【実施例】
【0072】
(実施例1) レンチウイルスベクタープラスミドの作製
(1) レンチウイルスベクタープラスミドの設計
作成するベクターの概略図を
図1に示す。ベクターの基盤としてレンチウイルスベクターを使用し、プロモーター部分に以下のようなリコンビネーションカセット(RC)を用いた。これはΛファージが大腸菌染色体へ侵入する際に関与する部位特異的組換えシステムを利用し、ベクター間で改変したatt配列に挟まれたDNA配列の交換反応を行う(James,L.ら (2000)Genome Res.10: 1788−1795)。RC部分は組換え時に特異的に相互作用するDNA配列(att R配列)が両端にあり、その間にクロラムフェニコール耐性遺伝子(CMR)と大腸菌自殺遺伝子であるccdBを有する。RCをプロモーター部位に挿入したレンチウイルスベクターと、様々なプロモーター配列をRCのatt R配列に対応するatt L配列間にクローニングした遺伝子組み換え用シャトルベクタープラスミドを作製した(
図1及び
図2A)。レンチウイルスベクターのatt R配列とシャトルベクターのatt L配列とを反応させるLR clonaseを使用することにより、レンチウイルスベクターにプロモーター配列を組換えることを可能とした(
図2B)。これにより、様々なプロモーターを簡便に入れ替えることができ、各種プロモーターの未分化細胞/腫瘍化細胞における活性について検証を行うことを可能とした。
【0073】
(2)蛍光タンパク質−2A−自殺遺伝子
プロモーター部分の下流に目的細胞への遺伝子導入を可視化するための蛍光タンパク質(
図3及び8)と、遺伝子が導入された細胞を薬剤により選択的に殺傷可能とするための自殺遺伝子(
図5及び8)とを組み合わせた遺伝子カセットを挿入した(
図1及び7−9)。
【0074】
蛍光タンパク質としては、近赤外蛍光タンパク質であるTAGFP635の100倍程度の蛍光強度を持つmKate2、及び発光クラゲに由来する緑色蛍光タンパク質であるGreen Fluorescent Protein(GFP)の発光効率などが改良されたVenusの2種類を使用し、目的に応じて使い分けられるようにした。
【0075】
自殺遺伝子としては、以下の3種類を使用した。
(I)HSV−tk
HSV−tkはGCVに感受性があり、自殺遺伝子として働くことが報告されている(Yasuhiro TERAZAKIら(2003) Hepatology 37:155−63)。HSV−tk発現細胞をGCVを含む培地で培養すると、GCVはHSV−tkによりリン酸化され、さらにヒト細胞内の内在性キナーゼによりリン酸化され、最終的に強い毒性を有するガンシクロビル三リン酸(GCV−3P)となり、GCV−3PはDNA合成を阻害するためHSV−tk遺伝子導入細胞が死滅する。一方、HSV−tkを発現しない細胞ではGCVはGCV−3Pに変換されないため毒性を示さない。さらにこのシステムの長所として、上記のようにGCV−3Pの細胞殺傷作用はDNA合成阻害であるため、多くの正常細胞は体内では細胞分裂はしていないか限定的であるため、例え正常細胞にHSV−tkが導入されて発現しても細胞障害は無いか軽微であり、異常に恒常的な細胞分裂が起こっている腫瘍細胞を優位に特異的に殺傷していくという、高度な腫瘍選択制が上げられる。よってHSV−tk遺伝子を腫瘍特異的プロモーター、あるいは未分化特異的プロモーターで発現させた場合、そのプロモーターの特異性とHSV−tk/GCV自体の特異性という二重の特異性により、非常に高度な腫瘍細胞や幹細胞の未分化細胞に対する特異性を保持させることが期待できる。またHSV−tkのもう一つの利点として腫瘍細胞に対してはバイスタンダード効果という、HSV−tk遺伝子が導入されていない周辺の腫瘍細胞の多くも殺傷されるという強力な腫瘍治療効果がよく知られている。従って、HSV−tkとGCVとの組み合わせにより、細胞分裂が旺盛な細胞(腫瘍細胞や幹細胞の未分化細胞など)選択的に殺傷作用を強力に引き起こすことができる。
【0076】
(II)human−tmpk/AZT
HSV−tkは非常に高い殺傷効果を有するが、単純ヘルペス由来であるためヒトの体内において免疫応答が起こり、細胞内に導入された遺伝子を排除するという問題も推察される。そこで、ヒト由来の酵素Thymidylate Kinase(tmpk)と3’−azido−3’−deoxythymidine(AZT)とを組み合わせる方法についても検討を行った。プロドラッグであるAZTは、リン酸化されてAZT三リン酸(AZT−3P)に変換される。AZT−3Pはヒト免疫不全ウイルス(HIV)の複製や、真核生物のDNAの合成を阻害する(Fei CHENら (2013) Biomaterials 34:1701−11)。AZTから毒性を持つAZT−3Pへの転換における律速酵素は、AZT一リン酸(AZT−MP)からAZT二リン酸(AZT−DP)への変換を触媒する細胞性Thymidylate Kinase(tmpk)である。tmpkの酵素効率は低いが、最小限に遺伝子改変を加えてAZT−MPへの作用が200倍であるtmpk(F105Y)が報告されている(13;14)。本実験においては、この遺伝子改良型tmpkを使用した。またtmpkは自殺遺伝子としての上記のHSV−tkに記載した長所は全て保持していると思われ、さらなる長所として、さらに高い腫瘍細胞や未分化細胞の殺傷効果と、異種蛋白由来の免疫誘導がない、ということが考えられる。但しtmpkを幹細胞に応用した報告は、当該発明のベクターシステムに限らずこれまで全くない。
