【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による方法の有利な実施形態は、各従属項の主題である。
【0008】
本発明によれば、複数の所定の線に沿って対象試料を結合可能となるように平面導波路の外表面を用意する方法が提供される。この方法は、次のステップを有する。
【0009】
リンカー分子の頭部基を付着させるよう構成された外表面を有する平面導波路を準備する。
【0010】
その後、少なくとも1組の複数のリンカー分子を前記外表面に順次接触させる。前記少なくとも1組のリンカー分子は各組ごとに集合してリンカー分子の個別レイヤーを形成し、複数の個別レイヤーが、前記平面導波路の外表面上に一層また一層と積層される。各リンカー分子は、少なくとも一つの官能基と、前記平面導波路の外表面または一層手前のレイヤーのリンカー分子の官能基に共有結合の形成を通じて付着可能もしくは静電相互作用を通じて吸収された頭部基とを有する。最上層レイヤーの複数のリンカー分子の官能基は、光解離性保護基に付着し、当該光解離性保護基により保護されている各官能基が他の分子の相補的官能基に付着不能となっている。
【0011】
そして、複数の所定の線に沿って配置された最上層レイヤーの光解離性保護基を所定の波長の光に露光して、当該露光された光解離性保護基を前記官能基から除去し、他の分子の相補的官能基を付着可能にする。
【0012】
その結果、露光された光解離性保護基を官能基から除去することで、他の分子の相補的官能基を付着可能なこれら官能基の幾何学的位置を規定する。官能基の位置は、複数の線となるよう選択される。導入部で説明したように、これら複数の線上の対象試料で散乱させられるコヒーレント光は所定の検出位置において強めあうように干渉する。技術的には、隣接する線の間の間隔が徐々に狭まるような複数の所定の曲線上に配置されるのが好ましい。隣接する線の間の間隔が徐々に狭まるような複数の所定の曲線上に配置することで、回折光を所定の検出位置に焦点を合わせ集束させることができる。複数の所定の曲線の配置は、一連の複数の所定の線の組を、1組がそれぞれ他の組の上になるよう繰り返し配置して(たとえば、手前の組の複数の所定の線に対して各後続の複数の組の所定の線をわずかに回転させることによって)別の焦点を提供するような配置を含む。一連の複数の所定の線の組はそれぞれが異なる化学的、生物学的、または薬学的な特徴を有するものとすることができる。また別の配置としては、平面導波路の平面内で光を回折させ、回折した光がその平面導波路内で所定の方向に干渉するように複数の直線を配置するのも好ましい。複数の所定の線に沿って配置された光解離性保護基の露光は、完全に(理想的にはすべての光解離性保護基が除去される)あるいは部分的に(所定割合、たとえば、10%、20%、の光解離性保護基が除去される)、さまざまなフォトリソグラフィー法(たとえば、接触モードあるいは遠隔場フォトリソグラフィー)で実行が可能であるが、フォトリソグラフィックマスクが導波路に接触せず、マスクと導波路の外表面との間に小さな隙間を形成する近接場フォトリソグラフィーにより実行するのが好ましい(それぞれ、導波路の外表面に付着したリンカー分子上の光解離性保護基の露光中は、液体で満たすことができるリンカー分子の露光された光解離性保護基)。フォトリソグラフィー法における露光は、フォトリソグラフィーで製造したツール、たとえば、John A. Rogers et al. による『エラストマー位相マスクによる近接場モードフォトフォトリソグラフィーを用いた約90ナノメートルの特徴を生成する(Generating ~90 nanometer features using near-field contact-mode photophoto-lithography with an elastomeric phase mask)』(J. Vac. Sci. Technol. B 16(1), Jan/Feb 1998, page 59 et seq.)で詳細に記載されているような、近接場接触モードフォトフォトリソグラフィー用のエラストマー位相マスクのようなツールを使用することを含む。
【0013】
