【実施例】
【0078】
以下、実施例(試験例)を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0079】
[試験例1(製造例1:本発明)]『触媒移動型縮合重合法によるPTEPPTの合成』
ホスホニウム側鎖を有するチオフェン重合体であるPTEPPT(Poly[3-(3-triethyl-phosphoniumpropoxy)thiophene bromide])を合成するにあたり、‘触媒移動型縮合重合法’(Catalyst transfer polycondensation method)での合成法を検討した(
図4 参照)。
【0080】
・1-1 )「合成例1-1:BPTの合成(3-メトキシチオフェンのメトキシ基へのブロモアルコキシ側鎖の付与)」
(1) 合成スキーム
下記に示す反応式(c1)の反応により、‘BPT’(3-(3-Bromo)-propoxythiophene)の合成を行った。
【0081】
【化9】
【0082】
(2) 試薬
上記反応式(c1)の反応を行うにあたり、下記に示す試薬を用いた。
‘3-メトキシチオフェン’(3-Methoxythiophene): 市販品(SIGMA-ALDRICH, 純度 98%<)を減圧蒸留により精製したものを用いた(30℃, 0.3kPa)。
‘3-ブロモ-1-プロパノール’(3-Bromo-1-propanol): 市販品(和光純薬工業株式会社)を減圧蒸留により精製したものを用いた(50℃, 0.3kPa)。
‘トルエン’(Toluene): 市販品(和光純薬工業株式会社, 純度 99.5%<)を溶媒精製装置(GlassContour社)で精製したものを用いた。
‘硫酸水素ナトリウム一水和物’(NaHSO
4・H
2O, Sodium hydrogen sulfate monohydrate): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級)をそのまま用いた。
‘塩化カルシウム’(Calcium chloride): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級)をそのまま用いた。
‘硫酸マグネシウム(無水)’(Magnesium sulfate (anhydrous)): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級)をそのまま用いた。
‘ヘキサン’(Hexane): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級(純度 96%<))を溶媒精製装置(ミツワ理化学工業株式会社, Glass Contour)で精製したものを用いた。
‘クロロホルム’(Chloroform): 市販品(和光純薬工業株式会社、特級(純度 99%<))をそのまま用いた。
‘ジエチルエーテル’(Diethyl ether): 市販品(関東化学株式会社, 純度 99.5%<)をそのまま用いた。
【0083】
(3) BPTの合成及び精製
二口ナスフラスコに共沸管、冷却管、及び塩化カルシウム管をつなぎ、3-メトキシチオフェン(5.02g)、硫酸水素ナトリウム一水和物(0.865g)、及びトルエン(120mL)を加えた。当該フラスコ内を窒素雰囲気下にして、オイルバス100℃にて2時間の加熱攪拌を行った。
ここに、3-ブロモ-1-プロパノール(13.41g)とトルエン(30mL)を加えたところ、フラスコ内の溶液が褐色に変化した。その後、16時間の加熱攪拌を行ったところ、共沸管に無色の反応溶液が得られた。(なお、当該加熱攪拌を16時間経過後も継続して行ったが、当該無色の反応溶液の量はこれ以上増加しなかった。)
【0084】
得られた当該無色の反応溶液を、精製水100mLにあけて反応を停止させた。その後、この反応溶液を精製水(100mL)で3回洗浄し、当該洗浄後の水層に対してジエチルエーテル(100mL)での抽出を4回行った。
得られたエーテル層を上記トルエン層と混合し、ここに硫酸マグネシウム(無水)を乾燥剤として加えて一晩乾燥させ、濾過して硫酸マグネシウムを除去した。その後、エバポレーターで溶媒を留去し、減圧乾燥機を用いて乾燥させて、粗生成物を得た。
【0085】
得られた当該粗生成物について、ヘキサン:クロロホルム=4:1(体積比)の混合溶媒を展開溶媒として、カラムクロマトグラフィー(Wakogel C-300)で精製した。さらに、ヘキサンからクロロホルムへのグラジエント展開溶媒を用いて、中圧クロマトグラフィー(YFLC W-Prep 2XY)により精製した。
その後、エバポレーターで溶媒を留去し35℃で減圧乾燥したところ、薄黄色透明油状の液体が得られた(表1 参照)。
【0086】
(4) BPTの同定及び評価
上記液体について、4.0cm×1.5cmに裁断したシート(メルク株式会社 シリカゲル60 F
254)に、キャピラリーを用いて当該液体を添加し、ヘキサン:クロロホルム=4:1(体積比)を展開溶媒として展開したところ、Rf値は0.35であった。
また、上記液体についてEI-MS測定を行ったところ、得られたマススペクトルに、BPTの親イオンピーク(m/z=222)及びそのフラグメントピーク(m/z=100, 141)が主要ピークとして検出された。
また、
1H-NMR測定を行ったところ、
1H-NMRスペクトルの各ピークの積分比は、BPTの分子構造式より求められるプロトン比と一致した。
これらの結果から、当該方法により、‘BPT’(3-(3-Bromo)-propoxythiophene)の合成及び精製が可能であることが確認された。
【0087】
【表1】
【0088】
・1-2 )「合成例1-2:DBrBPTの合成(チオフェン環2位及び5位のジブロモ化反応)」
(1) スキーム
下記に示す反応式(c2)の反応により、‘DBrBPT’(Dibromo-3-(3-bromo)-propoxythiophene)の合成を行った。
【0089】
【化10】
【0090】
(2) 試薬
上記反応式(c2)の反応を行うにあたり、下記に示す試薬を用いた。
