特許第6358476号(P6358476)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6358476複数の所定の線に沿って対象試料を結合可能となるように平面導波路の外表面を用意する方法および平面導波路
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358476
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】複数の所定の線に沿って対象試料を結合可能となるように平面導波路の外表面を用意する方法および平面導波路
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20180709BHJP
   G02B 6/13 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   G01N33/543 525G
   G01N33/543 525E
   G01N33/543 525W
   G01N33/543 525U
   G02B6/13
【請求項の数】15
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-553094(P2015-553094)
(86)(22)【出願日】2014年1月17日
(65)【公表番号】特表2016-505140(P2016-505140A)
(43)【公表日】2016年2月18日
(86)【国際出願番号】EP2014050902
(87)【国際公開番号】WO2014111521
(87)【国際公開日】20140724
【審査請求日】2017年1月16日
(31)【優先権主張番号】13151646.0
(32)【優先日】2013年1月17日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512115852
【氏名又は名称】エフ.ホフマン−ラ ロッシュ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001346
【氏名又は名称】特許業務法人 松原・村木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファッティンガー、クリストフ
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2006/0057729(US,A1)
【文献】 特表2005−520163(JP,A)
【文献】 特表平06−504997(JP,A)
【文献】 特開2007−298523(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0032043(US,A1)
【文献】 特開2012−168165(JP,A)
【文献】 特開2007−040974(JP,A)
【文献】 特開2010−066134(JP,A)
【文献】 特表2010−537168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象試料を複数の所定の線(4)に沿って結合可能となるように、平面導波路(1)の外表面(11)を用意する方法であって、
前記複数の所定の線(4)は、使用時、前記平面導波路(1)内に結合されて当該平面導波路(1)を通って伝播するコヒーレント光のエバネッセント場が、前記複数の所定の線(4)に沿って配置された対象試料で散乱し、前記平面導波路を通って伝播するコヒーレント光の波長の整数倍の光路長差となる所定の検出位置において強めあう干渉をするように配置され、または、
前記複数の所定の線(4)は、使用時、前記平面導波路(1)内に結合されて当該平面導波路(1)を通って伝播するコヒーレント光のエバネッセント場が、前記複数の所定の線(4)に沿って配置された対象試料で散乱し、前記平面導波路(1)内の所定の方向で干渉するように配置され、
前記方法は、
− リンカー分子(2)を付着させることが可能な前記外表面(11)を有する平面導波路(1)を準備するステップと、
− 少なくとも1組の複数のリンカー分子(2,5;2)を前記外表面(11)に順次接触させるステップであって、当該少なくとも1組の複数のリンカー分子(2,5;2)は各組ごとに集合してリンカー分子(2,5;2)の個別レイヤーを形成し、複数の個別レイヤーが、前記平面導波路(1)の前記外表面(11)上に一層ずつ積層され、各リンカー分子(2,5;2)は官能基(22,52;22)および頭部基(21,51;21)を有し、前記頭部基(21,51;21)は、前記平面導波路(1)の前記外表面(11)または一層手前のレイヤーのリンカー分子(2)の官能基(22)に付着可能で、最上層レイヤーのリンカー分子(5;2)の官能基(52;22)は光解離性保護基(3)に結合して、当該光解離性保護基(3)に結合した最上層レイヤーの各官能基(52;22)が他の分子の相補的官能基を付着不能である、ステップと、
前記複数の所定の線(4)に沿って配置された最上層レイヤーの光解離性保護基(3)を所定の波長の光で露光して、当該露光された光解離性保護基(3)を前記官能基(52;22)から除去し、他の分子の相補的官能基を付着可能にするステップと
を有する方法。
【請求項2】
前記少なくとも1組の複数のリンカー分子(2,5)を順次接触させるステップは、複数のリンカー分子(2,5)2組のみを接触させることからなり、当該2組のリンカー分子(2,5)は、集まって、前記平面導波路(1)の前記外表面(11)上に、リンカー分子(2,5)の2層の別個のレイヤーを積層形成することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
− 対象試料(8)を結合可能な捕獲分子(6)の相補的官能基を、複数の所定の線(4)に沿って配置されたリンカー分子の最上層の官能基(52)に付着させるステップと、
− 前記複数の所定の線(4)の間に配置された光解離性保護基(3)を、前記所定の波長の光で露光して、当該露光された光解離性保護基(3)を前記官能基(52)から除去し、それらの官能基(52)が前記他の分子の相補的官能基を付着させることができるようにするステップと、
− 前記捕獲分子(6)が結合することができる対象試料(8)には結合することができない修飾された捕獲分子(7)の相補的官能基を、前記複数の所定の線(4)の間に配置された前記官能基(52)に付着させるステップと
をさらに有する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1組の複数のリンカー分子(2)を順次接触させるステップは、複数のリンカー分子(2)を1組のみ接触させることからなることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
他の組の複数のリンカー分子の頭部基を、前記複数の所定の線(4)に沿って配置された前記一層手前のレイヤーのリンカー分子(2)の官能基(22)に付着させるステップを有し、当該他の組の複数のリンカー分子(5)に属するリンカー分子(5)の官能基(52)は、光解離性保護基(3)と結合していないので、他の分子の相補的官能基を付着させることが可能であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
− 捕獲分子(6)の相補的官能基を、前記複数の所定の線(4)に沿って配置された前記他の組の複数のリンカー分子(5)に属するリンカー分子(5)の官能基(52)に付着させるステップと、
− 前記複数の所定の線(4)の間に配置された光解離性保護基(3)を、所定の波長の光で露光して、当該露光した光解離性保護基(3)を前記官能基(22)から除去し、当該官能基(22)を他の分子の相補的官能基を付着させるようにするステップと、
− さらに他の組の複数のリンカー分子(5)の相補的官能基を、前記複数の所定の線(4)の間に配置されている前記一層手前のレイヤーのリンカー分子(2)の官能基(22)に付着させるステップであって、前記さらに他の組の複数のリンカー分子(5)に属するリンカー分子(5)の官能基(52)は、光解離性保護基(3)とは結合していないので、他の分子の相補的官能基を付着可能である、ステップと、
− 修飾された捕獲分子(7)の相補的官能基を、前記複数の所定の線(4)の間に配置された前記さらに他の組の複数のリンカー分子(5)に属するリンカー分子(5)の官能基(52)に付着させるステップと
を有することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の所定の線(4)に沿って配置された光解離性保護基(3)を露光するステップが第1の照射線量で実行され、前記複数の所定の線(4)の間に配置された光解離性保護基(3)を露光するステップが第2の照射線量で実行され、前記第1の照射線量は前記第2の照射線量とは異なることを特徴とする請求項3から請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の照射線量と前記第2の照射線量が10ジュール/cm未満であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記複数の所定の線(4)に沿って配置された光解離性保護基(3)を露光するステップは、
− 第1屈折率nを有する複数の突出部(91)を有する位相マスク(9)を前記光解離性保護基(3)に近接させて配置し、前記位相マスク(9)と前記平面導波路(1)の前記外表面(11)との間に第2屈折率nを有する媒質を配置するステップであって、該第1屈折率nは、前記第2屈折率nとは異なる、ステップと、
− 前記所定の波長の光を、前記複数の所定の線(4)に沿って配置された光解離性保護基(3)を露光するための前記位相マスク(9)を通過させるステップと
