(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358503
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】消耗電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 1/02 20060101AFI20180709BHJP
C22B 9/18 20060101ALI20180709BHJP
B22D 23/10 20060101ALI20180709BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
C22C1/02 503G
C22B9/18 Z
B22D23/10 531
C22C19/05 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-138662(P2014-138662)
(22)【出願日】2014年7月4日
(65)【公開番号】特開2016-6217(P2016-6217A)
(43)【公開日】2016年1月14日
【審査請求日】2017年5月25日
(31)【優先権主張番号】特願2014-109804(P2014-109804)
(32)【優先日】2014年5月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】和田 彰人
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 元嗣
【審査官】
山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】
特表2006−516680(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0016926(US,A1)
【文献】
特開昭61−079742(JP,A)
【文献】
特開2004−136301(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0076540(US,A1)
【文献】
特開平09−241767(JP,A)
【文献】
特開2000−144273(JP,A)
【文献】
特開2005−314728(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0236079(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 9/18 −9/193
C22C 1/02
C22C 19/05
B22D 23/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.001%超〜0.100%未満、
Cr:11.0%以上〜19.0%未満、
Co:0.5%以上〜22.0%未満、
Fe:0.5%以上〜10.0%未満、
Si:0.1%未満、
Mo:2.0%超〜5.0%未満、
W:1.0%超〜5.0%未満、
Mo+1/2W:2.5%以上〜5.5%未満、
S:0.010%以下、
Nb:0.3%以上〜2.0%未満、
Al:3.00%超〜6.50%未満、
Ti:0.20%以上〜2.49%未満、
残部Ni及び不可避的不純物からなり、且つ、原子%で、
Ti/Al×10:0.2以上〜4.0未満、
Al+Ti+Nb:8.5%以上〜13.0%未満、を満たす成分組成の二次溶解インゴットを与えるための消耗電極の製造方法であって、
前記成分組成を有する一次溶解バルク材について、炭化物を固溶させ得る温度に加熱後、360HV以下の硬さとなるように粒界炭化物の析出を抑制した冷却速度で炉冷する熱処理ステップを含むことを特徴とする消耗電極の製造方法。
【請求項2】
前記冷却速度は80℃/hr以下であることを特徴とする請求項1記載の消耗電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロスラグ再溶解法や真空アーク再溶解法などの二次溶解において使用される消耗電極の製造方法に関し、特に、粒界炭化物を析出しやすい特定の成分組成の超耐熱合金を得るための消耗電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、高合金である超耐熱合金は溶解・凝固の過程において偏析を生じやすく、エレクトロスラグ再溶解(ESR)法や真空アーク再溶解(VAR)法などの二次溶解を行って、比較的均質な鋳塊を得ている。ここで、二次溶解に使用される消耗電極は、冷却モールドの上に吊下されて大電流を流されることでその下端から抵抗加熱により連続的に溶解していく。かかる溶解が安定して連続するように制御できないと、均質な鋳塊を得ることはできない。
【0003】
例えば、特許文献1では、Nb及び/又はTiを含む成分組成の超耐熱合金についての二次溶解において、消耗電極の割れに起因する不安定溶解及びこの割れによる小片そのものが未溶解のまま鋳塊に残留することを防止するための消耗電極の製造方法を開示している。Inconel(登録商標)718、A286、V57などのFe−Ni−Cr基の超耐熱合金では、ラーベス(Laves)相や炭化物が結晶粒界に析出してこれを脆化させることが知られている。消耗電極においても、特に、ラーベス相が結晶粒界に析出又は晶出していると、これを起点に二次溶解中に割れを生じ易い。つまり、二次溶解時には、消耗電極の先端に大きな温度勾配が生じるから、熱応力で脆的な結晶粒界を起点とした粒界割れが生じ、これが結晶粒界に沿って伝播すると大きな割れに至るのである。そこで、消耗電極の製造時において、融点以下であり且つラーベス相を固溶させ得るような温度で均熱処理を施すとしている。
