特許第6357961号(P6357961)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6357961α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料の製造方法、および該α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料を含有する医薬製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6357961
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料の製造方法、および該α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料を含有する医薬製剤
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/90 20060101AFI20180709BHJP
   C08G 63/08 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   C08G63/90
   C08G63/08
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-162954(P2014-162954)
(22)【出願日】2014年8月8日
(65)【公開番号】特開2016-37576(P2016-37576A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2017年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100123489
【弁理士】
【氏名又は名称】大平 和幸
(72)【発明者】
【氏名】勝又 崇
(72)【発明者】
【氏名】小坂 尚也
(72)【発明者】
【氏名】初鹿 稔
(72)【発明者】
【氏名】宮地 建明
【審査官】 水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−026790(JP,A)
【文献】 特表2007−534803(JP,A)
【文献】 特開平07−118157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00−64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料の製造方法であって、
粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料に、有機溶媒を添加して重合体溶解液を調製する工程;
該重合体溶解液と水とを混合して得られた分液用混合液を加温する工程;および
該分液用混合液から有機相を回収する工程;
を包含し、
該粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料がラクチドを含有し、
該有機溶媒が、ジクロロメタンおよびクロロホルムからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含有し、かつメタノールを含有しないかまたは含有し、
該有機溶媒の添加重量が、該粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料の重量を基準として、0.5倍から15倍であり
水の添加重量が、該粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料の重量を基準として、1倍から50倍であり、
該有機溶媒がメタノールを含有しない場合、該加温工程にて30℃から65℃の温度に加温され、そして
該有機溶媒がメタノールを含有する場合、該加温工程にて25℃から70℃の温度に加温される、方法。
【請求項2】
前記粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料が、乳酸重合体および乳酸グリコール酸共重合体からなる群から選択される少なくとも1種の重合体を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機溶媒がジクロロメタンを含有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記分液混合液の加温が還流下または開放下で行われる、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料の製造方法、および該α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料を含有する医薬製剤に関し、より詳細には、ラクチドの含有量が低減されたα−ヒドロキシカルボン酸重合体材料の製造方法、および該α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料を含有する医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
