特許第6358523号(P6358523)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6358523
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】感光性CTPフレキソ印刷原版
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/00 20060101AFI20180709BHJP
【FI】
   G03F7/00 502
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-520636(P2018-520636)
(86)(22)【出願日】2018年1月12日
(86)【国際出願番号】JP2018000683
【審査請求日】2018年4月20日
(31)【優先権主張番号】特願2017-70472(P2017-70472)
(32)【優先日】2017年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】松尾 啓介
(72)【発明者】
【氏名】米倉 弘倫
【審査官】 川口 真隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−188900(JP,A)
【文献】 特開2010−26036(JP,A)
【文献】 特開2010−276916(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/150844(WO,A1)
【文献】 特開2013−178428(JP,A)
【文献】 特開平7−84370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも支持体、感光性樹脂層、及び感熱マスク層が順次積層されてなる感光性印刷原版であって、感熱マスク層が、メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)と分子内に塩基性窒素原子を含有する水溶性ポリアミド樹脂(B)とを含有し、ポリアミド樹脂(A)のガラス転移点が0℃〜30℃であることを特徴とする感光性CTPフレキソ印刷原版。
【請求項2】
メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)が脂肪族ポリアミド樹脂であり、そのメトキシメチル化率がアミド基中の全窒素原子量に対して15〜45モル%であることを特徴とする請求項1に記載の感光性CTPフレキソ印刷原版。
【請求項3】
感熱マスク層中のメトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)と水溶性ポリアミド樹脂(B)との割合が、[ポリアミド樹脂(A)]/[ポリアミド樹脂(B)]の質量比で40/60〜90/10の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の感光性CTPフレキソ印刷原版。
【請求項4】
ポリアミド樹脂(B)が、ピペラジン環を分子内に含有する共重合ポリアミドであり、ポリアミド樹脂(B)のガラス転移点が30〜60℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の感光性CTPフレキソ印刷原版。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータ製版技術により凸版印刷版を製造するために使用される感光性CTPフレキソ印刷原版に関するものであり、特に、低温の取り扱い作業時でもひび割れの発生しない感熱マスク層を有する感光性CTPフレキソ印刷原版に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フレキソ印刷の分野において、デジタル画像形成技術として知られるコンピュータ製版技術(Computer to Plate、CTP技術)は、極めて一般的なものになってきている。CTP技術は、コンピュータ上で処理された情報を印刷版上に直接出力してレリーフとなる凹凸パターンを得る方法である。この技術により、ネガフィルムの製造工程が不要となり、コストとネガ作製に必要な時間を削減できる。
【0003】
CTP技術では、光重合すべきでない領域を覆うために、従来から用いられているネガフィルムが、印刷版内で形成統合されるマスクに取って代えられる。この統合マスクを得る方法として、感光性樹脂層上に化学線に対して不透明な感赤外線層(感熱マスク層)を設け、赤外線レーザーでこの感赤外線層を蒸発させることにより画像マスクを形成する方法が広く使用されている(特許文献1参照)。
【0004】
感熱マスク層には、放射線不透過材料であるカーボンブラックとバインダーよりなるものが一般的に使われている。感熱マスク層は、赤外線レーザーによりアブレーションされるものであり、薄膜であることがアブレーション効率の点から好ましい。また、薄膜であるほどレリーフに与えるシワの影響も少ない。ただし、感熱マスク層は光重合層に対する化学放射線の透過を阻止するために、一般的に2.0以上の透過光学濃度(遮光性)が求められる。
【0005】
CTP版では、皮膜形成可能なバインダーポリマー中にカーボンブラックを分散させた感熱マスク層が一般的に用いられるが、バインダーポリマーへのカーボンブラックの分散性が悪いために透過光学濃度のムラが生じる問題があった。そのために感熱マスク層はアブレーション効率の点から薄くしたいにもかかわらず、薄くできない問題があった。
【0006】
