特許第6358599号(P6358599)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358599
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】分離剤
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/281 20060101AFI20180709BHJP
   B01J 20/283 20060101ALI20180709BHJP
   C08F 20/60 20060101ALI20180709BHJP
   C08F 20/56 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   B01J20/281 X
   B01J20/281 G
   B01J20/283
   C08F20/60
   C08F20/56
   B01J20/26 L
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-526362(P2015-526362)
(86)(22)【出願日】2014年7月8日
(86)【国際出願番号】JP2014068237
(87)【国際公開番号】WO2015005361
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2017年5月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-142550(P2013-142550)
(32)【優先日】2013年7月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100160945
【弁理士】
【氏名又は名称】菅家 博英
(72)【発明者】
【氏名】池上 亨
(72)【発明者】
【氏名】河内 佑介
(72)【発明者】
【氏名】國澤 研大
【審査官】 赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/118985(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101837284(CN,A)
【文献】 特表平10−500615(JP,A)
【文献】 特開2009−244252(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0095165(US,A1)
【文献】 中国特許第1023298(CN,C)
【文献】 HAZER O et al.,Anal Sci,2013年 6月10日,29(7),729-734
【文献】 SCHWARZ A et al.,J Mol Recognit,1996年 9月,9(5-6),672-674
【文献】 DAI XiaoJun et al.,Chromatographia,2011年 2月26日,Volume 73, Issue 9-10,865-870
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/281−20/292
C08F 20/56 −20/60
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体と担体に担持されたリガンドから形成された親水性相互作用クロマトグラフィー分離剤であって、該リガンドが、下記式(I)で示される化合物に由来する構成単位を有する(メタ)アクリルポリマーである、分離剤。
【化1】
式(I)中、複素環を構成する原子の間に1または2個の二重結合を有し、X1はS、SCH3+、O、NH、NCH3、CH2、CHRおよびCR12からなる群から選択され、X2、X3およびX4のそれぞれは、N、NH、NCH3、CH2、CHR、NCH3+、CH、CR、CR12からなる群から選択され、但しR1およびR2は、それぞれ置換または未置換の炭素数1〜18のアルキル、炭素数6〜18のアリール、炭素数2〜18のアルケニル、炭素数2〜18のアルキニル、炭素数7〜18のアラールキル、炭素数2〜18のアシル、炭素数3〜18のシクロアルキル、カルボキシル、アミノ、炭素数6〜18のアリールオキシまたは炭素数1〜18のアルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ及びシアノのいずれかであり、但しRは置換または未置換の炭素数1〜18のアルキル、炭素数6〜18のアリール、炭素数2〜18のアルケニル、炭素数2〜18のアルキニル、炭素数7〜18のアラールキル、炭素数2〜18のアシル、炭素数3〜18のシクロアルキル、カルボキシル、アミノ、炭素数6〜18のアリールオキシまたは炭素数1〜18のアルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ及びシアノのいずれかであり、X1、X2、X3およびX4の少なくとも2個はCH2、CH、CRまたはCR12ではなく、R3はHまたはCH3である。)
【請求項2】
前記リガンドが、アミノイミダゾール、アミノイミダゾリン、アミノチアゾール、アミノトリアゾール、アミノテトラゾール、アミノチアジアゾール、アミノメチルイミダゾールからなる群から選ばれる化合物に由来する構成単位を有する(メタ)アクリルポリマーである、請求項1に記載の分離剤。
【請求項3】
前記リガンドがアミノテトラゾールに由来する構成単位を有する(メタ)アクリルポリマーである、請求項1に記載の分離剤。
【請求項4】
前記リガンドがアミノテトラゾールに由来する構成単位を有するメタクリルポリマーである、請求項1に記載の分離剤。
【請求項5】
前記担体がシリカゲルまたはシリカモノリスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の分離剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクロマトグラフィー用の分離剤に関し、特に親水性物質の分離に用いる親水性相互作用液体クロマトグラフィー用の分離剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は生命科学、医薬学等様々な分野で応用されている分析手法の一つであり、近年では特に高度な分離あるいは高速領域での高性能化が要求されている。HPLCには様々な分離モードがあるが、現在のHPLC分析でよく利用されているものとして逆相クロマトグラフィー(RPLC)が挙げられる。しかし、生命科学の分野において重要な生理活性物質や代謝物などは高極性かつ親水性の化合物が多く、RPLCではこれらの親水性化合物の保持は小さくなるため、分離が困難となる。そのような化合物を分離するために考案されたのが親水性相互作用液体クロマトグラフィー(Hydrophilic Interaction Liquid Chromatography, HILIC)である(非特許文献2)。HILICは順相液体クロマトグラフィー(NPLC)に分類されるが、移動相に有機溶媒と水または緩衝液の混合溶媒を用いるため一般のNPLCとは異なる。一般のNPLCでは移動相に非水溶性溶媒を用いるので, 親水性の化合物を溶解させることが難しい。しかしHILICでは水系の移動相を利用するため、順相条件では溶出しない親水性化合物の分離に適している。
【0003】
特許文献1には、シリカゲルを担体として用い、該担体にリガンドとしてアクリルアミドに由来する構造が結合している分離剤が記載されている。
特許文献2には、ビニルテトラゾールを重合して得られるポリマーが担持されてなる分離剤が記載されている。
また、非特許文献1には、親水性相互作用クロマトグラフィー用の分離剤として、テトラゾールで修飾されたニトリル改質シリカが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2504005号公報
【特許文献2】中国特許第101837284号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Chromatographia, 73, 865−870 (2011)
【非特許文献2】J.Chromatography.A, 1218, 5920−5938 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2や非特許文献1に記載の分離剤は親水性が高くなく、改善の余地があった。本発明は、親水性相互作用クロマトグラフィー用の新規な分離剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、テトラゾールのような式(I)で示される化合物に由来する構成単位のイオン相互作用や水素結合に着目した。
そして、そのような構成単位を有する(メタ)アクリルモノマーを合成し、その(メタ)アクリルモノマーを重合して得られるリガンドが担持された分離剤が、市販されている従来の親水性相互作用クロマトグラフィー用の分離剤に比べ、特定の化合物に対して保持特性に優れることを見出し、以下に示す本発明を完成させた。
【0008】
[1] 担体と担体に担持されたリガンドから形成された親水性相互作用クロマトグラフィー分離剤であって、該リガンドが、下記式(I)で示される化合物に由来する構成単位を有する(メタ)アクリルポリマーである、分離剤。
【化1】
式(I)中、複素環を構成する原子の間に1または2個の二重結合を有し、X1はS、SCH3+、O、NH、NCH3、CH2、CHRおよびCR12からなる群から選択され、X2、X3およびX4のそれぞれは、N、NH、NCH3、CH2、CHR、NCH3+、CH、CR、CR12からなる群から選択され、但しR1およびR2は、それぞれ置換または未置換の炭素数1〜18のアルキル、炭素数6〜18のアリール、炭素数2〜18のアルケニル、炭素数2〜18のアルキニル、炭素数7〜18のアラールキル、炭素数2〜18のアシル、炭素数3〜18のシクロアルキル、カルボキシル、アミノ、炭素数6〜18のアリールオキシまたは炭素数1〜18のアルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ及びシアノのいずれかであり、但しRは置換または未置換の炭素数1〜18のアルキル、炭素数6〜18のアリール、炭素数2〜18のアルケニル、炭素数2〜18のアルキニル、炭素数7〜18のアラールキル、炭素数2〜18のアシル、炭素数3〜18のシクロアルキル、カルボキシル、アミノ、炭素数6〜18のアリールオキシまたは炭素数1〜18のアルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ及びシアノのいずれかであり、X1、X2、X3およびX4の少なくとも2個はCH2、CH、CRまたはCR12ではなく、R3はHまたはCH3である。)
[2] 前記リガンドが、アミノイミダゾール、アミノイミダゾリン、アミノチアゾール、アミノトリアゾール、アミノテトラゾール、アミノチアジアゾール、アミノメチルイミダゾールからなる群から選ばれる化合物に由来する構成単位を有する(メタ)アクリルポリマーである、[1]に記載の分離剤。
[3] 前記リガンドがアミノテトラゾールに由来する構成単位を有する(メタ)アクリルポリマーである、[1]に記載の分離剤。
[4] 前記リガンドがアミノテトラゾールに由来する構成単位を有するメタクリルポリマーである、[1]に記載の分離剤。
[5] 前記担体がシリカゲルまたはシリカモノリスであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の分離剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明の分離剤は、前記式(I)で表わされる化合物に由来する構成単位を有する(メタ)アクリルポリマーが担体に担持されて形成されているものである。本発明によれば、特定の親水性化合物の分離をするのに有用な新規な分離剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例で作製したメタクリルアミドモノマーの1H NMRの測定結果を示す図である。