を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記頭部基(21)が前記外表面(11)に付着する前記複数のリンカー分子(2)が、集まって、厚みが0.5nmから10nmの個別のレイヤーを形成することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記頭部基(21)が前記外表面(11)に付着する前記複数のリンカー分子(2)が、集まって、リンカー分子(2)の単分子層を形成することを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記頭部基(51)が前記一層手前のレイヤーのリンカー分子(2)の官能基(22)に付着する複数のリンカー分子(5)が、集まって、厚みが10nmから200nmの最上層の個別のレイヤーを形成することを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記複数の所定の線(4)は、前記平面導波路(1)の前記外表面(11)における、それぞれ面積が25μmより大きい少なくとも2つの離れた回折スポット(41)に配置されており、前記複数の所定の線(4)は、隣接する線(4)間の距離が1.5μm未満であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜請求項13のいずれか一項に記載の方法を用いて用意された外表面(11)を備えた平面導波路(1)であって、前記複数の所定の線(4)は、前記外表面(11)における、それぞれ面積が25μmより大きい少なくとも2つの離れた回折スポット(41)に配置されており、複数の所定の線(4)は、隣接する線(4)間の距離が1.5μm未満であることを特徴とする平面導波路(1)。
【請求項15】
前記複数の所定の線(4)が、光カプラーを通って前記平面度波路(1)内に結合される光の伝播方向において、隣接する所定の線(4)間の距離が前記光の伝播方向に向かうにつれて狭くなるように配置され、もしくは前記光の伝播方向に対して角度をつけて配置されていることを特徴とする請求項14に記載の平面導波路(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の所定の線に沿って対象試料を結合可能となるように平面導波路の外表面を用意する方法および平面導波路であって、それぞれ独立クレームに記載されたものに関する。
【背景技術】
【0002】
導波路に関連するものではないので遠い技術分野ではあるが、自然チタンなどの金属面上にナノ構造のパターンを形成する技術が公知である(たとえば、Getachew Tizazu et al., による『干渉計フォトリソグラフィーによる酸化チタン表面上へのアルキルホスホン酸自己組織化単分子層の広域ナノパターン形成(Large area nanopatterning of alkylphosphonate self-assembled monolayers on titanium oxide surfaces by interferometric photo-lithography)』(Nanoscale, 2011, 3, 2511)が、2011年3月にhttp://pubs.rsc.orgにおいて、doi:10.1039/C0NR00994Fにて公開されている)。金属は、一般に、平面導波路の形成には適さない。金属表面の作成は、平面導波路の外表面の作成に資する示唆を提供するものではない。特に、自然チタンは、平面導波路に用いるのに適した材料ではない。
【0003】
本発明の適用分野は、結合事象(イベント)の検出である。公知の装置が、励起すると蛍光を発することが可能なラベルを利用した対象試料の捕獲分子との結合イベントを検出する。たとえば、対象試料をラベリングするラベルとして蛍光タグを使用することができる。励起にあたり、蛍光タグは、特徴的な発光スペクトルを有する蛍光を発光させられる。この特徴的な発光スペクトルを特定のスポットで検出することは、ラベリングされた対象分子が、平面導波路の外表面上の各特定のスポットに存在する特定のタイプの捕獲分子に結合していることを示す。ラベリングされた対象試料を検出するためのセンサーは、論文『Zeptosensのタンパク質マイクロアレイ:低存在度タンパク質分析のための新規な高性能マイクロアレイプラットフォーム(Zeptosens’ protein microarrays: A novel high performance microarray platform for low abundance protein analysis)』(Proteomics 2002, 2, S. 383-393, Wiley-VCH Verlag GmbH, 69451 Weinheim, Germany)に記載されている。
【0004】
結合イベントの光学的検出のための新しい装置が、捕獲分子における対象試料の存在を直接検出することによってラベルを不要にする有益な方法を提供している。この装置は、平面導波路を有し、光カプラーによって光が当該平面導波路の内部に結合され、当該平面導波路の中を通ってコヒーレント光が伝播し、当該コヒーレント光のエバネッセント場が当該平面導波路の外表面に沿って伝播するようになっている。平面導波路の外表面は、複数の所定の線に沿って対象試料を結合可能となるように用意され、エバネッセント場の光を、複数の所定の線に沿って配置された対象試料によって散乱させるようになっている。散乱光は所定の検出位置において強めあうように干渉するので、対象試料からの重ね合わさった散乱光から検出可能な信号が得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この新しい装置は、複数の所定の線に沿って配置された対象試料において散乱させられたコヒーレント光の重ね合せによって高い検出感度を達成しているが、この物理現象を「回折(diffraction)」という。異なる線上の対象試料で散乱させられた光が、所定の検出位置において、平面導波路を通って伝播する光の波長の整数倍の光路長差となるように、複数の所定の線に属する線が配置されているので、散乱させられた光は、強めあうように干渉し、たとえば、所定の検出位置における強度が最大となる。所定の検出位置は、強めあう干渉の要件を満たすために複数の所定の線を基準に配置される。さらに他の諸実施例において、光は、平面導波路内で所定の方向に干渉するように、複数の所定の線で回折する。
【0006】
したがって、複数の所定の線に沿って対象試料を結合可能となるように平面導波路の外表面を用意するための方法を提供することが本発明の一つの目的である。本発明のさらに別の目的は、複数の所定の線に沿って対象試料を結合可能となるように用意された外表面を有する平面導波路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による方法の有利な実施形態は、各従属項の主題である。
【0008】
本発明によれば、複数の所定の線に沿って対象試料を結合可能となるように平面導波路の外表面を用意する方法が提供される。この方法は、次のステップを有する。
【0009】
リンカー分子の頭部基を付着させるよう構成された外表面を有する平面導波路を準備する。
【0010】
その後、少なくとも1組の複数のリンカー分子を前記外表面に順次接触させる。前記少なくとも1組のリンカー分子は各組ごとに集合してリンカー分子の個別レイヤーを形成し、複数の個別レイヤーが、前記平面導波路の外表面上に一層また一層と積層される。各リンカー分子は、少なくとも一つの官能基と、前記平面導波路の外表面または一層手前のレイヤーのリンカー分子の官能基に共有結合の形成を通じて付着可能もしくは静電相互作用を通じて吸収された頭部基とを有する。最上層レイヤーの複数のリンカー分子の官能基は、光解離性保護基に付着し、当該光解離性保護基により保護されている各官能基が他の分子の相補的官能基に付着不能となっている。
【0011】
そして、複数の所定の線に沿って配置された最上層レイヤーの光解離性保護基を所定の波長の光に露光して、当該露光された光解離性保護基を前記官能基から除去し、他の分子の相補的官能基を付着可能にする。
【0012】
その結果、露光された光解離性保護基を官能基から除去することで、他の分子の相補的官能基を付着可能なこれら官能基の幾何学的位置を規定する。官能基の位置は、複数の線となるよう選択される。導入部で説明したように、これら複数の線上の対象試料で散乱させられるコヒーレント光は所定の検出位置において強めあうように干渉する。技術的には、隣接する線の間の間隔が徐々に狭まるような複数の所定の曲線上に配置されるのが好ましい。隣接する線の間の間隔が徐々に狭まるような複数の所定の曲線上に配置することで、回折光を所定の検出位置に焦点を合わせ集束させることができる。複数の所定の曲線の配置は、一連の複数の所定の線の組を、1組がそれぞれ他の組の上になるよう繰り返し配置して(たとえば、手前の組の複数の所定の線に対して各後続の複数の組の所定の線をわずかに回転させることによって)別の焦点を提供するような配置を含む。一連の複数の所定の線の組はそれぞれが異なる化学的、生物学的、または薬学的な特徴を有するものとすることができる。また別の配置としては、平面導波路の平面内で光を回折させ、回折した光がその平面導波路内で所定の方向に干渉するように複数の直線を配置するのも好ましい。複数の所定の線に沿って配置された光解離性保護基の露光は、完全に(理想的にはすべての光解離性保護基が除去される)あるいは部分的に(所定割合、たとえば、10%、20%、の光解離性保護基が除去される)、さまざまなフォトリソグラフィー法(たとえば、接触モードあるいは遠隔場フォトリソグラフィー)で実行が可能であるが、フォトリソグラフィックマスクが導波路に接触せず、マスクと導波路の外表面との間に小さな隙間を形成する近接場フォトリソグラフィーにより実行するのが好ましい(それぞれ、導波路の外表面に付着したリンカー分子上の光解離性保護基の露光中は、液体で満たすことができるリンカー分子の露光された光解離性保護基)。フォトリソグラフィー法における露光は、フォトリソグラフィーで製造したツール、たとえば、John A. Rogers et al. による『エラストマー位相マスクによる近接場モードフォトフォトリソグラフィーを用いた約90ナノメートルの特徴を生成する(Generating ~90 nanometer features using near-field contact-mode photophoto-lithography with an elastomeric phase mask)』(J. Vac. Sci. Technol. B 16(1), Jan/Feb 1998, page 59 et seq.)で詳細に記載されているような、近接場接触モードフォトフォトリソグラフィー用のエラストマー位相マスクのようなツールを使用することを含む。
