特許第6358110号(P6358110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6358110セラミックス複合材料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358110
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】セラミックス複合材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/565 20060101AFI20180709BHJP
   C04B 35/58 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   C04B35/565
   C04B35/58 050
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-9888(P2015-9888)
(22)【出願日】2015年1月21日
(65)【公開番号】特開2016-132607(P2016-132607A)
(43)【公開日】2016年7月25日
【審査請求日】2017年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100172269
【弁理士】
【氏名又は名称】▲徳▼永 英男
(74)【代理人】
【識別番号】100140121
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 朝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕
(72)【発明者】
【氏名】松林 重治
(72)【発明者】
【氏名】香月 太
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−351671(JP,A)
【文献】 特開2001−280514(JP,A)
【文献】 特開平10−095670(JP,A)
【文献】 特開平03−005369(JP,A)
【文献】 特開平08−067568(JP,A)
【文献】 特開昭63−303859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
30〜70体積%のSiCよりも熱膨張率の大きい炭化物もしくはホウ化物の少なくとも1種と、30〜70体積%のSiCとを含む第1相と、
5〜30体積%のSiCよりも熱膨張率の大きい炭化物もしくはホウ化物の少なくとも1種と、70体積%〜95体積%のSiCとを含む第2相を含み、
第1相、第2相の各相に含まれるSiCより熱膨張率の大きい炭化物およびホウ化物の合計体積割合の差が少なくとも20体積%であり、
最大長径が20〜200μmである第2相が第1相中に分散しており、
第2相が全体の5〜20体積%含まれることを特徴とする、セラミックス複合材料。
【請求項2】
SiCよりも熱膨張率の大きい炭化物もしくはホウ化物の少なくとも1種の原料粉末を30〜70体積%、SiCの原料粉末を30〜70体積%の割合で混合して造粒する第1相造粒粉製造工程と、
SiCよりも熱膨張率の大きい炭化物もしくはホウ化物の少なくとも1種の原料粉末を5〜30体積%、SiCの原料粉末を70体積%〜95体積%の割合で混合して造粒する第2相造粒粉製造工程と、
前記2種の造粒粉を混合、成形する成型工程と、
前記成型体を焼成する焼成工程とからなる請求項1に記載のセラミックス複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造用部材に使用する、耐摩耗、耐欠損、耐熱性に優れたセラミックス複合材料、に関係する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスは、耐摩耗性、耐熱性等に優れた部材として有用な材料であり、アルミナ(Al23)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si34)などの構造用セラミックスが鉄などの金属材料に替わる優れた耐摩耗性材料として実用化されている。しかしながら、このようなセラミックス材料は、靱性が低く衝撃に弱い欠点がある。特にSiCは、耐摩耗性とともに高温強度、耐酸化性に優れた材料であるが、窒化ケイ素等に比べて靭性が低い材料である。