特許第6358728号(P6358728)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6358728
(24)【登録日】2018年6月29日
(45)【発行日】2018年7月18日
(54)【発明の名称】核酸検出剤及び核酸検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20180709BHJP
   C08G 61/12 20060101ALI20180709BHJP
   G01N 33/58 20060101ALI20180709BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20180709BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20180709BHJP
【FI】
   G01N33/50 P
   C08G61/12
   G01N33/58 A
   G01N33/483 C
   G01N21/78 C
【請求項の数】6
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2014-33360(P2014-33360)
(22)【出願日】2014年2月24日
(65)【公開番号】特開2015-158425(P2015-158425A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2017年1月27日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 高分子学会予稿集 第62巻 第2号(2013)(第62回高分子討論会の予稿集) 平成25年8月28日発行 発行所 公益社団法人 高分子学会 第62回 高分子討論会 平成25年9月11日〜13日開催
(73)【特許権者】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(74)【代理人】
【識別番号】100189094
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 陽一
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 裕子
(72)【発明者】
【氏名】陸川 政弘
(72)【発明者】
【氏名】山口 絵理佳
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/006357(WO,A2)
【文献】 特開2000−131317(JP,A)
【文献】 Chemical Communications,2013年 6月,Vol.49,Page.5483-5485
【文献】 高分子学会予稿集,2013年 5月,Vol.62, Vol.1,Page.1560 2Pe085
【文献】 高分子,2008年,Vol.57 No.5,Page.368-373
【文献】 European Polymer Journal,2016年,Vol83,Page.367-376
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/50
C08G 61/12
G01N 21/78
G01N 33/483
G01N 33/58
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホニウム側鎖を有する下記式(II)又は(IV)に記載のチオフェン環構成単位から主としてなるポリチオフェン誘導体であって、
チオフェン環どうしの全結合におけるHT結合の割合が98%以上であり且つH−NMR測定において芳香族由来ピークがHT結合型を示すものだけ検出される構造のポリチオフェン誘導体、
を有効成分として含有してなる核酸検出剤であって、以下に記載の感度での二本鎖デオキシリボ核酸の高感度検出が可能である前記核酸検出剤:
(下記式(II)及び(IV)中において、「R11」は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、「R12」は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、「R13」は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、「R14」は炭素数1〜5のアルキレン基、「R2」は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、「X」はハロゲン原子、及び「n」は重合度を示す5〜100の整数、を表す。)
(Tris−HCl緩衝液(0.05M,pH8.0)中に前記ポリチオフェン誘導体0.5mg/mL及び二本鎖DNAを含むように添加し混合して、5分間の超音波処理を行って前記ポリチオフェン誘導体を溶解させ、蛍光スペクトルを測定した場合において、核酸濃度0.01mg/mLの二本鎖DNA検出が可能な感度である。)。
【化1】
【化2】
【請求項2】
前記HT結合の割合が、100%である、請求項1に記載の核酸検出剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の核酸検出剤の製造方法であって、
前記ポリチオフェン誘導体が触媒移動型縮合重合法により合成されてなるポリチオフェン誘導体である、前記製造方法。
【請求項4】
前記触媒移動型縮合重合法における重合工程が、チオフェン環の2位及び5位がハロゲン化された構成単位どうしを、ターボグリニャール試薬及び金属カップリング触媒を用いて縮合重合する工程であることを特徴とする、請求項3に記載の核酸検出剤の製造方法
【請求項5】
請求項1又は2に記載のポリチオフェン誘導体を含んでなることを特徴とする、核酸検出用試薬であって、以下に記載の感度での二本鎖デオキシリボ核酸の高感度検出が可能である前記核酸検出用試薬:
(Tris−HCl緩衝液(0.05M,pH8.0)中に前記ポリチオフェン誘導体0.5mg/mL及び二本鎖DNAを含むように添加し混合して、5分間の超音波処理を行って前記ポリチオフェン誘導体を溶解させ、蛍光スペクトルを測定した場合において、核酸濃度0.01mg/mLの二本鎖DNA検出が可能な感度である。)。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のポリチオフェン誘導体を用いて、下記(A)及び(B)に記載の蛍光強度の差を検出することを特徴とする、核酸の検出方法であって、以下に記載の感度での二本鎖デオキシリボ核酸の高感度検出が可能である前記核酸の検出方法:
(Tris−HCl緩衝液(0.05M,pH8.0)中に前記ポリチオフェン誘導体0.5mg/mL及び二本鎖DNAを含むように添加し混合して、5分間の超音波処理を行って前記ポリチオフェン誘導体を溶解させ、蛍光スペクトルを測定した場合において、核酸濃度0.01mg/mLの二本鎖DNA検出が可能な感度である。)。
(A):前記ポリチオフェン誘導体の励起光を、核酸存在下にて前記ポリチオフェン誘導体に照射した際に、当該ポリチオフェン誘導体から放射される蛍光強度。
(B):前記(A)に記載の励起光と同波長であり且つ同強度の光を、核酸非存在下にて前記ポリチオフェン誘導体に照射した際に、当該ポリチオフェン誘導体から放射される蛍光強度。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定構造を有するポリチオフェン誘導体を利用することにより核酸分子を簡便に且つ感度良く検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
[核酸検出技術の現状と課題]
核酸を簡易に検出する手法としては、臭化エチジウム(EtBr)を利用したインターカレート法が常用されているが、当該物質は発癌性を有する物質であるため、その使用には細心の注意が必要となる。また、励起光として紫外線照射が必要であるため、電気泳動バンド等の回収の際には、標的核酸が損傷してしまうリスクに加えて、危険を伴う操作を実験者に強いることとなる。
そこで、核酸を簡易検出するための様々な試薬開発が行われているが、核酸検出感度、試薬自体の取り扱いの容易性(安全性、物質自体の安定性)、励起光(紫外線)による核酸損傷など、の全体的な利便性を勘案すると、臭化エチジウムの代替試薬の登場には至っていないのが現状である。
また、臭化エチジウムや代替核酸検出試薬の多くは、二本鎖核酸の鎖の間にインターカレートした際の蛍光シフトを検出原理とするため、一本鎖核酸(cDNA、RNA等)の検出感度が劣る点での原理的な課題が内在していた。
【0003】
[ポリチオフェンの特性]
ところで、優れた安定性を示すポリマー分子として‘ポリチオフェン’が知られている。ポリチオフェンは、含硫黄複素環化合物の一種であるチオフェンの重合体であり、その構造上、π共役系を含む分子骨格を有することから、伝導性を示すことが知られている。
そのため、ポリチオフェン及びその誘導体は、伝導性ポリマーとして、様々な分野での応用が期待されている化合物である。
さらに、ポリチオフェンの特徴として、外部刺激(溶媒、温度、電圧、又は他分子との結合など)によって重合構造にねじれが生じると、π共役系が途切れて、伝導性に変化が生じることが知られている。当該伝導性の変化は、ポリチオフェンの光特性(吸収特性による発色、蛍光特性)にも変化を与えることが知られている。
【0004】
しかしながら、ポリチオフェンやその誘導体は、水溶解性が極めて低い物質特性を示すため、核酸を扱う環境との相性は良くない。また、ポリチオフェン分子は、核酸分子の二本鎖にインターカレートする性質は無く、構造上の相互作用は想定できない。
そのため、ポリチオフェンを、核酸分子の存在を検出するための試薬として直接的に使用することは全く想定されてこなかった。
【0005】
[ポリチオフェンに関する従来技術の課題]
なお、ポリチオフェンと核酸に関する従来技術としては、次の文献に記載された技術を挙げることができる。
(1) 一部の特定構造を有するポリチオフェン誘導体では、‘プローブ’となる核酸分子に当該ポリチオフェン誘導体を結合させて、ハイブリダイゼーションを検出する蛍光物質とし使用する例が報告されている(特許文献1 参照)。
しかし、特許文献1に記載の当該ポリチオフェン誘導体は、核酸の存在を直接検出できる分子ではなく、ハイブリダイゼーションによる立体構造の変化を検出できる物質に過ぎない。即ち、当該ポリチオフェン誘導体は、プローブ修飾に用いる蛍光シグナル物質として利用できるに過ぎない物質である。
【0006】
(2) また、ポリチオフェンに水溶性の性質を付与する目的で、アンモニウム側鎖を付与したポリチオフェン誘導体が合成された例が報告されている(非特許文献1 参照)。
しかしながら、当該物質は、低分子のアニオン性有機物質(ヌクレオチド、ATP等のヌクレオシド関連物質)との相互作用による蛍光特性を顕著に示す物質に過ぎない物質である。非特許文献1に記載の当該ポリチオフェン誘導体における蛍光特性の変化は、官能基と低分子の静電気的性質によって、単純に発揮される作用である。
そのため、様々な生体関連物質が混在する条件下において、当該物質を‘核酸分子のみ’を特異的に検出する用途に利用することは、全く想定されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4933458号公報(シグナル増幅による核酸の検出および分析のための方法および組成物)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chun Li, Munenori Numata, Masayuki Takeuchi, and Seiji Shinkai,; A Sensitive Colorimetric and Fluorescent Probe Based on a Polythiophene Derivative for the Detection of ATP.; Angew.Chem. Int. Ed., 44, 6371-6374 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決し、臭化エチジウム法と同程度の核酸検出感度を有するにも関わらず、取り扱いが簡便であり、且つ励起光による核酸損傷の懸念のない、新規核酸検出剤の開発を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題の解決のために研究を重ねた結果、核酸存在下においてホスホニウム側鎖を有するポリチオフェン誘導体に励起光を照射したところ、放射される蛍光強度が特異的に増加することを見出した(第62回高分子学会年次大会講演要旨集, 2Pe085, 2013年)。