図2】カラムテストに用いた化合物の構造を示す図である。
図3】本発明の分離剤及び市販品の分離剤を充填したカラムのk(U)を比較した結果を示す図である。
図4】本発明の分離剤及び市販品の分離剤を充填したカラムを用いた核酸誘導体など8種の親水性化合物の分離結果(クロマトグラム)を示す図である。
図5】本発明の分離剤を充填したカラムと市販品のカラムについて、log k(U)および log k(TMPAC)をプロットした結果を示す図である。
図6】本発明の分離剤(異なる(メタ)アクリルアミド系モノマーを使用)を充填したカラムと市販品のカラムについて、α(Tb/Tp)およびα(U/2dU)をプロットした結果を示す図である。
図7】本発明の分離剤(異なる濃度で5−メタアクリルアミド−1H−テトラゾールを使用)を充填したカラムと市販品のカラムについて、α(Tb/Tp)およびα(U/2dU)をプロットした結果を示す図である。
図8】本発明の分離剤(モノリスカラム)と市販品及び比較対象のカラムについて、α(Tb/Tp)およびα(U/2dU)をプロットした結果を示す図である。
図9】本発明の分離剤(モノリスカラム)と比較対象のカラムを用いてフッ化ウラシル化合物を分離して得られたクロマトグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本発明の分離剤に担持されるリガンド>
本発明の分離剤は、式(I)で示される化合物に由来する構成単位が、(メタ)アクリルポリマーに含まれているリガンドが担持されて形成されるものである。
また、本発明でいう「(メタ)アクリル」には、「メタクリル」と「アクリル」の両方を含むものである。
【0012】
【化2】
【0013】
式(I)中、複素環を構成する原子の間に1または2個の二重結合を有し、X1はS、SCH3+、O、NH、NCH3、CH2、CHRおよびCR12からなる群から選択され、X2、X3およびX4のそれぞれは、N、NH、NCH3、CH2、CHR、NCH3+、CH、CR、CR12からなる群から選択され、但しR1およびR2は、それぞれ置換または未置換の炭素数1〜18のアルキル、炭素数6〜18のアリール、炭素数2〜18のアルケニル、炭素数2〜18のアルキニル、炭素数7〜18のアラールキル、炭素数2〜18のアシル、炭素数3〜18のシクロアルキル、カルボキシル、アミノ、炭素数6〜18のアリールオキシまたは炭素数1〜18のアルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ及びシアノのいずれかであり、但しRは置換または未置換の炭素数1〜18のアルキル、炭素数6〜18のアリール、炭素数2〜18のアルケニル、炭素数2〜18のアルキニル、炭素数7〜18のアラールキル、炭素数2〜18のアシル、炭素数3〜18のシクロアルキル、カルボキシル、アミノ、炭素数6〜18のアリールオキシまたは炭素数1〜18のアルコキシ、ハロ、ヒドロキシ、ニトロ及びシアノのいずれかであり、X1、X2、X3およびX4の少なくとも2個はCH2、CH、CRまたはCR12ではなく、R3はHまたはCH3である。
【0014】
式(I)において、X1、X2、X3およびX4のそれぞれは、S、N、O、NH、NCH3、CH2から選ばれることが好ましく、S、N及びNHから選ばれることがより好ましい。
【0015】
式(I)で示される化合物に由来する構成単位が、リガンドである(メタ)アクリルポリマーに含まれていることで、式(I)に由来する構成単位のイオン相互作用や水素結合の作用により、分離剤の親水性化合物を保持する能力に影響を与える。
特に、式(I)で示される化合物として、複素環に窒素原子を有する化合物を用いた場合には、その窒素原子が水素結合受容体として働き、これが親水性化合物の保持に影響を与える。
上記の化合物のうち、(メタ)アクリルアミドテトラゾールについて見ると、環に4つの窒素原子を含む化合物であり、脱プロトン化することにより共鳴安定化する酸性化合物である。さらにテトラゾール上の窒素原子は水素結合の受容体として働く。
【0016】
式(I)で示される化合物は市販のものを用いてもよいし、公知の方法を用いて合成することもできる。
式(I)で示される化合物は、例えば以下の式(II)で示される化合物と(メタ)アクリロイルクロリドとを、例えばテトラヒドロフランのような溶媒中で反応させることで、式(I)で示される構造を有する(メタ)アクリルアミドモノマーを得ることができる。なお、(メタ)アクリロイルクロリドは、メタクリロイルクロリドまたはアクリロイルクロリドを意味する。
【0017】
【化3】
(式(II)中、複素環を構成する元素の間に1または2個の二重結合を有し、X1〜X4は式(I)と同じものを表し、R3は水素又はメチルを示す。)
【0018】
式(II)で示される化合物の具体例としては、例えば以下のものを挙げることができる。
5−アミノテトラゾールのようなアミノテトラゾール、2−アミノイミダゾールのようなアミノイミダゾール、2−アミノ−2−イミダゾリンのようなアミノイミダゾリン、2−アミノチアゾールのようなアミノチアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、4-アミノ−1,2,4−トリアゾールのようなアミノトリアゾール 、2−アミノ−1,3,4−チアジアゾールのようなアミノチアジアゾール及び2−アミノ−1−メチル−1H−イミダゾールのようなアミノメチルイミダゾールが挙げられる。
【0019】
上記の式(I)の(メタ)アクリルアミドモノマーは、重合性官能基と複素環とがアミド結合を介して結合していることから、これを重合させて得られる(メタ)アクリルポリマーは、その主鎖と上記複素環とがアミド結合を介して結合することになる。