このため、自動車用部材、ガスタービン部材、圧延用のガイド部材、切削工具のチップ用材料などへ適用するために、SiCの靱性を改善し、耐衝撃性を高める手段として、TiCやTiB2等の炭化物やホウ化物の粒子を複合化したセラミックス複合材料の開発が進められてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、SiCをマトリックスとし、炭化ホウ素(B4C)、炭化チタン(TiC)、窒化チタン(TiN)、硼化チタン(TiB2)の粒子が分散したSiC複合セラミックスをプラズマ放電焼結により製造する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、Ti、Si、BおよびCの混合粉末を原料とし、燃焼合成反応による加圧焼結で、実質的に空隙(ポア)のないTiB2 −SiC系複合セラミックスを製造する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、SiC焼結体中に平均径1〜10μmのTi(1-x)Zrx2(0.02≦x≦0.25)のホウ化チタン−ホウ化ジルコニウム固溶体粒子が、体積分率20〜70%の範囲で分散し、かつ相対密度が99%以上である粒子分散SiC質焼結体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−95670号公報
【特許文献2】特開平10−101433号公報
【特許文献3】特開2000−351671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
SiCは、耐摩耗性とともに高温強度、耐酸化性に優れた材料であり、複合材料とすることにより、SiCの欠点である靱性を改善し、耐衝撃性を高めるとともに、硬度を改善して更に耐摩耗性を高めることはSiCを構造用部材として用いるのに重要な技術である。
【0008】
なお、特許文献1には、SiCをマトリックスとし、炭化ホウ素(B4C)、炭化チタン(TiC)、窒化チタン(TiN)、ホウ化チタン(TiB2)の粒子が分散したSiC複合セラミックスをプラズマ放電焼結により製造する方法が開示されている。
【0009】
この技術では、プラズマ放電焼結という特殊な焼結方法を用いることにより、ナノサイズの分散粒子により材料組織が微細、均質化されることで高特性の材料が得られているが、同様の材料を従来のセラミックスのプロセスで作製しても高特性のものが得られないのは、文献に書かれている通りである。
【0010】
プラズマ放電焼結では、プラズマ放電を起こさせるために粉末や成形体を型に入れて加圧しながら通電し放電を起こすことが必要であるため、複雑形状品あるいは大型品の製造が困難であり、大型品を製造する場合、圧力や温度の不均一が生じやすく、特性にバラツキが発生しやすい問題がある。また、特殊な設備を必要とし、製造コストも高くなってしまう問題点がある。
【0011】
また、特許文献2には、TiB2とSiCとで構成されている実質的に空隙のないTiB2−SiC系複合セラミックスが開示されている。
しかしながら、その製造方法としては、原料のTi、Si、B、Cを混合、成形したペレットを金型内で燃焼合成させながら加圧して複合セラミックスを製造する方法をとっており、複雑形状品あるいは大型品の製造が困難であり、製造コストも高くなってしまう問題点がある。また、実施例として開示されている反応生成物の機械的特性も押し込み硬さ(Hv)が2400kgf/mm2未満であり、SiCの硬度に比べて大きく改善されていない。
【0012】
また、特許文献3には、SiC焼結体中に平均径1〜10μmのホウ化チタン−ホウ化ジルコニウム固溶体粒子が分散した粒子分散SiC質焼結体が開示されている。
しかしながら、実施例として開示されている特性はビッカース硬度が高いものは靭性が低く、硬度が高いものは靭性が低くなっているなど、高硬度と高靭性を両立することは困難である結果となっている。
【0013】
本発明は、このような課題を解決し、生産性が高く、低コストで、複雑形状の製造が可能であり、且つ、高い耐摩耗性と耐欠損性を有する、即ち高硬度と高靭性を両立したSiC複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、「30〜70体積%のSiCよりも熱膨張率の大きい炭化物もしくはホウ化物の少なくとも1種と、30〜70体積%のSiCとを含む第1相と、5〜30体積%のSiCよりも熱膨張率の大きい炭化物もしくはホウ化物の少なくとも1種と、70体積%〜95体積%のSiCとを含む第2相、および不可避的不純物と焼結助剤として添加した成分の化合物からなり、20〜200μmのサイズの第2相が第1相中に分散していることを特徴とする、セラミックス複合材料」によって、従来の材料よりも硬度および靭性が高く、耐摩耗、耐欠損、耐熱性に優れたセラミックス複合材料が得られることを見出した。
【0015】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
【0016】
