(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358498
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】漂流物の流出防止装置
(51)【国際特許分類】
E02B 1/00 20060101AFI20180709BHJP
【FI】
E02B1/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-88146(P2014-88146)
(22)【出願日】2014年4月22日
(65)【公開番号】特開2015-206231(P2015-206231A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2017年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(73)【特許権者】
【識別番号】591073337
【氏名又は名称】株式会社丸島アクアシステム
(73)【特許権者】
【識別番号】390001993
【氏名又は名称】みらい建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100097054
【弁理士】
【氏名又は名称】麻野 義夫
(72)【発明者】
【氏名】菅野 高弘
(72)【発明者】
【氏名】半田 英明
【審査官】
須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−225139(JP,A)
【文献】
特開2002−250018(JP,A)
【文献】
特開2013−199792(JP,A)
【文献】
特開2012−097419(JP,A)
【文献】
特開2006−299754(JP,A)
【文献】
実開平02−005424(JP,U)
【文献】
実開昭62−016123(JP,U)
【文献】
特開2000−234316(JP,A)
【文献】
特開2013−104294(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0035068(US,A1)
【文献】
米国特許第05118056(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 1/00−3/28
E02B 7/20−7/54
E02B 8/02−8/04
E01F 1/00
E01F 13/00−15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
津波等によって漂流物が通路から外部に流出するのを防止する装置であって、
前記通路の左右位置に立設された一対の支柱部材と、
前記一対の支柱部材に沿って昇降用ロープで昇降可能に支持されて、下降時は、通路面に形成された溝内に全縮状態で格納されて前記通路を全開し、上昇時は、前記一対の支柱部材の間に全伸状態で広がって前記通路を全閉可能なネット状の昇降フェンスと、
前記昇降用ロープに連結され、自重で下降するのに伴って前記昇降用ロープを介して前記昇降フェンスを下降位置から上昇位置に上昇させる錘部材と、
前記錘部材を前記昇降フェンスの下降位置で係止する係止部材と、
前記津波等による水位の上昇時に浮上して、前記係止部材を係止解除するフロートとを備えたことを特徴とする漂流物の流出防止装置。
【請求項2】
前記昇降フェンスは、上下方向に一定の間隔で左右方向に延在するフェンス用ロープと、左右方向に一定の間隔で上下方向に延在し、前記フェンス用ロープの上下間隔を保持するフェンス用チェーンとで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の漂流物の流出防止装置。
【請求項3】
前記フェンス用ロープの両端部には、前記一対の支柱部材の内部空間に入り込む支持金具がそれぞれ取付けられ、
前記一対の支柱部材の内部空間には、上下の前記支持金具を連結する両端用チェーンが設けられ、
前記一対の支柱部材の内部空間に前記昇降用ロープがそれぞれ配置され、前記各昇降用ロープは、最上段の前記各支持金具にそれぞれ連結され、
前記各支持金具の前記両端用チェーンの連結部には、連結された前記両端用チェーンを収納可能なチェーンカップが設けられていることを特徴とする請求項2に記載の漂流物の流出防止装置。
【請求項4】
前記一対の支柱部材の一方の内部空間に前記錘部材が設けられ、
