【文献】
田村伊知郎 外1名,地震力に対する機器・配管系の弾塑性応答評価法,日本機械学会論文集 [online],一般社団法人日本機械学会,2016年 3月25日,Vol. 82, No. 835,[検索日 2017.07.14], インターネット,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/transjsme/82/835/82_15-00467/_article/-char/ja/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
塑性領域におけるモード間の相互作用を無視し、モードの重ね合わせにモード重ね合わせ則を仮定した上で、弾性領域の固有振動モードにより非線形多自由度系をモード展開して、非線形一自由度系の時刻歴応答解析により作製した一定塑性率応答スペクトルから得たモード塑性率を用いることにより、各モードの最大変形を把握する、非線形多自由度系の動的応答解析法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<1.発明の概要>
耐震設計において、機器・配管系は降伏後も剛性が低下しない仮想的な系、即ち、線形系として扱いその応答を線形応答解析により求めることが一般的である。線形多自由度系の応答解析法には、時刻歴応答解析法と応答スペクトル解析法がある。前者は系の最大応答の厳密解が得られるが、解析パラメータの変化が解析結果に及ぼす影響程度の予見性がない。後者は各モードが最大応答となる同時性について仮定し、モード重ね合わせ則を用いることにより系の最大応答が得られるため、厳密解は得られないが、解析に用いる加速度応答スペクトルから各モードの最大応答が把握でき、解析パラメータの変化が解析結果に及ぼす影響程度の予見性に優れている。また、加速度応答スペクトルへの保守性の付与も容易であり、機器・配管系の耐震設計においては、応答スペクトル解析法が広く用いられている。
【0017】
弾塑性応答する機器・配管系を線形系として扱うと解析は容易になるが、系に生じる履歴減衰や塑性変形による固有周期の変化が考慮できない等の課題がある。弾塑性応答する機器・配管系を実現象に即して降伏後に剛性が低下する系、即ち非線形として扱うと、その応答を非線形応答解析により求める必要がある。非線形多自由度系の応答解析法にも、時刻歴応答解析法と応答スペクトル解析法があるが、次に述べる課題がある。前者は系の最大応答の厳密解が得られるが、線形系と同じく解析パラメータの変化が解析結果に及ぼす影響程度の予見性がない。後者の代表例に等価線形化法を用いた応答スペクトル解析法がある。この解析法は系の弾塑性応答による剛性の低下と履歴減衰を、等価な線形剛性と線形減衰で表し、加速度応答スペクトルを用いて応答スペクトル解析を行う方法である。等価な線形剛性と線形減衰の与え方は幾つかの提案がなされているが、厳密解を与える時刻歴応答解析法との理論的な関係は明らかでない(非特許文献1、5、及び6)。
【0018】
発明者らは、機器・配管系の耐震設計に用いる弾塑性応答評価法を提案する。発明者らは、既に、その第一段階として、一定塑性率応答スペクトル(Constant ductility response spectrum)を分析し、地震による床応答に対する一自由度系の弾塑性応答特性について報告した(非特許文献9)。本明細書では、その第二段階として、一定塑性率応答スペクトルを用いる非線形多自由度系の応答スペクトル解析法を提案する。一定塑性率応答スペクトルは、応答により非線形一自由度系に生じる塑性率を、ある特定の値に止めるために必要な系の降伏耐力が簡単に得られるスペクトルである(非特許文献11)。弾塑性応答スペクトルの一つであるこの応答スペクトルには、以下の特徴がある。
(1)一自由度系の弾塑性応答は、剛性の低下や履歴減衰の影響を含め応答解析により厳密に計算されている。
(2)一自由度系の弾性応答の固有周期を横軸としており、弾塑性応答の程度に係わらず着目する系の弾性応答の固有周期により、応答スペクトル上で着目する周期を特定できる。
(3)一自由度系の降伏耐力(又はこれを系の質量で除した降伏加速度)を縦軸としており、これを与えることにより、弾性応答から弾塑性応答まで連続的に系の最大応答を塑性率という形で与える。
【0019】
非線形多自由度系の等価線形化法を用いた応答スペクトル解析法は、非線形多自由度系を等価な線形多自由度系に置き換え、これをモード展開して線形一自由度系の応答解析の結果を用いるものである(非特許文献4及び7)。これに対し、提案する非線形多自由度系の応答スペクトル解析法は、非線形系から線形系への置き換えを行わず、非線形多自由度系をモード展開して非線形一自由度系の応答解析の結果を用いるものである。提案する解析法と厳密解を与える時刻歴応答解析法の関係を
図1に示す。この解析法の構築に当たり用いた仮定は以下の二つであり、一つ目は解析法の基礎となる運動方程式を導出するための仮定、二つ目は応答スペクトル解析を行うための仮定である。
(1)弾性応答の固有振動モードでモード展開すると、弾塑性応答により剛性が低下した際にはモード間の相互作用を生じるが、これを無視する。
(2)一定塑性率応答スペクトルからは各モードの最大応答のみ得られるため、線形多自由度系の応答スペクトル解析と同様に、モードの重ね合わせにモード重ね合わせ則を仮定する。
