【文献】
電子情報通信学会技術研究報告,2013年,Vol. 113, No. 18,pp. 37-42
【文献】
J. Biomed. Mater. Res. A,2013年,Vol. 101, No. 6,pp. 1708-1715
【文献】
Journal of Membrane Science,2006年,Vol. 269,pp. 66-74
【文献】
Biomaterials,2011年,Vol. 32,pp. 3890-3898
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
骨髄細胞をポリイミド多孔質膜に適用した後、分化誘導促進物質を添加して培養し、骨髄細胞から血球系細胞への分化をポリイミド多孔質膜の立体構造特異的に促進することをさらに含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
工程(2)において第二の細胞群をポリイミド多孔質膜に適用した後、分化誘導促進物質を添加して培養し、第二の細胞群である骨髄細胞から血球系細胞への分化をポリイミド多孔質膜の立体構造特異的に促進することをさらに含む、請求項10〜13のいずれか一項に記載の方法。
ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドを含む、ポリイミド多孔質膜である、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリアミック酸溶液と着色前駆体とを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理する事により得られる着色したポリイミド多孔質膜である、請求項17に記載の方法。
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリアミック酸溶液と着色前駆体とを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理する事により得られる着色したポリイミド多孔質膜である、請求項27に記載のポリイミド多孔質膜。
生体適合性材料が、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ポリリジン、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリラクチド−コ−カプロラクトン、ポリカーボネート、生体分解性ポリウレタン、ポリエーテルエステル、ポリエステルアミド、ヒドロキシアパタイト、コラーゲンとβ−TCPとの複合体及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項31に記載のポリイミド多孔質膜。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、より効率的で実用性の高い骨髄細胞培養方法を提供することを目的とする。また本発明は、多用な創面に適合し、簡便かつ効果的な骨損傷の治療手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、有機薄膜であるポリイミド多孔質膜の有する立体構造が、形態的に骨髄構造に近似していることを見出した。そして、ポリイミド多孔質膜を用いて骨髄細胞を培養することにより、CD45陽性細胞を増殖させることができることを見出した。驚くべきことに、ポリイミド多孔質膜を用いて骨髄細胞を培養した場合、ポリイミド多孔質膜の立体構造にしたがって、骨髄に類似した分化特性を有する細胞塊が生ずることをさらに見出した。そして、分化誘導促進剤を使用することにより、培養した細胞を、ポリイミド多孔質膜内で赤血球前駆細胞に分化させることができることを見出した。
【0015】
また本発明者等は、立体構造が形態的に骨髄構造に近似しているポリイミド多孔質膜が、骨損傷部位の治療のために使用できることを見出した。
【0016】
限定されるわけではないが、本発明は好ましくは以下の態様を含む。
[態様1]
骨髄細胞をポリイミド多孔質膜に適用し、培養することを含む、骨髄細胞の培養方法。
[態様2]
骨髄細胞が骨髄間質細胞である、態様1に記載の方法。
[態様3]
骨髄細胞が骨髄由来血液細胞である、態様1に記載の方法。
[態様4]
骨髄細胞が、哺乳動物の骨髄から採取された細胞である、態様1〜3のいずれか一つに記載の方法。
[態様5]
骨髄細胞が、哺乳動物の骨髄から採取された細胞の初代培養細胞である、態様1〜3のいずれか一つに記載の方法。
[態様6]
培養によって骨髄細胞を血球系細胞に分化させることをさらに含む、態様1〜5のいずれか一つに記載の方法。
[態様7]
骨髄細胞をポリイミド多孔質膜に適用した後、分化誘導促進物質を添加して培養し、骨髄細胞から血球系細胞への分化をポリイミド多孔質膜の立体構造特異的に促進することをさらに含む、態様1〜6のいずれか一つに記載の方法。
[態様8]
態様6又は7に記載の方法を用いて得られた血球系細胞を回収することを含む、血球系細胞の調製方法。
[態様9]
血球系細胞が赤血球前駆細胞又は赤血球である、態様6〜8のいずれか一つに記載の方法。
[態様10]
骨髄細胞の培養方法であって、
(1)第一の細胞群をポリイミド多孔質膜に適用し、培養する工程、及び
(2)工程(1)の培養後のポリイミド多孔質膜に第二の細胞群を適用し、培養する工程
を含み、ここで第二の細胞群は骨髄細胞である、方法。
[態様11]
第一の細胞群が動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母菌及び細菌からなる群から選択される、態様10に記載の方法。
[態様12]
第一の細胞群が哺乳動物由来の骨髄細胞である、態様11に記載の方法。
[態様13]
工程(2)の培養によって骨髄細胞を血球系細胞に分化させることをさらに含む、態様10〜12のいずれか一つに記載の方法。
[態様14]
工程(2)において第二の細胞群をポリイミド多孔質膜に適用した後、分化誘導促進物質を添加して培養し、第二の細胞群である骨髄細胞から血球系細胞への分化をポリイミド多孔質膜の立体構造特異的に促進することをさらに含む、態様10〜13のいずれか一つに記載の方法。
[態様15]
態様13又は14のいずれか一つに記載の方法を用いて得られた血球系細胞を回収することを含む、血球系細胞の調製方法。
[態様16]
血球系細胞が赤血球前駆細胞又は赤血球である、態様13〜15のいずれか一つに記載の方法。
[態様17]
ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドを含む、ポリイミド多孔質膜である、態様1〜16のいずれか一つに記載の方法。
[態様18]
ポリイミド多孔質膜が、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリアミック酸溶液と着色前駆体とを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理する事により得られる着色したポリイミド多孔質膜である、態様17に記載の方法。
[態様19]
前記ポリイミド多孔質膜が、2つの異なる表層面とマクロボイド層を有する多層構造のポリイミド多孔質膜である、態様17又は18に記載の方法。
[態様20]
2以上のポリイミド多孔質膜を、上下又は左右に細胞培養培地中に積層して用いる、態様1〜19のいずれか一つに記載の方法。
[態様21]
ポリイミド多孔質膜を
i)折り畳んで、
ii)ロール状に巻き込んで、
iii)シートもしくは小片を糸状の構造体で連結させて、あるいは、
iv)縄状に結んで
細胞培養容器中の細胞培養培地中で浮遊もしくは固定させて用いる、態様1〜20のいずれか一つに記載の方法。
[態様22]
ポリイミド多孔質膜を含む、態様1〜21のいずれか一つに記載の方法に使用するためのキット。
[態様23]
態様1〜21のいずれか一項に記載の方法のための、ポリイミド多孔質膜の使用。
[態様24]
骨損傷部位の治療のためのポリイミド多孔質膜。
[態様25]
骨損傷が骨折である、態様24に記載のポリイミド多孔質膜。
[態様26]
骨損傷が骨欠損である、態様24に記載のポリイミド多孔質膜。
[態様27]
骨損傷患部に接するよう生体内に移植して用いられる、態様24〜26のいずれか1つに記載のポリイミド多孔質膜。
[態様28]
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドを含む、ポリイミド多孔質膜である、態様24〜27のいずれか一つに記載のポリイミド多孔質膜。
[態様29]
