
本発明の目的は、全運転領域で高いEGR率を実現でき、NOx排出量を低減できるエンジンの排気再循環方法及び排気再循環装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明は、エンジンの吸排気系に接続されたコンプレッサとタービンからなる低圧段ターボチャージャと、前記低圧段ターボチャージャのコンプレッサで圧縮された吸気を更に圧縮してエンジンの吸気系に供給する高圧段機械式過給機と、エンジンの吸排気マニホルドの出入口を接続し排気を吸気側に環流させる高圧排気再循環手段と、前記低圧段ターボチャージャのタービン出口側の排気をコンプレッサ吸気側に環流させる低圧排気再循環手段と、前記低圧段ターボチャージャのタービンの入口側の排気をコンプレッサの出口側に環流させる中圧排気再循環手段とを備えたエンジンの排気再循環方法であって、前記エンジンの運転状態を制御する制御手段が、エンジン回転数と燃料の指示噴射量とに基づいて高圧排気再循環、中圧排気再循環及び低圧排気再循環の各排気再循環モードを切り替える排気再循環切り替えマップを備え、エンジン回転数、燃料の指示噴射量及び前記排気再循環切り替えマップからエンジンの運転状態を判定すると共に、排気再循環モードを選定し、その選定した排気再循環モードで排気再循環を行うと共に、その排気再循環率を制御するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、全運転領域で高いEGR率を実現でき、NOx排出量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態に係るエンジンの排気再循環装置の説明図である。
図2】排気再循環制御の流れ図である。
図3図2の排気再循環切り替え制御の詳細を示す流れ図である。
図4図3の制御で用いる排気再循環切り替えマップの図である。
図5】排気再循環の説明図であり、(a)は高圧EGRモード、(b)は低圧EGRモード、(c)は中圧EGRモードを示す。
図6】従来のEGRの説明図であり、(a)は高圧EGR、(b)は低圧EGR、(c)は中圧EGRを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0013】
図1に示すように、エンジン1の排気再循環装置2は、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン等のエンジン1の吸排気系3、4に接続された低圧段ターボチャージャ5と、低圧段ターボチャージャ5のコンプレッサ6で圧縮された吸気を更に圧縮してエンジン1の吸気系3に供給する高圧段機械式過給機7と、エンジン1の吸排気マニホルド8、9の出入口を接続し排気を吸気側に環流させる高圧EGR部10と、低圧段ターボチャージャ5のタービン出口側の排気をコンプレッサ吸気側に環流させる低圧EGR部11と、低圧段ターボチャージャ5のタービン15の入口側の排気をコンプレッサ6の出口側に環流させる中圧EGR部12と、エンジン1の運転状態を制御する制御装置(以下、ECU(エンジンコントロールユニット))13とを備える。
【0014】
低圧段ターボチャージャ5は、エンジン1の排気通路14に設けられ排気エネルギーで駆動されるタービン15と、エンジン1の吸気通路16に設けられタービン15からの動力で駆動されるコンプレッサ6とからなる。低圧段ターボチャージャ5はタービン15のベーン開度が調節可能な可変翼ターボからなる。また、タービン15下流の排気通路14には、主排気浄化フィルタ17が設けられている。主排気浄化フィルタ17は、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)からなる。また、主排気浄化フィルタ17には、酸化触媒(図示せず)が担持されており、軽油等の炭化水素(HC)が供給されることで酸化熱を発し、捕集したカーボンを燃焼させて再生されるようになっている。なお、酸化触媒は、主排気浄化フィルタ17には担持されないものとし、主排気浄化フィルタ17の上流側に設けられるものとしても良い。
