【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 三菱マテリアル株式会社の製品カタログ,TOOLS NEWS,B200J,ヘッド交換式エンドミル iMXエンドミルシリーズ、平成24年10月31日 JIMTOF2012 第26回日本国際工作機械見本市、平成24年11月01日 三菱マテリアル株式会社のウェブサイト、http://www.mitsubishicarbide.com/mmc/jp/index.html、平成24年11月15日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の交換式切削ヘッドは、下記の課題を有していた。
この種の交換式切削ヘッドにおいては、ヘッド本体の外周に設けられた複数の切屑排出溝が、互いに周方向に沿う幅が異なるように不等間隔に配置されたものが知られている。このように不等間隔(不等分割)とされた複数の切屑排出溝のうち、特に幅が狭い切屑排出溝において、切屑詰まりを防止することに改善の余地があった。
【0006】
また、不等間隔とされた複数の切屑排出溝のうち、周方向の幅が広い切屑排出溝が位置するヘッド本体の周方向部分における剛性が、該周方向部分以外の部位における剛性に比べて低くなりやすかった。
また上記一対の掛止面によっても、ヘッド本体の剛性が所定の向きに低減されやすくなっていた。具体的に、これらの掛止面はヘッド本体の外周を平面状に切り欠くように形成されていることから、該掛止面が位置するヘッド本体の周方向部分の剛性が低下させられやすかった。
このような事情から、ヘッド本体の強度のバランスが崩れ、切削加工中にビビリ振動が生じるなどして、加工精度に影響することがあった。
【0007】
また、上記特許文献1には、交換式切削ヘッドが、その工具の種類に応じた切刃等を有して構成されるとともに、超硬合金や高速度工具鋼等の所定の工具材料によって構成され、また必要に応じてTiNやTiCN、TiAlN、CrN等の化合物被膜やDLC膜、ダイヤモンド被膜等の硬質被膜(コーティング皮膜)をヘッド本体にコーティングすることが記載されている。このような構成とされた交換式切削ヘッドは、部品共通化できる工具本体に比べて、種類が多く製造も複雑であることから、できる限り軸線方向に沿う長さを小さく作製することが好ましい。
【0008】
しかしながら、単純に交換式切削ヘッドを小さく作製した場合、切屑排出溝の基端部(切り上げ部)が掛止部に干渉しやすくなる。この干渉により、掛止部の周方向に沿う両端縁(エッジ)が該切屑排出溝によって切り欠かれた場合には、作業用工具でヘッド本体を回転させる作業に影響する。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、切削加工時のビビリ振動等を抑制でき、幅が狭い切屑排出溝においても切屑排出性を向上することができ、これにより切削の加工精度及び加工安定性を十分に高めることができ、かつ、ヘッド本体を小さく作製して製造費用を抑えつつ、工具本体への着脱時にはこのヘッド本体を作業用工具によって安定して回転させることが可能な交換式切削ヘッドを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本発明は、軸線回りに回転される工具本体の先端に、螺合により着脱可能に取り付けられるヘッド本体を有する交換式切削ヘッドであって、前記ヘッド本体の外周には、前記軸線方向に沿うように延びる複数の切屑排出溝と、前記切屑排出溝に沿って延びる切刃と、該ヘッド本体の外周を平面状に切り欠くように形成され、前記軸線方向に沿う基端部に前記軸線を挟んで背向配置される一対の掛止面と、が備えられ、前記複数の切屑排出溝には、第1の切屑排出溝と、少なくとも前記軸線方向に沿う基端部で前記第1の切屑排出溝よりも前記軸線回りの周方向に沿う幅が狭い第2の切屑排出溝と、が含まれており、前記一対の掛止面のうち、少なくとも1つの掛止面は、前記第2の切屑排出溝の基端部に連なっており、
