【実施例】
【0043】
(実施例1)
平滑な表面を有する化学強化ガラス基板(HOYA社製N−10ガラス基板)を洗浄し、非磁性基体12を準備した。洗浄後の非磁性基体12を、スパッタ装置内に導入した。圧力0.5PaのArガス中で、基板から120mmの位置に配置したTaターゲットを用いるDCマグネトロンスパッタ法により、膜厚5nmのTa密着層14を形成した。ターゲットに印加した電力は100Wであった。Ta密着層14形成時の非磁性基体12の温度は、室温であった。
【0044】
次に、圧力0.5PaのArガス中で、基板から165mmの位置に配置したMgOターゲットを用いたRFマグネトロンスパッタ法により、膜厚1nmのMgO層(不図示)を形成した。ターゲットに印加した電力は200Wであった。また、この際のTa密着層14を形成した非磁性基体12の温度を、室温とした。
【0045】
次に、圧力0.25PaのArガス中で、基板から120mmの位置に配置したCrターゲットを用いたDCマグネトロンスパッタ法により、膜厚20nmのCr下地層16を形成して、基板10を得た。ターゲットに印加した電力は300Wであった。
【0046】
次に、Cr下地層16を形成した積層体に対して、圧力1.5PaのArガス中で、基板10から165mmの位置に配置したMgCr
2O
4ターゲットを用いたRFマグネトロンスパッタ法により、膜厚10nmのMgCr
2O
4シード層20を形成した。ターゲットに印加した電力は200Wであった。また、この際の基板10の温度を、430℃とした。
【0047】
次に、シード層20を形成した積層体を430℃に加熱し、圧力1.5PaのArガス中で、基板10から165mmの位置に配置したFe
50Pt
50を含むターゲットおよびCを含むターゲットを用いるDCマグネトロンスパッタ法により、膜厚4nmのFePt−C磁気記録層30を形成した。Fe
50Pt
50ターゲットに印加した電力は40Wであり、Cターゲットに印加した電力は139Wであった。また、FePt−C磁気記録層30は、25体積%のCを含んだ。
【0048】
続いて、圧力0.5PaのArガス中で、PtターゲットおよびTaターゲットを用いるDCマグネトロンスパッタ法により膜厚5nmのPt膜および膜厚5nmのTa膜の積層体である保護層(不図示)を形成して、磁気記録媒体を得た。保護層形成時の基板温度を、室温(25℃)であった。Pt膜の形成時のスパッタ電力は50Wであり、Ta膜の形成時のスパッタ電力は100Wであった。
【0049】
PPMS装置(Quantum Design社製;Physical Property Measurement System)により、得られた磁気記録媒体の面内方向および垂直方向におけるM−Hヒステリシスループを測定した。得られたM−Hヒステリシスループを
図3に示す。得られたM−Hヒステリシスループから、面内方向の保磁力Hc
IPおよび垂直方向のヒステリシスループのαを求めた。面内方向の保磁力Hc
IPは0.61kOe(48.5A/mm)であるが、0kOe(0A/mm)が好ましい。面内方向の保磁力の大小により、FePt膜の垂直配向性を確認することができる。配向に乱れが無ければ、すべての磁化は面直方向を向き、面内方向が磁化困難軸方向となる。そのため、面内方向における磁化曲線は一直線となり、面内方向の保磁力は0となる。配向が乱れると、磁化の向きも乱れ、面内方向における磁化曲線は一直線ではなくなり、面内方向の保磁力が発現する。垂直磁気記録では、記録時にエラーとなる個所が増加するため、垂直配向性の低下(すなわち、Hc
IPの発現および増大)は好ましくない。「ヒステリシスループのα」は、保磁力付近(H=Hc)における磁化曲線の傾きを意味し、α=4π×(dM/dH)の式で求められる。α値の決定においては、Mの単位として「emu/cm
3」を用い、Hの単位として「Oe」を用いる。グラニュラー構造中の磁性結晶粒が磁気的に良好に分離されていない場合、α値が増大する。一方、たとえば二次成長による結晶粒が存在する場合のような、磁性結晶粒の磁気特性のバラツキが大きい場合、α値が減少する。α値は、0.75以上、3.0未満、より好ましくは0.9以上、2.0未満とすることが好ましい。また、PPMS装置を用いて自発磁化の磁場印加角度依存性を評価し、磁気異方性定数Kuを決定した。磁気異方性定数Kuの決定には、R. F. Penoyer、「Automatic Torque Balance for Magnetic Anisotropy Measurements」、The Review of Scientific Instruments、1959年8月、第30巻第8号、711−714(非特許文献1)、ならびに近角聰信、強磁性体の物理(下) 裳華房、10−21(非特許文献2)に記載の手法を用いた。結果を第1表に示す。
