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特許6358611光学装置、車両用灯具、光学素子の駆動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358611
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】光学装置、車両用灯具、光学素子の駆動方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/19 20060101AFI20180709BHJP
   G09G 3/34 20060101ALI20180709BHJP
   F21S 41/00 20180101ALI20180709BHJP
   F21S 43/00 20180101ALI20180709BHJP
   F21S 45/00 20180101ALI20180709BHJP
   F21W 103/00 20180101ALN20180709BHJP
   F21W 104/00 20180101ALN20180709BHJP
   F21W 105/00 20180101ALN20180709BHJP
   F21W 102/00 20180101ALN20180709BHJP
   F21Y 101/00 20160101ALN20180709BHJP
【FI】
   G02F1/19
   G09G3/34 Z
   F21S8/10 170
   F21W101:10
   F21Y101:00
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-221261(P2013-221261)
(22)【出願日】2013年10月24日
(65)【公開番号】特開2015-82082(P2015-82082A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2016年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 敬四郎
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 宙人
(72)【発明者】
【氏名】都甲 康夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 範久
【審査官】 廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−181389(JP,A)
【文献】 特開2007−086188(JP,A)
【文献】 特開2005−056706(JP,A)
【文献】 特開2010−243632(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101470304(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/19
G09F 9/30
G09G 3/34
F21Y 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置される第1および第2の基板であって、該第1の基板は、該第2の基板に近い表面に設けられた第1の電極を含み、該第2の基板は、該第1の基板に近い表面に設けられた第2の電極を含む、該第1および第2の基板と、
前記第1および第2の基板に挟持され、該一対の基板の法線方向から見たときに、第1〜第4の枠縁部からなる矩形枠状の全体的平面形状を有し、該第1の枠縁部にのみ、内側側面が外側に向かって窪む3つ以上の凹部が設けられ、かつ、少なくとも1つの凹部が該第1の枠縁部の両端を除く場所に設けられ、該凹部に相対する外側側面が外側に向かって膨らむように成形されるシール部材と、
前記第1および第2の基板ならびに前記シール部材により画定される空間に封入され、銀を含有するエレクトロデポジション材料を含む電解質層と、
前記第1および第2の電極に接続し、該第1および第2の電極を介して、前記電解質層に電圧を印加することができる電源と、
を備える光学装置。
【請求項2】
前記電源は、前記第1の電極の電位を基準としたとき、第1の期間に、前記第2の電極に正の電位である第1の電位を印加し、該第1の期間の後の第2の期間に、該第2の電極に、正の電位であり、かつ、該第1の電位よりも低い第2の電位を印加することができる請求項1記載の光学装置。