α−ヒドロキシカルボン酸重合体である乳酸重合体や乳酸グリコール酸共重合体は、医薬分野において、埋め込み型徐放性製剤の材料として用いられていることが知られ(特許文献1)、例えば、約25,000〜約60,000の重量平均分子量を有する乳酸ポリマーと生理活性物質とを含有させることにより、約5カ月以上にわたって生理活性物質を放出するマイクロスフェア型徐放性製剤が提案されている(特許文献2)。
【0003】
このような徐放性製剤に用いられるα−ヒドロキシカルボン酸重合体材料において、その純度を高く保持することが徐放性製剤の性能に大きく影響する。すなわち、α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料(乳酸重合体または乳酸グリコール共重合体など)を合成する際に、出発物質である乳酸に起因して、その副生成物であるラクチド(例えば、D体および/またはL体のラクチド)が多く含まれている場合、ラクチドが生理活性物質と作用して類縁物質を形成し、徐放性製剤自体の品質を低下されるおそれがある。
【0004】
ここで、例えば、メタノール、エタノールまたはプロパノールを含む混合溶媒中に乳酸重合体材料を溶解し、液−液相分離による分液を通じて低分子量の乳酸重合体の分別を行うことが知られている(特許文献3)。
【0005】
しかし、徐放性製剤の製造に適したα−ヒドロキシカルボン酸重合体材料を得るためには、不純物であるラクチド含有量をより一層低下させ、乳酸重合体または乳酸グリコール酸共重合体の純度を高めることが所望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−28521号公報
【特許文献2】特開平10−182496号公報
【特許文献3】特表2007−534803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題の解決を課題とし、その目的とするところは、徐放性製剤の材料として適切な、生理活性物質の類縁物質の生成の原因となるラクチドの含有量が低減され、これにより乳酸重合体および/または乳酸グリコール酸共重合体の純度が一層高められたα−ヒドロキシカルボン酸重合体材料の製造方法、ならびに該α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料を含有する医薬製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料の製造方法であって、
粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料に、有機溶媒を添加して重合体溶解液を調製する工程;
該重合体溶解液と水とを混合して得られた分液用混合液を加温する工程;および
該分液用混合液から有機相を回収する工程;
を包含し、
該有機溶媒が、ジクロロメタンおよびクロロホルムからなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含有し、
該有機溶媒の添加重量が、該粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料の重量を基準として、0.5倍から15倍であり、そして
該水の添加重量が、該粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料の重量を基準として、1倍から50倍である、方法である。
【0009】
1つの実施形態では、上記粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料は、乳酸重合体および乳酸グリコール酸共重合体からなる群から選択される少なくとも1種の重合体を含有する。
【0010】
1つの実施形態では、上記有機溶媒はジクロロメタンを含有する。
【0011】
1つの実施形態では、上記分液混合液の加温は還流下または開放下で行われる。
【0012】
本発明はまた、上記方法により得られたα−ヒドロキシカルボン酸重合体材料を含有する、徐放性製剤である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、残留ラクチド含有量が著しく低下したα−ヒドロキシカルボン酸重合体材料を提供することができる。本発明の方法は、ラクチド含有量の低下にあたっては、必ずしも大規模な装置や複雑な操作を必要とすることなく、さらに小ロットまたは大ロットの何れに対しても適用可能であり、工業的に生産性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳述する。
【0015】
