特許第6358039号(P6358039)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358039
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】溶鋼の脱硫方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 7/064 20060101AFI20180709BHJP
   C21C 7/076 20060101ALI20180709BHJP
   C21C 7/10 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   C21C7/064 Z
   C21C7/076 A
   C21C7/10 F
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-212917(P2014-212917)
(22)【出願日】2014年10月17日
(65)【公開番号】特開2016-79469(P2016-79469A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】笠原 秀平
(72)【発明者】
【氏名】西 隆之
【審査官】 坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−048619(JP,A)
【文献】 特開平01−132715(JP,A)
【文献】 特開平08−060226(JP,A)
【文献】 特開平01−079317(JP,A)
【文献】 特開平01−268815(JP,A)
【文献】 特開昭56−035714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 7/00− 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽、溶鋼上昇浸漬管および溶鋼下降浸漬管を有するRH式真空脱ガス処理装置を用い、前記真空槽内上方に設置したランスから脱硫フラックスを上吹きする溶鋼の脱硫方法であって、
前記溶鋼上昇浸漬管に吹き込む環流ガスを、前記溶鋼上昇浸漬管の前記溶鋼下降浸漬管側の側面に設けられた還流ガス吹込み羽口から導入される環流ガスの総流量(G(Nl/(t・min)))と、前記溶鋼上昇浸漬管の前記溶鋼下降浸漬管側とは反対側の側面に設けられた還流ガス吹込み羽口から導入される環流ガスの総流量(G(Nl/(t・min)))を、(1)式の範囲とすることを特徴とする溶鋼の脱硫方法。
1.2≦G/G≦3.2・・・(1)
【請求項2】
環流ガス吹き込み羽口から導入する環流ガス流量を独立に変更することによって、前記Gと前記Gを前記(1)式の範囲とすることを特徴とする請求項1に記載の溶鋼の脱硫方法。
【請求項3】
いずれの環流ガス吹き込み羽口に導入する環流ガス流量を同一とし、前記溶鋼上昇浸漬管の前記溶鋼下降浸漬管側の側面に設けられた還流ガス吹込み羽口の羽口数と、前記溶鋼上昇浸漬管の前記溶鋼下降浸漬管側とは反対側の側面に設けられた還流ガス吹込み羽口の羽口数の比率を1.2〜3.2とすることで、前記Gと前記Gを前記(1)式の範囲とすることを特徴とする請求項1に記載の溶鋼の脱硫方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼精錬における溶鋼処理において、RH式真空脱ガス処理装置を用い、真空槽内の上方に設置したランスから脱硫フラックスを溶鋼に吹き付け添加して溶鋼の脱硫処理を施すに際し、従来よりも脱硫効率を向上させて脱硫フラックスの使用量を低減することができる溶鋼の脱硫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材中の硫黄(S)は耐食性や、溶接性などといった鋼材の多数の特性に影響を与える。ラインパイプやガスタンクなどに用いられる鋼材ではS濃度をより低減することが求められている。特に、S濃度として0.0010%以下が要求される極低硫鋼では、転炉処理後の二次精錬工程における溶鋼脱硫が必要である。ここで、二次精錬ではRH式真空脱ガス処理が主に行われており、RH式真空脱ガス処理における脱硫効率を向上させることが有効である。
