(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明に係る実施形態の内容を列記して説明する。
【0015】
<1>実施形態のリアクトルは、コイルと、コイルの内部に挿通される部分を有する磁性コアと、を組み合わせた組合体を備えるリアクトルであって、磁性コアの少なくとも一部が、Fe−Si合金の複数の軟磁性金属粒子が樹脂中に分散された磁性体であるリアクトルである。このリアクトルでは、磁性体に占める軟磁性金属粒子の含有量が、50体積%以上、85体積%以下、軟磁性金属粒子の平均粒径d50(質量基準)が、20μm以上、100μm以下、軟磁性金属粒子におけるSi含有量が、4.5質量%以上、8.0質量%未満である。さらに、このリアクトルでは、磁束密度=0.6T、周波数=500Hzの交番磁界下における磁性体の磁歪量λ
p−pが0.9ppm以下である。
【0016】
上記実施形態のリアクトルは、使用時に発生する騒音が小さいリアクトル、即ち静粛性に優れるリアクトルである。それは、リアクトルの磁性コアの少なくとも一部が、後述する実施形態の磁性体で構成されており、その磁性体の磁歪量λ
p−pが小さいからである。通常、リアクトルの磁性コアは複数のコア片を組み合わせてなるため、各コア片の磁歪量λ
p−pが大きいと、騒音が発生し易い。これに対して、磁歪量λ
p−pの小さい実施形態の磁性体を用いて磁性コアのコア片を構成すれば、リアクトルの使用時に発生する騒音を低減することができる。
【0017】
ここで、実施形態の磁性体の磁歪量λ
p−pが小さいのは、全体に占める軟磁性金属粒子の含有量、軟磁性金属粒子の平均粒径d50、および軟磁性金属粒子のSi含有量の三つのパラメーターが所定範囲内にあるからである。この点に関しては後述する。
【0018】
<2>実施形態のリアクトルとして、磁性体における軟磁性金属粒子の含有量が、55体積%以上、65体積%以下、軟磁性金属粒子の平均粒径d50が、55μm以上、90μm以下、軟磁性金属粒子におけるSi含有量が、6.0質量%以上、7.0質量%未満である形態を挙げることができる。さらに、このリアクトルでは、磁束密度=0.6T、周波数=500Hzの交番磁界下における磁性体の磁歪量λ
p−pが0.5ppm以下である。
【0019】
上記構成に示すように、磁性体に係る三つのパラメーターをさらに限定することで、磁性体の磁歪量λ
p−pをさらに低い値にすることができる。
【0020】
<3>実施形態の磁性体は、Fe−Si合金の複数の軟磁性金属粒子が樹脂中に分散された磁性体であって、全体に占める軟磁性金属粒子の含有量が、50体積%以上、85体積%以下であり、軟磁性金属粒子の平均粒径d50(質量基準)が、20μm以上、100μm以下、軟磁性金属粒子におけるSi含有量が、4.5質量%以上、8.0質量%未満である。さらに、磁束密度=0.6T、周波数=500Hzの交番磁界下におけるこの磁性体の磁歪量λ
p−pは0.9ppm以下である。
【0021】
上記構成に示すように、全体に占める軟磁性金属粒子の含有量、軟磁性金属粒子の平均粒径、および軟磁性金属粒子のSi含有量の三つのパラメーターが所定範囲内にある場合、磁性体の磁歪量λ
p−pが非常に低い値になる。具体的には、磁束密度=0.6T、周波数=500Hzの交番磁界における本実施形態の磁性体の磁歪量λ
p−pは、0.9ppm以下となる。
【0022】
<4>実施形態のコンバータは、上記実施形態のリアクトルを備える。
【0023】
上記コンバータは、静粛性に優れる。それは、静粛性に優れる実施形態のリアクトルを備えるからである。この実施形態のコンバータを、例えばハイブリッド自動車に適用することで、ハイブリッド自動車の静粛性を高めることができる。
【0024】
<5>実施形態の電力変換装置は、上記実施形態のコンバータを備える。
【0025】