‘BPT’(3-(3-Bromo)-propoxythiophene): 上記合成例1-1で合成したものを用いた。
‘NBS’(N-Bromosuccinimide): 市販品(東京化成工業株式会社, 純度 98.0%<)をそのまま用いた。
‘THF’(Tetrahydrofuran):市販品(和光純薬工業株式会社, 純度 99.5%<)を溶媒精製装置(ミツワ理化学工業株式会社, Glass Contour)で精製したものを用いた。
‘酢酸’(Acetic acid):市販品(和光純薬工業株式会社, 特級(純度 99.7%<))をそのまま用いた。
‘塩化カルシウム’(Calcium chloride): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級)をそのまま用いた。
‘硫酸マグネシウム(無水)’(Magnesium sulfate (anhydrous)): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級)をそのまま用いた。
‘ジエチルエーテル’(Diethyl ether): 市販品(関東化学株式会社, 純度 99.5%<)をそのまま用いた。
‘炭酸水素ナトリウム’(Sodium hydrogen carbonate): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級)をそのまま用いた。
‘塩化ナトリウム’(Sodium chloride): 市販品(和光純薬工業株式会社, 一級)をそのまま用いた。
‘ヘキサン’(Hexane): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級(純度 96%<))を溶媒精製装置(ミツワ理化学工業株式会社, Glass Contour)で精製したものを用いた。
【0091】
(3) DBrBPTの合成及び精製
サンプルビンに、THFと酢酸を等量(THF:酢酸=50mL:50mL)加えて、混合溶媒を調製した。三口ナスフラスコに、ジムロート冷却管、塩化カルシウム管、及び滴下漏斗をつなぎ、上記混合溶媒(THF:酢酸=1:1, 80mL)を加え、さらにNBS(8.85g)を加えて、窒素雰囲気下で撹拌した。
次いで、上記合成例1-1で調製したBPT(4.98g)を、上記混合溶媒(THF:酢酸=1:1, 20mL)に溶解させ、滴下漏斗を用いて氷浴下で徐々に加えた。反応溶液は無色透明から緑色へと変化した。
【0092】
その後、反応溶液を徐々に室温に戻し、室温で2時間撹拌し、精製水にあけて反応を停止させた。その後、当該反応溶液に対して、ジエチルエーテル(60mL)での抽出を3回行った。
得られたエーテル層を精製水(100mL)で3回洗浄し、炭酸水素ナトリウム飽和水溶液(100mL)での洗浄(中和処理)を3回行った後、飽和塩化ナトリウム水溶液(100mL)で3回洗浄した。
ここに硫酸マグネシウム(無水)を乾燥剤として加えて一晩乾燥させ、濾過して硫酸マグネシウムを除去した。その後、エバポレーターで溶媒を留去し、粗生成物を得た。
【0093】
得られた当該粗生成物について、4.0cm×1.5cmに裁断したシート(メルク株式会社 シリカゲル60 F
254)に、キャピラリーを用いて当該液体を添加し、ヘキサン:クロロホルム=4:1(体積比)を展開溶媒として展開した。展開後、4つのスポット(Rf値0.40, 0.30, 0.15, 0.08)のうち、Rf値0.40のスポットを回収した。
回収した当該スポットを、ヘキサン:クロロホルム=4:1(体積比)の混合溶媒を展開溶媒として、カラムクロマトグラフィー(Wakogel C-300)で精製した。さらに、ヘキサンからクロロホルムへのグラジエント展開溶媒を用いて、中圧クロマトグラフィー(YFLC W-Prep 2XY)により精製した。
その後、エバポレーターで溶媒を留去し35℃で減圧乾燥したところ、黄色透明油状液体の液体が得られた(表2 参照)。
【0094】
(4) DBrBPTの同定及び評価
上記回収したスポットについてEI-MS測定を行ったところ、得られたマススペクトルに、DBrBPTの親イオンピーク(m/z=380)及びそのフラグメントピーク(m/z=258)が主要ピークとして検出された。
また、
1H-NMR測定を行ったところ、
1H-NMRスペクトルの各ピークの積分比は、DBrBPTの分子構造式より求められるプロトン比と一致した。
これらの結果から、当該方法により、‘DBrBPT’(Dibromo-3-(3-bromo)-propoxythiophene)(3-(3-Bromo)-propoxythiophene)の合成及び精製が可能であることが確認された。
【0095】
【表2】
【0096】
・1-3 )「合成例1-3:PBPTの合成(ターボグリニャール試薬とNiカップリング触媒を用いた重合反応)」
(1) 合成スキーム
下記に示す反応式(c3)の反応により、‘PBPT’(Poly[3-(3-Bromo)-propoxythiophene])の合成を行った。
【0097】
【化11】
【0098】
(2) 試薬
上記反応式(c3)の反応を行うにあたり、下記に示す試薬を用いた。
‘DBrBPT’(Dibromo-3-(3-bromo)-propoxythiophene): 上記合成例1-2で合成したものを用いた。
‘i-PrMgCl・LiCl’(Isopropylmagnesium chloride lithium chloride): 市販品(SIGMA-ALDRICH)をそのまま用いた。
‘THF’(Tetrahydrofuran):市販品(和光純薬工業株式会社, 合成脱水用溶媒, 安定剤不含)をそのまま用いた。
‘Ni(dppp)Cl
2’([1,3-Bis(diphenylphosphino)propane] nickel(II) dichloride): 市販品(SIGMA-ALDRICH)をそのまま用いた。
‘塩酸’(HCl):市販品(関東化学株式会社, 鹿一級)をそのまま用いた。
