(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358387
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】装置およびpHの算出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/18 20060101AFI20180709BHJP
【FI】
G01N33/18 C
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-506139(P2017-506139)
(86)(22)【出願日】2016年2月5日
(86)【国際出願番号】JP2016053582
(87)【国際公開番号】WO2016147741
(87)【国際公開日】20160922
【審査請求日】2017年5月22日
(31)【優先権主張番号】特願2015-52204(P2015-52204)
(32)【優先日】2015年3月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】當山 広幸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 邦幸
【審査官】
三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−181593(JP,A)
【文献】
特開2008−29975(JP,A)
【文献】
特開2013−154330(JP,A)
【文献】
特表2011−524800(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/118819(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/119513(WO,A1)
【文献】
特開2012−7969(JP,A)
【文献】
米国特許第7097762(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0007719(US,A1)
【文献】
岡本 幸彦, 船舶用バラスト水処理システムの実用化,JFE技報,2010年 2月,第25巻,1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N33/18
B01D53/14
B01D53/92
B63H21/32
B63H21/38
B63J3/04
G01N1/28
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクラバーを有する船内に設けられる装置であって、
前記スクラバーから船外に排出される洗浄水のpH値を測定する第1のpH測定器と、
船外から前記スクラバーに供給される洗浄水のpH値を測定する第2のpH測定器と、
船外に排出された洗浄水が、船外の予め定められた位置において希釈される倍率を示す希釈倍率と、前記第1のpH測定器が測定したpH値と、前記第2のpH測定器が測定したpH値とに基づいて、船外の前記予め定められた位置における水のpH値を算出する、算出部と
を備える、装置。
【請求項2】
前記算出部は、
前記第1のpH測定器で測定した第1のpH値と、前記第2のpH測定器で測定した第2のpH値と、船外における前記予め定められた位置の水の第3のpH値とに基づいて前記希釈倍率の値を予め算出し、
前記装置は、前記算出部に接続され、前記希釈倍率の値を記録する記録部をさらに備え、
前記算出部は、前記第1のpH測定器が前記第1のpH値の測定よりも後に測定したpH値と、前記第2のpH測定器が第2のpH値の測定よりも後に測定したpH値と、前記記録部が記録した前記希釈倍率の値とに基づいて、前記予め定められた位置における水のpH値を算出する
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記算出部は、
前記第1のpH値であるpH1、前記第2のpH値であるpH2および前記第3のpH値であるpH3を用いて、
α=(10−pH1−10−pH2)/(10−pH3−10−pH2)
により前記希釈倍率を算出する
請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記算出部は、
前記スクラバーから船外に排出される洗浄水流量が第1の流量である場合に、前記pH1、前記pH2および前記pH3に基づいて算出した第1の希釈倍率の値と、
前記スクラバーから船外に排出される洗浄水流量が第2の流量である場合に、前記pH1、前記pH2および前記pH3に基づいて算出した第2の希釈倍率の値と