少なくとも1組の複数のリンカー分子を順次接触させるやり方として、好ましい例が2つあり、以下に説明する。一つの例は、1組の複数のリンカー分子を平面導波路の外表面に、直接接触させる。すると、それらが集まって一層の個別レイヤーとなる。もう一つの例は、第1の組の複数のリンカー分子を外表面に接触させ、続けて第2の組の複数のリンカー分子を接触させる。すると、それらが集まって、個別レイヤーが2層だけ積層される。それぞれの例において、リンカー分子の最上層レイヤーに集成されたリンカー分子の官能基は、光解離性保護基に結合する。これは、最上層の複数のリンカー分子を接触させる前または後において実現することができる。最上層レイヤーには、換言すれば、最外層レイヤーには、フォトリソグラフィックマスクを配置することができるので、その最上層レイヤーに対して、直接、そのマスクを介してのフォトリソグラフィーによる露光が可能である。
【0014】
本願の趣旨の範囲内における「分子(molecules)」は、広範な意味を含むが、基本的には、化学結合により結合している2個以上の原子のつながりである。原子の種類と数に限定はなく、分子(molecules)という用語は、2個以上の分子の組成物を明示的に含んでいる。分子(molecule)という用語は、分子間および分子内の結合における特定の種類にも、特定の化学的、薬学的、または物理的特徴にも限定されない。特に、高分子および分子集合体は、明示的にその用語の中に含まれている(たとえば、ポリマー、オリゴヌクレオチド、核酸、タンパク質、リポソーム、および、ペプチド)。基本的に、分子という用語は、任意の合成または天然の安定した多原子のつながりを表している。
【0015】
なお、本発明の範囲内で、化学結合は、当技術分野の専門家に知られた、イオン相互作用、疎水性相互作用、錯生成、水素結合、フルオラス相形成などのような分子相互作用の任意の他の安定的な固有の集合体により置き換えることができる。
【0016】
本願の趣旨の範囲内における「官能基(functional groups)」とは、部分(分子の部分:sections of molecules)および分子(生体分子を含む:molecules including biomolecules)であり、特定の部分もしくは分子が、特に、他の分子の相補的官能基が、結合可能なものである。たとえば、リンカー分子は、少なくとも一つの官能基を有する。官能基の例としては、通常の官能基、たとえば、アミノ−、カルボン酸−、カルボン酸エステル、チオエステル、ヒドロキシル−、メルカプト−、ボロン酸−、アルキン−、アジド−、シクロオクチン−、マレインイミド−、ヨードアセチル−、アルデヒド−、ケト−、ヒドロキシルアミノ−、シアノ−、エポキシ−、スルホン酸といった基が挙げられる。他の例に、ビシナルジオール、芳香族オルトジアルデヒドまたはα−メルカプトアミノアルカン(たとえば、N末端システイン)のようなビスファンクショナル基、および、ニトリロ三酢酸(NTA)またはポリヒスチジンを形成するNi
2+をもつ安定的な錯体、単鎖DNA、ストレプトアビジン、ビオチン、受容体またはその配位子などの有機またはペプチド金属キレート吸着剤がある。官能基のさらに別の例としては、「タグ(tags)」があり、タグと相補的「タグ」との間で共有結合を形成する酵素がこれを認識する。たとえば、Snapタグ、Clipタグ、Sortaseタグが例として挙げられる。
【0017】
複数のリンカー分子の多くの官能基と他の分子の相補的官能基の多重相互作用も含まれる。他重相互作用は、共有結合性および非共有結合性であり得るが、疎水性相互作用も含む。すなわち、官能基という用語は、他の分子の疎水性の要素(hydrophobic entities)と相互作用することができる疎水性部分(hydrophobic moieties)をも含むものであることが含意されている。
【0018】
したがって、官能基および相補的官能基の、他の分子の固定化をもたらすあらゆる種類の相互作用が含まれる。
【0019】
「相補的官能基を有する他の分子(further molecule having a complementary functional group)」とは、本願の趣旨の範囲内においては、捕獲分子、修飾された捕獲分子、またはリンカー分子であって接触させる他の組の複数のリンカー分子の頭部基を有するものである。相補的官能基は、リンカー分子の官能基と反応もしくは相互作用することができる。
【0020】
本願の趣旨の範囲内において「相補的官能基(complementary functional group)」とは、部分(分子の一部)、分子、または生体分子であって、特定の部分または分子が結合可能なものである。たとえば、他の分子の相補的官能基は、リンカー分子の頭部基、および、手前のレイヤーのリンカー分子の官能基に結合可能な捕獲分子の一部である。たとえば、相補的単鎖DNAは、オルトゴナル結合化学反応を起こすために水素結合による二重螺旋を形成することができる。他に、タンパク質配位子相互作用を利用することによって安定的な非共有結合を形成するという選択肢もある。相補的官能基の例としては、通常の官能基、たとえば、NH