‘ヘキサン’(Hexane): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級(純度 96%<))を溶媒精製装置(ミツワ理化学工業株式会社, Glass Contour)で精製したものを用いた。
【0099】
(3) PBPTの合成及び精製
アルゴン雰囲気にしたグローブボックス内において、30mLサンプルビンにTHF(47mL)、i-PrMgCl・LiCl(3.3mL)、及び上記合成例1-2で調製したDBrBPT(1.603g又は1.609g)を加え、モノー溶液とした。また、シーラムキャップをつけた二口ナスフラスコ内に、Ni(dppe)Cl
2(153mg又は77mg)及びTHF(3mL)を加え、触媒溶液とした。
上記モノマー溶液を室温で2時間撹拌した後、アルゴン雰囲気下にてシリンジを用いてモノマー溶液を触媒溶液に添加して重合反応を行った
5M塩酸溶液にあけて反応を停止させ、メンブランフィルター(親水0.1μm)を用いて吸引ろ過した。得られた固体をヘキサンでソックスレー洗浄し、黒紫色固体を得た(表3 参照)。
【0100】
(4) PBPTの同定及び評価
得られた上記固体について、DMFを展開溶媒としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により分子量分布の計測を行った。その結果、合成例1-3-aでは平均重合度8のPBPTが、合成例1-3-bでは平均重合度10のPBPTが、それぞれ合成されていることが示された(表4 参照)。また、Mw/Mnの値が1に近いことから、合成された重合体の分子量分布の幅が狭いことが示された(表4 参照)。
これらの結果から、i-PrMgCl・LiCl(ターボグリニャール試薬)とNiカップリング触媒(Ni(dppp)Cl
2)を用いた反応により、平均重合度8〜10程度のポリチオフェン化合物(重合体)を、ほぼ均質の重合度にて合成できることが示された。
【0101】
【表3】
【0102】
【表4】
【0103】
・1-4 )「合成例1-4:PTEPPTの合成(ブロモアルコキシ側鎖の四級ホスホニウム化)」
(1) スキーム
下記に示す反応式(c4)の反応により、‘PTEPPT’(Poly[3-(3-triethyl-phosphoniumpropoxy)thiophene bromide])の合成を行った。
【0104】
【化12】
【0105】
(2) 試薬
上記反応式(c4)の反応を行うにあたり、下記に示す試薬を用いた。
‘PBPT’(Poly[3-(3-Bromo)-propoxythiophene]): 上記合成例1-3で合成したものを用いた。
‘トリエチルホスフィン’(P(Et)
3, Triethylphosphine): 市販品(SIGMA-ALDRICH, 1M in THF)をそのまま用いた。
‘アセトニトリル’(CH
3CN, Acetonitrile): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級)をそのまま用いた。
‘N,N-ジメチルホルムアミド’(DMF, N,N-dimethylformamide):市販品(和光純薬工業株式会社)をそのまま用いた。
‘ジエチルエーテル’(Diethyl ether): 市販品(関東化学株式会社, 純度 99.5%<)をそのまま用いた。
【0106】
(3) PTEPPTの合成及び精製
二口ナスフラスコに、ジムロート冷却管及び窒素導入管をつなぎ、トリエチルホスフィン(2.3mL)、表5に示す溶媒(アセトニトリル:150mL, 又は, DMF:150mL)、及び上記合成例1-3で合成したPBPT(合成例1-3-a:251mg, 又は, 合成例1-3-b:248mg)を加え、フラスコ内を窒素雰囲気下にして、オイルバス80℃にて72時間の加熱還流を行い反応させた。
その後、ジエチルエーテルに再沈殿後、メンブレンフィルター(疎水0.2μm)を用いて吸引ろ過した。得られた黒紫色固体を精製水に溶解させ、メンブレンフィルター(親水0.2μm)を用いて吸引ろ過後、得られた濾液をエバポレーターにより溶媒を留去し、黒紫色固体を得た(表5 参照)。
【0107】
(4) PTEPPTの同定及び評価
得られた固体について、溶解性試験を行ったところ、水、メタノール、エタノール、DMSO、DMF等の極性溶媒に対して高い溶解性を示すことが示された。特に、水に対する溶解性が付与され、親水性を示すことが明らかになった。一方、当該反応前のPBPTは、親水性を示さない物質である。
これらのことから、得られた当該固体は、ホスホニウム化されたPTEPPTであることが示された。
【0108】
また、上記ホスホニウム化反応後に得られた固体について、TOF-MS測定による質量分析を行ったところ、合成例1-4-a(平均重合度:8)では、15量体のPTEPPTを示す明確なピークが確認された(
図5(A) 参照)。また、合成例1-4-b(平均重合度:10)では、19量体のPTEPPTを示す明確なピークが確認された(
図5(B) 参照)。
【0109】
なお、合成例1-4-b(溶媒:DMF)で得られたPTEPPTの収量は、合成例1-4-a(溶媒:CH
3CN)と比べて約3.7倍という高い収率となることが示された。当該収量の差異は、PBTPとPTEPPTの両物質とも、アセトニトリルよりもDMFに対する親和性が高いことに起因するためと推測される。
【0110】
【表5】
【0111】
[試験例2(製造例2:比較)]『酸化重合法によるPTEPPTの合成』
触媒移動型縮合重合法(Catalyst transfer polycondensation method)との比較のため、従来法である‘酸化重合法’(Oxdative method)により、PTEPPT(Poly[3-(3-triethyl-phosphoniumpropoxy)thiophene chloride])の合成を行った(
図6 参照)。
【0112】
・2-1 )「合成例2-1:BPTの合成(3-メトキシチオフェンのメトキシ基へのブロモアルキル側鎖の付与)」
(1) 合成スキーム
