【実施例】
【0036】
[実験例1:金属ナノ粒子の選択]
実験例1においては、被検出微生物として緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を用いた場合に、本発明の検出方法に用いることができる、または用いるのに適した金属ナノ粒子または金属ナノ粒子複合体を、電子顕微鏡像の観察、暗視野顕微鏡像の観察、散乱スペクトルの測定により確認した。
【0037】
プローブ分子を結合させた、以下(1)〜(4)に示す金属ナノ粒子または金属ナノ粒子複合体を準備した。
(1)第1の金属ナノ粒子:クエン酸ナトリウムをプローブ分子として結合させた金ナノ粒子(negative Au NPs)、
(2)第2の金属ナノ粒子:アミノエタンチオールをプローブ分子として結合させた金ナノ粒子(positive Au NPs)、
(3)第3の金属ナノ粒子:臭化セチルトリメチルアンモニウムをプローブ分子として結合させた酸化銅ナノ粒子(positive Cu
2O NPs)、
(4)第1の金属ナノ粒子複合体:アニリンをプローブ分子として結合させた金ナノラズベリー(positive Au nanoraspberry)。
【0038】
図6(a)は金ナノ粒子の透過電子顕微鏡像(TEM像)を示し、
図6(b)は酸化銅ナノ粒子のTEM像を示し、
図6(c)は金ナノラズベリーのTEM像を示す。なお、本実験例において、金ナノ粒子および金ナノラズベリーは以下のようにして調製した金ナノ分散液、金ナノラズベリー分散液として準備した。
【0039】
(第1の金属ナノ粒子分散液の調製)
超純水25mLに1%テトラクロロ金(III)酸四水和物水溶液を750μLおよび2%クエン酸ナトリウム水溶液を563μL加えて、80℃のまま30分間撹拌して第1の金属ナノ粒子分散液を調製した。得られた分散液における第1の金属ナノ粒子の平均粒径は30nm、ゼータ電位は−30mVであった。
【0040】
(第2の金属ナノ粒子分散液の調製)
2%クエン酸ナトリウム水溶液に代えてアミノエタンチオール溶液を用いた点以外は、上述の第1の金属ナノ粒子分散液の調製方法にしたがって第2の金属ナノ粒子分散液を調製した。得られた分散液における第2の金属ナノ粒子の平均粒径は30nm、ゼータ電位は+40mVであった。
【0041】
(第3の金属ナノ粒子分散液の調製)
超純水18mLに1.6%硫酸銅水溶液320μL加えて30分間窒素バブリングした。この溶液に10%臭化セチルトリメチルアンモニウムを1mLおよび4.2%水素化ホウ素ナトリウムを500μL加え10時間攪拌した。さらに空気中で10時間攪拌することで第3の金属ナノ粒子分散液を調製した。得られた分散液における第3の金属ナノ粒子の平均粒径は45nm、ゼータ電位は+30mVであった。
【0042】
(金ナノラズベリー分散液の調製)
超純水50mLに1%テトラクロロ金(III)酸四水和物水溶液を152μL加えて、80℃で撹拌し、0.1Mアニリン水溶液を1mL加えて、80℃のまま30分間撹拌した。反応溶液50mLを8500rpm、5℃にて30分間遠心分離し、沈殿をpH7のリン酸バッファー3mLに展開し、10分間超音波処理することで均一に分散させた。この洗浄作業を3回繰り返して、金ナノラズベリー分散液を調製した。得られた金ナノラズベリー分散液における金ナノラズベリーの平均粒径は80nm、ゼータ電位は+20mVであった。
【0043】
図3に示すように、プローブ分子を結合させた金属ナノ粒子または金属ナノ粒子複合体を含む溶液と、緑膿菌を含む溶液とを混合して攪拌し、その後、室温で遠心分離(6200rpm)することで微生物に付着していない金属ナノ粒子を除去した。金属ナノ粒子または金属ナノ粒子複合体の緑膿菌への付着状態を電子顕微鏡像、暗視野顕微鏡像により確認した。
【0044】
図7は、粒径30nmの第1の金属ナノ粒子(negative Au NPs)を用いた場合の電子顕微鏡像(a)と暗視野顕微鏡像(b)を示す図である。
図8は、粒径30nmの第2の金属ナノ粒子(positive Au NPs)を用いた場合の電子顕微鏡像(a)と暗視野顕微鏡像(b)を示す図である。
図9は、粒径45nmの第3の金属ナノ粒子(positive Cu
2O NPs)を用いた場合の電子顕微鏡像(a)と暗視野顕微鏡像(b)を示す図である。
図10は、第1の金属ナノ粒子複合体(positive Au nanoraspberry)を用いた場合の電子顕微鏡像(a)と暗視野顕微鏡像(b)を示す図である。