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリアミック酸溶液と着色前駆体とを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理する事により得られる着色したポリイミド多孔質膜である、態様28に記載のポリイミド多孔質膜。
[態様30]
2つの異なる表層面とマクロボイド層を有する多層構造のポリイミド多孔質膜である、態様28又は29に記載のポリイミド多孔質膜。
[態様31]
前記2つの異なる表層面のうち、より平均孔径の小さい面が骨損傷患部に接するよう生体内に移植して用いられる、態様30に記載のポリイミド多孔質膜。
[態様32]
ポリイミド多孔質膜の膜厚が100マイクロメートル以下である、態様24〜31のいずれか一つに記載のポリイミド多孔質膜。
[態様33]
ポリイミド多孔質膜の表面が、その物理的特性を変更する工程によって処理されている、態様24〜32のいずれかに一つ記載のポリイミド多孔質膜。
[態様34]
ポリイミド多孔質膜の表面の物理的特性を変更する工程が、ポリイミド多孔質膜の表面をアルカリ処理する工程、カルシウム処理する工程、生体適合性材料で被覆する工程、及び1以上のこれらの組み合わせからなる群より選択される、態様33に記載のポリイミド膜。
[態様35]
生体適合性材料が、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ポリリジン、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリラクチド−コ−カプロラクトン、ポリカーボネート、生体分解性ポリウレタン、ポリエーテルエステル、ポリエステルアミド、ヒドロキシアパタイト、コラーゲンとβ−TCPとの複合体及びこれらの組み合わせからなる群より選択される、態様34に記載の方法。
[態様36]
あらかじめ細胞を担持させた、態様24〜35のいずれかに記載のポリイミド多孔質膜。
[態様37]
細胞が、哺乳類由来の多能性幹細胞、組織幹細胞、体細胞、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される細胞である、態様36に記載のポリイミド多孔質膜。
[態様38]
細胞が哺乳動物由来骨髄細胞を含む、態様37に記載のポリイミド多孔質膜。
[態様39]
態様24〜38のいずれか一項に記載のポリイミド多孔質膜を含む、骨損傷部位の治療用キット。
[態様40]
骨損傷部位の治療のための、態様24〜38のいずれか一つに記載のポリイミド多孔質膜の使用。
[態様41]
骨髄細胞をポリイミド多孔質膜に担持させることを含む、骨損傷部位の治療のためのポリイミド多孔質膜の製造方法。
[態様42]
骨髄細胞が、骨損傷部位の治療の対象から採取されたものである、態様41に記載の製造方法。
[態様43]
態様24〜38のいずれか一つに記載のポリイミド多孔質膜を骨損傷部位に適用することを含む、骨損傷部位の治療方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、形態的に骨髄構造に類似しているというポリイミド多孔質膜の立体構造を利用することにより、効率的な骨髄細胞の培養を可能とする。また、本発明によれば、ポリイミド多孔質膜が有する固有の立体構造にしたがって、骨髄に類似した分化特性を有する細胞を取得することが可能となる。このような機能を有する素材はこれまでに報告されていない。さらに、本発明によれば、培養した細胞を、ポリイミド多孔質膜内で赤血球前駆細胞に分化させることも可能となる。本発明によれば、感染リスクや免疫拒絶リスクを低減させた血液成分の提供への応用が可能となる。
【0018】
また、本発明により、フレキシブルな多孔質シートであるポリイミド多孔質膜を用いることにより、大欠損部位や複雑形状部位を含めた多用な創面に適合し、簡便かつ効果的な骨損傷の治療が可能となる。本発明に用いるポリイミド多孔質膜は、A面と呼ぶメッシュ構造面とB面と呼ぶ大穴構造面の2つの構造が異なる大開口率面に囲まれ、内部の多面的ボイド構造部分が形成されている薄膜で、耐熱性と柔軟性に富み、形状の自由度にも優れている。また、本発明に用いるポリイミド多孔質膜は、その固有の立体構造の中に細胞を保持し、生育させることができるという特長を有する。ポリイミド多孔質膜に目的に応じた細胞を担持させて骨損傷部位に適用することにより、骨損傷部位の治療を促進することも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ポリイミド多孔質膜について
本発明は、I.骨髄細胞の培養方法、II.骨髄細胞を2段階にわけてポリイミド多孔質膜に適用し、培養する骨髄細胞の培養方法、III.骨髄細胞の培養方法に使用するためのキット、IV.骨髄細胞の培養方法のための、ポリイミド多孔質膜の使用、V.骨損傷部位の治療のためのポリイミド多孔質膜、VI.骨損傷部位の治療用キット、VII.骨損傷の治療のための、ポリイミド多孔質膜の使用、VIII.骨損傷部位の治療のためのポリイミド多孔質膜の製造方法、及びIX.骨損傷部位の治療方法に関する。いずれの発明においても、ポリイミド多孔質膜が用いられる点で共通する。
【0021】
ポリイミドとは、繰り返し単位にイミド結合を含む高分子の総称であり、通常は、芳香族化合物が直接イミド結合で連結された芳香族ポリイミドを意味する。芳香族ポリイミドは芳香族と芳香族とがイミド結合を介して共役構造を持つため、剛直で強固な分子構造を持ち、かつ、イミド結合が強い分子間力を持つために非常に高いレベルの熱的、機械的、化学的性質を有する。
【0022】
本発明において用いるポリイミド多孔質膜は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドを(主たる成分として)含むポリイミド多孔質膜であり、より好ましくはテトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドからなるポリイミド多孔質膜である。「主たる成分として含む」とは、ポリイミド多孔質膜の構成成分として、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミド以外の成分は、本質的に含まない、あるいは含まれていてもよいが、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドの性質に影響を与えない付加的な成分であることを意味する。
【0023】
本発明において用いられるポリイミド多孔質膜は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とから得られるポリアミック酸溶液と着色前駆体とを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理する事により得られる着色したポリイミド多孔質膜も含まれる。
【0024】
ポリアミック酸
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを重合して得られる。ポリアミック酸は、熱イミド化又は化学イミド化することにより閉環してポリイミドとすることができるポリイミド前駆体である。
【0025】
ポリアミック酸は、アミック酸の一部がイミド化していても、本発明に影響を及ぼさない範囲であればそれを用いることができる。すなわち、ポリアミック酸は、部分的に熱イミド化又は化学イミド化されていてもよい。
【0026】
ポリアミック酸を熱イミド化する場合は、必要に応じて、イミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子、有機微粒子等の微粒子等をポリアミック酸溶液に添加することができる。また、ポリアミック酸を化学イミド化する場合は、必要に応じて、化学イミド化剤、脱水剤、無機微粒子、有機微粒子等の微粒子等をポリアミック酸溶液に添加することができる。ポリアミック酸溶液に前記成分を配合しても、着色前駆体が析出しない条件で行うことが好ましい。
【0027】
着色前駆体
本発明において用いられる着色前駆体とは、250℃以上の熱処理により一部または全部が炭化して着色化物を生成する前駆体を意味する。
【0028】
本発明において用いられる着色前駆体としては、ポリアミック酸溶液又はポリイミド溶液に均一に溶解または分散し、250℃以上、好ましくは260℃以上、更に好ましくは280℃以上、より好ましくは300℃以上の熱処理、好ましくは空気等の酸素存在下での250℃以上、好ましくは260℃以上、更に好ましくは280℃以上、より好ましくは300℃以上の熱処理により熱分解し、炭化して着色化物を生成するものが好ましく、黒色系の着色化物を生成するものがより好ましく、炭素系着色前駆体がより好ましい。
【0029】
着色前駆体は、加熱していくと一見炭素化物に見えるものになるが、組織的には炭素以外の異元素を含み、層構造、芳香族架橋構造、四面体炭素を含む無秩序構造のものを含む。