【0013】
少なくとも1組の複数のリンカー分子を順次接触させるやり方として、好ましい例が2つあり、以下に説明する。一つの例は、1組の複数のリンカー分子を平面導波路の外表面に、直接接触させる。すると、それらが集まって一層の個別レイヤーとなる。もう一つの例は、第1の組の複数のリンカー分子を外表面に接触させ、続けて第2の組の複数のリンカー分子を接触させる。すると、それらが集まって、個別レイヤーが2層だけ積層される。それぞれの例において、リンカー分子の最上層レイヤーに集成されたリンカー分子の官能基は、光解離性保護基に結合する。これは、最上層の複数のリンカー分子を接触させる前または後において実現することができる。最上層レイヤーには、換言すれば、最外層レイヤーには、フォトリソグラフィックマスクを配置することができるので、その最上層レイヤーに対して、直接、そのマスクを介してのフォトリソグラフィーによる露光が可能である。
【0014】
本願の趣旨の範囲内における「分子(molecules)」は、広範な意味を含むが、基本的には、化学結合により結合している2個以上の原子のつながりである。原子の種類と数に限定はなく、分子(molecules)という用語は、2個以上の分子の組成物を明示的に含んでいる。分子(molecule)という用語は、分子間および分子内の結合における特定の種類にも、特定の化学的、薬学的、または物理的特徴にも限定されない。特に、高分子および分子集合体は、明示的にその用語の中に含まれている(たとえば、ポリマー、オリゴヌクレオチド、核酸、タンパク質、リポソーム、および、ペプチド)。基本的に、分子という用語は、任意の合成または天然の安定した多原子のつながりを表している。
【0015】
なお、本発明の範囲内で、化学結合は、当技術分野の専門家に知られた、イオン相互作用、疎水性相互作用、錯生成、水素結合、フルオラス相形成などのような分子相互作用の任意の他の安定的な固有の集合体により置き換えることができる。
【0016】
本願の趣旨の範囲内における「官能基(functional groups)」とは、部分(分子の部分:sections of molecules)および分子(生体分子を含む:molecules including biomolecules)であり、特定の部分もしくは分子が、特に、他の分子の相補的官能基が、結合可能なものである。たとえば、リンカー分子は、少なくとも一つの官能基を有する。官能基の例としては、通常の官能基、たとえば、アミノ−、カルボン酸−、カルボン酸エステル、チオエステル、ヒドロキシル−、メルカプト−、ボロン酸−、アルキン−、アジド−、シクロオクチン−、マレインイミド−、ヨードアセチル−、アルデヒド−、ケト−、ヒドロキシルアミノ−、シアノ−、エポキシ−、スルホン酸といった基が挙げられる。他の例に、ビシナルジオール、芳香族オルトジアルデヒドまたはα−メルカプトアミノアルカン(たとえば、N末端システイン)のようなビスファンクショナル基、および、ニトリロ三酢酸(NTA)またはポリヒスチジンを形成するNi2+をもつ安定的な錯体、単鎖DNA、ストレプトアビジン、ビオチン、受容体またはその配位子などの有機またはペプチド金属キレート吸着剤がある。官能基のさらに別の例としては、「タグ(tags)」があり、タグと相補的「タグ」との間で共有結合を形成する酵素がこれを認識する。たとえば、Snapタグ、Clipタグ、Sortaseタグが例として挙げられる。
【0017】
複数のリンカー分子の多くの官能基と他の分子の相補的官能基の多重相互作用も含まれる。他重相互作用は、共有結合性および非共有結合性であり得るが、疎水性相互作用も含む。すなわち、官能基という用語は、他の分子の疎水性の要素(hydrophobic entities)と相互作用することができる疎水性部分(hydrophobic moieties)をも含むものであることが含意されている。
【0018】
したがって、官能基および相補的官能基の、他の分子の固定化をもたらすあらゆる種類の相互作用が含まれる。
【0019】
「相補的官能基を有する他の分子(further molecule having a complementary functional group)」とは、本願の趣旨の範囲内においては、捕獲分子、修飾された捕獲分子、またはリンカー分子であって接触させる他の組の複数のリンカー分子の頭部基を有するものである。相補的官能基は、リンカー分子の官能基と反応もしくは相互作用することができる。
【0020】
本願の趣旨の範囲内において「相補的官能基(complementary functional group)」とは、部分(分子の一部)、分子、または生体分子であって、特定の部分または分子が結合可能なものである。たとえば、他の分子の相補的官能基は、リンカー分子の頭部基、および、手前のレイヤーのリンカー分子の官能基に結合可能な捕獲分子の一部である。たとえば、相補的単鎖DNAは、オルトゴナル結合化学反応を起こすために水素結合による二重螺旋を形成することができる。他に、タンパク質配位子相互作用を利用することによって安定的な非共有結合を形成するという選択肢もある。相補的官能基の例としては、通常の官能基、たとえば、NH−、COOH−、OH−、SH−、スルホン酸や、ニトリロ三酢酸(NTA)またはポリヒスチジンを形成するNi2+をもつ安定的な錯体、単鎖DNA、ストレプトアビジン、ビオチン、受容体またはその配位子などの有機またはペプチド金属キレート吸着剤が挙げられる。一般に、相補的官能基は、前記した官能基の例が相補的官能基にも適用できるよう、その官能基と同じ種類のものとすることができる。
【0021】
「捕獲分子(capture molecules)」とは、任意の種類の、薬学的、生物学的、または化学的な分子であって、対象試料が結合イベントの検出のため結合可能な対象である。たとえば、生物学的受容体、タンパク質、リポソーム、ナノリアクター等である。一般に、「対象試料(target sample)」とは、結合イベントの検出のために捕獲分子に結合可能な試料中の対象分子である。
【0022】
本願の趣旨の範囲内において「結合(binding)」または「結合イベント(binding event)」には、任意の種類の分子認識、および任意の種類の捕獲分子またはその結合サイトと任意の種類の対象試料との間の任意の種類の分子相互作用が含まれる。これには、2以上の結合相手の実際の結合、および、生体分子相互作用の相手(チャンネルタンパク質を有するタールリポ)の集積が含まれる。
【0023】
「付着(attach)」という用語は、結合と似た使われ方をする語であり、一般に、1個の分子(たとえば、リンカー分子の頭部基または捕獲分子)を、共有結合の形成を通じて、もしくは、ファン・デル・ワールス力による化学吸着作用ないし物理吸着作用、または静電相互作用またはイオン相互作用または水素結合またはフルオラス相形成を通じて、平面導波路の外表面に、または、リンカー分子の官能基に、付着させる場合のような、各種の化学的もしくは物理的な付着(または結合coupling)に関する。一般に、一方の結合相手が他方の結合相手に結合するような各種の化学的な付着が含まれる。これは、化学的な相手方のペアを、それぞれ付着した各分子のそれぞれの結合能力について前提条件をつけることなく、互いに、付着させるものと理解されるべきである。たとえば、官能基を捕獲分子に付着させることは、捕獲分子を官能基に付着させること、あるいは、双方互いに付着させあうこと、と等しい。
【0024】
準備される平面導波路は、リンカー分子の頭部基を付着させることができる材料からなる。本発明に好適な導波路材料は、導波特性を備える滑らかな光学膜の作成に薄膜蒸着技術が利用可能な、Ta、TiO、NbまたはSiなどの屈折率の高い材料である。光回折格子カプラーを形成したガラスおよびポリマー基板上の高屈折率導波路の、効率的な製造方法が、Fattinger et al.による『二回折格子カプラー:光学界面分析のための汎用トランスデューサ―(Bidiffractive grating coupler: Universal transducer for optical interface analytics)』(OPTICAL ENGINEERING, Vol.34 No. 9, page 2744-2753, September 1995)に詳述されている。平面導波路は、高屈折率のレイヤーを少なくとも一層含む複数のレイヤーを有するものとすることができる。準備される平面導波路は、該平面導波路の上面を形成する外表面上の媒質に対して高い屈折率を有する。たとえば、平面導波路の表面における媒質の屈折率が通常1〜1.5、特に、水や水性分析物に対して1.33〜1.4、空気に対して1の範囲なのに対して、平面導波路の屈折率は、1.7〜2.8の範囲とすることができる。コヒーレント光は、平面導波路の外表面でエバネッセント場をともなって伝播するように光カプラーを通って平面導波路内に結合される。外表面から外部に浸透するエバネッセント場は、導波路の外表面における複数の所定の線に沿って結合された対象試料で回折される。導波路膜の厚みは、60〜20nmの範囲が選好される。導波路の外表面におけるエバネッセント場の媒質への浸透深度は、150nm未満が選好される。