【0003】
RH式真空脱ガス処理における脱硫方法は、合金添加孔から真空槽内への脱硫フラックスの添加、真空槽内上方に設置したランスからの脱硫フラックス吹き付け添加、上昇管下方や上昇管中または真空槽内へ脱硫フラックスをインジェクション添加する方法が挙げられる。いずれの方法であっても、脱硫効率を向上させるためには、脱硫フラックスを溶鋼中に巻き込ませることで、脱硫フラックスと溶鋼間の反応界面積を増大させ、さらに反応時間も増加させることが有効である。
【0004】
特許文献1では、CaOおよびCaFを主成分とする組成からなり、75μm以下の粒度の原料粒子の体積配合率が70%以上である脱硫フラックスを、フラックスの吹込み速度(kg/min)/溶鋼環流量(t/min)の値が3kg/t以下の条件で吹き込む脱硫方法が提示されている。この方法を用いると、溶鋼とほとんど濡れないCaOがCaFにより溶融されることで溶鋼と濡れ、溶鋼中に巻き込まれやすくなるため、脱硫反応効率は向上する。また、巻き込みが生じやすい粒径や、巻き込まれてから後の脱硫フラックス粒子の凝集による反応界面積減少が抑制できる吹き込み速度までが提示されている。しかし、この方法ではCaFを用いる必要があり、環境負荷からRH式真空脱ガス処理後のスラグは路盤材等に有効活用できない。また、CaFによって耐火物の溶損が激しくなり、耐火物補修に必要な費用が増加してしまう。
【0005】
特許文献2では、溶鋼の上昇流を導く浸漬管の下方中央に開口させた脱硫剤の吹込みランスから微粉状脱硫剤をキャリアガスと共に溶鋼の上昇流中に吹込む方法が提示されている。この方法を用いると、直接溶鋼中に脱硫フラックス粒子を吹き込み巻き込ませるため、脱硫が促進される。しかし、この方法では溶鋼中に脱硫フラックスを吹込むランスを浸漬せねばならず、ランスの溶損が生じてしまうことに加え、ランスを浸漬させるスペースが必要であることから、使用条件が制約される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−269533号公報
【特許文献2】特開昭58−037112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、脱硫フラックスを溶鋼中に巻き込ませれば脱硫反応の効率が向上することは従来から知られている。しかし、巻き込ませる方法として、特許文献1に記載のようにフラックス中にCaFを混合し、溶鋼と濡れやすいフラックス組成とするか、または特許文献2に記載のように溶鋼中に直接インジェクションするような方法が必要である。ただし、CaFは環境への悪影響からその使用が制限されている。また、インジェクションを行う場合、インジェクション設備が必要となることに加え、耐火物溶損や飛散方向が制御されていないスプラッシュの増加による鉄ロスが引き起こされる。
【0008】
そこで、本発明では、CaFの使用またはインジェクションを使用することなく、上吹きした脱硫フラックスを溶鋼中に巻き込ませることで、脱硫反応効率を向上させることができる溶鋼の脱硫方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
RH式真空脱ガス処理において、真空槽内溶鋼に上吹き添加された脱硫フラックスは、大部分が溶鋼表面に着地した後、RHの環流により溶鋼表面上を流れ、下降管の直上へ運ばれる。脱硫反応促進のためには、この脱硫フラックスを溶鋼中に巻き込ませることが必要である。
【0010】
脱硫フラックスを溶鋼中に巻き込ませるためには、溶鋼表面に着地した脱硫フラックスの上部から溶鋼を被せるとよい。しかし、RH真空槽内において溶鋼を粉体に被せるために、溶鋼を機械的に散布することは、非常に困難である。
【0011】