透過光学濃度のムラの問題に対して、特許文献2にはカーボンブラックの分散性にすぐれたバインダーポリマーを用いることで、感熱マスク層を薄膜にしても透過光学濃度のムラが少なくできることが記載されている。
【0007】
一方、CTPフレキソ印刷原版は、アブレーション装置から着脱するための取り扱い中に印刷版原版に曲げの力が加わった場合に、感熱マスク層にひび割れが発生しやすいという問題があった。ひび割れの問題に対して、特許文献3には、感光性樹脂層中の合成ゴム成分を感熱マスク層に含有させることで、耐屈曲性を向上させ、感熱マスク層のひび割れ発生を防止できることが記載されている。また、特許文献4には、ガラス転移温度(Tg)が48〜85℃の範囲内にあるアクリル樹脂に対して感光性樹脂層中のゴム成分を配合させることで、ひび割れを改善できることが記載されている。
【0008】
最近、CTPフレキソ印刷原版は、ネガフィルムを用いるアナログ版に替わって主な製版技術となりつつある。その結果、CTPフレキソ印刷原版は、冬場の低温低湿度下で作業することとなり、トラブルが発生するようになった。つまり、冬場にCTPフレキソ印刷原版が保管倉庫より取出した直後に取り扱い作業をする場合があり、印刷原版の温度が10℃以下のままで使用される場合がある。そのような過酷な低温条件での取り扱いでは、特許文献3や特許文献4に記載の手段でもまだひび割れの発生を防止できていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表平7−506201号公報
【特許文献2】特開2009−300588号公報
【特許文献3】特開2009−288700号公報
【特許文献4】特開2012−137515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、印刷原版の取り扱い中に印刷版原版に曲げの力が加わっても感熱マスク層にひび割れが発生しないCTPフレキソ印刷原版を提供することにあり、特に10℃以下での低温の過酷な条件でも感熱マスク層にひび割れが発生せず、感熱マスク層を薄膜で形成した場合でも透過光学濃度のムラのない高度な性能を持つCTPフレキソ印刷原版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、感熱マスク層のバインダーポリマーとして、特定の低いガラス転移点(Tg)を有するメトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)と分子内に塩基性窒素原子を含有する水溶性ポリアミド樹脂(B)という二種類のポリアミド樹脂を組み合わせて使用することによって、過酷な低温条件での感熱マスク層のひび割れを効果的に防止することができ、しかも感熱マスク層を薄膜で形成した場合の透過光学濃度のムラを効果的に防止することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(4)の構成を有するものである。
(1)少なくとも支持体、感光性樹脂層、及び感熱マスク層が順次積層されてなる感光性印刷原版であって、感熱マスク層が、メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)と分子内に塩基性窒素原子を含有する水溶性ポリアミド樹脂(B)とを含有し、ポリアミド樹脂(A)のガラス転移点が0℃〜30℃であることを特徴とする感光性CTPフレキソ印刷原版。
(2)メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)が脂肪族ポリアミド樹脂であり、そのメトキシメチル化率がアミド基中の全窒素原子量に対して15〜45モル%であることを特徴とする(1)に記載の感光性CTPフレキソ印刷原版。
(3)感熱マスク層中のメトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)と水溶性ポリアミド樹脂(B)との割合が、[ポリアミド樹脂(A)]/[ポリアミド樹脂(B)]の質量比で40/60〜90/10の範囲であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の感光性CTPフレキソ印刷原版。
(4)ポリアミド樹脂(B)が、ピペラジン環を分子内に含有するポリアミドであり、ポリアミド樹脂(B)のガラス転移点が30〜60℃であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の感光性CTPフレキソ印刷原版。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上述の二種類の特定のポリアミド樹脂を感熱マスク層中で併用することによって、CTPフレキソ印刷原版の表面温度が10℃以下での低温の過酷な条件であっても取り扱い作業中に感熱マスク層にひび割れが発生せず、しかも感熱マスク層を薄膜で形成した場合でも透過光学濃度のムラのない高度な性能を持つCTPフレキソ印刷原版を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のCTPフレキソ印刷原版は、少なくとも支持体、感光性樹脂層、及び感熱マスク層が順次積層した構成を有し、感熱マスク層のバインダーポリマーとして、特定の低いガラス転移点(Tg)を有するメトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)と分子内に塩基性窒素原子を含有する水溶性ポリアミド樹脂(B)という二種類のポリアミド樹脂を組み合わせて使用したことを特徴とする。
【0015】