【0020】
提案する解析法を用いると、解析に用いる一定塑性率応答スペクトルから各モードの最大応答が把握できるため、系の固有周期や地震動の変化が解析結果へ及ぼす影響程度の予見性に優れている。また、地震による床応答に対する各モードの弾塑性応答特性は、一自由度系の弾塑性応答特性として確認されている(非特許文献9)。従って、設計に用いる一定塑性率応答スペクトルへの保守性の付与や設計に用いる系の降伏耐力等の解析パラメータの保守的な設定が容易であり、この解析法を弾塑性応答する機器・配管系の耐震設計に用いることは有効であると考える。これ以降、提案する非線形多自由度系の応答スペクトル解析法を弾塑性応答スペクトル解析法といい、従来の線形多自由度系の応答スペクトル解析法を弾性応答スペクトル解析法という。
【0021】
弾塑性応答する機器・配管系を実現象に即して非線形系として扱うと、その応答を非線形応答解析により求める必要があるが、非線形応答解析より線形応答解析の結果が保守的である条件が明らかであれば、非線形応答解析の簡易法として線形応答解析を用いることができる。この非線形応答解析の簡易法としての線形応答解析は、非線形応答解析より保守的な結果が得られることを担保している点で、現在の耐震設計において線形応答解析を用いていることと意味合いが異なる。非線形応答解析の簡易法としての線形応答解析の結果に対しては、非線形応答解析の結果に対して適用する許容基準を適用することができる。著者らは、一自由度の非線形系に比べ、対応する線形系の応答が大きくなるか判定する条件を明らかにしており(非特許文献10)、この知見に基づき、本報では多自由度の非線形系に比べ、対応する線形系の応答が大きくなるか判定する条件を提案する。非線形系に対応する線形系については後述する。
【0022】
<2.一自由度系の弾塑性応答と一定塑性率応答スペクトル>
2.1 一自由度系の運動方程式
荷重・変形関係が二直線骨格曲線であり移動硬化則に従う復元力特性をもつ一自由度系を考える。応答が弾性領域にある系の運動方程式は次式となる。
【数5】
ここで、xは変形、mは質量、cは減衰係数、kは初期剛性、tは時間、F(t)は外力、x
yは降伏変形である。
【0023】
変形xが降伏変形x
yを超えると、系が降伏する。応答が塑性領域にある系の運動方程式は次式となる。
【数6】
ここで、kは二次剛性である。
【0024】
式(1)、(2)を質量mで除すと次式が得られる。
【数7】
ここで、
【数8】
は固有角振動数、
【数9】
は二次剛性に対応した固有角振動数、
【数10】
は減衰比、
【数11】
は入力加速度である。
【0025】
式(3)、(4)を降伏変形x
yで除すと、系の時間依存塑性率D=x/x
yに対する運動方程式が次の通り得られる。
【数12】
【数13】
ここで、a
y=ω
n2x
yは系の降伏加速度である。
【0026】
式(5)、(6)より、系の塑性率μ=x
max/x
y=max{|D(t)|}は、与えられた外力F(t)に対し4つのパラメータ:a
y、T
n、h、γにより定まることがわかる。ここで、x
maxは最大変形、T
n=2π/ω
nは固有周期、γ=k’/kは剛性比である。
【0027】
本明細書で考える一自由度系は、剛性比の範囲が0≦γ<1の非線形一自由度系及びこれに対応する線形一自由度系とする。ここで、対応する線形一自由度系とは、非線形一自由度系と質量、初期剛性、減衰比及び降伏点が等しく、剛性比を1とした系であり、変形が降伏変形を超えても剛性が低下しない仮想的な系である。非線形一自由度系は変形が降伏変形を超えると剛性が低下する系であるが、対応する線形一自由度系はこの剛性低下が極限まで小さくなった系と考えることができる。非線形一自由度系及び対応する線形一自由度系は、各々、
図2A及び
図2Bが該当し、いずれも降伏点を有する非弾性系である。従って、非線形一自由度系及び対応する線形一自由度系ともに、降伏変形を基準に系の最大変形の大きさを表す塑性率を用いて系の最大応答を表すことができる。このように、降伏点を持つ仮想的な線形一自由度系という概念を導入することにより、非線形一自由度系と対応する線形一自由度系の塑性率による応答の比較が可能となる。なお、塑性率μは、通常、弾塑性応答する系に対して用いる(μ>1)が、弾性応答する系に対しても用いる(0≦μ<1)ことができる。
【0028】
2.2 一定塑性率応答スペクトル
一定塑性率応答スペクトルは、外力F(t)が作用する減衰比h、剛性比γの一自由度系の降伏加速度a
yを、特定の塑性率μに対して固有周期T
nの関数a
y(T
n,h,γ,μ)として図示するものである。この図は、固有周期T
n毎に、外力F(t)が作用する減衰比h、剛性比γの一自由度系に対して降伏加速度を変化させ時刻歴応答解析を行い、その応答が特定の塑性率μとなる系の降伏加速度a
yを収束計算により求め、作成する(非特許文献3)。島根原子力発電所2号機原子炉建物で観測した鳥取県西部地震の床応答を
図3に、この一定塑性率応答スペクトルを
図4に示す。なお、式(5)、(6)より、系の降伏加速度a
yと入力加速度
【数14】
には次式の関係があり、一定塑性率応答スペクトルは系の降伏加速度に代えて入力加速度を変化させて計算することもできる。
