【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2014年1月16日 「電子情報通信学会技報 Vol.113 No.400」第63〜69頁における公開 (刊行物等) 2014年1月24日 電子情報通信学会 2014年1月 SR研究会(ソフトウェア無線研究会)における公開
【文献】
井上祐樹、新井宏之,アレー素子位置の製作誤差と到来方向推定誤差の検討,電子情報通信学会 2002年 通信ソサイエティ大会 講演論文集1,日本,社団法人電子情報通信学会 通信ソサイエティ,2002年 8月23日,40頁
【文献】
武田茂樹,8章 アンテナの信号処理,電子情報通信学会「知識ベース」,日本,電子情報通信学会,2015年 5月14日,4群−2編−8章,8章,URL,http://www.ieice-hbkb.org/files/04/04gun_02hen_08.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記第1の到来波は、上記アンテナの前方にある構造物のエッジで回折されて上記アンテナに到達する回折波であり、上記第2の到来波は、上記アンテナの側方にある構造物の側面で反射されて上記アンテナに到達する反射波である、請求項2に記載のアンテナ性能評価装置。
上記第1の到来波は、上記受信点の前方にある構造物のエッジで回折されて上記受信点に到達する回折波であり、上記第2の到来波は、上記受信点の側方にある構造物の側面で反射されて上記受信点に到達する反射波である、請求項6に記載の到来波角度プロファイル推定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1に記載されたような空間ダイバーシチ方式のダイバーシチアンテナでは、ダイバーシチアンテナを構成する各アンテナの配置(各アンテナ間の距離やアンテナの配置方向等)に応じて、得られるダイバーシチ効果が変化する。また、同一のアンテナ配置を有するダイバーシチアンテナであっても、車車間通信における通信環境の変化(例えば、アンテナの位置に到来する電波の到来方向の変化)に応じて、得られるダイバーシチ効果も変化し、これにより通信品質が変化する。
従って、通信環境の変化にかかわらず必要な通信品質を確保することができるダイバーシチアンテナを得るためには、アンテナの配置や通信環境に応じて変化するダイバーシチ効果を定量的に評価し、その評価結果に基づき、通信環境の変化や車両の方向の変化に対して安定してダイバーシチ効果を得ることのできるアンテナ配置を設計する必要がある。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているような従来のダイバーシチアンテナの設計においてダイバーシチ効果を定量的に評価する場合、ダイバーシチアンテナを構成する各アンテナの受信点における受信電力を、実験的にあるいはシミュレーション(例えばレイトレース等)により取得しなければならない。従って、想定すべき様々な通信環境について、評価対象としたアンテナ配置毎にダイバーシチ効果を定量的に評価するためには、膨大な実験コストや計算コストが必要となり、現実的には困難である。
【0007】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、計算負荷の増大を抑制しつつ、ダイバーシチアンテナにおけるダイバーシチ効果を定量的に評価することができるアンテナ性能評価装置を提供すること、及び、アンテナの性能を定量的に評価する場合に使用される、車車間通信環境における受信点の到来波角度プロファイルを推定する到来波角度プロファイル推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために本発明によれば、アンテナ性能評価装置は、車両に搭載された空間ダイバーシチ方式のアンテナの受信性能を定量的に評価するアンテナ性能評価装置であって、アンテナの位置における到来波角度プロファイルを取得する到来波角度プロファイル取得手段と、到来波角度プロファイルに基づき、アンテナの設置領域における受信電力分布を算出する受信電力分布算出手段と、受信電力分布と、設置領域内に設置されたアンテナの配置とに基づき、そのアンテナのダイバーシチ効果を算出するダイバーシチ効果算出手段とを有し、受信電力分布算出手段は、アンテナの位置における到来波角度をΦ、到来波の波長をλ、設置領域内の座標(x,y)における複素振幅をH(x,y)、設置領域内の基準位置における複素振幅をA
0、アンテナの位置における到来波角度プロファイルをS(Φ)とした場合、以下の式により受信電力分布を算出することを特徴とする。