上記電力変換装置は、静粛性に優れる。それは、静粛性に優れる実施形態のコンバータを備えるからである。この実施形態の電力変換装置を、例えばハイブリッド自動車に適用することで、ハイブリッド自動車の静粛性を高めることができる。
【0026】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、実施形態に係る磁性体を説明し、次いでその磁性体を用いたリアクトルを説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるわけではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内の全ての変更が含まれることを意図する。
【0027】
<磁性体>
本実施形態の磁性体は、Fe−Si合金の複数の軟磁性金属粒子が樹脂中に分散された磁性体である。その最も特徴とするところは、磁性体における軟磁性金属粒子の含有量、軟磁性金属粒子の平均粒径d50、および軟磁性金属粒子におけるSi含有量の三つのパラメーターが下記所定範囲に限定されていることである。その結果として、本実施形態の磁性体の磁歪量λ
p−pは、非常に低い値に抑えられる。三つのパラメーターのいずれか一つであっても下記所定範囲を外れると、磁性体の磁歪量λ
p−pは、高い値になる傾向にある。
【0028】
≪軟磁性金属粒子≫
本実施形態における磁性体では、軟磁性金属粒子の材質として、Fe−Si合金を利用する。そのFe−Si合金におけるSi含有量は、4.5質量%以上、8.0質量%未満とする。好ましいSi含有量は、6.0質量%以上、8.0質量%未満であり、より好ましいSi含有量は、6.0質量%以上、7.0質量%以下であり、さらに好ましいSi含有量は、6.0質量%以上、7.0質量%未満である。
【0029】
軟磁性金属粒子の平均粒径d50(質量基準)は、20μm以上、100μm以下とする。好ましい平均粒径は、55μm以上、90μm以下である。なお、磁性体における軟磁性金属粒子の平均粒径d50は、光学的手法(例えば、光学顕微鏡による観察)による画像をもとに、画像処理を行ない、粒径の分布を特定することで求めると良い。
【0030】
軟磁性金属粒子の表面には、絶縁被膜が形成されていてもよい。絶縁被膜を形成することで、磁性体における軟磁性金属粒子同士の絶縁を確保し易い。その結果、磁性体を例えばリアクトルの磁性コアに利用した際、磁性コアに生じる渦電流損を効果的に抑制することができる。絶縁被膜としては、リン酸化合物、珪素化合物(シリコーンを含む)、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物、あるいは硼素化合物などでできた絶縁被膜を挙げることができる。リン酸化合物としては、リン酸鉄やリン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウムなどのリン酸金属塩を利用することができる。
【0031】
絶縁被膜の平均厚さは、10nm以上、500nm以下とすることが好ましい。絶縁被膜の平均厚さを10nm以上とすることで、軟磁性金属粒子間の絶縁を十分に確保することができる。一方、絶縁被膜の平均厚さを500nm以下とすることで、磁性体における軟磁性金属粒子の含有量が低下することを回避することができる。
【0032】
≪樹脂≫
軟磁性金属粒子が分散される樹脂としては、熱硬化性樹脂、光(紫外線)硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが利用できる可能性がある。
【0033】
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。
【0034】
光硬化性樹脂のオリゴマーとしては、ウレタンアクリレート系、エポキシアクリレート系、エステルアクリレート系、アクリレート系、エポキシ系、ビニルエーテル系の樹脂が挙げられる。
【0035】
