(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2のエネルギー値の前記第1のエネルギー値に対する比と前記中心固相率との相関関係を示すデータである相関関係データを記憶する相関関係データ記憶手段を更に有し、
前記中心固相率算出手段は、前記相関関係データを参照して、前記比算出手段で算出された比に対応する、前記中心固相率を算出することを特徴とする請求項2または3に記載の測定装置。
前記横波超音波送信手段および前記横波超音波受信手段は、同一の電磁超音波センサを介して、それぞれ、前記横波超音波の送信および受信を行うものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の測定装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(実施形態)について説明する。なお、以下の実施形態においては、被測定物として、連続鋳造工程における鋳片(連続鋳造鋳片)を想定した説明を行う。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る測定装置で測定する測定対象の被測定物200の一例を示す断面図である。
被測定物200は、
図1に示すように、内部から、液相部201、固液共存相部202及び固相部203を順次備えているものとする。即ち、被測定物200は、内部に固液共存相部202が存在するものである。ここで、被測定物200の厚みはDとする。また、被測定物200の表面には、電磁超音波センサが配置されるが、その表面領域を以下に示す第1の表面領域210〜第3の表面領域230に分けて定義する。
【0020】
第1の表面領域210は、被測定物200の厚み方向に、液相部201、固液共存相部202及び固相部203が存在する表面領域である。第2の表面領域220は、被測定物200の厚み方向に、固液共存相部202及び固相部203が存在する表面領域である。第3の表面領域230は、被測定物200の厚み方向に、固相部203のみが存在する表面領域である。
【0021】
図2は、本発明の実施形態に係る測定装置100の概略構成の一例を示す図である。
本実施形態に係る測定装置100は、被測定物200における厚み方向の中心固相率を測定する装置である。この測定装置100は、
図2に示すように、電磁超音波センサ110と、横波超音波送受信装置120と、操作入力装置130と、制御装置140と、表示装置150を有して構成されている。ここで、
図2に示す例では、電磁超音波センサ110は位置が固定されており、ロールの回転によって被測定物200が紙面左側から紙面右側に移動するものとする。
【0022】
電磁超音波センサ110は、
図2に示すように、被測定物200の表面側にのみ設けられている。この電磁超音波センサ110は、例えば、被測定物200に対して磁束を発生させる永久磁石等からなる磁束発生部(不図示)と、当該磁束発生部から発生させた磁束と交差する位置に配置され、通電されるコイル(不図示)とを具備して構成されている。
【0023】
横波超音波送受信装置120は、制御装置140の制御に基づいて、例えば、電磁超音波センサ110のコイルに対して、複数の異なる周波数からなる所定の周波数領域における各周波数の交流電流を順次送信する。これにより、被測定物200の内部の表面近傍には、電磁超音波センサ110のコイルに流れる交流電流と逆向きの渦電流が発生し、当該渦電流と被測定物200内に発生した磁束により力が発生し、これが横波の超音波振動となって被測定物200の内部を厚み方向に伝播する。また、横波超音波送受信装置120は、送信した交流電流の各周波数ごとに、被測定物200の内部を厚み方向(板厚方向)に伝播した横波超音波を、例えば、電磁超音波センサ110のコイル内に発生した誘導起電力として受信する。
【0024】
即ち、横波超音波送受信装置120は、被測定物200の表面に配置された1つの(同一の)電磁超音波センサ110を介して、それぞれ、横波超音波の送信及び受信を行う。なお、本実施形態では、電磁超音波センサ110を介して、被測定物200の表面から当該被測定物200の厚み方向に複数の異なる周波数の横波超音波を送信する手段(横波超音波送信手段)と被測定物200の厚み方向を伝播した複数の異なる周波数の各周波数の横波超音波を被測定物200の表面で受信する手段(横波超音波受信手段)とを、1つの手段である横波超音波送受信装置120で行うようにしているが、例えば、横波超音波送信手段と横波超音波受信手段とを、それぞれ、異なる装置で行う形態も本実施形態に適用可能である。
