(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2のように、基体として熱伝導率が低い紙やセラミックを用いた場合、吸着体の熱分布に差が生じることによって、吸着体の性能を十分に発揮させることができず、結果としてデシカント空調装置に用いた際に全体のエネルギー効率が低下するという課題があった。また、基体として紙やセラミックを用いると、基体が損傷しやすく、耐久性の面からも課題があった。
【0007】
一方、特許文献3や特許文献4のように、吸着体としてアルミ部材を用いることによって、セラミックや紙などと比較して熱伝導率は向上するものの、ハニカム構造やコルゲート構造のアルミニウム板は、単位質量当りの比表面積の点では平板状のアルミニウム板と大きな差は無く、単位体積当りの比表面積については気孔率が高いことから、むしろ低下する。同一外形状の(=見掛け上の体積が同じ)吸着体の水分吸着量や吸着速度は体積当たりの比表面積に応じて決まるので、特許文献3や特許文献4の吸着体をデシカント空調装置に用いても、十分な吸着性能が得られない懸念があった。
【0008】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、多孔質アルミニウム基体の比表面積を大きくすることによって、蒸気や粒子状物質の吸着性を高め、かつ、規格化熱伝導率を高めることで、吸着された物質を効率的に放出することができる多孔質アルミニウム吸着体、およびこれを用いたデシカント空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の多孔質アルミニウム吸着体は、複数のアルミニウム基材が焼結された多孔質アルミニウム基体と、
該多孔質アルミニウム基体の外表面から外方に向けて突出する複数の柱状突起と、該柱状突起を含む前記多孔質アルミニウム基体の表面に形成された吸着材層と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、複数のアルミニウム基材を焼結した多孔質アルミニウム基体を用いることによって、物質の吸着力が高められるので、表面に吸着材層を形成して多孔質アルミニウム吸着体とした時に、効率よく物質を吸収し、保持することができる。
また、この多孔質アルミニウム吸着体を構成する多孔質アルミニウム基体は、優れた熱伝導率を有するアルミニウム基材同士が金属学的に強固に結合されてなり、優れた規格化熱伝導率を示すことから、全体に熱を偏りなく均一に伝搬することができ、吸着された物質を迅速に効率よく放出することができる。
【0011】
また、柱状突起の形成によって、多孔質アルミニウム基体に多数の微細な空間が形成され、比表面積が高められる。よって、この多孔質アルミニウム基体に吸着材層を形成して多孔質アルミニウム吸着体とした時に、物質の吸収速度や吸収量を一層高めることが可能になる。
【0012】
本発明においては、前記アルミニウム基材同士の結合部に、Ti−Al系化合物が存在していることを特徴とする。
柱状突起が形成される場合に、アルミニウム基材同士の結合部にTi−Al系化合物が形成されることによって、多孔質アルミニウム吸着体を構成するアルミニウム基材同士の結合強度を大幅に向上させることができる。また、Ti−Al系化合物によってアルミニウムの拡散移動が抑制されることから、多孔質アルミニウム基体に溶融アルミニウムが入り込むことが抑制でき、多孔質アルミニウム吸着体の気孔率を高く保つことができる。
【0013】
本発明においては、前記柱状突起は前記結合部を有することを特徴とする。
これによって、多孔質アルミニウム基体に多数の微細な空間が維持され、比表面積が高められる。よって、この多孔質アルミニウム基体に吸着材層を形成して多孔質アルミニウム吸着体とした時に、物質の吸収速度や吸収量を一層高めることが可能になる。
【0014】
本発明においては、前記多孔質アルミニウム基体の規格化熱伝導率は、20W/m・K以上であることを特徴とする。
これによって、多孔質アルミニウム吸着体の全体に熱を均一に伝搬させて、温度が不均一になることを防止する。よって、多孔質アルミニウム吸着体に吸着された物質を加熱によって放出する際に、短時間で効率よく吸着されている物質を放出することが可能になる。
なお、一般的に多孔質体の熱伝導率は、基材自体の熱伝導率、気孔率、および基材同士の接合強度などによって変化する。こうした気孔率によって変化する多孔質体の熱伝導率を相対的に評価するために、多孔質体全体としての熱伝導率(測定値)を、多孔質体の空間充填率(即ち、1から気孔率を引いた数値)で除算した値を、本発明における規格化熱伝導率といい、この規格化熱伝導率を用いることにより、気孔率の影響を排除し、基材同士の接合強度を直接比較することが可能となる。この規格化熱伝導率のより具体的な測定、算出方法は、実施例において述べている。
【0015】
本発明においては、前記多孔質アルミニウム基体は、単位質量当りの比表面積が0.025m
2/g以上であることを特徴とする。
多孔質アルミニウム基体の単位質量当りの比表面積が0.025m
2/g以上とすることによって、単位質量当たりの表面積が大きい多孔質アルミニウム吸着体を実現することができ、物質の吸収力や保持力が高められる。
【0016】
本発明においては、前記多孔質アルミニウム基体は、気孔率が30%以上90%以下の範囲内であることを特徴とする。
多孔質アルミニウム基体の気孔率を30%以上90%以下の範囲内に制御することによって、用途に応じて最適な物質の吸収率をもつ多孔質アルミニウム吸着体を提供することが可能となる。
【0017】
本発明においては、前記吸着材層は、アルミニウムの陽極酸化によって形成した微細な空孔を有するアルミナからなることを特徴とする
吸着材層としてアルミナを形成して用いることによって、機械的な強度に優れ、かつ物質の高い吸収率をもつ多孔質アルミニウム吸着体を提供することが可能となる。
【0018】
本発明においては、前記吸着材層は、ゼオライトからなることを特徴とする。