を予め算出し、
前記記録部は、前記第1の希釈倍率の値および前記第2の希釈倍率の値を記録し、
前記算出部は、前記スクラバーから船外に排出される洗浄水流量に対応する前記希釈倍率の値を用いて、前記予め定められた位置における水のpH値を算出し、
前記記録部は、前記洗浄水流量と、前記希釈倍率の値とを対応付けて記録する
請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記装置は、
前記算出部が算出した前記予め定められた位置における水のpH値に応じて、前記スクラバーに供給する洗浄水流量を制御する制御部をさらに備える
請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記スクラバーに供給する洗浄水流量が予め定められた許容量以上の場合に、前記スクラバーへ排気ガスを排出する発動機の出力を下げることにより、前記スクラバーに供給する洗浄水流量を前記許容量以下に制御する
請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記制御部は、
船が停泊中であると判断したことを条件として、前記スクラバーへ排気ガスを排出する発動機の出力を下げる、
請求項6に記載の装置。
【請求項8】
スクラバーを有する船の船外の予め定められた位置における水のpHの算出方法であって、
前記スクラバーから船外に排出される洗浄水のpH値を測定する段階と、
船外から前記スクラバーに供給される洗浄水のpH値を測定する段階と、
船外に排出された洗浄水が、船外の予め定められた位置において希釈される倍率を示す希釈倍率と、前記スクラバーから船外に排出される洗浄水のpH値を測定する段階において測定したpH値と、船外から前記スクラバーに供給される洗浄水のpHを測定する段階において測定したpH値とに基づいて、船外の前記予め定められた位置における水のpH値を算出する段階と
を備える、pHの算出方法。
【請求項9】
前記スクラバーを有する船の試運転時に行われる、請求項8に記載のpHの算出方法。
【請求項10】
船外の前記予め定められた位置における水のpH値を算出する段階の前に、
前記スクラバーから船外に排出される洗浄水のpH値を測定する段階において測定した第1のpH値と、前記スクラバーから船外に排出される洗浄水のpH値を測定する段階において測定した第2のpH値と、船外における前記予め定められた位置の水の第3のpH値とに基づいて前記希釈倍率の値を予め算出する段階と、
前記希釈倍率の値を記録する段階と
をさらに備え、
船外の前記予め定められた位置における水のpH値を算出する段階は、前記第1のpH値の測定よりも後に測定した前記スクラバーから船外に排出される洗浄水のpH値と、前記第2のpH値の測定よりも後に測定した船外から前記スクラバーに供給される洗浄水のpH値と、記録した前記希釈倍率の値とに基づいて、船外の前記予め定められた位置における水のpH値を算出する段階である
請求項8または9に記載のpHの算出方法。
【請求項11】
前記希釈倍率の値を予め算出する段階は、
前記スクラバーから船外に排出される洗浄水流量が第1の流量である場合に、前記第1のpH値、前記第2のpH値および前記第3のpH値に基づいて算出した第1の希釈倍率の値と、
前記スクラバーから船外に排出される洗浄水流量が第2の流量である場合に、前記第1のpH値、前記第2のpH値および前記第3のpH値に基づいて算出した第2の希釈倍率の値と
を算出する段階を有し、
前記希釈倍率の値を記録する段階は、前記第1の希釈倍率の値および前記第2の希釈倍率の値を記録する段階を有し、
前記スクラバーから船外に排出される洗浄水流量に対応する前記希釈倍率の値を用いて、船外の前記予め定められた位置における水のpH値を算出する段階をさらに有する、
請求項10に記載のpHの算出方法。
【請求項12】
船外の前記予め定められた位置における水のpH値を算出する段階において算出されたpH値に応じて、前記スクラバーに供給する洗浄水流量を制御する段階をさらに備える
請求項8から11のいずれか一項に記載のpHの算出方法。
【請求項13】
前記スクラバーに供給する洗浄水流量が予め定められた許容量以上の場合に、前記スクラバーへ排気ガスを排出する発動機の出力を下げ、前記スクラバーに供給する洗浄水流量を前記許容量以下に制御する段階をさらに備える
請求項12に記載のpHの算出方法。
【請求項14】
船が停泊中であると判断したことを条件として、前記スクラバーへ排気ガスを排出する発動機の出力を下げる段階をさらに有する
請求項12または13に記載のpHの算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置およびpHの算出方法に関する。