【0011】
そこで、本発明者らは、当該知見を踏まえてさらなる鋭意研究を重ねた結果、以下の優れた知見を見出した。
(1) ホスホニウム側鎖を有するポリチオフェン誘導体を合成するにあたり、触媒移動型縮合重合法を採用したところ、得られた当該重合体には‘著しく高い核酸検出能’が付与されることを見出した。
(2) 当該得られたポリチオフェン誘導体は、チオフェン環どうしの結合様式におけるHT結合の割合が極めて高く、‘高立体規則性構造を有するポリマー’であることを見出した。
(3) 当該ポリチオフェン誘導体は、水溶液中で核酸と共存させるのみで、核酸検出が可能となることを見出した。
(4) 当該ポリチオフェン誘導体には、臭化エチジウム法と同程度の核酸検出感度があることを見出した。
(5) 当該ポリチオフェン誘導体の励起光は可視光域の波長であるため、検出対象の核酸を損傷させる懸念がないことを見出した。
(6) 当該ポリチオフェン誘導体と核酸との蛍光放射は、核酸の二本鎖の間にインターカレートによって放射されるものでないため、原理的には、一本鎖核酸に対する感度低減が生じないことを見出した。
(7) 当該ポリチオフェン誘導体は、その構造上、物質としての安定性が高く且つ安全性の高い物質であると認められた。
【0012】
本発明は、これらの知見に基づいてなされたものである。
本願に係る第1発明は、ホスホニウム側鎖を有する下記式(I)〜(IV)のいずれかに記載のチオフェン環構成単位から主としてなるポリチオフェン誘導体であって、
チオフェン環どうしの全結合におけるHT結合の割合が90%以上であるポリチオフェン誘導体、を有効成分として含有してなる核酸検出剤に関するものである。
なお、当該第1発明では、下記式(I)〜(IV)中において、「R11」は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、「R12」は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、「R13」は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、「R14」は炭素数1〜20のアルキレン基、「R2」は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、「X」はハロゲン原子、及び「n」は重合度を示す5〜100の整数、を表す。
【0013】
本願に係る第2発明は、前記HT結合の割合が100%である、前記第1発明に記載の核酸検出剤に関するものである。
【0014】
本願に係る第3発明は、ホスホニウム側鎖を有する下記式(I)〜(IV)のいずれかに記載のチオフェン環構成単位から主としてなるポリチオフェン誘導体であって、
触媒移動型縮合重合法により合成されてなるポリチオフェン誘導体、を有効成分として含有してなる核酸検出剤に関するものである。
なお、当該第3発明では、下記式(I)〜(IV)中において、「R11」は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、「R12」は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、「R13」は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、「R14」は炭素数1〜20のアルキレン基、「R2」は水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基、「X」はハロゲン原子、及び「n」は重合度を示す5〜100の整数、を表す。
【0015】
本願に係る第4発明は、前記触媒移動型縮合重合法における重合工程が、チオフェン環の2位及び5位がハロゲン化された構成単位どうしを、ターボグリニャール試薬及び金属カップリング触媒を用いて縮合重合する工程であることを特徴とする、前記第3発明に記載の核酸検出剤に関するものである。
【0016】
また、本願に係る第5発明は、検出対象である前記核酸が、デオキシリボ核酸である、前記第1〜4発明のいずれかに記載の核酸検出剤に関するものである。
【0017】
本願に係る第6発明は、前記第1〜5発明のいずれかに記載のポリチオフェン誘導体を含んでなることを特徴とする、核酸検出用試薬に関するものである。
【0018】
本願に係る第7発明は、前記第1〜6発明のいずれかに記載のポリチオフェン誘導体を用いて、下記(A)及び(B)に記載の蛍光強度の差を検出することを特徴とする、核酸の検出方法に関するものである。
(A):前記ポリチオフェン誘導体の励起光を、核酸存在下にて前記ポリチオフェン誘導体に照射した際に、当該ポリチオフェン誘導体から放射される蛍光強度。
(B):前記(A)に記載の励起光と同波長であり且つ同強度の光を、核酸非存在下にて前記ポリチオフェン誘導体に照射した際に、当該ポリチオフェン誘導体から放射される蛍光強度。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、臭化エチジウム法と同程度の核酸検出感度を有するにも関わらず、取り扱いが簡便であり、且つ励起光による核酸損傷の懸念のない、新規核酸検出剤を提供することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係るホスホニウム側鎖を有するポリチオフェン誘導体の構造式を一般式にて示した図である。
図2】チオフェン環どうしがカップリングする際に取り得る様式を示した図である。構造式中の「R」は、チオフェン環3位に付加された側鎖を示す。(A):HT結合(2位-5位の結合)。(B):HH結合(2位-2位の結合)。(C):TT結合(5位-5位の結合)。
図3】ポリチオフェン構造と立体規則性の関係を示す図である。構造式中の「R」は、チオフェン環3位に付加された側鎖を示す。(A):高立体規則性構造(主としてHT結合により重合)。(B):低立体規則性構造(HT結合、HT結合、及びTT結合がランダムに重合)。
図4】本発明に係る触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT合成において、各合成反応式を示す図である。 (A):反応式(c1) 3-メトキシチオフェンのメトキシ基に、ブロモアルコキシ側鎖を付与してBPTを合成する反応。(B):反応式(c2) チオフェン環2位及び5位をジブロモ化して、DBrBPTを合成する反応。(C):反応式(c3) ターボグリニャール試薬とNiカップリング触媒を用いた重合反応によりPBPTを合成する反応。(D):反応式(c4) ブロモアルコキシ側鎖を四級ホスホニウム化することによりPTEPPTを合成する反応。
図5】合成例1-4(触媒移動型縮合重合法)にて合成したPTEPPTについて、TOF-MS測定により質量分析して得たマススペクトルの結果図である。(A):平均重合度8のPTEPPTを分析した結果。(B):平均重合度10のPTEPPTを分析した結果。
図6】従来技術である酸化重合法によるPTEPPT合成において、各合成反応式を示す図である。(A):反応式(o1) 3-メトキシチオフェンのメトキシ基に、ブロモアルコキシ側鎖を付与してBPTを合成する反応。(B):反応式(o2) チオフェン環2位及び5位をジブロモ化して、DBrBPTを合成する反応。(C):反応式(o3) 塩化鉄(III)を用いた重合反応によりPTEPPTを合成する反応。
図7】合成例2-3(酸化重合法)にて合成したPTEPPTについて、TOF-MS測定により質量分析して得たマススペクトルである。
図8】試験例3において、酸化重合法PTEPPTに対して1H-NMR測定(測定溶媒:重DMSO)を行い、得られたスペクトルの結果を示した図である。(A):スペクトル全体図。(B):芳香族由来ピークが検出される付近の拡大図。
図9】試験例3において、触媒移動型縮合重合法PTEPPTに対して1H-NMR測定(測定溶媒:重DMSO)を行い、得られたスペクトルの結果を示した図である。(A):スペクトル全体図。(B):芳香族由来ピークが検出される付近の拡大図。
図10】試験例3において、触媒移動型縮合重合法の中間生成物であるPBPTに対して1H-NMR測定(測定溶媒:重クロロホルム)を行い、得られたスペクトルの結果を示した図である。(A):スペクトル全体図。(B):PBPTの分子構造を示す図。図中のアルファベットa〜dは、PBPTの構造における炭素原子の各部位を示す。
図11】図中の(Ab.)で示す曲線(測定数値:左縦軸)は、試験例4において紫外-可視(UV-Vis)光吸収スペクトルを測定した結果である。また、図中の(Fl.)で示す曲線(測定数値:右縦軸)は、試験例5において、吸収極大波長を励起光として照射した際の蛍光スペクトルを測定した結果である。(A):触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT。(B):酸化移動法によるPTEPPT。
図12】試験例6において、紫外-可視(UV-Vis)光吸収スペクトルを測定した結果である。なお、図中の「+DNA」はDNA添加溶液、「+ATP」はATP添加溶液、「+ADP」はADP添加溶液、「+AMP」はAMP添加溶液、「N.A.」は核酸関連物質無添加溶液、を示す。(A):触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT。(B):酸化移動法によるPTEPPT。
図13】試験例6において、各TPEPPTの吸収極大波長を励起光として照射した際の蛍光スペクトルを測定した結果である。図中の「+DNA」はDNA添加溶液、「+ATP」はATP添加溶液、「+ADP」はADP添加溶液、「+AMP」はAMP添加溶液、「N.A.」は核酸関連物質無添加溶液、を示す。(A):触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT。(B):酸化移動法によるPTEPPT。
図14】試験例6において、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPTの吸収極大波長を励起光として照射し、各試料から放射された蛍光を撮影した写真像図である。図中の「+DNA」はDNA添加溶液、「+ATP」はATP添加溶液、「+ADP」はADP添加溶液、「+AMP」はAMP添加溶液、「N.A.」は核酸関連物質無添加溶液、を示す。
図15】試験例7において、紫外-可視(UV-Vis)光吸収スペクトル、および、吸収極大波長を励起光として照射した際の蛍光スペクトル、を測定した結果である。図中の「0.5」はDNA濃度0.5mg/mL、「0.2」はDNA濃度0.2mg/mL、「0.1」はDNA濃度0.1mg/mL、「0.05」はDNA濃度0.05mg/mL、「0.02」はDNA濃度0.02mg/mL、「N.A.」はDNA無添加、の溶液であることを示す。(A):紫外-可視(UV-Vis)光吸収スペクトルを測定した結果。(B):吸収極大波長を励起光として照射した際の蛍光スペクトルを測定した結果。
図16】試験例8において、PTEPPTのゼータ電位を測定した結果である。図中の「0.1」はDNA濃度0.1mg/mL、「0.02」はDNA濃度0.02mg/mL、「0.01」はDNA濃度0.01mg/mL、「N.A.」はDNA無添加、の溶液であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明は、特定構造を有するポリチオフェン誘導体を利用することにより核酸分子を簡便に且つ感度良く検出する技術に関するものである。
【0022】
[ポリチオフェン誘導体の構成単位]
本発明に係るポリチオフェン誘導体は、ホスホニウム側鎖を有するチオフェン環を構成単位として主としてなる重合体である。
ここで、‘チオフェン(thiophene)’とは、フランの酸素が硫黄に置き換わった五員環構造を有する複素環式化合物である(構造式(i) 参照)。チオフェン自身の物理的特性及び化学的特性はベンゼンと良く似た性質を示す。
【0023】
【化1】
【0024】
本発明に係るポリチオフェン誘導体の構成単位(構造式(ii) 参照)としては、‘3位’の炭素にホスホニウム側鎖(構造式(ii)中の「R1」で表される側鎖)が付加されたチオフェン環である。当該ポリチオフェン誘導体のホスホニウム側鎖において、ホスフィン部分がカチオン(正電荷イオン)となる。また、当該ポリチオフェン誘導体は、アニオン(負電荷イオン)としてハロゲンイオンを有する。
当該チオフェン環の2位と5位の炭素は、構成単位どうしがカップリングして縮重合する部位となる。また、4位の炭素は、低級アルキル基又は無置換の水素原子(構造式(ii)中の「R2」で表される側鎖)を有するものである。