2−、COOH−、OH−、SH−、スルホン酸や、ニトリロ三酢酸(NTA)またはポリヒスチジンを形成するNi
2+をもつ安定的な錯体、単鎖DNA、ストレプトアビジン、ビオチン、受容体またはその配位子などの有機またはペプチド金属キレート吸着剤が挙げられる。一般に、相補的官能基は、前記した官能基の例が相補的官能基にも適用できるよう、その官能基と同じ種類のものとすることができる。
【0021】
「捕獲分子(capture molecules)」とは、任意の種類の、薬学的、生物学的、または化学的な分子であって、対象試料が結合イベントの検出のため結合可能な対象である。たとえば、生物学的受容体、タンパク質、リポソーム、ナノリアクター等である。一般に、「対象試料(target sample)」とは、結合イベントの検出のために捕獲分子に結合可能な試料中の対象分子である。
【0022】
本願の趣旨の範囲内において「結合(binding)」または「結合イベント(binding event)」には、任意の種類の分子認識、および任意の種類の捕獲分子またはその結合サイトと任意の種類の対象試料との間の任意の種類の分子相互作用が含まれる。これには、2以上の結合相手の実際の結合、および、生体分子相互作用の相手(チャンネルタンパク質を有するタールリポ)の集積が含まれる。
【0023】
「付着(attach)」という用語は、結合と似た使われ方をする語であり、一般に、1個の分子(たとえば、リンカー分子の頭部基または捕獲分子)を、共有結合の形成を通じて、もしくは、ファン・デル・ワールス力による化学吸着作用ないし物理吸着作用、または静電相互作用またはイオン相互作用または水素結合またはフルオラス相形成を通じて、平面導波路の外表面に、または、リンカー分子の官能基に、付着させる場合のような、各種の化学的もしくは物理的な付着(または結合coupling)に関する。一般に、一方の結合相手が他方の結合相手に結合するような各種の化学的な付着が含まれる。これは、化学的な相手方のペアを、それぞれ付着した各分子のそれぞれの結合能力について前提条件をつけることなく、互いに、付着させるものと理解されるべきである。たとえば、官能基を捕獲分子に付着させることは、捕獲分子を官能基に付着させること、あるいは、双方互いに付着させあうこと、と等しい。
【0024】
準備される平面導波路は、リンカー分子の頭部基を付着させることができる材料からなる。本発明に好適な導波路材料は、導波特性を備える滑らかな光学膜の作成に薄膜蒸着技術が利用可能な、Ta
2O
5、TiO
2、Nb
2O
5またはSi
3N
4などの屈折率の高い材料である。光回折格子カプラーを形成したガラスおよびポリマー基板上の高屈折率導波路の、効率的な製造方法が、Fattinger et al.による『二回折格子カプラー:光学界面分析のための汎用トランスデューサ―(Bidiffractive grating coupler: Universal transducer for optical interface analytics)』(OPTICAL ENGINEERING, Vol.34 No. 9, page 2744-2753, September 1995)に詳述されている。平面導波路は、高屈折率のレイヤーを少なくとも一層含む複数のレイヤーを有するものとすることができる。準備される平面導波路は、該平面導波路の上面を形成する外表面上の媒質に対して高い屈折率を有する。たとえば、平面導波路の表面における媒質の屈折率が通常1〜1.5、特に、水や水性分析物に対して1.33〜1.4、空気に対して1の範囲なのに対して、平面導波路の屈折率は、1.7〜2.8の範囲とすることができる。コヒーレント光は、平面導波路の外表面でエバネッセント場をともなって伝播するように光カプラーを通って平面導波路内に結合される。外表面から外部に浸透するエバネッセント場は、導波路の外表面における複数の所定の線に沿って結合された対象試料で回折される。導波路膜の厚みは、60〜20nmの範囲が選好される。導波路の外表面におけるエバネッセント場の媒質への浸透深度は、150nm未満が選好される。
【0025】
前記方法の第1の場合として、上述した、少なくとも1組の複数のリンカー分子を順次接触させるステップは、複数のリンカー分子を2組だけ接触させることからなる場合がある。この2組の複数のリンカー分子は、集まって、平面導波路の外表面上にリンカー分子の2層の別個のレイヤーを積層形成する。