電子線硬化性樹脂のオリゴマーとしては、不飽和ポリエステル、不飽和アクリル、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエン/ポリチオールなどが挙げられる。
【0036】
湿気硬化性樹脂としては、湿気硬化型エポキシ樹脂や湿気硬化型ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0037】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、アクリロニトリルブタジエン共重合樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリイミド、メタクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリフェニレンサルファイドなどが挙げられる。
【0038】
≪軟磁性金属粒子の割合≫
磁性体における軟磁性金属粒子の含有量は、50体積%以上、85体積%以下とする。好ましい軟磁性金属粒子の含有量は、50体積%以上、75体積%以下であり、より好ましい軟磁性金属粒子の含有量は、55体積%以上、65体積%以下である。磁性体における軟磁性金属粒子以外の部分は、基本的に樹脂で構成されていると考えて良いが、微量であれば、フィラーなどの樹脂以外の物を含んでいても良い。
【0039】
≪磁性体に係る三つのパラメーターの組合せ≫
磁性体に係る三つのパラメーターは、上述した所定範囲内で適宜選択することができる。例えば、下記磁性体の磁歪量λ
p−pは、磁束密度=0.6T、周波数=500Hzの交番磁界下で0.9ppm以下となる。
・軟磁性金属粒子の含有量=50体積%以上、85体積%以下
・軟磁性金属粒子のSi含有量=4.5質量%以上、8.0質量%未満
・軟磁性金属粒子の平均粒径d50=20μm以上、100μm以下
【0040】
また、下記磁性体の磁歪量λ
p−pは、磁束密度=0.6T、周波数=500Hzの交番磁界下で0.9ppm以下となる。
・軟磁性金属粒子の含有量=50体積%以上、75体積%以下
・軟磁性金属粒子のSi含有量=6.0質量%以上、8.0質量%未満
・軟磁性金属粒子の平均粒径d50=20μm以上、100μm以下
【0041】
また、下記磁性体の磁歪量λ
p−pは、磁束密度=0.6T、周波数=500Hzの交番磁界下で0.5ppm以下となる。
・軟磁性金属粒子の含有量=55体積%以上、65体積%以下
・軟磁性金属粒子のSi含有量=6.0質量%以上、7.0質量%未満
・軟磁性金属粒子の平均粒径d50=55μm以上、90μm以下
【0042】
さらに、下記磁性体の磁歪量λ
p−pは、磁束密度=0.6T、周波数=500Hzの交番磁界下で0.35ppm以下となる。
・軟磁性金属粒子の含有量=60体積%以上、65体積%以下
・軟磁性金属粒子のSi含有量=6.0質量%以上、7.0質量%未満
・軟磁性金属粒子の平均粒径d50=80μm以上、90μm以下
【0043】
≪磁性体の製造方法≫
上記磁性体を作製するには、例えば射出成形を利用することができる。例えば、ポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂を加熱し、軟化した熱可塑性樹脂と軟磁性金属粉末(軟磁性金属粒子の集合体)とを混合する。その混合物を金型内に射出することで上記磁性体を得ることができる。その他、上記磁性体は、混合物を金型内で圧縮する圧縮成形や、混合物をダイから押し出す押出成形によって得ることができる可能性がある。
【0044】
<本実施形態の磁性体の適用例>
次に、本実施形態の磁性体をリアクトルの磁性コアに適用した例を
図1〜3に基づいて説明する。
図1はリアクトル1の概略斜視図、
図2はリアクトル1に備わる組合体10の概略分解斜視図、
図3は磁性コア3の構成が
図2とは異なる組合体10’の概略分解斜視図である。まず、
図1,2を参照してリアクトル1を説明する。なお、