そこで、上昇管直上の溶鋼表面の盛り上がり形状を制御して、表面から飛散するスプラッシュを粉体に被せることを検討した。スプラッシュを効率的に粉体に被せるためには、真空槽中心側に飛散するスプラッシュの比率を増大させる必要がある。そのためには、図1に示すように、上昇管に設けられた全ての羽口の中で、下降管側の側面に設けられた羽口から導入する環流ガスの総流量(以降ではG)を、下降管側とは反対側の側面に設けられた羽口から導入する環流ガス総流量(以降ではG)よりも高流量とすれば、真空槽内の上昇管直上に形成される溶鋼の盛り上がりの頂点が真空槽中心側へと偏倚し、中心方向に飛散するスプラッシュ量が増加すると考えられる。しかし、GとGの流量比が1に近い場合では、中心方向に飛散するスプラッシュ量が大きくなく脱硫反応効率向上効果は小さいと考えられる。また、GとGの流量比が過度に大きい場合では、上昇管内での環流ガス気泡が偏在してしまい、環流量が低下し、脱硫反応効率も低下してしまうと考えられる。
【0012】
このように、GとGの流量比には適正な範囲があると考え、流量比を試験により明らかにした。その結果、本発明の要旨を次のように纏めることができる。
【0013】
(1)真空槽、溶鋼上昇浸漬管および溶鋼下降浸漬管を有するRH式真空脱ガス処理装置を用い、前記真空槽内上方に設置したランスから脱硫フラックスを上吹きする溶鋼の脱硫方法であって、前記溶鋼上昇浸漬管に吹き込む環流ガスを、前記溶鋼上昇浸漬管の前記溶鋼下降浸漬管側の側面に設けられた還流ガス吹込み羽口から導入される環流ガスの総流量(G(Nl/(t・min)))と、前記溶鋼上昇浸漬管の前記溶鋼下降浸漬管側とは反対側の側面に設けられた還流ガス吹込み羽口から導入される環流ガスの総流量(G(Nl/(t・min)))を、(1)式の範囲とすることを特徴とする溶鋼の脱硫方法。
【0014】
1.2≦G/G≦3.2・・・(1)
(2)環流ガス吹き込み羽口から導入する環流ガス流量を独立に変更することによって、前記Gと前記Gを前記(1)式の範囲とすることを特徴とする上記(1)に記載の溶鋼の脱硫方法。
【0015】
(3)いずれの環流ガス吹き込み羽口に導入する環流ガス流量を同一とし、前記溶鋼上昇浸漬管の前記溶鋼下降浸漬管側の側面に設けられた還流ガス吹込み羽口の羽口数と、前記溶鋼上昇浸漬管の前記溶鋼下降浸漬管側とは反対側の側面に設けられた還流ガス吹込み羽口の羽口数の比率を1.2〜3.2とすることで、前記Gと前記Gを前記(1)式の範囲とすることを特徴とする上記(1)に記載の溶鋼の脱硫方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明を用いることで、脱硫フラックスにCaFを使用することなく、またインジェクションによる溶鋼への直接吹き込みをすることなく、脱硫フラックスを溶鋼中に効率的に巻き込むことができる。その結果として、脱硫フラックスの脱硫反応効率が飛躍的に向上し、脱硫フラックスの添加量を低減することができる。これにより、RH式真空脱ガス処理時間の短縮による生産性向上を図ることができ、またスラグ排出量も低減するため環境負荷の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1はRH式真空脱ガス装置を浸漬管側から見た模式図である。
図2図2は脱硫フラックス添加後のS濃度に及ぼすGとGの流量比の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための形態を説明する。本発明は転炉処理後にRH式真空脱ガス処理を行う場合を例として挙げるが、転炉処理とRH式真空脱ガス処理の間に、合金成分調整やスラグ改質を目的とした、大気圧下での不活性ガス吹き込みによる取鍋精錬処理を行っても良い。
【0019】
(1)真空脱ガス処理
転炉処理後に溶鋼を取鍋に出鋼する。取鍋をRH式真空脱ガス処理装置へ搬送し、真空処理を開始する。
【0020】