【0020】
上述した(メタ)アクリルアミドモノマーをラジカル重合させることで、式(I)で示される化合物に由来する構成単位が(メタ)アクリルポリマーに含まれるリガンドを得ることができる。
上述した(メタ)アクリルアミドモノマーのラジカル重合は、フリーラジカル重合である。これに対し、特許文献2に記載のポリマーの重合は、原子移動ラジカル重合(ATRP)により行われるものであり、この重合法では銅錯体を触媒として用いる。この方法によれば、銅イオンのような金属イオンが担体に残存する可能性があり、この金属イオンが目的物質の分離に悪影響を及ぼす可能性がある。本発明では金属触媒を用いずにラジカル重合を行うことができるので、金属イオンの残存に起因する問題が生じない。
なお、本発明の分離剤に担持されるリガンドは、式(I)に示される構成単位に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で他の化合物に由来する構成単位を含んでいてもよい。
その場合、式(I)で示される構成単位の割合が90モル%以上含まれていることが好ましい。
【0021】
式(I)で示される化合物の重合については、後述するように、担体の存在下で行うこともできるし、担体とは別に行うこともできる。担体の存在下で行う場合には、化学結合型の分離剤とすることができ、担体とは別に重合させる場合には、物理吸着型の分離剤を作製することができる。
【0022】
前記(メタ)アクリルポリマーの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は親水性化合物の分離性能の観点からは、できるだけ大きい方が好ましく5000〜20000であることが好ましい。前記(メタ)アクリルポリマーの分子量分散(Mw/Mn)は特に限定されないが、1.0〜5.0である態様を挙げることができる。
(メタ)アクリルポリマーの分子量が大きくなることは、式(I)で示される化合物に由来する構成単位の分離剤における割合が増えることにより、親水性化合物の保持力を高めることに寄与する。
【0023】
前記(メタ)アクリルポリマーが後述する担体に担持された分離剤の親水性については、その重合条件を変えることによっても、調整することができる。
例えば、重合の際に重合温度を低くしたり、RAFT試薬を添加することで、生成するポリマーが担持された分離剤の親水性を上げることができる。
【0024】
前記(メタ)アクリルポリマーのMn、Mw、及びMw/Mnは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって求めることができる。
【0025】
前記(メタ)アクリルポリマーのMn、Mwは、後述する重合の工程において用いる重合開始剤とモノマーとのモル比を10〜1000の範囲で調整することによって調整することができる。また、分子量は、連鎖移動剤を用いて小さくすることができる。連鎖移動剤としては、例えば水溶性のRAFT剤であるジチオカルボン酸誘導体を用いることができる。
例えば、前記ポリマーのMnやMwを大きくすることは、重合開始剤とモノマーとのモル比を大きくすることにより可能となる。
重合開始剤としては、例えば過硫酸化アンモニウムを用いることができる。
【0026】
本発明の分離剤は、式(I)で示される化合物に由来する構成単位が含まれているリガンドが担体に担持されて形成されるものである。
担体への担持の態様としては、物理的な吸着や化学的な結合を挙げることができる。
担体への担持が物理的吸着である場合には、式(I)で示される化合物に由来する構成単位を有するリガンドを適当な溶剤に溶解させた後、その溶液を下記の担体に塗工した後、溶剤を留去することによって担持させることができる。
物理的吸着により担持させる担体は、カラム管に収容され、分離における化学的及び物理的な耐久性を有する担体を用いることができる。このような担体としては、公知の担体を用いることができ、例えば、シリカ、アルミナ、マグネシア、ガラス、カオリン、酸化チタン、ケイ酸塩、及びヒドロキシアパタイト等の無機担体、及び、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート等の有機担体、が挙げられる。
前記担体は、目的物に対する分離能を高める観点から、多孔質であることが好ましい。担体は粒子状であってもよいし、カラム管に一体的に収容される一体型担体であってもよいが、分離剤の製造及びそのときの取り扱いの容易さの観点から、粒子状であることが好ましい。このような担体の具体例としてはシリカゲルが挙げられる。
【0027】
担体への担持を、化学的結合により行う場合には、例えば以下の方法を用いることができる。
担体に予め表面処理を行う。例えば、担体としてシリカゲルを用いる場合、アクリル系モノマーとシランカップリング剤を反応させて得られる化合物をスペーサーとして用い、これをシリカゲルと反応させる。
スペーサーとして用いることのできる化合物は、例えば(メタ)アクリロイルクロリドとアミノアルコキシシランを反応させて得ることができる。アミノアルキルアルコキシシランのアルキル基の炭素数は、例えば1〜5のものを挙げることができ、アルコキシ基の炭素数は1〜3のものを挙げることができる。アミノアルキルアルコキシシランの具体例としては、3−アミノプロピルトリエトキシシランを挙げることができる。
THFのような溶媒の中でトリエチルアミンの存在下、メタクリロイルクロリドと3−アミノプロピルトリエトキシシランを反応させた場合には、3−メタクリルアミドプロピルトリエトキシシランが得られる。
このようにして得られたスペーサーのアルコキシ基と、シリカゲルとを反応させ、シリカゲルとスペーサーを結合させる。
【0028】