前記ヘッド本体には、前記一対の掛止面が形成された掛止部が形成され、前記掛止部は、前記切刃の外径と同径又は小径とされ、前記第2の切屑排出溝は、主溝と、前記主溝の工具回転方向の前方に隣接し、該主溝よりも前記周方向の幅が狭く形成された副溝と、を有し、前記一対の掛止面のうち、少なくとも1つの掛止面の前記周方向に沿う両端縁が、前記主溝に切りかかれることなく前記ヘッド本体の外周に稜線状に延びていることを特徴とする。
【0011】
本発明の交換式切削ヘッドによれば、レンチ等の作業用工具が掛止(係止)される一対の掛止面が、ヘッド本体の外周の基端部に背向配置(背中合わせに配置)されており、また複数の切屑排出溝のうち、第1の切屑排出溝よりも幅狭とされた第2の切屑排出溝の基端部(切り上げ部)に対して、これら掛止面のうち少なくとも1つの掛止面が連なっているので、下記の効果を奏功する。
尚、本明細書でいう「掛止面が切屑排出溝の基端部に連なる」とは、掛止面の面内に隣接して、切屑排出溝の基端部(切り上げ部)が開口している状態を表している。
【0012】
まず、1つ目の効果として、ヘッド本体の剛性のバランスを周方向に均等に確保しやすい。
具体的に、互いに周方向の幅が異なる第1、第2の切屑排出溝の基端部のうち、周方向の幅が広い第1の切屑排出溝が形成されたヘッド本体の周方向部分は、該周方向部分以外の部位に比べて、剛性が低くなりやすい。また、ヘッド本体の外周を平面状に切り欠くように形成された掛止面が位置するヘッド本体の周方向部分は、該掛止面が形成されていないヘッド本体の周方向部分に比べて、剛性が低くなりやすい。
そこで本発明では、幅が狭い第2の切屑排出溝の基端部に掛止面を連設させることで、ヘッド本体において周方向の剛性が顕著に減じられるような部分が生じることを、確実に抑制できるようにした。
【0013】
詳しくは、ヘッド本体の基端部においては、一対の掛止面が背向された向きに沿うようにヘッド本体の剛性が低められており、一方、ヘッド本体の基端部より先端側に位置する部分では、これら掛止面の背向する向き以外の向き(例えば第1の切屑排出溝同士が背向する向き)に沿うように剛性が低められることになる。
このように、ヘッド本体において剛性の低くなる部分が、軸線方向の各部で周方向に分散されることから、該ヘッド本体の強度バランスを工具全体として周方向に均等に確保しやすくなる。これにより、切削加工時に、ビビリ振動等が生じることを抑制できる。
【0014】
また、2つ目の効果として、基端部の幅が狭い第2の切屑排出溝においても、切屑排出性を高めることができる。
すなわち、第2の切屑排出溝の基端部(切り上げ部)には、ヘッド本体の外周を切り欠くように形成された掛止面が連設されていることから、該掛止面と、交換式切削ヘッドが切削する被削材の加工面との間にスペースを確保しやすい。つまり、掛止面がチップポケットの如く作用して、第2の切屑排出溝内を流れる切屑が溝の切り上げ部で詰まってしまうような事態を回避することができ、切屑排出性が向上する。
【0015】
また、3つ目の効果として、ヘッド本体の軸線方向に沿う長さを小さく抑えて製造費用を削減しつつ、該ヘッド本体を工具本体に対して着脱する作業を安定して行うことができる。
すなわち、作業用工具が掛止される掛止面は、ヘッド本体の外周の基端部に配置されているとともに、切屑排出溝の基端部に連なっているので、例えば本発明とは異なり、上記特許文献1のように掛止面と切屑排出溝とが軸線方向に間隔をあけて配置される構成に比べて、ヘッド本体の軸線方向に沿う長さを小さく抑えることが容易である。
【0016】
詳しくは、部品共通化が容易で安価に作製しやすい工具本体に比べて、交換式切削ヘッドは、そのヘッド本体が例えば超硬合金等の高価な材料からなるとともに、切刃にコーティング処理がなされるなど製造が複雑であり、また工具の種類に応じて種々の切刃等を備えて複数種類用意されるものであることから、本発明のようにヘッド本体の軸線方向に沿う長さを小さく抑えることによって、製造費用が削減されるとともに部品管理が容易となる。
