特許第6358412号(P6358412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6358412真空脱ガス槽の診断支援装置、診断支援方法、診断方法、及び補修方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6358412
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】真空脱ガス槽の診断支援装置、診断支援方法、診断方法、及び補修方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 7/10 20060101AFI20180709BHJP
【FI】
   C21C7/10 P
【請求項の数】16
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-513018(P2018-513018)
(86)(22)【出願日】2017年12月6日
(86)【国際出願番号】JP2017043790
【審査請求日】2018年3月9日
(31)【優先権主張番号】特願2017-35438(P2017-35438)
(32)【優先日】2017年2月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】工藤 進
(72)【発明者】
【氏名】新田 法生
(72)【発明者】
【氏名】宮下 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 聖也
(72)【発明者】
【氏名】渡部 直紀
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−159054(JP,A)
【文献】 特開2002−090124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 7/10
F27D 21/00
G01B 11/30
G01N 21/954
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下方に延びた浸漬管を有する真空脱ガス槽の診断支援装置であって、
平面視において前記浸漬管の内周面よりも外側に配置された状態で、前記浸漬管の前記内周面を斜め下方から見た画像を撮影し、前記画像をデータとして取得するカメラと、
前記カメラに接続され、前記データの画像処理を行う画像処理装置と、
を備えることを特徴とする診断支援装置。
【請求項2】
前記カメラを固定するテーブルと、
平面視において前記カメラが前記浸漬管の前記内周面に重複しない位置に配置される撮影位置と、平面視において前記カメラが前記真空脱ガス槽に重複しない位置に配置される退避位置との間で前記テーブルを移動させるテーブル移動機構と、
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載された診断支援装置。
【請求項3】
前記テーブル移動機構は、
鉛直方向に延びる支柱と、
前記支柱から水平方向に延びるとともに、前記支柱の軸を中心として旋回可能に前記テーブルを支持するアームと、
を備えることを特徴とする請求項2に記載された診断支援装置。
【請求項4】
前記テーブルに固定され、前記カメラを収容する収容ケースを更に備え、
前記収容ケースの上面の少なくとも一部が耐熱ガラスである
ことを特徴とする請求項2又は3に記載された診断支援装置。
【請求項5】
前記収容ケースが、
前記耐熱ガラスの少なくとも一部を覆う蓋と、
前記テーブルが前記撮影位置にあるときに前記蓋が開き、前記テーブルが移動しているときに前記蓋が閉じた状態となるように前記蓋を開閉させる蓋開閉機構と、
を備えることを特徴とする請求項4に記載された診断支援装置。
【請求項6】
前記収容ケース内にガスを供給するガス供給機構
を更に備えることを特徴とする請求項4又は5に記載された診断支援装置。
【請求項7】
前記収容ケース内の温度を測定する温度計
を更に備えることを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載された診断支援装置。
【請求項8】
前記カメラの露光時間を5ms〜300msの範囲内で変化させながら複数の前記画像を撮影するカメラ制御部
を更に備えることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載された診断支援装置。
【請求項9】
前記カメラが、平面視において前記浸漬管の外周面よりも外側に配置された状態で前記浸漬管の前記内周面を撮影する
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載された診断支援装置。
【請求項10】
前記カメラが、平面視において前記浸漬管の中心軸まわりに複数配置される
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載された診断支援装置。
【請求項11】
前記カメラが、前記浸漬管の前記内周面を全周に亘り撮影する
ことを特徴とする請求項10に記載された診断支援装置。
【請求項12】
前記カメラが、前記浸漬管の前記内周面のうち、平面視において前記真空脱ガス槽の中心軸に最も近い領域を撮影する
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載された診断支援装置。
【請求項13】
前記真空脱ガス槽が、前記浸漬管を二本有するRH脱ガス槽である
ことを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載された診断支援装置。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載された診断支援装置を用いた真空脱ガス槽の診断支援方法であって、
前記カメラにより前記浸漬管の前記内周面を斜め下方から見た画像を撮影し、データを取得する撮影工程と、
前記画像処理装置により、前記撮影工程で取得した前記データの画像処理を行う画像処理工程と、
