【実施例1】
【0016】
図1(a)は、実施例1の流体センサ(流体検知装置)Sの概略構造を示す断面図である。
図1は側方から見た模式的な断面図であり、流体センサSは、正面視において略円形状である。すなわち、流体センサSは、全体としてこの
図1の断面図を軸Xを中心に回転させた形状を有する。
【0017】
流体センサSは、ケース2と隔壁4とスライドチップ6と、チップセンサ(検知手段)7とを有して大略構成される。ケース2は、管内に水(流体)8が充填されたチューブ(弾性容器)10の一端に接続されている。なお、本実施例1では、弾性容器の一例としてチューブ10を例として以下に説明する。チューブ10は、例えば、シリコーン、ポリエチレン、ナイロン等の樹脂やゴム等を原料とする弾性材料で構成された管部材である。その管内部には流体としての水8が充填されている。流体としては、水の他にシリコーンオイル等のオイル、その他の液体、空気等の気体が考慮されるが、圧力に対する体積変動が少ない観点からは、液体の使用が好ましい。ここで、「充填」は、必ずしも他の物質の混入なく完全にその流体で満たされている場合に限られず、大部分がその流体で満たされている場合を含む。例えば、管内部が水8で満たされているが、部分的に気泡などの気体が混入している場合も「充填」ということとする。
【0018】
ケース2は、全体として円筒形状を呈しており、その内部が中空(中空内部2a)とされている。ケース2は、例えば、樹脂、金属、ガラス等の材料により構成され、外形形状が段付き形状とされており、小径部2bとその小径部2bより径の大きい大径部2cとを有している。ケース2は、チューブ10の一端に接続されており、チューブ10内の水8が中空内部2aに流通(流出入)可能である。
【0019】
小径部2bに対応する部分の中空内部2aにはスライド保持部2dが形成され、大径部2cに対応する部分の中空内部2aにはリザーバタンクとしての緩衝部2eが形成されている。緩衝部2eの径d2は、スライド保持部2dの径d1よりも大きい。径d2が径d1よりも大きいので、流体室12(後述)の容積変動に対して、隔壁4の変形(移動)を小さく抑えることができる。
【0020】
スライド保持部2dは、スライドチップ6を一方向(軸X方向)に沿って正逆にスライド可能に保持する部分である。ここで、
図1中右方向(スライドチップ6が隔壁4に向かう方向)を正方向とし、左方向(スライドチップ6がチューブ10に向かう方向)を逆方向とする。なお、正方向を前方向、逆方向を後方向ということもある。「保持」とは、スライドチップ6を正逆方向に円滑にスライド移動可能となるように遊嵌状態に保持する意味を含む。したがって、スライドチップ6が略円柱形状である場合、スライド保持部2dは、そのスライドチップ6の直径よりも若干直径の大きな筒形状とされる。
【0021】
スライド保持部2dの軸X方向両端近傍位置には、前ストッパー2fと後ストッパー2gとが配置される。前ストッパー2f及び後ストッパー2gは、中空内部2aの内壁からスライド保持部2d内に突出し、スライドチップ6の前後移動を規制する機能を有している。すなわち、スライドチップ6は、この前後ストッパー2f,2gの間において前後にスライド移動可能である。
【0022】
緩衝部2eは、中空内部2aの内面が略円筒形状とされた部分であり、水8の移動による流体室12(後述)の容積変動を吸収する機能を有する。緩衝部2e内には、隔壁4が配置されている。隔壁4は、中空内部2aを水8が充填された流体室12と大気開放された空気室14とに区画するためのものである。したがって、隔壁4より後方側(チューブ10に近い側)、すなわち緩衝部2eの一部とスライド保持部2dとが流体室12に対応し、隔壁4より前方側(チューブ10の反対側)、緩衝部2eの他の一部が空気室14に対応する。
【0023】
隔壁4は、水8が流体室12から空気室14へと漏出するのを防止する。隔壁4は、例えばシリコーンゴム、ウレタンゴム、樹脂フィルム等の薄膜材料等により構成され、大きな変形が抵抗なく行えることが望ましい。ここで、隔壁4の変形には、弾性変形と非弾性変形とを含む。非弾性変形とは、例えば、隔壁4が金属フィルム、樹脂フィルム等の非弾性材料により形成されている場合における形状変化による変形であり、弾性的でない変形をいう。チューブ10が加圧等により弾性変形すると、水8が後方からスライドチップ6を前方に向けて付勢し、スライドチップ6がスライド保持部2d内を前方へと移動する。その移動に伴い、流体室12の容積が増加する。隔壁4は、