アクリル系モノマーに由来する二重結合を有するスペーサーが結合したシリカゲルと、前述した式(I)で示される(メタ)アクリルアミドモノマーとを共に重合反応を起こさせることで、式(I)で示される化合物に由来する構成単位を有する(メタ)アクリルポリマーが担体であるシリカゲルと化学的に結合する。重合の際に用いる溶媒としては、式(I)で示される(メタ)アクリルアミドモノマーを溶解するジメチルホルムアミド(DMF)系の溶媒や水/ピリジンを用いることができる。
なお、この際の式(I)で示される(メタ)アクリルアミドモノマーの濃度については、50〜800mg/mL程度を挙げることができる。メタクリルアミドテトラゾールを用いる態様としては50〜500mg/mL程度を挙げることができ、それ以外のアクリルアミド系モノマーの濃度は、例えば300〜600mg/mLを挙げることができる。重合の際の前記モノマーの濃度を増加させることで、得られる分離剤の親水性基選択性や疎水性選択性を高めることができる。反応温度は20〜100℃、反応時間は1〜24時間程度を挙げることができる。
【0029】
担体としてシリカゲルを用いない場合でも、担体表面にビニル基のような重合性官能基を有するスペーサーを結合させ、その後その重合性官能基と、式(I)で示される(メタ)アクリルアミドモノマーの重合性官能基に対して重合反応を起こさせることで、担体に化学的に結合させることができる。
担体としては、その表面処理を容易に行う観点から、シラノール基を担体の表面に有しているものが好ましい。
上記のスペーサーとして用いることのできるシランカップリング剤としては、ビニルメチルクロロシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ビニルエチルジクロロシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、1−ビニルシラトラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、スチリルエチルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメチルクロロシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリス(メトキシエトキシ)シラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、1,3−ジビニル−1,3−ジメチル−1,3−ジクロロジシロキサン、1,3−ジビニルテトラエトキシジシロキサン、1,3−ジビニルテトラメチルジシラザンなどを挙げることができる。
【0030】
担体の粒径としては、担体へのリガンドの担持が物理的吸着でも化学的結合であっても、通常3〜15μmのものを用いる。
【0031】
上記担体に対する前記リガンドの担持量は、分離剤全量の100重量部に対して通常、10〜30重量部であり、15〜25重量部であることが好ましい。
【0032】
また、担体としてはモノリス担体を用いることもでき、そのようなモノリス担体は、例えば以下の反応式で示されるように、アルコキシシランの加水分解及び重縮合により引き起こされるゾル−ゲル法により得ることができるシリカモノリスを挙げることができる。
Si(OR)4 + H2O → Si(OH)(OR)3 + ROH
Si-OH + Si-OH → Si-O-Si + H2O
Si-OH + Si-OR → Si-O-Si + ROH
アルコキシシランの加水分解及び重縮合は、使用するカラムの形態に応じて、例えばキャピラリーカラムの中で行わせてもよい。
アルコキシシランのアルコキシ基としては、炭素数が1〜5程度のものを挙げることができ、その中でもメトキシ基、エトキシ基を好ましく挙げることができる。
上記の他にも、特開2006−150214号公報に記載の、マクロ細孔と該マクロ細孔の内壁面に形成される中細孔を有する一体型の無機系多孔質体(モノリス担体)も使用することができる。
キャピラリーカラムとしては、フューズドシリカキャピラリーを挙げることができる。フューズドシリカキャピラリーは、公知の方法により作製することもできるし、市販品のカラムの内壁を処理して得ることもできる。
シリカゾル−ゲル反応は、公知の条件を用いることができる。
【0033】
また、モノリスカラムとしては、シリカモノリスの他に、公知のポリマーモノリスを用いることもできる。
このようなポリマーモノリスを用いる場合には、これに物理的吸着により、式(I)で表される化合物に由来する構成単位を持ったポリマーを担持させて用いることができる。
【0034】
シリカモノリスを用いる場合には、そのモノリスへの担持方法として、上述した化学的結合を挙げることができる。
具体的には、予め調製したシリカモノリスに、アクリル系モノマーとシランカップリング剤を反応させて得られる化合物をスペーサーとして用い、これをシリカモノリスと反応させる。例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシランとメタクリルクロリドを反応させると、3−メタクリルアミドプロピルトリエトキシシランが得られる。
このようにして得られたスペーサーのアルコキシ基と、シリカゲルとを反応させ、シリカゲルとスペーサーを結合させる。
アクリル系モノマーに由来する二重結合を有するスペーサーが結合したシリカモノリスと、前述した式(I)で示される(メタ)アクリルアミドモノマーとを共に重合反応を起こさせることで、式(I)で示される化合物に由来する構成単位を有する(メタ)アクリルポリマーが担体であるシリカモノリスと化学的に結合する。
その際の(メタ)アクリルアミド系モノマーの濃度は50〜800mg/mL程度を挙げることができる。メタクリルアミドテトラゾールを用いる態様としては50〜500mg/mL程度を挙げることができ、それ以外のアクリルアミド系モノマーの濃度は、例えば300〜600mg/mLを挙げることができる。重合の際の前記モノマーの濃度を増加させることで、得られる分離剤の親水性基選択性や疎水性選択性を高めることができる。例えば反応温度は20〜100℃、反応時間は1〜24時間程度を挙げることができる。
【実施例】
【0035】
