特許第6358617号(P6358617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358617
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】ハニカム構造体
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/00 20060101AFI20180709BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20180709BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20180709BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20180709BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   C04B37/00 Z
   C04B41/87 M
   C04B38/00 303Z
   B01J35/04 301J
   B01J35/04ZAB
   B01J35/04 301E
   B01J35/04 301P
   B01D53/94
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-201069(P2014-201069)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-69234(P2016-69234A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】高橋 道夫
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−126379(JP,A)
【文献】 特開2010−037171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00 − 37/04
C04B 38/00
C04B 41/87
B01J 35/04
B01D 39/20
B01D 53/94
F01N 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のハニカムセグメントが接合材層を介して互いの接合面で一体的に接合されたハニカムセグメント接合体と、前記ハニカムセグメント接合体の外周面を被覆する外周コート層とを備え、流体の流路となる複数のセルが軸方向に互いに並行するように配設された構造を有し、
前記ハニカムセグメントは前記接合面の少なくとも1面に、前記セルが貫通する第一端面側から第二端面側までの前記ハニカムセグメントの全長に対し、全長方向において90%以上連続して備えられている、少なくともつの線状の凹部を有し、前記ハニカムセグメントは、前記凹部を備えた外壁の前記軸方向に直交する断面形状が長方形であり、前記凹部として、前記外壁の前記接合面側に半円形、アーチ形、多角形、角丸多角形、ウェーブ形のうちの少なくとも2種類の形状の凹部を有するハニカム構造体。
【請求項2】
前記ハニカムセグメントの前記接合面に備えられた前記凹部が、前記セルが貫通する第一端面側から第二端面側に向かって、軸方向に並行するように配設されている請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記ハニカムセグメントの前記接合面に配設された前記凹部は、前記ハニカムセグメントの軸方向に直交する断面の隣り合った角を結んだ直線を基準として、凹部とされており、その凹部の深さは前記基準から10μm以上であり、且つ前記凹部の深さは前記ハニカムセグメントの外壁厚さの80%以下である請求項1又は2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記ハニカムセグメントの前記接合面に備えられた前記凹部は、前記軸方向に直交する方向における長さである幅が100μm以上10mm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
前記ハニカムセグメントの気孔率が30〜80%である請求項1〜のいずれか1項に記載のハニカム構造体。
【請求項6】
前記ハニカムセグメントの平均細孔径が5〜50μmである請求項1〜のいずれか1項に記載のハニカム構造体。
【請求項7】
前記ハニカムセグメントの前記第一端面の開口率が、前記第二端面の開口率よりも大きい請求項1〜のいずれか1項に記載のハニカム構造体。
【請求項8】