図1〜3を用いて説明するリアクトル1,1’とその構成部材の形状はあくまで一例に過ぎず、このような形状に限定されるわけではない。
【0045】
≪リアクトルの全体構成≫
図1に示すリアクトル1は、コイル2と磁性コア3との組合体10である。リアクトル1は、組合体10を収納するケースを備える構成であっても良く、その場合にはケース内に配置される組合体10を封止する封止樹脂を設けても良い。このリアクトル1のコイル2は一対のコイル素子2A,2Bを有し、磁性コア3は一対の内側コア部31,31と一対の外側コア部32,32とを備える(特に
図2を参照)。
【0046】
≪コイル≫
組合体10(リアクトル1)に備わるコイル2は、
図2に示すように、一対のコイル素子2A,2Bと、両コイル素子2A,2Bを連結するコイル素子連結部2rと、を備える。コイル2は、銅やアルミニウム、その合金といった導電性材料からなる平角線や丸線などの導体の外周に、絶縁性材料からなる絶縁被膜を備える被覆線を好適に利用できる。
【0047】
コイル2の両端部2a,2bは、ターン形成部分から引き延ばされて、図示しない端子部材に接続される。この端子部材を介して、コイル2に電力供給を行なう電源などの外部装置(図示せず)が接続される。
【0048】
≪磁性コア≫
組合体10(リアクトル1)に備わる磁性コア3は、各コイル素子2A,2Bの内部に挿入される一対の内側コア部31,31と、コイル素子2A,2Bから露出し、内側コア部31,31をその両側から挟み込む一対の外側コア部32,32とを備える。本例では、内側コア部31,31は略直方体となっており、外側コア部32,32は上面と下面が略ドーム形状の柱状体となっている(もちろん、この形状に限定されるわけではない)。内側コア部31はさらに複数のコア片から構成されていても良く、その場合、各コア片の間にギャップ材を介在させても良い。ギャップ材を介在させることで磁性コア3のインダクタンスを調整することができる。
【0049】
内側コア部31の外周には、ボビン部材51(ボビン5)を配置することができる。また、外側コア部32と内側コア部31との間には、枠状ボビン52(ボビン5)を配置することができる。これらボビン部材51および枠状ボビン52を用いることで、磁性コア3とコイル2との間の絶縁性を確保しやすくなる。
【0050】
ここで、本実施形態の磁性体は、上記内側コア部31と外側コア部32のどちらに適用しても構わない。もちろん、両方のコア部31,32を本実施形態の磁性体としても良い。但し、内側コア部31の比透磁率と外側コア部32の比透磁率とを異ならせることで、磁性コア3全体の比透磁率を調整し、磁性コア3を磁気飽和し難くできる。本実施形態の磁性体における樹脂の割合は比較的高いため、本実施形態の磁性体の比透磁率は低い傾向にある。そこで、本実施形態の磁性体で内側コア部31を構成し、比透磁率が比較的高い傾向にある圧粉成形体で外側コア部32を構成する、あるいはその逆の構成とするなどして、磁性コア3全体の比透磁率を調整する。なお、圧粉成形体とは、軟磁性金属粒子を圧縮成形することで得られた磁性体である。
【0051】
≪別構成のリアクトル≫
図2を用いて説明した組合体10とは磁性コアの分割形状とボビンの形状が異なる組合体10’を備えるリアクトル1’を
図3に基づいて説明する。なお、
図3のリアクトル1’に備わるコイル2は、
図2のコイル2と全く同じ構成を備えるため、その説明は省略する。また、リアクトル1’の外観は、
図1に示すリアクトル1とほぼ同じである。
【0052】
≪磁性コア≫
図3に示すリアクトル1’の磁性コア3は、上方から見たときに概略U字状の二つの分割コア片35,35を組み合わせて構成される。各分割コア片35は、基部35Aと、基部35Aからコイル2に向かって延びる一対の張出部35B,35Bと、を備える。
【0053】
上記基部35Aは、