【0017】
また、ヘッド本体の外周において掛止面が連なる切屑排出溝は、基端部が幅狭とされた第2の切屑排出溝であるから、この第2の切屑排出溝によって掛止面の周方向の両端縁(エッジ)が切り欠かれるようなことが抑制される。つまり本発明によれば、掛止面と、該掛止面に掛止される作業用工具との周方向に沿う接触(当接)長さを大きく確保しやすい。従って、作業用工具により交換式切削ヘッドを安定して回転させやすくなり、工具本体に対する該交換式切削ヘッドの着脱の作業性が向上する。
【0018】
以上より、本発明の交換式切削ヘッドによれば、切削加工時のビビリ振動等を抑制でき、幅が狭い切屑排出溝においても切屑排出性を向上することができ、これにより切削の加工精度及び加工安定性を十分に高めることができ、かつ、ヘッド本体を小さく作製して製造費用を抑えつつ、工具本体への着脱時にはこのヘッド本体を作業用工具によって安定して回転させることが可能である。
【0019】
また、本発明の交換式切削ヘッドにおいて、前記切屑排出溝は、前記ヘッド本体の外周に奇数形成されていることとしてもよい
。
【発明の効果】
【0020】
本発明の交換式切削ヘッドによれば、切削加工時のビビリ振動等を抑制でき、幅が狭い切屑排出溝においても切屑排出性を向上することができ、これにより切削の加工精度及び加工安定性を十分に高めることができ、かつ、ヘッド本体を小さく作製して製造費用を抑えつつ、工具本体への着脱時にはこのヘッド本体を作業用工具によって安定して回転させることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係る交換式切削ヘッド10について、図面を参照して説明する。
本実施形態の交換式切削ヘッド10は、例えば軸状をなして軸線O回りに回転されるホルダー(シャンク)等の工具本体(不図示)の先端に、螺合により着脱可能に取り付けられて、ヘッド交換式転削工具(ヘッド交換式切削工具)を構成するものであり、例えばエンドミル加工、ドリル加工、リーマ加工等に用いられる。
図1〜
図3に示されるように、本実施形態で説明する交換式切削ヘッド10は、ラジアスエンドミル形状とされている。
【0023】
交換式切削ヘッド10は、超硬合金等の硬質材料により一体に形成されたヘッド本体1と、このヘッド本体1よりは硬度の低い鋼材等の金属材料により一体に形成された連結部材2と、を備えている。ヘッド本体1には、先端側(
図1及び
図2における左側)から基端側(
図1及び
図2における右側)に向けて順に切刃部3、掛止部4、及び取付部5が形成されるとともに、連結部材2には取付部5からさらに基端側に突出するネジ部2aが設けられている。
ここで、ヘッド本体1は多段円柱状をなし、連結部材2はヘッド本体1より小径の円柱状をなしていて、これらは軸線Oを共通軸として互いに同軸に配設されている。本明細書においては、交換式切削ヘッド10の軸線O方向に沿うヘッド本体1側を先端側、軸線O方向に沿う連結部材2側を基端側という。また、軸線Oに直交する方向を径方向といい、軸線O回りに周回する方向を周方向という。尚、前記周方向のうち、切削加工時に被削材に対して交換式切削ヘッド10が回転させられる方向を工具回転方向T(又は工具回転方向Tの前方)といい、工具回転方向Tとは反対へ向かう方向を工具回転方向Tの後方という(
図3〜
図6を参照)。
また、本明細書でいう「ヘッド本体1の外周」とは、このヘッド本体1が工具本体に装着された状態で工具外周に露出される部分をいい、具体的には、ヘッド本体1の切刃部3及び掛止部4の外周を指す。
【0024】
図1及び
図2において、ヘッド本体1の切刃部3は軸線Oを中心とした外形概略円柱状をなしており、切刃部3の外周には、軸線O方向に沿うように延びる複数の切屑排出溝8と、切屑排出溝8に沿って延びる外周刃(切刃)6と、が形成されている。外周刃6は、ヘッド本体1の外周に周方向に不等間隔をあけて複数形成されており、該外周刃6のすくい面を構成する切屑排出溝8もこれに伴って、周方向に不等間隔をあけて複数形成されている。ここで、本明細書でいう「周方向に不等間隔をあけて」とは、「少なくとも軸線O方向に沿ういずれかの位置で周方向に不等間隔をあけて」いる状態を含んでおり、具体的な外周刃6及び切屑排出溝8の配置については、後述する。