前記ハニカムセグメントの隔壁に触媒成分が担持された請求項1〜のいずれか1項に記載のハニカム構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジン、建設機械用エンジン、産業機械用エンジン等の内燃機関、ボイラー、化学反応機器、及び燃料電池用改質器等の触媒用担体、又は、ディーゼルエンジン等からの排ガスに含まれている粒子物質(パティキュレートマター(PM))を捕捉して除去するための、ディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)等の排ガス用の捕集フィルターとして、ハニカム構造体が広く使用されている。
【0003】
このように使用されるハニカム構造体は、排ガスの急激な温度変化や、局所的な発熱によってハニカム構造体内の温度分布が不均一となり、ハニカム構造体にクラックが生じる等の問題があった。特に、DPFとして使用する場合には、溜まったカーボン粒子を燃焼させて除去し、再生することが必要である。この際に、局所的な高温化がおこり、再生温度の不均一化による再生効率の低下、及び大きな熱応力によるクラックが発生しやすいという問題があった。
【0004】
こうした問題に対し、ハニカム構造体を複数のハニカムセグメントから構成し、各セグメント間を弾性素材からなる接合材で接合一体化した構造にすることにより、ハニカム構造体に作用する熱応力を分散、緩和する方法が提案されている。
【0005】
ところで、このように複数のハニカムセグメントを接合することによって、ハニカム構造体を構成する場合には、ハニカムセグメントと接合材との間の接合強度が重要である。
【0006】
接合強度は、ハニカムセグメントの外壁表面の凹凸に、接合材に含まれる無機粒子が食い込むことにより生ずる効果(アンカー効果)によって発現すると考えられている。そのため、特許文献1や特許文献2では、このようなアンカー効果に着目して、ハニカムセグメントの外壁の表面粗さ(算術平均表面粗さ:Ra)等を規定している。
【0007】
具体的には、特許文献1に、ハニカムセグメントの外壁の表面粗さRaが0.4〜23.5μmであり、外壁表面の局部山頂の平均間隔Sが10〜140μmであり、接合材に含まれる無機粒子の平均粒子径が0.5〜30μmであるハニカム構造体が開示されている。この外壁の表面粗さRaや、局部山頂の平均間隔Sは、ハニカムセグメントの製造に用いる原料粒子の粒子径分布や、焼成条件などを制御することによって調節したり、一旦ハニカムセグメントを作製した後に、その外壁にセラミックス粒子等の粒子を含む下地層を塗布することによって、調節したりしている。
【0008】
また、特許文献2には、接合材が、その粒子径がハニカムセグメントの外壁の平均粗さRaの1.1倍以上である無機粒子を、接合材の全体に対して30質量%を超えて含んでいないハニカム構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2009/157503号
【特許文献2】特開2004−130176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1や特許文献2では、ハニカムセグメントの外壁に表面粗さを付けたり、接合材中の無機粒子の粒子径を制御することで、接合強度を得ている。しかし、これらのハニカム構造体は、ハニカムセグメントの軸方向の抜け強度が不十分であるという問題がある。
【0011】
本発明の課題は、ハニカム構造体を構成するハニカムセグメントの抜け強度が増加し、耐久性が向上したハニカム構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ハニカム構造体を構成するハニカムセグメントの接合面の少なくとも1面に、セルが貫通する第一端面側から第二端面側までの前記ハニカムセグメントの全長に対し、全長方向において90%以上連続して備えられている、少なくとも1つの線状の凹部を有することにより、上記課題を解決することを見出した。すなわち、本発明によれば、以下のハニカム構造体が提供される。
【0013】
[1] 複数のハニカムセグメントが接合材層を介して互いの接合面で一体的に接合されたハニカムセグメント接合体と、前記ハニカムセグメント接合体の外周面を被覆する外周コート層とを備え、流体の流路となる複数のセルが軸方向に互いに並行するように配設された構造を有し、前記ハニカムセグメントは前記接合面の少なくとも1面に、前記セルが貫通する第一端面側から第二端面側までの前記ハニカムセグメントの全長に対し、全長方向において90%以上連続して備えられている、少なくともつの線状の凹部を有し、前記ハニカムセグメントは、前記凹部を備えた外壁の前記軸方向に直交する断面形状が長方形であり、前記凹部として、前記外壁の前記接合面側に半円形、アーチ形、多角形、角丸多角形、ウェーブ形のうちの少なくとも2種類の形状の凹部を有するハニカム構造体。