吸着材層としてゼオライトを用いることによって、物質の高い吸収率をもつ多孔質アルミニウム吸着体を提供することが可能となる。
【0019】
本発明においては、前記吸着材層は、シリカゲルからなることを特徴とする。
吸着材層としてシリカゲルを用いることによって、物質の高い吸収率をもつ多孔質アルミニウム吸着体を提供することが可能となる。
【0020】
本発明のデシカント空調装置は、前記各項記載の多孔質アルミニウム吸着体を備えたデシカント空調装置であって、前記多孔質アルミニウム吸着体に向けて空気を送り込む送風手段と、前記多孔質アルミニウム吸着体を加熱する加熱手段と、を備えたことを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、比表面積、および規格化熱伝導率を高めた多孔質アルミニウム吸着体と、除湿のための湿潤空気を送り込む送風手段と、放湿のために前記多孔質アルミニウム吸着体を加熱する加熱手段と、を備えることによって、除湿特性、加湿特性に優れ、かつ省スペースなデシカント空調装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、比表面積を大きくすることによって、蒸気や粒子状物質の吸着能を高め、かつ、規格化熱伝導率を高めることで吸着体の加熱・冷却が均一かつ速やかに行われ、物質の吸着・放出を効率的にすることができる多孔質アルミニウム吸着体、およびこれを用いたデシカント空調装置を提供することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の多孔質アルミニウム吸着体、デシカント空調装置のいくつかの具体例について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0025】
(第一実施形態)
本発明の多孔質アルミニウム吸着体を備えたデシカント空調装置の第一実施形態について説明する。
図1は本発明のデシカント空調装置の構成の一例を示す概要図である。
デシカント空調装置10は、多孔質アルミニウム吸着体11、ファン(送風手段)12a,12b、ヒータ(加熱手段)13およびモータ14を備えている。
多孔質アルミニウム吸着体11は、例えば、円板状に形成され、中心軸Cの回りを回転可能に取り付けられている。こうした多孔質アルミニウム吸着体11の構成は後ほど詳述する。
【0026】
ファン(送風手段)12a,12bは、多孔質アルミニウム吸着体11に対して送風する。このうち、ファン12aは、多孔質アルミニウム吸着体11の一方の面11a側に配され、多孔質アルミニウム吸着体11の上部領域E1に向けて送風を行う。また、ファン12bは、多孔質アルミニウム吸着体11の他方の面11b側に配され、多孔質アルミニウム吸着体11の下部領域E2に向けて送風を行う。
【0027】
ヒータ(加熱手段)13は、ファン12bによって送風される空気を加熱してから多孔質アルミニウム吸着体11の下部領域E2に流入させる。
モータ14は、多孔質アルミニウム吸着体11を所定の回転速度で回転させる。これにより、多孔質アルミニウム吸着体11は、上部領域E1が回転によって徐々に下部領域E2となり、また、下部領域E2が回転によって徐々に上部領域E1となる。
【0028】
このような構成のデシカント空調装置10を用いて、例えば、部屋の除湿換気を行う場合、多孔質アルミニウム吸着体11の一方の面11a側が室外に、他方の面11b側が室内に向くように設置する。
【0029】
そして、デシカント空調装置10を作動させると、ファン12aは室外の空気を多孔質アルミニウム吸着体11の上部領域E1を介して室内に送り込む。この時、室外の空気に含まれる水分(湿気)は、多孔質アルミニウム吸着体11の上部領域E1を通過する際に、多孔質アルミニウム吸着体11によって吸着される。そして、多孔質アルミニウム吸着体11の一方の面11a側からは、水分(湿気)が取り除かれて乾燥した空気が送り込まれる。
【0030】
一方、ファン12bは室内の空気を多孔質アルミニウム吸着体11の下部領域E2を介して室外に排出する。この時、ファン12bによって多孔質アルミニウム吸着体11の下部領域E2に送り込まれる空気は、ヒータ(加熱手段)13によって加熱される。
【0031】
そして、上部領域E1にあるときに水分(湿気)を吸着した多孔質アルミニウム吸着体11は、回転によって下部領域E2に移動した際に、ヒータ(加熱手段)13で加熱された高温の空気によって、吸着していた水分(湿気)を放出する。そして、多孔質アルミニウム吸着体11の他方の面11b側からは、水分(湿気)を含む空気が排出される。
【0032】
このように、多孔質アルミニウム吸着体11は、上部領域E1にある時には除湿を行い、下部領域E2にある時には加湿(放湿)を行う。この加湿(放湿)と除湿のサイクルを繰り返すことによって、デシカント空調装置10を設置した室内と室外との間で換気を行うとともに、室内の空気を室外の空気よりも除湿された雰囲気にすることができる。
【0033】
また、こうしたデシカント空調装置10の内部にダンパー弁等を設けることにより、多孔質アルミニウム吸着体11の一方の面11a側が室内に、他方の面11b側が室外に向くように設置することによって、デシカント空調装置10を設置した室内と室外との間で換気を行うとともに、室内の空気を加湿された雰囲気にすることもできる。
【0034】
デシカント空調装置10を構成する本発明の多孔質アルミニウム吸着体11は、
図2に示すように、多孔質アルミニウム基体21と、この多孔質アルミニウム基体21の表面に形成された吸着材層22とから構成されている。こうした吸着材層22は、後述するアルミニウム基材31や柱状突起32の表面全体を覆うように形成されている。
【0035】
図3に、多孔質アルミニウム基体21を示す。なお、
図3(a)が多孔質アルミニウム基体の観察写真、
図3(b)が多孔質アルミニウム基体の模式図である。
多孔質アルミニウム基体21は、複数のアルミニウム基材31が焼結されて一体化されたものであり、比表面積が0.025m