【数15】
【0029】
系の降伏耐力f
yとするとfy=ma
yであるため、一定塑性率応答スペクトルを用いると、系の固有周期、減衰比、剛性比及び系に許容する塑性率から、系に必要な降伏耐力を得ることができる。また、系の降伏耐力、固有周期、減衰比及び剛性比から、系に生じる塑性率を得ることができる。一定塑性率応答スペクトルは必要耐力スペクトルともいわれ、前者の使い方をすることが多いが、本明細書では後者の使い方をする。
【0030】
一定塑性率応答スペクトルa
y(T
n,h,γ,μ)と加速度応答スペクトルA(T
n,h)の関係を考える。加速度応答スペクトルA(T
n,h)は、外力F(t)が作用する減衰比hの線形一自由度系の最大応答加速度Aを、固有周期T
nの関数として図示するものである。系が弾性に止まるために必要な降伏加速度a
eは,塑性率μ=1の一定塑性率応答スペクトルにより与えられる。このスペクトルを次式の通り弾性応答スペクトルa
e(T
n,h)と定義する。
【数16】
【0031】
この弾性応答スペクトルa
e(T
n,h)は、次式の通り加速度応答スペクトルA(T
n,h)に一致する。(厳密には弾性応答スペクトルは疑似加速度応答スペクトルと一致する。疑似加速度応答スペクトルと加速度応答スペクトルは近似的に等しい(非特許文献3)。)
【数17】
【0032】
一定塑性率応答スペクトルは、通常、塑性率μが1より大きい弾塑性応答する系に対して描くが、塑性率μが1以下の弾性応答に止まる系に対しても描くことができる。弾性応答に止まる系の応答は線形応答であり、また、弾塑性応答するが降伏後も剛性が低下しない仮想的な系の応答も線形応答である。系が弾性に止まるために必要な降伏加速度a
e=ω
n2x
maxと系の降伏加速度a
y=ω
n2x
yを用いると、線形応答する系の塑性率μ=x
max/x
yは次式で与えられる。
【数18】
従って、線形応答する系の一定塑性率応答スペクトルa
y(T
n,γ,h;μ)は、弾性応答スペクトルa
e(T
n,h)を用いて次式で与えられる。
【数19】
【0033】
2.3 応答スペクトル解析法
弾性応答スペクトル解析法と弾塑性応答スペクトル解析法による一自由度系の最大変形の求め方を
図5A及び
図5Bを用いて示す。
【0034】
まず、弾性応答スペクトル解析法について説明する。
図5Aのグラフは、加速度応答スペクトルを示す。このスペクトルより、最大加速度A=A(T
n,h)が得られる。更に、最大加速度Aから、最大変形量x
max=A/ω
n2が得られる。
【0035】
次に、弾塑性応答スペクトル解析法について説明する。
図5Bのグラフは、一定塑性率応答スペクトルを示す。このスペクトルより、塑性率μ=μ(a
y,T
n,h,γ)が得られる。更に、この塑性率μから、最大変形量x
max=μx
yが得られる。仮に系が線形であれば、
x
max=μx
y=(a
e/a
y)x
y=a
e/(ω
n2)
となる。ここで、式(11)よりμ=a
e/a
yである。
【0036】
なお、Aは最大応答加速度、a
eは、弾性系に必要とされる降伏加速度、a
yは系の降伏加速度、hは、系の減衰比、T
nは系の固有周期、x
yは、系の降伏変形量、x
maxは最大変形量、μは塑性率、ω
nは系の固有角振動数である。
【0037】
系が線形である場合、式(9)より弾性応答スペクトル解析法と弾塑性応答スペクトル解析法から得られる結果は一致する。弾塑性応答スペクトル解析法を用いると、系の降伏加速度a
yが弾性系であるために必要な降伏加速度a
eを上回る場合、下回る場合のいずれにおいても、非線形一自由度系の時刻歴応答解析により作成した一定塑性率応答スペクトルから塑性率μが得られ、これより系の最大変形を求めることができる。
【0038】
<3.非線形多自由度系の弾塑性応答スペクトル解析法>
一定塑性率応答スペクトルは、一自由度系の弾性応答の固有周期と降伏加速度を与えることにより、弾性応答から弾塑性応答まで連続的に系の最大応答を塑性率という形で与える。この優れた特性を有する一定塑性率応答スペクトルを用いる非線形多自由度系の応答スペクトル法を考える。
【0039】
線形N自由度系をモード展開すると、式(3)の形式のモード変位に対する独立したN個の線形一自由度系の運動方程式が得られる。これらの式に基づき、各モードの最大応答加速度を加速度応答スペクトルから読み取り、モード重ね合わせ則を用いて系の最大応答を求める解析法が、従来の弾性応答スペクトル解析法である。著者らは、非線形N自由度系をモード展開し、モード座標系において新たに定義したモード降伏変位及びモード降伏加速度を用いて、式(5)、(6)の形式の時間依存モード塑性率に対する独立したN個の非線形一自由度系の運動方程式を得た。これらの式に基づき、各モードのモード塑性率を一定塑性率応答スペクトルから読み取り、モード重ね合わせ則を用いて系の最大応答を求める方法を開発した。開発した弾塑性応答スペクトル解析法を以下に示す。
【0040】
3.1 線形多自由度系のモード展開
N個の質点を線形ばねで、互いに又は床と結合した線形N自由度系を考える。質点iの質量をm
i、質点i−j間のばねi−jの剛性をk
ijとすると、この系の運動方程式は次式となる(i,j=1,2・・・N)。ただし、質点i−i間のばねi−iは質点iと床の間のばねを表す。
