特許第6358422号(P6358422)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358422
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】イワベンケイ属植物エキスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 1/00 20060101AFI20180709BHJP
   C12P 7/18 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   C12P1/00 A
   C12P7/18
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-51097(P2014-51097)
(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公開番号】特開2014-217373(P2014-217373A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2017年2月15日
(31)【優先権主張番号】特願2013-83912(P2013-83912)
(32)【優先日】2013年4月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】亀田 剛旨
(72)【発明者】
【氏名】本間 亮介
【審査官】 市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−000095(JP,A)
【文献】 特開2001−240552(JP,A)
【文献】 特開2006−238825(JP,A)
【文献】 特開2008−029781(JP,A)
【文献】 特開平10−099417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/FSTA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イワベンケイ属植物を原料として、該原料をタンナーゼ活性を有する酵素及びβ−グルコシダーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理することにより得られる、収斂作用を顕著に低減させ、消臭作用を顕著に向上させ、かつチロソールを高度に含有することを特徴とするイワベンケイ属植物エキスの製造方法。
【請求項2】
β−グルコシダーゼ活性を有する酵素を用いた酵素処理が、タンナーゼ活性を有する酵素を用いた酵素処理と並行して又はタンナーゼ活性を有する酵素処理後に行われる、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
チロソールが遊離のものである、請求項又は請求項に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の製造方法により得られるイワベンケイ属植物エキス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イワベンケイ属植物エキスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イワベンケイ属(Rhodiola)植物は、ベンケイソウ科(Crassulaceae)に属する植物で、蔵薬(チベット生薬)の一つである紅景天として古くから利用されている。イワベンケイ属植物は、リラックス効果や抗鬱効果(非特許文献1)等の様々な機能性を有することが報告されている。そこで、イワベンケイ属植物がもたらす生理活性に注目して、種々の検討が行われている。
【0003】
例えば、紅景天属植物の粉末及び/又は抽出物を有効成分とする化粧料(特許文献1)、紅景天属植物の粉末、抽出物、またはこれらの混合物を有効成分とする抗糖尿病剤(特許文献2)、ベンケイソウ科紅景天属植物から抽出された抽出物質を含んでなるエストロゲン様組成物(特許文献3)が開示されている。
また、バラ科キイチゴ属(Rubus)植物、フトモモ科植物のユーカリ(Eucalyptus globulus)及びグアバ(Psidium guajava)、ヤマモモ科植物のヤマモモ(Myrica rubra)、マンサク科植物のハマメリス(Hamamelis virginiana)並びにベンケイソウ科植物の紅景天(Rhodiola sacra)からなる群より選択される1種または2種以上の抽出物を有効成分とすることを特徴とするアリルメチルモノスルフィド用消臭剤(特許文献4)が開示され、ベンケイソウ科イワベンケイ属植物より抽出された抽出物を有効成分として含有することを特徴とする消臭剤(特許文献5)が開示されている。特許文献4には、モノスルフィド化合物とアリルメルカプタンやメチルメルカプタン等のチオール化合物とは、消臭メカニズムが大きく相違することが記載され、特許文献5には、アンモニア及びトリメチルアミンに対して消臭効果があることが記載されているが、イワベンケイ属植物の抽出物のメチルメルカプタンに対する消臭効果は、いずれにも記載されていない。