【請求項3】
前記電源は、前記第1の電極の電位を基準にしたとき、前記第2の電極に正の直流電位を印加することができる請求項1または2記載の光学装置。
【請求項4】
前記第2の基板は、さらに、前記第2の電極の表面に設けられ、導電性を有する微細凹凸層を含む請求項1〜3いずれか1項記載の光学装置。
【請求項5】
前記電源は、さらに、前記第1の電極の電位を基準にしたとき、前記第2の電極に負の直流電位を印加することができる請求項4記載の光学装置。
【請求項6】
前記第1および第2の基板は、可撓性を有する請求項1〜5いずれか1項記載の光学装置。
【請求項7】
白色光を出射する光源と、
前記光源を覆って配置され、レンズ機能を有する光学カバー部材と、
前記光学カバー部材の内側表面ないし外側表面に配置される請求項6記載の光学装置と、
を備える車両用灯具。
【請求項8】
対向配置される第1および第2の基板であって、該第1の基板は、該第2の基板に近い表面に設けられた第1の電極を含み、該第2の基板は、該第1の基板に近い表面に設けられた第2の電極を含む、該第1および第2の基板と、
前記第1および第2の基板に挟持され、該一対の基板の法線方向から見たときに、第1〜第4の枠縁部からなる矩形枠状の全体的平面形状を有し、該第1の枠縁部にのみ、内側側面が外側に向かって窪む3つ以上の凹部が設けられ、かつ、少なくとも1つの凹部が該第1の枠縁部の両端を除く場所に設けられ、該凹部に相対する外側側面が外側に向かって膨らむように成形されるシール部材と、
前記第1および第2の基板ならびに前記シール部材により画定される空間に封入され、銀を含有するエレクトロデポジション材料を含む電解質層と、
を備える光学素子の駆動方法であって、
前記第1の電極の電位を基準としたとき、第1の期間に、前記第2の電極に正の電位である第1の電位を印加し、該第1の期間の後の第2の期間に、前記第2の電極に、正の電位であり、かつ、前記第1の電位よりも低い第2の電位を印加する光学素子の駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロデポジション素子を含む光学装置、および、その光学装置を利用した車両用灯具、ならびに、エレクトロデポジション素子の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、いわゆるエレクトロデポジション素子が開示されている。エレクトロデポジション素子は、主に、対向配置される一対の電極と、その一対の電極に挟持され、銀を含有するエレクトロデポジション材料を含む電解質層と、を有する。
【0003】
定常時(電圧無印加時)、電解質層はほぼ透明であり、エレクトロデポジション素子は透明状態となる。一対の電極間に電圧を印加すると、酸化・還元反応により、電解質層のエレクトロデポジション材料(銀)が、電極上に析出・堆積する。これにより、エレクトロデポジション素子は鏡面状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−181389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の主な目的は、エレクトロデポジション素子を含む光学装置であって、該エレクトロデポジション素子を透過する光の波長を制御することができる光学装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によれば、対向配置される第1および第2の基板であって、該第1の基板は、該第2の基板に近い表面に設けられた第1の電極を含み、該第2の基板は、該第1の基板に近い表面に設けられた第2の電極を含む、該第1および第2の基板と、前記第1および第2の基板に挟持され、該一対の基板の法線方向から見たときに、第1〜第4の枠縁部からなる矩形枠状の全体的平面形状を有し、該第1の枠縁部にのみ、内側側面が外側に向かって窪む3つ以上の凹部が設けられ、かつ、少なくとも1つの凹部が該第1の枠縁部の両端を除く場所に設けられ、該凹部に相対する外側側面が外側に向かって膨らむように成形されるシール部材と、前記第1および第2の基板ならびに前記シール部材により画定される空間に封入され、銀を含有するエレクトロデポジション材料を含む電解質層と、前記第1および第2の電極に接続し、該第1および第2の電極を介して、前記電解質層に電圧を印加することができる電源と、を備える光学装置、が提供される。