(1)30〜70体積%のSiCよりも熱膨張率の大きい炭化物もしくはホウ化物の少なくとも1種と、30〜70体積%のSiCとを含む第1相と、
5〜30体積%のSiCよりも熱膨張率の大きい炭化物もしくはホウ化物の少なくとも1種と、70体積%〜95体積%のSiCとを含む第2相を含み、
第1相、第2相の各相に含まれるSiCより熱膨張率の大きい炭化物およびホウ化物の合計体積割合の差が少なくとも20体積%であり、
最大長径が20〜200μmである第2相が第1相中に分散しており、
第2相が全体の5〜20体積%含まれることを特徴とする、セラミックス複合材料。
【0017】
(2)SiCよりも熱膨張率の大きい炭化物もしくはホウ化物の少なくとも1種の原料粉末を30〜70体積%、SiCの原料粉末を30〜70体積%の割合で混合して造粒する第1相造粒粉製造工程と、
SiCよりも熱膨張率の大きい炭化物もしくはホウ化物の少なくとも1種の原料粉末を5〜30体積%、SiCの原料粉末を70体積%〜95体積%の割合で混合して造粒する第2相造粒粉製造工程と、
前記2種の造粒粉を混合、成形する成型工程と、
前記成型体を焼成する焼成工程とからなる(1)に記載のセラミックス複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、硬度および靭性が高く、信頼性の高いセラミックス複合材料およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のセラミックス複合材料は、組成の異なる第1相と第2相とで構成される。
第1相は、30〜70体積%のSiCよりも熱膨張率の大きい炭化物もしくはホウ化物の少なくとも1種と、30〜70体積%のSiCとを含む。
また、第2相は、5〜30体積%のSiCよりも熱膨張率の大きい炭化物もしくはホウ化物の少なくとも1種と、70体積%〜95体積%のSiCを含む。
【0020】
また、第1相、第2相の各相に含まれるSiCより熱膨張率の大きい炭化物およびホウ化物の合計体積割合の差が少なくとも20体積%あることを特徴とする。
第2相の体積含有割合は、第1相の体積含有割合より少なく、最大長径が20〜200μmである粒状あるいは島状で第1相に分散した状態になっており、この粒状あるいは島状の第2相をマトリックスの第1相が取り囲む構造となっている。
第1相と第2相は、いずれもSiCより熱膨張の大きい炭化物もしくはホウ化物とSiCから構成されるが、第1相の方が熱膨張の大きい炭化物もしくはホウ化物を多く含むため、第1相の熱膨張係数の方が第2相よりも大きくなる。
【0021】
本発明の複合材料は、原料粉末を混合、成形して高温で焼成することにより得ることが出来るが、高温で緻密化した第1相および第2相は、冷却過程で熱膨張係数差により、粒状もしくは島状の第2相に圧縮の残留応力が働く。
【0022】
複合材料が破壊する際、第2相に働く圧縮応力により、クラックの先端が第2相の近傍に達すると伸展が抑制されるとともに、クラックが第2相に向かって進まずに、第1相と第2相の境界やその近傍で第2相を避けるようにクラックが伸展するクラックの偏向が起こり、破壊エネルギーを増大するため、靭性の高い材料を得ることができる。
【0023】
一般的なセラミックス複合材料においても、熱膨張率の異なる粒子を用いた場合、熱膨張率の大きい結晶粒が熱膨張率の小さい結晶粒を取り囲む構造にすれば、熱膨張率の小さな結晶粒に圧縮応力が働き、同様の効果を得ることが出来るが、共有結合性が高く難焼結性であるSiCや炭化物、ホウ化物の場合、焼結過程での粒成長が起こりにくく、それぞれの結晶粒径が数μm〜10μmのものしか得られないため、発生する残留応力も小さく、クラックの偏向も結晶粒径が小さいために大きな偏向が起こりにくい。
特に複合材料の場合、それぞれの異種粒子が障壁となり粒成長を抑制する効果があるため、結晶粒径の大きな複合材料を得ることが難しく、クラック偏向等による靭性向上の効果が少なくなってしまう。
【0024】
本発明の第1相は、30〜70体積%のSiCよりも熱膨張率の大きい炭化物もしくはホウ化物の少なくとも1種を含み、第1相もSiCと炭化物もしくはホウ化物の複合材料となっており、SiCに比べて靭性が高い相となっている。炭化物もしくはホウ化物の少なくとも1種が30体積%より少ない場合、第2相との熱膨張率の差が小さくなるため、第2相に働く残留応力が小さくなり、十分な高靱化の効果を得ることができない。また、SiCと炭化物もしくはホウ化物との複合化による高靭化の効果が得られず、第1相が靭性の低い相となってしまうため、複合材料全体の特性が低下する原因となる。
【0025】
炭化物もしくはホウ化物の少なくとも1種が70体積%より多い場合、第2相との熱膨張率の差が大きくなり過ぎて、第1相と第2相の境界でクラック等が発生する原因となる可能性がある。また、炭化物もしくはホウ化物とSiCの複合化による高靭化の効果が得られず、第1相が靭性の低い相となってしまうため、複合材料全体の特性が低下する原因となる。