2/g以上であり、かつ気孔率が30%以上90%以下の範囲内に設定されたものとされている。また、多孔質アルミニウム基体21の規格化熱伝導率は、20W/m・K以上とされている。
【0036】
本実施形態においては、
図3に示すように、アルミニウム基材31として、アルミニウム繊維31aとアルミニウム粉末31bとが用いられている。そして、このアルミニウム基材31(アルミニウム繊維31a及びアルミニウム粉末31b)の外表面には、外方に向けて突出する複数の柱状突起32が形成されており、複数のアルミニウム基材31(アルミニウム繊維31a及びアルミニウム粉末31b)同士が、この柱状突起32を介して結合した構造とされている。
【0037】
なお、
図3に示すように、アルミニウム基材31、31同士の結合部35は、柱状突起32,32同士が結合した部分、柱状突起32とアルミニウム基材31の側面とが結合した部分、さらにはアルミニウム基材31、31の側面同士が結合した部分がある。
【0038】
ここで、
図4に示すように、柱状突起32を介して結合されたアルミニウム基材31、31同士の結合部35には、Ti−Al系化合物36が存在している。本実施形態では、
図4の分析結果に示すように、Ti−Al系化合物36は、TiとAlの化合物とされており、より具体的には、Al
3Ti金属間化合物とされている。すなわち、本実施形態では、Ti−Al系化合物36が存在している部分において、アルミニウム基材31、31同士が結合しているのである。
【0039】
次に、多孔質アルミニウム基体21の原料となる焼結用アルミニウム原料40について説明する。この焼結用アルミニウム原料40は、
図5に示すように、アルミニウム基材31と、このアルミニウム基材31の外表面に固着された複数のチタン粉末粒子42と、を備えている。なお、チタン粉末粒子42としては、金属チタン粉末粒子及び水素化チタン粉末粒子のいずれか一方又は両方が用いることができる。
【0040】
ここで、焼結用アルミニウム原料40においては、チタン粉末粒子42の含有量が0.5質量%以上20質量%以下の範囲内とされており、本実施形態では、0.5〜10質量%とされている。
【0041】
チタン粉末粒子42の粒径は、1μm以上50μm以下の範囲内とされており、好ましくは、5μm以上30μm以下の範囲内とされている。なお、水素化チタン粉末粒子は、金属チタン粉末粒子よりも粒径を細かくすることが可能であることから、アルミニウム基材31の外表面に固着するチタン粉末粒子42の粒径を微細にする場合には、水素化チタン粉末粒子を用いることが好ましい。
さらに、アルミニウム基材31の外表面に固着された複数のチタン粉末粒子42、42同士の間隔は、5μm以上100μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0042】
アルミニウム基材31としては、上述したように、アルミニウム繊維31aとアルミニウム粉末31bとが用いられている。なお、アルミニウム粉末31bとしては、アトマイズ粉末を用いることができる。
【0043】
ここで、アルミニウム繊維31aの繊維径は40μm以上300μm以下の範囲内とされており、好ましくは50μm以上200μm以下の範囲内とされている。また、アルミニウム繊維31aの繊維長さは0.2mm以上20mm以下の範囲内、好ましくは1mm以上10mm以下の範囲内とされている。
また、アルミニウム粉末31bの粒径は20μm以上300μm以下の範囲内とされており、好ましくは20μm以上100μm以下の範囲内とされている。
【0044】
さらに、アルミニウム基材31としては、純度が95質量%以上の高アルミニウム合金で構成されていることが好ましく、さらには、純度が99.5質量%以上の高純度アルミニウムで構成されていることが好ましい。
【0045】
また、アルミニウム繊維31aとアルミニウム粉末31bとの混合比率を調整することで気孔率を調整することが可能となる。すなわち、アルミニウム繊維31aの比率を増やすことにより多孔質アルミニウム基体21の気孔率を向上させることが可能となるのである。このため、アルミニウム基材31としては、アルミニウム繊維31aを用いることが好ましく、アルミニウム粉末31bを混合する場合にはアルミニウム粉末31bの比率を10質量%以下とすることが好ましい。
【0046】
なお、ここで多孔質アルミニウム基体21の気孔率Pは、多孔質アルミニウム基体21の重量:X(g)、多孔質アルミニウム基体21の体積:Y(cm
3)、多孔質アルミニウム基体21の密度:X/Y=C(g/cm
3)、アルミニウム基材31の密度:D(g/cm
3)とした時に、次式(1)で定義される。
P=(D−C)/D×100(%)・・・(式1)
本実施形態では、多孔質アルミニウム基体21の気孔率は、30%以上90%以下の範囲内とされている。
【0047】
また、本実施形態では、多孔質アルミニウム基体21の単位質量当りの比表面積が0.025m
2/g以上とされている。単位体積当りの比表面積S
1および 単位質量当りの比表面積S
2は、多孔質アルミニウム体22の表面積: A(m
2)、多孔質アルミニウム基体21の体積:V(cm
3)、多孔質アルミニウム基体21の密度:ρ(g/cm
3)とした時に、それぞれ次式(2)および(3)で定義される。
S
1=A/V×10
6 (m
2/m
3)・・・(式2)
S
2=A/(ρ×V)(m
2/g)・・・(式3)
こうした比表面積が大きいほど多孔質アルミニウム基体21の表面に被覆される水分吸着体の量を増やすことができ、水分保持量や水分吸着速度を高めることができる。
【0048】
こうした気孔率および比表面積の調整のため、アルミニウム基材31としては、アルミニウム繊維31aを用いることが好ましく、アルミニウム粉末31bを混合する場合にはアルミニウム粉末31bの比率を、例えば10〜15質量%以下とすることが好ましい。
【0049】
次に、本発明の多孔質アルミニウム吸着体11を製造する方法の一例について、
図6のフローチャート等を参照して説明する。