【0007】
本発明の他の観点によれば、対向配置される第1および第2の基板であって、該第1の基板は、該第2の基板に近い表面に設けられた第1の電極を含み、該第2の基板は、該第1の基板に近い表面に設けられた第2の電極を含む、該第1および第2の基板と、前記第1および第2の基板に挟持され、該一対の基板の法線方向から見たときに、第1〜第4の枠縁部からなる矩形枠状の全体的平面形状を有し、該第1の枠縁部にのみ、内側側面が外側に向かって窪む3つ以上の凹部が設けられ、かつ、少なくとも1つの凹部が該第1の枠縁部の両端を除く場所に設けられ、該凹部に相対する外側側面が外側に向かって膨らむように成形されるシール部材と、前記第1および第2の基板ならびに前記シール部材により画定される空間に封入され、銀を含有するエレクトロデポジション材料を含む電解質層と、を備える光学素子の駆動方法であって、前記第1の電極の電位を基準としたとき、第1の期間に、前記第2の電極に正の電位である第1の電位を印加し、該第1の期間の後の第2の期間に、前記第2の電極に、正の電位であり、かつ、前記第1の電位よりも低い第2の電位を印加する光学素子の駆動方法、が提供される。
【発明の効果】
【0008】
透過光の波長を制御することができる光学装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1Aは、エレクトロデポジション素子1を含む光学装置の基本構造を示す断面図であり、図1Bは、エレクトロデポジション素子1に印加するステップ電圧の波形を示すグラフであり、図1Cは、エレクトロデポジション素子1にステップ電圧を印加した際の、当該エレクトロデポジション素子1における光透過率の波長依存性を示すグラフである。
図2図2Aは、下側基板10表面に突起層30を形成する様子を示す断面図であり、図2Bは、突起層30を形成する際に用いる、突起(円柱穴状)パターンが形成されたロール状金型101を示す斜視図である。
図3図3Aおよび図3Bは、突起層30を形成した下側基板10の表面にシール部材40aを塗布する様子を示す断面図および平面図であり、図3Cは、シール部材40aの一部を拡大して示す平面図である。
図4図4Aおよび図4Bは、下側基板10表面のシール部材40aに囲まれた領域にエレクトロデポジション材料を含む電解液50を滴下する様子を示す断面図および平面図である。
図5図5A図5Cは、下側基板10と上側基板20とを貼り合せる様子を示す断面図および平面図である。
図6図6Aは、エレクトロデポジション素子1aを含む光学装置の構造を示す断面図であり、図6Bは、エレクトロデポジション素子1aに印加する直流電圧の波形を示すグラフであり、図6Cは、エレクトロデポジション素子1(ないしエレクトロデポジション素子1a)を含む光学装置を具備する車両用灯具(ヘッドライトユニット)を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
最初に、図1を参照して、本発明の実施例による光学装置の構造および駆動方法について説明する。なお、図中に示す各構成要素の相対的なサイズは、実際のものとは異なっている。
【0011】
図1Aは、実施例による光学装置の基本構造を示す断面図である。当該光学装置は、主に、エレクトロデポジション(ED)素子1、および、ED素子1に接続する電源2、から構成される。
【0012】
ED素子1は、主に、対向配置される下側および上側基板10,20と、下側および上側基板10,20に挟持されるシール枠部材40およびエレクトロデポジション(ED)材料を含む電解質層(電解液)50と、を備える構成である。なお、シール枠部材40は、下側ないし上側基板10,20面内において、下側および上側基板10,20の周縁に沿って閉じた形状で設けられている。電解質層50は、下側および上側基板10,20、ならびに、シール枠部材40により画定される空間50aに充填されている。
【0013】
下側基板10は、たとえば、下側ベース基板11の表面に、下側電極12が形成された構成を有する。また、上側基板20は、たとえば、上側ベース基板21の表面に、上側電極22が形成された構成を有する。
【0014】