【0077】
(III)iCaspase9/Dimeriser
上述の2遺伝子と異なり、アポトーシスを誘導することで細胞死を引き起こす遺伝子である。Caspaseはアポトーシスのシグナル伝達を構成している。ミトコンドリアからのカスパーゼ経路の初期に関わるCaspase−9は、通常AKTなどによりリン酸化され不活性化された状態にある。ミトコンドリアからの刺激により不活性型のCaspase−9が活性化され、Caspase−3やCaspase−7を活性化することでアポトーシスを引き起こす。Caspase−9の活性化を任意のタイミングで制御するため、薬剤誘導性のCaspase−9の活性化システムを用いた。これはCaspase−9遺伝子とヒトFK506結合蛋白(FKBP)蛋白遺伝子の融合タンパク質であるiCaspase9(iCasp9)を目的細胞に遺伝子導入・発現させた後、FKBPと結合する細胞膜透過性低分子化合物であるAP20187(クロンテック社)を培地に添加して、Caspase−9二量体を形成させ、活性化させることによりアポトーシスを誘導し、細胞死を引き起こすことができる(Carlos A Ramosら(2010)Stem Cells28:1107−15)。
【0078】
(3)HSV−tk又はhuman−tmpkを有するレンチウイルスベクタープラスミドの構築
プラスミドの構築は、以下に詳細を示すように2段階に分けて行った。即ち、リコンビネーションカセット(RC)を挿入したレンチウイルスベクターの作製(
図1A)と、蛍光タンパク質−2A−自殺遺伝子カセットの作製(
図1B)とを行い、これを最終的に組み合わせてレンチウイルスベクタープラスミドとした(
図1C)。
【0079】
(3−1)pLenti6−RC−BIsの作製
レンチウイルスベクタープラスミドであるpLenti6−V5−RC−LacZ(Invitrogen社)をMluIサイトで切断し、V5−LacZ領域を除去したものを基本のベクタープラスミドとした。制限酵素で切断した後に平滑末端化を行い、Gateway(登録商標)プラスミド(Invitrogen社)からリコンビネーションカセット部分を挿入して、pLenti6−RC−BIsを構築した(
図2)。このカセット部位にリコンビネーション反応を用いて種々のプロモーター配列を挿入することができる。
【0080】
(3−2)蛍光タンパク質−2A−自殺遺伝子(HSVtk/human−tmpk)カセットの作製
上述において作製したpLenti6−RC−BIsのRCカセットの下流に挿入するための遺伝子カセットを以下の方法により作製した。遺伝子カセットは、蛍光タンパク質と自殺遺伝子が2A配列を介して結合されたものとした。
【0081】
(A)蛍光タンパク質−2A
赤色蛍光タンパク質mKate2及び緑色蛍光タンパク質Venusの2種類を使用した。mKate2は、5’側にAgeI、3’側にBGI IIサイトを付加したプライマーを設計し(表1)、PCR法により増幅した後、PCR産物クローニング用ベクターであるpGEM−Teasy vector(Invitrogen社)にクローニングしてpGEM−Teasy−mKate2を構築した(
図3A)。クローニング後、pGEM−Teasy vector内のクローニング部位の両端にあるプライマー配列より、5’側のT7及び3’側のM13Rを用いてシークエンス解析を行った。次に、pGEM−Teasy−mKate2から、NotI/BglIIでmKate2を切り出した(
図4A)。5’側にBglII、3’側にBamHIサイトの突出末端を持つ合成二本鎖2A配列DNAオリゴをBglII/BamHIで切断したpFlag−CMV−2(SIGMA)へ挿入したpFlag−CMV−2Aを構築し、このpFlag−CMV−2Aも同様にNot I/BglIIで切断し、CMVプロモーターと2A配列の間にmKate2を挿入してpFlag−CMV−mKate2−2Aを構築した(
図4A)。
【0082】
Venusも同様に5’側にNotI、3’側にBamHIサイトを付加したプライマーを設計して(表1)、PCR法により増幅した後、pGEM−Teasy vectorにクローニングしてpGEM−Teasy−Venusを構築した。クローニング後、前記プライマーを用いてシークエンス解析を行った。次に、pGEM−Teasy−Venusから、NotI/BamHIサイトでVenusを切り出し(
図4B)、mKate2と同様にpFlag−CMV−2Aに挿入してpFlag−CMV−Venus−2Aを構築した(
図4B)。
【0083】
(B)自殺遺伝子(HSV−tk、human−tmpk)
HSV−tkは、プライマーを作製して(表1)、PCR法により増幅した後、クローニング用ベクターであるpGEM−Teasy vectorにクローニングしてpGEM−Teasy−HSV−tkを構築した(