【0004】
また、特許文献2では、Al及びTiを含む成分組成の超耐熱合金の二次溶解において、特許文献1と同様に、消耗電極の割れに起因する不安定溶解及びその破片の鋳塊への落下について述べ、これに対して、鍛伸材について非金属介在物を溶体化するための熱処理を施すとともに、その後、油冷又は水冷によって組織調整を行う消耗電極の製造方法を開示している。Al+Tiを所定量以上含有するFe−Ni−Cr基、Ni−Cr基、Ni−Cr−Co基、又はCo基などの超耐熱合金では、特許文献1に開示のような均熱処理(溶体化熱処理)だけでは均質な鋳塊を得るには不十分であるとし、消耗電極を鍛伸して靭性を高め、更に、熱処理後に油冷又は水冷することで硬さを高くなりすぎないように組織調整し、特に、Ni
3(Al,Ti)の析出を防止すべきとしている。
【0005】
更に、特許文献3では、Inconel(登録商標)718等のγ’析出硬化型のNi基超耐熱合金において、消耗電極の部分的な欠落を防止するためには溶体化温度よりも低い温度域で均熱処理を行って過時効状態に処理を行うべきとした消耗電極の製造方法を開示している。均熱処理は700〜950℃のγ’析出温度域で10時間以上行われ、過時効状態として硬さを低下させることで、脆化相を減少させ、消耗電極の部分的な欠落を防止できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−241767号公報
【特許文献2】特開2000−109940号公報
【特許文献3】特開2009−97073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、γ’の析出量と熱間加工性とのバランスをNb、Al、Tiの含有量によって調整しようとする新規なNi基超耐熱合金について、上記したInconel(登録商標)718等と同様の製造方法を適用しようとしたときに、特に、二次溶解時に消耗電極に割れが生じやすい。
【0008】
本発明は、上記したような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、所定の成分組成のNi基超耐熱合金の二次溶解において、均質な鋳塊を得るための消耗電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、少なくとも質量%で、Nb:0.3%以上〜2.0%未満、Al:3.00%超〜6.50%未満、Ti:0.20%以上〜2.49%未満を含有し、Ti量を少なく一方でAl量を多くして従来と同程度のγ’の析出量を確保し、熱間鍛造加工性と高温強度特性との両立を図ったNi基超耐熱合金を開発した。ここで、二次溶解中の消耗電極の割れ及び欠落について調査したところ、Inconel(登録商標)718のようなラーベス相などの金属間化合物の析出を原因とするものではないことが観察された。その1つの原因としては、かかるNi基超耐熱合金はラーベス相の析出を抑えるように成分組成設計を与えられていることがあるが、二次溶解中の消耗電極の割れ等の原因は、主として粒界に析出した粗大な炭化物によるものである。すなわち、一次溶解にて析出した炭化物が二次溶解において優先的に溶融し、これを起点として割れを発生させ及び欠落を生じさせると考えられる。
【0010】
そこで、本発明による消耗電極の製造方法は、質量%で、C:0.001%超〜0.100%未満、Cr:11.0%以上〜19.0%未満、Co:0.5%以上〜22.0%未満、Fe:0.5%以上〜10.0%未満、Si:0.1%未満、Mo:2.0%超〜5.0%未満、W:1.0%超〜5.0%未満、Mo+1/2W:2.5%以上〜5.5%未満、S:0.010%以下、Nb:0.3%以上〜2.0%未満、Al:3.00%超〜6.50%未満、Ti:0.20%以上〜2.49%未満、残部Ni及び不可避的不純物からなり、且つ、原子%で、Ti/Al×10:0.2以上〜4.0未満、Al+Ti+Nb:8.5%以上〜13.0%未満、を満たす成分組成の二次溶解インゴットを与えるための消耗電極の製造方法であって、前記成分組成を有する一次溶解バルク材について、炭化物を固溶させ得る温度に加熱後、360HV以下の硬さとなるように粒界炭化物の析出を抑制した冷却速度で炉冷する熱処理ステップを含むことを特徴とする。
【0011】
かかる発明によれば、炭化物の粒界への析出を抑えて二次溶解における割れや欠落を生じづらい消耗電極、すなわち二次溶解によって均質な鋳塊を得るための消耗電極を製造することができる。
【0012】
上記した発明において、前記冷却速度は80℃/hr以下であることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、消耗電極の硬さを確実に360HV以下とできて炭化物の粒界への析出を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本発明の製造方法における対象合金の成分組成を示す図である。
【
図3】本発明の製造方法における対象合金の熱処理後の組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明による1つの実施例である消耗電極の製造方法について、
図1に沿って
図2を参照しつつ詳細に説明する。
【0015】
図1に
図2を併せて参照すると、まず
図2に示す成分組成の範囲内、且つ、原子%で、Ti/Al×10=0.2以上〜4.0未満、Al+Ti+Nb=8.5%以上〜13.0%未満、を満たす成分組成の二次溶解インゴットを得るべく、同成分組成の合金の一次溶解バルク材を得る(S1)。かかるバルク材は、鋳造により消耗電極形状とし得るが、必要に応じて鍛造などの加工を施してもよい。ここでは、目標値A及び目標値Bに示す成分組成の範囲内でそれぞれ製造を行った実施例を示す。