【0015】
高圧段機械式過給機7は、エンジン1からの動力で駆動されるリショルム式スーパーチャージャからなる。高圧段機械式過給機7の入口側と出口側には、高圧段機械式過給機7をバイパスさせるための吸気切り替え通路18が接続されている。吸気切り替え通路18には、開度調節可能な吸気切り替えバルブ19が設けられている。吸気切り替えバルブ19は、後述するECU13により開度を調節されるようになっている。また、吸気切り替え通路18の出口よりも下流の吸気通路16には、吸気クーラ20が設けられている。
【0016】
高圧EGR部10は、エンジン1の吸気マニホルド8と排気マニホルド9を接続する高圧EGR通路21と、高圧EGR通路21に設けられ開度調節可能な高圧EGRバルブ22と、高圧EGRバルブ22より排気マニホルド9側の高圧EGR通路21に設けられた高圧EGRクーラ23と、高圧EGRクーラ23の入口側(排気マニホルド9側)の高圧EGR通路21に設けられ高圧EGRクーラ23の入口温度Temp.1を測定する第1温度センサ24と、高圧EGRクーラ23の出口側(吸気マニホルド8側)の高圧EGR通路21に設けられ高圧EGRクーラ23の出口温度Temp.2を測定する第2温度センサ25とを備える。
【0017】
低圧EGR部11は、タービン15より下流、かつ、主排気浄化フィルタ17より下流の排気通路14とコンプレッサ6より上流の吸気通路16とを接続する低圧EGR通路26と、低圧EGR通路26に設けられ開度調節可能な低圧EGRバルブ27とを備える。また特に、低圧EGR通路26には、EGRクーラは設けられず、低圧EGR通路26内で結露を発生させないようになっている。また、低圧EGR通路26出口より上流の吸気通路16には、吸気スロットル28が設けられている。
【0018】
中圧EGR部12は、タービン15入口の排気通路14とコンプレッサ6出口の吸気通路16を接続する中圧EGR通路29と、中圧EGR通路29に設けられ開度調節可能な中圧EGRバルブ30とを備える。また特に、中圧EGR通路29には、EGRクーラは設けられていない。中圧EGR通路29からのEGRガスは、中圧EGR通路29出口より下流、かつ、吸気切り替え通路18入口より上流の吸気通路16に設けられた中間クーラ31によって冷却されるようになっている。すなわち、中間クーラ31は、中圧EGR通路29からのEGRガスを冷却すると共に、コンプレッサ6からの吸気を冷却するようになっている。
【0019】
また、中圧EGR通路29入口より上流(排気マニホルド9側)の排気通路14には、エンジン1から中圧EGR通路29に向かう排気を浄化する副排気浄化フィルタ32が設けられている。副排気浄化フィルタ32は、主排気浄化フィルタ17と同様のものであり、主排気浄化フィルタ17より小型に形成されている。副排気浄化フィルタ32は、小型に形成されることにより、設置スペースをとらないようになっている。
【0020】
図4に示すように、ECU13は、エンジン回転数と燃料の指示噴射量とに基づいて高圧EGR、中圧EGR及び低圧EGRの各EGRモードを切り替えるEGR切り替えマップ33と、エンジン回転数と燃料の指示噴射量とに基づいてEGR制御を禁止するEGR禁止マップ34とを有する。
【0021】
EGR切り替えマップ33は、エンジン回転数と指示噴射量の関係から、低圧EGRでNOxを効率よく低減できるLPLモード領域35、高圧EGRでNOxを効率よく低減できるHPLモード領域36、中圧EGRでNOxを効率よく低減できるMPLモード領域37を規定する。EGR切り替えマップ33は、各領域35、36、37の境界ではヒステリシス38を持たせている。
【0022】
EGR禁止マップ34は、エンジン回転数と指示噴射量の関係から、エンジン始動モード領域39を規定する。
【0023】
