特許第6358053号(P6358053)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6358053発振器および該発振器の発振周波数調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358053
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】発振器および該発振器の発振周波数調整方法
(51)【国際特許分類】
   H03B 5/32 20060101AFI20180709BHJP
【FI】
   H03B5/32 E
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-232581(P2014-232581)
(22)【出願日】2014年11月17日
(65)【公開番号】特開2016-96494(P2016-96494A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2017年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149734
【氏名又は名称】株式会社大真空
(74)【代理人】
【識別番号】100086737
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】重松 俊輔
【審査官】 緒方 寿彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−311884(JP,A)
【文献】 特開2002−314335(JP,A)
【文献】 特開昭62−030410(JP,A)
【文献】 特開昭62−209907(JP,A)
【文献】 特開2000−077939(JP,A)
【文献】 特開平04−192603(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0064694(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 5/30 − 5/42
H03L 1/00 − 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動子と、この振動子に接続された発振回路とを備えた発振器において、
前記振動子にバリキャップが直列接続され、
前記バリキャップのアノード・カソード間にコイルおよび抵抗のうちの少なくとも一方の素子が並列に接続され、
前記バリキャップのカソードには、当該発振器の外部から発振周波数を調整する信号が入力されないようになっている、
ことを特徴とする発振器。
【請求項2】
前記一方の素子にコンデンサが並列に接続されている請求項1に記載の発振器。
【請求項3】
前記発振回路が、発振用バイポーラトランジスタを含む発振回路であり、前記発振用バイポーラトランジスタのベースと接地との間に前記振動子と前記バリキャップとが直列接続されている請求項1または2に記載の発振器。
【請求項4】
前記発振回路が、CMOSインバータを含む発振回路であり、CMOSインバータの入出力部間に前記振動子と前記バリキャップとが直列接続されている請求項1または2に記載の発振器。
【請求項5】
前記振動子が、水晶振動子である請求項1ないし4のいずれかに記載の発振器。
【請求項6】
振動子とこの振動子に接続された発振回路とを備えた発振器の発振周波数調整方法において、
前記振動子にバリキャップを直列接続すると共に前記バリキャップのアノード・カソード間にコイルおよび抵抗のうちの少なくとも一方の素子を並列接続し、
前記振動子の励振電力が増大すると前記バリキャップの容量を増大させて前記発振器の発振周波数の周波数偏差の増加を抑制し、
前記一方の素子の電気定数を調整して前記周波数偏差の増加の抑制程度を微調整する、
ことを特徴とする発振器の発振周波数の調整方法
【請求項7】
前記一方の素子をコイルとし、該コイルに並列にコンデンサを接続し、前記コンデンサの容量を調整して前記周波数偏差の増加の抑制程度を微調整する、請求項6に記載の発振器の発振周波数の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電型等の振動子と、これに接続された発振回路とを有する発振器、および、該発振器の発振周波数調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電型等の発振器は、各種電子機器の基準信号源に広く使用されている。かかる発振器に内蔵される振動子は、励振電力が大きくなると、周波数偏差が大きくなるDLD(励振電力依存)特性を有する。このDLD特性のために、発振器では、一般に、励振電力が大きくなると、位相雑音特性が劣化する(特許文献1参照)。