【数1】
このように構成された本発明によれば、受信電力分布算出手段は、アンテナの位置における到来波角度プロファイルに基づき、上記式により受信電力分布を算出し、ダイバーシチ効果算出手段は、受信電力分布とアンテナの配置とに基づき、そのアンテナのダイバーシチ効果を算出するので、レイトレースシミュレーションや実験を行わなくても、それらと同等の精度で車車間通信環境におけるアンテナ設置領域の受信電力分布を導出することができ、その受信電力分布に基づいてアンテナのダイバーシチ効果を定量的に評価することができる。従って、実験コストや計算コストの増大を抑制しつつ、ダイバーシチアンテナにおけるダイバーシチ効果を定量的に評価することができる。
【0009】
また、本発明において、好ましくは、到来波角度プロファイル取得手段は、アンテナの前方にある構造物のエッジで回折され、又は、アンテナの側方にある構造物の側面で反射されてアンテナに到達する第1の到来波と、アンテナの前方にある構造物のエッジで回折され、又は、アンテナの側方にある構造物の側面で反射されて、第1の到来波とは異なる経路でアンテナに到達する第2の到来波との、それぞれのピーク電力、角度拡がり、及び中心角度をパラメータとして取得するパラメータ取得手段と、第1の到来波のピーク電力をA
1、第2の到来波のピーク電力をA
2、第1の到来波のピークの角度拡がりをσ
1、第2の到来波のピークの角度拡がりをσ
2、第1の到来波の中心角度を
第2の到来波の中心角度を
とした場合、アンテナの位置における到来波角度プロファイルS(Φ)を以下の式により算出する到来波角度プロファイル算出手段と、を備える。
【数2】
【数3】
このように構成された本発明によれば、各パラメータを、車車間通信が行われる市街地交差点の形状や、交差点周辺において通信に影響を及ぼし得る各種要素(建造物、車両、歩行者等)等の周辺環境、車車間通信を行う送信車両及び受信車両の位置等に基づいて適宜決定することにより、実験やシミュレーションを実施しなくても、送信車両から送信された電波が反射や回折により複数の経路を経由して異なる角度から受信車両に到達する車車間通信環境に特有の到来波角度プロファイルを精度よく推定することができ、ダイバーシチ効果を高精度に評価することができる。
【0010】
また、本発明において、好ましくは、第1の到来波は、アンテナの前方にある構造物のエッジで回折されてアンテナに到達する回折波であり、第2の到来波は、アンテナの側方にある構造物の側面で反射されてアンテナに到達する反射波である。
このように構成された本発明によれば、実験やシミュレーションを実施しなくても、アンテナの前方にある構造物のエッジで回折されてアンテナに到達する回折波によるピークと、アンテナの側方にある構造物の側面で反射されてアンテナに到達する反射波によるピークとの2つのピークを持つ、車車間通信環境(例えば市街地交差点)に特有の到来波角度プロファイルを精度よく推定することができ、ダイバーシチ効果を高精度に評価することができる。
【0011】
また、本発明において、好ましくは、パラメータ取得手段は、アンテナの位置を原点とするグローバル座標系により表されたパラメータを取得し、到来波角度プロファイル算出手段は、グローバル座標系により表されたパラメータに基づいて算出した到来波角度プロファイルを、アンテナの配置方向に応じて座標軸の方向が決定されたアンテナ座標系による到来波角度プロファイルに変換し、受信電力分布算出手段は、アンテナ座標系による到来波角度プロファイルに基づき、アンテナの設置領域における受信電力分布を算出する。
このように構成された本発明によれば、任意の方向で配置されたダイバーシチアンテナにおける受信電力分布を、アンテナの設置領域における平均受信電力や到来波角度プロファイルの形状が同一の特性に従う下で導出することができ、これにより、任意の方向で配置されたダイバーシチアンテナのダイバーシチ効果を定量的に比較評価することができる。
【0012】
また、本発明において、好ましくは、ダイバーシチ効果算出手段は、アンテナの位置における信号対雑音比をγ、アンテナの位置における平均信号対雑音比を
通信の伝送方式により決定されるホワイトガウスノイズ環境下での信号対雑音比と平均パケット誤り率の固有の関係を表す関数をPER(γ)、確率密度関数で表した信号対雑音比の空間分布を
とした場合、アンテナのダイバーシチ効果として、アンテナの位置における平均パケット誤り率
を以下の式により算出する。
【数4】