【0014】
[2] 前記ハニカムセグメントの前記接合面に備えられた前記凹部が、前記セルが貫通する第一端面側から第二端面側に向かって、軸方向に並行するように配設されている前記[1]に記載のハニカム構造体。
【0015】
[3] 前記ハニカムセグメントの前記接合面に配設された前記凹部は、前記ハニカムセグメントの軸方向に直交する断面の隣り合った角を結んだ直線を基準として、凹部とされており、その凹部の深さは前記基準から10μm以上であり、且つ前記凹部の深さは前記ハニカムセグメントの外壁厚さの80%以下である前記[1]又は[2]に記載のハニカム構造体。
【0016】
[4] 前記ハニカムセグメントの前記接合面に備えられた前記凹部は、前記軸方向に直交する方向における長さである幅が100μm以上10mm以下である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0018】
] 前記ハニカムセグメントの気孔率が30〜80%である前記[1]〜[]のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0019】
] 前記ハニカムセグメントの平均細孔径が5〜50μmである前記[1]〜[]のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0020】
] 前記ハニカムセグメントの前記第一端面の開口率が、前記第二端面の開口率よりも大きい前記[1]〜[]のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0021】
] 前記ハニカムセグメントの隔壁に触媒成分が担持された前記[1]〜[]のいずれかに記載のハニカム構造体。
【発明の効果】
【0022】
本発明のハニカム構造体は、ハニカムセグメントの接合面の少なくとも1面に、セルが貫通する第一端面側から第二端面側までの前記ハニカムセグメントの全長に対し、全長方向において90%以上連続して備えられている、少なくとも1つの線状の凹部を有するため、ハニカムセグメントの凹部に、接合材に含まれる無機粒子が食い込むことにより生ずる効果(アンカー効果)が高くなる。そのために、ハニカムセグメントの抜け強度が増加し、ハニカム構造体の耐久性が向上する。また、ハニカムセグメントと、接合材との間の接合強度が増加することによって、ハニカム構造体は高い熱伝達を得ることができ、耐熱衝撃性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のハニカム構造体の基本構造の一例を示す概略斜視図である。
図2】本発明のハニカム構造体を構成するハニカムセグメントの一例を示す概略斜視図である。
図3A】本発明の凹部を有するハニカムセグメントの接合面の実施形態1を模式的に示す模式図である。
図3B】本発明の凹部を有するハニカムセグメントの接合面の実施形態2を模式的に示す模式図である。
図3C】本発明の凹部を有するハニカムセグメントの接合面の実施形態3を模式的に示す模式図である。
図3D】本発明の凹部を有するハニカムセグメントの接合面の実施形態4を模式的に示す模式図である。
図4A】本発明のハニカムセグメントの凹部を備えた外壁の軸方向に直交する断面の実施形態1を示す断面図である。
図4B】本発明のハニカムセグメントの凹部を備えた外壁の軸方向に直交する断面の実施形態2を示す断面図である。
図4C】本発明のハニカムセグメントの凹部を備えた外壁の軸方向に直交する断面の実施形態3を示す断面図である。
図4D】本発明のハニカムセグメントの凹部を備えた外壁の軸方向に直交する断面の実施形態4を示す断面図である。
図4E】本発明のハニカムセグメントの凹部を備えた外壁の軸方向に直交する断面の実施形態5を示す断面図である。
図4F】本発明のハニカムセグメントの凹部を備えた外壁の軸方向に直交する断面の実施形態6を示す断面図である。
図5A】本発明のハニカムセグメントの異なる形状の凹部を備えた外壁の軸方向に直交する断面の実施形態1を示す断面図である。
図5B】本発明のハニカムセグメントの異なる形状の凹部を備えた外壁の軸方向に直交する断面の実施形態2を示す断面図である。
図5C】本発明のハニカムセグメントの異なる形状の凹部を備えた外壁の軸方向に直交する断面の実施形態3を示す断面図である。
図6】本発明のハニカム構造体を構成する、目封じが施されたハニカムセグメントの一例を示す概略斜視図である。
図7】本発明のハニカム構造体を構成する、目封じが施されたハニカムセグメントの断面の一例を示す断面図である。