本発明においては、まず、粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料に、有機溶媒が添加されて、重合体溶解液が調製される。
【0016】
本明細書に用いられる用語「粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料」とは、主成分としてα−ヒドロキシカルボン酸重合体(例えば、乳酸重合体および/または乳酸グリコール酸共重合体)を含み、かつ微量成分としてラクチド(例えば、D−ラクチドおよび/またはL−ラクチド)を含有する、α−ヒドロキシカルボン酸重合体組成物を言う。粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料におけるラクチド含有量は、重量全体を基準として、例えば0.3重量%より大きい。このようなラクチド含有量を有するα−ヒドロキシカルボン酸重合体材料は、徐放性製剤の材料として使用する際、生理活性物質と作用して類縁物質を生成し、当該徐放性製剤自体の品質を低下させるおそれがある。
【0017】
粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料の例としては、粗乳酸重合体材料および粗乳酸グリコール酸共重合体材料、ならびにそれらの組合せが挙げられる。ここで、本明細書に用いられる用語「粗乳酸重合体」とは、主成分として乳酸重合体を含み、かつ微量成分としてラクチド(例えば、D−ラクチドおよび/またはL−ラクチド)を含有する、乳酸重合体組成物を言う。また、本明細書に用いられる用語「粗乳酸グリコール酸共重合体」とは、主成分として乳酸グリコール酸共重合体を含み、かつ微量成分としてラクチド(例えば、D−ラクチドおよび/またはL−ラクチド)を含有する、乳酸グリコール酸共重合体組成物を言う。
【0018】
粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料を構成するα−ヒドロキシカルボン酸重合体は、必ずしも限定されないが、好ましくは8,000〜60,000、より好ましくは8,500〜55,000、さらにより好ましくは9,000〜50,000の重量平均分子量(Mw)を有する。当該α−ヒドロキシカルボン酸重合体の分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は、好ましくは1.2〜4、好ましくは1.5〜3.5である。α−ヒドロキシカルボン酸重合体は、L体、D体またはDL体の何れであってもよい。
【0019】
このような粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料は、当業者に公知の方法を用いて製造され得る。
【0020】
例えば、粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料のうち、粗乳酸重合体材料は、乳酸の環状二量体(ラクチド)の開環重合、または乳酸の重縮合により製造することができる。またこのような粗乳酸重合体材料は、市販のものを使用してもよい。
【0021】
本発明に用いられる有機溶媒は、疎水性であり、後述する水との分液操作において使用され得る溶媒を用いることができる。本発明において有機溶媒は、ジクロロメタン、クロロホルムおよびそれらの組合せを主として含有する。さらに、本発明においては、有機溶媒は、ジクロロメタン、クロロホルムまたはそれらの組合せ(主溶媒)以外に、副溶媒としてメタノール、アセトンまたはこれらの組合せを含有していてもよい。主溶媒と副溶媒との混合比は必ずしも限定されないが、各溶媒の重量を基準として、例えば1:0.1から1:3である。
【0022】
本発明における有機溶媒の添加重量は、上記該粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料の重量を基準として、0.5倍〜15倍であり、好ましくは0.8倍〜12倍であり、より好ましくは1倍〜10倍である。有機溶媒の添加重量が0.5倍を下回ると、粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料に含まれるラクチドが本発明の一連の操作を通じても充分に除去することができないおそれがある。有機溶媒の添加重量が15倍を超えると、粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料からのラクチドを除去する割合(除去率)においてさほど変動が見られず、むしろ生産性に劣るおそれがある。
【0023】
このようにして重合体溶解液が調製される。
【0024】
次に、重合体溶解液と水とを混合して分液用混合液を得、これが加温される。
【0025】
添加される水の種類は特に限定されないが、例えば、純水、イオン交換水、水道水などが挙げられる。
【0026】