【0025】
前記方法の第1の場合として、上述した、少なくとも1組の複数のリンカー分子を順次接触させるステップは、複数のリンカー分子を2組だけ接触させることからなる場合がある。この2組の複数のリンカー分子は、集まって、平面導波路の外表面上にリンカー分子の2層の別個のレイヤーを積層形成する。
【0026】
この第1の場合の一態様によれば、前記方法は、さらに次のステップを有する。捕獲分子の相補的官能基を前記複数の所定の線に沿って配置された官能基に付着させる。各捕獲分子は対象試料を結合可能である。そして、複数の所定の線の間に配置された光解離性保護基を、所定の波長の光で露光して、当該露光された光解離性保護基を前記官能基から除去し、これらの官能基が前記他の分子の相補的官能基を付着させることができるようにする。その後、前記複数の所定の線の間に配置された前記官能基に、修飾された捕獲分子の相補的官能基を付着させる。各修飾された捕獲分子は、最初の捕獲分子が結合することができる対象試料に、結合することができないものが選択される。
【0027】
前記複数の所定の線の間に配置された光解離性保護基の露光(2回目の露光)は、陰となる領域をつくらないように、残りの光解離性保護基が配置されているレイヤー全体に対して実行される。事実、前記複数の所定の線の間に配置された光解離性保護基は、前記複数の所定の線に沿って配置された光解離性保護基のフォトリソグラフィーによる最初の露光後に残っている光解離性保護基だけである。修飾された捕獲分子は、捕獲分子と比較して、コヒーレント光を同じように散乱させる分子である。捕獲分子および修飾された捕獲分子から散乱させられる光は、振幅と光路長差が一致しているので、所定の検出位置において弱めあうように干渉するという点で有利である。したがって、この所定の検出位置における最小信号が、光解離性保護基が除去される官能基の量に相関するそれぞれの露光時間を変更することによって、調整可能である。対象試料を接触させた後の検出位置における信号の変化が主として捕獲分子に結合している対象試料によるものである限りにおいて、最小信号は有利である。そのことで、検出位置における信号に対する対象試料の貢献が、対象試料のない捕獲分子からの信号に比べて、すなわち捕獲分子のみで散乱させられる光と比べて、大きくなる。捕獲分子または修飾された捕獲分子は、浸漬や液浸(immersion, dipping)またはスポッティング(spotting)または印刷(printing)あるいは流体装置(fluidic apparatus)の利用等によって、導波路の外表面に接触させる。
【0028】
前記方法の第2の場合として、上述した、少なくとも1組の複数のリンカー分子を順次接触させるステップは、複数のリンカー分子を1組だけ接触させることからなる場合がある。
【0029】
この第2の場合の一態様によれば、前記方法は、相補的官能基を有する前記他の分子としての(好ましくは、官能基を介して、部分的にもしくは全部が捕獲分子にすでに結合している)他の組の複数のリンカー分子の頭部基を、前記複数の所定の線に沿って配置された(脱保護された官能基をもつ)手前のレイヤーのリンカー分子の官能基に付着させるステップをさらに有する。当該他の組の複数のリンカー分子に属するリンカー分子の官能基は、光解離性保護基に結合していない(この場合において、前記他の組の複数のリンカー分子に属するリンカーリンカー分子は実際に光解離性保護基に結合したことはない)ので、他の分子の相補的官能基を付着させることが可能である。前記他の組の複数のリンカー分子のリンカー分子は、柔軟性、親水性、最小非特異的結合、および、平面導波路の外表面上に捕獲分子を固定するための最適な長さなどにおいて、異なる特徴を提供するため、手前のレイヤーのリンカー分子とは異なっている。このステップの後、前記他の組の複数のリンカー分子に属するリンカー分子および当該他の組の複数のリンカー分子に結合した捕獲分子は、複数の所定の線に沿った位置にのみ配置される。
【0030】
前記第2の場合の別の態様によれば、前記方法は、さらに次のステップを有する。前記複数の所定の線に沿って配置された前記他の組の複数のリンカー分子に属するリンカー分子の官能基に、捕獲分子の相補的官能基を付着させる。(これは、捕獲分子と共にリンカー分子を接触させることにより達成できる。)そして、前記複数の所定の線の間に配置されたこれら光解離性保護基を所定の波長の光で露光して、当該露光された光解離性保護基を官能基から除去し、これらの官能基が他の分子の相補的官能基を付着できるようにする。その後、さらに他の組の複数のリンカー分子の相補的官能基(頭部基)を前記複数の所定の線の間に配置されている手前のレイヤーのリンカー分子の官能基に付着させる。前記他の複数のリンカー分子に属するリンカー分子の官能基は、光解離性保護基には結合していない −実際に結合したことがない− のであり、他の分子の相補的官能基を付着することができる。その後、前記複数の所定の線の間に配置された前記他の複数のリンカー分子に属するリンカー分子の官能基に、相補的官能基を有する他の分子として、さらに他の複数の修飾された捕獲分子の相補的官能基を付着させる。
【0031】
この第2の場合には、第1の場合と同様の利点が得られるが、特に、所定の検出位置における捕獲分子及び修飾された捕獲分子から散乱させられる光が弱めあうように干渉するという点において有利である。前記他の複数のリンカー分子の接触が捕獲分子または前記修飾された捕獲分子の接触とともに行われる場合に有利である。このことは、捕獲分子および修飾された捕獲分子を前記他のリンカー分子により部分的に囲まれた状態で接触させることができるという利点をもたらす。このように、リンカー分子は、ゆるくまとまったマトリックス(たとえば、デキストランやポリ(エチレングリコール)(PEG)のようなポリマー)に捕獲分子を埋め込んで提供することができる。これらの利点は、以下、詳細に説明する。
【0032】
本発明の一態様によれば、複数の所定の線に沿って配置されている光解離性保護基を露光するステップが、第1の露光時間の間、実行されて、前記複数の所定の線の間に配置された光解離性保護基を露光するステップが、第2の露光時間の間、実行される。第1の露光時間は、第2の露光時間と比較すると、異なっている。一般に、露光時間は、複数のリンカー分子の官能基から除去される光解離性保護基の量に関連づけられている。これが、捕獲分子などの他の分子の相補的官能基を付着させることができる官能基の総数を決定する。官能基に結合されている捕獲分子の数は、検出位置に向かって散乱される光の信号を決定する。したがって、第1の露光時間および第2の露光時間は、複数の所定の線に沿って配置された捕獲分子で散乱される光の、複数の所定の線の間に配置された捕獲分子と比べたときの相対的な貢献度を決定する。両者の貢献は弱めあうように干渉するので、これら2種類の露光時間を独立に変更することによって、検出される信号を調整し最小化することができる。
【0033】
最大露光時間は、所定の線の間隔の半分より狭い幅の線に沿って光解離性保護基を分離するため1〜10ジュール/cmとなるよう選択される最大露光エネルギー線量に対応する。好ましくは、第1の露光線量および第2の露光線量を2ジュール/cm未満とすることで、約390nm波長の標準的なLED光源使用時で60秒未満、より好ましくは1〜10秒、の露光時間となる。この露光線量は、高収率で副反応を最小化させた過渡的な生体共役反応合成のためのジアリールスルフィド −NPPOC骨格を備える光開裂可能なリンカー分子としての官能基から光解離性保護基を除去するのに適していることが確認されている。
【0034】
さらに他の例として、D. Woll, S. Walbert, K.-P. Stengele, T. Albert, T. Richmond, J. Norton, M. Singer, R. Green, W. Pfleiderer, U.E. Steinerによる『溶液中およびマイクロアレイチップ上のオリゴヌクレオチドのトリプレット増感光脱保護(Triplet-sensitized photodeprotection of oligonucleotides in solution and on microarray chips)』(Helv. Chim. Acta 2004, 87(1), 28-45)に記載されているような光脱保護の増感が、照射時のトリプレット−トリプレットFRETエネルギー伝達による所望の波長での光脱保護ステップを達成するために有用かもしれない。
【0035】
有利な態様において、複数の所定の線に沿って配置された光解離性保護基を露光するステップは、以下のステップを含む。前記光解離性保護基を担持する平面導波路の外表面に近接させて位相マスクを配置する。位相マスクは、第1屈折率nを有する材料からなる複数の突起をもち、第1屈折率nは、該位相マスクと平面導波路の外表面との間に存在する媒質の第2屈折率nとは異なっている(それぞれ、リンカー分子の最外層レイヤー)。前記所定の波長の光を、前記複数の所定の線に沿って配置された光解離性保護基を露光するための位相マスクを通過させる。
【0036】