下側および上側ベース基板11,21には、たとえば、ポリカーボネートやポリエチレンテレフタレート(PET)などで形成された、透光性および可撓性を有するプラスチックフィルムが用いられる。なお、可撓性を有さないプレート状の青板ガラスないし白板ガラス等を用いてもかまわない。また、下側および上側電極12,22は、たとえば、インジウム錫酸化物(ITO)やインジウム亜鉛酸化物(IZO)、グラフェンなど、透光性および導電性を有する部材により構成される。なお、下側および上側電極12,22は、所望の平面形状に成形(パターニング)されていてもよい。実施例では、下側および上側基板10,20に、IZO電極付きポリカーボネート(0.1mmt)を用いた。
【0015】
下側および上側基板10,20の間隙には、透光性樹脂部材などから構成される複数の突起体31(突起層30)が設けられている。突起体31は、下側基板10(下側電極12)から上側基板20(上側電極22)にまで到達しており、下側および上側基板10,20の間隔(セル厚)を規定する。
【0016】
突起体31の形状は、たとえば直径50μm〜150μm,高さ100μm程度の円柱状である。また、突起体31は、上側基板10面内に一様に分布しており、単位面積を占めるスペーサ31の面積の割合(密度)は、たとえば3.8%程度である。
【0017】
シール枠部材40は、下側および上側基板10,20に挟持され、たとえば矩形枠状の全体的平面形状を有する。また、たとえば、紫外線硬化型の透光性樹脂部材により構成される。
【0018】
電解質層(電解液)50は、下側および上側基板10,20、ならびに、シール枠部材40により包囲される空間50aに充填されている。また、たとえば、ED材料(AgNO等)、電解質(TBABr等)、メディエータ(CuCl等)、電解質の浄化剤(LiBr等)、溶媒(DMSO:dimethyl―sulfoxide 等)などにより構成される。なお、さらにゲル化用ポリマー(PVB:polyvinyl―butyral等)などを添加して、ゲル状(ゼリー状)にしてもよい。実施例においては、溶媒であるDMSO中に、ED材料としてAgNOを50mM、支持電解質としてLiBrを250mM、メディエータとしてCuClを10mM添加したものを用いた。
【0019】
ED材料は、たとえば、銀を含むAgNO、AgClO、AgBr等を用いることができる。ここで、ED材料とは、電圧が印加された下側ないし上側電極12,22表面において、酸化または還元反応により、その一部が析出・堆積、または、消失する材料をいう。
【0020】
支持電解質は、ED材料の酸化還元反応等を促進するものであれば限定されない。たとえば、リチウム塩(LiCl、LiBr、LiI、LiBF、LiClO等)、カリウム塩(KCl、KBr、KI等)、ナトリウム塩(NaCl、NaBr、NaI等)を好適に用いることができる。
【0021】
メディエータは、たとえば、銅を含むCuCl、CuSO、CuBr等を用いることができる。ここで、メディエータとは、銀よりも電気化学的に低いエネルギで酸化・還元する材料をいう。
【0022】
溶媒は、ED材料等を安定的に保持することができるものであれば限定されない。たとえば、水や炭酸プロピレン等の極性溶媒、極性のない有機溶媒、更にはイオン性液体、イオン導電性高分子、高分子電解質等を用いることができる。具体的には、DMSOの他、炭酸プロピレン、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ポリビニル硫酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸等を好適に用いることができる。
【0023】
電源2は、下側および上側電極12,22に接続される。電源2は、下側および上側電極12,22を介して、電解質層50に種々の電圧を印加することができる。
【0024】
電圧無印加時、電解質層50は概ね透明であり、ED素子1は透明状態を実現する。
【0025】
たとえば、下側電極12の電位を基準としたときに、上側電極22に正の直流電位(2.5[V]程度で数秒間)を印加した場合(上側電極22の電位を基準としたときに、下側電極12に負の直流電位を印加した場合)、下側電極12表面において、電解質層50中の銀イオン(ED材料)が還元され、銀薄膜(高反射膜)が析出する。これにより、ED素子1は鏡面状態を実現する。なお、下側電極12の電位を基準としたときに、上側電極22に負の直流電位を印加した場合には、上側電極12表面に銀薄膜(高反射膜)が析出する。
【0026】