【0030】
炭素系着色前駆体は特に制限されず、例えば、石油タール、石油ピッチ、石炭タール、石炭ピッチ等のタール又はピッチ、コークス、アクリロニトリルを含むモノマーから得られる重合体、フェロセン化合物(フェロセン及びフェロセン誘導体)等が挙げられる。これらの中では、アクリロニトリルを含むモノマーから得られる重合体及び/又はフェロセン化合物が好ましく、アクリロニトリルを含むモノマーから得られる重合体としてはポリアクリルニトリルが好ましい。
【0031】
テトラカルボン酸二無水物は、任意のテトラカルボン酸二無水物を用いることができ、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物の具体例として、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)などのビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、m−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、p−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2−ビス〔(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物等を挙げることができる。また、2,3,3’,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸等の芳香族テトラカルボン酸を用いることも好ましい。これらは単独でも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0032】
これらの中でも、特に、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。ビフェニルテトラカルボン酸二無水物としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を好適に用いることができる。
【0033】
ジアミンは、任意のジアミンを用いることができる。ジアミンの具体例として、以下のものを挙げることができる。
1)1,4−ジアミノベンゼン(パラフェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエンなどのベンゼン核1つのべンゼンジアミン;
2)4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジクロロベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシドなどのベンゼン核2つのジアミン;
3)1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−4−トリフルオロメチルベンゼン、3,3’−ジアミノ−4−(4−フェニル)フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジ(4−フェニルフェノキシ)ベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(3−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼンなどのベンゼン核3つのジアミン;
4)3,3’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンなどのベンゼン核4つのジアミン。
【0034】
これらは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。用いるジアミンは、所望の特性などに応じて適宜選択することができる。
【0035】
これらの中でも、芳香族ジアミン化合物が好ましく、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミン、1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンを好適に用いることができる。特に、ベンゼンジアミン、ジアミノジフェニルエーテル及びビス(アミノフェノキシ)フェニルからなる群から選ばれる少なくとも一種のジアミンが好ましい。
【0036】
本発明において用いられるポリイミド多孔質膜は、耐熱性、高温下での寸法安定性の観点から、ガラス転移温度が240℃以上であるか、又は300℃以上で明確な転移点がないテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを組み合わせて得られるポリイミドから形成されていることが好ましい。
【0037】
本発明において用いられるポリイミド多孔質膜は、耐熱性、高温下での寸法安定性の観点から、以下の芳香族ポリイミドからなるポリイミド多孔質膜であることが好ましい。
(i)ビフェニルテトラカルボン酸単位及びピロメリット酸単位からなる群から選ばれる少なくとも一種のテトラカルボン酸単位と、芳香族ジアミン単位とからなる芳香族ポリイミド、
(ii)テトラカルボン酸単位と、ベンゼンジアミン単位、ジアミノジフェニルエーテル単位及びビス(アミノフェノキシ)フェニル単位からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジアミン単位とからなる芳香族ポリイミド、
及び/又は、
(iii)ビフェニルテトラカルボン酸単位及びピロメリット酸単位からなる群から選ばれる少なくとも一種のテトラカルボン酸単位と、ベンゼンジアミン単位、ジアミノジフェニルエーテル単位及びビス(アミノフェノキシ)フェニル単位からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジアミン単位とからなる芳香族ポリイミド。
【0038】
限定されるわけではないが、ポリイミド多孔質膜として、少なくとも、2つの表面層(A面及びB面)と、当該2つの表面層の間に挟まれたマクロボイド層とを有する多層構造のポリイミド多孔質膜を、本発明に使用することが可能である。好ましくは、ポリイミド多孔質膜は、前記マクロボイド層が、前記表面層(A面及びB面)に結合した隔壁と、当該隔壁並びに前記表面層(A面及びB面)に囲まれた、膜平面方向の平均孔径が10〜500μmである複数のマクロボイドとを有し、前記のマクロボイド層の隔壁、並びに前記表面層(A面及びB面)はそれぞれ、厚さが0.01〜20μmであり、平均孔径0.01〜100μmの複数の孔を有し、当該細孔同士が連通しても良く、更に前記マクロボイドに連通して部分的あるいは全面的に多層構造を有しており、そして、総膜厚が5〜500μmであり、空孔率が40%以上95%未満である、ポリイミド多孔質膜である。
【0039】
本発明において用いられるポリイミド多孔質膜の総膜厚は、限定されるわけではないが、一態様として25〜75μmとしてもよい。膜厚の相違により、細胞の増殖速度、細胞の形態、面内における細胞の飽和度等に相違が観察されうる。
【0040】
本発明において、2つの異なる表面層(A面及びB面)と、当該2つの表面層の間に挟まれたマクロボイド層とを有するポリイミド多孔質膜が使用される場合、A面に存在する孔の平均孔径は、B面に存在する孔の平均孔径と差があってもよい。好ましくは、A面に存在する孔の平均孔径は、B面に存在する孔の平均孔径よりも小さい。より好ましくは、A面に存在する孔の平均孔径がB面に存在する孔の平均孔径よりも小さく、A面に存在する孔の平均孔径が0.01〜50μm、0.01μm〜40μm、0.01μm〜30μm、0.01μm〜20μm、又は0.01μm〜15μmであり、B面に存在する孔の平均孔径が20μm〜100μm、30μm〜100μm、40μm〜100μm、50μm〜100μm、又は60μm〜100μmである。特に好ましくは、ポリイミド多孔質膜のA面が平均孔径15μm以下の、例えば0.01μm〜15μmの小さい穴を有するメッシュ構造であり、B面が平均孔径20μm以上の、例えば20μm〜100μmの大穴構造である。
【0041】
本発明において用いられるポリイミド多孔質膜の総膜厚の測定は、接触式の厚み計で行うことができる。
ポリイミド多孔質膜表面の平均孔径は、多孔質膜表面の走査型電子顕微鏡写真より、200点以上の開孔部について孔面積を測定し、該孔面積の平均値から下式(1)に従って孔の形状が真円であるとした際の平均直径を計算より求めることができる。
【数1】
(式中、Saは孔面積の平均値を意味する。)
【0042】
本発明において用いられるポリイミド多孔質膜の空孔率は、所定の大きさに切り取った多孔質フィルムの膜厚及び質量を測定し、目付質量から下式(2)に従って求めることができる。