図2の外側コア部32に相当する部分である。この基部35Aの上端面は張出部35B,35Bの上端面と面一になっているが、基部35Aの下端面は張出部35B,35Bの下端面よりも低くなっている。そのため、分割コア片35,35をコイル2に組み付けたとき、分割コア片35の基部35Aの下端面がコイル2の下端面と面一になる。
【0054】
一方、張出部35B,35Bはそれぞれ、コイル素子2A,2Bの約半分の長さを有する部分である。そのため、二つの分割コア片35,35をそれぞれ、コイル素子2A,2Bの両端側からコイル素子2A,2Bの内部に挿入したとき、一方の分割コア片35の張出部35Bと、他方の分割コア片35の張出部35Bとで、
図2の内側コア部31に相当する部分が形成される。
【0055】
≪ボビン≫
図3のボビン5は、一対のボビン部材55,56で構成されている。両ボビン部材55,56は共に、枠状部560と一対の筒状部561,561とを備える。枠状部560は、
図2の枠状ボビン52と同様の役割を果たし、筒状部561は、
図2のボビン部材51と同様の役割を果たす。
【0056】
≪リアクトルの効果≫
以上説明したリアクトル1は、動作時の騒音が小さいリアクトル1となる(後述する試験例2を参照)。それは、磁歪量λ
p−pが小さい本実施形態の磁性体で内側コア31を構成しているからである。
【0057】
≪リアクトルの用途≫
上記構成を備えるリアクトル1は、通電条件が、例えば、最大電流(直流):100A〜1000A程度、平均電圧:100V〜1000V程度、使用周波数:5kHz〜100kHz程度である用途、代表的には電気自動車やハイブリッド自動車などの車載用電力変換装置の構成部品に好適に利用することができる。この用途では、直流通電が0Aのときのインダクタンスが、10μH以上2mH以下、最大電流通電時のインダクタンスが、0Aのときのインダクタンスの10%以上を満たすものが好適に利用できると期待される。
【0058】
上記リアクトル1を、ハイブリッド自動車や電気自動車といった車両に載置される電力変換装置の構成部品に利用した例を、
図4と
図5に基づいて説明する。
【0059】
ハイブリッド自動車や電気自動車などの車両1200は、
図4に示すようにメインバッテリ1210と、メインバッテリ1210に接続される電力変換装置1100と、メインバッテリ1210からの供給電力により駆動して走行に利用されるモータ(負荷)1220とを備える。モータ1220は、代表的には、3相交流モータであり、走行時、車輪1250を駆動し、回生時、発電機として機能する。ハイブリッド自動車の場合、車両1200は、モータ1220に加えてエンジンを備える。なお、
図4では、車両1200の充電箇所としてインレットを示すが、プラグを備える形態としても良い。
【0060】
電力変換装置1100は、メインバッテリ1210に接続されるコンバータ1110と、コンバータ1110に接続されて、直流と交流との相互変換を行うインバータ1120とを有する。この例に示すコンバータ1110は、車両1200の走行時、200V〜300V程度のメインバッテリ1210の直流電圧(入力電圧)を400V〜700V程度にまで昇圧して、インバータ1120に給電する。また、コンバータ1110は、回生時、モータ1220からインバータ1120を介して出力される直流電圧(入力電圧)をメインバッテリ1210に適合した直流電圧に降圧して、メインバッテリ1210に充電させている。インバータ1120は、車両1200の走行時、コンバータ1110で昇圧された直流を所定の交流に変換してモータ1220に給電し、回生時、モータ1220からの交流出力を直流に変換してコンバータ1110に出力している。
【0061】
コンバータ1110は、