本発明で用いるRH式還流型脱ガス装置を、図1を用いて説明する。図1はRH式真空脱ガス装置1を浸漬管側から見た模式図である。本発明で用いるRH式還流型脱ガス装置1は、例えば図1に示すように、真空槽2、溶鋼上昇浸漬管(以下、「上昇管」という。)3および溶鋼下降浸漬管(以下、「下降管」という。)4を有する。上昇管3および下降管4は真空槽2と連設されている。上昇管3および下降管4の一部は取鍋内の溶鋼に浸漬されている。上昇管3の側面には還流ガス吹込み羽口(以下、「羽口」という。)3cが設けられている。上昇管3の側面は、下降管4側の側面(以下、「下降管側側面」という。)3a、および上昇管3の下降管4側とは反対側の側面(以下、「反対側側面」という。)3bで構成される。図1では、一例として、4つの羽口3cを等間隔に設けた図を示しているが、本発明はこれに限定されるものではない。このようなRH式還流型脱ガス装置1を用いると、取鍋内の溶鋼は、真空槽1内が所定の真空度で真空にされるとともに羽口3cから還流ガスが吹込まれることにより上昇管3を上昇する。そして、真空槽1内で真空処理された後、下降管4を下降して取鍋に戻される。
【0021】
なお、本発明において、「溶鋼上昇浸漬管の溶鋼下降浸漬管側の側面」(下降管側側面)3aとは、図1に示すように、RH式還流脱ガス装置1を上昇管3側から見たときに、上昇管3の中心3dと下降管4の中心4aとを結ぶ線(以下、「中心線」という。)5に直角に交わる分離線(以下、「分離線」という。)3eで上昇管3横断面の外周を分離したうちの、下降管4側の外周で表される側面をいう。また、本発明において、「溶鋼上昇浸漬管の溶鋼下降浸漬管側とは反対側の側面」(反対側側面)3bとは、図1に示すように、RH式還流脱ガス装置1を上昇管3側から見たときに、上昇管3の中心3dと下降管4の中心4aとを結ぶ線(以下、「中心線」という。)5に直角に交わる分離線(以下、「分離線」という。)3eで上昇管3横断面の外周を分離したうちの、下降管4側とは反対側の外周で表される側面をいう。
【0022】
RH式真空脱ガス処理装置1では、上吹きによる脱硫に加え、合金添加による成分調整も行ってもよい。さらに、O上吹きによる溶鋼の昇温、脱炭といった精錬処理が行われるが、その処理順については固定する必要はない。
【0023】
以下に、本発明で規定する各要件について詳述する。
(2)G/G比と脱硫処理後[S]との関係
真空処理の際、脱硫フラックスは、ランスから真空槽中心部に向けて吹き付けられる。本発明では、脱硫フラックスにスプラッシュを被せて脱硫効率を高めるためには真空槽中心側に飛散するスプラッシュの比率を増大させる必要がある。これを実現するため、下降管側側面3aに設けられた羽口3cから導入する環流ガスの総流量Gが、反対側側面3bに設けられた羽口3cから導入する環流ガス総流量Gよりも高流量であれば、真空槽2内の上昇管3直上に形成される溶鋼の盛り上がりの頂点が真空槽2中心側へと偏倚し、真空槽2の中心方向に飛散するスプラッシュ量が増加すると考えられる。これにより、本発明では、スプラッシュにより飛散した溶鋼を、主に真空槽2中心部に供給される脱硫フラックスに被せることができ、脱硫の効率化を図ることが可能となる。しかし、GとGの流量比が1に近い場合では、中心方向に飛散するスプラッシュ量が大きくなく脱硫反応効率向上効果は小さいと考えられる。また、GとGの流量比が過度に大きい場合では、上昇管内での環流ガス気泡が偏在してしまい、環流量が低下し、脱硫反応効率も低下してしまうと考えられる。本発明者らは最適なGとGの流量比を得るために以下の試験を行った。
【0024】
試験方法は以下のとおりである。C濃度が0.010〜0.30%、Si濃度が0.020〜0.50%、Mn濃度が0.20〜1.50%、Al濃度が0.020〜0.16%、S濃度が0.0028〜0.0032%である溶鋼300トンを、RH式真空脱ガス処理装置1を用い精錬処理するに際し、処理の途中において真空槽2内上方に設置した上吹きランスからCaOを主体とする脱硫フラックスを真空槽2内の溶鋼表面に吹き付け添加した。脱硫フラックスの添加量は溶鋼1トン当たり5kg/tに統一した。脱硫フラックスの吹き付け添加速度は溶鋼1トン当たり0.3〜1.1kg/(t・min)とした。ここで言うCaOを主体とする脱硫フラックスとは、最大粒子径が2.85mm以下であり、フラックス中のCaO濃度が90%以上の粉体である。