まず最初に、多孔質アルミニウム基体21の原料となる焼結用アルミニウム原料40を製造する。常温にて、アルミニウム基材31とチタン粉末とを混合する(混合工程S01)。このとき、バインダー溶液を噴霧する。
【0050】
なお、バインダーとしては、大気中で500℃に加熱した際に燃焼・分解されるものが好ましく、具体的には、アクリル系樹脂、セルロース系高分子体を用いることが好ましい。また、バインダーの溶剤としては、水系、アルコール系、有機溶剤系の各種溶剤を用いることができる。この混合工程S01においては、例えば、自動乳鉢、パン型転動造粒機、シェーカーミキサー、ポットミル、ハイスピードミキサー、V型ミキサー等の各種混合機を用いて、アルミニウム基材31とチタン粉末とを流動させながら混合する。
【0051】
次に、混合工程S01で得られた混合体を乾燥する(乾燥工程S02)。この乾燥工程S02においては、アルミニウム基材31の表面に酸化膜が厚く形成されないように、40℃以下の低温乾燥、又は、1.33Pa以下(10
−2Torr以下)の減圧乾燥を行うことが好ましい。
【0052】
この混合工程S01及び乾燥工程S02により、
図7に示すように、アルミニウム基材31の外表面にチタン粉末粒子22が分散させて固着されることになり、焼結用アルミニウム原料40が製造される。なお、アルミニウム基材31の外表面に固着された複数のチタン粉末粒子42,42同士の間隔は、5μm以上100μm以下の範囲内となるように、チタン粉末粒子42を分散させることが好ましい。
【0053】
次に、上述のようにして得られた焼結用アルミニウム原料40を用いて多孔質アルミニウム基体21を製造する。
ここで、本実施形態では、
図8に示す連続焼結装置50を用いて、例えば幅:300mm×厚さ:1〜20mm×長さ:20mの板状の多孔質アルミニウム基体21を製造する。
この連続焼結装置50は、粉末散布機51、カーボンシート52、搬送ローラ53、脱脂炉54、および焼成炉55を備えている。
【0054】
粉末散布機51は、焼結用アルミニウム原料40を均一に散布する。カーボンシート52は、粉末散布機51から供給された焼結用アルミニウム原料40を保持する。搬送ローラ53は、このカーボンシート52を駆動する。脱脂炉54は、カーボンシート52とともに搬送される焼結用アルミニウム原料40を加熱してバインダーを除去する。焼成炉55は、バインダーが除去された焼結用アルミニウム原料40を加熱して焼結を行う。
【0055】
まず、粉末散布機51から、カーボンシート52上に向けて、焼結用アルミニウム原料40を散布する(原料散布工程S03)。
カーボンシート52上に散布された焼結用アルミニウム原料40は、進行方向Fに向けて移動する際に、カーボンシート52の幅方向に広がって厚さが均一化され、シート状に成形される。このとき、荷重を加えていないことから、焼結用アルミニウム原料40中のアルミニウム基材31,31同士の間には空隙が形成される。
【0056】
次に、カーボンシート52上においてシート状に成形された焼結用アルミニウム原料40は、カーボンシート52とともに脱脂炉54内に装入され、所定温度に加熱されることによってバインダーが除去される(脱バインダー工程S04)。
【0057】
ここで、脱バインダー工程S04においては、大気雰囲気中で、350〜500℃の温度範囲で0.5〜5分間保持し、焼結用アルミニウム原料40中のバインダーを除去する。なお、本実施形態では、上述のように、アルミニウム基材51の外表面にチタン粉末粒子42を固着するためにバインダーが用いられていることから、粘性組成物に比べてバインダーの含有量が極めて少なく、短時間でバインダーを十分に除去することが可能である。
【0058】
次に、バインダーが除去された焼結用アルミニウム原料40は、カーボンシート52とともに焼成炉55内に装入され、所定温度に加熱されることによって焼結される(焼結工程S05)。
この焼結工程S05においては、焼結用アルミニウム原料40が純アルミニウムからなる場合、不活性ガス雰囲気中で、655〜665℃の温度範囲で0.5〜60分間保持することにより実施される。保持時間は1〜20分間とすることが好ましい。なお、焼結用アルミニウム原料40として高アルミニウム合金を用いる場合、高アルミニウム合金の融点は純アルミニウムに比べて低いことから、上述した焼結温度範囲は各々の高アルミニウム合金の融点に合わせて、純アルミニウムの場合よりも低く設定する方が好ましい。
【0059】
ここで、焼結工程S05における焼結雰囲気をArガス等の不活性ガス雰囲気とすることにより、露点を十分に下げることができる。水素雰囲気又は水素と窒素の混合雰囲気では、露点が下がりにくいため好ましくない。また、窒素は、Tiと反応してTiNを形成することからTiの焼結促進効果を失うため、好ましくない。
そこで、本実施形態では、雰囲気ガスとして、露点−50℃以下のArガスを用いている。なお、雰囲気ガスの露点は−65℃以下とすることがさらに好ましい。
【0060】
この焼結工程S05においては、上述のように、焼結用アルミニウム原料40が純アルミニウムからなる場合、温度を655〜665℃とアルミニウムの融点近くまで加熱していることから、焼結用アルミニウム原料40中のアルミニウム基材31は溶融することになる。ここで、アルミニウム基材31の表面には酸化膜が形成されていることから、溶融したアルミニウムが酸化膜によって保持され、アルミニウム基材31の形状が維持されている。
【0061】
また、焼結用アルミニウム原料40が純アルミニウムからなる場合、655〜665℃に加熱されると、アルミニウム基材31の外表面のうちチタン粉末粒子42が固着された部分においては、チタンとの反応によって酸化膜が破壊され、内部の溶融アルミニウムが外方へと噴出する。噴出された溶融アルミニウムはチタンとの反応によって融点の高い化合物を生成して固化することになる。これにより、
図9に示すように、アルミニウム基材31の外表面に、外方に向けて突出する複数の柱状突起32が形成される。
【0062】