【数20】
ここで、
【数21】
【数22】
{X}は変位ベクトル、[M]は質量行列、[C]は減衰行列、[K]は剛性行列、
【数23】
は外力F(t)の加速度ベクトルを示す。
【0041】
ここで、行列の各列が系の固有角振動数ω
iに対応する固有振動モード[Φ]
i={φ
i}である行列[Φ]を定義する。N自由度系の変位ベクトル{X}はモードの重ね合わせとして、次式で表すことができる。
【数24】
【0042】
式(12)と(15)より、モード座標{q}の運動方程式が次のように得られる。
【数25】
ここで、ω
r,h
r,β
rは,各々r次のモード角振動数、モード減衰比及び刺激係数である。
【0043】
式(16)をβ
rで除すとモード座標{η}の運動方程式が次のように得られる。ここで、η
r=q
r/β
rである。
【数26】
【0044】
3.2 非線形多自由度系のモード展開
前節の線形N自由度系のばねを非線形ばねとした非線形N自由度系を考える。非線形ばねは、荷重・変形関係が二直線骨格曲線であり移動硬化則に従う復元力特性を持つとする。一例として非線形N自由度系のモデル図を
図6に示す。応答が弾性領域である系の運動方程式は、式(12)、(16)及び(17)に等しい。次に、非線形N自由度系の応答が弾性領域から塑性領域に入り、ばねi
1−j
1からばねi
n−j
nでまで順次降伏する運動を考える。この運動は、ばねi−jの降伏変形をx
ijy、降伏したばねの二次剛性をk’
ijとすると、以下のように記述することができる。
【0045】
ばねi
1−j
1の変形が降伏変形
【数27】
となり非線形N自由度系に最初の降伏が生じる。次にばねi
2−j
2の変形が降伏変形
【数28】
となり系に2番目の降伏が生じる。そして、系の降伏が進みn番目の降伏がばねi
n−j
nで生じる。このとき、非線形N自由度系のn箇所が降伏し塑性領域にある運動方程式は次式となる。
【数29】
ここで、
【数30】
【数31】
【0046】
式(18)の左辺の第3項以降のn+1個の項が、n箇所が降伏した系の復元力を表す。モード座標{q}において、ばねi−jのモード降伏変位q
ry(ij)を導入することとし、その定義は次式とする。
【数32】
【0047】
r次のモード変位がq
ry(ij)となると、r次の固有振動モード{φ
r}の変位によりばねi−jが降伏する。式(18)に式(15)を代入し、式(18)の各項に前から{Φ}
Tを乗じて式(21)を用いると、モード座標{q}の運動方程式が次のように得られる。
【数33】
ここで、
【数34】
である。
【0048】
3.3 モード間の相互作用のない非線形多自由度系の運動方程式
前節で得たモード座標{q}の塑性領域の運動方程式(22)は、左辺第3項の総和のうちs≠rであるN−1個の項が、r次モードと他のモードの相互作用を表す。また、降伏したばねi
1−j
1からばねi
n−j
nは、r次モードの応答のみにより降伏したものではなく、各モードの応答を重ね合わせた全応答により、各ばねがその降伏変位となり降伏したものである。
【0049】
最初に、モード間の相互作用を陽に含まないモード座標{q}の運動方程式を得るために次式の仮定をする。
【数35】
この仮定を用いると、式(22)よりモード座標{q}の運動方程式が次のように得られる。
【数36】
ここで、ω
r2=K
φr/M
φr、
【数37】
である。
【0050】
式(25)をβ
rで除すと、モード座標{η}の運動方程式が次のように得られる。ここで、
【数38】
である。
【数39】
【0051】
次に、r次モードのみ運動する非線形N自由度系を仮想的に考える。この系の応答が弾性領域から塑性領域に入り、ばねi
1r−j
1rからばねi
nr−j
nrまで順次降伏する運動を考えると、この運動は以下のように記述することができる。
【0052】
r次モードによる非線形N自由度系の変位はη
rβ
r{φ
r}で与えられる。η
rを0から大きくすると、ばねi
1r−j
1rの変形が降伏変形
【数40】
となり系に最初の降伏が生じる。次にばねi
2r−j
2rの変形が降伏変形
【数41】
となり系の2番目の降伏が生じる。そして、系の降伏が進みn’番目の降伏がばねi
n’r−j
n’rで生じる。非線形N自由度系のn’箇所が降伏し塑性領域にある運動方程式は次式となる。
【数42】
【0053】
式(26)と(27)において、(i
oj
o)と(i
orj
or)は各々系のうちo番目に降伏が生じるばねを表す。(i
oj
o)は全てのモードの応答の重ね合わせにより降伏が生じるばねを表すのに対し、(i
orj
or)はr次モードのみの応答により降伏が生じるばねを表すため、両式は一般に等しくないが、式(26)をモード間の相互作用がない、即ち各モードの運動を独立して規定する式(27)に置き換えることとする。
【0054】
式(27)より、モード座標{η}の各モードは、荷重・モード変位関係が多直線骨格曲線であり移動硬化則に従う復元力特性を持つことがわかる。この復元力特性を単純化するため、多直線骨格曲線を
図7に示すように弾性剛性がK
φrで二次剛性がK”
φrである二直線骨格曲線で近似する。この近似により式(27)から次式が得られる。
【数43】
ここで、
【数44】
【0055】
η
rmax=max{|η