そのような位相マスクは、ガラス基板と、好ましくはTa,TiO,Nb,Siなどの適切な高屈折率の物質からなる、複数の突起を含む。位相マスクは、たとえば、バイナリー型回折位相マスクである。その突起はそれぞれ、所定の深さおよび(隣接する突起との間の)所定の間隔を有し、位相マスクの突起を通って伝播する光は、位相マスクの突起の間の液状媒質を通って伝播する光に対して、π(すなわち波長の半分)の位相のずれが生ずるようになっている。位相マスクを通って伝播する光の界面は、突起の縁に沿って光の強度が最小となる干渉パターンを形成する。したがって、位相マスク背後の干渉パターンは、位相マスクにおける突起の位置に係る周期性に対し、二倍周期の明暗パターンとなる。突起の幅および形状は、位相マスクに沿って変化していてもよい。フォトリソグラフィー露光は、Suleski, et al.による、『コンピューター生成近接場ホログラフィーによる高空間周波数回折格子の作成(Fabrication of high-spatial-frequency gratings through computer-generated near-field holography)』(Optics Letters, vol. 24, No. 9, pp. 602-604, May 1, 1999)に詳細に記載されているようなホログラフィー法を含む。複数の所定の線を生成(もしくは配置)するために近接場ホログラフィーなどのホログラフィー法を使用することができるので、対象試料が結合可能で複数の所定の線に沿って配置される結合サイトを示す「モログラム(mologramm)」という用語を新たに考案した。一例として、複数の所定の線をモログラムA(Mologram A)と呼ぶことができ、複数の所定の線の線間に(in-between the lines of the plurality of predetermined lines)配置された線をモログラムB(Mologram B)と呼ぶことができる。有用な用途において、検出器に入射する光は、モログラムAで回折させた光が、モログラムBで回折した光に対し位相π(波長の半分)ずれている。さらに、Pasi Laakkonen et al.による『ブラッグ回折格子の近接プリンティング用のコーティングされた位相マスク(Coated phase mask for proximity printing of Bragg gratings)』(Optics Communications 192 (2001) 153-159, ELSEVIER)に詳述されているように、干渉パターンの質を高めるため位相マスクをコーティングすることもできる。光解離性保護基の露光を位相マスクに通すのに用いられる光は、たとえば、390nm波長である。官能基から除去する光解離性保護基によっては、他の波長を用いることが必要であるかもしれない。露光は、いずれにせよ、直接光化学付着(たとえば、ベンゾフェノン−またはアリールアジド−またはジアジリン−媒介光ラジカル挿入反応またはチオキサントンのようなラジカル開始剤による増感を利用したもの)に適したものとすることができると考えられる。原則的に、突起の寸法は、その波長に応じて選択されなければならない。
【0037】
頭部基が導波路の外表面に付着する複数のリンカー分子は、集まって、外表面から外側に0.5nm〜10nmの厚みをもつ個別のレイヤーを形成するのが好ましい。第1層のレイヤーのリンカー分子の平均密度は、導波路の外表面にさらに接触しようとする分子が接触しないように選択される。このことは、導波路の外表面に接触させる試料における捕獲分子および他の分子の非特異的結合を防ぐためには重要である。
【0038】
リンカー分子の第1層のレイヤーは、直接、平面導波路の外表面に付着する。第1層のレイヤーは、密度が高く高さが低いと有利である。理想的には、第1層のレイヤーは、他の分子が外表面に接触することができないように、外表面を覆う。
【0039】
有利な態様として、頭部基が導波路の外表面に付着する複数のリンカー分子は、集まって、リンカー分子の単分子層を形成する。第1層のレイヤーが外表面に整然と配置され、導波路の外表面のリンカー分子で散乱する光の非常に小さく平坦なバックグラウンドを提供するとき、検出位置における回折光の信号の質は向上する。第1層のレイヤーを形成する複数のリンカー分子としては、自己組織化単分子層(self-assembled monolayer:SAM)が選好される。SAMは、フォトリソグラフィー処理が行えるよう、光解離性保護基を担持していてもよい。
【0040】
一実施形態において、SAMは、10〜100%のアミノ基を官能基としてもつアルカン混合物からなるものであってもよく、これを、本発明による光変調に適した望ましいSAMを生成するために、SAMの形成前またはSAMの形成後に光保護基により修飾してもよい。
【0041】
他の実施形態において、SAMは、10〜100%のカルボキシル基を官能基としてもつアルカン混合物からなるものであってもよく、これを、本発明による光変調に適した望ましいSAMを生成するために、SAMの形成前またはSAMの形成後に光保護基により修飾してもよい。
【0042】
本発明の他の態様において、頭部基が手前のレイヤーのリンカー分子の官能基に付着する複数のリンカー分子は、集まって、厚みが10nm〜200nmの最上層の個別のレイヤーを形成する。面積当たりのリンカー分子の局所平均密度は、捕獲分子がそこを通って散乱するように、または、捕獲分子が部分的にその中に囲まれるように、低い値が選択される。最上層のレイヤーは、第1層のレイヤーの分子に比べて長いリンカー分子を含むとよい。最上層のレイヤーは、対象試料の中の分子がそこを通って横に散乱することができるよう空間密度が低いものでなければならない。これらのリンカー分子は、形状を適合させることができるようフレキシブルなものとすることができる。これらのリンカー分子は、有利な例としては、ゆるくまとまったマトリックス(デキストラン、カルボキシメチル化したデキストラン、カルボキシメチル化したヒアルロン酸、ヒアルロン酸、アルギン酸などの多糖類や、ポリ乳酸、ポリアクリル酸、あるいは、たとえばD. Kyprianu et alのTalanta 103. 2013, 260-266所収論文に記載されているような親水性3Dアクリレート重合体、またはポリ(エチレングリコール)(PEG)、または一本鎖DNAオリゴヌクレオチドなどのポリマー)からなる。
【0043】
ポリマーは、さらに修飾して、骨格を修飾したポリマー網目組織を生成することができるが、そこでの骨格修飾は、イオン基、脂質、ペプチド、オリゴヌクレオチド等からなるものとすることができる。
【0044】
方法の他の態様において、複数の所定の線は、平面導波路の外表面における少なくとも2つの離れた回折スポットに配置されている。各回折スポットは、面積が25(μm)((μm)=μm)よりも大きい。複数の所定の線は、隣接する線間の距離が1.5μm未満、特に1μm未満である。これによって、回折スポットで散乱した光を検出するための回折スポットとして、検出に適した強度の信号を提供する最小サイズの回折スポットが提供される。複数の所定の線は、隣接する線間の最大距離が回折スポットで回折する光によって決まる。好ましくは、可視光を用いる。この距離は、隣接する線間の距離が平面導波路を通って伝播する光の波長の倍数となる所定波長のハーモニックスを含む。
【0045】
本発明は、さらに、前記方法により用意された外表面を有する平面導波路を提供する。複数の所定の線が、外表面の少なくとも2つの離れた回折スポットに配置される。各回折スポットは、面積が25μmよりも大きい。複数の所定の線は、隣接する線間の距離が1.5μm未満、特に1μm未満である。好ましくは、平面導波路は、複数の回折スポット、すなわち、1平方センチメートル当たり、100個、10000個、100000個、・・・、最大で4×10個の回折スポットを備えている。方法に対して説明した優位点は、この平面導波路にも同様に備わっている。
【0046】
一態様によれば、各複数の所定の線は、曲線であり、隣接する線の間の距離が、光カプラーで平面導波路に結合される光の伝播方向に向かって徐々に狭くなるように配置されている。隣接する線間の距離が狭くなるように曲線を配置することで、対象試料で散乱した光が所定の検出位置に集束(そして干渉)する(位相格子レンズに相当する)。代替的配置によれば、複数の所定の線は、直線であり、導波路に結合される光の伝播方向に対して角度をつけて配置されている。このように、複数の所定の線を光の伝播方向に対して角度をつけて配置する代替的配置は、所定方向の強めあう干渉の要件を満たす(ブラッグ回折に相当する)。複数の所定の線は、光を、平面導波路の平面内で回折させる。平面導波路内で回折した光は、他の光カプラー(位相格子レンズ)を通って平面導波路外部の検出位置に結合される。
【0047】
本発明のさらなる態様によれば、キットが、前記のような平面導波路と、該平面導波路の外表面を用意するための位相マスクとを提供する。位相マスクは、本明細書に記載しているようなリソグラフィー法の実行を可能にする。このようなキットは、さらに、前述のような方法により平面導波路の外表面を用意するために適した化学的、薬学的および/または生物学的試薬を含む。この試薬は、キットごとに異なったものであってよい。
【0048】
本発明のさらなる有利な態様は、以下の、添付の概略図面を参照しての本発明の実施形態の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】平面導波路のための一実施形態を、複数の所定の線およびフォトリソグラフィーマスクの一部を拡大して詳しく示す図とともに示す。
図2図1に例示したような平面導波路に2組の複数のリンカー分子を接触させた状態の断面を側面視して示す。
図3図2の平面導波路において、他の複数のリンカー分子の組に属するリンカー分子が結合していない官能基を不活性化するステップを説明する図を示す。
図4図3の平面導波路において、複数の所定の線に沿って配置された光解離性保護基を露光するステップを説明する図を示す。
図5図4の平面導波路において、複数の捕獲分子を接触させるステップを説明する図を示す。
図6図5の平面導波路において、捕獲分子が結合していない官能基を不活性化するステップを説明する図を示す。
図7図6の平面導波路において、複数の所定の線の間に配置された光解離性保護基を露光するステップを説明する図を示す。
図8図7の平面導波路において、複数の修飾された捕獲分子を接触させるステップを説明する図を示す。