本発明における水の添加重量は、必ずしも限定されないが、上記粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料の重量を基準として、1倍〜50倍、好ましくは3倍〜30倍である。水の添加重量が3倍を下回ると、粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料に含まれるラクチドが本発明の一連の操作を通じても充分に除去することができないおそれがある。水の添加重量が30倍を超えると、粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料からのラクチドを除去する割合(除去率)においてさほど変動が見られず、後述する分液操作におけるボリュームが大きくなるばかりであり、むしろ生産性に劣るおそれがある。
【0027】
上記水の添加により得られた分液用混合液は、所定温度に加温される。
【0028】
当該加温において分液用混合液に付される温度は必ずしも限定されないが、例えば、室温より高い温度、好ましくは25℃〜70℃、より好ましくは30℃〜65℃である。このような加温に付される温度は、例えば有機溶媒としてジクロロメタン単独を用いた場合、ジクロロメタンの沸点(40℃)と比較して高いため、このような加温は、例えば、所定の還流器を用いた還流条件下(還流下)で行われてもよい。あるいは、分液用混合液を含有する容器の上方を開放した状態で(開放下)、当該容器の下方から、例えば湯煎による加温が行われてもよい。
【0029】
加温に要する時間は、加温する分液用混合液の全体量等によっても変動するため必ずしも限定されないが、例えば10分間〜400分間であり、好ましくは20分間〜360分間であり、より好ましくは25分間〜80分間である。
【0030】
さらにこの加温の間、分液用混合液は所定の撹拌器を用いて撹拌がなされていることが好ましい。
【0031】
加温後、分液用混合液は静置され、例えば、室温までそのまま放冷される。
【0032】
加温された分液用混合物は、この静置により徐々に水相と有機相とに分離する。不純物であるラクチドは常識的には水相側に移動しないが、驚くべき事にこのような有機相と共存させることにより、想定に反してそれが水相側に移動することを見出した。分離後、有機相が当業者に周知の手法(例えば、デカンテーションや分液漏斗を用いた分液、その他当業者に公知の分液手段を用いた分液)により回収される。
【0033】
その後、回収された有機相は、ロータリーエバポレータ等の当業者に周知の手段を用いて有機溶媒の留去が行われる。
【0034】
このようにして、不純物であるラクチドがより取り除かれたα−ヒドロキシカルボン酸重合体材料を得ることができる。
【0035】
本発明においては、上記本発明の一連の操作を通じて、α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料におけるラクチド含有量を、当該材料の重量を基準として、好ましくは0.3重量%以下、より好ましくは0.2重量%以下にまで低減させることができる。なお、本発明においては、得られたα−ヒドロキシカルボン酸重合体材料のラクチド含有量をさらに低減させるために、当該α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料を再度、粗α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料として用い、上記一連の操作を繰り返してもよい。
【0036】
上記のようにして得られたα−ヒドロキシカルボン酸重合体材料は、上記の通りラクチド含有量を一層低減することができ、α−ヒドロキシカルボン酸重合体の含有量(純度)を一層高めることができる。
【0037】
本発明により得られたα−ヒドロキシカルボン酸重合体材料は、生理活性物質および他の添加剤(例えば、pH調整剤、安定化剤、界面活性剤)とともに当業者に周知の手段および方法を用いて混合され、徐放性製剤を製造することができる。
【0038】
本発明において用いられ得る生理活性物質の例としては、必ずしも限定されないが、生理活性ペプチド、抗生物質、抗腫瘍剤、解熱剤、鎮痛剤、消炎剤、鎮咳去痰剤、鎮静剤、筋弛緩剤、抗てんかん剤、抗潰瘍剤、抗うつ剤、抗アレルギー剤、強心剤、不整脈治療剤、血管拡張剤、降圧利尿剤、糖尿病治療剤、抗脂血症剤、抗凝血剤、止血剤、抗結核剤、ホルモン剤、麻薬拮抗剤、骨吸収抑制剤、骨形成促進剤、血管新生阻害剤などが挙げられる。生理活性物質はまた、これら上記の薬理学的に許容される塩であってもよい。
【0039】
生理活性ペプチドの一例としては、リュープロレリン、ゴナドレリン、ブセレリン、トリプトレリン、ゴセレリン、ナファレリン、ヒストレリン、デスロレリン、テレリン、およびレシレリン、ならびにこれらの炭酸塩、重炭酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、銅錯体および亜鉛錯体が挙げられる。リュープロレリンまたはリュープロレリン酢酸塩が好ましい。