本発明の印刷原版に使用される支持体としては、可撓性であるが、寸法安定性に優れた材料が好ましく、例えばスチール、アルミニウムなどの金属製支持体、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルムなどの熱可塑性樹脂製支持体を挙げることができる。これらの中でも、寸法安定性に優れ、充分に高い粘弾性を有するポリエチレンテレフタレートフィルムが特に好ましい。支持体の厚みは、機械的特性、形状安定性あるいは印刷版製版時の取り扱い性等から50〜350μm、好ましくは100〜250μmが望ましい。また、必要により、支持体と感光性樹脂層との接着性を向上させるために接着層を設けても良い。
【0016】
本発明の印刷原版に使用される感光性樹脂層は、合成高分子化合物、光重合性不飽和化合物、及び光重合開始剤の必須成分と、可塑剤、熱重合防止剤、染料、顔料、紫外線吸収剤、香料、又は酸化防止剤などの任意の添加剤とから構成される。感光性樹脂層に用いる合成高分子化合物としては、ラテックスより得られる重合体を含有することが好ましい。
【0017】
重合体を得るために使用可能なラテックスとしては、ポリブタジエンラテックス、天然ゴムラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックス、ポリクロロプレンラテックス、ポリイソプレンラテックス、ポリウレタンラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、ビニルピリジン重合体ラテックス、ブチル重合体ラテックス、チオコール重合体ラテックス、アクリレート重合体ラテックスなどの水分散ラテックス重合体や、これらの重合体にアクリル酸やメタクリル酸などの他の成分を共重合して得られる重合体が挙げられる。これらの中でも、分子鎖中にブタジエン骨格またはイソプレン骨格を含有する水分散ラテックス重合体が、硬度やゴム弾性の点から好ましく用いられる。具体的には、ポリブタジエンラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、ポリイソプレンラテックスが好ましい。ラテックスより得られる重合体は、独立した微粒子として疎水性成分中に存在することが好ましい。
【0018】
本発明の印刷原版に使用される感光性樹脂層は、合成高分子化合物として水現像性を低下させない範囲で共役ジエン系ゴムを含有しても良い。共役ジエン系ゴムを配合することで、感光性樹脂層の物性を向上させることができる。
【0019】
本発明の印刷原版に使用される感熱マスク層は、赤外線レーザーを吸収し熱に変換する機能と紫外光を遮断する機能を有する材料であるカーボンブラックと、バインダーポリマーとしての上述の二種類のポリアミドを含有する。さらに、カーボンブラックの分散性を向上させるために分散剤を含有しても良い。また、これらの成分以外の任意成分として、フィラー、界面活性剤又は塗布助剤などを本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0020】
本発明の感熱マスク層は、カーボンブラックの分散性を向上するために分散剤を含有することが好ましい。分散剤は、バインダーポリマーとしての上述の二種類のポリアミド樹脂と兼ねてもかまわないが、別個のものを使用する場合は、例えばブチラール樹脂、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコールを使用することができる。その中でもブチラール樹脂及び変性ポリビニルアルコールが好ましい。
【0021】
本発明の感熱マスク層において分散剤に用いるブチラール樹脂は、ポリビニルブチラールとも言い、ポリビニルアルコールとブチルアルデヒドを酸触媒で反応させて生成するポリビニルアセタールの一種である。
【0022】
本発明の感熱マスク層において分散剤に用いる変性ポリビニルアルコールとしては、鹸化度が70%以上90%以下のポリビニルアルコールを用いて変性したポリビニルアルコールが挙げられる。鹸化度が70%以上90%以下のポリビニルアルコールは、水酸基を有しており、水酸基と反応させることで変性することができる。また、他の変性方法としては、極性基を有する重合性モノマーを共重合することでも変性することが可能である。
【0023】
本発明の感熱マスク層において分散剤に用いる具体的な変性ポリビニルアルコールとしては、アニオン性極性基やカチオン性極性基を導入したポリビニルアルコールやエチレンオキサイド等のノニオン性親水基を有する変性ポリビニルアルコールが挙げられる。変性ポリビニルアルコールはアルコール可溶性であることが好ましく、アルコール可溶性を選択することによってアルコールを含む溶媒を用いて感熱バリヤ層用のコート液を調整できる。ポリビニルアルコールにカルボキシル基を導入する方法としては、酸無水物と反応させる方法、エポキシ基を有するカルボン酸化合物と反応させる方法やカルボン酸を有するモノマーを共重合する方法などがあり、市販品としてはクラレ社のCM−318や日本合成化学社のT−350などが挙げられる。一方、カチオン基を導入する方法としては、カチオン基を有するモノマーを共重合する方法、エポキシ基を有するカチオン基含有化合物と反応させる方法などが挙げられ、市販品としてはカチオン基(4級アンモニウム塩)を側鎖に導入した日本合成化学社のゴーセネックス K−434などがある。一方、ノニオン性親水基を有する変性ポリビニルアルコールとして、アルキレングリコールのノニオン性親水基を有する変性ポリビニルアルコールであり、具体的には側鎖に親水性のエチレンオキサイド基を有するノニオン性の変性ポリビニルアルコール(日本合成化学(株)製のWO−320R)等が挙げられる。