【0004】
また、イワベンケイ属植物は、強い収斂作用を有しており、イワベンケイ属植物から得られる抽出物の利用においては、その強い渋味や皮膚刺激性等の点で問題がある。
さらに、イワベンケイ属植物に含まれる機能性成分としては、チロソールやその配糖体であるサリドロサイド等が知られている。特に、チロソールは、オリーブオイル等にも含まれ、強い抗酸化活性を有すること(非特許文献2)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−128729号公報
【特許文献2】特開2000−128793号公報
【特許文献3】特開2008−127374号公報
【特許文献4】特開2003−335647号公報
【特許文献5】特開2002−20301号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】チェン(Chen)、外7名、フィトメディスン(Phitomedicine)、2009年9月、第16巻、第9号、p.830−838
【非特許文献2】ジョバンニーニ(Giovannini)、外7名、ザ・ジャーナル・オブ・ニュートリション(The Journal of Nutrition)、1999年、第129巻、第7号、p.1269−1277
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、イワベンケイ属植物を原料として、収斂作用を顕著に低減させ、消臭作用を顕著に向上させたイワベンケイ属植物エキスの製造方法を提供することである。さらに、本発明の課題は、収斂作用を顕著に低減させ、消臭作用を顕著に向上させ、かつ機能性成分であるチロソールの含有量を効率的に増大させたイワベンケイ属植物エキスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、イワベンケイ属植物を原料として、該原料をタンナーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理することにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、イワベンケイ属植物を原料として、該原料をタンナーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理することにより得られる、収斂作用を顕著に低減させ、消臭作用、特にメチルメルカプタンに対する消臭作用を顕著に向上させたイワベンケイ属植物エキスの製造方法を提供するものである。そして、本発明は、さらに、β−グルコシダーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理することにより得られる、収斂作用を顕著に低減させ、消臭作用、特にメチルメルカプタンに対する消臭作用を顕著に向上させ、かつ機能性成分であるチロソールを高度に含有する、イワベンケイ属植物エキスの製造方法を提供するものである。
【0010】
本発明には、下記の態様が含まれる。
項(1)
イワベンケイ属植物を原料として、該原料をタンナーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理することにより得られる、収斂作用を顕著に低減させ、消臭作用を顕著に向上させることを特徴とするイワベンケイ属植物エキスの製造方法。
項(2)
消臭作用がメチルメルカプタンに対する消臭作用である、項(1)に記載の製造方法。
項(3)
前記原料が、粉砕物又は抽出物である、項(1)又は項(2)に記載の製造方法。
項(4)
さらに、β−グルコシダーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理することにより、チロソールを高度に含有することを特徴とする、項(1)乃至項(3)に記載の製造方法。
項(5)
β−グルコシダーゼ活性を有する酵素を用いた酵素処理が、タンナーゼ活性を有する酵素を用いた酵素処理と並行して又はタンナーゼ活性を有する酵素処理後に行われる、項(4)に記載の製造方法。
項(6)
チロソールが遊離のものである、項(4)又は(5)に記載の製造方法。
項(7)