このように構成された本発明によれば、車車間通信に要求されるパケット誤り率を達成するために必要となる平均信号対雑音比を、アンテナのダイバーシチ効果の定量的な指標として得ることができる。
【0013】
また、本発明の第2発明による到来波角度プロファイル推定装置は、車車間通信環境における受信点の到来波角度プロファイルを推定する到来波角度プロファイル推定装置であって、受信点の前方にある構造物のエッジで回折されて受信点に到達する回折波と、受信点の側方にある構造物の側面で反射されて受信点に到達する反射波との、それぞれのピーク電力、角度拡がり、及び中心角度をパラメータとして取得するパラメータ取得手段と、回折波のピーク電力をA
1、反射波のピーク電力をA
2、回折波のピークの角度拡がりをσ
1、反射波のピークの角度拡がりをσ
2、回折波の中心角度を
反射波の中心角度を
とした場合、受信点における到来波角度プロファイルを以下の式により算出する到来波角度プロファイル算出手段と、を有することを特徴とする。
【数5】
【数6】
【0014】
また、本発明の第2発明において、好ましくは、第1の到来波は、受信点の前方にある構造物のエッジで回折されて受信点に到達する回折波であり、第2の到来波は、受信点の側方にある構造物の側面で反射されて受信点に到達する反射波である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によるアンテナ性能評価装置によれば、計算負荷の増大を抑制しつつ、ダイバーシチアンテナにおけるダイバーシチ効果を定量的に評価することができる。また、本発明の第2発明による到来波角度プロファイル推定装置によれば、アンテナの性能を定量的に評価する場合に使用される、車車間通信環境における受信点の到来波角度プロファイルを精度良く推定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるアンテナ性能評価装置、及び到来波角度プロファイル推定装置を説明する。
まず、
図1乃至
図5により、受信性能の評価対象となるアンテナが使用される車車間通信の概要を説明する。
図1は、車車間通信が行われる環境(車車間通信環境)の一例として市街地交差点を示した概念図であり、
図2は、市街地交差点で車車間通信を行った場合の電波の伝搬経路を示す斜視図であり、
図3は、市街地交差点における車車間通信のレイトレースシミュレーション結果に基づき導出した、受信点における到来波電力の角度分布特性を示す線図であり、
図4は、本発明者らによりモデル化された車車間通信環境における到来波角度プロファイルを示す線図であり、
図5は、モデル化した到来波角度プロファイルとレイトレースシミュレーション結果に基づく到来波角度プロファイルとを比較した線図である。
【0018】
車車間通信とは、複数の車両間で行われる無線通信をいい、例えば
図1に示すような見通しの悪い交差点において、交差点に進入する車両同士がお互いの位置や車速等の車両情報を伝達するために使用される。これにより、衝突の可能性の判定や、衝突回避のための各種制御(例えば警報出力や自動ブレーキ等)が可能になる。
この車車間通信では、交差点の形状や、交差点周辺において通信に影響を及ぼし得る各種要素(建造物、車両、歩行者等)等の周辺環境、あるいは、車車間通信を行う車両の移動により、通信環境が変化し、これに伴い、通信品質(具体的には、例えば、他車両から送信されたパケットを自車両が受信できる確率)が時々刻々と変化するが、どのような通信環境においても、車車間通信を利用するサービスに必要な通信品質及び通信エリアを達成することが求められる。従って、車車間通信を行うために車両に搭載するアンテナには、高い受信性能が要求される。
【0019】
アンテナの受信性能を向上させる技術として、空間ダイバーシチ方式のアンテナを用いることが挙げられる。例えば、最大比合成方式の空間ダイバーシチアンテナでは、所定の間隔を空けて複数のアンテナを配置し、これらのアンテナにより受信された信号の位相を合わせて合成することにより、各アンテナで受信する電波強度の相関を小さくし、フェージングによる受信性能の低下を防止する。この空間ダイバーシチ方式のアンテナにおいては、各アンテナの受信強度の相関が小さいほど空間ダイバーシチの効果が大きくなるが、各アンテナの受信強度の相関は、アンテナの配置間隔や、アンテナに対する電波の到来方向に応じて変化する。従って、通信環境の変化にかかわらず必要な通信品質を確保することができるアンテナを得るためには、アンテナの配置や通信環境に応じて変化する空間ダイバーシチの効果を定量的に評価し、その評価結果に基づき、通信環境の変化や車両の方向の変化に対して安定して空間ダイバーシチの効果を得ることのできるアンテナ配置を設計する必要がある。