前記各昇降用ロープは、前記錘部材にそれぞれ連結されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の漂流物の流出防止装置。
【請求項5】
前記係止部材と前記フロートは、前記錘部材が設けられた支柱部材側に配置され、前記フロートはフロートチャンバー内に格納され、前記フロートは、高さ調整可能となっていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の漂流物の流出防止装置。
【請求項6】
前記通路面に形成された溝に、常時はこの溝を閉じる蓋体が設けられ、前記蓋体は、前記昇降フェンスの上昇する上端が前記蓋体のガイド部に当接したときに前記溝を開くようになることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の漂流物の流出防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漂流物の流出防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、支柱間に掛け渡したチェーンの昇降により、駐車場等の出入口のゲートの開閉を行うチェーンゲート装置がある(特許文献1参照)。
【0003】
かかるチェーンゲート装置は、通常、開口幅が3m程度、高さが1m程度のものであって、リモコン操作によって開閉操作するものである。
【0004】
ところで、地震に伴って大きな津波の押し波が襲来した場合、海側の港湾施設では、コンテナ等の漂流物が陸側に流出して、民家等に激突する等の事態が生じることがある。しかも、引き波時には、コンテナ等の漂流物が海に流出して行方不明になることがある。
【0005】
そこで、
図6に示すように、海側と陸側に略平行な道路30の中央分離帯31に、例えば、高さが15m程度の支柱部材(ポール)32を15m程度間隔で設置する。そして、隣り合う支柱部材32の間に上下多段(本例でが4段)でロープ33を横方向に張り渡し、各ロープ33の間を縦金具34で連結したネット状の固定フェンス35を設けたものがある。
【0006】
このようなネット状の固定フェンス35により、津波の押し波時には、コンテナ等の漂流物が海側から道路30を介して陸側に流出すること、引き波時には、陸側に流出したコンテナ等の漂流物が陸側から海に流出することを防止することができる。
【0007】
なお、同様な装置として、漂流物捕捉機能付き防波柵が提案されているが、単に固定の防波柵である(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−250018号公報
【特許文献2】特開2013−119698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、中央分離帯31には、トレーラー等の大型車両が日常的に通るための出入口となる通路(開口幅が20m程度の開口部分)36が必要であることから、この通路36には、固定フェンス35や固定の防波柵を設けることができない。
【0010】
そのため、津波の押し波時には、コンテナ等の漂流物が海側から通路36を介して陸側に流出すること、引き波時には、陸側に流出したコンテナ等の漂流物が陸側から通路36を介して海に流出して不明になるという問題があった。
【0011】
なお、通路36に背景技術のようなチェーンゲート装置を設置して、チェーンにより、漂流物の流出を防止できるのではと考えられなくはない。しかし、津波等が襲来した場合、先ず停電することが考えられるから、電力を必要とするリモコン操作によって閉操作することは不可能である。
【0012】
本発明は、前記問題を解消するためになされたもので、常時は通路の通行に支障が生じない一方、津波襲来時は漂流物が通路から流出するのを無動力で防止することができる漂流物の流出防止装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、本発明は、津波等によって漂流物が通路から外部に流出するのを防止する装置である。前記通路の左右位置に立設された一対の支柱部材を備えている。前記一対の支柱部材に沿って昇降用ロープで昇降可能に支持されて、下降時は、通路面に形成された溝内に全縮状態で格納されて前記通路を全開し、上昇時は、前記一対の支柱部材の間に全伸状態で広がって前記通路を全閉可能なネット状の昇降フェンスを備えている。前記昇降用ロープに連結され、自重で下降するのに伴って前記昇降用ロープを介して前記昇降フェンスを下降位置から上昇位置に上昇させる錘部材を備えている。前記錘部材を前記昇降フェンスの下降位置で係止する係止部材を備えている。前記津波等による水位の上昇時に浮上して、前記係止部材を係止解除するフロートを備えている。