図1(b)に示すように前方(右方向)へと変形することで、流体室12の容積変動を吸収するように構成されている。
【0024】
流体室12の容積増加に伴い、空気室14の容積が減少する。その際の空気室14内の圧力変動を吸収するための開口部2hが空気室14に形成されている。開口部2hにより空気室14内とケース2外部とが連通し、空気室14内が大気開放されている。
【0025】
ケース2のスライドチップ6から見て軸X方向に沿った前方位置に磁石(第1の磁石)16が配置されている。この磁石16は、後述する磁石(第2の磁石)18とともに反発力を生じ、スライドチップ6を初期位置(後ストッパー2gに当接する位置)に付勢する機能を有する。
【0026】
スライドチップ6は、流体室12内に配置され、スライド保持部2d内にスライド移動可能に保持された部材である。スライドチップ6は、略円柱形状の部材で樹脂、金属、ガラス等の材料により構成される。
図2は、スライドチップ6を側方から見た部分断面図である。スライドチップ6の前面近傍位置、すなわち、スライド保持部2d内に配置した際に隔壁4に近い側となる面に近い位置に、磁石18が配置されている。
【0027】
磁石18は、隔壁4を介して磁石16と対向している。磁石18と磁石16とは同極で対向されて互いに反発力を生じる。反発力により、スライドチップ6は、後ストッパー2gに当接するように付勢される。チューブ10が加圧等により弾性変形し、水8が後方からスライドチップ6を前方に向けて付勢すると、磁石16と磁石18との反発力に抗してスライドチップ6が前方へと移動し、スライドチップ6は前ストッパー2fに当接する。すなわち、磁石16と磁石18との反発力は、チューブ10が加圧等されていない状態ではスライドチップ6を後ストッパー2gへと当接可能な程度に強く、チューブ10が加圧等された状態ではスライドチップ6が前ストッパー2fに当接するまで移動可能な程度に弱いことが好ましい。
【0028】
スライドチップ6の周面には、スライドチップ6の後面から前面にかけて形成された溝(流通部)20が形成されている。この溝20は、水8がチューブ10側と隔壁4側とに流通可能とするものである。チューブ10が加圧等により弾性変形し、水8が後方からスライドチップ6を前方に向けて付勢する際に、水8の一部は、溝20を通ってチューブ10側から隔壁4側へと通過するようになっている。また、チューブ10の弾性変形が解除され、スライドチップ6が後方へと移動する際には、水8が溝20を通って隔壁4側からチューブ10側へと通過するようになっている。
【0029】
チップセンサ7は、スライド保持部2dの近傍であってケース2の外側に配置され、スライドチップ6の移動を検知するための検知手段である。移動を検知するとは、スライドチップ6の有無検知、移動方向検知、移動速度検知、位置検知を含む概念である。チップセンサ7としては、例えば光学センサや巻線コイル、磁気センサ等の公知の検知手段を用いることができる。チップセンサ7として光学センサを用いた場合は、その投受光領域へのスライドチップ6の進退を検知することで、スライドチップ6の有無や位置等を検知することができる。チップセンサ7として巻線コイルを用いた場合は、磁石18の近接−離間による電磁誘導作用を利用してスライドチップ6の移動方向や移動速度等を検知することができる。
【0030】
次に、この流体センサSの動作について説明する。通常状態では、磁石16と磁石18との反発力によりスライドチップ6は、後ストッパー2gに付勢された初期位置に配置されている(
図1(a)参照)。この状態で、チップセンサ7は、スライドチップ6の「無し」を検知している。また、隔壁4は、後方(
図1中左方向)へ変形(移動)した状態である。
【0031】
チューブ10を加圧等により弾性変形させると、チューブ10内の水8が前方に移動し、スライドチップ6を後方から前方へと押す。スライドチップ6は、磁石16,18の反発力に抗して前方へとスライド移動し、前ストッパー2fに当接して停止する(