なお、化合物命名規則上、複素環式化合物に側鎖が一つ付加された場合、当該側鎖が付加された位置に若い番号が付されるため、側鎖が付与された炭素原子が、必然的に3位の位置となる。また、複数の側鎖が付加された場合、ホスホニウム側鎖が付加された炭素を、3位の位置と定義することができる。
【0025】
【化2】
【0026】
・チオフェン環3位のホスホニウム側鎖
当該構成単位であるチオフェン環は、3位の炭素の位置にホスホニウム側鎖(構造式(ii)中の「R1」で表される側鎖)を有する。ここで、‘ホスホニウム側鎖’とは、ホスホニウム基を有する側鎖を指す。
【0027】
ホスホニウム基として具体的には、下記の構造式(I)〜(IV)中のホスフィン部分を指す。ここで、「R11」,「R12」,「R13」は、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を表す。これらの基は、それぞれがホスホニウム基を構成する独立した基を表すため、異なる炭素数のものを採用することができる。
ここで、当該アルキル基としては、炭素数1〜5の低級アルキル基が好適であるが、好ましくは炭素数1〜4、より好ましくは炭素数1〜3のものが好適である。最も好ましくは炭素数2のエチル基である。また、アルキル基としては、直鎖状又は分枝状のいずれの形状のアルキル基のものも採用することができる。
【0028】
当該ホスホニウム基には、一級化ホスホニウム基(「R11」,「R12」,「R13」の全てが水素原子)、二級化ホスホニウム基(「R11」,「R12」,「R13」のいずれか1つがアルキル基で、残りが水素原子)、三級化ホスホニウム基(「R11」,「R12」,「R13」のいずれか2つがアルキル基で、残り1つが水素原子)、及び四級化ホスホニウム基(「R11」,「R12」,「R13」の全てがアルキル基)、の全てが含まれる。
当該ホスホニウム基は正電荷に荷電するため、本発明に係るポリチオフェン誘導体の分子全体としては、水等の極性溶媒に親和性を示す。また、当該ホスホニウム基の存在によって、核酸を特異的に認識する相互作用がおこり、蛍光強度の特異的な向上作用が発揮される。
特に、‘四級化’されたホスホニウム基は、正電荷(プラスチャージ)の状態が溶液の性質に関わらずに維持されやすい特性を示すため、本発明にとって好適である。
【0029】
当該ホスホニウム側鎖の構造としては、具体的には、下記の構造式(I)〜(IV)中のチオフェン環の3位の炭素に付加された側鎖構造を適用することができる。
即ち、(1) ホスホニウム基そのものである側鎖(構造式(I) 参照)、(2) 酸素原子を介してホスホニウム基が結合した側鎖(構造式(II) 参照)、(3) アルキレン基を介してホスホニウム基が結合した側鎖(構造式(III) 参照)、(4) 酸素原子及びアルキレン基を介してホスホニウム基が結合した側鎖(構造式(IV) 参照)、を挙げることができる。
なお、核酸分子との相互作用の作用機能を鑑みると、当該ホスホニウム側鎖としては、チオフェン環との結合に酸素原子を介する構造(構造式(II),(IV) 参照)であることが好適である。また、アルキレン基(「R14」)を介する構造(構造式(III),(IV) 参照)であることが好適である。
【0030】
当該アルキレン基としては、核酸との相互作用効率を踏まえて、炭素数1〜20で調整することが可能である。炭素数の上限としては20以下、好ましくは18以下、より好ましくは16以下、さらに14以下、特に好ましくは12以下、一層好ましくは10以下、もっと好ましくは8以下、より一層好ましくは6以下が好適である。
さらに一層好ましくは、立体規則性の高さが核酸認識能に反映されやすい構造としては、低級アルキレンである炭素数1〜5のものが好適であるが、特一層好ましくは炭素数1〜4、よりさらに好ましくは2〜4のものが好適である。最も好ましくは炭素数3のものである。また、当該アルキレン基としては、直鎖状であることが好ましいが、途中でアルキル基が分枝した形状のものであっても良い。
【0031】
【化3】
【0032】
【化4】
【0033】
【化5】
【0034】
【化6】
【0035】
・ハロゲンイオン
当該ポリチオフェン誘導体は、アニオン(負電荷イオン)としてハロゲンイオンを有する化合物である。ここで、ハロゲン(「X」)としては、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素などを挙げることができる。特に、塩素、臭素、又はヨウ素が好適である。
なお、ここで、ハロゲンの種類は、当該ポリチオフェン誘導体の核酸認識能には影響を与えない。当該ポリチオフェン誘導体の核酸認識能は、カチオン性の官能基であるホスホニウム側鎖の性質に起因するものであるため、当該ポリチオフェン誘導体の本体化合物から離れて存在するアニオン性イオンについては、その種類は問わない。
【0036】
・チオフェン環4位の側鎖
当該構成単位であるチオフェン環の4位の炭素には、構造式(I)〜(IV)中のチオフェン環の「R2」で表される側鎖を有する。当該「R2」の側鎖としては、水素原子又は低級アルキル基が付加された側鎖構造を採用することができる。
ここで、当該低級アルキル基としては、核酸との相互作用を弱める作用がないように炭素数1〜5の低級アルキル基であることが好適である。好ましくは炭素数1〜4、より好ましくは炭素数1〜3、さらに好ましくは炭素数1〜2、特に好ましくは炭素数1、のものが好適である。なお、当該4位の側鎖として最も好ましくは、アルキル基ではなく、水素原子であることが好適である
【0037】
[ポリチオフェン誘導体の重合構造]
本発明に係るポリチオフェン誘導体は、前記ホスホニウム側鎖を有するチオフェン環どうしが、‘高い立体規則性’をもって縮合重合して構成された重合体構造を有する。このような構造のホスホニウム側鎖を有するポリチオフェンでは、核酸認識能が極めて高いものとなる。
【0038】
当該チオフェン環の縮合重合に関与する部位は、チオフェン環2位と5位の炭素である。当該チオフェン環どうしの結合様式(モノマーどうしのカップリング)としては、当該2位と5位の繋がり方によって、HT結合、HH結合、及びTT結合の3種類の結合様式が存在する(図2 参照)。
ここで、‘HT結合’とは、head-tail結合を意味し、隣接するチオフェン環どうしの2位と5位の炭素が、縮合重合する結合様式を意味する。
また、‘HH結合’とは、head-head結合を意味し、隣接するチオフェン環どうしの2位と2位の炭素が、縮合重合する結合様式を意味する。
また、‘TT結合’とは、tail-tail結合を意味し、隣接するチオフェン環どうしの5位と5位の炭素が、縮合重合する結合様式を意味する。
【0039】
なお、ポリチオフェンの分子構造では、隣接するチオフェン環の硫黄原子の向きが、交互に配置された重合体の構造となる(図3 参照)。
【0040】
・立体規則性
当該ポリチオフェン誘導体は、高立体規則性構造を有する重合体である。ここで、‘高立体規則性’とは、チオフェン環どうしの全結合数におけるHT結合の割合(HT結合含有率)が、90%以上であるポリチオフェン誘導体を指す。(なお、HT結合含有率の算出においては、当該重合体にチオフェン環以外の構造単位の化合物が含まれる場合、その構造単位との結合は、ここでの全結合数には含まれない。)
【0041】
ここでHT結合含有率90%という数値は、当業者が高立体規則性であると共通認識を有する数値である。このようなポリチオフェンでは、重合体内のπ-π*共役系の繋がりが長く、分子内にチオフェン環どうしの結合のねじれがあまり存在しないものとなる。即ち、構成単位のチオフェン環が同一平面状に長く並んで存在する構造となる。
このようなHT結合を高含有するポリチオフェンは、伝導性ポリマーとしての性質を強く発揮するものとなる(M.Rikukawa et al., Thin Solid Films, vol.273, p240-244 (1996) 参照)。
【0042】
当該HT結合含有率として具体的には、90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上、であることが好適である。最も好ましくは、チオフェン環どうしの全ての結合様式がHT結合(当該HT結合の割合が100%)であることが最適である。
このような重合体では、HT結合が連続して配列する構造となるため、チオフェン環3位のホスホニウム側鎖の向きが規則正しく配置された構造となる(図3(A) 参照)。即ち、HT結合を多く含むポリチオフェンは、‘高立体規則性構造’であると認められる。
なお、逆に、HT結合含有率が低くHH結合やTT結合の含有率が高いポリチオフェンでは、チオフェン環3位のホスホニウム側鎖の向きが不規則にバラバラに配置された構造となる(図3(B) 参照)。即ち、HT結合含有率の低いポリチオフェンは、‘低立体規則性構造’の重合体となる。
【0043】
HT結合含有率が上記数値範囲にある場合において、さらに立体規則性が高いと認識される構造としては、HT結合の‘連続配列数’が多い重合体を挙げることができる。
当該連続配列数としては、好ましくはHT結合が4以上、さらに好ましくは5以上、より好ましくは6以上、特に好ましくは7以上であることが好適である。当該HT結合の連続数は多いほど好適であるが、上限値を挙げるとすると、重合度から1を引いた数を挙げることができる。
【0044】
なお、当該HT結合含有率は、当該ポリチオフェン誘導体の分子集合の平均値で表された数値を採用することができる。好適には、当該HT結合含有率の分布範囲が狭い(好ましくは均一な)分子集団であることが望ましい。
【0045】
・重合度
当該ポリチオフェン誘導体としては、一定以上の‘重合度’(構造式(I)〜(IV)中の「n」)を有する重合体であることが好適である。具体的には、当該重合度が5以上、好ましくは6以上、より好ましくは7以上、さらに好ましくは8以上、を挙げることができる。当該重合度が低すぎる場合、上記HT結合含有率が高い値であっても、HT結合の連続配列数が不足するため、十分な核酸検出能が発揮されず好適でない。
当該重合度の値は、高いほど好適であるが、上限値を挙げるとすると、例えば100以下、好ましくは80以下、より好ましくは60以下、さらに好ましくは40以下、特に好ましくは30以下、一層好ましくは35以下、より一層好ましくは20以下、特に一層好ましくは19以下を挙げることができる。
【0046】
当該重合度の算出においては、当該ポリチオフェン誘導体の分子集合の平均値で表された数値を採用することができる。好適には、当該重合度の分布範囲が狭い(好ましくは均一な)分子集団であることが望ましい。
また、当該重合体にチオフェン環以外の構造単位の化合物が含まれる場合、その構造単位との重合数は、ここでの重合度には含まれない。
【0047】
・他の化合物との結合
当該ポリチオフェン誘導体は、上記したホスホニウム側鎖を有するチオフェン環の構成単位を‘主としてなる’重合体であれば、他の構成単位となる化合物を分子内に含むものであっても良い。ここで、‘他の構成単位となる化合物’としては、当該ポリチオフェン誘導体の核酸認識能を強く阻害する性質がないものであれば、如何なる分子種のものも挙げることができる。例えば、ホスホニウム側鎖を有さないチオフェン環化合物、ベンゼン環化合物を骨格とする化合物、などを挙げることができる。
なお、ここで‘主としてなる’とは、構成単位の全重合数のうち90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、を指す。
他の構成単位化合物を分子内に含む場合、当該他の構成単位化合物の配列位置は、チオフェン環どうしの結合を切らない位置であることが望ましい。
【0048】
また、当該ポリチオフェン誘導体は、当該ポリチオフェン誘導体の重合構造の末端(両端)であれば、当該ポリチオフェン誘導体の核酸認識能を強く阻害しない限り、如何なる化合物を結合させることができる。また、当該末端への結合態様であれば、当該ポリチオフェン誘導体よりも大きい分子量の化合物や長い重合構造の分子と結合させることも、可能である。また、修飾基を付加することも可能である。
当該末端位置での結合であれば、チオフェン環どうし結合が切られない位置であるため、高立体規則性が維持されやすいからである。
【0049】
・PTEPPT
当該ポリチオフェン誘導体としては、上記構造式(I)〜(IV)で示される化合物を挙げることができるが、後述する実施例では、PTEPPT(Poly[3-(3-triethyl-phosphoniumpropoxy)thiophene xhalogen])(構造式(V) 参照)の合成例を示した。当該構造式(V)中の「X」及び「n」は、、構造式(I)〜(IV)と同じ内容を表す記号である。
なお、本発明はこれに限定されるものではないことは、言うまでもない。
【0050】
【化7】
【0051】
[立体規則性の高いポリチオフェン誘導体の合成手段]