項(1)乃至項(6)のいずれか1項に記載の製造方法により得られるイワベンケイ属植物エキス。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、イワベンケイ属植物のもつ強い収斂作用を低減させ、消臭作用、特にメチルメルカプタンに対する消臭作用を顕著に向上させたイワベンケイ属植物エキスを提供することができる。さらに、本発明によれば、イワベンケイ属植物のもつ強い収斂作用を低減させ、消臭作用、特にメチルメルカプタンに対する消臭作用を顕著に向上させ、かつ、機能性成分であるチロソールの含有量を効率的に増大させたイワベンケイ属植物エキスを提供することができる。
本発明によるイワベンケイ属植物エキスを用いることにより、チロソールの機能性を利用した飲食品、医薬部外品又は飼料を提供することができる。また、収斂作用が低減されているため、タンパク質を含有する飲食品等に添加しても、凝集等の不具合無く使用することができ、さらに、従来のイワベンケイ属植物による消臭作用、特にメチルメルカプタンに対する消臭作用が顕著に向上されていることから、消臭効果も併せ持つ素材として活用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、原料のイワベンケイ属植物は、ベンケイソウ科イワベンケイ属に属する植物であればいずれを用いてもよい。例えば、Rhodiola rosea、Rhodiola crenulata、Rhodiola sacra、Rhodiola fastigiata、Rhodiola yunnanensis、Rhodiola quadrifida、Rhodiola tangutica、Rhodiola algida、Rhodiola alsia、Rhodiola dumulosa、Rhodiola gelida、Rhodiola henryi、Rhodiola heterodonta、Rhodiola kirilowii、Rhodiola wallichiana、Rhodiola alterna、Rhodiola angusta、Rhodiola aporontica、Rhodiola atropurpurea、Rhodiola atsaensis、Rhodiola atuntsuensis、Rhodiola brevipetiolata、Rhodiola bupleuroides、Rhodiola calliantha、Rhodiola chrysanthemifolia、Rhodiola coccinea、Rhodiola concinna、Rhodiola cretinii、Rhodiola dielsiana、Rhodiola discolor、Rhodiola eurycarpa、Rhodiola forrestii、Rhodiola gannanica、Rhodiola handelii、Rhodiola himalensis、Rhodiola hobsonii、Rhodiola humilis、Rhodiola junggarica、Rhodiola kansuensis、Rhodiola kaschgarica、Rhodiola liciae、Rhodiola likiangensis、Rhodiola linearifolia、Rhodiola litwinowii、Rhodiola macrocarpa、Rhodiola macrolepis、Rhodiola megalophylla、Rhodiola nobilis、Rhodiola ovatisepala、Rhodiola pamiroalaica、Rhodiola papillocarpa、Rhodiola petiolata、Rhodiola pinnatifida、Rhodiola prainii、Rhodiola primuloides、Rhodiola purpureoviridis、Rhodiola recticaulis、Rhodiola robusta、Rhodiola rotundifolia、Rhodiola sachalinensis、Rhodiola semenovii、Rhodiola serrata、Rhodiola sexifolia、Rhodiola sherriffii、Rhodiola sinuata、Rhodiola smithii、Rhodiola staminea、Rhodiola stapfii、Rhodiola stephanii、Rhodiola subopposita、Rhodiola telephioides、Rhodiola tibetica、Rhodiola tieghemii等が挙げられる。本発明において用いる原料のイワベンケイ属植物は、1種を単独で用いてもよく、また複数種を併用してもよい。また、原料のイワベンケイ属植物は、乾燥物でも非乾燥物でも用いることができるが、原料の取り扱いや保存性を考慮したときには、乾燥物を用いることが好ましい。さらに、本発明において使用するイワベンケイ属植物の部位は、特に限定されず、全草であっても、又は、葉、茎、花弁、根茎若しくは種子等であってもよいが、中でも、根茎が入手しやすいという点で好ましい。全草又はいずれの部位でも単独で、又は、併用して用いることができる。