【0014】
本発明によれば、昇降フェンスは、常時は、通路の溝内に全縮状態で格納されているから、歩行者の歩行や車両の走行等に支障は生じない。
【0015】
一方、津波等(高潮も含まれる。)によって通路の水位が上昇してフロートが浮上すると、係止部材による係止が自動的に解除されることで錘部材は自重で下降し、昇降用ロープを介して昇降フェンスが上昇位置に自動的に上昇される。これにより、昇降フェンスは、一対の支柱部材の間に全伸状態で広がって通路を全閉するようになるから、津波等で流されてきた漂流物を捕捉することで、漂流物が通路から外部に流出するのを無動力で防止することができる。特に、電動や手動では、昇降フェンスの上昇操作に相当な時間がかかるが、錘部材の自重下降で昇降フェンスを上昇させるから、昇降フェンスは、ほぼ瞬時に上昇位置に上昇されるようになる。
【0016】
また、昇降フェンスはネット状であることから、津波等の水流・水圧の影響を受けにくく、漂流物だけを確実に捕捉することができる。
【0017】
さらに、津波等による水位の上昇に伴うフロートの浮上で、係止部材による係止が解除され、錘部材が自重で下降することで、昇降フェンスが上昇位置に上昇される。したがって、停電時には起動不能になる電動機等を全く必要とせず、無動力で昇降フェンスを自動的に上昇させることができる。
【0018】
前記昇降フェンスは、上下方向に一定の間隔で左右方向に延在するフェンス用ロープと、左右方向に一定の間隔で上下方向に延在し、前記フェンス用ロープの上下間隔を保持するフェンス用チェーンとで構成することができる。
【0019】
この構成によれば、昇降フェンスをフェンス用ロープとフェンス用チェーンとでネット状に構成しているから、例えば、全伸状態で高さ15m、幅20mの形状としても軽量化が可能である。
【0020】
前記フェンス用ロープの両端部には、前記一対の支柱部材の内部空間に入り込む支持金具がそれぞれ取付けられ、
前記一対の支柱部材の内部空間には、上下の前記支持金具を連結する両端用チェーンが設けられ、前記一対の支柱部材の内部空間に前記昇降用ロープがそれぞれ配置され、前記各昇降用ロープは、最上段の前記各支持金具にそれぞれ連結され
、前記各支持金具の前記両端用チェーンの連結部には、連結された前記両端用チェーンを収納可能なチェーンカップが設けられている構成とすることができる。
【0021】
この構成によれば、昇降フェンスの下降時に、一対の支柱部材の内部空間に入り込んだ支持金具を連結する両端用チェーンは、チェーンカップにそれぞれ収納されるから、支持金具を上下方向に整然と整列させることができる。これにより、昇降フェンスの上昇時に、支持金具が両端用チェーンに絡み付くおそれが無くなり、昇降フェンスの無動力による昇降動作がスムーズ、かつ確実になる。
【0022】
前記一対の支柱部材の一方の内部空間に前記錘部材が設けられ、前記各昇降用ロープは、前記錘部材にそれぞれ連結されている構成とすることができる。
【0023】
この構成によれば、一対の支柱部材の内部空間の各昇降用ロープは、一対の支柱部材の一方の内部空間の1個の錘部材にそれぞれ連結する。これにより、1個の錘部材の自重の下降で、各昇降用ロープを介して昇降フェンスの両端部分を同期させて平行にスムーズに上昇させることができる。
【0024】
前記係止部材と前記フロートは、前記錘部材が設けられた支柱部材側に配置され、前記フロートはフロートチャンバー内に格納され、前記フロートは、高さ調整可能となっている構成とすることができる。
【0025】
この構成によれば、フロートの高さを調整することで、係止部材による係止解除タイミングを調整することができる。また、フロートをフロートチャンバー内に格納することで、フロートチャンバーに注水すれば、係止部材による係止解除試験を容易に行うことができる。さらに、フロートチャンバーでフロートを保護することもできる。
【0026】
前記通路面に形成された溝に、常時はこの溝を閉じる蓋体が設けられ、前記蓋体は、前記昇降フェンスの上昇する上端が前記蓋体のガイド部に当接したときに前記溝を開くようになる構成とすることができる。
【0027】