【0020】
ここで、本発明者らは、一般的な市街地交差点における道路形状や周辺構造物をモデル化し、そのモデルかした市街地交差点で車車間通信を行った場合の電波の伝搬経路をレイトレースシミュレーションにより導出した。その結果、
図2に示すように、送信車両Txから送信された電波は、送信車両Txや受信車両Rxの側方にある構造物の側面により反射されることにより、あるいは、交差点付近の構造物のエッジで回折されることにより、複数の経路を経由して異なる角度から受信車両Rxに到達することが分かった。
【0021】
このレイトレースシミュレーションにより、受信点周辺における到来波複素振幅の空間分布を得ることができ、この到来波複素振幅の空間分布に基づき、
図3に示すように、受信点における到来波電力の角度分布特性(到来波角度プロファイル)を求めることができる。この
図3において、横軸は、グローバル座標系における到来波角度を表し、縦軸は、到来波角度が0から2πradの範囲で積分したときの値が1となるように正規化した受信電力を表している。ここで、本実施形態におけるグローバル座標系とは、受信点の位置を原点とし、受信点から交差点に向かう方向の到来波角度(即ち受信車両Rxの進行方向後方から受信車両Rxに到来する角度)を0radとし、角度の符号を反時計回りに正とした座標系をいうものとする。
図3に示すように、モデル化した市街地交差点で車車間通信を行った場合の受信点における到来波角度プロファイルは、約2.8radと約4.2radを中心とする2つのピークを持っている。
図2に示した電波の伝搬経路を考慮すると、到来波角度プロファイルにおける2つのピークの内、約2.8radのピークは回折波に起因し、約4.2radのピークは反射波に起因するものであると考えることができる。このような到来波角度プロファイルは、従来知られている到来波角度プロファイル、例えばセルラー方式の陸上移動通信における基地局側受信時の到来波角度プロファイル(ラプラス分布として扱われる)又は移動局側の到来波角度プロファイル(一様分布として扱われる)とは大きく異なるものであり、市街地交差点に代表される車車間通信環境に特有のものであると考えられる。
【0022】
そこで本発明者らは、市街地交差点で車車間通信を行った場合の受信点における到来波角度プロファイルにおいて、回折波(第1の到来波)に起因する角度プロファイルと反射波(第2の到来波)に起因する角度プロファイルのそれぞれをラプラス分布として表し、それらの2つのラプラス分布を重ね合わせることで、
図4に示すように、車車間通信環境に特有の到来波角度プロファイルをモデル化することを想到した。
このように2つのラプラス分布の和としてモデル化した車車間通信環境における到来波角度プロファイルS(Φ)は、受信車両Rxのアンテナに到達する回折波及び反射波のそれぞれの受信電力ピークの中心角度、ピークの拡がり、及びピーク電力をパラメータとして、以下の式(1)及び(2)により算出することができる。
【数7】
【数8】
ここで、Φは、受信車両Rxのアンテナの位置(受信点)における到来波角度である。また、
図4に示すように、A
1は回折波のピーク電力であり、A
2は反射波のピーク電力であり、σ
1は回折波のピークの角度拡がりであり、σ
2は反射波のピークの角度拡がりであり、
は回折波の中心角度であり、
は反射波の中心角度である。
上記式(1)、(2)における各パラメータを、車車間通信が行われる市街地交差点の形状や、交差点周辺において通信に影響を及ぼし得る各種要素(建造物、車両、歩行者等)等の周辺環境、車車間通信を行う送信車両Tx及び受信車両Rxの位置等に基づいて適宜決定することにより、実験やシミュレーションを実施しなくても、車車間通信環境に特有の到来波角度プロファイルを精度よく推定することができる。
【0023】
例えば、
図2に示した市街地交差点のモデルについて、従来知られているラプラス分布や一様分布による到来波角度プロファイルを導出した場合、
図5に示すように、レイトレースシミュレーション結果に基づく到来波角度プロファイルに一致させることができない(
図5においては、ラプラス分布、一様分布、及びレイトレースシミュレーション結果に基づく到来波角度プロファイルを、それぞれ、破線、一点鎖線、及び点線により示す)。なお、この
図5において、横軸は、グローバル座標系における到来波角度を表し、縦軸は、到来波角度が0から2πの区間で定積分したときの値が1となるように正規化した受信電力を表している。
【0024】
一方、本実施形態においては、上記式(1)、(2)における各パラメータを、A