【数2】
(式中、Sは多孔質フィルムの面積、dは総膜厚、wは測定した質量、Dはポリイミドの密度をそれぞれ意味する。ポリイミドの密度は1.34g/cm
3とする。)
【0043】
例えば、国際公開 WO2010/038873、特開2011−219585、又は特開2011−219586に記載されているポリイミド多孔質膜も、本発明に使用可能である。
【0044】
ポリイミド多孔質膜の表面に播種された細胞は、膜の表面及び/又は内部において安定して生育・増殖することが可能である。細胞は膜中の生育・増殖する位置に応じて、種々の異なる形態をとりうる。本発明の一態様において、細胞の種類に応じて、ポリイミド多孔質膜の表面及び内部を移動しながら、形状を変化させながら増殖することもある。
【0045】
本発明において細胞を装填するポリイミド多孔質膜は、当然、装填する以外の細胞を含まない状態、即ち、滅菌されていることが好ましい。本発明の方法は、好ましくは、ポリイミド多孔質膜を予め滅菌する工程を含む。ポリイミド多孔質膜は、耐熱性に極めて優れており、軽量であり、形・大きさも自由に選択可能であり、滅菌処理が容易である。乾熱滅菌、蒸気滅菌、エタノール等消毒剤による滅菌、紫外線やガンマ線等の電磁波滅菌等任意の滅菌処理が可能である。
【0046】
I.骨髄細胞の培養方法
本発明は、骨髄細胞をポリイミド多孔質膜に適用し、培養することを含む、骨髄細胞の培養方法に関する。なお、国際出願番号PCT/JP2014/070407の全内容を、参照により本明細書に援用する。
【0047】
本発明の骨髄細胞の培養方法は、骨髄細胞をポリイミド多孔質膜に適用し、培養することを含む。本発明の方法は、ポリイミド多孔質膜に骨髄細胞を適用し、ポリイミド膜の表面又は内部で骨髄細胞を培養することを含むことを特徴とするものである。
【0048】
1.骨髄細胞
本明細書において、骨髄細胞とは、骨髄に存在する細胞をいう。骨髄細胞には、骨髄間質細胞・骨髄由来血球前駆細胞と骨髄由来血液細胞が含まれる。骨髄間質細胞は、骨髄由来血液細胞を支持する細胞をいう。骨髄由来血球前駆細胞は、分裂分化の後血球もしくは血液細胞に分化しうる細胞をいう。骨髄由来血液細胞は、骨髄に含まれる血液細胞をいうものとする。
【0049】
本発明の骨髄細胞の培養方法に用いる骨髄細胞の由来は、哺乳動物と言われる哺乳綱に属する動物由来の細胞であれば得に限定はされず、マウス、ラット、ヒト、サル、ブタ、イヌ、ヒツジ、ヤギなどを例示することができる。
【0050】
本発明の骨髄細胞の培養方法に用いる骨髄細胞は、哺乳動物の骨髄から採取された細胞であってよい。骨髄からの骨髄細胞の採取は、骨髄穿刺や骨髄フラッシング等の公知の方法を用いて行うことができる。また、本発明に用いる骨髄細胞は、哺乳動物の骨髄から採取された細胞の初代培養細胞であってもよい。
【0051】
2.骨髄細胞のポリイミド多孔質膜への適用
本発明の骨髄細胞の培養方法において、骨髄細胞のポリイミド多孔質膜への適用の具体的な工程は特に限定されない。本明細書に記載の工程、あるいは、骨髄細胞を膜状の担体に適用するのに適した任意の手法を採用することが可能である。限定されるわけではないが、本発明の方法において、骨髄細胞のポリイミド多孔質膜への適用は、例えば、以下のような態様を含む。
【0052】
(A)骨髄細胞を前記ポリイミド多孔質膜の表面に播種する工程を含む、態様;
(B)前記ポリイミド多孔質膜の乾燥した表面に骨髄細胞縣濁液を載せ、
放置するか、あるいは前記ポリイミド多孔質膜を移動して液の流出を促進するか、あるいは表面の一部を刺激して、骨髄細胞縣濁液を前記膜に吸い込ませ、そして、
骨髄細胞縣濁液中の骨髄細胞を前記膜内に留め、水分は流出させる、
工程を含む、態様;並びに、
(C)前記ポリイミド多孔質膜の片面又は両面を、骨髄細胞培養液又は滅菌された液体で湿潤し、
前記湿潤したポリイミド多孔質膜に骨髄細胞縣濁液を装填し、そして、
骨髄細胞縣濁液中の骨髄細胞を前記膜内に留め、水分は流出させる、
工程を含む、態様。
【0053】
(A)の態様は、ポリイミド多孔質膜の表面に骨髄細胞、骨髄細胞塊を直接播種することを含む。あるいは、ポリイミド多孔質膜を骨髄細胞縣濁液中に入れて、膜の表面から骨髄細胞培養液を浸潤させる態様も含む。
【0054】
ポリイミド多孔質膜の表面に播種された骨髄細胞は、ポリイミド多孔質膜に接着し、多孔の内部に入り込んでいく。好ましくは、特に外部から物理的又は化学的な力を加えなくても、骨髄細胞はポリイミド多孔質膜に自発的に接着する。ポリイミド多孔質膜の表面に播種された骨髄細胞は、膜の表面及び/又は内部において安定して生育・増殖することが可能である。骨髄細胞は生育・増殖する膜の位置に応じて、種々の異なる形態をとりうる。
【0055】
(B)の態様において、ポリイミド多孔質膜の乾燥した表面に骨髄細胞縣濁液を載せる。ポリイミド多孔質膜を放置するか、あるいは前記ポリイミド多孔質膜を移動して液の流出を促進するか、あるいは表面の一部を刺激して、骨髄細胞縣濁液を前記膜に吸い込ませることにより、骨髄細胞縣濁液が膜中に浸透する。理論に縛られるわけではないが、これはポリイミド多孔質膜の各表面形状等に由来する性質によるものであると考えられる。本態様により、膜の細胞縣濁液が装填された箇所に骨髄細胞が吸い込まれて播種される。
【0056】
あるいは、(C)の態様のように、前記ポリイミド多孔質膜の片面又は両面の部分又は全体を、骨髄細胞培養液又は滅菌された液体で湿潤してから、湿潤したポリイミド多孔質膜に骨髄細胞縣濁液を装填してもよい。この場合、細胞懸濁液の通過速度は大きく向上する。
【0057】
例えば、膜の飛散防止を主目的として膜極一部を湿潤させる方法(以後、これを「一点ウェット法」と記載する)を用いることができる。一点ウェット法は、実質上は膜を湿潤させないドライ法((B)の態様)にほぼ近いものである。ただし、湿潤させた小部分については、骨髄細胞液の膜透過が迅速になると考えられる。また、ポリイミド多孔質膜の片面又は両面の全体を十分に湿潤させたもの(以後、これを「ウェット膜」と記載する)に骨髄細胞懸濁液を装填する方法も用いることができる(以後、これを「ウェット膜法」と記載する)。この場合、ポリイミド多孔質膜の全体において、骨髄細胞懸濁液の通過速度が大きく向上する。
【0058】
(B)及び(C)の態様において、骨髄細胞縣濁液中の骨髄細胞を前記膜内に留め、水分は流出させる。これにより骨髄細胞縣濁液中の骨髄細胞の濃度を濃縮する、骨髄細胞以外の不要な成分を水分とともに流出させる、などの処理も可能になる。
【0059】
(A)の態様を「自然播種」(B)及び(C)の態様を「吸込み播種」と呼称する場合がある。
【0060】
限定されるわけではないが、好ましくは、ポリイミド多孔質膜には生細胞が選択的に留まる。よって、本発明の好ましい態様において、生細胞が前記ポリイミド多孔質膜内に留まり、死細胞は優先的に水分とともに流出する。
【0061】
態様(C)において用いる滅菌された液体は特に限定されないが、滅菌された緩衝液若しくは滅菌水である。緩衝液は、例えば、(+)及び(-)Dulbecco’s PBS 、(+)及び(-)Hank's Balanced Salt Solution等である。緩衝液の例を以下の表1に示す。
【0063】
さらに、本発明の骨髄細胞の培養方法において、骨髄細胞のポリイミド多孔質膜への適用は、浮遊状態にある細胞をポリイミド多孔質膜と縣濁的に共存させることにより細胞を膜に付着させる態様(絡め取り)も含む。例えば、本発明の細胞の培養方法において、骨髄細胞をポリイミド多孔質膜に適用するために、細胞培養容器中に、細胞培養培地、骨髄細胞及び1又はそれ以上の前記ポリイミド多孔質膜を入れてもよい。細胞培養培地が液体の場合ポリイミド多孔質膜は細胞培養培地中に浮遊した状態である。ポリイミド多孔質膜の性質から、骨髄細胞はポリイミド多孔質膜に接着しうる。よって、生来浮遊培養に適さない細胞であっても、ポリイミド多孔質膜は細胞培養培地中に浮遊した状態で培養することが可能である。好ましくは、骨髄細胞は、ポリイミド多孔質膜に自発的に接着する。「自発的に接着する」とは、特に外部から物理的又は化学的な力を加えなくても、骨髄細胞がポリイミド多孔質膜の表面又は内部に留まることを意味する。
【0064】
本発明の骨髄細胞の培養方法において、ポリイミド多孔質膜を細胞培養培地中に浮遊した状態で用いる場合、2以上の前記ポリイミド多孔質膜の小片を用いてもよい。ポリイミド多孔質膜はフレキシブルな薄膜であるため、例えばその小片を培養液中に浮遊させて用いることにより、一定容量の細胞培養培地中に多くの表面積を有するポリイミド多孔質膜を持ち込むことが可能となる。通常培養の場合、容器底面積が細胞培養可能な面積の上限となるが、本発明のポリイミド多孔質膜を用いた細胞培養では、先の持ち込まれたポリイミド多孔質膜の大表面積の全てが細胞培養可能な面積となる。ポリイミド多孔質膜は細胞培養液を通過させるので、例えば折りたたまれた膜内にも栄養や酸素等の供給が可能となる。