を備えることを特徴とする診断支援方法。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれか一項に記載された診断支援装置を用いた真空脱ガス槽の診断方法であって、
前記カメラにより前記浸漬管の前記内周面を斜め下方から見た画像を撮影し、データを取得する撮影工程と、
前記画像処理装置により、前記撮影工程で取得した前記データの画像処理を行う画像処理工程と、
画像処理された前記データに基づき、前記浸漬管の前記内周面の亀裂の有無と長さを特定する亀裂特定工程と、
前記亀裂特定工程で特定した前記亀裂の有無と長さに応じて、補修の要否と補修工法を決定する補修工法決定工程と、
を有することを特徴とする診断方法。
【請求項16】
請求項15に記載された診断方法を用いた補修方法であって、
請求項15に記載された前記補修工法決定工程で決定した補修工法で前記浸漬管の前記内周面を補修する
ことを特徴とする補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空脱ガス槽の診断支援装置、診断支援方法、診断方法、及び補修方法に関する。
本願は、2017年2月27日に、日本に出願された特願2017−035438号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
清浄鋼を製造するための一連の精錬工程において、多くの場合、溶鋼に対しRH法又はDH法による真空脱ガス処理(RH処理又はDH処理)が施される。真空脱ガス処理には真空脱ガス槽(RH脱ガス槽又はDH脱ガス槽)が用いられる。
【0003】
図1に、真空脱ガス槽の一例として、RH脱ガス槽100の断面図を示す。RH脱ガス槽100は、上方から下方に向けて順に、上部槽101、中間槽102、下部槽103、及び二本の浸漬管104を含む。二本の浸漬管104はそれぞれ下部槽103の底から下方に延びる。浸漬管104及び下部槽103の内壁は耐火物(以下、「内張耐火物α」ともいう。)で構成される。RH処理の際、取鍋(不図示)内の溶鋼に二本の浸漬管104が浸漬され、RH脱ガス槽100内が排気される。そして、一方の浸漬管104に不活性ガス(例:アルゴンガス)が吹き込まれる。これにより、図中の矢印に示すように、溶鋼がその一方の浸漬管104の内部を上昇し、下部槽103の内部を経て、他方の浸漬管104の内部を下降する。
【0004】
RH処理中、高温の溶鋼が浸漬管104及び下部槽103の内部を流動する。そのため、“浸漬管104及びその近傍の下部槽103”の内張耐火物αに亀裂が発生し進展しやすい。亀裂の進展が著しいと、内張耐火物αが脱落する。また、浸漬管104及び下部槽103を覆う鉄皮が赤熱して損傷する虞がある。内張耐火物αの脱落は、溶鋼への耐火物(酸化物)の混入を招く。鉄皮の赤熱及び鉄皮の開孔は、RH脱ガス槽100内への外気の導入をもたらすことから、酸化物の生成や真空度の低下を招く。要するに、内張耐火物αの亀裂は、溶鋼の品質低下と真空脱ガス槽の寿命低下を招き、清浄鋼の製造を阻害する要因になる。なお、本明細書において耐火物トラブルとは内張耐火物αの脱落、鉄皮の赤熱及び鉄皮の開孔である。
【0005】
このような内張耐火物αの亀裂による問題点は、浸漬管104を一本のみ有するDH脱ガス槽を用いるDH処理においても同様に存在する。
【0006】
そこで通常、先行チャージの真空脱ガス処理が終了してから後行チャージの真空脱ガス処理が開始するまでに、内張耐火物αの表面性状を診断し、補修するべきと判断された亀裂に対して吹付補修又は圧入補修が実施される。ここで、真空脱ガス槽に転炉から溶鋼が一定の時間間隔で運ばれる。例えば、先行チャージの真空脱ガス処理が終了してから後行チャージの真空脱ガス処理が開始するまでの時間は短時間(例えば、15分〜25分)である。このような短時間内で、真空脱ガス槽の内張耐火物αの表面性状を診断し、補修するべきと判断された亀裂に対し補修を実施することが、真空脱ガス槽の連続操業に必要となる。このような短時間内で、内張耐火物αの表面性状を診断し、補修するべきと判断された亀裂に対して好適な補修が実施されれば、真空脱ガス槽の連続操業を停止することなく、耐火物トラブルの回避、溶鋼の品質維持(高清浄鋼化)、及び、真空脱ガス槽の寿命延長を実現することができ、真空脱ガス処理の効率性を高めることが可能となる。
【0007】
これらの補修方法のうちの吹付補修はオンラインで、すなわち内張耐火物αの温度低下を待つことなく短時間で実施することができる。一方、圧入補修は吹付補修と比較して大掛かりな補修工法であり、数時間の時間を要し、オフラインで、すなわち内張耐火物αの温度低下後に実施する必要がある。従って、短時間内で補修を行うためには、圧入補修よりも短時間で行える吹付補修を行うことが望ましい。
【0008】
内張耐火物αの表面性状の診断を短時間で行うためには、真空脱ガス処理直後の高温状態の浸漬管104を冷却することなく迅速且つ詳細に行うことが望ましい。また、診断のために内張耐火物αを冷却する場合、内張耐火物αの冷却によるダメージも生じる虞がある。従って、内張耐火物αを冷却することなく補修の要否を判断し、補修方法を選択することが望ましい。
【0009】
特許文献1は、RH脱ガス炉の天蓋中央部を開口し、この開口部から炉内に溶射バーナ・ランスを挿入すると共に浸漬管より炉内観察カメラを挿入し、この炉内観察カメラによって内張耐火物の損傷箇所を確認し、前記溶射バーナ・ランスを操作して該内張耐火物の損傷箇所を溶射補修するRH脱ガス炉の溶射補修方法を開示している。
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示された技術を用いてRH処理直後の高温状態の浸漬管に炉内観察カメラを挿入する場合、RH脱ガス槽内に残留している溶融物(例:スラグ、地金)が浸漬管から滴下してカメラが破損する虞がある。この場合、適確な診断を行うことができない。そのため、特許文献1に開示された技術では、RH処理後に浸漬管から溶融物が滴下しなくなるまでの待機時間が必要となり、真空脱ガス処理の効率性が低下してしまう。また、浸漬管を目視観察する場合、安全性の観点から、遠くから観察しなければならない。この場合、適確な診断を行うことは困難である。
【0011】