【0026】
この第1の場合の一態様によれば、前記方法は、さらに次のステップを有する。捕獲分子の相補的官能基を前記複数の所定の線に沿って配置された官能基に付着させる。各捕獲分子は対象試料を結合可能である。そして、複数の所定の線の間に配置された光解離性保護基を、所定の波長の光で露光して、当該露光された光解離性保護基を前記官能基から除去し、これらの官能基が前記他の分子の相補的官能基を付着させることができるようにする。その後、前記複数の所定の線の間に配置された前記官能基に、修飾された捕獲分子の相補的官能基を付着させる。各修飾された捕獲分子は、最初の捕獲分子が結合することができる対象試料に、結合することができないものが選択される。
【0027】
前記複数の所定の線の間に配置された光解離性保護基の露光(2回目の露光)は、陰となる領域をつくらないように、残りの光解離性保護基が配置されているレイヤー全体に対して実行される。事実、前記複数の所定の線の間に配置された光解離性保護基は、前記複数の所定の線に沿って配置された光解離性保護基のフォトリソグラフィーによる最初の露光後に残っている光解離性保護基だけである。修飾された捕獲分子は、捕獲分子と比較して、コヒーレント光を同じように散乱させる分子である。捕獲分子および修飾された捕獲分子から散乱させられる光は、振幅と光路長差が一致しているので、所定の検出位置において弱めあうように干渉するという点で有利である。したがって、この所定の検出位置における最小信号が、光解離性保護基が除去される官能基の量に相関するそれぞれの露光時間を変更することによって、調整可能である。対象試料を接触させた後の検出位置における信号の変化が主として捕獲分子に結合している対象試料によるものである限りにおいて、最小信号は有利である。そのことで、検出位置における信号に対する対象試料の貢献が、対象試料のない捕獲分子からの信号に比べて、すなわち捕獲分子のみで散乱させられる光と比べて、大きくなる。捕獲分子または修飾された捕獲分子は、浸漬や液浸(immersion, dipping)またはスポッティング(spotting)または印刷(printing)あるいは流体装置(fluidic apparatus)の利用等によって、導波路の外表面に接触させる。
【0028】
前記方法の第2の場合として、上述した、少なくとも1組の複数のリンカー分子を順次接触させるステップは、複数のリンカー分子を1組だけ接触させることからなる場合がある。
【0029】
この第2の場合の一態様によれば、前記方法は、相補的官能基を有する前記他の分子としての(好ましくは、官能基を介して、部分的にもしくは全部が捕獲分子にすでに結合している)他の組の複数のリンカー分子の頭部基を、前記複数の所定の線に沿って配置された(脱保護された官能基をもつ)手前のレイヤーのリンカー分子の官能基に付着させるステップをさらに有する。当該他の組の複数のリンカー分子に属するリンカー分子の官能基は、光解離性保護基に結合していない(この場合において、前記他の組の複数のリンカー分子に属するリンカーリンカー分子は実際に光解離性保護基に結合したことはない)ので、他の分子の相補的官能基を付着させることが可能である。前記他の組の複数のリンカー分子のリンカー分子は、柔軟性、親水性、最小非特異的結合、および、平面導波路の外表面上に捕獲分子を固定するための最適な長さなどにおいて、異なる特徴を提供するため、手前のレイヤーのリンカー分子とは異なっている。このステップの後、前記他の組の複数のリンカー分子に属するリンカー分子および当該他の組の複数のリンカー分子に結合した捕獲分子は、複数の所定の線に沿った位置にのみ配置される。
【0030】
前記第2の場合の別の態様によれば、前記方法は、さらに次のステップを有する。前記複数の所定の線に沿って配置された前記他の組の複数のリンカー分子に属するリンカー分子の官能基に、捕獲分子の相補的官能基を付着させる。(これは、捕獲分子と共にリンカー分子を接触させることにより達成できる。)そして、前記複数の所定の線の間に配置されたこれら光解離性保護基を所定の波長の光で露光して、当該露光された光解離性保護基を官能基から除去し、これらの官能基が他の分子の相補的官能基を付着できるようにする。その後、さらに他の組の複数のリンカー分子の相補的官能基(頭部基)を前記複数の所定の線の間に配置されている手前のレイヤーのリンカー分子の官能基に付着させる。前記他の複数のリンカー分子に属するリンカー分子の官能基は、光解離性保護基には結合していない −実際に結合したことがない− のであり、他の分子の相補的官能基を付着することができる。その後、前記複数の所定の線の間に配置された前記他の複数のリンカー分子に属するリンカー分子の官能基に、相補的官能基を有する他の分子として、さらに他の複数の修飾された捕獲分子の相補的官能基を付着させる。