【0025】
操作入力装置130は、測定者が操作可能に構成させており、測定者による操作入力指示を制御装置140に入力する。
【0026】
制御装置140は、操作入力装置130から入力された操作入力指示等に基づいて、測定装置100における動作を統括的に制御する。例えば、制御装置140は、操作入力装置130から被測定物200の測定を行う指示が入力されると、横波超音波送受信装置120における横波超音波の送信動作及び受信動作を制御するとともに、横波超音波送受信装置120で受信した横波超音波に基づいて被測定物200における厚み方向の中心固相率の算出処理等を行う。また、制御装置140は、必要に応じて、測定装置100における動作状態や、算出した被測定物200における厚み方向の中心固相率等の情報を、表示装置150に表示する制御を行う。
【0027】
また、制御装置140は、
図2に示すように、共振周波数検出部141と、エネルギー値算出部142と、比算出部143と、相関関係データ記憶部144と、中心固相率算出部145を含み構成されている。
【0028】
共振周波数検出部141は、横波超音波送受信装置120で受信した各周波数の横波超音波に基づいて、被測定物200の厚み方向における複数の共振周波数を検出する。
【0029】
エネルギー値算出部142は、共振周波数検出部141で検出された複数の共振周波数における横波超音波のエネルギー値を算出する。ここで、本実施形態では、エネルギー値算出部142で算出されたエネルギー値であって、複数の共振周波数の隣接する2つの共振周波数における横波超音波のエネルギー値のうちの大きい値のエネルギー値を「第1のエネルギー値」とし、前記隣接する2つの共振周波数における横波超音波のエネルギー値のうちの小さい値のエネルギー値を「第2のエネルギー値」とする。
【0030】
比算出部143は、例えば、エネルギー値算出部142で算出された第2のエネルギー値の第1のエネルギー値に対する比を算出する。ここで、詳細は後述するが、本発明者による実験の結果から、エネルギー値算出部142で算出されるエネルギー値は、横波超音波送受信装置120から送信する横波超音波の周波数の増加とともに、第1のエネルギー値と第2のエネルギー値とが交互に繰り返されることが分かっている。この際、比算出部143は、例えば、第2のエネルギー値における平均値の、第1のエネルギー値における平均値に対する比を算出する形態を採ることができる。
【0031】
相関関係データ記憶部144は、予め実験等により得られた、第2のエネルギー値の第1のエネルギー値に対する比と被測定物200における厚み方向の中心固相率との相関関係を示すデータである相関関係データを記憶する。
【0032】
中心固相率算出部145は、エネルギー値算出部142で算出された第1のエネルギー値と第2のエネルギー値とに基づいて、被測定物200における厚み方向の中心固相率を算出する。具体的に、中心固相率算出部145は、比算出部143で算出された比に従って、被測定物200における厚み方向の中心固相率を算出する。より詳細に、中心固相率算出部145は、相関関係データ記憶部144に記憶されている相関関係データを参照して比算出部143で算出された比に対応する中心固相率を、被測定物200における厚み方向の中心固相率として算出する。
【0033】
表示装置150は、制御装置140の制御に基づいて、測定装置100における動作状態や、算出された被測定物200における厚み方向の中心固相率等の情報を表示する。その他、表示装置150は、測定者に必要な情報等を表示する。
【0034】
次に、本実施形態で採用する、いわゆる共振法の原理について説明する。
図3は、いわゆる共振法の原理を説明するための図である。
【0035】
一般に、厚みの2倍が超音波波長の整数倍の時、共振状態となる。
ここで、超音波が伝播する厚みをd、整数をn、超音波の波長をλ、超音波の音速をV、共振周波数をf
nとすると、以下の(1)式が成り立つ。
2d=nλ=nV/f
n ・・・ (1)
【0036】
(1)式を共振周波数f
nについて整理すると、以下の(2)式のようになる。
f
n=nV/(2d) ・・・ (2)
【0037】
また、n+1番目の共振周波数f
n+1とn番目の共振周波数f
nとの周波数間隔である共振周波数間隔Δfは、以下の(3)式のようになる。
Δf=f
n+1−f
n
=(n+1)V/(2d)−nV/(2d)=V/(2d) ・・・ (3)