【0013】
本発明において、原料のイワベンケイ属植物は、粉砕物又は抽出物として用いる。
【0014】
イワベンケイ属植物の粉砕物は、原料のイワベンケイ属植物を単独で、又は水等の溶媒を加えて粉砕処理した粉砕物であればよい。原料のイワベンケイ属植物を粉砕処理する方法は、特に限定されず、食材の加工に一般に用いられる方法を単独又は組み合わせて処理することができる。粉砕処理に用いる機器としては、例えば、切断、粉砕、摩擦、空気圧、水圧等を利用して加工する各種の裁断機、粉砕機等が挙げられる。イワベンケイ属植物の粉砕物は、粉砕後そのまま又は固液分離して得られた液部を用いることができる。
【0015】
イワベンケイ属植物の抽出物は、原料のイワベンケイ属植物を水、アルコール又は水−アルコール混合溶液等で抽出した抽出物であればよい。原料のイワベンケイ属植物を抽出する方法は、特に限定されず、公知の手段を単独又は組み合わせて抽出することができる。抽出方法としては、例えば、常温抽出、加熱抽出、加圧抽出、撹拌抽出、超音波抽出等が挙げられる。原料のイワベンケイ属植物は、そのままの形状で抽出してもよく、細切処理又は粉砕処理したものを用いてもよい。イワベンケイ属植物の抽出物は、抽出後そのまま又は固液分離して得られた液部を用いることができる。中でも、抽出後固液分離して得られた液部が好ましい。また、イワベンケイ属植物の抽出物は、その濃縮物を用いることができる。さらに、イワベンケイ属植物の抽出物は、適宜pH調整剤等の添加物を配合することができる。
【0016】
本発明においては、イワベンケイ属植物を原料として、該原料をタンナーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理を行う。本発明において用いるタンナーゼ活性を有する酵素は、食品に用いることができるタンナーゼ活性を有する酵素であればいずれでもよく、該酵素を含むものであってもよい。また、該酵素は、酵素製剤の形でも用いることができる。タンナーゼ活性を有する酵素としては、例えば、タンナーゼ製剤であるタンナーゼ(三菱化学フーズ株式会社製)、タンナーゼTAH(キッコーマン株式会社製)等が挙げられる。
【0017】
本発明において、タンナーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理する温度は、通常10〜60℃、好ましくは20〜55℃、より好ましくは30〜50℃である。また、本発明において、タンナーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理する時間は、通常10分間〜48時間、好ましくは30分間〜36時間、より好ましくは1〜24時間である。また、本発明において、タンナーゼ活性を有する酵素の添加量は、処理温度及び処理時間により適宜変更することができるが、例えば、酵素製剤として、通常0.01〜5重量%、好ましくは0.02〜3重量%、より好ましくは0.05〜2重量%である。
【0018】
本発明においては、タンナーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理する前に、原料のイワベンケイ属植物のpHを、タンナーゼ活性を有する酵素の至適pH付近に調整することが好ましい。調整するpHは、通常pH3〜9であり、好ましくはpH4〜8である。なお、前記pH調整を行った場合、該酵素処理後に中和処理を行ってもよい。pHの調整及び中和処理は、pH調整剤として一般に食品に利用されているものを用いることができる。pH調整剤は、食品添加物として指定されたものであれば特に限定されない。pH調整剤としては、酸、アルカリ、及びそれらの塩等が用いられるが、例えば、塩酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0019】
本発明において、得られるイワベンケイ属植物エキスは、イワベンケイ属植物のもつ強い収斂作用を顕著に低下させたものであり、さらに、消臭作用、特にメチルメルカプタンに対する消臭作用が顕著に向上されたものである。このことから、該イワベンケイ属植物エキスを喫食したとき、渋味をほとんど感じることがない。さらに、タンパク質を含有する飲食品等に添加した場合に、タンパク質の凝集から生じる沈殿や懸濁等がほとんど発生しない。また、皮膚等に塗布しても皮膚タンパクに対する刺激性が穏やかであるため、安全に使用することができる。そして、安定かつ安全に消臭、特にメチルメルカプタンの消臭に利用することができる。
【0020】