適確な診断を行えないと、補修の要否判断を見誤るばかりか、補修方法の選択も見誤る。その結果、耐火物トラブルが発生し、溶鋼の品質の低下(例えば、耐火物に由来する介在物の溶鋼への混入)と真空脱ガス槽の寿命の低下を招く虞がある。また、真空脱ガス槽の連続操業を停止することにより、逆に過剰な補修コストが発生する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】日本国特開平6−158145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、真空脱ガス処理の効率性を高めることが可能な真空脱ガス槽の診断支援装置、診断支援方法、診断方法、及び補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の概要は下記の通りである。
【0015】
(1)本発明の第一の態様は、下方に延びた浸漬管を有する真空脱ガス槽の診断支援装置であって、平面視において前記浸漬管の内周面よりも外側に配置された状態で、前記浸漬管の前記内周面を斜め下方から見た画像を撮影し、前記画像をデータとして取得するカメラと、前記カメラに接続され、前記データの画像処理を行う画像処理装置と、を備える。
(2)上記(1)に記載された診断支援装置は、前記カメラを固定するテーブルと、平面視において前記カメラが前記浸漬管の前記内周面に重複しない位置に配置される撮影位置と、平面視において前記カメラが前記真空脱ガス槽に重複しない位置に配置される退避位置との間で前記テーブルを移動させるテーブル移動機構と、を更に備えてもよい。
(3)上記(2)に記載された診断支援装置では、前記テーブル移動機構が、鉛直方向に延びる支柱と、前記支柱から水平方向に延びるとともに、前記支柱の軸を中心として旋回可能に前記テーブルを支持するアームと、を備えてもよい。
(4)上記(2)又は(3)に記載された診断支援装置は、前記テーブルに固定され、前記カメラを収容する収容ケースを更に備えてもよく、前記収容ケースの上面の少なくとも一部が耐熱ガラスであってもよい。
(5)上記(4)に記載された診断支援装置では、前記収容ケースが、前記耐熱ガラスの少なくとも一部を覆う蓋と、前記テーブルが前記撮影位置にあるときに前記蓋が開き、前記テーブルが移動しているときに前記蓋が閉じた状態となるように前記蓋を開閉させる蓋開閉機構と、を備えてもよい。
(6)上記(4)又は(5)に記載された診断支援装置は、前記収容ケース内にガスを供給するガス供給機構を更に備えてもよい。
(7)上記(4)〜(6)のいずれか一項に記載された診断支援装置は、前記収容ケース内の温度を測定する温度計を更に備えてもよい。
(8)上記(1)〜(7)のいずれか一項に記載された診断支援装置は、前記カメラの露光時間を5ms〜300msの範囲内で変化させながら複数の前記画像を撮影するカメラ制御部を更に備えてもよい。
(9)上記(1)〜(8)のいずれか一項に記載された診断支援装置では、前記カメラが、平面視において前記浸漬管の外周面よりも外側に配置された状態で前記浸漬管の前記内周面を撮影してもよい。
(10)上記(1)〜(9)のいずれか一項に記載された診断支援装置では、前記カメラが、平面視において前記浸漬管の中心軸まわりに複数配置されてもよい。
(11)上記(10)に記載された診断支援装置では、前記カメラが、前記浸漬管の前記内周面を全周に亘り撮影してもよい。
(12)上記(1)〜(9)のいずれか一項に記載された診断支援装置では、前記カメラが、前記浸漬管の前記内周面のうち、平面視において前記真空脱ガス槽の中心軸に最も近い領域を撮影してもよい。
(13)上記(1)〜(12)のいずれか一項に記載された診断支援装置では、前記真空脱ガス槽が、前記浸漬管を二本有するRH脱ガス槽であってもよい。
(14)本発明の第二の態様は、上記(1)〜(13)のいずれか一項に記載された診断支援装置を用いた真空脱ガス槽の診断支援方法であって、前記カメラにより前記浸漬管の前記内周面を斜め下方から見た画像を撮影し、データを取得する撮影工程と、前記画像処理装置により、前記撮影工程で取得した前記データの画像処理を行う画像処理工程と、を有する。
(15)本発明の第三の態様は、上記(1)〜(13)のいずれか一項に記載された診断支援装置を用いた真空脱ガス槽の診断方法であって、前記カメラにより前記浸漬管の前記内周面を斜め下方から見た画像を撮影し、データを取得する撮影工程と、前記画像処理装置により、前記撮影工程で取得した前記データの画像処理を行う画像処理工程と、画像処理された前記データに基づき、前記浸漬管の前記内周面の亀裂の有無と長さを特定する亀裂特定工程と、前記亀裂特定工程で特定した前記亀裂の有無と長さに応じて、補修の要否と補修工法を決定する補修工法決定工程と、を有する。
(16)本発明の第四の態様は、上記(15)に記載された診断方法を用いた補修方法であって、上記(15)に記載された前記補修工法決定工程で決定した補修工法で前記浸漬管の前記内周面を補修する補修方法である。
【発明の効果】
【0016】
上記(1)〜(13)に係る真空脱ガス槽の診断支援装置によれば、カメラが平面視において浸漬管の内周面よりも外側に配置された状態で、浸漬管の内周面を斜め下方から見た画像を撮影するため、真空脱ガス処理の直後に浸漬管から溶融物が滴下している過酷な撮影環境であっても撮影中のカメラには溶融物が衝突しない。このため、真空脱ガス処理の直後に浸漬管の内周面の性状を迅速且つ適確に診断できる。また、真空脱ガス処理が終了後、直ちに測定できることから測定に要する時間を短時間とすることが可能である。従って、真空脱ガス槽の連続操業を停止することなく、耐火物トラブルの回避、溶鋼の品質維持、及び、真空脱ガス槽の寿命延長を実現することができ、真空脱ガス処理の効率性を高めることが可能となる。
【0017】
上記(14)に係る真空脱ガス槽の診断支援方法及び上記(15)に係る真空脱ガス槽の診断方法によれば、上記(1)〜(13)に係る真空脱ガス槽の診断支援装置を用いることで、真空脱ガス処理の直後に浸漬管の内周面の性状を迅速且つ適確に診断又は診断支援することができる。また、真空脱ガス処理が終了後、直ちに測定できることから測定に要する時間を短時間とすることが可能である。従って、真空脱ガス槽の連続操業を停止することなく、耐火物トラブルの回避、溶鋼の品質維持、及び、真空脱ガス槽の寿命延長を実現することができ、真空脱ガス処理の効率性を高めることが可能となる。