【0016】
次いで、かかるバルク材に熱処理を施す(S2)。この熱処理においては、炭化物を固溶させるため、例えば1200℃に加熱して3時間保持し(S3)、炉冷する(S4)。炉冷においては、結晶粒界への炭化物の析出を抑制するよう、冷却速度は80℃/hr以下とし、好ましくは50℃/hr以下とする。かかる冷却によって得た消耗電極は、炭化物の析出を抑制できて360HV以下の硬さの組織を得ることができる。
【0017】
上記したように、炭化物の析出を抑制させた消耗電極によれば、特定の成分組成のNi基超耐熱合金において、二次溶解における消耗電極の割れ及びその欠落を抑制できて、均質なインゴットを得ることが出来るのである。
【0018】
次に、上記した成分組成のNi基超耐熱合金を用いて、熱処理条件と炭化物の析出状況の関係について調査した結果について、
図2乃至
図4を用いて説明する。
【0019】
図2の目標値Aに示す成分組成の合金について、試験片を複数作成し、熱処理条件を変えて熱処理を行い、そのミクロ組織を観察した。
【0020】
図3に示すように、1180℃×3hr及び1200℃×3hrの等温保持から空冷(AC)を行うと、どちらも結晶粒界に炭化物の析出が観察される。これに対し、炉冷(FC)を模して50℃/hrで冷却すると、どちらも結晶粒界の炭化物の析出が空冷の場合と比較して抑制されていることがわかる。
【0021】
また、硬さは、1180℃×3hr及び1200℃×3hrの等温保持の順に、それぞれ、空冷では385HV及び396HVの硬さであったのに対し、50℃/hrの冷却速度の冷却では349HV及び319HVの硬さであった。つまり、空冷に比べて炉冷とすることで硬さが低くなり、360HV以下となる。
【0022】
ここで、50℃/hrの空冷によって結晶粒界の炭化物の析出を抑制できたが、γ’の析出温度域を空冷に比べてゆるやかな冷却速度で通過しており、γ’も析出していると考えられる。しかし、少なくとも室温での硬さは炉冷で低くなっていることから、室温での硬さについては炭化物の析出量が支配的であると言える。
【0023】
さらにいくつかの追加試験を行い、冷却速度を80℃/hr以下とすることで、上記と同様に結晶粒界の炭化物の析出を抑制できることを確認した。
【0024】
また、
図2の目標値Bに示す成分組成の合金についても試験を行い、冷却速度を80℃/hr以下とすることで同様に結晶粒界における炭化物の析出を抑制できることを確認できた。
【0025】
さらに、
図4に示すように、比較例として、Inconel(登録商標)718の試験片について、1160℃×6.5hrの等温保持後に空冷する熱処理を行い、組織観察を行った。結晶粒界の炭化物の析出はほとんど観察されず、
図2に示す成分組成の合金における挙動とは異なることが判る。すなわち、
図2に示す成分組成の合金は、Inconel(登録商標)718と同様な加熱保持後に空冷を行う熱処理では、粒界炭化物を析出させてしまうので、炭化物を固溶させてから炉冷を行って炭化物の析出を抑制するのである。
【0026】
図5に示すように、他の比較例として、
図2の合金について熱処理後に空冷して得た消耗電極について、二次溶解を行った場合の電極下端部のミクロ組織を調査した。ミクロ組織は、二次溶解を中断し、消耗電極の下端部の表層近傍の断面組織を観察して行った。これによれば、消耗電極の先端では、二次溶解中に粒界近傍が優先的に溶出していることが観察された。すなわち、粒界炭化物が優先的に溶融していると考えられ、これによって生じた粒界近傍の溶出部分を起点として、二次溶解中の温度勾配による熱応力で粒界割れが生じ、これが結晶粒界に沿って伝播して大きな割れや電極の欠落に至ると考えられる。上記した実施例では、優先的に溶融する粒界炭化物の析出が抑制されているため、このような粒界近傍の溶出は生じない。
【0027】
なお、本発明で対象とする合金は、質量%で、C:0.001%超〜0.100%未満、Cr:11.0%以上〜19.0%未満、Co:0.5%以上〜22.0%未満、Fe:0.5%以上〜10.0%未満、Si:0.1%未満、Mo:2.0%超〜5.0%未満、W:1.0%超〜5.0%未満、Mo+1/2W:2.5%以上〜5.5%未満、S:0.010%以下、Nb:0.3%以上〜2.0%未満、Al:3.00%超〜6.50%未満、Ti:0.20%以上〜2.49%未満、残部Ni及び不可避的不純物からなり、且つ、原子%で、Ti/Al×10:0.2以上〜4.0未満、Al+Ti+Nb:8.5%以上〜13.0%未満、を満たす成分組成を有する。かかる合金は、例えばInconel(登録商標)718と比較して、γ’の析出量を増加し700℃以上での高温機械強度を向上させながら、γ’の固溶温度の上昇を防いで高い熱間加工性を維持することを考慮して開発されたものである。
【0028】
また、上記した本発明で対象とする合金は、任意添加元素として、質量%で、B:0.0001%以上〜0.03%未満、Zr:0.0001%以上〜0.1%未満、Mg:0.0001%以上〜0.030%未満、Ca:0.0001%以上〜0.030%未満、REM:0.0001%以上〜0.200%以下を含み得て、不純物元素としてP:0.020%未満、N:0.020%未満を含み得る。
【0029】
ここまで本発明による代表的実施例及びこれに基づく改変例について説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。当業者であれば、添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例を見出すことができるだろう。