【0038】
ここで、まず、
図3(a1)に示す、固相部203のみからなる被測定物について考える。この被測定物の場合、電磁超音波センサ110を介して送信される横波超音波は、
図3(a1)に示すように、被測定物の全厚みdを伝播する。
図3(a2)は、
図3(a1)に示す被測定物を伝播した横波超音波の周波数とその波形エネルギー値との関係を示す図である。この
図3(a2)には、共振周波数f
1,f
2,f
3,f
4と、共振周波数間隔Δfが示されている。
【0039】
次いで、
図3(b1)に示す、固相部203及び液相部201のみからなる被測定物について考える。また、ここでは、液相部201は、被測定物における厚み方向の中心部分に存在しているものと考える。この被測定物の場合、電磁超音波センサ110を介して送信される横波超音波は、
図3(b1)に示すように、液相部201には侵入できず固相部203のみを伝播する。この際、固相部203の厚みdが変化すると、共振周波数f
nも変化する((2)式参照)。したがって、共振周波数f
nを検出することで、液相部201の有無の検知が可能である。
図3(b2)は、
図3(b1)に示す被測定物を伝播した横波超音波の周波数とその波形エネルギー値との関係を示す図である。この
図3(b2)には、共振周波数f
1,f
2と、共振周波数間隔Δfが示されている。
図3(b1)に示す被測定物の固相部203の厚みdは、
図3(a1)に示す固相部203の厚みdよりも小さいため、
図3(b2)に示す共振周波数間隔Δfは、
図3(a2)に示す共振周波数間隔Δfよりも大きい値となっている((3)式参照)。
【0040】
次に、
図1に示す被測定物200について考える。
図1に示す第3の表面領域230については、被測定物200の厚み方向に固相部203のみが存在するため、伝播する横波超音波は、上述した
図3(a1)及び
図3(a2)のように考えることができる。
【0041】
図1に示す第2の表面領域220は、被測定物200の厚み方向に固液共存相部202及び固相部203が存在する。ここで、固液共存相部202は、固相率が100%未満の値(液相率が0%よりも大きい値)から固相率が0%よりも大きい値(液相率が100%未満の値)まで連続的に変化する領域である。例えば、固相率が50%の状態とは、固体成分が50%の領域を占め、残りの50%の領域に液体部分が充填されている状態である。上述したように、横波超音波は、液相部201には侵入できないため、固相率が50%の領域では、横波超音波は、50%が透過し、50%が反射する状況になると考えられる。
【0042】
図1に示す第1の表面領域210については、被測定物200の厚み方向に液相部201、固液共存相部202及び固相部203が存在するため、伝播する横波超音波は、固液共存相部202の部分については固相率に応じて透過するものの、液相部201が存在するため、上述した
図3(b1)及び
図3(b2)のように考えることができる。
【0043】
続いて、
図1に示す第1の表面領域210〜第3の表面領域230と、
図2に示す電磁超音波センサ110との相対的な位置関係を変更させるべく、被測定物200の鋳造速度Vcを可変させて、被測定物200の固相部203の厚みdを測定する実験を行った。なお、以下に示す実験では、厚みDが282mmの被測定物200を用いた。
【0044】
図4は、本発明の実施形態を示し、被測定物200の鋳造速度Vcを可変させて被測定物200の固相部203の厚みdを測定した実験結果を示す図である。この実験では、鋳造速度Vcを1.1mpmと1.6mpmの2種類で測定を行ったものである。
【0045】
図4(a)は、各鋳造速度Vcについて、それぞれの計測開始タイミングからの時間を横軸にとり、電磁超音波センサ110を介して各周波数の横波超音波を横波超音波送受信装置120において送受信することで算出された固相部203の厚みd(固相厚)を縦軸にとった特性図である。
【0046】
図4(a)に示すように、鋳造速度Vc=1.1mpmの場合には、算出された固相部203の厚みd(固相厚)の平均値が被測定物200の厚みDである282mmと略同じ値であるため、電磁超音波センサ110は、
図1に示す第3の表面領域230(被測定物200の厚み方向に固相部203のみが存在する表面領域)に配置されていると考えられる。この鋳造速度Vc=1.1mpmの場合の、被測定物200を伝播した横波超音波の周波数とその波形エネルギー値との関係を、
図4(b)に示す。
【0047】
また、