本実施形態の例では、
図3に示されるように、複数の切屑排出溝8同士は、軸線O方向に沿う先端では周方向に等間隔をあけて配置される一方、
図1及び
図2に示されるように、各切屑排出溝8の後述する主溝12及び副溝13のリードがそれぞれ異なるために、前記先端から軸線O方向に沿う基端側へ向かって周方向に不等間隔とされていて、切屑排出溝8の基端部(切り上げ部)においても不等間隔となっている。つまり、これら切屑排出溝8は互いに不等リードとされており、少なくとも軸線O方向に沿う基端部で周方向に不等間隔である。尚、特に図示していないが、これら切屑排出溝8が、互いに等リードとされつつ周方向に不等間隔に配置されていてもよい。
【0025】
切屑排出溝8は、ヘッド本体1の外周に複数設けられており、本実施形態では偶数(図示の例では4条)の切屑排出溝8が形成されている。本実施形態の交換式切削ヘッド10は、ヘッド交換式エンドミルとされており、これらの切屑排出溝8は、切刃部3の先端から基端側に向かうに従い漸次工具回転方向Tの後方に向けて捩れて延びている。また、切屑排出溝8において工具回転方向Tを向く壁面の外周側辺稜部には、この壁面をすくい面とする外周刃6が形成されており、該外周刃6も、切刃部3の先端から基端側に向かうに従い漸次工具回転方向Tの後方に向けて捩れて延びている。
【0026】
また、複数の切屑排出溝8には、第1の切屑排出溝8Aと、少なくとも軸線O方向に沿う基端部(切り上げ部)で第1の切屑排出溝8Aよりも周方向に沿う幅が狭い第2の切屑排出溝8Bと、が含まれている。つまり、第1の切屑排出溝8Aにおける基端部の溝幅に対して、第2の切屑排出溝8Bにおける基端部の溝幅が狭くされており、本実施形態では、第2の切屑排出溝8Bの溝幅は、その先端でのみ第1の切屑排出溝8Aの溝幅と同一とされる一方、該先端以外の部位では第1の切屑排出溝8Aの溝幅よりも狭くなっている。このように、互いに周方向の幅が異なる第1の切屑排出溝8A及び第2の切屑排出溝8Bが、切刃部3の外周に周方向に交互となるように2条ずつ形成されており、これにより周方向に隣り合う切屑排出溝8同士の配置ピッチ(外周刃6の配置ピッチ)も、周方向に狭い部分(狭ピッチ)と広い部分(広ピッチ)とが交互に出現するようになっている。
【0027】
具体的には、
図4及び
図7に示される横断面視で、周方向に隣り合う外周刃6同士の間に形成される軸線Oを中心とした各中心角θのうち、鈍角となる中心角θA(
図7)に対応する切屑排出溝8が幅広の第1の切屑排出溝8Aとされ、鋭角となる中心角θB(
図4)に対応する切屑排出溝8が幅狭の第2の切屑排出溝8Bとなっている。
【0028】
また、各切屑排出溝8は、外周刃6及びそのすくい面を形成する主溝12と、この主溝12の工具回転方向Tの前方に隣接し、該主溝12よりも周方向の幅が狭く形成された副溝13と、を有している。本実施形態の例では、第1、第2の切屑排出溝8A、8Bは、それぞれの主溝12A、12Bが互いに略同一の断面形状を有しており(特にすくい面から溝底にかけての形状が同一)、各副溝13A、13Bについては、互いに異なる溝深さ及び溝幅とされている。具体的には、第1の切屑排出溝8Aの副溝13Aにおける溝深さ及び溝幅が、第2の切屑排出溝8Bの副溝13Bにおける溝深さ及び溝幅よりも大きくされており、これにより、第1の切屑排出溝8A全体の溝幅が、第2の切屑排出溝8B全体の溝幅よりも大きくなっている。
【0029】
また、各切屑排出溝8内には、主溝12と副溝13との間に位置して径方向の外側へ向けた断面凸V字状をなし、各切屑排出溝8に沿って捩れて延びる稜線部14がそれぞれ形成されている。
このような切屑排出溝8は、ヘッド本体1の切刃部3の外周に形成されつつ、その基端部(切り上げ部)は、ヘッド本体1の掛止部4の外周に亘って延びている。