【0018】
上記(16)に係る真空脱ガス槽の補修方法によれば、上記(15)に記載された補修工法決定工程で決定した最適な補修方法で浸漬管の内周面を補修するため、必要以上に補修時間を消費することを回避できる。従って、真空脱ガス処理の効率性を高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】真空脱ガス槽の一例であるRH脱ガス槽100の断面図である。
図2】RH処理の開始時における「溶鋼−耐火物の温度差(℃)」と、「亀裂進展速度(mm/CH)」と、の関係を示す図である。
図3】「補修前の亀裂長さ(mm)」と「亀裂進展速度(mm/CH)」との関係を示す図である。
図4】撮影時の診断支援装置10の概略正面図である。
図5】撮影時の診断支援装置10の概略平面図であり、RH脱ガス槽100を二点鎖線で示す。
図6】退避時の診断支援装置10の概略平面図であり、RH脱ガス槽100を二点鎖線で示す。
図7】画像処理装置により画像処理された内周壁の撮影画像である。
図8】診断支援装置10がカメラ11の収容ケース30を備える場合の構造を示す概略模式図である。
図9】先行チャージの終了後から後行チャージの開始までの間のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、真空脱ガス処理の効率性を高めることが可能な診断支援装置、診断支援方法、診断方法、及び補修方法について鋭意検討を行った。
【0021】
本発明者らは、内張耐火物αにおける亀裂の進展状況について調べるために、一つのRH脱ガス槽を用い、連続するチャージのRH処理が終わる度に、カメラによる撮影を行った。その撮影の度に、浸漬管の内周面(内張耐火物αの表面)に発生している亀裂を特定して、その亀裂の長さを調べた。また、幾つかのチャージでは吹付け補修を行い、残りのチャージでは補修を行わなかった。
【0022】
図2は、RH処理の開始時における「溶鋼−耐火物の温度差(℃)」と、「亀裂進展速度(mm/CH)」と、の関係を示す図である。
「溶鋼−耐火物の温度差(℃)」とは、後行チャージのRH脱ガス処理を開始する時における「溶鋼の温度」と「耐火物の温度」との温度差を意味する。
「亀裂進展速度」とは、先行チャージの終了時の亀裂長さと後行チャージの終了時の亀裂長さの差を意味する。尚、亀裂長さとは、亀裂の両端部を結ぶ直線距離を意味する。
【0023】
図2から、「溶鋼−耐火物の温度差(℃)」が50℃を超えると、亀裂の進展が始まることがわかる。すなわち、亀裂の進展は、RH処理の開始時における溶鋼の温度と浸漬管の内周面の温度との差に依存する。先行チャージの終了から後行チャージの開始までの時間が長いほど、浸漬管の温度の低下に起因して「溶鋼−耐火物の温度差(℃)」は大きくなる。従って、先行チャージの終了後に速やかに診断を行うことができれば、「溶鋼−耐火物の温度差(℃)」の拡大を防止することができる。これにより、真空脱ガス槽の連続操業を停止することなく、耐火物トラブルの回避、溶鋼の品質維持、及び、真空脱ガス槽の寿命延長を実現することができ、真空脱ガス処理の効率性を高めることが可能となる。
【0024】
先行チャージの終了直後は、特に浸漬管の内周面の下端から溶融物が滴下する過酷な状況にあるが、本発明者らは、カメラを浸漬管の斜め下方に配置して撮影を行うことで、浸漬管の内周面の性状を適確且つ速やかに診断できることを見出した。また、本発明者らは、このように撮影を行うことで、真空脱ガス槽の連続操業を停止することなく、耐火物トラブルの回避、溶鋼の品質維持、及び、真空脱ガス槽の寿命延長を実現することができ、RH脱ガス処理の効率性を高めることが可能となることを発見した。
【0025】
更に、本発明者らは、「溶鋼−耐火物の温度差(℃)」を80℃〜120℃の範囲内とした条件で数値解析を行い、「補修前の亀裂長さ(mm)」と「亀裂進展速度(mm/CH)」との関係を、吹付補修を実施した場合と吹付補修を実施しなかった場合とについて調べた。その結果を図3に示す。
【0026】
図3に示すように、「補修前の亀裂長さ(mm)」が20mm以下の場合、吹付補修による効果が現れ、亀裂の進展が抑制される。一方、「補修前の亀裂長さ(mm)」が20mmを超える場合、吹付補修による効果が現れず、亀裂の進展が著しくなる。このことから、亀裂の長さが20mm以下の場合には吹付補修による対応で十分であるが、亀裂の長さが20mmを超える場合には吹付補修による対応では不十分であり、圧入補修による対応が必要となる。
従って、先行チャージの終了から後行チャージの開始までの間に、速やかに内周面の診断を行うとともに、所定長さ(例えば20mm)を超える長さの亀裂が見つからない限りは熱間での吹付補修を行うことで、亀裂の進展によるRH脱ガス槽の損傷を防ぎつつ、真空脱ガス槽の連続操業を停止することなく、耐火物トラブルの回避、溶鋼の品質維持、及び、真空脱ガス槽の寿命延長を実現でき、RH脱ガス処理の効率性を高めることが可能となる。
以下、上述の知見になされた本発明を実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
【0027】
(第一実施形態)
図4は、本発明の第一実施形態に係る真空脱ガス槽診断支援装置10(以下、単に「診断支援装置10」と呼ぶ)と、診断対象であるRH脱ガス槽100とを示す概略正面図である。また、図5は、撮影時における診断支援装置10とRH脱ガス槽100との位置関係を示す概略平面図である。
【0028】
図4に示すように、診断支援装置10は図1を参照して説明したRH脱ガス槽100の二本の浸漬管104の内周面104aに設けられた内張耐火物αを診断対象とする。診断支援装置10は、それぞれの浸漬管104の斜め下方に配置された複数のカメラ11により浸漬管104の内周面104aを撮影するとともに当該画像をデータとして取得し、複数のカメラ11に接続された画像処理装置17によりデータの画像処理を行うことで診断を支援する。
【0029】