1=0.39、A
2=1.74、σ
1=0.65、σ
2=0.18、
とすることにより、
図5に示すように、モデル化した到来波角度プロファイル(
図5において実線により示す)を、レイトレースシミュレーション結果に基づく到来波角度プロファイルに良く一致させることができる。
そこで、本発明者らは、上述のようにモデル化した到来波角度プロファイルを用いることによって車車間通信環境における空間ダイバーシチの効果を定量的に評価することができるアンテナ性能評価装置を想到した。
【0025】
次に、
図6により、本発明の実施形態によるアンテナ性能評価装置の構成を説明する。
図6は、本発明の実施形態によるアンテナ性能評価装置の電気的構成を示すブロック図である。
本実施形態のアンテナ性能評価装置1は、車両に搭載された空間ダイバーシチ方式のアンテナの受信性能を定量的に評価する。
図6に示すように、アンテナ性能評価装置1は、車車間通信環境においてアンテナに到達する回折波及び反射波のそれぞれの受信電力ピークの中心角度、ピークの拡がり、及びピーク電力をパラメータとして取得するパラメータ取得部2と、パラメータ取得部2により取得された各パラメータに基づき、アンテナの位置における到来波角度プロファイルを算出する到来波プロファイル算出部4と、到来波プロファイル算出部4により算出された到来波角度プロファイルに基づき、アンテナの設置領域における受信電力分布を算出する受信電力分布算出部6と、受信電力分布算出部6により算出された受信電力分布及びアンテナの設置領域内に設置されたアンテナの配置に基づき、アンテナの空間ダイバーシチの効果を算出するダイバーシチ効果算出部8とを有する。
これらの各構成要素は、CPU、当該CPU上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを格納するためのROMやRAMの如き内部メモリを備えるコンピュータにより構成される。
【0026】
次に、
図7乃至
図12により、本発明の実施形態によるアンテナ性能評価装置1が行うアンテナ性能評価処理について説明する。
図7は、アンテナ性能評価処理のフローチャートであり、
図8は、本発明の実施形態によるダイバーシチ効果算出部8が算出したダイバーシチアンテナの空間相関特性を示す線図であり、
図9は、本発明の実施形態による受信電力分布算出部6が受信電力分布を算出するアンテナ設置領域を示した平面図であり、
図10は、本発明の実施形態による受信電力分布算出部6が算出したアンテナ設置領域の受信電力分布を示すコンター図であり、
図11は、本発明の実施形態によるダイバーシチ効果算出部8が算出したダイバーシチアンテナのPER−SNR特性を示す線図であり、
図12は、本発明の実施形態によるダイバーシチ効果算出部8が算出した、要求PERを達成するために必要となるSNRとアンテナ配置間隔との関係を示す線図である。
【0027】
図7に示すように、アンテナ性能評価処理が開始されると、ステップS1において、パラメータ取得部2は、ダイバーシチアンテナを構成する複数のアンテナの配置、具体的には各アンテナ間の距離、アンテナの配置方向、アンテナの設置高さ等を取得する。このアンテナの配置は、例えば、入力装置を介してユーザにより入力される。なお、以下の説明では、ダイバーシチアンテナが2本のアンテナを備えている場合を例示するが、3本以上のアンテナを備えていてもよい。
【0028】
次に、ステップS2において、パラメータ取得部2は、車車間通信環境において受信車両のアンテナに到達する到来波のパラメータを取得する。到来波のパラメータは、車車間通信環境において受信車両のアンテナに到達する回折波(第1の到来波)及び反射波(第2の到来波)のそれぞれの受信電力ピークの中心角度、ピークの拡がり、及びピーク電力を含み、例えば、車車間通信が行われる市街地交差点の形状や、交差点周辺において通信に影響を及ぼし得る各種要素(建造物、車両、歩行者等)等の周辺環境、車車間通信を行う送信車両及び受信車両の位置等に基づいて決定される。なお、回折波及び反射波のそれぞれの受信電力ピークの中心角度は、グローバル座標系における角度として与えられる。これらの到来波のパラメータは、例えば、入力装置を介してユーザにより入力される。
【0029】
次に、ステップS3において、到来波プロファイル算出部4は、ステップS2で取得したパラメータに基づき、アンテナの位置における到来波角度プロファイルS(Φ)を上述の式(1)及び(2)により算出する。ステップS2で取得した到来波のパラメータは、グローバル座標系におけるパラメータであるので、このステップS3では、グローバル座標系における到来波角度プロファイルS