【0003】
一方、発振器においては、振動子の励振電力が大きくなると、出力信号が大きくなるので、相対的に雑音信号が抑制される。このことから、雑音信号の抑制には励振電力を大きくすることが有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−154000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来の発振器では、励振電力を大きくして雑音信号を抑制しようとすると、位相雑音特性が劣化し、位相雑音が大きくなるために、両者の関係で励振電力をそれほど大きくすることができなかった。
【0006】
しかし、発振器が使用される電子機器においては、励振電力を大きくして雑音信号をできる限り抑制することが必要な場合があり、そのため励振電力を大きくしても位相雑音特性が劣化しない発振器が求められている。
【0007】
本発明は、上記に鑑みて為されたものであり、雑音信号を抑制するために、励振電力を大きくしても、位相雑音特性の劣化が抑制できる発振器、および該発振器の発振周波数調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る発振器は、振動子と、この振動子が接続された発振回路とを備えた発振器であって、振動子にバリキャップが直列接続され、バリキャップの両端間にコイルおよび抵抗のうちの少なくとも一方の素子が並列接続され、バリキャップのカソードには、発振器の外部から発振周波数を調整する信号が入力されないようになっている。
【0009】
なお、振動子とバリキャップは発振器の発振ループ内で直列接続されていれば、その接続位置は特に限定されない。
【0010】
本発明によれば、バリキャップのカソードには、発振器の外部から発振周波数を調整する信号が入力されず、かつ、バリキャップのアノード・カソード間に抵抗およびコイルのうちの少なくとも一方の素子が並列接続されているので、バリキャップのアノード・カソード間の直流電圧は固定化されている。そのため、励振電力が増大すると、バリキャップのアノード・カソード間の容量が増加するので、励振電力が増大しても周波数偏差の増加が抑制される。
【0011】
その結果、本発明によれば、発振器の出力信号に対する雑音信号を相対的に抑制するために励振電力を大きくしても、位相雑音特性が劣化することがない発振器を提供することができる。
【0012】
また、励振電力が増大するとバリキャップの容量が増大することによって、周波数偏差の増加が抑制されるが、その抑制の程度が大きすぎると、所望の周波数偏差に抑制できないので、本発明によれば、一方の素子の電気定数を調整することにより、バリキャップの容量増大による周波数偏差の増加の抑制程度を微調整し、これにより、所望の周波数偏差に抑制することが可能となる。また、このことにより、雑音信号を抑制できる大きさの励振電力において、バリキャップで周波数偏差の増加を抑制する一方、一方の素子の電気定数を調整することによって、周波数偏差ができる限り平坦となるように調整できることになる。
【0013】
一方の素子としてコイルを選択すると、そのインダクタンスを大きくするに伴い、バリキャップの容量増大による周波数偏差の増加の抑制程度をより大きく微調整することができる。
【0014】
また、一方の素子として抵抗を選択する場合、抵抗の抵抗値が変化すると、振動子に直列の容量が等価的に変化するので、これにより、抵抗値を調整することにより、周波数偏差の増加の抑制程度を微調整することができる。
【0015】
さらに、本発明によれば、一方の素子として抵抗を選択すると、発振器を集積回路化するために有利となる。
【0016】
また、近年では、発振器は、小型化や発振周波数の高周波化が促進されている。このように、発振器の小型化や、発振周波数の高周波化が促進されると、励振電力の増大に対する周波数偏差の増加がより急峻となって、発振器の位相雑音特性の劣化が顕著となる。
【0017】
この点からも、本発明によれば、励振電力が増大しても位相雑音特性の劣化を抑制できるため、上記のように、発振器が小型化しても、また発振周波数が高周波化しても有利に対応できる。
【0018】
また、携帯電話機等の通信系電子機器では、位相雑音特性は、通信性能に直接影響することで知られるが、本発明では、位相雑音特性の劣化を抑制できるので、そうした通信系電子機器に好ましく適用できる。