【0025】
このような脱硫フラックスの吹付け条件で、約10分間にわたって脱硫フラックスをArガスとともに連続的に溶鋼に吹き付けた。その吹き付けが完了した後、さらに5分間の溶鋼環流を施してから溶鋼のサンプルを採取し、その含有S濃度を分析して本発明に係る処理後のS%とした。なお、本願明細書において濃度を表す単位の%は、特に断りが無い限り質量%の意味で用いる。
【0026】
とGの流量比を得るための試験は、このような前提条件の上、さらにガス流量変更条件と羽口数変更条件で行われた。ガス流量変更条件は、上昇管3内の環流ガス吹き込み羽口3cを、上昇管3の横断面外周に対し等間隔で設置し、下降管側側面3aに設けられた6個の羽口3cから導入する環流ガスと、反対側側面3bに設けられた6個の羽口3cから導入する環流ガスとを、下降管側側面3aの羽口3cと反対側側面3bの羽口3cとで独立に制御することによって、GとGの流量比をG/G=0.73〜4.0の範囲で変更させる条件である。
【0027】
羽口数変更条件は、全ての羽口の羽口径を同一にすることにより導入する環流ガス流量を等しくし、下降管側側面3aに設けられた羽口3cの羽口数と反対側側面3bに設けられた羽口3cの羽口数をG/G=0.71〜5.0となる範囲で変更させた条件である。つまり、この流量比は羽口個数の比であり、具体的には、(下降管側側面3aの羽口個数)/(反対側側面3bの羽口個数)で5個/7個〜10個/2個に相当する。
【0028】
図2に脱硫フラックスの吹き付け添加後におけるS濃度に及ぼすGとGの流量比の関係を示す。ガス流量変更条件では0.73から、羽口数変更条件では0.71から、G/Gが増加するにつれて脱硫処理後[S]が急激に減少し、G/Gが1.2のときに脱硫処理後[S]が0.001%に低減した。そして、G/Gが1.4のときに脱硫処理後[S]が0.0006%と0.0005%にまで低減し、G/Gが3.0まで脱硫処理後[S]が0.0007%以下を維持した。その後、G/Gが3.2で脱硫処理後[S]が0.001%となり、G/Gがさらに増加するにつれて脱硫効率が悪化した。
【0029】
このように、GとGの流量比がG/G=1.2〜3.2の範囲において、脱硫フラックス添加後のS濃度が0.0010%以下の低濃度まで脱硫反応が進行した。GとGの流量比がG/G=1.4〜3.0の範囲において、脱硫フラックス添加後のS濃度が0.0007%以下の低濃度まで更に脱硫反応が進行した。これは、ランスから吹き付け添加された脱硫フラックスに、上昇管直上の溶鋼盛り上がり部で発生したスプラッシュが効率良く被さったためである。G/Gが1.2未満では脱硫処理後のS濃度が0.0010%を超えて高濃度になったが、これは上昇管直上にできる溶鋼盛り上がり部の頂点の位置が上昇管の中心近傍となり、真空槽中心に飛散するスプラッシュ量が増加しなかったためである。G/Gが3.2を超えて大きくなると、脱硫処理後のS濃度は0.0010%を超えて高濃度になったが、これは上昇管内の環流ガス気泡が偏在してしまい、RHの環流量が低位になってしまったためである。
【0030】
このように、本発明では、羽口から導出する還流ガス流量を、羽口から導入する還流ガス流量の変更もしくは羽口数の変更により(1)式を満たすように制御することによって、効率的な脱硫を実現することがわかった。
【0031】
(3)羽口位置
図1に示すように、羽口3cは下降管側側面3aおよび反対側側面3bに設けられる。
【0032】
羽口から導入される還流ガス流量を変更して(1)式を満たすようにする場合、羽口位置の好ましい態様としては、羽口3cを上昇管3横断面の外周上に等間隔で配置することが挙げられる。これにより、還流ガス流量の調整が容易になるとともに真空槽の中心方向に飛散するスプラッシュ量を増加させることができる。
