(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
補修または補強すべき既設トンネルの軸線方向に、一端が既設の覆工コンクリートに固定された棒状支持部材を間隔をおいて複数設置して、棒状支持部材よりなる列を一列だけ構築し、前記既設の覆工コンクリートとの間に間隔を設けて平板帯状の型枠板材を長手方向がトンネル軸線と平行になるように配置して、短手方向の中央部一点を前記棒状支持部材の他端に固定する工程を、側壁部下端から上方に向けて少なくとも2回以上繰り返して規定高さの組壁型枠を形成した後、該組壁型枠と既設の覆工コンクリートとの間にセメント系硬化材を充填して硬化させる工程を、側壁部下端からクラウン部に向けて繰り返す既設トンネルの補修・補強工法において、
前記組壁型枠が、先行して固定した前記型枠板材の上端部と、後行して固定した前記型枠板材の下端部とを連結一体化して形成された折れ線状の断面形状を有する、既設の覆工コンクリートの曲面に倣った疑似的な湾曲面に形成されることを特徴とする既設トンネルの補修・補強方法。
前記型枠板材におけるセメント系硬化材の打設面側に、隣接する型枠板材間を跨ぐようにして帯状の裏打ち材が配置され、該裏打ち材を介して隣接する前記型枠板材が連結一体化されることを特徴とする請求項1に記載の既設トンネルの補修・補強方法。
前記型枠板材に、セメントを主成分とし、高強度ビニロン繊維を補強繊維とする高靱性のセメントボードを用いることを特徴とする請求項1または2に記載の既設トンネルの補修・補強方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の方法は、以下のような課題を有している。
(1)埋設型枠に汎用型枠を適用することができないため、補修・補強しようとする既設トンネル各々に対し、既設の覆工コンクリートの曲面に合わせた埋設型枠を個別製作しなければならず、その製作が煩雑であるとともにコストも膨大となる。
(2)分割したプレキャスト型枠は、型枠材としての形状を保持するために、部材厚を大きくとるなどして曲げ剛性を高める必要があり、小型に分割しても重量が大きくなりやすい。これにより、施工時に揚重機等大がかりな作業設備を必要とするため、トンネル内を供用しながら施工する場合には、供用部を保護するプロテクタを使用する必要があり、作業効率性に劣る。
(3)分割したプレキャスト型枠は、各々を独立して既設の覆工コンクリートに固定する構造であるから、プレキャスト型枠の外周縁に沿って複数のアンカーボルトを配置して、プレキャスト型枠を既設の覆工コンクリートに固定しなければならず、部材点数が大幅に増加するとともにプレキャスト型枠の取り付け作業も煩雑となる。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、作業性がよく、補修・補強すべき覆工コンクリートの曲面に応じて型枠を個別製作する必要のない、汎用型枠を用いた既設トンネルの補修・補強方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため本発明の既設トンネルの補修・補強方法は、補修または補強すべき既設トンネルの軸線方向に、一端が既設の覆工コンクリートに固定された棒状支持部材を間隔をおいて複数設置して、棒状支持部材よりなる列を一列だけ構築し、前記既設の覆工コンクリートとの間に間隔を設けて平板帯状の型枠板材を長手方向がトンネル軸線と平行になるように配置して、短手方向の中央部一点を前記棒状支持部材の他端に固定する工程を、側壁部下端から上方に向けて少なくとも2回以上繰り返して規定高さの組壁型枠を形成した後、該組壁型枠と既設の覆工コンクリートとの間にセメント系硬化材を充填して硬化させる工程を、側壁部下端からクラウン部に向けて繰り返す既設トンネルの補修・補強工法において、前記組壁型枠が、先行して固定した前記型枠板材の上端部と、後行して固定した前記型枠板材の下端部とを連結一体化して形成された折れ線状の断面形状を有する、既設の覆工コンクリートの曲面に倣った疑似的な湾曲面に形成されることを特徴とする。
【0008】