この構成によれば、常時は蓋体で溝を閉じているから、溝内にゴミや砂が入り込まなくなる。また、昇降フェンスの上昇時は、昇降フェンスの上端がガイド部に当接することで、蓋体が自動的に開くようになるから、昇降フェンスの上昇時の障害にならなくなる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、常時は通路の通行に支障が生じない一方、津波襲来時は漂流物が通路から流出するのを無動力で防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明に係る漂流物の流出防止装置であり、(a)は平面図、(b)は通路閉時の正面図である。
【
図2】
図1の漂流物の流出防止装置の通路開時の正面図である。
【
図3】(a)(b)(c)は、フロートと係止部材と錘部材との作動状態の側面図である。
【
図4】(a)はチェーンカップの側面図、(b)は可動蓋の側面図である。
【
図5】(a)は地下式昇降用ロープの配置図、(b)は空中式昇降用ロープの配置図、(c)は両側式錘部材の配置図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、背景技術と同一構成・作用の箇所は、同一番号を付して詳細な説明を省略する。
【0031】
図1は漂流物の流出防止装置であり、(a)は平面図、(b)は通路閉時の正面図である。
図2は
図1の漂流物の流出防止装置の通路開時の正面図である。
【0032】
例えば、
図6の背景技術と同様に、港湾施設の海側と民家等が存在する陸側との間の道路30の中央分離帯31の支柱部材32の間に、ネット状の固定フェンス35を設けられているとする。
【0033】
この中央分離帯31には、トレーラー等の大型車両が日常的に通るための出入口となる通路36が設けられ、この通路36の開口幅は、20m程度とする。
【0034】
通路36の全幅に亘って掘削した深い溝36a〔
図4(a)参照〕内の左右位置には、中央分離帯31の支柱部材32と略同高さの一対の支柱部材1L,1Rが立設されている。各支柱部材1L,1Rは、内部空間2が形成された四角筒状(円筒状でも可。)である。また、通路36の深い溝36aに連なって、各支柱部材1L,1Rを迂回するように浅い溝36bが掘削されている。
【0035】
一対の支柱部材1L,1Rの間には、フェンス用ロープ3とフェンス用チェーン4とで構成されたネット状の昇降フェンス5が配設されている。
【0036】
フェンス用ロープ3は、上下方向に一定の間隔(例えば1m間隔で5本)で左右方向に延在し、フェンス用チェーン4は、左右方向に一定の間隔(例えば2m間隔で3本)で上下方向に延在している。フェンス用ロープ3とフェンス用チェーン4との交差部分が連結されて、フェンス用チェーン4でフェンス用ロープ3の上下間隔を保持するようになる。
【0037】
この数値例の昇降フェンス5であれば、昇降フェンス5の幅(一対の支柱部材1L,1Rの間の通路36の開口幅にほぼ相当)は8m程度、昇降フェンス5の高さ(一対の支柱部材1L,1Rの高さにほぼ相当)は、4m程度となる。ただ、実施に際しては、通路36の開口幅は20m程度、一対の支柱部材1L,1Rの高さは15m程度を必要とする場合もある。なお、昇降フェンス5の幅と高さは、このような数値例に限られるものではない。
【0038】
フェンス用ロープ3の両端部には、各支柱部材1L,1Rの内面側のスリット1aから内部空間2に入り込む支持金具6がそれぞれ取付けられている。
【0039】
各支柱部材1L,1Rの内部空間2には、昇降用ロープ7L,7Rがそれぞれ配置され、各昇降用ロープ7L,7Rの一端部は、最上段の支持金具6にそれぞれ連結されている。
【0040】
上下の各支持金具
6は、両端用チェーン8
により連結され、各支持金具6の両端用チェーン8の連結部には、
図4(a)のように、連結された両端用チェーン8を収納可能なチェーンカップ9がそれぞれ設けられている。
【0041】
また、各支柱部材1L,1Rの内部空間2の下金具10と、最下段の支持金具6との間には上昇位置規制用チェーン11が連結され、下金具10には、上昇位置規制用チェーン11を収納可能なチェーンカップ9が設けられている。
【0042】
各支柱部材1L,1Rの内部空間2の上部には、上部滑車13L,13Rがそれぞれ設けられ、各昇降用ロープ7L,7Rは、上部滑車13L,13Rに掛け回されて、下方に延在されている。
【0043】
左側の昇降用ロープ7Lは、左側の支柱部材1Lの内部空間2内に配置した錘(ウェイト)部材14の動滑車15に掛け回されて上方にUターンされ、その他端部は、左側の支柱部材1Lの内部空間2の上金具16に連結されている。
【0044】