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0036】
本発明の実施例を以下に示す。
1. 5−メタクリルアミド−1H−テトラゾールの合成
<実験操作>
(1) 5−アミノ−1H−テトラゾール 3.09g、テトラヒドロフラン90mL, 水11.4mLの溶液にメタクリロイルクロリド3.79mLを30分かけて滴下し、3時間後に水90mLを加え、冷蔵保存した。
(2)この溶液を吸引ろ過し、ろ紙上の白い固体を真空乾燥した。
【0037】
【化4】
5-Methacrylamido-1H-tetrazoleの合成
【0038】
<結果>
作製した(メタ)アクリルアミドモノマーの1H NMRの測定結果を図1に示す。収率は70%であった。
【0039】
2. テトラゾール含有ポリマー修飾型固定相 (PTz) の合成
2-1. 3−メタクリルアミドプロピルトリエトキシシラン(MAS)の合成およびシリカゲルへの担持
<実験操作>
(1)3−アミノプロピルトリエトキシシラン11.09gをTHF25mLに溶解し、 トリエチルアミン7.39mLを加えた。
(2)氷冷下でメタクリロイルクロライド5.08mLを30分かけて滴下。
(3)21時間後、この溶液を吸引ろ過し、 エバポレーターで濃縮後、真空乾燥を行った。(MASの単離)
(4)乾燥させたシリカゲル13.67gにトルエン60mLを加え、120℃で蒸留(共沸)した。
(5)MAS、ピリジン8.46gおよびヒドロキノンを加え、24時間加熱還流した。
(6)還流終了後、メタノールでろ過し、ろ紙上の固体を乾燥した。(MAS-Siの単離)
【0040】
2-2. メタクリルアミドモノマーの重合による固定相の合成
<実験操作>
(1)MAS-Si 700mgに対し、400〜1300mgのメタクリルアミドモノマーを用い、溶媒5mL中で、60℃、3時間ラジカル重合を行った。開始剤には、すべて過硫酸アンモニウムを用い、溶媒は水/ピリジン=4/1とした。
(2)重合後、メタノールおよびアセトンでろ過し、乾燥した。
(3)出来上がった充填剤を、スラリー溶媒(メタノール/水=4/1)20mLを用いてステンレスカラムに充填した。
【0041】
【化5】
PTz固定相の合成
【0042】
3. カラムテスト法による特性評価
3-1. カラムテスト法
カラムテスト法を用いて、表1の各項目について表2に示す各分離剤について評価を行った。
測定条件
移動相: α(AX), α(CX)…Acetonitrile (ACN)/AcONH4 buffer (100 mM, pH 4.76 )
上記以外の項目…Acetonitrile (ACN)/AcONH4 buffer (20 mM, pH 4.76 )
カラム温度: 30 °C
検出器: UV 254 nm
【0043】
<結果と考察>
実施例のカラム(以下、PTzカラムともいう)及び市販のカラム(TSKgel Amide-80, Halo−HILIC)の測定結果を表2に示した。ウリジンの保持k(U)に関して、実施例のカラムではk(U)=4.562〜8.944の値が得られた。これは、市販カラムの中で最大の保持を有するTSKgel Amide-80のk(U)=4.58と同等以上であり、大きく上回るものもあった。親水性選択性の大きさを表すα(OH)の値は1.927〜2.25であった。よって、このPTzカラムはウリジンなどの親水性物質に対しての保持や選択性が非常に高いと考えられる。また、α(Tb/Tp)の値が1以上であることから、酸性型の分離剤であると考えられる。図3として、実施例のカラムと市販品のカラムのk(U)を比較した結果を示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
4. 市販のカラムとの比較
8種の核酸および核酸塩基を試料とし、 PTzカラム(実施例)、TSK gel Amide-80(5μm)、Halo-HILICの3つのカラムでその分離性能を比較した。
【0047】
<結果と考察>
8種の試料 (Guanine, Guanosine, Uracil, Uridine, Adenine, Adenosine, Cytosine, Cytidine) の分離性能比較の結果を図4に示した。
測定条件
移動相: ACN/20 mM AcONH4buffer = 90/10
検出器: UV 254 nm
カラム温度: 30 ℃
【0048】
図4のクロマトグラムで示されるように、Amide-80(5μm)ではAdenosineとUridineが、Halo-HilicではAdenineとAdenosineが同時に溶出し, 分離できなかった。これに対して、PTzのみがこれら8種の化合物全ての分離を達成することができた。したがって、PTzカラムはヌクレオシドや、核酸類のような親水性の化合物に対しての分離性能が高いことが確認された。
【0049】
<参考例:カラムの分類について(市販のカラムとの比較)>
カラムテスト法に利用した検体を使って、log k(U)(k(uridine)の対数値)および log k(TMPAC)(k (trimethylphenylammonium chloride)の対数値)の値をプロットすることにより、カラムを分類することができる。
この手法の長所は、性質が分からないカラムを分類する際、たった2つの試料を用いることである程度の分類が可能であり、簡便に行えることである。市販のカラム15本(図5参照)とPTzカラムを用いてこのプロットを行った。
【0050】
<結果>
log k(U) および log k(TMPAC)を用いたプロットの結果を図5に示した。ここから読み取れるように、市販のカラムはアミン系、シリカ系、アミド系などに分類することができる。その中でも、PTzカラムはアミド系のカラムと性質が類似していた。
【0051】