【0019】
本発明において、好ましい実施態様では、一方の素子にコンデンサを並列接続し、このコンデンサの容量を調整することによって、周波数偏差の増加の抑制程度を、前記と同様、微調整可能とする。
【0020】
この実施態様では、そのコンデンサの容量を調整することにより、バリキャップの容量増大による周波数偏差の増加の抑制程度を微調整することができるが、一方の素子がコイルであると、コンデンサとコイルとが並列接続されることになる。そのため、コイルのインダクタンスとコンデンサの容量とを調整することで、よりきめ細かに、周波数偏差の増加の抑制程度を微調整することができる。
【0021】
さらに詳しくは、コンデンサとコイルとが並列接続されると、コイルで周波数偏差の増加の抑制程度を微調整すると、周波数偏差がマイナス側に微調整され、そして、このマイナス側に微調整された周波数偏差をコンデンサで平坦となる方向に戻すようにきめ細かに微調整することができる。
【0022】
本発明において、他の好ましい実施態様では、前記発振回路を、発振用バイポーラトランジスタを含む発振回路とし、このバイポーラトランジスタのベースと接地との間に振動子とバリキャップとを直列接続する。
【0023】
本発明において、他の好ましい実施態様では、前記発振回路を、CMOSインバータを含む発振回路として、CMOSインバータの入出力部間に振動子とバリキャップとを直列接続する。
【0024】
本発明において、他の好ましい実施態様では、振動子は水晶振動子であるが、本発明は、水晶振動子に特に限定されるものではなく、タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムなど、水晶以外の圧電材料を用いた振動子や、セラミック材料を用いた振動子、その他の材料を用いた電気・機械振動子を含み、さらには圧電型や静電型のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)振動子も含む。
【0025】
(2)本発明に係る発振器の発振周波数調整方法は、振動子とこの振動子の発振を継続させる発振回路とを備えた発振器の発振周波数調整方法において、前記振動子に直列にバリキャップを接続すると共に前記バリキャップのアノード・カソード間に並列にコイルおよび抵抗のうちの少なくとも一方の素子を接続し、振動子の励振電力が増大するとバリキャップの容量を増大させて発振器の発振周波数の周波数偏差の増加を抑制し、前記一方の素子の電気定数を調整して周波数偏差の増加の抑制程度を微調整する、ことを特徴とする。
【0026】
本発明によれば、励振電力が増大すると、バリキャップのアノード・カソード間の容量が増加するので、励振電力が増大しても周波数偏差の増加が抑制される。これにより、発振器の出力信号に対する雑音信号を抑制するために、励振電力を大きくしても、位相雑音特性の劣化が抑制される。
【0027】
そして、一方の素子の電気定数を調整することにより、周波数偏差の増加の抑制程度を微調整して、周波数偏差を所望する周波数偏差に調整し、一層、位相雑音特性の劣化が抑制される。その結果、発振器の出力信号が安定化するので、その出力信号を電子機器の高精度に安定した基準信号源とすることが可能となる。
【0028】
本発明において、好ましい実施態様では、一方の素子をコイルとし、該コイルにコンデンサを並列接続し、そのコンデンサの容量を調整して前記周波数偏差の増加の抑制程度を微調整する。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、発振回路の雑音を抑制するために、励振電力を大きくしても位相雑音特性の劣化を抑制できる発振器と、その発振器の発振周波数の調整方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施形態に係る発振器の回路図である。
図2図1の発振器内の水晶振動子のDLD特性図である。
図3図1の発振器の位相雑音特性図である。
図4】バリキャップの逆バイアス電圧の変化に対するバリキャップの出力信号振幅対容量実測値との関係を示す図である。
図5】他の実施形態に係る発振器の回路図である。
図6図4の発振器内の水晶振動子のDLD特性図である。
図7】さらに他の実施形態に係る発振器の回路図である。
図8図7の発振器内の水晶振動子のDLD特性図である。
図9】従来の発振器の位相雑音特性と、本発明の各実施形態の発振器の位相雑音特性との比較図である。
図10】さらに他の実施形態に係る発振器の回路図である。