図4(a)に示すように、鋳造速度Vc=1.6mpmの場合には、算出された固相部203の厚みd(固相厚)の平均値が被測定物200の厚みDである282mmの略半分の値であるため、電磁超音波センサ110は、
図1に示す第1の表面領域210(被測定物200の厚み方向に液相部201が存在する表面領域)に配置されていると考えられる。この鋳造速度Vc=1.6mpmの場合の、被測定物200を伝播した横波超音波の周波数とその波形エネルギー値との関係を、
図4(c)に示す。
【0048】
ここで、上述したように、
図2に示す被測定物200は、紙面左側から紙面右側に移動するため、鋳造速度を速めると、液相部201及び固液共存相部202の各先端部は、被測定物200である連続鋳造鋳片の先頭部に近い側に移動する。このため、鋳造速度Vc=1.6mpmの場合には、電磁超音波センサ110は、
図1に示す第1の表面領域210(被測定物200の厚み方向に液相部201が存在する表面領域)に配置されると考えられる。
【0049】
逆に、鋳造速度を遅くすると、液相部201及び固液共存相部202の各先端部は、被測定物200である連続鋳造鋳片の先頭部から遠い側に移動する。このため、鋳造速度Vc=1.1mpmの場合には、電磁超音波センサ110は、
図1に示す第3の表面領域230(被測定物200の厚み方向に固相部203のみが存在する表面領域)に配置されると考えられる。
【0050】
図5は、本発明の実施形態を示し、被測定物200の鋳造速度Vcを可変させて被測定物200の固相部203の厚みdを測定した実験結果を示す図である。具体的に、
図5に示す実験では、
図4に示す実験と同様の被測定物200を用いて、鋳造速度Vcを、
図4に示す実験で用いた1.1mpmと1.6mpmの間の、1.41mpm、1.31mpm、1.25mpm及び1.23mpmの4種類で測定を行ったものである。
【0051】
この
図5は、鋳造速度Vc=1.41mpmを計測開始とし、以後、鋳造速度Vcを1.31mpm、1.25mpm、1.23mpmと順次切り替えた際の計測開始時刻からの経過時間を横軸にとり、電磁超音波センサ110を介して各周波数の横波超音波を横波超音波送受信装置120において送受信することで算出された固相部203の厚みd(固相厚)を縦軸にとった特性図である。
【0052】
鋳造速度Vcが1.41mpm及び1.31mpmの場合には、算出された固相部203の厚みd(固相厚)の平均値が被測定物200の厚みDである282mmの略半分の値であるため、電磁超音波センサ110は、
図1に示す第1の表面領域210(被測定物200の厚み方向に液相部201が存在する表面領域(即ち未凝固ありの表面領域))に配置されていると考えられる。なお、鋳造速度Vcが1.41mpmの場合に算出された固相部203の厚みd(固相厚)の平均値は128.1mmであり、鋳造速度Vcが1.31mpmの場合に算出された固相部203の厚みd(固相厚)の平均値は139.9mmであった。
【0053】
また、鋳造速度Vcが1.25mpm及び1.23mpmの場合には、算出された固相部203の厚みd(固相厚)の平均値が被測定物200の厚みDである282mmに略等しいため、電磁超音波センサ110は、
図1に示す第2の表面領域220(被測定物200の厚み方向に固液共存相部202及び固相部203が存在する表面領域)、または、
図1に示す第3の表面領域230(固相部203のみが存在する領域)の、液相部201が存在しない表面領域に配置されていると考えられる。この
図5に示す実験では、鋳造速度Vcが1.31mpmから1.25mpmに切り替わることで、電磁超音波センサ110の位置は、液相部201が存在する表面位置(第1の表面領域210)から液相部201が存在しない表面位置(第2の表面領域220または第3の表面領域230)に変化すると考えられる。
【0054】
図6は、
図5に示す鋳造速度Vc=1.25mpmの場合の、被測定物200を伝播した横波超音波の周波数とその波形エネルギー値との関係を説明する図である。
【0055】
図6(a)は、
図5に示す鋳造速度Vc=1.25mpmの場合の、被測定物200を伝播した横波超音波の周波数とその波形エネルギー値との関係を示す図である。
図6(a)の結果をみると、被測定物200を伝播した横波超音波の周波数の増加とともに、複数の共振周波数が見られ、また、複数の共振周波数の隣接する2つの共振周波数における横波超音波のエネルギー値(波形エネルギー値)のうちの大きい値のエネルギー値である第1のエネルギー値601と、当該隣接する2つの共振周波数における横波超音波のエネルギー値(波形エネルギー値)のうちの小さい値のエネルギー値である第2のエネルギー値602とが、交互に繰り返して出現することが分かる。