【0033】
また、羽口の個数を変更して(1)式を満たすようにする場合、羽口位置の好ましい態様としては、図1に示すように、1.下降管側側面3aが(2)式で表される中心角αである扇形の円弧で示される部分であること、2.中心角αの2等分線が中心線5であること、の2つの条件を満たすようにする。これらを満たすように羽口3cが配置される場合には、羽口が中心線5から大きく離れることなく配置されるため、羽口が等間隔でなくても、スプラッシュを真空槽1の中心側に飛散させることが可能となる。さらに好ましい態様としては、羽口が前記円弧上に等間隔に配置されるようにする。
【0034】
α(°)=180×(n/(n+1))・・・(2)
(2)式中、nは下降管側側面3aに設けられた羽口数である。
【0035】
(4)還流ガス流量の制御形態
(4−1)羽口から導入される還流ガス流量の制御
本発明では、羽口から導入される還流ガス流量を独立に制御することによって、G/G=1.2〜3.2の範囲となるように制御してもよい。例えば、下降管側側面3aのすべての羽口3c、および反対側側面3bのすべての羽口3cの2系統で各々独立に還流ガス流量を制御されてもよく、すべての羽口が独立の系統で還流ガス流量を制御してもよい。
【0036】
なお、環流ガス流量は総流量として溶鋼1トン当たり4.5〜14.0Nl/(t・min)とすることが望ましい。環流ガス流量が過度に低流量では、環流量が低下してしまい、合金添加に伴う成分調整、脱ガス、清浄化といった脱硫反応以外への悪影響が強くなる場合がある。環流ガス流量が過度に高流量では、溶鋼中に吹き込まれた環流ガスの気泡同士が衝突、合体してしまう、いわゆる吹き抜けが発生してしまい、環流量増大の効果が得られなくなる場合がある。
【0037】
環流ガス吹き込み羽口の総数は4〜25個とすることが望ましい。羽口数が過度に少ない場合、溶鋼中に吹き込まれた環流ガス気泡が上昇管内で偏在しやすく、環流量が低下してしまう場合がある。羽口数が過度に多い場合、気泡が上昇管の中心に達する前に、隣接する羽口から吹き込まれた気泡と衝突、合体し、吹き抜けが発生してしまい、環流量増大の効果が得られなくなる場合がある。好ましくは8〜16個である。
【0038】
なお、羽口から導入される還流ガス流量を制御する場合、下降管側側面3aの羽口個数と反対側側面3bの羽口個数の比率は特に制限されない。下降管側側面3aの羽口個数が反対側側面3bの羽口個数より少ない場合であっても、下降管側側面3aの羽口から導入される還流ガス流量が多ければ本発明の効果を発揮できる。
【0039】
(4−2)羽口数による還流ガス流量の制御
本発明では、羽口径を揃えてすべての羽口から導出される還流ガス流量を同一とし、下降管側側面の羽口数と反対側側面の羽口数の比を1.2〜3.2とすることにより、(1)式を満たすようにしてもよい。つまり、(下降管側側面の羽口数)/(反対側側面の羽口数)=3/2、4/3など〜19/6などであればよいことになる。好ましくは羽口数の比を1.4〜3.0の範囲にすれば良く、例えば6/4、7/5〜12/4などとするのが良い。
【0040】
このように制御する場合の還流ガス流量の総流量は(4−1)の場合と同様である。羽口個数は、好ましくは5〜25個であり、より好ましくは10〜16個である。
【0041】
(5)真空槽内圧力
真空槽内の圧力は67〜13300Paが望ましい。さらには133〜6670Paが望ましい。圧力が低すぎると環流量が増加する一方で、環流ガスとして吹き込まれた気泡の破裂時のスプラッシュが激しくなり、耐火物溶損といった悪影響の度合いが強くなる場合がある。圧力が高すぎると、環流量が低下してしまい、合金添加に伴う成分調整、脱ガス、清浄化といった脱硫反応以外への悪影響が強くなる場合がある。
【0042】
(6)脱硫フラックス
脱硫フラックスの組成は、CaOを主体とする。ここでいうCaOを主体とするフラックスとは、CaO純分の濃度が80%以上であり、残部はフラックスの融点を低下させるためにAlやMgOといった酸化物を含んでもよく、また脱酸のためにCaSiといった合金粉末を含んでもよい。さらに不可避的に混入する不純物成分を含有してもよい。CaO純分の濃度が80%未満の場合、フラックスの精錬反応効率が低下する場合がある。