【0050】
(実施例2)
MgCr
2O
4シード層20の膜厚5nmに変更したことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、磁気記録媒体を得た。得られたM−Hヒステリシスループを
図4に示す。また、得られた磁気記録媒体の垂直方向のヒステリシスループのα、面内方向の保磁力Hc
IP、および磁気異方性定数Kuの測定結果を第1表に示す。
【0051】
さらに、得られた磁気記録媒体表面の算術平均粗さRaを測定した。算術平均粗さRaは、1μm×0.5μmの測定領域におけるAFMの観察により測定した。AFM観察像を
図13(a)に示し、算術平均粗さRaの測定値を第1表に示す。
【0052】
(実施例3)
シード層20を形成する際のターゲットをMg
2TiO
4ターゲットに変更し、シード層20形成時の基板10の温度を300℃に変更したことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、磁気記録媒体を得た。得られたM−Hヒステリシスループを
図5に示す。また、得られた磁気記録媒体の垂直方向のヒステリシスループのα、面内方向の保磁力Hc
IP、および磁気異方性定数Kuの測定結果を第1表に示す。
【0053】
(実施例4)
Mg
2TiO
4シード層20の膜厚5nmに変更したことを除いて、実施例3の手順を繰り返して、磁気記録媒体を得た。得られたM−Hヒステリシスループを
図6に示す。AFM観察像を
図13(b)に示す。また、得られた磁気記録媒体の垂直方向のヒステリシスループのα、面内方向の保磁力Hc
IP、磁気異方性定数Kuおよび算術平均粗さRaの測定結果を第1表に示す。
【0054】
(比較例1)
以下の手順でMgOシード層20を形成したことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、磁気記録媒体を得た。圧力0.1PaのArガス中で、基板から165mmの位置に配置したMgOターゲットを用いたRFマグネトロンスパッタ法により、膜厚5nmのMgOシード層20を形成した。ターゲットに印加した電力は200Wであった。また、この際の基板10の温度を、430℃とした。得られたM−Hヒステリシスループを
図7に示す。また、得られた磁気記録媒体の垂直方向のヒステリシスループのα、面内方向の保磁力Hc
IP、および磁気異方性定数Kuの測定結果を第1表に示す。さらに、得られた磁気記録媒体表面のAFM観察像を
図13(c)に示し、算術平均粗さRaの測定値を第1表に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
(実施例5)
FePt−C磁気記録層30形成時のCターゲット印加電力を234Wに変更して、FePt−C磁気記録層30中のC含有量を40体積%に変更したこと、ならびFePt−C磁気記録層30の膜厚を2nmに変更したことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、磁気記録媒体を得た。得られたM−Hヒステリシスループを
図8に示す。また、得られた磁気記録媒体の面内方向の保磁力Hc
IPの測定結果を第2表に示す。
【0057】
(実施例6)
FePt−C磁気記録層30形成時のCターゲット印加電力を234Wに変更して、FePt−C磁気記録層30中のC含有量を40体積%に変更したこと、ならびFePt−C磁気記録層30の膜厚を2nmに変更したことを除いて、実施例3の手順を繰り返して、磁気記録媒体を得た。得られたM−Hヒステリシスループを
図9に示す。また、得られた磁気記録媒体の垂直方向のヒステリシスループのα、面内方向の保磁力Hc
IP、および磁気異方性定数Kuの測定結果を第2表に示す。
【0058】
(比較例2)
比較例1に記載の手順を用いてMgOシード層20を形成したことを除いて、実施例5の手順を繰り返して、磁気記録媒体を得た。なお、得られた磁気記録媒体の面内方向の保磁力Hc
IPの測定結果を第2表に示す。得られたM−Hヒステリシスループを