下記に示す反応式(o1)の反応により、‘BPT’(3-(3-Bromo)-propoxythiophene)の合成を行った。
【0113】
【化13】
(2) BPTの合成及び精製
上記反応式(o1)の反応は、製造例1における反応式(c1)の反応と同一の反応である。そこで、上記製造例1における合成例1-1に記載の方法と同様にして、‘BPT’(3-(3-Bromo)-propoxythiophene)の合成及び精製を行い、薄黄色透明油状の液体を得た(表6 参照)。
【0114】
(3) BPTの同定及び評価
上記液体についてEI-MS測定を行ったところ、得られたマススペクトルに、BPTの親イオンピーク(m/z=222)及びそのフラグメントピーク(m/z=100, 141)が主要ピークとして検出された。
また、
1H-NMR測定を行ったところ、
1H-NMRスペクトルの各ピークの積分比は、BPTの分子構造式より求められるプロトン比と一致した。
これらの結果から、‘BPT’(3-(3-Bromo)-propoxythiophene)の合成及び精製が成功していることが確認された。
【0115】
【表6】
【0116】
・2-2 )「合成例2-2:TEPPTの合成(ブロモアルコキシ側鎖の四級ホスホニウム化)」
(1) 合成スキーム
下記に示す反応式(o2)の反応により、‘TEPPT’(3-(3-triethyl-phosphoniumpropoxy)thiophene bromide)の合成を行った。
【0117】
【化14】
【0118】
(2) 試薬
上記反応式(o2)の反応を行うにあたり、下記に示す試薬を用いた。
‘BPT’(3-(3-Bromo)-propoxythiophene): 上記合成例2-1で合成したものを用いた。
‘トリエチルホスフィン’(P(Et)
3, Triethylphosphine): 市販品(SIGMA-ALDRICH, 1M in THF)をそのまま用いた。
‘アセトニトリル’(CH
3CN, Acetonitrile): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級)をそのまま用いた。
‘酢酸エチル’(Ethyl acetate): 市販品(和光純薬工業株式会社, 特級(純度 99.5%<))をそのまま用いた。
‘ジエチルエーテル’(Diethyl ether): 市販品(関東化学株式会社, 純度 99.5%<)をそのまま用いた。
【0119】
(3) TEPPTの合成及び精製
100mL二口ナスフラスコの上部にジムロート冷却管及び窒素導入間をつなぎ、トリエチルホスフィン(22.6mL)、アセトニトリル(60mL)、及び上記合成例2-1で合成したBPT(2.5g)を加え、フラスコ内を窒素雰囲気下にして、オイルバス80℃にて48時間の加熱還流を行い反応させた。
その後、エバポレーターで溶媒を留去し、無色油状液体の粗生成物を得た。当該液体を酢酸エチルで洗浄し、次いでジエチルエーテルで洗浄したところ、白色固体が得られた(表7 参照)。
【0120】
(4) TEPPTの同定及び評価
上記固体についてEI-MS測定を行ったところ、得られたマススペクトルに、TEPPTの親イオンピーク(m/z=259)が主要ピークとして検出された。
また、
1H-NMR測定を行ったところ、
1H-NMRスペクトルの各ピークの積分比は、TEPPTの分子構造式より求められるプロトン比と一致した。また、
これらの結果から、‘TEPPT’(3-(3-triethyl-phosphoniumpropoxy)thiophene bromide)の合成及び精製が成功したことが確認された。
【0121】
【表7】
【0122】
・2-3 )「合成例2-3:PTEPPTの構成(酸化重合)」
(1) スキーム
下記に示す反応式(o3)の反応により、‘PTEPPT’(Poly[3-(3-triethyl-phosphoniumpropoxy)thiophene chloride])の合成を行った。
【0123】
【化15】
【0124】
(2) 試薬
上記反応式(o3)の反応を行うにあたり、下記に示す試薬を用いた。
‘TEPPT’(3-(3-triethyl-phosphoniumpropoxy)thiophene bromide): 上記合成例2-2で合成したものを用いた。
‘塩化鉄(III)(無水物)’(FeCl
3, Iron(III) chloride anhydrous): 市販品(和光純薬工業株式会社, 純度 98%<))をそのまま用いた。
‘クロロホルム(超脱水)’(Chloroform Super dehydrated): 市販品(和光純薬工業株式会社)をそのまま用いた。
‘メタノール’(Methanol): 市販品(関東化学株式会社, 純度 99.5%<)をそのまま用いた。
‘アセトン’(Acetone): 市販品(関東化学株式会社, 純度 99.5%<)をそのまま用いた。
‘TBAC’(Bu
4NCl, Tetrabutylammonium chloride): 市販品(東京化成工業株式会社, 純度 98.0%<)をそのまま用いた。
‘ヒドラジン一水和物’(hydrazine hydrate): 市販品(和光純薬株式会社, 特級)をそのまま用いた。
【0125】
(3) PTEPPTの合成及び精製
100mL三口ナスフラスコにジムロート冷却管、塩化カルシウム管、及び滴下漏斗を取り付け、窒素フローを行ってフラスコ内を窒素雰囲気下にした。ここに、クロロホルム(20mL)に塩化鉄(III)(0.581g)を懸濁した液を入れて、フラスコ内を窒素雰囲気下にし、オイルバス30℃にて加熱撹拌した。
次に、上記合成例2-2で合成したTEPPT(0.300g)をクロロホルム(10mL)に溶解させ、滴下漏斗を用いてフラスコ内に徐々に加えたところ、黒色固体がフラスコ壁面に析出した。当該析出固体と溶媒との加熱攪拌を30℃にて24時間行った。
【0126】
その後、エバポレーターを用いて溶媒を留去し、得られた固体を少量のメタノールに溶解した後、アセトン(300mL)に溶解した。そこに、TBACを加えたところ、黒色固体が析出した。