【0065】
ポリイミド多孔質膜の小片の大きさ、形状は、特に限定されない。形状は、円、楕円形、四角、三角、多角形、ひも状など任意の形をとりうる。
【0066】
本発明の骨髄細胞の培養方法において使用されるポリイミド多孔質膜は柔軟性があるため形状を変化させて用いることができる。ポリイミド多孔質膜を平面状ではなく、立体状に形状を加工して用いてもよい。例えば、ポリイミド多孔質膜を、i)折り畳んで、ii)ロール状に巻き込んで、iii)シートもしくは小片を糸状の構造体で連結させて、あるいは、iv)縄状に結んで、細胞培養容器中の細胞培養培地中で浮遊もしくは固定させてもよい。i)〜iv)のように形状を加工することにより、小片を用いる場合と同様に、一定容量の細胞培養培地中に多くのポリイミド多孔質膜を入れることができる。さらに、各小片を集合体として取り扱うことができるため、細胞体を集合化して移動させることが可能となり、総合的な応用性が高い。
【0067】
小片集合体と同様の考え方として、2以上のポリイミド多孔質膜を、上下又は左右に細胞培養培地中に積層して用いてもよい。積層とは、ポリイミド多孔質膜が一部重なる態様も含む。積層培養により、狭いスペースで高密度に細胞を培養することが可能になる。既に細胞が育成している膜上にさらに膜を積層させて設置して別種細胞との多層系を形成することも可能である。積層するポリイミド多孔質膜の数は特に限定されない。
【0068】
上述した本発明の骨髄細胞の培養方法を、2種類又はそれより多くの方法を組み合わせて用いてもよい。例えば、態様(A)〜(C)のいずれかの方法を用いて先ずポリイミド多孔質膜に細胞を適用し、次いで、骨髄細胞が接着したポリイミド多孔質膜を浮遊培養してもよい。あるいは、ポリイミド多孔質膜に適用する工程として、上記態様(A)〜(C)のいずれかの方法を2種類又はそれより多くを組み合わせて用いてもよい。
【0069】
本発明の骨髄細胞の培養方法において用いられるポリイミド多孔質膜が、2つの異なる表面層(A面及びB面)と、当該2つの表面層の間に挟まれたマクロボイド層とを有するポリイミド多孔質膜であり、A面に存在する孔の平均孔径は、B面に存在する孔の平均孔径よりも小さい場合、骨髄細胞はA面から適用されてもB面から適用されてもよい。好ましくは、骨髄細胞はA面から適用される。
【0070】
本発明の骨髄細胞の培養方法において、好ましくは、骨髄細胞はポリイミド多孔質膜の表面及び内部に生育し増殖する。
【0071】
本発明の骨髄細胞の培養方法において、骨髄細胞の培養システム及び培養条件は、細胞の種類等に応じて適宜決定することができる。当業者は任意の公知の方法を用いてポリイミド多孔質膜に適用した細胞を培養することができる。細胞培養培地も細胞の種類に応じて適宜調製することができる。
【0072】
本発明の骨髄細胞の培養方法において用いる細胞培養培地は、液体培地、半固形培地、固形培地等のいずれの形態であってもよい。また、液滴状とした液体培地を細胞培養容器中に噴霧することにより、細胞を担持したポリイミド多孔質膜に培地が接触するようにしてもよい。
【0073】
ポリイミド多孔質膜を用いる細胞の培養に関して、マイクロキャリアやセルローススポンジ等、他の浮遊型培養担体と共存させることもできる。
【0074】
本発明の骨髄細胞の培養方法において、培養に用いるシステムの形状、規模などは特に限定されず、細胞培養用のシャーレ、フラスコ、プラスチックバッグ、試験管から大型のタンクまで適宜利用可能である。例えば、BD Falcon社製のセルカルチャーディッシュやサーモサイエンティフィック社製のNunc セルファクトリー等が含まれる。なお、本発明においてポリイミド多孔質膜を用いることにより、生来浮遊培養が可能でなかった細胞についても浮遊培養向け装置にて、浮遊培養類似状態での培養を行うことが可能になった。浮遊培養用の装置としては、例えば、コーニング社製のスピナーフラスコや回転培養等が使用可能である。また、同様の機能を実現出来る環境として、VERITAS社のFiberCell(登録商標)Systemの様な中空糸培養も使用することが可能である。
【0075】
本発明の骨髄細胞の培養方法における培養は、ポリイミド多孔質膜上に連続的に培地を添加し回収するような連続循環もしくは開放型の装置を用いて、空気中にポリイミド多孔質膜シートを露出させるような型式で実行することも可能である。
【0076】
本発明の骨髄細胞の培養方法において、細胞の培養は、細胞培養容器外に設置された細胞培養培地供給手段から連続的又は間歇的に細胞培養培地が細胞培養容器中に供給される系で行ってもよい。その際、細胞培養培地が細胞培養培地供給手段と細胞培養容器との間を循環する系であることができる。
【0077】
細胞の培養を、細胞培養容器外に設置された細胞培養培地供給手段から連続的又は間歇的に細胞培養培地が細胞培養容器中に供給される系で行う場合、その系は、細胞培養容器である培養ユニットと細胞培養培地供給手段である培地供給ユニットとを含む細胞培養装置であってよく、ここで
培養ユニットは細胞を担持するための1又は複数のポリイミド多孔質膜を収容する培養ユニットであって、培地供給口および培地排出口を備えた培養ユニットであり、
培地供給ユニットは培地収納容器と、培地供給ラインと、培地供給ラインを介して連続的又は間歇的に培地を送液する送液ポンプとを備え、ここで培地供給ラインの第一の端部は培地収納容器内の培地に接触し、培地供給ラインの第二の端部は培養ユニットの培地供給口を介して培養ユニット内に連通している、培地供給ユニットである
細胞培養装置であってよい。
【0078】
また、上記細胞培養装置において、培養ユニットは空気供給口、空気排出口、及び酸素交換膜を備えない培養ユニットであってよく、また、空気供給口及び空気排出口、又は酸素交換膜を備えた培養ユニットであってよい。培養ユニットは空気供給口及び空気排出口、並びに酸素交換膜を備えないものであっても、細胞の培養に必要な酸素等が培地を通じて十分に細胞に供給される。さらに、上記細胞培養装置において、培養ユニットが培地排出ラインをさらに備え、ここで培地排出ラインの第一の端部は培地収納容器に接続し、培地排出ラインの第二の端部は培養ユニットの培地排出口を介して培養ユニット内に連通し、培地が培地供給ユニットと培養ユニットとを循環可能であってよい。
【0079】
3.骨髄細胞の血球系細胞への分化
本発明は、培養によって骨髄細胞を血球系細胞に分化させることをさらに含む、骨髄細胞の培養方法にも関する。
【0080】
本明細書において、血球系細胞には、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球、マクロファージ等の白血球、赤血球、血小板、マスト細胞、樹状細胞、およびこれらの前駆細胞等を含む。
【0081】
ポリイミド多孔質膜に骨髄細胞を適用して培養を続けると、骨髄細胞の一部分を血球系細胞に分化させることができる。理論に束縛されるつもりはないが、ポリイミド多孔質膜が有する立体構造が骨髄の立体構造に近似しているため、ポリイミド多孔質膜の立体構造にしたがって、骨髄に類似した分化特性を有する細胞が配置され、増殖する。これにより、生体内における骨髄の構造がポリイミド多孔質膜で近似的に再現されることにより、血球系細胞への分化が誘導される。本明細書においては、生体内における骨髄の構造がポリイミド多孔質膜で近似的に再現されることにより、血球系細胞への分化が誘導されることを、ポリイミド多孔質膜の立体構造特異的な骨髄細胞から血球系細胞への分化という。
【0082】
本発明の骨髄細胞の培養方法では、骨髄細胞をポリイミド多孔質膜に適用した後、分化誘導促進物質を添加して、ポリイミド多孔質膜の立体構造特異的な骨髄細胞から血球系細胞への分化を促進してもよい。分化誘導促進物質としては、目的に応じて公知の物質を適宜使用することができ、コロニー刺激因子、顆粒球コロニー刺激因子、幹細胞因子、幹細胞成長因子−α、エリスロポイエチン、トロンボポイエチン、インターロイキン等を例示することができるが、これらに限定されない。本発明の方法では、一種類の分化誘導促進物質を単独で用いてもよく、複数の種類の分化誘導促進物質を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
本発明はまた、上述した骨髄細胞の培養方法で得られた血球系細胞を回収することを含む、血球系細胞の調製方法にも関する。
【0084】
II.骨髄細胞を2段階にわけてポリイミド多孔質膜に適用し、培養する骨髄細胞の培養方法
本発明は、骨髄細胞の培養方法であって、