【0031】
この第2の場合には、第1の場合と同様の利点が得られるが、特に、所定の検出位置における捕獲分子及び修飾された捕獲分子から散乱させられる光が弱めあうように干渉するという点において有利である。前記他の複数のリンカー分子の接触が捕獲分子または前記修飾された捕獲分子の接触とともに行われる場合に有利である。このことは、捕獲分子および修飾された捕獲分子を前記他のリンカー分子により部分的に囲まれた状態で接触させることができるという利点をもたらす。このように、リンカー分子は、ゆるくまとまったマトリックス(たとえば、デキストランやポリ(エチレングリコール)(PEG)のようなポリマー)に捕獲分子を埋め込んで提供することができる。これらの利点は、以下、詳細に説明する。
【0032】
本発明の一態様によれば、複数の所定の線に沿って配置されている光解離性保護基を露光するステップが、第1の露光時間の間、実行されて、前記複数の所定の線の間に配置された光解離性保護基を露光するステップが、第2の露光時間の間、実行される。第1の露光時間は、第2の露光時間と比較すると、異なっている。一般に、露光時間は、複数のリンカー分子の官能基から除去される光解離性保護基の量に関連づけられている。これが、捕獲分子などの他の分子の相補的官能基を付着させることができる官能基の総数を決定する。官能基に結合されている捕獲分子の数は、検出位置に向かって散乱される光の信号を決定する。したがって、第1の露光時間および第2の露光時間は、複数の所定の線に沿って配置された捕獲分子で散乱される光の、複数の所定の線の間に配置された捕獲分子と比べたときの相対的な貢献度を決定する。両者の貢献は弱めあうように干渉するので、これら2種類の露光時間を独立に変更することによって、検出される信号を調整し最小化することができる。
【0033】
最大露光時間は、所定の線の間隔の半分より狭い幅の線に沿って光解離性保護基を分離するため1〜10ジュール/cm
2となるよう選択される最大露光エネルギー線量に対応する。好ましくは、第1の露光線量および第2の露光線量を2ジュール/cm
2未満とすることで、約390nm波長の標準的なLED光源使用時で60秒未満、より好ましくは1〜10秒、の露光時間となる。この露光線量は、高収率で副反応を最小化させた過渡的な生体共役反応合成のためのジアリールスルフィド −NPPOC骨格を備える光開裂可能なリンカー分子としての官能基から光解離性保護基を除去するのに適していることが確認されている。
【0034】
さらに他の例として、D. Woll, S. Walbert, K.-P. Stengele, T. Albert, T. Richmond, J. Norton, M. Singer, R. Green, W. Pfleiderer, U.E. Steinerによる『溶液中およびマイクロアレイチップ上のオリゴヌクレオチドのトリプレット増感光脱保護(Triplet-sensitized photodeprotection of oligonucleotides in solution and on microarray chips)』(Helv. Chim. Acta 2004, 87(1), 28-45)に記載されているような光脱保護の増感が、照射時のトリプレット−トリプレットFRETエネルギー伝達による所望の波長での光脱保護ステップを達成するために有用かもしれない。
【0035】
有利な態様において、複数の所定の線に沿って配置された光解離性保護基を露光するステップは、以下のステップを含む。前記光解離性保護基を担持する平面導波路の外表面に近接させて位相マスクを配置する。位相マスクは、第1屈折率n
1を有する材料からなる複数の突起をもち、第1屈折率n
1は、該位相マスクと平面導波路の外表面との間に存在する媒質の第2屈折率n
2とは異なっている(それぞれ、リンカー分子の最外層レイヤー)。前記所定の波長の光を、前記複数の所定の線に沿って配置された光解離性保護基を露光するための位相マスクを通過させる。
【0036】
そのような位相マスクは、ガラス基板と、好ましくはTa
2O
5,TiO
2,Nb
2O
5,Si
3N