図3)。クローニング後、mKate2、Venusと同様に前記プライマーでシークエンス解析を行った。次に、pGEM−Teasy−HSVtkを、HSV−tkの3’側のSPEIで切断した後、平滑末端化し、HSV−tkの5’側のBamHIで切断してHSV−tkを得た(
図5A)。
【0084】
human−tmpkは、HSV−tkと同様にプライマーを作製して(表1)、PCR法により増幅した後、pGEM−Teasy vectorにクローニングしてpGEM−Teasy−human−tmpkを構築した(
図3D)。クローニング後、mKate2−Venusと同様に前記プライマーを用いてシークエンス解析を行った。次に、pGEM−Teasy−human−tmpkから、5’側のBamHIと3’側のSmaI(blunt end)で切断することにより、human−tmpkを得た(
図5A)。
【0085】
【表1】
【0086】
(C)蛍光タンパク質−2A+自殺遺伝子
(B)で得られた遺伝子断片を(A)で作製したプラスミドに挿入し、蛍光タンパク質−2A−自殺遺伝子の発現カセットを持つベクタープラスミドの作製を行った。
pFlag−CMV−mKate2−2A及びpFlag−CMV−Venus−2Aは、3’側BstXIで切断した後、平滑末端化し、5’側をBamHIで切断して切り出した(
図5B)。(B)で得られたHSV−tk又はhuman−tmpkを2Aの3’側へ挿入し、4種類のプラスミド、pFlag−CMV−mKate2−2A−HSVtk、pFlag−CMV−mKate2−2A−tmpk、pFlag−CMV−Venus−2A−HSVtk、及びpFlag−CMV−Venus−2A−tmpkを構築した。
【0087】
(3−3)pLenti6−RC−BIs+蛍光タンパク質−2A−自殺遺伝子のプラスミド作製
上述のとおり作製したRCカセットを持つpLenti6−RC−BIsに、上述のとおり作製した蛍光タンパク質−2A−自殺胃遺伝子の発現カセットを挿入し、モニターベクタープラスミドを完成させた。
pLenti6−RC−BIsを3’側KpnIで切断した。human−tmpkを持つplasmidとのライゲーション用に、5’側をAgeIで切断した(
図6A)。また、HSV−tkを有する2種類のプラスミドとのライゲーションに使用するために、3’側をKpnIで切断後、平滑末端化を行い、5’側をAgeIで切断した(
図7A)。
また、pFlag−CMV−mKate2−2A−tmpk、及びpFlag−CMV−Venus−2A−tmpkは、5’側をAgeI、3’側をKpnIで切断し、それぞれ、mKate2−2A−tmpk、及びVenus−2A−tmpk部分を切り出した(
図6B)。HSVtkは内部にKpnI切断サイトを持つため、pFlag−CMV−mKate2−2A−HSVtk、及びpFlag−CMV−Venus−2A−HSVtkは5’側をAgeI、3’側をPmeI(ブラントエンド)で切断し、それぞれ、mKate2−2A−HSVtk、及びVenus2−2A−HSVtkを切り出した(
図7B)。
これらをそれぞれ組み合わせてライゲーションすることにより、pLenti−RC−mKate2−2A−tmpk、pLenti−RC−Venus−2A−tmpk、pLenti−RC−mKate2−2A−HSVtk、及び、pLenti−RC−Venus−2A−HSVtkを作製した。
【0088】
(4)iCaspase9を有するレンチウイルスベクタープラスミド(pLenti6−iCaspase9−2A−蛍光タンパク質)の構築
induced−Caspase9(iCasp9−2Aの配列を持つプラスミド(Brenner博士から譲渡)から、iCasp9−2Aの領域をサブクローニングし、In−Fusion(登録商標)HD Cloning KIT(TAKARA BIO社)を用いてプラスミドを構築した。本KITはPCRで調整したDNA断片や線状化したベクターを、各DNA断片末端の相同な15塩基を正確に認識してクローニングすることができ、複数のDNA断片をあらゆるベクターへ迅速にクローニングできる(Zhu Bら (2007)Biotechniques. 43(3):354−9)。そこで、記述のpLenti6−RC−BISのRCの下流にiCasp9−2A−Venus又はiCasp9−2A−mKate2を挿入するため、iCasp9−2Aの前後、及びVenusとmKate2の前後にそれぞれお150bpのプライマーを設計し、PCRを行った(
図8、表2)。
その後、pLenti6−RC−BIs、iCasp9−2AのDNA配列と、Venus又はmKate2を混合して酵素反応させることにより、2種類のプラスミド、pLenti6−RC−iCasp9−2A−Venus、及びpLenti6−RC−iCasp9−2A−mKate2を完成させた。
【0089】
【表2】
【0090】
(5)プラスミドの機能確認
蛍光タンパク質−2A−自殺遺伝子の発現カセットを持つプラスミドは、作成の各段階でHEK293細胞に導入して評価することにより、蛍光の発現確認を行った。HSK293細胞は6ウェルプレートに6×10
5細胞/ウェルで播種し、翌日にプラスミドを2mg/ウェルで、Polyfect Transfection Reagent Kit(QIAGEN社)を用いて製造者提供のプロトコルに従って遺伝子導入を行った。遺伝子導入の48時間後に蛍光顕微鏡で蛍光の発現を確認した。