上記1.と同様の方法により、以下の表3に示す(メタ)アクリルアミドモノマーを作製した。ただし、3−アミノ−1,2,4−トリアゾールと、5−アミノ1H−テトラゾールを原料とした反応ではテトラヒドロフランを用いず水溶媒のみで反応を行ない、塩基として炭酸水素カリウムを用いた。これらのモノマーの生成は、1H NMR及びMSで確認し、矛盾のない結果を得た。
【0052】
【表3】
【0053】
上記2−1.で作製した3−メタクリルアミドプロピルトリエトキシシラン(MAS)で修飾したシリカゲル粒子とシリカゲル粒子状で、上記表3に記載の(メタ)アクリルアミドモノマーを以下の表4に記載の条件で重合した。なお、MA thiazoleやMA thiadiazoleはモノマー及びポリマーの水溶性が低かったため、全てのモノマーが溶解するジメチルホルムアミド(DMF)系での重合を行なった。
【0054】
【表4】
【0055】
<結果と考察>
実施例のカラム(以下、PTzカラムともいう)及び市販のカラム(TSKgel Amide-80, Halo−HILIC)を用いたカラムテストの結果を表5に示した。なお、TSKgel Amide-80はポリアクリルアミド修飾型、Halo−HILICは未修飾のシリカ型のカラムである。
【0056】
【表5】
【0057】
ウリジンの保持k(U)に関して、表4に記載のモノマー(MA tetrazoleを除く)によるカラムではk(U)=0.40〜0.57の値が得られた。これは同時に重合したMA tetrazoleによるカラムのk(U)=5.15に比べると小さく親水性は高くないが、親水性クロマトグラフィー用の分離剤としては用いることができる値である。また、固定相表面のpHの状態を示すα(Tb/Tp)の値は、MA thiadiazole、MA triazole、AA tetrazoleの場合に1以下となり、これらのモノマーで修飾した固定相表面が塩基性であることを示した。
MA tetrazoleによる固定相は、水中で重合した場合と同様にα(Tb/Tp)が1以上であることから、酸性型の分離剤であると考えられる。
AA tetrazole型固定相で、α(Tb/Tp)が0.68と塩基性の性質を示した。
【0058】
次に、横軸にα(OH)、縦軸にα(Tb/Tp)をとって各カラムの値をプロットすると、図6のようになった。α(Tb/Tp)が1付近なら中性の表面、1以上なら酸性、1以下なら塩基性の表面であることを示す。α(OH)が大きいほどヒドロキシ基の選択性が高いことを示し、プロットの右上の方が親水性が大きくなる方向である。表4に記載のモノマーを用いて調製した固定相は16〜20に相当する。
MA thiazoleやMA thiazdiazoleの重合修飾によって中性〜弱塩基性のHILIC固定相を、MA triazoleの重合修飾によって塩基性のHILIC固定相を調製できる。表3に記載の用いた条件では、MA tetrazole修飾型カラムのプロット位置は双性イオン型の領域にとどまったが、k(U)=10のMA tetrazole修飾型カラムではずっと右上の領域にプロットが現れた。
【0059】
実施例1で作製したPTzカラムについて、各モノマー濃度ごとの分離特性を示す図として図7を示す。縦軸と横軸は図6と同じであり、図中の符号の数字も図6と同じものを意味する。図7に示された結果から、モノマー濃度を増加させることでPTzカラムの親水性と選択性を高めることができる。
【0060】
<実施例2:一体型担体(モノリスカラム)>
1. 多孔性シリカモノリスカラムの調製
多孔性シリカモノリスの調製は、公知の方法により行った。具体的には、アルコキシシランの加水分解、重縮合により引き起こされるゾル-ゲル法により行った。
2. フューズドシリカキャピラリーの内壁処理
100μm I.D.×375μm O.D.のヒューズドシリカキャピラリーカラム(Polymicro Technologies)に1N-水酸化ナトリウムを送液し、40℃で3時間放置した。次に1N−塩酸で洗浄を行った後、40℃で3時間放置した。最後に、超純水、アセトンの順に洗浄を行い、乾燥した。
3. Hybrid型シリカモノリスキャピラリーカラムの調製
氷冷下でポリエチレングリコール(PEG) 0.9gと尿素2gに0.01N酢酸20mlを加えて30分間撹拌した。混合溶液にテトラメトキシシランとメチルトリメトキシシランの混合アルコキシシラン(3:1 vol/vol)を9ml滴下し30分間撹拌を行った。さらに、40℃で10分間加熱した後、混合溶液をPTFEフィルター(0.45μm)でろ過した。この混合溶液を内壁処理を行ったフューズドシリカキャピラリー中に注入し、40℃で24時間反応を行いゲル化させた。次に、両端を0.06g/ml尿素水に浸した状態でこのキャピラリーを90℃加熱エージング処理し(24時間)、その後120℃で熱処理を4時間行った。熱処理を行うことにより骨格の再結合、および尿素の分解により発生するアンモニアによるシリカの溶解によるメソポアの形成を行った。その後、キャピラリー内をメタノールで洗浄した。最後にキャピラリー内により完全に乾燥させ熱処理を行い、シリカモノリスキャピラリーカラムを得た。
4. シリカモノリスキャピラリーカラムのMASによるシリル化
メタノール、トルエンで置換したシリカモノリスキャピラリーカラムにMAS、トルエン、ピリジン混合溶液(体積比=1:1:1)をシリンジポンプで24時間送液した(反応温度80℃)。その後、トルエンでキャピラリー内の洗浄を行った。同様の操作を再度行いシリカモノリスキャピラリーカラムのMAS化を行った。
5. 重合修飾型固定相の調製
重合開始剤を含んだモノマー(実施例1で作製したものと同じもの)溶液を、あらかじめ水で置換したMASカラムに室温で十分量送液し、カラム内にモノマー溶液の充填を行った。その後、それぞれの重合温度(60℃)に設定されたウォーターバス中に両端を密栓したカラムを投入し所定の時間重合させた。最後にHPLCポンプにより水またはメタノールを送液し、キャピラリー内を洗浄することにより重合修飾型シリカモノリスキャピラリーカラムを得た。モノマーの構造は図1に、重合条件は以下に示した。
【0061】
・重合修飾型固定相の調製条件