G(Φ)が算出される。
【0030】
次に、ステップS4に進み、到来波プロファイル算出部4は、ステップS3で算出されたグローバル座標系における到来波角度プロファイルS
G(Φ)を、ステップS1で取得したアンテナの配置に基づき、このアンテナの配置方向に応じて座標軸の方向が決定された座標系(以下「アンテナ座標系」という)における到来波角度プロファイルS
A(Φ)に変換する。このアンテナ座標系は、例えば、ダイバーシチアンテナを構成する2本のアンテナを結ぶ直線に沿って一方のアンテナ側から到来する電波の到来波角度を0radとし、角度の符号を反時計回りに正とした座標系である。
具体的には、到来波プロファイル算出部4は、ステップS1で取得したアンテナの配置に基づき、グローバル座標系の座標軸とアンテナ座標系の座標軸との成す角度θを特定し、グローバル座標系における到来波角度プロファイルS
G(Φ)を、角度軸方向に沿って−θだけ平行移動させることにより、任意のアンテナ座標系における到来波角度プロファイルS
A(Φ)を算出することができる。
【0031】
次に、ステップS5において、ダイバーシチ効果算出部8は、ステップS1で取得したアンテナの配置と、ステップS4で算出したアンテナ座標系における到来波角度プロファイルS
A(Φ)に基づき、ダイバーシチアンテナを構成する2本のアンテナで受信する電波強度の相関係数ρと、アンテナの間隔Δxとの関係(空間相関特性ρ(Δx))を算出する。具体的には、ダイバーシチ効果算出部8は、空間相関特性ρ(Δx)を以下の式(3)により算出する。
【数9】
ここで、λは車車間通信に使用される電波の波長である。
【0032】
例えば、ダイバーシチアンテナを構成する2本のアンテナが受信車両の車幅方向に沿って配置されている場合(車幅方向配置)と、受信車両の前後方向に沿って配置されている場合(車両前後方向配置)のそれぞれについて、ステップS4で算出したアンテナ座標系における到来波角度プロファイルS
A(Φ)に基づき、ステップS5において空間相関特性を算出した結果を、車幅方向配置について
図8(a)に示し、車両前後方向配置について
図8(b)に示す。
これらの
図8(a)、(b)に示すように、いずれのアンテナ配置の空間相関特性(
図8において実線で示す)も、レイトレースシミュレーション結果に基づく空間相関特性(
図8において点線で示す)と良く一致している。即ち、本実施形態では、2つのラプラス分布の和としてモデル化した到来波角度プロファイルを用いることにより、レイトレースシミュレーションや実験を行った場合と同等の精度で、車車間通信環境における任意の配置のダイバーシチアンテナの空間相関特性を導出することができる。
なお、到来波角度プロファイルをラプラス分布や一様分布として扱った場合において、既知の方法により空間相関特性を算出した場合、
図8に示すように、レイトレースシミュレーション結果に基づく空間相関特性に一致しない(
図8においては、ラプラス分布及び一様分布に基づく空間相関特性を、それぞれ、破線及び一点鎖線により示す)。
【0033】
次に、ステップS6に進み、受信電力分布算出部6は、ステップS4で算出したアンテナ座標系における到来波角度プロファイルS
A(Φ)に基づき、アンテナの設置領域における受信電力分布を算出する。アンテナ配置に応じたダイバーシチ効果を定量的に評価するためには、平均受信電力が一定とみなせるアンテナ設置領域を設定する必要があるため、交差点角建物による回折波の自由空間減衰量が1dB以内となる範囲として、
図9に示すように、アンテナ座標系における縦軸方向及び横軸方向にそれぞれ33分割された1.8m四方の領域を想定し、受信電力分布算出部6は、この設置領域内の各点における受信電力を以下の式(4)により算出する。
【数10】
ここで、H(x,y)は座標(x,y)における複素振幅であり、A
0は基準位置の複素振幅であり、A(Φ)は到来波角度プロファイルを振幅の次元で表現したものであり、ステップS4で算出したアンテナ座標系における到来波角度プロファイルS
A(Φ)の平方根として求められる。
【0034】
例えば、
図2に示した市街地交差点のモデルにおいて
図9に示したアンテナ設置領域の受信電力分布を算出する場合、
図10に示すように、受信電力分布をステップS4で算出したアンテナ座標系における到来波角度プロファイルS
A(Φ)に基づいて上記の式(4)により算出した結果(
図10(b))は、受信電力分布をレイトレースシミュレーションにより取得した結果(