図8A】第一端面と第二端面とで開口率が異なるハニカム構造体の実施形態の一例を示す第一端面の部分拡大図である。
図8B】第一端面と第二端面とで開口率が異なるハニカム構造体の実施形態の一例を示す第二端面の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0025】
本発明のハニカム構造体1は、図1に示すように複数のハニカムセグメント2が接合材層を介して互いの接合面7で一体的に接合されたハニカムセグメント接合体20と、そのハニカムセグメント接合体20の外周面を被覆する外周コート層21とを備える。そして、ハニカム構造体1は、流体の流路となる複数のセル5が軸方向16に互いに並行するように配設された構造を有するものである。
【0026】
ハニカムセグメント2は、図2に示すように、接合面7の少なくとも1面に、セル5が貫通する第一端面11側から第二端面12側までの前記ハニカムセグメント2の全長に対し、全長方向において90%以上連続して備えられている、少なくとも1つの線状の凹部6を有する。このように、ハニカムセグメント2の接合面7の少なくとも1面に、少なくとも1つの凹部6が備えられると、接合材に含まれる無機粒子がその凹部6内に食い込むことにより生ずる効果(アンカー効果)が高くなる。このために、本発明のハニカム構造体1は、ハニカムセグメント2の抜け強度が増加し、耐久性が向上する。また、ハニカムセグメント2と、接合材との間の接合強度が増加することによって、ハニカム構造体1は高い熱伝達を得ることができ、耐熱衝撃性に優れたものとなる。
【0027】
図3A図3Dに、凹部6を有するハニカムセグメント2の接合面7の実施形態1〜4を示す。図3Aに示すように、この凹部6はセル5が貫通する第一端面11側から第二端面12側までの前記ハニカムセグメント2の全長に対し、全長方向において90%以上連続して備えられている直線である。凹部6が第一端面11から第二端面12までのハニカムセグメント2の全長に対し、全長方向において90%以上連続して備えられているとは、一本の線状の凹部6がハニカムセグメント2の全長の90%以上途切れずに備えられているものに限定されず、一本の線状の凹部6がハニカムセグメント2の中間部などで1回以上途切れており、繋がっていなくても、その凹部6をあわせて全長の90%以上の長さであれば良い。例えば、図3Cに示すように、凹部6が途中で途切れていても、ハニカムセグメント2の全長に対し、90%以上連続していれば、ハニカムセグメント2は十分なアンカー効果を有することができる。凹部6が曲線の場合でも、ハニカムセグメント2の全長方向において、ハニカムセグメント2の全長の90%以上連続して備えられている。
【0028】
そして、その凹部6は、セル5が貫通する第一端面11側から第二端面12側に向かって、軸方向16に並行するように配設されていることが好ましい。このような形状であると、ハニカムセグメント2の作製時に、押出成形機の型枠の、材料の通過側に、所定の凹部6の断面形状となる突出部を備えるだけで、そのハニカムセグメント2の接合面7に凹部6を設けることができる。
【0029】
更に、図3Bに示すように、線状の凹部6は直線に限定されず、曲線であってもよい。凹部6の曲線の形状としては、図3Bに示す弓形状の他、波形状、螺旋形状等が挙げられる。曲線の凹部6は、直線の凹部6よりもハニカムセグメント2の抜け方向における「抜け」に対して抵抗となるために、ハニカムセグメント2がより抜け難くなる。
【0030】
このような線状の凹部6は、図3Dに示すように、ハニカムセグメント2の接合面7の少なくとも1面に、1つ以上設けることが好ましく、3つ以上設けることがより好ましい。凹部6を3つ以上設けることで、アンカー効果がより高くなる。このために、ハニカムセグメント2の抜け強度がより増加し、耐久性が大きく向上する。
【0031】
図4A図4Fに、ハニカムセグメント2の凹部6を備えた外壁8の軸方向16に直交する断面の実施形態1〜6を示す。ハニカムセグメント2の接合面7に配設された凹部6は、図4Aに示すように、そのハニカムセグメント2の軸方向16に直交する断面の隣り合った角を結んだ直線を基準15として、凹部6とされる。この基準15は図2に示す点A、B、C、Dのうち、隣り合う点を結んだ直線である。
【0032】
そして、凹部6の深さはその基準15から10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。また、凹部6の深さはハニカムセグメント2の外壁8厚さの80%以下であることが好ましい。このような深さの凹部6を設けることで、十分なアンカー効果を得ることができ、なお且つ、ハニカムセグメント2の外周壁の強度を維持できる。その結果、このようなハニカムセグメント2を含むハニカム構造体1の強度も保つことができる。