図11は、緑膿菌のみを含み、金属ナノ粒子または金属ナノ粒子複合体を添加しない場合の暗視野顕微鏡像を示す図である。
図7〜
図11に示す暗視野顕微鏡像は、露光時間(400ms)等、全て同一の条件で撮像したものである。
【0045】
図8〜10より、第2の金属ナノ粒子(positive Au NPs)、第3の金属ナノ粒子(positive Cu
2O NPs)および第1の金属ナノ粒子複合体(positive Au nanoraspberry)は緑膿菌に付着することが確認され、緑膿菌の検出に用いることができることが確認された。これは、緑膿菌の表面がリン酸基により負電荷に帯電しており、一方これらのプローブ分子は正電荷に帯電している官能基(アミノエタンチオールのアミノ基、アニリンオリゴマーのアミノ基、イミノ基等)を有し、これが緑膿菌と静電的相互作用することにより付着していることによる。なお、これらのプローブ分子は金属ナノ粒子に配位結合する官能基(アミノエタンチオールのチオール基、臭化セチルトリメチルアンモニウムのアミノ基、アニリンオリゴマーのアミノ基、イミノ基等)を有し、これを介して金属ナノ粒子に配位結合している。
【0046】
図12は、第2の金属ナノ粒子(positive Au NPs)を用いた場合と、第3の金属ナノ粒子(positive Cu
2O NPs)を用いた場合の散乱スペクトルを示す。
図12からわかるように、第2の金属ナノ粒子(positive Au NPs)を用いた場合と第3の金属ナノ粒子(positive Cu
2O NPs)を用いた場合の散乱スペクトルのピーク波長は異なり、それぞれ650nm付近と、550nm付近である。したがって、第2の金属ナノ粒子(positive Au NPs)を用いた場合の暗視野顕微鏡像は赤色であり、第3の金属ナノ粒子(positive Cu
2O NPs)を用いた場合の暗視野顕微鏡像は青色である。したがって、散乱スペクトルのピーク波長が異なる複数の金属ナノ粒子または金属ナノ粒子複合体を用いて、それぞれが異なる種類の被検出微生物に付着するように設計して散乱特性を評価することにより、試料に含まれる複数種類の被検出微生物を特定することもできる。
【0047】
図13は、第2の金属ナノ粒子(positive Au NPs)を用いた場合と、第1の金属ナノ粒子複合体(positive Au nanoraspberry)を用いた場合と、金属ナノ粒子または金属ナノ粒子複合体を混合せずに緑膿菌のみを含む試料の散乱スペクトルを示す。
図13に示す結果から、第1の金属ナノ粒子複合体(positive Au nanoraspberry)を用いた場合は、第2の金属ナノ粒子(positive Au NPs)を用いた場合と比較して散乱光の強度が格段に大きいことがわかる。なお、このことは、
図8(b)と
図10(b)に示す暗視野顕微鏡像を比較しても明らかである。したがって、本発明の実施の形態において、第1の金属ナノ粒子複合体(positive Au nanoraspberry)を用いるのが、散乱光の強度が大きく検出が容易であるという点から好ましいことがわかる。
【0048】
また、
図13に示す結果より、緑膿菌のみを含む試料からは散乱光はほとんど観察されないことがわかる。したがって、緑膿菌を含む試料に緑膿菌に付着しうる金属ナノ粒子または金属ナノ粒子複合体を混合し(付着工程)、特定の波長にピークを有する散乱スペクトルが測定された場合は(評価工程)、試料中に被検出対象微生物が存在することを確認することができる(検出工程)。また、散乱スペクトルのピークの強度に基づいて、被検出対象微生物の濃度を検出することも可能である。
【0049】
[実験例2:被検出微生物と金属ナノ粒子の混合比変化、金属ナノ粒子の濃度一定]
実験例2においては、被検出微生物として緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を用い、金属ナノ粒子として実験例1で用いた第2の金属ナノ粒子(positive Au NPs)を用いて、緑膿菌の濃度を変化させて電子顕微鏡像の観察、暗視野顕微鏡像の観察、および消失スペクトルの測定を行なった。
以下の試料1〜6を準備した。試料2〜6における第2金属ナノ粒子(positive Au NPs)の含有量は0.1mgとした。
(1)試料1:緑膿菌を3.1×10
8CFUmL
-1の濃度で含み、金属ナノ粒子を添加しない試料、