図10に示す。また、得られた磁気記録媒体の垂直方向のヒステリシスループのα、面内方向の保磁力Hc
IP、および磁気異方性定数Kuの測定結果を第2表に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
(実施例7A)
磁気記録層30形成時のCターゲットを用いなかったことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、FePt磁気記録層30を有する磁気記録媒体を得た。得られた磁気記録媒体の垂直方向のヒステリシスループのα、面内方向の保磁力Hc
IP、および磁気異方性定数Kuの測定結果を第3表に示す。さらに、得られた磁気記録媒体表面のAFM観察像を
図14(a)に示し、算術平均粗さRaの測定値を第3表に示す。
【0061】
(実施例7B)
形成する磁気記録層30の膜厚を10nmに変更したことを除いて、実施例7Aの手順を繰り返して、FePt磁気記録層30を有する磁気記録媒体を得た。得られた磁気記録媒体の垂直方向のヒステリシスループのα、面内方向の保磁力Hc
IP、および磁気異方性定数Kuの測定結果を第3表に示す。
【0062】
(実施例8A)
磁気記録層30形成時のCターゲットを用いなかったことを除いて、実施例3の手順を繰り返して、FePt磁気記録層30を有する磁気記録媒体を得た。得られた磁気記録媒体の垂直方向のヒステリシスループのα、面内方向の保磁力Hc
IP、および磁気異方性定数Kuの測定結果を第3表に示す。さらに、得られた磁気記録媒体表面のAFM観察像を
図14(b)に示し、算術平均粗さRaの測定値を第3表に示す。
【0063】
(実施例8B)
形成する磁気記録層30の膜厚を10nmに変更したことを除いて、実施例8Aの手順を繰り返して、FePt磁気記録層30を有する磁気記録媒体を得た。得られた磁気記録媒体の垂直方向のヒステリシスループのα、面内方向の保磁力Hc
IP、および磁気異方性定数Kuの測定結果を第3表に示す。
【0064】
(実施例9)
平滑な表面を有する化学強化ガラス基板(HOYA社製N−10ガラス基板)を洗浄し、非磁性基体12を準備した。洗浄後の非磁性基体12を、スパッタ装置内に導入した。圧力0.20PaのArガス中で、基板から180mmの位置に配置したTaターゲットを用いるRFマグネトロンスパッタ法により、膜厚5nmのTa密着層14を形成した。ターゲットに印加した電力は200Wであった。Ta密着層14形成時の非磁性基体12の温度は、室温であった。
【0065】
次に、圧力0.20PaのArガス中で、基板から180mmの位置に配置したMgOターゲットを用いたRFマグネトロンスパッタ法により、膜厚1nmのMgO層(不図示)を形成した。ターゲットに印加した電力は200Wであった。また、この際のTa密着層14を形成した非磁性基体12の温度を、室温とした。
【0066】
次に、圧力0.20PaのArガス中で、基板から180mmの位置に配置したCrターゲットを用いたRFマグネトロンスパッタ法により、膜厚20nmのCr下地層16を形成して、基板10を得た。ターゲットに印加した電力は600Wであった。
【0067】
次に、基板10に対して、圧力0.20PaのArガス中で、基板10から180mmの位置に配置したZnFe
2O
4ターゲットを用いたRFマグネトロンスパッタ法により、膜厚10nmのZnFe
2O
4シード層20を形成した。ターゲットに印加した電力は500Wであった。また、この際の基板10の温度を、室温とした。
【0068】
次に、シード層20を形成した積層体を350℃に加熱し、圧力0.90PaのArガス中で、基板10から240mmの位置に配置したFe
50Pt
50を含むターゲットおよびCを含むターゲットを用いるRFマグネトロンスパッタ法により、膜厚10nmのFePt−C磁気記録層を形成した。Fe
50Pt
50ターゲットに印加した電力は300Wであった。
【0069】
続いて、圧力0.18PaのArガス中で、PtターゲットおよびTaターゲットを用いるDCマグネトロンスパッタ法により膜厚5nmのPt膜および膜厚5nmのTa膜の積層体である保護層(不図示)を形成して、磁気記録媒体を得た。保護層形成時の基板温度を、室温(25℃)であった。PtターゲットおよびTaターゲットは、基板10から320mmの位置に配置した。Pt膜の形成時のスパッタ電力は100Wであり、Ta膜の形成時のスパッタ電力は200Wであった。
【0070】