【0033】
また、凹部6は、軸方向に直交する方向における長さである幅6a(凹部6の幅6a)が100μm以上であることが好ましく、500μm以上であることがより好ましい。幅6aは、例えば、図4Aに示すように、基準15における凹部6の長さである。なお、この凹部6の幅は10mm以下が好ましい。このような幅の凹部6を設けることで、接合材が凹部6に入り込んで食い込む、アンカー効果が大きくなる。
【0034】
更に、本発明のハニカムセグメント2の凹部6を備えた外壁8の、軸方向16に直交する断面形状は、長方形であり、外壁8の接合面7側に半円形、アーチ形、多角形、角丸多角形、ウェーブ形のいずれかの形状の凹部6を少なくとも1つ有する形状である。このような外壁8の断面形状の例として、図4Aに半円形の凹部6を備えた外壁8の断面図を示し、図4Bには、三角形の凹部6を備えた外壁8の断面図を示し、図4Cには四角形の凹部6を備えた外壁8の断面図を示す。
【0035】
なお、図4Dに示す断面のように、接合面7に台形の凹部6を隣り合わせに複数配置することによって、三角形の凸部を外壁8内に備えるようにしてもよい。また、図4Eに示す断面のように、ウェーブ形状の凹部6を備えても良い。更に、図4Fに示す断面のように、外壁8内に円形の凸部を形成するように、接合面7に直線と曲線が伴った凹部6を備えても良い。凹部6の断面形状としては、接合材が凹部6に入り込んで食い込む、アンカー効果が大きいものが好ましい。
【0036】
このような断面形状を有する凹部6は、ハニカムセグメント2の同一接合面7上に一種類のみ備えられることに限らず、同一接合面7上に複数の形状の凹部6を備えていても良い。例えば図5A図5Cの断面図に示すように、ハニカムセグメント2の同一接合面7に、2種類以上の形状の凹部6を備えていても良い。複数の異なる形状の凹部6を備えると、1種類のみ備えた場合よりも複合作用によってハニカムセグメントが抜け難くなる。
【0037】
本発明において、ハニカムセグメント2の気孔率は30〜80%であることが好ましい。例えば、ハニカム構造体1をDPF等のフィルターに用いる場合に、ハニカムセグメント2の気孔率を30%以上とすることによって、触媒担持有無によらず圧力損失を抑えることができる。そして、気孔率を80%以下とすることによって、フィルターの強度低下を小さくし、かつフィルター再生時の最高温度が上昇しすぎることを防ぐことができる。
【0038】
また、ハニカムセグメント2の平均細孔径は5〜50μmであることが好ましい。例えばハニカム構造体1をDPF等のフィルターに用いる場合において、ハニカムセグメント2の平均細孔径を5μm以上とすることによって、圧力損失を抑えることできる。そして、50μm以下とすることによって、PMを補修するフィルター機能の低下を防ぐことができる。また、ハニカムセグメント2の平均細孔径が50μmより大きくなると、ハニカムセグメント自体の強度低下が顕著になり、ハニカム構造体として使用することが難しくなる。
【0039】
なお、本発明における「気孔率」は、ハニカムセグメント2から隔壁3厚みの平板を試験片として切り出し、アルキメデス法で測定したものである。また、「平均細孔径」は、ハニカムセグメント2から所定形状(5×5×15mm)の試験片を切り出し、水銀ポロシメーターで測定したものである。
【0040】
ハニカムセグメント2の構成材料としては、強度、耐熱性等の観点から、炭化珪素、炭化珪素を骨材とし珪素を結合剤として形成された珪素―炭化珪素系複合材料、窒化珪素、コージェライト、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素―コージェライト系複合材、リチウムアルミニウムシリケート、チタン酸アルミニウム、Fe−Cr−Al系金属から成る群より選択される少なくとも一種の材料が好ましい。また、図6及び図7に示すように、セル5の開口部に目封止部9を形成する場合、目封止部9の構成材料にはハニカムセグメント2と同一の材料を用いることが好ましい。ハニカムセグメント2と同一の材料を用いることで、ハニカムセグメント2との熱膨張差を小さくすることができる。
【0041】