図1(b)参照)。このとき、チップセンサ7はスライドチップ6の「有り」を検知する。スライドチップ6の前方移動に伴い、流体室12内の水8が前方へと押されて流体室12の容積が増加し、隔壁4を前方へと付勢する。隔壁4は、前方へと変形(移動)し流体室12の容積増加と流体室12内の圧変動を吸収する。隔壁4が前方へと変形(移動)し、空気室14の容積が減少するが、開口部2hにより空気室14が大気開放されているので、隔壁4の変形(移動)を阻害することは殆どない。
【0032】
チューブ10の加圧等を除去し、弾性変形を解除すると、チューブ10内に負圧が作用し、スライドチップ6が後方へと移動する。磁石16,18による反発力も加わり、最終的にスライドチップ6は後ストッパー2gに当接する。それに伴い、隔壁4近傍の水8も後方へ移動し、隔壁4も後方へと変形(移動)する(
図1(a)参照)。このとき、チップセンサ7はスライドチップ6の「無し」を検知する。
【0033】
このように、この流体センサSによれば、チップセンサ7の出力によりスライドチップ6の「有り」「無し」を検知することで、チューブ10の弾性変形、すなわち加圧を検知することができる。なお、この実施例1の流体センサSでは、スライドチップ6に溝20が形成されているため、チューブ10を弾性変形させた状態を維持していても、一定時間の経過とともに、水8が溝20を通ってチューブ10側から隔壁4側へと変形(移動)する。そうすると、スライドチップ6の前後両側での圧力差が徐々に減少し、結果として磁石16,18の反発力により、スライドチップ6が
図1(a)のように初期位置に戻ることとなる。
【0034】
チューブ10を弾性変形させたままでも一定時間の経過とともにスライドチップ6が初期位置に戻るので、流体センサSは、チューブ10の更なる弾性変形(すなわち、複数回の加圧)によるスライドチップ6の前方移動を検知することが可能である。
【0035】
なお、中空内部2aは、実質的に円筒形状に限定される必要はなく、例えば、断面三角や四角形状の多角形筒形状であってもよい。スライド保持部2dが多角形筒形状である場合には、対応してスライドチップ6も多角形柱形状であってもよい。流通部20はスライドチップ6の周面に形成された溝である必要はなく、スライドチップ6内部に前後に貫通した貫通孔や切欠形状であってもよく、実質的にチューブ10側と隔壁4側との流体の流通を実現するものであればよい。また、流通部は必ずしもスライドチップ6側に形成される必要はなく、スライド保持部2d側に形成されてもよい。
【0036】
この流体センサSによれば、センサの動作過程、すなわちチューブ10が弾性変形する過程において、水8の圧力上昇が殆ど生じない。したがって、水8に気泡等の気体が混入していても、センサの検知動作への影響は殆どない。つまり、流体センサSの生産工程や流体センサSとチューブ10との接続工程において、多少の気泡等が混入しても、流体センサSとしての高い検知精度を実現することができる。また、チップセンサ7の配置位置を前後方向にずらすことで、流体センサSの検知感度を容易に調整することもできる。
【実施例3】
【0039】
この流体センサSに接続されたチューブ10を駐車場の地面に敷設して使用することもできる。駐車場に自動車が入庫した際のタイヤの接地位置に対応する部分を通るようにチューブ10を敷設する。このとき、複数台の駐車スペースを経由するようにチューブ10を敷設する。
【0040】
自動車のタイヤによりチューブ10が加圧され弾性変形したことを流体センサSにより検知すれば、駐車スペースへの自動車の入庫又は出庫を検知することができる。また、この流体センサSによれば、1台の自動車が入庫したことが検知された後に一定時間が経過すれば、再び他の自動車の入庫が検知可能な状態となる。したがって、複数の検知手段を用いることなく、1つの流体検知センサSによって複数台の自動車の入庫を検知することができる。
【0041】
以上、本発明の好ましい実施例を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で様々な変形や変更が可能である。
【0042】