これを、メンブレンフィルター(疎水性0.2μm)を用いて濾過し、得られた固形物をメタノール(300mL)に溶解した。ここに、ヒドラジン一水和物を数滴加えて脱ドープした。
これを、メンブランフィルター(疎水性0.2μm)を用いて濾過して不純物を除去し、エバポレーターを用いて溶液を濃縮した。
得られた濃縮溶液を、テフロン(登録商標)シート(PTFE樹脂シート)上にキャストし、窒素雰囲気下で溶媒を除去することにより、固形物を回収した。これを、TBAC飽和アセトン溶液で洗浄し、さらにアセトンで洗浄し、茶色固体を得た(表8 参照)。
【0127】
(4) PTEPPTの同定及び評価
得られた固体について、溶解性試験を行ったところ、水、メタノール、エタノール、DMSO、DMF等の極性溶媒に対して高い溶解性を示すことが示された。
また、上記酸化重合反応後に得られた固体について、TOF-MS測定による質量分析を行ったところ、各重合度のポリマーに相当するピーク波形が検出された。最大17量体までの明確なピークが確認された(
図7 参照)。
これらのことから、得られた当該固体は、塩化鉄(III)により酸化重合されて合成されたPTEPPTであることが示された。
【0128】
【表8】
【0129】
[試験例3]『
1H-NMR測定による立体規則性の評価』
触媒移動型縮合重合法により合成したPTEPPTと、酸化重合法により合成したPTEPPTについて、
1H-NMR測定の結果から‘立体規則性’の評価を行った。
【0130】
・3-1 )「重DMSOを測定溶媒としたPTEPPTの
1H-NMR測定」
上記製造例1で得られた‘触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT’(合成例1-4-a)、及び、上記製造例2で得られた‘酸化重合法によるPTEPPT’(合成例2-3)を試料として供し、測定溶媒として重DMSO((CD
3)
2SO)を用いて
1H-NMR測定を行った。得られた
1H-NMRスペクトルの結果を
図8(A), 9(A)、に示した。また、芳香族由来のピークが検出される低磁場側の領域については、拡大して
図8(B), 9(B)として示した。
【0131】
その結果、
図8が示すように、‘酸化重合法によるPTEPPT’(合成例2-3)では、芳香族由来ピークが検出される領域である7.19ppm、7.34ppm、及び7.50ppmに、同程度のシグナル強度の明確なピークが3つ検出された(
図8(B) 参照)。
当該結果から、‘酸化重合法によるPTEPPT’は、チオフェン環どうしのカップリング様式として、HT結合(2位-5位の結合)、HH結合(2位-2位の結合)、TT結合(5位-5位の結合)、の3種類の結合をほぼ同頻度で含む重合体であることが示された。
このことから、‘酸化重合法によるPTEPPT’は、当該3種類のカップリング様式が‘ランダム’に起こって形成された重合体であることが示された。即ち、酸化重合法によるPTEPPTは、立体規則性の低い重合体であることが示された(
図2,3 参照)。
【0132】
一方、
図9が示すように、‘触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT’(合成例1-4-a)では、芳香族由来ピークが検出される領域である7.5ppm付近にピークが検出された(
図9(B) 参照)。
当該結果から、‘触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT’は、チオフェン環どうしのカップリング様式として、HT結合(2位-5位の結合)1種類を高頻度で含む立体規則性の高い重合体であることが示唆された(
図2,3 参照)。
但し、当該スペクトルには、芳香族由来のピークが出現する可能性がある低磁場側(7.5〜7.8ppm付近)にバックグラウンド波形の上昇が認められた。そこで、ホスホニウム化前の最終合成物(PTEPPT)の前段階の中間生成物であるPBPTを用いて、下記3-2 )の再試験を行った。
【0133】
・3-2 )「PBPTの
1H-NMR測定」
上記3-1 )における‘触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT’の芳香族由来スペクトルピークを確認するため、最終合成物(PTEPPT)の前段階の中間生成物であるPBPT(合成例1-3-a)を試料に供して、
1H-NMR測定を行った。測定溶媒には重クロロホルム(CDCl
3)を用いた。得られた
1H-NMRスペクトルの結果を
図10(A)に示した。なお、PBPTの分子構造を
図10(B)に示した。
【0134】
その結果、PTEPPTのホスホニウム化前段階であるPBPT(BPT重合体)を試料に供した場合でも、芳香族由来と推定されるピーク(6.9ppm)が1つだけ検出されることが示された(
図10(A) 参照)。なお、7.3ppm付近の著しく高いピークは、溶媒であるクロロホルム由来のピークであると推定される。
当該結果から、触媒移動型縮合重合法によるチオフェン環どうしのカップリング様式は、HT結合(2位-5位の結合)1種類を高頻度で含むことが示された。即ち、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPTは、立体規則性が極めて高い重合体であることが示された(
図2,3 参照)。
【0135】
・3-3 )「立体規則性に関する結論」
上記
1H-NMR測定のスペクトルの結果が示すように、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)は、HT結合が特異的に選択されて構成された、高立体規則性構造の重合体であることが示された(
図3(A) 参照)。
一方、酸化重合法によるPTEPPT(比較)は、HT結合、HH結合、及びTT結合がランダムで起こって構成された、低立体規則性構造の重合体であることが示された(
図3(B) 参照)。
【0136】
[試験例4]『光吸収スペクトル測定からの重合構造の評価』