ハニカムセグメント2の製造方法の一例としては、前記のような材料に、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等のバインダー、増孔材、界面活性剤、溶媒としての水等を添加して、可塑性の坏土とし、この坏土を所定のハニカム形状となるように押出成形する。この時に、押出成形機の坏土の出口側となる口金の一部(ハニカムセグメント2の外壁8を形成する部分)に、ハニカムセグメント2の接合面7に所定の形状の凹部6を形成するための突起を少なくとも1つ設けたものを使用する。この突起の形状によって、凹部の断面形状が決まる。このような製造方法を用いることによって、接合面7の少なくとも1面に、セル5が貫通する第一端面11側から第二端面12側までの前記ハニカムセグメント2の全長に対し、全長方向において90%以上連続して備えられている、少なくとも1つの線状の凹部6を有する成形後の坏土を得るができる。このように成形できるため、新たな工程や設備が不要であり、コストアップにならない。また、他の製造方法としては、坏土を押出成形した後に、接合面7を削ることによって、線状の凹部を備えても良い。また、凹部6以外に、ハニカムセグメント2の接合面に凸部を備える場合には、所望の凸部の断面形状となるような凹部を口金の一部に設け、押出成形すればよい。
【0042】
次いで、マイクロ波、熱風等によって乾燥した後、焼成する。セル5に目封じ部を形成する場合は、セル5に目封止部9を形成する前に焼成を行っても良いし、セル5に目封止部9を形成した後で、目封止部9の焼成と同時に焼成しても良い。
【0043】
セル5を目封止する方法には、従来公知の方法を用いることができる。具体的な方法の一例としては、ハニカムセグメント2の端面にシートを貼り付けた後、そのシートの目封止しようとするセル5に対応した位置に穴を開ける。そして、このシートを貼り付けたままの状態で、ハニカムセグメント2の端面を、目封止部9の構成材料をスラリー化した目封止用スラリーに浸漬する。すると、ハニカムセグメント2の端面のシートに開けた穴を通じて、目封止しようとするセル5の開口端部内に目封止用スラリーが充填される。それを乾燥及び/又は焼成して硬化させることによって、セル5を目封止することができる。
【0044】
ハニカムセグメント2の気孔率や平均細孔径は、材料の粒子径、増孔材の粒子径や添加量、焼成条件などによって調節することができる。
【0045】
そして、本発明のハニカム構造体1は、前述したように、ハニカムセグメント2の複数個を、それらの外壁8同士を接合することにより一体化して構成される。ハニカムセグメント2の接合には接合材が使用される。この接合材は、無機粒子を含むものであり、その他の成分としては無機繊維、コロイド状酸化物を含むことが好ましい。ハニカムセグメント2の接合時には、これらの成分に加え、必要に応じて、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の有機バインダー、分散剤、水等を加え、それをミキサー等の混練機を使用して混合、混練してペースト状にしたものを用いることが好ましい。
【0046】
接合材に含まれる無機粒子の構成材料としては、例えば、炭化珪素、窒化珪素、コージェライト、アルミナ、ムライト、ジルコニア、燐酸ジルコニウム、アルミニウムチタネート、チタニア及びこれらの組み合わせよりなる群から選ばれるセラミックス、Fe−Cr−Al系金属、ニッケル系金属、珪素―炭化珪素系複合材料等を用いることが好ましい。
【0047】
無機繊維としては、アルミノシリケート、炭化珪素等のセラミックスファイバー、銅、鉄等のメタルファイバー等を好適に用いることができる。コロイド状酸化物としては、シリカゾル、アルミナゾル等が好適なものとして挙げられる。コロイド状酸化物は、接合材に適度な接着力を付与するために好適であり、また、乾燥・脱脂することによって無機繊維及び無機粒子と結合し、乾燥後の接合材を耐熱性等に優れた強固なものとすることができる。
【0048】
このような接合材をハニカムセグメント2の接合面7に所定の厚さで塗布して、複数個のハニカムセグメント2を組み合わせた後、接合材を乾燥硬化させることにより、複数個のハニカムセグメント2が一体化したハニカム構造体1を得ることができる。その後、必要に応じ、外周面を研削加工するなどして、円柱状等の所望形状に加工しても良い。なお、この場合、加工によって外壁8が除去され、内部の隔壁3とセル5が露出した状態となるので、露出面をコーティング材で被覆するなどして、外周コート層21を形成することが好ましい。
【0049】
なお、ハニカム構造体1は、全てのセル5が同形状で同じ開口面積を持ち、それらセル5の端部が第一端面11と第二端面12で市松模様を呈するように交互に目封止され、2つの端面の開口率が同等であるものが多い。しかし、例えばPM補修後の圧力損失の上昇抑制等を目的としたときは、ハニカムセグメント2の第一端面11(入口側端面)の開口率が第二端面12(出口側端面)の開口率よりも大きいハニカム構造体1が好ましい。
【0050】