カメラ11は、撮影時の状態において、二本の浸漬管104それぞれに対応して、三台ずつ設けられる。つまり、全体として、六台のカメラ11が設けられる。RH脱ガス処理の直後には、浸漬管104のうち、特に内周面104aから溶融物が滴下する。従って、カメラ11は、図5に示すように、平面視において浸漬管104の内周面104aよりも外側に設けられた状態で、RH脱ガス槽100の斜め下方から浸漬管104の内周面104aを撮影する。これにより、撮影時においてカメラ11に溶融物が落下して衝突することを防ぐことが可能となるため、RH脱ガス処理後に速やかに撮影を行うことができ、RH脱ガス処理の効率性を高めることができる。
【0030】
本実施形態の診断支援装置10では、浸漬管104の斜め下方に複数のカメラ11が配置される。つまり、浸漬管104の直下から外れた位置にカメラ11が配置される。そのため、撮影中に浸漬管104から高温の溶融物が落下しても、その溶融物がカメラ11に衝突することはない。従って、カメラ11の破損を防止できる。
【0031】
浸漬管104のうち、内周面104aと外周面104bとの間の底面104cからも、溶融物が滴下することもある。従って、より確実に撮影時におけるカメラ11への溶融物の衝突を防ぐためには、カメラ11は、平面視において浸漬管104の外周面104bよりも外側に設けられた状態で撮影を行うことが好ましい。一方、平面視における外周面104bの半径をrとしたとき、浸漬管104の中心軸から水平方向に2×rを超えて離間した位置にカメラ11が設けられる場合、浸漬管104の内周面104aの上端側の撮影範囲が狭くなる。従って、撮影時においてカメラ11は、平面視で、浸漬管104の中心軸から2×rを超えて離間しない位置に設けられていることが好ましい。
【0032】
この診断支援装置10では、一本の浸漬管104に対し、三台のカメラ11が浸漬管104の斜め下方で浸漬管104の中心軸まわりに等角度間隔で配置されている。従って、三台のカメラ11によって、浸漬管104の内周面104a(具体的には内張耐火物αの表面)を全周域に亘って撮影することができる。
【0033】
内周面104aの全周域に亘って診断を行うためには、一本の浸漬管104に対し三台以上のカメラ11を用いて異なる方向から撮影することが好ましい。ただし、診断時間の短縮を図るために、一本の浸漬管104に対し一台又は二台のカメラ11を設置し、内周面104aの全周域の一部領域のみを診断してもよい。
【0034】
浸漬管104の内周面104aのうち、平面視においてRH脱ガス槽100の中心軸に近い領域には、亀裂が入りやすい傾向がある。従って、カメラ11の一台以上は、この箇所を撮影できる位置に設置することが好ましい。
【0035】
図4に示されるように、各カメラ11は斜め上向きになるように配置され、その光軸は浸漬管104の中心軸から傾いていることが好ましい。この場合、各カメラ11によって、一本の浸漬管104の内周面104aの下端から上端までを一度に撮影することができる。従って、三台のカメラ11によって、一本の浸漬管104の内周面104aを全体に亘って撮影することができる。
【0036】
画像処理装置17は配線等(図示省略)によって各カメラ11に接続される。画像処理装置17にはモニタ19が接続される。画像処理装置17及びモニタ19は、RH脱ガス槽100から離れた場所(例:操作室)に設置される。画像処理装置17は、カメラ11から浸漬管104の内周面104aの撮影画像のデータに対して、画像処理を行う。そして、画像処理装置17はその画像をモニタ19に表示する。これにより、亀裂を判別し、亀裂及びその長さを特定することができる。
【0037】
浸漬管104の内周面104aが撮影されるとき、浸漬管104はRH処理直後の高温状態であり、浸漬管104の内張耐火物αは放熱により自己発光している。これにより、照明がなくても撮影を行える。その際、亀裂の部分は自己発光が特に強く、その一方で亀裂のない健全な部分は自己発光が弱い。また、亀裂の部分に影が現れることもある。亀裂の部分とその周囲の耐火物表面との間に凹凸が生じるためである。従って、撮影した画像において、亀裂の部分は、健全な部分よりも明るく又は暗く表示される。
【0038】
画像処理装置17は、カメラ11から撮影画像のデータに対して、画像の明暗が鮮明になるように画像処理を行う。そして、画像処理装置17は画像をモニタ19に表示する。従って、画像の明暗から亀裂を判別し特定することができる。もちろん、亀裂の長さも特定することができる。その際、画像処理装置17によって画像解析が行われ、亀裂の長さが算出されることも可能である。
図7は、画像処理装置17により画像処理された内周壁104aの撮影画像である。この図7に示す例では、内周壁104aの周方向に線状に延びる影が目視により確認でき、これを亀裂として特定することができる。特に、高温のRHガス槽の補修について十分な経験がある作業者であれば、カメラ11の撮影画像を目視により確認することで、亀裂の有無を容易に判別し特定することができる。同様に、撮影時のカメラ11は固定されており、且つRH脱ガス槽の寸法も同じであるため、冷間状態のRH脱ガス槽にスケールなどを張り付けて撮影した画像と比較することなどの方法により、撮像画像から、亀裂の長さを容易に測定する事が出来る。
なお、必然的に内張耐火物αの輪郭も判別できることから、内張耐火物αの溶損状況も特定することができる。
従って、浸漬管104の内張耐火物αの表面性状(亀裂の有無、亀裂の長さ)を適確に診断でき、補修の要否判断、及び補修方法の選択(具体的には、オンラインでの吹付補修、又はオフラインでの圧入補修)を適切に行うことができる。
【0039】
カメラ11としては周知のもの(例:CCDカメラ、CMOSカメラ)を適用すればよい。また、画像処理装置17としても周知のもの(例:パーソナルコンピュータ)を適用すればよい。モニタ19としても周知のものを適用すればよい。ただし、一般に、内張耐火物αの骨材の平均粒径は3〜5mm程度である。亀裂の補修に用いられる補修材の平均粒径は1mm程度である。これらのことから、最低1mm程度の長さの亀裂を特定できることが望ましい。従って、最低1mm程度の長さの亀裂を特定できるように、カメラ11、画像処理装置17及びモニタ19の性能(画素数、解像度)を選定することが望ましい。
【0040】