また、ECU13は、エンジン回転数、燃料の指示噴射量及びEGR切り替えマップ33からエンジン1の運転状態を判定すると共に、EGRモードを選定し、その選定したEGRモードでEGRを行うと共に、そのEGR率を制御するようになっている。またさらに、ECU13は、エンジン回転数、燃料の指示噴射量及びEGR禁止マップ34からエンジンの運転状態を判定し、エンジンの運転が始動モードであるときEGR制御を禁止するようになっている。
【0024】
次に、図2及び図3を用いてECU13のEGR制御フローを説明する。図2はメインルーチンを示し、図3はメインルーチンから呼び出すサブルーチンを示す。
【0025】
図2に示すように、ステップS1にてエンジン回転数、燃料の指示噴射量、吸入空気量、エンジン水温、外気温、大気圧、過給圧等のエンジン状態の入力を行う。この後、S2にて、暖機状態の判定を行う。この判定は、エンジン水温TwがEGR可能な水温Tegr_onを超えているか否か(Tw>Tegr_on)を判定する。エンジン水温TwがTegr_onを超えている場合(YESの場合)、ステップS3に進む。また、NOの場合、ステップS1に戻ってエンジン状態の入力を行う。すなわち、暖機が終了するまでステップS1、S2を繰り返して待機する。
【0026】
ステップS3では、EGRの切り替え制御を行う。
【0027】
図3に示すように、EGRの切り替え制御は、まず、ステップS4にてエンジン1の運転モードがEGR可能な領域か否かを判定する。この判定では、図4に示すEGR禁止マップ34を用いる。ステップS4では、エンジン回転数、指示噴射量及びEGR禁止マップ34に基づいてエンジン1の運転モードがエンジン始動モード領域39外にあるか否かを判別してエンジン1の運転モードがEGR可能な領域か否かを判定する。EGR可能な領域でない場合(NOの場合)、ステップS5に進んでEGR制御を中止する。EGR可能な領域である場合(YESの場合)、ステップS6に進む。
【0028】
ステップS6では、低圧EGR(LPL:ロープレッシャループ)、高圧EGR(HPL:ハイプレッシャループ)、中圧EGR(MPL:ミドルプレッシャループ)の切り替えを行う。この切り替えには、図4に示すEGR切り替えマップ33を用いる。ステップS6では、エンジン回転数、燃料の指示噴射量及びEGR切り替えマップ33からエンジン1の運転状態を判定すると共に、EGRモードを選定し、選定したEGRのEGRバルブを開くと共に、それ以外のEGRバルブを全閉する。このとき、選定したEGRのEGRバルブは、エンジン1の運転状態が急激に変わらない程度の開度で開く。
【0029】
この後、ステップS7に進み、ステップS6で選定したEGRモードがHPLであったか否かを判定する。HPLであった場合(YESの場合)、ステップS8に進み、それ以外の場合(NOの場合)、メインルーチンのステップS10(図2参照)に進む。
【0030】
ステップS8では、EGRガスの逆流判定を行う。具体的には、第1温度センサ24で測定した高圧EGRクーラ23の入口温度Temp.1と、第2温度センサ25で測定した出口温度Temp.2とを比較し、出口温度Temp.2が入口温度Temp.1より高い場合(YESの場合)、すなわち、高圧EGRクーラ23で冷やされたはずの出口温度Temp.2が入口温度Temp.1より高くなっている場合、高圧EGR通路21内で逆流が発生しているものと判定し、ステップS9に進む。それ以外の場合(NOの場合)、メインルーチンのステップS10(図2参照)に進む。
【0031】
ステップS9では、吸気切り替えバルブ19の開度を開方向に制御して逆流を順方向の流れに変える。具体的には、出口温度Temp.2と入口温度Temp.1とを参照しながら出口温度Temp.2が入口温度Temp.1より低くなるまで吸気切り替えバルブ19の開度を上げる。吸気切り替えバルブ19の開度が上がることにより、吸気マニホルド8の圧力は下がる。吸気マニホルド8の圧力が排気マニホルド9の圧力より低くなったとき、逆流が順方向の流れに変わる。なお、ステップS9では、吸気切り替えバルブ19の開度を制御するものとしたが、これに替えて、又はこれと並行してタービン15のベーン開度を閉方向に制御するものとしてもよい。これによりエンジン背圧を上げることができ、逆流を順方向の流れに変えることができる。