【0002】
硫黄分を吸収した海水である硫黄分吸収溶液のpHは3程度になる。硫黄分吸収溶液を海に放出するためには、pHを上昇させなければならない。従来、硫黄分吸収溶液をエアレーション装置において空気に曝すことにより、pH値を上昇させていた(例えば、特許文献1参照)。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 国際公開2006/018911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
硫黄酸化物を吸収した海水を海に放出する際の環境規制に関するガイドラインが制定されている。ガイドラインであるM
EPC 59/24/Add.1によると、「排ガス浄化装置の導入試運転時は、排水プルームは船の外部で測定され(停泊状態で)、船外pH観測点での排水pHは、排水点から4mではpH6.5以上であること」とされている。排ガス浄化装置の導入試運転は、数日間に及ぶ。試運転の期間、エンジン負荷を変更して排ガス浄化装置を動作させる等の種々の試験を実施する。試運転の期間、人が定期的に排水点から4mの位置のpHを測定することが考えられるが、この測定方法は人的負荷が大きい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様における、スクラバーを有する船内に設けられる装置は、第1のpH測定器と、第2のpH測定器と、算出部とを備える。第1のpH測定器は、スクラバーから船外に排出される洗浄水のpH値を測定してよい。第2のpH測定器は、船外からスクラバーに供給される洗浄水のpH値を測定してよい。算出部は、船外に排出された洗浄水が船外の予め定められた位置において希釈される倍率を示す希釈倍率と、第1のpH測定器が測定したpH値と、第2のpH測定器が測定したpH値とに基づいて、船外の前記予め定められた位置における水のpH値を算出してよい。
【0005】
算出部は、第1のpH測定器で測定した第1のpH値と、第2のpH測定器で測定した第2のpH値と、船外における前記予め定められた位置の水の第3のpH値とに基づいて希釈倍率の値を予め算出してよい。装置は、記録部をさらに備えてよい。記録部は、算出部に接続されてよい。記録部は、希釈倍率の値を記録してよい。算出部は、第1のpH測定器が第1のpH値の測定よりも後に測定したpH値と、第2のpH測定器が第2のpH値の測定よりも後に測定したpH値と、記録部が記録した希釈倍率の値とに基づいて、予め定められた位置における水のpH値を算出してよい。
【0006】
算出部は、第1のpH値であるpH1、第2のpH値であるpH2および第3のpH値であるpH3を用いて、α=(10
−pH1−10
−pH2)/(10
−pH3−10
−pH2)により希釈倍率を算出してよい。
【0007】
算出部は、スクラバーから船外に排出される洗浄水流量が第1の流量である場合にpH1、pH2およびpH3に基づいて算出した第1の希釈倍率の値と、スクラバーから船外に排出される洗浄水流量が第2の流量である場合にpH1、pH2およびpH3に基づいて算出した第2の希釈倍率の値とを予め算出してよい。記録部は、第1の希釈倍率の値および第2の希釈倍率の値を記録してよい。算出部は、スクラバーから船外に排出される洗浄水流量に対応する希釈倍率の値を用いて、予め定められた位置における水のpH値を算出してよい。記録部は、洗浄水流量と、希釈倍率の値とを対応付けて記録してよい。
【0008】
装置は、制御部をさらに備えてよい。制御部は、算出部が算出した予め定められた位置における水のpH値に応じて、スクラバーに供給する洗浄水流量を制御してよい。制御部は、スクラバーに供給する洗浄水流量が予め定められた許容量以上の場合に、スクラバーへ排気ガスを排出する発動機の出力を下げることにより、スクラバーに供給する洗浄水流量を許容量以下に制御してよい。制御部は、船が停泊中であると判断したことを条件として、スクラバーへ排気ガスを排出する発動機の出力を下げてもよい。
【0009】
本発明の第2の態様における、スクラバーを有する船の船外の予め定められた位置における水のpHの算出方法は、スクラバーから船外に排出される洗浄水のpH値を測定する段階と、船外からスクラバーに供給される洗浄水のpH値を測定する段階と、船外に排出された洗浄水が船外の予め定められた位置において希釈される倍率を示す希釈倍率と、スクラバーから船外に排出される洗浄水のpH値を測定する段階において測定したpH値と、船外からスクラバーに供給される洗浄水のpHを測定する段階において測定したpH値とに基づいて、船外の予め定められた位置における水のpH値を算出する段階とを備える。