ここで、柱状突起32の先端には、Ti−Al系化合物36が存在しており、このTi−Al系化合物36によって柱状突起32の成長が抑制されているのである。
なお、チタン粉末粒子42として水素化チタンを用いた場合には、300〜400℃付近で水素化チタンが分解し、生成したチタンがアルミニウム基材31の表面の酸化膜と反応することになる。
【0063】
このとき、隣接するアルミニウム基材31,31同士が、互いの柱状突起32を介して溶融状態で一体化あるいは固相焼結することによって結合され、
図2に示すように、柱状突起32を介して複数のアルミニウム基材31、31同士が結合された多孔質アルミニウム基体21が製造されることになる。
【0064】
なお、多孔質アルミニウム基体21の製造にあたっては、上述したような板状に形成する方法以外にも、バルク形状の多孔質アルミニウム基体を製造することもできる。例えば
図10に示すように、焼結用アルミニウム原料40を散布する粉末散布機101から、カーボン製容器102内に向けて焼結用アルミニウム原料40を散布してかさ充填する(原料散布工程)。これを、脱脂炉104内に装入して、大気雰囲気で加熱してバインダーを除去する(脱バインダー工程)。
【0065】
その後、焼成炉105内に装入して、Ar雰囲気で655〜665℃(焼結用アルミニウム原料40が純アルミニウムからなる場合)に加熱保持することにより、バルク形状の多孔質アルミニウム基体110が得られる。なお、離型性の良いカーボン製容器102を用いており、かつ、焼結時に1%程度の収縮が発生することから、カーボン製容器102からバルク形状の多孔質アルミニウム焼結体110を比較的容易に取り出すことができる。
【0066】
板状の多孔質アルミニウム基体21は、例えば、打ち抜き加工、切削加工、ワイヤー加工などによって、所定の直径の円板状に成形される。板状の多孔質アルミニウム基体21を用いることによって、複数の円板状の多孔質アルミニウム基体21を、1枚の板状の多孔質アルミニウム基体21から一括して効率的に製造することができる。
【0067】
次に、円板状の多孔質アルミニウム基体21に対して吸着材層22を形成して、多孔質アルミニウム基体吸着体11を製造する(吸着材層形成工程S06)。吸着材層22としては、シリカゲル類、酸化アルミニウム、活性炭類、ゼオライト類、アロフェン類、またはこれらの二種以上の混合物などの吸着材を用いることができる。また、多孔質アルミニウム基体21の表面に表面処理を施して吸着材層22とすることもできる。
【0068】
吸着材層22として、シリカゲル類、酸化アルミニウム、活性炭類、ゼオライト類、アロフェン類、またはこれらの二種以上の混合物などの吸着材を用いる場合には、これら吸着材を溶媒に溶解、ないし分散させた吸着材液を多孔質アルミニウム基体21に塗布する。そして、加熱等によって吸着材溶液の溶媒を蒸発させることによって、多孔質アルミニウム基体21の表面に吸着材層22が形成された多孔質アルミニウム吸着体11を得ることができる。
【0069】
この時、吸着材液の濃度、粘性を調節することによって、多孔質アルミ体21の表面に沿って形成される吸着材層22の厚みを任意に制御することができる。また、吸着材液中に吸着材と多孔質アルミニウム基体21との結合力を高めるためのバインダー部材など溶解しておくことも好ましい。また、吸着材液を多孔質アルミニウム基体21に塗布する以外にも、吸着材液を多孔質アルミニウム基体21に噴霧したり、多孔質アルミニウム基体21を吸着材液中に浸漬することもできる。
【0070】
また、吸着材層22としてシリカゲル類やゼオライト類を用いる場合、原料散布工程において焼結用アルミニウム原料とともにシリカゲル類やゼオライト類を同時に散布し、これらシリカゲル類やゼオライト類を焼結用アルミニウム原料の表面に固着させた後、これを吸着材層形成工程を兼ねた焼成工程において焼結することによって、多孔質アルミニウム吸着体を得ることもできる。このように、吸着材層形成工程と焼成工程とを同時に行うことによって、更に製造工程を簡易にすることもできる。
【0071】
また、吸着材層22として、多孔質アルミニウム基体21の表面に表面処理を施す場合には、アルミニウムの陽極酸化処理を用いることができる。陽極酸化処理による吸着材層22の形成では、多孔質アルミニウム基体21を陽極とし、不溶性電極を陰極として電解質溶液中で直流電解操作を行う。
【0072】
これによって、多孔質アルミニウム基体21の表面が酸化し、アルミニウムの一部がイオン化して電解液中に溶解する。そのアルミニウムイオンが電解液中の水と反応して、金属酸化物を生成する。陽極酸化処理により得られる金属表面の形態は、金属酸化物がどのような電子伝導性を有するかによって変わるが、アルミニウムでは形成される酸化皮膜が電子伝導性に乏しいため、陽極酸化が進行するにつれて金属酸化物、即ちアルミナが多孔質アルミニウム基体21上に成長する。このとき、適当な電解質溶液と電流や電圧の条件などを選択することによって、規則正しく成長したナノオーダーの細孔を形成することができる。
【0073】
以上のような工程を経て、本発明のデシカント空調装置10に適用可能な多孔質アルミニウム吸着体11が得られる。こうして得られた多孔質アルミニウム吸着体11には、基体の表面積に概ね比例したナノ空孔を有する表面被覆層が形成されており、その結果、水分の保持力(保持液量)が高められ、効率的に除湿や加湿を行うことができる。また、当該表面被覆層は、規格化熱伝導率に優れる多孔質アルミ基体との密着性が高く、熱伝導性に優れることから、除湿や加湿に伴う反応熱による空気の加熱や冷却を効率よく行うことができる。
【0074】
なお、多孔質アルミニウム吸着体11による吸着は、水分(湿気)に限らない。例えば、有害な粒状物質、ハウスダスト、ホルムアルデヒドなどの有機物ガスなども吸着することができる。これによって、デシカント空調装置10は、空気清浄機としても用いることもできる。なお、多孔質アルミニウム吸着体11に吸着された有害な粒状物質、ハウスダスト、ホルムアルデヒドなどの有機物ガスは、ヒータ(加熱手段)13による加熱によって、水分と同様に放出することができる。