図11】さらに他の実施形態に係る発振器の回路図である。
図12】さらに他の実施形態に係る発振器の一部の回路図である。
図13】さらに他の実施形態に係る発振器の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る発振器および該発振器の発振周波数調整方法を詳細に説明する。なお、実施形態では振動子として水晶振動子を用いて説明するが、勿論、本発明は、振動子として水晶振動子に限定されない。
【0032】
図1図3は本発明の実施形態に係り、図1は発振器の回路図、図2は水晶振動子のDLD特性図、図3は発振器の位相雑音特性図である。図1を参照して、発振器1は、ディスクリート部品で構成されたディスクリートタイプのコルピッツ型発振器であり、振動子としてATカット型の水晶振動子2と、この水晶振動子2に接続された発振回路3と、を備える。
【0033】
水晶振動子2は、ATカット型であるが、SCカット等の他の種類の水晶振動子であってもよい。なお、本発明の発振器はコルピッツ型であるが、ハートレー型等、他の型の発振器であってもよく、その種類に限定されない。
【0034】
発振回路3は、発振用のバイポーラトランジスタTR1と、ベースバイアス抵抗r1,r2と、コレクタ抵抗r3と、エミッタ抵抗r4と、コンデンサC1,C2と、を備える。ベースバイアス抵抗r1,r2は直流電源と接地との間に直列接続されている。ベースバイアス抵抗r1,r2の接続中点に、バイポーラトランジスタTR1のベースが接続されている。バイポーラトランジスタTR1のベースは、コンデンサC1とC2との直列回路を介して接地されている。コンデンサC1とC2の接続中点は、バイポーラトランジスタTR1のエミッタに接続されている。バイポーラトランジスタTR1のベース・接地間に、水晶振動子2とバリキャップ4との直列回路が挿入接続されている。
【0035】
水晶振動子2の一端側は、バイポーラトランジスタTR1のベースに接続されている。水晶振動子2の他端側は、補償回路6に接続されている。
【0036】
補償回路6は、バリキャップ4と、コイル5との並列回路によって構成されている。
【0037】
補償回路6において、バリキャップ4は、カソードが水晶振動子2に接続され、アノードが接地されて、水晶振動子2に直列接続されている。
【0038】
バリキャップ4は、水晶振動子2に対して上記のように直列接続されていることにより、水晶振動子2の励振電力が増大しても周波数偏差の増加を抑制する。また、バリキャップ4のカソードには、発振器1の外部から発振周波数を調整する信号が入力されない。
【0039】
コイル5は、バリキャップ4のアノード・カソード間に並列接続されて、当該アノード・カソード間の直流電圧を固定すると共に、そのインダクタンスを適宜設定することにより、バリキャップ4による周波数偏差の増加の抑制程度を微調整することができる。
【0040】
以上のように実施形態では、補償回路6内のバリキャップ4のアノード・カソード間の直流電圧がコイル5により固定化されていることにより、水晶振動子2の励振電力が増大すると、バリキャップ4の容量は増大する。
【0041】
以下、本実施形態の動作を説明するが、発振器1の基本動作は、周知であるので、詳細を略する。発振器1に電源端子Vccから直流電源の電源電圧が印加されると、発振回路3が動作し、水晶振動子2は、固有の共振周波数で共振すると共に、その共振出力は、発振回路3で増幅され、出力端子OUTから出力される一方、発振ループを介して、水晶振動子2に帰還される。これにより、水晶振動子2の共振が継続される。
【0042】
図2を参照して、水晶振動子2に補償回路6が直列接続されていないときと、水晶振動子2に補償回路6が直列接続されているときの励振電力の増加に対する周波数偏差の変化を説明する。図2において、横軸は励振電力(μW)、縦軸は周波数偏差(ppm)である。
【0043】
水晶振動子2に補償回路6が接続されていないと、図2の破線に示すように、水晶振動子2のDLD特性により、励振電力が10μW付近から増大していくに伴い、周波数偏差(ppm)は、0からプラス側へ急増する。
【0044】
これに対して、水晶振動子2に補償回路6が直列接続されていると、図2の実線a〜dに示すように、励振電力が10μW付近から増大しても、周波数偏差の増加はマイナス側に抑制される。また、実線a〜dで示す周波数偏差の変化によれば、補償回路6のコイル5のインダクタンス(電気定数)の設定により、周波数偏差の増加の抑制程度を微調整できることが判る。
【0045】