【0010】
pHの算出方法は、スクラバーを有する船の試運転時に行われてよい。pHの算出方法は、船外の予め定められた位置における水のpH値を算出する段階の前に、第1のpH値と、第2のpH値と、第3のpH値とに基づいて希釈倍率の値を予め算出する段階と、希釈倍率の値を記録する段階とをさらに備えてよい。第1のpH値は、スクラバーから船外に排出される洗浄水のpH値を測定する段階において測定されてよい。第2のpH値は、スクラバーから船外に排出される洗浄水のpH値を測定する段階において測定されてよい。第3のpH値は、船外における予め定められた位置の水のpH値であってよい。船外の予め定められた位置における水のpH値を算出する段階は、第1のpH値の測定よりも後に測定したスクラバーから船外に排出される洗浄水のpH値と、第2のpH値の測定よりも後に測定した船外からスクラバーに供給される洗浄水のpH値と、記録した希釈倍率の値とに基づいて、船外の予め定められた位置における水のpH値を算出する段階であってよい。
【0011】
希釈倍率の値を予め算出する段階は、第1の希釈倍率の値と、第2の希釈倍率の値とを算出する段階を有してよい。第1の希釈倍率の値は、スクラバーから船外に排出される洗浄水流量が第1の流量である場合に、第1のpH値、第2のpH値および第3のpH値に基づいて算出されてよい。第2の希釈倍率の値は、スクラバーから船外に排出される洗浄水流量が第2の流量である場合に、第1のpH値、第2のpH値および第3のpH値に基づいて算出されてよい。希釈倍率の値を記録する段階は、第1の希釈倍率の値および第2の希釈倍率の値を記録する段階を有してよい。pHの算出方法は、スクラバーから船外に排出される洗浄水流量に対応する希釈倍率の値を用いて、船外の予め定められた位置における水のpH値を算出する段階をさらに有してよい。
【0012】
pHの算出方法は、船外の予め定められた位置における水のpH値を算出する段階において算出されたpH値に応じて、スクラバーに供給する洗浄水流量を制御する段階をさらに備えてよい。pHの算出方法は、スクラバーに供給する洗浄水流量が予め定められた許容量以上の場合に、スクラバーへ排気ガスを排出する発動機の出力を下げ、スクラバーに供給する洗浄水流量を許容量以下に制御する段階をさらに備えてよい。pHの算出方法は、船が停泊中であると判断したことを条件として、スクラバーへ排気ガスを排出する発動機の出力を下げる段階をさらに有してよい。
【0013】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】排水点86から4mの位置の海水をサンプリングする様子を示す図である。
【
図3】一の希釈倍率αの値を用いて、排水点86から4mの位置でのpH値を測定する第1実施例のフロー図である。
【
図4】複数の希釈倍率α1〜αnの値を用いて、排水点86から4mの位置でのpH値を測定する第2実施例のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0016】
図1は、排水点86から4mの位置の海水をサンプリングする様子を示す図である。本例の船100は、少なくとも、排ガス浄化装置50、主機エンジン60、煙突78、取水口72、取水ポンプ74、排水口82および排水ポンプ84を有する。なお、上述した部材および部位は、本例の船100の特徴を説明する上での必要最低限の部材および部位に過ぎない。船100は、上述した部材および部位以外の要素を有してよい。また、
図1では紙面の都合上、船100の船首と船尾との間を省略して図示している。
【0017】
発動機としての主機エンジン60は、船100のスクリューに動力を与える。これにより、船100は推進力を得る。主機エンジン60では重油が燃焼されるので、排ガスが発生する。主機エンジン60から排出された排ガスは、排ガス浄化装置50のスクラバー10に入る。なお、発動機は、主機エンジン60以外の他のエンジンを有していてもよい。この場合に、主機エンジン60以外の他のエンジンの排ガスをスクラバー10に入れてもよい。
【0018】
本例の排ガス浄化装置50は船100の船内に設けられる。排ガス浄化装置50は、少なくとも、スクラバー10、第1のpH測定器12および第2のpH測定器14を有する。スクラバー10は、主機エンジン60から排出された排ガスを浄化する。
【0019】
排ガスは硫黄酸化物(SO
x)等を含んでいる。スクラバー10は、硫黄酸化物等を含む排ガスと海水とを気液反応させることにより、排ガス中の硫黄酸化物の濃度を下げる。これにより、スクラバー10は、排ガスを浄化する。スクラバー10により浄化された排ガスは、煙突78を通じて船100の船外に排出される。