【0032】
この後、図2に示すメインルーチンのステップS10に進む。
【0033】
ステップS10では、エンジン回転数、指示噴射量、エンジン水温等を読み込み、これらの値と目標空気量マップ(図示せず)とに基づいて吸入空気量の目標値を取得し、マスフローセンサ(図示せず)で測定される実値と目標値とが同じになるように、選定中EGRモードのEGRバルブの開度をフィードバック制御する。なお、吸入空気量の目標値は、目標空気量マップを模した近似式等から算出するものとしてもよい。
【0034】
図5は、選定されなかったモードのEGR部を図示省略した排気再循環装置の説明図であり、(a)は高圧EGRモード、(b)は低圧EGRモード、(c)は中圧EGRモードが選択されている状態を示す。
【0035】
図5(a)に示すように、高圧EGRモードでは、排気マニホルド9から吸気マニホルド8に排気を環流させる。高圧EGRでは、タービン15を通過する排気のボリュームが減るため、コンプレッサ6の流量も減りやすい。このため、高回転の高負荷領域で高圧EGRを用いようとすると、サージラインを越えないようにするのが困難であった。しかし、図4に示すように、本実施の形態では、略中負荷域でのみ高圧EGRを選択して用いるため、サージラインを越える心配がなく、安定して効率よくNOxを低減できる。また、高圧EGRクーラ23の入口温度Temp.1と出口温度Temp.2から逆流を判定し、逆流が発生したときには吸気切り替えバルブ19を制御して逆流を順方向の流れに変えるため、NOxをさらに安定して効率よく低減できる。
【0036】
図5(b)に示すように、低圧EGRモードでは、タービン15出口側の排気をコンプレッサ6吸気側に環流させる。図4に示すように、略低負荷域でのみ低圧EGRを選択して用いるため、タイムラグが問題になることはなく、NOxを安定して効率よく低減できる。また、低圧EGR通路26にはEGRクーラを設けないものとしたため、EGRガスで結露が発生するのを防ぐことができ、コンプレッサ6のブレード(図示せず)がエロージョンを引き起こすのを防止できる。
【0037】
図5(c)に示すように、中圧EGRモードでは、低圧段ターボチャージャ5のタービン15の入口側の排気をコンプレッサ6の出口側に環流させるため、高回転の高負荷領域であっても高圧段機械式過給機7が吸気を吸い込むことから排気を吸気側に環流させることができ、安定してNOxを低減できる。また、エンジン1から中圧EGR部12に向かう排気は、副排気浄化フィルタ32によって浄化されるため、カーボンによる高圧段機械式過給機7のロータ(図示せず)及び軸受(図示せず)内のベアリング潤滑部分のダメージを低減できる。
【0038】
このように、エンジン回転数、燃料の指示噴射量及びEGR切り替えマップ33からエンジン1の運転状態を判定すると共に、EGRモードを選定し、その選定したEGRモードでEGRを行うと共に、そのEGR率を制御するものとしたため、エンジン始動域を除くエンジン運転領域の全域でEGRを行うことができ、NOxを低減できる。また、DeNOx触媒等の後処理装置や後処理装置のための制御を省くことができ、製造コストを低減できる。そして、高圧EGR、中圧EGR、低圧EGRの使い分けによって低圧段ターボチャージャ5と、高圧段機械式過給機7の効率の良い領域を使い分けることが可能となり、燃費改善ができる。
【符号の説明】
【0039】
1 エンジン
5 低圧段ターボチャージャ
7 高圧段機械式過給機
10 高圧EGR部(高圧排気再循環部)
11 低圧EGR部(低圧排気再循環部)
12 中圧EGR部(中圧排気再循環部)
13 ECU(制御手段)
33 EGR切り替えマップ(排気再循環切り替えマップ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6