【0056】
本発明者は、この
図6(a)に示す第1のエネルギー値601と第2のエネルギー値602とが交互に繰り返して出現する事象を以下のように考えた。
具体的に、本発明者は、
図5に示す鋳造速度Vc=1.25mpmの場合には、電磁超音波センサ110が
図1に示す第2の表面領域220に配置されており、
図6(b)に示すように、被測定物200における厚み方向の中心位置付近には固液共存相部202が存在していると考えた。そして、本発明者は、その理由を以下のように考えた。
上述したように、固液共存相部202では、固相率に応じて横波超音波が透過することになる。例えば、固相率が50%の領域では、横波超音波は、50%が透過し、50%が反射する状況になる。上述の(3)式に示す共振周波数間隔Δfの式(Δf=V/(2d))により、被測定物200の全厚みD(d=282mm)で横波超音波が共振する場合(
図6(b)に示す横波超音波が固液共存相部202を透過する[1]の場合)、共振周波数間隔Δfは小さくなり、
図6(a)に示す共振周波数の[1]に対応していると考えた。一方、被測定物200の厚みDの略半分の厚み(d=140mm)で横波超音波が共振する場合(
図6(b)に示す横波超音波が固液共存相部202で反射する[2]の場合)、この共振周波数間隔Δfは、
図6(b)に示す[1]の場合の共振周波数Δfの略2倍の大きさになり、
図6(a)に示す共振周波数の[2]に対応していると考えた。そして、
図6(a)において、[1]及び[2]が重なった共振周波数では、算出される波形エネルギー値が比較的大きくなり(第1のエネルギー値601となり)、[1]のみの共振周波数では、算出される波形エネルギー値が比較的小さくなる(第2のエネルギー値602となる)と考えた。
【0057】
次いで、本発明者は、上述した考察が正しいかを確認するため、厚み方向の中心位置付近に固液共存相部202が存在している被測定物200について、横波超音波の伝播解析シミュレーションを行った。
【0058】
図7は、本発明の実施形態を示し、厚み方向の中心位置付近に固液共存相部202が存在している被測定物200に対して行った横波超音波の伝播解析シミュレーションを説明するための図である。
【0059】
横波超音波の伝播解析シミュレーションは、以下の条件で行った。
・横波超音波送受信装置120から送信する送信波は、
図7(a)に示すような時間幅が200μsの横波バースト波とした。
・
図7(b)に示すシミュレーションモデルの上面の20mmの部分を、
図7(a)に示す横波バースト波の送信部とした。
・
図7(b)に示すシミュレーションモデルでは、被測定物200の全厚みを140mm、上層の固相部203の厚みを68.5mm、中心位置付近の固液共存相部202の厚みを3mm、下層の固相部203の厚みを68.5mmとした。
・固相部203は、密度ρ
1=7.8×10
-6(kg/mm
3)とし、横波音速V
1=3.2×10
6(mm/s)とした。
・固液共存相部202は、密度ρ
2=7.7×10
-6(kg/mm
3)とし、横波音速V
2=1.2×10
6(mm/s)とした。この際、固液共存相部202の透過率は、t=(2ρ
2V
2)/(ρ
1V
1+ρ
2V
2)=0.5となるので、透過率50%(反射率50%)の条件を模擬していることになる。
・受信波の処理は、200μsの送信波の送信直後から、200μs〜1000μsの時間域の受信波(受信信号)についてFFTを行い、送信周波数成分をのみを抽出し、その送信周波数成分のみを波形エネルギー値と定義して算出した。
・要素サイズ(FEM等の場合のメッシュサイズ)を0.1mmとした。
・なお、
図7(b)に示す被測定物200の左境界面は、左右対称境界であるため、実際の送信部のサイズは40mmであり、解析時間の短縮のために、右半分を解析した。
【0060】
図7(c)は、上述した横波超音波の伝播解析シミュレーションの結果得られた横波超音波の周波数とその波形エネルギー値との関係を示す図である。
図7(c)をみると、波形エネルギー値が比較的大きくなる共振周波数と、波形エネルギー値が比較的小さくなる共振周波数とが交互に計測される特徴があることが分かり、
図6(a)に示す実験結果と同等の結果が得られた。即ち、
図7を用いて説明した横波超音波の伝播解析シミュレーションの結果から、