4などの適切な高屈折率の物質からなる、複数の突起を含む。位相マスクは、たとえば、バイナリー型回折位相マスクである。その突起はそれぞれ、所定の深さおよび(隣接する突起との間の)所定の間隔を有し、位相マスクの突起を通って伝播する光は、位相マスクの突起の間の液状媒質を通って伝播する光に対して、π(すなわち波長の半分)の位相のずれが生ずるようになっている。位相マスクを通って伝播する光の界面は、突起の縁に沿って光の強度が最小となる干渉パターンを形成する。したがって、位相マスク背後の干渉パターンは、位相マスクにおける突起の位置に係る周期性に対し、二倍周期の明暗パターンとなる。突起の幅および形状は、位相マスクに沿って変化していてもよい。フォトリソグラフィー露光は、Suleski, et al.による、『コンピューター生成近接場ホログラフィーによる高空間周波数回折格子の作成(Fabrication of high-spatial-frequency gratings through computer-generated near-field holography)』(Optics Letters, vol. 24, No. 9, pp. 602-604, May 1, 1999)に詳細に記載されているようなホログラフィー法を含む。複数の所定の線を生成(もしくは配置)するために近接場ホログラフィーなどのホログラフィー法を使用することができるので、対象試料が結合可能で複数の所定の線に沿って配置される結合サイトを示す「モログラム(mologramm)」という用語を新たに考案した。一例として、複数の所定の線をモログラムA(Mologram A)と呼ぶことができ、複数の所定の線の線間に(in-between the lines of the plurality of predetermined lines)配置された線をモログラムB(Mologram B)と呼ぶことができる。有用な用途において、検出器に入射する光は、モログラムAで回折させた光が、モログラムBで回折した光に対し位相π(波長の半分)ずれている。さらに、Pasi Laakkonen et al.による『ブラッグ回折格子の近接プリンティング用のコーティングされた位相マスク(Coated phase mask for proximity printing of Bragg gratings)』(Optics Communications 192 (2001) 153-159, ELSEVIER)に詳述されているように、干渉パターンの質を高めるため位相マスクをコーティングすることもできる。光解離性保護基の露光を位相マスクに通すのに用いられる光は、たとえば、390nm波長である。官能基から除去する光解離性保護基によっては、他の波長を用いることが必要であるかもしれない。露光は、いずれにせよ、直接光化学付着(たとえば、ベンゾフェノン−またはアリールアジド−またはジアジリン−媒介光ラジカル挿入反応またはチオキサントンのようなラジカル開始剤による増感を利用したもの)に適したものとすることができると考えられる。原則的に、突起の寸法は、その波長に応じて選択されなければならない。
【0037】
頭部基が導波路の外表面に付着する複数のリンカー分子は、集まって、外表面から外側に0.5nm〜10nmの厚みをもつ個別のレイヤーを形成するのが好ましい。第1層のレイヤーのリンカー分子の平均密度は、導波路の外表面にさらに接触しようとする分子が接触しないように選択される。このことは、導波路の外表面に接触させる試料における捕獲分子および他の分子の非特異的結合を防ぐためには重要である。
【0038】
リンカー分子の第1層のレイヤーは、直接、平面導波路の外表面に付着する。第1層のレイヤーは、密度が高く高さが低いと有利である。理想的には、第1層のレイヤーは、他の分子が外表面に接触することができないように、外表面を覆う。
【0039】
有利な態様として、頭部基が導波路の外表面に付着する複数のリンカー分子は、集まって、リンカー分子の単分子層を形成する。第1層のレイヤーが外表面に整然と配置され、導波路の外表面のリンカー分子で散乱する光の非常に小さく平坦なバックグラウンドを提供するとき、検出位置における回折光の信号の質は向上する。第1層のレイヤーを形成する複数のリンカー分子としては、自己組織化単分子層(self-assembled monolayer:SAM)が選好される。SAMは、フォトリソグラフィー処理が行えるよう、光解離性保護基を担持していてもよい。
【0040】
一実施形態において、SAMは、10〜100%のアミノ基を官能基としてもつアルカン混合物からなるものであってもよく、これを、本発明による光変調に適した望ましいSAMを生成するために、SAMの形成前またはSAMの形成後に光保護基により修飾してもよい。
【0041】