【0091】
(6)結果
pFlag−CMV−mKate2−2, pFlag−CMV−Venus−2AをHEK293細胞に導入し、蛍光タンパク質の発現について評価を行った結果、恒常性プロモーターであるCMVの制御下で、mKate2及びVenusが正常に発現することが確認された(
図9)。また、pFlag−CMV−mKate2−2A−HSVtk、pFlag−CMV−Venus−2A−HSVtk、pFlag−CMV−mKate2−2A−Human tmpk、及びpFlag−CMV−Venus−2A−Human tmpkについても同様にHEK293細胞に導入し、蛍光タンパク質及び自殺遺伝子の発現について評価を行った結果、mKate2及びVenusが正常に発現することが確認された(
図10A及び
図10C)。また、自殺遺伝子は各遺伝子に対応する薬剤を加えたところ、薬剤の濃度依存的に細胞傷害効果がみられた(
図10A〜D)。
【0092】
(実施例2) ヒト培養細胞における自殺遺伝子の細胞毒性効果の検証
ヒト培養細胞における自殺遺伝子の細胞毒性効果を検証するため、HSV−tk、human−tmpk、及びiCaspase9の3種類の自殺遺伝子を発現するウイルスベクターを細胞に感染させた後、それぞれに対応する薬剤を加えて各細胞に対する毒性効果を比較した。HSV−tkは既に作製済みのアデノウイルスベクターを使用した(Yasuhiro Terazakiら(2003)Hepatology 37;155−63)。human−tmpk及びiCaspase9は、それぞれ、Medin博士に譲渡頂いたプラスミドpHR’−cPPT−EF−Tmpk(F105Y)(Takeya Satoら(2007)Mol Ther 15:962−70)、及びbrenner博士に譲渡頂いたプラスミドiCasp9−2A−DCD19RRF(CARLOS A RAMOSら(2010)STEM Cells 28;1107−15)を使用した。これらのプラスミドを直接細胞に導入し、又はレンチウイルスベクターを産生して使用した。
【0093】
(1)細胞培養
ヒトiPS細胞として、ヒト成人繊維芽細胞(HDF)由来で、OCT3/4、KLF4、SOX2及びc−Mycの4因子を導入して樹立された201B7、及びHDF由来でc−Myc以外の3因子を導入して樹立された253G1を使用した。また、マウスES細胞としてD3細胞を使用した。ヒトES細胞は、KhES1(京都大学より譲渡)を使用した。また、ヒト正常繊維芽細胞(BJ)、ヒト癌細胞(ヒトTリンパ腫細胞株Jurkat、ヒト胃癌細胞MKN45)を使用した。ヒトiPS/ES細胞はマイトマイシンC処理したマウス胎仔繊維芽細胞(MEF)上で共培養した。マウスES細胞はゼラチンコートしたディッシュ上で培養した。 各細胞の培養に使用した培地は以下のとおりである:
(ヒトiPS/ES細胞)
20% KSR(Invitrogen社)、200mM L−Glutamine、0.1mM Non Essential Amino Acid(Sigma社)、0.1mM 2−Mercaptoethanol(Sigma社)、5ng/mL Basic−Fgf(Wako社)、Penicillin/Streptomycin(P/S)(Nacalai Tesque)含有 DMEM−F12(Sigma社)
(マウスES細胞)
20% Fetal Bovine Serum(FBS)(GIBCO社)、0.1mM Non Essential Amino Acid、1mM Sodium Pyruvate(Gibco社)、70μM 2−Mercaptoethanol、1×10
3unit/mL LIF mouse recombinant(ナカライ社)、P/S含有 DMEM(SIGMA社)
(Jurkat細胞及び MKN45細胞)
10% FBS(Bio West社)及びP/S含有 RPMI−1640(SIGMA社)
(BJ細胞)
10% FCS、200mM L−Glutamine(Gibco社)、0.1mM Non Essential Amino Acid、1mM Sodium Pyruvate、P/S含有 Minimum Essential Medium Eagle(Sigma社)
【0094】
ウイルス感染実験に用いる未分化ヒトiPS、ES細胞は、無フィーダー分散培養を行った。無フィーダー分散培養に用いるConditional Medium(CM)としては、マイトマイシンC処理を施したMEF(1.5×10
6細胞/10CMディッシュ)の培地を、ヒトES細胞用培地(BFGF−)に置き換えて37℃のインキュベーター内で一晩培養した後、その上清を使用した。
KhES1は、ROCK阻害剤(Y27632、WAKO社)を用いて、単一分散培養を無フィーダー下で行い、ウイルス感染実験に用いた。24ウェルプレートに無血清培地(DMEM−F12)で40倍に希釈したgrowth Factor Reduced BD Matrigel(BD Bioscience社)を加え、37℃のCO
2インキュベーター内で1時間以上静置し、マトリゲルコート処理を行った。6CMディッシュのKhES1の培地を新しい培地2mLに交換し、最終濃度が10mmとなるようにY27632を加え、37℃のCO