図10(a))と良く一致している。即ち、本実施形態では、2つのラプラス分布の和としてモデル化した到来波角度プロファイルに基づき、上記式(4)によりアンテナ設置領域の受信電力分布を算出することにより、レイトレースシミュレーションや実験を行った場合と同等の精度で車車間通信環境におけるアンテナ設置領域の受信電力分布を導出することができる。
なお、受信電力分布を、従来知られているラプラス分布や一様分布による到来波角度プロファイルに基づき上記の式(4)により算出した結果(
図10(c)、(d))は、受信電力分布をレイトレースシミュレーションにより取得した結果と一致しない
【0035】
次に、ステップS7に進み、ダイバーシチ効果算出部8は、ステップS6で算出した受信電力分布と、ステップS1で取得したアンテナの配置とに基づき、アンテナのダイバーシチ効果を算出する。
このステップS7において、ダイバーシチ効果算出部8は、受信車両のアンテナ位置における平均SNR(Signal to Noise Ratio)の関数として平均パケット誤り率(PER:Packet Error Ratio)を算出する(PER−SNR特性)。このPER−SNR特性により、車車間通信に要求されるPER(例えば1%以下)を達成するために必要となるSNRを、アンテナのダイバーシチ効果の定量的な指標として得ることができる。
【0036】
具体的には、ダイバーシチ効果算出部8は、PER−SNR特性を以下の式(5)により算出する。
【数11】
ここで
右辺のPER(γ)はホワイトガウスノイズ環境下でのSNRとPERの固有の関係を表す関数であり、変調方式、パケット構成、誤り訂正方式等の通信機の伝送方式(本実施形態では、変調方式:16QAM、パケット長:100Byte、誤り訂正方式:畳み込み符号化(k=7,R=12))により決定される。また、
は、SNRの空間分布を確率密度関数で表したものであり、ステップS6で算出した受信電力分布とステップS1で取得したアンテナの配置に基づいて算出される。例えば、ダイバーシチ効果算出部8は、ステップS6において受信電力分布を算出したアンテナ設置領域内の各点の中から、アンテナ座標系の横軸方向においてステップS1で取得したアンテナ間の距離だけ離れた2点を、ダイバーシチアンテナを構成する2本のアンテナとして選択する。そして、これらの2点のうち受信電力が高い方を、ダイバーシチアンテナの受信電力として決定する(選択合成方式)。同様に、アンテナ設置領域の中から選択可能な2点の組み合わせの全てについて、選択合成方式によるダイバーシチアンテナの受信電力を求め、それらの受信電力群からSNR及び平均SNRを算出し、
を算出する。あるいは、アンテナ設置領域の中から選択可能な2点の組み合わせの全てについて、最大比合成方式によるダイバーシチアンテナの受信電力を求め、それらの受信電力群からSNR及び平均SNRを算出し、
を算出してもよい。
【0037】
このステップS7により、
図11に示すように、アンテナのダイバーシチ効果の定量的な指標としてPER−SNR特性を算出することができる。この
図11では、ダイバーシチアンテナを構成する2本のアンテナ間の距離が所定距離であり、これらのアンテナのアンテナ座標系の座標軸とグローバル座標系の座標軸との成す角度θがπ/2rad(パターンA)、πrad(パターンB)、2π/3rad(パターンC)、5π/6rad(パターンD)、π/6rad(パターンE)、及び、π/3rad(パターンF)の場合におけるそれぞれのPER−SNR特性と、ダイバーシチアンテナではない単一アンテナにおけるPER−SNR特性を重ねて示している。
図11における横軸は平均SNRを示し、縦軸は平均PERを示している。
【0038】
図11に示したPER−SNR特性によれば、パターンA、C、Fのように、ダイバーシチアンテナを構成する2本のアンテナを、車幅方向を中心に±30°の範囲内に配置すると、要求されるPERを達成するために必要となるSNRを小さくすることができ、例えば要求PERが1%の場合における通信システムマージンを、ワーストケースであるパターンBの配置と比較して3dB、単一アンテナと比較して8dB大きく確保できることが分かる。
【0039】
さらに、ステップS7により、
図12に示すように、ダイバーシチアンテナを構成する2本のアンテナの配置方向を上記パターンA〜Fとし、各配置方向においてアンテナ配置間隔を0から1.5λまで変化させた場合において、PER=1%を達成するために必要となるSNRを求めることができる。この
図12によれば、パターンA〜Fの各配置方向において、アンテナ配置間隔を0.5λ以上にすると、要求されるPERを達成するために必要となるSNRを小さくできることが分かる。