本発明においては、原料のイワベンケイ属植物を、β−グルコシダーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理を行ってもよい。本発明において、タンナーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理すること及びβ−グルコシダーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理を行うことで、イワベンケイ属植物のもつ強い収斂作用を低減させ、かつ、機能性成分であるチロソールの含有量を効率的に増大させたイワベンケイ属植物エキスを製造することができる。β−グルコシダーゼ活性を有する酵素を用いた酵素処理を行う場合は、タンナーゼ活性を有する酵素を用いた酵素処理と並行して又はタンナーゼ活性を有する酵素を用いた酵素処理後に行うことができる。本発明において用いるβ−グルコシダーゼ活性を有する酵素は、食品に用いることができるβ−グルコシダーゼ活性を有する酵素であればいずれでもよく、該酵素を含むものであってもよい。また、該酵素は、酵素製剤の形でも用いることができる。β−グルコシダーゼ活性を有する酵素としては、例えば、β−グルコシダーゼ製剤であるスミチーム(登録商標)BGA(新日本化学工業株式会社製)、アロマーゼ(登録商標)(天野エンザイム株式会社製)、ラピターゼ(登録商標)AR2000(ディー・エス・エムジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0021】
本発明において、β−グルコシダーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理する温度は、通常30〜70℃、好ましくは40〜65℃、より好ましくは50〜60℃である。また、本発明において、β−グルコシダーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理する時間は、通常1〜24時間、好ましくは2〜20時間である。また、本発明において、β−グルコシダーゼ活性を有する酵素の添加量は、処理温度及び処理時間により適宜変更することができるが、例えば、酵素製剤として、通常0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜3重量%、より好ましくは0.1〜2重量%である。
【0022】
本発明においては、β−グルコシダーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理する前に、原料のイワベンケイ属植物のpHを、β−グルコシダーゼ活性を有する酵素の至適pH付近に調整することが好ましい。調整するpHは、通常pH2〜7であり、好ましくはpH3〜5である。なお、前記pH調整を行った場合、該酵素処理した後に中和処理を行ってもよい。pHの調整及び中和処理は、pH調整剤として一般に食品に利用されているものを用いることができる。pH調整剤は、食品添加物として指定されたものであれば特に限定されない。pH調整剤としては、酸、アルカリ、及びそれらの塩等が用いられるが、例えば、塩酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0023】
本発明において、得られるイワベンケイ属植物エキスが含有する機能性成分であるチロソールの含有量については、少なくとも含有していればよいが、好ましくは固形物あたり0.1%以上であり、より好ましくは固形物あたり0.3%以上である。
なお、本発明においてイワベンケイ属植物エキスが含有するチロソールとは、アグリコンの状態で存在する、いわゆる遊離の状態のものをいう。
【0024】
本発明においては、上記各酵素処理を行った後に、酵素失活処理を行ってもよい。酵素失活処理は、最終的に得られるイワベンケイ属植物エキスにおいて酵素活性が残存しないように行えばよく、また、酵素失活処理の条件は、前記酵素処理において用いた酵素が失活する条件であれば特に限定されない。酵素失活処理の条件としては、該酵素処理において用いる酵素の種類により異なるが、例えば、タンナーゼ活性を有する酵素の場合、通常、60℃以上で加熱することで達成され、好ましくは60〜100℃程度で1〜120分間程度加熱処理すればよい。
【0025】
本発明により得られるイワベンケイ属植物エキスは、風味が良好で嗜好性に優れていることから、そのままの形態でも利用することができるが、さらに、該イワベンケイ属植物エキスを固液分離した液部として用いることができる。固液分離する方法は、特に限定されず、濾過、遠心分離等の公知の方法により行うことができる。また、本発明により得られるイワベンケイ属植物エキスは、そのまま又は固液分離した液部を常法により濃縮機等で処理して濃縮物として用いてもよく、また、乾燥して用いてもよい。乾燥方法は、特に限定されず、公知の手段を用いて乾燥することができる。乾燥方法としては、例えば、スプレードライヤー、ドラムドライヤー、フリーズドライヤー、エアードライヤー等の公知の手段を用いることができる。また、デキストリン等の賦形剤を添加して乾燥してもよい。さらに、乾燥により得られたものを粉砕後、粉末等として用いてもよく、必要に応じて造粒機等を用いて顆粒品とすることができる。