図9図8の平面導波路において、修飾された捕獲分子が結合されていない官能基を不活性化するステップを説明する図を示す。
図10図9の平面導波路において、複数の対象試料を接触させるステップを説明する図を示す。
図11図1に例示した平面導波路におけるリンカー分子が他の実施形態により配置されたものにおいて、光解離性保護基を有するリンカー分子のレイヤーを1層接触させるステップを説明する側面図を示す。
図12図11の平面導波路において、複数の所定の線に沿って配置された光解離性保護基を露光するステップを説明する図を示す。
図13図12の平面導波路において、官能基を介して捕獲分子に部分的に結合され、前記複数の所定の線に沿って配置される他の複数のリンカー分子を接触させるステップを説明する図を示す。
図14図13の平面導波路において、前記複数の線の間に配置された光解離性保護基を露光するステップを説明する図を示す。
図15図14の平面導波路において、修飾された捕獲分子に官能基を介して部分的に結合され、前記複数の所定の線に沿って配置される他の複数のリンカー分子を接触させるステップを説明する図を示す。
図16図15の平面導波路において、他のリンカー分子が結合していない第1のレイヤーのリンカー分子の残りの官能基および捕獲分子が結合していない第2のレイヤーのリンカー分子の残りの官能基を不活性化し、修飾された捕獲分子が結合していない第2のレイヤーのリンカー分子の残りの官能基を不活性化するステップを説明する図を示す。
図17】本発明の他の実施例により分子リンカーが配置された平面導波路の代替分子リンカーおよび代替捕獲分子を説明する側面図を示す。
図18】単一の回折スポットに複数の所定の線が3組、各組が回折光を異なる検出位置に集束させるように配置されている本発明の他の態様を示す。
図19図18の平面導波路において、該平面導波路の外表面上の回折スポット全体に複数のリンカー分子を、一番上の組が光解離性保護基を持つように2組接触させたようすを示す。
図20図19の平面導波路において、複数の所定の線の第1の組に沿って配置された光解離性保護基を部分的に露光するステップを説明する図を示す。
図21図20の平面導波路において、続けて、3組の部分的に露光された複数の所定の線に配置されるよう3種類の一本鎖DNAを接触させたようすを示す。
図22図21の平面導波路において、異なる3組の複数の所定の線に異なる3タイプの捕獲分子が配置されたようすを示す。
図23】単一の回折スポットに複数の所定の線が2組、各組が回折光をそれぞれ個別の検出位置に集束させるように配置されている本発明の他の態様を示す。
図24】前記した例と比べて異なる種類の異なる2つのタイプの捕獲分子を図23の複数の所定の線の異なる2つの組に配置した平面導波路を示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1に、本発明によりリンカー分子を配置することができる外表面11を有する平面導波路1の一例の斜視図を示す。構造上、平面導波路1は、図示せぬ基板上に配置されていて、外表面11に配置された25の離れた回折スポット41を有する。複数の所定の線4(図示されている線はそれぞれ多数の線を代表している)が、この各回折スポット41の中に配置されている。図示されている例における線4は曲線であるが、他の実施例では直線とすることもあり得る。この例の線4は、検出信号を改善するために、隣接する線4の間の間隔が左から右へ(光が平面導波路を通って伝播する方向に)向かうにつれて狭くなるようになっている。代替的に、線4は等間隔に配置されていてもよいし、異なる組の複数の所定の線4が前記回折スポット41内に配置されていてもよい。さらに、平面導波路1のそれぞれ内部および外部にコヒーレント光を結合するために、平面導波路1に光カプラー12および別の光カプラー13が配置されている。両者とも、ガラスまたはポリマー材料でつくられた基板の表面に形成することができる。別の光カプラー13は、代替的もしくは追加的に光吸収手段であってもよい。図示されている平面導波路1を含む結合イベント検出装置の実施原理にしたがって、コヒーレント光が、外表面11にエバネッセント場を伴って伝播するように、光カプラー12を通って平面導波路1内に結合される。コヒーレント光のエバネッセント場は、外表面11上に複数の所定の線4に沿って配置された分子(リンカー分子、捕獲分子、対象試料等)で散乱し、散乱したコヒーレント光が図示せぬ所定の検出位置で強めあうように干渉するようになっている。
【0051】
図示されている円は、黒線42を備え、白線43を間に備え、前記したようなスポット41に配置された複数の所定の線4のいくつかの組を誇張して示すものである。黒線42に沿って、リンカー分子の官能基に捕獲分子が配置される。捕獲分子は、対象試料(この図面では分子は、装置のサイズに比べてサイズが小さいので図示していない)を結合可能である。白線43は、捕獲分子が結合可能な対象試料を結合できない修飾された捕獲分子を含む。平面導波路1内部へ結合されたコヒーレント光のエバネッセント場は、図の黒線42および白線43に配置された分子で散乱する。黒線42に配置された分子によって散乱する光は、図示せぬ検出位置に対し第1の光路長を有し、そこで最大強度まで強めあう干渉が起こるようになっている。黒線42の間の複数の白線43に配置された分子で散乱するコヒーレント光は、検出位置に対し第2の光路長を有し、そこで最大強度まで強めあう干渉が起こるようになっている。両最大値は、互いにπの位相のずれがあり、全体強度としては最小強度まで弱めあう干渉となるようになっている。これによって、捕獲分子に結合された対象試料以外の散乱光からのバックグラウンド信号を最小化することができる。最小信号は、捕獲分子および修飾された捕獲分子が結合可能な各官能基を脱保護するための露光時間を変えることで調整することができる。理論的には、対象試料を接触させる前に、黒線42に配置された捕獲分子および白線43に配置された修飾された捕獲分子が生ずる、単一の検出位置で散乱する光のバックグラウンド信号は、全体としてゼロである。
【0052】
誇張された図を示す円の上に、複数の所定の線4に沿って配置された光解離性保護基のフォトリソグラフィー露光を説明するため、位相マスク9の一部を示してある。位相マスク9は、ガラス基板92と、Ta、TiO、Nb、Siなど屈折率の高い物質で作られている複数の突起91とを含んでいる。突起91の厚み(深さ)は、所定の位相のずれを生ずるように、突起91(たとえば、Ta)の材料の第1の屈折率nに対応するように、そして、位相マスク9と平面導波路1の外表面11との間に存在する媒質の第2の屈折率nに対応するように選択される。Taの第1の屈折率nは、390nmの波長で、n=2.246である。使用時、位相マスク9は、近接場露光により複数の所定の線4に沿って配置される光解離性保護基を露光するために、突起91を外表面11に近接させて、配置されている。これらの光解離性保護基(同程度にサイズが小さいため不図示)を備えたリンカー分子は、外表面11と位相マスク9との間の隙間を埋めるため、たとえば、5%の水を含むDMSOの溶液内で、外表面11に接触させる。DMSO溶液の第2の屈折率nは、以下のように推定することができる。DMSOは、590nmの波長でn=1.477の屈折率を有する。390nmの波長に対して計算で求めた屈折率は、Kozmaによる論文J. Opt. Soc. Am. B, 22(7), p 1479 (2005) に詳述されているように、n=1.50である。390nmに対する5%の水を含むDMSOの概算屈折率は、Le Bel and Goringによる論文J. Chem. Eng. DATA 7(1), p 100 (1962) に詳述されているように、n=1.494である。ある実施例によれば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を、分子リンカーおよび光解離性保護基を接触させるための溶液として使用することができる。位相マスク9は、突起91を通って伝播する光の、位相マスク9と外表面11との間の媒質を通って伝播する光に対する位相をずらす。干渉は、位相マスク9のパターンに対して周波数二倍化明暗パターンを作出する。突起91の高さは、Taの場合、d=259nm(d=λ/2(nTa2O5−nDMSO))となるように選択される。突起91の幅は、スポット41の中で、たとえば平面導波路1を通る光の伝播方向に沿って、変化するものとすることができる。突起91の幅は、好ましくは、平面導波路1の外表面11における所定の線4,42,43の距離に等しいか最も近くなるよう選択される。光解離性保護基のフォトリソグラフィー露光は、位相マスク9をそれに近接配置し、黒線42に沿って配置されている光解離性保護基を位相マスク9を通過した光で露光することによって実行される。位相マスク9を介した露光は、第1露光時間の間実行される。複数の黒線42の間の白線42に沿って配置された光解離性保護基の第2の露光は、位相マスク9なしで実行される。
【0053】
黒線42の上に図示されている実線グラフ61および白線43の下の点線グラフ62は、位相マスク9を通過する光の近接場における光強度グラフ(あるいは干渉パターン)を表している。両グラフは、さらに、リンカー分子のそれぞれ露光された官能基に結合された、捕獲分子の、または脱保護された官能基(黒線42)および修飾された捕獲分子(白線43)の、局所平均密度を表すと解釈することができる。さらに前記した理想的な場合において、黒線42上に配置された捕獲分子で散乱する光および黒線42の間で白線43に沿って配置されている修飾された捕獲分子は、検出位置において、バックグラウンド信号を最小化(理想的にはゼロに)することに寄与する。このことは、理論的には、捕獲分子および修飾された捕獲分子の局所平均密度が一致することにより達成される。黒線42と白線43との間のシャープな縁は、黒線と白線との間の正弦遷移に近似する(方式上の制約から、そのような濃淡は図示してはいないが、より現実的であろう)。原理的に、捕獲分子の局所密度は、位相マスク9を通した近接場露光の正弦強度特性によってもたらされる。