下側および上側電極12,22への電圧印加を停止すると、下側電極12表面に析出した銀(薄膜)は、電解質層50中に銀イオンとして溶解し、下側電極12表面から消失する。これによりED素子1は再度透明状態を実現する。
【0027】
本発明者らは、電源2によりED素子1にステップ電圧を印加することにより、ED素子1における光透過率の波長依存性が変化することを見出した。以下では、下側および上側電極12,22の間(つまり電解質層50)に印加される電圧について、下側電極12の電位を基準にして説明する。
【0028】
図1Bは、電源2により、下側および上側電極12,22間に一定期間印加される電圧波形を示すグラフである。グラフの横軸は、時間を示し、グラフの縦軸は、電解質層に印加する電圧、つまり下側電極12の電位に対する上側電極22の電位を示す。
【0029】
電源2は、第1の期間t1に、上側電極22に第1の電位v1を印加する。そして、第1の期間t1の後の第2の期間t2に、上側電極22に第1の電位v1よりも低い第2の電位v2を印加する。
【0030】
図1Cは、電源2によりED素子1にステップ電圧を印加した際の、当該ED素子1の光透過スペクトルを示すグラフである。グラフの縦軸は、ED素子1の透過率を示し、グラフの横軸は、ED素子1を透過する光の波長を示す。
【0031】
矢印A1が指示するスペクトルは、電源2により出力されるステップ電圧において、第1の期間t1を100[ms]、第1の電圧v1を3[V]、第2の期間t2を1.4[s]、第2の電圧v2を1.5[V]としたときのED素子1の光透過スペクトルである。また、矢印A2が指示するスペクトルは、電源2により出力されるステップ電圧において、第1の期間t1を100[ms]、第1の電圧v1を3[V]、第2の期間t2を20.7[s]、第2の電圧v2を1.5[V]としたときのED素子1の光透過スペクトルである。その他のスペクトルは、電源2により印加されるステップ電圧において、第1の期間t1を100[ms]、第1の電圧v1を3[V]、第2の電圧v2を1.5[V]とし、第2の期間t2をそれぞれ1.4〜20.7[s](1.3〜1.4[s]間隔)に変化させたときのED素子1の光透過スペクトルである。
【0032】
これらのスペクトルから、ステップ電圧の第2の期間t2が相対的に短い場合、ED素子1において、長波長側の光透過率が、短波長側の光透過率よりも高くなることがわかった。この場合、ED素子1は、赤みを帯びて見えることになり、赤色着色状態を実現する。
【0033】
また、ステップ電圧の第2の期間t2が相対的に長い場合、ED素子1において、短波長側の光透過率が、長波長側の光透過率よりも高くなることがわかった。この場合、ED素子1は、青みを帯びて見えることになり、青色着色状態を実現する。
【0034】
このように、ED素子に印加するステップ電圧を適宜調整することにより、ED素子における光透過率の波長依存性を制御することができる。また、ED素子は、透明状態および鏡面状態に加え、着色状態を実現することができる。このような特性により、ED素子は、光透過スペクトル可変型のカラーフィルタとして利用できるであろう。
【0035】
なお、第2の期間に印加される第2の電圧は、0[V]であってもよい。すなわち、印加電圧のオン・オフによって、ED素子を駆動してもかまわない。
【0036】
次に、図2図5を参照して、本発明の実施例による光学装置(主にED素子)の製造方法について説明する。実施例において、ED素子1は、シート状のフレキシブル基板を所定の方向に搬送しながら各種部材の形成や加工などを逐次的に行う、いわゆるロールトゥロール方式と呼ばれる方式に基づいて製造される。
【0037】
最初に、ベースフィルム(図1Aにおけるベース基板11,21に相当)表面に電極(図1Aにおける電極12,22に相当)が形成されたシート状のフレキシブル基板(図1Aにおける基板10,20に相当)を2枚準備する。必要に応じて、フレキシブル基板表面の電極を、エッチング法やレーザアブレーション法などにより、所望の平面形状にパターニングしておく。
【0038】
ベースフィルムには、たとえば、ポリカーボネートやPETなどで形成されたプラスチックフィルムを用いることができる。また、電極には、たとえば、ITOやIZO、グラフェンなどを用いることができる。
【0039】
2枚準備したフレキシブル基板のうち、一方の基板を下側基板10に設定し、他方の基板を上側基板20に設定する。
【0040】