r(t)|}はr次のモード変位η
rの最大値で、K”
φrはη
rmaxの関数となる。式(17)と(28)がη
rmaxを与えるためη
rmaxは収束計算により得ることができる。時間依存モード塑性率を
【数45】
とすると、式(17)と(28)を
【数46】
で除すと、時間依存モード塑性率D
r(t)の運動方程式が次の通り得られる。
【数47】
【数48】
ここで、
【数49】
はモード降伏加速度である。D
r(t)とa
ryは各々r次で最初に降伏するばねi
1r−j
irの時間依存モード塑性率とモード降伏加速度であるが、これを単にr次の時間依存モード塑性率とモード降伏加速度という。
【0056】
3.4 弾塑性応答スペクトル解析法
式(30)、(31)より、ある外力に対するr次のモード塑性率μ
r=max{|D
r(t)|}は次式で表される。
【数50】
ここで、
【数51】
である。
【0057】
式(30)と(31)は式(5)と(6)と同じ形式である。従って、r次のモード塑性率μ
rは、モード減衰比h
r、モード剛性比γ
rの一定塑性率応答スペクトルを用いて、モード降伏加速度a
ryと固有周期T
rから得ることができる。ばねi−rのr次の時間依存モード塑性率D
rij(t)=η
r(t)/η
ry(ij)及びモード塑性率μ
rij=max{|D
rij(t)|}は、
【数52】
より次式で表すことができる。
【数53】
【0058】
ばねi−jの時間依存塑性率D
ij=x
i−x
j/x
ijyは、モード変位の定義式(21)から、ばねi−jのr次の時間依存モード塑性率D
rijと次の関係にあることがわかる。
【数54】
【0059】
従って、モード重ね合わせ則を用いると、ばねi−jの塑性率μ
ij=max{|D
ij(t)|}は次の通り得ることができる。
【数55】
【0060】
以上が、発明者らが開発した非線形多自由度系の弾塑性応答スペクトル解析法である。この解析法は、弾性領域の固有振動モードにより非線形多自由度系をモード展開し、塑性領域においてもモード間の相互作用がないとの仮定及びモード重ね合わせ則の仮定を用いて導出したものであり、線形多自由度系の応答スペクトル解析法を、一定塑性率応答スペクトルを用いて非線形多自由度系の応答スペクトル解析法に拡張したものといえる。また、解析に用いる一定塑性率応答スペクトルにあわせて、荷重・モード変位関係は多直線骨格曲線を二直線骨格曲線で近似した。二直線骨格曲線の二次剛性の違いは一定塑性率応答スペクトルにさほど大きな影響を与えないため(非特許文献9)、解析に用いる二直線骨格曲線の解析結果への影響は小さいと考える。
【0061】
弾性応答スペクトル解析法と弾塑性応答スペクトル解析法による多自由度系の最大変形の求め方を
図8A及び
図8Bを用いて示す。
【0062】
まず、弾性応答スペクトル解析法について説明する。
図8Aのグラフは、加速度応答スペクトルを示す。このスペクトルより、r次の最大加速度A
r=A(T
r,h
r)が得られる。更に、r次の最大加速度A
rからr次のモードでの質点iの変位x
ir=(A
rβ
rφ
ri)/ω
r2が得られる。また、モード重ね合わせ則により、ばねi−jの最大変形量
【数56】
が得られる。
【0063】
次に、弾塑性応答スペクトル解析法について説明する。
図8Bのグラフは、一定塑性率応答スペクトルを示す。このスペクトルより、r次モードの塑性率μ
r=μ(a
ry,T
r,h
r,γ
r)が得られる。更に、この塑性率μ
rから、ばねi−jのr次モードの塑性率
【数57】
が得られる。
【0064】
モード重ね合わせ則により、ばねi−jの塑性率は、
【数58】
となる。
【0065】
塑性率μ
ijから、ばねi−jの最大変形量
【数59】
が得られる。
【0066】
仮に系が線形であるなら、
【数60】
となる。ここで、式(11)より、
【数61】
である。
【0067】
なお、A
rはr次モードでの最大応答加速度、a
reは弾性系に必要とされるr次モードの降伏加速度、a
ryは系のr次のモード降伏加速度、h
rは系のr次のモード減衰比、i,jは質点の番号(1・・・N)、rはモードの次数(1・・・N)、T
rは系のr次の固有周期、x
irはr次モードにおける質点iの変位、x
ijmaxは、ばねi−jの最大変形量、x
ijyはばねi−jの降伏変形量、
【数62】
は、モード重ね合わせ則、β
rは、r次モードの刺激係数、γ
rはr次モードの剛性率、η
ry(ij)は、ばねi−jの降伏時におけるr次モードの変位、
【数63】
は、ばねi
1r−j
1rの降伏時におけるr次モードの変位であり、ばねi
1r−j
1rは、r次モード変位により、系において最初に降伏するばねのことである。また、μ
ijは、ばねi−jの塑性率、μ
rはr次のモード塑性率、μ
rijはばねi−jのr次のモード塑性率、{φ
r}は系のr次の固有モード、ω
rは系のr次の固有角振動数である。
【0068】
系が線形である場合、式(9)より弾性応答スペクトル解析法と弾塑性応答スペクトル解析法から得られた結果は一致する。弾塑性応答スペクトル解析法を用いると、系のモード降伏加速度a
ryが弾性系であるために必要な降伏加速度a
eを上回る場合、下回る場合のいずれにおいても、非線形一自由度系の時刻歴応答解析により作成した一定塑性率応答スペクトルからモード塑性率μ