2インキュベーターにて1時間以上培養した。Y27632処理ヒトES細胞を2mLのPBSで洗浄し、ヒトES細胞用解離液(CTK)を0.4mL加え、37℃で5分静置した後、10mm Y27632含有ヒトES細胞用培地を2mL加えてピぺッティングにより細胞塊を単一細胞に分散させた。細胞数をカウントし、必要量のKhES1を遠心(1000rpm、5分)して、CMに懸濁させ、マトリゲルコート処理したプレートに播種した。
【0095】
(2)レンチウイルスの産生
レンチウイルスベクターとして、PHR−CPPT−EF−tmpk(human−tmpk発現用)、iCasp9.2A.DCD19.RRF(iCasp9発現用)、及びCMV−EGFPを使用した。PHR−CPPT−EF−tmpk、及びiCasp9.2A.DCD19.RRFは自殺遺伝子と同時にCD19を発現することから、各自殺遺伝子の発現は抗CD19抗体により確認することができる。CMV−EGFPは、レンチウイルスベクターの力価確認のために用いた。
POLY−L−LYSINE(SIGMA社)でコートした6ウェルプレートにHEK293T細胞を6×10
5細胞/ウェルで播種した。翌日、各レンチベクタープラスミド0.5mgにPLP1,PLP2、及びPLP−VSVGを混合し、50mLのOPTI−MEMを添加した後、FUGENE HD(PROMEGA社)を6mL加え、voltexした後、室温で15分静置した。この全量を1ウェルに添加してトランスフェクションし、24時間後に培地を10%FCS/DMEM,P/S(−)と交換し、48及び72時間後の2回、上清を回収した(6ウェルプレート各2mL×4ウェルで2回回収、合計16mL)。これをLenti−X Concentrator Kit(Clonetech社)を用いて製造者提供のプロトコルに従い、100倍に濃縮した。
【0096】
(3)レンチウイルスの感染
感染前日に、各細胞を以下の細胞数で24ウェルプレートに播種した:
KhES1細胞 4×10
4細胞/ウェル
Jurkat細胞 1.25×10
5細胞/ウェル
MKN45細胞 2×10
4細胞/ウェル
HEK293T細胞 5×10
4細胞/ウェル
ウイルス感染当日、4mg/mLのポリブレンを含む培地に交換し、各レンチウイルスベクターを20mL添加して24時間感染させた。全ての細胞の培地を24時間後に交換し、更に培養を続けた。EGFP発現レンチウイルスベクターを感染させた細胞は、感染72時間後にフローサイトメーター(Cyan Adp Analyzer、ベックマンコールター社)で評価し、産生したウイルスベクターの力価を計算した。
【0097】
(4)フローサイトメトリー分析(FACS)によるCD19発現細胞の分取
human−tmpk発現レンチウイルスベクターを感染させた細胞について、FACS ARIA II(BD社)を使用して感染細胞(CD19陽性細胞)を分取した。
KhES1は、10mm Y27632を含む培地で一晩培養したKhES1をCTKで処理した後、単一細胞へと分散させた。細胞数をカウントした後、必要量の細胞を遠心(1000rpm、5分)し、10mm Y27632含有PBSに再懸濁させた。未分化細胞標識抗体である、Alexa Fluor 488 anti−Human SSEA4(BIOLEGEND社)及びanti−Human CD19−APC(EBIOSCIENCE社)を、細胞懸濁液100mL(1×10
6細胞)あたり5mL加え、氷上で10分毎に細胞を懸濁しながら30分間静置して細胞のラベリングを行った。10mm Y27632含有PBSで1回洗浄後、10mm Y27632含有ES用培地に懸濁させ、両抗体に標識されたKhES1を未分化なCD19陽性細胞としてフローサイトメーターで評価した。
Jurkat、MKN45については、細胞数のカウント後、必要量の細胞を遠心(1000rpm、5分)し、10%FCS含有PBSに再懸濁させた。細胞懸濁液100mL(1×10
6細胞)あたり5mLのanti−Human CD19−APC(EBIOSCIENCE社)を加え、氷上で10分毎に細胞を懸濁しながら30分間静置して細胞のラベリングを行った。10%FCS含有PBSで1回洗浄後、10%FCS含有PBSに懸濁し、標識されたJurkat、及びMKN45をCD19陽性細胞としてフローサイトメーターで評価した。
フローサイトメーターでCD19陽性細胞を確認後、細胞を増やし、再び上記プロトコルに従って抗体で標識した後、BD FACSARIA IIにより陽性細胞の分取を行った。KhES1は、SSEA4及びCD19両陽性な細胞を、Jurkat及びMKN45はCD19陽性細胞を分取した。分取した細胞は直ちに遠心(1000rpm、5分)し、新しい培地に再懸濁させ、KhES1についてはMEF細胞と共培養を行った。Jurkat、MKN45については、通常培養を行った。
【0098】
(5)in vitroにおける細胞毒性効果の検証
各細胞における自殺遺伝子の細胞毒性を評価するため、HSV−tk、human−tmpk、及びiCaspase9を細胞に導入し、薬剤を加えて細胞の殺傷効果を比較検討した。HSV−tkについては、既に作製済みのHSV−tkアデノウイルス(Ad.CAG−HSV−tk)を用いた。human−tmpk、及びiCasp9は、プラスミドを細胞に導入した。各細胞を以下の細胞数で24ウェルプレートに播種した:
KhES1細胞 4×10
4細胞/ウェル
MKN45細胞 2×10
4細胞/ウェル(tmpk、iCasp9のみ)
BJ細胞 1×10
4細胞/ウェル
翌日、Ad.CAG−HSV−tkをMOI=10で感染させ、24時間後に培地交換した後、GCV(10mg/mL)を10mL、4日間投与した。human−tmpk、及びiCasp9は、各プラスミド0.5mgをOPTI−MEM25mLに加え、FUGENE HD(QIAGEN社)2mLを添加して、voltexした後、15分静置したものを全量投与した。24時間後に培地交換した後、human−tmpk導入細胞にはAZTを0,30,100,300mmで各ウェルに3日間投与した。iCasp3にはDimerizerを0,0.03,0.1,0.3mmで各ウェルに3日間投与した。薬剤投与後、細胞毒性効果の測定は生細胞数の測定により行った。測定当日、KhES1はCTK処理し、単一細胞へと分離した後、10mLを採取した。Jurkatは細胞懸濁後10mLを採取し、MKN45はトリプシンで処理し、細胞懸濁後10mLを採取した。採取した細胞懸濁液のそれぞれにトリパンブルー10mLを加え、生細胞数をカウントした。
【0099】
また、human−tmpkについては、レンチウイルスベクターを感染させ、CD19を指標として分取した恒常発現細胞を用いて同様の実験を行った。細胞は次の細胞数で24ウェルプレートに播種した:
Jurkat−tmpk/NC 1×10
5細胞/ウェル
MKN45細胞−tmpk/NC 2×10
4細胞/ウェル
翌日よりAZTを0,0.1,1,10,100,1000mmで各ウェルに3日間投与し、上述の方法で生細胞数をカウントした。
【0100】
(6)結果
コントロールであるAd.CAG−HSV−tk感染KhES1細胞は、GCV投与により傷害を受けた一方、GCV非投与ではそのような傷害は受けていなかった
(
図11A)。BJでは、GCV非投与で障害がみられず、GCV投与による細胞障害はKhES1と比較してわずかであった(
図11B)。
pHR−CPPT−EF−tmpk(F105Y)導入KhES1では、低濃度のAZT投与でも細胞傷害効果がみられ、アデノウイルスベクターで導入したHSV−tk(
図11A)とほぼ同様の殺傷効果を示した(
図12A)。AZT高濃度投与ではhuman−tmpk非導入細胞でも細胞傷害が観察された。BJでは、human−tmpk導入/非導入細胞間で細胞傷害に差は見られなかった(
図12B)。MKN45では、未分化細胞同様、AZT投与により低濃度でも細胞傷害効果がみられ、高濃度ではhuman−tmpk非導入細胞でも細胞傷害が確認された(
図12C)。しかし、iCasp9.2A.DCD19.RRFを導入したKhES1、BJ、及びMKN45については、いずれもほとんど変化が見られなかった。
【0101】
プラスミドによる一過性の発現で薬剤感受性に効果がみられたhuman−tmpkについて、恒常発現株を作製し、更に解析を行った。PHR−CPPT−EF−tmpk(F105Y)からhuman−tmpkとCD19とを発現するレンチウイルスベクターを産生し、細胞に感染させ、CD19陽性を指標に分取した。KhES1、Jurkat、及びMKN45細胞を分取、増殖後、再度抗CD19抗体を用いてフローサイトメーターで解析したところ、分取前と比較して高い割合でCD19陽性細胞が存在することが確認された(
図14A〜C)。これらの感染細胞にAZTを投与したところ、Jurkatでは薬剤依存的に細胞傷害効果が増強する傾向がみられ、高濃度になるとhuman−tmpk非導入細胞でも細胞障害が確認された(
図15A及びC)。MKN45では、Jurkatに比べ、濃度依存的な殺傷効果はみられず、高濃度ではhuman−tmpk非導入細胞でも細胞障害が起きていた(
図15B及びC)。
【0102】
(実施例3)作製したレンチウイルスベクタープラスミドを用いたヒト培養細胞における自殺遺伝子の細胞毒性効果の検証
ヒト培養細胞における自殺遺伝子の細胞毒性効果を検証するため、まず実施例1で作成したRCを含むレンチウイルスベクタープラスミドに、リコンビネーションにより各種プロモーターを挿入してプラスミドを完成させた。これらのプラスミドよりレンチウイルスベクターを産生し、細胞に感染させた後、それぞれに対応する薬剤を加えて各細胞に対する毒性効果を比較した。
【0103】
(1)シャトルベクタープラスミドへのプロモーターのサブクローニング
各種プロモーターをpENTR−vector(LIFE TECHNOLOGIES社)に挿入したものを作製した(
図15)。pENTR−vectorはattL配列を含んでおり、LR clonaseでpLenti6−RCと反応させることにより、プロモーターをRC内に組み込むためのシャトルベクターとして使用する。サブクローニングずるプロモーターには、未分化特異的プロモーターの候補として、survivin,tert,Rex1,Nanogを、またコントロールとして恒常性プロモーターのCAG,PGKを使用し、それぞれ以下の方法でpENTR−vectorに挿入した。