図2Aは、下側基板10表面に突起層30(スペーサ31)を形成する様子を示す断面図である。また、図2Bは、突起層30を形成する際に用いる、突起(円柱穴状)パターンが形成されたロール状金型101を示す斜視図である。
【0041】
図2Aに示すように、まず、下側基板10を長さ方向に、たとえば0.1m/s程度の速度で搬送しながら、供給ヘッド(インクジェットヘッド,ディスペンサ等)102により、下側基板10上に、突起層30を構成する樹脂部材30aを塗布する。樹脂部材30aには、たとえば、アクリル系やアリル系、エポキシ系などの紫外線硬化性樹脂を用いることができる。
【0042】
続いて、下側基板10上に塗布された樹脂部材30aを、ニップロール103によりロール状金型101に押し付けて、ロール状金型101を回転させながら、樹脂部材30aに突起パターンを転写する。その後、下側基板10側から樹脂部材30aに、紫外線照射装置104から出射される紫外線を照射して、樹脂部材30aを硬化させる。これにより、下側基板10表面に複数のスペーサ(突起体)31を含む突起層30が形成される。
【0043】
図2Bに示すように、ロール状金型101は円柱状の全体形状を有し、その側面には、複数の円柱穴が分布して設けられている。円柱穴は、たとえば、深さが100μm程度、直径が50〜150μm程度である。また、単位面積を占める円柱穴の面積の割合(密度)は、1%〜10%、たとえば3.8%程度である。このようなロール状金型101を用いて、円柱穴のパターンを樹脂部材30aに転写することにより、当該円柱穴に対応したスペーサ(突起体)31が一様に分布する突起層30を得ることができる。
【0044】
なお、突起層30は上側基板20に設けてもかまわない。また、突起層30を下側基10に設けた場合、上側基板20には、ITO粒子等が堆積する粒子堆積層やプリズム等からなる光機能層などを設けてもかまわない。たとえば、ITO粒子堆積層を形成する場合、ITO粒子分散液を、スピンコート法などを用いて、上側基板表面に塗布し、その後焼成することにより、ITO粒子堆積層を形成することができる。
【0045】
図3Aおよび図3Bは、突起層30を形成した下側基板10の表面にシール部材40aを塗布(パターニング)する様子を示す断面図および平面図である。また、図3Cは、シール部材40aの一部を拡大して示す平面図である。なお、以下では、突起層30を含めて下側基板10と呼ぶこととする。
【0046】
図3Aに示すように、引き続き下側基板10を長さ方向に搬送しながら、供給ヘッド(インクジェットヘッド,ディスペンサ等)105により、下側基板10上にシール部材40aを塗布する。なお、シール部材40aは、上側基板20に設けもかまわない。
【0047】
シール部材40aには、紫外線硬化性樹脂部材を用いることができる。なお、シール部材40aの高さ(厚み)は、0.1mm程度である。
【0048】
図3Bに示すように、下側基板10上に塗布されるシール部材40aは、第1〜第4の縁部41a〜44aを含み、矩形枠状の全体的平面形状を有する。シール部材40aの全体的平面形状は、たとえば、各縁部の幅Wが1mm程度であり、一辺の長さDが50mm程度の正方形状である。
【0049】
第1の縁部41aは、実線部41bおよび切れ目部41cを含む破線状であり、下側基板10の搬送方向に対して後方に形成される。第2の縁部42aは、第1の縁部41aと対向し、下側基板10の搬送方向に対して前方に形成される。第3の縁部43aは、第1および第2の縁部41a,42aの一端側に、下側基板10の搬送方向に沿って形成される。第4の縁部44aは、第1および第2の縁部41a,42aの他端側に、下側基板10の搬送方向に沿って形成される。
【0050】
図3Cに示すように、第1の縁部41aは、実線部41bおよび切れ目部41cを含む。個々の実線部41bは、両端の幅Hが中央の幅Wよりも広く、両端がシール部材40aの外側に向かって張り出る凹状の平面形状を有している。なお、実線部41bの両端の幅Hは2mm程度であり、中央の幅Wは1mm程度である。また、実線部41bの長さ(ないし切れ目部41cの間隔)Lは10mm程度であり、切れ目部41cの長さ(ないし実線部41bの間隔)Bは2mm程度である。
【0051】
図4Aおよび図4Bは、下側基板10表面のシール部材40aに囲まれた領域にED材料を含む電解液(電解質層)50を滴下する様子を示す断面図および平面図である。
【0052】