【0043】
脱硫フラックスの最大粒径は、溶鋼と脱硫フラックス粒子との界面面積を広くするために2.85mm以下が好ましく、脱硫効率を更に高めるため、より好ましくは1.0mm以下、特に好ましくは0.15mm以下である。
【0044】
脱硫フラックスの添加量は溶鋼1トン当たり1.0〜11.0kg/tが好ましい。1.0kg/t未満では脱硫フラックス量が少な過ぎ、脱硫フラックス添加後のS濃度が目標とする濃度まで低減できない場合がある。11.0kg/tを超えて大きくなると、脱硫の効果は飽和してしまうことに加え、溶鋼中に巻き込まれたフラックス粒子がRH式真空脱ガス処理後にも溶鋼中に残留してしまい、製品の鋼材中にも残留することで、鋼材特性を悪化させる場合がある。
【0045】
脱硫フラックスの供給速度は溶鋼1トン当たり0.20〜1.20kg/(t・min)が好ましい。0.20kg/(t・min)未満では脱硫フラックスの供給時間が長時間化してしまう場合がある。1.20kg/(t・min)を超えて大きくなると、上吹きノズルから噴出されるフラックス粒子の流速が十分に大きくならず、真空排気の集塵ロスにより溶鋼への到達率が低位となる場合がある。
【0046】
(7)ランス形状
脱硫フラックスを上吹きするランスノズルの形状は、ラバールでもスパイクでもストレートでもよいが、フラックスの真空排気による集塵ロスを低減するためにはラバールやスパイクといった超音速ジェットが得られるノズルが望ましい。
【0047】
(8)溶鋼中Al濃度
脱硫フラックスを添加する際、溶鋼中Al濃度は0.020%〜0.20%が望ましい。Alは強脱酸元素であり、脱硫フラックスと平衡するS濃度を低減する効果がある。そのため、Al濃度が0.020%未満ではフラックス添加により到達するS濃度が0.0010%未満まで達しない場合がある。Al濃度が0.20%を超えて高濃度になると、Alによる脱酸効果が飽和してしまい、フラックスと平衡するS濃度低減効果も飽和してしまう。
【実施例】
【0048】
転炉で脱炭処理した溶鋼300トンを取鍋に出鋼した。出鋼時に、取鍋ごと溶鋼をRH式真空脱ガス処理装置まで搬送した後、真空処理を開始した。真空槽内の圧力は133〜4000Paとした。
【0049】
処理開始後に金属Alを添加し、Al濃度を0.035〜0.14%に調整した。Al濃度を調整した後、真空槽内の上方に設置したランスから脱硫フラックスを溶鋼1トン当たり0.6〜1.0kg/(t・min)の供給速度で合計6.0kg/tを真空槽内溶鋼に吹き付け添加した。
【0050】
表1に脱硫フラックス添加前後のS濃度と処理条件を示す。表1に示すように本発明が規定するG/Gの範囲に制御することで、脱硫フラックス添加後のS濃度が0.0004〜0.0007%まで低減した。G/Gの制御方法として、それぞれの領域に属する羽口に導入する環流ガス流量を変化させても、またはそれぞれの領域に属する羽口の数を変化させても、いずれであっても同様に脱硫反応を促進することができている。
【0051】
一方、試験No.5ではG/Gが1.2を下回り真空槽中央部へのスプラッシュ量が不十分であったため、S濃度を低減することができなかった。また、試験番号6〜8ではG/Gが3.2を上回り、上昇管内の環流ガス気泡が偏在してRHの環流量が低位になってしまったため、S濃度を低減することができなかった。
【0052】
【表1】
【符号の説明】
【0053】
1 RH式真空脱ガス装置、2 真空槽、3 上昇管、3a 上昇管の下降管側の側面(下降管側側面)、3b 上昇管の下降管側とは反対側の側面(反対側側面)、3c 還流ガス吹込み羽口(羽口)、3d 上昇管の中心、3e 上昇管の横断面外周における中央分離仮想線(仮想線)、4 下降管、4a 下降管の中心、5 上昇管の中心と下降管の中心とを結ぶ線(中心線)
図1
図2