(A)survivinプロモーター
既に作製済みであったpGEMT−easy−survivinより、survivinプロモーター部分をNotIにより切り出し、pENTR−vectorにクローニングしてpENTR−survivinを構築した(
図15A)
(B)tertプロモーター
既に作製済みであったpGEMT−easy−tertより、tertプロモーター部分をMluI/BglIIにより切り出し、pENTR−vectorにクローニングしてpENTR−Tertを構築した(
図15B)
(C)Rex1プロモーター
既に作製済みであったpGEMT−easy−Rex1より、Rex1プロモーター部分をMunI/Nhe Iにより切り出し、pENTR−vectorにクローニングしてpENTR−Rex1を構築した(
図15C)
(D)Nanogプロモーター
Nanogプロモーター領域の3’側、及び5’側にpENTR−vectorクローニング用の突出末端としてCACCを付加したプライマーを作製して(表3)、PCR法により増幅した後、pENTR−vectorにクローニングしてpENTR−Nanogを構築した(
図15D)
(E)CAGプロモーター
既に作製済みであったpCX−EGFPよりCAGプロモーター部分をSalI/EcoRI(平滑末端化)により切り出し、pENTR−vectorにクローニングしてpENTR−CAGを構築した(
図15E)
(F)PGKプロモーター
PGKプロモーター領域の5’側にpENTR−vectorクローニング用の突出末端としてCACCを付加し、3’側にPstIサイトを付加したプライマーを作製して(表3)、PCR法により増幅した後、pENTR−vectorにクローニングしてpENTR−PGKを構築した(
図15F)
【0104】
【表3】
【0105】
(2)RCを含むレンチウイルスベクタープラスミドへのプロモーター組み替え
図7で示したプラスミドのうち、pLenti6−RC−Venus−2A−HSV−tkのRC部分に、
図15で示した各種プロモーターをリコンビネーションにより挿入した(pLenti6−Promoter−Venus−2A−HSV−tk)。RCを含むレンチウイルスベクタープラスミドと、各プロモーターを含むpENTR vectorプラスミドをそれぞれ合わせて、LRクロナーゼを反応させることでプロモーターをRC部分に挿入した。未分化特異的プロモーターとしてsurvivin,tert,Rex1,Nanogを、またコントロールとして恒常性プロモーターのCAG,PGKをそれぞれ挿入した(
図16A)。また,
図7で示したプラスミドのうち、pLenti6−RC−Venus−2A−human−tmpkのRC部分に、
図15で示した各種プロモーターをリコンビネーションにより挿入した(pLenti6−Promoter−Venus−2A−human−tmpk)。未分化特異的プロモーターとしてsurvivin,tert,Rex1,Nanogを、またコントロールとして恒常性プロモーターのCAG,PGKをそれぞれ挿入したものを作製した(
図16B)。
【0106】
(3)フローサイトメトリー分析(FACS)によるGFP発現細胞の分取
pLenti6−Promoter−Venus−2A−HSV−tkのうち、survivinおよびCAGプロモーターのプラスミドよりレンチウイルスベクターを産生し、感染させた細胞についてFACS ARIA II(BD社)を使用して感染細胞(GFP陽性細胞)を分取した。
KhES1は、10mm Y27632を含む培地で一晩培養したKhES1をCTKで処理した後、単一細胞へと分散させた。細胞数をカウントした後、必要量の細胞を遠心(1000rpm、5分)し、10mm Y27632含有PBSに再懸濁させた。未分化細胞標識抗体である、Alexa Fluor 488 anti−Human SSEA4(BIOLEGEND社)を、細胞懸濁液100mL(1×106細胞)あたり5mL加え、氷上で10分毎に細胞を懸濁しながら30分間静置して細胞のラベリングを行った。10mm Y27632含有PBSで1回洗浄後、10mm Y27632含有ES用培地に懸濁させ、抗体に標識されたGFP陽性細胞を未分化なレンチウイルス感染KhES1としてフローサイトメーターで評価した。
D3細胞はトリプシン処理し、ピぺッティングにより細胞塊を単一細胞に分散させた。細胞数をカウントし、必要量のD3細胞を遠心(1000rpm、5分)して、培地で再懸濁させ、GFP陽性細胞をレンチウイルス感染D3細胞としてフローサイトメーターで評価した。
フローサイトメーターでGFP陽性細胞を確認し、細胞を増やした後、BD FACSARIA IIによりGFP陽性細胞の分取を行った。分取した細胞は直ちに遠心(1000rpm、5分)し、新しい培地に再懸濁させ、KhES1細胞はMEF細胞と共培養を行い、D3細胞はゼラチンコートしたディッシュに播種した。
【0107】
(4)in vitroにおける未分化細胞に対する毒性効果の検証
上記の分取したKhES1細胞およびD3細胞を用いて、GCV投与後の細胞毒性効果について解析を行った。KhES1細胞は、1wellあたり1×10