図4Aに示すように、引き続き下側基板10を長さ方向に搬送しながら、供給ヘッド(インクジェットヘッド,ディスペンサ等)106から、下側基板10上のシール部材40aに囲まれた領域に、電解液50を滴下する。電解液50は、銀を含有するED材料を含む。また、銅を含有するメディエータを含むことが好ましい。
【0053】
図4Bに示すように、電解液50は、下側基板10の搬送方向に対してより前方に、つまりシール部材40aの第2の縁部42aに近い領域に集中して滴下されることが好ましい。これは、後工程(図5)で下側基板10に上側基板20を貼り合わせた際に、下側基板10、上側基板10およびシール部材40a(シール枠部材40)により画定される空間に空気(気泡)が残留しにくくなるためである。
【0054】
なお、電解液50は、シール部材40aが形成されていない基板、つまり上側基板20に滴下されてもかまわない。この場合、電解液50は、上側基板20表面であって、後工程(図5)で下側基板10および上側基板20を貼り合わせた際に、シール部材40aの第2の縁部42aに近い領域に滴下されることが好ましい。
【0055】
図5A図5Cは、下側基板10と上側基板20とを貼り合せる様子を示す断面図および平面図である。
【0056】
図5Aに示すように、下側基板10および上側基板20を搬送しながら、シール部材40aおよび電解液50を挟み込むように、上側基板20を下側基板10に貼り合せる。その際、下側基板10および上側基板20は、ニップロール107により加圧されながら、搬送方向に対して前方から後方に向かって、つまりシール部材40aの第2の縁部42a側から第1の縁部41a側に向かって貼合される。
【0057】
その後、下側基板10側からシール部材40aに、紫外線照射装置108から出射される紫外線を照射して、シール部材40aを硬化させる(シール枠部材40)。なお、下側および上側基板10,20は、下側および上側電極12,22に電源2を接続する(図1A参照)ために、搬送方向に対して直交する方向に、相互にずらして貼合される。
【0058】
図5Bに示すように、下側基板10および上側基板20は、シール部材40aの第2の縁部42a側から第1の縁部41a側に向かって貼合される。このとき、シール部材40aは、下側基板10および上側基板20にかかる圧力により押し潰される。また、電解液50は、シール部材40aの第2の縁部42aから第1の縁部41aに向かって広げられる。
【0059】
下側基板10および上側基板20の貼合が、シール部材40aの第1の縁部41aにまで到達したとき、余剰な電解液50は、空気とともに、切れ目部41cから枠状のシール部材40a(シール枠部材40)の外側に押し出される。そして、実線部41bが下側基板10および上側基板20にかかる圧力によって押し潰されることにより、切れ目部41cが閉塞する。
【0060】
図5Cに示すように、シール枠部材40において、押し潰される前の切れ目部41cに対応する位置には、内側側面が外側に向かって窪む凹部41xが形成される。また、当該凹部41xに相対する外側側面は、外側に向かって膨らむように成形される。なお、シール枠部材40の外側には、余剰な電解液50が若干付着している場合がある。
【0061】
以上により、下側基板10、上側基板20および押し潰された後に紫外線が照射されたシール部材40a、つまりシール枠部材40により画定(包囲)される空間50aに、空気(気泡)を残すことなく、電解液50を封入することができる。また、下側および上側基板10,20の側端面に、別途シール部材(いわゆるエンドシール部材)を設ける必要がなく、1つの工程で空間50a内に電解液50を封入することができる。なお、空間50aに気泡が残留することをさらに抑制するために、下側基板10および上側基板20の貼合を、低圧環境下ないし真空環境下で実施してもかまわない。
【0062】
基板搬送方向に対して前方側および後方側の下側基板10および上側基板20を切断し、シール枠部材40の外側にはみ出した電解液50を洗浄・除去する。最後に、上側基板20からはみ出した下側電極12、および、下側基板10からはみ出した上側電極22、にそれぞれ電源2を接続する(図1A参照)。これにより、ED素子および電源を含む光学装置が完成する(図1A参照)。
【0063】
なお、実施例では、ロールトゥロール方式に基づく光学装置(特にED素子)の製造方法について説明したが、他の方式に基づいてED素子を製造してもかまわない。この場合、下側基板および上側基板を、可撓性を有さないプレート状の基板を用いてもよい。