【0030】
また
図1〜
図3において、各切屑排出溝8の先端部には、凹状のギャッシュ9がそれぞれ形成されている。各ギャッシュ9の工具回転方向Tを向く壁面の先端側辺稜部には、この壁面をすくい面とする底刃7がそれぞれ形成されている。底刃7は、径方向内側に向かうに従い漸次基端側へ向けて後退するように僅かに傾斜して延びている。
【0031】
図3に示されるように、複数の底刃7は、切刃部3の先端面において軸線Oを中心とした放射状をなすように形成されている。これら底刃7のうち、第1の切屑排出溝8Aの外周刃6に連なる底刃7は、第2の切屑排出溝8Bの外周刃6に連なる底刃7よりも、径方向に沿う刃長が長くなっている。
また、底刃7と外周刃6とは、径方向外側及び先端側へ向けて凸となるように曲線状をなすコーナー刃11によって、滑らかに連結されている。
【0032】
図1及び
図2において、掛止部4は、切刃部3の外周刃6の外径と略同径又は僅かに小径とされた外形概略円板状をなし、切刃部3の切屑排出溝8基端の外周側への切り上がり部分を含むように形成されている。この掛止部4の外周は、ヘッド本体1の外周における基端部に位置している。
そして、この掛止部4には、軸線Oを挟んでその両側に、軸線Oに平行かつ互いにも平行とされた一対の掛止面15が、掛止部4の外周面を切り欠くようにして軸線Oから等間隔に形成されている。
【0033】
図2及び
図4に示されるように、一対の掛止面15は、掛止部4の外周を平面状に切り欠いて形成されており、ヘッド本体1の外周における軸線O方向に沿う基端部(つまり掛止部4)に、軸線Oを挟んで背向配置(背中合わせに配置)されている。これらの掛止面15は、ヘッド本体1の外周において切屑排出溝8及び外周刃6の基端側に配置されている。
図1に示される側面視で掛止面15を正面に見て、この掛止面15は、掛止部4の外周上に概略矩形状をなすように形成されている。
【0034】
一対の掛止面15のうち、少なくとも1つの掛止面15は、幅狭とされた第2の切屑排出溝8Bの基端部に連なっている。本実施形態の例では、
図4に示されるように、ヘッド本体1の外周に切屑排出溝8が計4条設けられているとともに、2条の第1の切屑排出溝8A同士、及び2条の第2の切屑排出溝8B同士が、軸線Oを挟んで互いに反対側(180°回転対称位置)となるようにそれぞれ背向配置されており、これに伴って一対の掛止面15は、一対の第2の切屑排出溝8Bの基端部にそれぞれ連なっている。
【0035】
図1において、第2の切屑排出溝8Bの基端部は、掛止面15の面内の先端側に隣接して開口している。すなわちこの側面視で、掛止面15の外形をなす四辺のうち、先端に位置する一辺は、第2の切屑排出溝8Bの基端部の切り上がり形状に対応するように基端側へ向けて(掛止面15の面内に向けて)窪む凹曲線状をなしており、それ以外の三辺については、直線状をなしている。これにより掛止面15は、
図1の側面視において、コ字状又はU字状をなしている。
【0036】
また、掛止面15の周方向に沿う両端縁(周方向の両端部に位置する一対の辺)15aは、切屑排出溝8に切り欠かれることなくヘッド本体1の外周に稜線状に延びている。本実施形態の例では、これら端縁15aは、掛止部4の外周に軸線Oに平行となるように延びているとともに、直線状の稜線を形成している。
また、掛止面15の基端に位置する一辺からは、軸線Oに垂直となるように径方向外側へ向けて立ち上がり先端側を向く壁面16が立設されている。
尚、ヘッド本体1の切刃部3と掛止部4の表面には、コーティング皮膜が被覆されていることが好ましい。
【0037】
取付部5は、掛止部4よりも小径で基端側に向かうに従い外径が縮径する軸線Oを中心とした円錐台状をなしている。掛止部4と取付部5との間の基端側を向く円環状の段差面17は、軸線Oに垂直な平面とされている。また、この取付部5の基端面から先端側に向けて掛止部4及び切刃部3の途中までに亘っては、軸線Oを中心とした図示されない取付孔が形成されている。