図8A及び図8Bは、入口側端面となる第一端面11と、出口側端面となる第二端面12とで開口率が異なる目封止したハニカム構造体1の実施形態の一例を示したものである。ここで、図8Aは第一端面11の部分拡大図、図8Bは第二端面12の部分拡大図である。これらの図に示すように、この実施形態においては、四角形セル5aとそれよりも開口面積の大きい八角形セル5bとが、各端面上の直交する二方向において交互に配列されている。そして、四角形セル5aについては第一端面11にて目封止部9による目封止が施され、八角形セル5bについては第二端面12にて目封止部9による目封止が施された状態になっている。このように、第一端面11では開口面積の大きい八角形セル5bを開口させ、第二端面12では、開口面積の小さい四角形セル5aを開口させることによって、第一端面11の開口率を第二端面12の開口率よりも大きくすることができる。
【0051】
また、本発明のハニカム構造体1において、ハニカムセグメント2の隔壁3の厚さは、178〜508μmであることが好ましく、203〜406μmであることがより好ましく、254〜305μmであることが更に好ましい。隔壁3の厚さを178μm以上とすることによって、強度を保ち、耐熱衝撃性の低下を防止できる。また、隔壁3の厚さを508μm以下とすることによって、圧力損失が増大しすぎることを防止できる。
【0052】
セル密度は、21.7〜54.3個/cmであることが好ましく、24.8〜49.6個/cmであることがより好ましく、31〜46.5個/cmであることが更に好ましい。セル密度を21.7個/cm以上とすることで、流体との接触効率を良好にし、セル密度を54.3個/cm以下とすることで、圧力損失が増大しすぎることを防止できる。
【0053】
セル形状(セル断面の形状)については、特に限定されることはなく、例えば、四角形、三角形、六角形、八角形等の多角形でも、丸形であっても良く、また、異なる形状のセル5が組み合わされて配列されていても良い。
【0054】
また、本発明のハニカム構造体1においては、例えばフィルター再生時のPMの燃焼を促進させたり、排ガス中の有害物質を浄化したりする目的で、ハニカムセグメント2の隔壁3に触媒成分を担持させるようにしても良い。隔壁3に触媒成分を担持する方法としては、例えば、触媒成分を含む溶液に、アルミナ粉末のような高比表面積の耐熱性無機酸化物からなる粉末を含浸させた後、乾燥、焼成して触媒成分を含有する粉末を得る。そして、この粉末にアルミナゾルや水などを加えて触媒スラリーを調整し、これにハニカムセグメント2又はハニカム構造体1を浸漬させて、スラリーをコートした後、乾燥、焼成するといった方法を用いることができる。
【0055】
触媒成分としては、Pt,Rh,Pdからなる群より選択される一種以上の貴金属を用いることが好ましい。これら貴金属の担持量は、ハニカム構造体1の単位面積当り、0.3〜33.5g/Lとすることが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
参考例1〜26、比較例1〜4)
(ハニカムセグメントの焼成体の製造)
SiC粉末及び金属Si粉末を80:20の質量割合で混合し、これに造孔材(ポリメタクリル酸メチル、メチルセルロース、及びヒドロキシプロポキシルメチルセルロース)、有機バインダー、界面活性剤及び水を添加して、可塑性の坏土を得た。ハニカムセグメント2の接合面7に凹部6を備えるために、凸部を設けた口金を用いて、この坏土を押出成形し、乾燥させて、セル形状が正方形、セル壁厚が305μm、セル密度が約46.5セル/cm、断面形状が一辺35mmの正方形、軸方向16の長さが160mmハニカムセグメント2を得た。
【0058】
このハニカムセグメント2に対し、その両端面が相補的な市松模様を呈するように、各セル5の端部に目封止部9を形成した。すなわち、隣接するセル5が、互いに反対側の端部で封じられるように目封止部9の形成を行った。目封止部9の材料には、ハニカムセグメント2と同じ材料を用いた。こうして目封止部9を形成し、乾燥させた後に、ハニカムセグメント2を大気雰囲気中、約400℃脱脂し、更に、Ar不活性雰囲気中、約1450℃で焼成して、珪素−炭化珪素系複合材料からなるハニカムセグメント2の焼成体を得た。
【0059】
(ハニカム構造体の製造)
続いて、無機粒子としてSiC粉末を用いて、これにアルミノシリケート質繊維、シリカゾル水溶液、及び粘土を混合したものに、更に水を加え、ミキサーで30分間混練を行うことによって、ペースト状の接合材を得た。この接合材を、ハニカムセグメント2(焼成体)の外壁表面に、厚さ約1mmとなるように塗布して接合材層を形成し、その上に別のハニカムセグメント2を載置する工程を繰り返し、4個×4個に組み合わされた合計16個のハニカムセグメント2からなるハニカムセグメント積層体を作製した。そして、適宜、外部より圧力を加えるなどして全体を接合させた後、120℃で2時間乾燥させてハニカムセグメント接合体20を得た。このハニカムセグメント接合体20の外形が円柱状になるように、その外周を研削加工した後、その加工面に接合材と同じ組成のコーティング材を塗布して外周コート層21を形成し、600℃で2時間乾燥硬化させ、参考例1〜26及び比較例1〜4のハニカム構造体1を得た。