【0075】
また、多孔質アルミニウム吸着体11は、多孔質アルミニウム基体21の規格化熱伝導率を20W/m・K以上であるから、外部から加えられた熱が全方向に等方的に広がり、温度が不均一になることが防止できる。これによって、例えば、多孔質アルミニウム吸着体11に吸着された水分を加熱によって放出する際に、熱の不均一によって局所的に水分の放出が行われない領域が生じたり、アルミニウム吸着体11に水分を吸着する際に、水分の吸着が不均一になるなど、吸着、放出特性が低下することを防止できる。
【0076】
また、本実施形態においては、アルミニウム基材31としてアルミニウム繊維31a及びアルミニウム粉末31bを用いているので、これらの混合比を調整することにより、多孔質アルミニウム基体21の気孔率や開口径を制御することが可能となる。これによって、用途に応じて最適な吸着特性を持った多孔質アルミニウム吸着体11を提供することが可能となる。
【0077】
また、本実施形態においては、多孔質アルミニウム基体21は、アルミニウム基材31、31同士の結合部35にTi−Al系化合物36が存在しているので、このTi−Al系化合物36によってアルミニウム基材31の表面に形成された酸化膜が除去されており、アルミニウム基材31,31同士が良好に結合している。よって、強度が十分な高品質の多孔質アルミニウム吸着体11を提供することが可能となる。
【0078】
また、このTi−Al系化合物36によって柱状突起32の成長が抑制されることから、溶融アルミニウムがアルミニウム基材31、31同士の間の空隙に噴出することを抑制でき、高い気孔率の多孔質アルミニウム基体21が得られ、高い吸着量をもつ多孔質アルミニウム吸着体11を提供することが可能となる。
【0079】
さらに、本実施形態では、アルミニウム基材31が、優れた耐食性を有する純度95質量%以上の高アルミニウム合金、特に純度99.5質量%以上の高純度アルミニウムで構成されているので、多孔質アルミニウム基体21の耐食性が良好で、腐食性のガスやミストを吸着可能な多孔質アルミニウム吸着体11を提供することが可能となる。
【0080】
そして、こうした多孔質アルミニウム吸着体11をデシカント空調装置10に適用することによって、省スペースで吸着能力、放出能力に優れたデシカント空調装置10を実現することができる。こうした本発明のデシカント空調装置10は、多孔質アルミニウム吸着体11の規格化熱伝導率、比表面積、気孔率に優れているため、少ないエネルギーで吸着物質の放出を行うことができ、効率的に空気の除湿、加湿、冷却、加熱を行うことを可能にする。
【0081】
(第二実施形態)
第一実施形態においては、デシカント空調装置10に吸着された水分を放湿させるために、ヒータ(加熱手段)13を用いているが、これ以外にも、例えば、ヒートポンプ装置を用いて放湿や冷却を行うこともできる。
図11は本発明の第二実施形態のデシカント空調装置40を示す構成図である。なお、第一実施形態と同様の構成については、同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
このデシカント空調装置40では、ヒートポンプ装置41を備えている。ヒートポンプ装置41は、熱交換器(冷却手段)42、熱交換器(加熱手段)43、および熱媒体を供給(循環)する熱源44から構成されている。
【0082】
熱交換器(冷却手段)42は、多孔質アルミニウム吸着体11の上部領域E1に配され、多孔質アルミニウム吸着体11で水分を吸着され、除湿された空気を冷却する。これによって、多孔質アルミニウム吸着体11で水分を吸着する際に温度が上昇した空気を冷却し、除湿された低温の空気を室内側に送ることができる。
【0083】
また、熱交換器(加熱手段)43は、多孔質アルミニウム吸着体11の下部領域E2に配され、多孔質アルミニウム吸着体11に向けて送風される空気を加熱する。これによって、多孔質アルミニウム吸着体11に吸着された水分を放湿し、室外側に湿気を排出するとともに、多孔質アルミニウム吸着体11を乾燥状態に戻す。
【0084】
熱交換器(冷却手段)42、熱交換器(加熱手段)43に用いる熱源44は、一般的なヒートポンプを用いることができる。またこれ以外にも、系外に存在する排熱を熱源44として有効に活用する事により、消費エネルギーの低減を図る事も可能である。さらに、ヒートパイプや中間熱交換器を介して熱交換器(冷却手段)42で生じた熱を熱交換器(加熱手段)43に移送することにより、熱交換器(加熱手段)43に必要な熱エネルギーを低減することも可能である。
【0085】
(第三実施形態)
第一実施形態においては、円板状に形成した多孔質アルミニウム吸着体11を回転させることで水分の吸着(除湿)と水分の放湿(加湿)を繰り返しているが、これ以外にも、例えば、
図13に示されるように熱媒体の流路を多孔質アルミニウム吸着体に直接形成する構成とすることもできる。
図12は本発明の第三実施形態のデシカント空調装置50を示す構成図である。なお、第一実施形態と同様の構成については、同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
このデシカント空調装置50では、ヒートポンプ装置51を備えている。ヒートポンプ装置51は、第一熱交換部52、第二熱交換部53、および熱源54から構成されている。
【0086】
それぞれの第一熱交換部52、第二熱交換部53は、
図13に示すように、多孔質アルミニウム吸着体55と、熱源54から送られる熱媒体の流路を成す配管56,56…とから構成されている。配管56,56…は、多孔質アルミニウム吸着体55を貫通するように形成され、この配管56,56…を流れる熱媒体との間で熱交換を行う。
【0087】
これら配管56,56…に流す熱媒体を、例えばバルブ等により交互に切り替える事により、多孔質アルミニウム吸着体55の優れた伝熱性能がより発揮され、外部熱源を利用する場合と比較して、さらに多孔質アルミニウム吸着体55の加熱や冷却が速やかに行われ、結果としてさらなる省エネルギー化が可能となる。