図5に示すように複数のスイッチング素子1111と、スイッチング素子1111の動作を制御する駆動回路1112と、リアクトルLとを備え、ON/OFFの繰り返し(スイッチング動作)により入力電圧の変換(ここでは昇降圧)を行う。スイッチング素子1111には、FET,IGBTなどのパワーデバイスが利用される。リアクトルLは、回路に流れようとする電流の変化を妨げようとするコイルの性質を利用し、スイッチング動作によって電流が増減しようとしたとき、その変化を滑らかにする機能を有する。このリアクトルLとして、上記実施形態に記載のリアクトルを用いる。静粛性に優れるこれらリアクトルを用いることで、電力変換装置1100(コンバータ1110を含む)の静粛性を向上させることができる。
【0062】
ここで、上記車両1200は、コンバータ1110の他、メインバッテリ1210に接続された給電装置用コンバータ1150や、補機類1240の電力源となるサブバッテリ1230とメインバッテリ1210とに接続され、メインバッテリ1210の高圧を低圧に変換する補機電源用コンバータ1160を備える。コンバータ1110は、代表的には、DC−DC変換を行うが、給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160は、AC−DC変換を行う。給電装置用コンバータ1150のなかには、DC−DC変換を行うものもある。給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160のリアクトルに、上記実施形態のリアクトルなどと同様の構成を備え、適宜、大きさや形状などを変更したリアクトルを利用することができる。また、入力電力の変換を行うコンバータであって、昇圧のみを行うコンバータや降圧のみを行うコンバータに、上記実施形態のリアクトルなどを利用することもできる。
【0063】
<試験例1>
全体に占める軟磁性金属粒子の含有量、軟磁性金属粒子の平均粒径、および軟磁性金属粒子におけるSi含有量の少なくとも一つが異なる複数の磁性体(試料1〜10)を実際に作製し、それら磁性体の磁歪量λ
p−pを測定した。
【0064】
≪磁性体の作製≫
軟磁性金属粒子の含有量、軟磁性金属粒子の平均粒径d50、および軟磁性金属粒子におけるSi含有量のいずれかが異なる複数のペレットを用意した。ペレットは、ポリアミド樹脂(株式会社クラレ製のポリアミド 9T)に、Fe−Si合金の軟磁性金属粒子を分散させたものである。軟磁性金属粒子の含有量、Si含有量、および平均粒径については、後述する表1に示す。なお、磁性体における軟磁性金属粒子の含有量、および軟磁性金属粒子におけるSi含有量は、ICP発光分析(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)で測定した。また、軟磁性金属粒子の平均粒径d50は、光学的手法による画像をもとに、画像処理を行なうことで求めた。
【0065】
用意したペレットを用いて射出成形を行ない、短冊状の試料1〜10の磁性体を作製した。磁性体の長さ、幅、および厚さはそれぞれ、60mm〜90mm、10mm〜13mm、および2mm〜5mmとすれば良く、このような寸法の磁性体であれば磁歪量λ
p−pの測定に好適である。射出成形の条件は以下の通りであった。
・磁性体ペレットの温度…320℃
・金型の温度…150℃
・射出圧力…100MPa
【0066】
≪磁歪量の測定≫
レーザ・ドップラー計を用いて、磁束密度=0.6T、周波数=500Hzの交番磁界下における試料1〜10の磁歪量λ
p−p(ppm)を測定した。具体的には、まず
図6の説明図に示すように、試料1〜10の磁性体で構成された測定サンプル6の側面にアルミ製の一対の反射板61,62を取り付けた試験部材を作製した。
図6における紙面左右方向が磁性体(測定サンプル6)の長さ方向、奥行き方向が磁性体の幅方向、上下方向が磁性体の厚さ方向である。次に、その測定サンプル6を、一対のU字型のヨーク71,72で挟み込むと共に、測定サンプル6の外周を取り囲むように励磁コイル(図示せず)を配置した。つまり、励磁コイルによって生じる交番磁界の方向が磁性体の長さ方向に一致するようにした。そして、励磁コイルによって交番磁界を発生させつつ、測定サンプル6の各反射板61,62の変位をレーザ・ドップラー計(株式会社電子技研製V100−S)81,82で測定し、両反射板61,62の変位の測定結果に基づいて測定サンプル6の磁歪量λ