rが得られ、これより各モードの最大変形を求めることができる。
【0069】
<4.床応答による非線形系と対応する線形系の塑性率>
地震による床応答に対して、一自由度の非線形系より対応する線形系の塑性率が大きくなるか判定する条件が確認されている(非特許文献10)。この一自由度系の判定条件を用い、地震による床応答に対して、多自由度の非線形系より対応する線形系の塑性率が大きくなるか判定する条件を検討する。
【0070】
4.1 一自由度系の塑性率
地震による床応答により弾塑性応答する、即ち、降伏加速度a
yが
【数64】
である非線形一自由度系の塑性率μと対応する線形一自由度系の塑性率
【数65】
を比較する。非線形一自由度系の降伏加速度a
y及び固有周期T
nが
【数66】
であるとき、
【数67】
が成り立つ。この関係は、構築物の床応答に対する一定塑性率応答スペクトル(以下、一定塑性率床応答スペクトルという)と構築物の床応答に対する弾性応答スペクトル(以下、弾性床応答スペクトルという)を分析した結果から得られたものである(非特許文献10)。ここで、T
sは一自由度系を支持する構築物の一次固有周期、ε(a
y)は構築物の一次固有周期以下の一自由度系に対して、次式で定義する想定荷重係数である。
【数68】
ここで、F
0=max{F(t)}は外力最大値、A
0は構築物床の最大応答加速度である。
【0071】
想定荷重係数ε(a
y)は、外力最大値F
0に対する想定荷重
【数69】
の比を表す。想定荷重は、非線形一自由度系に対応する線形一自由度系と同じ塑性率が生じると想定した場合の荷重の大きさを表す。想定荷重係数が1より大きいということは、応答により系に作用する荷重が外力最大値F
0から増幅すると想定されることを意味し、その大きさが想定荷重の増幅の程度を表す。対応する線形一自由度系の塑性率
【数70】
は次式で与えられる。
【数71】
ここで、
【数72】
は、弾性床応答スペクトルa
e(T
n,h)を拡幅率Δ(>0)で周期軸短周期方向に拡幅したスペクトルであり、塑性率
【数73】
は
【数74】
に相当する床応答により、対応する線形一自由度系に生じる塑性率である。
図4より、塑性率μが1より大きい一定塑性率床応答スペクトルは、弾性床応答スペクトルの応答増幅領域のうち長周期側に比べ短周期側で大きくなる傾向があり(例えば、
図4の0.2s付近)、弾性床応答スペクトルa
e(T
n,h)の周期軸短周期方向への拡幅はこれに対応するためのものである。発明者らは地震観測記録の一定塑性率床応答スペクトルを検討し、想定荷重係数の閾値 α及び拡幅率Δとして各々1.5及び0.1を推奨した(非特許文献10)。
【0072】
式(38)の条件を満たす弾完全塑性型の系(γ=0)の領域を
図9の一定塑性率床応答スペクトル上に示す。この図で、弾性床応答スペクトルより上の領域は弾性応答領域であり、弾性応答スペクトルより下の領域は弾塑性応答領域である。弾塑性応答領域は、式(38)の条件により領域Iと領域IIに区分される。式(38)の条件を満たす領域Iは、弾性床応答スペクトルの応答増幅領域及び構築物の一次固有周期より長周期領域を示しており、この領域にある系は
【数75】
となる。一方、領域Iとの境界に近い領域を除く領域IIにある系は
【数76】
となる。また、剛性比γの系は想定荷重が降伏耐力f
yの
【数77】
倍となるため、
図9の領域Iと領域IIの境界は
【数78】
となる。
【0073】
なお、地震による床応答により弾性応答する、即ち、降伏加速度a
yが
【数79】
である一自由度系の応答は線形応答であり、その塑性率μは式(10)により与えられるため式(39)を満たす。
【0074】
4.2 多自由度系の塑性率
一自由度の非線形系と対応する線形系の塑性率の関係を、多自由度の非線形系と対応する線形系のモード塑性率の関係に当てはめる。式(37)から(42)より、モード降伏加速度a
ry及び固有周期T
rが次の判定条件
【数80】
を満足するとき、非線形多自由度系のr次のモード塑性率μ
rは対応する線形多自由度系のr次のモード塑性率
【数81】
以下となる。即ち、
【数82】
が成り立つ。ここで、対応する線形多自由度系とは、非線形多自由度系の各非線形ばねを降伏後も剛性が低下しないばね、即ち剛性比1のばねとした系であり、そのモード塑性率
【数83】
は次式で与えられる。
【数84】
【0075】
このとき、非線形多自由度系のばねi−jのr次のモード塑性率μ
rijは、次式に示す通り、対応する線形多自由度系のばねi−jのr次のモード塑性率
【数85】
以下となる。
【数86】
【0076】
以上より、各モードの固有周期T
r及びモード降伏加速度a
ryが式(43)の判定条件を満たすとき、非線形多自由度系の弾塑性応答スペクトル解析法により得られるばねi−jの塑性率は、次式に示す通り、対応する線形多自由度系の弾性応答スペクトル解析により得られるばねi−jの塑性率以下となる。
【数87】
【0077】
従って、弾塑性応答スペクトル解析法がよい精度で解析結果を与える場合、式(43)の判定条件により、多自由度の非線形系より、対応する線形系の塑性率が大きくなるか判定することができる。この判定条件が有効であれば、この判定条件を満たす場合、多自由度系の線形応答解析を多自由度系の非線形応答解析の簡易法として用いることができる。