本発明に係るポリチオフェン誘導体は、上記した高立体規則性構造を有する重合体であれば、優れた核酸認識能を発揮するものとなる。
このような高立体規則性構造を有するポリチオフェン誘導体を合成する手段としては、具体的には、‘触媒移動型縮合重合法’を挙げることができる。当該触媒移動型縮合重合法により、結合指向性が極めて高い(即ち、HT結合含有率が極めて高い)ポリチオフェンを、合成することが可能となる。
ここで、‘触媒移動型縮合重合法’(Catalyst transfer polycondensation method)とは、金属カップリング触媒を利用した連鎖縮合重合法である。ポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリピロール、ポリフルオレン、又はこれらのブロック重合体、などのπ共役高分子において、結合指向性が極めて高く且つ分子量分布が狭い、精密な重合体合成を可能とする方法である。当該触媒移動型縮合重合法によるポリチオフェン合成法として具体例としては、熊田-玉尾カップリング反応、等を利用した方法を挙げることができる。
一方、一般的な方法である塩化鉄(III)を利用した酸化重合法では、チオフェン環の結合選択性が低くランダムな向きでの重合がおこるため、高立体規則性の重合体を得ることができない。
【0052】
・部位選択的クロスカップリング
ポリチオフェンの触媒移動型縮合重合法としては、具体的には、まずチオフェン環の2位と5位をジハロゲン化した構成単位(単量体)を調製し、当該ジハロゲン化チオフェン環に対してターボグリニャール試薬及び金属カップリング触媒を作用させることで、部位選択的な縮合重合反応を連鎖的に進行させることが可能となる。
【0053】
当該ターボグリニャール試薬及び金属カップリング触媒を用いた縮合重合反応の概略を下記反応式(1)に示す。ここで、チオフェン環3位の位置は、ホスホニウム化前の官能基(式中の「R0」)であっても良いし、ホスホニウム化後の側鎖(式中の「R1」)であっても良い。なお、反応式中の「X」,「R1」,「R2」,「n」は、構造式(I)〜(IV)で示した記号と同じものを示す。また、「R0」は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基、ハロゲン化アルキル基、又はハロゲン化アルコキシ基、のいずれかを示す。
【0054】
【化8】
【0055】
ここで、チオフェン環構成単位の‘ジハロゲン化’は、塩素、臭素、又はヨウ素等への置換により行うことが好適である。特に、反応効率の点ではヨウ素への、ハンドリングの点では臭素への、ジハロゲン化が好適である。
【0056】
当該反応においては、ジハロゲン化チオフェン環(ハロゲン化ヘテロアリール)に対して、ターボグリニャール試薬が作用して、チオフェン環の5位のハロゲンがマグネシウムに置換する反応がおこり、ヘテロアリールグリニャール試薬(有機マグネシウムハロゲン化物)が生成される。ここでのハロゲン-マグネシウム交換反応は、チオフェン環の5位で部位特異的に起こる。
ここで、‘ターボグリニャール試薬’とは、グリニャール試薬の生成を促進する試薬で、ハロゲン-マグネシウム交換反応を促進する物質を指す。具体的には、有機マグネシウム化合物の塩化リチウム錯体である、iPrMgCl・LiCl(Isopropylmagnesium chloride lithium chloride)、sBuMgCl・LiCl(sec-Butylmagnesium chloride litium chloride)、などを用いることが好適である。特にiPrMgCl・LiClが好適である。
【0057】
ここで生成された当該ヘテロアリールグリニャール試薬は、求核剤として機能する。具体的には、当該チオフェン環5位がマグネシウム置換された単量体に対して、金属カップリング触媒が作用すると、還元的脱離によって金属触媒がチオフェン環5位に移動する。
当該チオフェン環5位に移動した金属触媒は、他のチオフェン環の2位のハロゲンと選択的に結合するクロスカップリング反応を触媒する。当該反応は連鎖的に誘起されるため、縮合重合反応が連鎖して長鎖の重合体が形成される。
ここで、‘金属カップリング触媒’としては、ニッケル(Ni)触媒又はパラジウム(Pd)触媒を挙げることができる。また、金属触媒としては、無機金属化合物を用いることもできるが、触媒能の点では有機金属化合物を用いることが好適である。例えば、有機ニッケル触媒であるNi(dppp)Cl2([1,3-Bis(diphenylphosphino)propane] nickel(II) dichloride)を好適に用いることができる。
【0058】
なお、上記したグリニャール試薬生成とカップリング反応は、同一溶液内にて一連の反応が進行する。当該反応は、室温で行うことが可能である。
【0059】
・ホスホニウム化反応
当該触媒移動型縮合重合法においては、3位の側鎖にホスホニウム基を導入するホスホニウム化反応を行う。当該ホスホニウム化反応は、前記縮合重合反応の後に行うことが好適であるが、縮合重合反応の後に行うことも可能である。
当該ホスホニウム化反応は、チオフェン環の3位をハロゲン基、ハロゲン化アルキル基、又はハロゲン化アルコキシ基、に置換した化合物に対して、ハロゲンとホスホニウム基の置換反応により行うことができる。反応条件は、常法により行うことが可能である。
【0060】
[核酸検出剤]
本発明に係るポリチオフェン誘導体は、その優れた物理的及び化学的性質のため、核酸検出剤の有効成分として利用することができる。
【0061】
・核酸高感度検出の原理
当該ポリチオフェン誘導体は、高感度での核酸認識を可能とする優れた特性を有する。
具体的には、(A) 核酸存在下にて当該ポリチオフェン誘導体の励起光を照射した際に、当該ポリチオフェン誘導体から放射される蛍光強度と、(B) 核酸非存在下にて同波長の光を照射した際に、当該ポリチオフェン誘導体から放射される蛍光強度、とを比べた場合、当該(A)の蛍光強度の方が、著しく強くなる特性を有する。
そのため、本発明においては、当該(A)の蛍光強度と(B)の蛍光強度を対比することで、核酸の存在を感度良く検出することが可能となる。
【0062】
当該高感度特性は、当該ポリチオフェン誘導体の蛍光放射特性に起因する特性である。具体的には、‘核酸非存在下’においては、当該ポリチオフェン誘導体は、励起光照射による蛍光放射強度(上記(B)の蛍光強度)が、著しく低減されたものとなる。即ち、バックグラウンドである蛍光放射(上記(B)の蛍光強度)が著しく低減されるため、シグナル(上記(A)の蛍光強度)が、感度良く検出できることを可能とする。
なお、当該高感度特性は、当該ポリチオフェンの‘高立体規則性構造’により達成される特性である。
【0063】
当該ポリチオフェン誘導体が核酸を認識する原理としては、ホスホニウム側鎖と重合体としての核酸分子との静電気的相互作用により、ポリチオフェン誘導体の凝集距離が離れるためと推測される。
従って、当該ポリチオフェン誘導体と核酸との蛍光放射は、核酸の二本鎖の間にインターカレートによって放射されるものでないため、一本鎖核酸に対する検出感度が低減しない。
【0064】
・水溶解性
当該ポリチオフェン誘導体は、ホスホニウム側鎖の性質によって、極性溶媒である水、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等に対して高い溶解性を示す。
特に、水に対して高い溶解性を示すという性質は、生体物質である核酸との共存を実現する性質となるため、核酸検出剤として優れた特性となる。当該性質は、通常のポリチオフェン類には無い性質である。
【0065】
当該溶解特性により、当該ポリチオフェン誘導体は、水溶液中に核酸と共存させるという極めて簡便な操作のみで、核酸を検出することが可能となる。
ここで、上記(A)の記載における‘核酸存在下’とは、核酸が存在する水溶液環境を指し、水溶液中において、核酸と当該ポリチオフェンが溶解した状態を指す。
なお、水溶液の量としては、特に限定がなく、μL〜Lスケールでの溶液状態のものだけでなく、固体支持体上のスポット程度(ガラスチップ上のpL程度のスポットも含む)の僅かな液量であっても、核酸検出が可能となる。
【0066】
当該ポリチオフェン誘導体が認識可能は核酸の状態は、水溶液中に溶解状態の核酸分子である。そのため、当該核酸検出に用いる水溶液としては、核酸と当該ポリチオフェン誘導体が溶解した状態(イオン状態)が維持される水溶液であれば、如何なる水溶液をも用いることができる。
例えば、水溶液のpH域としては、特に生体物質を扱うpH域である弱酸性〜弱アルカリ性のpH域を採用することができる。例えば、pH5.5〜9.5、好ましくはpH6〜9、より好ましくはpH6.5〜8.5程度を挙げることができる。
また、塩濃度についても、通常の生理食塩水程度の塩濃度であれば、問題なく使用することができる。
また、検出時の温度条件は、特に制限はないが、操作上の観点から室温で行うことが好適である。なお、低温過ぎる場合、当該ポリチオフェン誘導体が析出する懸念があり好適でない。
【0067】
・検出手段
ここで、核酸検出の手段としては、蛍光分光光度計を用いて蛍光強度を測定する手法で検出可能であるが、それだけでなく、暗黒空間において励起光を照射可能な器具(イルミネーター等)を用いて、容易に検出することが可能となる。
また、具体的な操作としては、上記(A)と(B)を、別試料として調製し、それぞれ蛍光強度を比較すれば、核酸の存在を検出することが可能となる。この際、ある程度以上の核酸量であれば、肉眼で目視にて比較した場合でも、容易に検出可能である。
また、ゲルを用いて核酸を電気泳動した場合、電気泳動後のゲルを、当該ポリチオフェン誘導体を含む水溶液で染色することにより、‘バンド(核酸存在部分)’をその他のゲル部分(核酸非存在領域)から浮かび上がらせたシグナルとして認識することが可能となる。
【0068】
当該ポリチオフェン誘導体の‘励起光’としては、蛍光放射がおこる波長の光であれば、如何なる波長を採用することもできるが、好適には、当該ポリチオフェン誘導体の吸収極大波長を採用することが好適である。例えば、450〜750nmの波長(平均重合度8〜10のPTEPPTの場合、460〜660nmの波長)を採用することができる。
当該ポリチオフェン誘導体の吸収極大波長は、可視光域の波長であるため、検出対象の核酸を損傷させる懸念がない。
【0069】
なお、当該ポリチオフェン誘導体は、核酸(DNA、RNA等)や核酸関連物質(ヌクレオチドやヌクレオシド等)の存在の有無に関わらず、その光吸収波長は変化しない性質を有する。そのため、検出対象に応じて励起光の波長を変化させる必要がなく、励起波長を一定値に設定して核酸検出試験を行うことが可能となる。
【0070】
なお、当該ポリチオフェン誘導体の吸収極大波長を照射した場合、検出される蛍光のピーク波長は、約100nm深波長側の550〜850nm(平均重合度8〜10のPTEPPTの場合、560〜760nm)である。
【0071】
・検出対象
当該ポリチオフェン誘導体の検出対象となる‘核酸’としては、具体的には、デオキシリボ核酸(DNA:デオキシヌクレオチド重合体)、リボ核酸(RNA:ヌクレオチド重合体)、などの重合体分子を指す。好ましくは、デオキシリボ核酸を好適に検出することが可能である。
検出対象核酸としては、その原理上、二本鎖核酸(dsDNA, dsRNA等)に限定されることなく、一本鎖核酸(ssDNA, ssRNA等)の検出も好適に行うことが可能である。また、スーパーコイル構造、ヒストン複合体、三本鎖構造等の高次構造体となった核酸の検出も可能である。
核酸の重合度の下限としては、オリゴ核酸と認識される4〜6 mer(bp)以上であれば良いが、好ましくは10 mer(bp)以上、より好ましくは15 mer(bp)以上、特に好ましくは20 mer(bp)以上、の核酸であることが好適である。核酸重合度の上限については特に制限はない。
【0072】
なお、当該ポリチオフェン誘導体は、核酸構成単位物質(単量体)及びその類似物質(核酸関連物質)を検出することができない。当該ポリチオフェン誘導体は、これらの物質と共存条件下に置かれた場合でも、放射される蛍光強度が全く変化しないためである。
当該核酸関連物質としては、具体的には、ヌクレオシド、デオキシヌクレオシド、ヌクレオチド(NMP)、デオキシヌクレオチド(dNMP)、及びこれらのリン酸化物(NDP, dNDP, NTP, dNTP等)、などを挙げることができる。
【0073】
当該ポリチオフェン誘導体は、ngオーダーでの微量の核酸を、感度良く検出することができる。当該検出感度は、エチジウムブロマイド法と同程度の感度に相当する。
また、当該ポリチオフェン誘導体は、核酸濃度に依存して蛍光強度が増加する性質を示す。当該特性により、当該ポリチオフェン誘導体を用いて、‘核酸の定量’を精度良く行うことが可能となる。