図6(a)に示す第1のエネルギー値601と第2のエネルギー値602とが交互に繰り返して出現する事象は、被測定物200における厚み方向の中心位置付近に固液共存相部202が存在するためである、とする上述した考察が正しいことが確認できた。
【0061】
図8は、本発明の実施形態を示し、
図2に示す比算出部143で算出する比の一例を説明するための図である。
【0062】
図8(a)には、
図5と同様の図が示されている。
【0063】
図8(b)には、
図6(a)と同様の図が示されている。この際、パラメータAは、第1のエネルギー値601の平均値とし、パラメータBは、第2のエネルギー値602の平均値とした。
【0064】
そして、パラメータBのパラメータAに対する比をB/Aパラメータと定義した。即ち、本例では、比算出部143で算出する比としてB/Aパラメータを適用した。
図8(c)は、
図8(a)に示す実験結果について、縦軸をB/Aパラメータとして表した図である。
図8(c)をみると、
図8(a)に示すように鋳造速度Vcを変化させた際に、被測定物200における厚み方向の中心固相率も変化しているはずであり、その変化に対応してB/Aパラメータの値も変化していることが分かる。
【0065】
次に、B/Aパラメータと被測定物200における厚み方向の中心固相率との対応関係を調べるための簡易実験を行った。
【0066】
図9は、本発明の実施形態を示し、B/Aパラメータと被測定物における厚み方向の中心固相率との対応関係を調べるための簡易実験で用いた被測定物を説明するための図である。縦の長さが150mm及び幅が250mmの穴が開いた鋳型を用意し、その鋳型に溶鋼を流し込んで、外側から徐々に固まるものを被測定物とした。また、被測定物の相状態を把握するために、
図9に示すような第1の熱電対、第2の熱電対及び第3の熱電対を被測定物に埋め込んだ。この際、第1の熱電対、第2の熱電対及び第3の熱電対は、鋳型の底から40mmの位置に配置した。なお、電磁超音波センサ110による測定の際は、
図9に示す被測定物の縦方向を被測定物の厚み方向とし、
図9に示す被測定物の下面の鋳型部分(鋳型の側面)のみをはずして、被測定物の下面に電磁超音波センサ110を近づけて測定を行った。
【0067】
図10は、本発明の実施形態を示し、
図9に示す被測定物の固相部203の厚みdを測定した実験結果を示す図である。
【0068】
図10(a)において、横軸は、
図9に示す鋳型に溶鋼の注入開始からの時間を示し、縦軸は、算出された被測定物の固相部203の厚みd(固相厚)を示している。具体的に、
図10(a)には、
図9に示す第1〜第3の熱電対の測定値から算出した被測定物の固相部203の厚みd(固相厚)が実線で示され、電磁超音波センサ110(EMAT)を介して横波超音波を被測定物の厚み方向(
図9の長さ150mmの縦方向)に伝播させることで算出した固相部203の厚みd(固相厚)が黒丸(●)で示されている。固相部203の厚みd(固相厚)の実線は、以下のように算出している。Tを鋳型への溶鋼注入完了時刻からの経過時間(秒)、Kを熱伝導率定数とすると、固相厚dは、以下の(4)式の近似式で表現される。係数Kについては、第1〜第3の熱電対のセンサ側からの深さd
thermoにおける熱電対計測温度がTS(凝固完了温度)になった時間をtとし、(t,d
thermo)が以下の(4)式の(T,d)にフィットするように最小2乗法で係数Kを決定して、その値を用いている。TSは、鋼種(成分)に応じて凝固完了温度TSが一義的に決まるデータベースに基づいて設定する。
d=K√(T/60) ・・・ (4)
なお、
図10(a)に示す実験では、上述したように
図9に示す被測定部の下面に電磁超音波センサ110を配置し、
図9の長さ150mmの縦方向に横波超音波を伝播させた。即ち、
図10(a)に示す実験において、被測定部の全厚みは150mmである。
【0069】
図10(b)は、
図10(a)に示す測定値1001における、被測定物を伝播した横波超音波の周波数とその波形エネルギー値との関係を示す図である。
図10(b)に示すように共振周波数間隔Δfは33kHzと大きい値であり、(3)式により測定値1001は固相厚が38mm程度と算出され、この場合、被測定物の内部に液相部201が存在する状態である。
【0070】
図10(c)は、
図10(a)に示す測定値1002における、被測定物を伝播した横波超音波の周波数とその波形エネルギー値との関係を示す図である。