右側の昇降用ロープ7Rは、右側の支柱部材1Rの内部空間2の深い溝36aの付近に配置した滑車17Rに掛け回され、次いで浅い溝36b内の右側の滑車18Rに掛け回されて、浅い溝36b内を左側の支柱部材1Lの方向に延在する。その後、浅い溝36b内の左側の滑車18Lに掛け回され、左側の支柱部材1Rの内部空間2の深い溝36aの付近に配置した滑車17Lに掛け回される。次いで上部滑車13Lの横に配置した滑車19に掛け回された後、左側の昇降用ロープ7Lに、その他端部が連結されている。なお、
図5(a)には、右側の昇降用ロープ7Rの他端部を錘部材14に直接連結したものを例示している。
【0045】
したがって、
図1のように、錘部材14が自重で下降した状態では(矢印c参照)、錘部材14によって左右の昇降用ロープ7L,7Rが同時に引き上げられる。これにより、昇降フェンス5は真っ直ぐに上昇し、一対の支柱部材1L,1Rの間に全伸状態で広がって通路36を全閉するようになる。
【0046】
逆に、
図2のように、係止部材20(後述)で錘部材14を昇降フェンス5の下降位置で係止した状態では(矢印d参照)、左右の昇降用ロープ7L,7Rが同時に引き下げられる。これにより、昇降フェンス5は真っ直ぐに下降し、一対の支柱部材1L,1Rの間の深い溝36a内に全縮(折り畳み)状態で格納されて通路36を全開するようになる。
【0047】
図4(b)のように、通路36の浅い溝36bは、通路36の通行に支障が生じないように、常時は固定蓋21で閉じられている。
【0048】
また、通路36の深い溝36aは、昇降フェンス5が深い溝36a内に格納されている状態では、通路36の通行に支障が生じないように、常時は可動蓋(蓋体)22で閉じられている。この可動蓋22は、ヒンジ軸22aで上下揺動可能に通路面に連結され、昇降フェンス5の上昇する上端(最上部のフェンス用ロープ3)が可動蓋22の円弧状ガイド部22bに当接したときに持ち上げられながら上揺動する。そして、二点鎖線のように、深い溝36aを自動的に開くようになる。
【0049】
左側の支柱部材1Lの内部空間2には、錘部材14を昇降フェンス5の下降位置で係止する係止部材(フック)20がピン20aで左右揺動可能に設けられている。
【0050】
図3のように、左側の支柱部材1Lの外部には、津波等による水位の上昇時に浮上して、係止部材20を係止解除するフロート24が配置されている。
【0051】
このフロート24は、左側の支柱部材1Lの外面にステー27で高さ調整可能に取付けられたフロートチャンバー(箱)25内に上下動可能に格納され、下限ストッパー部25aで当て止められている。なお、フロートチャンバー25の下部には、水流出入穴(不図示)が形成されている。
【0052】
左側の支柱部材1Lの外部には、L字状リンク26が連結され、このL字状リンク26の一端部に係止部材20がリンク20bで連結されている。また、L字状リンク26の二股状他端部にフロート24の中心ねじ軸24aのナット24bが下方から当接されている。
【0053】
錘部材14は、常時は、
図3(a)のように、昇降フェンス5の下降位置で係止部材20により係止されている。
【0054】
そして、
図3(b)のように、津波の襲来時に所定の津波水位WLに達すると、フロート24が浮上する(矢印a参照)。フロート24の浮上で、中心ねじ軸24aのナット24b、L字状リンク26、リンク20bを介して係止部材20が係止解除方向に揺動される(矢印b参照)。これにより、錘部材14の係止が解除されて、錘部材14は、自重で下降するようになる(矢印c参照)。
【0055】
なお、自重で下降した錘部材14は、
図3(c)のように、チェーンブロック等(不図示)で、昇降フェンス5の下降位置まで引き上げる(矢印d参照)。これにより、錘部材14で係止部材20が左揺動され、L字状リンク26とリンク20bのみが作動することで、係止部材20で再び自動的に係止することができる。
【0056】
前記のような漂流物の流出防止装置であれば、昇降フェンス5は、常時は、通路36の深い溝36a内に全縮状態で格納されているから、歩行者の歩行や車両の走行等に支障は生じない。
【0057】
そして、津波等(高潮も含まれる。)によって道路30や通路36の水位が上昇し、所定の津波水位WLに達すると、フロート24が浮上する。これにより、中心ねじ軸24aのナット24b、L字状リンク26、リンク20bを介して係止部材20が係止解除方向に揺動する。
【0058】