上記の既設トンネルの補修・補強方法によれば、平板帯状の型枠板材を複数連結一体化して折れ線状の断面形状を有する組壁型枠を構築し、組壁型枠を既設の覆工コンクリートの曲面に倣った疑似的な湾曲面に形成するから、既設トンネルに合せて組壁型枠を個別製作する必要がなく、型枠板材として汎用的に用いられている型枠ボードを使用できるため、組壁型枠を製作するための手間が省略できるとともにコストを大幅に削減することが可能となる。
【0009】
また、現場にて平板帯状の型枠板材を複数連結一体化するのみの簡略な方法で組壁型枠を構築できるため、既設トンネルの変状が軸線方向に進むにつれて異なる場合であっても、変状の度合いに応じて組壁型枠と既設の覆工コンクリートとの距離を変更し、セメント系硬化材の断面厚を適宜調整することが可能となる。
【0010】
さらに、棒状支持部材を短手方向の中央部一点に取り付けると、棒状支持部材を支点として短手方向上下の型枠板材にセメント系硬化材の充填による側圧がほぼ均等に作用するので、型枠板材の板厚を均一かつ小さくすることが可能となる。
【0011】
そして、型枠板材は、その上端部及び下端部が、隣接する型枠板材と連結一体化されるため、セメント系硬化材の充填による側圧に対して連結一体化された複数の型枠板材全体で抵抗する。また上述したように、棒状支持部材を短手方向の中央部一点に取り付けると、棒状支持部材を支点として短手方向上下の型枠板材にセメント系硬化材の充填による側圧がほぼ均等に作用する。
これら上端部及び下端部を隣接する型枠板材と連結一体化し、短手方向の中央部一点を棒状支持部材に取り付けるといった型枠板材の支持構造による作用が相まって、型枠板材各々は面外方向の変形が抑制されるため、型枠板材各々を独立して覆工コンクリートに固定する場合と比較して、部材厚を小さくすることができるので重量が小さくなり、軽量化を図ることが可能となる。
【0012】
加えて、型枠板材は、短手方向の中央部一点が棒状支持部材を介して覆工コンクリートに支持され、また上端部及び下端部は隣接する型枠板材と連結一体化されるから、型枠板材各々の周縁を棒状支持部材にて覆工コンクリートに支持する必要がない。これにより、型枠板材の短手方向の長さ短くしても棒状支持部材が過剰に密な配置となることがないため、短手方向の長さを自在に変更することが可能となる。
【0013】
本発明の既設トンネルの補修・補強方法は、型枠板材におけるセメント系硬化材の打設面側に、隣接する型枠板材間を跨ぐようにして帯状の裏打ち材が配置され、該裏打ち材を介して隣接する前記型枠板材が連結一体化されることを特徴とする。
【0014】
上記の既設トンネルの補修・補強方法によれば、隣接する型枠板材間を跨ぐようにして帯状の裏打ち材が配置されるため、型枠板材どうしを開き角度θを持って連結一体化しても、連結部の止水機能を大幅に向上させることが可能になる。
また、隣接する前記型枠板材が、帯状の裏打ち材を介して連結されるため、隣接する型枠板材間の連結部の面外方向の剛性を向上することも可能となる。
【0015】
本発明の既設トンネルの補修・補強方法は、前記型枠板材に、セメントを主成分とし、高強度ビニロン繊維を補強繊維とする高靱性のセメントボードを用いることを特徴とする。
【0016】
上記の既設トンネルの補修・補強方法によれば、型枠板材に、補強繊維を含有した高靱性のセメントボードを使用するため、モルタルを基材とする従来の埋設型枠と比較して、同強度の型枠において部材厚も薄くできるので重量が小さくなり、揚重機を用いなくても作業できる程度に軽量化を図ることが可能となる。
これに伴い、既設トンネルの補修・補強工法を実施するにあたり、組立て及び解体が容易で省スペース化を図ることのできる枠組足場にて作業を行うことができるから、作業スペースを大幅に縮小することが可能になるとともに、プロテクタを用いることなく、トンネル内を活線道路としながら作業を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、平板帯状の型枠板材を複数連結一体化して折れ線状の断面形状を有する組壁型枠を構築し、この組壁型枠を既設の覆工コンクリートの曲面に倣った疑似的な湾曲面に形成するため、既設の覆工コンクリートの曲面に応じて型枠を個別製作する必要がなく、簡略な構成で作業性がよく既設トンネルの補修・補強を行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、既設トンネルの補修・補強工法を、
図1〜
図7を用いて説明する。
【0020】
本発明の既設トンネルの補修・補強工法は、