(2)試料2:緑膿菌を4.6×10
7CFUmL
-1の濃度で含む溶液に、第2の金属ナノ粒子(positive Au NPs)を添加した試料、
(3)試料3:緑膿菌を9.2×10
7CFUmL
-1の濃度で含む溶液に、第2の金属ナノ粒子(positive Au NPs)を添加した試料、
(4)試料4:緑膿菌を1.5×10
8CFUmL
-1の濃度で含む溶液に、第2の金属ナノ粒子(positive Au NPs)を添加した試料、
(5)試料5:緑膿菌を3.1×10
8CFUmL
-1の濃度で含む溶液に、第2の金属ナノ粒子(positive Au NPs)を添加した試料、
(6)試料6:第2の金属ナノ粒子(positive Au NPs)のみを含み被検出微生物を含まない試料。
【0050】
図14(a)は試料2〜4の電子顕微鏡像を示し、
図14(b)は試料2〜4の暗視野顕微鏡像を示す。また、
図15は、試料1〜6の消失スペクトルを示す。
図14(b)に示す暗視野顕微鏡像から、緑膿菌の濃度が薄いほど、明るい暗視野顕微鏡像が観察されることがわかる。試料5では,試料1(緑膿菌のみ)の暗視野顕微鏡像(
図11)との比較にほとんど相違が見られなかった。これは、金属ナノ粒子の濃度を一定としているため、
図16に示すように、緑膿菌2の濃度が薄いほど、一つ当たりの緑膿菌2に付着する金属ナノ粒子1の個数が増加することによるものと解される。
図15に示す消失スペクトルから、試料1(緑膿菌のみ)および試料6(金属ナノ粒子のみ)では波長600〜700nm付近での消失光がほとんど観察されないにもかかわらず、試料2〜5においては、消失光の強度が緑膿菌の濃度が高くなるほど大きくなることが観察された。これは、緑膿菌の表面に金属ナノ粒子が付着することにより、波長600〜700nm付近での散乱光が生じることに起因しているものと解される。以上より、消失スペクトルを測定することにより、被検出微生物の有無を検出することができ、また消失スペクトルの特定波長の強度に基づいて被検出微生物の濃度を検出することも可能であることがわかる。
【0051】
[実験例3:被検出微生物と金属ナノ粒子複合体の混合比変化]
実験例3においては、被検出微生物として緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を、金属ナノ粒子として実験例1で用いた第1の金属ナノ粒子複合体(positive Au nanoraspberry)を用いて、第1の金属ナノ粒子複合体(positive Au nanoraspberry)の濃度を変化させて暗視野顕微鏡像の観察および散乱スペクトルの測定を行なった。
【0052】
図3に示すように、金属ナノ粒子複合体(positive Au nanoraspberry)を含む溶液と、緑膿菌を含む溶液とを混合して攪拌し、その後、室温で遠心分離(6200rpm)することで微生物に付着していない金属ナノ粒子を除去した。金属ナノ粒子または金属ナノ粒子複合体の緑膿菌への付着状態を電子顕微鏡像、暗視野顕微鏡像により確認した。
【0053】
以下の試料7〜試料13を準備した。試料7〜13においては、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を1.5×10
8CFUmL
-1の濃度で含み、第1の金属ナノ粒子複合体(positive Au nanoraspberry)の濃度が76μgである場合を緑膿菌に対して1.0の比率で含まれるとして、かかる比率に換算して記載する。
(1)試料7:緑膿菌を7.5×10
8CFUmL
-1の濃度で含み、第1の金属ナノ粒子複合体(positive Au nanoraspberry)が0.2の比率で含まれる試料、
(2)試料8:緑膿菌を3.8×10
8CFUmL
-1の濃度で含み、第1の金属ナノ粒子複合体(positive Au nanoraspberry)が0.4の比率で含まれる試料、
(3)試料9:緑膿菌を1.5×10
8CFUmL
-1の濃度で含み、第1の金属ナノ粒子複合体(positive Au nanoraspberry)が1.0の比率で含まれる試料、
(4)試料10:緑膿菌を6.0×10
8CFUmL
-1の濃度で含み、第1の金属ナノ粒子複合体(positive Au nanoraspberry)が1.25の比率で含まれる試料、
(5)試料11:緑膿菌を3.8×10
8CFUmL