【0024】
本発明の感熱マスク層は、特定の低いガラス転移点を有するメトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)と分子内に塩基性窒素原子を含有する水溶性ポリアミド樹脂(B)の二種類のポリアミドを含有する。これらの二種類のポリアミドは、皮膜形成可能なポリマーであり、バインダーポリマーの役割を果たす。本発明では、このように、感熱マスク層が、バインダーポリマーとして、特定の低いガラス転移点を有するメトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)と分子内に塩基性窒素原子を含有する水溶性ポリアミド樹脂(B)を含有することにより、低温の過酷な条件であっても取り扱い作業中に感熱マスク層にひび割れが発生することを効果的に防止することができる。
【0025】
メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)とは、ポリアミド樹脂のアミド基中の窒素原子にメトキシメチル基が結合したポリアミド樹脂であり、一般的にはポリアミド樹脂にホルムアルデヒドとメタノールを反応して得ることができる。この原料となるポリアミド樹脂としては、ナイロン3、4、5、6、8、11、12、13、66、610、612、6/66/610、11/6/66、12/6/66、13/6/66、メタキシリレンジアミンとアジピン酸からのポリアミド、トリメチルヘキサメチレンジアミン、あるいはイソホロンジアミンとアジピン酸からのポリアミド、ε−カプロラクタム/アジピン酸/ヘキサメチレンジアミン/4,4´−ジアミノジシクロヘキシルメタン共重合ポリアミド、ε−カプロラクタム/アジピン酸/ヘキサメチレンジアミン/2,4,4´−トリメチルヘキサメチレンジアミン共重合ポリアミド、ε−カプロラクタム/アジピン酸/ヘキサメチレンジアミン/イソホロンジアミン共重合ポリアミド、あるいはこれらの成分を含むポリアミド樹脂等が挙げられる。これらの中でも6、12、6/12、12/6/66、6/66/610が、原料となるポリアミド樹脂として好ましい。
【0026】
メトキシメチル化する方法としては、具体的には、特開昭60−252626号公報に開示された方法を挙げることができる。メトキシ化率は処理液の温度、浸漬時間や処理液濃度等の処理条件を変更することで変化させることが可能であり、これらの処理条件を適宜変更することで、目的とするメトキシ化率を達成することができる。本発明におけるメトキシメチル化率とは、ポリアミド樹脂の分子内に含有するアミド基中の全窒素原子量に対するメトキシメチル化率をモル%で表したものである。ポリアミド樹脂のメトキシメチル化率は、共鳴周波数125MHzの13C−NMR測定により測定することができる。具体的には、測定装置としてBRUKER社製のNMR装置AVANCE−500を用いる。また、測定液の調製方法、および測定条件は以下の通りとする。
試料200mgを重クロロホルム2.7mlに溶解後、その溶液をNMRチューブに充填し、13C−NMR測定を行なう。ロック溶媒には重クロロホルムを用い、待ち時間は0.5秒、取り込み時間は2秒、積算回数は1024回とする。
【0027】
メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)のガラス転移点は、0℃〜30℃であり、好ましくは0℃〜20℃である。本発明では、感熱マスク層中にこのような低いガラス転移点のポリアミド樹脂(A)を含有させることで、10℃以下での低温の過酷な条件であっても取り扱い作業中に感熱マスク層にひび割れが発生しにくくなる。メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)のガラス転移点が上記範囲未満の場合には、感熱マスク層の硬度によって傷が発生しやすくなるおそれがある。また、メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)のガラス転移点が上記範囲を超えた場合には、低温条件下でマスク層にひび割れが発生しやすくなるおそれがある。
【0028】
メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)のガラス転移点を0℃〜30℃の範囲とする方法としては、ガラス転移点が30℃を超える原料のポリアミド樹脂をメトキシメチル化する段階でメトキシメチル化率を変える方法を挙げることができる。具体的には、メトキシメチル化率を上げれば、ポリアミド分子間の水素結合を低下させ、ガラス転移点を下げることができる。
【0029】
メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)は、アルコール可溶性であることが好ましい。感熱マスク層中のバインダーポリマーにアルコール可溶性のバインダーを高含有率で配合することで、感熱マスク層上に水溶性のコート層を塗工する場合にコート層間の溶解混合がない良好なコート層が得られる。
【0030】
本発明における水溶性とは、水に溶解または分散する性質を有することをいい、例えばフィルム状に成型したポリアミド樹脂を室温ないし40℃の水に浸漬し、ブラシ等で擦過したときポリマーが全面溶出するか、または一部溶出することにより、あるいは膨潤離散し水中に分散することによりフィルムが減量あるいは崩壊するものをいう。
【0031】