図1の既設トンネルの断面図に示すように、既設トンネルにおける覆工コンクリート1の覆工表面側を、埋設型枠である組壁型枠2を使用して補修・補強する方法である。
つまり、
図2に示すように、既設の覆工コンクリート1に対して棒状支持部材6の一端を既設の覆工コンクリート1に対して埋設固定し、覆工表面側に棒状支持部材6の他端を突出させるとともに、組壁型枠2を既設の覆工コンクリート1との間に間隔をおいて配置し、棒状支持部材6の他端に固定した上で、組壁型枠2と既設の覆工コンクリート1との間にセメント系硬化材14を充填し、硬化させるものである。
【0021】
また、本発明の既設トンネルの補修・補強工法では、既設の覆工コンクリート1の曲面に合わせて組壁型枠2を工場にて個別製作するのではなく、
図3に示すように、汎用型枠である平板帯状の型枠板材3どうしを、現場にて連結一体化することで組壁型枠2を構築するものである。
【0022】
具体的には、
図4(b)に示すように、長手方向がトンネル軸線方向と平行になるよう配置した平板帯状の型枠板材3を、
図2に示すように、短手方向に複数連結して既設の覆工コンクリート1における覆工表面を覆うことにより、断面形状が折れ線状をなす組壁型枠2を形成する。このとき、あらかじめ型枠板材3の短手方向の長さを調整してくことで折れ点の数量及び位置を調整し、組壁型枠2を既設の覆工コンクリート1の曲面に倣った疑似的な湾曲面に形成するものである。
【0023】
本発明で用いる型枠板材3は、
図3(a)に示すように、平板帯状で高靱性を有し埋設型枠材として使用されている板材であれば、セメントボードやFRP板、鋼板等いずれの板材を用いてもよい。
なお、本実施の形態では、型枠板材3として高い緻密性、変形性能および曲げ強度を有するスムースボード(登録商標)を使用している。スムースボードは、セメントを主成分とし高強度ビニロン繊維を補強繊維とする板材であり、軽量で高靱性を有することから現場での取り扱いが容易なため、埋設型枠材として汎用的に使用されているものである。
【0024】
この型枠板材3は、長手方向をトンネル軸線に、短手方向を既設の覆工コンクリートの断面形状に、それぞれ沿わせて配置するものである。なお、型枠板材3の長手方向の長さは何ら限定されるものではなく、運搬条件や施工性等を考慮して適宜調整すればよい。
【0025】
型枠板材3の側端部のいずれか一方及び上端部には、
図3(a)に示すように、平板をL字状に成形した裏打ち材4が配置されている。
裏打ち材4は、隣り合う型枠板材3を連結一体化するための部材であり、
図3(b)に示すように、隣り合う型枠板材3との間を跨いで配置できるよう型枠板材3から突出させた状態で、型枠板材3におけるセメント系硬化材14の打設面側に接着固定されている。
【0026】
つまり、型枠板材3における短手方向の上方に他の型枠板材3を配置すると、
図3(b)に示すように、短手方向の下方に位置する型枠板材3の上端部に設けた裏打ち材4の突出部が、上方に位置する型枠板材3におけるセメント系硬化材14の打設面の下端部近傍に当接することとなる。したがって、この裏打ち材4と上方に位置する型枠板材3との間、及び下方に位置する型枠板材3の上端部と上方に位置する型枠板材3の下端部の間に止水性能を有する接着剤5を塗布することにより、短手方向に隣り合う型枠板材3どうしは止水機能を伴って連結一体化されるものである。
なお、図示しないが、接着剤5に加えて、裏打ち材4と上方に位置する型枠板材3とをビスにて固定してもよい。
【0027】
このように型枠板材3は、その上端部及び下端部が、隣接する型枠板材3と連結一体化されるため、セメント系硬化材14の充填による側圧に対して型枠板材3各々で抵抗するのではなく、連結一体化された複数の型枠板材3全体で抵抗することが可能となる。
【0028】
ところで、上記の短手方向の上下に隣り合う型枠板材3の連結構造は、隣り合う型枠板材3の連結角度を自在に調整することが可能である。
つまり、短手方向に隣接する型枠板材3を開き角度θをもって連結したい場合には、
図3(c)に示すように、下方に位置する型枠板材3の上端部と上方に位置する型枠板材3の下端部とを開き角度θを持たせた状態で当接させる。この状態で、下方に位置する型枠板材3の上端部と上方に位置する型枠板材3の下端部の間に生じる空隙、及び下方に位置する型枠板材3に設けた裏打ち材4と上方に位置する型枠板材3との間に生じる空隙を接着剤5で充填すればよい。