カメラ11の被写体は、RH処理直後の高温状態(自己発光状態)の内張耐火物αである。そのため、カメラ11は、被写体である内張耐火物α(浸漬管104の内周面104a)が熱による自己発光状態のときに撮影が可能な性能を有することが好ましい。自己発光状態の被写体の温度は、例えば500℃〜1700℃である。
【0041】
RH脱ガス処理直後の浸漬管104の内周面104aは、放熱により自己発光していることから、カメラ11の露光時間の設定と被写体の輝度の関係によっては一度の撮影だけでは内周面104aの亀裂の有無を適確に判断できない場合がある。従って、診断支援装置10は、カメラ11の露光時間を撮影ごとに変化させて複数回の撮影を行うようにカメラ11を制御するカメラ制御部を備えることが好ましい。例えば、露光時間を5ms〜300msの範囲内で互いに変化させながら複数の画像をそれぞれのカメラ11で撮影して、その中から適切に撮影できたものを選択して使うことで、適確な診断を行うことが可能である。RH処理直後の高温状態の内張耐火物αが被写体である場合、例えば、前記露光時間を5ms〜100msの範囲内で変化させながら10〜20回の撮影を行うことが好ましい。吹付後など低温状態の内張耐火物αが被写体である場合、例えば、前記露光時間を10ms〜200msの範囲で変化させながら、15〜30回の撮影を行うことが好ましい。
【0042】
本実施形態に係る診断支援装置10では、図4に示すように、六台のカメラ11が一台のテーブル13の上に固定され、このテーブル13がテーブル移動機構15により移動可能とされている。従って、六台のカメラ11を同時に移動することによりRH脱処理直後の浸漬管104の内周面104aを迅速に撮影することができる。テーブル13の上でカメラ11が固定される位置は、後述する撮影位置に配置された際に、2本の浸漬管104の各々の中心軸からほぼ等距離で且つ内周面104aに重複せず、内周面104aから少し離間した位置に設定される。
【0043】
テーブル移動機構15は、図5に示す撮影位置と、図6に示す退避位置との間でテーブル13を移動させる。
撮影位置では、テーブル13がRH脱ガス槽100の真下となる位置に配置され、これにより、平面視においてカメラ11が浸漬管104の内周面104aに重複しない位置に配置される。
退避位置では、テーブル13がRH脱ガス槽100の真下から離れた位置に配置され、これにより、平面視においてカメラ11がRH脱ガス槽100に重複しない位置に配置される。
【0044】
図4図6に示すように、テーブル移動機構15は、地面Gから鉛直方向に延びる支柱15aと、支柱15aから水平方向に延びるとともに、支柱15aの軸を中心として旋回可能にテーブル13を支持するアーム15bとにより構成される。
この構成によれば、アーム15bの旋回のみにより、テーブル13を撮影位置と退避位置との間で簡単に移動させることができる。これにより、診断に要する時間が例えば3分以内(70秒以内も可能)に抑えられる。例えば、カメラ11による撮影時間は10秒未満〜1分程度であり、テーブル13の移動時間が1〜2分である。ここでいう診断に要する時間とは、退避位置から撮影位置までのテーブル13の移動時間、カメラ11による撮影時間、及び画像の処理時間の合計を意味する。
【0045】
以下、テーブル13を移動させるタイミングの一例を説明する。
先行チャージのRH処理中、テーブル13は退避位置に置かれる。RH処理後、RH脱ガス槽100が上昇し、取鍋(図示省略)が次工程に搬送される。その後、アーム15bが旋回し、テーブル13が撮影位置に移動する。そして、撮影位置において、カメラ11による撮影を行う。
【0046】
診断が終わると、アーム15bが旋回し、テーブル13が退避位置に移動する。そして、テーブル13が退避位置に移動した状態で適切な方法による補修が必要に応じて行われ、後行チャージのRH処理の準備が開始される。
【0047】
このように、本実施形態の診断支援装置10によれば、浸漬管104の内張耐火物αの表面性状(亀裂の有無、亀裂の長さ)を適確に診断できる。これにより、補修の要否判断、及び補修方法の選択を適切に行うことができる。その結果、適切な方法によって亀裂の補修を行うことができ、RH脱ガス処理の効率性を高めることが可能になる。
【0048】
本実施形態に係る診断支援装置10は、テーブル13を移動させている途中に浸漬管104から滴下する溶融物がカメラ11に衝突することや、撮影中にテーブル13に衝突して跳ね返る溶融物がカメラ11に衝突することを防ぐために、カメラ11を収容する収容ケース30がテーブル13に固定されてもよい。以下、この構成について図8に基づき詳細に説明する。
【0049】
図8は、診断支援装置10が収容ケース30を備える場合における、カメラ11の周辺の構造を水平方向から見たときの模式図である。図8に示すように、収容ケース30は、カメラ11の周囲を囲うようにテーブル13の上面に立設される周壁30aと、カメラ11の上方を覆うように周壁30aの上縁に設けられる天板30bとを有する。
【0050】
各カメラ11は個別に収容ケース30に収容される。各収容ケース30の上面の一部は透明な耐熱ガラス31であり、各カメラ11は耐熱ガラス31を通じて浸漬管104の内周面104aを撮影できる。耐熱ガラス31は収容ケース30の上面の全域に設けられていても構わない。耐熱ガラス31としては公知のものを適用すればよい。
【0051】
診断支援装置10が収容ケース30及び耐熱ガラス31を備える場合であっても、撮影位置では、平面視においてカメラ11が浸漬管104の内周面104aに重複しない位置に配置される。耐熱ガラス31により、内周面104aから滴下する溶融物がカメラ11に衝突することは防げるが、耐熱ガラス31に溶融物が衝突すると耐熱ガラス31の透明性等を損ない、場合によっては、耐熱ガラス31に穴が開きカメラ11の損傷を招き、適切な撮影が阻害される虞があるためである。
【0052】
なお、収容ケース30の一つの側面には扉(図示省略)が設けられている。扉を開けてカメラ11の姿勢を微調整するためである。
【0053】