また、本発明におけるアルコール可溶性とは、メタノール又はエタノールを単独または主溶剤とし、それに水、トルエン、キシレン、酢酸エチルなどを30重量%以下混合した混合溶剤に溶解する性質をいう。アルコール可溶性ポリマーとしては、0.5mmの厚みのフィルムに成形して25℃のエタノールに1時間浸漬した場合に溶解するか、又は溶解しなくてもポリマーに対して200重量%以上のエタノールが膨潤するものが好ましく使用される。ここで水溶性およびアルコール可溶性の両方の特性を有するものは水溶性として分類する。
【0032】
メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)は、脂肪族ポリアミド樹脂であることが、アルコールへの溶解性の点で好ましい。また、メトキシメチル化の比率としては、窒素原子の15〜45モル%がメトキシメチル基に置換されたものが好ましく用いられる。メトキシメチル化の比率が上記範囲未満の場合には、アルコールへの溶解性が低下し、好ましくない。一方、メトキシメチル化の比率が上記範囲を超える場合には、結晶性の低下により、感熱マスク層の硬度が低下し、耐傷性低下の原因となるために好ましくない。
【0033】
本発明において使用されるメトキシメチル化されたポリアミド樹脂は、親水性基を導入したポリアミドでもかまわない。親水性基を導入することにより、メトキシメチル化されたポリアミド樹脂を変性することができる。
【0034】
メトキシメチル化されたポリアミド樹脂への親水性基の導入方法としては、メトキシメチル化されたポリアミド樹脂と、親水性基を有する化合物との反応による方法が好ましく用いられる。親水性基としては水酸基、カルボキシル基およびアミノ基などが好ましく用いられる。具体的には、特開昭60−245634号公報に示されるように、メトキシメチル化されたポリアミド樹脂の存在下、親水基を有するビニールモノマをグラフト重合する方法が挙げられる。
【0035】
分子内に塩基性窒素原子を含有する水溶性ポリアミド樹脂(B)とは、主鎖または側鎖の一部分に塩基性窒素原子を含有するポリアミド樹脂である。塩基性窒素原子とは、アミド基ではないアミノ基を構成する窒素原子である。そのようなポリアミドとしては、第三級窒素原子を主鎖中に有するポリアミドが好ましい。分子内に塩基性窒素原子を含有する水溶性ポリアミド樹脂(B)としては、例えば、塩基性窒素原子を含有するジアミンとして、ピペラジン環を有するジアミンやメチルイミノビスプロピルアミン等の第三級窒素原子を含むジアミンをジアミン成分として用いて共重合することにより得られるポリアミドが挙げられる。ポリアミド樹脂(B)は、水溶性であることが好ましい。水溶性の面から、ポリアミド樹脂(B)は、ピペラジン環を有するジアミンを用いることが特に好ましい。ピペラジン環を有するジアミンとしては、1,4−ビス(3−アミノエチル)ピペラジン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、N−(2−アミノエチル)ピペラジンなどが挙げられる。また、分子内に塩基性窒素原子を含有する水溶性ポリアミド樹脂(B)は、物性面より、上述の塩基性窒素原子を含有する原料以外に、塩基性窒素原子を含有しないジアミン、ジカルボン酸やアミノカルボン酸等の原料を一部に用いて共重合することもできる。なお、本発明では、メトキシメチル化されたポリアミド樹脂は、分子内に塩基性窒素原子を含有する水溶性ポリアミド樹脂(B)には含まれない。
【0036】
分子内に塩基性窒素原子を含有する水溶性ポリアミド樹脂(B)は、感熱マスク層に水溶性又は水分散性を付与すると共に、感熱マスク層に適度な硬度を付与する役割を有する。そのため、分子内に塩基性窒素原子を含有する水溶性ポリアミド樹脂(B)はガラス転移点が30〜60℃であることが好ましい。分子内に塩基性窒素原子を含有する水溶性ポリアミド樹脂(B)のガラス転移点が上記範囲未満の場合には、感熱マスク層に適度な硬度を付与することができないおそれがある。また、分子内に塩基性窒素原子を含有する水溶性ポリアミド樹脂(B)のガラス転移点が上記範囲を超えた場合には、低温条件下でマスク層にひび割れが発生しやすくなるおそれがある。
【0037】
感熱マスク層中に含有されるメトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)と分子内に塩基性窒素原子を含有する水溶性ポリアミド樹脂(B)との割合は、[ポリアミド樹脂(A)]/[ポリアミド樹脂(B)]の質量比で40/60〜90/10の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは40/60〜80/20の範囲である。メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)の割合が少ない場合には、低温の条件で取り扱い作業中に感熱マスク層にひび割れが発生し易くなるので好ましくない。また、メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)の割合が多い場合には、分子内に塩基性窒素原子を含有する水溶性ポリアミド樹脂(B)の配合量が少なくなり、水現像性が低下するので好ましくない。なお、一般的に、感熱マスク層中のカーボンブラックの配合割合は、30〜50質量%であり、バインダーポリマーの配合割合は、30〜50質量%であり、カーボンブラック分散剤の配合割合は、10〜40質量%である。
【0038】