【0026】
一方、第2相は、5〜30体積%のSiCよりも熱膨張率の大きい炭化物もしくはホウ化物の少なくとも1種を含む。炭化物もしくはホウ化物の少なくとも1種が5体積%より少ない場合、第2相のほとんどがSiCから構成されるため、第2相の靭性が低くなり、伸展したクラックが第2相を破断する形で伸展してしまい、複合材料全体の靭性が低下してしまう。
炭化物もしくはホウ化物の少なくとも1種が30体積%より多い場合、第1相との熱膨張率の差が小さくなるため、第2相に働く圧縮応力が小さくなり、十分な高靱化の効果を得ることができない。
【0027】
第1相、第2相の各相に含まれるSiCより熱膨張率の大きい炭化物もしくはホウ化物の少なくとも1種の体積割合の差が20体積%未満の場合、第1相と第2相の熱膨張率の差が小さく、充分な圧縮応力が第2相に働かないため、クラックの伸展を抑制する効果を得ることができない。また、この体積割合の差には、本発明の第1相と第2相のSiCおよび炭化物、ホウ化物の範囲であれば、特に上限はない。
【0028】
第2相としては、最大長径が20〜200μmとサイズの大きい第2相を熱膨張率の高い第1相に分散させることにより、従来の複合材料よりも残留応力による靭性向上の効果が大きい材料を得ることができる。
第2相は、粒状あるいは島状の形態で第1相に分散されているが、最大長径が20μmより小さい場合、クラックの偏向が小さく起こるため、破壊エネルギーが大きくならないため、十分な高靱化の効果が得られない。
【0029】
また、最大長径が200μmより大きい場合、クラックの偏向に必要なエネルギーが大きくなりすぎるために、クラックが偏向せずに第2相を貫通して伸展するために、破壊エネルギーが大きくならず、十分な高靱化の効果が得られない。
【0030】
第2相の含有割合は、全体の5〜20体積%であることが望ましい。第2相の含有割合が全体の5体積%より少ないと、クラックが伸展した際、第2相によるクラック偏向が起こる確率が低くなり、破壊エネルギーの大きくならない場合があるため望ましくない。
また、第2相が全体の20体積%より多くなると、第2相同士が接触してネットワークを形成して結合してしまい、第1相が第2相を取り囲む構造にならない部分が生じ、熱膨張率の差による圧縮応力が発生しない領域が生じることがあり、高靭性が得られない場合があるため望ましくない。
第2相の含有率を複合材料全体の5〜20体積%とすることで、クラックの偏向が起こりやすくなり、靱性の高い複合材料を得ることが可能となる。
【0031】
第1相および第2相に含まれるSiCより熱膨張率の大きい炭化物もしくはホウ化物、およびSiCの結晶粒の最大長径が1〜20μmであることが望ましい。
炭化物、ホウ化物およびSiCの結晶粒が1μmより小さい場合、第1相もしくは第2相の靭性が低くなるため、複合材全体としての靭性も高いものを得ることが難しい。
また、炭化物、ホウ化物およびSiCの結晶粒の最大長径が20μmより大きい場合、複合材料の強度が低下するとともに靭性も低下してしまうため望ましくない。
炭化物、ホウ化物およびSiCの結晶粒の最大長径が1〜20μmで構成されることにより、強度も高く、靭性も高い複合材料を得ることができる。
【0032】
SiCよりも熱膨張率の大きい炭化物としては、TiC、ZrC、HfC、Mo2C、NbC、TaC、VCを用いることができるが、高硬度の複合材料が得られるTiC、ZrC、HfCを用いることが望ましい。SiCの熱膨張率は4.3ppm/Kであるのに対し、TiCは8.0ppm/K、ZrCは7.0ppm/K、HfCは6.8ppm/K、Mo2Cは7.8〜9.3ppm/K、NbCは7.2ppm/K、TaCは7.1ppm/K、VCは7.3ppm/Kである。
【0033】
また、SiCよりも熱膨張率の大きいホウ化物としては、TiB2、ZrB2、HfB2、MoB2、NbB2、TaB2、LaB6を用いることができ、特にTiB2、ZrB2、HfB2を用いることが高硬度、高靭性の複合材料を得ることができる。それぞれの熱膨張率は、TiB2が8.8ppm/K、ZrB2が5.9ppm/K、HfB2が6.3ppm/K、MoB2が7.7ppm/K、NbB2が8.0ppm/K、TaB2が8.2ppm/K、LaB6が6.4ppm/Kである。
【0034】
次に、本発明のセラミックス材料の製造方法について説明する。
【0035】
炭化物、ホウ化物およびSiCの原料として、10μm以下の平均粒径のものを用い、望ましくは平均粒径が5μm以下のものを用いる。
平均粒径が10μmより大きいものを用いた場合、緻密化するのが困難となる。また、平均粒径が3μm以下のものを用いることにより、緻密で靭性や硬度の高い複合材料を得ることが容易となる。