触媒移動型縮合重合法により合成したPTEPPTと、酸化重合法により合成したPTEPPTについて、光吸収スペクトルを測定し、重合構造に関する評価を行った。
【0137】
・4-1 )「紫外-可視(UV-Vis)光吸収スペクトルの測定」
Tris-HCl緩衝液(0.05M, pH8.0)中に、PTEPPT(0.5mg/mL)を含むように添加し混合して、5分間の超音波処理を行ってPTEPPTを完全に溶解させた。なお、PTEPPTとしては、上記製造例1で得られた‘触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT’(合成例1-4-a)、及び、上記製造例2で得られた‘酸化重合法によるPTEPPT’(合成例2-3)を、試料として供した。
調製した当該水溶液について、紫外可視分光光度計(UV-PC3100, SHIMADZU製)を用いて、300〜800nmの範囲の光吸収スペクトルを測定した。測定は室温にて行った。得られた吸収スペクトルの結果を、
図11(A),(B)における「(Ab.)」で示した曲線にて示した。
【0138】
(i) その結果、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)の吸収スペクトル(Ab.)は、シャープなピークを示した(
図11(A) 参照)。
当該結果から、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPTは、立体規則性が高い重合体であることが示唆された。また、当該結果から、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPTは‘重合度が揃った均質な重合体’であることも示唆された。
【0139】
一方、酸化重合法によるPTEPPT(比較)の吸収スペクトル(Ab.)は、ブロードなピークを示した(
図11(B) 参照)。
当該結果から、酸化重合法によるPTEPPTは、立体規則性が低い重合体であることが示唆された。また、当該結果から、酸化重合法によるPTEPPTは‘重合度が不揃いな不均質な重合体’であることも示唆された。
【0140】
(ii) また、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)の吸収極大波長(560nm)は、酸化重合法によるPTEPPT(比較)の吸収極大波長(475nm)よりも、大幅に長波長方向に深色シフトしていることが示された。
当該結果から、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明:高立体規則性構造)は、重合体内のπ-π*共役系の繋がりが長い重合体であることが示唆された。当該π-π*共役系の繋がりが長いという性質は、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT分子内には、チオフェン環どうしの結合にねじれがあまり存在せず、‘同一平面状に長く並んで存在している’ことを示唆している。
逆に、酸化重合法によるPTEPPT(比較:低立体規則性構造)は、重合体内のπ-π*共役系の繋がりが短い重合体であることが示唆された。当該π-π*共役系の繋がりが短いという性質は、酸化重合法によるPTEPPT分子内には、チオフェン環どうしに結合に‘ねじれが多く存在し’同一平面状に長く並んで存在していない、ことを示唆している。
【0141】
[試験例5]『蛍光スペクトル測定からの重合体の性質評価』
触媒移動型縮合重合法により合成したPTEPPTと、酸化重合法により合成したPTEPPTについて、吸収極大波長を照射した際の蛍光スペクトルを測定し、各PTEPPTの性質に関する評価を行った。
【0142】
・5-1 )「吸収極大波長照射による蛍光スペクトルの測定」
上記4-1 )で調製した各PTEPPT(0.5mg/mL)含有Tris-HCl緩衝液(0.05M, pH8.0)について、分光蛍光光度計(F-4500, HITACHI製)を用いて、蛍光スペクトルの測定を行った。
当該蛍光スペクトル測定では、各PTEPPTの吸収極大波長(上記4-1で測定した値)の光を励起光として照射し、溶液から発せられる蛍光スペクトルを、300〜800nmの範囲で測定した。励起光として具体的には、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)に対しては560nm、酸化重合法によるPTEPPT(比較)に対しては475nm、の波長(λex)の光を照射した。測定は室温にて行った。得られた蛍光スペクトルの結果を、
図11(A),(B)における「(Fl.)」で示した曲線にて示した。
【0143】
その結果、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)の蛍光スペクトル(Fl.)では、ピークが明確に検出できない程度の弱い蛍光しか検出されなかった。一方、酸化重合法によるPTEPPT(比較)の蛍光スペクトル(Fl.)では、ピーク波長において約20倍の強度の強い蛍光が検出された。
この結果は、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)は、核酸との相互作用による蛍光強度を検出する際において、PTEPPTが単独で放射する蛍光バックグラウンドを、著しく低減できることを示唆している。
【0144】
[試験例6]『核酸関連物質に対する認識能の評価』
触媒移動型縮合重合法により合成したPTEPPTと、酸化重合法により合成したPTEPPTについて、核酸存在下での光吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを測定し、PTEPPTの核酸関連物質に対する認識能(検出能)を評価した。
【0145】
・6-1 )「紫外-可視(UV-Vis)光吸収スペクトルの測定」