本発明によれば、圧力センサを用いるのでなく、スライドチップの正逆方向のスライド移動を検知することにより流体の移動を検知しているので、温度変化や取付状態に影響され難く、安定した流体検知を実現することができる。隔壁の変形により流体の圧力変動を低減しているので、スライドチップの安定動作を実現し、流体内に気泡等が混入していても高検知精度を維持することができる。空気室が大気開放されているので、隔壁の変形を阻害することがない。スライドチップを初期位置に付勢する付勢手段として反発し合う磁石を用いれば、非接触で隔壁越しにスライドチップに確実に安定的な付勢力を与えることができる。
【0043】
スライド保持部の両端近傍位置にストッパーが設置されていれば、スライドチップの移動範囲を正逆方向(前後方向)で規制することができる。スライドチップの繰り返しの有無検知において確実なスライドチップの移動動作を実現する。
【0044】
2つの磁石による反発力が、スライドチップを後ストッパーに当接し得る反発力とされていれば、スライドチップを非接触な付勢力によって確実に初期位置にセットすることができる。流体センサのレイアウトや振動等による悪影響を排除することができる。
【0045】
スライドチップ及び/又はスライド保持部に流通部が形成されていれば、流体がチューブ側と隔壁側とに流通可能となる。チューブの弾性変形によりスライドチップが移動した後であっても、所定時間経過後に再びスライドチップを初期位置に自動的に戻すことができる。1つの流体センサでチューブの弾性変形を複数回(複数箇所で)検知することができ、センサ個数の低減に寄与する。
【0046】
スライド保持部の直径よりも空気室の直径を大きくすれば、緩衝部が流体室の容積変動を吸収する能力を向上させることができる。すなわち、チューブが弾性変形し、流体室の容積が増加しても、隔壁の変形を小さく抑えることができる。
【0047】
なお、上記各実施例では、同極の第1の磁石16と第2の磁石18とを対向配置して相互の反発作用を付勢力として利用する(初期位置復元手段としての利用)ことによりスライドチップ6を初期位置(後ストッパー2gに当接する位置)に復元している。しかしながら、初期位置復元手段としては、磁石を利用すること以外にも、例えばバネ等の付勢力を利用すること、弾性材料の弾性力を利用すること、スライドチップ6への重力を利用すること、流体8の浮力を利用すること、等を考慮することができる。
【0048】
例えば、スライドチップ6全体としての密度を流体8の密度よりも充分に低くすれば、流体8の浮力によってスライドチップ6を初期位置へと復元させることができる。この場合においては、スライド保持部2dに対して後ストッパー2gが上方位置となるように流体センサSを配置する必要がある。また、スライドチップ6全体としての密度を流体8の密度よりも充分に高くすれば、スライドチップ6への重力によってスライドチップ6を初期位置へと復元させることができる。この場合においては、スライド保持部2dに対して後ストッパー2gが下方位置となるように流体センサSを配置する必要がある。
【0049】
磁石18を含むスライドチップ6全体としての密度が流体8の密度と実質的に同じ密度となるように調整すれば、取付け方向によるスライドチップ6の重力または浮力による影響を排除することができる。ここで、磁石18を含むスライドチップ6全体としての密度とは、スライド保持部2d内をスライド移動するスライドチップ6全体としての密度を意味する。例えば、スライドチップ6内部に中空部を形成する等により、スライドチップ6全体としての密度を低くなるように調整することができる。もちろん、初期位置復元手段として磁石を用いない場合は、スライドチップ6の密度に磁石を考慮する必要はない。
【0050】
これによりスライドチップの定位置保持機能の安定性が高められ、流体センサを適用対象物に取り付ける(組み込み)する際も過敏な取り扱いは不要となり作業が極めて容易となる。また、初期位置復元手段によるスライドチップ6の初期位置への付勢力をスライドチップ6に効果的に作用させることができる。
【0051】
なお、スライドチップの初期位置への復元所要時間については、流体の選定(粘度)や流通部の設計、磁石の反発力の調整等によって適度に設定することができる。また、スライドチップ6全体としての密度は、流体8の密度に対して0.5倍〜2.8倍の範囲であることが、重力や浮力の影響の排除にとって好ましく、0.7倍〜1.4倍の範囲であることが、より好ましく、実質的に両者が同一であることがより一層好ましい。