【0078】
<5.床応答に対する非線形二自由度系の動的応答解析>
機器・配管系の設計に適用する許容塑性率として、重量機器に対し1.2〜2、配管系に対し1.5〜3、鋼材の引張りと曲げに対して2.5〜10等が提案されている(非特許文献8)。この程度の塑性率を生じる系の動的応答解析に、弾塑性応答スペクトル解析法を適用することを想定し、その有効性を確認するため、床応答に対する非線形二自由度系の塑性率を弾塑性応答スペクトル解析法及び時刻歴応答解析法により計算する。また、対応する線形二自由度系の塑性率を、拡幅率Δ=0.1の弾性床応答スペクトルを用いて弾性応答スペクトル解析法により計算する。
【0079】
5.1 解析モデルと条件
解析する非線形二自由度系は、2個の質点を非線形ばねで、互いに又は床と結合した系とし、非線形ばねは荷重・変形関係が二直線骨格曲線であり移動硬化則に従う復元力特性を持つとする。解析モデルと固有振動モード及びモデル図を
図10、11に示す(m
1=m
2=1kg,k
11=k
12=k,k
22=2k,f
11y=f
12y=f
22y=2N,γ=0.2,h=0.02)。外力は、
図3に示す島根原子力発電所2号機原子炉建物(1次固有周期T
s:0.21s,2次固有周期:0.13s)で観測した鳥取県西部地震の床応答(NS−2R/Bch24を係数倍したものとした。床応答(NS−2R/Bch24)の一定塑性率床応答スペクトルに解析モデルの固有周期を追記した図を
図12に示す。Model Aは建物の一次モードを超えた領域および建物の一次モードにより床応答の増幅が大きい領域(スペクトルの山領域)に固有周期を持つ系、Model Bは建物の一次及び二次モードにより床応答の増幅が大きい領域(スペクトルの山領域)に固有周期を持つ系、Model Cは建物の振動モードから外れ床応答の増幅が小さい領域(スペクトルの谷領域)に固有周期を持つ系である。これらのモデルで最初に降伏するばねは一次モード、二次モード共に、Spring2−2である。
【0080】
5.2 解析結果
ModelA,B及びCの塑性率の計算結果を
図13A〜13Cに示す。EP−RSA(棒グラフとバー付き点線)、E−RSA(実線と一点鎖線)及びRHA(バー付き二点鎖線)は、各々、弾塑性応答スペクトル解析、弾性応答スペクトル解析及び時刻歴応答解析から得られた塑性率を示す。弾塑性応答スペクトル解析から得られた一次と二次のモード塑性率を各々棒グラフの黒と白で示しており、モード重ね合わせ則を絶対値和則とした塑性率は積み重ね棒グラフで、モード重ね合わせ則をSRSS則とした塑性率はバー付き点線で示す。弾性応答スペクトル解析から得られた塑性率は直線であり、モード重ね合わせ則を絶対値和則とした塑性率は実線で、モード重ね合わせ則をSRSS則とした塑性率は一点鎖線で示す。塑性率はモード重ね合わせ則を絶対値和則とした値よりSRSS則とした値が小さい。また、ELは系が弾性限界となる外力を示し、EL×1.5,2,3,6は系が弾性限界となる外力の各々1.5,2,3,6倍の外力を示す。あわせて、Model Aについては2次の想定荷重係数ε
2=ε(a
2y)を、ModelB,Cについては1次と2次の想定荷重係数のうち値が小さい1次の想定荷重係数ε
1=ε(a
1y)を、各ModelのSpring2−2の図に白丸付き点線で示した。なお、Model Aの1次固有周期はT
s<T
1であり想定荷重係数を定義していない周期帯にある。
【0081】
5.3 弾塑性応答スペクトル解析法の有効性
Model A,Bは、時刻歴応答解析から得られた各ばねの塑性率が弾性応答スペクトル解析から得られた塑性率より小さく、地震力の増加に対する塑性率の増加が小さい傾向にある。これは、Model A,Bが床応答の増幅が大きい領域に固有周期を持つ系であり、履歴減衰の効果が大きいためであると理解できる。Model Cは、時刻歴応答解析から得られた各ばねの塑性率が弾性応答スペクトル解析から得られた塑性率より大きく、地震力の増加に対する塑性率の増加が大きい傾向にある。これは、Model Cが床応答の増幅が小さい領域に固有周期を持つ系であり、履歴減衰の効果が小さいためであると理解できる。
【0082】
弾性応答スペクトル解析と弾塑性応答スペクトル解析の結果を比較すると、弾塑性応答スペクトル解析の結果は、いずれのモデルにおいても時刻歴応答解析から得られた各ばねの塑性率に近く(Model CのSpring1−2を除く)、前述の時刻歴応答解析から得られた地震力の増加に対する各ばねの塑性率の増加の傾向を表している。これは、弾塑性応答スペクトル解析の結果に履歴減衰等の弾塑性応答特性が適切に反映されていること、従って、非線形系の弾塑性応答を弾性領域の固有振動モードにより理解できることを示している。
【0083】
線形多自由度系のモードの重ね合わせでは、絶対値和則は時刻歴応答解析の応答値以上の値を与える。しかし、非線形多自由度系の弾塑性応答スペクトル解析において絶対値和則を用いた各ばねの塑性率は、時刻歴応答解析から得られた塑性率を概ね上回るが、一部に下回るものがある。これは、この解析法の構築に当たり用いたモード間の相互作用がないと仮定した影響と考えられる。時刻歴応答解析に対する弾塑性応答スペクトル解析(モード重ね合わせ則:絶対値和則)の塑性率の比の最低値は、Model Aで0.97(Spring2−2,EL×1.5)、Model Bで0.84(Spring2−2,EL×6)、そしてModel Cで0.73(Spring2−2,EL×3)である。