Tris-HCl緩衝液(0.05M, pH8.0)中に、PTEPPT(0.5mg/mL)及び表9に示す各核酸関連物質(試料6-a〜6-d, 0.02mg/mL)を含むように添加し混合して、5分間の超音波処理を行うことでPTEPPTを完全に溶解させた。なお、PTEPPTとしては、上記製造例1で得られた‘触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT’(合成例1-4-a)、及び、上記製造例2で得られた‘酸化重合法によるPTEPPT’(合成例2-3)を供した。また、DNAとしては、二本鎖DNA(Deoxyribonucleic acid, low molecular weight from salmon sperm (SIGMA-ALDRICH))を用いた。
なお、対照として、核酸関連物質を添加しない以外は同様にして、PTEPPT含有Tris-HCl緩衝液を調製した。
調製した各水溶液について、紫外可視分光光度計(UV-PC3100, SHIMADZU製)を用いて、300〜800nmの範囲の光吸収スペクトルを測定した。測定は室温にて行った。得られた吸収スペクトルの結果を、
図12(A),(B)に示した。
【0146】
その結果、
図12(A),(B)が示すように、核酸であるDNA(試料6-a:ヌクレオチド重合体)、ヌクレオチドであるAMP(試料6-b:単量体)、ヌクレオシド2リン酸であるADP(試料6-c:単量体)、ヌクレオシド3リン酸であるATP(試料6-d:単量体)のいずれを添加した場合も、対照(PTEPPTのみ含有するTris-HCl緩衝液)の吸収スペクトルとの有意な差異は、認められなかった。
当該結果は、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明:
図12(A))と酸化重合法によるPTEPPT(比較:
図12(B))のいずれの場合も同様であった。
これらの結果から、核酸関連物質は、PTEPPTの光吸収スペクトル自体には影響を与えないことが示された。
【0147】
・6-2 )「吸収極大波長照射による蛍光スペクトルの測定」
上記6-1 )で調製した、各物質を含むPTEPPT溶液について、蛍光光度計(F-4500, HITACHI製)を用いて、蛍光スペクトルの測定を行った。当該蛍光スペクトル測定では、各PTEPPTの吸収極大波長(上記4-1で測定した値)を励起光(λex)として照射し、溶液から発せられる蛍光スペクトルを、300〜800nmの範囲で測定した。励起光として具体的には、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)に対しては560nm、酸化重合法によるPTEPPT(比較)に対しては475nm、の励起光を照射した。測定は室温にて行った。得られた蛍光スペクトルの結果を、
図13(A),(B)に示した。
【0148】
(i) その結果、
図13(A),(B)が示すように、核酸であるDNA(試料6-a:ヌクレオチド重合体)を添加した場合において、蛍光強度の大幅な増加が検出された。最大蛍光強度が検出された蛍光波長は、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)では647nm、酸化重合法によるPTEPPT(比較)では582nmであった。
一方、ヌクレオチドであるAMP(試料6-b:単量体)、ヌクレオシド2リン酸であるADP(試料6-c:単量体)、ヌクレオシド3リン酸であるATP(試料6-d:単量体)を添加した場合、対照(PTEPPTのみ含有するTris-HCl緩衝液)の吸収スペクトルとの有意な差異は、認められなかった。
当該DNA添加による蛍光増強作用は、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明:
図13(A))と酸化重合法によるPTEPPT(比較:
図13(B))のいずれの場合においても検出された。
【0149】
これらの結果から、核酸であるDNAには、PTEPPTの蛍光強度を特異的に増幅する作用があることが示された。当該蛍光増強作用は、ヌクレオチド等の単量体ではなく、ヌクレオチド重合体(核酸)とPTEPPTとの相互作用によって、特異的に発揮される作用であると推測された。
【0150】
(ii) また、
図13(A)が示すように、特に触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)では、蛍光強度のバックグラウンドがほとんど検出されなかった。
また、
図14の写真像図に示すように、当該蛍光は目視にて観察可能であることが示された。
これらの結果から、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPTでは、DNAとの相互作用による蛍光増強を、極めて高感度にて検出できることが示された。当該作用は、当該PTEPPTの高立体規則性構造に起因する作用と推測された。
【0151】
・6-3 )「I/I
0値による核酸検出感度の評価」
上記6-2 )で測定した各物質(試料6-a〜6-d)の最大蛍光強度(I)について、対照(PTEPPTのみ含有するTris-HCl緩衝液)の最大蛍光強度(I
0)に対する「I/I
0」(Fluorescence intensity ratio)値を算出し、各物質とPTEPPTの相互作用による蛍光の検出感度を評価した。当該結果を表9に示した。
【0152】
その結果、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)にDNA(試料6-a)を添加した場合の「I/I
0」値は、‘10.4’という高い値を示した。当該値は、バックグラウンド(PTEPPT単独での蛍光強度)に対して10.4倍という強いシグナルであることを示す値である。
それに対して、酸化重合法によるPTEPPT(比較)にDNA(試料6-a)を添加した場合の「I/I
0」値は、‘2.8’という低い値であった。当該値は、バックグラウンド(PTEPPT単独での蛍光強度)に対して2.8倍という弱いシグナルであることを示す値である。
【0153】
これらの結果から、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)を用いることによって、DNAとの相互作用による蛍光を‘著しく高感度で’検出可能となることが示された。当該検出感度は、酸化重合法によるPTEPPT(比較)を用いた場合の約3.7倍という高い検出感度であることが示された(表10 参照)。