【0038】
連結部材2は、前記取付孔に挿入されて固定される図示されない軸部と、この軸部よりも大径で取付部5の基端面より小径の雄ネジ部とされたネジ部2aとを備えている。この連結部材2の軸部の取付孔への固定は、例えば、連結部材2に前記軸部からネジ部2aにかけて軸線Oに沿った貫通孔を形成しておいて、ネジ部2a先端の該軸部との段差面を取付部5の基端面に当接させてこの軸部を前記取付孔に嵌挿した上で、前記貫通孔に基端側からパンチを打ち込み、軸部を塑性変形させて拡径することにより取付孔に接合して行われる。
【0039】
このように構成された交換式切削ヘッド10は、そのヘッド本体1が連結部材2によって円筒状の工具本体の先端部に着脱可能に取り付けられて、ヘッド本体1の切刃部3により被削材に切削加工を行う。工具本体の先端部には、ヘッド本体1の段差面17が当接可能な当接面と、この当接面に開口して工具本体基端側に向かうに従い漸次縮径するテーパ孔と、このテーパ孔の孔底に形成された雌ネジ部とが形成されており、この雌ネジ部に前記雄ネジ部とされたネジ部2aをねじ込んで取付部5をテーパ孔に密着させるとともに段差面17を前記当接面に当接させることにより、交換式切削ヘッド10は工具本体先端部に固定される。
【0040】
そして、このように工具本体の雌ネジ部に連結部材2のネジ部2aをねじ込む際や、交換式切削ヘッド10を工具本体から取り外すときにネジ部2aを緩める際には、一対の掛止面15にレンチやスパナ等の作業用工具のコ字状開口部の一対の係合面を係合させることにより、該作業用工具を掛止部4に掛止させ、連結部材2ごとヘッド本体1を軸線O回りに回転させる。
【0041】
以上説明した本実施形態の交換式切削ヘッド10によれば、作業用工具が掛止(係止)される一対の掛止面15が、ヘッド本体1の外周の基端部に背向配置されており、また互いに不等間隔(不等分割)とされて周方向の幅が異なる第1、第2の切屑排出溝8A、8Bのうち、幅狭とされた第2の切屑排出溝8Bの基端部(切り上げ部)に対して、これら掛止面15のうち少なくとも1つの掛止面15が連なっているので、下記の効果を奏功する。
【0042】
すなわち、まず1つ目の効果として、ヘッド本体1の剛性のバランスを周方向に均等に確保しやすい。
具体的に、互いに周方向の幅が異なる第1、第2の切屑排出溝8A、8Bの基端部のうち、周方向の幅が広い第1の切屑排出溝8Aが形成されたヘッド本体1の周方向部分は、該周方向部分以外の部位に比べて、剛性が低くなりやすい。また、ヘッド本体1の外周を平面状に切り欠くように形成された掛止面15が位置するヘッド本体1の周方向部分は、該掛止面15が形成されていないヘッド本体1の周方向部分に比べて、剛性が低くなりやすい。
そこで本実施形態では、幅が狭い第2の切屑排出溝8Bの基端部に掛止面15を連設させることで、ヘッド本体1において周方向の剛性が顕著に減じられるような部分が生じることを、確実に抑制できるようにした。
【0043】
詳しくは、ヘッド本体1の基端部(本実施形態においては掛止部4の軸線O方向に沿う中央部)では、
図1のC−C断面である
図6に示されるように、一対の掛止面15が背向された向き(
図6における左右方向)に沿ってヘッド本体1の剛性が低められており、一方、ヘッド本体1の基端部より先端側に位置する部分(本実施形態においては掛止部4の前記中央部よりも先端側部分)では、
図1のB−B断面である
図5に示されるように、これら掛止面15の背向する向き以外の向き(具体的には第1の切屑排出溝8A同士が背向する向きであり、
図5における上下方向)に沿って剛性が低められることになる。
ここで、
図5及び
図6に2点鎖線で示される仮想円は、これらヘッド本体1の各横断面において、外径が最小となる部分を通る内接円を表しており、
図6に示されるヘッド本体1の基端部では、一対の第1の切屑排出溝8A間の距離(
図6における上下方向の外周間距離)に比べて、一対の掛止面15間の距離(
図6における左右方向の外周間距離)が小さくなっている。一方、