【0026】
本発明により得られるイワベンケイ属植物エキスは、そのまま又は水等で希釈して利用することができる。さらに、本発明により得られるイワベンケイ属植物エキスは、種々の加工食品、例えば、即席食品、乳製品、菓子類、調味料、茶飲料、野菜飲料、大豆飲料、豆乳飲料等の各種飲食品に適宜添加、配合して用いることもできる。また、必要に応じて、通常の飲食品の原料や添加物として使用されているものと併用することもできる。
【0027】
本発明により得られるイワベンケイ属植物エキスは、特定保健用食品、機能性食品、栄養補助食品といった食品や、医薬部外品又は飼料等に用いることができる。形態としては、アンプル、カプセル、丸剤、錠剤、粉末、顆粒、固形、液剤、ゲル、エアロゾル等とすることができるほか、各種製品中に配合することができる。これら製品の調製に当たっては、賦形剤、結合剤、潤沢剤等を適宜配合することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。なお、本実施例において、各原料及び素材の配合比率、含有比率、濃度は断りのない限り全て重量部基準である。
【0029】
[調製1]
Rhodiola roseaの根茎乾燥粉末10gに、60%エタノール水溶液990gを加えて、40℃で2時間抽出処理した後、PTFEメンブレンフィルター(0.5μm)を用いて固液分離を行った。固液分離によって得られた液部をエバポレーターを用いて減圧濃縮することで、イワベンケイ属植物抽出物150g(pH4.5、固形分:0.9%)(調製1)を得た。
【0030】
[実施例1]
調製1で得られたイワベンケイ属植物抽出物50gを、20%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH6.0に調整した後、タンナーゼ製剤であるタンナーゼ(三菱化学フーズ株式会社製)を0.1g添加して、40℃で2時間酵素処理を行い、さらに90℃で10分間酵素失活処理することで、本発明によるイワベンケイ属植物エキス45g(固形分:1.0%)(実施例1)を得た。
【0031】
[評価試験1]
実施例1で得られた本発明によるイワベンケイ属植物エキス及び調製1で得られたイワベンケイ属植物抽出物を検体として、収斂作用の評価及びチロソール含量の測定を実施した。収斂作用の評価は、0.1%ゼラチン(和光純薬工業株式会社製)水溶液99gに、各エキス1gをそれぞれ添加混合して30℃で1時間静置した後、吸光度(OD660)を、分光光度計(UV−1200:株式会社島津製作所製)を用いて、光路長1cm、波長660nmの条件で測定し、その濁りを判定することで行った。また、各検体について、そのチロソール含量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、下記の条件で測定した。結果を表1に示す。
【0032】
<HPLCの測定条件>
検出器:UV検出器(紫外波長225nm)
カラム:InertSustain C18(内径4.6mm、長さ250mm)
移動相:7容量%アセトニトリル水溶液(0.03容量%ギ酸含有)
流速:1.0ml/分
カラム温度:40℃
標品:チロソール(SIGMA−ALDRICH社製)を70%エタノール水溶液に溶解して標品を調製し、検量線を作成した。
検体:各試料を70%エタノール水溶液で、適宜希釈したもの。
【0033】
【表1】
【0034】
表1に示すとおり、タンナーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理した実施例1で得られた本発明によるイワベンケイ属植物エキスを検体とした場合では、収斂作用によって起こるタンパク質の凝集が少なく、濁りの指標となるOD660の値が0.1未満であり、可視的濁りが認められなかった。一方、酵素処理していない調製1で得られたイワベンケイ属植物抽出物を検体とした場合では、濁りの指標となるOD660の値が0.1以上であり、可視的濁りが認められた。よって、実施例1で得られた本発明によるイワベンケイ属植物エキスは、酵素処理していない調製1で得られたイワベンケイ属植物抽出物と比較して、顕著に収斂作用が抑制されていることが分かった。また、実施例1で得られた本発明によるイワベンケイ属植物エキス、調製1で得られたイワベンケイ属植物抽出物の固形物あたりのチロソール含量が同等であった。即ち、実施例1で得られた本発明によるイワベンケイ属植物エキスは、収斂作用が低いことにより、酵素処理していない調製1で得られたイワベンケイ属植物抽出物と比較して、効果的にチロソールを摂取できることが明らかとなった。