【0020】
取水ポンプ74は、船100の船外から取水口72を通じてスクラバー10に洗浄水としての海水を供給する。第2のpH測定器14は、当該海水のpH値を測定する。なお、本例において取水口72は船底に設けられる。
【0021】
排水ポンプ84は、スクラバー10から排水口82を通じて船100外に洗浄水としての海水を排出する。第1のpH測定器12は、排ガスを浄化した後の海水のpH値を測定する。なお、本例の排水口82は、海中に浸かる位置に設けられる。排水口82の排水方向は、海中深さ方向であってよい。
【0022】
小型船90には、作業者92が乗船する。作業者92は、測量器94により、船100の船外における予め定められた位置を特定する。本例においては、作業者92は、測量器94により、排水点86から半径4mの位置を特定する。作業者92は、特定した位置の海水をサンプリング容器96により500ml程度採取する。作業者92は、pH計等の既知の手段により採取した海水のpH値を測定する。これにより、排水点86から4mの位置の海水のpH値を取得する。
【0023】
図2は、排ガス浄化装置50の詳細を示す図である。排ガス浄化装置50は、スクラバー10、第1のpH測定器12、第2のpH測定器14、算出部20、記録部30および制御部40を有する。算出部20、記録部30および制御部40は、汎用コンピュータにより構成されてよく、複数のモジュールを接続することにより構成されてもよい。
【0024】
算出部20は、船外に排出された洗浄水が、船外の予め定められた位置において希釈される倍率を示す希釈倍率αと、第1のpH測定器12が測定したpH値と、第2のpH測定器14が測定したpH値とに基づいて、船外の前記予め定められた位置における水のpH値を算出する。具体的には、算出部20は、希釈倍率αの情報を既に持っている場合に、船外の予め定められた位置である排水点86から4mの位置の海水のpHを算出する。このことについて下記に具体的に説明する。
【0025】
(一の希釈倍率αの算出)算出部20には、第1のpH測定器12で測定した第1のpH値と、第2のpH測定器14で測定した第2のpH値とが入力される。また、算出部20には、作業者92がpH計等により測定した、排水点86から4mの位置の水の第3のpH値が入力される。算出部20は、第1のpH値と、第2のpH値と、第3のpH値とに基づいて、希釈倍率の値を予め算出する。
【0026】
具体的には、算出部20は、第1のpH値であるpH1、第2のpH値であるpH2および第3のpH値であるpH3を用いて、下記の[数1]により希釈倍率αを算出する。
[数1]
α=(10
−pH1−10
−pH2)/(10
−pH3−10
−pH2)
【0027】
濃度C1の原水を濃度C2の希釈水により希釈した結果濃度C3となる場合において、希釈倍率αは、下記の[数2]となる。
[数2]
α=(C1−C2)/(C3−C2)
【0028】
水素イオン濃度Cnの場合、pH値としてのpHnは下記の[数3]となる。
[数3]
pHn=−log
10(Cn)
【0029】
[数3]の表現を変形すると、下記の[数4]となる。
[数4]
Cn=10
−pHn
【0030】
n=1,2,3について[数4]をそれぞれ[数2]に代入する。これにより、希釈倍率αは、上記の[数1]のように表されることがわかる。
【0031】
例えば、第1のpH測定器12で測定されたpH1が6.60であり、第2のpH測定器14で測定されたpH2が9.00であり、排水点86から4mの位置の海水のpH3が8.35である場合、[数1]からα=72.2となる。本明細書においては、第1のpH測定器12に入る水の水素イオン濃度をC1と表し、第2のpH測定器14に入る水の水素イオン濃度をC2と表し、排水点86から4mの位置の海水の水素イオン濃度をC3と表すことにする。
【0032】
(pH3の算出)記録部30は、算出部20に接続される。記録部30は、算出部20が算出した希釈倍率αの値を記録する。算出部20は、記録部30とデータをやり取りすることができる。算出部20は、第1のpH測定器12が第1のpH値(pH1)の測定よりも後に測定したpH値と、第2のpH測定器14が第2のpH値(pH2)の測定よりも後に測定したpH値と、記録部30が記録した希釈倍率αの値とに基づいて、予め定められた位置における水のpH値を算出する。
【0033】
[数2]から、C3は下記の[数5]で表される。
[数5]
C3=C2+(C1−C2)/α
【0034】