(1)第一の細胞群をポリイミド多孔質膜に適用し、培養する工程、及び
(2)工程(1)の培養後のポリイミド多孔質膜に第二の細胞群を適用し、培養する工程
を含み、ここで第二の細胞群は骨髄細胞である、方法にも関する。
【0085】
ここで第一の細胞群の種類はどのような細胞であってもよく、たとえば動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母菌及び細菌からなる群から選択されるものであってよい。本明細書において動物細胞は、脊椎動物門に属する動物由来の細胞と無脊椎動物(脊椎動物門に属する動物以外の動物)由来の細胞とに大別される。本明細書における、動物細胞の由来は特に限定されない。好ましくは、脊椎動物門に属する動物由来の細胞を意味する。本明細書において脊椎動物門は、無顎上綱と顎口上綱を含み、顎口上綱は、哺乳綱、鳥綱、両生綱、爬虫綱などを含む。好ましくは、一般に、哺乳動物と言われる哺乳綱に属する動物由来の細胞である。本明細書において哺乳動物は、特に限定されないが、好ましくは、マウス、ラット、ヒト、サル、ブタ、イヌ、ヒツジ、ヤギなどを含む。
【0086】
本明細書における植物細胞の由来は特に限定されない。コケ植物、シダ植物、種子植物を含む植物の細胞が対象となる。
【0087】
本明細書において種子植物細胞が由来する植物は、単子葉植物、双子葉植物のいずれも含まれる。限定されるわけではないが、単子葉植物には、ラン科植物、イネ科植物(イネ、トウモロコシ、オオムギ、コムギ、ソルガム等)、カヤツリグサ科植物などが含まれる。双子葉植物には、キク亜綱、モクレン亜綱、バラ亜綱など多くの亜綱に属する植物が含まれる。
【0088】
本明細書において藻類も、細胞由来生物として見なす事が出来る。真正細菌であるシアノバクテリア(藍藻)から、真核生物で単細胞生物であるもの(珪藻、黄緑藻、渦鞭毛藻など)及び多細胞生物である海藻類(紅藻、褐藻、緑藻)などの異なるグループを含む。
【0089】
本明細書における古細菌及び細菌の種類も特に限定されない。古細菌は、メタン菌・高度好塩菌・好熱好酸菌・超好熱菌等からなる群から構成される。細菌は、例えば、乳酸菌、大腸菌、枯草菌及びシアノバクテリアなどからなる群から選択される。
【0090】
本発明の骨髄細胞の培養方法に利用しうる動物細胞又は植物細胞の種類は、限定されるわけではないが、好ましくは、多能性幹細胞、組織幹細胞、体細胞、及び生殖細胞からなる群から選択される。
【0091】
本明細書において「多能性幹細胞」とは、あらゆる組織の細胞へと分化する能力(分化多能性)を有する幹細胞の総称することを意図する。限定されるわけではないが、多能性幹細胞は、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、生殖幹細胞(GS細胞)等を含む。好ましくは、ES細胞又はiPS細胞である。iPS細胞は倫理的な問題もない等の理由により特に好ましい。多能性幹細胞としては公知の任意のものを使用可能であるが、例えば、国際公開WO2009/123349(PCT/JP2009/057041)に記載の多能性幹細胞を使用可能である。
【0092】
本明細書において「組織幹細胞」とは、分化可能な細胞系列が特定の組織に限定されているが、多様な細胞種へ分化可能な能力(分化多能性)を有する幹細胞を意味する。例えば骨髄中の造血幹細胞は血球のもととなり、神経幹細胞は神経細胞へと分化する。このほかにも肝臓をつくる肝幹細胞、皮膚組織になる皮膚幹細胞などさまざまな種類がある。好ましくは、組織幹細胞は、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、神経幹細胞、皮膚幹細胞、又は造血幹細胞から選択される。
【0093】
本明細書において「体細胞」とは、多細胞生物を構成する細胞のうち生殖細胞以外の細胞のことを言う。有性生殖においては次世代へは受け継がれない。好ましくは、体細胞は、肝細胞、膵細胞、筋細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、皮膚細胞、線維芽細胞、膵細胞、腎細胞、肺細胞、又は、リンパ球、赤血球、白血球、単球、マクロファージ若しくは巨核球の血球細胞から選択される。
【0094】
本明細書において「生殖細胞」は、生殖において遺伝情報を次世代へ伝える役割を持つ細胞を意味する。例えば、有性生殖のための配偶子、即ち卵子、卵細胞、精子、精細胞、無性生殖のための胞子などを含む。
【0095】
本明細書において細胞は、肉腫細胞、株化細胞及び形質転換細胞からなる群から選択してもよい。「肉腫」とは、骨、軟骨、脂肪、筋肉、血液等の非上皮性細胞由来の結合組織細胞に発生する癌で、軟部肉腫、悪性骨腫瘍などを含む。肉腫細胞は、肉腫に由来する細胞である。「株化細胞」とは、長期間にわたって体外で維持され、一定の安定した性質をもつに至り、半永久的な継代培養が可能になった培養細胞を意味する。PC12細胞(ラット副腎髄質由来)、CHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣由来)、HEK293細胞(ヒト胎児腎臓由来)、HL−60細胞(ヒト白血球細胞由来)、HeLa細胞(ヒト子宮頸癌由来)、Vero細胞(アフリカミドリザル腎臓上皮細胞由来)、MDCK細胞(イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来)、HepG2細胞(ヒト肝癌由来)などヒトを含む様々な生物種の様々な組織に由来する細胞株が存在する。「形質転換細胞」は、細胞外部から核酸(DNA等)を導入し、遺伝的性質を変化させた細胞を意味する。動物細胞、植物細胞、細菌の形質転換については、各々適した方法が公知である。
【0096】
本発明の骨髄細胞の培養方法において、第一の細胞群は、好ましくは骨髄細胞である。
【0097】
上述した第一の細胞群をポリイミド多孔質膜に適用する方法は、上述した骨髄細胞のポリイミド多孔質膜への適用方法と同様に行うことができる。
【0098】
骨髄細胞を2段階にわけてポリイミド多孔質膜に適用し、培養する骨髄細胞の培養方法では、第一の細胞群をポリイミド多孔質膜に適用し、培養した後、そのポリイミド多孔質膜に第二の細胞群を適用し、培養する工程を含み、ここで第二の細胞群は骨髄細胞である。
【0099】
骨髄細胞を2段階にわけてポリイミド多孔質膜に適用し、培養する骨髄細胞の培養方法では第二の細胞群の適用及び培養の後、上述した方法によって骨髄細胞を血球系細胞へ分化させてもよい。また、その後、血球系細胞を回収する工程を追加してもよい。
【0100】
たとえば、第一の細胞群として通常の骨髄細胞をポリイミド多孔質膜に適用し、培養した後、そのポリイミド多孔質膜に、第二の細胞群としてGFPトランスジェニックマウス由来の骨髄細胞を適用し、培養してもよい。GFPによって可視化された細胞を確認しながら、骨髄細胞から血球系細胞への分化をモニターすることが可能となる。
【0101】
III.骨髄細胞の培養方法に使用するためのキット
本発明はさらに、ポリイミド多孔質膜を含む、上述した骨髄細胞の培養方法に使用するためのキットに関する。
【0102】
本発明のキットは、ポリイミド多孔質膜の他に、細胞培養に必要な構成要素を適宜含みうる。例えば、ポリイミド多孔質膜に適用する細胞、細胞培養培地、連続的培地供給装置、連続的培地循環装置、ポリイミド多孔質膜を支持する足場もしくはモジュール、細胞培養装置、キットの取り扱い説明書などが含まれる。
【0103】
限定されるわけではないが、一態様として、透明なパウチ内に滅菌されたポリイミド多孔質膜が単独で又は複数枚保存され、そのままで細胞培養に使用可能な形態を含むパッケージや、あるいは、同パウチ内にポリイミド多孔質膜と共に滅菌液体が封入されており、効率的吸込み播種が可能になっている膜・液体の一体型形態のキットを含む。
【0104】
IV.骨髄細胞の培養方法のための、ポリイミド多孔質膜の使用
本発明は、上記骨髄細胞の培養方法のための、ポリイミド多孔質膜の使用にも関する。
【0105】
V.骨損傷部位の治療のためのポリイミド多孔質膜
本発明は、骨損傷部位の治療のためのポリイミド多孔質膜に関する。
【0106】
1.骨損傷
本明細書において、骨損傷とは、外傷、疲労、または疾病等に起因して、骨組織が損傷された状態をいうものとし、たとえば骨組織の表面のみが損傷した状態、骨折、骨欠損等を含む。本明細書において骨折とは、骨が完全に連続性を失った完全骨折、及び骨が連続性を完全に失っていない不全骨折を含む。骨折の態様には、骨折部が体外に開放されていない閉鎖骨折(単純骨折)、骨折部が体外に開放されている開放骨折(複雑骨折)、一つの骨が一個所でのみ離断している単独骨折、及び一つの骨が複数個所で離断している複合骨折(重複骨折)等がある。本発明のポリイミド多孔質膜は、いずれの態様の骨折にも適用してよい。