モノマー濃度:150mg/ml
反応時間:2hr
開始剤:5mg(過硫酸アンモニウム)/ 1% NH3aq in water
【0062】
測定条件
実施例1と同一条件
【0063】
【表6】
【0064】
<モノリスカラムの調製−2>
実施例2の4.で作製したMAS化されたシリカモノリスキャピラリーカラムに、下記の条件で調製したモノマー溶液を充填し、以下の表7に示すように、モノマーの濃度を変えてカラム内重合反応を行い、各モノリスカラムを得た。
開始剤: 過硫酸アンモニウム (5mg/ml in 4.1mol/l NH3aq)
温度60℃
反応時間:2hr
このモノマーを重合してできるポリマーは、水又はMeOHへの溶解性が富んでいるため、モノマーの仕込み量が比較的大きかった。当該実験ではその仕込み量範囲の広さを利用して、モノマーの仕込み量とカラム性能(保持や選択性)の評価を行った。結果を表7に示す。
【0065】
【表7】
クロマトグラフィー条件:
Mobile phase: AN90%-20 mM AcONH4 buffer pH 4.7, Flow rate: 0.5 ml/min, Pressure: 12 kgf, temperature: 30℃, Detection: 254 nm, Sample: α(CH2): k(uridine)/k(5-methyluridine), α(OH): k(uridine)/k(2'-deoxyluridine), α(Tb/Tp): k(theobromine)/k(theophylline), α(V/A): k(vidarabine)/k(adenosine), α(2dG/3dG): k(2'-deoxyguanosine)/k(3'-deoxyguanosine), k(TPA): N,N,N-trimethylphenylammonium chloride
【0066】
上記で作製したモノリスカラムのうち、モノマーの濃度が200mg/mlのもの(PTZ200)と、様々なHILIC型モノリスカラム、及び粒子充填型カラムとを用いて、分離特性を比較した。クロマトグラフィーの条件や分離対象のサンプルは表7と同様である。結果を表8と図8に示す。図8の縦軸と横軸は図6と同じであり、図中の符号の数字も図6と同じものを意味する。表8に記載されたPSDMA、PAAm、PAEMAの各モノマーの構造を図8中に示す。
【0067】
【表8】
【0068】
本発明にかかるPTZ−200はモノリスカラム(重合修飾モノリス型)で最も大きい保持を発現した。また、粒子充填型カラムと比較すると、ZIC−HILICの1.75倍、NH2−MSの1.51倍、Amide−80の0.8倍の保持能力を有していた。モノリスカラムのポロシティーを考慮に入れるとPTZ−200は非常に大きな保持が発現されている事がわかった。この特徴はモノリスカラムの弱点である保持能力の低さを十二分に補う特性だといえる。
また、選択性に関しても他のカラムに比べ特徴的な値を示していた。親水性選択性は最も大きな値を示しており、疎水性選択性も比較的大きな値を示していた。OH基の向きや位置選択性は他のカラムの方が大きな結果となった。
【0069】
また、モノマー濃度を変えて調製したPTZ−150、及び上記表8に記載のPSDMA、PAEMA、PAAmを用いて調製したカラムを用いて、フッ化ウラシルの類縁体の分離を行った。分離対象とした化合物群は、構造が極めて類似しており、一般的にこれらの一斉分離は困難である。結果を図9に示す。
クロマトグラフィーの条件と、分離対象とした化合物は以下の通りである。
Mobile phase: AN90% 20 mM AcONH4 buffer, Column: a: PSDMA 26cm, b: PAEMA 26 cm, c: PAAm 25cm, d: PTZ-150 26.7 cm, Flow rate: 0.5 ml/min, Pressure: 15 kgf, temperature: 30℃, Detection: 254 nm
Sample 1: toluene, 2: trifluorothymidine, 3: 5'-deoxy-5-fluorouridine, 4: 2'-deoxy-5-fluorouridine, 5: 2'-deoxy-2'-fluorouridine, 6: thymidine, 7: 2'-deoxyuridine, 8: 5-fluorouridine, 9: uridine
【0070】
図9の結果から、PSDMAやPAEMAでは全ての化合物を分離することはできなかった。PAAmでは全てのピークトップを確認できたが、4,5,6,7のサンプルは完全に分離できなかった。しかし、PTZ−150カラムは全ての化合物を完全に分離することができた。これはPTZの特徴である大きな保持と良好な選択性によって分離が達成された一例である。
【0071】
本発明では、式(I)で示される化合物に由来する構造を有するモノマーをシリカゲルのような担体に重合、修飾することにより新たな分離剤を開発した。本発明で開発した分離剤を充填したカラムの中で、MA tetrazoleが担持された分離剤は、弱い酸性型のカラムであり、ウリジンの保持や親水性選択性が極めて高い特性を示した。本発明の分離剤の中でも特に、MA tetrazoleが担持された分離剤を用いたカラムは、親水性物質の保持及び選択性が市販のカラムと比較して非常に大きく、またヌクレオシドや核酸塩基の分離性能に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の分離剤は、これまで分離が難しかった様々な親水性化合物の分離に大いに役立つと予想される。このことから、本発明の分離剤を有するカラムは今後の生体関連物質(糖類、ペプチド、タンパク質も含む)の新たな分離条件の発見や改良だけでなく、分離された生体関連物質の同定、解析の利便性の向上が期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9