【0040】
生理活性ペプチドの他の例としては、インスリン、ソマトスタチン、ソマトスタチン誘導体、成長ホルモン、プロラクチン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、ACTH誘導体(エビラタイドなど)、メラノサイト刺激ホルモン(MSH)、甲状腺ホルモン放出ホルモンならびにその塩およびその誘導体、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、バソプレシン,バソプレシン誘導体、オキシトシン、カルシトニン、副甲状腺ホルモン(PTH)、グルカゴン、ガストリン、セクレチン、パンクレオザイミン、コレシストキニン、アンジオテンシン、ヒト胎盤ラクトーゲン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)、エンケファリン、エンケファリン誘導体、エンドルフィン、キョウトルフィン、インターフェロン類、インターロイキン類、タフトシン、サイモポイエチン、サイモシン、サイモスチムリン、胸腺液性因子(THF)、血中胸腺因子(FTS)およびその誘導体、腫瘍壊死因子(TNF)、コロニー誘発因子(CSF、GCSF、GMCSF、MCSF等)、モチリン、ダイノルフィン、ボンベシン、ニューロテンシン、セルレイン、ブラディキニン、ウロキナーゼ、アスパラギナーゼ、カリクレイン、サブスタンスP、インスリン様成長因子、神経成長因子(NGF)、細胞増殖因子(EGF、TGF−α、TGF−β、PDGF、酸性FGF、塩基性FGF等)、骨形成因子(BMP)、神経栄養因子(NT−3、NT−4、CNTF、GDNF、BDNF等)、血液凝固因子の第VIII因子、第IX因子、塩化リゾチーム、ポリミキシンB、コリスチン、グラミシジン、バシトラシンおよびエリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)などが挙げられる。
【0041】
抗生物質の例としては、ゲンタマイシン、ジベカシン、カネンドマイシン、リビドマイシン、トブラマイシン、アミカシン、フラジオマイシン、シソマイシン、塩酸テトラサイクリン、塩酸オキシテトラサイクリン、ロリテトラサイクリン、塩酸ドキシサイクリン、アンピシリン、ピペラシリン、チカルシリン、セファロチン、セファロリジン、セフォチアム、セフスロジン、セフメノキシム、セフメタゾール、セファゾリン、セフォタキシム、セフォペラゾン、セフチゾキシム、モキサラクタム、チエナマイシン、スルファゼシン、アズスレオナムなどが挙げられる。
【0042】
抗腫瘍剤の例としては、ブレオマイシン、メソトレキセート、アクチノマイシンD、マイトマイシンC、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、ダウノルビシン、アドリアマイシン、ネオカルチノスタチン、シトシンアラビノシド、フルオロウラシル、テトラヒドロフリル−5−フルオロウラシル、クレスチン、ピシバニール、レンチナン、レバミゾール、ベスタチン、アジメキソン、グリチルリチン、ポリI:C、ポリA:U、ポリICLCなどが挙げられる。
【0043】
解熱、鎮痛または消炎剤の例としては、サリチル酸、スルピリン、フルフェナム酸、ジクロフェナック、インドメタシン、モルヒネ、塩酸ペチジン、酒石酸レボルファノール、オキシモルフォンなどが挙げられる。
【0044】
鎮咳去痰剤の例としては、塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸ノスカピン、リン酸コデイン、リン酸ジヒドロコデイン、塩酸アロクラマイド、塩酸クロフェダノール、塩酸ピコペリダミン、クロペラスチン、塩酸プロトキロール、塩酸イソプロテレノール、硫酸サルブタモール、硫酸テルブタリンなどが挙げられる。
【0045】
鎮静剤の例としては、クロルプロマジン、プロクロルペラジン、トリフロペラジン、硫酸アトロピン、臭化メチルスコポラミンなどが挙げられる。
【0046】
筋弛緩剤の例としては、メタンスルホン酸プリジノール、塩化ツボクラリン、臭化パンクロニウムなどが挙げられる。
【0047】
抗てんかん剤の例としては、フェニトイン、エトサクシミド、アセタゾラミドナトリウム、クロルジアゼポキシドなどが挙げられる。
【0048】
抗潰瘍剤の例としては、メトクロプロミド、塩酸ヒスチジンなどが挙げられる。
【0049】
抗うつ剤の例としては、イミプラミン、クロミプラミン、ノキシプチリン、硫酸フェネルジンなどが挙げられる。
【0050】
抗アレルギー剤の例としては、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸トリペレナミン、塩酸メトジラジン、塩酸クレミゾール、塩酸ジフェニルピラリン、塩酸メトキシフェナミンなどが挙げられる。
【0051】