得られた磁気記録媒体の垂直方向のヒステリシスループのαおよび面内方向の保磁力Hc
IPの測定結果を第3表に示す。さらに、得られた磁気記録媒体表面のAFM観察像を
図14(c)に示す。本実施例の磁気記録媒体の算術平均粗さRaを第3表に示す。
【0071】
(比較例3)
比較例1に記載の手順を用いてMgOシード層20を形成したことを除いて、実施例7Aの手順を繰り返して、磁気記録媒体を得た。なお、得られた磁気記録媒体の面内方向の保磁力Hc
IPの測定結果を第3表に示す。また、得られた磁気記録媒体の垂直方向のヒステリシスループのα、面内方向の保磁力Hc
IP、および磁気異方性定数Kuの測定結果を第3表に示す。さらに、得られた磁気記録媒体表面のAFM観察像を
図14(d)に示し、算術平均粗さRaの測定値を第3表に示す。
【0072】
(比較例4)
以下の手順でMgOシード層20を形成したことを除いて、実施例9の手順を繰り返して、磁気記録媒体を得た。圧力0.18PaのArガス中で、基板から240mmの位置に配置したMgOターゲットを用いたRFマグネトロンスパッタ法により、膜厚10nmのMgOシード層20を形成した。ターゲットに印加した電力は500Wであった。また、この際の基板10の温度を、450℃とした。また、得られた磁気記録媒体の垂直方向のヒステリシスループのαおよび面内方向の保磁力Hc
IPの測定結果を第3表に示す。さらに、得られた磁気記録媒体表面のAFM観察像を
図14(e)に示し、算術平均粗さRaを第3表に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
(参考例1)
FePt−C磁気記録層30および保護層中のTa膜を形成しなかったことを除いて、実施例1の手順を繰り返して、シード層の表面粗さを測定するためのサンプルを得た。本参考例のサンプルでは、シード層の上に膜厚5nmのPt膜が存在する。得られたサンプル表面のAFM観察像を
図15(a)に示し、算術平均粗さRaの測定値を第4表に示す。
【0075】
(参考例2)
FePt−C磁気記録層30および保護層中のTa膜を形成しなかったことを除いて、実施例3の手順を繰り返して、シード層の表面粗さを測定するためのサンプルを得た。本参考例のサンプルでは、シード層の上に膜厚5nmのPt膜が存在する。得られたサンプルのXRDスペクトルを
図11に示す。得られたサンプル表面のAFM観察像を
図15(b)に示し、算術平均粗さRaの測定値を第4表に示す。
【0076】
(参考例3)
FePt磁気記録層30および保護層を形成しなかったことを除いて、実施例9の手順を繰り返して、シード層の表面粗さを測定するためのサンプルを得た。本参考例のサンプルでは、シード層が最上層である。得られたサンプル表面のAFM観察像を
図15(c)に示し、算術平均粗さRaを第4表に示す。
【0077】
(参考例4)
FePt−C磁気記録層30および保護層中のTa膜を形成しなかったことを除いて、比較例1の手順を繰り返して、シード層の表面粗さを測定するためのサンプルを得た。本参考例のサンプルでは、シード層の上に膜厚5nmのPt膜が存在する。得られたサンプル表面のAFM観察像を
図15(d)に示し、算術平均粗さRaの測定値を第4表に示す。
【0078】
(参考例5)
FePt磁気記録層30および保護層を形成しなかったことを除いて、比較例4の手順を繰り返して、シード層の表面粗さを測定するためのサンプルを得た。本参考例のサンプルでは、シード層が最上層である。得られたサンプル表面のAFM観察像を
図15(e)に示し、算術平均粗さRaを第4表に示す。
【0079】
【表4】
【0080】
(評価)
第1に、参考例4および5から、MgOからなるシード層の算術平均粗さRaは、膜厚の増大とともに増大することが確認された。第2に、参考例1〜4の比較から、スピネル構造(a)または(b)、あるいは逆スピネル構造(c)のシード層を有する参考例1〜3のサンプルの算術平均粗さRaは、MgOシード層を有する参考例4のサンプルの算術平均粗さRaの約0.4〜0.6倍であることがわかる。参考例1〜3のシード層の膜厚が参考例4のシード層の2倍であることを考慮すると、スピネル構造(a)または(b)、あるいは逆スピネル構造(c)のシード層が著しく高い表面平坦化効果を示すことがわかる。
【0081】