【0054】
方法の第1実施形態および第2実施形態を以下に示す。ともに、本発明を実施することを可能にするものである。両実施形態は、図1に例示したような平面導波路を用いるものである。これらの実施形態において、フォトリソグラフィーのステップは、同様のやり方ではあるが、異なるステップで実施される。実際に、光解離性保護基の露光は、フォトリソグラフィックマスクを用いて一度だけ実行される。フォトリソグラフィックマスクの再アラインメントは、困難かつ非現実的なので、第2の露光は、マスクなしで実行される残った光解離性保護基の露光である。
【0055】
以下の図2図10において、本発明による方法の第1実施形態を説明する。
【0056】
図2は、平面導波路1の外表面11上に2層の別体の個別レイヤーを集成させるために、複数のリンカー分子2を接触させ、続けて他の複数のリンカー分子5を接触させることを示している。前記複数のリンカー分子2に属するリンカー分子2は、外表面11に直接集合して自己組織化単分子層(SAM)を形成する。これらのリンカー分子2は、外表面11に付着するための頭部基21(たとえば、−(PO2−、−(O−PO2−、トリアルコキシシランまたはポリ(L−リシン)および他の分子の相補的官能基を付着することができる官能基22を有している。遷移金属酸化物、たとえば、Ta、TiO、Nbなどの上に自己組織化単分子層(SAM)を形成するために好適なリンカー分子2としては、たとえば、NH末端自己組織化分子アミノ−ドデシル−ホスホン酸(NH−(CH12−(PO)H)、COOH末端自己組織化分子カルボキシ−ペンタデシル−ホスホン酸(COOH−(CH15−(PO)H)、または、OH末端自己組織化分子ヒドロキシ−ドデシル−ホスホン酸アンモニウム塩(OH−(CH12−(PO)(NH)などがある。(Samue1e Guido Pio Tosatti:による論文『生物医学用途の官能性を持たせたチタン表面:物理化学的キャラクタリゼーションおよび生物学的インヴィトロ評価(FUNCTIONALIZED TITANIUM SURFACES FOR BIOMEDICAL ApPLICATIONS: PHYSICO-CHEMICA CHARACTERIZATION AND BIOLOGICAL IN VITRO EVALUATION)』(DISS. ETH NO. 15095)参照)。官能基22としては、通常の官能基、有機物もしくはペプチドの金属キレート吸着剤、単鎖DNA、タンパク質受容体またはその配位子を挙げることができる。他の分子は、特定の種類の分子に限定されないが、ここに示した例では、相補的官能基(頭部基)51(たとえば、続けて接触させる複数のリンカー分子5に属するリンカー分子5のカルボキシのような通常の官能基)で官能性を持たせたゆるやかにまとまったマトリックス(たとえば、デキストランやポリ(エチレングリコール)(PEG))である。また、続けて接触させる複数のリンカー分子5に属するリンカー分子5は、先だって接触させた層の官能基22に付着することができる頭部基を含む。官能基52は、他の分子の相補的官能基を付着可能である。官能基52は、ここに示した例では、光解離性保護基3によって保護されている。光解離性保護基3は、他の分子、たとえば捕獲分子、の相補的官能基が結合できないように官能基52を保護する。したがって、官能基52は、アミノ−、メルカプト−、ヒドロキシル、カルボン酸基のような、光解離性保護基による保護を受けることができる官能基に限定される。
【0057】
図3において、他の複数のリンカー分子5の頭部基51が結合していない複数のリンカー分子2の官能基22が、たとえば、相補的官能基を備える他の分子と反応または相互作用することができる官能基を有していない他の分子と反応することによって、不活性化されている。不活性化された官能基221は、さらなる結合が不可能である。
【0058】
図4において、複数の所定の線4に沿って配置された他の複数のリンカー分子5の官能基52に結合された光解離性保護基3が露光され、官能基52から除去されている。したがって、複数の所定の線4に沿って配置された官能基52は、捕獲分子のような他の分子の相補的官能基を付着することができる。そして、複数の所定の線4の間に配置された官能基52は光解離性保護基3を持っている。露光は、位相マスクにより、図1について説明したように、フォトリソグラフィー法で実施することができる。示されている一本の線4は、光解離性保護基3がそれらに沿って露光されるところの複数の所定の線4のうちの一本の線を例示するものである。
【0059】
理論的には、方法のこの状態は、結合イベントの検出に使用可能な平面導波路を提供する。たとえば、接触させる対象試料が、前記複数の所定の線に沿って配置された複数のリンカー分子の官能基に直接結合する場合に。
【0060】
図5においては、複数の捕獲分子6を、複数の所定の線4に沿って配置された官能基52に接触させている。一般に、そのような捕獲分子6は、分子リンカー5の官能基52および(図10に示した)調査対象試料内の対象分子に同時に結合することが可能な分子である。図示した捕獲分子6は、試料中の対象分子を結合するための2つの結合サイトを備えたタンパク質を表している。リンカー分子5は、リンカー分子間に隙間を残してゆるやかにまとまっていてもよく、その隙間は捕獲分子6で満たすことができる。この場合、捕獲分子6は、ゆるやかにまとまった複数のリンカー分子5内に埋め込まれるのが好ましい。そのような複数のゆるやかにまとまったリンカー分子5は、捕獲分子6および接触させる試料内の分子と非特異的相互作用が生じないあるいは最小化されたゆるやかにまとまったマトリックス(たとえば、デキストランやポリ(エチレングリコール)(PEG)などのポリマー)からなる。
【0061】
各リンカー分子5は、そのリンカー分子5に沿って配置した複数の(すなわち2つ以上の)官能基52を持つものであってもよい。本発明による方法の第1実施形態のこの実施例において、リンカー分子5に沿って配置されたすべての官能基52は、第1の露光により官能基から保護基を除去する以前には光解離性保護基により保護されている。
【0062】
図6において、捕獲分子6が結合していない他の複数のリンカー分子5の官能基52は不活性化されている。不活性化された官能基521は、さらに結合することはできない。
【0063】
このことによって、結合イベントの検出に使用することができる平面導波路が提供される。対象試料は、所定の検出位置において最大の干渉が生じるようにコヒーレント光を散乱させるための複数の所定の線に沿って配置された捕獲分子により提供される結合サイトに結合可能である。しかし、実際には、捕獲分子のみある(すなわち捕獲分子に対象試料が結合されていない)ところで散乱する光によって、同等に強いバックグラウンド信号が、検出位置の信号に影響を与えている。検出信号に対するバックグラウンド信号を減少させる可能性について、以下に示す。
【0064】
図7において、複数の所定の線4の間に配置されている他の複数のリンカー分子5の官能基52から、露光によって、光解離性保護基が除去される。この第2の露光は、(第1の露光が位相マスクを通して実行されるのに対し)フォトリソグラフィーマスクを必要としないが、その理由は、第1の露光で形成された、複数の所定の線4の間に形成された複数の所定の線に沿って、適切に、残った光解離性保護基が配置されているからである。
【0065】
図8において、複数の修飾された捕獲分子7を複数の所定の線4の間に配置された他の複数のリンカー分子5の官能基52に接触させている。修飾された捕獲分子7は、本実施例では、突然変異させたタンパク質である。一般に、修飾された捕獲分子7は、構造的には、捕獲分子6と類似しており、捕獲分子6が結合可能な図示せぬ試料内の対象分子を結合することができないように、突然変異により、または、化学的に、修飾がなされている。換言すれば、修飾された捕獲分子7は、対象試料を結合することのできる結合サイトを持たず、捕獲分子6と比べて同様にコヒーレント光を散乱させる。
【0066】
図9において、修飾された捕獲分子7が結合していない複数のリンカー分子5の官能基52は不活性化されている。不活性化された官能基52は、さらに結合することができない。
【0067】
その結果、結合イベントの検出に用いることができる平面導波路が得られる。このような平面導波路の優位点は、上述のように、捕獲分子から、そして修飾された捕獲分子から、の散乱光の効果で弱めあう干渉が生じ信号が最小化することである。最小信号は、検出位置におけるバックグラウンド信号が最小化するように、露光時間を変更すること、および、その結果として脱保護された官能基に付着する捕獲分子または修飾された捕獲分子の数を変更することにより調整される、という利点がある。
【0068】
図10は、試料内の複数の対象分子8を、複数の所定の線4に沿って配置された捕獲分子6へ接触させている状態を示している。図からわかるように、それらの対象試料8は、捕獲分子6にのみ結合する。修飾された捕獲分子7は、対象試料8を結合することができない。したがって、図示せぬ検出位置における光は、修飾された捕獲分子7で散乱する光に対する捕獲分子6で散乱する光の貢献度を調整することによって最小化されている。対象試料8を接触させた後、検出位置における検出光の変化は、対象試料8の捕獲分子6への実際の結合によって起こるようになる、という利点がある。
【0069】
結合イベントの検出は、コヒーレント光が(図1の黒線42に対応する)複数の所定の線4に沿って配置された捕獲分子6によって散乱させられるだけでなく、(図1の白線43に対応する)修飾された捕獲分子7によっても散乱させられるという点で有利である。捕獲分子6と修飾された捕獲分子7の間の間隔は、コヒーレント光の波長の半分(または、波長の倍数プラス半波長)となるよう選択されているので、散乱した光は、理論的には、検出位置において干渉して最小化する。実際には、検出位置における捕獲分子6および修飾された捕獲分子7からの寄与が干渉してゼロ光となることはなく、いくらかバックグラウンド光が存在することになるだろう。対象試料の結合は、最小バックグラウンド信号に対して比較的大きな前記最小信号への変化をもたらすだろう。