【0088】
以上、本発明の多孔質アルミニウム吸着体、およびこれを用いたデシカント空調装置の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。適用例としてデシカント空調装置を挙げたが、同様に多孔質アルミニウム吸着体11の優れた規格化熱伝導率、比表面積、気孔率を利点として、少ないエネルギーで吸着物質の放出を行うことができ、効率的に空気の除湿、加湿、冷却、加熱を行うことを可能にする機能が有効である他の用途、例えば吸着冷凍システムにおける水蒸気吸着器にも応用する事が可能である。また、本発明の多孔質アルミニウム吸着体の吸脱着メカニズムは、各種気体の吸脱着にも適用可能であり、本実施形態に記載された水蒸気(水分)の吸脱着に限定するものではない。
【0089】
実施形態では、多孔質アルミニウム吸着体を構成するアルミニウム基材の外表面には、外方に向けて突出する複数の柱状突起を形成しているが、こうした柱状突起を特に形成しなくてもよい。その場合、柱状突起を持たない複数のアルミニウム基材同士が直接結合されて多孔質アルミニウム吸着体を構成する。
【0090】
実施形態では、柱状突起の先端には、Ti−Al系化合物を形成しているが、こうした柱状突起に、さらに、MgやMg酸化物が存在していることも好ましい。この場合、柱状突起に存在するMg酸化物は、多孔質アルミニウム基体の表面に形成された酸化膜の一部がMgによって還元されることによって生成されたものと推測される。このように、Mgによって多孔質アルミニウム基体の表面の酸化膜が還元されることにより、柱状突起が数多く形成されやすくなり、気孔率を更に高めることができる。
【0091】
また、柱状突起には、Ti−Al系化合物及びAlと共晶反応する共晶元素を含む共晶元素化合物が存在していることも好ましい。Alと共晶反応する共晶元素としては、例えば、Ag、Au、Ba、Be、Bi、Ca、Cd、Ce、Co、Cu、Fe、Ga、Gd、Ge、In、La、Li、Mn、Nd、Ni、Pd、Pt、Ru、Sb、Si、Sm、Sn、Sr、Te、Y、Zn等が挙げられる。例えば、共晶元素としてNiを介在することにより、多孔質アルミニウム基体において局所的に融点が低下する箇所が存在することになる。融点が低下した箇所では、結合部が太く形成されやすくなり、多孔質アルミニウム基体同士をさらに強固に結合して、多孔質アルミニウム基体の強度を向上させることが可能になる。
【0092】
また、実施形態のデシカント空調装置は、多孔質アルミニウム吸着体を円板状に成形して回転させているが、これ以外にも、多孔質アルミニウム吸着体を円筒形に形成して、円筒の内外で除湿や加湿を行う構成など、各種形状に成形して用いることができる。また、多孔質アルミニウム吸着体から吸着物を放出させる手段としては、加熱手段以外にも、減圧によって吸着物を放出させることもできる。
【実施例】
【0093】
以下、
参考例、本発明例および比較例の吸着体について、その効果を検証した検証結果を説明する。
(
参考例1−3:柱状突起無し)
まず最初に、多孔質アルミニウム基体21の原料となる焼結用アルミニウム原料40を製造する。常温にて、アルミニウム基材31に対して、バインダー溶液を噴霧し、表面にバインダーを付着させる。(バインダー種類などは第一実施形態の記載と同様)
次に、混合工程S01で得られた混合体を乾燥する(乾燥工程S02)。
次に、上述のようにして得られた焼結用アルミニウム原料40を用いて多孔質アルミニウム基体21を製造する。
まず、粉末散布機51から、所定の形状(直径50mm×深さ20mm)のカーボンモールド内部に深さ 約12mmまで焼結用アルミニウム原料40を充填する。
次に上部に同じくカーボン製で直径50mmの蓋をし、ハンドプレスによりプレス成形し、内部の充填物の厚みが約10mmとなるまで約2mm圧縮する。
この状態(カーボンモールドに入れた状態)で脱脂、焼成を実施する。焼成条件は第一実施形態の記載と同様である。
この
参考例1−3では、焼成前のプレス成形の結果、アルミ基材原料同士が局所的に強く固着された部分が形成され、この状態で655〜665℃に加熱・焼結されることから、固着部分が部分溶融し、アルミ基材同士の接合が行われる。この場合、添加物としてTiもしくはTiH
2が含まれていないことから、アルミニウム基材31の外表面は比較的滑らかで、
本発明例4−10で特徴的に見られるような柱状突起物は形成されていない。
(本発明例4−10:柱状突起有り)
本発明例4−10については、上述した第一実施形態に従って形成した。
【0094】
(比較例1)
図14に示すコルゲート板(板厚10mm、コルゲートセルサイズ1.5mm、純アルミニウム製)から直径50mmの円板を切り出して吸着体とした。
(比較例2)
図15に示すハニカム板(板厚10mm、ハニカムセルサイズ1mm、純アルミニウム製)から直径50mmの円板を切り出して吸着体とした。
(比較例3)
市販のアルミニウム不織布(厚み1mm)から直径50mmの円板を切り出して、これを10枚重ねて吸着体とした。
【0095】
こうして得られた
参考例1−3、本発明例
4−10、比較例1−3に関して、気孔率、比表面積、規格化熱伝導率を測定した。
「気孔率」
それぞれのサンプルの重量:X(g)、体積:Y(cm
3)から、密度:X/Y=C(g/cm
3)を算出し、アルミニウム基材の密度:D(g/cm
3)とした時に、気孔率P(%)=(D−C)/D×100として算出した。
「体積当たりの比表面積」
それぞれのサンプルの体積:V(cm
3)、表面積: A(m
2)から、体積当たりの比表面積S
1(m
2/g)=A/(ρ×V)として算出した。
「単位質量当たりの比表面積」
それぞれのサンプルの体積:V(cm
3)、表面積: A(m
2)、密度:ρ(g/cm
3)から、単位質量当たりの比表面積S
2(m
2/g)=A/(ρ×V)として算出した。
後述する陽極酸化による吸着材層の形成前と形成後で単位質量当りの比表面積について測定結果を比較したところ、陽極酸化後には比表面積が約1万倍に増加したものの、その計測値は陽極酸化前の比表面積にほぼ比例しており、サンプル種類に関わらず、同一の細孔径および深さの酸化被膜が形成されている事が確認された。