【0035】
[調製2]
Rhodiola crenulataの根茎乾燥粉末800gに、70%エタノール水溶液3200gを加えて、50℃で1時間抽出処理した後、ポリプロピレンメンブレンフィルター(30μm)を用いて固液分離を行った。固液分離によって得られた液部をエバポレーターを用いて減圧濃縮することで、イワベンケイ属植物抽出物1400g(pH4.7、固形分:10.2%)(調製2)を得た。
【0036】
[実施例2]
調製2で得られたイワベンケイ属植物抽出物200gを、20%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH6.0に調整した後、タンナーゼ製剤であるタンナーゼ(三菱化学フーズ株式会社製)を2g添加して、40℃で19時間酵素処理を行った。次いで、β−グルコシダーゼ製剤であるスミチームBGA(新日本化学工業株式会社製)を2g添加して、65℃で6時間酵素処理を行った後、90℃で10分間酵素失活処理することで、本発明によるイワベンケイ属植物エキス180g(固形分:11.4%)(実施例2)を得た。
【0037】
[比較例1]
調製2で得られたイワベンケイ属植物抽出物200gに、β−グルコシダーゼ製剤であるスミチームBGA(新日本化学工業株式会社製)を2g添加して、65℃で6時間酵素処理を行った後、90℃で10分間酵素失活処理することで、β−グルコシダーゼ処理イワベンケイ属植物エキス180g(固形分:10.5%)(比較例1)を得た。
【0038】
[評価試験2]
実施例2で得られた本発明によるイワベンケイ属植物エキス、比較例1で得られたβ−グルコシダーゼ処理イワベンケイ属植物エキス及び調製2で得られたイワベンケイ属植物抽出物を検体として、収斂作用の評価及びチロソール含量の測定を実施した。収斂作用の評価は、0.2%カゼイン(和光純薬工業株式会社製)水溶液98gに、各エキス2gをそれぞれ添加混合して30℃で1時間静置した後、吸光度(OD660)を、分光光度計(UV−1200:株式会社島津製作所製)を用いて、光路長1cm、波長660nmの条件で測定することで行った。また、各検体について、評価試験1と同様にして、チロソール含量を測定した。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
表2に示すとおり、タンナーゼ活性を有する酵素及びβ−グルコシダーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理した実施例2で得られた本発明によるイワベンケイ属植物エキスを検体とした場合では、収斂作用によって起こるタンパク質の凝集が少なく、濁りの指標となるOD660の値が0.1未満であり、可視的濁りが認められなかった。一方、タンナーゼ活性を有する酵素を用いた酵素処理を行わずβ−グルコシダーゼ活性を有する酵素を用いた酵素処理のみを行った比較例1で得られたβ−グルコシダーゼ処理イワベンケイ属植物エキス及び酵素処理していない調製2で得られたイワベンケイ属植物抽出物を検体とした場合では、濁りの指標となるOD660の値が0.1以上であり、可視的濁りが認められた。また、実施例2で得られた本発明によるイワベンケイ属植物エキスは、タンナーゼ活性を有する酵素を用いた酵素処理を行わずβ−グルコシダーゼ活性を有する酵素を用いた酵素処理のみを行った比較例1で得られたβ−グルコシダーゼ処理イワベンケイ属植物エキス及び酵素処理していない調製2で得られたイワベンケイ属植物抽出物と比較して、固形物あたりのチロソール含量が3.5倍以上であったことから、実施例2で得られた本発明によるイワベンケイ属植物エキスは、収斂作用が低く、またチロソール含量が顕著に高いため、効果的にチロソールを摂取できることが明らかとなった。
【0041】
[実施例3]
Rhodiola crenulataの根茎乾燥粉末50gに、15%エタノール水溶液450gを加え(pH4.9)、さらに、タンナーゼ製剤であるタンナーゼ(三菱化学フーズ株式会社製)を1g、β−グルコシダーゼ製剤であるスミチームBGA(新日本化学工業株式会社製)を1g添加して、50℃で3時間抽出処理を行った。次いで、90℃で10分間酵素失活処理を行った後、95%エタノールを330g加えて混合し、ろ紙(NO.2)を用いて固液分離を行った。固液分離によって得られた液部をエバポレーターを用いて減圧濃縮し、さらにフリーズドライヤーを用いて乾燥・粉末化することで、本発明によるイワベンケイ属植物エキス粉末16g(実施例3)を得た。
【0042】
[比較例2]
Rhodiola crenulataの根茎乾燥粉末50gに、15%エタノール水溶液450gを加え、50℃で3時間抽出処理を行った(pH4.9)後、95%エタノールを330g加えて混合し、ろ紙(NO.2)を用いて固液分離を行った。固液分離によって得られた液部をエバポレーターを用いて減圧濃縮し、さらにフリーズドライヤーを用いて乾燥・粉末化することで、イワベンケイ属植物抽出物粉末15g(比較例2)を得た。