【0060】
こうして作製された参考例1〜26、及び比較例1〜4のハニカム構造体1について、次の方法で接合部のせん断強度、及びハニカムセグメント2間の温度差を測定するとともに、接合部の観察を行った。その結果を表1に示す。なお、各参考例及び比較例において、接合部のせん断強度の測定に用いたハニカム構造体1と、ハニカムセグメント間の温度差の測定に用いたハニカム構造体1とは、同一の方法で作製した別の固体である。すなわち、各参考例及び比較例毎に、2体のハニカム構造体1を作製し、その内の一方を接合部のせん断強度の測定に用い、他方をハニカムセグメント間の温度差の測定に用いた。
【0061】
(せん断強度の測定)
ハニカム構造体1より、隣接する2本のハニカムセグメントを接合された状態のまま切り出し、一方のハニカムセグメントを固定し、もう一方のハニカムセグメントに対して長軸方向16から荷重をかけることにより測定した。
【0062】
(ハニカムセグメント間の温度差の測定)
ススを堆積させたハニカム構造体1をエンジンベンチに設置し、エンジン回転数2000rpm、エンジントルク60Nmに保った状態でポストインジェクションを入れて、ハニカム構造体1前後の圧力損失が低下しはじめたタイミングでポストインジェクションを切り、エンジン状態をアイドルに切り替えたときにおけるハニカム構造体1内部の温度の履歴を測定した。スス量は温度計測点の最高温度が1200℃になるように徐々に増加させ、1200℃の場合のデータを用いた。温度計測点は、ハニカム構造体1の外周部に位置する外周セグメントの中心部(外周から中心に向かって20mmの位置)と、その内側に隣接する中央セグメントの中心部とにおける、ハニカム構造体1の第二端面12側から第一端面11側に向かって15mmの位置である。これらの各温度計測点おける温度履歴中の最高温度の差を算出することにより求めた。
【0063】
(接合部の観察)
前記方法により、ハニカムセグメント間の温度差を求めた後のハニカム構造体1の接合部を、まず、目視により観察した。接合材の破断やハニカムセグメント2の外壁8からの剥離の有無を調べ、目視では破断や剥離が確認されなかったものは、更にCTスキャンによる接合部の観察を行って、表面から目視では確認できない内部の破断や剥離の有無を調べた。そして、目視及びCTスキャンのいずれによる観察においても破断や剥離が確認されなかったものを「○」とし、いずれかの観察において破断や剥離が確認されたものを「×」とした。
【0064】
【表1】
【0065】
参考例1〜26は、ハニカムセグメント2の接合面7の少なくとも1面に、セル5が貫通する第一端面11側から第二端面12側までの前記ハニカムセグメント2の全長に対し、全長方向において90%以上連続して備えられている、少なくとも1つの線状の凹部6を有する。このために、高いせん断強度を有し、ハニカムセグメント2間の温度差も小さく、ハニカムセグメント2と接合材との間の熱伝達にも優れていた。また、接合部の観察においても接合材の破断や剥離は確認されなかった。更に、備えられた凹部6の深さが10μm以上であり、凹部6の幅6aが100μm以上である参考例1〜8は、特に高いせん断強度を有し、ハニカムセグメント2間の温度差も小さかった。なお、凹部6の数や外壁8の凹部6を備える面の数が増加すると、より高いせん断強度を有し、ハニカムセグメント2間の温度差も更に小さくなった。これに対し、比較例1〜4はせん断強度が不十分であり、ハニカムセグメント2間の温度差が比較的大きく、ハニカムセグメント2と接合材との間の熱伝達に劣るものであった。また、接合部の観察において、接合材の破断や剥離が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、内燃機関、ボイラー、化学反応機器、及び燃料電池用改質器等の触媒作用を利用する触媒用担体、又は排ガス中の微粒子捕集フィルター等に使用するができ、また、特にDPF等の集塵用フィルター等として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1:ハニカム構造体、2:ハニカムセグメント、3:隔壁、5:セル、5a:四角形セル、5b:八角形セル、6:凹部、7:接合面、8:外壁、9:目封止部、11:第一端面、12:第二端面、15:基準、16:軸方向、20:ハニカムセグメント接合体、21:外周コート層。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8A
図8B