例えば、当該ポリチオフェン誘導体を利用した場合、1ng〜1μg程度の範囲での核酸定量を、簡便且つ精度良く行うことが可能となる。
【0074】
・安定性及び安全性
当該ポリチオフェン誘導体は、その構造上、物質としての安定性が高く且つ安全性の高い物質であると認められる。室温において、保管および使用が可能となる。
【0075】
・試薬形態
本発明においては、当該ポリチオフェン誘導体を含有する試薬として調製することで、核酸検出用試薬を製造することができる。
試薬の形態としては、液状、固体状、粉末状等、如何なる形態を採用することができる。また、pH調製剤、塩、酸化防止剤等、他の成分を含むものであっても良い。
なお、液状の形態とする場合、試薬溶媒としては、pH6.5〜9程度のpH緩衝溶液を用いることが好適である。
【0076】
当該試薬中における当該ポリチオフェン誘導体の含有量としては、当該試薬の使用状態(対象溶液への溶解状態)において、核酸検出可能な濃度を担保しえる量であれば特に制限はない。
ここで、核酸検出可能な当該ポリチオフェン誘導体の濃度としては、試薬使用時(対象溶液への溶解状態)において、0.05mg/mL以上、好ましくは0.1mg/mL以上、より好ましくは0.2mg/mL以上、さらに好ましくは0.3mg/mL以上、特に好ましくは0.4mg/mL以上、一層好ましくは0.5mg/mL以上、を挙げることができる。なお、上限としては、対象溶液への飽和濃度を挙げることができるが特に制限はない。
【0077】
当該試薬として液状形態にする場合、通常の試薬瓶等の他に、例えば、アンプル瓶等に入れて、滴下等により即座に使用可能な形態とすることができる。
また、固体状の形態とする場合、通常の粉末試薬の他に、例えば、支持基板上に当該ポリチオフェン誘導体を塗布し、薄膜状にして使用する形態とすることが可能である。当該形態に用いる支持基板としては、例えば、ガラス、ポリマー樹脂(PET、PS等)、セラミック、などの絶縁製の素材からなる基板を挙げることができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例(試験例)を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0079】
[試験例1(製造例1:本発明)]『触媒移動型縮合重合法によるPTEPPTの合成』
ホスホニウム側鎖を有するチオフェン重合体であるPTEPPT(Poly[3-(3-triethyl-phosphoniumpropoxy)thiophene bromide])を合成するにあたり、‘触媒移動型縮合重合法’(Catalyst transfer polycondensation method)での合成法を検討した(図4 参照)。
【0080】
・1-1 )「合成例1-1:BPTの合成(3-メトキシチオフェンのメトキシ基へのブロモアルコキシ側鎖の付与)」
(1) 合成スキーム
下記に示す反応式(c1)の反応により、‘BPT’(3-(3-Bromo)-propoxythiophene)の合成を行った。
【0081】
【化9】
【0082】
(2) 試薬
上記反応式(c1)の反応を行うにあたり、下記に示す試薬を用いた。
‘3-メトキシチオフェン’(3-Methoxythiophene): 市販品(SIGMA-ALDRICH, 純度 98%<)を減圧蒸留により精製したものを用いた(30℃, 0.3kPa)。
‘3-ブロモ-1-プロパノール’(3-Bromo-1-propanol): 市販品(和光純薬工業株式会社)を減圧蒸留により精製したものを用いた(50℃, 0.3kPa)。
‘トルエン’(Toluene): 市販品(和光純薬工業株式会社, 純度 99.5%<)を溶媒精製装置(GlassContour社)で精製したものを用いた。
‘硫酸水素ナトリウム一水和物’(NaHSO4・H2O, Sodium hydrogen sulfate monohydrate): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級)をそのまま用いた。
‘塩化カルシウム’(Calcium chloride): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級)をそのまま用いた。
‘硫酸マグネシウム(無水)’(Magnesium sulfate (anhydrous)): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級)をそのまま用いた。
‘ヘキサン’(Hexane): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級(純度 96%<))を溶媒精製装置(ミツワ理化学工業株式会社, Glass Contour)で精製したものを用いた。
‘クロロホルム’(Chloroform): 市販品(和光純薬工業株式会社、特級(純度 99%<))をそのまま用いた。
‘ジエチルエーテル’(Diethyl ether): 市販品(関東化学株式会社, 純度 99.5%<)をそのまま用いた。
【0083】
(3) BPTの合成及び精製
二口ナスフラスコに共沸管、冷却管、及び塩化カルシウム管をつなぎ、3-メトキシチオフェン(5.02g)、硫酸水素ナトリウム一水和物(0.865g)、及びトルエン(120mL)を加えた。当該フラスコ内を窒素雰囲気下にして、オイルバス100℃にて2時間の加熱攪拌を行った。
ここに、3-ブロモ-1-プロパノール(13.41g)とトルエン(30mL)を加えたところ、フラスコ内の溶液が褐色に変化した。その後、16時間の加熱攪拌を行ったところ、共沸管に無色の反応溶液が得られた。(なお、当該加熱攪拌を16時間経過後も継続して行ったが、当該無色の反応溶液の量はこれ以上増加しなかった。)
【0084】
得られた当該無色の反応溶液を、精製水100mLにあけて反応を停止させた。その後、この反応溶液を精製水(100mL)で3回洗浄し、当該洗浄後の水層に対してジエチルエーテル(100mL)での抽出を4回行った。
得られたエーテル層を上記トルエン層と混合し、ここに硫酸マグネシウム(無水)を乾燥剤として加えて一晩乾燥させ、濾過して硫酸マグネシウムを除去した。その後、エバポレーターで溶媒を留去し、減圧乾燥機を用いて乾燥させて、粗生成物を得た。
【0085】
得られた当該粗生成物について、ヘキサン:クロロホルム=4:1(体積比)の混合溶媒を展開溶媒として、カラムクロマトグラフィー(Wakogel C-300)で精製した。さらに、ヘキサンからクロロホルムへのグラジエント展開溶媒を用いて、中圧クロマトグラフィー(YFLC W-Prep 2XY)により精製した。
その後、エバポレーターで溶媒を留去し35℃で減圧乾燥したところ、薄黄色透明油状の液体が得られた(表1 参照)。
【0086】
(4) BPTの同定及び評価
上記液体について、4.0cm×1.5cmに裁断したシート(メルク株式会社 シリカゲル60 F254)に、キャピラリーを用いて当該液体を添加し、ヘキサン:クロロホルム=4:1(体積比)を展開溶媒として展開したところ、Rf値は0.35であった。
また、上記液体についてEI-MS測定を行ったところ、得られたマススペクトルに、BPTの親イオンピーク(m/z=222)及びそのフラグメントピーク(m/z=100, 141)が主要ピークとして検出された。
また、1H-NMR測定を行ったところ、1H-NMRスペクトルの各ピークの積分比は、BPTの分子構造式より求められるプロトン比と一致した。
これらの結果から、当該方法により、‘BPT’(3-(3-Bromo)-propoxythiophene)の合成及び精製が可能であることが確認された。
【0087】
【表1】
【0088】
・1-2 )「合成例1-2:DBrBPTの合成(チオフェン環2位及び5位のジブロモ化反応)」
(1) スキーム
下記に示す反応式(c2)の反応により、‘DBrBPT’(Dibromo-3-(3-bromo)-propoxythiophene)の合成を行った。
【0089】
【化10】
【0090】
(2) 試薬
上記反応式(c2)の反応を行うにあたり、下記に示す試薬を用いた。
‘BPT’(3-(3-Bromo)-propoxythiophene): 上記合成例1-1で合成したものを用いた。
‘NBS’(N-Bromosuccinimide): 市販品(東京化成工業株式会社, 純度 98.0%<)をそのまま用いた。
‘THF’(Tetrahydrofuran):市販品(和光純薬工業株式会社, 純度 99.5%<)を溶媒精製装置(ミツワ理化学工業株式会社, Glass Contour)で精製したものを用いた。
‘酢酸’(Acetic acid):市販品(和光純薬工業株式会社, 特級(純度 99.7%<))をそのまま用いた。
‘塩化カルシウム’(Calcium chloride): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級)をそのまま用いた。
‘硫酸マグネシウム(無水)’(Magnesium sulfate (anhydrous)): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級)をそのまま用いた。
‘ジエチルエーテル’(Diethyl ether): 市販品(関東化学株式会社, 純度 99.5%<)をそのまま用いた。
‘炭酸水素ナトリウム’(Sodium hydrogen carbonate): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級)をそのまま用いた。
‘塩化ナトリウム’(Sodium chloride): 市販品(和光純薬工業株式会社, 一級)をそのまま用いた。
‘ヘキサン’(Hexane): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級(純度 96%<))を溶媒精製装置(ミツワ理化学工業株式会社, Glass Contour)で精製したものを用いた。
【0091】
(3) DBrBPTの合成及び精製
サンプルビンに、THFと酢酸を等量(THF:酢酸=50mL:50mL)加えて、混合溶媒を調製した。三口ナスフラスコに、ジムロート冷却管、塩化カルシウム管、及び滴下漏斗をつなぎ、上記混合溶媒(THF:酢酸=1:1, 80mL)を加え、さらにNBS(8.85g)を加えて、窒素雰囲気下で撹拌した。
次いで、上記合成例1-1で調製したBPT(4.98g)を、上記混合溶媒(THF:酢酸=1:1, 20mL)に溶解させ、滴下漏斗を用いて氷浴下で徐々に加えた。反応溶液は無色透明から緑色へと変化した。
【0092】
その後、反応溶液を徐々に室温に戻し、室温で2時間撹拌し、精製水にあけて反応を停止させた。その後、当該反応溶液に対して、ジエチルエーテル(60mL)での抽出を3回行った。
得られたエーテル層を精製水(100mL)で3回洗浄し、炭酸水素ナトリウム飽和水溶液(100mL)での洗浄(中和処理)を3回行った後、飽和塩化ナトリウム水溶液(100mL)で3回洗浄した。
ここに硫酸マグネシウム(無水)を乾燥剤として加えて一晩乾燥させ、濾過して硫酸マグネシウムを除去した。その後、エバポレーターで溶媒を留去し、粗生成物を得た。
【0093】
得られた当該粗生成物について、4.0cm×1.5cmに裁断したシート(メルク株式会社 シリカゲル60 F254)に、キャピラリーを用いて当該液体を添加し、ヘキサン:クロロホルム=4:1(体積比)を展開溶媒として展開した。展開後、4つのスポット(Rf値0.40, 0.30, 0.15, 0.08)のうち、Rf値0.40のスポットを回収した。
回収した当該スポットを、ヘキサン:クロロホルム=4:1(体積比)の混合溶媒を展開溶媒として、カラムクロマトグラフィー(Wakogel C-300)で精製した。さらに、ヘキサンからクロロホルムへのグラジエント展開溶媒を用いて、中圧クロマトグラフィー(YFLC W-Prep 2XY)により精製した。
その後、エバポレーターで溶媒を留去し35℃で減圧乾燥したところ、黄色透明油状液体の液体が得られた(表2 参照)。
【0094】
(4) DBrBPTの同定及び評価
上記回収したスポットについてEI-MS測定を行ったところ、得られたマススペクトルに、DBrBPTの親イオンピーク(m/z=380)及びそのフラグメントピーク(m/z=258)が主要ピークとして検出された。
また、1H-NMR測定を行ったところ、1H-NMRスペクトルの各ピークの積分比は、DBrBPTの分子構造式より求められるプロトン比と一致した。
これらの結果から、当該方法により、‘DBrBPT’(Dibromo-3-(3-bromo)-propoxythiophene)(3-(3-Bromo)-propoxythiophene)の合成及び精製が可能であることが確認された。