【0154】
【表9】
【0155】
【表10】
【0156】
[試験例7]『核酸濃度依存性の評価』
触媒移動型縮合重合法により合成したPTEPPTについて、核酸濃度を変化させて光吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを測定し、当該PTEPPTが有する核酸濃度依存性を評価した。
【0157】
・7-1 )「紫外-可視(UV-Vis)光吸収スペクトルの測定」
Tris-HCl緩衝液(0.05M, pH8.0)中に、PTEPPT(0.5mg/mL)及びDNA(表11に示す濃度, 試料7-a〜7-f)を含むように添加し混合して、5分間の超音波処理を行うことでPTEPPTを完全に溶解させた。なお、PTEPPTとしては、上記製造例1で得られた‘触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT’(合成例1-4-a)を供した。また、DNAとしては、20bpの二本鎖DNA(Deoxyribonucleic acid, low molecular weight from salmon sperm (SIGMA-ALDRICH))を用いた。
なお、対照として、DNAを添加しない以外は同様にして、PTEPPT含有Tris-HCl緩衝液を調製した。
調製した各溶液について、紫外可視分光光度計(UV-PC3100, SHIMADZU製)を用いて、300〜800nmの範囲の光吸収スペクトルを測定した。測定は室温にて行った。得られた吸収スペクトルの結果を、
図15(A)に示した。
【0158】
その結果、
図15(A)が示すように、DNA濃度を0mg/mL〜0.5mg/mLの範囲で変化させた場合においても、PTEPPTの光吸収スペクトルは変化しないことが示された。この結果から、DNAはPTEPPTの光吸収スペクトル自体には影響を与えないことが示された。
【0159】
・7-2 )「吸収極大波長照射による蛍光スペクトルの測定、及び、I/I
0値の算出」
上記7-1 )で調製した各DNA濃度のPTEPPT溶液について、分光蛍光光度計(F-4500, HITACHI製)を用いて、蛍光スペクトルの測定を行った。当該蛍光スペクトル測定では、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPTの吸収極大波長(560nm)の光を励起光(λex)として照射し、溶液から発せられる蛍光スペクトルを、300〜800nmの範囲で測定した。測定は室温にて行った。得られた蛍光スペクトルの結果を、
図15(B)に示した。
また、測定された最大蛍光強度(I)について、対照の蛍光強度(I
0)に対する「I/I
0」(Fluorescence intensity ratio)値を算出し、DNAとPTEPPTの相互作用による蛍光検出感度を評価した。当該結果を表11に示した。
【0160】
その結果、DNA濃度を0mg/mL〜0.5mg/mLの範囲で変化させた場合、DNA濃度が高いほどPTEPPTの蛍光強度が強くなる傾向が示された。即ち、DNA濃度依存的にPTEPPTの蛍光強度が向上することが明らかになった。
また、当該PTEPPTは、DNA濃度0.01mg/mLという低濃度DNA溶液に対しても、「I/I
0」値が2.0を示し、十分に核酸検出が可能であることが示された。なお、核酸濃度0.01mg/mL(10ng/μL)の検出感度は、エチジウムブロマイド法に匹敵する感度である。
【0161】
これらのことから、触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT(本発明)は、核酸工学や遺伝子解析分野で多用される‘ngオーダーの核酸検出試薬’として、有用に使用可能な物質であることが示された。また、核酸濃度依存性が極めて高いことから、‘核酸定量’にも利用可能なことが示された。
【0162】
【表11】
【0163】
[試験例8(本発明)]『ゼータ電位の測定』
触媒移動型縮合重合法により合成したPTEPPTについて、核酸濃度を変化させてゼータ電位を測定し、当該PTEPPTとDNAとの相互作用機構を考察した。
【0164】
・8-1 )「ゼータ電位の測定」
Tris-HCl緩衝液(0.05M, pH8.0)中に、PTEPPT(0.5mg/mL)及びDNA(表12に示す濃度, 試料8-a〜8-c)を含むように添加し混合して、5分間の超音波処理を行うことでPTEPPTを完全に溶解させた。なお、PTEPPTとしては、上記製造例1で得られた‘触媒移動型縮合重合法によるPTEPPT’(合成例1-4-a)を供した。また、二本鎖DNA(Deoxyribonucleic acid, low molecular weight from salmon sperm (SIGMA-ALDRICH))を用いた。
なお、対照として、DNAを添加しない以外は同様にして、PTEPPT含有Tris-HCl緩衝液を調製した。
調製した各溶液を石英製セルに入れ、ゼータ電位測定装置(ゼータサイザーナノZS, Malvern製)を用いて、ゼータ電位を測定した。なお当該測定は、He-Neレーザー633nmを用いて、室温条件にて後方散乱173度にて行った。結果を
図16, 表12に示した。
【0165】
その結果、核酸存在下におけるPTEPPT溶液(試料8-a〜8-c)では、対照(核酸無添加のPTEPPT溶液)に比べて、ゼータ電位が負電位側の値を示すことが示された。この結果は、0.01mg/mLという僅かな量であっても、DNAを添加することによって、PTEPPTの凝集状態が変化することを示す結果である。
当該知見より、核酸存在下でのPTEPPTの蛍光増強作用は、核酸(−電荷)とPTEPPTのホスホニウム基(+電荷)の静電気的相互作用によりPTEPPTどうしの凝集が緩和されて、蛍光強度が増強したために発揮されたものと推測された。
【0166】
【表12】