【0029】
なお、裏打ち材4に用いる板材は、特に限定されるものではなく、いずれの板材を採用してもよいが、本実施の形態では、例えば、裏打ち材4を型枠板材3と同じ材料の板材にて成形している。また、接着剤5についても、止水機能を有する材料であれば、シリコン系接着剤や硬化性樹脂系接着剤等いずれを採用してもよい。
【0030】
このように、隣り合う型枠板材3間を跨ぐようにして平板状の裏打ち材4が配置されると、隣り合う型枠板材3間の連結部分は、止水性が大幅に向上するだけでなく、面外方向の剛性も向上することとなる。
なお、トンネル軸線の長手方向に隣り合う型枠板材3の連結構造も、上記の上下に隣り合う型枠板材3の連結構造と同様である。
【0031】
こうして裏打ち材4を介して短手方向に複数の型枠板材3を連結していくと、
図2に示すように、断面形状が折れ線状の組壁型枠2が、既設の覆工コンクリート1の覆工表面側に間隔をもって形成される。このように短手方向が湾曲していなくても、直線状の型枠板材3を開き角度θを調整しながら短手方向に連結一体化することで、
図1に示すように、既設の覆工コンクリート1の曲面に倣った疑似的な湾曲面を有する組壁型枠2に形成することが可能となる。
【0032】
したがって、既設トンネルに合せて型枠板材3を工場にて個別製作する必要がなく、型枠板材3に汎用的に用いられているセメントボードを使用できるため、型枠板材3を製作するための手間が省略できるとともにコストを大幅に削減できる。
【0033】
これら断面形状が折れ線状をなす組壁型枠2は、既設の覆工コンクリート1の曲面に合わせて個別製作したものではないため、型枠板材3の短手方向の長さを適宜変更し、折れ点の数量及び折れ点の位置を調整することで、組壁型枠2の内空断面の大きさを変更したり、断面形状の滑らかさを調整することも可能である。
【0034】
つまり、組壁型枠2の内空断面を大きく、また組壁型枠2の断面形状をより滑らかにして美観を向上したい場合、型枠板材3の短手方向の長さを短くすればよい。これにより、必要とする型枠板材3の数量が増えるため折れ点の数量が増えるが、覆工コンクリート1の曲面に応じた湾曲形状により近づくこととなる。
【0035】
また、型枠板材3の短手方向の長さとその数量を適宜調整することにより、組壁型枠2自身の大きさも自在に変更することができる。このため、例えば既設トンネルの変状がトンネル軸線方向に進むにつれて異なる場合であっても、変状の度合いに応じて組壁型枠2と既設の覆工コンクリート1との距離を容易に変更することが可能である。
【0036】
上述する構成の型枠板材3には、
図3(a)に示すように、短手方向の中央部一点に対して長手方向に間隔を有して配置される複数の貫通孔3aよりなる列が一列配置されている。該貫通孔3aは、型枠板材3を既設の覆工コンクリート1に固定する際に用いる棒状支持部材6が貫通する孔であり、現場において棒状支持部材6の設置間隔に合わせて穿孔されるものである。
【0037】
これら、型枠板材3を覆工コンクリート1に固定する際に用いる棒状支持部材6は、
図4(a)に示すように、全ネジボルトよりなるアンカー本体7と、該アンカー本体7の後端に螺号される座付長ナット8と、該座付長ナット8を介して前記アンカー本体7と同軸に接続されるフォームタイ(登録商標)9とを備えている。
【0038】
アンカー本体7は、既設の覆工コンクリート1の所定の位置を穿孔して樹脂系接着剤を充填した上で、この孔に挿入されることで固定され接着系アンカーをなす、いわゆるあと施工アンカーである。
座付長ナット8は、長ナットの後端に座8’が設けられているもので、
図4(a)に示すように、座付長ナット8における長ナットの先端から中間深さまでアンカー本体7の後端が螺合されている。一方、座付長ナット8における長ナットの後端から中間深さまで、フォームタイ9が螺合されている。
フォームタイ9は、アンカー本体7と同様の全ネジボルトよりなり、型枠板材3を座付長ナット8の座8’に当接させて固定する際に用いる部材である。そして、型枠板材3と既設の覆工コンクリート1との間に充填されるセメント系硬化材14が硬化した後には、撤去される。
【0039】
上記の構成を有する棒状支持部材6は、