【0095】
【表2】
【0096】
・1-3 )「合成例1-3:PBPTの合成(ターボグリニャール試薬とNiカップリング触媒を用いた重合反応)」
(1) 合成スキーム
下記に示す反応式(c3)の反応により、‘PBPT’(Poly[3-(3-Bromo)-propoxythiophene])の合成を行った。
【0097】
【化11】
【0098】
(2) 試薬
上記反応式(c3)の反応を行うにあたり、下記に示す試薬を用いた。
‘DBrBPT’(Dibromo-3-(3-bromo)-propoxythiophene): 上記合成例1-2で合成したものを用いた。
‘i-PrMgCl・LiCl’(Isopropylmagnesium chloride lithium chloride): 市販品(SIGMA-ALDRICH)をそのまま用いた。
‘THF’(Tetrahydrofuran):市販品(和光純薬工業株式会社, 合成脱水用溶媒, 安定剤不含)をそのまま用いた。
‘Ni(dppp)Cl2’([1,3-Bis(diphenylphosphino)propane] nickel(II) dichloride): 市販品(SIGMA-ALDRICH)をそのまま用いた。
‘塩酸’(HCl):市販品(関東化学株式会社, 鹿一級)をそのまま用いた。
‘ヘキサン’(Hexane): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級(純度 96%<))を溶媒精製装置(ミツワ理化学工業株式会社, Glass Contour)で精製したものを用いた。
【0099】
(3) PBPTの合成及び精製
アルゴン雰囲気にしたグローブボックス内において、30mLサンプルビンにTHF(47mL)、i-PrMgCl・LiCl(3.3mL)、及び上記合成例1-2で調製したDBrBPT(1.603g又は1.609g)を加え、モノー溶液とした。また、シーラムキャップをつけた二口ナスフラスコ内に、Ni(dppe)Cl2(153mg又は77mg)及びTHF(3mL)を加え、触媒溶液とした。
上記モノマー溶液を室温で2時間撹拌した後、アルゴン雰囲気下にてシリンジを用いてモノマー溶液を触媒溶液に添加して重合反応を行った
5M塩酸溶液にあけて反応を停止させ、メンブランフィルター(親水0.1μm)を用いて吸引ろ過した。得られた固体をヘキサンでソックスレー洗浄し、黒紫色固体を得た(表3 参照)。
【0100】
(4) PBPTの同定及び評価
得られた上記固体について、DMFを展開溶媒としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により分子量分布の計測を行った。その結果、合成例1-3-aでは平均重合度8のPBPTが、合成例1-3-bでは平均重合度10のPBPTが、それぞれ合成されていることが示された(表4 参照)。また、Mw/Mnの値が1に近いことから、合成された重合体の分子量分布の幅が狭いことが示された(表4 参照)。
これらの結果から、i-PrMgCl・LiCl(ターボグリニャール試薬)とNiカップリング触媒(Ni(dppp)Cl2)を用いた反応により、平均重合度8〜10程度のポリチオフェン化合物(重合体)を、ほぼ均質の重合度にて合成できることが示された。
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【0103】
・1-4 )「合成例1-4:PTEPPTの合成(ブロモアルコキシ側鎖の四級ホスホニウム化)」
(1) スキーム
下記に示す反応式(c4)の反応により、‘PTEPPT’(Poly[3-(3-triethyl-phosphoniumpropoxy)thiophene bromide])の合成を行った。
【0104】
【化12】
【0105】
(2) 試薬
上記反応式(c4)の反応を行うにあたり、下記に示す試薬を用いた。
‘PBPT’(Poly[3-(3-Bromo)-propoxythiophene]): 上記合成例1-3で合成したものを用いた。
‘トリエチルホスフィン’(P(Et)3, Triethylphosphine): 市販品(SIGMA-ALDRICH, 1M in THF)をそのまま用いた。
‘アセトニトリル’(CH3CN, Acetonitrile): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級)をそのまま用いた。
‘N,N-ジメチルホルムアミド’(DMF, N,N-dimethylformamide):市販品(和光純薬工業株式会社)をそのまま用いた。
‘ジエチルエーテル’(Diethyl ether): 市販品(関東化学株式会社, 純度 99.5%<)をそのまま用いた。
【0106】
(3) PTEPPTの合成及び精製
二口ナスフラスコに、ジムロート冷却管及び窒素導入管をつなぎ、トリエチルホスフィン(2.3mL)、表5に示す溶媒(アセトニトリル:150mL, 又は, DMF:150mL)、及び上記合成例1-3で合成したPBPT(合成例1-3-a:251mg, 又は, 合成例1-3-b:248mg)を加え、フラスコ内を窒素雰囲気下にして、オイルバス80℃にて72時間の加熱還流を行い反応させた。
その後、ジエチルエーテルに再沈殿後、メンブレンフィルター(疎水0.2μm)を用いて吸引ろ過した。得られた黒紫色固体を精製水に溶解させ、メンブレンフィルター(親水0.2μm)を用いて吸引ろ過後、得られた濾液をエバポレーターにより溶媒を留去し、黒紫色固体を得た(表5 参照)。
【0107】
(4) PTEPPTの同定及び評価
得られた固体について、溶解性試験を行ったところ、水、メタノール、エタノール、DMSO、DMF等の極性溶媒に対して高い溶解性を示すことが示された。特に、水に対する溶解性が付与され、親水性を示すことが明らかになった。一方、当該反応前のPBPTは、親水性を示さない物質である。
これらのことから、得られた当該固体は、ホスホニウム化されたPTEPPTであることが示された。
【0108】
また、上記ホスホニウム化反応後に得られた固体について、TOF-MS測定による質量分析を行ったところ、合成例1-4-a(平均重合度:8)では、15量体のPTEPPTを示す明確なピークが確認された(図5(A) 参照)。また、合成例1-4-b(平均重合度:10)では、19量体のPTEPPTを示す明確なピークが確認された(図5(B) 参照)。
【0109】
なお、合成例1-4-b(溶媒:DMF)で得られたPTEPPTの収量は、合成例1-4-a(溶媒:CH3CN)と比べて約3.7倍という高い収率となることが示された。当該収量の差異は、PBTPとPTEPPTの両物質とも、アセトニトリルよりもDMFに対する親和性が高いことに起因するためと推測される。
【0110】
【表5】
【0111】
[試験例2(製造例2:比較)]『酸化重合法によるPTEPPTの合成』
触媒移動型縮合重合法(Catalyst transfer polycondensation method)との比較のため、従来法である‘酸化重合法’(Oxdative method)により、PTEPPT(Poly[3-(3-triethyl-phosphoniumpropoxy)thiophene chloride])の合成を行った(図6 参照)。
【0112】
・2-1 )「合成例2-1:BPTの合成(3-メトキシチオフェンのメトキシ基へのブロモアルキル側鎖の付与)」
(1) 合成スキーム
下記に示す反応式(o1)の反応により、‘BPT’(3-(3-Bromo)-propoxythiophene)の合成を行った。
【0113】
【化13】
(2) BPTの合成及び精製
上記反応式(o1)の反応は、製造例1における反応式(c1)の反応と同一の反応である。そこで、上記製造例1における合成例1-1に記載の方法と同様にして、‘BPT’(3-(3-Bromo)-propoxythiophene)の合成及び精製を行い、薄黄色透明油状の液体を得た(表6 参照)。
【0114】
(3) BPTの同定及び評価
上記液体についてEI-MS測定を行ったところ、得られたマススペクトルに、BPTの親イオンピーク(m/z=222)及びそのフラグメントピーク(m/z=100, 141)が主要ピークとして検出された。
また、1H-NMR測定を行ったところ、1H-NMRスペクトルの各ピークの積分比は、BPTの分子構造式より求められるプロトン比と一致した。
これらの結果から、‘BPT’(3-(3-Bromo)-propoxythiophene)の合成及び精製が成功していることが確認された。
【0115】
【表6】
【0116】
・2-2 )「合成例2-2:TEPPTの合成(ブロモアルコキシ側鎖の四級ホスホニウム化)」
(1) 合成スキーム
下記に示す反応式(o2)の反応により、‘TEPPT’(3-(3-triethyl-phosphoniumpropoxy)thiophene bromide)の合成を行った。
【0117】
【化14】
【0118】
(2) 試薬
上記反応式(o2)の反応を行うにあたり、下記に示す試薬を用いた。
‘BPT’(3-(3-Bromo)-propoxythiophene): 上記合成例2-1で合成したものを用いた。
‘トリエチルホスフィン’(P(Et)3, Triethylphosphine): 市販品(SIGMA-ALDRICH, 1M in THF)をそのまま用いた。
‘アセトニトリル’(CH3CN, Acetonitrile): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級)をそのまま用いた。
‘酢酸エチル’(Ethyl acetate): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級(純度 99.5%<))をそのまま用いた。
‘ジエチルエーテル’(Diethyl ether): 市販品(関東化学株式会社, 純度 99.5%<)をそのまま用いた。
【0119】
(3) TEPPTの合成及び精製
100mL二口ナスフラスコの上部にジムロート冷却管及び窒素導入間をつなぎ、トリエチルホスフィン(22.6mL)、アセトニトリル(60mL)、及び上記合成例2-1で合成したBPT(2.5g)を加え、フラスコ内を窒素雰囲気下にして、オイルバス80℃にて48時間の加熱還流を行い反応させた。
その後、エバポレーターで溶媒を留去し、無色油状液体の粗生成物を得た。当該液体を酢酸エチルで洗浄し、次いでジエチルエーテルで洗浄したところ、白色固体が得られた(表7 参照)。
【0120】
(4) TEPPTの同定及び評価
上記固体についてEI-MS測定を行ったところ、得られたマススペクトルに、TEPPTの親イオンピーク(m/z=259)が主要ピークとして検出された。
また、1H-NMR測定を行ったところ、1H-NMRスペクトルの各ピークの積分比は、TEPPTの分子構造式より求められるプロトン比と一致した。また、
これらの結果から、‘TEPPT’(3-(3-triethyl-phosphoniumpropoxy)thiophene bromide)の合成及び精製が成功したことが確認された。
【0121】
【表7】
【0122】
・2-3 )「合成例2-3:PTEPPTの構成(酸化重合)」
(1) スキーム
下記に示す反応式(o3)の反応により、‘PTEPPT’(Poly[3-(3-triethyl-phosphoniumpropoxy)thiophene chloride])の合成を行った。
【0123】
【化15】
【0124】
(2) 試薬
上記反応式(o3)の反応を行うにあたり、下記に示す試薬を用いた。
‘TEPPT’(3-(3-triethyl-phosphoniumpropoxy)thiophene bromide): 上記合成例2-2で合成したものを用いた。
‘塩化鉄(III)(無水物)’(FeCl3, Iron(III) chloride anhydrous): 市販品(和光純薬工業株式会社, 純度 98%<))をそのまま用いた。
‘クロロホルム(超脱水)’(Chloroform Super dehydrated): 市販品(和光純薬工業株式会社)をそのまま用いた。
‘メタノール’(Methanol): 市販品(関東化学株式会社, 純度 99.5%<)をそのまま用いた。
‘アセトン’(Acetone): 市販品(関東化学株式会社, 純度 99.5%<)をそのまま用いた。
‘TBAC’(Bu4NCl, Tetrabutylammonium chloride): 市販品(東京化成工業株式会社, 純度 98.0%<)をそのまま用いた。
‘ヒドラジン一水和物’(hydrazine hydrate): 市販品(和光純薬株式会社, 特級)をそのまま用いた。
【0125】