本発明のCTPフレキソ印刷原版は、感光性樹脂層と感熱マスク層との間にバリヤ層を設けても良い。バリヤ層を設けることで、酸素による重合障害や感光性樹脂組成中の低分子量成分が感熱マスク層へ移動することを抑制できる。バリヤ層中のバインダーポリマーとしては、ポリビニルアルコール、部分鹸化酢酸ビニル、アルキルセルロース、セルロース系ポリマーが挙げられる。これらのポリマーは、一種類の使用に限定されず、二種類以上のポリマーを組み合わせて使用することもできる。酸素バリヤ性の点で好ましいバインダーポリマーとしては、ポリビニルアルコール、部分鹸化酢酸ビニル、アルキルセルロースである。酸素バリヤ性が好ましい範囲にあるバインダーポリマーを選択することで画像再現性を制御することができる。
【0039】
バリヤ層の層厚としては、0.2μm〜3.0μmが好ましく、さらに好ましくは0.2μm〜1.5μmの範囲である。上記範囲未満になると、酸素バリヤ性が不十分であり、レリーフの版面に荒れが生じるおそれがある。上記範囲を越えると、細線再現不良が起こるおそれがある。
【0040】
本発明のCTPフレキソ印刷原版を製造する方法は特に限定されないが、一般的には以下のようにして製造される。まず、感熱マスク層のカーボンブラック以外のバインダー等の成分を適当な溶剤に溶解させ、そこにカーボンブラックを分散させて分散液を作製する。次に、このような分散液を感熱マスク層用支持体(例えばポリエチレンテレフタレートフィルム)上に塗布して、溶剤を蒸発させる。その後、必要な場合にはバリヤ層成分を上塗りし、一方の積層体を作成する。さらに、これとは別に支持体上に塗工により感光性樹脂層を形成し、他方の積層体を作成する。このようにして得られた二つの積層体を、圧力及び/又は加熱下に、感光性樹脂層が保護層に隣接するように積層する。なお、感熱マスク層用支持体は、印刷原版の完成後はその表面の保護フィルムとして機能する。
【0041】
本発明のCTPフレキソ印刷原版から印刷版を製造する方法としては、保護フィルムが存在する場合には、まず保護フィルムを感光性印刷版から除去する。その後、感熱マスク層にIRレーザーを画像様照射して、感光性樹脂層上にマスクを形成する。好適なIRレーザーの例としては、ND/YAGレーザー(1064nm)又はダイオードレーザ(例、830nm)を挙げることができる。コンピュータ製版技術に好適なレーザシステムは、市販されており、例えばCDI Spark(エスコ・グラフィックス社)を使用することができる。このレーザシステムは、印刷原版を保持する回転円筒ドラム、IRレーザーの照射装置、及びレイアウトコンピュータを含み、画像情報は、レイアウトコンピュータからレーザー装置に直接移される。
【0042】
画像情報を感熱マスク層に書き込んだ後、感光性印刷原版にマスクを介して活性光線を全面照射する。これは版をレーザーシリンダに取り付けた状態で行うことも可能であるが、版をレーザー装置から除去し、慣用の平板な照射ユニットで照射する方が規格外の版サイズに対応可能な点で有利であり一般的である。活性光線としては、150〜500nm、特に300〜400nmの波長を有する紫外線を使用することができる。その光源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ジルコニウムランプ、カーボンアーク灯、紫外線用蛍光灯等を使用することができる。その後、照射された版は現像され、印刷版を得る。現像工程は、慣用の現像ユニットで実施することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中(本文)の部数は質量部を表わす。なお、実施例中の特性値の評価は以下の方法に依った。
【0044】
以下に各実施例に用いた材料を説明する。
【0045】
<メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)>
A−1:メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)として、鉛市社製のFR−301を使用した。このポリアミド樹脂は、6ナイロンを含む三元共重合ナイロンのアミド基の一部がメトキシメチル化されたポリアミド樹脂であり、ガラス転移点は0.8℃、メトキシメチル化率は31%であった。
A−2:メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)として、鉛市社製のFR−101を使用した。このポリアミド樹脂は、6ナイロンのアミド基の一部がメトキシメチル化されたポリアミド樹脂であり、ガラス転移点は10.3℃、メトキシメチル化率は37%であった。
A−3:メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)として、鉛市社製のFR−104を使用した。このポリアミド樹脂は、6ナイロンのアミド基の一部がメトキシメチル化されたポリアミド樹脂であり、ガラス転移点は16.4℃、メトキシメチル化率は37%であった。
A−4:メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)として、鉛市社製のFR−105を使用した。このポリアミド樹脂は、6ナイロンのアミド基の一部がメトキシメチル化されたポリアミド樹脂であり、ガラス転移点は19.9℃であり、メトキシメチル化率は35%であった。
A−5:東洋紡製の6ナイロンを用いて、N−メトキシメチル化6ナイロンを合成した。具体的には、特開昭60−252626号公報に開示された方法に従って6ナイロンをメトキシメチル化し、メトキシメチル化率9%のN−メトキシメチル化6ナイロンを得た。得られたN−メトキシメチル化6ナイロンのガラス転移点は41℃であった。
A−6:メトキシメチル化していないポリアミド樹脂として、ガラス転移点が69℃のカプロラクタムとヘキサメチレンジアミン−アジピン酸およびP・P’−ジアミノジシクロヘキシルタン−アジピン酸の3成分から成る共重合ポリアミド樹脂(BASF社Ultaramid−1C)を使用した。