p−pを求めた。各試料の測定結果を表1に示す。
【0068】
表1に示すように、軟磁性金属粒子の含有量が50体積%以上、85体積%以下で、軟磁性金属粒子のSi含有量が4.5質量%以上、8.0質量%未満で、かつ軟磁性金属粒子の平均粒径が20μm以上、100μm以下である試料1〜6の磁歪量λ
p−pは、0.9ppm以下であった。また、軟磁性金属粒子の含有量が55体積%以上、65体積%以下で、軟磁性金属粒子のSi含有量が6.0質量%以上、7.0質量%未満で、かつ軟磁性金属粒子の平均粒径が55μm以上、90μm以下である試料1〜4の磁性体の磁歪量λ
p−pは、0.5ppm以下であった。特に、軟磁性金属粒子の含有量が60体積%以上、65体積%以下で、軟磁性金属粒子のSi含有量が6.0質量%以上、7.0質量%未満で、かつ軟磁性金属粒子の平均粒径が80μm以上、90μm以下である試料1,2の磁歪量λ
p−pは0.35ppm以下であった。
【0069】
特に、軟磁性金属粒子のSi含有量に着目して試料6〜10を比較すると、磁束密度=0.6T、周波数=500Hzの交番磁界下における試料6の磁歪量λ
p−pは、試料7〜10の磁歪量λ
p−pよりも有意に小さいことが明らかになった。従って、ここで設定した軟磁性金属粒子の平均粒径と含有量においては、Si含有量を4.5質量%以上、8.0質量%未満とすることで、磁歪量λ
p−pが非常に小さくなることが見出された。
【0070】
以上のことから、磁性体に係る三つのパラメーターを所定範囲内に調整することで、磁性体の磁歪量λ
p−pを低減できることが判った。
【0071】
<試験例2>
試験例2では、特に、磁歪量λ
p−pに及ぼすSi含有量の影響を調べた。具体的には、Si含有量が6.5質量%、7.0質量%、あるいは8.0質量%の軟磁性金属粒子を用いて三種類の磁性体を作製した。各磁性体における軟磁性金属粒子の含有量はいずれも67体積%、軟磁性金属粒子の平均粒径はいずれも60μmであった。それら磁性体を交番磁界中に配置して、磁性体の磁歪量λ
p−pをレーザ・ドップラー計で測定した(測定装置の構成は
図6と同様である)。交番磁界の周波数は500Hzで固定し、交番磁界の磁束密度は0.3T〜0.8Tの間で変化させた。その結果を
図7に示す。
【0072】
図7の結果から、Si含有量が6.5質量%(6.0質量%以上、7.0質量%未満)の磁性体の磁歪量λ
p−pの絶対値が、交番磁界の磁束密度を0.3Tから0.8Tに増加させても、殆ど変化しなかった。これに対して、Si含有量が7.0質量%、あるいは8.0質量%の磁性体の磁歪量λ
p−pの絶対値は、交番磁界の磁束密度の増加に伴い、増加する傾向にあった。
【0073】
<試験例3>
試験例3では、特に、磁歪量λ
p−pに及ぼす軟磁性金属粒子の平均粒径d50の影響を調べた。具体的には、平均粒径d50が60μmでSi含有量が6.5質量%の軟磁性金属粒子の粉末を用意した。その粉末を二つに分け、一方の粉末を利用して磁性体を作製した。他方の粉末は、44μm以下の軟磁性金属粒子からなる粉末となるように分級し、その分級粉末を利用して磁性体を作製した。分級しなかった粉末の軟磁性金属粒子の最大粒径は約212μmである。一方、分級粉末の最大粒径は44μmであり、平均粒径d50は20μmであった。両磁性体における軟磁性金属粒子の含有量はいずれも67体積%であった。それら磁性体を交番磁界中に配置して、磁性体の磁歪量λ
p−pをレーザ・ドップラー計で測定した(測定装置の構成は
図6と同様である)。交番磁界の周波数は500Hzで固定し、交番磁界の磁束密度は0.3T〜0.8Tの間で変化させた。その結果を
図8に示す。
【0074】