強心剤の例としては、トランスパイオキソカンファー、テオフィロール、アミノフィリン、塩酸エチレフリンなどが挙げられる。
【0052】
不整脈治療剤の例としては、プロプラノール、アルプレノロール、ブフェトロール、オキシプレノロールなどが挙げられる。
【0053】
血管拡張剤の例としては、塩酸オキシフェドリン、ジルチアゼム、塩酸トラゾリン、ヘキソベンジン、硫酸バメタンなどが挙げられる。
【0054】
降圧利尿剤の例としては、ヘキサメトニウムブロミド、ペントリニウム、塩酸メカミルアミン、塩酸エカラジン、クロニジンなどが挙げられる。
【0055】
糖尿病治療剤の例としては、グリミジンナトリウム、グリピザイド、塩酸フェンフォルミン、塩酸ブフォルミン、メトフォルミンなどが挙げられる。
【0056】
抗脂血症剤の例としては、プラバスタチンナトリウム、シンバスタチン、クリノフィブラート、クロフィブラート、シンフィブラート、ベザフィブラートなどが挙げられる。
【0057】
抗凝血剤の例としては、ヘパリンナトリウムなどが挙げられる。
【0058】
止血剤の例としては、トロンボプラスチン、トロンビン、メナジオン亜硫酸水素ナトリウム、アセトメナフトン、ε−アミノカプロン酸、トラネキサム酸、カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム、アドレノクロムモノアミノグアニジンメタンスルホン酸塩などが挙げられる。
【0059】
抗結核剤の例としては、イソニアジド、エタンブトール、パラアミノサリチル酸などが挙げられる。
【0060】
ホルモン剤の例としては、プレドニゾロン、リン酸ナトリウムプレドニゾロン、デキサメタゾン硫酸ナトリウム、ベタメタゾンリン酸ナトリウム、リン酸ヘキセストロール、酢酸ヘキセストロール、メチマゾールなどが挙げられる。
【0061】
麻薬拮抗剤の例としては、酒石酸レバロルファン、塩酸ナロルフィン、塩酸ナロキソンなどが挙げられる。
【0062】
骨吸収抑制剤の例としては、イプリフラボン、アレンドロネート、リセドロネートなどが挙げられる。
【0063】
骨形成促進剤の例としては、BMP、PTH、TGF−β、IGF−1などのポリペプチド以外に(2R,4S)−(−)−N−[4−(ジエトキシホスホリルメチル)フェニル]−1,2,4,5−テトラヒドロ−4−メチル−7,8−メチレンジオキシ−5−オキソ−3−ベンゾチエピン−2−カルボキサミド、2−(3−ピリジル)−エタン−1,1−ジホスホン酸、ラロキシフェンなどが挙げられる。
【0064】
血管新生抑制剤の例としては、血管新生抑制ステロイド、フマギリン、フマギロール誘導体、バチマスタットなどが挙げられる。
【0065】
徐放性製剤中の生理活性物質の含量は、生理活性物質の種類、所望の薬理効果および効果の持続期間などによって異なるが、例えば0.01%(w/w)〜50%(w/w)、好ましくは0.1%(w/w)〜30%(w/w)である。
【0066】
上記α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料および生理活性物質を用いた徐放性製剤の製造方法は、必ずしも限定されないが、例えば特許文献2に記載の方法を用いて製造することができる。
【0067】
本発明のα−ヒドロキシカルボン酸重合体材料を用いて得られた徐放性製剤は、当該α−ヒドロキシカルボン酸重合体材料内のラクチド含有量が低減されているために、ラクチドおよび生理活性物質から、生理活性物質の類縁物質が生成される可能性が一層低減される。これにより本来期待される薬理的効果を損なうことなく、長期にわたる徐放効果が期待される徐放性製剤を提供することができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
(実施例1:開放系でのラクチド除去)
ナス型フラスコ中の市販の粗乳酸重合体材料(ラクチド約0.3重量%混在するもの)1g(以下、「標準重合体」という)に、ラクチドを表1に示す添加ラクチド(重量%)となるように添加し、さらに有機溶媒としてジクロロメタン(DCM)9gを添加し、当該粗乳酸重合体材料を溶解した。次いで、溶解した粗乳酸重合体材料を、水洗処理のために表1に記載の温度に加温した水3gに添加し、フラスコに蓋をすることなく、開放系の状態で表1に記載の撹拌温度(℃)にて撹拌時間(分)の間、湯煎などしながら撹拌した。撹拌後、有機相を回収し、一晩室温で風乾した。その後、30℃にて3時間減圧乾燥することにより、乾燥試料を得た。
【0070】
<ラクチド量の測定>
上記で得られた乾燥試料のラクチド含量(重量%)およびその除去率(%)を以下のようにして測定かつ算出した。
【0071】
約0.1gの乾燥試料を、アセトニトリル5mLに再溶解し、さらに冷水5mLを添加して、ポリマー成分を沈殿させた後の上澄み液を取り出し、試料溶液とした。この試料溶液100μLを、逆相カラム(GLサイエンス社製Inertsil ODS−3V、カラム温度45℃)を装備した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供し、水:アセトニトリルが4:1の移動相にて流速1mL/分の速度で展開し、ラクチド含量(重量%)を測定した。さらに、得られたラクチド含量(重量%)に基づいて、その除去率(%)を:
【0072】
【数1】
【0073】
で算出した。得られた結果を表1に示す。
【0074】
<分子量分布の測定>
上記で得られた乾燥試料を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)に供して分子量分布および重量平均分子量(Mw)を測定し、標準重合体の重量平均分子量(Mw)に対する変化率(測定Mw変化率)(%)およびチャート変化を以下のように算出かつ評価した。
【0075】
約50mgの乾燥試料を、25mLのテトラヒドロフランで再溶解して試料溶液を得た。次いで、10μLの試料溶液を分子ふるいカラム(東ソー株式会社製:TSK−GEL SUPER H4000×2本、H2000×1本、カラム温度40℃)を装備したクロマトグラフィーに供し、テトラヒドロフランの移動相にて流速0.6mL/分の速度で展開し、分子量分布およびGPC測定重量平均分子量(GPC測定Mw)を測定した。このGPC測定Mwについて、標準重合体のMwに対する百分率(%)を算出し、これを測定Mw変化率(%)とした。また、乾燥試料と標準重合体とのプロファイルの相違(分子量分布のプロファイル変化)を比較した。変化がほとんどない場合を「極小」とし、変化が見られるが許容範囲と思われる場合を「小」とし、変化が許容範囲を少し超えると思われるものを「中」とし、そして変化が許容範囲を大きく超えると思われるものを「大」として表示した。得られた結果を表1に示す。
【0076】
(実施例2〜16:開放系でのラクチド除去)
表1に示す添加ラクチド(重量%)、DCM量(g)、および水洗処理条件を用いたこと以外は、実施例1と同様にして乾燥試料を作製し、得られた乾燥試料のラクチド含量(重量%)、標準重合体に対する除去率(%)、測定Mw変化率(%)およびチャート変化を測定または算出した。なお、水洗処理条件の洗浄回数としては、溶解した粗乳酸重合体材料を表1に記載の温度に加温した分量の水に添加し、フラスコに蓋をすることなく、開放系の状態で表1に記載の撹拌温度(℃)にて撹拌時間(分)の間、湯煎などしながら撹拌後、有機相を回収するまでの操作を洗浄回数1回とし、これを繰り返す回数とした。得られた結果を表1に示す。
【0077】
(比較例1:開放系でのラクチド除去)
ラクチドを表1に示す添加ラクチド(重量%)となるように添加し、さらにジクロロメタン(DCM)0.8gを添加し、溶解後、有機溶媒としてメタノール(MeOH)3.5gを添加し、水の添加を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして乾燥試料を作製し、得られた乾燥試料のラクチド含量(重量%)、標準重合体に対する除去率(%)、測定Mw変化率(%)およびチャート変化を測定または算出した。得られた結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
表1に示すように、実施例1〜16で得られた乾燥試料はいずれも、比較例1のものと比較して、ラクチド含量を3重量%以下に抑えることができた。また、その際の測定Mw変化率にはほとんど変化が見られず、上記条件を用いても実施例1〜16で得られた乾燥試料は、不要物であるラクチドのみを効率的に除去することができたことがわかる。
【0080】
(実施例17〜24:開放系でのラクチド除去)
ラクチドを表2に示す添加ラクチド(重量%)となるように添加し、さらに有機溶媒としてジクロロメタン(DCM)に溶解し、次いでメタノール(MeOH)に溶解した粗乳酸重合体材料を用い、表2に示す添加ラクチド(重量%)、MeOH量(g)、DCM量(g)、および水洗処理条件を用いたこと以外は、実施例1と同様にして乾燥試料を作製し、得られた乾燥試料のラクチド含量(重量%)、標準重合体に対する除去率(%)、測定Mw変化率(%)およびチャート変化を測定または算出した。得られた結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
表2に示すように、実施例17〜24で得られた乾燥試料はいずれも、比較例1で得られたものと比較して、ラクチド含量を3重量%以下に抑えることができた。また、その際の測定Mw変化率にはほとんど変化が見られず、不要物であるラクチドのみが効率的に除去された。このように、有機溶媒としてDCM単独以外の混合溶媒と用いても、ラクチドの除去を効果的に行うことができることがわかる。
【0083】
(実施例25:還流系でのラクチド除去(1))