図4(b)に示すように、トンネル軸線方向に間隔を有して既設の覆工コンクリート1に複数固定されており、棒状支持部材6よりなる列を構築している。したがって、これらトンネル軸線方向に列をなす複数の棒状支持部材6に、上述した型枠板材3の長手方向に列をなす複数の貫通孔3aを挿通させることで、型枠板材3は棒状支持部材6を介して既設の覆工コンクリート1に支持固定されるものである。
【0040】
なお、棒状支持部材6と型枠板材3の取り合いは、
図4(a)に示すように、型枠板材3の貫通孔3aに棒状支持部材6のフォームタイ9を挿通させて型枠板材3におけるセメント系硬化材14の打設面を座付長ナット8の座8’に当接させ、シール10および円盤状の支保工11をフォームタイ9に挿通させて、フォームタイ9に螺合するナット12にて締め付ける構造である。
なお、シール10は、型枠板材3と既設の覆工コンクリート1との間にセメント系硬化材14を充填した際に、型枠板材3の貫通孔3aからセメント系硬化材14が漏れ出ることを防止するために用いる部材である。
【0041】
このように、本実施の形態では、座付長ナット8を用いているから、型枠板材3に座8’を当接させることで棒状支持部材6に対する型枠板材3の位置決めが容易となっている。なお、棒状支持部材6に対する座付長ナット8の座8’の位置決めは、座付長ナット8における長ナットの先端からアンカー本体7の後端を螺合挿入する際の挿入長さを調整して行う。
また、本実施の形態では、
図4(b)に示すように、トンネル軸線方向に隣り合う支保工11を連結するように支保工11の上面に鋼製端太13を配置し、鋼製端太13を介してナット12にて螺合締め付けを行う構成としている。これにより、型枠板材3の長手方向に対して、支保工11による支圧力が均等に作用する構成となっている。
【0042】
さらに、本実施の形態では、支保工11の形状を、型枠板材3に対して広い面で接することのできる円盤状に形成しているので、セメント系硬化材14により側圧を受ける型枠板材3を、支保工11にて効率よく支持することが可能となっている。
【0043】
上述する構成により、組壁型枠2を形成する複数の型枠板材3は、型枠板材3各々がトンネル軸線方向に一列に並んだ棒状支持部材6を介して既設の覆工コンクリート1に複数固定されることとなる。
【0044】
このように型枠板材3は、長手方向に一列の棒状支持部材6を介して既設の覆工コンクリート1に固定されているため、型枠板材3を覆工コンクリート1に固定する際の部材点数が少なく作業性がよい。また、型枠板材3の短手方向の長さを短くしても、短手方向の複数点を棒状支持部材6にて固定するような場合と比較して、棒状支持部材6が過剰に密な配置となることがないため、短手方向の長さを自在に変更することが可能となる。
【0045】
また、型枠板材3における短手方向の中央部一点が、棒状支持部材6に取り付けた支保工11に支持されるため、セメント系硬化材14の充填による側圧が型枠板材3の短手方向の上下にほぼ均等に作用してバランスが取れる。
このような作用と、型枠板材3が、上端部及び下端部を隣接する型枠板材3と連結一体化されることにより、セメント系硬化材14の充填による側圧に対して連結一体化された複数の型枠板材3全体で抵抗するという作用とが相まって、型枠板材3各々は面外方向の変形が抑制される。このため、型枠板材3は、各々を独立して覆工コンクリート1に固定する場合と比較して、部材厚を小さくすることができるので重量が小さくなる。さらに、型枠板材3に高靱性のセメントボードを使用すると、他の材料よりなる同強度の型枠ボードを用いる場合と比較して部材厚をより小さくできるため、一層の軽量化を図ることが可能となる。
【0046】
上述する複数の型枠板材3よりなる組壁型枠2および棒状支持部材6を用いた既設トンネルの補修・補強工法の手順を、
図5から
図7を用いて説明する。
本実施の形態では、2車線で供用している既設トンネルを補修・補強する場合を例にとり説明する。また、先にも述べたとおり型枠板材3には、セメントを主成分とし高強度ビニロン繊維を補強繊維とするスムースボード(登録商標)を使用している。
【0047】
施工に先立ち、既設の覆工コンクリート1を補修・補強する際に必要なセメント系硬化材14の断面厚(つまり、組壁型枠2と既設の覆工コンクリート1との離間距離)、既設トンネルの建築限界等を考慮して型枠設計を行い、組壁型枠2が既設の覆工コンクリート1に対して必要な離間距離をもって既設の覆工コンクリート1の曲面に倣った疑似的な湾曲面を形成することができるよう、型枠板材3の寸法、数量、及び棒状支持部材6の配置位置、数量等を決定しておく。