【0107】
本明細書において骨損傷部位の治療とは、骨損傷した部位の損傷状態を部分的又は全体的に改善、修復、又は回復することをいう。骨折部位の治療とは、骨が離断している部位又は欠損している部位を部分的又は全体的に改善、修復、又は回復することをいう。また、骨損傷の治療の促進とは、骨が損傷した部位の損傷状態の改善、修復、又は回復するための期間を短縮すること、または損傷状態を改善、修復、又は回復する部位を拡大することをいう。
【0108】
骨損傷部位の治療または治療の促進の指標としては、離断した骨の接着、骨欠損面積又は体積の縮小、骨密度(Bone Mineral Density。BMD)、骨塩量(Bone Mineral Content。BMC)、骨量(Bone Mass)、新生骨体積(BV)等を適宜用いることができる。
【0109】
2.ポリイミド多孔質膜の表面の処理
本発明のポリイミド多孔質膜は、その表面が、その物理的特性を変更する工程によって部分的又は全体的に処理されているものであってよい。ポリイミド多孔質膜の表面の物理的特性を変更する工程は、骨損傷部位の治療を阻害するものでない限り、目的に応じて任意の工程を選択することができるが、たとえばポリイミド多孔質膜の表面をアルカリ処理する工程、カルシウム処理する工程、生体適合性材料で被覆する工程、及び1以上のこれらの組み合わせが例示される。
【0110】
ポリイミド多孔質膜の表面をアルカリ処理する工程としては、たとえば、ポリイミド多孔質膜の表面に、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ性物質を適用し、ポリイミド多孔質膜の表面の物理的特性を変更させる工程が挙げられるが、これらに限定されない。
【0111】
ポリイミド多孔質膜の表面をカルシウム処理する工程としては、たとえば、ポリイミド多孔質膜の表面に塩化カルシウム、リン酸カルシウム、フッ化カルシウム等のカルシウムを含む物質を適用し、ポリイミド多孔質膜の表面の物理的特性を変更させる工程が挙げられるが、これらに限定されない。
【0112】
ポリイミド多孔質膜の表面をアルカリ処理する工程に続けて、ポリイミド多孔質膜の表面をカルシウム処理してもよい。
【0113】
また、ポリイミド多孔質膜の表面を生体適合性材料で被覆する工程において用いることのできる生体適合性材料としては、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ポリリジン、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリラクチド−コ−カプロラクトン、ポリカーボネート、生体分解性ポリウレタン、ポリエーテルエステル、ポリエステルアミド、ヒドロキシアパタイト、コラーゲンとβ−TCP(β−リン酸三カルシウム)との複合体及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。生体適合性材料による被覆の方法は、当業者に公知の方法を適宜利用可能である。
【0114】
ポリイミド多孔質膜の表面をアルカリ処理及び/又はカルシウム処理した後、さらにその表面を生体適合性材料で被覆してもよい。
【0115】
3.あらかじめ細胞を担持させたポリイミド多孔質膜
本発明のポリイミド多孔質膜は、あらかじめ細胞を担持させたものであってよい。本発明のポリイミド多孔質膜は、その固有の立体構造の中に細胞を保持し、生育させることができるという特長を有する。ポリイミド多孔質膜に目的に応じた細胞を担持させて骨損傷部位に適用することにより、骨損傷部位の治療を促進することも可能となる。
【0116】
本発明のポリイミド多孔質膜に細胞を担持させる方法としては任意の方法を用いることができるが、たとえば以下のような方法を用いることができる。
(A)細胞を前記ポリイミド多孔質膜の表面に播種する工程を含む、態様;
(B)前記ポリイミド多孔質膜の乾燥した表面に細胞縣濁液を載せ、
放置するか、あるいは前記ポリイミド多孔質膜を移動して液の流出を促進するか、あるいは表面の一部を刺激して、細胞縣濁液を前記膜に吸い込ませ、そして、
細胞縣濁液中の細胞を前記膜内に留め、水分は流出させる、
工程を含む、態様;並びに、
(C)前記ポリイミド多孔質膜の片面又は両面を、細胞培養液又は滅菌された液体で湿潤し、
前記湿潤したポリイミド多孔質膜に細胞縣濁液を装填し、そして、
細胞縣濁液中の細胞を前記膜内に留め、水分は流出させる、
工程を含む、態様。
【0117】
本発明のポリイミド多孔質膜の表面に播種された細胞は、ポリイミド多孔質膜に接着し、多孔の内部に入り込んでいく。好ましくは、特に外部から物理的又は化学的な力を加えなくても、細胞はポリイミド多孔質膜に自発的に接着する。ポリイミド多孔質膜の表面に播種された細胞は、膜の表面及び/又は内部において安定して生育・増殖することが可能である。細胞は生育・増殖する膜の位置に応じて、種々の異なる形態をとりうる。
【0118】
本発明のポリイミド多孔質膜が、2つの異なる表面層(A面及びB面)と、当該2つの表面層の間に挟まれたマクロボイド層とを有するポリイミド多孔質膜であり、A面に存在する孔の平均孔径は、B面に存在する孔の平均孔径よりも小さい場合、細胞はA面から適用されてもB面から適用されてもよい。好ましくは、細胞はA面から適用される。
【0119】
本発明のポリイミド多孔質膜の表面に細胞を播種した後、目的に応じてポリイミド多孔質膜において細胞を培養してもよい。培養された細胞は、ポリイミド多孔質膜に担持される。
【0120】
本発明のポリイミド多孔質膜に担持させるための細胞の種類は特に限定されず、任意の細胞を用いることができるが、一般に、哺乳動物と言われる哺乳綱に属する動物由来の細胞を用いることが好ましい。哺乳動物は、特に限定されないが、好ましくは、マウス、ラット、ヒト、サル、ブタ、イヌ、ヒツジ、ヤギなどを含む。
【0121】
本発明のポリイミド多孔質膜に担持させるための動物細胞の種類は、限定されるわけではないが、好ましくは、多能性幹細胞、組織幹細胞、体細胞、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0122】
本発明のポリイミド多孔質膜に担持させるための骨髄細胞は、哺乳動物の骨髄から採取された細胞であってよい。骨髄からの骨髄細胞の採取は、骨髄穿刺や骨髄フラッシング等の公知の方法を用いて行うことができる。また、本発明のポリイミド多孔質膜に担持させるための骨髄細胞は、哺乳動物の骨髄から採取された細胞の初代培養細胞であってもよい。
【0123】
本発明のポリイミド多孔質膜は、その形態が骨髄構造に類似しているという固有の立体構造を有する。本発明者等は、ポリイミド多孔質膜に骨髄細胞を播種して培養すると、CD45陽性細胞を増殖させることができること、及びポリイミド多孔質膜の立体構造にしたがって、骨髄に類似した分化特性を有する細胞塊が生ずることを見出した。本発明において用いることのできるポリイミド多孔質膜は、骨髄細胞を播種して培養したものであってよい。培養のための培地は公知のものを適宜用いることができる。
【0124】
本発明の一態様として、骨損傷治療の対象から採取した骨髄細胞を担持させたポリイミド多孔質膜が挙げられる。そのようなポリイミド多孔質膜を骨損傷治療に用いることで、骨損傷部位の構造的補完のみならず、造血を含む骨機能を回復させることも可能である。
【0125】
また、本発明のポリイミド多孔質膜に細胞を担持させる方法として、例えば以下の工程を含む方法を用いる事が出来る。
(1)第一の細胞群をポリイミド多孔質膜に適用し、培養する工程、及び
(2)工程(1)の培養後のポリイミド多孔質膜に第二の細胞群を適用し、培養し、担持させる工程、ここで第二の細胞群は骨髄細胞である。
【0126】
上記の細胞担持方法において、第一の細胞群の種類はどのような細胞であってもよく、たとえば動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母菌及び細菌からなる群から選択されるものであってよい。動物細胞は、脊椎動物門に属する動物由来の細胞と無脊椎動物(脊椎動物門に属する動物以外の動物)由来の細胞とに大別される。第一の細胞群は、好ましくは骨髄細胞である。
【0127】
4.骨損傷部位の治療のためのポリイミド多孔質膜
本発明のポリイミド多孔質膜は、骨損傷患部に適用することにより、骨損傷部位を治療することができる。
【0128】
本発明のポリイミド多孔質膜は、耐熱性と柔軟性に富み、形状の自由度にも優れているため、骨損傷患部の状態に合わせた任意の形状に切り取り、成形し、又は加工して用いることができる。
【0129】