還流冷却装置を備えるフラスコ中の市販の粗乳酸重合体材料(ラクチド約0.3重量%混在するもの)1g(以下、「標準重合体」という)に、ラクチドを表3に示す添加ラクチド(重量%)となるように添加し、さらに有機溶媒としてジクロロメタン(DCM)3gを添加し、当該粗乳酸重合体材料を溶解した。次いで、溶解した粗乳酸重合体材料に、水洗処理のために表3に記載の水9gを添加し、表3に記載の撹拌温度(℃)にて撹拌時間(分)の間、還流撹拌した。撹拌後、有機相を回収し、一晩室温で風乾した。その後、30℃にて3時間減圧乾燥することにより、乾燥試料を得た。
【0084】
得られた乾燥試料のラクチド含量(重量%)、標準重合体に対する除去率(%)、測定Mw変化率(%)およびチャート変化を測定または算出した。得られた結果を表3に示す。
【0085】
(実施例26〜32:還流系でのラクチド除去(1))
表3に示す添加ラクチド(重量%)、DCM量(g)、および水洗処理条件を用いたこと以外は、実施例25と同様にして乾燥試料を作製し、得られた乾燥試料のラクチド含量(重量%)、標準重合体に対する除去率(%)、測定Mw変化率(%)およびチャート変化を測定または算出した。なお、水洗処理条件の洗浄回数は、溶解した粗乳酸重合体材料に表3に記載の分量の水を添加し、表3に記載の撹拌温度(℃)にて撹拌時間(分)の間、還流撹拌した。撹拌後、有機相を回収するのを洗浄回数1回とし、これを繰り返す回数とした。得られた結果を表3に示す。
【0086】
(比較例2〜4:還流系でのラクチド除去(1))
水の添加を行わず、表3に示す撹拌温度(℃)を用いたこと以外は、実施例25と同様にして乾燥試料を作製し、得られた乾燥試料のラクチド含量(重量%)、標準重合体に対する除去率(%)、測定Mw変化率(%)およびチャート変化を測定または算出した。得られた結果を表3に示す。
【0087】
【表3】
【0088】
表3に示すように、実施例25〜32で得られた乾燥試料はいずれも、ラクチド含量を3重量%を大きく下回る含有量まで抑えることができた。また、その際の測定Mw変化率にはほとんど変化が見られず、上記条件を用いても実施例25〜32で得られた乾燥試料は、不要物であるラクチドのみを効率的に除去することができたことがわかる。
【0089】
(実施例33:還流系でのラクチド除去(2))
還流冷却装置を備えるフラスコ中の市販の粗乳酸重合体材料(ラクチド約0.3重量%混在するもの)1g(以下、「標準重合体」という)に、ラクチドを表3に示す添加ラクチド(重量%)となるように添加し、さらに有機溶媒としてクロロホルム(CHCl)3gを添加し、当該粗乳酸重合体材料を溶解した。次いで、溶解した粗乳酸重合体材料に、水洗処理のために表3に記載の水9gを添加し、表4に記載の撹拌温度(℃)にて撹拌時間(分)の間、還流撹拌した。撹拌後、有機相を回収し、一晩室温で風乾した。その後、30℃にて3時間減圧乾燥することにより、乾燥試料を得た。
【0090】
得られた乾燥試料のラクチド含量(重量%)、標準重合体に対する除去率(%)、測定Mw変化率(%)およびチャート変化を測定または算出した。得られた結果を表4に示す。
【0091】
(実施例34〜40:還流系でのラクチド除去(2))
表4に示す添加ラクチド(重量%)、CH量(g)、および水洗処理条件を用いたこと以外は、実施例33と同様にして乾燥試料を作製し、得られた乾燥試料のラクチド含量(重量%)、標準重合体に対する除去率(%)、測定Mw変化率(%)およびチャート変化を測定または算出した。なお、水洗処理条件の洗浄回数は、溶解した粗乳酸重合体材料に表4に記載した分量の水を添加し、表4に記載の撹拌温度(℃)にて撹拌時間(分)の間、還流撹拌した。撹拌後、有機相を回収するのを洗浄回数1回とし、これを繰り返す回数とした。得られた結果を表4に示す。
【0092】
(比較例5〜7:還流系でのラクチド除去(2))
水の添加を行わず、表4に示す撹拌温度(℃)を用いたこと以外は、実施例33と同様にして乾燥試料を作製し、得られた乾燥試料のラクチド含量(重量%)、標準重合体に対する除去率(%)、測定Mw変化率(%)およびチャート変化を測定または算出した。得られた結果を表4に示す。
【0093】
【表4】
【0094】
表4に示すように、実施例33〜40で得られた乾燥試料はいずれも、比較例2〜4で得られたものと比較して、ラクチド含量を著しく抑えることができた。また、その際の測定Mw変化率にはほとんど変化が見られず、上記条件を用いても実施例33〜40で得られた乾燥試料は、不要物であるラクチドのみを効率的に除去することができたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によれば、生理活性物質の類縁物質の生成の原因となるラクチドの含有量が低減され、これによりα−ヒドロキシカルボン酸重合体の純度が一層高められたα−ヒドロキシカルボン酸重合体材料を得ることができる。本発明により得られたα−ヒドロキシカルボン酸重合体材料は、徐放性製剤を構成する材料として用いることにより、生理活性物質の類縁物質の生成を抑制することができる。本発明は、このような医薬分野において特に有用である。