図10(c)に示すように共振周波数間隔Δfは7.8kHzと小さい値であり、(3)式により測定値1002は固相厚が150mm程度と算出され、この場合、被測定物の内部は固相部203のみが存在する状態である。
【0071】
図11は、本発明の実施形態を示し、
図10に示す実験結果についてB/Aパラメータを考慮した特性図である。
【0072】
図11(a)には、
図8(b)と同様の図が示されており、B/Aパラメータを説明するための図となっている。
【0073】
図11(b)において、横軸は、
図9に示す鋳型に溶鋼の注入開始からの時間を示し、縦軸は、算出された被測定物の固相部203の厚みd(固相厚)、並びに、算出された被測定物における厚み方向の中心固相率である%及びB/Aパラメータに100を乗算した%を示している。具体的に、
図11(b)では、
図10(a)と同様に、
図9に示す第1〜第3の熱電対の測定値から算出した被測定物の固相部203の厚みd(固相厚)を実線で示している。また、
図11(b)では、
図9に示す第1〜第3の熱電対の測定値から算出した被測定物における厚み方向の中心固相率を破線で示し、電磁超音波センサ110を介して横波超音波を被測定物の厚み方向(
図9の長さ150mmの縦方向)に伝播させることで算出したB/Aパラメータに100を乗算した%を黒菱形の点(◆)で示している。この際、上記の非特許文献2によれば、中心固相率は、以下の(5)式を用いて計算することができる。
中心固相率(%)=(TL−T)/(TL−TS)×100 ・・・ (5)
この(5)式において、TLは凝固開始温度、TSは凝固完了温度であり、鉄鋼成分の組成により一義的に決まる値である。また、(5)式において、Tは、熱電対により計測される被測定物の150mm厚の中心部の温度である。なお、(5)式は、川和らの式として知られている。
【0074】
この
図11(b)に示す結果から、B/Aパラメータが50%以上では、算出されたB/Aパラメータ(%)と被測定物における厚み方向の中心固相率とが略一致することが分かった。
【0075】
そこで、B/Aパラメータの値の如何に係わらず、B/Aパラメータと被測定物における厚み方向の中心固相率は一致すると考え、本実施形態では、
図2の相関関係データ記憶部144に予め記憶しておく相関関係データとして、
図12に示すデータを適用する。
図12は、本発明の実施形態を示し、
図2の相関関係データ記憶部144に予め記憶されている相関関係データの一例を示す図である。
図12において、横軸は、第2のエネルギー値(B)の第1のエネルギー値(A)に対する比であるB/Aパラメータを示し、縦軸は、被測定物200における厚み方向の中心固相率を示す。この
図12に示す相関関係データを用いれば、B/Aパラメータを算出すれば被測定物200における厚み方向の中心固相率を求めることができる。
【0076】
次に、本実施形態に係る測定装置100による測定方法の処理手順について説明する。
図13は、本発明の実施形態に係る測定装置100による測定方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、
図13のフローチャートによる処理の開始の時点で、
図2の相関関係データ記憶部144には
図12に示すような相関関係データが既に記憶されているものとする。
【0077】
まず、ステップS1において、
図2の横波超音波送受信装置120は、制御装置140の制御に基づいて、被測定物200の表面のある地点に配置された電磁超音波センサ110を介して、被測定物200の厚み方向に複数の異なる周波数の横波超音波を順次送受信する。具体的に、まず、横波超音波送受信装置120は、第1の周波数の横波超音波を送信した後、被測定物200の厚み方向を伝播した当該横波超音波を受信する。次いで、横波超音波送受信装置120は、第1の周波数から所定の周波数間隔の第2の周波数の横波超音波を送信した後、被測定物200の厚み方向を伝播した当該横波超音波を受信する。次いで、横波超音波送受信装置120は、第2の周波数から所定の周波数間隔の第3の周波数の横波超音波を送信した後、被測定物200の厚み方向を伝播した当該横波超音波を受信する。以降、横波超音波送受信装置120は、同様の処理を所定の周波数領域に亘って行う。ここで、送受信する横波超音波の周波数領域(所定の周波数領域)は、例えば、制御装置140において、被測定物200の全厚みDと、横波超音波の被測定物200中の音速の概算値とから算出される共振周波数の概算値に基づいて、当該共振周波数が少なくとも2個以上含まれるように設定される。