【0043】
[評価試験3]
実施例3で得られた本発明によるイワベンケイ属植物エキス粉末及び比較例2で得られたイワベンケイ属植物抽出物粉末を検体として、収斂味の評価及びチロソール含量の測定を実施した。収斂味の評価は、各検体を水道水で100倍希釈したものについて、パネラー10人による官能評価によって行った。また、各検体について、評価試験1と同様にして、チロソール含量を測定した。結果を表3に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
表3に示すとおり、官能評価において、タンナーゼ活性を有する酵素及びβ−グルコシダーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理した実施例3で得られた本発明によるイワベンケイ属植物エキス粉末は、酵素処理していない比較例2で得られたイワベンケイ属植物抽出物粉末と比較して、収斂味が穏やかであり、摂取しやすいものであった。また、実施例3で得られた本発明によるイワベンケイ属植物エキス粉末は、比較例2で得られたイワベンケイ属植物抽出物粉末と比較して、チロソール含量が2倍以上であったことから、実施例3で得られた本発明によるイワベンケイ属植物エキスは、収斂作用が低く、またチロソール含量が顕著に高いため、効果的にチロソールを摂取できることが明らかとなった。
【0046】
[実施例4]
Rhodiola crenulataの根茎乾燥粉末10gに、水道水190gを加え(pH4.9)、さらに、タンナーゼ製剤であるタンナーゼ(三菱化学フーズ株式会社製)を0.2g添加して、50℃で3時間抽出処理を行った。次いで、80℃で10分間加熱処理を行った後、ろ紙(NO.2)を用いて固液分離を行い、液部を回収することで、本発明によるイワベンケイ属植物エキス140g(固形分:1.7%)(実施例4)を得た。
【0047】
[実施例5]
Rhodiola crenulataの根茎乾燥粉末10gに、水道水190gを加え(pH4.9)、さらに、タンナーゼ製剤であるタンナーゼ(三菱化学フーズ株式会社製)を0.2g、β−グルコシダーゼ製剤であるスミチームBGA(新日本化学工業株式会社製)を0.2g添加して、50℃で3時間抽出処理を行った。次いで、80℃で10分間酵素失活処理を行った後、ろ紙(NO.2)を用いて固液分離を行い、液部を回収することで、本発明によるイワベンケイ属植物エキス150g(固形分2.0%)(実施例5)を得た。
【0048】
[比較例3]
Rhodiola crenulataの根茎乾燥粉末10gに、水道水190gを加えて、50℃で3時間抽出処理を行った。次いで、80℃で10分間加熱処理を行った後、ろ紙(NO.2)を用いて固液分離を行い、液部を回収することで、イワベンケイ属植物抽出物140g(pH4.9、固形分1.5%)(比較例3)を得た。
【0049】
[評価試験4]
実施例4及び実施例5で得られた本発明によるイワベンケイ属植物エキス及び比較例3で得られたイワベンケイ属植物抽出物を検体として、メチルメルカプタン消去率及びチロソール含量の測定を実施した。メチルメルカプタン消去率の測定は、30ml容量のバイアル瓶に、200mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で各検体を固形分が0.005%となるように調整した液5ml及び10ppmメチルメルカプタン水溶液150μlを封入し、30℃で30分間攪拌した後、ヘッドスペースガス500μlをガスクロマトグラフィー(GC)を用いてメチルメルカプタンのピーク面積を測定することで行った。また、各検体について、評価試験1と同様にして、チロソール含量を測定した。結果を表4に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
表4に示すとおり、タンナーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理した実施例4で得られた本発明によるイワベンケイ属植物エキス及びタンナーゼ活性を有する酵素及びβ−グルコシダーゼ活性を有する酵素を用いて酵素処理した実施例5で得られた本発明によるイワベンケイ属植物エキスは、酵素処理していない比較例3で得られたイワベンケイ属植物抽出物と比較して、およそ1.3倍もメチルメルカプタン消去率が向上しており、本発明による製造方法を用いることで、消臭作用、特にメチルメルカプタンに対する消臭作用を顕著に向上させることが明らかであった。また、中でも、実施例5で得られた本発明によるイワベンケイ属植物エキスは、他の検体と比較して、チロソール含量が2倍以上であった。