【0084】
本章で実施した非線形二自由度系の弾塑性応答スペクトル解析(モード重ね合わせ則:絶対値和則、SRSS則)が、以下の解析モデル、解析条件及び解析結果であることを考えると、耐震設計に弾塑性応答スペクトル解析(モード重ね合わせ則:絶対値和則、SRSS則)を用いる場合、塑性率の算出結果は最大3割程度非保守的になることがあると考える。
(1)系が弾性限界となる外力の6倍までの外力で加振していること
(2)Model A,B,Cは各々床応答スペクトルの特徴的な領域に固有周期を持つ系であること
(3) これらの解析結果にはばね1か所が降伏する応答、ばね2か所が降伏する応答、ばね3か所全てが降伏する応答を含んでいること
(4) 機器・配管系の耐震設計に適用する上限程度までの塑性率が系に生じていること
【0085】
耐震設計において、応答値である塑性率の3割程度の過小評価は、一定塑性率応答スペクトルの拡幅や許容値に考慮する安全率等により設計上の保守性は十分担保することが可能であり、弾塑性応答スペクトル解析法は耐震設計に用いる機器・配管系の動的応答解析法として有効であると考える。
【0086】
また、弾塑性応答スペクトル解析の塑性率が過小となり、比較的精度が悪くなるModelC、外力EL×2〜6の解析ケース(Spring2−2)は、いずれも1次の想定荷重係数ε
1が1.5以下と他の解析ケースに比べて小さい。また、Model A,Bの解析ケース(Spring2−2,EL×6)においても、想定荷重係数の低下に伴い、時刻歴応答解析の塑性率に比べ弾塑性応答スペクトル解析の塑性率が過小となる傾向がある。想定荷重係数が小さい、即ち構築物の一次固有周期以下のモードに作用する荷重の増幅が小さい場合、モード間の相互作用がないと仮定した影響により、弾塑性応答スペクトル解析法の精度が非保守側に悪くなる。
【0087】
5.4 簡易法としての線形応答解析の有効性
多自由度の非線形系より対応する線形系の塑性率が大きくなるか、判定する条件の有効性を解析結果から確認する。解析モデルと外力毎に(系が弾性限界であるEL×1は除く)、判定条件式(43)への適合性を確認した結果を表1に示す。ここでα=1.5とした。Model A,Bの全ての外力の解析ケース及びModel CのEL×1.5の外力の解析ケースが判定条件式(43)を満たす。
図13A〜13Cより、これら判定条件を満たす全ての解析ケースで、弾塑性応答スペクトル解析より弾性応答スペクトル解析が大きな塑性率を与える(同じモード重ね合わせ則で比較)こと、さらに、時刻歴応答解析より弾性応答スペクトル解析が大きな塑性率を与えることがわかる。なお、Model A,EL×1.5,2,Model C,EL×1.5の弾塑性応答スペクトル解析においてモード重ね合わせ則がSRSS則の塑性率は、時刻歴応答解析の塑性率より少し小さいが、これはSRSS則の精度の影響と考える。
【0089】
<6 本実施形態の効果>
発明者らは、非線形多自由度系の動的応答解析法として弾塑性応答スペクトル解析法を開発した。この解析法は、線形多自由度系の動的応答解析法である弾性応答スペクトル解析法を、一定塑性率応答スペクトルを用いて非線形多自由度系の動的応答解析法に拡張したものであり、新たに定義した時間依存モード塑性率に対する非線形一自由度系の運動方程式を基礎とするものである。荷重・変形関係が二直線骨格曲線である非線形二自由度系について、弾塑性応答スペクトル解析法と時刻歴応答解析法により動的応答解析を行った結果は、一定の精度で合致した。弾塑性応答スペクトル解析法は、弾塑性応答する多自由度系の動的応答解析法として、また、このような系の応答を弾性領域のモード概念により理解する上で有効であると考える。
【0090】
さらに発明者らは、多自由度の非線形系に比べ、対応する線形系の塑性率が大きくなるか判定することのできる判定条件を提案した。この判定条件を満たす場合、多自由度系の線形応答解析を多自由度系の非線形応答解析の簡易法として用いることができる。
【0091】
とりわけ、機器・配管系は、耐震設計において降伏後も剛性が低下しない仮想的な系、即ち、線形系として扱いその応答を線形応答解析により求めることが一般的であるが、系に生じる履歴減衰を考慮できないため、過度に保守的な耐震設計となることが多い。本手法による耐震設計が可能となれば、系に生じる履歴減衰を考慮した合理的な耐震設計が可能となる。また、本解析法は地震応答解析だけでなく、非線形多自由度系の動的応答解析全般に適用可能な解析法である。
【0092】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、種々の形態で実施することができる。
塑性領域におけるモード間の相互作用を無視し、モードの重ね合わせにモード重ね合わせ則を仮定した上で、弾性領域の固有振動モードにより非線形多自由度系をモード展開して、非線形一自由度系の時刻歴応答解析により作成した一定塑性率応答スペクトルから得たモード塑性率を用いることにより、各モードの最大変形を把握する。