【0064】
図6Aは、実施例による光学装置の変形例を示す断面図である。当該光学装置のED素子1aは、ED素子1の基本構造において、さらに、上側電極22表面に、導電性を有する粒子堆積層32が設けられている。
【0065】
粒子堆積層32は、たとえば、粒径100nm〜500nmのITO粒子などが、1.5μm程度の厚みで堆積する形態を有する。このため、表面が、微細な凹凸状を構成し、少なくとも下側電極12の表面よりも粗くなっている。なお、粒子堆積層32は、下側電極12表面に設けられていてもかまわない。
【0066】
図6Bは、電源2により、下側および上側電極12,22間に一定期間印加される電圧波形を示すグラフである。ED素子1aに接続する電源2は、ステップ電圧に加え、さらに直流電圧を出力することができる。
【0067】
電源2が下側電極12の電位に対して上側電極22に正の直流電位v3(2.5[V]程度で数秒間)を印加すると、下側電極12表面に銀薄膜が析出する。これにより、ED素子1aは鏡面状態を実現する。
【0068】
電源2が下側電極12の電位に対して上側電極22に負の直流電位v4(−2.5[V]程度で数秒間)を印加すると、上側電極22表面の粒子堆積層32に銀薄膜が析出する。数百nmオーダのITO粒子が堆積する粒子堆積層32に銀薄膜が析出すると、ED素子1aへの入射光が、当該銀薄膜により乱反射(ないしプラズモン吸収)される。この場合、ED素子1aは遮光状態を実現する。
【0069】
このように、ED素子に粒子堆積層を設けることにより、透明状態、鏡面状態および着色状態に加え、さらに遮光状態を実現することができる。
【0070】
図6Cは、実施例による光学装置の応用例を示す断面図である。実施例による光学装置(ED素子および電源)は、たとえば車両用灯具(ヘッドライトユニット)に応用することが可能である。
【0071】
図6Cに示すように、ヘッドライトユニット3は、たとえば、白色光を出射する光源61と、光源61を支持する支持部材62と、光源61を覆って配置されるカバー部材63と、カバー部材63の外側表面に貼付されるED素子1と、ED素子1を駆動する電源2と、を具備する。なお、これらのほかにも、光学レンズや反射板などを具備していてもかまわない。また、ED素子1を、その変形型であるED素子1aに代替してもかまわない。
【0072】
光源61には、たとえば、白熱ないし蛍光ランプや半導体発光素子(LED)などを用いることができる。支持部材62には、耐熱性に優れた部材を用いることが好ましいであろう。カバー部材63は、たとえばアクリル樹脂により構成され、配光レンズ(いわゆるアウターレンズ)として機能する。
【0073】
ED素子1は、カバー部材63の外側表面に貼付される。ED素子1は、その下側および上側基板がフレキシブル基板(フィルム状の基板)により構成されているため、カバー部材63の表面形状に適合して貼付することができる。なお、ED素子1は、カバー部材の内側表面に貼付されてもかまわない。
【0074】
電源2は、ED素子1(ないしED素子1a)の下側および上側電極間にステップ電圧ないし直流電圧を印加することができる。これにより、ED素子1(ないしED素子1a)の透明状態、鏡面状態および着色状態(ないし遮光状態)を制御することができる。なお、電源2は、光源61の電源として利用してもかまわない。
【0075】
ED素子1に所定のステップ電圧を印加することにより、ヘッドライトユニット3から着色光(赤色光ないし青色光)を出射させることができる。また、ヘッドライトユニット3が搭載される車両の色調・質感にあわせて、ED素子1の状態(透明・鏡面・着色・遮光状態)を変化させることにより、当該車両の外観品質を向上させることが可能であろう。
【0076】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0077】
1…エレクトロデポジション素子(ED素子)、2…電源、3…車両用灯具(ヘッドライトユニット)10…下側基板、11…下側ベース基板、12…下側電極、20…上側基板、21…上側ベース基板、22…上側電極、30…突起層、31…突起体(スペーサ)、32…粒子堆積層、40…シール枠部材、41〜44…第1〜第4の縁部、50…電解質層(電解液)、61…光源、62…支持部材、63…カバー部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6