図5に示されるヘッド本体1の前記基端部より先端側に位置する部分では、一対の第2の切屑排出溝8B間の距離(
図5における左右方向の外周間距離)に比べて、一対の第1の切屑排出溝8A間の距離(
図5における上下方向の外周間距離)が小さくなっているのである。
【0044】
このように、ヘッド本体1において剛性の低くなる部分が、軸線O方向の各部で周方向に分散されることから、該ヘッド本体1の強度バランスを工具全体として周方向に均等に確保しやすくなる。これにより、切削加工時に、ビビリ振動等が生じることを抑制できる。
【0045】
ここで、本発明とは技術思想が異なる参考例として、一対の掛止面15が、第1の切屑排出溝8Aの基端部に連設された構成について、
図7〜
図9に示す。
この参考例では、
図9に示されるヘッド本体1の基端部では、一対の第2の切屑排出溝8B間の距離(
図9における左右方向の外周間距離)に比べて、一対の掛止面15間の距離(
図9における上下方向の外周間距離)が小さくなっている。また、
図8に示されるヘッド本体1の前記基端部より先端側に位置する部分でも、一対の第2の切屑排出溝8B間の距離(
図8における左右方向の外周間距離)に比べて、一対の第1の切屑排出溝8A間の距離(
図8における上下方向の外周間距離)が小さくなっている。
このような構成では、ヘッド本体1において剛性の低くなる周方向部分が、軸線O方向に連続することとなり、切削加工時にビビリ振動等が生じやすくなるおそれがある。
【0046】
また、本発明の実施形態に係る2つ目の効果として、基端部の幅が狭い第2の切屑排出溝8Bにおいても、切屑排出性を高めることができる。
すなわち、第2の切屑排出溝8Bの基端部(切り上げ部)には、ヘッド本体1の外周を切り欠くように形成された掛止面15が連設されていることから、該掛止面15と、交換式切削ヘッド10が切削する被削材の加工面との間にスペースを確保しやすい。つまり、掛止面15がチップポケットの如く作用して、第2の切屑排出溝8B内を流れる切屑が溝の切り上げ部で詰まってしまうような事態を回避することができ、切屑排出性が向上する。
【0047】
また、3つ目の効果として、ヘッド本体1の軸線O方向に沿う長さを小さく抑えて製造費用を削減しつつ、該ヘッド本体1を工具本体に対して着脱する作業を安定して行うことができる。
すなわち、作業用工具が掛止される掛止面15は、ヘッド本体1の外周の基端部に配置されているとともに、切屑排出溝8の基端部に連なっているので、本実施形態とは異なり(例えば特開2010−284752号公報のように)、掛止面15と切屑排出溝8とが軸線O方向に間隔をあけて配置される構成に比べて、ヘッド本体1の軸線O方向に沿う長さを小さく抑えることが容易である。
【0048】
詳しくは、部品共通化が容易で安価に作製しやすい工具本体に比べて、交換式切削ヘッド10は、そのヘッド本体1が超硬合金等の高価な材料からなるとともに、切刃部3及び掛止部4にコーティング処理がなされるなど製造が複雑であり、また工具の種類に応じて種々の切刃等を備えて複数種類用意されるものであることから、本実施形態のようにヘッド本体1の軸線O方向に沿う長さを小さく抑えることによって、製造費用が削減されるとともに部品管理が容易となる。
【0049】
また、ヘッド本体1の外周において掛止面15が連なる切屑排出溝8は、基端部が幅狭とされた第2の切屑排出溝8Bであるから、この第2の切屑排出溝8Bによって掛止面15の周方向の両端縁(エッジ)15aが切り欠かれるようなことが抑制される。つまり本実施形態によれば、掛止面15と、該掛止面15に掛止される作業用工具との周方向に沿う接触(当接)長さを大きく確保しやすい。従って、作業用工具により交換式切削ヘッド10を安定して回転させやすくなり、工具本体に対する該交換式切削ヘッド10の着脱の作業性が向上する。
【0050】