カメラ11は、透明な耐熱ガラス31を通して撮影位置において内周面104aを撮影するため、耐熱ガラス31の破損を防ぐことが望ましい。従って、図8に示すように、耐熱ガラス31を覆うことが可能な蓋33と、この蓋33を開閉する蓋開閉機構35とを有することが好ましい。これにより、テーブル13を移動させている途中に浸漬管104から滴下する溶融物が耐熱ガラス31の上面に衝突することを防ぐことができる。
蓋33は、耐熱ガラス31の全面を覆うように設置されることが好ましいが、収容ケース30内のカメラ11の上方近傍のみを覆うように設置されてもよい。
【0054】
図8に示す例では、蓋開閉機構35は、第一突起35a、第二突起35b、エアシリンダ35c、及びヒンジ35dにより構成されている。
第一突起35aは、鉛直方向上向きに突出するように収容ケース30の上面に設けられる。
第二突起35bは、鉛直方向上向きに突出するように蓋33の上面に設けられる。
エアシリンダ35cは、一端が第一突起35aの先端に回動可能に連結され、他端が第二突起35bの先端に回動可能に連結される。
ヒンジ35dは、第一突起35aと第二突起35bとの中間位置において、蓋33の縁部と収容ケース30の上面とを回動可能に連結する。
この構成によれば、エアシリンダ35cの伸縮により、蓋33がヒンジ35dを中心に回動し、耐熱ガラス31の領域が開閉される。
【0055】
蓋開閉機構35は、テーブル13が撮影位置にあるときに蓋33が開き、テーブル13が移動しているときに蓋33が閉じた状態となるように蓋33の開閉を制御することが好ましい。この場合、テーブル13の移動中に浸漬管104の内周面104aから高温の溶融物が落下しても、その溶融物が耐熱ガラス31に衝突することを防止できる。
【0056】
以下、診断支援装置10が収容ケース30、耐熱ガラス31、蓋33、及び蓋開閉機構35を備える場合における、テーブル13を移動させるタイミングの一例を説明する。
先行チャージのRH処理中、テーブル13は退避位置に置かれる。このとき、各耐熱ガラス31上の蓋33は閉じていることが好ましい。RH処理後、RH脱ガス槽100が上昇し、取鍋(図示省略)が次工程に搬送される。その後、アーム15bが旋回し、蓋33が閉じている状態でテーブル13が撮影位置に移動する。そして、撮影位置において、エアシリンダ35cが作動し、蓋33が開き、カメラ11による撮影を行う。
【0057】
診断が終わると、エアシリンダ35cが作動し、蓋33が閉じる。そして、アーム15bが旋回し、蓋33が閉じている状態でテーブル13が退避位置に移動する。そして、テーブル13が退避位置に移動した状態で適切な方法による補修が必要に応じて行われ、後行チャージのRH処理の準備が開始される。
【0058】
この診断支援装置10は、さらに、収容ケース30内にガスを供給するガス供給機構を備えることが好ましい。この場合、収容ケース30内への常温のガスの供給によって、収容ケース30内の圧力が収容ケース30外部の圧力(大気圧)よりも高まる。そのため、収容ケース30外部の粉塵が収容ケース30内に侵入することはない。その結果、粉塵に起因するカメラ11の動作不良を防止できる。また、収容ケース30内へのガスの供給によって、収容ケース30内をガスが流通する。そのため、収容ケース30内の温度が異常に上昇することはない。その結果、カメラ11の熱損傷を防止できる。
【0059】
典型的な例として、収容ケース30内に供給されるガスは空気である。この場合、ガス供給機構は、例えば、配管、バルブ及びコンプレッサを含む。配管は収容ケース30とコンプレッサとを連絡する。バルブは配管の経路を開閉する。コンプレッサは圧縮空気を生む。なお、ガスは不活性ガス(例:アルゴンガス、窒素ガス)でもよい。
【0060】
上記の診断支援装置10は、さらに、収容ケース30内の温度を測定する温度計を備えることが好ましい。この場合、温度計によって収容ケース30内の温度が監視される。例えば、収容ケース30内の温度が任意の温度を超えた場合、警報が発せられたり、ガス供給機構からのガス供給量が増やされたりする。これにより、カメラ11の熱損傷を防止できる。尚、温度の測定箇所は特に限定されず、例えば収容ケース30内の壁温を測定すればよい。
【0061】
(第二実施形態)
以下、本発明の第二実施形態に係るRH脱ガス槽診断支援方法(以下、単に「診断支援方法」と呼ぶ)について説明する。
本実施形態に係る診断支援方法では、図9に示すフローチャートのうち、撮影工程S1と、画像処理工程S2とを順番に実施する。これらの工程S1、S2は、先行チャージのRH脱ガス処理を完了してから、後行チャージのRH脱ガス処理を開始するまでの間に行われる。
【0062】
まず、撮影工程S1では、RH脱ガス処理の終了後に、例えば第一実施形態に係る診断支援装置10のカメラ11により浸漬管104の内周面104aを撮影する。
具体的には、RH脱ガス処理の直後の高温状態の浸漬管104に対し、平面視においてカメラ11が浸漬管104の内周面104aよりも外側に配置された状態で、浸漬管104の内周面104aを下方から見た画像を撮影し、データを取得する。
【0063】
次に、画像処理工程S2では、画像処理装置により、撮影工程S1で取得した浸漬管104の内周面104aのデータの画像処理を行う。
【0064】
このような一連の工程S1、S2を含む診断支援方法では、浸漬管104の内周面104aの画像を得ることができるため、亀裂の有無と長さを特定して補修の要否と補修工法を決定することが可能となる。このため、必要以上に補修時間を消費することを回避することができる。従って、先行チャージのRH脱ガス処理と後行チャージのRH脱ガス処理との間に必要最低限の補修を行うことができるため、RH脱ガス処理の効率性を高めることが可能になる。
【0065】
(第三実施形態)
以下、本発明の第三実施形態に係るRH脱ガス槽診断方法(以下、単に「診断方法」と呼ぶ)について説明する。
本実施形態に係る診断方法では、図9に示すフローチャートのうち、撮影工程S1と、画像処理工程S2と、亀裂特定工程S3と、補修工法決定工程S4とを順番に実施する。これらの工程S1〜S4は、先行チャージのRH脱ガス処理を完了してから、後行チャージのRH脱ガス処理を開始するまでの間に行われる。
【0066】
まず、撮影工程S1では、RH脱ガス処理の終了後に、例えば第一実施形態に係る診断支援装置10のカメラ11により浸漬管104の内周面104aを撮影する。