(3) PTEPPTの合成及び精製
100mL三口ナスフラスコにジムロート冷却管、塩化カルシウム管、及び滴下漏斗を取り付け、窒素フローを行ってフラスコ内を窒素雰囲気下にした。ここに、クロロホルム(20mL)に塩化鉄(III)(0.581g)を懸濁した液を入れて、フラスコ内を窒素雰囲気下にし、オイルバス30℃にて加熱撹拌した。
次に、上記合成例2-2で合成したTEPPT(0.300g)をクロロホルム(10mL)に溶解させ、滴下漏斗を用いてフラスコ内に徐々に加えたところ、黒色固体がフラスコ壁面に析出した。当該析出固体と溶媒との加熱攪拌を30℃にて24時間行った。
【0126】
その後、エバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた固体を少量のメタノールに溶解した後、アセトン(300mL)に溶解した。そこに、TBACを加えたところ、黒色固体が析出した。
これを、メンブレンフィルター(疎水性0.2μm)を用いて濾過し、得られた固形物をメタノール(300mL)に溶解した。ここに、ヒドラジン一水和物を数滴加えて脱ドープした。
これを、メンブランフィルター(疎水性0.2μm)を用いて濾過して不純物を除去し、エバポレーターを用いて溶液を濃縮した。
得られた濃縮溶液を、テフロン(登録商標)シート(PTFE樹脂シート)上にキャストし、窒素雰囲気下で溶媒を除去することにより、固形物を回収した。これを、TBAC飽和アセトン溶液で洗浄し、さらにアセトンで洗浄し、茶色固体を得た(表8 参照)。
【0127】
(4) PTEPPTの同定及び評価
得られた固体について、溶解性試験を行ったところ、水、メタノール、エタノール、DMSO、DMF等の極性溶媒に対して高い溶解性を示すことが示された。
また、上記酸化重合反応後に得られた固体について、TOF-MS測定による質量分析を行ったところ、各重合度のポリマーに相当するピーク波形が検出された。最大17量体までの明確なピークが確認された(図7 参照)。
これらのことから、得られた当該固体は、塩化鉄(III)により酸化重合されて合成されたPTEPPTであることが示された。
【0128】
【表8】
【0129】
[試験例3]『1H-NMR測定による立体規則性の評価』
触媒移動型縮合重合法により合成したPTEPPTと、酸化重合法により合成したPTEPPTについて、1H-NMR測定の結果から‘立体規則性’の評価を行った。
【0130】
・3-1 )「重DMSOを測定溶媒としたPTEPPTの1H-NMR測定」
上記製造例1で得られた‘触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT’(合成例1-4-a)、及び、上記製造例2で得られた‘酸化重合法によるPTEPPT’(合成例2-3)を試料として供し、測定溶媒として重DMSO((CD3)2SO)を用いて1H-NMR測定を行った。得られた1H-NMRスペクトルの結果を図8(A), 9(A)、に示した。また、芳香族由来のピークが検出される低磁場側の領域については、拡大して図8(B), 9(B)として示した。
【0131】
その結果、図8が示すように、‘酸化重合法によるPTEPPT’(合成例2-3)では、芳香族由来ピークが検出される領域である7.19ppm、7.34ppm、及び7.50ppmに、同程度のシグナル強度の明確なピークが3つ検出された(図8(B) 参照)。
当該結果から、‘酸化重合法によるPTEPPT’は、チオフェン環どうしのカップリング様式として、HT結合(2位-5位の結合)、HH結合(2位-2位の結合)、TT結合(5位-5位の結合)、の3種類の結合をほぼ同頻度で含む重合体であることが示された。
このことから、‘酸化重合法によるPTEPPT’は、当該3種類のカップリング様式が‘ランダム’に起こって形成された重合体であることが示された。即ち、酸化重合法によるPTEPPTは、立体規則性の低い重合体であることが示された(図2,3 参照)。
【0132】
一方、図9が示すように、‘触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT’(合成例1-4-a)では、芳香族由来ピークが検出される領域である7.5ppm付近にピークが検出された(図9(B) 参照)。
当該結果から、‘触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT’は、チオフェン環どうしのカップリング様式として、HT結合(2位-5位の結合)1種類を高頻度で含む立体規則性の高い重合体であることが示唆された(図2,3 参照)。
但し、当該スペクトルには、芳香族由来のピークが出現する可能性がある低磁場側(7.5〜7.8ppm付近)にバックグラウンド波形の上昇が認められた。そこで、ホスホニウム化前の最終合成物(PTEPPT)の前段階の中間生成物であるPBPTを用いて、下記3-2 )の再試験を行った。
【0133】
・3-2 )「PBPTの1H-NMR測定」
上記3-1 )における‘触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT’の芳香族由来スペクトルピークを確認するため、最終合成物(PTEPPT)の前段階の中間生成物であるPBPT(合成例1-3-a)を試料に供して、1H-NMR測定を行った。測定溶媒には重クロロホルム(CDCl3)を用いた。得られた1H-NMRスペクトルの結果を図10(A)に示した。なお、PBPTの分子構造を図10(B)に示した。
【0134】
その結果、PTEPPTのホスホニウム化前段階であるPBPT(BPT重合体)を試料に供した場合でも、芳香族由来と推定されるピーク(6.9ppm)が1つだけ検出されることが示された(図10(A) 参照)。なお、7.3ppm付近の著しく高いピークは、溶媒であるクロロホルム由来のピークであると推定される。
当該結果から、触媒移動型縮合重合法によるチオフェン環どうしのカップリング様式は、HT結合(2位-5位の結合)1種類を高頻度で含むことが示された。即ち、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPTは、立体規則性が極めて高い重合体であることが示された(図2,3 参照)。
【0135】
・3-3 )「立体規則性に関する結論」
上記1H-NMR測定のスペクトルの結果が示すように、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)は、HT結合が特異的に選択されて構成された、高立体規則性構造の重合体であることが示された(図3(A) 参照)。
一方、酸化重合法によるPTEPPT(比較)は、HT結合、HH結合、及びTT結合がランダムで起こって構成された、低立体規則性構造の重合体であることが示された(図3(B) 参照)。
【0136】
[試験例4]『光吸収スペクトル測定からの重合構造の評価』
触媒移動型縮合重合法により合成したPTEPPTと、酸化重合法により合成したPTEPPTについて、光吸収スペクトルを測定し、重合構造に関する評価を行った。
【0137】
・4-1 )「紫外-可視(UV-Vis)光吸収スペクトルの測定」
Tris-HCl緩衝液(0.05M, pH8.0)中に、PTEPPT(0.5mg/mL)を含むように添加し混合して、5分間の超音波処理を行ってPTEPPTを完全に溶解させた。なお、PTEPPTとしては、上記製造例1で得られた‘触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT’(合成例1-4-a)、及び、上記製造例2で得られた‘酸化重合法によるPTEPPT’(合成例2-3)を、試料として供した。
調製した当該水溶液について、紫外可視分光光度計(UV-PC3100, SHIMADZU製)を用いて、300〜800nmの範囲の光吸収スペクトルを測定した。測定は室温にて行った。得られた吸収スペクトルの結果を、図11(A),(B)における「(Ab.)」で示した曲線にて示した。
【0138】
(i) その結果、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)の吸収スペクトル(Ab.)は、シャープなピークを示した(図11(A) 参照)。
当該結果から、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPTは、立体規則性が高い重合体であることが示唆された。また、当該結果から、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPTは‘重合度が揃った均質な重合体’であることも示唆された。
【0139】
一方、酸化重合法によるPTEPPT(比較)の吸収スペクトル(Ab.)は、ブロードなピークを示した(図11(B) 参照)。
当該結果から、酸化重合法によるPTEPPTは、立体規則性が低い重合体であることが示唆された。また、当該結果から、酸化重合法によるPTEPPTは‘重合度が不揃いな不均質な重合体’であることも示唆された。
【0140】
(ii) また、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)の吸収極大波長(560nm)は、酸化重合法によるPTEPPT(比較)の吸収極大波長(475nm)よりも、大幅に長波長方向に深色シフトしていることが示された。
当該結果から、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明:高立体規則性構造)は、重合体内のπ-π*共役系の繋がりが長い重合体であることが示唆された。当該π-π*共役系の繋がりが長いという性質は、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT分子内には、チオフェン環どうしの結合にねじれがあまり存在せず、‘同一平面状に長く並んで存在している’ことを示唆している。
逆に、酸化重合法によるPTEPPT(比較:低立体規則性構造)は、重合体内のπ-π*共役系の繋がりが短い重合体であることが示唆された。当該π-π*共役系の繋がりが短いという性質は、酸化重合法によるPTEPPT分子内には、チオフェン環どうしに結合に‘ねじれが多く存在し’同一平面状に長く並んで存在していない、ことを示唆している。
【0141】
[試験例5]『蛍光スペクトル測定からの重合体の性質評価』
触媒移動型縮合重合法により合成したPTEPPTと、酸化重合法により合成したPTEPPTについて、吸収極大波長を照射した際の蛍光スペクトルを測定し、各PTEPPTの性質に関する評価を行った。
【0142】
・5-1 )「吸収極大波長照射による蛍光スペクトルの測定」
上記4-1 )で調製した各PTEPPT(0.5mg/mL)含有Tris-HCl緩衝液(0.05M, pH8.0)について、分光蛍光光度計(F-4500, HITACHI製)を用いて、蛍光スペクトルの測定を行った。
当該蛍光スペクトル測定では、各PTEPPTの吸収極大波長(上記4-1で測定した値)の光を励起光として照射し、溶液から発せられる蛍光スペクトルを、300〜800nmの範囲で測定した。励起光として具体的には、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)に対しては560nm、酸化重合法によるPTEPPT(比較)に対しては475nm、の波長(λex)の光を照射した。測定は室温にて行った。得られた蛍光スペクトルの結果を、図11(A),(B)における「(Fl.)」で示した曲線にて示した。
【0143】
その結果、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)の蛍光スペクトル(Fl.)では、ピークが明確に検出できない程度の弱い蛍光しか検出されなかった。一方、酸化重合法によるPTEPPT(比較)の蛍光スペクトル(Fl.)では、ピーク波長において約20倍の強度の強い蛍光が検出された。
この結果は、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)は、核酸との相互作用による蛍光強度を検出する際において、PTEPPTが単独で放射する蛍光バックグラウンドを、著しく低減できることを示唆している。
【0144】
[試験例6]『核酸関連物質に対する認識能の評価』
触媒移動型縮合重合法により合成したPTEPPTと、酸化重合法により合成したPTEPPTについて、核酸存在下での光吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを測定し、PTEPPTの核酸関連物質に対する認識能(検出能)を評価した。
【0145】
・6-1 )「紫外-可視(UV-Vis)光吸収スペクトルの測定」