【0078】
続いて、ステップS2において、
図2の共振周波数検出部141は、ステップS1において横波超音波送受信装置120で受信した各周波数の横波超音波に基づいて、被測定物200の厚み方向における複数の共振周波数を検出する。
【0079】
続いて、ステップS3において、
図2のエネルギー値算出部142は、ステップS2において共振周波数検出部141で検出された複数の共振周波数における横波超音波のエネルギー値を算出する。ここでは、ステップS3で算出されたエネルギー値において、複数の共振周波数の隣接する2つの共振周波数における横波超音波のエネルギー値のうちの大きい値のエネルギー値を第1のエネルギー値とし、前記隣接する2つの共振周波数における横波超音波のエネルギー値のうちの小さい値のエネルギー値を第2のエネルギー値とする。
【0080】
続いて、ステップS4において、
図2の比算出部143は、ステップS3においてエネルギー値算出部142で算出された第2のエネルギー値の第1のエネルギー値に対する比を算出する。具体的に、比算出部143は、算出する比として、
図8を用いて上述したB/Aパラメータを算出する。
【0081】
続いて、ステップS5において、
図2の中心固相率算出部145は、ステップS4において比算出部143で算出された比であるB/Aパラメータに従って、被測定物200における厚み方向の中心固相率を算出する。より詳細に、中心固相率算出部145は、相関関係データ記憶部144に記憶されている
図12に示す相関関係データを参照して、ステップS4において比算出部143で算出されたB/Aパラメータに対応する中心固相率を、被測定物200における厚み方向の中心固相率として算出する。例えば、中心固相率算出部145は、ステップS4において算出されたB/Aパラメータが0.5である場合には、
図12に示す相関関係データを参照して、被測定物200における厚み方向の中心固相率を50%として算出する。
【0082】
続いて、ステップS6において、
図2の制御装置140は、ステップS5で算出された被測定物200における厚み方向の中心固相率の情報を表示装置150に表示する制御を行う。
【0083】
ステップS6の処理が終了すると、
図13に示すフローチャートの処理が終了する。
【0084】
本実施形態によれば、検出した複数の共振周波数の隣接する2つの共振周波数における横波超音波のエネルギー値のうちの大きい値の第1のエネルギー値と、当該隣接する2つの共振周波数における横波超音波のエネルギー値のうちの小さい値の第2のエネルギー値とに基づいて、被測定物200における厚み方向の中心固相率を算出するようにしたので、非破壊で被測定物200における厚み方向の中心固相率をある程度の精度で測定することができる。
さらに、本実施形態によれば、被測定物200の表面のある地点に配置された1つの電磁超音波センサ110を介して横波超音波を順次送受信して被測定物200における厚み方向の中心固相率を測定するようにしたので、
図14に示す被測定物の表面及び裏面の両方に電磁超音波センサを配置して測定する場合と比較して、設備のメンテナンス性を良好にすることができる。
【0085】
(その他の実施形態)
上述した実施形態では、
図2の比算出部143で算出される比としてB/Aパラメータを適用した例を示したが、本発明においてはこの形態に限定されるものではない。例えば、一例ではあるが、
図2の比算出部143で算出される比としてA/Bパラメータを用いる形態も適用可能である。この場合には、
図12に示す、相関関係データ記憶部144に予め記憶しておく相関関係データとして、当該A/Bパラメータと被測定物200における厚み方向の中心固相率との相関関係を示すデータを適用する形態を採る。
【0086】
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。
即ち、上述した実施形態の測定装置100の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。このプログラム及び当該プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、本発明に含まれる。
【0087】
なお、上述した本発明の各実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。即ち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。