図8の結果から、軟磁性金属粒子の平均粒径d50が60μmである磁性体(分級なし)では、交番磁界の磁束密度の増加に伴う磁歪量λ
p−pの増加割合が小さい傾向にあることが判った。これに対して、軟磁性金属粒子の平均粒径d50が20μmである磁性体(分級あり)では、磁歪量λ
p−pが0.9ppm以下であるものの、磁束密度の増加に伴って磁歪量λ
p−pが徐々に増加する傾向にあった。以上のことから、軟磁性金属粒子の平均粒径d50は、本発明に規定する範囲内で大きめに設定することが、磁歪量λ
p−pの低減に寄与する傾向が見出された。
【0075】
<試験例4>
試験例1の試料2,7の磁性体を
図1,2に示す内側コア部31に利用したリアクトル1を作製した。そして、作製したリアクトルを、磁束密度=0.1T、周波数=3kHz(3000Hz)の交番磁界中に載置し、リアクトルの騒音を測定した。暗騒音(バックグラウンドの騒音)は55dBであった。その結果、試料7の磁性体を備えるリアクトルでは76dBの騒音が生じた。これに対して、試料2の磁性体を備えるリアクトルの騒音は70dBであった。このように、軟磁性金属粒子の含有量、軟磁性金属粒子の平均粒径、および軟磁性金属粒子におけるSi含有量を所定量に調節した磁性体は、リアクトルの静粛性の向上に大きく貢献することが判った。
【0076】
<付記>
以上説明した本発明に係る実施形態に関連して、更に以下の付記を開示する。
【0077】
≪付記1≫
コイルと、前記コイルの内部に挿通される部分を有する磁性コアと、を組み合わせた組合体を備えるリアクトルであって、
前記磁性コアの少なくとも一部が、Fe−Si合金の複数の軟磁性金属粒子が樹脂中に分散された磁性体であり、
前記磁性体に占める前記軟磁性金属粒子の含有量が、50体積%以上、85体積%以下、
前記軟磁性金属粒子の平均粒径d50が、20μm以上、100μm以下、
前記軟磁性金属粒子におけるSi含有量が、3.0質量%以上、8.0質量%以下であり、
磁束密度=0.6T、周波数=500Hzの交番磁界下における前記磁性体の磁歪量λ
p−pが2.0ppm以下であるリアクトル。
【0078】
付記に係るリアクトルは、使用時に発生する騒音が小さいリアクトル、即ち静粛性に優れるリアクトルである。それは、リアクトルの磁性コアの少なくとも一部を構成する磁性体の磁歪量λ
p−pが小さいからである。通常、リアクトルの磁性コアは複数のコア片を組み合わせてなるため、各コア片の磁歪量λ
p−pが大きいと、騒音が発生し易い。これに対して、磁歪量λ
p−pの小さい磁性体を用いて磁性コアのコア片を構成すれば、リアクトルの使用時に発生する騒音を低減することができる。
【0079】
≪付記2≫
Fe−Si合金の複数の軟磁性金属粒子が樹脂中に分散された磁性体であって、
全体に占める前記軟磁性金属粒子の含有量が、50体積%以上、85体積%以下であり、
前記軟磁性金属粒子の平均粒径d50が、20μm以上、100μm以下で、
前記軟磁性金属粒子におけるSi含有量が、3.0質量%以上、8.0質量%以下であり、
磁束密度=0.6T、周波数=500Hzの交番磁界下における磁歪量λ
p−pが2.0ppm以下である磁性体。
【0080】
上記構成に示すように、全体に占める軟磁性金属粒子の含有量、軟磁性金属粒子の平均粒径、および軟磁性金属粒子のSi含有量の三つのパラメーターが所定範囲内にある場合、磁性体の磁歪量λ
p−pは2.0ppm以下となる。そのため、この磁性体を用いれば、リアクトルの静粛性を向上させることができる。
【0081】
付記1に係るリアクトル、および付記2に係る磁性体におけるSi含有量は3.0質量%超であることがより好ましく、3.5質量%以上であることがさらに好ましく、4.0質量%以上であることがさらに好ましい。また、磁性体の磁歪量λ
p−pは1.7ppm以下であることがより好ましく、1.6ppm以下であることがさらに好ましく、1.55ppm以下であることがさらに好ましい。