(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358444
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】原子力発電用容器類との反応性のない冷却材とその適用方法
(51)【国際特許分類】
G21C 15/00 20060101AFI20180709BHJP
G21C 15/28 20060101ALI20180709BHJP
G21D 3/08 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
G21C15/00 FGDF
G21C15/28 C
G21D3/08 G
【請求項の数】2
【全頁数】4
(21)【出願番号】特願2016-153222(P2016-153222)
(22)【出願日】2016年7月19日
(62)【分割の表示】特願2015-119765(P2015-119765)の分割
【原出願日】2015年5月27日
(65)【公開番号】特開2016-224059(P2016-224059A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2016年7月19日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】515129102
【氏名又は名称】佐藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】松尾 裕一
【審査官】
右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−119429(JP,A)
【文献】
特開2013−250056(JP,A)
【文献】
特開2002−357696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 15/00
G21C 15/28
G21D 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電構造における冷却系機器の腐食防止技術構成として、冷却系の少なくとも一部に、熱媒体溶融塩を用い、その化学成分は、全溶融塩分に対し、mol%で、弗化リチウム(LiF)、弗化ナトリウム(NaF)、弗化カリウム(KF)の1種以上を80%以下含有し、残部は弗化錫(SnF2)、アルカリ金属テトラフルオロホウ酸塩、及びその他の不可避不純物であって、その溶融塩はLiF−SnF2系、NaF−SnF2系、KF−SnF2系、LIF−NaF−SnF2系、LiF−KF−SnF2系、NaF−KF−SnF2系、LiF−NaF−KF−SnF2系の何れかを主成分とする融点の低い成分系を用い、アルカリ金属テトラフルオロホウ酸塩としてはNaBF4、LiBF4、KBF4の1種以上を用い、かつ浴容器類を負極とし、冷却材浴を正極とする溶融塩型冷却系を構成し、供用運転中の浴成分の安定化通電を行う事を特徴とする原子力発電用冷却系の冷却方法。
【請求項2】
熱媒体溶融塩として、請求項1の溶融塩を用い、溶融塩浴中のSnF4生成防止用に、塩浴全量に対し50mol%以下の金属のSn、Zn、Al、Mgの1種以上を浴成分酸化防止の観点から添加するか、容器類の少なくとも1部に、塩浴全量に対し50mol%以下の範囲で被膜を形成しておき、かつ浴容器類を負極とし、冷却材浴を正極とする溶融塩と金属相との混成融合型冷却系を構成し、供用運転中の浴成分の安定化と金属成分による容器類腐食を防止するための通電を行う事を特徴とする原子力発電用冷却系の冷却方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
高速増殖炉型原子力発電用の2次冷却材としては、現在Naが使われているが、蒸気発生器における水との接触事故が懸念されている。溶融塩型もあるが、融点が高く、使用しにくいものとなっている。そのためにこれに代わる冷却材とその適用方法を提案する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電用容器、配管系の冷却材として、溶融塩型NaF−NaBF
4系があるが、使用されてない。
【0003】
安全な溶融塩系の融点が低く、水との反応性がない安定な冷却材とその適用法を提案する。
【0004】
溶融塩型冷却材として成分系を検討した結果、成分系とともに金属系成分および電気的処理の組み合わせが、有効なことを知見し、これにより本発明は構成されている。
【0005】
主成分としての溶融塩浴としては、弗化物系がよく、LiF−SnF
2系、NaF−SnF
2系、またはKF−SnF
2系とこれらの混合系が良い。
【0006】
NaF−SnF
2系には4つの共晶点があり、最も共晶温度の低いものは、18mol%NaF,82mol%SnF
2(共晶温度191℃)である。これは最もSnF
2側に位置しており、SnF
2の低融点215℃の効果でもある。
【0007】
KF、NaF、LiFの融点は、それぞれ860℃、993℃、848℃であるから、これらの効果はそれほど大きくはない。これらは塩浴の安定剤の効果を発揮しているといえる。ただLiFは最も融点が低いので、共晶温度も低いと考えられる。またNaF−NaBF
4系には、低温度共晶点の存在が認められているので、NaBF
4等のアルカリ金属テトラフルオロ硼酸塩の添加も低融点化に有効とみなされる。
【0008】
よって成分系としては、溶融塩量に対して18mol%NaF、82%mol%SnF
2系を基本とし、LiBF
4、NaBF
4、KBF
4等のアルカリ金属テトラフルオロ硼酸塩の添加等を選定する。成分的にはLiF、NaF、KFの1種以上を80%以下とし、残部はSnF
2とアルカリ金属テトラフルオロ硼酸塩とする。当然のことながら、不可避不純物の存在はありうる。
【0009】
なおSnF
2は酸化により4価になりやすく、SnF
4になった場合には塩浴がコロイド化するので、浴を正極、容器を負極とする通電を行うのである。この場合には、Snの電解精錬回路として還元的に作用することになる。なお浴中正極は炭素系の電極を浴中浸漬し、陰極は容器類に溶接等で接合する。
【0010】
又通電に代えて、浴中のSnF
2のSnF
4化防止用として、浴全量の2/3以下、好ましくは50mol%以下のSn、Zn、Al、Mg、その他浴成分に還元性に働く金属の1種以上を含む低融点金属単体又はその合金を添加し、塩浴を複合化してもよい。その場合溶融塩相と金属相との運転温度域での密度差を少なくし、かつSnF
4生成防止効果が出るように、低融点金属相成分組成を調整する。
【0011】
さらにこれらSn、Zn、Al、Mgその他の浴成分還元性金属の単体又は合金の皮膜を予め容器内面に形成しておくことも、SnF
4生成防止の効果がある。
【0012】
又溶融金属腐食防止の点から、特願2015−119765の先願と同様に浴を正極、容器を負極とする通電を行えば、同様に陰極防食的通電となり、これら金属によるはんだ脆性型腐食を心配しなくてもよく、かつSnF
4生成防止の効果がある事になる。すなわち溶融塩還元も金属浴による腐食防止も同時に行う事になるのである。
【0013】
ここで浴の正電位と容器類の負電位差を検出し、その電圧変動により、付加電圧を適正電圧に自動制御すれば、運転中の成分変動を抑止し定常状態に保つことが可能で、浴の成分安定化ができる。
【0014】
よってこれらSnF
2成分系の使用、還元性金属の添加、通電防食の適用の3法を複合適用する場合も、本発明の範囲である。
【0015】
さらには1次冷却系では、運転温度が高く、SnF
2の分解がおこるとみられるが、SnF
2の含有量を少なくするとか、金属浴と溶融塩浴の混合型冷却材とすれば、本法の効果はありうると考える。よって1次冷却系でも、金属浴、塩浴混合型冷却液での通電法による成分安定化をはかる場合も本発明に含むものである。
【0016】
なおここでは4価Snとして、SnF
4としたが、フルオロ錯体中に組み込まれておる場合もある。
【0017】
また溶融塩型冷却剤のみの場合にも、高温ではイオン化解離現象のため電導性が現れてくるが、冷却系での放電腐食の悪影響を取り除くためにも、本通電法の効果が有効であろう。
【産業上の利用可能性】
原子力発電構造におけるNaの使用を代え、Na使用上の問題が解決される。また溶融塩型冷却系の問題を電気的処理により除去できるので、安全な原子力発電システムの実用化に貢献する。