A−7:アルケマ社製の612共重合ナイロンを用いて、特開昭60−252626号公報に開示された方法に従ってメトキシメチル化率40%のN−メトキシメチル化ナイロンを合成した。得られたN−メトキシメチル化ナイロンのガラス転移点は−5℃であった。
A−8:東洋紡製の6ナイロンを用いて、N−メトキシメチル化6ナイロンを合成した。具体的には、特開昭60−252626号公報に開示された方法に従って6ナイロンをメトキシメチル化し、メトキシメチル化率20%のN−メトキシメチル化6ナイロンを得た。得られたN−メトキシメチル化6ナイロンのガラス転移点は28℃であった。
【0046】
<分子内に塩基性窒素原子を含有する水溶性ポリアミド樹脂(B)>
B−1:ε−カプロラクタム520質量部、N,N’−ジ(γ−アミノプロピル)ピペラジンアジペート400質量部、3−ビスアミノメチルシクロヘキサンアジペート80質量部と水100質量部をオートクレーブ中に仕込み、窒素置換後、密閉して徐々に加熱した。内圧が10kg/mに達した時点から、その圧力を保持できなくなるまで水を留出させ、約2時間で常圧に戻し、その後1時間常圧で反応させた。最高重合反応温度は255℃であった。これにより、ガラス転移点が42℃、比粘度1.98の第三級窒素原子含有ポリアミドを得た。
B−2:ε−カプロラクタム 90質量部、N−(2−アミノエチル)ピペラジンとアジピン酸のナイロン塩910質量部、及び水100質量部をオートクレーブに入れ、内部の空気を窒素ガスで置換した後に200℃で1時間加熱し、次いで水分を除去して水溶性ポリアミド樹脂を得た。得られた水溶性ポリアミド樹脂はガラス転移点が47℃の第三級窒素原子含有ポリアミドであった。
B−3:ε−カプロラクタム450質量部、N,N’−ビス(γ−アミノプロピル)ピペラジンアジペート550質量部をA−1と同様に共重合し、ガラス転移点が12℃の第三級窒素原子含有ポリアミドを得た。
B−4:ε−カプロラクタム588質量部、N,N’−ビス(γ−アミノプロピル)ピペラジンアジペート412質量部、及び水1000質量部をオートクレーブ中に仕込み、窒素置換後、密閉して徐々に加熱した。内圧を0.4MPaに保ちながら水を留出させ、約2時間で常圧に戻し、その後1時間常圧で反応させた。これにより、ガラス転移点が80℃の第三級窒素原子含有ポリアミドを得た。
【0047】
実施例で使用したメトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)及び分子内に塩基性窒素原子を含有する水溶性ポリアミド樹脂(B)のガラス転移点(Tg)は、市販品の場合は製造会社の公表しているデータを採用したが、合成品の場合は、以下のようにして測定した。また、実施例で使用したメトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)のメトキシメチル化率は、市販品の場合は製造会社の公表データである標準メチルメトキシ化率約30%を元に、以下のようにして改めて測定した。合成品の場合も、以下のようにして測定した。
<ガラス転移点>
測定装置としてTAインスツルメンツ社製DSC100を用いた。ポリアミド樹脂10.0mgをアルミパンに入れ、20℃/分の昇温温度で300℃まで加熱し、300℃に達してから3分間保持した後即座に、液体窒素中でクエンチした。その後、室温から20℃/分の昇温速度で300℃まで昇温し、ベースラインと変曲点での接線の交点の温度として、ガラス転移点(Tg)を求めた。
<メトキシメチル化率>
ポリアミド樹脂のメトキシメチル化率は、共鳴周波数125MHzの13C−NMR測定により測定した。具体的には、測定装置としてBRUKER社製のNMR装置AVANCE−500を用いた。また、測定液の調製方法、および測定条件は以下の通りとした。試料200mgを重クロロホルム2.7mlに溶解後、その溶液をNMRチューブに充填し、13C−NMR測定を行なった。ロック溶媒には重クロロホルムを用い、待ち時間は0.5秒、取り込み時間は2秒、積算回数は1024回とした。
【0048】
<カーボンブラック分散剤>
C−1:ブチラール樹脂として、積水化学工業(株)製のBM−5を使用した。
C−2:変性ポリビニルアルコールとして、側鎖に親水性のエチレンオキサイド基を有するノニオン性の特殊変性ポリビニルアルコール 日本合成化学(株)製のWO−320Rを使用した。
【0049】
実施例1〜12及び比較例1〜5
感熱マスク層塗工液の調製
表1の感熱マスク層組成に記載の組成(重量比)に従って、メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)と、分子内に塩基性窒素原子を含有する水溶性ポリアミド樹脂(B)と、カーボンブラック分散剤を溶媒に溶解させ、そこにカーボンブラックを分散させて分散液を調製し、感熱マスク層塗工液とした。
【0050】
感熱マスク層の作成
両面に離型処理を施したPETフィルム支持体(東洋紡(株)、E5000、厚さ100μm)に、感熱マスク層塗工液を、層厚が1.5μmになるように適宜選択したバーコーターを用いて塗工し、120℃×5分乾燥して感熱マスク層を作成した。
【0051】
感光性樹脂組成物の調製