Tris-HCl緩衝液(0.05M, pH8.0)中に、PTEPPT(0.5mg/mL)及び表9に示す各核酸関連物質(試料6-a〜6-d, 0.02mg/mL)を含むように添加し混合して、5分間の超音波処理を行うことでPTEPPTを完全に溶解させた。なお、PTEPPTとしては、上記製造例1で得られた‘触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT’(合成例1-4-a)、及び、上記製造例2で得られた‘酸化重合法によるPTEPPT’(合成例2-3)を供した。また、DNAとしては、二本鎖DNA(Deoxyribonucleic acid, low molecular weight from salmon sperm (SIGMA-ALDRICH))を用いた。
なお、対照として、核酸関連物質を添加しない以外は同様にして、PTEPPT含有Tris-HCl緩衝液を調製した。
調製した各水溶液について、紫外可視分光光度計(UV-PC3100, SHIMADZU製)を用いて、300〜800nmの範囲の光吸収スペクトルを測定した。測定は室温にて行った。得られた吸収スペクトルの結果を、図12(A),(B)に示した。
【0146】
その結果、図12(A),(B)が示すように、核酸であるDNA(試料6-a:ヌクレオチド重合体)、ヌクレオチドであるAMP(試料6-b:単量体)、ヌクレオシド2リン酸であるADP(試料6-c:単量体)、ヌクレオシド3リン酸であるATP(試料6-d:単量体)のいずれを添加した場合も、対照(PTEPPTのみ含有するTris-HCl緩衝液)の吸収スペクトルとの有意な差異は、認められなかった。
当該結果は、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明:図12(A))と酸化重合法によるPTEPPT(比較:図12(B))のいずれの場合も同様であった。
これらの結果から、核酸関連物質は、PTEPPTの光吸収スペクトル自体には影響を与えないことが示された。
【0147】
・6-2 )「吸収極大波長照射による蛍光スペクトルの測定」
上記6-1 )で調製した、各物質を含むPTEPPT溶液について、蛍光光度計(F-4500, HITACHI製)を用いて、蛍光スペクトルの測定を行った。当該蛍光スペクトル測定では、各PTEPPTの吸収極大波長(上記4-1で測定した値)を励起光(λex)として照射し、溶液から発せられる蛍光スペクトルを、300〜800nmの範囲で測定した。励起光として具体的には、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)に対しては560nm、酸化重合法によるPTEPPT(比較)に対しては475nm、の励起光を照射した。測定は室温にて行った。得られた蛍光スペクトルの結果を、図13(A),(B)に示した。
【0148】
(i) その結果、図13(A),(B)が示すように、核酸であるDNA(試料6-a:ヌクレオチド重合体)を添加した場合において、蛍光強度の大幅な増加が検出された。最大蛍光強度が検出された蛍光波長は、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)では647nm、酸化重合法によるPTEPPT(比較)では582nmであった。
一方、ヌクレオチドであるAMP(試料6-b:単量体)、ヌクレオシド2リン酸であるADP(試料6-c:単量体)、ヌクレオシド3リン酸であるATP(試料6-d:単量体)を添加した場合、対照(PTEPPTのみ含有するTris-HCl緩衝液)の吸収スペクトルとの有意な差異は、認められなかった。
当該DNA添加による蛍光増強作用は、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明:図13(A))と酸化重合法によるPTEPPT(比較:図13(B))のいずれの場合においても検出された。
【0149】
これらの結果から、核酸であるDNAには、PTEPPTの蛍光強度を特異的に増幅する作用があることが示された。当該蛍光増強作用は、ヌクレオチド等の単量体ではなく、ヌクレオチド重合体(核酸)とPTEPPTとの相互作用によって、特異的に発揮される作用であると推測された。
【0150】
(ii) また、図13(A)が示すように、特に触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)では、蛍光強度のバックグラウンドがほとんど検出されなかった。
また、図14の写真像図に示すように、当該蛍光は目視にて観察可能であることが示された。
これらの結果から、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPTでは、DNAとの相互作用による蛍光増強を、極めて高感度にて検出できることが示された。当該作用は、当該PTEPPTの高立体規則性構造に起因する作用と推測された。
【0151】
・6-3 )「I/I0値による核酸検出感度の評価」
上記6-2 )で測定した各物質(試料6-a〜6-d)の最大蛍光強度(I)について、対照(PTEPPTのみ含有するTris-HCl緩衝液)の最大蛍光強度(I0)に対する「I/I0」(Fluorescence intensity ratio)値を算出し、各物質とPTEPPTの相互作用による蛍光の検出感度を評価した。当該結果を表9に示した。
【0152】
その結果、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)にDNA(試料6-a)を添加した場合の「I/I0」値は、‘10.4’という高い値を示した。当該値は、バックグラウンド(PTEPPT単独での蛍光強度)に対して10.4倍という強いシグナルであることを示す値である。
それに対して、酸化重合法によるPTEPPT(比較)にDNA(試料6-a)を添加した場合の「I/I0」値は、‘2.8’という低い値であった。当該値は、バックグラウンド(PTEPPT単独での蛍光強度)に対して2.8倍という弱いシグナルであることを示す値である。
【0153】
これらの結果から、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)を用いることによって、DNAとの相互作用による蛍光を‘著しく高感度で’検出可能となることが示された。当該検出感度は、酸化重合法によるPTEPPT(比較)を用いた場合の約3.7倍という高い検出感度であることが示された(表10 参照)。
【0154】
【表9】
【0155】
【表10】
【0156】
[試験例7]『核酸濃度依存性の評価』
触媒移動型縮合重合法により合成したPTEPPTについて、核酸濃度を変化させて光吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを測定し、当該PTEPPTが有する核酸濃度依存性を評価した。
【0157】
・7-1 )「紫外-可視(UV-Vis)光吸収スペクトルの測定」
Tris-HCl緩衝液(0.05M, pH8.0)中に、PTEPPT(0.5mg/mL)及びDNA(表11に示す濃度, 試料7-a〜7-f)を含むように添加し混合して、5分間の超音波処理を行うことでPTEPPTを完全に溶解させた。なお、PTEPPTとしては、上記製造例1で得られた‘触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT’(合成例1-4-a)を供した。また、DNAとしては、20bpの二本鎖DNA(Deoxyribonucleic acid, low molecular weight from salmon sperm (SIGMA-ALDRICH))を用いた。
なお、対照として、DNAを添加しない以外は同様にして、PTEPPT含有Tris-HCl緩衝液を調製した。
調製した各溶液について、紫外可視分光光度計(UV-PC3100, SHIMADZU製)を用いて、300〜800nmの範囲の光吸収スペクトルを測定した。測定は室温にて行った。得られた吸収スペクトルの結果を、図15(A)に示した。
【0158】
その結果、図15(A)が示すように、DNA濃度を0mg/mL〜0.5mg/mLの範囲で変化させた場合においても、PTEPPTの光吸収スペクトルは変化しないことが示された。この結果から、DNAはPTEPPTの光吸収スペクトル自体には影響を与えないことが示された。
【0159】
・7-2 )「吸収極大波長照射による蛍光スペクトルの測定、及び、I/I0値の算出」
上記7-1 )で調製した各DNA濃度のPTEPPT溶液について、分光蛍光光度計(F-4500, HITACHI製)を用いて、蛍光スペクトルの測定を行った。当該蛍光スペクトル測定では、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPTの吸収極大波長(560nm)の光を励起光(λex)として照射し、溶液から発せられる蛍光スペクトルを、300〜800nmの範囲で測定した。測定は室温にて行った。得られた蛍光スペクトルの結果を、図15(B)に示した。
また、測定された最大蛍光強度(I)について、対照の蛍光強度(I0)に対する「I/I0」(Fluorescence intensity ratio)値を算出し、DNAとPTEPPTの相互作用による蛍光検出感度を評価した。当該結果を表11に示した。
【0160】
その結果、DNA濃度を0mg/mL〜0.5mg/mLの範囲で変化させた場合、DNA濃度が高いほどPTEPPTの蛍光強度が強くなる傾向が示された。即ち、DNA濃度依存的にPTEPPTの蛍光強度が向上することが明らかになった。
また、当該PTEPPTは、DNA濃度0.01mg/mLという低濃度DNA溶液に対しても、「I/I0」値が2.0を示し、十分に核酸検出が可能であることが示された。なお、核酸濃度0.01mg/mL(10ng/μL)の検出感度は、エチジウムブロマイド法に匹敵する感度である。
【0161】
これらのことから、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)は、核酸工学や遺伝子解析分野で多用される‘ngオーダーの核酸検出試薬’として、有用に使用可能な物質であることが示された。また、核酸濃度依存性が極めて高いことから、‘核酸定量’にも利用可能なことが示された。
【0162】
【表11】
【0163】
[試験例8(本発明)]『ゼータ電位の測定』
触媒移動型縮合重合法により合成したPTEPPTについて、核酸濃度を変化させてゼータ電位を測定し、当該PTEPPTとDNAとの相互作用機構を考察した。
【0164】
・8-1 )「ゼータ電位の測定」
Tris-HCl緩衝液(0.05M, pH8.0)中に、PTEPPT(0.5mg/mL)及びDNA(表12に示す濃度, 試料8-a〜8-c)を含むように添加し混合して、5分間の超音波処理を行うことでPTEPPTを完全に溶解させた。なお、PTEPPTとしては、上記製造例1で得られた‘触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT’(合成例1-4-a)を供した。また、二本鎖DNA(Deoxyribonucleic acid, low molecular weight from salmon sperm (SIGMA-ALDRICH))を用いた。
なお、対照として、DNAを添加しない以外は同様にして、PTEPPT含有Tris-HCl緩衝液を調製した。
調製した各溶液を石英製セルに入れ、ゼータ電位測定装置(ゼータサイザーナノZS, Malvern製)を用いて、ゼータ電位を測定した。なお当該測定は、He-Neレーザー633nmを用いて、室温条件にて後方散乱173度にて行った。結果を図16, 表12に示した。
【0165】
その結果、核酸存在下におけるPTEPPT溶液(試料8-a〜8-c)では、対照(核酸無添加のPTEPPT溶液)に比べて、ゼータ電位が負電位側の値を示すことが示された。この結果は、0.01mg/mLという僅かな量であっても、DNAを添加することによって、PTEPPTの凝集状態が変化することを示す結果である。
当該知見より、核酸存在下でのPTEPPTの蛍光増強作用は、核酸(−電荷)とPTEPPTのホスホニウム基(+電荷)の静電気的相互作用によりPTEPPTどうしの凝集が緩和されて、蛍光強度が増強したために発揮されたものと推測された。
【0166】
【表12】
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明は、分子生物学、遺伝子工学、医薬、臨床検査、食品、農芸化学、高分子化学等を始めとする、遺伝子や核酸を扱う全ての産業及び研究分野において、汎用的に幅広く利用される技術となることが期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16