5個の細胞を96well plateに播種し、翌日より7日間、survivin−Venus−2A−HSV−tk(A),CAG−Venus−2A−HSV−tk(B)、およびHSV−tkを持たないsurvivin−Venus−2A−puromycin(C)、及び非感染細胞(NC)(D)の各群にGCVを0,0.01,0.1,1,10,100mg/mLでそれぞれ毎日、7日間投与した。結果を
図17に示す。D3細胞は、1wellあたり1×10
5個の細胞を96well plateに播種し、翌日より4日間、survivin−Venus−2A−HSV−tk(A),CAG−Venus−2A−HSV−tk(B)、およびHSV−tkを持たないsurvivin−Venus−2A−puromycin(C)、及び非感染細胞(NC)(D)の各群にGCVを0,0.01,0.1,1,10,100mg/mLでそれぞれ毎日、4日間投与した。4日間投与後の細胞毒性効果の測定は、MTT assayの変法であるWST−8 assayを用いて行った。使用した試薬SF(ナカライ社)は高感度水溶性ホルマザンを生成するテトラゾリウム塩;WST−8 [2−(20methoxy−4−nitrophenyl)−3−(nitrophenyl)−5−(2,4−disulgophenyl)−2H−tetrazolium monosodium salt]を発色基質として使用することでこれまでのMTTよりも高感度測定を可能としており、WST−8が細胞内脱水素酵素により還元され、水溶性のホルマザンを生成する。このホルマザンの450nmの吸光度を直接測定することにより生細胞数を測定した(E)。結果を
図18に示す。
【0108】
(5)結果
LV.survivin−Venus−2A−HSV−tk感染KhES1細胞は、コントロールであるLV.CAGと共に、GCV1mg/mLと低用量で十分な細胞毒性効果を示し、細胞がほぼ全滅していた(
図17A,B)。一方で、HSV−tkを持たないLV.survivin−Venus−2A−puromycin感染細胞、および非感染細胞(NC)細胞では同様量で細胞毒性は見られず(
図17C,D)、GCV1mg/mL投与時にHSV−tk依存性の特異的な細胞傷害効果であることが示された。またGCVが10μg/mL以上の高濃度になるとHSV−tk非特異的な細胞毒性が見られた。また、D3細胞でも同等の結果が得られ、特にLV.survivin−Venus−2A−HSV−tk感染D3細胞では、同ウイルス感染KhES1細胞よりも感受性の高い細胞毒性効果を示した(
図18A−E)
【0109】
(6)in vitroにおける分化細胞に対するGCV投与の安全性の検証
上記の分取したKhES1細胞を用いて、分化誘導後にGCV投与を行った際の安全性を確認するための解析を行った。分化誘導は、細胞を1wellあたり3×10
3個の細胞を96well 低接着plateにES培地(LIFを除く)で播種し、1週間培養して胚葉体を形成させた。その後、ゼラチンコートしたディッシュに継代を続け、28日以上培養して十分に分化させて作製した。分化誘導した細胞を1wellあたり1×10
5個の細胞を96well plateに再播種し、翌日より4日間、survivin−Venus−2A−HSV−tk(A),CAG−Venus−2A−HSV−tk(B)、およびHSV−tkを持たないsurvivin−Venus−2A−puromycin(C)、及び非感染細胞(NC)(D)の各群にGCVを0,0.01,0.1,1,10,100mg/mLでそれぞれ毎日、4日間投与した。結果を
図19に示す。
【0110】
(7)結果
LV.survivin−Venus−2A−HSV−tk感染KhES1細胞は、コントロールであるLV.CAGと共に、未分化細胞では毒性効果を示していたが、上述の方法で分化させた細胞ではほとんど障害がみられず、未分化細胞特異的な殺傷効果を示した(
図19A,B)。HSV−tkを持たないLV.survivin−Venus−2A−puromycin感染細胞、および非感染細胞(NC)細胞では未分化細胞と同じく細胞毒性は見られず(
図19C,D)、GCV10mg/mL以上投与時でも未分化細胞に比べて非特異的な殺傷が見られないことから、HSV−tk存在下で、かつ未分化な細胞でのみGCVの毒性が現れることが示された。(
図19A−E)
【0111】
(8)in vivoにおけるレンチウイルス感染ヒトES細胞の分化多能性の検証
上記の分取したKhES1細胞を用いて、レンチウイルス感染後の分化多能性に対する影響がないことを確認するための検証を行った。免疫不全マウスに4×10
6個の細胞を皮下移植して、テラトーマを形成させた。テラトーマが直径5mm以上になったものをそれぞれ取り出し、ホルマリン固定後、パラフィン包埋切片を作製した。各切片は、脱パラフィンした後、HE染色を行った。結果を
図20に示す。
【0112】
(9)結果
LV.survivin−Venus−2A−HSV−tk、及びLV.CA−Venus−2A−HSV−tk感染KhES1細胞のいずれにおいても、三胚葉由来の各細胞が見られ(
図20A−F)、非感染細胞と同等に多能性を維持していることが示された。この結果より、以前の研究で多数報告のあるとおり、レンチウイルス感染が、多能性幹細胞が有する分化多能性に影響しないことが確認された。