例えば、主機エンジン60からスクラバー10に入る排ガスの量が増えて、第1のpH測定器12で測定されるpH値および第2のpH測定器14で測定されるpH値が変わる場合がある。この場合であっても、排水点86から4mの位置の海水のpH値は、既知の希釈倍率αを用いて算出することができる。例えば、第1のpH測定器12で測定されるpH値が5.60となり、第2のpH測定器14で測定されるpH値が5.60となった場合、α=72.2であるので、[数4]および[数5]から、排水点86から4mの位置の海水のpH値は7.42となる。
【0035】
したがって、船外の予め定められた位置の海水のpH値は、第1のpH測定器12および第2のpH測定器14が新たに測定したpH値および既知の希釈倍率αを用いて算出することができる。これにより、希釈倍率αを一度測定しておけば、第1のpH測定器12および第2のpH測定器14のpH値を順次更新することにより、排水点86から4mの地点のpHを知ることができる。
【0036】
(複数の希釈倍率α1〜αnの算出)なお、主機エンジン60の負荷に応じて、スクラバー10から船外に排出される洗浄水流量は変化することがある。洗浄水流量が変化すると、希釈倍率αも変化すると考えられる。そこで、算出部20は、異なる洗浄水流量にそれぞれ対応する複数の希釈倍率αを予め算出してよい。すなわち、算出部20は、スクラバー10から船外に排出される洗浄水流量が第1の流量である場合に、pH1、pH2およびpH3に基づいて算出した第1の希釈倍率の値α1を予め算出してよい。さらに、算出部20は、スクラバー10から船外に排出される洗浄水流量が第2の流量である場合に、pH1、pH2およびpH3に基づいて算出した第2の希釈倍率の値α2を予め算出してよい。また、記録部30は、第1の希釈倍率の値および第2の希釈倍率の値を記録してよい。
【0037】
算出部20は、スクラバー10から船外に排出される洗浄水流量に対応する希釈倍率の値α1〜αnを用いて、予め定められた位置における水のpH値を算出してよい。なお、nは自然数である。さらに、記録部30は、洗浄水流量と、希釈倍率の値α1〜αnとを対応付けて記録してよい。これにより、記録部30は、洗浄水流量に対する希釈倍率α1〜αnのテーブルを有してよい。
【0038】
主機エンジン60の負荷が大きくなると排ガスの量が増える。スクラバー10に供給される洗浄水流量が一定であれば、第1のpH測定器12が測定するpH値が下がり、かつ、船外の予め定められた位置における水のpH値も低下することが予想される。そして、排水口82の排水点86から4mの位置の海水のpH値を6.5以上とするべく、スクラバー10に供給される洗浄水流量を増やすことが求められる場合がある。
【0039】
本例の制御部40は、記録部30を介して算出部20に接続される。なお、制御部40は、算出部20に直接接続してもよい。制御部40は、算出部20が算出した予め定められた位置における水のpH値に応じて、スクラバー10に供給する洗浄水流量を制御する。例えば、洗浄水流量をこのまま一定に維持した場合には排水点86から4mの位置の海水のpH値が6.5を下回ることが予想される場合には、制御部40は取水ポンプ74を制御して、スクラバー10に供給する洗浄水流量を増やす。なお、洗浄水流量が増えると、希釈倍率αは上昇する。
【0040】
算出部20は、随時測定する第1のpH測定器12のpH値、第2のpH測定器14のpH値、および、洗浄水流量に対する希釈倍率α1〜αnのテーブルを用いて、排水点86から4mの位置の海水のpH値が6.5以上となるのに要する最小の洗浄水流量を算出してよい。洗浄水流量を多くすると取水ポンプ74の負荷が大きくなるので、洗浄水流量の増加量は最小であることが望ましい。
【0041】
排水点86から4mの位置の海水のpH値が6.5以上となるためには、[数3]および[数5]から、下記の[数6]を満たせばよい。
[数6]
6.5 ≦ pH=−log
10[C2+(C1−C2)/α]
【0042】
[数4]および[数6]より、希釈倍率αは下記の[数7]を満たせばよい。算出部20は、洗浄水流量に対する希釈倍率α1〜αnのテーブルから、[数7]を満たす最小のα(つまり、最小の洗浄水流量)を求めればよい。
[数7]
(10
−pH1−10
−pH2)/(10
−6.5−10
−pH2)≦α
【0043】
制御部40は、算出部20が算出した最小の洗浄水流量で、取水ポンプ74からスクラバー10に洗浄水を供給するよう、取水ポンプ74を制御してよい。また、制御部40は、スクラバー10が当該洗浄水流量で動作するように、スクラバー10を制御してよい。このように、変化した洗浄水流量ごとに希釈倍率αを予め測定しておけば、洗浄水流量が変わっても、希釈倍率αを再度測定することなく排水点86から4mの位置のpHを知ることができる。
【0044】