他の実施形態において、SAMは、10〜100%のカルボキシル基を官能基としてもつアルカン混合物からなるものであってもよく、これを、本発明による光変調に適した望ましいSAMを生成するために、SAMの形成前またはSAMの形成後に光保護基により修飾してもよい。
【0042】
本発明の他の態様において、頭部基が手前のレイヤーのリンカー分子の官能基に付着する複数のリンカー分子は、集まって、厚みが10nm〜200nmの最上層の個別のレイヤーを形成する。面積当たりのリンカー分子の局所平均密度は、捕獲分子がそこを通って散乱するように、または、捕獲分子が部分的にその中に囲まれるように、低い値が選択される。最上層のレイヤーは、第1層のレイヤーの分子に比べて長いリンカー分子を含むとよい。最上層のレイヤーは、対象試料の中の分子がそこを通って横に散乱することができるよう空間密度が低いものでなければならない。これらのリンカー分子は、形状を適合させることができるようフレキシブルなものとすることができる。これらのリンカー分子は、有利な例としては、ゆるくまとまったマトリックス(デキストラン、カルボキシメチル化したデキストラン、カルボキシメチル化したヒアルロン酸、ヒアルロン酸、アルギン酸などの多糖類や、ポリ乳酸、ポリアクリル酸、あるいは、たとえばD. Kyprianu et alのTalanta 103. 2013, 260-266所収論文に記載されているような親水性3Dアクリレート重合体、またはポリ(エチレングリコール)(PEG)、または一本鎖DNAオリゴヌクレオチドなどのポリマー)からなる。
【0043】
ポリマーは、さらに修飾して、骨格を修飾したポリマー網目組織を生成することができるが、そこでの骨格修飾は、イオン基、脂質、ペプチド、オリゴヌクレオチド等からなるものとすることができる。
【0044】
方法の他の態様において、複数の所定の線は、平面導波路の外表面における少なくとも2つの離れた回折スポットに配置されている。各回折スポットは、面積が25(μm)
2((μm)
2=μm
2)よりも大きい。複数の所定の線は、隣接する線間の距離が1.5μm未満、特に1μm未満である。これによって、回折スポットで散乱した光を検出するための回折スポットとして、検出に適した強度の信号を提供する最小サイズの回折スポットが提供される。複数の所定の線は、隣接する線間の最大距離が回折スポットで回折する光によって決まる。好ましくは、可視光を用いる。この距離は、隣接する線間の距離が平面導波路を通って伝播する光の波長の倍数となる所定波長のハーモニックスを含む。
【0045】
本発明は、さらに、前記方法により用意された外表面を有する平面導波路を提供する。複数の所定の線が、外表面の少なくとも2つの離れた回折スポットに配置される。各回折スポットは、面積が25μm
2よりも大きい。複数の所定の線は、隣接する線間の距離が1.5μm未満、特に1μm未満である。好ましくは、平面導波路は、複数の回折スポット、すなわち、1平方センチメートル当たり、100個、10000個、100000個、・・・、最大で4×10
6個の回折スポットを備えている。方法に対して説明した優位点は、この平面導波路にも同様に備わっている。
【0046】
一態様によれば、各複数の所定の線は、曲線であり、隣接する線の間の距離が、光カプラーで平面導波路に結合される光の伝播方向に向かって徐々に狭くなるように配置されている。隣接する線間の距離が狭くなるように曲線を配置することで、対象試料で散乱した光が所定の検出位置に集束(そして干渉)する(位相格子レンズに相当する)。代替的配置によれば、複数の所定の線は、直線であり、導波路に結合される光の伝播方向に対して角度をつけて配置されている。このように、複数の所定の線を光の伝播方向に対して角度をつけて配置する代替的配置は、所定方向の強めあう干渉の要件を満たす(ブラッグ回折に相当する)。複数の所定の線は、光を、平面導波路の平面内で回折させる。平面導波路内で回折した光は、他の光カプラー(位相格子レンズ)を通って平面導波路外部の検出位置に結合される。
【0047】
本発明のさらなる態様によれば、キットが、前記のような平面導波路と、該平面導波路の外表面を用意するための位相マスクとを提供する。位相マスクは、本明細書に記載しているようなリソグラフィー法の実行を可能にする。このようなキットは、さらに、前述のような方法により平面導波路の外表面を用意するために適した化学的、薬学的および/または生物学的試薬を含む。この試薬は、キットごとに異なったものであってよい。
【0048】
本発明のさらなる有利な態様は、以下の、添付の概略図面を参照しての本発明の実施形態の説明から明らかになる。