【0036】
また、焼結助剤として、炭素源となる炭素もしくは炭素含有化合物および炭化ホウ素を添加することにより、緻密な複合材料を得ることができる。炭素と炭化ホウ素はSiC焼結体に添加する焼結助剤として、一般に用いられているが、本発明の複合材料においても、第1相および第2相のそれぞれを緻密化させるために非常に有効な焼結助剤である。
【0037】
炭素源としては、炭素粉末を用いることできる。炭素粉末を用いる場合、平均粒径5μm以下のものを用いることで、焼結を促進する効果が得られる。添加する炭素粉末の形態は、グラファイト、カーボンブラックなどを用いることができる。また、フェノール樹脂などの高分子材料や有機系の原料を炭素源として用いても同様の効果を得ることができる。これらの炭素源を用いることにより、SiCおよび炭化物もしくはホウ化物の表面に存在する酸化物を還元あるいは除去する効果があり、緻密化を促進する効果を得ることができる。炭素源の添加量としては、第1相もしくは第2相のそれぞれに対して、炭素換算で0.1〜5質量%添加することで効果が得られる。
【0038】
炭素とともに炭化ホウ素を添加することにより、緻密化を促進することができる。炭化ホウ素は微細な粉末で添加することが望ましく、平均粒径5μm以下のものを用いることで、焼結助剤としての緻密化促進の効果が得られるが、特に3μm以下のものを用いると大きな効果が得られる。
【0039】
また、焼結助剤としては、SiCの焼結助剤として用いられるAl23、AlN、酸窒化アルミニウム化合物を用いても良い。また、これらのAl化合物と希土類酸化物を組み合わせて添加しても緻密な焼結体を得ることができる。
【0040】
第1相と第2相は、SiCより熱膨張率の大きい炭化物もしくはホウ化物とSiC、および焼結助剤を混合し、それぞれの混合粉末を得る。得られた第1相成分の混合粉末と第2相成分の混合粉末を所定の割合で混合、成形して、焼成することで、本発明の複合材料を得ることができるが、第2相が第1相に分散した複合材料を得るためには、第1相と第2相のそれぞれの混合粉を造粒した造粒粉を作製し、第1相成分の造粒粉と第2相成分の造粒粉を所望の割合で混合して用いることにより容易に本発明の複合材料を得ることができる。
【0041】
第1相成分および第2相成分のそれぞれの造粒粉を作製する場合、原料粉末の混合は、均一な混合粉体を得るために、湿式混合によることが望ましい。溶媒として、有機溶剤、水などを用いるが、分散剤を用いることにより、より均一な混合が可能である。また、必要に応じて混合粉末の成形性を高めるために、結合剤や潤滑剤、可塑剤等の添加物を用いることが望ましい。これらの混合には、撹拌式混合機、回転式ボールミルなどを用いる。
【0042】
原料粉末と溶媒を混合した後、乾燥させるが、特にスプレードライを用いることにより流動性の良い造粒粉を一度に大量に製造することが可能である。
【0043】
第2相を、その最大長径が20〜100μmのサイズで分散させるためには、第2相成分の造粒粉のサイズが、平均粒径30〜150μmとなるように、造粒粉を製造することが望ましい。
【0044】
第1相成分の造粒粉と第2相成分の造粒粉を所望の割合で混合して成形、焼成するが、これら2種の造粒粉を混合する際、造粒粉が破壊されてしまうと第1相成分と第2相成分が混じり合ってしまい、第2相が分散した構造の複合材料を得ることができない。このため、これらの2種の造粒粉を混合する際は、乾式で造粒粉が破壊しないように混合することが望ましい、造粒粉の混合にはV型混合機、ロッキングミキサなどの混合機を用いることができる。
【0045】
造粒粉を混合して得られた粉末の成形は、一軸成形やCIP成形により、所望の形状に成形する。均一な密度分布を有する焼結体を得るためには、CIP成形法を用いることが望ましい。
【0046】
このようにして作製した成形体を焼成し緻密な焼結体を得る。焼成には、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中あるいは真空中での常圧焼成あるいは加圧焼成を行うことが望ましい。常圧焼成あるいは加圧焼成を行う場合、大気中等の酸化雰囲気中では、原料のSiCや炭化物のしくはホウ化物が酸化してしまうため、緻密化させることが困難である。
【0047】
常圧焼成は、1800〜2200℃の温度で行うことが好ましい。1800℃より低い温度では、SiCや炭化物もしくはホウ化物の焼結が進行しないため、緻密化させることが困難である。また、2200℃より高い温度では、炭化ケイ素の分解が起こり易くなり、緻密な焼結体を得ることが困難である。
【0048】