-1の濃度で含み、第1の金属ナノ粒子複合体(positive Au nanoraspberry)が2.0の比率で含まれる試料、
(6)試料12:緑膿菌を3.0×10
8CFUmL
-1の濃度で含み、第1の金属ナノ粒子複合体(positive Au nanoraspberry)が2.5の比率で含まれる試料、
(7)試料13:緑膿菌を1.5×10
8CFUmL
-1の濃度で含み、第1の金属ナノ粒子複合体(positive Au nanoraspberry)が5.0の比率で含まれる試料。
【0054】
図17は試料8〜13の暗視野顕微鏡像を示し、
図18は試料7〜13の散乱スペクトルを示し、
図19は
図18の散乱スペクトルに基づいて作成した、金属ナノ粒子複合体の比率に対する波長600nmの散乱強度の関係を示す図である。
図17に示す暗視野顕微鏡像は、露光時間を100msとし、他の撮像条件についても全て同一とした。
図17に示す暗視野顕微鏡像から、金属ナノ粒子複合体の比率が2.0までの試料(試料8〜11)においては、金属ナノ粒子複合体濃度が濃いほど、明るい暗視野顕微鏡像が観察されることがわかった。これは、緑膿菌に対して、金属ナノ粒子複合体の濃度が濃いほど、一つ当たりの緑膿菌に付着する金属ナノ粒子複合体の個数が増加することによるものと解される。
【0055】
図18に示す散乱スペクトルから、試料7(緑膿菌のみ)の場合は散乱光が測定されず、また試料8〜13においては、金属ナノ粒子複合体の濃度が大きいほど、散乱スペクトルのピーク強度が大きくなることが観察されたが、試料12,13については、ピーク強度はほぼ同じであった。また、
図19に示す結果から、金属ナノ粒子複合体の比率を3.0以上としても散乱光の強度は大きくならないことがわかった。したがって、第1の金属ナノ粒子複合体(positive Au nanoraspberry)を用いて検出を行う場合、予測される被検出微生物の濃度に対して、第1の金属ナノ粒子複合体(positive Au nanoraspberry)を、その比率が1.25〜2.5となるような範囲で添加して散乱特性を評価することが好ましいことがわかった。
【0056】
[実験例4]
実験例4においては、金ナノ粒子および金ナノラズベリーによる蛍光増強効果を確認する測定を行った。まず、1μMのフルオレセイン水溶液について、励起波長490nmで蛍光測定を行なった。次に、1μMのフルオレセイン水溶液に、以下のように調製した金ナノ粒子分散液を滴下して、励起波長490nmで蛍光測定を行なった。さらに、1μMのフルオレセイン水溶液に、実験例1で調製した金ナノラズベリー分散液を滴下して、励起波長490nmで蛍光測定を行なった。
【0057】
(金ナノ粒子分散液の調製)
超純水25mLに1%テトラクロロ金(III)酸四水和物水溶液を750μLおよび0.1M炭酸カリウム水溶液(0.5mL)を加え、4℃で撹拌した。その後、13mMの水素化ホウ素ナトリウム水溶液0.5mLを5回(全量2.5mL)加えて20分攪拌して金ナノ粒子分散液を調製した。得られた金ナノ粒子分散液における金ナノ粒子の平均粒径は5nm、ゼータ電位は−15mVであった。
【0058】
図20は、1μMのフルオレセイン水溶液(試料A)の蛍光スペクトルと、1μMのフルオレセイン水溶液に金ナノ粒子分散液が滴下されて金ナノ粒子を0.970μg含む水溶液(試料B)の蛍光スペクトルと、1μMのフルオレセイン水溶液に金ナノラズベリー水溶液が滴下されて金ナノラズベリーを0.727μg含む水溶液(試料C)の蛍光スペクトルとを示す。
【0059】
図20に示されるように、1μMのフルオレセイン水溶液(試料A)は、512nmに極大値を持つスペクトルを示した。この蛍光ピークの強度は95であった。金ナノ粒子を0.970μg含む水溶液(試料B)のピーク強度は154であり、試料Aのピーク強度と比較して1.5倍増強された。金ナノラズベリーを0.727μg含む水溶液(試料C)のピーク強度は1000以上であり、試料Aのピーク強度と比較して10倍以上増強された。
【0060】
図21は、1μMのフルオレセイン水溶液(試料A)の蛍光スペクトルと、1μMのフルオレセイン水溶液に金ナノ粒子分散液が滴下されて金ナノ粒子を以下の量含む試料14〜21の蛍光スペクトルを示す。
(1)試料14:金ナノ粒子の含有量0.194μg、
(2)試料15:金ナノ粒子の含有量0.582μg、
(3)試料16:金ナノ粒子の含有量0.970μg、
(4)試料17:金ナノ粒子の含有量1.94μg、