ステップS7の後、アンテナ性能評価装置1はアンテナ性能評価処理を終了する。
【0040】
次に、本発明の実施形態のさらなる変形例を説明する。
上述した実施形態では、パラメータ取得部2が、アンテナの前方にある構造物のエッジで回折されてアンテナに到達する回折波と、アンテナの側方にある構造物の側面で反射されてアンテナに到達する反射波との、それぞれのピーク電力、角度拡がり、及び中心角度をパラメータとして取得すると説明したが、パラメータ取得部2は、別の経路を経由して異なる角度からアンテナに到達する2つの回折波のそれぞれのピーク電力、角度拡がり、及び中心角度をパラメータとして取得してもよく、あるいは、別の経路を経由して異なる角度からアンテナに到達する2つの反射波のそれぞれのピーク電力、角度拡がり、及び中心角度をパラメータとして取得してもよい。これらの何れの場合においても、到来波角度プロファイル算出部は、取得されたパラメータを用いて、上記式(1)及び(2)によりアンテナの位置における到来波角度プロファイルを算出することができる。
【0041】
次に、上述した本発明の実施形態及び本発明の実施形態の変形例によるアンテナ性能評価装置1、及び到来波角度プロファイル推定装置の作用効果を説明する。
【0042】
まず、受信電力分布算出部6は、アンテナの位置における到来波角度プロファイルに基づき、上記式(4)により受信電力分布を算出し、ダイバーシチ効果算出部8は、受信電力分布とアンテナの配置とに基づき、そのアンテナのダイバーシチ効果を算出するので、レイトレースシミュレーションや実験を行った場合と同等の精度で車車間通信環境におけるアンテナ設置領域の受信電力分布を導出することができ、その受信電力分布に基づいてアンテナのダイバーシチ効果を定量的に評価することができる。従って、実験コストや計算コストの増大を抑制しつつ、ダイバーシチアンテナにおけるダイバーシチ効果を定量的に評価することができる。
【0043】
特に、パラメータ取得部2は、アンテナの前方にある構造物のエッジで回折され、又は、アンテナの側方にある構造物の側面で反射されてアンテナに到達する第1の到来波及び第2の到来波の、それぞれのピーク電力、角度拡がり、及び中心角度をパラメータとして取得し、到来波角度プロファイル算出部は、これらのパラメータを用いて、上記式(1)及び(2)によりアンテナの位置における到来波角度プロファイルを算出するので、各パラメータを、車車間通信が行われる市街地交差点の形状や、交差点周辺において通信に影響を及ぼし得る各種要素(建造物、車両、歩行者等)等の周辺環境、車車間通信を行う送信車両及び受信車両の位置等に基づいて適宜決定することにより、実験やシミュレーションを実施しなくても、送信車両から送信された電波が反射や回折により複数の経路を経由して異なる角度から受信車両に到達する車車間通信環境に特有の到来波角度プロファイルを精度よく推定することができ、ダイバーシチ効果を高精度に評価することができる。
【0044】
特に、パラメータ取得部2は、アンテナの前方にある構造物のエッジで回折されてアンテナに到達する回折波と、アンテナの側方にある構造物の側面で反射されてアンテナに到達する反射波との、それぞれのピーク電力、角度拡がり、及び中心角度をパラメータとして取得するので、アンテナの前方にある構造物のエッジで回折されてアンテナに到達する回折波によるピークと、アンテナの側方にある構造物の側面で反射されてアンテナに到達する反射波によるピークとの2つのピークを持つ、市街地交差点に代表される車車間通信環境に特有の到来波角度プロファイルを精度よく推定することができる。
【0045】
また、パラメータ取得部2はグローバル座標系により表されたパラメータを取得し、到来波角度プロファイル算出部は、グローバル座標系により表された到来波角度プロファイルを、アンテナ座標系による到来波角度プロファイルに変換し、受信電力分布算出部6は、アンテナ座標系による到来波角度プロファイルに基づき、アンテナの設置領域における受信電力分布を算出するので、任意の方向で配置されたダイバーシチアンテナにおける受信電力分布を、アンテナの設置領域における平均受信電力や到来波角度プロファイルの形状が同一の特性に従う下で導出することができ、これにより、任意の方向で配置されたダイバーシチアンテナのダイバーシチ効果を定量的に比較評価することができる。
【0046】
また、ダイバーシチ効果算出部8は、アンテナのダイバーシチ効果として、アンテナの位置における平均パケット誤り率
を上記式(5)により算出するので、車車間通信に要求されるPERを達成するために必要となるSNRを、アンテナのダイバーシチ効果の定量的な指標として得ることができる。