以上の参考例の比較を踏まえた上で、FePt−25体積%Cグラニュラー構造を有する磁気記録層30を含む実施例1、2および4ならびに比較例1を比較すると、スピネル構造(a)または(b)、あるいは逆スピネル構造(c)のシード層の表面平坦化効果によって、磁気記録層30の表面もまた平坦化されていることがわかる。FePt−40体積%Cグラニュラー構造を有する磁気記録層30を含む実施例5および比較例2の比較においても、同様である。なお、実施例1および2から、磁気記録層30の表面の平坦化は、異なる膜厚のMgCr
2O
4シード層によっても達成されていることがわかる。さらに、FePt非グラニュラー構造を有する磁気記録層30を含む実施例7A、8A、および9ならびに比較例3および4の比較においても、スピネル構造(a)または(b)、あるいは逆スピネル構造(c)のシード層の表面平坦化効果によって、磁気記録層30の表面もまた平坦化されていることがわかる。
【0082】
実施例1〜4と比較例1との比較、ならびに実施例6と比較例2との比較から、スピネル構造(a)または(b)、あるいは逆スピネル構造(c)のシード層を用いた実施例1〜4および6の垂直方向のヒステリシスループのα値が、MgOシード層を用いた比較例1および2の値よりも良好であった。このことから、実施例1〜4および6の磁気記録媒体の磁気記録層30が、望ましいグラニュラー構造を有することが分かる。望ましいグラニュラー構造とは、磁性結晶粒が磁気的に良好に分離され、かつ二次成長による結晶粒が存在しない構造を意味する。この結果は、小さい算術平均粗さRaを有するスピネル構造(a)のシード層(MgCr
2O
4)または逆スピネル構造(c)のシード層(Mg
2TiO
4)が異常突起の少ない平滑な表面を提供し、磁気記録層30の形成条件を望ましいものとしたためと考えられる。
【0083】
さらに、(1)実施例1および2と、比較例1との比較、(2)実施例5と比較例2との比較、(3)実施例7Aと比較例3との比較、ならびに(4)実施例7Bと比較例4との比較から、MgCr
2O
4シード層を用いた実施例の磁気記録媒体の面内方向の保磁力Hc
IPは、MgOシード層を用いた比較例よりも小さい値を示した。このことは、MgCr
2O
4シード層の算術平均粗さが小さいことにより、FePt磁性結晶粒のc軸の面内方向への配向が減少したためと考えられる。一方、(5)実施例3および4と、比較例1との比較、(6)実施例6と比較例2との比較、(7)実施例8Aと比較例3との比較、ならびに(8)実施例8Bと比較例4との比較から、Mg
2TiO
4シード層を用いた実施例の磁気記録媒体の面内方向の保磁力Hc
IPは、MgOシード層を用いた比較例よりも若干増大する傾向があることが分かる。しかしながら、実施例の磁気記録媒体における面内方向の保磁力Hc
IPの増加は、磁気記録媒体の性能に影響を与えるほどの大きさではない。
【0084】
また、実施例1〜4、および6〜9の磁気記録媒体は、高密度での磁気記録を可能にするために十分な大きさの磁気異方性定数Kuを有した。一般的に、磁気記録媒体に記録された信号の熱安定性はKuV/k
bTの式(式中、Vは磁性結晶粒の体積を表し、kbはボルツマン定数を表し、Tは絶対温度を表す)で表され、熱的に安定な記録信号を得るためには、一般的にKuV/k
bTが60より大きいことが必要であるとされている。磁気記録層の膜厚を現行の磁気記録媒体と同等の10nmと仮定し、磁気異方性定数Kuが1.14×10
7erg/cm
3(1.14J/cm
3)と仮定すると、磁性結晶粒の粒径を5.4nmまで縮小しても、KuV/k
bT>60の関係が維持される。さらに、1ビットの記録信号を6個の磁性結晶粒で構成する場合を仮定すると、5nmの粒径を有する場合に、1.2テラビット毎平方インチの記録密度を達成できる。よって、実施例1〜4および6〜9の磁気記録媒体の磁気異方性定数Kuの値は、現行の磁気記録に用いられているものよりも高い記録密度を達成可能であると考えられる。
【0085】
さらに、実施例7A、7B、8A、および9と、比較例3および4との比較から、スピネル構造(a)または(b)、あるいは逆スピネル構造(c)のシード層を有する実施例7A、7B、8A、および9の磁気記録媒体は、MgOからなるシード層を有する比較例3および4の磁気記録媒体よりも良好な垂直方向のヒステリシスループのα値を示した。この点から、非グラニュラー構造の磁気記録層を有する磁気記録媒体においても、スピネル構造(a)または(b)、あるいは逆スピネル構造(c)を有するシード層を用いることにより、その磁気特性を向上させることができることが分かる。