制御部40は、スクラバー10に供給する洗浄水流量が予め定められた許容量以上の場合に、スクラバー10へ排気ガスを排出する発動機としての主機エンジン60の出力を下げることにより、スクラバー10に供給する洗浄水流量を許容量以下に制御してもよい。スクラバー10には、スクラバー10における洗浄水スプレー圧力の限界圧力、および、スクラバー10の洗浄水排出能力の上限がある。スクラバー10の限界圧力および洗浄水排出能力の上限を超える、スクラバー10の許容量以上の洗浄水流量が流れる場合、スクラバー10は壊れる危険がある。
【0045】
そこで、制御部40は、主機エンジン60を制御して主機エンジン60の出力を下げてよい。これにより、主機エンジン60からスクラバー10への排ガスの量が減少する。よって、排水点86から4mの位置の海水のpH値が6.5以上であることを順守しつつ、洗浄水流量を許容量以下にすることによりスクラバー10の破壊を回避することができる。なお、スクラバー10の洗浄水流量の許容量は、スクラバー10の設計時に予め定められる。
【0046】
主機エンジン60から出る排ガス量は、主機エンジン60の負荷に比例した量である。主機エンジン60は、船100の動力を発生させるだけではなく、船100に必要な電力を発電するために動作させることがある。船100の航行中において、スクラバー10の洗浄水流量の許容量に制限されることにより主機エンジン60の負荷を下げざるを得なくなるのは、船100を使用する上で不便である。そこで、制御部40は、船100が停泊中であると判断したことを条件として、スクラバー10へ排気ガスを排出する発動機としての主機エンジン60の出力を下げてよい。またこのことは、排水点86から4mの位置のpH値が6.5以下となるのは、船100の停泊中に求められる条件であることとも合致する。
【0047】
図3は、一の希釈倍率αの値を用いて、排水点86から4mの位置でのpH値を測定する第1実施例のフロー図である。なお、当該フローは、スクラバー10を有する船100の試運転時に行われてよい。
【0048】
(工程S1)工程S1は、スクラバー10から船外に排出される洗浄水のpH値を第1のpH測定器12を用いて測定する段階において測定した第1のpH値と、スクラバー10から船外に排出される洗浄水のpH値を第
1のpH測定器
12を用いて測定する段階において
船外からスクラバー10に供給される洗浄水のpH値を第2のpH測定器14を用いて測定した第2のpH値と、船外における予め定められた位置の水の第3のpH値とに基づいて希釈倍率の値を予め算出する段階である。具体的には、工程S1において、第1〜第3のpH値および上述の[数1]〜[数4]を用いて、算出部20が希釈倍率αを予め算出する。
【0049】
(工程S2)工程S2は、予め算出した希釈倍率αの値を記録する段階である。具体的には、算出部20が予め算出した希釈倍率αを記録部30が記録する。
【0050】
(工程S3)工程S3は、第1のpH値の測定よりも後において、スクラバー10から船外に排出される洗浄水のpH値を測定する段階である。具
体的には、第1のpH測定器12がスクラバー10から船外に排出される洗浄水のpH値を測定する。さらに、第1のpH測定器12は測定したpH値を算出部20へ入力してよい。
【0051】
(工程S4)工程S4は、第2のpH値の測定よりも後において、船外からスクラバー10に供給される洗浄水のpH値を測定する段階である。具
体的には、第2のpH測定器14が船外からスクラバー10に供給される洗浄水のpH値を測定する。さらに、第2のpH測定器14は測定したpH値を算出部20へ入力してよい。
【0052】
(工程S5)工程S5は、第1のpH値の測定よりも後に測定したスクラバー10から船外に排出される洗浄水のpH値と、第2のpH値の測定よりも後に測定した船外からスクラバー10に供給される洗浄水のpH値と、記録した希釈倍率αの値とに基づいて、船外の予め定められた位置における水のpH値を算出する段階である。具
体的には、工程S2において予め算出された希釈倍率α、工程S3において第1のpH測定器12が測定したpH値、および、工程S4において第2のpH測定器14が測定したpH値の値を[数4]および[数5]に代入することにより、算出部20が排水点86から4mの位置のpH値を算出する。これにより、希釈倍率αを一度測定しておけば、第1のpH測定器12および第2のpH測定器14のpH値を順次更新することにより、排水点から4mの位置のpHを知ることができる。
【0053】
(工程S6)工程S6は、工程S3〜工程S5を再度繰り返すか否か判断する段階である。具体的には、制御部40が、工程S3〜工程S5を再度繰り返すか否か判断してよい。工程S6でYESの場合、工程S3〜S5は複数回繰り返してよい。工程S6でNOの場合、当該フローは終了する(工程S9)。