以上のように、本実施形態においては、バリキャップ4のアノード・カソード間の直流電圧が、コイル5によって固定されているので、バリキャップ4のアノード・カソード間の容量は、励振電力の増加に伴い増加する。これにより、励振電力が増加しても周波数偏差の増加が抑制され、さらにバリキャップ4に並列接続されているコイル5のインダクタンスを変更することによって、周波数偏差の増加の抑制程度を実線a〜dに示すように微調整することができる。
【0046】
なお、コイル5としてインダクタンスがそれぞれ200μH、100μH、68μH、47μHの各コイルを用いたが、コイル5のインダクタンスは、振動子として水晶振動子2以外の他の振動子が使用される場合においては、振動子それぞれのDLD特性に対応して適宜に設定するとよい。
【0047】
なお、コイル5のインダクタンスの好ましい範囲は、そのリアクタンス成分が、バリキャップ4のリアクタンス成分の絶対値よりも十分に大きいことが望ましく、少なくとも3倍以上が必要である。図2の例では、バリキャップ4はその容量が27pF、周波数10MHzであるので、バリキャップ4のリアクタンスは−589Ωとなる。そのためコイル5のリアクタンスは1768Ω以上となり、周波数10MHzでのインダクタンスは28.1μH以上の値が適切である。
【0048】
このように、補償回路6が、水晶振動子2に直列接続されていると、励振電力が大きくなっても、水晶振動子2の周波数偏差の増加は抑制される。その結果、図3に示すように、発振器1の位相雑音特性の劣化は、抑制される。
【0049】
なお、補償回路6は、水晶振動子2と接地との間に接続されているが、接続箇所はこれに限定されず、例えば発振回路3のバイポーラトランジスタTR1のベースと水晶振動子2との間に接続されてもよい。
【0050】
図3は、補償回路6が無しの場合の位相雑音特性(A)と、補償回路6が有りの場合の位相雑音特性(B)とを示す図である。図3において、横軸はオフセット周波数(Hz)、縦軸は位相雑音(dBc/Hz)である。位相雑音は、発振周波数における発振器1の出力信号の振幅と、発振周波数から一定の周波数離れた周波数(オフセット周波数)における雑音信号の振幅との比で定義される。図3に示すように、位相雑音の振幅は、オフセット周波数が高くなるに従い、山裾状に小さくなる。
【0051】
図3から明らかなように、補償回路6有りの位相雑音特性(B)は、補償回路6無しの位相雑音特性(A)と比較すると、オフセット周波数30Hz以下で位相雑音の振幅は小さくなっている。これにより、発振器1の位相雑音特性は、特にオフセット周波数30Hz以下で、補償回路6によって、大きく改善されることが判る。
【0052】
図4は、バリキャップのアノード・カソード間の直流電圧を固定した場合のバリキャップの信号レベル対バリキャップのアノード・カソード間容量との関係を示す図であり、横軸はバリキャップの信号振幅(dBm)、縦軸はバリキャップのアノード・カソード間容量の実測値(F)を示している。バリキャップの信号レベル(dBm)は、励振電力に対応する。
【0053】
同図中の実線a〜hは、バリキャップのアノード・カソード間の逆バイアス電圧(V)を変えた場合の前記関係を示す。実線aは−0.6V、実線bは−0.4V、実線cは−0.2V、実線dは0V、実線eは0.2V、実線fは0.6V、実線gは0.8V、実線hは1Vの逆バイアス電圧を示す。図4に示すように、バリキャップ4にコイル5を並列接続することで、バリキャップ4の容量は、励振電力の増大と共に増加していることが判る。
【0054】
以上のように、本実施形態においては、水晶振動子2に、補償回路6が直列接続されているので、水晶振動子2の励振電力を大きくしても、周波数偏差の増加は、バリキャップ4により抑制される。その結果、励振電力を大きくしても、発振器の位相雑音特性が改善される。また、コイル5のインダクタンスを調整することによって、周波数偏差の増加の抑制程度を微調整し、これにより、励振電力の増加に対する周波数偏差の変化をより平坦に近づけることができる。その結果、本実施形態においては、雑音信号を抑制するため、励振電力を大きくしても、位相雑音特性が劣化しない発振器を提供できる。
【0055】
図5および図6を参照して、本発明の他の実施形態に係る発振器1Aを説明する。図5において、図1と対応する部分には同一の符号を付している。この実施形態の発振器1Aにおいては、水晶振動子2と、これに接続される発振回路3は、図1と同様であるので、その説明を省略する。
【0056】
本実施形態の補償回路6Aは、バリキャップ4と抵抗7との並列回路で構成されている。この補償回路6Aは、水晶振動子2に対して直列接続されている。この実施形態の発振器1Aにおいても、上述の実施形態と同様に、バリキャップ4のカソードに、発振器1Aの外部から発振周波数を調整する信号が入力されないようになっている。