【0070】
次の図11図16において、本発明による方法を実施する他のやり方を説明するため、第2実施形態を説明する。
【0071】
図11において、複数のリンカー分子2を、平面導波路1の外表面11に頭部基21で付着するように接触させている。複数のリンカー分子2は光解離性保護基3により保護された官能基(覆われているので図には示されていない)を有する。第2実施形態は、光解離性保護基3をもつ複数のリンカー分子2を1組だけ(SAMのみを)、第1のステップで、接触させるという点で、第1実施形態と異なる。
【0072】
図12において、複数の所定の線4に沿って配置された光解離性保護基3が露光されて除去されている。複数の所定の線4に沿った露光は、フォトリソグラフィー法により実施される。したがって、リンカー分子2の脱保護された官能基22は、複数の所定の線4に沿って配置される。
【0073】
図13において、リンカー分子5の官能基52に結合された複数の捕獲分子6を、複数の所定の線4に沿って一緒に(互いに付着しあうように)接触させている。捕獲分子6の相補的官能基は、リンカー分子5の官能基52に付着され、ともに官能基22に頭部基51を介して付着されている。このことにより、好ましい例においては、捕獲分子6を前記リンカー分子5内に部分的に囲う(たとえば、リンカー分子5が、ゆるやかにまとまったマトリックス(たとえば、デキストランやポリ(エチレングリコール)(PEG)などのポリマー)を形成する)ことができるとともに、図示せぬ対象試料を捕獲分子6により提供される結合サイトに結合させることができる。
【0074】
図14において、複数の所定の線4の間に配置された光解離性保護基は、所定の波長の光で露光される(フォトリソグラフィックマスクを用いない第2の露光)。脱保護された官能基22は、修飾された捕獲分子のような他の分子の相補的官能基を付着させることができる。第2実施形態では、第1実施形態について説明したのと同様に(図7参照)、バックグラウンド信号の最小化を達成することができる。
【0075】
図15において、リンカー分子5の官能基52に付着(結合)した複数の修飾された捕獲分子7を、(図13と同様に)複数の所定の線4の間に配置された官能基22に接触させている。
【0076】
図16において、修飾された捕獲分子が結合していない官能基521およびリンカー分子の頭部基が結合していない官能基221が不活性化されている。これにより、図10で説明したように使用されるべく準備された平面導波路が得られる。
【0077】
図17に、代替頭部基511と代替官能基522を有する代替分子リンカーを使用する本発明の他の実施例を示す。膜状上部構造(たとえば、ベシクルやリポソーム)61と修飾された膜状上部構造(たとえば、修飾されたベシクルやリポソーム)71とが代替官能基522に配置されている。組み込みまたは再構成がなされた膜輸送タンパク質611(輸送体またはチャネル)を有する膜状上部構造61は、捕獲性の捕獲分子を表している。組み込みまたは再構成がなされた修飾された膜輸送タンパク質711(修飾された輸送体または修飾されたチャネル)を有する修飾された膜状上部構造71は、修飾された捕獲性の捕獲分子を表している。図10および図17に対応して、膜状上部構造61および修飾された膜状上部構造71は、複数の所定の線4に沿って、および、複数の所定の線4の間に、それぞれ配置されている。対象試料81は、捕獲性捕獲分子に捕獲される(膜状上部構造の内側に捕獲される)ことが可能である。このように、捕獲分子という用語は、対象試料が結合可能な個別の結合サイトを複数提供するものと考えることができるだけではなく、そうではなくむしろ、膜輸送タンパク質で対象試料を捕獲するのに適している。これにより、対象試料81をまとめて検出するために一定時間の間捕獲された対象試料811を蓄積するための方法が得られる。
【0078】
図18に、本発明の他の態様を図示する。3組の複数の所定の線401,402,403は、平面導波路上の一つの回折スポット41に配置されている。各組は、光カプラー12で平面導波路内部に結合された光が複数の所定の線の各組401,402,403で回折し、それぞれ別個の検出位置421,422,423で強めあうように干渉するように配置されている。このように3組の複数の所定の線401,402,403を配置する構成は、一例とみなされるべきであり、他の数の組の複数の所定の線401,402,403を配置することもできる。示されている線の形状についても同様で、本実施例では、光カプラー12で結合された光が1本の線に沿って配置された3つの異なる検出位置421,422,423で強めあうように干渉するような形状が選択されている。複数の検出位置を備える回折スポット41は、複数の焦点を有するモログラム(mologram)として示され(を表し)ている。
【0079】
次に、(3つの)異なる種類の捕獲分子をそれぞれ異なる(3つの)組の複数の所定の線上に接触させる方法について説明する。この配置は、プロセスカスケードが検出可能なので有利である。たとえば、対象試料は、第1の検出位置において信号が得られるように、第1の種類の捕獲分子で別個の生成物に分割される。そして、この反応の第1の生成物は、第2の検出位置において信号が得られるように、第2の種類の捕獲分子に結合する。反応の第2の生成物は、第3の検出位置において信号が得られるように、第3の種類の捕獲分子に結合する。異なる種類の捕獲分子を複数の所定の線の異なる所定の組に付着させることが、たとえば、後述するような単鎖DNAの使用(直交化学反応)によって、達成可能である。代替的に、露光と光解離性保護基の除去に異なる波長を使用する直交光化学を実行して、回折スポット内の複数の所定の線の所定の組への所定の種類の捕獲分子のみの配置を実現することもできる。
【0080】
図19は、2組の複数のリンカー分子2,5を接触させている外表面11を有する平面導波路1である。最上層の組に属する複数のリンカー分子5が光解離性保護基3を持っている(図3と同様)。
【0081】
図20に、第1の組に属する複数の所定の線401に沿って配置された光解離性保護基3を部分的に露光するステップを示す。「部分的(に)露光(する)」とは、その線401に沿っている光解離性保護基3の内のいくつかだけを除去することである。その数は、複数の第1の捕獲分子に結合する対象試料に対応する回折光の検出可能な信号が充分得られる数である。その数は、他の複数の所定の線(402,403)に沿ってさらなる(部分的な)露光を実行して、同じ回折スポット内の他の線(402,403)に沿った他の複数の光解離性保護基を除去することができる程度に少なくなくてはならない。それらの線(401,402,403)は交わっていることが可能であり、換言すれば、いくつかの線を互いに重ねて形成することができる。図18を参照すると、線(401,402,403)の交差が、異なる検出位置(421,422,423)における信号に貢献している。図20は、複数の焦点をもつモログラムの可能な分子構造を示している。
【0082】
図21に、3組の複数の所定の線に配置すべく、図20に説明した部分的露光を繰り返すことで続けて接触させる3種類の単鎖DNA621(タイプI)、622(タイプII)、623(タイプIII)を示す。異なる組の複数の所定の線は、異なる焦点(離れた検出位置)の光を回折させる。
【0083】
単鎖DNAは、所定の種類の捕獲分子のみを所定の組の複数の所定の線に配置するために、異なる捕獲分子6,72,73が異なる相補的単鎖DNA631,622,623に選択的に結合されるような直交化学反応の実行を可能にする。図22に示した配置は、それぞれの検出位置(421,422,423)において薬学的、生物学的ないし化学的反応を個別に検出することを可能にする。
【0084】
図23に、本発明の他の態様を示す。2組の複数の所定の線402,403が(図18と同様の)平面導波路上の一つの回折スポット41内に配置されている。各組の配置は、光カプラー12で平面導波路内に結合された光が、各組の複数の所定の線402,403で回折して、離れた個々の検出位置422,423で強めあうように干渉するよう構成されている。
【0085】
図24は、図23の平面導波路1であって、2組の複数の所定の線402,403に属する線が交差している、外表面11の領域を示している。異なる捕獲分子(この例では、対象試料として接触させるタンパク質の少なくとも2つの結合サイトの内の一つへの結合が可能な分子)75,76が、直交化学反応により実現可能な異なる複数の所定の線(図23の402,403参照)に配置されている。上述のように、直交化学反応は、同じ回折スポット(図23、41参照)内の異なる組の複数の所定の線に配置されるように異なる種類の捕獲分子75,76を固定化するために、たとえば、異なる単鎖DNA621,622と、対応する相補的単鎖DNA631,632とを用いている。代替方案としては、光解離性保護基の露光用に異なる波長を用いる直交光化学反応がある。両捕獲分子75,76に結合可能なタンパク質である対象試料81は、多重結合反応を通じて協同的結合を形成することができる。このような多重結合反応は、対象試料81の捕獲分子75への結合、および、対象試料81の捕獲分子76への結合が両方あわさった結合力があるため、高い強度をもつ。両方の結合は、同時に、あるいは短時間内に即時に、形成が可能である。多重結合反応は、両方の検出位置を通じて光学的に検出されるので、2つの検出位置において相関する信号を生じる。これは、時間分解検出法を用いて達成することが可能であるという利点がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24