具体的には、RH脱ガス処理の直後の高温状態の浸漬管104に対し、平面視においてカメラ11が浸漬管104の内周面104aよりも外側に配置された状態で、浸漬管104の内周面104aを下方から見た画像を撮影し、データを取得する。
【0067】
次に、画像処理工程S2では、画像処理装置により、撮影工程S1で取得した浸漬管104の内周面104aのデータの画像処理を行う。
そして、亀裂特定工程S3では、画像処理されたデータに基づき、浸漬管104の内周面104aに生じた亀裂の有無を特定する。このとき、亀裂の長さも特定する。この特定は、例えば上記した診断支援装置10の画像処理装置17を用いて自動的に行ってもよい。
【0068】
そして、補修工法決定工程S4では、亀裂の有無及び長さに応じて、補修の要否と補修工法を決定する。
例えば、亀裂があることを特定した場合は、その亀裂の長さが所定の閾値以下であれば吹付補修を実施し、所定の閾値超であれば圧入補修を実施することを決定する。
【0069】
図3に示すグラフを参照して既に説明したように、本発明者らは、吹付補修前の亀裂長さが20mm以下の場合、吹付補修により亀裂の進展が好適に抑制され、吹付補修前の亀裂長さが20mmを超える場合、吹付補修を行っても亀裂の進展が抑制できないことを発見した。なお、吹付補修により亀裂の進展が好適に抑制される吹付補修前の亀裂の長さの閾値は、真空脱ガス槽及び浸漬管の寸法、並びに、耐火物の材質及び寸法により変動する。図3を作成する際に用いた真空脱ガス槽においては、吹付補修前の亀裂の長さの閾値は20mmであった。
そこで、補修工法決定工程S4では、個々の真空脱ガス槽毎に図3のようなグラフを作成した上で所定の閾値を設定することが好ましい。具体的には、図3に示すように、吹付補修を実施した場合について「補修前の亀裂長さ」と「亀裂進展速度」との関係を実験又はシミュレーションにより求め、「亀裂進展速度」が急激に増加するときの「補修前の亀裂長さ」を閾値として設定してもよい。例えば、所定の閾値は10mm〜30mmの間の値であればよく、15mm〜25mmの間の値であってもよい。
尚、亀裂特定工程S3において亀裂が無いことを特定した場合、又は、微小な長さ(例えば5mm以下)の亀裂のみが特定された場合には、補修を行わずに後行チャージのRH脱ガス処理を開始してもよい。
【0070】
このような一連の工程S1〜S4を含む診断方法では、亀裂の有無と長さに基づき補修の要否と補修工法が決定されるため、必要以上に補修時間を消費することを回避することができる。従って、先行チャージのRH脱ガス処理と後行チャージのRH脱ガス処理との間に必要最低限の補修を行うことができるため、RH脱ガス処理の効率性を高めることが可能になる。
【0071】
(第四実施形態)
本発明の第四実施形態に係るRH脱ガス槽補修方法では、上述の補修工法決定工程S4で決定した補修工法に基づき浸漬管104の内周面104a(内張耐火物α)を補修する。
このとき、浸漬管104の内周面104aの内張耐火物αだけではなく、下部槽103の内張耐火物αも同時に補修することが好ましい。
1つのRH脱ガス装置において、上述の撮影工程S1から補修工法決定工程S4までに要する時間は1分〜3分であり、吹付補修に要する時間は、5分〜10分である。連続操業工程において、先行チャージのRH脱ガス処理と後行チャージのRH脱ガス処理間の時間は15分〜25分であるため、吹付補修後にRH脱ガス槽を余熱する時間を設定することが可能である。
【0072】
以上、本発明を具体的な実施形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
上述の実施形態では、浸漬管104を二本有するRH脱ガス槽100を真空脱ガス槽として用いているが、浸漬管104を一本のみ有するDH脱ガス槽を真空脱ガス槽として用いてもよい。
上述の実施形態では、カメラ11を固定するテーブル13を用いているが、テーブル13を用いることなく、カメラ11をアーム15bの先端に直接固定する構成としてもよい。
上述の実施形態では、カメラ11は浸漬管104の内周面104aを斜め下方から見た画像を直接的に撮影しているが、耐熱ミラー等を用いることで、浸漬管104の内周面104aを斜め下方から見た画像を間接的に撮影してもよい。
【0073】
上述の実施形態では、テーブル移動機構15が支柱15aとアーム15bとによりテーブル13を回動させて移動させているが、テーブル移動機構15はテーブル13を直進移動させる構成であってもよい。
上述の実施形態では、各カメラ11が個別に収容ケース30に収容されているが、収容ケース30の平面視形状をカメラの配置に合わせて変更し、複数台のカメラ11を収容してもよい。
上述の実施形態では、蓋開閉機構35としてエアシリンダ35cを用いているが、油圧シリンダ等の流体圧シリンダを用いてもよい。また、電動モータ等を用い、蓋33を回動させることなく収容ケース30の上面に沿ってスライドさせる構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の診断支援装置は、RH法やDH法などによる真空脱ガス処理に有効に利用できる。
【符号の説明】
【0075】
10 診断支援装置
11 カメラ
13 テーブル
15 テーブル移動機構
15a 支柱
15b アーム
17 画像処理装置
19 モニタ
30 収容ケース
30a 周壁
30b 天板
31 耐熱ガラス
33 蓋
35 蓋開閉機構
35a 第一突起
35b 第二突起
35c エアシリンダ
35d ヒンジ
100 RH脱ガス槽
101 上部槽
102 中間槽
103 下部槽
104 浸漬管
104a 内周面
104b 外周面
104c 底面
α 内張耐火物
G 地面
【要約】
この診断支援装置は、下方に延びた浸漬管を有する真空脱ガス槽の診断支援装置であって、平面視において前記浸漬管の内周面よりも外側に配置された状態で、前記浸漬管の前記内周面を斜め下方から見た画像を撮影し、前記画像をデータとして取得するカメラと、前記カメラに接続され、前記データの画像処理を行う画像処理装置と、を備える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9