【0057】
この構成により、補償回路6Aのバリキャップ4は、抵抗7によりアノード・カソード間の直流電圧が固定化されている。その結果、上記の実施形態と同様、励振電力が増大すると、水晶振動子2の容量が増大する。
【0058】
なお、補償回路6Aは、水晶振動子2と接地との間に接続されているが、接続箇所はこれに限定されず、発振回路3のバイポーラトランジスタTR1のベースと水晶振動子2との間に接続されてもよい。
【0059】
図6において横軸は励振電力(μW)、縦軸は周波数偏差(ppm)を示す。また同図中の実線a〜hは、補償回路6A内の抵抗7の抵抗値が、330kΩ(実線a)、100kΩ(実線b)、33kΩ(実線c)、10kΩ(実線d)、3.3kΩ(実線e)、1kΩ(実線f)、330Ω(実線g)、100Ω(実線h)とした場合の励振電力と周波数偏差との関係を示す線である。図6の破線は、補償回路6Aが無いときの励振電力と周波数偏差との関係を示す線である。
【0060】
図6に示すように、補償回路6Aが水晶振動子2に接続されていないと、破線のように励振電力の増加に対する周波数偏差の増加割合は大きい。一方、補償回路6Aが水晶振動子2に接続されていると、バリキャップ4により周波数偏差の増加は抑制される一方、抵抗7の抵抗値が小さくなるに従い、特に3.3kΩ以下では周波数偏差の増加の抑制程度を効果的に微調整できる。
【0061】
このことにより、バリキャップ4のアノード・カソード間の直流電圧が抵抗7で固定されていると、バリキャップ4のアノード・カソード間の容量は励振電力の増加に伴い増加する。そのため、励振電力の増大に伴う周波数偏差の増加は、バリキャップ4の容量増加によって、抑制されるとともに、実線a〜hに示すように、抵抗7の抵抗値を変更することによって、周波数偏差の増加の抑制程度を微調整することができる。この場合、抵抗7の抵抗値の変更は、抵抗値が異なる抵抗と置き換えたり、あるいは、レーザ等により抵抗トリミングしたりするなど、公知の手法を用いて行うことができる。
【0062】
なお、抵抗7としては抵抗値が330kΩ、100kΩ、33kΩ、10kΩ、3.3kΩ、1kΩ、330Ω、100Ωの抵抗を用いたが、抵抗7の抵抗値の好ましい範囲は3.3k〜33kΩである。なお、この抵抗値は周波数、バリキャップ4などの条件に依存する。図6より、効果が得られる抵抗値の領域、つまり無補償(破線)より周波数偏差が平坦になるのは、実線c〜hであり、33kΩ以下となっている。一方、抵抗7とバリキャップ4との並列回路を、直列モデルに変換したときの抵抗値(直列抵抗)は安定発振の妨げとなる。例えば、10MHzにおいてバリキャップ4の容量27pFとし、直列損失を100Ω以下に抑えることを想定すると、並列抵抗値は3.3kΩ以上となる。したがって抵抗値は3.3kΩ〜33kΩの範囲とするのが望ましい。
【0063】
図7および図8を参照して、本発明のさらに他の実施形態に係る発振器1Bを説明する。図7において、図1と対応する部分には同一の符号を付している。この実施形態の発振器1Bにおいては、水晶振動子2とこれに接続される発振回路3は、図1と同様であるので、その説明を省略する。
【0064】
この発振器1Bの補償回路6Bは、バリキャップ4と、コイル8と、コンデンサ9との並列回路から構成されている。補償回路6Bは、水晶振動子2に対して直列接続されている。バリキャップ4のカソードには、発振器1Bの外部から発振周波数を調整する信号が入力されない。そして、この実施形態では、バリキャップ4にコイル8が並列接続されて、バリキャップ4のアノード・カソード間の直流電圧が固定されているので、上記実施形態と同様、励振電力の増大に伴って、バリキャップ4の容量は増大する。これにより、励振電力が増大しても、周波数偏差の増加は抑制されると共に、コイル8のインダクタンス、コンデンサ9の容量を調整することによって、周波数偏差の増加の抑制程度を微調整することができる。
【0065】
なお、補償回路6Bは、水晶振動子2と接地との間に接続されているが、接続箇所はこれに限定されず、発振回路3のバイポーラトランジスタTR1のベースと水晶振動子2との間に接続されてもよい。
【0066】
図8に補償回路6Bの有無による励振電力の増加に対する周波数偏差の変化を示す。この周波数偏差の変化は、コイル8のインダクタンスを100μHに固定しておき、コンデンサ9の容量のみを変化させた場合を示す。同図中、破線は、補償回路6Bが無いときの周波数偏差の変化を示す。また、補償回路6Bが有るときは、実線a〜iにそれぞれ示すように、コンデンサ9の容量を調整することにより、バリキャップ4による周波数偏差の増加の抑制程度が微調整される。