参考例、本発明例の多孔質アルミニウム吸着体 400〜2000(m
2/g)コルゲートアルミ板(比較例): 200〜350(m
2/g)アルミ不織布(比較例): 200〜350(m
2/g)
【0096】
「規格化熱伝導率」
それぞれのサンプルを直径50mm×厚み10mmの円板状に切り出し測定試料とする。
図16に示すように、各サンプルを上下から直径50mmの伝熱棒(上部伝熱棒はSUS製、下部伝熱棒はCu製)で挟み、面圧10kPaで固定する。気温25℃一定の条件で、ヒーター部を100℃・冷却部を25℃に設定し、30分保持し、定常状態になったところで、サンプルの上下面の温度を測温し、その温度差ΔT
Sとする。リファレンスとして、直径50mm×厚み10mmの円板状のSUS304板を用いて、同様の測定を行い、得られたSUSサンプルの上下面の温度差をΔT
Rとする。これらの測定結果から、サンプルの規格化熱伝導率λ
Sは、以下の式4により求められる。
λ
S=λ
R×(ΔT
R・L
R)×L
S/ΔT
S×100/(100−V
P)・・(式4)
但し、
λ
S:各サンプルの規格化熱伝導率(W/m・K)
λ
R:リファレンス材(SUS304)の熱伝導率16(W/m・K)
ΔT
S:各サンプルの上下面温度差(K)
ΔT
R:リファレンス材(SUS304)の上下面温度差(K)
L
S:各サンプルの厚み(m)
L
R:リファレンス材(SUS304)の厚み10.0×10
−3(m)
V
P:各サンプルの気孔率(%)
【0097】
これら
参考例1−3、本発明例
4−10、比較例1−3のサンプルに対して、更に陽極酸化法により表面に水分の吸着材層となるアルミナ皮膜を以下の手順によって形成した。
(1)アルカリ洗浄処理
前処理として、サンプル表面の汚れや酸化膜を除去するため、60℃に保持した市販のアルカリ系脱脂液中に1分間浸漬した後、イオン交換水による流水洗浄を1分間行った。
(2)デスマット処理
アルカリ洗浄により生じた反応生成物を除去するため、液温25℃、濃度0.5mol/Lの硫酸溶液中に30秒浸漬した後、イオン交換水による流水洗浄を1分間行った。
(3)陽極酸化処理
直流電源の正極に陽極酸化を行うサンプルを固定し、サンプルの表裏面に対し、それぞれ50mmの距離に正対させた2枚のカーボン板(100mm角)を負極とし、電解液として液温10℃、濃度1mol/Lの硫酸を用い、両極間に35mAの定電流が流れるように制御し、緩やかに電解液の撹拌を行い、かつ、電解質の温度を10℃に維持した状態で10分間保持した。その後、速やかにイオン交換水による流水洗浄を1分間行った。
(4)酸化膜定着処理
流水洗浄の水切りを行った後、予め150℃に加熱しておいたオーブン中にサンプルを120分間保持し、酸化膜の定着を行った後、オーブンから取り出し、その後の各試験に供した。
【0098】
陽極酸化によって水分の吸着材層を形成した
参考例1−3、本発明例
4−10、比較例1−3のサンプルに対して吸湿量および放湿特性を調べた。
「吸湿量」
吸湿量の測定は、それぞれのサンプルを110℃に加熱したオーブン中に1時間保持して、水分を乾燥させた後、重量を測定し、乾燥重量(W
1)を求めた。次に、サンプルを25℃、相対湿度80%に保持した恒温恒湿槽中に1時間保持し、水蒸気を十分に吸着させた後、重量を測定し、吸湿後重量(W
2)を求めた。そして、吸湿後重量(W
2)と乾燥重量(W
1)との差分を吸湿量(W
3)とした。
【0099】
「放湿特性(保水率)」
放湿特性は、吸湿量の測定で用いた吸湿したサンプルを60℃に加熱したホットプレート上(室内環境25℃、相対湿度40%)に置き、10分間保持した後の重量(W
4)を測定しこの重量(W
4)と乾燥重量(W
1)との差分を残留水分量(W
5)とした。そして、吸湿量に対する残留水分量の割合(W
5/W
4)を保水率(Pw)と定義した。
この保水率Pwが低いほど放湿特性が優れると言える。ホットプレートからサンプルへの伝熱により吸湿した水分が放出されることから、熱伝導度と保水率には正の相関が認められる。
【0100】
これら
参考例、本発明例と比較例の検証結果(気孔率、比表面積、規格化熱伝導率、吸湿量および放湿特性)を表1にまとめて示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1に示す検証結果によれば水分吸着能を有する表面層被覆後の単位質量当りの比表面積は、本発明例
4−10のいずれも400(m
2/g)以上であり、半数以上が1000(m
2/g)を超えている。一方、比較例1−3では、300(m
2/g)程度に留まる。本発明によれば、比表面積によって決まる吸湿量や吸着速度が優れた多孔質アルミニウム吸着体を実現できることが確認された。
また、表1に示す検証結果によれば、
本発明例
4−10の熱伝導率は気孔率に応じて変動しているが、これを気孔率により規格化した規格化熱伝導率については、いずれも20W/m・K以上であり、優れた熱伝導特性を有する事が確認された。
【0103】
比較例1および比較例2については、
本発明例
4−10の様な焼結体ではなく、バルクのアルミニウムに近いことから、規格化熱伝導率は非常に良く、放湿率については
本発明例と遜色のない結果となった一方で、単位質量当りの比表面積は、
本発明例に比較して有意に小さく、直接吸湿量に影響する単位体積当たり比表面積で比較すると、さらにその差は拡大することから、結果的に吸湿量は
本発明例に比べて大幅に少ない結果となった。
【0104】
一方、比較例3については、
本発明例に比べて低い規格化熱伝導率を示し、結果として低い放湿率を示した。これは不織布を構成する繊維同士が焼結されておらず、単純に点接触による熱伝導に依存していることに因ると考えられる。また、吸湿量については、比較例1、2に比較すると有意に大きくはなっているものの、
本発明例と比較するとやはり有意に少ないとの結果となった。