以上より、本実施形態の交換式切削ヘッド10によれば、切削加工時のビビリ振動等を抑制でき、幅が狭い切屑排出溝8Bにおいても切屑排出性を向上することができ、これにより切削の加工精度及び加工安定性を十分に高めることができ、かつ、ヘッド本体1を小さく作製して製造費用を抑えつつ、工具本体への着脱時にはこのヘッド本体1を作業用工具によって安定して回転させることが可能である。
【0051】
また、本実施形態では、掛止面15の周方向に沿う両端縁15aが、切屑排出溝8に切り欠かれることなくヘッド本体1の外周に稜線状に延びているので、この掛止面15と、該掛止面15に掛止される作業用工具との周方向に沿う接触(当接)長さを確実に大きく確保でき、前述した効果、すなわち作業用工具によって交換式切削ヘッド10を安定して回転させやすくなり工具本体に対する該交換式切削ヘッド10の着脱の作業性が高められる、という効果がより顕著となる。
【0052】
また、本実施形態では、切屑排出溝8がヘッド本体1の外周に偶数形成されており、一対の掛止面15が、軸線Oを挟んで背向配置された第2の切屑排出溝8Bの基端部にそれぞれ連なっているので、上述した作用が一対の掛止面15の両方で得られることとなり、効果がより顕著となる。
【0053】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0054】
例えば、前述の実施形態では、交換式切削ヘッド10がラジアスエンドミル形状とされているとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、本発明の交換式切削ヘッドは、エンドミル加工、ドリル加工、リーマ加工等の各種転削加工に用いることができるものであり、前述の実施形態で説明した形状に限定されない。
【0055】
また、切屑排出溝8及び外周刃6が、切刃部3の先端から基端側に向かうに従い漸次工具回転方向Tの後方に向けて捩れて延びているとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、切屑排出溝8及び外周刃6は、軸線O方向に沿うように延びていればよく、切刃部3の先端から基端側に向かうに従い漸次工具回転方向Tの前方に向けて捩れて延びていたり、或いは軸線Oに平行に延びていてもよい。
【0056】
また、ヘッド本体1の外周に、少なくとも軸線O方向に沿う基端部で互いに周方向の幅が異なる第1の切屑排出溝8A及び第2の切屑排出溝8Bが、周方向に交互となるように2条ずつ計4条形成されているとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、切屑排出溝8の数は、前述した4条等の偶数に限られず、例えば3条等の奇数であっても構わない。この場合、一対の掛止面15のうち、少なくとも1つの掛止面15が、幅狭の第2の切屑排出溝8Bの基端部に連設させられることで、前述の作用効果が得られる。
【0057】
また、切屑排出溝8は、少なくともその軸線O方向に沿う基端部(切り上げ部)で互いに周方向の幅が異なるように3種類以上設けられていてもよい。この場合、切り上げ部において最も溝幅が大きい切屑排出溝8が第1の切屑排出溝8Aとされ、それ以外の切屑排出溝8が第2の切屑排出溝8Bとされるとともに、掛止面15は、前記第2の切屑排出溝8Bの基端部に連設されることになる。
【0058】
また、前述の実施形態の例では、
図1及び
図4に示されるように、一対の掛止面15の周方向に沿う両端縁15aが、ともに切屑排出溝8に切り欠かれることなくヘッド本体1の外周に稜線状をなして延びているが、これに限定されるものではない。すなわち、一対の掛止面15のうち、少なくとも1つの掛止面15の周方向に沿う両端縁15aが、切屑排出溝8に切り欠かれることなくヘッド本体1の外周に稜線状に延びていればよく、これにより前述の作用効果が得られる。
【0059】
その他、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例及び尚書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。