【0054】
図4は、複数の希釈倍率α1〜αnの値を用いて、排水点86から4mの位置でのpH値を測定する第2実施例のフロー図である。なお、本例の工程S1'、工程S2'および 工程S3'は、第1実施例の工程S1、工程S2および工程S3と異なる。また、本例では、追加の工程S7を任意で有してよい。係る点で第1実施例と異なる。それ以外の点は、第1実施例と共通である。
【0055】
(工程S1')本例の工程S1'は、希釈倍率αの値を予め算出する段階である。工程S1'において、算出部20は、スクラバー10から船外に排出される洗浄水流量が第1の流量である場合に、第1のpH値、第2のpH値および第3のpH値に基づいて算出した第1の希釈倍率の値と、スクラバー10から船外に排出される洗浄水流量が第2の流量である場合に、第1のpH値、第2のpH値および第3のpH値に基づいて算出した第2の希釈倍率の値とを算出する。なお、本例の工程S1'において、算出部20は2以上の希釈倍率を算出してもよい。つまり、算出部20は、異なる洗浄水流量に対応して希釈倍率を算出してよい。希釈倍率α1〜αn(nは自然数)は、洗浄水流量の第1から第nの流量に対応してよい。
【0056】
(工程S2')本例の工程S2'は、記録部30が複数の希釈倍率α1〜αnを記録する段階である。つまり、記録部30は、洗浄水流量に対する希釈倍率α1〜αnのテーブルを記録する。
【0057】
(工程S3')本例の工程S3'は、スクラバー10から船外に排出される洗浄水流量に対応する希釈倍率の値を用いて、船外の予め定められた位置における水のpH値を算出する。具体的には、算出部20が、希釈倍率α1〜αnのうち洗浄水流量に対応する希釈倍率の値を用いて、排水点86から4mの位置における水のpH値を算出する。このように、変化した洗浄水流量ごとに希釈倍率αを予め測定しておけば、洗浄水流量が変わっても、希釈倍率αを再度測定することなく排水点86から4mの地点のpHを知ることができる。
【0058】
(工程S7)工程S7は、任意に実施してよい工程である。工程S6で
NOの場合、工程S7へ進む。工程S6で
YESの場合、工程S3'へ移行する。
【0059】
工程S7は、船外の予め定められた位置における水のpH値を算出する段階において算出されたpH値に応じて、スクラバー10に供給する洗浄水流量を制御する段階を有する。具体的には、洗浄水流量をこのまま一定に維持した場合には排水点86から4mの位置の海水のpH値が6.5を下回ることが予想される場合には、制御部40は取水ポンプ74を制御して、スクラバー10に供給する洗浄水流量を増やす。
【0060】
また、工程S7は、スクラバー10に供給する洗浄水流量が予め定められた許容量以上の場合に、スクラバー10へ排気ガスを排出する発動機としての主機エンジン60の出力を下げ、スクラバー10に供給する洗浄水流量を許容量以下に制御する段階を有してよい。具体的には、制御部40が主機エンジン60を制御して、主機エンジン60の出力を下げてよい。これにより、排水点86から4mの位置の海水のpH値が6.5以上であることを順守しつつ、洗浄水流量を許容量以下にすることによりスクラバー10の破壊を回避することができる。加えて、工程S7は、船100が停泊中であると判断したことを条件として、スクラバー10へ排気ガスを排出する発動機としての主機エンジン60の出力を下げる段階を有してもよい。
【0061】
(工程S8)工程S8は、工程S3'、工程S4および工程S5ならびに工程S7、または、工程S7のみを再度繰り返すか否か判断する段階である。具体的には、制御部40が、どの工程を再度繰り返すか否か判断してよい。工程S8でYESの場合、工程S6に戻る。工程S3'、工程S4および工程S5は複数回繰り返してよい。その後再び、工程S6に戻る。工程S8でNOの場合、当該フローは終了する(工程S9)。
【0062】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。
【0063】
請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順序で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0064】
10・・スクラバー、12・・第1のpH測定器、14・・第2のpH測定器、20・・算出部、30・・記録部、40・・制御部、50・・排ガス浄化装置、60・・主機エンジン、72・・取水口、74・・取水ポンプ、78・・煙突、82・・排水口、84・・排水ポンプ、86・・排水点、90・・小型船、92・・作業者、94・・測量器、96・・サンプリング容器、100・・船