【0067】
この実施形態においては、励振電力が大きくなっても、バリキャップ4によって周波数偏差の増加は抑制され、さらに、コンデンサ9の容量を調整することによって、実線a〜iに示すように、周波数偏差の増加の抑制程度を微調整することができる。なお、コイル8のインダクタンスを変更しても周波数偏差の増加の抑制程度を微調整することができる。実線a〜iは、それぞれコンデンサ9の容量が、0pF(実線a)、3pF(実線b)、6pF(実線c)、10pF(実線d)、15pF(実線e)、22pF(実線f)、33p(実線g)F、47pF(実線h)、100pF(実線i)である実線であり、コンデンサ9の容量が100pFから0pFへ小さくなるほど、周波数偏差の増加は抑制されなくなることが判る。
【0068】
この場合、コイル8は誘導性であり、コンデンサ9は容量性であるので、コイル8のインダクタンスとコンデンサ9の容量との組合せを適宜に設定することによって、周波数偏差の増加の抑制程度をより高精度に微調整することができる。
【0069】
特に、コンデンサ9の調整値としては、発振回路3が動作する励振電力において周波数偏差が最も平坦になる条件を選択して決定する必要がある。本実施形態では、励振電力は約100μWに設定しているので、図8に示すように、実線b〜dあたりが100μWにおいて周波数偏差が平坦になっている。
【0070】
図9に、補償回路6無しの発振器の位相雑音特性(A)と、図5の実施形態の発振器1A(ただし、補償回路6Aの抵抗12の抵抗値10kΩ)の位相雑音特性(B)と、図7の実施形態の発振器1B(ただし、補償回路6Bのコイル10のインダクタンス100μH、コンデンサの容量5pF)の位相雑音特性(C)とを示す。
【0071】
図9に示すように、オフセット周波数10Hz近傍以下では、発振器1A,1Bの位相雑音特性(B)(C)は、補償回路無しの発振器の位相雑音特性(A)と比較して大きく改善される。
【0072】
図10を参照して、本発明のさらに他の実施形態に係る発振器1Cを説明する。図10において、図1と対応する部分には同一の符号を付している。この実施形態の発振器1Cにおいては、水晶振動子2とこれに接続される発振回路3は、図1と同様であるので、その説明を省略する。
【0073】
この実施形態の発振器1Cにおいて、補償回路6Cは、バリキャップ4と、コイル10と、コンデンサ11と、抵抗12との並列回路からなり、水晶振動子2に対して直列接続され、かつ、バリキャップ4のカソードには、発振器1Cの外部から発振周波数を調整する信号が入力されないようになっている。この実施形態においても、バリキャップ4のアノード・カソード間の直流電圧は、コイル10と抵抗12とにより固定されているので、バリキャップ4は、水晶振動子2の励振電力の増大と共に容量が増大する特性を有する。
このため、実施形態の発振器1Cにおいても、上記実施形態と同様に、補償回路6Cにより、励振電力を大きくして発振回路3の雑音を相対的に小さくしても、発振器1Cの位相雑音特性の劣化が抑制される。また、コイル10、コンデンサ11、抵抗12それぞれの電気定数(インダクタンス、容量、抵抗値)を適宜調整することによって、バリキャップ4による周波数偏差の抑制程度を微調整することができる。
【0074】
なお、補償回路6Cは、水晶振動子2と接地との間に接続されているが、接続箇所はこれに限定されず、発振回路3のバイポーラトランジスタTR1のベースと水晶振動子2との間に接続されてもよい。
【0075】
図11を参照して、本発明のさらに他の実施形態に係る発振器1Dを説明する。この発振器1Dにおいては、補償回路6Dと、接地との間に周波数制御回路15を設けている。
補償回路6Dは、上述した各補償回路6A〜6Cのいずれであってもよいが、この実施形態では図7の補償回路6Bと同様、バリキャップ4とコイル13とコンデンサ14との並列回路としている。
【0076】
この実施形態では水晶振動子2に補償回路6Dが直列接続されているので雑音信号を抑制するため、励振電力を大きくしても位相雑音特性の劣化を抑制することができることは、上記実施形態と同様であるので、その説明を省略する。この実施形態では周波数制御回路15が水晶振動子2に対して補償回路6Dと共に直列接続されている。
【0077】