また、得られた焼結体をHIP(熱間等方圧加圧)処理により、更に緻密化することが可能である。HIPの圧力媒体としては、不活性ガスを用いることが望ましく、更に望ましくは安価なアルゴンガスを用いる。
HIP処理は、1800〜2200℃の温度で行うことが好ましい。1800℃より低い温度では、複合材料の緻密化効果が十分に得られない。また、2200℃より高い温度では、特殊な装置が必要となることから工業的に望ましくない。また、HIP処理する際の圧力は、10〜200MPaであることが望ましい。10MPaより低い圧力ではHIP処理による緻密化効果が充分に得られない。また、200MPaより高い圧力をかけた場合、緻密化効果は得られるものの、特殊な装置が必要となるため望ましくない。
【0049】
また、加圧焼成は、ホットプレス(一軸加圧焼成)により緻密な焼結体を得ることが可能である。ホットプレスによる焼成は、1800〜2200℃の温度で行うことが好ましい。1800℃より低い温度では、焼結が進行しないため、緻密化させることが困難である。また、2200℃より高い温度では、炉への負担が大きくなり、製造コストが高くなるため、2200℃以下の温度で行うことが望ましい。ホットプレスの圧力としては、10〜50MPaであることが望ましい。10MPaより低い圧力では加圧による緻密化効果が充分に得られない。また、50MPaより高い圧力をかけた場合、緻密化効果は得られるものの、ホットプレスに用いるダイスが損傷する可能性があるため望ましくない。
【0050】
得られた複合材料中の第2相の分布状態は、SEM−EDSやEPMA等を用いて、元素分布状態を分析により確認することができ、第1相に分散した第2相の成分で構成される領域のサイズもこれらの分析により測定することができる。例えば、SEM―EDSにより元素分布のマッピング像を測定し、第2相領域の長径のサイズを直接計測する、あるいは画像解析ソフトを用いて測定することができる。
また、複合材料中の第2相の含有量も同様に分素分布像を解析し、第2相の面積比率を簡易的に第二層の含有体積割合として測定することができる。
【0051】
以上の方法により、30〜70体積%のSiCよりも熱膨張率の大きい炭化物もしくはホウ化物の少なくとも1種と、30〜70体積%のSiCとを含む第1相と、5〜30体積%のSiCよりも熱膨張率の大きい炭化物もしくはホウ化物の少なくとも1種と、70体積%〜95体積%のSiCとを含む第2相からなり、第1相および第2相が上記成分の他に不可避的不純物と焼結助剤として添加した成分の化合物からなり、最大長径が20〜200μmである第2相が第1相中に分散しており、高硬度かつ高靭性で構造用部材として有用なセラミックス複合材料が得られる。
【0052】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【実施例】
【0053】
SiC粉末(α型、平均粒径0.7μm)、TiC粉末(平均粒径1.5μm)、ZrC粉末(平均粒径2μm)、HfC粉末(平均粒径2μm)、TiB2粉末(平均粒径3μm)、ZrB2粉末(平均粒径2μm)、HfB2粉末(平均粒径3μm)を表1に示す割合で、蒸留水、分散剤、バインダーとボールミルにより混合し、スプレードライにより乾燥した造粒粉を第1相成分および第2相成分のそれぞれについて作製した。なお、焼結助剤として、第1相成分と第2相成分のそれぞれに上記の粉末原料の総重量に対して1質量%の炭素粉末(カーボンブラック、平均粒径0.05μm)と炭化ホウ素粉末(平均粒径0.8μm)をボールミルによる混合の際に添加した。
【0054】
得られた第1相成分の造粒粉と第2相の造粒粉を表1に示す割合でロッキングミキサを用いて乾式混合したものを一軸加圧成形した後、CIP成形後、Ar雰囲気中で脱脂して50×50×20mmの成形体を得た。これらの成形体を、アルゴン中2100℃で8時間保持し、常圧焼成した。更に常圧焼成したサンプルを1900℃で3時間、198MPaのArガス加圧下でHIP処理を行い、焼結体を得た。
【0055】
得られた焼結体の密度をアルキメデス法により測定し、ヤング率を超音波パルス法により測定した。
また、焼結体を加工し、JIS−R1601に準拠した3点曲げ試験により強度を測定し、JIS−R1607に準拠したSEPB法により破壊靭性値(KIC)を測定した。また、硬度については、鏡面研磨した焼結体を用いて、JIS−R1610に準拠したビッカース硬度(荷重98N)を測定した。
【0056】
【表1】
【0057】
本発明によるものは、破壊靭性値が5.5以上で高靭性であり、かつ硬度も25GPaと高靭性かつ高強度のセラミックス複合材料が得られた。
【0058】
これに対して、比較例として、作成した本発明の範囲外の材料は、破壊靭性値もしくは硬度が低いもの、あるいはその両方が低いものしか得られず、本発明の目的とする高靭性かつ高硬度の材料は得られなかった。