アクリロニトリル−ブタジエンラテックス(Nipol SX1503 不揮発分42% 日本ゼオン(株)製)10質量部、ブタジエンラテックス(Nipol LX111NF 不揮発分55% 日本ゼオン(株)製)58質量部、オリゴブタジエンアクリレート(ABU−2S 共栄社化学(株)製)28質量部、ラウリルメタクリレート(ライトエステルL 共栄社化学(株)製)4質量部、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート4質量部、光重合開始剤1質量部、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル0.1質量部、その他の添加剤としてノニオン系界面活性剤0.1質量部をトルエン15質量部とともに容器中で混合し、次に加圧ニーダーを用いて105℃で混練し、その後トルエンと水を減圧除去することにより、感光性樹脂組成物を得た。
【0052】
CTPフレキソ印刷原版の作成
重合ポリエステル系接着剤を塗工したPETフィルム支持体(東洋紡(株)、E5000、厚さ125μm)上に感光性樹脂組成物を配置して感光性樹脂層を形成した。次に、その上から感熱マスク層を、そのフィルム支持体面とは反対の感熱マスク層形成面が感光性樹脂層と接触するように重ね合わせた。ヒートプレス機を用いて100℃でラミネートし、PETフィルム支持体、接着層、感光性樹脂層、感熱マスク層および離型処理PET保護フィルム(カバーフィルム)からなるCTPフレキソ印刷原版を得た。版の総厚は1.90mmであった。
【0053】
性能評価
上記のようにして得られた各感熱マスク層及びCTPフレキソ印刷原版の性能を、以下のようにして評価した。
遮光性:白黒透過濃度計DM−520(大日本スクリーン製造(株))を用いて、PETフィルム支持体上に作成された感熱マスク層の光学濃度を測定し、以下の基準で判定した。
◎:光学濃度が2.7以上
○:光学濃度が2.4以上でかつ2.7未満
△:光学濃度が2.0以上でかつ2.4未満
×:光学濃度が2.0未満
耐傷性:PETフィルム支持体上に作成された感熱マスク層を20cm×20cmの正方形に切り取り、その層面に別のPETフィルム(東洋紡(株)、E5000、厚さ100μm)を重ね合わせ、その状態を維持して力を掛けずに左右方向に1回ずつこすった後、感熱マスク層の表面上に形成された傷を、10倍ルーペを使用して検査し、以下の基準で判定した。
○:傷なし。
△:50μm以上の傷が1〜4個ある。
×:50μm以上の傷が5個以上ある。
水現像性:PETフィルム支持体上に作成された感熱マスク層を10cm×10cmの正方形に切り取り、室温ないし40℃の水に浸漬し、ブラシ等で擦過した。その際の感熱マスク層の表面を観察し、以下の基準で判定した。
◎:全面溶出することが確認されたもの
○:一部溶出すること、あるいは膨潤離散して水中に分散することが確認されたもの
△:溶出せず、一部膨潤離散して水中に分散することが確認されたもの
×:全面/一部溶出すること、あるいは膨潤離散して水中に分散することが確認されなかったもの
耐ひび割れ性:作成したCTPフレキソ印刷原版を20cm×20cmの正方形に切り取り、評価サンプルとした。サンプルを5℃、10℃又は25℃の恒温室の平面台の上に1時間保存し、サンプルを調整した。その後にサンプルのカバーシートを剥がし、赤外線アブレーション装置の代替評価として円筒状のロール(直径200mm)に感熱マスク層が外側になるように巻き付けて30分間固定した後、これを取り外した。その後、目視で感熱マスク層の表面を観察し、以下の基準で判定した。
◎:5℃、10℃、25℃のいずれでも感熱マスク層にひび割れが確認されなかったもの
○:10℃、25℃ではひび割れが確認されなかったが、5℃では感熱マスク層にひび割れが確認されたもの
△:25℃ではひび割れが確認されなかったが、5℃、10℃では感熱マスク層にひび割れが確認されたもの
×:5℃、10℃、25℃のいずれでも感熱マスク層にひび割れが確認されたもの
【0054】
これらの性能評価の結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0055】
表1からわかるように、本発明の範囲内である実施例1〜12はいずれも、遮光性、耐傷性、水現像性、耐ひび割れ性のいずれにおいても良好である。これに対して、メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)を使用していない比較例1は、低温及び常温での耐ひび割れ性に劣る。メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)のガラス転移点が高すぎる比較例2,3は、低温及び常温での耐ひび割れ性に劣る。分子内に塩基性窒素原子を含有する水溶性ポリアミド樹脂(B)を使用していない比較例4は、耐傷性に劣る。メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)のガラス転移点が低すぎる比較例5は、耐傷性に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の感光性CTPフレキソ印刷原版は、10℃以下での低温の過酷な条件でも感熱マスク層にひび割れが発生せず、薄膜で形成した場合でも透過光学濃度のムラのない高度な性能を持つ。従って、本発明の感光性CTPフレキソ印刷原版は、冬場や寒冷地などの低温の過酷な取り扱い条件で使用するのに極めて好適である。
【要約】
10℃以下での低温の過酷な条件でも感熱マスク層にひび割れが発生せず、感熱マスク層を薄膜で形成した場合でも透過光学濃度のムラのない高度な性能を持つCTPフレキソ印刷原版を提供する。少なくとも支持体、感光性樹脂層、及び感熱マスク層が順次積層されてなる感光性印刷原版であって、感熱マスク層が、メトキシメチル化されたポリアミド樹脂(A)と分子内に塩基性窒素原子を含有する水溶性ポリアミド樹脂(B)とを含有し、ポリアミド樹脂(A)のガラス転移点が0℃〜30℃であることを特徴とする感光性CTPフレキソ印刷原版。