この周波数制御回路15は、バリキャップ16と、抵抗r5と、一対の入力端子IN1,IN2とを含む。バリキャップ16のカソードはバリキャップ4のアノードに接続されている。バリキャップ16には、入力端子IN1,IN2を介して周波数制御用の直流電圧が印加されるので、バリキャップ16の容量はその直流電圧の大きさに応じて変化する。これにより、発振器1Dは、入力端子IN1,IN2間に直流電圧の大きさを調整することによって、発振周波数を制御することができる。
【0078】
図11では周波数制御回路15は補償回路6Dと接地との間に設けられているが、図12に示すように、周波数制御回路15は、水晶振動子2と補償回路6Dとの間に設けてもよい。図12において、周波数制御回路15は、バリキャップ16と抵抗r6,r7と、入力端子IN3とを有する。バリキャップ16のカソードは、水晶振動子2に接続され、アノードは、補償回路6Dのバリキャップ4のカソードに接続されている。周波数制御回路15のバリキャップ16のアノードは抵抗r7を介して接地されている。この周波数制御回路15の場合も、図11と同様に、入力端子IN3に周波数制御電圧が印加されると、バリキャップ16の容量は変化するので、これにより発振器1Dの発振周波数を制御することができる。
【0079】
図13を参照して、本発明のさらに他の実施形態に係る発振器1Eを説明する。この発振器1Eは、発振器部品を集積回路化できるタイプの発振器であって、発振回路3Aと、水晶振動子17と、補償回路6Eとを備える。そして、発振回路3Aは、CMOSインバータINV1と、このCMOSインバータINV1の入出力部間に並列に接続された帰還抵抗r8と、CMOSインバータINV1の入力部と接地との間、および出力部と接地との間に負荷容量として接続されたコンデンサC3,C4とを備える。
【0080】
CMOSインバータINV1の入出力部間には、水晶振動子17と補償回路6Eとの直列回路が並列接続されている。
【0081】
補償回路6Eは、バリキャップ18と、コイル19と、コンデンサ20との並列回路で構成される。バリキャップ18は、水晶振動子17に直列接続されている。
なお、水晶振動子17と補償回路6EはCMOSインバータINV1の入出力部間に並列接続されていれば、水晶振動子17と補償回路6Eの直列接続順序は入れ替えてもよい。
【0082】
この実施形態でも、バリキャップ18のアノード・カソード間にコイル19が並列接続されていることで、アノード・カソード間の直流電圧が固定されているので、上述の実施形態と同様に、補償回路6Eによって、発振回路3Aの雑音を抑制するため、励振電力を大きくしても、周波数偏差の増加は抑制され、これによって発振器1Eの位相雑音特性の劣化が抑制される。また、コイル19のインダクタンスと、コンデンサ20の容量を調整することによって、前記周波数偏差の増加の抑制程度を微調整することができる。
【0083】
以上、各実施形態を説明したように、水晶振動子にバリキャップを直列接続し、バリキャップのアノード・カソード間に抵抗およびコイルのうちの少なくとも一方の素子を並列接続することで、バリキャップのアノード・カソード間の直流電圧を固定したことで、励振電力が増大すると、バリキャップのアノード・カソード間の容量が増加し、これによって、励振電力が増大しても周波数偏差の増加が抑制される。そしてバリキャップのアノード・カソードに並列接続したコイルや抵抗の電気定数を調整することで、バリキャップによる周波数偏差の増加の抑制程度を微調整することができ、これによって、発振回路の雑音信号を抑制するため、振動子の励振電力を大きくしても、位相雑音特性の劣化を抑制できる発振器およびその発振周波数の調整方法を提供することができる。
【0084】
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形態で実施できる。したがって、前述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、本発明の範囲は特許請求の範囲に示すものであって、明細書本文には何ら拘束されない。さらに、特許請求の範囲に属する変形や変更は全て本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0085】
1,1A〜1E 発振器
2,17 水晶振動子
3,3A 発振回路
4,18 バリキャップ
5,8,10,13 コイル
6,6A〜6E 補償回路
7,12 抵抗
5,8,10,19 コイル
9 コンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
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