【0048】
まず、
図5(a)に示すように、2車線道路のうち1車線を活線道路として供用させたまま、他の1車線を通行止めにして枠組足場16を設置するとともに、枠組足場16に防護シート16cを取り付け、作業エリア15を確保する。そして、作業エリア15に面する既設の覆工コンクリート1における側壁に、トンネル軸線方向に沿って複数の棒状支持部材6よりなる列を一列のみ設置する。このとき、棒状支持部材6のアンカー本体7に対する座付長ナット8の取り付け位置を調整し、座付長ナット8の座8’と既設の覆工コンクリート1との離間距離を、セメント系硬化材14の断面厚と同一にしておく。
なお、棒状支持部材6を固定する前に、覆工コンクリート1の表面を清掃および目荒らししておくとよい。
【0049】
次に、現場にて型枠板材3の短手方向の中央部一点に、トンネル軸線方向に設置した複数の棒状支持部材6の配置間隔と同様の配置間隔をもって、複数の貫通孔3aを形成する。そして、この貫通孔3aに棒状支持部材6のフォームタイ9を挿通させて、型枠板材3におけるセメント系硬化材14の打設面を座付長ナット8の座8’に当接させる。この後、先に述べたように、支保工11及び鋼製端太13を介してフォームタイ9にナット12を螺合することで、
図5(b)に示すように、最下段の棒状支持部材6に型枠板材3を締め付け固定する。
なお、型枠板材3には、予め前述した裏打ち材4を固定しておく。
【0050】
この後、
図5(c)に示すように、先行して構築した複数の棒状支持部材6よりなる列の上方に、新たに複数の棒状支持部材6よりなる列を一列だけ構築し、棒状支持部材6のアンカー本体7に対する座付長ナット8の取り付け位置を調整した上で、棒状支持部材6に新たな型枠板材3を固定する。
【0051】
そして、先にも
図3(b)を参照して述べたとおり、先行して設置した型枠板材3の上端部に設けた裏打ち材4の突出部を、新たに設置する型枠板材3におけるセメント系硬化材14の打設面側に配置し、両者を接着剤5及び図示しないビスにて固定する。これにより、先行して設置した型枠板材3と新たに設置する型枠板材3は連結一体化される。
【0052】
上記の工程を、
図6(a)に示すように、連結した型枠板材3の高さが規定高さLに達するまで繰り返す。
本実施の形態では、規定高さLに達するまでに型枠板材3の連結作業を少なくとも2回以上行う。つまり、規定高さLに達するまで型枠板材3を少なくとも2枚以上用いる程度に、型枠板材3の短手方向の長さを設定している。
また、型枠板材3に作用するセメント系硬化材14の打設時の側圧が過剰になることがないよう、規定高さLを2mに設定した。なお、規定高さLは2mに限定するものではなく、打設するセメント系硬化材14の性状や打込み速度等に応じて、適宜設定すればよい。
【0053】
連結した型枠板材3の高さが規定高さに達したら、
図6(b)に示すように、型枠板材3と既設の覆工コンクリート1との間にセメント系硬化材14を充填する。本実施の形態において、セメント系硬化材14には、3日間の養生で30N/mm
2以上の強度を確保できる、若材齢より高い強度を有する無収縮モルタルを採用した。
【0054】
打設したセメント系硬化材14を養生している間に、
図6(c)に示すように、作業エリア15を確保するため通行止めにしていた車線を解放し、活線道路として供用させる一方で、先ほどまで活線道路として供用していた車線を通行止めにして作業エリア15を確保する。そして、作業エリア15に面する既設の覆工コンクリート1における側壁に、棒状支持部材6および型枠板材3に係る上記と同様の施工をし、連結した型枠板材3の高さが規定高さLに達したら、同じく型枠板材3と既設の覆工コンクリート1との間にセメント系硬化材14を充填し、養生する。
【0055】
これらの作業を、
図7(a)(b)に示すように、側壁部の一方と他方で交互に施工しながら、側壁部からクラウン部に向けて繰り返す。
ここで、
図7(a)に示すように、セメント系硬化材14が打設された型枠板材3の上方に対して新たな型枠板材3を設置する際には、先に打設したセメント系硬化材14に所望の強度が発現しており、棒状支持部材6から、ナット12、鋼製端太13、支保工11およびフォームタイ9を取り外すことが可能となった状態にて、その上方に新たに規定高さLに達するまで型枠板材3を設置し、セメント系硬化材14を打ち継ぐ。