このとき、錘部材14の係止が自動的に解除されることで、錘部材14は自重で下降し、昇降用ロープ7L,7Rを介して昇降フェンス5が上昇位置に自動的に上昇されるようになる。
【0059】
これにより、昇降フェンス5は、一対の支柱部材1L,1Rの間に全伸状態で広がって通路36を全閉するようになるから、津波等で流されてきた漂流物を捕捉することで、漂流物が通路36から外部に流出するのを無動力で防止することができる。特に、電動や手動では、昇降フェンス5の上昇操作に相当な時間がかかるが、錘部材14の自重下降で昇降フェンス5を上昇させるから、昇降フェンス5は、ほぼ瞬時に上昇位置に上昇されるようになる。
【0060】
また、昇降フェンス5はネット状であることから、津波等の水流・水圧の影響を受けにくく、漂流物だけを確実に捕捉することができる。
【0061】
さらに、津波等による水位の上昇に伴うフロート24の浮上で、係止部材20による係止が解除され、錘部材14が自重で下降することで、昇降フェンス5が上昇位置に上昇される。したがって、停電時には起動不能になる電動機等を全く必要とせず、無動力で昇降フェンス5を自動的に上昇させることができる。なお、係止部材20を手操作で係止解除できるようにすることも可能であり、この場合には、津波等の前に、昇降フェンス5を自動的に上昇させておくこともできる。
【0062】
また、昇降フェンス5をフェンス用ロープ3とフェンス用チェーン4とでネット状に構成しているから、例えば、全伸状態で高さ15m、幅20mの形状としても軽量化が可能である。
【0063】
さらに、昇降フェンス5の下降時に、一対の支柱部材1L,1Rの内部空間2に入り込んだ支持金具6を連結する両端用チェーン8は、チェーンカップ9にそれぞれ収納されるから〔
図4(a)の右図参照〕、支持金具6を上下方向に整然と整列させることができる。これにより、昇降フェンス5の上昇時に、支持金具6が両端用チェーン8に絡み付くおそれが無くなり、昇降フェンス5の無動力による昇降動作がスムーズ、かつ確実になる。
【0064】
また、一対の支柱部材1L,1Rの内部空間2の各昇降用ロープ7L,7Rは、一対の支柱部材1L,1Rの一方(本例では支柱部材1L)の内部空間2の1個の錘部材14にそれぞれ連結している。これにより、1個の錘部材14の自重の下降で、各昇降用ロープ7L,7Rを介して昇降フェンス5の両端部分を同期させて平行にスムーズに上昇させることができる。
【0065】
さらに、支柱部材1Lの外面のステー27でフロートチャンバー25の高さを調整し、フロート24のナット24bをねじ回して高さを微調整することができる。これにより、フロート24がL字状リンク26に当接するタイミング、つまり、フロート24の高さを調整できるから、係止部材20による係止解除タイミングを調整することができる。また、フロート24をフロートチャンバー25内に格納することで、フロートチャンバー25に注水すれば、係止部材20による係止解除試験を容易に行うことができる。さらに、フロートチャンバー25でフロート24を保護することもできる。
【0066】
また、常時は可動蓋22で深い溝36aを閉じているから、溝36a内にゴミや砂が入り込まなくなる。さらに、昇降フェンス5の上昇時は、昇降フェンス5の上端がガイド部22bに当接することで、可動蓋22が自動的に開くようになるから、昇降フェンス5の上昇時の障害にならなくなる。
【0067】
前記実施形態では、
図5(a)のように、右側の昇降用ロープ7Rは、通路36の浅い溝36bを通して、左側の昇降用ロープ7Lの方向に誘導したものである(地下式)。これに対して、
図5(b)のように、一対の支柱部材1L,1Rの上方を通して、左側の昇降用ロープ7Lの方向に誘導することもできる(空中式)。
【0068】
前記実施形態では、各昇降用ロープ7L,7Rを1個の錘部材14にそれぞれ連結するものであったが、
図5(c)のように、各昇降用ロープ7L,7Rにそれぞれ錘部材14を別個に連結することもできる(両側式)。
【0069】
前記実施形態では、道路30の中央分離帯31の通路36であったが、要するに、一対の支柱部材の間の通路(出入口等)であればよく、中央分離帯31の通路36に限られるものではない。
【符号の説明】
【0070】
1L,1R 支柱部材
2 内部空間
3 フェンス用ロープ
4 フェンス用チェーン
5 昇降フェンス
6 支持金具
7L,7R 昇降用ロープ
8 両端用チェーン
9 チェーンカップ
14 錘部材
20 係止部材
22 可動蓋(蓋体)
22b ガイド部
24 フロート
25 フロートチャンバー
36 通路
36a 深い溝
WL 津波水位