本発明のポリイミド多孔質膜の骨損傷患部への適用のためには、目的に応じて任意の方法をとってよいが、好ましくは、骨損傷患部に接するよう生体内にポリイミド多孔質膜を移植する。骨損傷患部全体にポリイミド多孔質膜が接するようにしてもよいし、骨損傷幹部の一部にポリイミド多孔質膜が接するようにしてもよい。本発明のポリイミド多孔質膜は、2つの異なる表層面とマクロボイド層を有する多層構造のポリイミド多孔質膜である場合は、2つの異なる表層面のうち、より平均孔径の小さい面が骨損傷患部に接するよう生体内に移植して用いることが好ましい。
【0130】
本発明のポリイミド多孔質膜は、従来の手法では不可能であった大きな骨欠損部位や複雑な骨折部位の治療にも有効に用いることができる。本発明のポリイミド多孔質膜は、骨損傷患部の全体又は一部を覆うように適用すればよく、特に他の材料を用いてポリイミド多孔質膜を固定する必要はない。しかし、目的に応じて、縫合糸、ステープル、生体適合性スクリュー等を用いて、ポリイミド多孔質膜を生体組織に固定してもよい。
【0131】
VI.骨損傷部位の治療用キット
本発明は、上述したポリイミド多孔質膜を含む、骨損傷部位の治療用キットにも関する。本発明のキットは、ポリイミド多孔質膜の他に、骨損傷治療手術に必要な材料、キットの取扱説明書などを含んでいてよい。
【0132】
限定されるわけではないが、一態様として、透明なパウチ内に滅菌されたポリイミド多孔質膜が単独で又は複数枚保存され、そのままで骨損傷治療に使用可能な形態を含むパッケージや、あるいは、同パウチ内にポリイミド多孔質膜と共に滅菌液体が封入されており、効率的な細胞播種が可能になっている膜・液体の一体型形態のキットを含む。
【0133】
VII.骨損傷の治療のための、ポリイミド多孔質膜の使用
本発明は、骨損傷の治療のための、上述したポリイミド多孔質膜の使用にも関する。
【0134】
VIII.骨損傷部位の治療のためのポリイミド多孔質膜の製造方法
本発明は、骨髄細胞をポリイミド多孔質膜に担持させることを含む、骨損傷部位の治療のためのポリイミド多孔質膜の製造方法にも関する。ここで、骨髄細胞は、骨損傷部位の治療の対象から採取されたものであってよい。
【0135】
IX.骨損傷部位の治療方法
本発明は、上述したポリイミド多孔質膜を骨損傷部位に適用することを含む、骨損傷部位の治療方法にも関する。
【0136】
以下、本発明を実施例に基づいて、より具体的に説明する。なお本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。以後、特に記述しない場合には、「ポリイミド多孔質膜」は総膜厚25μm、空孔率73%のポリイミド多孔質膜をいうものとする。当該ポリイミド多孔質膜は、2つの異なる表面層(A面及びB面)と、当該2つの表面層の間に挟まれたマクロボイド層とを有した。A面に存在する穴の平均孔径は6μmであり、B面に存在する穴の平均孔径は46μmであった。
【0137】
なお、以下の実施例で使用されたポリイミド多孔質膜は、テトラカルボン酸成分である3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)とジアミン成分である4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)とから得られるポリアミック酸溶液と、着色前駆体であるポリアクリルアミドとを含むポリアミック酸溶液組成物を成形した後、250℃以上で熱処理することにより、調製された。
【実施例】
【0138】
実施例1
11〜14週齢の雄C57BL/6マウスの大腿骨、頸骨を摘出し、近遠心骨端を切除して,10%FBS含有DMEM液にて洗浄し骨髄を採取する。細胞数は、5.0×10
6 個であった。この細胞を、乾熱滅菌した1cm角の正方形のポリイミド多孔質膜のA面を上にしてA面側から播種する(
図2)。5日間培養してから培地を交換し、さらに2日間培養する。同種同週齢同性のGFPトランスジェニックマウスより、前述と同様の方法で、先に7日間細胞培養を行った細胞の生息するポリイミド多孔質膜シートに、2回目の播種を行う。更に7日間培養してから4%ホルマリン溶液を用いて細胞を固定し、免疫染色にて、標本の解析を進めた。GFP陽性の細胞が固定標本より観察されると共に、ポリイミド多孔質膜のB面大穴構造の周りに、CD45陽性細胞の集団が観察された(
図3)。
【0139】
実施例2
上記実施例1と同様の方法にて、2回の骨髄由来細胞の播種を実施する。2回目の播種から7日間培養後、エリスロポイエチンを1ml当り1ユニット、2ユニット及び5ユニットを追加した。エリスロポイエチン未添加のコントロール群では変化が生じなかったが、エリスロポイエチン添加群では、時間及び容量に応じて、前赤芽球細胞(TER119陽性)が、構造特異的に場所毎で集合体を作っている事が観察された(
図4)。
【0140】
実施例3
9週齢のLEWラットを2〜3%イソフルレンにて全身麻酔後、術野に1万分の1エピネフリン含有リドカインによる浸潤麻酔を施す。切開部より広い範囲を除毛した後、術野が十分明示できるよう頭頂部に骨膜下まで直線上に切開を加える。皮膚骨膜弁を剥離し頭頂骨を露出した後、トレフィンバーを用い滅菌生理食塩水による注水下に4mm径円形の骨欠損部を2個形成した。欠損部を滅菌したポリイミド多孔質膜で被覆した後、皮膚骨膜弁を復位し、ナイロン糸にて縫合した。この際、ポリイミド多孔質膜のメッシュ面(A面)を創部に接地させて作製したモデルと大穴面(B面)を接地させたモデルをそれぞれ作製した。2週間後、4週間後、8週間後に欠損部の治癒状況を測定した。測定項目は、骨密度(BMD)(mg/cm
3)、骨塩量(BMC)(mg)、新生骨体積(BV)(cm
3)、設定したROIの体積(TV)(cm
3)、新生骨の割合(BV/TV)(%)、臨床的なBMD(BMC/TV)(mg/cm
3)である。メッシュ面接地のモデルにて、早期の骨形成に関し、メッシュ面を創部に接地したモデルが有意に骨形成を促進する結果が確認された。結果を
図7に示す。
図7において、コントロール群とは骨欠損部をポリイミド多孔質膜で被覆しなかった群のことである。
【0141】
実施例4
8週齢のGFP transgenic ratより大腿骨および頸骨を採取し、それぞれの骨の両端をカットして、FBSを10%添加したDMEM培地でフラッシュすることで骨髄細胞隗を採取した。細胞塊をピペテッィングにより粉砕し、1.5cm四方のポリイミド多孔質膜のメッシュ面(A面)に1.0×10
6個の骨髄細胞を播種し、10%FBSを添加したDMEM培地で5日間静置培養した。6日目に、細胞が付着したポリイミド多孔質膜を燐酸バッファーで洗浄し、培地をDMEMのみに変更して更に1日間培養した。9週齢のヌードラットを2〜3%イソフルレンにて全身麻酔後、術野に1万分の1エピネフリン含有リドカインによる浸潤麻酔を施す。切開部より広い範囲を除毛した後、術野が十分明示できるよう頭頂部に骨膜下まで直線上に切開を加える。皮膚骨膜弁を剥離し頭頂骨を露出した後、トレフィンバーを用い滅菌生理食塩水による注水下に4mm径円形の骨欠損部を2個形成した。欠損部に、メッシュ面(A面)が創部に接地する様にして、上記の細胞を付着させその後培養したポリイミド多孔質膜にて欠損部を被覆した。2週、4週、8週後に欠損部治癒状況を測定し、経時的な創部の治癒を確認した。結果を
図8に示す。
【0142】
実施例5
8週齢のGFP transgenic ratより大腿骨および頸骨を採取し、それぞれの骨の両端をカットして、FBSを10%添加したDMEM培地でフラッシュすることで骨髄細胞隗を採取した。細胞塊をピペテッィングにより粉砕し、1.5cm四方のポリイミド多孔質膜のメッシュ面(A面)に1.0×10
6個の骨髄細胞を播種し、10%FBSを添加したDMEM培地で5日間静置培養した。DMEM培地を交換した後、更に1日間培養した。その後、ポリイミド多孔質膜のメッシュ面(A面)に1.0×10
6個の骨髄細胞を播種し、10%FBSを添加したDMEM培地で5日間静置培養した。6日目に、細胞が付着したポリイミド多孔質膜を燐酸バッファーで洗浄し、培地をDMEMのみに変更して更に1日間培養した。得られたポリイミド多孔質膜を、9週齢のヌードラットを2〜3%イソフルレンにて全身麻酔後、術野に1万分の1エピネフリン含有リドカインによる浸潤麻酔を施す。切開部より広い範囲を除毛した後、術野が十分明示できるよう頭頂部に骨膜下まで直線上に切開を加える。皮膚骨膜弁を剥離し頭頂骨を露出した後、トレフィンバーを用い滅菌生理食塩水による注水下に4mm径円形の骨欠損部を2個形成した。欠損部に、メッシュ面(A面)が創部に接地する様にして、上記の細胞を付着させその後培養したポリイミド多孔質膜にて欠損部を被覆した。2週、4週、8週後に欠損部治癒状況を測定し、経時的な創部の治癒を確認した。結果を
図9〜11に示す。