【0056】
したがって、先に打設したセメント系硬化材14に所望の強度が発現していれば、必ずしも側壁部の一方と他方を規則的に交互に施工する必要はない。例えば、側壁部の一方側にて型枠板材3を規定高さLまで構築しセメント系硬化材14を打設する工程をクラウン部に向けて複数回繰り返した後、側壁部の他方側にて同様に型枠板材3を規定高さLまで構築しセメント系硬化材14を打設する工程をクラウン部に向けて複数回繰り返してもよい。
【0057】
なお、セメント系硬化材14に所望の強度が発現した型枠板材3のナット12、鋼製端太13、支保工11およびフォームタイ9を取り外す作業を実施しながら、補修・補強に係る施工を進めることにより、ナット12、鋼製端太13、支保工11およびフォームタイ9は、転用することが可能である。
また、座付長ナット8からフォームタイ9を取り外した場合には、フォームタイ9が挿入されていた座付長ナット8の後端側に、図示しないキャップを取り付けフォームタイ9が挿入されていた穴を塞いでおく。
【0058】
最後に、
図7(c)に示すように、既設の覆工コンクリート1のクラウン部に対して、棒状支持部材6および型枠板材3に係る上記と同様の施工をして、既設の覆工トンネル1の両側壁部よりクラウン部に向けて立ち上がってきた型枠板材3の上端部どうしを連結し、クラウン部の型枠板材3と既設の覆工コンクリート1との間に、セメント系硬化材14を充填する。
なお、クラウン部の型枠板材3には、図示しないが、セメント系硬化材14を充填するための充填孔と空気抜き孔を設けておく。
【0059】
これにより、覆工コンクリート2の覆工表面を覆う組壁型枠2が構築されるとともに、組壁型枠2と既設の覆工コンクリート1との間にはセメント系硬化材14が充填され、既設トンネルは補修・補強される。
養生後、すべての棒状支持部材6から、ナット12、鋼製端太13、支保工11およびフォームタイ9を取り外し、座付長ナット8の後端側にキャップを取り付け、作業が終了する。
【0060】
本実施の形態では、型枠板材3の短手方向の長さを、規定高さLに達するまで型枠板材3を少なくとも2枚以上用いる程度に短く設定するとともに、型枠板材3に、セメントを主成分とし高強度ビニロン繊維を補強繊維とするスムースボード(登録商標)を使用するため、モルタルを基材とする従来の埋設型枠と比較して、重量が小さく、揚重機を用いなくても作業できる程度に軽量化を図ることが可能となる。
【0061】
これに伴い、既設トンネルの補修・補強工法を実施するにあたり、
図5から
図7に示すように、作業スペース15において組立て及び解体が容易で省スペース化を図ることのできる枠組足場16にて作業を行うことができる。これにより、作業スペース15を大幅に縮小することが可能になるとともに、
図7(c)に示すような、簡易な落下防止板16a、フェンス16b、防護シート16cで安全を確保できるため、トンネル内を供用しながら工事を行う際に一般に用いられるプロテクタを用いる必要がない。
【0062】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0063】
本実施の形態では、既設トンネルの補修・補強工法を、既設の覆工コンクリート1における側壁の左右を交互に補修・補強したが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、左右いずれか一方の側壁をクラウン部まで補修・補強した後、同様に他方の側壁をクラウン部まで補修・補強する手順としてもよい。
【0064】
また、本発明の既設トンネルの補修・補強工法にて、既設トンネルを軸線方向に補修・補強する手順も特に限定されるものではない。例えば、トンネル軸線方向を複数の区画に分割し、分割した区画ごとに補修・補強作業を行ってもよい。
【0065】
本発明によれば、平板帯状の型枠板材3を複数連結一体化して折れ線状の断面形状を有する組壁型枠2を構築し、この組壁型枠2を既設の覆工コンクリート1の曲面に倣った疑似的な湾曲面に形成するため、既設の覆工コンクリート1の曲面に応じて型枠を個別製作する必要がなく、簡略な構成で作業性がよく既設トンネルの補修・補強を行うことが可能となる。