(5)試料18:金ナノ粒子の含有量5.82μg、
(6)試料19:金ナノ粒子の含有量9.70μg、
(7)試料20:金ナノ粒子の含有量19.4μg、
(8)試料21:金ナノ粒子の含有量32.2μg。
【0061】
図22は、
図21の蛍光スペクトルに基づいて作成した、金ナノ粒子の含有量に対する波長512nmでの蛍光強度の関係を示す図である。
図21、22によると、金ナノ粒子の含有量が9.70μg(試料19)となるまでは金ナノ粒子の含有量の増大に対応して波長512nmの蛍光強度が増大したが、さらに含有量を増大(9.70〜32.2μg)させると、ピーク強度は急激に減少し、試料21においては、フルオレセインのみと比べて小さくなった。これは、金ナノ粒子表面の増強電場による蛍光増強の一方、金ナノ粒子に近接した蛍光色素の電子移動がクエンチされることによるものと解される。したがって、本実験例にしたがって被検出微生物の検出を行なう場合には、予想される被検出微生物の濃度に応じて、金ナノ粒子の濃度および蛍光色素の濃度を選択することが好ましい。
【0062】
次に、
図20において金ナノラズベリーを添加した場合に蛍光強度が装置の限界を超えたため(強度1000以上)、試料Aよりフルオレセインの濃度を10倍希釈した0.1μMのフルオレセイン水溶液(試料A2)を準備し、これに実験例1で調製した金ナノラズベリー分散液を滴下して、励起波長490nmで蛍光測定を行なった。
図23は、試料A2の蛍光スペクトルと、0.1μMのフルオレセイン水溶液に金ナノラズベリー分散液が滴下されて金ナノラズベリーを以下の量含む試料22〜29の蛍光スペクトルを示す。
(1)試料22:金ナノラズベリーの含有量0.0727μg、
(2)試料23:金ナノラズベリーの含有量0.218μg、
(3)試料24:金ナノラズベリーの含有量0.364μg、
(4)試料25:金ナノラズベリーの含有量0.727μg、
(5)試料26:金ナノラズベリーの含有量2.18μg、
(6)試料27:金ナノラズベリーの含有量3.64μg、
(7)試料28:金ナノラズベリーの含有量7.27μg、
(8)試料29:金ナノラズベリーの含有量12.1μg。
【0063】
図24は、
図23の蛍光スペクトルに基づいて作成した、金ナノラズベリーの含有量に対する波長512nmでの蛍光強度の関係を示す図である。
図23、24によると、金ナノラズベリーの含有量が3.64μg(試料27)となるまでは金ナノラズベリーの含有量の増大に対応して波長512nmの蛍光強度が増大したが、さらに含有量を増大(3.64〜12.1μg)させても、ピーク強度はほぼ一定の強度を示した。これは、金ナノラズベリー中において金ナノ粒子がアニリンオリゴマーをリンカーとして集合化された構造を持つことに基づくものと解される。すなわち、アニリンオリゴマーにフルオレセインが補足され、金ナノ粒子に直接接することがないため、クエンチが抑制するものと解される。本実験例にしたがって被検出微生物の検出を行なう場合には、予想される被検出微生物の濃度に応じて、金ナノラズベリーの濃度および蛍光色素の濃度を選択することが好ましい。
【0064】
以上の結果を考察すると、試料Bにおいてピーク強度が増強されたのは、金ナノ粒子が表面に持つ増強電場(表面プラズモン)が、近傍の蛍光色素の蛍光を増強することによるものと解される。また、試料Cにおいてピーク強度が増強されたのは、金ナノ粒子が集合した構造を持つ金ナノラズベリーでは、隣接する金ナノ粒子において表面の増強電場がカップリングすることでホットスポットを形成し、このホットスポットではさらに増強効果が向上することによるものと解される。
【0065】
実験例4の結果から、まず付着工程で試料に含まれる被検出微生物に金属ナノ粒子または金属ナノ粒子複合体を付着させて、その後被検出微生物に付着していない金属ナノ粒子または金属ナノ粒子複合体を除去し、ここで蛍光色素を添加して、かかる試料について評価工程において蛍光特性を評価することにより、評価結果に基づいて被検出微生物を検出することができることがわかった。あるいは、あらかじめ蛍光色素を保持させた金属ナノ粒子複合体を、試料に含まれる被検出微生物に付着させて、かかる試料について評価工程において蛍光特性を評価することにより、評価結果に基づいて被検出微生物を検出することができることがわかった。被検出微生物に付着した金属ナノ粒子複合体が存在する場合には、蛍光スペクトルのピーク強度が増強することになるからである。